説明

鋼管杭の継手構造と鋼管杭の接続方法

【課題】継手管に下鋼管杭と上鋼管杭を挿入し、継手間と両鋼管杭の間にグラウト材を充填した鋼管杭の継手構造において、上下鋼管杭を回転圧入するとき、グラウト材が破壊されない構造の継手構造を提供すること。
【解決手段】下鋼管杭11と上鋼管杭12を継手管3に挿入し、継手管3と上下鋼管杭11,12の間にグラウト材43を充填してある。継手管3は、上側と下側に夫々一対の回転キー331a、332aを備えている。下鋼管杭11は、回転キー331aと係合する回転キー331bを備え、上鋼管杭12は、回転キー332aと係合する回転キー332bを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地盤(地中)に埋設した鋼管杭に別の鋼管杭を接続するときの鋼管杭の継手構造と鋼管杭の接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来鋼管杭を接続する手段の一つとして、接着剤を用いた継手構造が提案されている(例えば特許文献1参照)。
図4は、従来の接着剤を用いた鋼管杭の継手構造の軸方向の断面を示す。
継手構造を構築するときは、まず工場等において、図4(a)のように下鋼管杭11を打設する前にその頭部に継手管21を溶接して固着する。即ちまず継手管21を下鋼管杭11に装着し、溶接部22a,22bにおいて下鋼管杭11に固着する。
図4(a)の下鋼管杭11は、施工現場に搬入して地盤に所定の深さまで打設し、図4(b)のように、継手管21に上鋼管杭12を挿入し、上鋼管杭12と継手管21の間にエポキシ系等の接着剤23を充填して上鋼管杭12と継手管21を接着する。下鋼管杭11と上鋼管杭12は、継手管21と接着剤23により接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−49832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図4の鋼管杭の継手構造は、継手構造を構築する前に継手管21を固着した下鋼管杭11を地盤中へ打設するから、継手管21の開口部は、その打設により変形してしまい上鋼管杭12の挿入の支障になる場合がある。また接続した上下鋼管杭11,12を回転圧入する場合、接着剤23が破壊されて上鋼管杭12が空回りしてしまい、上下鋼管杭11,12を回転圧入できない場合がある。また図4の鋼管杭の継手構造は、継手管21の内部の溶接部22aの溶接作業が困難である等の問題がある。
本願発明は、従来の鋼管杭の継手構造の前記問題点に鑑み、継手管に下鋼管杭と上鋼管杭を挿入し、両鋼管杭と継手管の間にグラウト材を充填して硬化させるだけで両鋼管杭を接続でき、また両鋼管杭を埋設するとき上鋼管杭を回転してもグラウト材が破壊されることのない構造の継手構造と鋼管杭の接続方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、その目的を達成するため、請求項1に記載の鋼管杭の継手構造は、内面の上側と下側に回転キーを固着した継手管を、外周面に回転キーを固着した下鋼管杭及び上鋼管杭に装着し、継手管と両鋼管杭の間にグラウト材を充填してあり、継手管の下側の回転キーは下鋼管杭の回転キーに係合し、継手管の上側の回転キーは上鋼管杭の回転キーに係合していることを特徴とする。
請求項2に記載の鋼管杭の継手構造は、請求項1に記載の鋼管杭の継手構造において、下鋼管杭は下端にスクリュー状の翼を取付けてあることを特徴とする。
請求項3に記載の鋼管杭の継手構造は、請求項1叉は請求項2に記載の鋼管杭の継手構造において、継手管は管部と底部からなり、底部は漏斗状で下鋼管杭の回転キーが通過できる隙間を形成してあることを特徴とする。
請求項4に記載の鋼管杭の継手構造は、請求項1、請求項2叉は請求項3に記載の鋼管杭の継手構造において、継手管の回転キー及び両鋼管杭の回転キーの双方叉は一方の回転キーは継手管と両鋼管杭のスペーサーであることを特徴とする。
請求項5に記載の鋼管杭の接続方法は、内面の上側と下側に回転キーを固着した継手管を、外周面に回転キーを固着した下鋼管杭にその回転キーが継手管の下側の回転キーと係合するように装着し、次に前記継手管に、外周面に回転キーを固着した上鋼管杭をその回転キーが継手管の上側の回転キーと係合するように挿入し、継手管と両鋼管杭の間にグラウト材を充填して両鋼管杭を接続することを特徴とする。
請求項6に記載の鋼管杭の接続方法は、請求項5に記載の鋼管杭の接続方法において、下鋼管杭は下端にスクリュー状の翼を取付けてあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本願発明は、上下鋼管杭に継手管を装着して、継手管と上下鋼管杭の間にグラウト材を充填するだけで継手管と上下鋼管杭を一体的に結合できるから、上下鋼管杭を簡単に接続できる。そして継手管と上下鋼管杭は、回転キーを備え、上鋼管杭の回転力は、それらの回転キーを介して下鋼管杭へ伝達されるから、上下鋼管杭を回転圧入するときグラウト材が破壊されることがない。
本願発明は、工場等の作業し易い場所において継手管を作製し、上下鋼管杭に回転キーを固着できるから、施工現場おいて溶接する必要がない。また施工現場おいて地盤に埋設した下鋼管杭に回転キーを固着することもできるが、その場合でも簡単な構造の回転キーを下鋼管杭の外周面に溶接するだけでよいから、施工現場の溶接作業は簡単になる。
本願発明の継手管や上下鋼管杭の回転キーは、スペーサーの機能も有するから、別途スペーサーを設ける必要がなく、かつ上下鋼管杭を継手管の中心に簡単に装着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本願発明の実施例に係る鋼管杭の継手構造の管軸方向の断面図である。
【図2】図2は、図1の継手構造の管軸に直交する方向の断面図である。
【図3】図3は、図1の継手構造の変形例を示す図である。
【図4】図4は、従来の鋼管杭の継手構造の管軸方向の断面図である
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1〜図3により本願発明の実施例に係る鋼管杭の継手構造を説明する。
なお図1〜図3において、共通の部分は、同じ符号を使用している。
【実施例】
【0009】
まず図1、図2について説明する。
図1(a)は、継手構造の管軸方向の断面を、図1(b)は、図1(a)の鋼管杭のみの断面を、図1(c)は、図1(a)の継手管のみの断面を示す。
また図2(a)は、図1(a)のX1部分の断面を、図2(b)は、図1(a)のX2部分の断面を、図2(c)は、図1(a)のX3部分の断面(グラウト材43、シール材44は図示せず)を、図2(d)は、図1(a)のX3部分の断面(グラウト材43は図示せず)を示す。
【0010】
図1において、継手構造は、地盤中に埋設した下鋼管杭11、継足した上鋼管杭12、継手管3を備え、上下鋼管杭11,12と継手管3の間にはグラウト材43を充填してあり、上下鋼管杭11,12の間には、継手板42が介在している。なお継手板42は、必要に応じて設ける。
上鋼管杭12,下鋼管杭11は、グラウト材43により継手管3と一体的に強固に結合し接続する。
【0011】
継手管3は、管部31、底部32からなり、内面の管軸方向の上側下側に回転キー331a,332aを備えている。底部32には、下鋼管杭11を挿入する開口321を形成してある。底部32は、図2(c),(d)のようにリング状で、半リング状部材32a,32bからなり、リング状部材32a,32bの間には、隙間32sを設けてある。隙間32sは、継手管3を下鋼管杭11に装着するとき、下鋼管杭11の回転キー331bを通過させる開口である。半リング状部材32a,32bは、管部31の下端の内面に溶接してある。なお半リング状部材32a,32bは、管部31の下端面にその下端面を覆うように固着してもよい。また管部31の内面には、上下に回転キー331a,332aを溶接してある。回転キー331a,332aは、夫々2個の回転キーからなり、図2(a),(b)のように管軸の両側に対向するように配置してある。
なお管部31と底部32は、別々に形成せずに一体的に成形することもできる。
【0012】
鋼管杭11の外周面には、一対の回転キー331bを、上鋼管杭12の外周面には、一対の回転キー332bを夫々溶接してある。下鋼管杭11の回転キー331bは、図2(b)のように継手管3の下側の回転キー331aに係合し、上鋼管杭12の回転キー332bは、図2(a)のように継手管3の上側の回転キー332aに係合している。
回転キー331a,332aと回転キー331b,332bの長さ(管軸と直交する方向の長さ)は、継手管3を上下鋼管杭11,12に装着するとき、装着の障害にならない程度に、継手管3と上下鋼管杭11,12の間隔よりも少し短く形成してある。
なお回転キー331a,332aと回転キー331b,332bは、夫々2個に限らず2個以上複数個設けるのが望ましい。
【0013】
また下鋼管杭11の外周面には、継手管3を受止める継手管受部材41を2個溶接してある。継手管受部材41は、図2(d)の破線のように、リング状部材32a,32bの隙間32sを覆うように配置し、隙間32sを塞ぐシール部材44を保持する機能も備えている。シール部材44は、グラウト材43を注入したとき、グラウト材43が隙間32sから漏洩するのを防止する部材である。継手管受部材41の個数は、2個に限らないし、またその形状は、図1,2の形状に限らない。
【0014】
なお継手管3は、下鋼管杭11に装着するとき、通常地盤に圧入するから少なくともその下端部は地盤に埋設され、隙間32sは地盤の土により塞がれるから、シール部材44は、省略することができる。また継手管3と下鋼管杭11の間には、わずかに隙間(通常1mm程度)ができるから、グラウト材43が漏洩する恐れのある場合には、その隙間にシール材を詰めるが、その隙間は、通常地盤の土により塞がれるからシール材を省略できる。また継手管3は、地盤に圧入したとき地盤が継手管3の受止部材の作用を奏するから、その場合には、継手管受部材41を省略することができる。
【0015】
ここで回転キー331a,332aと回転キー331b,332bの作用について説明する。
図1(a)のように接続した上下鋼管杭11,12を回転圧入する場合、図2(a)において、上鋼管杭12を時計方向へ回転すると、上鋼管杭12の回転キー332bは、継手管3の回転キー332aを時計方向へ回転するから、継手管3も時計方向へ回転する。継手管3の回転に伴い、図2(b)において、継手管3の回転キー331aは、下鋼管杭11の回転キー331bを時計方向へ回転するから、下鋼管杭11も時計方向へ回転する。即ち上鋼管杭12の回転力は、回転キー332b,332a,331a,331bを介して下鋼管杭11へ伝達されるから、グラウト材43は、上鋼管杭12の回転力の伝達に直接関与しない。したがって上鋼管杭12を回転してもグラウト材43が破壊されることはない。
【0016】
また継手管3と上下鋼管杭11,12の間隔は、回転キー331a,332aと回転キー331b,332bの長さによって規定されるから、上下鋼管杭11,12は、継手管3の中心と略一致するように簡単に挿入できる。即ち回転キー331a,332aと回転キー331b,332bは、継手管3と上下鋼管杭11,12の間のスペーサーとしての機能も有する。
なお継手管3の回転キー331a,332aの長さと上下鋼管杭の11,12の回転キー331b,332bの長さは、相違してもよい。即ち回転力の伝達には、継手管3の回転キーと両鋼管杭の回転キーが係合できればよいし、またスペーサーとしては、いずれか一方の回転キーが継手管3と両鋼管杭の間隔を規定できればよい。
【0017】
次に図1の継手構造を構築する、或いは鋼管杭を接続する手順について説明する。
まず工場等の作業し易い場所において、継手管3を作製し、上下鋼管杭11,12に回転キー331b,332b、継手管受部材41を固着する。なお継手管受部材41は、前述したように省略することもできる。
次に施工現場に継手管3、上下鋼管杭11,12を搬入し、鋼管杭の埋設、接続作業を行う。施工現場では、下鋼管杭11を地盤に回転圧入或いは打設して所定の深さまで埋設し、その埋設した下鋼管杭11に継手管3を装着する。その際継手管3は、底部32の隙間32sが下鋼管杭11の回転キー331bを通過できるように位置決めし、かつ回転キー331a,331bが係合(接触)するように位置決めする。
【0018】
次いで継手管3に上鋼管杭12を挿入し、回転キー332a,332bが係合するように位置決めする。継手管3を上下鋼管杭11,12に装着した後、継手管3と上下鋼管杭11,12の間にグラウト材43を注入して充填する。なお継手板42やシール部材44は、必要に応じて用いる。
グラウト材43が硬化したら、上鋼管杭12を回転圧入或いは打設して上下鋼管杭11,12を地盤へ進入させる。なお上下鋼管杭11,12を回転圧入する場合、下鋼管杭11は、一般に下端にスクリュー状の翼を取付けたものを用いる。
【0019】
前記手順では、工場等において上下鋼管杭11,12に回転キー331b,332b、継手管受部材41を固着する例について説明したが、それらの作業は、施工現場で行ってもよい。即ち回転キー331b、継手管受部材41は、施工現場において鋼管杭11を地盤へ所定の深さまで埋設してから下鋼管杭11に固着してもよいし、上鋼管杭12の回転キー332bも、施工現場において上鋼管杭12に固着してもよい。
【0020】
次に図3により図1の鋼管杭の継手構造の変形例について説明する。
まず図(a1)、(a2)について説明する。
図3(a1)は、継手管の管軸方向の断面図であり、図3(a2)は、図3(a1)のX4部分の断面図である。
図3(a1),(a2)の継手管3は、底部34を漏斗状に形成してあり、その底部34には、下鋼管杭11を挿入する開口341と図1の下鋼管杭11の回転キー331bが通過できる隙間34sを形成してある。管部31と底部34は、別々に形成して一体的に接合してもよいし、一体的に成形してもよい。
底部34は、漏斗状であるから継手管3を回転圧入或いは打設するとき、地盤に対する抵抗が小さくなり、上下鋼管杭11,12の埋設が容易になる。
【0021】
次に図3(b1),(b2)について説明する。
図3(b1)は、継手構造の管軸方向の断面図であり、図3(b2)は、図3(b1)の継手管受具の平面図である。なお回転キーの符号は、省略してある。
図3(b1),(b2)の継手構造は、図1の継手管受部材41に代えて着脱可能の継手管受具51a,51bを用いている。継手管受具51a,51bは、下鋼管杭11の周囲に装着し、ボルト孔52にボルト53を挿入し、ナット54により下鋼管杭11に固着する。
【0022】
継手管受具51a,51bは、着脱可能であるから、継手管受手段が必要なときに用いることができる。また継手管受具51a,51bは、下鋼管杭11に固着するとき溶接を要しないし、その取付け位置を任意に調節することもできる。また継手管受具51a,51bは、継手管3と上下鋼管杭11,12の間に充填したグラウト材43が硬化した後取外すこともできるから、何回でも繰返し使用できる。
【符号の説明】
【0023】
11 下鋼管杭
12 上鋼管杭
3 継手管
31 管部
32 底部
32s 隙間
331a,331b,332a,332b 回転キー
34 底部
341 隙間
41 継手管受部材
42 継手板
43 グラウト材
44 シール部材
51a,51b 継手管受具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面の上側と下側に回転キーを固着した継手管を、外周面に回転キーを固着した下鋼管杭及び上鋼管杭に装着し、継手管と両鋼管杭の間にグラウト材を充填してあり、継手管の下側の回転キーは下鋼管杭の回転キーに係合し、継手管の上側の回転キーは上鋼管杭の回転キーに係合していることを特徴とする鋼管杭の継手構造。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼管杭の継手構造において、下鋼管杭は下端にスクリュー状の翼を取付けてあることを特徴とする鋼管杭の継手構造。
【請求項3】
請求項1叉は請求項2に記載の鋼管杭の継手構造において、継手管は管部と底部からなり、底部は漏斗状で下鋼管杭の回転キーが通過できる隙間を形成してあることを特徴とする鋼管杭の継手構造。
【請求項4】
請求項1、請求項2叉は請求項3に記載の鋼管杭の継手構造において、継手管の回転キー及び両鋼管杭の回転キーの双方叉は一方の回転キーは継手管と両鋼管杭のスペーサーであることを特徴とする鋼管杭の継手構造。
【請求項5】
内面の上側と下側に回転キーを固着した継手管を、外周面に回転キーを固着した下鋼管杭にその回転キーが継手管の下側の回転キーと係合するように装着し、次に前記継手管に、外周面に回転キーを固着した上鋼管杭をその回転キーが継手管の上側の回転キーと係合するように挿入し、継手管と両鋼管杭の間にグラウト材を充填して両鋼管杭を接続することを特徴とする鋼管杭の接続方法。
【請求項6】
請求項5に記載の鋼管杭の接続方法において、下鋼管杭は下端にスクリュー状の翼を取付けてあることを特徴とする鋼管杭の接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−32768(P2011−32768A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181144(P2009−181144)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(595071036)株式会社三誠 (11)
【Fターム(参考)】