説明

間接水冷型高圧放電ランプ装置

【課題】放電管の外周に外管が被嵌された高圧放電ランプと、該高圧放電ランプの外管の周囲を覆うように設けられた水冷管とを備え、該冷却管と高圧放電ランプの間に冷却水流路が形成された間接水冷型高圧放電ランプ装置において、水冷管や外管が放電管からの紫外線歪によって破損することがなく、冷却水が漏洩してしまうようなことのない構造を提供することにある。
【解決手段】前記高圧放電ランプを構成する放電管の表面粗さを、前記外管および前記水冷管の表面粗さよりも大きくしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、間接水冷型高圧放電ランプ装置に関するものであり、特に、放電管とこれが挿入される保護管とからなる高圧放電ランプを間接水冷する高圧放電ランプ装置に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクや塗料の乾燥、樹脂の硬化処理に使用する光化学反応用装置の紫外線照射光源や、半導体基板や液晶ディスプレイ用の液晶基板を露光する露光装置の紫外線照射光源としては、ロングアーク型高圧放電ランプが用いられている。
この種のランプにおいては、ランプ自体の破損防止のためや、被処理物への熱的影響を回避するために、冷却されて使用されることが通常である。
このような冷却を効率的かつ効果的に行うことができる構造をもつ高圧放電ランプとして、放電管の外周に外管を接触状態ないしは密着状態に設け、該外管の周囲を冷却することによって、放電管を間接的に冷却する間接水冷ランプの高圧放電ランプ装置が特開2010−067474号公報などで提案されている。
【0003】
図5(A)(B)に該従来技術が示されている。同図において、高圧放電ランプ10は、全体が棒状の、例えば石英ガラスからなる放電管11と、この放電管11が内部に挿入配置された、例えば石英ガラスからなる外管12とにより構成されている。
前記放電管11は、その両端が封止され内部に、例えばタングステンからなる一対の電極13が対向配置されたものであり、各電極13は放電管11に形成されたロッド状の封止部14内に気密に埋設された、モリブデン等の金属箔15を介して、外部リード16に電気的に接続されており、該外部リード16は前記封止部14の外端より軸方向外方に突出して伸びている。
そして、この放電管11は、外管12内に接触状態ないしは密着状態に挿入されていて、その両端で接着剤17およびベース18により一体化されて、高圧放電ランプ10を形成している。
また、前記放電管11内には、Hg、あるいは、Hgと共にFe,Tl,Sn,Zn,Inなどの陽イオンが封入されており、これらがランプ点灯中に励起され光が放射される。
【0004】
この高圧放電ランプ装置では、前記高圧放電ランプ10の外周には空隙を有してこれを被嵌するように円筒状の水冷管20が設けられていて、この高圧放電ランプ10、具体的には外管12と、水冷管20の間の空間には冷却水流路21が形成されている。
そして前記高圧放電ランプ10および水冷管20は、架台31および架台32に取り付けられており、該架台31、32にはそれぞれ冷却水流入路33、冷却水流出路34が形成されていて、これら冷却水流入路33および冷却水流出路34が前記水冷管20に連通している。
高圧水銀ランプ10の点灯時において、冷却水Wが図示しないポンプ等の適宜の冷却水供給手段によって冷却水流入路33に供給され、冷却水Wは、高圧放電ランプ10と水冷管20との間に形成された冷却水流路21内を、高圧放電ランプ10の壁面、具体的には外管12の外周面に沿って軸方向に流過して高圧放電ランプ10全体を間接的に冷却した後、冷却水流出路34を介して排出される。
【0005】
また、光照射方向(図5において下方向)に対して高圧放電ランプ10の背面側(上方向)には、例えば断面が放物状の反射面41を有する樋状の反射鏡40が、その第1焦点が高圧放電ランプ10の中心軸線(高圧放電ランプ10における一対の電極13の中心を結ぶ直線)と一致する状態で、該高圧放電ランプ10に沿って伸びるよう配置されている。
高圧放電ランプ10から放射される光は、直接的にあるいは反射鏡40により反射されて平行光とされてマスクステージ42に保持されたマスクMを介してワークステージ43上に載置された、例えばレジスト等の感光剤が塗布された液晶パネルや半導体素子などのワーク44に照射されるものである。
【0006】
ところで、上記従来技術においては、ランプ点灯によって発生する紫外線によって時間経過とともに石英ガラス等からなる高圧放電ランプの放電管および外管、あるいは水冷管に歪が蓄積していく。
これらのうち、放電管は、紫外線により歪みが蓄積したとしても、ランプ点灯により当該放電管の温度が800℃以上の高温になるために、その歪が緩和され、これが原因で破損が生じることは回避される。
一方、外管と水冷管においては、図5で示したように両部材の間に形成された冷却水流路に水を流過させて使用するため、これら水冷管と外管の温度は水温の100℃以下の温度にとどまる。ガラスは100℃以下では歪が緩和しないので、紫外線による歪みは蓄積したままとなる。
このようにしてランプを使い続けると、外管あるいは水冷管は、蓄積した歪みが限界に達した時に割れが生じてしまい、冷却水が漏れ出すといった事態が引き起こされる。
而して、万が一冷却水が漏れ出た場合には、処理した半導体や液晶パネルを汚染してしまうとともに、元の清浄な状態に戻すまで製造ライン全体を停止させなければならず、製造プロセス上大きな問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−067474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、放電管の外周に外管が被嵌された高圧放電ランプと、該高圧放電ランプの外管の周囲を覆うように設けられた水冷管とを備え、該冷却管と高圧放電ランプの間に冷却水流路が形成された間接水冷型高圧放電ランプ装置において、外管あるいは水冷管が紫外線歪により破損して冷却水が製造ラインを停止するといった事態を回避できて安全に使用することができる高圧放電ランプ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明では、前記高圧放電ランプを構成する前記放電管の表面粗さを、前記外管および前記水冷管の表面粗さよりも大きくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高圧放電ランプを構成する放電管の表面粗さを、外管や水冷管よりも大きくしたことにより、当該放電管は、紫外線歪の蓄積によって外管や冷却管よりも先に破損が生じるので、その異常を検知することができ、外管や水冷管が破損する前に装置の運転を停止することができて、冷却水が漏洩することを未然に防止できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る高圧放電ランプの放電管の外観斜視図。
【図2】本発明に係る高圧放電ランプの断面図。
【図3】放電管用の原管を加工する様子を説明する概略図。
【図4】実験結果を表す表。
【図5】従来技術の概略を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1はこの発明の高圧放電ランプ装置における高圧放電ランプ10を構成する放電管11を示す外観斜視図であって、図2はこの発明の高圧放電ランプ10の断面図である。
図2で示す高圧放電ランプ10の構造は従来技術と同様であって、共に石英ガラスからなる放電管11とこれを覆うように被嵌された外管12とからなる。放電管11は内部に電極13が対向配置されていて、その両端の封止部14で封止されている。電極13は封止部15内に埋設された金属箔15を介して外部リード16に接続されている。
そして、放電管11とこれに被嵌された外管12とは、両端部において、接着剤17とベース18によって一体化されている。
ここで、外管12の内外表面は傷がなく、できるだけなめらかなものが好ましく、その表面粗さRaが0.05mm以下であることが好ましい。
また、上記高圧放電ランプ10は、図5で示されるように、水冷管20内に嵌挿されるが、前記外管11と同様に、当該水冷管20の内外表面も傷がなく、できるだけなめらかなものが好ましく、その表面粗さRaが0.05mm以下であることが好ましい。
【0013】
これに対して、高圧放電ランプ10を構成する放電管11は、図1に示すように、その外表面11aが粗さ加工されていて、その表面粗さRaは前記外管12や水冷管20の表面粗さよりも大きくしてあり、その具体的な表面粗さRaは0.1〜0.5mmの範囲であることが好ましい。
このような表面粗さを得るための加工方法の一例を以下説明する。
【0014】
図3に示すように、所定の表面粗さは、センターレス研磨加工によって得ることができる。
図において、工作物支持刃50上に乗せられ支持されたガラス管51に対して、回転研削砥石52と調整車53をその両側から当接し、これらを回転させる。ガラス管51はその回転によって工作物支持刃50上で回転され、研削砥石52によってその表面が研磨加工されて擦過状態となり、表面に傷を形成して所定の表面粗さとする。
なお、センターレス研磨は円筒研削の一種であるので工作物に中心穴を必要としないため、研削盤への工作物の取り付けが不要である。更に、工作物全長にわたって工作物が支持されているため、研削抵抗によるたわみが少なく研削精度を一様に保つことができる。
なお、以上の説明において、表面粗さの定義はJIS B0601−1994に準拠し、表面粗さの測定はJIS B 0651−1996に準拠する。
【0015】
本発明においては、放電管の表面粗さが、外管及び水冷管のいずれの表面粗さよりも大きくされている。このようにすることで、外管又は水冷管の紫外線による歪が限界域に到達する以前に、放電管がランプの点灯、消灯で伸縮することによる引っ張り応力のほうが先に限界に達し、放電管が先に破損することになる。
放電管にわずかでもリークが生じると、放電空間内に他のガスが流入してランプ電圧が0Vになり、高圧放電ランプ装置はこれを異常として検知することができるので、装置が停止されることにより、高圧放電ランプ及び水冷管の交換時期を逃さずに交換することができるようになる。
この結果、紫外線による歪の蓄積の限界に到達する前に、外管及び水冷管の交換時期を逃すことなくこれを認識することができ、冷却機構の破損を回避することができるようになる。
【0016】
<高圧放電ランプの実施例と実験>
以下、本発明に係る高圧放電ランプの具体的な実施形態を説明する。
放電管11を構成する石英ガラス管は内径がφ3.4mm、放電管中央部の外径がφ7.4mmであり、予め外表面にセンターレス研磨機を用いて傷を形成し、表面粗さを測定した。
表面粗さの測定においては、東京精密株式会社製、サーフコム1500DXを使用した。具体的な表面粗さの測定では、テーブルにガラス管を固定し、測定子を任意の位置にセットして行った。測定子の移動距離には限りがあるため、ガラスの測定ポイントずらしていくことにより、放電管全長の表面粗さを測定した。この結果、表面粗さRaが0.1mmであることが判明した。
上記石英ガラス管を用いて、放電管11を製作した。放電管は、(長さ方向における中央部の)内径がφ3.4mm、外径φ7.4mmであった。封止部14の外径はφ6mm、放電管の全長は150mmであり、電極間距離は100mmであった。
電極13は、材質がタングステンであり、放電空間に位置される突出長さは3mmであった。
また、放電管内に封入された水銀の封入量は44mg/cmであった。
一方、外管12は石英ガラスよりなり、その外径がφ9.5mm、内径がφ7.4mmであった。
前記外管12と放電管11を固定して高圧放電ランプ10を構成すると共に、水冷管20を配置して図5に示すような高圧放電ランプ装置を構成した。
【0017】
比較例として、放電管11に傷を付けていない従来の高圧放電ランプを用いて高圧放電ランプ装置を作製した。このものの放電管11の表面粗さは外管12及び水冷管20と同じ0.01mmであった。
【0018】
本発明の高圧放電ランプと比較例の高圧放電ランプ定格電圧2000V、定格電流1.25A、入力電力2500Wとして点灯した。
この結果が図4に示されており、本発明に係る装置では1480h時間で放電管が破損してランプ電圧が0Vとなった。一方、比較例に係る装置では2340h経過した時点でも放電管が破損することなく、その時点で外管が破損し、冷却水が漏れ出て装置が停止した。
【0019】
以上説明したように、本発明の高圧放電ランプ装置では、高圧放電ランプを構成する放電管の表面粗さを、外管や水冷管の表面粗さよりも大きくしたので、紫外線歪によって、放電管が外管や水冷管よも先に破損して、外管や水冷管の破損による冷却水の漏洩という影響の大きな事故を防ぐことができるものである。
【符号の説明】
【0020】
10 高圧放電ランプ
11 放電管
11a 外表面
12 外管
13 電極
14 封止部
15 金属箔
16 外部リード
17 接着剤
18 ベース
20 水冷管
21 冷却水流路
31、32 架台
33 冷却水流入路
34 冷却水流出路
40 反射ミラー




【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電管の外周に外管が被嵌された高圧放電ランプと、該高圧放電ランプの外管の周囲を覆うように設けられた水冷管とを備え、該冷却管と高圧放電ランプの間に冷却水流路が形成された間接水冷型高圧放電ランプ装置において、
前記放電管の表面粗さは、前記外管および前記水冷管の表面粗さよりも大きい
ことを特徴とする間接水冷型高圧放電ランプ装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−164536(P2012−164536A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24512(P2011−24512)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】