説明

鍵盤楽器の被打撃体

【課題】被打撃体の弾性特性と振動特性において、アコースティックピアノの弦を忠実に模擬することができ、ピアノらしい自然な鍵タッチ感を得ることができる鍵盤楽器の被打撃体を提供すること。
【解決手段】被打撃体10は、弾性体11と被打撃部材12を備える。被打撃部材12は、緩衝材121,123、振動センサ122および弦断面形状部材124の積層体からなり、ハンマにより打撃される位置のみに設置される。弾性体11は、梁構造を有し、その長手方向が鍵の長手方向と同方向の配置され、ハンマによる打撃位置の弾性係数をk、鍵盤奧側の弾性係数をk、鍵盤手前側の弾性係数をkとしたとき、k<k<kであり、被打撃体10は、ダンパが開放された状態で弾性体11の固有振動数で自由振動可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤楽器の被打撃体に関し、特に、アコースティックピアノの弦を薄板状や棒状の被打撃体で置き換えた場合の鍵タッチ感を良好にできる鍵盤楽器の被打撃体に関する。
【背景技術】
【0002】
アコースティックピアノの弦を、それを模擬する被打撃体に置き換えた鍵盤楽器が提案されている、これによれば、アコースティックピアノより軽量小型の鍵盤楽器を構成することができる。
【0003】
特許文献1,2には、そのような鍵盤楽器において、アコースティックピアノの打弦時の鍵タッチ感がリアルに再現され、アコースティックピアノの打弦音に相当する電子音が発生されるようにするため、ハンマで打撃される被打撃部を緩衝材と弾性部材の多層構造とすることが記載されている。
【特許文献1】特開平5−80763号公報
【特許文献2】特開2003−208178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピアノの弦は、チューニングピンとフレーム上のヒッチピンとの間に適切な距離で固定されている。チューニングピンは、ピン板に適切な回転トルクを保つように設置されており、チューニングピンを回転させることで弦張力を変化させることができる。弦は、フレーム上のアグラフあるいはベアリングと、響板上の駒に支持されることで有効弦長が定められる。ピアノでは、上記の弦張力と有効弦長により所望のピッチを得る構造となっている。
【0005】
鍵盤で押鍵がなされると、ウィペンが持ち上げられ、このウィペンに設置されたジャックがハンマシャンクの根元付近に設置されたハンマローラを押す。ジャックは回転運動しているため、やがてハンマローラから離れ、ハンマは、自由運動して弦を打撃する。弦を打撃したハンマは、弦からの反力と重力により、鍵盤後端に設置されたバックチェックに戻る。
【0006】
ここで、鍵盤で押鍵がなされるときは、鍵盤の動作に連動してダンパ(弦振動を抑止する機構)が開放され、鍵が押されている間はハンマ打撃により開始した弦振動が所定の減衰をしながら継続する。鍵が戻されるとダンパも復帰し、弦振動を止める。
また、ダンパペダルが操作されると、各鍵のダンパは一斉に開放され、ダンパペダルが踏まれている間に押鍵された鍵では、弦振動が所定の減衰をしながら継続する。
【0007】
さらに、グランドピアノの鍵盤アクションでは、レペティションレバーが設置されており、鍵を完全に戻しきらずに押鍵しても次の打弦を行うことできる。これによりグランドピアノでは1秒間に最大20回もの高速な連打を行うことができる。この連打の間、ダンパヘッドは、鍵盤動作に連動しているため弦振動を抑止することがない。ピアノのハンマは振動している弦を打撃することがある。
【0008】
ハンマが振動している弦を打撃するとき、弦がハンマから遠ざかるタイミングで弦を打撃する場合と弦がハンマに近づいてくるタイミングで弦を打撃する場合とがある。両者を比較すると、前者に比べて後者のほうが、ハンマが弦から受ける反力は大きくなり、ハンマがバックチェックに戻ったときに与える力も大きくなる。この結果、演奏者の指に伝わる反力が大きくなる。このため、同じ力で押鍵しても、ハンマが弦を打撃するタイミングによって演奏者の指に返ってくる反力は変化する。
【0009】
弦におけるハンマ打撃位置(打弦位置)とアグラフあるいはベアリングとの距離は、有効弦長の1/8〜1/20(打弦比)に設定されている。この打弦比は、弦振動の高次倍音成分を決定付ける重要な要素である。この打弦比は、鍵により異なり、低音側は大きく(1/8)、高音側は小さい(1/20)。
【0010】
この打弦比により、弦におけるハンマ打撃方向での弾性係数は、打撃位置のチューニングピン側で大きく、ヒッチピン側で小さくなる。この弾性係数の違いにより、ハンマが弦を打撃するときのハンマシャンクの反りは、一様な弾性係数の物体を打撃したときと異なる。結果として、ハンマが打撃する物体の弾性係数が打撃位置周辺で一様なものと、そうでないものを打撃したときでは、ハンマがバックチェックに戻ったときに与える力が異なり、演奏者の指に伝わる反力も異なる。
【0011】
特許文献1の鍵盤楽器では、ハンマにより打撃される被打撃体の被打撃面に配置された弾性体を備え、その弾性特性を鍵の音域により変化させている。しかし、これでは、弾性体の振動特性に依存した鍵タッチ感を問題としておらず、振動を継続している弦をハンマが打撃したときに生じる鍵タッチ感が十分に再現されないという課題がある。また、構造上、被打撃面に設置された弾性体の弾性特性が打撃位置の周辺で一様となるので、ピアノ本来の鍵タッチ感が十分に再現されないという課題もある。
【0012】
特許文献2の鍵盤楽器では、緩衝材と弾性材の多層構造からなる被打撃部を備え、緩衝材を弾力性のある合成樹脂製の材料で構成し、弾性材をハンマ側に屈曲した板バネで構成している。これでも、弾性材の振動特性に依存した鍵タッチ感を問題としていない。また、弾性材に全体的に積層された緩衝材のために、弾性材の振動は、早く減衰し、アコースティックピアノの弦振動が擬似されない。したがって、振動する弦をハンマが打撃したときの鍵タッチ感が十分に再現されないという課題がある。さらに、打撃位置の前後での弾性係数の大小関係を問題としていないので、ピアノ本来の鍵タッチ感が十分に再現されないという課題もある。
【0013】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、被打撃体の弾性特性と振動特性において、アコースティックピアノの弦を忠実に模擬することができ、ピアノらしい自然な鍵タッチ感を得ることができる鍵盤楽器の被打撃体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は、薄板状あるいは棒状の弾性体と、前記弾性体に設置され、ハンマにより打撃される被打撃部材を備え、前記被打撃部材は、ハンマによる打撃を検出する打撃検出手段と緩衝材の積層体からなり、ハンマによる打撃位置およびその近傍のみに設置され、前記弾性体は、梁構造であり、その長手方向が鍵盤の鍵の長手方向と同方向になるように配置され、ハンマによる打撃位置の弾性係数をk、鍵盤奧側の弾性係数をk、鍵盤手前側の弾性係数をkとしたとき、k<k<kであり、被打撃体は、ダンパが開放された状態で前記弾性体の固有振動数で自由振動可能となっている点に第1の特徴がある。
【0015】
また、本発明は、前記弾性体が、一端側が固定端、他端側が自由端となった片持ち梁構造であり、固定端が鍵盤手前側、自由端が鍵盤奥側になるように配置されることにより、k<k<kとなっている点に第2の特徴がある。
【0016】
また、本発明は、前記弾性体が、両端側が固定端となった両持ち梁構造であり、ハンマによる打撃位置の設定により、k<k<kとなっている点に第3の特徴がある。
【0017】
また、本発明は、前記弾性体が、一端側が固定端、他端側が支持端となった梁構造であり、ハンマによる打撃位置の設定により、k<k<kとなっている点に第4の特徴がある。
【0018】
また、本発明は、前記弾性体が、両端側が支持端となった梁構造であり、ハンマによる打撃位置の設定により、k<k<kとなっている点に第5の特徴がある。
【0019】
また、本発明は、前記被打撃部材が、さらに、その被打撃面側に積層された弦断面形状部材を備え、該弦断面形状部材は、ピアノの弦の断面形状を模した断面形状を有する点に第6の特徴がある。
【0020】
さらに、本発明は、前記弾性体に錘が付加されることにより振動減衰特性が調整されている点に第7の特徴がある。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1ないし第7の特徴によれば、弾性体が、梁構造であり、その長手方向が鍵盤の鍵の長手方向と同方向になるように配置され、ハンマによる打撃位置の弾性係数をk、鍵盤奧側の弾性係数をk、鍵盤手前側の弾性係数をkとしたとき、k<k<kであり、被打撃体は、ダンパが開放された状態で前記弾性体の固有振動数で自由振動可能となっているので、被打撃体の弾性特性と振動特性において、アコースティックピアノの弦を忠実に模擬することができ、ピアノらしい自然な鍵タッチ感を得ることができる。
【0022】
また、第6の特徴によれば、弦断面形状部材により振動センサの変形をより複雑なものにすることができ、演奏者の押鍵時の打撃強度をより顕著に反映した衝撃波形を振動センサから出力させることができる。この衝撃波形を音合成に活用すれば、打撃強度に応じて自然に変化するリアルなピアノ音を生成させることができる。さらに、ソフトペダル使用時やハンマの整調(針刺しによるハンマ硬さ調整など)による打撃状態の変化も衝撃波形の変化として検出することができ、アコースティックピアノが有する特徴を音作りに反映させることが容易になる。
【0023】
さらに、第7の特徴によれば、錘の付加という簡単な手法で、被打撃体の振動の半減時間をアコースティックピアノの弦振動の半減時間に近づけることができ、アコースティックピアノの弦の振動減衰特性を容易に模擬することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を説明する。図1は、本発明に係る鍵盤楽器の被打撃体の第1実施形態を示す構成図である。この鍵盤楽器の被打撃体10は、薄板状あるいは棒状の弾性体11および被打撃部材12を備える。
【0025】
弾性体11は、一端側が鍵盤楽器本体に固定される固定端、他端側が自由端となった片持ち梁構造を有する。被打撃10は、各鍵に対応して設けられ、それらの弾性係数、固有振動数および振動減衰特性を、アコースティックピアノの各弦の特性と同じように、低音域から高音域にかけて変化させる。
【0026】
アコースティックピアノの弦の弾性係数、固有振動数および振動減衰特性は、鍵(キーナンバ)に応じて変化しており、一般的に、打撃位置での弾性係数は0.5〜50kgf/mm、固有振動数は27.5〜4200Hz、振動減衰特性(振幅の半減期間)は0.01〜1secの範囲内にある。被打撃体10の特性において各鍵に対応する上記範囲内の値が再現されるように弾性体11の形状や材料などを選択する。鍵盤楽器として構成するとき、弾性体11の固定端から自由端の間で、鍵(キーナンバ)に応じた0.5〜50kgf/mmの範囲内の値の弾性係数が得られる点をハンマによる打撃位置として選択する。
【0027】
弾性体11が矩形断面の片持ち梁構造である場合、矩形断面の片持ち梁の固有振動数(1次モード)f、弾性係数(バネ定数)kはそれぞれ、式(1)、(2)で表される。これらの式により算出される固有振動数および弾性係数が、アコースティックピアノの各弦の固有振動数および打撃位置での弾性係数と一致するように被打撃体10を設計してアコースティックピアノの各弦を模擬する。
【0028】
【数1】

【0029】
【数2】

【0030】
ここで、λ=1.875(次数によって決まる値)、Eはヤング率、ρは密度、hは梁の厚み、lは梁の固定端から自由端までの長さ、xは梁の固定端から荷重端(打撃位置)までの長さを表す。
【0031】
被打撃体10の振動減衰特性は、適当なヤング率Eの材料を選択することにより変えることができるが、弾性体11の自由端に錘を付加し、その重量を調整することによっても変えることができる。これにより、被打撃体10の振動の半減時間をアコースティックピアノの弦振動の半減時間に近づけることができる。アコースティックピアノの弦振動の半減時間は、実際の弦振動を観測することにより求めればよい。なお、錘を付加したことにより被打撃体10の固有振動数や弾性係数が変化する場合には弾性体11を設計し直し、微調整する。
【0032】
弾性体11は、その長手方向が鍵の長手方向と同方向となるように配置されおり、その固定端が鍵盤手前側すなわち演奏者側(ピアノのチューニングピン側に相当)、自由端が鍵盤奥側(ピアノのヒッチピン側に相当)に対応している。
【0033】
以上のように、弾性体11を片持ち梁構造にし、その固定端を鍵盤手前側、自由端を鍵盤奥側にすることにより、打撃位置の前後での弾性係数の大小関係をアコースティックピアノと同じにすることができる。すなわち、打撃位置、打撃位置の鍵盤奧側、打撃位置の鍵盤手前側でのハンマ打撃方向の弾性係数をそれぞれ、k,k,kとすると、k<k<kにすることができる。
【0034】
被打撃部材12は、ハンマによる打撃を検出する打撃検出センサと緩衝材の積層体からなり、弾性体11の、ハンマによって打撃される位置(打撃位置)のみに設置される。ここでは、被打撃部材12を、緩衝材121、振動センサ122および緩衝材123を積層した積層体としている。被打撃部材12は、打撃位置のみに設けられるので、被打撃体10は、ハンマにより打撃されると、ダンパが開放された状態では弾性体11の固有振動数で自由振動し、その振動は徐々に減衰する。なお、ハンマによって打撃される位置(打撃位置)のみへの被打撃部材12の設置とは、弾性体11の固有振動数で被打撃部材12が自由振動することを妨げない領域への設置を意味する。
【0035】
振動センサ122は、ハンマの打撃による衝撃振動波形を検出する。振動センサ122により検出される衝撃振動波形を基に電気的処理で所定ピッチの楽音信号が生成される。緩衝材121,123は、被打撃部材12の固有振動が検出されるのを防ぎ、また、打撃時の打撃ノイズを低減させる。
【0036】
鍵盤で押鍵がなされると、ダンパが開放され、アクションを介してハンマシャンクが回動してハンマが被打撃体10の被打撃部材11を打撃する。この打撃により、被打撃体10は、その固有振動数で振動を開始し、その振動減衰特性に応じて減衰しながら振動が継続する。
【0037】
ダンパペダルが踏まれているとき、あるいは早い連打でダンパが復帰せずに打撃が繰り返されるとき、振動を継続している被打撃体10をハンマが打撃することになる。ハンマは、被打撃体10がハンマに近づくタイミングあるいは遠ざかるタイミングで打撃する。この作用により演奏者はアコースティックピアノらしい鍵タッチ感を得ることができる。
【0038】
また、被打撃体10は、固定端が鍵盤手前側に向けて設置されており、その弾性係数は、鍵盤手前側が鍵盤奥側に比べて大きくなっている。このため、ハンマが被打撃体10を打撃するときに受ける反力により生じるハンマシャンクの反りが、アコースティックピアノとほぼ同じになる。この作用により演奏者はアコースティックピアノらしい鍵タッチ感を得ることができる。
【0039】
図2は、本発明に係る鍵盤楽器の被打撃体の第2実施形態を示す構成図である。なお、図2において、図1と同一あるいは同等部分には同じ符号を付しある。第2実施形態の被打撃体10は、弾性体11および被打撃部材12を備える点では第1実施形態と同じであるが、弾性体11が、両端側が固定端となった両持ち梁構造であり、ハンマによる打撃位置の設定により、k<k<kとなっている点が異なる。この関係は、ハンマによる打撃位置を両固定端間の中間点(x=0.5l)より鍵盤手前側に設定することにより実現できる。
【0040】
なお、この場合の固有振動数(1次モード)f、弾性係数(バネ定数)kはそれぞれ、式(3)、(4)で表される。ここで、λ=4.730(次数によって決まる値)であり、その他の記号は、式(1)、(2)と同じ意味である。
【0041】
【数3】

【0042】
【数4】

【0043】
図3は、本発明に係る鍵盤楽器の被打撃体の第3実施形態を示す構成図である。なお、図3において、図1と同一あるいは同等部分には同じ符号を付しある。第3実施形態の被打撃体10も、弾性体11および被打撃部材12を備える点では第1実施形態と同じであるが、弾性体11が、一端側が固定端、他端側が上下方向から挟持されて支持端となった梁構造であり、ハンマによる打撃位置の設定により、k<k<kとなっている点が異なる。この関係は、梁の固定端から自由端までの長さlに対して、固定端側からの位置x=0.6lより鍵盤手前側に打撃位置を設定することにより実現できる。
【0044】
なお、この場合の固有振動数(1次モード)f、弾性係数(バネ定数)kはそれぞれ、式(5)、(6)で表される。ここで、λ=3.927(次数によって決まる値)であり、その他の記号は、式(1)、(2)と同じ意味である。
【0045】
【数5】

【0046】
【数6】

【0047】
図4は、本発明に係る鍵盤楽器の被打撃体の第4実施形態を示す構成図である。なお、図4において、図1と同一あるいは同等部分には同じ符号を付しある。第4実施形態の被打撃体10も、弾性体11および被打撃部材12を備える点では第1実施形態と同じであるが、両端側が支持端となった梁構造であり、ハンマによる打撃位置の設定により、k<k<kとなっている点が異なる。この関係は、この関係は、ハンマによる打撃位置を両支持端間の中間点(x=0.5l)より鍵盤手前側に設定することにより実現できる。固定端側からの位置x=0.6lより鍵盤手前側に打撃位置を設定することにより実現できる。
【0048】
なお、この場合の固有振動数(1次モード)f、弾性係数(バネ定数)kはそれぞれ、式(7)、(8)で表される。ここで、記号は、式(1)、(2)と同じ意味である。
【0049】
【数7】

【0050】
【数8】

【0051】
以上の説明から明らかなように、本発明における弾性体は、特定の梁構造に限定されるものではなく、弾性体の長手方向が鍵盤の鍵の長手方向と同方向になるように配置され、ハンマによる打撃位置の弾性係数をk、鍵盤奧側の弾性係数をk、鍵盤手前側の弾性係数をkとしたとき、k<k<kであり、被打撃体が、ダンパが開放された状態で弾性体の固有振動数で自由振動可能となっている構造であればよい。
【0052】
被打撃部材12の振動センサ122が検出する衝撃波形は、打撃強度(ハンマ速度)によって変化する。すなわち、打撃強度が弱いとき、ハンマ速度が小さく、ハンマとセンサとの接触時間が長いため、立ち上がりが遅く、周波数成分は低い領域に集中している。一方、打撃強度が強いとき、ハンマ速度が大きく、ハンマとセンサとの接触時間が短いため、立ち上がりが早く、周波数成分は高い領域まで含んでいる。このような打撃強度に応じて変化する衝撃波形が振動センサ122から出力されるようにするためには、弦断面形状部材124を振動センサ122に対し打撃面側に設置することが有効である。
【0053】
弦断面形状部材124は、ピアノの弦(1〜3本弦)の断面形状を模した断面形状の部材であり、例えば、プラスチック、ゴム、皮革、布などの可撓性(フレキシブル)素材に弦を模擬した断面形状の金属線などを接着したものが用いられる。
【0054】
図5は、弦断面形状部材124の具体例であり、これは3本弦を模した場合の弦断面形状部材124の側断面形状を示している。弦断面形状部材124は、ピアノの弦の断面形状を模した断面形状の金属部材1241〜1243をフレキシブル素材1244に接着した構造を有し、フレキシブル素材1244側が緩衝材123側になるようにして設置される。
【0055】
弦断面形状部材124を設置することにより、振動センサ122の打撃による変形をより複雑なものにすることができ、振動センサから演奏者の押鍵時の打撃強度をより顕著に反映した衝撃波形を出力させることができる。この衝撃波形を音合成に活用すれば、打撃強度に応じて自然に変化するリアルなピアノ音を生成することができる。
【0056】
さらに、ソフトペダル使用時やハンマの整調(針刺しによるハンマ硬さ調整など)による打撃状態の変化も衝撃波形の変化として検出することができ、アコースティックピアノが有する特徴を音作りに反映させることが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る鍵盤楽器の被打撃体の第1実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明に係る鍵盤楽器の被打撃体の第2実施形態を示す構成図である。
【図3】本発明に係る鍵盤楽器の被打撃体の第3実施形態を示す構成図である。
【図4】本発明に係る鍵盤楽器の被打撃体の第4実施形態を示す構成図である。
【図5】弦断面形状部材の具体例を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
10・・・被打撃体、11・・・弾性体、12・・・被打撃部材、121,123・・・緩衝材、122・・・振動センサ、124・・・弦断面形状部材、1241〜1243・・・金属部材、1244・・・フレキシブル素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状あるいは棒状の弾性体と、
前記弾性体に設置され、ハンマにより打撃される被打撃部材を備え、
前記被打撃部材は、ハンマによる打撃を検出する打撃検出手段と緩衝材の積層体からなり、ハンマによる打撃位置のみに設置され、
前記弾性体は、梁構造であり、その長手方向が鍵盤の鍵の長手方向と同方向になるように配置され、ハンマによる打撃位置の弾性係数をk、鍵盤奧側の弾性係数をk、鍵盤手前側の弾性係数をkとしたとき、k<k<kであり、
被打撃体は、ダンパが開放された状態で前記弾性体の固有振動数で自由振動可能となっていることを特徴とする鍵盤楽器の被打撃体。
【請求項2】
前記弾性体は、一端側が固定端、他端側が自由端となった片持ち梁構造であり、固定端が鍵盤手前側、自由端が鍵盤奥側になるように配置されることにより、k<k<kとなっていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の被打撃体。
【請求項3】
前記弾性体は、両端側が固定端となった両持ち梁構造であり、ハンマによる打撃位置の設定により、k<k<kとなっていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の被打撃体。
【請求項4】
前記弾性体は、一端側が固定端、他端側が支持端となった梁構造であり、ハンマによる打撃位置の設定により、k<k<kとなっていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の被打撃体。
【請求項5】
前記弾性体は、両端側が支持端となった梁構造であり、ハンマによる打撃位置の設定により、k<k<kとなっていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の被打撃体。
【請求項6】
前記被打撃部材は、さらに、その被打撃面側に積層された弦断面形状部材を備え、該弦断面形状部材は、ピアノの弦の断面形状を模した断面形状を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の鍵盤楽器の被打撃体。
【請求項7】
前記弾性体に錘が付加されることにより振動減衰特性が調整されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の鍵盤楽器の被打撃体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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