説明

長期保存に適したこんにゃくの製造方法および保存食品

【課題】長期保存に適したこんにゃくを製造する方法を提供する。
【解決手段】従来の方法で製造されたこんにゃくの水を切り食用油脂と水で生成されたエマルジョンに接触させる。エマルジョンがこんにゃくの表面に付着してこんにゃくの表面に薄い油脂膜が形成される。エマルジョンに接触させたこんにゃくを容器に封入する。こんにゃくを長期間保存しても離水が抑制されているので、重量や味の低下が少なくて品質が維持された保存食品となる。特に、缶詰やレトルト食品に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、こんにゃくの離水作用を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
こんにゃくは、96〜97%が水分で残りがこんにゃくマンナンで構成された食物である。したがって、こんにゃくから水分が分離すると重量が低下し、パサパサして味も悪くなる。こんにゃくの内部から外部に水分が逃げる作用を離水作用ということにする。従来は、こんにゃくは製造されてから1ヶ月程度といった短期間のうちに調理されていたため、離水はさほど問題にならなかった。
【0003】
近年こんにゃくは低カロリーのダイエット食品として注目を浴びてきているため、食品材料としての用途が多様化し、レトルト食品や缶詰として長期間保存される加工食品の材料として利用されている。こんにゃくの離水作用は、こんにゃくがレトルト食品としてプラスチック袋に封入されたり、缶詰としてスープと一緒に缶に封入されたりしている間も起こる。こんにゃくを缶詰にした場合に、一例では、1年間で30重量%程度の離水が確認された。
【0004】
こんにゃくに離水が発生すると重量が低下する。長期間保存される加工食品にこんにゃくを使用する場合には、消費者が賞味する時点におけるこんにゃくの実際の重量が製品に表示された重量に等しいことを保証することが特に重要になる。これまでは、離水作用を考慮して長期保存の加工食品にはあらかじめ50重量%増しといった多めのこんにゃくを封入していた。また、こんにゃくと調味料が一緒に封入される場合にあらかじめ調整された味付けは、こんにゃくからの離水量により影響を受けるが、消費者が賞味するまでの期間はさまざまであるため正確に離水量を予測して味を調整しておくことはできず品質の維持が困難であった。
【0005】
特許文献1には、こんにゃく内部からの離水を防止する皮膜をこんにゃくの表面全体に形成する技術を開示する。この技術では、皮膜を形成するためにこんにゃくの原料に澱粉粒を混入させ、成形した後のこんにゃくを水切りしながらスチームを吹き付けて乾煎りする。特許文献2は、こんにゃくマンナン糊に蛋白質類や澱粉類を含有または吸着させて離水を防止する技術を開示する。
【特許文献1】特開平10−94376号公報
【特許文献2】特開平7−16065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こんにゃくの離水を防止する従来の技術は、いずれもこんにゃくの原料に離水防止剤として作用する特別な原料を加えるものであった。しかし、こんにゃくは本来の味や目的に合った味を出すためにできるだけ余分な原料を含有していないことが望ましい。また、離水のための工程もできるだけ簡素に実現できることが望ましい。そこで本発明の目的は、離水を抑制して長期保存に適したこんにゃくの製造方法を提供することにある。さらに本発明の目的は、離水が抑制されて安定した品質のこんにゃくを含む保存食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、離水を抑制して長期保存に適したこんにゃくを製造する方法にかかる。一般的な方法で製造されたこんにゃくを食用油脂と水で生成されたエマルジョンに接触させる。こんにゃくの表面に形成された薄い油脂膜が、こんにゃくの内部からの離水を抑制する。缶詰やレトルト食品として長期間保存しても離水によるこんにゃくの重量の低減が少ないので、賞味時にこんにゃくの重量を保証するためにあらかじめ見込んでおく量を少なくすることができる。また、離水が少ないのでこんにゃくの食感も良好で味が変化することも少ない。
【0008】
こんにゃくが麺状の場合は、エマルジョンを圧縮空気の力で霧状にしてこんにゃくに吹き付けることにより油脂膜を形成することができる。こんにゃくが箱状の場合は、エマルジョンの入った水槽に長期保存の形状に成形したこんにゃくを浸すことで、全体に油脂膜を形成することができる。このように製造されたこんにゃくは、長期間保存される可能性のある缶詰やレトルト食品の素材に適するものになる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、離水を抑制して長期保存に適したこんにゃくの製造方法を提供することができた。さらに本発明により、離水が抑制されて安定した品質のこんにゃくを含む保存食品を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の実施の形態にかかる麺状こんにゃくの製造工程を示すブロック図である。ブロック11では、こんにゃく芋精粉と米粉と粉末のセルロース粉をお湯に入れて混合および撹拌しこんにゃく糊を生成する。こんにゃく芋精粉と米粉とセルロース粉の重量比率は、好適には50%、35%、15%としさらに各成分に10%の範囲を持たせ、5±10%:3.5±10%:1.5±10%とすることができる。なお、米粉に代えておからなどの他の穀物粉を加えるようにしてもよい。また、セルロース粉はレタスなどの一般的な食物繊維の中から選択することができる。
【0011】
ブロック13では、こんにゃく糊と水酸化カルシウムや炭酸ナトリウムなどの周知のアルカリ性凝固剤を成形器の中で十分に混合および撹拌する。このとき成型器内部をスチームで80℃〜100℃に加熱してこんにゃく糊を麺状にできる程度までゲル化させてこんにゃくを麺状に成形する。ゲル化させるためにはスチームを使用しないでこんにゃく糊を直接煮沸するようにしてもよい。成形器の先端には、目皿といわれる多数の小さな孔が形成された金型が取り付けられており、ゲル化がある程度進行したこんにゃくはところてんのように目皿の小さな孔を通過して外に押し出され麺状に成形される。この麺状のこんにゃくは太さによっては糸こんにゃくあるいは白滝ともいわれるものである。
【0012】
こんにゃくの断面形状およびサイズは、目皿に形成された小孔の形状によるが、一例では腕が4つある海星のような形状にして対向する腕の先端間の距離を1.5mm程度にしている。この時点におけるこんにゃくのpH値は、アルカリ性凝固剤により11〜12になっている。ブロック15では、8時間〜12時間こんにゃくとほぼ同じpH値の調整液に浸して常温まで温度を下げて性状を安定させる。この養生時間が十分でないと、こんにゃくが完全にゲル化せず、運搬の途中で亀裂が入ったり形状がくずれたりする。
【0013】
ブロック11〜ブロック15は、周知の方法によるこんにゃくの製造方法であり、本発明の範囲は上記で説明した原料や方法による製造方法に限定されることなく、こんにゃくの利用目的に適した従来のいかなる製造方法を採用してもよい。ブロック17では、麺状のこんにゃくを調整液から出して水切りをして1個の缶に封入される量の計量を行う。離水はブロック15で性状を安定化させる段階から始まっているが、水切りをして表面の水分が取り除かれた時点から離水の進行が早まる。
【0014】
ブロック19では、麺状のこんにゃくをエマルジョン(乳濁液)に接触させる。エマルジョンは、食用油脂と水をまぜて撹拌して生成する。水に対する食用油脂の割合は一例では0.5重量%程度であるが、その割合は目的に応じて適宜選択することができる。食用油脂の割合が多くなるとこんにゃくにねばりがでて食感が変化し、食用油脂の割合が少なくなると離水の抑制効果が低減する。食用油脂としては常温で液体であれば、サラダ油、白絞油、またはコーン油などの植物性油脂でも、肝油または鮫油などの動物性油脂でもよい。
【0015】
こんにゃくにエマルジョンを接触させるためにエマルジョンを霧吹きに入れて空気の力で霧状にしてこんにゃくに吹き付ける。エマルジョンを構成する食用油脂は、水により適度な流動性が与えられてこんにゃくの表面を全体に渡って移動して付着し表面に極薄い油脂膜を形成する。食用油脂の原液を直接こんにゃくに付着させようとしても流動性が低いのでこんにゃくの表面全体に均一に油脂膜を形成することはできないが、本実施の形態ではエマルジョンを使用することで薄膜構造を実現している。この油脂膜はこんにゃくの表面に強固に付着して容易に剥がれることはなく、これ以後消費者が賞味するまでほぼ維持され離水を抑制し続ける。
【0016】
ブロック21では、缶詰やレトルト食品などの保存食品にするために、こんにゃくを缶やプラスチック袋などの容器に入れて封入する。このとき、保存食品の種類に応じてスープや調味料などを一緒に封入する。ブロック23では、容器の状態で湯やスチームを利用して80度〜100度の温度で所定時間加熱して殺菌する。この殺菌工程でこんにゃくの温度を上げると離水作用が促進されるが、こんにゃくには薄い油脂膜が形成されているため離水を2〜3重量%程度抑制することができる。
【0017】
ブロック25では、こんにゃくは保存食品として出荷されて消費者が開封するまで缶またはプラスチック袋で保存される。保存期間が1年〜3年といった長期に渡っても油脂膜により離水作用が抑制されているため、こんにゃくの重量や味の変化が少ない。また、スープに離水した水分が混じり合ってスープの味が変化するようなこともない。こんにゃくには離水の抑制を目的とした原料を使用しないので、利用目的に応じた原料だけでこんにゃくを製造することができる。
【0018】
エマルジョンにより油脂膜を形成したこんにゃくと、従来のように油脂膜を形成していないこんにゃくに対して温度が24度の環境に24時間放置する乾燥試験を行うと、本実施の形態にかかる油脂膜を形成したこんにゃくの重量は96重量%まで低下し、油脂膜を形成していないこんにゃくの重量は91重量%まで低下した。その差は5%であり本発明の効果が確認できた。本実施の形態では、麺状のこんにゃくを例示して説明したが、本発明は、箱状や玉状などの他の形状のこんにゃくにも適用することができる。この場合は、成形したこんにゃくをエマルジョン槽に浸してこんにゃくの表面に油脂膜を形成するとよい。本発明は食用油脂と水からなるエマルジョンを霧状にしてこんにゃくに吹き付けたり、エマルジョンにこんにゃくを浸したりするだけで容易に実現できるため製造コストの増大は少ない。
【0019】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【産業上の利用可能性】
【0020】
長期保存の必要なこんにゃく食品に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかるこんにゃくの保存食品を製造する工程を説明するフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長期保存に適したこんにゃくを製造する方法であって、
こんにゃくを製造するステップと、
前記こんにゃくを食用油脂と水で生成されたエマルジョンに接触させて表面に油脂膜を形成するステップと
を有する製造方法。
【請求項2】
前記こんにゃくが麺状のこんにゃくであり、前記エマルジョンに接触させるステップが霧状にしたエマルジョンを前記麺状のこんにゃくの表面に吹き付けるステップを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記こんにゃくが箱状のこんにゃくであり、前記エマルジョンに接触させるステップが前記箱状のこんにゃくをエマルジョン槽に浸すステップを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
さらに、前記エマルジョンに接触させたこんにゃくを容器に封入するステップを有する請求項1〜請求項3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記容器が缶詰用の缶またはレトルト食品用のプラスチック袋である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記容器に調味料を封入するステップを有する請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
こんにゃくを含む保存食品であって、
密封式の容器と、
食用油脂と水で生成されたエマルジョンと接触して表面に油脂膜が形成されたこんにゃくと
を有する保存食品。
【請求項8】
前記こんにゃくが麺状であり、該麺状のこんにゃくがラーメン・スープとともに前記容器に封入されている請求項7に記載の保存食品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−306950(P2008−306950A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155410(P2007−155410)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(507193696)ETF株式会社 (2)
【出願人】(500121551)株式会社 スカラー (2)
【Fターム(参考)】