説明

鍵成形用金型

【課題】 鍵の成形体に歪が生じることを防止して形状精度を向上することのできる鍵成形用金型を提供すること。
【解決手段】 略四角棒状の鍵本体11と、鍵本体11の後端側に配置された支点部12と、鍵本体11の後端部と支点部12とを連結するヒンジ連結部13とで構成された白鍵10を成形する鍵成形用金型20を、白鍵10の上面側を形成する固定型21と、白鍵10の下面側を形成する可動型22とで構成した。そして、固定型21を後部形成部21aと前部形成部21bとに分割し、その分割面25間に外部の空気を導入するための隙間を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤装置が備える鍵を成形するための鍵成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子オルガン等の鍵盤装置においては、プラスチックの成形体からなる複数の白鍵と黒鍵とが用いられている(例えば、特許文献1参照)。この鍵盤装置の鍵は、前後方向に延び下面に凹部が形成された鍵本体部と、鍵本体部の後端部と鍵盤装置の本体側に設けられた共通取付部とを連結する支点部とで構成されている。
【特許文献1】特許第2628656号公報
【発明の開示】
【0003】
このような鍵盤装置の鍵は、鍵成形用金型を用いて成形されており、この鍵成形用金型は、鍵の上面側を形成する固定型と、鍵の下面側を形成する可動型とを備えている。そして、鍵を成形する際には、固定型の成形面に可動型の成形面を対向させた状態で、固定型に対して可動型を接面させることにより鍵成形用金型内に成形凹部を形成し、その成形凹部内に成形材料を射出したのちに固定型から可動型を後退させることにより、成形凹部で成形された鍵の成形体を取り出すことが行われる。
【0004】
この場合、鍵の成形体は、固定型から後退する可動型とともに移動しエジェクターピンで固定型側に押し出されることにより、固定型と可動型との間の空間部に突出する。そして、鍵の成形体は、所定の取り出し装置で鍵成形用金型から取り出されたのちに、所定の加工が施されて鍵になる。しかしながら、このような鍵は、通常、上面が他の面よりも滑らかな平滑面に形成されている。このため、固定型から可動型を後退させる際に、鍵の成形体が可動型とともに移動しようとすると、鍵の上面と固定型の成形面との間が負圧になり、鍵が固定型側に引っ張られるようになる。この結果、鍵の成形体に歪が生じて不良品が発生することがある。
【0005】
本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、鍵の成形体に歪が生じることを防止して形状精度を向上することのできる鍵成形用金型を提供することである。
【0006】
前述した目的を達成するため、本発明に係る鍵成形用金型の構成上の特徴は、上面が平滑面に形成され下面に凹部が形成された鍵の上面側を形成する上面形成部を備えた固定型と、鍵の下面側を形成する下面形成部を備えた可動型とからなり、固定型に対して可動型を接面させることにより上面形成部と下面形成部との間に鍵の成形体に対応する成形凹部を形成し、成形凹部内に成形材料を射出したのちに固定型に対して可動型を後退させることにより、成形凹部で成形された鍵の成形体を取り出すことができる鍵成形用金型であって、固定型に、外部の空気を上面形成部に導入できる空気導入部を設けたことにある。
【0007】
このように構成した本発明の鍵成形用金型では、鍵の上面側を形成する上面形成部を備えた固定型に、外部の空気を上面形成部に導入できる空気導入部を設けている。したがって、成形材料を成形凹部内に射出して鍵の成形体を成形したのちに、固定型から可動型を後退させる際に、鍵の成形体の上面側と固定型の成形面との間が負圧になろうとしても、空気導入部から外部の空気が鍵の成形体の上面側と固定型の成形面との間に導入されるため、負圧が解消され鍵の成形体は、可動型とともに、固定型からスムーズに離れていく。これによって、鍵の成形体に歪を生じさせることなく、鍵の成形体を鍵成形用金型から取り出すことができる。
【0008】
この場合、空気導入部は、空気を通過させることはできるが、成形材料は通過させない幅の狭い隙間や小さな孔で構成しておく。また、固定型を、鍵の上面を形成する上面形成部だけを備えた金型で構成し、鍵における上面以外の面を可動型で形成するようにしてもよいし、固定型を、鍵の凸面側、すなわち鍵の成形体の上面と外側面とを形成する凸面形成部を備えた金型で構成し、可動型を、鍵の成形体の凹面側、すなわち鍵の下面と内側面とを形成する凹面形成部を備えた金型で構成してもよい。要は、鍵の上面を形成する上面形成部が固定型に備わっていればよい。また、鍵の成形体とは鍵成形用金型で成形される成形体であり、成形後に所定の加工が施されることにより鍵が得られる。
【0009】
また、本発明に係る鍵成形用金型の他の構成上の特徴は、固定型における上面形成部を含む部分を分割しその対向する分割面間で空気導入部を構成したことにある。これによると、鍵の成形体を成形して、固定型から可動型を後退させる際に、固定型の分割面間から外部の空気が鍵の成形体の上面と固定型の成形面との間に導入されるため、鍵の成形体は、可動型とともに、固定型からスムーズに離れていく。これによって、鍵の成形体に歪を生じさせることなく、鍵の成形体を鍵成形用金型から取り出すことができる。この場合、固定型の所定部分を分割するだけですむため、空気導入部の形成が容易になる。
【0010】
また、本発明に係る鍵成形用金型のさらに他の構成上の特徴は、鍵が、略四角棒状の鍵本体と、鍵本体の後端側に配置された支点部と、鍵本体の後端部と支点部とを連結するヒンジ連結部とで構成されたものであり、空気導入部が、固定型の上面形成部における鍵本体のヒンジ連結部側部分に対応する部分と、固定型における可動型との合わせ面以外の面の所定部分との間に設けられたものであることにある。
【0011】
鍵が、略四角棒状の鍵本体と、鍵本体の後端側に配置された支点部と、鍵本体の後端部と支点部とを連結するヒンジ連結部とで構成されたものである場合には、ヒンジ連結部の強度は他の部分の強度よりも小さくなる。このため、鍵の成形体を成形したのちに、固定型から可動型を後退させる際には、ヒンジ連結部の近傍に歪が生じやすくなる。このため、空気導入部を、固定型の上面形成部における鍵本体のヒンジ連結部側部分に対応する部分と、固定型における可動型との合わせ面以外の面の所定部分との間に設けることにより、ヒンジ連結部の近傍に固定型側に引っ張られる力が加わらなくなり歪が生じることを防止できる。この結果、鍵の形状に応じた適正な形状の成形体の成形ができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、同実施形態にかかる鍵成形用金型で成形される白鍵10を示している。白鍵10は、合成樹脂で一体成形されており、略四角棒状の鍵本体11と、鍵盤装置の本体側に設けられた共通取付部(図示せず)に取付けられる支点部12と、鍵本体11の後端部と支点部12の側部とを連結するヒンジ連結部13とで構成されている。鍵本体11は、下方を開放させて長手方向に直交する断面がコ字状になるように形成されており、その前端部には、下方及び後方を開放させて下方に向って突出した横断面がコ字状の前壁部11aが形成されている。
【0013】
また、鍵本体11の一方の側面(図1に示した側面の反対側の側面)の中央から後部側にかけての部分に黒鍵(図示せず)を配置するための凹部が形成されている。そして、鍵本体11の上面は、押鍵時の感触を良好なものにするために滑らかな鏡面状に形成されている。また、鍵本体11における前壁部11aよりも後部側部分の下面には、略垂直下方に延びるガイド14が鍵本体11と一体的に形成されている。ガイド14は、下方および後方を開放させて横断面をコ字状にして形成されている。このガイド14は、鍵盤装置の本体側に設けられたハンマー機構に連結され押鍵時に所定の質量感を出すために設けられている。
【0014】
そして、鍵本体11の下面におけるガイド14の後部側に、下方に突出したスイッチ駆動部15が形成されている。スイッチ駆動部15は、鍵本体11の下方に設置されたプリント基板の鍵スイッチを押圧するためのものであり、鍵スイッチに対向するように配置される。支点部12は、略中央に孔(図示せず)が形成された水平板状に形成され、前記孔に突起等の連結部材を係合させることにより共通取付部に取付けられる。
【0015】
ヒンジ連結部13は、鍵本体11の後端下部から後方に延びる水平片13aと、水平片13aの後端下部に連結された横断面形状がH形の揺動片13bとからなる可撓性を有するやや薄肉の部材で構成されており、揺動片13bの後端下部は、支点部12に連結されている。鍵本体11は、水平片13aが撓むことによって前端側部分を上下に揺動させることができ、揺動片13bが撓むことによって前端側部分を左右に揺動させることができる。すなわち、白鍵10は、支点部12を介して鍵盤装置の共通取付部に取付けられ、ヒンジ連結部13が撓むことによって支点部12を支点とし前端部を上下および左右に揺動可能にして支持される。そして、複数の白鍵10と複数の黒鍵が所定の配置で設置されることにより鍵盤が形成される。
【0016】
図2は、前述した白鍵10を成形するための鍵成形用金型20を示している。鍵成形用金型20は、固定型21と可動型22とを備えており、射出成形装置(図示せず)に着脱可能に取付けられている。固定型21は、固定側取付板等を介して射出成形装置の躯体側に固定されており、固定側取付板の中央部に、射出成形用の溶融樹脂材料を鍵成形用金型20内に射出するための射出ノズルが取り付けられている。そして、この射出ノズルの先端部は、固定型21に形成されたランナー形成用凹部23に接続されている。
【0017】
この鍵成形用金型20は、一度に4個の白鍵10を成形できるように、4個の成形凹部24を備えたものであり、各ランナー形成用凹部23は、固定型21の中央部近傍に位置する射出ノズルから四方に分散して各成形凹部24に延びている。図2はそのうちの一つの成形凹部24が形成された部分を示している。固定型21は、鍵成形用金型20内で成形される成形体10aである白鍵10の部分の上面側を形成するとともに、ランナー部10bが成形される部分であり、固定型21の中央側に位置する後部形成部21aと、固定型21の外周側に位置する前部形成部21bとで構成されている。
【0018】
そして、後部形成部21aと前部形成部21bとの下面(図2の状態での下面)に白鍵10の上面の形状に対応する凹部からなる上面成形用凹部24aが形成されている。この上面成形用凹部24aにおける後部形成部21a側部分にランナー形成用凹部23が連通しており、射出成形装置の本体側から供給される溶融樹脂材料は、ランナー形成用凹部23を介して上面成形用凹部24a内に送られる。また、後部形成部21aと前部形成部21bとの分割面25間は、本発明に係る空気導入部を構成するもので、上面成形用凹部24a内に射出された溶融樹脂材料を通すことはないが、外部の空気を上面成形用凹部24a内に導入できる幅の小さな隙間からなっている。
【0019】
可動型22は、鍵成形用金型20内で成形される白鍵10の成形体10aにおける製品部の下部側部分を成形するためのもので、上面(図2の状態での上面)に白鍵10の下面と内外両側面の形状に対応する凹部からなる下面成形用凹部24bが形成されている。可動型22は、固定型21に対して進退可能になっており、固定型21に接面したときに、上面成形用凹部24aと下面成形用凹部24bとで、白鍵10の成形体10aの形状と等しい空間からなる成形凹部24が形成される。また、可動型22の所定部分には、下面成形用凹部24bを形成する上面部分から下面にかけて上下に貫通する挿通穴26が設けられ、この挿通穴26にエジェクターピン27(1個だけ図示している)が挿通している。
【0020】
このエジェクターピン27は、駆動装置(図示せず)の駆動により上昇して、上端部を、下面成形用凹部24bの形成面から突出させる。可動型22を固定型21に接面させて、成形凹部24内に溶融樹脂材料を射出する際には、エジェクターピン27の先端面は、下面成形用凹部24bの形成面と同じ位置になって、溶融樹脂材料が挿通穴26内に侵入することを防止するが、成形凹部24内の空気は、外部に逃がすことができる。このため、成形凹部24内の空気が成形凹部24内に留まって成形体10aの内部に入り込むことが防止される。
【0021】
このように構成された鍵成形用金型20を用いて白鍵10を成形する際には、固定型21と可動型22と閉じた状態の鍵成形用金型20の成形凹部24内に、溶融樹脂材料を射出する。これによって、溶融樹脂材料は、射出ノズルからランナー形成用凹部23を通過して、上面成形用凹部24aと下面成形用凹部24bとで形成される成形凹部24内に充填されていく。その際、成形凹部24内の空気は、可動型22とエジェクターピン27との隙間から外部に押し出される。そして、成形凹部24内の溶融樹脂材料が冷却されて固化すると、可動型22は、固定型21から後退していく。このとき、成形凹部24内で成形された成形体10aは、可動型22とともに、移動していく。
【0022】
この場合、の成形体10aの上面と上面成形用凹部24aの表面との間が負圧になり、成形体10aに、固定型21側に引っ張られる力が加わるが、同時に、分割面25間から外部の空気が成形体10aの上面と上面成形用凹部24aの表面との間に導入され、成形体10aを固定型21側に引っ張ろうとする力はすぐに解消される。これによって、成形体10aを破損することなくスムーズな型開きが行える。そして、型開きの後にエジェクターピン27を下面成形用凹部24bの形成面から突出させることにより、成形体10aの取り出しが行われる。また、成形体10aを可動型22とともに固定型21から離す際に、成形体10aランナー部10bとは分離される。そして、ランナー部10bは、固定型21と固定側取付板との間を開くことによって外部に取り除かれる。
【0023】
このように、鍵成形用金型20では、白鍵10の上面を形成する上面形成用凹部24aを備えた固定型21を、後部形成部21aと前部形成部21bとに分割してその分割面25間に溶融樹脂材料は浸入できないが外部の空気を上面形成用凹部24a内に導入できる隙間を設けている。したがって、溶融樹脂材料を成形凹部24内に射出して成形体10aを成形したのちに、固定型21から可動型22を後退させる際に、成形体10aの上面と固定型21の成形面との間が負圧になろうとしても、分割面25間から外部の空気が成形体10aの上面と固定型21の成形面との間に導入されるため、成形体10aは、可動型22とともに、固定型21からスムーズに離れていく。これによって、成形体10aに歪を生じさせることなく、成形体10aを鍵成形用金型20から取り出すことができる。
【0024】
また、空気導入部の形成が、固定型21を後部形成部21aと前部形成部21bとに分割するだけですむため容易である。さらに、本実施形態に係る鍵成形用金型20で成形される白鍵10は、鍵本体11と、鍵本体11の後端側に配置された支点部12と、鍵本体11の後端部と支点部12とを連結するヒンジ連結部13とで構成されており、このような白鍵10を成形する場合には、ヒンジ連結部13の近傍に歪が生じやすくなる。このため、固定型21の分割面25を鍵本体11におけるヒンジ連結部13に近い部分に設けることにより、ヒンジ連結部13の近傍に歪が生じることを防止できる。この結果、白鍵10の形状に応じた適正な形状の成形体10aの成形ができるようになる。
【0025】
また、本発明に係る鍵成形用金型は、前述した実施形態に限るものでなく、適宜変更実施が可能である。例えば、前述した実施形態においては、鍵を白鍵10としたが、黒鍵を成形する場合にも黒鍵の形状に対応した成形凹部および分割面を備えた鍵成形用金型を用いて黒鍵を成形することができる。また、前述した実施形態では、空気導入部を、固定型21を後部形成部21aと前部形成部21bとに分割することによって形成しているが、この空気導入部は、分割面25間の隙間以外のもので構成することもできる。
【0026】
例えば、固定型21に挿通穴26のような穴を設け、その穴にピンを挿通させることにより空気導入部を構成してもよい。さらに、前述した実施形態では、固定型21で、成形体10aの上面を成形し、可動型22で、成形体10aの下部側部分を成形するようにしているが、これに限らず、例えば、固定型21で、成形体10aの上面および外側面を成形し、可動型22で、成形体10aの下面および内側面を成形するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る鍵成形用金型で成形される白鍵を示した側面図である。
【図2】本発明一実施形態に係る鍵成形用金型の要部を示した断面図である。
【符号の説明】
【0028】
10…白鍵、10a…成形体、11…鍵本体、12…支点部、13…ヒンジ連結部、20…鍵成形用金型、21…固定型、21a…後部形成部、21b…前部形成部、22…可動型、24…成形凹部、24a…上面形成用凹部、24b…下面成形用凹部、25…分割面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が平滑面に形成され下面に凹部が形成された鍵の前記上面側を形成する上面形成部を備えた固定型と、前記鍵の下面側を形成する下面形成部を備えた可動型とからなり、前記固定型に対して前記可動型を接面させることにより前記上面形成部と前記下面形成部との間に前記鍵の成形体に対応する成形凹部を形成し、前記成形凹部内に成形材料を射出したのちに前記固定型に対して前記可動型を後退させることにより、前記成形凹部で成形された前記鍵の成形体を取り出すことができる鍵成形用金型であって、前記固定型に、外部の空気を前記上面形成部に導入できる空気導入部を設けたことを特徴とする鍵成形用金型。
【請求項2】
前記固定型における前記上面形成部を含む部分を分割しその対向する分割面間で前記空気導入部を構成した請求項1に記載の鍵成形用金型。
【請求項3】
前記鍵が、略四角棒状の鍵本体と、前記鍵本体の後端側に配置された支点部と、前記鍵本体の後端部と前記支点部とを連結するヒンジ連結部とで構成されたものであり、前記空気導入部が、前記固定型の上面形成部における前記鍵本体の前記ヒンジ連結部側部分に対応する部分と、前記固定型における前記可動型との合わせ面以外の面の所定部分との間に設けられたものである請求項1または2に記載の鍵成形用金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−226667(P2009−226667A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72935(P2008−72935)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】