説明

開気孔質金属発泡体の製造方法、このようにして製造された金属発泡体ならびにその用途

本発明は、ニッケル系合金で開気孔質金属発泡体を製造する方法、およびこの方法により製造された金属発泡体、ならびに流体の流れから特定の成分および汚染物を分離するための有利な用途に関する。本発明の目的により、機械的特性が改良されていることに加えて、比表面積が大きい、および/または表面粗さが増大している開気孔質金属発泡体を提供する。製造の際、ニッケルまたはニッケル系合金から製造された開気孔質金属発泡体は液体結合剤で被覆される。これに続いて、粉末状ニッケル系合金および固相から液相への相転移温度が少なくとも30℃である有機成分の混合物を堆積させる。その際、温度はそれぞれの相転移温度未満にすべきである。熱処理により、結合剤および有機成分が排除され、粉末粒子の一部が焼結し、粉末粒子の他の部分はベース発泡体の表面と、焼結ブリッジを介して、材料に適合した様式で結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル系合金で開気孔質金属発泡体を製造する方法、およびこの方法により製造された金属発泡体それ自体に関する。この金属発泡体は、流体の流れ、例えばガス流、エーロゾル、懸濁液、またはスプレー、から特定の成分、さらには汚染物を分離するのに特に有利に使用できる。しかし、内燃機関からの排ガスの二次処理に有利に応用するのも可能であり、その際、例えばそのような排ガスに含まれる粒子の分離、ならびに触媒作用による二次処理にも、場合に応じて、有利に使用できる。
【背景技術】
【0002】
例えば、未公開独国特許出願第DE10346281号からは、ニッケル系合金で部品を製造する方法、ならびにその方法で製造された部品が公知である。そこに記載されている部品は、所望により、少なくともある区域でニッケル系合金から製造された発泡体を形成することもできる。
【0003】
この時、開気孔質発泡体の形状を有するいわゆる基材コアを、ニッケルに加えて追加の合金元素を含んでなる金属粉末で被覆し、最初の基材コアおよび/またはニッケル系合金から製造された表面被覆を熱処理の際に合金化することができる。この解決策により、機械的特性を、高温までの広い温度範囲にわたって改良することができる。しかし、そのような公知の開気孔質金属発泡体は、開気孔質配置中の表面構造に関して欠陥があり、特に分離/濾過に対して、および他の用途にも悪影響を及ぼす。
【0004】
その結果、特に適切に得られる表面粗さ、ならびに細孔の内壁およびウェブ上の比表面積さえも依然として低すぎて、例えば望ましい高度の分離を実現できない。
【0005】
この欠点に対処するために、十分に適切な表面被覆を堆積させることが考えられる方法であり、これはいわゆるCVD法により可能である。しかし、その結果、それに必要な工業的技術および電力のために、特に技術的な努力およびコストが著しく増加する。その上、そのような方法でさえも、開気孔質容積全体にわたって均質に堆積した被覆が確実に得られるとは限らない。
【0006】
さらに、DE10150948C1では、焼結させた多孔質物体が大きな比表面積を有するように設計されている。この目的のために、金属間化合物相または固溶体を表面上に形成する。しかし、そのような固溶体または金属間化合物相を包含する表面は、特定の機械的特性に有害な影響を及ぼすので、その使用は、交互の機械的および/または熱負荷により影響を受ける場合には制限付きで、しかも特殊な手段をさらに用いてのみ可能であり、コストがさらにかかることになる。
【0007】
内燃機関からの排ガスの二次処理を行うための装置に使用する場合には、特に脆さが悪影響を及ぼし、破壊につながる剥離が起こることがある。
【発明の具体的説明】
【0008】
そこで、本発明の目的は、機械的特性が改良されていることに加えて、比表面積が大きい、および/または表面粗さが増大している開気孔質金属発泡体を提供することである。
【0009】
本発明により、この目的は、請求項1の特徴を含んでなる方法ならびに請求項11に記載の金属発泡体により解決される。有利な発展および改良は、それぞれの従属請求項に記載されている特徴により実現することができる。本発明の金属発泡体の用途は、請求項13および14に記載されている。
【0010】
本発明の、開気孔質金属発泡体をニッケル系合金で製造する方法では、DE10346281(未公開)に記載されている内容と類似の様式で大部分が進行する。
【0011】
従って、ニッケルまたはニッケル系合金から製造された開気孔質ベース発泡体が使用される。次いで、この表面上に液体結合剤、好ましくは有機結合剤が被覆される。続いて、粉末状ニッケル系合金および有機成分で調製された混合物は、液体結合剤で被覆されたベース発泡体の表面上に堆積される。
【0012】
この場合、それぞれの有機成分は、その相転移温度が少なくとも30℃になるように、従って、その固相からその液相への転移が相転移温度未満では起きない、つまり、少なくとも30℃に達する前には起きないように選択される。
【0013】
堆積させるべき混合物が、液体結合剤で予め被覆された表面上で確実に完全な固相になるように、混合物は、それぞれの相転移温度より低い温度で堆積させるべきである。
【0014】
この混合物の堆積に続いて、熱処理が行われる。この時、結合剤、少なくともその有機部分、ならびに有機成分が排除される。温度上昇につれて、前に使用された粉末状ニッケル系合金の粉末粒子の一部は焼結され、粉末粒子の別の部分は、可能な限りベース発泡体の表面と、材料に適合した様式(material-fit manner)で結合したままであり、その際、表面との材料に適合した結合は、粒子の少なくとも一個の焼結ブリッジを通してそれぞれ行われる。そのような、材料に適合した様式で結合している粒子は、熱処理の後、それらの形状が可能な限り変化せず、その際、そのような粒子の僅かな初期焼結(begin sintering)が可能になるだろう。
【0015】
これらのニッケル系合金の、材料に適合した様式で結合している個々の粒子は、完成した開気孔質金属発泡体上でも目視により検出可能であり、その際、これらの、材料に適合した様式で結合している粒子は、細孔の内側表面上、ならびに金属発泡体の支持構造を形成するウェブ上に位置することができる。
【0016】
従って、本発明により製造される開気孔質金属発泡体は、表面上の粗さが明らかに増加していると共に、使用されるベース発泡体と対照的に、比表面積が増加しているが、これは、ニッケルまたはニッケル合金から加工により製造される開気孔質ベース発泡体で容易にできることではなかった。
【0017】
製造に使用される混合物、および熱処理する際のパラメータも、ベース発泡体の表面上に材料に適合した様式で結合している粒子の少なくとも20%がそれらの粒子形状を確実に維持するように、調整すべきである。
【0018】
パラフィンおよびワックスが、好適な有機成分であることが分かった。微粒化アミドワックスが特に好ましいものとして挙げられる。
【0019】
しかし、本発明で使用されるべき混合物では、有機成分として物質の混合物を使用することも可能であり、その際、使用される物質も様々な相転移温度を有することができるが、常に30℃を超えているべきである。従って、混合物は、粉末状ニッケル系合金、第一の、および少なくとも一種の別の有機性物質から製造することができる。
【0020】
本発明により使用されるニッケル系合金は、ニッケルに加えて、炭素、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、ニオブ、チタン、アルミニウム、ホウ素、ジルコニウム、マンガン、ケイ素、およびランタンから選択された追加の合金元素を有するべきである。
【0021】
ベース発泡体としてニッケル系合金から製造されたそのような発泡体がすでに使用されている場合、混合物に使用される粉末状ベース合金のニッケル部分は、それぞれのベース発泡体のニッケル部分より少なくするべきである。その結果、特に粉末状ベース合金の焼結された部分では、初期焼結がベース発泡体の少なくとも表面区域で達成できる。
【0022】
本発明の金属発泡体の製造に使用される粉末状ニッケル系合金では、クロムは、少なくとも15質量%、好ましくは少なくとも18質量%の量で含まれるべきである。
【0023】
粉末状ニッケル系合金に加えて、混合物に包含されるべき有機成分の量は少なくとも約0.05質量%にすべきである。
【0024】
熱処理の際、特にすでに記載した、粉末状粒子の一部を焼結させ、粉末粒子の別の部分の、材料に適合した結合を発達させるための高温領域では、1200〜1250℃、好ましくは1220〜1250℃の範囲内で最高温度を維持すべきであり、その場合、不活性または還元性雰囲気中で進行させるべきである。
【0025】
この時、粒子の、完全に焼結した、または材料に適合した様式で結合した部分が変化するように、パラメータを変えることができる。これは、表面粗さまたは比表面積だけが金属発泡体中で増加するように行うことができる。
【0026】
その上、個々の粒子が20〜35μmの範囲の辺りの粒子径分布内にある粉末状ニッケル系合金を使用するのが有利である。この時、最大粒子径は60μmを超えるべきではない。その結果、粉末状ニッケル系合金の粒子の一部だけが完全に焼結することができ、表面粗さの増加および比表面積の増加に寄与できる別の部分は、使用されるベース発泡体の表面と、粒子の形状で、材料に適合した様式で結合するように、有利な影響を及ぼすことができ、その際、後者は、形成される場合がある焼結ブリッジを除いて、初期粒子形状を実質的に維持する。熱処理の際、加熱および冷却速度10K/分で操作することができる。
【0027】
本発明の金属発泡体は、材料をさらに加えているにも関わらず、依然として十分に高い気孔率を有し、常に開気孔質である。従って、例えば、ニッケルまたはニッケル系合金から製造されたベース発泡体の、通常は約90〜96%である気孔率が、75〜90%の気孔率に低下する、従って、最大で15%低下するだけであり、その際、気孔率の低下は、所望の結果に非常に僅かな、不利な影響を及ぼすだけであるが、表面粗さの増加および比表面積の増加は、所望の結果に重大、且つ有利な影響を及ぼす。
【0028】
本発明の金属発泡体は、この後に、例えば排ガス装置に使用するのに有利な、追加の被覆を施すこともできる。この時、これらの用途に好適な従来の被覆材料を施すこともできる。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明を例により、より詳細に説明する。
【0030】
本発明の、表面粗さおよび比表面積を増加した発泡体の製造では、気孔率94%のニッケル製ベース発泡体をポリビニルピロリドンの1%水溶液50ml中に浸漬する。浸漬に続いて、吸収パッド上に押し付けた。これによって、ウェブおよび細孔の内側表面だけが濡れているように、結合剤を細孔の空隙から除去することができた。
【0031】
このようにして調製した、寸法300mmx150mmx1.9mmのベース発泡体を振動装置中に固定し、粉末混合物を散布した。振動により、結合剤で濡らしたベース発泡体の表面上に粉末を一様に分配させることができた。同時に、ベース発泡体の開気孔質は維持されている。この混合物中には、下記の組成、すなわち炭素0.1質量%、クロム22.4質量%、モリブデン10質量%、鉄4.8質量%、コバルト0.3質量%、ニオブ3.8質量%、ニッケル58.6質量%、を有する、「Inconel 625」の商品名で市販されている粉末状ニッケル系合金が含まれている。
【0032】
さらに、有機成分として、平均粒子径が30μmである粉末状微粒化アミドワックスを混合物中に2質量%の量で配合した。
【0033】
微粒化アミドワックス(エチレンジステアラミド、主としてC3876)は、平均粒子径30μmの粉末として使用した。この微粒化アミドワックスの融解温度は140〜145℃である。
【0034】
アミドワックスおよびニッケル系合金粉末を、管状ミキサー中、毎分50回転の速度で10分間にわたって共に混合し、次いで、こうして得られた混合物を、液体結合剤で濡らしたベース発泡体の表面上に堆積させた。
【0035】
このようにして調製され、被覆されたベース発泡体を、必要に応じて特定の最小曲げ半径を考慮して、変形させることができた。
【0036】
その後に続く10K/分の加熱速度で行う熱処理の際、結合剤の有機構成成分および有機成分が、約300℃の温度から出発して排除された。有機構成成分の排除は、約600℃の温度で完了した。
【0037】
温度をさらに1220〜1250℃に上昇させ、約30分間の保持時間を維持した後、粉末状ニッケル系合金の粒子の一部が焼結し、このニッケル系合金の粒子の他の部分が、ベース発泡体の表面上に、それぞれ少なくとも一個の焼結ブリッジにより、材料に適合した様式で固定され、その際、材料に適合した様式で結合されている粒子は、ウェブ上ならびに細孔の内側表面上にも固定されることができた。
【0038】
粉末状ニッケル系合金には、平均粒子径30μmの粉末を使用し、その際、より小さな、およびより大きな粒子径を有する粒子も混合物中に含まれていた。
【0039】
有機成分として混合物中にさらに含まれるアミドワックスは、アミドワックスの相転移温度が明らかに30℃を越えていたので、混合物がベース発泡体の表面上に細かく散布された粉末状形態で付けられるまで、固体形態であった。
【0040】
完成した金属発泡体は、気孔率が依然として92%であり、その表面粗さは、図1から明らかに見分けられるように、著しく増加しており、金属発泡体の開気孔質構造内の比表面積もベース発泡体と対照的に増加することができた。
【0041】
しかし、ニッケル製ベース発泡体の代わりに、ニッケル系合金製ベース発泡体も使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の金属発泡体上にある開気孔質構造の一部をSEM記録で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル系合金で開気孔質金属発泡体を製造する方法であって、
ニッケルまたはニッケル系合金から製造された開気孔質ベース発泡体が液体結合剤で被覆され、
これに続いて、粉末状ニッケル系合金と、固相から液相への相転移温度が少なくとも30℃である有機成分との混合物が、それぞれの相転移温度未満の温度で、前記結合剤で被覆された前記ベース発泡体の表面上に堆積され、そして
熱処理により、前記結合剤および前記有機成分が排除され、前記粉末状粒子の一部が焼結され、前記粉末粒子の他の部分が前記ベース発泡体の表面に、焼結ブリッジを介して、材料に適合した様式で結合される、方法。
【請求項2】
前記使用された粉末状ニッケル系合金の前記粒子の少なくとも20%が、材料に適合した様式で結合される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機成分としてパラフィン粉末またはワックス粉末が使用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機成分が、物質の混合物の形態で使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
炭素、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、ニオブ、チタン、アルミニウム、ホウ素、ジルコニウム、マンガン、ケイ素、およびランタンから選択された追加の合金元素を有する前記ニッケル系合金が使用される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ニッケル部分がニッケル系合金の前記ベース発泡体のニッケル部分より少ない、前記粉末状ベース合金が使用される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記クロムが少なくとも15質量%の量で含まれる粉末状ニッケル系合金が使用される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
有機成分の含有量が少なくとも0.05質量%である混合物が使用される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記粉末粒子の焼結および材料に適合した結合の発達が、1200〜1500℃の範囲内の温度で、不活性または還元性雰囲気中で行われる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
粒子径が60μm未満であり、平均粒子径が20〜35μmの範囲の辺りである粉末状ニッケル系合金が使用される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法により製造された開気孔質金属発泡体であって、表面粗さおよび/または比表面積が、前記ベース発泡体の表面粗さおよび/または比表面積とは対照的に増加し、気孔率が最大で15%減少し、開気孔質構造が維持される、金属発泡体。
【請求項12】
前記ニッケル系合金の粒子が、前記ベース発泡体の前記細孔表面およびウェブ上に、焼結ブリッジを介して、材料に適合した様式で結合される、請求項12に記載の金属発泡体。
【請求項13】
請求項11または12に記載の金属発泡体の、流体の流れから成分または汚染物を分離するための使用。
【請求項14】
請求項11または12に記載の金属発泡体の、内燃機関からの排ガスを後処理するための使用。

【図1】
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【公表番号】特表2008−531849(P2008−531849A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557387(P2007−557387)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/001699
【国際公開番号】WO2006/089761
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(591017261)シーブイアールディ、インコ、リミテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】CVRD Inco Limited
【出願人】(594102418)フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ (63)
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer−Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D−80686 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】