説明

鋼管矢板の遮水工法

【課題】鋼管矢板の遮水工法において、鋼管矢板の間を遮水するための遮水構造の密閉性を確保する。
【解決手段】雄継手部材14と、雄継手部材14に固定された遮水板16と、遮水板16が密着する雌継手部材12の内壁とで形成される空間に、雌継手部材12の内径よりも小径の管材を半割り加工した仮固定材32を挿通し、仮固定材32によって遮水板16を全長に渡り雌継手部材12の内壁に押付ける。この状態で、高圧洗浄水及び圧縮空気を雌継手部材12の内部に噴射することにより、雌継手部材12の内部に沈降する土砂等を除去する際に、高圧洗浄水及び圧縮空気の圧力を受けて遮水板16が雌継手部材12の内壁から浮き上がることを防止する。そして、隙間からモルタルが漏れ出ることを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管矢板の遮水工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、廃棄物処分場における遮水性護岸構造を構築するための遮水材として、鋼管矢板10を用い、この鋼管矢板10を、図6に示されるように現地盤まで打ち込む工法が採用されている。そして、隣接して打設された鋼管矢板の間を遮水するための遮水構造として、図7に示されるような、雄雌一組の継手部材12、14が用いられている。図7に例示された継手部材は、円筒鋼管からなる雌継手部材12と、T字形断面形状を有するCT形鋼からなる雄継手部材14で構成されている。雌継手部材12には、長手方向に延びるスリット12aが形成されており、雄継手部材14は、このスリット12aを介して雌継手部材12の内部に入り込み、雌継手部材12の内部で長手方向に延びるような状態に組合されるものである(例えば、特許文献1)。
【0003】
図7の例では、雄継手部材14の天板14aには、雄継手部材14の長手方向に沿って、ゴム等の弾性変形可能な材料からなる遮水板16が固定され、この遮水板16が、雌継手部材12の内壁に沿って当接した状態で、雄継手部材14と、雄継手部材14に固定された遮水板16と、遮水板16が密着する雌継手部材12の内壁とで形成される空間に、モルタル18を充填することにより、雌継手部材12と雄継手部材14との密閉性を確保する構造となっている。なお、図示の遮水板16は雄継手部材14の天板14aよりも幅広の帯状をなしている。そして、遮水板16は、膨潤止水ゴム20を介して天板14aに密着し、かつ、固定プレート22を、天板14aに固定されたスタッドボルト24及びナット26で固定することにより、雌継手部材12と雄継手部材14とが組合される前に、予め天板14aに固定される。
又、雌継手部材12の先端部は、打設時の抵抗軽減のために、図8に示されるように先端部が斜めにカットされ、かつ、開口が鋼板28によって塞がれている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−55958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、鋼管矢板10の打設時には、雌継手部材12のスリット12aから、雌継手部材12内部に土砂やスライム等(以下、「土砂等」という。)が流入し、雌継手部材12の内部沈降することから、モルタル18の充填前にこれを除去する必要がある。そこで、図9に示されるように、洗浄ホース30を雌継手部材12に挿入して、その先端部から高圧洗浄水及び圧縮空気WAを雌継手部材内部に噴射し、土砂等を除去した後、雌継手部材12内部にモルタル18を充填している。この排土工程を実施することによって、モルタル18が雌継手部材12内部に密に充填され、雌継手部材12と雄継手部材14との、密閉性の確保が図られるものである。
本発明は、上記の如き鋼管矢板の遮水工法において、継手部材内部へのモルタルの充填をより確実に行うことで、隣接して打設された鋼管矢板の間を遮水するための遮水構造における密閉性を確保することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)隣接して打設された鋼管矢板の間を遮水するための遮水工法であって、隣接して複数打設される鋼管矢板の各対向面に、管状をなし長手方向に延びるスリットが形成された雌継手部材と、前記雌継手部材のスリットを介して前記雌継手部材の内部に入り込み、前記雌継手部材内部で長手方向に延びる雄継手部材とを配置し、かつ、前記雄継手部材の長手方向に沿って、弾性変形可能な材料からなる遮水板を固定し、 前記鋼管矢板の打設の際に、前記雌継手部材と前記雄継手部材とを噛み合わせて、前記遮水板を前記雌継手部材の内壁に沿って当接させ、前記雌継手部材内部に、その全長に渡って挿通可能な長さを有する仮固定材を挿通し、該仮固定材によって前記遮水板を全長に渡り前記雌継手部材の内壁に押付け、高圧洗浄水及び圧縮空気を雌継手部材内部に噴射して、打設時に前記雌継手部材内部に沈降する土砂等を除去した後、前記雌継手部材から前記固定材を引き抜き、前記雄継手部材と、該雄継手部材に固定された遮水板と、該遮水板が密着する前記雌継手部材の内壁とで形成される空間に、モルタルを充填する鋼管矢板の遮水工法(請求項1)。
【0008】
本項に記載の鋼管矢板の遮水工法は、鋼管矢板の打設の際に、雌継手部材と前記雄継手部材とを噛み合わせて、遮水板を前記雌継手部材の内壁に沿って当接させ、なおかつ、雌継手部材内部に、その全長に渡って挿通可能な長さを有する仮固定材を挿通し、該仮固定材によって遮水板を全長に渡り雌継手部材の内壁に押付ける。この状態で、高圧洗浄水及び圧縮空気を雌継手部材内部に噴射することにより、打設時に雌継手部材内部に沈降する土砂等を除去する際に、高圧洗浄水及び圧縮空気の圧力を受けて遮水板が雌継手部材の内壁から浮き上がることを防止する。そして、土砂等が遮水板と雌継手部材の内壁との間に挟みこまれて遮水板が雌継手部材の内壁から浮き上がり、隙間ができた状態でモルタルが充填されることにより、かかる隙間からモルタルが漏れ出ることを防ぐものである。
【0009】
(2)上記(1)項において、前記雌継手部材に円筒鋼管を用い、前記雄継手部材にT字形断面形状の鋼材を用い、前記仮固定材に前記雌継手部材の内径よりも小径の管材を半割り加工したものを用いる鋼管矢板の遮水工法(請求項2)。
本項に記載の鋼管矢板の遮水工法は、T字形断面形状の鋼材からなる雄継手部材と、該雄継手部材に固定された遮水板と、該遮水板が密着する円筒鋼管からなる雌継手部材の内壁とで形成される空間に、雌継手部材の内径よりも小径の管材を半割り加工した仮固定材を挿通し、該仮固定材によって遮水板をその全長に渡り雌継手部材の内壁に押付ける。この状態で、高圧洗浄水及び圧縮空気を雌継手部材内部に噴射することにより、鋼管矢板の打設時に雌継手部材内部に沈降する土砂等を除去する際に、高圧洗浄水及び圧縮空気の圧力を受けて遮水板が雌継手部材の内壁から浮き上がることを防止する。そして、土砂等が遮水板と雌継手部材の内壁との間に挟みこまれて遮水板が雌継手部材の内壁から浮き上がり、隙間ができた状態でモルタルが充填されることにより、かかる隙間からモルタルが漏れ出ることを防ぐものである。
しかも、雌継手部材の内径に対する仮固定材の管径の最適化により、T字形断面形状の鋼材からなる雄継手部材と、該雄継手部材に固定された遮水板と、該遮水板が密着する円筒鋼管からなる雌継手部材の内壁とで形成される空間に、仮固定材を挿通した状態で、仮固定材が安定し、遮水板をその全長に渡り雌継手部材の内壁に確実に押付けることが可能である。
【0010】
(3)上記(2)項において、前記仮固定材にガス管を用いる鋼管矢板の遮水工法(請求項3)。
本項に記載の鋼管矢板の遮水工法は、仮固定材にガス管を用いることにより、調達を容易とし、かつ、必要な長さとなるように溶接してつなげて使用することを可能とする。又、仮固定材に必要な耐久性を確保するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明はこのように構成したので、継手部材内部へのモルタルの充填をより確実に行い、隣接して打設された鋼管矢板の間を遮水するための遮水構造における密閉性を確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面に基づいて説明する。
本発明の実施の形態に係る鋼管矢板の遮水工法は、図1に示される手順で行われる。本実施の形態では、港湾部にて行われる廃棄物護岸の設置工事を例に挙げて、具体的に説明する。
準備工(100):物揚場にクレーン台船及び台船を接舷し、使用機材を船台上に搬入し、適切に配置して、台船上にプラントを組み立てる。又、鋼管矢板の形状に合わせた作業足場を搬入し、既に打設された鋼管矢板を囲む位置に設置する。
なお、隣接して打設された複数の鋼管矢板の各対向面では、図2に示されるように、管状をなし長手方向に延びるスリット12aが形成された雌継手部材12と、スリット12aを介して雌継手部材12の内部に入り込み、雌継手部材12の内部で長手方向に延びる雄継手部材14とが噛み合っている。そして、雄継手部材14の天板14aの長手方向に沿って固定された遮水板16が、雌継手部材12の内壁に沿って当接している。
【0013】
排土洗浄(110):洗浄ホース30を雌継手部材12に挿入して、その先端部から高圧洗浄水及び圧縮空気WAを雌継手部材12の内部に噴射し、打設時に前記雌継手部材内部に沈降する土砂等を除去する。この際、高圧洗浄水及び圧縮空気WAの圧力を受けて、遮水板16は、図2に矢印Fで示されるように、雌継手部材12の内壁から浮き上がってしまう。そこで、本発明の実施の形態では、図3、図4に示される仮固定材32を、雌継手部材12の内部に挿通し、仮固定材32によって遮水板16を全長に渡り雌継手部材12の内壁に押付ける。
【0014】
仮固定材32は、雌継手部材の内径よりも小径のガス管を半割り加工したものを、必要な長さとなるように溶接してつなげて構成されている。図示の例では、鋼管杭径800mm及び900mm、雌継手部材径165.2mmに対し、仮固定材32の素材となるガス管径は100mmであり、かつ、遮水板16と同じかそれ以上の長さに構成されている。そして、仮固定部材32の先端部32aは、雌継手部材12への挿入性を向上させるために、斜めにカットされている。なお、雌継手部材12の径に対する仮固定材32の素材となるガス管の径は、より大きくなると挿入抵抗が増加し、より小さくなると雌継手部材12の内壁に対する遮水板16の押さえが不十分となることを考慮して、最適の径が選択されるものである。
【0015】
洗浄確認(115):必要に応じ、雌継手部材12の内部をビデオ撮影し、洗浄状態を確認する。
モルタル練り(120):台船上に設置したプラントで現場練りする。
材料搬入(125):モルタル材料が不足することの無いように、適宜材料搬入を行う。
モルタル打設(130):ホースを雌継手部材12に挿入し、ホース先端を2m以上モルタルに挿入させて、引き上げはモルタル面より抜けることのないように、打設量に合わせて、ゆっくりと行う。モルタル打設後は、直ちに攪拌棒による上下攪拌を行う。遮水板16の下端±2m付近においては、1m毎に複数回攪拌を行うことで、充填不足を防止する。
足場移設(140):足場を少なくとも二組用意し、雌継手部材12へのモルタル打設作業5本完了毎に、足場を順次移動していく。
【0016】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、排土洗浄(110)の工程において、T字形断面形状の鋼材からなる雄継手部材14と、雄継手部材14に固定された遮水板16と、遮水板16が密着する円筒鋼管からなる雌継手部材12の内壁とで形成される空間に、雌継手部材12の内径よりも小径の管材を半割り加工した仮固定材32を挿通し、仮固定材32によって遮水板16を全長に渡り雌継手部材12の内壁に押付ける。この状態で、高圧洗浄水及び圧縮空気WAを雌継手部材12の内部に噴射することにより、鋼管矢板10の打設時に雌継手部材12の内部に沈降する土砂等を除去する際に、高圧洗浄水及び圧縮空気WAの圧力を受けて遮水板16が雌継手部材12の内壁から浮き上がることを防止することができる(図2、図3参照)。従って、図5に示されるように、土砂等34が遮水板16と雌継手部材12の内壁との間に挟みこまれて遮水板16が雌継手部材12の内壁から浮き上がり、隙間Sができた状態でモルタル18(図7参照)が充填されることにより、隙間Sからモルタル18が漏れ出ることを防ぐことができる。
【0017】
又、本発明の実施の形態では、仮固定材32にガス管を用いることにより、調達を容易とし、かつ、必要な長さとなるように溶接してつなげて使用することが可能となる。又、仮固定材32に必要な耐久性を確保することが可能となる。
なお、仮固定板32の素材としては、上述のガス管のみならず、溶接が可能でかつ必要な直径が選択可能なものであれば、適宜使用可能である。又、塩ビ管等も、定尺長(4m)以下での使用であれば耐久性に問題は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る鋼管矢板の遮水工法の工程図である。
【図2】雌継手部材に対する排土洗浄の工程において、本発明の実施の形態に係る鋼管矢板の遮水工法により解決される問題点を説明する横断面模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る鋼管矢板の遮水工法の、雌継手部材に対する排土洗浄の工程において、仮固定材が用いられた様子を示す横模式図である。
【図4】図4に示される仮固定材の単体図である。
【図5】雌継手部材に対する排土洗浄の工程において、本発明の実施の形態に係る鋼管矢板の遮水工法により解決される問題点を説明する横模式図である。
【図6】従来の、廃棄物処分場における遮水性護岸構造を構築するための遮水材として、鋼管矢板が用いられた様子を示す模式図である。
【図7】従来の、隣接して打設された鋼管矢板の間を遮水するための、遮水構造を示す横断面模式図である。
【図8】図7に示される遮水構造の、雌継手部材の先端部を示す側面図である。
【図9】従来の、鋼管矢板の遮水工法における雌継手部材の、排土工程を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0019】
10:鋼管矢板、12:雌継手部材、12a:スリット、14:雄継手部材、16:遮水板、18:モルタル、30:洗浄ホース、32:仮固定材、34:土砂等

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接して打設された鋼管矢板の間を遮水するための遮水工法であって、
隣接して複数打設される鋼管矢板の各対向面に、管状をなし長手方向に延びるスリットが形成された雌継手部材と、前記雌継手部材のスリットを介して前記雌継手部材の内部に入り込み、前記雌継手部材内部で長手方向に延びる雄継手部材とを配置し、かつ、前記雄継手部材の長手方向に沿って、弾性変形可能な材料からなる遮水板を固定し、
前記鋼管矢板の打設の際に、前記雌継手部材と前記雄継手部材とを噛み合わせて、前記遮水板を前記雌継手部材の内壁に沿って当接させ、
前記雌継手部材内部に、その全長に渡って挿通可能な長さを有する仮固定材を挿通し、該仮固定材によって前記遮水板を全長に渡り前記雌継手部材の内壁に押付け、
高圧洗浄水及び圧縮空気を雌継手部材内部に噴射して、打設時に前記雌継手部材内部に沈降する土砂等を除去した後、前記雌継手部材から前記固定材を引き抜き、
前記雄継手部材と、該雄継手部材に固定された遮水板と、該遮水板が密着する前記雌継手部材の内壁とで形成される空間に、モルタルを充填することを特徴とする鋼管矢板の遮水工法。
【請求項2】
前記雌継手部材に円筒鋼管を用い、前記雄継手部材にT字形断面形状の鋼材を用い、前記仮固定材に前記雌継手部材の内径よりも小径の管材を半割り加工したものを用いることを特徴とする請求項1記載の鋼管矢板の遮水工法。
【請求項3】
前記仮固定材にガス管を用いることを特徴とする請求項2記載の鋼管矢板の遮水工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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