説明

鋼管被覆コンクリート杭の製造方法、鋼管被覆コンクリート杭

【課題】鋼管被覆コンクリート杭の曲げ強度を強化して、鋼管6の内面7側で伸びが生じた場合でも、円筒状コンクリート部11の外面13に生じる伸びを軽減して、該部にひび割れを生じさせない。
【解決手段】鋼管被覆コンクリート杭30は、端板1、1を固定した鋼管6の内面7側に、剥離層10を介して、円筒状コンクリート部11を形成して構成する。この場合、鋼管6を従来よりも引張強度(または降伏点)を高めた材料を使用して、またはより厚さtを厚く設定する。これにより、鋼管被覆コンクリート杭30の曲げ強度を高めてある。円筒状コンクリート部11は、鋼管被覆コンクリート杭30に従来から使用されているコンクリートを採用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の曲げ強度(耐力)とコンクリートの圧縮強度(耐力)を充分に発揮できるように構成した鋼管被覆コンクリート杭(いわゆるSC杭)の製造方法及び鋼管被覆コンクリート杭に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のSC杭の鋼管の材質は、降伏点325N/mm、引張強度490N/mm、が一般的に用いられている。また、従来のSC杭での鋼管の肉厚は、例えば、杭径1000mmの場合、6〜25mmとなっている。また、SC杭のコンクリート部分は鋼管の内面に付着されていた。
【0003】
SC杭の曲げ強度及び引張強度は、鋼管の強度及び断面積に依拠していた。また、SC杭の圧縮強度は、コンクリートの強度、コンクリート及び鋼管のドーナツ状の断面積に依拠し、この曲げ強度は、SC杭が負担する鉛直支持力に対して重要な要素となっていた。
【0004】
従って、例えば、充分な鉛直支持力を確保できているSC杭の仕様の場合で、曲げ強度を高める必要がある場合には、鋼管の強度(降伏点、引張強度)を高め、あるいは鋼管の厚さを厚くすることで実現できた。
【0005】
このようにして、SC杭の曲げ強度を高める必要がある場合、SC杭(即ち鋼管)はより大きな曲げ変形が生じる可能性があり、SC杭(鋼管)に大きな曲げ変形を生じると、付着しているコンクリートも当然に追随して大きな曲げ変形を生じることになる。この場合、曲げ変形は、圧縮変形と引張変形を伴うもので、引張変形側で、引張に弱いコンクリートに、ひび割れなどが生じるおそれがあった。
【0006】
このコンクリートのひび割れを防止するための方策として利用できる可能性がある技術として、コンクリートの引張強度を高める手段がある、例えば、鋼管の内周に突条を形成し鋼管にストレスを導入する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0007】
また、コンクリート自体の強度を高める(圧縮強度・引張強度を高める)を手段も提案されている。例えば、膨張コンクリートを使用すると共に膨張コンクリート内に鉄筋を埋設して、鋼管・膨張コンクリート・鉄筋の一体性を高めて、コンクリートの強度を増す提案もあった(特許文献3)。また、コンクリート自体の強度を高める提案もあった(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−207716号公報
【特許文献2】特開昭61−242220号公報
【特許文献3】特開平6−220842号公報
【特許文献4】特開2001−226958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記従来の技術の内、前者の手段では鋼管の加工やストレス導入するための設備を用意しなければならず(通常SC杭では、PC鋼棒などのストレス導入手段を用いない)、また、後者の手段では特殊なコンクリート(一般に、高価である)を大量に必要としていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、鋼管の内面に剥離層を形成し、円筒状コンクリート部と鋼管の縁を切ったので、前記問題点を解決した。
【0011】
即ち、この発明は以下のようにして製造することを特徴とする鋼管被覆コンクリート杭の製造方法である。
(1) 鋼管の両端部に、ドーナツ状の端板を固定する。
(2) (1)と前後して、前記鋼管の内面に剥離手段を形成する。
(3) 続いて、前記鋼管内に、コンクリートを注入して、通常の方法により遠心成形して、前記剥離手段の内面側に円筒状コンクリート部を形成し、該円筒状コンクリート部の両端面を前記端板の内面に定着させ、鋼管被覆コンクリート杭を形成する。
【0012】
また、他の発明は、以下のようにして構成したことを特徴とする鋼管被覆コンクリート杭である。
(1)鋼管の両端部にドーナツ状の端板を固定し、前記鋼管の内側に円筒状コンクリート部を形成した。
(2)前記鋼管の内面と前記円筒状コンクリート部の外面との間に、剥離層を形成した。
(3)前記円筒状コンクリート部の端面を、前記端板の内面に定着させた。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、鋼管と通常の円筒状コンクリート部の間に剥離層を形成したので、鋼管内面で大きな伸びを生じた場合であっても、「通常のコンクリートからなる円筒状コンクリート部」の外面に生じる引張を軽減できるので、円筒状コンクリート部の外面に発生するひび割れを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1はこの発明の実施例で、(a)は鋼管に端板を固定した状態の縦断面図及び1A線における断面図、(b)は鋼管に剥離剤を塗布した状態の縦断面図及び1B線における断面図、(c)は鋼管被覆コンクリート杭の縦断面図及び1C線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1) この鋼管被覆コンクリート杭30は、鋼管6の両端に端板1、1を固定し、鋼管6の内面7側に、円筒状コンクリート部11を形成して、構成する(図1、2)。この場合、鋼管6を従来よりも引張強度(または降伏点)を高めた材料を使用して、またはより厚さtを厚く設定する。これにより、鋼管被覆コンクリート杭30の曲げ強度を高める。
(2) 鋼管6の内面7に、剥離層10を形成して、縁を切り、鋼管6の内面7側で伸びが生じた場合でも、円筒状コンクリート部11の外面13に生じる伸びを軽減できるように構成される。円筒状コンクリート部11は、鋼管被覆コンクリート杭30に従来から使用されているコンクリートを採用できる。
この場合、円筒状コンクリート部11の端面14は端板1の内面2に定着するので、圧縮荷重を受けた場合には従来と同様に負担できるので、許容される鉛直荷重は、従来同様または、鋼管を強化した分だけ強化できる。
【実施例1】
【0016】
図1に基づきこの発明の実施例を説明する。
【0017】
(1) 中空部1aを形成したドーナツ状の端板(外径D、内径D)1の内面2の外周側に、鋼管(外径D、厚さt)6の両端を溶接などにより固定して、鋼管6とドーナツ状の端板1とを一体に形成する(図1(a))。
【0018】
(2) 続いて、鋼管6の内面に、剥離剤(例えば、「レジナー P350」信越産業株式会社製)をほぼ全面に塗布して剥離層10を形成する(図1(b))。この場合、端板1の内面2には剥離剤が付着しないようにする。また、この場合、剥離剤の塗布は、鋼管6を遠心成型機に設置して、鋼管6を回転させながら塗布させることもできる。
なお、剥離剤の塗布は、鋼管6と端板1とを固定する前に行うこともできる。
【0019】
(3) 続いて、剥離層10を形成した鋼管6内に、通常のコンクリートを注入して、通常の方法により遠心成形して、鋼管6の剥離層10の内側に円筒状コンクリート部(外径D、内径D≒D)11を形成する。この場合、端板1の内面2には剥離層10を形成していないので、円筒状コンクリート部11の端面14は端板1の内面2に定着する。
【0020】
(4) 続いて、通常の養生をした後に、鋼管被覆コンクリート杭30を構成する(図1(c))。この場合、例えば、以下のような構成とする。
鋼管6の外径D: 600mm
鋼管6の厚さt: 4.5mm
円筒状コンクリート部11の外径D: 591mm
円筒状コンクリート部11の内径D: 420mm
鋼管6の引張強度: 570N/mm
円筒状コンクリート部11の圧縮強度: 105N/mm
剥離層10の厚さは、鋼管の厚さtに比して充分に小さい。
【0021】
(5) この鋼管被覆コンクリート杭30は、通常の鋼管被覆コンクリート杭(SC杭)と同様に、単独でまたは他の杭と連結して使用する。
この鋼管被覆コンクリート杭30に鉛直荷重(圧縮荷重)が作用した場合には、端板1と鋼管6、端板1と円筒状コンクリート部11が固定又は定着されるので、端板1で受けた荷重は、鋼管6及び円筒状コンクリート部11とで(主に断面積が大きな円筒状コンクリート部11で)負担する。
また、鋼管被覆コンクリート杭30に水平荷重により曲げ応力が作用した場合には、鋼管の強度の許容範囲でたわみ、これを吸収できる。この場合、剥離層10があるので、円筒状コンクリート部11の外面13は鋼管6の内面7と追随せずに、伸びが抑えられ、万一、通常では円筒状コンクリート部11の外面13でひび割れが生じるような伸びが、鋼管6の内面7で生じても、円筒状コンクリート部11にひび割れなどが生じるおそれはない。
【0022】
(6)他の実施例
前記実施例において、剥離剤として前記材料に限定されず任意の剥離剤を使用することができる。また、剥離手段として剥離剤を使用したが、円筒状コンクリート部11の外面13と鋼管6の内面7との縁を切れる材料であれば、他の材料を使用することもできる。
例えば、引張強度が円筒状コンクリート部11より小さな材料や、円筒状コンクリート部11より引張伸びが小さなコンクリート材料を使用することもできる(図示していない)。この場合には、剥離層10の材厚は、円筒状コンクリート部11の材厚Dに加えない。
また、例えば、剥離手段として、剥離層10部分に、すきまを形成することもできる(図示していない)。
【符号の説明】
【0023】
1 端板
1a 端板の中空部
2 端板の内面
3 端板の外面
6 鋼管
7 鋼管の内面
8 鋼管の外面
10 剥離層
11 円筒状コンクリート部
12 円筒状コンクリート部の内面
13 円筒状コンクリート部の外面
14 円筒状コンクリート部の端面
30 鋼管被覆コンクリート杭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のようにして、製造することを特徴とする鋼管被覆コンクリート杭の製造方法。
(1) 鋼管の両端部に、ドーナツ状の端板を固定する。
(2) (1)と前後して、前記鋼管の内面に剥離手段を形成する。
(3) 続いて、前記鋼管内に、コンクリートを注入して、通常の方法により遠心成形して、前記剥離手段の内面側に円筒状コンクリート部を形成し、該円筒状コンクリート部の両端面を前記端板の内面に定着させ、鋼管被覆コンクリート杭を形成する。
【請求項2】
以下のようにして、構成したことを特徴とする鋼管被覆コンクリート杭。
(1)鋼管の両端部にドーナツ状の端板を固定し、前記鋼管の内側に円筒状コンクリート部を形成した。
(2)前記鋼管の内面と前記円筒状コンクリート部の外面との間に、剥離層を形成した。
(3)前記円筒状コンクリート部の端面を、前記端板の内面に定着させた。

【図1】
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