説明

開閉装置

【課題】磁束センサ出力は可動子と永久磁石の距離が離れると出力が急激に減衰するため、動作開始直後の挙動しか把握できない。ヨークへ鎖交する磁束は小さいため、観測信号はノイズの影響を受け易い。駆動コイルに流れる電流は容易に観測できるが、センサ設置にコストがかかる。
【解決手段】電磁操作機構の駆動コイル21に通電することによって可動鉄心23を駆動し、該可動鉄心に連結された遮断器10の可動接点12を動作させるようにした開閉装置であって、上記駆動コイルに鎖交する磁束と同一の磁束が鎖交するように上記駆動コイルに近接して設けられた誘導コイル30と、この誘導コイルに誘起された磁束変化に対応する信号を検知する信号検知手段41と、この信号検知手段の出力信号に基づいて上記遮断器または上記電磁操作機構を含む駆動系の状態量を推定する状態量推定手段42を備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力の送配電及び受電設備などに用いられる、電磁操作式開閉装置あるいは電磁操作式開閉装置を搭載したスイッチギヤなどとして好ましく用いられる開閉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁操作式開閉装置の状態を把握する一般的な手法は、電磁操作機構の磁気回路に設けた磁束センサの出力や駆動コイルの電流を観測し、その時間変化の特徴を捉えて遮断器の開閉動作状態を判断するものである。例えば特許文献1に開示されている電磁駆動装置(電磁操作機構)は、中央に励磁コイル(駆動コイル)が配置されている。励磁コイルは、円筒状の開口部を形成し、この内部で可動鉄心(可動子)が動く。可動鉄心は円筒状の開口部の寸法に合わせて適合化した円筒状のボルトと、これに取り付けたストッパ電極(可動子でヨークに接触する部分に相当)を備える。励磁コイルは軟磁性材料からなる内側のヨークで取り囲まれ、内側のヨークの一部は円筒状の開口部の中に延び、そこで内側の極を形成している。そして、外側のヨークの脚部に測定コイルを巻きつけ、磁束の形状の変化を測定コイルの接続部に生じる誘導電圧として取得し、該誘導電圧の値を所定の参照値と比較し、誘導電圧の最小値が所定の時間後及び所定の時間内に認識されないと、開閉装置の以後の動作を中止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−525950号公報(第15〜16頁、図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の開閉装置においては、開閉動作の開始直後であれば、測定コイルを巻きつけたヨークに鎖交する磁束が急速に変化するため、誘導電圧の出力値は大きく、磁束変化を検出できる。しかし、可動子と測定コイルを巻きつけたヨークとの間に空隙ができると、空気の透磁率が小さいので測定コイルを巻きつけたヨークに鎖交する磁束が急激に減衰する。このため、誘導電圧はノイズに埋もれ、検知し難くなる。一方、駆動コイルに流れる電流は容易に観測できるが、電流センサの設置にコストがかかる。また、可動子の移動距離が長くなるにつれて可動子へ鎖交する磁束が小さくなるため、電流の変化を検知し難くなるという課題があった。
【0005】
本発明は、上記のような従来技術の実状に鑑みてなされたものであり、簡素な構成で可動子の運動や、遮断器の状態を精度高く検知することができ、製造コストも安価にし得る開閉装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る開閉装置は、電磁操作機構の駆動コイルに通電することによって可動鉄心を駆動し、該可動鉄心に連結された遮断器の可動接点を動作させるようにした開閉装置であって、上記駆動コイルに鎖交する磁束と同一の磁束が鎖交するように上記駆動コイルに近接して設けられた誘導コイルと、この誘導コイルに誘起された磁束変化に対応する信号を検知する信号検知手段と、この信号検知手段の出力信号に基づいて上記遮断器または上記電磁操作機構を含む駆動系の状態量を推定する状態量推定手段を備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、誘導コイルを、駆動コイルに鎖交する磁束と実質的に同一の磁束が鎖交するように駆動コイルに近接して設けるようにしたので、誘導コイルで誘起される信号強度が高まり、開閉動作に伴う磁束の変化を精度よく検知できる。このため、状態量推定手段による接点損耗状態などの遮断器の状態を精度高く推定することができる。また、構成が簡素であり駆動コイルの電流を観測するための電流センサを使わないため、製作コストがアップすることもない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係る開閉装置の投入開始時の状態を概念的に示す要部構成図。
【図2】図1に示す開閉装置の投入完了時の状態を概念的に示す要部構成図。
【図3】図2に示す開閉装置の開極開始時の状態を概念的に示す要部構成図。
【図4】図3に示す開閉装置の開極完了時の状態を概念的に示す要部構成図。
【図5】図3に示す開閉装置の開極時について測定されたアクチュエータのストローク波形、駆動コイルに流れる電流波形、及び誘導コイルの出力波形を示す特性図。
【図6】図1に示す開閉装置の状態量監視装置の主要構成を示すブロック図。
【図7】図6に示す状態量推定手段の処理の流れを示すフロー図。
【図8】図7のa「加速度抽出処理」によって得られた磁束変化の加速度波形を示す図。
【図9】図7のb「フィルタ処理」を行った後の磁束変化の加速度波形を示す図。
【図10】図9に示すフィルタ処理後の加速度波形z(j)の累積和をとることによって得られた誘導コイル出力X(q)の波形を示す図。
【図11】フライホイールの作動時刻の演算に用いるフロー図。
【図12】接点開離時刻の演算に用いるフロー図。
【図13】ばね受けと開放ダンパとの接触時刻teの推定方法を説明する図。
【図14】加速度z(j)の時間変化に対する、接点開離時刻td、フライホイール作動時刻tf、及び開放ダンパ接触時刻teの対応を示す図。
【図15】アクチュエータの動作開始時刻の推定方法を説明する図。
【図16】減衰率γと接点開離時刻tdに対する接点損耗量の関係を示すテーブルからなるマトリックス図。
【図17】判定手段の処理を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1に係る開閉装置について図面を参照して説明する。図1〜図4は本発明の実施の形態1に係る開閉装置とその動作を概念的に示す要部構成図であり、図1は投入開始時の状態、図2は投入完了時の状態、図3は開極開始時の状態、図4は開極完了時の状態をそれぞれ示している。図において、実施の形態1に係る開閉装置としての電磁操作式開閉装置100は、真空バルブ11内に固定接点12と可動接点13を有する真空遮断器(以下、単に遮断器10と云う)と、上記可動接点13を開閉動作させる電磁駆動装置(以下、アクチュエータ20と云う)と、アクチュエータ20を制御する制御装置(図示省略)を備えている。
【0010】
アクチュエータ20は、駆動コイル21(21A、21B)と、駆動コイル21の中心部空間21aに軸方向に連なる挿通孔22aを有する固定鉄心からなるヨーク22(22A、22B)と、駆動コイル21の中心部を軸方向に移動可能に配設され軸方向の一端部(図の左側)が挿通孔22aからヨーク22の外方に突出された可動鉄心からなる可動子23と、ヨーク22における上記可動子23が突出された側の端部に固着され、遮断器の閉極時に可動子23の突出された一端部を吸着して閉極状態を保持する板状の永久磁石24とを備えている。ヨーク22は、駆動コイル21の外周部に磁路を形成する第1ヨーク22Aと、第1ヨーク22Aの一端部側に固着され、中心部に上記挿通孔22aが形成され永久磁石24を保持している第2ヨーク22Bを用いて構成されている。
【0011】
駆動コイル21は、中心軸方向における永久磁石24に近い位置に設置された閉極用の第1の駆動コイル21Aと、この第1の駆動コイル21Aに対して永久磁石24とは軸方向の反対側に設置された開極用の第2の駆動コイル21Bからなっている。可動子23と可動接点13とは軸25を用いて連結されている。また、電磁操作機構は上記アクチュエータ20及び軸25と、可動子23の開極方向の移動端部に設けられた固定板51、一端がこの固定板51に係合され他端が軸25を図の左方向に付勢するように設けられた開放ばね52、軸25と可動接点13との間にばね受け53を介して設けられ、閉極時に可動接点13を固定接点12に所定の圧力で常時押圧するように作用する接圧ばね54、衝撃を吸収する開放ダンパ55、及び閉極ダンパ56などから構成されている。
【0012】
この発明の典型的な特徴部分の一つである誘導コイル30は、駆動コイル21、特にこの例では永久磁石24側に配設された閉極用の駆動コイル21Aに鎖交する磁束と実質的に同一の磁束が鎖交するように、中心軸方向における第1の駆動コイル21Aと同一のボビンに巻回することで駆動コイル21Aに近接され、かつ上記永久磁石24に近い側に寄せて設置されている。そして、該誘導コイル30に誘起された磁束変化に対応する信号から遮断器10及び、またはアクチュエータ20を含む駆動系の状態を検出する状態量監視装置40が設けられている。なお状態量は、この例では可動子23の移動開始時刻、可動子23の移動速度、接点開離時刻、後述するフライホイール回路の作動時刻、ばね受け53と開放ダンパ55との接触時刻、遮断器10の接点の損耗状態、等を含むものであるが、これらのみに限定されるものではない。
【0013】
上記状態量監視装置40は、特に限定されるものではないが、例えば中央処理装置(CPU)、入出力装置、記憶手段、表示手段、報知手段など一般的なコンピュータと同様に構成され、以下詳述する各種の演算、アラームなどの処理を行うことができるものである。より具体的には後述する図6に示すように、誘導コイル30に誘起された磁束変化に対応する信号を検知する信号検知手段41、状態量推定手段42、及び判定手段43などを備えている。なお、上記状態量監視装置40は図示していない上記制御装置の付加機能として構成することもできる。
【0014】
次に、上記のように構成された実施の形態1の動作について、まず、アクチュエータ20の動作原理を含む電磁操作式開閉装置100の動作を説明する。遮断器10が開極状態にあるとき、アクチュエータは図1の状態となっている。このとき、アクチュエータ20の可動子23は永久磁石24が生じる矢印で示す磁束Aによって、紙面右側方向へ力を受けるが、その力は接圧ばね54及び開放ばね52の反発力よりも小さいので、可動子23は動かない。
【0015】
上記のような状態において遮断器10を閉極する場合、第1の駆動コイル21Aに永久磁石24の磁束と同じ向きに磁束Bが発生するように電流を流す。可動子23は接圧ばね54及び開放ばね52の反発力に打勝って第1ヨーク22Aへと電磁吸引され、可動子23と可動接点13は紙面右側へと移動する。そして、可動接点13が固定接点12に当接した後、可動子23は閉極ダンパ56に当接するまで図の右方に移動し、接圧ばね54及び開放ばね52を圧縮した状態で可動子23が永久磁石24に吸着し、図2に示すように、永久磁石24がつくる磁力A1によって第1の駆動コイル21Aへの電流を遮断した後も閉極状態を保持する。
【0016】
次に、投入状態から開極するときのアクチュエータ20の動作について説明する。図3は、遮断器10が投入状態であるときのアクチュエータ状態を表している。回路を開極するとき、外部電源からアクチュエータ20の第2の駆動コイル21Bに、永久磁石24がつくる可動子23と第2ヨーク22Aとの吸着状態を維持する磁束A1を打ち消す方向の磁束Cが生じるように電流を流し、接圧ばね54と開放ばね52のエネルギーで可動子23と可動接点13を紙面左側へ動かす。そして、図4に示すように開放ばね52の反発力で開極状態を保持する。
【0017】
遮断器10を連続で開閉する場合、通電する第1の駆動コイル21A、第2の駆動コイル21Bを即座に切り替えなければならない。駆動コイル21を切り替えるためには、駆動コイルに流れる電流を減衰させる必要がある。そのため、抵抗、ダイオード、コイルで構成されたフライホイール回路(図示せず)が外部電源と駆動コイル21とを接続する回路と並列に接続される。電流をフライホイール回路に流すことで、駆動コイルに流れる電流を減衰させることができる。
【0018】
以降、電磁操作式開閉装置100が投入状態から開極動作する場合を例に状態量監視装置40の動作について詳細に説明する。
【0019】
アクチュエータ20は、容量Cのコンデンサを駆動電源とする電気回路で表現される。駆動電源に蓄えられた電荷をQ、回路中の抵抗成分をR、時刻t(t∈R)における第2の駆動コイル21Bに流れる電流をI(t)、投入位置からの可動子23の変位(距離)をr(t)とするとき、回路方程式は(1−1)式および(1−2)式で表す。
【0020】
【数1】

【0021】
【数2】

【0022】
変位r(t)は、誘導コイル30に鎖交する磁束φ(t)で生じる電磁力Fmag、接圧ばねの荷重Fspring、摩擦力Ffricが可動子23に作用することによって生じる。これらの動作を次の(1−3)式で表す。
【0023】
【数3】

M:可動子の質量
【0024】
上記(1−1)〜(1−3)式に示した方程式からなる連立方程式を解くと、時間変化する電磁場を考慮した可動子の運動状態を表現できる。
【0025】
誘導コイル30は、ここでは、第1の駆動コイル21Aの外周に巻きつけられている。時刻t(t∈R)における誘導コイル30の出力電圧をx(t)、誘導コイル30の巻き数をNとするとき、誘導コイル30の出力電圧x(t)を(2)式のように定義する。
【0026】
【数4】

【0027】
上記(2)式は、誘導コイルの出力が連立方程式で得る変位r(t)および電流I(t)で決まることを表している。ゆえに誘導コイルの出力信号は、時間変化する電磁場における可動子の運動を把握するための情報として有効である。
【0028】
図5の特性図は、遮断器10の開極時について測定されたアクチュエータ20のストローク波形(変位)、第2の駆動コイル21Bに流れる電流波形、及び誘導コイル30の出力波形を共通の時間軸で相対的に示している。この図より、アクチュエータ20の変位や第2の駆動コイル21Bの電流波形よりも誘導コイル30の出力波形の方が、可動子23の運動で生じる特徴に対応した変化が顕著に現れていることが分かる。これは、永久磁石24から誘導コイル30までの距離を近付けたことにより、投入直後及び開極直後の磁束変化が大きく、状態量推定のために必要十分な信号強度が得られることによるものである。誘導コイル30を巻く位置は、図1に例示するように開極時に通電しない側の駆動コイルである第1の駆動コイル21Aの、永久磁石24に近い側の縁に設置することが好ましい。なお、巻き方としては図1のように第1の駆動コイル21Aに隣接させる方法の他、例えば第1の駆動コイル21Aの外周部に巻回しても良い。
【0029】
いま、アクチュエータ20の制御装置(図示せず)から開極指令の信号を検知したとする。このとき、電磁操作式開閉装置100の状態は図3の通りである。第2の駆動コイル21Bを、永久磁石24が作る磁界を打ち消すような方向に励磁する。すると、上述したように投入状態が保持されなくなり、可動子23と可動接点13が紙面左側へ移動する。状態量監視装置40は、可動子23の動きに応じて発生する誘導起電力を検知し、図示していない記憶手段に保存する。
【0030】
図6は、図1に示す開閉装置である電磁操作式開閉装置100の状態量監視装置40の主要構成を示すブロック図である。信号検知手段41は上記記憶手段に保存された誘導コイル30の出力電圧をA/D変換し、ディジタル信号を生成する。状態量推定手段42は、信号検知手段41で生成したディジタル信号を1回微分し、可動子23に鎖交する磁束の変化の加速度波形を求める。
【0031】
図7は、状態量推定手段42の処理の流れを示すフロー図である。状態量推定手段42は、信号検知手段41から誘導コイル30の出力電圧を受け、磁束の変化の加速度信号を計算する。ノイズなどの不要な成分をフィルタで低減した後、接点開離時刻td、接圧ばね受けが開放ダンパ55と接触、即ち、開極終了とみなす時刻te、アクチュエータ20の可動子23の移動開始時刻taを計算し、それらを使って遮断性能の一つの指標である接点損耗量及び接点開離から7ms後における可動子の移動速度(7ms速度)を推定する。以下、状態量推定手段42の動作について順を追って説明する。
【0032】
(a)加速度抽出処理
ここで、信号検知手段41でサンプリング間隔Δt、量子化間隔ΔVでディジタル化された誘導コイル30の出力電圧をx(j)、j=0、1、2、…、 と定義する。このとき、誘導コイル30の出力電圧x(j)の時間変化量y(j)を(3)式で定義する。
y(j)=x(j+1)−x(j) …(3)
(b)フィルタ処理
上記y(j)に計測器内で発生するノイズ等が重畳している場合、フィルタ処理によって不要な成分を取り除く。ここでは、周波数領域において帯域制限を行う方法について説明する。まず、離散フーリエ変換の定義式を(4)式に示す。
【0033】
【数5】

ここで、Jはデータ数、kは離散周波数間隔の整数倍を表す添え字(k=1,2,…,J−1)である。遮断周波数をfcとすると、fc Hz以上の周波数成分を取り除くには、
Y(k)=0 とする。但し、kの範囲は、
【0034】
【数6】

である。但し、Fsはサンプリング周波数。
帯域制限した信号をZ(k)とすると、Z(k)を逆フーリエ変換することによって、フィルタ処理後の微分波形z(j)を得る。逆フーリエ変換の式を(5)式に示す。
【0035】
【数7】

さらに、フィルタ処理後の加速度波形(微分波形)z(j)の累積和をとると、フィルタ処理後の誘導コイル30の電圧波形を得る。フィルタ処理後の誘導コイル出力をX(q)とすると、誘導コイル出力X(q)は、(6)式によって表される。
【0036】
【数8】

図8にフィルタ処理前の加速度波形、図9にフィルタ処理後の加速度波形を示す。また、図10に上記(6)式の誘導コイル出力X(q)の波形を示す。図8、9より、フィルタ処理によって磁束の加速度の変化が明確になっていることが明らかである。
【0037】
(c)接点開離時刻tdの推定
接点開離時刻tdの推定では、はじめにフライホイール回路の作動時刻tfを算出する。フライホイール回路が作動すると、第2の駆動コイル21Bに流れる電流が急速に減衰する。このため、誘導コイル30に鎖交する磁束も急減衰する。従って、磁束変化の加速度は観測区間において最小値を取る。時刻tfにおけるインデックスをjmin、時刻tfでのz(j)をVminとすると、フライホイール回路の作動時刻tfの算出は、例えば図11に例示するフロー図によってなされる。なお、この図11及び次の図12は、共に配列データから目的の条件に合うデータを抽出する極一般的な手法であるので、その説明を省略する。
【0038】
図12は、接点開離時刻tdの算出のためのフロー図である。ここで、接点開離時刻tdにおけるインデックスがjmax、接点開離時刻tdにおけるz(j)がVlmaxである。可動子23の運動エネルギーが接圧ばね54の反発力よりも大きくなると、可動接点13は固定接点12から離れ、アクチュエータの可動子23と連動して開極方向へ移動する。接点の質量が付加されるため、可動子23の変位dr/dtは小さいが、第2の駆動コイル21Bに流れる電流の変化量dI/dtは大きい。従って、誘導コイル30へ鎖交する磁束が急激に増加する地点、即ち、z(j)の最初の極大値を取る時刻が、接点開離時刻tdである。
max=argmax(x(j)|j∈D) …(7)
td=jmax・Δt …(8)
ここで、Dはjmaxを含む任意のjの集合である。
【0039】
(d)ばね受け53と開放ダンパ55との接触時刻teの算出
接点開離時刻tdと同様に、ばね受け53と開放ダンパ55との接触時刻(開極終了とみなす時刻)teをz(j)から算出する。ここでフライホイール回路は、ばね受け53が開放ダンパ55と接触した時刻よりも十分早い時刻に作動したものとする。
フライホイール回路が作動すると、第2の駆動コイル21Bに流れる電流は急減衰する。第2の駆動コイル21Bに流れる電流の変化量dI/dt が大きいため、z(j)は極小値を取る。フライホイール回路が作動した後は、第2の駆動コイル21Bに流れる電流値が単調増加するため、z(j)は正定値ζで近似できる。
【0040】
ζ=median(z(j))、 j∈H …(9)
ここで、median(p)は配列pの中央値を表す。
ばね受け53が開放ダンパ55と接触すると、開放ダンパ55の反発力により、可動子23の変位の時間変化は緩やかになる。z(j)は、正の値から負の値へ変化する。このときのz(j)は(10)式のように直線で近似できる。
【0041】
【数9】

但し、u、υ∈R
ばね受け53が開放ダンパ55と接触した時刻teは、(9)式と(10)式の交点として算出できるので、時刻teに対応するインデックスをjとすると、
【0042】
=(ζ−υ)/u …(11)
より、
te=je・Δt
となる。
図13に(9)式による近似直線、(10)式による近似直線、及び両近似直線の交点teを示す。以上のようにして求めた接点開離時刻td、フライホイール回路の作動時刻tf、開放ダンパ接触時刻teとz(j)との関係を図14に示す。
【0043】
(e)アクチュエータの動作開始時刻taの推定
アクチュエータの動作開始時刻taは、第2の駆動コイル21Bへ通電開始してから信号z(j)が最初の極小値をとるまでの区間(図15のA領域)における変曲点として得られる。まず、アクチュエータが動き出す前の区間(図15のB領域)のz(j)の値を直線近似する。
η≒κj+ρ、 η,κ,ρ∈R …(12)
【0044】
次に、アクチュエータが動き始め、可動子の移動速度が増加していく区間(図15のC領域)のz(j)の値を直線近似する。
θ≒ξj+χ、 θ,ξ,χ∈R …(13)
(12)式と(13)式の交点がz(j)の最初の変曲点、即ち、アクチュエータの動作開始時刻taとなるので、時刻taに対応するインデックスをjaとすると、
ja=(χ―ρ)/(κ―ξ) …(14)
より、ta=ja・Δt となる。
【0045】
従って、アクチュエータの動作開始時の電圧値Vaは、
Va=X(ja) …(15)
である。また、アクチュエータの動作開始時間taからm秒後(ta+m<td)の電圧値Vmは、
Vm=X(jm)、jm=ja+[m/Δt] …(16)
である。ここで、[w]はwを超えない最大の整数を表す。
(15)式、(16)式より、Vaに対するVmの減衰率γは、
γ=Vm/Va …(17)
と表される。
【0046】
(f)状態の推定(接点損耗量及び7ms速度の推定)
状態量推定手段42は、上記のような方法で算出した各パラメータを使って、接点損耗量及び7ms速度を推定する。接点損耗量は、少なくとも1つのパラメータを要素にもつ表を参照して推定する。接点損耗量の推定値ω^は、例えば図16のマトリックス図のように、実測された過去の統計データに基づいて予めメモリに蓄積しておいた接点開離時刻td及び電圧の減衰率γの値を要素にもつテーブルから、算出した接点開離時刻td及び電圧の減衰率γを参照して接点損耗量(mm)を得る。接点開離時刻tdと電圧の減衰率γの値が対応表になければ、線形または多項式曲線で内挿を行って接点損耗量を推定してもよい。
【0047】
7ms速度は、接点開離時刻td、開放ダンパ接触時刻te、開極ストロークL(既知)、接圧ばねの長さS(既知)を用いて推定する。但し、接圧ばねの長さSは初期値とし、実際のばね長は接点損耗量の推定値ω^を差し引いた値S−ω^であるとする。7ms速度の推定値をυとすると、υは次の(18)式のように定義される。
【0048】
【数10】

ここで、αは接点損耗量で決まる係数である。なお、係数αは予め記憶手段に記録されている値を利用してもよいし信号を検知した都度、データから算出してもよい。また、状態量推定手段42は監視したい状態量に合わせて算出するパラメータを変更しても良い。
【0049】
判定手段43は、状態量推定手段42で得た状態量の推定値と、予め規定された閾値とを比較して、状態量の推定値がそれぞれ正常範囲に含まれているか否かを評価する。図17に状態量を評価するフロー図を示す。何れかの状態量の推定値が正常範囲に含まれなかった場合、判定手段43は正常範囲の上限または下限と状態量推定値との差分を計算し、異常を検出した状態量とその値と、正常範囲からの逸脱具合とを、例えば何れも図示省略しているディスプレイ上に表示する一方、ランプ、ブザー、あるいは電子メールなどの一つまたは複数の報知手段によって管理者に通知する。
【0050】
上記のように実施の形態1は、アクチュエータ20の駆動コイル21に通電することによって可動子23を駆動し、該可動子23に連結された遮断器10の可動接点13を動作させるようにした開閉装置であって、駆動コイル21を構成する第1の駆動コイル21Aに鎖交する磁束と同一の磁束が鎖交するように該第1の駆動コイル21Aに近接して設けられた誘導コイル30と、この誘導コイル30に誘起された信号に基づいて、遮断器10またはアクチュエータ20を含む駆動系の状態を推定する状態量推定手段42を備えるようにしたものであり、該構成によれば、検知用の誘導コイル30の実装が容易であり、製造コストも安価に抑えることができる。
【0051】
また、誘導コイル30を、閉極状態を保持する永久磁石24に近い位置に設置するようにしたので、誘起される信号の強度が高まり、信号検知手段41における検知精度が高まる。とりわけ、駆動コイル21が中心軸方向における永久磁石24に近い位置に設置された閉極用の第1の駆動コイル21Aと、この第1の駆動コイル21Aに対して永久磁石24とは反対側に設置された開極用の第2の駆動コイル21Bから構成されているものにおいて、誘導コイル30を第1の駆動コイル21Aと同一のボビンに巻回するなど、第1の駆動コイル21Aに近接させて設置したことにより、誘起される信号の強度が一層高まり、検知精度も高まる。
【0052】
また、誘導コイル30の出力波形及び磁束の時間変化の加速度情報を使って状態量を推定するようにしたので、電磁操作式開閉装置の動作状態を精度よく検知及び監視することができる。
また、状態量監視装置40は、磁束変化の加速度波形から例えば、接点開離時刻、アクチュエータ20の動作開始時刻、開極完了時刻等の特徴点を抽出するようにしたので、可動子23の挙動を容易に把握することができる。
また、状態量推定手段42は、磁束変化の加速度情報から求めた特徴点の少なくとも1つを要素にもつテーブルから状態量を推定するようにしたので、演算が容易である。
【0053】
また、判定手段43は、状態量推定手段42で推定した状態量が、遮断器動作の正常範囲に含まれているか否かを判定し、異常を認めた場合は、正常範囲からの逸脱度合いと共に表示ないしは報知されるので、異常の状態を具体的に知ることができ、推定結果の評価が容易になる。
また、磁束の時間変化を観察するための電流センサが不要になるため、製作コストを低減することができる。
さらに、システムの運転を止めることなく機器の状態を監視することができるので、定期的なメンテナンスの負担を低減することができる。
【0054】
なお、上記実施の形態1では、駆動コイル21が閉極用の第1の駆動コイル21Aと、開極用の第2の駆動コイル21Bから構成されたものを例示したが、これに限定されるものではない。また、図1〜図4は、電磁操作式開閉装置100の動作原理を説明するものに過ぎず、遮断器10の遮断方式、アクチュエータ20の構成、遮断器10に対する連動機構等、図示されたものあるいは方式に限定されないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
100 電磁操作式開閉装置、 10 遮断器、 11 真空バルブ、 12 固定接点、 13 可動接点、 20 アクチュエータ、 21(21A、21B) 駆動コイル、 21a 中心部空間、 22(22A、22B) ヨーク、 22a 挿通孔、 23 可動子(可動鉄心)、 24 永久磁石、 25 軸、 51 固定板、 52 開放ばね、 53 ばね受け、 54 接圧ばね、 55 開放ダンパ、 56 閉極ダンパ、 30 誘導コイル、 40 状態量監視装置、 41 信号検知手段、 42 状態量推定手段、 43 判定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁操作機構の駆動コイルに通電することによって可動鉄心を駆動し、該可動鉄心に連結された遮断器の可動接点を動作させるようにした開閉装置であって、上記駆動コイルに鎖交する磁束と同一の磁束が鎖交するように上記駆動コイルに近接して設けられた誘導コイルと、この誘導コイルに誘起された磁束変化に対応する信号を検知する信号検知手段と、この信号検知手段の出力信号に基づいて上記遮断器または上記電磁操作機構を含む駆動系の状態量を推定する状態量推定手段を備えたことを特徴とする開閉装置。
【請求項2】
上記電磁操作機構は、上記駆動コイルの周りを囲み、該駆動コイルの中心部空間に軸方向に連なる挿通孔を有する固定鉄心からなるヨークと、上記駆動コイルの中心部を軸方向に移動可能に配設され軸方向の一端部が上記挿通孔から上記ヨークの外方に突出された可動鉄心と、上記ヨークにおける上記可動鉄心が突出された側の端部に固着され、上記遮断器の閉極時に上記可動鉄心の上記突出された一端部を吸着して閉極状態を保持する永久磁石とを備えてなり、上記誘導コイルは上記中心軸方向における上記永久磁石に近い位置に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の開閉装置。
【請求項3】
上記駆動コイルは、上記中心軸方向における上記永久磁石に近い位置に設置された第1の駆動コイルと、この第1の駆動コイルに対して上記永久磁石とは反対側に並設された第2の駆動コイルからなり、上記誘導コイルは上記第1の駆動コイルのボビンに巻回されていることを特徴とする請求項2に記載の開閉装置。
【請求項4】
上記状態量推定手段は、上記信号検知手段によって検知された信号から得られる磁束変化の加速度情報を用いて、上記可動子の接点損耗量を含む状態量を推定することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の開閉装置。
【請求項5】
上記状態量推定手段は、上記加速度情報から、上記可動鉄心の動作開始時刻、上記遮断器の接点開離時刻、及び上記遮断器の開極完了時刻を含む特徴点を抽出することを特徴とする請求項4に記載の開閉装置。
【請求項6】
上記状態量推定手段は、上記加速度情報から抽出された特徴点の少なくとも1つを要素にもつテーブルから上記可動子の接点損耗量を含む状態量を推定することを特徴とする請求項5に記載の開閉装置。
【請求項7】
上記状態量推定手段で推定された状態量が、上記遮断器の動作の正常範囲に含まれているか否かを判定し、異常を検知した状態量に対応する情報を報知する判定手段を備えたことを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の開閉装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2012−113964(P2012−113964A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261907(P2010−261907)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】