説明

鋼管コンクリート柱の構築方法

【課題】鋼管柱2内に下部からコンクリート4を圧入中に、コンクリート4の充填高さを細かい時間刻みでリアルタイム計測できない場合であっても、コンクリート4の圧入圧力と充填高さとの関係のグラフを細かい時間刻みで表示可能にする。
【解決手段】鋼管柱2の下部からコンクリート4を圧入して鋼管コンクリート柱を構築する際に、前記コンクリート4の圧入圧力と、前記鋼管柱2内の前記コンクリート4の充填高さとを計測し、前記圧入圧力の計測値と前記充填高さの計測値との関係を表示手段35にプロットして表示しながら前記コンクリート4を圧入する鋼管コンクリート柱の構築方法である。時刻Ta及び時刻Tbにおいてそれぞれ計測された前記コンクリートの充填高さの計測値Ha,Hbを用いて、圧入圧力の計測値Pnの計測時刻Tnに対応するコンクリートの充填高さの値を、内挿法又は外挿法により求めて、前記時刻Tnでの充填高さの計測値Hnとしてプロットする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管柱内にコンクリートを充填して鋼管コンクリート柱を構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管柱内にコンクリートを充填して、これを柱とするコンクリート充填鋼管(CFT)造が知られている。このCFT造では、鋼管柱の下部に設けられた圧入口からコンクリートをポンプ等により圧入して鋼管柱内に密実に充填する。そして、その圧入中には、前記圧入口付近に設置した圧力計によりコンクリートの圧入圧力を計測し、これにより、圧入圧力が許容上限値を超えないように監視して鋼管柱に過大な応力が作用するのを防いでいる(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特許第3518334号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この圧入中の管理項目の一つとして、閉塞の予兆把握が挙げられる。ここで、「閉塞」とは、鋼管柱内にダイアフラムなどの補強部材等が配置されている場合に起こり易い現象であり、練混ぜからの経過時間等により流動性の低下したコンクリートが圧入された際に、ダイアフラムの設置箇所等においてコンクリートが詰まってしまう現象のことを言う。そして、一旦閉塞すると、圧入圧力は急上昇して瞬く間に上述の許容上限値を超えてしまい、場合によっては、ポンプの停止処置等が間に合わずに鋼管柱が降伏・破損してしまう。
【0004】
この閉塞の予兆把握方法としては、次の方法が考えられる。例えば、圧入口近傍に圧力計を配置して、圧入圧力Pnをリアルタイムで計測するとともに、鋼管柱の上部にレーザー距離計を配置して、充填高さHnをリアルタイムで計測する。そして、これら計測値Pn,Hnを互いの計測時刻Tnで対応付けながら、例えば、充填高さを横軸、圧入圧力を縦軸としてモニタなどの適宜な表示手段にプロットしてグラフ化する。ここで、閉塞が生じていない場合には、グラフは略直線状に描かれるところ、閉塞が生じた場合には、圧入圧力が急上昇したようなグラフが描かれる。よって、グラフ形状を見れば、作業者は、閉塞の予兆を即座に把握することができる。
【0005】
しかしながら、施工現場によっては、レーザー距離計等のリアルタイム計測可能な距離計を使用できない場合もある。そして、その場合には、コンクリートの充填高さHnを計測時刻Tnに対応した細かい時間刻みで計測できなくなり、結果、グラフ形状の目視による閉塞の予兆把握が困難になる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、鋼管柱内に下部からコンクリートを圧入中に、コンクリートの充填高さを細かい時間刻みでリアルタイム計測できない場合であっても、コンクリートの圧入圧力と充填高さとの関係のグラフを前記細かい時間刻みで表示可能にし、これにより、コンクリートの閉塞の予兆把握を行って、鋼管コンクリート柱を安全且つ高い信頼性で構築可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
鋼管柱の下部からコンクリートを圧入して鋼管コンクリート柱を構築する際に、前記コンクリートの圧入圧力と、前記鋼管柱内の前記コンクリートの充填高さとを計測し、前記圧入圧力の計測値と前記充填高さの計測値との関係を表示手段にプロットして表示しながら前記コンクリートを圧入する鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
時刻Ta及び時刻Tbにおいてそれぞれ計測された前記コンクリートの充填高さの計測値Ha,Hbを用いて、圧入圧力の計測値Pnの計測時刻Tnに対応するコンクリートの充填高さの値を、内挿法又は外挿法により求めて、前記時刻Tnでの充填高さの計測値Hnとしてプロットすることを特徴とする。
【0008】
上記請求項1に示す発明によれば、前記時刻Taでの前記計測値Haと、前記時刻Tbでの前記計測値Hbとを取得すれば、内挿法又は外挿法によって、任意の時刻Tnにおける充填高さHnを求めることができる。従って、必要に応じた細かい時間刻みで、充填高さHnを求めることができて、これらを時刻Tnでの圧入圧力の計測値Pnと組み合わせることにより、充填高さと圧入圧力との関係のグラフを、前記時刻Tnに対応した細かい時間刻みでプロットして表示することができる。その結果、グラフの変化傾向を子細に把握可能となり、閉塞の予兆を確実に把握することができる。
【0009】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記圧入圧力の計測値Pnの計測時刻Tnに対応するコンクリートの充填高さの値Hnを、以下の式によって求めることを特徴とする。
Hn=(Hb−Ha)/(Tb−Ta)×(Tn−Ta)+Ha
上記請求項2に示す発明によれば、上述のような簡易な式で内挿法又は外挿法を行うことができるので、利便性に優れたものとなる。
【0010】
請求項3に示す発明は、請求項1又は2に記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記鋼管柱の側周壁に高さ方向に間隔を隔てて貫通形成された複数の蒸気抜き孔からのコンクリートのノロ流出の有無に基づいて、前記時刻Ta、前記計測値Ha、前記時刻Tb、前記計測値Hbを取得することを特徴とする。
上記請求項3に示す発明によれば、CFT造用の鋼管柱に通常形成される蒸気抜き孔を利用して、前記時刻Ta,Tb及び前記充填高さの計測値Ha,Hbを取得するので、ほとんどの施工現場において、内挿法又は外挿法により、細かい時間刻みで充填高さを求めることが可能となる。
【0011】
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記表示手段には、前記コンクリートの比重及び前記充填高さに基づいて求まる圧入圧力の理論液圧値を所定倍した値と、前記充填高さとの関係を示す液圧ラインが表示されていることを特徴とする。
上記請求項4に示す発明によれば、作業者は、前記計測値のプロットに基づいて表示手段に描かれるグラフの形状を、前記液圧ラインと対比しながら目視することができて、これにより、閉塞の予兆を確実に把握可能となる。
【0012】
請求項5に示す発明は、請求項4に記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記表示手段には、前記充填高さを横軸、前記圧入圧力を縦軸として、前記圧入圧力の計測値及び前記充填高さの計測値がプロットされ、
プロットされた前記圧入圧力の計測値が、前記液圧ラインを超えた場合に、前記コンクリートの圧入速度を遅くすることを特徴とする。
上記請求項5に示す発明によれば、前記圧入圧力の計測値が、前記液圧ラインを超えた場合に、前記コンクリートの圧入速度を遅くする。よって、閉塞を有効に防ぐことができる。
【0013】
請求項6に示す発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記表示手段には、前記鋼管柱の降伏強度に基づいて算出された圧入圧力の許容上限値を示す許容上限ラインが表示されていることを特徴とする。
上記請求項6に示す発明によれば、作業者は、前記計測値のプロットに基づいて表示手段に描かれるグラフを、前記許容上限ラインと対比しながら目視することができる。これにより、作業者は、圧入圧力の余裕代を瞬時に知ることができて、結果、圧入作業中における鋼管柱の破損を有効に防ぐことができる。
【0014】
請求項7に示す発明は、請求項6に記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記表示手段にプロットされた前記圧入圧力の計測値が、前記許容上限ラインを超えないように監視しながら、コンクリートの圧入を行うことを特徴とする。
上記請求項7に示す発明によれば、圧入中における鋼管柱の破損を未然に防ぐことができる。
【0015】
請求項8に示す発明は、請求項6又は7に記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記表示手段には、前記許容上限値よりも所定倍だけ小さい値たる管理値を示す管理ラインが表示されており、前記表示手段にプロットされた前記圧入圧力の計測値が、前記管理ラインを超えたら、前記コンクリートの圧入を中断することを特徴とする。
上記請求項8に示す発明によれば、コンクリートの圧入中における鋼管柱の破損を確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鋼管柱内に下部からコンクリートを圧入中に、コンクリートの充填高さを細かい時間刻みでリアルタイム計測できない場合であっても、コンクリートの圧入圧力と充填高さとの関係のグラフを前記細かい時間刻みで表示できるので、コンクリートの閉塞の予兆把握を行えて、その結果、鋼管コンクリート柱を安全且つ高い信頼性で構築可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
===参考例===
図1は、参考例に係る鋼管コンクリート柱の構築方法の説明図である。この構築方法では、立設された鋼管柱2の下部から鋼管柱2の内部にコンクリート4を圧入して充填する。鋼管柱2は、構造物の柱部として用いられるもので、例えば、断面矩形状の角形鋼管や断面円形状の丸形鋼管などを本体2とする。鋼管柱2の内部には、当該鋼管柱2を補強するためのダイアフラム等の補強部材6が、鋼管柱2の高さ方向に間隔をあけて複数設置されており、これら補強部材6は、それぞれ鋼管柱2の内周部に一体的に接合されている。
【0018】
鋼管柱2の下部には、鋼管柱2の内部にコンクリート4を圧入するための圧入口8が設けられている。圧入口8は、鋼管柱2の外周部を貫通して開口形成されたもので、例えば、図1に示すように、鋼管柱2内に既に充填し終えた充填済みコンクリート10の上面10aよりも若干上方の位置に設けられる。圧入口8には、コンクリート圧送ポンプ12から延出されたコンクリート供給管14が接続される。そして、これらコンクリート圧送ポンプ12及びコンクリート供給管14を介して、コンクリートミキサー車16のコンクリート4が前記圧入孔8へと圧送され、これにより、コンクリート4が鋼管柱2の内部へ充填される。この充填に伴い、鋼管柱2内部のコンクリート4の充填高さHは徐々に増し、目標高さまで充填完了したら、この上方に隣接する不図示の鋼管柱2に対して上述の圧入作業を繰り返す。
【0019】
ところで、このように鋼管柱2の下部からコンクリート4を圧入している時に、その圧入圧力が急上昇して鋼管柱2に過大な応力負荷を与えてしまうことがある。これは、練混ぜからの経過時間等によるコンクリート自体の流動性の低下や、鋼管柱2の内部に配置された前記ダイアフラム等の補強部材6が原因となって、鋼管柱2内部でのコンクリート4の流動が大きく阻害される「閉塞」が発生するためである。そして、当該閉塞が一旦生じると、圧入圧力の急上昇により瞬時に圧入圧力が鋼管柱2の許容上限値を大幅に上回ってしまい、場合によっては、コンクリート圧送ポンプ12の停止処置などが間に合わずに鋼管柱2が降伏・破損してしまう。
【0020】
そこで、本参考例に係る構築方法では、圧入作業を実施中の作業者が閉塞の予兆を把握し易くなるよう管理業務を支援すべく、管理支援システムが導入されている。
【0021】
図1に示すように、この管理支援システムは、(1)コンクリート4の圧入圧力を計測する圧力計18と、(2)コンクリート4の充填高さHを計測するレーザー距離計26と、(3)鋼管柱2内のコンクリート4の充填状況を監視する監視カメラ28と、(4)圧力計18からの圧入圧力の計測値Pnに、レーザー距離計26からの計測値Hnを計測時刻Tnで対応付けてグラフ化して表示する管理コンピュータ30と、を備えている。
【0022】
監視カメラ28は、鋼管柱2の内部に配置され、同内部にコンクリート4が充填される様子を上方から撮影する。すなわち、監視カメラ28は、鋼管柱2の上部から吊下され、充填中のコンクリート4の天端面4aの直上に近接配置されている。そして、この監視カメラ28は、充填中のコンクリート4の天端面4aの上昇に応じて徐々に持ち上げられる。この監視カメラ28により撮影された動画映像データは、適宜なケーブル類28aを通じてリアルタイムで管理コンピュータ30へ送信される。
【0023】
圧力計18は、図1中の拡大図Aに示すように、コンクリート供給管14の圧入口8側の端部14aに一体的に取り付けられており、その計測用受圧面18aは、コンクリート供給管14の内部に通じている。これにより、鋼管柱2の内部へと圧送されるコンクリート4の圧入圧力を、所定の計測周期ΔT(例えば、数ミリ秒〜数秒)に基づく計測時刻Tnでリアルタイム計測する。この圧入圧力の計測値Pnは、圧力計18に接続されたケーブル類20を通じて計測装置22へ逐次入力された後に、有線LANや無線LAN等の通信手段などを通じて、計測装置22から管理コンピュータ30へとリアルタイムで送信される。
【0024】
レーザー距離計26は、鋼管柱2の上部に配置されている。そして、鋼管柱2の内部に充填されるコンクリート4の充填高さHを上方から計測する。詳しくは、当該レーザー距離計26は、鋼管柱2の内部において、コンクリート4の天端面4aの上方に設置されており、そして、同天端面4aへ向けてレーザーを照射し、これにより、天端面4aとレーザー距離計26のセンサー下端26aとの間の距離Dnを、上記の圧入圧力の計測値Pnと計測時刻Tnを揃えつつリアルタイムで計測する。
【0025】
ここで、コンクリート4の充填高さHnは、例えば、圧力計18の前記計測用受圧面18aの高さ位置を零点として計測される。よって、レーザー距離計26のセンサー下端26aから前記計測用受圧面18aまでの距離をLとした場合には、レーザー距離計26は、計測した距離Dnを用いて充填高さの計測値Hnを下式1に基づき算出する。そして、計測値Hnは管理コンピュータ30へと逐次送信される。
充填高さの計測値Hn=L−Dn …(1)
なお、上述の距離Lは施工図面などに基づいて予め定まる既知の値である。また、この式1の演算は、管理コンピュータ30の方で行っても良い。
【0026】
管理コンピュータ30は、例えば、ノート型のパーソナルコンピュータ等のコンピュータ装置であり、表示部としての液晶ディスプレイ35と、入力操作部としてのマウスやキーボードと、演算処理部としてのコントローラと、データ記録部としてのハードディスクと、前記ケーブル類20,28aに接続されて、外部との間でデータの入出力を行うインターフェース部としてのインターフェースカードと、を備えている。
【0027】
コントローラは、CPUと、RAM等のメモリと、を有している。また、ハードディスクには、前記インターフェースカードを介して送信される監視カメラ28の動画映像や、前記充填高さ及び圧入圧力の計測値Hn,Pn等を、液晶ディスプレイ35に表示するための表示プログラムが予め格納されている。よって、コントローラは、ハードディスクから上記表示プログラムを読み出して実行し、これにより、液晶ディスプレイ35上には、監視カメラ28の動画映像や前記計測値Pn,Hnが、所定形式で表示される。
【0028】
図2は、液晶ディスプレイ35の表示画面の一例である。表示画面は、左右2領域に区分され、一方には、監視カメラ28の動画映像28gがリアルタイムで表示され、他方には、圧入圧力の計測値Pnと充填高さの計測値Hnとの関係のグラフがリアルタイムで表示される。
【0029】
グラフは、横軸に充填高さを取り、縦軸に圧入圧力を取って表示される。そして、圧力計18及びレーザー距離計26から前記計測値Pn,Hnが計測周期ΔTで送信される度に、新たな点(以下、プロット点とも言う)が追加でプロットされる。このプロットは、コンクリート4の圧入が終了するまで繰り返される。
【0030】
そして、圧入が正常終了した場合には、図3Aのような右肩上がりの略直線状のグラフが描かれる。これに対して、閉塞が生じた場合には、例えば、図3Bのような圧入圧力が急上昇したグラフが描かれる。よって、これらグラフ形状の相違に基づいて、作業者は、閉塞の予兆を容易に認識可能となる。例えば、図3Bの場合には、圧入圧力が急上昇したグラフが描かれ始めた時点t1で、これを見た作業者は、閉塞の予兆を瞬時に把握することができる。
【0031】
また、単に圧入圧力の計測値Pnのみがデジタル表示等されている場合と比べて、グラフ化されている方が視覚に訴え得ることや図形的イメージで捉え易いことも、閉塞の予兆把握のし易さに有効に寄与するものと考えられる。
【0032】
ここで、このグラフには、作業員の閉塞の予兆把握をより容易にすべく、比較の目安として液圧ラインLiが予め併記されている。この液圧ラインLiは、圧入時の圧力損失等の影響を無視できる理想条件下において、プロットされる点が辿るべき謂わば理論液圧ラインであり、下式2に基づく理論液圧値と充填高さの関係を示すものである。
理論液圧値=充填高さH×コンクリートの比重cγ …(2)
なお、理論液圧値が、充填高さHの一次関数で表記されるのは、コンクリート4の圧入口8付近の圧力は、鋼管柱2内に充填されたコンクリート4の重みに基づいて生じるからである。
【0033】
従って、理論的には、この液圧ラインLiからプロット点が大きく外れた場合には、何らかの異常が生じていると言える。但し、実際には、圧入に伴って圧力損失が生じるので、実際にプロットされる点は、図3Aに示すように、この液圧ラインLiよりも多少高めの位置を辿ることになる。このため、本参考例では、図2〜図3Bに示すように、液圧ラインとしては、式2に基づくラインLi以外に、このラインLiを、1よりも大きい値αでα倍したラインも併記されており、具体的には、下式3及び下式4に基づく理論液圧値を1.3倍した1.3倍液圧値及び1.5倍した1.5倍液圧値を、それぞれ充填高さとの関係で示したラインLi(1.3)(以下、1.3倍液圧ラインとも言う)及びラインLi(1.5)(以下、1.5倍液圧ラインとも言う)も併せて画面表示されている。
1.3倍液圧値=1.3×理論液圧値 …(3)
1.5倍液圧値=1.5×理論液圧値 …(4)
そして、今まで出願人が試験的に複数回行った圧入作業実績によれば、圧入作業が正常終了した場合には、図3Aに示すように、グラフは、コンクリート4の鋼管柱2への充填開始から充填終了(充填高さ25m)までの間に亘り、1.3倍液圧ラインLi(1.3)を上に超えることは概ね無かった。
【0034】
従って、例えば、グラフのプロット点が、1.3倍液圧ラインLi(1.3)よりも下に位置していれば、作業者は、コンクリート4の圧入圧力が急上昇するような閉塞の予兆は無いと判断して安心して圧入作業を継続できる。一方、1.3倍液圧ラインLi(1.3)を超え始めたら、閉塞の予兆があると判断して、以降、作業者は細心の注意をもって圧入作業を管理することができる。すなわち、管理業務に、めりはりをつけることができる。ちなみに、1.3倍液圧ラインLi(1.3)を超えた時に作業者が取り得る処置としては、圧入圧力を下げるべく、コンクリート圧送ポンプ12の操作盤を操作等してコンクリート4の圧入速度を遅くすること等が挙げられる。
【0035】
ところで、本参考例では、前記グラフに対して、上述の液圧ラインLi,Li(1.3),Li(1.5)以外に、鋼管柱2自体の材料強度に基づいて定まる圧入圧力の許容上限値を示す許容上限ラインLuも予め併記している。よって、前記グラフのプロット点と対照することにより、作業者は、許容上限ラインLuまでの余裕代を一見して認識することができて、瞬時に安全か危険かの判断を行える。
【0036】
このラインLuは、鋼管柱2の断面形状によって異なる。例えば、鋼管柱2が丸形鋼管の場合には下式5により表され、鋼管柱2が角形鋼管の場合には下式6により表される。
許容上限値Py=2・sσy・(t/B) …(5)
許容上限値Py=2・sσy・(t/B) …(6)
なお、上式5及び上式6中の「sσy」は鋼管柱2の降伏強度である。「B」は、鋼管柱2が角形であれば柱の幅であり、丸形であれば柱の外径である。また「t」は鋼管柱2の板厚である。
【0037】
ここで、基本的には、この許容上限ラインLuまでは、鋼管柱2は強度上保つと想定される。よって、望ましくは、作業者が表示画面上のグラフ形状から閉塞の予兆を察知した場合でも、即座に圧入作業を中断することはせずに、上述のように圧入速度を調整しながら、上記の許容上限ラインLuを超えるまでは圧入作業を継続すると良い。そうすれば、場合によっては、そのまま許容上限ラインLuを超えずに、充填高さHが目標高さに到達するケースもあり得て、その場合には、圧入作業は概ね正常終了されたことになる。
【0038】
これに対し、目標高さに到達する前に、グラフのプロット点が、許容上限ラインLuを超えそうな場合には、プロット点が許容上限ラインLuに一致した時点又は超える直前で圧入を中断すると良い。そして、この場合には、コンクリート4の充填高さHが目標高さに達していない状態で圧入を中断することになるが、その後処理としては、例えば、鋼管柱2の上部開口よりトレミー管を挿入して、上方からコンクリート4の充填作業を行うこと、あるいは、鋼管柱2の健全性を点検後に、当該途中まで充填済みのコンクリート4の天端面4aよりも上方の鋼管柱2の部位にコンクリート4の圧入口8を削孔し、この圧入口8にコンクリート供給管14等を接続して圧入作業を再開すること等が挙げられる。
【0039】
また、場合によっては、上述の許容上限ラインLuよりも所定倍だけ低い位置に、別途、管理ラインLkを予め併記しても良い。例えば、図2〜図3Bの例では、許容上限ラインLuの0.8倍の位置に管理ラインLkが描かれている。すなわち、このラインLkは下式7に基づいて描かれている。
管理値Pk=0.8×Py …(7)
【0040】
そして、この管理ラインLkを、作業者への警報発令等に使用しても良い。例えば、圧入圧力の計測値Pnが管理ラインLkを超えたら、管理コンピュータ30が自動的に警報を出すようにしても良い。この警報としては、例えば、スピーカーで警告音を鳴らすことや、液晶ディスプレイ35に警告メッセージを表示すること等が挙げられる。ちなみに、この警報に基づいて、作業者は、圧入作業を中断しても良い。
【0041】
===本実施形態===
上述の参考例の構築方法では、コンクリート4の充填高さの計測値Hnを、計測周期ΔT(例えば、数ミリ秒〜数秒)という細かい時間刻みで取得すべく、レーザー距離計26を用いてリアルタイム計測していた。しかし、施工現場によってはレーザー距離計26を設置できない場合もあって、その場合には、充填高さの計測値Hnを、圧入圧力の計測時刻Tnに対応付けた細かい時間刻みで取得できなくなる。その結果、充填高さと圧入圧力との関係のグラフを、圧入圧力の計測周期ΔTで表示できなくなり(例えば、図6Aを参照)、作業者は、グラフの変化傾向を子細に把握できず、閉塞の予兆把握に大きな支障を来す。
【0042】
そこで、本実施形態の構築方法では、このような場合にも対処可能にすべく、通常CFT造の鋼管柱2に形成されている蒸気抜き孔2aからのコンクリート4のノロ流出(セメントペースト分の流出のことであり、例えば図4を参照)の目視確認によって、充填高さの計測値Ha,Hb及びその計測時刻Ta,Tbを離散的に取得するとともに、更に、これら離散的に取得された充填高さの計測値Ha,Hb及びその計測時刻Ta,Tbに基づいて、これら計測時刻Taと計測時刻Tbとの間の時刻における充填高さのデータを内挿法により補間し、これにより、圧入圧力の計測周期ΔTに対応した細かい時間刻みでグラフをプロット表示可能としている(例えば、図6Bを参照)。
【0043】
以下、本実施形態の構築方法について説明するが、上述の参考例との相違点は、コンクリート4の充填高さHnをリアルタイム計測しない点に有り、それ以外の点、例えば、圧入圧力を前記計測周期ΔTに基づく計測時刻Tnでリアルタイム計測してその計測値Pnを取得すること等については、参考例の構築方法と同じである。
【0044】
図4は、鋼管柱2の蒸気抜き孔2aを説明するための鋼管柱2の縦断面図である。同図に示すように、通常、CFT造の鋼管柱2の側周壁には蒸気抜き孔2aが複数形成されている。これら蒸気抜き孔2aは、CFT造で構築された構造物の火災時に、鋼管柱2が熱膨張破損するのを防ぐためのものである。つまり、鋼管柱2が加熱されると、その内部のコンクリートの水分が水蒸気となって鋼管柱2内で膨張し、これにより鋼管柱2が降伏してしまう虞がある。このため、当該水蒸気を外へ逃がすべく、鋼管柱2の側周壁には複数の蒸気抜き孔2aが、高さ方向に間隔を隔てて水平方向に貫通形成されている。例えば、構造物がビル等の場合には、各階フロアーに一箇所以上、直径約20mmの円孔2aが水平方向に貫通形成されている。そして、通常のCFT造の施工時においては、これら蒸気抜き孔2aからのノロ流出を防ぐべく、当該蒸気抜き孔2aを外から塞いで仮止めした状態で、鋼管柱2内へのコンクリート4の圧入作業が行われる。
【0045】
これに対し、本実施形態の構築方法では、これら蒸気抜き孔2aによりコンクリート4の充填高さを目視検知する関係上、蒸気抜き孔2aを塞がずに空いた状態のままコンクリート4の圧入作業を行う。すなわち、鋼管柱2内のコンクリート4の充填高さが、各蒸気抜き孔2aの高さに達したら、図4に示すようにその蒸気抜き孔2aから外へノロ流出されるので、各蒸気抜き孔2aからのノロ流出の有無によって、その蒸気抜き孔2aの高さまでコンクリート4が充填されたことを検知し、当該ノロ流出した蒸気抜き孔2aの高さ及びそのノロ流出開始時刻を記録する。なお、蒸気抜き孔2aの高さは、施工図面等に示された既知のデータであり、例えば、前述の圧力計18の計測用受圧面18aの高さを零位置として規定されている。
【0046】
そして、ノロ流出した蒸気抜き孔2aの高さ及びそのノロ流出開始時刻を、高さ方向に隣り合う2つの蒸気抜き孔2aについて取得したら、これらノロ流出開始時刻Ta,Tbのデータと、2つの蒸気抜き孔2aの高さHa,Hbのデータとに基づいて、内挿法によりこれら2点間の充填高さのデータHnを補って求める。
【0047】
図5は、蒸気抜き孔2aの高さHbとそのノロ流出開始時刻Tb、及び、その直下に隣り合う蒸気抜き孔2aの高さHaとそのノロ流出開始時刻Taに基づいて、内挿法により任意の計測時刻Tnの充填高さHnを求める方法の説明図である。
【0048】
内挿法とは、「ある変域内で、いくつかの変数値に対する関数値が知られているとき,同じ変域内の他の変数値に対する関数値を推定し,近似値を求める方法」のことであり、その一例としては、2個の既知量の間の未知量を、それら3つのプロットされた点A、B、Nが同一直線上にあるものとして求める手法が挙げられる。
【0049】
そして、ここでは、蒸気抜き孔2aの高さHaとそのノロ流出開始時刻Ta、及び、蒸気抜き孔2aの高さHbとそのノロ流出開始時刻Tbが既知であるので、これらを図5のグラフ中の点A(Ta,Ha)及び点B(Tb,Hb)とすれば、直線AB上の任意の点N(Tn,Hn)は、下式8により表現される。
Hn=(Hb−Ha)/(Tb−Ta)×(Tn−Ta)+Ha …(8)
【0050】
よって、充填高さHnの値が必要な計測時刻Tnの値を上式8に代入すれば、当該計測時刻Tnにおける充填高さHnを取得することができる。そして、このあとは上述の参考例の構築方法と同様に、前記式8により求められた充填高さHnと圧入圧力Pnとから定まる点を、図2の液晶ディスプレイ35のグラフにプロットすれば、圧入圧力の計測周期ΔTという細かい時間刻みでグラフが表示されることになる。
【0051】
なお、この内挿法による充填高さHnの計算は、管理コンピュータ24のハードディスク等に格納された補間演算プログラムによって行われ、また、蒸気抜き孔2aの高さHa,Hbやそのノロ流出開始時刻Ta,Tbの管理コンピュータ24への入力は、付属のキーボード等から作業者により手入力される。
【0052】
例えば、作業者は、圧入作業中の最も低位の蒸気抜き孔2a及び2番目に低位の蒸気抜き孔2aからのノロ流出を確認したら、前記最も低位の蒸気抜き孔2aの高さを前記Ha、そのノロ流出開始時刻を前記Taとしつつ、また、前記2番目に低位の蒸気抜き孔2aの高さをHb、そのノロ流出開始時刻をTbとして管理コンピュータ24に入力する。すると、管理コンピュータ24は、これら入力値Ha,Ta,Hb,Tb及び上式8に基づいて、計測時刻Tnに対応する充填高さHnを計算し、充填高さHaとHbとの間の高さ範囲のグラフのプロットに供する。
【0053】
そして、それ以降は、新たに上方の蒸気抜き孔2aからのノロ流出を確認する度に、作業者は、その蒸気抜き孔2aの高さ、及び、そのノロ流出開始時刻を管理コンピュータ24に入力する。すると、当該入力の度に、管理コンピュータ24は、前記新たにノロ流出した蒸気抜き孔2aの高さをHb、そのノロ流出開始時刻をTbとして更新するとともに、それまで高さHbとしてメモリに記録されていた、直下に隣り合う蒸気抜き孔2aの高さをHa、そのノロ流出開始時刻をTaとして更新する。そして、これら更新後のHb,Tb,Ha,Ta及び計測時刻Tnを前記式8に代入することにより、前記新たにノロ流出が確認された蒸気抜き孔2aと、その直下の蒸気抜き孔2aとの間における充填高さHnの計算を計測時刻Tnに対応させて行い、前記グラフのプロットに供する。
【0054】
図6Aは、上述の内挿法により充填高さのデータを補わなかった場合に得られる充填高さと圧入圧力とのグラフであり、他方、図6Bは、内挿法により充填高さデータを補った場合に得られるグラフである。図6Aに示すように内挿法を行わない場合には、蒸気抜き孔2aに対応して5点しかプロット点を取得できないため、グラフの変化を子細に観察できない。これに対して、内挿法を行った場合には、図6Bに示すように、5点のプロット点同士の間にも計測周期ΔTで新たに複数のプロット点が補われて、その変化の様子を子細に観察できるので、閉塞の予兆を把握し易くなる。
【0055】
ところで、上述の内挿法の場合には、ノロ流出された蒸気抜き孔2a,2a同士の間のデータ補間は行えるが、ノロ流出された蒸気抜き孔2aとノロ未流出の蒸気抜き孔2aとの間のデータ補間については、当該ノロ未流出の蒸気抜き孔2aからノロが流出するまでは行うことができない。つまり、図4に示すように、コンクリート4の天端面4aが、上下に隣り合う蒸気抜き孔2a,2a同士の間の範囲を上方に移動中には、現時点の充填高さHnのデータを補うことができず、このため、グラフの方も、下端から充填高さHbまでの高さ範囲については細かい刻みでプロットされているが、充填高さHbから充填高さHnまでの高さ範囲についてはプロット点の無い状態となり、閉塞の予兆把握に多少なりとも支障を来す。
【0056】
この点につき、外挿法を用いれば、コンクリート4の天端面4aが、蒸気抜き孔2a,2a同士の間の位置を上方に移動中の場合にも、天端面4aよりも下方の蒸気抜き孔2a,2aからのノロ流出時刻Tb,Taなどのデータを用いることにより、現時点の天端面4aの位置、つまり、充填高さHnのデータを推測することができる。よって、リアルタイムで計測される圧入圧力の計測値Pnと組み合わせてグラフにプロットすれば、リアルタイムで精細なグラフを表示することができる。すなわち、図4の充填高さHbから充填高さHnまでの高さ範囲についても細かい刻みでグラフをプロットすることができる。
【0057】
図7は、外挿法により充填高さHnを求める方法の説明図である。この外挿法によれば、蒸気抜き孔2aの高さHaとそのノロ流出開始時刻Ta、及び、その直上に隣り合う蒸気抜き孔2aの高さHbとそのノロ流出開始時刻Tbを用いて、直近のノロ流出開始時刻Tbよりも後の時点の計測時刻Tnについても、充填高さHnを求めることができる。
【0058】
すなわち、圧入圧力の最新の計測値Pnが取得される度に、当該計測値Pnの計測時刻Tnの値を前記式8中のTnに代入すれば、当該計測値Pnに対応する充填高さHnを即座に求めることができる。よって、求められたHnを現時点の計測値Hnとして、計測値Pnと対応付けてリアルタイムでグラフにプロットすることができて、結果、閉塞の予兆を、上述の参考例と同程度の即時性でもって把握可能となる。
【0059】
図8は、鋼管柱2内へのコンクリート4の圧入作業手順の一例のフロー図である。
【0060】
まず、作業者は、コンクリート圧送ポンプ12を起動して鋼管柱2の内部へのコンクリート4の圧入を開始する(S02)。また、これと併行して、鋼管柱2の圧入口8近傍の圧力計18によるコンクリート4の圧入圧力の計測も開始する(S04)。
【0061】
なお、圧入圧力の計測は、コンクリート圧送ポンプ12の起動時刻よりも少し遅れて開始される。これは、図1に示すように、圧力計18の計測用受圧面18aの設置高さが、充填済みコンクリート10の上面10aよりも所定高さhmだけ高位に位置しているからである。そして、作業者は、この圧入圧力の計測開始時刻Ts、すなわち、圧入中のコンクリート4の天端面4aが計測用受圧面18aに到達した時刻Tsを記録しておく。この計測開始時刻Tsは、この後になされる1回目の補間処理の際に使用される。
【0062】
次に、作業者はステップS06へ進み、新たに蒸気抜き孔2aからノロ流出したか否かを目視チェックする。そして、新たにノロ流出している場合には、ステップS08へと進んで、作業者は、管理コンピュータ30のマウスやキーボード等を操作し、新たにノロ流出した蒸気抜き孔2aの高さ及びそのノロ流出開始時刻を管理コンピュータ30に入力する。
【0063】
すると、管理コンピュータ30は、上述の内挿法を用いながら、新たにノロ流出した蒸気抜き孔2aとその直下の蒸気抜き孔2aとの間の高さ範囲に対応するグラフの部分をプロットする。
【0064】
すなわち、新たにノロ流出した蒸気抜き孔2aの高さ及びそのノロ流出開始時刻を、それぞれ、前記式8のHb及びTbとして更新するとともに、今までHb及びTbとしてメモリに記録されていた値を、前記式8のHa及びTaとして更新する。そして、これらHb,Tb,Ha,Taと前記式8とによって、前記新たにノロ流出した蒸気抜き孔2aとその直下に隣り合う蒸気抜き孔2aとの間での充填高さHnの値を、圧入圧力の計測時刻Tn毎に計算し、圧入圧力の計測値Pnと対応付けながら液晶ディスプレイ35のグラフにプロットして表示する。
【0065】
なお、ここで、このノロ流出が、現在充填中の鋼管柱2における1回目のノロ流出の場合には、上述のTa、Haとして更新すべきTb,Hbのデータが、メモリに記録されていないことになるが、その場合には、作業者は、マウスやキーボード等を操作して、Ta、Haに対応する値を入力する。このTa、Haに対応する値としては、例えば、上述した計測開始時刻Ts及び計測用受圧面18aの設置高さの値(=0)が入力される。そして、これにより、液晶ディスプレイ35には、計測用受圧面18aの設置高さから、最も低位の蒸気抜き孔2aまでの高さ範囲に対応するグラフの部分がプロットされる。
【0066】
そうしたら、ステップS10へ進む。そして、作業者は、前記プロットされたグラフの部分が、1.3倍液圧ラインLi(1.3)を上方に超えていないか否かをチェックする。そして、超えていない場合には、「閉塞の予兆無し」と判定して、ステップS12へ進む。一方、超えていた場合には、「閉塞の予兆有り」と判定して、直ちにステップS20へと進み、コンクリート4の圧入速度が遅くなるように調整後、ステップS12へと進む。
【0067】
ステップS12では、作業者は、液晶ディスプレイ35の前記グラフの部分を見て、当該グラフの部分が管理ラインLkを超えていないか否かをチェックする。そして、管理ラインLkを超えていた場合には「鋼管柱2の破損の危険有り」と判定して、直ちにコンクリート4の充填作業を中断すべくステップS16へと進む。そして、コンクリート圧送ポンプ12を停止する。なお、この中断後の後処理は、前述したとおりである。
逆に、ステップS12において、管理ラインLkを超えていない場合には、「鋼管柱2の破損の危険無し」と判定してステップS14へ進む。
【0068】
そして、ステップS14では、コンクリート4の充填高さHが目標高さに達したか否かをチェックする。このチェックは、前記新たにノロ流出した蒸気抜き孔2aの高さが、前記目標高さと一致しているか否かにより行われる。ここで、充填高さHが目標高さに達していない場合には、ステップS06へと戻り、再び、新たなノロ流出の目視チェックをし、以降、上述のフローを繰り返す。一方、コンクリート4の鋼管柱2内への充填高さHが目標高さに達していた場合には、コンクリート4の圧入作業を終了すべく、ステップS16へと進んで、コンクリート圧送ポンプ12を停止する。そして、前記グラフに係るデータ等の保存を実行する(S18)。これらデータは、監理者、設計者および発注者への提出帳票類の作成等に利用される。
【0069】
ところで、望ましくは、ステップS08〜ステップS14においては、上述の内挿法によるデータ補間だけでなく、併せて外挿法によるデータ補間も行うと良い。このようにすれば、外挿法によりリアルタイムでグラフのプロットを仮表示するとともに、内挿法に必要なデータが揃った時点で、前記仮表示のプロットを、内挿法による正式表示のプロットに切り換えることができて、作業者の管理業務の精度向上を図れる。
【0070】
詳しくは、コンクリート4の天端面4aが、直近にノロ流出した蒸気抜き孔2aとノロ未流出の蒸気抜き孔2aとの間の高さ範囲を移動中には、当該高さ範囲のグラフの部分のプロットを外挿法に基づいて行う。すなわち、直近にノロ流出した蒸気抜き孔2aの高さ及びそのノロ流出開始時刻と、その直下に隣り合う蒸気抜き孔2aの高さ及びそのノロ流出開始時刻とを、それぞれ前記式8中のHb,Tb,Ha,Taに代入する。そして、圧入圧力の計測値Pnをリアルタイムで取得する度に、その計測時刻Tnを式8に代入して計測値Pnに対応する充填高さHnを求め、これにより、前記グラフの部分をリアルタイムでプロットして仮表示する。
【0071】
一方、コンクリート4の天端面4aが前記未流出の蒸気抜き孔2aに到達してノロ流出したら、仮表示の前記グラフの部分を、内挿法による正式表示に切り換えるべく、式8中のHb及びTbを、前記蒸気抜き孔2aの高さ及びそのノロ流出開始時刻に置き換えるとともに、今までHb及びTbに使っていた値を、Ha及びTaに入力する。そして、当該式8に基づいて、圧入圧力の計測値Pnに対応する充填高さHnを計測値Pn毎に求めて、前記グラフの部分を表示し直す。
【0072】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0073】
上述の実施形態では、内挿法の一例として、前述の式8を用いた直線補間を例示したが、「ある変域内で,いくつかの変数値に対する関数値が知られているとき,同じ変域内の他の変数値に対する関数値を推定し,近似値を求める方法」を用いるのであれば、何等式8に限るものではなく、別の数式等を用いても良い。
【0074】
上述の実施形態では、外挿法の一例として、前述の式8を用いて推定する方法を例示したが、「ある変域内でいくつかの変数値が知られているとき、この変域外の変数値に対する関数値を推定する方法」を用いるのであれば、何等式8に限るものではなく、別の数式等を用いても良い。
【0075】
上述の実施形態では、所定の計測時刻Ta,Tbにおけるコンクリート4の充填高さの計測値Ha,Hbを離散的に取得する方法の一例として、鋼管柱2の蒸気抜き孔2aからのノロ流出の目視確認による方法を例示したが、何等これに限るものではなく、例えば、定期的に検尺を行うことにより充填高さの計測値Ha,Hbを取得しても良い。すなわち、鋼管柱2の内部に上方から検尺用の糸を垂らし、その垂下端が鋼管柱2内に充填されたコンクリート4の天端面4aと接触するまで下方へ糸を繰り出した際の繰り出し長に基づいて充填高さHa,Hbを求めても良い。
【0076】
上述の実施形態では、レーザー距離計26が取り付けられない場合を例示したが、場合によっては、レーザー距離計26が取り付けられた場合に、上述の実施形態の構築方法を適用しても良い。例えば、鋼管柱2の上方に取り付けていたレーザー距離計26の故障や通信エラー等により一時的に使用不能状態に陥った際に、一時的緊急措置として、上述の実施形態の構築方法により、故障の間の充填高さHnを圧入圧力の計測時刻Tnで求めるようにしても良い。そして、このようにすれば、レーザー距離計26が故障してもコンクリート4の充填作業を中断せずに済み、計画通りに工事を進めることができる。
【0077】
上述の実施形態では、表示手段として液晶ディスプレイ35を例示したが、前記圧入圧力の計測値Pnと前記充填高さの計測値Hnとの関係のグラフを視認可能に表示できれば、何等これに限るものではなく、例えばCRTディスプレイや、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のモニタでも良いし、更には、レーザープリンタや、インクジェットプリンタ、ドットプリンタ等の印刷装置を用いても良い。なお、印刷装置の場合には、紙等の印刷媒体に対して、前記圧入圧力の計測値Pnと前記充填高さの計測値Hnとの関係のグラフをプロットして表示することになる。
【0078】
上述の実施形態では、許容上限ラインLuを式5又は式6に基づいて、更に、管理ラインLkを式7に基づいて描いていたが、何等これに限るものではなく、それぞれ、以下の式5a、式6a、式7aに示すような補正式を用いても良い。
許容上限値Pyh=(2・sσy・(t/B)−cγ・hm)…(5a)
許容上限値Pyh=(2・sσy・(t/B)−cγ・hm)…(6a)
管理値Pkh=0.8×(Py−cγ・hm) …(7a)
【0079】
ここで、上式中の「cγ」は、前述したように充填中のコンクリート4の比重であるが、「hm」は、図1に示すように、充填済みコンクリート10の上面10aからの圧力計18の計測用受圧面18aの設置高さである。ここで、この補正の意味は、次の通りである。鋼管柱2に作用する圧入圧力は、充填中のコンクリート4の最下部、つまり上記充填済みコンクリート10の上面10a近傍において最大値となると想定されるところ、圧力計18の計測用受圧面18aの設置高さが、それよりもhmだけ高いと、圧力計18による計測値Pnはその分(cγ・hm)だけ低く計測されることになる。そのため、この低く計測される分だけ、許容上限ラインLu及び管理ラインLkの方も低く設定しておくのが精度上好ましいと考えられ、このような理由から、上述の式5a、式6a、式7aを提示している。
【0080】
但し、上述の補正に代えて、上記設置高さ分の補正(cγ・hm)を、圧入圧力の計測値Pnの方に行うようにしても良い。すなわち、上述の圧入圧力の計測値Pnを、下式9によって補正しても良い。
補正後の圧入圧力の計測値Pn=圧入圧力の計測値Pn+cγ・hm …(9)
なお、この場合には、充填高さの計測値Hnは、圧力計18の前記計測用受圧面18aの高さ位置を零点とするのではなく、図1の充填済みコンクリート10の上面10aの位置を零点として計測し、また、許容上限ラインLu及び管理ラインLkの算出は、式5、式6、式7によって行うのが好ましいのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】参考例に係る鋼管コンクリート柱の構築方法の説明図である。
【図2】液晶ディスプレイ35の表示画面の一例である。
【図3】図3Aは、コンクリート4の鋼管柱2への圧入作業が正常終了した場合に表示されるグラフであり、図3Bは、同圧入作業中に閉塞が発生した場合に表示されるグラフである。
【図4】本実施形態に係る蒸気抜き孔2aを説明するための鋼管柱2の縦断面図である。
【図5】内挿法により任意の計測時刻Tnの充填高さHnを求める方法の説明図である。
【図6】図6Aは、内挿法により充填高さのデータを補わなかった場合に得られる充填高さと圧入圧力との関係のグラフであり、図6Bは、内挿法により充填高さデータを補った場合に得られる充填高さと圧入圧力との関係のグラフである。
【図7】外挿法により充填高さHnを求める場合の説明図である。
【図8】本実施形態に係る鋼管柱2内へのコンクリート4の圧入作業手順の一例のフロー図である。
【符号の説明】
【0082】
2 鋼管柱、2a 蒸気抜き孔、4 コンクリート、4a 天端面、
6 補強部材、8 圧入口、10 充填済みコンクリート、10a 上面、
12 コンクリート圧送ポンプ、14 コンクリート供給管、14a 端部
16 コンクリートミキサー車、18 圧力計、18a 計測用受圧面、
20 ケーブル類、22 計測装置、26 レーザー距離計、26a センサー下端、
28 監視カメラ、28a ケーブル類、28g 動画映像、
30 管理コンピュータ、35 液晶ディスプレイ、
Li 液圧ライン、
Li(1.3) 1.3倍液圧ライン、
Lk 管理ライン、
Lu 許容上限ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管柱の下部からコンクリートを圧入して鋼管コンクリート柱を構築する際に、前記コンクリートの圧入圧力と、前記鋼管柱内の前記コンクリートの充填高さとを計測し、前記圧入圧力の計測値と前記充填高さの計測値との関係を表示手段にプロットして表示しながら前記コンクリートを圧入する鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
時刻Ta及び時刻Tbにおいてそれぞれ計測された前記コンクリートの充填高さの計測値Ha,Hbを用いて、圧入圧力の計測値Pnの計測時刻Tnに対応するコンクリートの充填高さの値を、内挿法又は外挿法により求めて、前記時刻Tnでの充填高さの計測値Hnとしてプロットすることを特徴とする鋼管コンクリート柱の構築方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記圧入圧力の計測値Pnの計測時刻Tnに対応するコンクリートの充填高さの値を、以下の式によって求めることを特徴とする鋼管コンクリート柱の構築方法。
Hn=(Hb−Ha)/(Tb−Ta)×(Tn−Ta)+Ha
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記鋼管柱の側周壁に高さ方向に間隔を隔てて貫通形成された複数の蒸気抜き孔からのコンクリートのノロ流出の有無に基づいて、前記時刻Ta、前記計測値Ha、前記時刻Tb、前記計測値Hbを取得することを特徴とする鋼管コンクリート柱の構築方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記表示手段には、前記コンクリートの比重及び前記充填高さに基づいて求まる圧入圧力の理論液圧値を所定倍した値と、前記充填高さとの関係を示す液圧ラインが表示されていることを特徴とする鋼管コンクリート柱の構築方法。
【請求項5】
請求項4に記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記表示手段には、前記充填高さを横軸、前記圧入圧力を縦軸として、前記圧入圧力の計測値及び前記充填高さの計測値がプロットされ、
プロットされた前記圧入圧力の計測値が、前記液圧ラインを超えた場合に、前記コンクリートの圧入速度を遅くすることを特徴とする鋼管コンクリート柱の構築方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記表示手段には、前記鋼管柱の降伏強度に基づいて算出された圧入圧力の許容上限値を示す許容上限ラインが表示されていることを特徴とする鋼管コンクリート柱の構築方法。
【請求項7】
請求項6に記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記表示手段にプロットされた前記圧入圧力の計測値が、前記許容上限ラインを超えないように監視しながら、コンクリートの圧入を行うことを特徴とする鋼管コンクリート柱の構築方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の鋼管コンクリート柱の構築方法であって、
前記表示手段には、前記許容上限値よりも所定倍だけ小さい値たる管理値を示す管理ラインが表示されており、前記表示手段にプロットされた前記圧入圧力の計測値が、前記管理ラインを超えたら、前記コンクリートの圧入を中断することを特徴とする鋼管コンクリート柱の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−150831(P2010−150831A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330947(P2008−330947)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】