説明

鋼管の材質分析装置

【課題】一定の処理能力を備えるとともに、検査員の安全性を確保し、製造ライン上で合金組成の適否検査を行うことができる鋼管の材質分析装置を提供することを目的とする。
【解決手段】蛍光X線分析計を鋼管の外周面または端面に押し当てて含有される合金成分を測定する材質分析装置であって、蛍光X線分析計2と、蛍光X線分析計2を装着する保持部3と、装着された蛍光X線分析計2を移動させる機構(移動機構)と、移動機構を動作させる制御手段6とを備えることを特徴とする鋼管の材質分析装置である。移動機構は、蛍光X線分析計を水平方向に移動させる第1送り機構4と、垂直方向に移動させる第2送り機構5とにより構成し、保持部3は、装着された蛍光X線分析計2の角度を変更可能にする機構を備えるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析計を用いて鋼管に含有される合金成分を測定する材質分析装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、鋼管の合金組成の適否検査を自動化できる材質分析装置に関する。
【0002】
なお、別に記載がない限り、本明細書における用語の定義は次のとおりである。
「蛍光X線分析計」:試料に直接押し当てた状態で、X線を照射して試料に含有される合金成分を測定する装置である。
【背景技術】
【0003】
鋼管の製造において、得られる鋼管の合金組成がその設計組成と異なると、鋼管が所定の性能を発揮することがでず、重大な事故を引き起こす恐れがあるので、鋼管の合金組成について適否検査が行われる。この適否検査では、蛍光X線分析計が、非破壊で行うことができるとともに、多種の合金成分の含有量を測定できることから、有用である。
【0004】
従来、蛍光X線分析計を用いた鋼管の適否検査は、検査員の手により携帯型(ポータブル型)の蛍光X線分析計を鋼管の外周面または端面に押し当てて行っていた。鋼管の製造ライン上で蛍光X線分析計を用いた適否検査を実施すると、検査員の手で押し当てて測定する必要があるので、処理本数が制約されるとともに、検査員の安全上の問題が懸念される。このため、蛍光X線分析計を用いる場合、鋼管の合金組成の適否検査は製造ライン上で行うことができず、自動化が望まれていた。
【0005】
蛍光X線分析計を用いた鋼管の適否検査に関して、特許文献1では、下記の手順からなる合金組成の検査方法が提案されている。
(1)鋼材に識別ラベルを貼付するとともに、識別ラベルに対応する鋼材の合金組成をコンピュータに入力する。
(2)蛍光X線分析計で鋼材の合金組成を測定するとともに、鋼材に貼り付けられた識別ラベルの情報を読取り装置により読取り、測定結果および読み取った情報をコンピュータに送信する。
(3)コンピュータが、前記(1)で入力された合金組成と前記(2)での測定結果が同一か判定し、その結果を表示装置に表示する。
【0006】
特許文献1に記載の検査方法では、鋼管の合金組成の設計値と測定結果の同一性の判定は自動化されているが、合金成分の測定については、携帯型の蛍光X線分析計を用いることのみが開示されており、自動化されていない。したがって、特許文献1に記載の検査方法を、鋼管の製造ライン上の検査に適用しても、検査員の手で押し当てて測定する必要があり、処理本数が制約され、検査員の安全上の問題を解決することはできない。
【0007】
特許文献2では、下記の手順からなる蛍光X線分析装置を用いた自動分析方法が提案されている。
(1)ロボットおよび搬送装置によりカップを粉砕分析試料搬送装置へ移載した後、粉砕機から粉砕された分析試料をカップに供給する。
(2)ロボットによりプレスプレートをカップにセットするとともに、分析試料成形プレス装置によりカップ内の分析試料を成形する。
(3)成形された分析試料を、ロボットおよび搬送装置により蛍光X線分析装置に搬送し、成分分析を行う。
【0008】
特許文献2で提案されている自動分析方法は、製鉄工程における焼結鉱等の原料または溶銑スラグ等のスラグを対象としているので、試料を粉砕、成形した後、蛍光X線分析計による合金成分の測定を行う。鋼管の製造工程では、非破壊で合金成分の測定を行う必要があることから、特許文献2で提案されている自動分析方法を適用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−320746号公報
【特許文献2】特開平11−83688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の通り、検査員の手により蛍光X線分析計を鋼管の外周面または端面に押し当てて含有される合金成分を測定する方法では、鋼管の製造ライン上で行う場合、処理能力が制約されるとともに、検査員の安全上の問題が懸念される。また、従来から提案されている蛍光X線分析計を用いた合金成分の測定方法は、蛍光X線分析計による合金成分の測定を自動化したものではないことから、上記の問題を解決することはできない。
【0011】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、一定の処理能力を備えるとともに、検査員の安全性を確保し、製造ライン上で合金組成の適否検査を行うことができる鋼管の材質分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は、次の通りである:
【0013】
(1)蛍光X線分析計を鋼管の外周面または端面に押し当てて含有される合金成分を測定する材質分析装置であって、
前記蛍光X線分析計と、
前記蛍光X線分析計を装着する保持部と、
装着された前記蛍光X線分析計を移動させる機構(移動機構)と、
前記移動機構を動作させる制御手段とを備えることを特徴とする鋼管の材質分析装置。
【0014】
(2)前記移動機構が、前記蛍光X線分析計を水平方向に移動させる第1送り機構と、
前記蛍光X線分析計を垂直方向に移動させる第2送り機構とを備えることを特徴とする前記(1)に記載の鋼管の材質分析装置。
【0015】
(3)前記保持部が、装着された前記蛍光X線分析計の角度を変更可能にする機構を備えることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の鋼管の材質分析装置。
【0016】
(4)前記制御手段が、前記移動機構を動作させることにより前記蛍光X線分析計を移動させて鋼管の外周面または端面に押し当てる際に、
前記蛍光X線分析計と前記鋼管の外周面または端面との距離に応じて、前記蛍光X線分析計の移動速度を制御することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼管の材質分析装置。
【0017】
(5)前記制御手段により前記蛍光X線分析計の移動速度を制御する際に、
退避位置から速度切替え位置までを高速とし、速度切替え位置から分析予定位置までを低速とすることを特徴とする(4)に記載の鋼管の材質分析装置。
【0018】
(6)前記保持部が、さらに、前記蛍光X線分析計を押し当て方向に移動可能かつ被測定鋼管側に付勢して保持する機構(付勢保持機構)と、
前記蛍光X線分析計が鋼管に押し込まれることによる移動を検出する手段(押し込み検出手段)とを備え、
前記蛍光X線分析計を移動させて前記鋼管の外周面または端面に押し当てる際に、
前記押し込み検出手段の信号に応じて、前記制御手段が前記蛍光X線分析計の移動を終了させることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の鋼管の材質分析装置。
【0019】
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の鋼管の材質分析装置が、さらに、前記鋼管の有無を検出する手段(有無検出手段)と、
前記蛍光X線分析計を動作させるとともに、前記蛍光X線分析計から測定結果を受け取り、前記鋼管に含有される合金成分が所定の範囲内であるか判定する手段(判定手段)とを備え、
前記制御手段が前記有無検出手段の前記鋼管を検出した信号に応じ、前記移動機構を動作させることにより前記蛍光X線分析計を移動させて前記鋼管の外周面または端面に押し当てた状態で、
前記判定手段が前記蛍光X線分析計を動作させて前記鋼管に含有される合金成分を測定して判定し、
その判定結果に基づき、前記制御手段が前記移動機構を動作させることにより前記蛍光X線分析計を移動させて退避させることを特徴とする鋼管の材質分析装置。
【0020】
本発明において、「分析予定位置」は、蛍光X線分析計を鋼管の外周面または端面に押し当てる際に、蛍光X線分析計と鋼管の外周面または端面が押し当たる位置であり、「速度切替え位置」は、分析予定位置から任意の距離を設けた位置であり、「退避位置」は測定のために行う移動開始時、および測定完了後の移動終了時の位置である。分析予定委位置、速度切替え位置および退避位置については、後述する図2に例示する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の鋼管の材質分析装置は、下記の顕著な効果を有する。
(1)検査員の手によることなく、移動機構およびそれを動作させる制御手段により、鋼管に蛍光X線分析装置を押し当てることができるので、検査員の安全性を確保できる。
(2)蛍光X線分析計を鋼管に押し当てる際に、発生する衝撃を低減でき、過剰押し込みを防止できることから、蛍光X線分析計の破損を抑制できる。
(3)有無検出手段および判定手段を備えることにより、蛍光X線分析計の鋼管への押し当て、鋼管に含有される合金成分の測定、およびその合金成分が設計の合金組成の範囲内であるかの判定を自動化できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の鋼管の材質分析装置の構成例を説明する図であり、同図(a)は鋼管の外周面を測定する場合、同図(b)は鋼管の端面を測定する場合を示す。
【図2】本発明の鋼管の材質分析装置において、蛍光X線分析計を鋼管に押し当てる際の退避位置、速度切替え位置および分析予定位置を示す図であり、同図(a)は外周面を測定する場合、同図(b)は端面を測定する場合を示す。
【図3】本発明の鋼管の材質分析装置において、保持部が備える付勢保持機構および押し込み検出手段を説明する図であり、同図(a)は蛍光X線分析計と鋼管が離間した状態、同図(b)は蛍光X線分析計が鋼管に押し当てられた状態を示す。
【図4】本発明の鋼管の材質分析装置を用いた合金組成の適否検査のフローを説明する図であり、同図(a)は鋼管を検出時、同図(b)は蛍光X線分析計を鋼管に押し当て時、同図(c)は合金成分の測定時、同図(d)は判定時、同図(e)は退避時の状態をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の鋼管の材質分析装置およびその構成例を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は、本発明の鋼管の材質分析装置の構成例を説明する図であり、同図(a)は鋼管の外周面を測定する場合、同図(b)は鋼管の端面を測定する場合を示す。同図に示す材質分析装置1は、蛍光X線分析計2と、蛍光X線分析計を装着する保持部3と、蛍光X線分析計2を水平方向に移動可能とする第1送り機構4と、蛍光X線分析計2を垂直方向に移動可能とする第2送り機構5と、被測定鋼管10の有無を検出する手段(有無検出手段)である検知センサー7と、鋼管10を載置するスキッド9とを備えている。
【0025】
同図に示す材質分析装置1は、制御部6により検知センサー7による鋼管10の検出信号に応じて、第1送り機構4および第2送り機構5を動作させる。また、材質分析装置1は判定部8にパソコンを用い、判定部8により蛍光X線分析計2を動作させるとともに、蛍光X線分析計2から測定結果を受け取り、鋼管に含有される合金成分が所定の範囲内であるか判定する。
【0026】
本発明の鋼管の材質分析装置は、蛍光X線分析計を鋼管の外周面または端面に押し当てて含有される合金成分を測定する材質分析装置であって、蛍光X線分析計2と、蛍光X線分析計2を装着する保持部3と、装着された蛍光X線分析計2を移動させる機構(移動機構)と、移動機構を動作させる制御手段とを備えることを特徴とする。
【0027】
蛍光X線分析計は、試料に直接押し当てた状態で、X線を照射することにより試料に含有される合金成分を測定するものを用いる。測定対象物である鋼管に直接、蛍光X線分析計を押し当てて測定することにより、非破壊で即座に測定結果を得ることができるからである。具体的には、携帯型(ポータブル型)の蛍光X線分析計を用いることができる。また、移動機構およびその制御を行う制御部6(制御手段)を備えることにより、蛍光X線分析計を鋼管の外周面または端面に押し当てを、検査員の手によることなく、自動化することができる。
【0028】
移動機構は多関節ロボット等の種々の機構を採用することができる。本発明の鋼管の材質分析装置では、移動機構は、蛍光X線分析計を水平方向に移動させる第1送り機構4と、蛍光X線分析計を垂直方向に移動させる第2送り機構5とにより構成するのが好ましい。垂直方向および水平方向の送り機構で構成することにより、装置構成が簡易になり、設備コストを抑えることができるとともに、制御が容易となるからである。
【0029】
第1送り機構4および第2送り機構5は、従来から用いられる送り機構を採用することができる。本発明の鋼管の材質分析装置では、送り機構の駆動装置としてサーボモータを用いる送り機構を採用するのが好ましい。駆動装置としてサーボモータを用いることにより、送り機構により移動する蛍光X線分析計の位置制御および速度制御が容易となるからである。
【0030】
本発明の鋼管の材質分析装置では、保持部3は、装着された蛍光X線分析計2の角度を変更可能にする機構を備えるのが好ましい。前記図1に(a)および(b)に示すように、蛍光X線分析計2の角度を変更することにより、鋼管の外周面または端面のいずれに対しても、合金成分を測定することができる。
【0031】
また、保持部3は、筐体を含鉛アクリル板で構成するのが好ましい。保持部3の筐体を、含鉛アクリル板で構成することにより、筐体内に装着される蛍光X線分析計が照射するX線が散乱するのを防止できるとともに、蛍光X線分析計を他の機器等との衝突による破損から保護できる。
【0032】
本発明の鋼管の材質分析装置では、制御手段が、移動機構を動作させることにより蛍光X線分析計2を移動させて鋼管10の外周面または端面に押し当てる際に、蛍光X線分析計2と鋼管10の外周面または端面との距離に応じて、蛍光X線分析計2の移動速度を制御するのが好ましい。蛍光X線分析計の移動速度が高速であると、押し当て時の衝撃により、蛍光X線分析計が内蔵する電子回路や管球が破損する恐れがある。一方、蛍光X線分析計の移動速度が低速であると、押し当てに時間を要し、検査効率が悪化するからである。
【0033】
制御手段により蛍光X線分析計の移動速度を制御する際は、退避位置から速度切替え位置までを高速とし、速度切替え位置から分析予定位置までを低速とするのが好ましい。
【0034】
図2は、本発明の鋼管の材質分析装置において、蛍光X線分析計を鋼管に押し当てる際の退避位置、速度切替え位置および分析予定位置を示す図であり、同図(a)は鋼管の外周面を測定する場合、同図(b)は鋼管の端面を測定する場合を示す。分析予定位置p3は、蛍光X線分析計2と鋼管10が押し当たる位置であり、速度切替え位置p2は、分析予定位置p3から任意の距離を設けた位置であり、退避位置p1は測定のために行う移動開始時、および測定完了後の移動終了時の位置である。分析予定委位置、速度切替え位置および退避位置は、材質分析装置の移動機構のストロークや送り速度に基づき適宜決定できる。
【0035】
退避位置から速度切替え位置までを高速とし、速度切替え位置から分析予定位置までを低速とするのは、装置構成を追加または変更することなく、制御部6の設定を追加または変更するのみで、蛍光X線分析計と鋼管の外周面との距離に応じて、蛍光X線分析計の移動速度を制御できるからである。
【0036】
分析予定位置等の制御部6への設定は、タッチパネル等の入出力装置を設け、これらの鋼管に対する分析予定位置等の情報を事前に登録し、簡易に測定対象の鋼管の分析予定位置等の設定を呼び出し可能とするのが好ましい。
【0037】
本発明の鋼管の材質分析装置では、保持部が、さらに、蛍光X線分析計を押し当て方向に移動可能かつ被測定鋼管側に付勢して保持する機構(付勢保持機構)と、蛍光X線分析計が鋼管に押し込まれることによる移動を検出する手段(押し込み検出手段)とを備えるのが好ましい。この場合、蛍光X線分析計を移動させて鋼管の外周面または端面に押し当てる際に、押し込み検出手段の信号に応じて、制御手段が蛍光X線分析計の移動を終了させるのが好ましい。後述する図3に、保持部が備える付勢保持機構および押し込み検出手段の構成例を示す。
【0038】
図3は、本発明の鋼管の材質分析装置において、保持部が備える付勢保持機構および押し込み検出手段を説明する図であり、同図(a)は蛍光X線分析計と鋼管が離間した状態、同図(b)は蛍光X線分析計が鋼管に押し当てられた状態を示す。同図は、保持部3に装着された蛍光X線分析計2と、測定対象である鋼管10を示す。
【0039】
同図に示す保持部3は、図示されていない移動機構に取り付けられた筐体30と、蛍光X線分析計2を装着するベース板31、補助板32およびボルト33と、ベース板31と筐体30を連結する連結棒34、筐体側ナット35、ベース側ナット36および固定治具37と、蛍光X線分析計を付勢するスプリング38と、蛍光X線分析計が鋼管に押し込まれることによる移動を検出する接触式デジタルセンサー39とから構成される。
【0040】
同図に示す保持部3は、蛍光X線分析計2を、ベース板31および補助板32で挟み込むとともに、ボルト33により締め付けて保持する。一方、連結棒34並びにそれに取り付けられた筐体側ナット35およびベース側ナット36は、連結棒34が筐体30の上面30aに設けられた孔に嵌合されていることから、押し当て方向に移動可能である。押し当て方向に移動可能なベース側ナットに、固定治具37を介して、蛍光X線分析計が装着されたベース板31が固定されることより、蛍光X線分析計は押し当て方向に移動可能に保持される。さらに、連結棒34の外周にはスプリング38が配置されており、これにより、蛍光X線分析計は押し当て方向に移動可能かつ被測定鋼管側に付勢して保持される。
【0041】
蛍光X線分析計と鋼管が離間している場合、同図(a)に示す通り、蛍光X線分析計は、スプリング38に付勢されて被測定鋼管側に移動し、筐体上面30aと筐体側ナット35が当たる位置で保持される。移動機構の動作により蛍光X線分析計が鋼管に押し当てられた場合、同図(b)に示す通り、蛍光X線分析計2は、スプリング38の圧縮により、ベース板31とともに押し上げられる。この際の蛍光X線分析計2の移動を、筐体に取り付けられた接触式デジタルセンサー39により検出し、制御部6が接触式デジタルセンサー39の信号に応じて、蛍光X線分析計の移動(移動機構の動作)を終了させる。
【0042】
保持部が付勢保持機構を備えることにより、蛍光X線分析計と鋼管の押し当て時に、蛍光X線分析計に生じる衝撃を低減できる。また、保持部が押し込み検出手段を備え、この信号に応じて、制御手段が蛍光X線分析計の移動(移動機構の動作)を終了させることにより、蛍光X線分析計が過剰に鋼管に押し込まれるのを防止できる。これらにより、蛍光X線分析計を鋼管に押し当てる際の衝撃および過剰押し込みによる、蛍光X線分析計の破損を防止できる。
【0043】
本発明の鋼管の材質分析装置は、さらに、鋼管の有無を検出する手段(有無検出手段)と、蛍光X線分析計2を動作させるとともに、蛍光X線分析計2から測定結果を受け取り、鋼管に含有される合金成分が所定の範囲内であるか判定する手段(判定手段)とを備えるのが好ましい。この場合、制御手段が有無検出手段の鋼管10を検出した信号に応じ、移動機構を動作させることにより蛍光X線分析計2を移動させて鋼管10の外周面または端面に押し当てた状態で、判定手段が蛍光X線分析計2を動作させて鋼管10に含有される合金成分を測定して判定し、その判定結果に基づき、制御手段が移動機構を動作させることにより蛍光X線分析計2を移動させて退避させるのが好ましい。
【0044】
鋼管の材質分析装置が、さらに、有無検出手段および判定手段を備えることにより、制御手段および判定手段が移動機構および蛍光X線分析計を動作させて、鋼管に含有される合金成分を自動で測定し、その合金成分が所定の範囲内であるか判定することができる。これにより、後述する図4で説明する通り、鋼管の合金組成の適否検査を自動化することができるからである。
【0045】
次に、本発明の鋼管の材質分析装置を用いた合金組成の検査フローの一例を図面に基づいて説明する。
【0046】
図4は、本発明の鋼管の材質分析装置を用いた合金組成の適否検査のフローを説明する図であり、同図(a)は鋼管を検出時、同図(b)は蛍光X線分析計を鋼管に押し当て時、同図(c)は合金成分の測定時、同図(d)は判定時、同図(e)は退避時の状態をそれぞれ示す。
【0047】
スキッドに被測定鋼管が投入されていない場合、蛍光X線分析計2は退避位置に移動された状態で、有無検出手段である検知センサー7により鋼管の投入を監視する。鋼管が投入されると、図4(a)に示すように、検知センサー7が鋼管10の投入を検出し、信号が制御手段である制御部6に送信される。
【0048】
検知センサー7の鋼管10を検出した信号に応じ、図4(b)に示すように、制御部6が移動機構を動作させ蛍光X線分析計2を分析位置まで移動させ、蛍光X線分析計を鋼管に押し当てる。
【0049】
蛍光X線分析計が鋼管に押し当てられた状態で、図4(c)に示すように、判定部8が蛍光X線分析計2を動作させることにより、蛍光X線分析計がX線を照射して鋼管に含有される合金成分を測定する。
【0050】
蛍光X線分析計の測定動作が完了すると、図4(d)に示すように、蛍光X線分析計2から判定部8へ測定結果が送信され、測定結果を受け取った判定部8は鋼管10に含有される合金成分が所定の範囲内であるか判定する。
【0051】
判定部の判定結果に基づき、図4(e)に示すように、制御部6が移動機構を動作させて、蛍光X線分析計2を移動させて退避させる。検査済みの鋼管10は、判定結果に基づき、搬出することができる。
【0052】
以上のように、本発明の鋼管の材質分析装置によれば、鋼管の合金組成の適否検査を自動化することができる。
【実施例】
【0053】
本発明の鋼管の材質分析装置により、鋼管に含有される合金成分を測定し、所定の範囲内か判定する適否検査を行い、本発明の効果を検証した。
【0054】
[試験方法]
前記図1および前記図3に示す構成の鋼管の材質分析装置を用いて、前記図4に示すフローに沿って、鋼管に含有される合金成分を測定し、所定の範囲内か判定する適否検査を行った。その条件は下記の通りである。
鋼管:外径20〜140mm、肉厚1.5〜20mm、
材質 炭素鋼、低合金鋼、高合金鋼
蛍光X線分析計:XLt898W、XL3t−800(NITON製)
【0055】
[試験結果]
本発明の鋼管の材質分析装置により、制御手段が有無検出手段の鋼管を検出した信号に応じ、移動機構を動作させることにより蛍光X線分析計を移動させて鋼管の外周面に押し当てた状態で、判定手段が蛍光X線分析計を動作させて前記鋼管に含有される合金成分を測定して判定し、その判定結果に基づき、制御手段が移動機構を動作させることにより蛍光X線分析計を移動させて退避させることができた。したがって、本発明の鋼管の材質分析装置により、鋼管に含有される合金成分を測定し、所定の範囲内か判定する適否検査を自動化できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の鋼管の材質分析装置は、下記の顕著な効果を有する。
(1)検査員の手によることなく、移動機構およびそれを動作させる制御手段により、鋼管に蛍光X線分析装置を押し当てることができるので、検査員の安全性を確保できる。
(2)蛍光X線分析計を鋼管に押し当てる際に、発生する衝撃を低減でき、過剰押し込みを防止できることから、蛍光X線分析計の破損を抑制できる。
(3)有無検出手段および判定手段を備えることにより、蛍光X線分析計の鋼管への押し当て、鋼管に含有される合金成分の測定、およびその合金成分が設計の合金組成の範囲内であるかの判定を自動化できる。
【0057】
したがって、本発明の鋼管の材質分析装置を、鋼管の製造工程に適用すれば、鋼管の合金組成の適否検査を製造ライン上で行うことができるので、鋼管の製造効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0058】
1.材質分析装置、 2.蛍光X線分析計、 3.保持部、 4.第1送り機構、
5.第2送り機構、 6.制御部、 7.検知センサー、 8.判定部、
9.スキッド、 10.鋼管、
30.筐体、 30a.筐体上面、 31.ベース板、 32.補助板、
33.ボルト、 34.連結棒、 35.筐体側ナット、 36.ベース側ナット、
37.固定治具、 38.スプリング、 39.接触式デジタルセンサー、
p1.退避位置、 p2.速度切替え位置、 p3.分析予定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光X線分析計を鋼管の外周面または端面に押し当てて含有される合金成分を測定する材質分析装置であって、
前記蛍光X線分析計と、
前記蛍光X線分析計を装着する保持部と、
装着された前記蛍光X線分析計を移動させる機構(移動機構)と、
前記移動機構を動作させる制御手段とを備えることを特徴とする鋼管の材質分析装置。
【請求項2】
前記移動機構が、前記蛍光X線分析計を水平方向に移動させる第1送り機構と、
前記蛍光X線分析計を垂直方向に移動させる第2送り機構とを備えることを特徴とする請求項1に記載の鋼管の材質分析装置。
【請求項3】
前記保持部が、装着された前記蛍光X線分析計の角度を変更可能にする機構を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼管の材質分析装置。
【請求項4】
前記制御手段が、前記移動機構を動作させることにより前記蛍光X線分析計を移動させて鋼管の外周面または端面に押し当てる際に、
前記蛍光X線分析計と前記鋼管の外周面または端面との距離に応じて、前記蛍光X線分析計の移動速度を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼管の材質分析装置。
【請求項5】
前記制御手段により前記蛍光X線分析計の移動速度を制御する際に、
退避位置から速度切替え位置までを高速とし、速度切替え位置から分析予定位置までを低速とすることを特徴とする請求項4に記載の鋼管の材質分析装置。
【請求項6】
前記保持部が、さらに、前記蛍光X線分析計を押し当て方向に移動可能かつ被測定鋼管側に付勢して保持する機構(付勢保持機構)と、
前記蛍光X線分析計が鋼管に押し込まれることによる移動を検出する手段(押し込み検出手段)とを備え、
前記蛍光X線分析計を移動させて前記鋼管の外周面または端面に押し当てる際に、
前記押し込み検出手段の信号に応じて、前記制御手段が前記蛍光X線分析計の移動を終了させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の鋼管の材質分析装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の鋼管の材質分析装置が、さらに、前記鋼管の有無を検出する手段(有無検出手段)と、
前記蛍光X線分析計を動作させるとともに、前記蛍光X線分析計から測定結果を受け取り、前記鋼管に含有される合金成分が所定の範囲内であるか判定する手段(判定手段)とを備え、
前記制御手段が前記有無検出手段の前記鋼管を検出した信号に応じ、前記移動機構を動作させることにより前記蛍光X線分析計を移動させて前記鋼管の外周面または端面に押し当てた状態で、
前記判定手段が前記蛍光X線分析計を動作させて前記鋼管に含有される合金成分を測定して判定し、
その判定結果に基づき、前記制御手段が前記移動機構を動作させることにより前記蛍光X線分析計を移動させて退避させることを特徴とする鋼管の材質分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−102698(P2011−102698A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256623(P2009−256623)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】