説明

間葉系幹細胞の増殖を刺激するオリゴヌクレオチド及びその使用

ヒトを含む動物の多能性間葉系幹細胞の増殖を「in vitro」及び「in vivo」で非常に刺激する能力を有する、オリゴヌクレオチドが開示される。これらのオリゴヌクレオチドは、(1)本発明のODNの接種による、急性損傷、異常な遺伝子発現、又は後天性疾患によって損なわれた間葉系組織の再生と、(2)骨髄の小さなアリコートの除去により、損なわれた間葉系組織を有する宿主の治療、それらの間葉系幹細胞の単離、及び損なわれた身体部位(複数可)にMSCを送達するのに適切な生体適合性のある担体と組み合わせた、本発明のODNの1つ又は複数とのインキュベーションによって継代培養したMSCによる損なわれた組織の治療と、(3)例えば、損なわれた身体部位(複数可)に「in vitro」で産生された組織を送達するのに適切な生体適合性のある担体と組み合わせた、「in vitro」で得られた間葉系組織により組織損傷又は欠陥を置き換えて修復するための、本発明のODNの1つ又は複数とのインキュベーションによって継代培養されたMSCの方向付けられた分化による様々な間葉系組織の「in vitro」での生産と、(4)本発明のODNの1つ又は複数とのインキュベーションによって継代培養され、遺伝的欠陥を置き換えることができるタンパク質を発現するように遺伝子工学的手法によって形質転換されたMSCによる異常な遺伝子発現をともなう宿主の治療、のような広範囲の臨床的手順で用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MSCの「in vitro」及び「in vivo」の増殖を誘導する医薬組成物の製造のためのオリゴヌクレオチドの使用に関する。より詳細には、ヒトを含む動物中のMCSの増殖を非常に刺激する能力を有する約14〜100のヌクレオチドを有するオリゴヌクレオチドを指す。
【0002】
ヒトを含む動物の多能性間葉系幹細胞の増殖を「in vitro」及び「in vivo」で非常に刺激する能力を有する、これらのオリゴヌクレオチドが開示される。それらは、(1)本発明のODNの接種による、急性損傷、異常な遺伝子発現、又は後天性疾患によって損なわれた間葉系組織の再生と、(2)骨髄の小さなアリコートの除去により、損なわれた間葉系組織を有する宿主の治療、それらの間葉系幹細胞の単離、及び損なわれた身体部位(複数可)にMSCを送達するのに適切な生体適合性のある担体と組み合わせた、本発明のODNの1つ又は複数とのインキュベーションによって継代培養したMSCによる損なわれた組織の治療と、(3)例えば、損なわれた身体部位(複数可)に「in vitro」で産生された組織を送達するのに適切な生体適合性のある担体と組み合わせた、「in vitro」で得られた間葉系組織により組織損傷又は欠陥を置き換えて修復するための、本発明のODNの1つ又は複数とのインキュベーションによって継代培養されたMSCの方向付けられた分化による様々な間葉系組織の「in vitro」での生産と、(4)本発明のODNの1つ又は複数とのインキュベーションによって継代培養され、遺伝的欠陥を置き換えることができるタンパク質を発現するように遺伝子工学的手法によって形質転換されたMSCによる異常な遺伝子発現をともなう宿主の治療、のような広範囲の臨床的手順で用いることができる。
【0003】
動物の領域で、例えば組織に欠損のある場合の、間葉系組織を産生する方法が提供される。該方法は、薬学的に許容される担体中のオリゴヌクレオチドの1つ又は複数から成る組成物の、動物への局所的又は全身投与である。該組成物は、損なわれた部位での修復を誘導するのに有効な量で投与される。
【0004】
動物のMSCの「in vitro」での大規模な増殖のための方法も提供される。該方法は、動物から抽出された骨髄の小さなアリコートをインキュベートすることであって、医学的治療の成功に必要な細胞量を得るのに十分な時間、本発明のODNの1つ又は複数の有効濃度を含む培養培地中で、例えば、骨髄のアリコートに存在する細胞の「in vitro」でのインキュベートすることである。
【背景技術】
【0005】
骨髄間質細胞又は間葉系前駆細胞としても知られている間葉系幹細胞(MSC)は、様々な生理活性因子からの影響に依存して、「in vitro」で骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、腱細胞、筋細胞、肝細胞、腎細胞、心臓細胞、及び神経細胞へと分化することができる、特に、骨髄、血液、真皮及び骨膜中の身体部位で見られる芽球細胞である(Alhadlaq, A and Mao, JJ. Stem Cells Dev. 13:436, 2004)。さらに、培養されたMSCは、「in vivo」で所与の損傷組織部位に置かれた場合に、異なる細胞特異的系列へと分化する能力を有する。したがって、MSCは、全身性疾患のための全身的な移植、局所的組織欠損のための局所的な移植、遺伝子治療手順又は細胞工学手順における移植可能な組織及び器官の産出のような、医療用途の有益な材料である。MSCを単離するためには、骨髄又は他のMSC源中の他の細胞からMSCを分離することが必要である。骨髄細胞は、腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊柱、肋骨又は他の骨髄腔から得られてもよい。MSCの他の源は、胚の卵黄嚢、胎盤、臍帯、胎児及び青年期の皮膚、血液、及び他の間葉系幹細胞組織を含む。多くのプロセスが、培養におけるMSCの単離、精製、及び複製のために開発されている(Alhadlaq, A and Mao, JJ. Stem Cells Dev. 13:436, 2004)。しかしながら、MSCが骨髄又は他の源において非常に少数であることに加えて、限られた増殖能であることから、今までのところ、それらの臨床応用は限定されている。ウイルス形質転換タンパク質を用いるMSCの不死化が記述されている。しかしながら、潜在的な腫瘍誘導の可能性のため、形質転換細胞は、おそらく標準の治療には受け入れられない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここで、「in vitro」及び「in vivo」で、ヒトを含む動物の多能性間葉系幹細胞の増殖を刺激する強力な活性を有する化合物である、約14〜100、好ましくは14〜40、さらにより好ましくは14〜26のヌクレオチドを有するオリゴヌクレオチドを開示する。好ましい実施の形態によれば、本発明に従って用いられるオリゴヌクレオチドは、25以下のヌクレオチドから成り、アンチセンスではない。本発明の1つの実施の形態によれば、好ましいオリゴヌクレオチドは、PyNTTTTNT(式中、PyはC又はTであり、Nは任意のデオキシリボヌクレオチドである)である組成物を有する少なくとも1つのサブシークエンスを有する。
【0007】
適切なオリゴヌクレオチドは、
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
から成る群から選択されてもよい。
【0012】
本発明は、正常な新しい正常組織の生産のために、必要な場合に、欠損のある組織を有する動物に本発明のオリゴヌクレオチドの1つ又は複数を提供することを目的とする。本発明の別の目的は、医学的治療の成功のために、これらの細胞の十分な数を得ることができるように、多能性間葉系幹細胞の「in vitro」での複製を促進する方法を提供することである。
【0013】
これらの目的は当業者に明らかになるだろう。
【0014】
上記の目的の第1のものは、組織に欠損のある動物の部位において組織を再生するための方法を提供することによって達成され、これは、各場合に必要に応じてその部位において局所的又は全身的に、本発明のオリゴヌクレオチドの1つ又は複数から構成される組成物の有効な量を薬学的に許容される担体中で動物へ投与することであり、該組成物は、該部位における組織再生を誘導するのに有効な量で投与される。
【0015】
本発明のこの局面は、必要に応じて全身又は局所的に正常組織の産出を可能にする。下記に記載する本発明の骨形成ODNのいくつかを実施例として使用する前臨床結果は、ラットの組織の欠損において組織の形成を示す。
【0016】
上記の目的の第2のものは、多能性の間葉系幹細胞の「in vitro」での複製を促進する方法の提供によって達成され、該方法は、腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊柱、肋骨又は他の骨髄腔のような適切な源から骨髄細胞を採取し、本発明のオリゴヌクレオチドの1つ又は複数を追加した当該技術の培養培地を用いて、これらの細胞を「in vitro」で、医学的治療の成功に必要な細胞の量を得るのに十分な期間培養することである。
【0017】
特に、本発明によるオリゴヌクレオチドは、心臓発作による組織損傷の治療、骨格の欠損又は変性の治療、軟骨の欠損又は変性による組織損傷の治療、神経系の欠損又は変性による組織損傷の治療、脂肪組織の欠損又は変性による組織損傷の治療、肝臓の欠損又は変性による組織損傷の治療、筋肉の欠損又は変性による組織損傷の治療、皮膚の欠損又は変性による組織損傷の治療、熱傷事故による組織損傷の治療、膵臓の欠損又は変性による組織損傷の治療、粘膜の欠損又は変性による組織損傷の治療、血管の欠損又は変性による組織損傷の治療、血液の欠損又は変性による組織損傷の治療、及び/又は骨髄移植の改良のための医薬品の製造に用いることができる。
【0018】
本発明で使用されるオリゴヌクレオチドは、天然(ホスホジエステル)ホスフェート骨格のいかなる種類の改変も有していてもよく、例としては、5’インターヌクレオチド結合のホスフェート骨格改変若しくは3’ヌクレオチド結合のホスフェート骨格改変、又はホスホロチオエート結合のようなインターヌクレオチド結合の少なくとも1つを有していてもよい。
【0019】
上記で記載されたオリゴヌクレオチドの少なくとも1つを含んでいる医薬品は、好ましくはヒトに投与され、オリゴヌクレオチドは、好ましくは1用量当たり1μg〜100mgの量である。医薬品は、皮内注射、筋肉内注射又は静脈注射、又は経口、鼻腔内、肛門、膣、経皮的な経路によって投与されてもよく;医薬品は、液体、ゲル及び凍結乾燥された製剤から成る群から選択されてもよい。オリゴヌクレオチドは薬学的に許容される担体に含まれてもよく、及び/又は徐放性送達ビヒクルに封入されてもよい。
【0020】
オリゴヌクレオチドは、組織又は器官の欠損若しくは変性の治療を支援することを目的とした装置と組み合わせて、被験体にさらに投与されてもよい。
【0021】
一実施形態によれば、間葉系幹細胞は骨髄又は骨膜から得られる。さらなる実施の形態によれば、間葉系幹細胞は2つ以上の組織の細胞型の細胞(前記組織は好ましくは、骨組織、軟骨組織、脂肪組織、腱組織、靭帯組織、真皮組織、表皮組織、神経組織、心臓組織、腎臓組織、腺組織及び肝組織から選択される)に分化する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
組織の修復は、置き換えられる必要のある組織欠損がある部位でのみ、形態学的に正常で成熟した組織の形成が促進されることを意味する。
【0023】
「動物」とは、脊椎構造がある任意の動物、好ましくは哺乳類、及び最も好ましくはヒトを意味する。
【0024】
「被験体」は、ヒトを含む霊長目の動物を指す。
【0025】
本明細書において用いられる場合、用語「オリゴヌクレオチド」又は「オリゴ」は、複数のヌクレオチド(すなわち、ホスフェート基に、及び置換ピリミジン(例えばシトシン(C)、チミン(T)若しくはウラシル(U))、又は置換プリン(例えばアデニン(A)若しくはグアニン(G))のいずれかである置換可能な有機塩基に結合した糖(例えばリボース又はデオキシリボース)から成る分子)を意味するものとする。本明細書において用いられる場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、オリゴリボヌクレオチド(ORN)及びオリゴデオキシリボヌクレオチド(ODN)の両方を指す。用語「オリゴヌクレオチド」はさらにオリゴヌクレオシド(すなわちリン酸を除いたオリゴヌクレオチド)及び他の有機塩基を含有するポリマーも含むものとする。オリゴヌクレオチドは既存の核酸源(例えば、ゲノムDNA又はcDNA)から、しかし好ましくは合成(例えば、オリゴヌクレオチド合成によって生産された)から得ることができる。
【0026】
「オリゴヌクレオチド」は、ホスホジエステル結合によって結合された複数のヌクレオチドを指す。
【0027】
「免疫賦活オリゴヌクレオチド」は、統計的に有意な方法で、免疫系の細胞(すなわちリンパ球又はマクロファージ)を刺激する(すなわち、それらの細胞に対する細胞分裂促進性の効果を有するか、それらの細胞によって発現されるサイトカインを誘導、増加、又は減少させる)オリゴヌクレオチドを指す。
【0028】
「CpG」はシトシン−グアニンジヌクレオチドを指す。
【0029】
「CpGオリゴヌクレオチド」は、免疫系の細胞を刺激し、その免疫賦活活性が、シークエンス中の少なくとも1つのCpGの存在に決定的に依存するオリゴヌクレオチドを指す。
【0030】
「非CpGオリゴヌクレオチド」は、免疫系の細胞を刺激し、その免疫賦活活性が、シークエンス中のCpGの存在に決定的に依存しないオリゴヌクレオチドを指す。
【実施例】
【0031】
実施例1
材料及び方法
以下の材料及び方法は、実施例の全体にわたって概して用いられた。
1)オリゴヌクレオチド
ホスホロチオエートのインターヌクレオチド結合を有するオリゴヌクレオチドを購入し、Operon Technologies(Alameda, California)又はAnnovis (Aston, Pennsylvania)又はOligos Etc (Bethel, Maine)からの高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって精製した。ODNは、脱パイロジェン化した(depyrogenated)水の中で懸濁し、リムルス試験を用いてLPS混入を分析し、使用するまで−20℃で保存した。純度は、HPLC分析及びPAGE分析によって評価した。LPSレベルが検出できなかった場合、ODN調製品を使用した。
2)動物実験
2a―骨髄(BM)抽出:ラットのBMに由来するMSCは、8〜12週齢(約350g)のオスのスプレーグドーリーラットから採取した。動物は、ケタミン(50mg/kg)及びキシラシン(xilacine)(5mg/kg)の混合物の腹腔内(i.p.)注射によって麻酔をかけた。骨端を切除し、髄腔への接近を可能にした後に、全体のBMプラグを、1mlの注射器を使用して、100IU/mlゲンタマイシン及び25μg/mlアンフォテリシンを加えたα−MEM培地で、大腿部骨から洗い流した。
【0032】
2b―オリゴヌクレオチド治療による「in vivo」におけるMSCの複製刺激:重さ約350gの若い(8〜12週齢)成体のオスのスプレーグドーリーラットに、5日間1日に1度、オリゴヌクレオチドIMT504(配列番号2)250μgを含むPBSを300μl(投与された(treated)動物)、又はPBSを300μl(対照動物)皮下注射した。この2日後に、動物を犠牲にし、上述されるように、BMに由来するMSCを抽出した。
【0033】
2c―オリゴヌクレオチド治療による「in vivo」の骨形成刺激:重さ約350gの若い(8〜12週齢)成体のオスのスプレーグドーリーラットを使用した。動物は、ケタミン(50mg/kg)及びキシラシン(5mg/kg)の混合物の腹腔内(i.p.)注射によって麻酔をかけた。後脚を覆う皮膚を剃毛及び滅菌した後、1.5cmの縦方向の切開を脛骨最前部区域で行なった。骨における欠損を生じさせるために、生理食塩水による洗浄下で円形ダイヤモンドソーに接続された低速歯科用ドリルを使用して、骨切断術を行った。骨切断術のために、筋肉挿入のない部位を、足首下より15mmを選択した。創傷は骨髄に到達する程、十分に深かった。1%メチルセルロース3μl中のODNの一回の用量(各々の実験において述べられるように)を、右の脛骨に作られた欠損へ導入した。対照として、同量(3μl)のビヒクルを、左の脛骨に作られた欠損へ導入した。骨折仮骨の形成を、0日目、21日目及び28日目にX線写真で評価した。28日目において、動物はエーテル大気の下で安楽死させ、脛骨の摘出及び撮影を行なった。この後、脛骨を10%ホルモール溶液中で固定し、10%EDTA溶液中で脱灰し、パラフィンに包埋した。各々の脛骨の縦断面で切片を作成し、石灰化された区域を可視化するためにマッソンのトリクロム酸技法で染色し、光学顕微鏡の下で検査した。
3)組織培養
3a―MSCのコロニー形成単位の測定(Castro-Malaspina H., Gay R. E., Resnick G., Kapoor N., Meyers P., Chiarieri D., McKenzie S., Broxmeyer H.E., Moore M.A.著「ヒト骨髄線維芽細胞コロニー形成細胞(CFU−F)及びそれらの子孫細胞の特性評価(Characterization of human bone marrow fibroblast colony-forming cells(CFU-F)and their progeny)」(Blood. 1980; 56(2): 289-301)):上述されるような大腿部の骨から抽出した2×10の細胞を、100IU/mlゲンタマイシン、25μg/mlアンフォテリシン、2mM L−グルタミン及び20%ウシ胎仔血清が加えられた10mlのα−MEM培地を含む25cmの培養皿で培養した。インキュベーションは37℃、5%COで行なった。7日後に接着していない細胞を洗い流し、新しい培地を加えた。培養の最初の7日間に、ODNを投与した培養は、示されたODNを1μM含んでいた。インキュベーションを14日目まで継続した。この後に、接着細胞をPBSで2度洗浄し、メタノールで固定し、メイ−グルングバルド−ギムザ技法を使用して染色した。光学顕微鏡を使用して、コロニーの観察及びカウントを行なった。
【0034】
3b―長期的骨髄(LTBM)培養:この培養技術を、培養されたMSCの分化能を評価するために使用した(Gartner S., Kaplan H. S.著「ヒト骨髄細胞の長期培養(Long-term culture of human bone marrow cells)」(Proc Natl Acad Sci U S A. 1980; 77(8): 4756-4759))。上述されるような大腿部の骨から抽出した10×10の細胞を、100IU/mlゲンタマイシン、25μg/mlアンフォテリシン、2mM L−グルタミン、12.5%ウシ胎仔血清、12.5%ウマ血清、及び10−8Mハイドロコルチゾンが加えられた10mlのα−MEM培地を含む25cmの培養皿で培養した。インキュベーションは28日間37℃、5%COで行なった。接着していない細胞を、7日ごとに細胞上清を遠心分離することによって除去した。この後、上清の半分を新しい培地と取り替え、培養皿に返した。培養の最初の7日間に、ODNを投与した培養は、示されたODNを1μM含んでいた。この後に、この刺激物質は、培地交換で次第に希釈された。インキュベーション後に、接着細胞をPBSで2度洗浄し、メタノールで固定し、メイ−グルングバルド−ギムザ技法を使用して染色した。細胞は光学顕微鏡を使用して観察した。
【0035】
3c―「in vitro」におけるMSCの骨形成分化(Bruder S. P, Jaiswal N., Haynesworth S.E.著「大規模な継代培養中及び凍結保存後の、精製されたヒト間葉系幹細胞の成長速度、自己複製、及び骨形成能(Growth kinetics, self-renewal, and the osteogenic potential of purified human mesenchymal stem cells during extensive subcultivation and following cryopreservation)」(J Cell Biochem. 1997; vol. 64, p. 278)):上述されるような大腿部の骨から抽出した2×10の細胞を、100IU/mlゲンタマイシン、2.5μg/mlアンフォテリシン、2mM L−グルタミン及び10%ウシ胎仔血清が加えられた10mlのD−MEM培地を含む25cmの培養皿で培養した。培養は、lμMの示されたODNも含んでいた。3日間の培養後に、接着していない細胞を洗い流し、新しい培地及びODNを加えた。さらに7日培養後に、細胞をトリプシン処理し、3000細胞/cmで分化培地を含む新しい培養皿へ播種した。この培地は、10−8のデキサメタゾン、0.2mMアスコルビン酸及び10mMβ−グリセロリン酸を加えたD−MEMであった。細胞上清を3日ごとに新しい培地で取り替えた。21日後に、接着細胞をPBSで2度洗浄し、メタノールで固定し、カルシウム沈着を可視化するためにアリザリンレッド技法を使用して染色した。
実施例2
「in vitro」におけるMSC複製のODNによる刺激
これらの実験において使用するオリゴヌクレオチドは、IMT504(配列番号2)であった。このオリゴヌクレオチドは24ヌクレオチドの長さであり;そのヌクレオチド配列は5’−TCATCATTTTGTCATTTTGTCATT−3’であり、すべてのDNAの(天然の)フォスフォジエステル結合を、酵素の分解から保護するためにホスホロチオエート結合で置換した。図1aは、ラットの大腿部の骨髄から抽出されたMSCの複製がODN504の存在下で非常に刺激されることを示す。図1bは、対照及び処置した培養における細胞の典型的なMSC形態を示す。他の多くのオリゴヌクレオチド(例えば:配列番号3、配列番号4、配列番号7及び配列番号10)を分析し、同様の結果であった。
実施例3
ODNの刺激の下で「in vitro」で複製したMSCは多能性分化能を保持する
図2aは、ODN刺激の下で「in vitro」で複製したMSCは、正常なMSCで期待されるように、LTBM培養において、脂肪細胞、線維芽細胞及びマクロファージへ分化することができたことを示す(Gartner S., Kaplan H.S.著「ヒト骨髄細胞の長期培養(Long -term culture of human bone marrow cells)」(Proc Natl Acad Sci U S A. 1980; 77(8): 4756-4759))。他方では、図2bは、骨形成培地中(Bruder S. P, Jaiswal N., Haynesworth S.E.著「大規模な継代培養中及び凍結保存後の、精製されたヒト間葉系幹細胞の成長速度、自己複製、及び骨形成能(Growth kinetics, self-renewal, and the osteogenic potential of purified human mesenchymal stem cells during extensive subcultivation and following cryopreservation)」(J Cell Biochem. 1997; vol. 64, p. 278))で、ODN刺激の下で「in vitro」で複製したMSCが、カルシウム沈着を形成する骨芽細胞に分化することができたことを示す。
実施例4
CpG ODNは、「in vitro」におけるMSCの複製の不十分な刺激因子である
1. 図3は、CpG ODNプロトタイプODN2006及びODN2216(Krieg, A.M.著「細菌DNA中のGpGモチーフ及びそれらの免疫効果(GpG motifs in bacterial DNA and their immune effects)」(2002. Annu. Rev. Immunol. 20, 709-760))が、ODN504と比較して、MSCの複製の不十分な刺激因子であることを示す。他の多くのCpG ODNを分析し、同一の結果が得られた。
実施例5
「in vivo」におけるMSCの複製のODNによる刺激
図4は、ODN504を接種されたラットの骨髄が、プラセボを接種されたラットと比較して、MSCコロニー形成細胞の非常に高いレベルを有していることを示す。この結果は、ODNによるMSC複製の刺激が「in vivo」においても生じることを示す。
実施例6
「in vivo」における骨形成のODNによる刺激
MSCの複製の刺激がODNによって誘導されることが可能であり、動物に注入された場合、MSCが骨形成するので(Bruder SP, Fink DJ, Caplan AI.著「骨発生、骨修復及び骨の再生治療における間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells in bone development, bone repair, and skeletal regeneration therapy)」(J Cell Biochem. 1994 Nov;56(3):283-94. Review))、ODN注入によって「in vivo」で過剰複製したMSCの骨形成能を分析した。図5a及び図5bは、ODN IMT504を投与した動物において、プラセボを注入したラットと比較してラットの脛骨で誘発された実験による欠損が急速に修復されることを示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1a】図1aは、ODN504(配列2)で刺激された、又はODN504の非存在下での、ラットの大腿部の骨髄から抽出されたMSCの複製を示す。
【図1b】図1bは、対照の培養及びODN IMT504処理された培養におけるMSC細胞の形態を示す。
【図2a】図2aは、ODN IMT504を加えたLTBM培養における、脂肪細胞、線維芽細胞及びマクロファージを示す。
【図2b】図2bは、ODN IMT504を加えた骨形成培地中の、ラット骨髄細胞から得られた骨芽細胞におけるカルシウム沈着を示す。
【図3】図3は、ODN504を加えた培養におけるMSC複製能と比較した、CpG ODNプロトタイプODN2006及びODN2216を加えた培養におけるMSC複製能を示す。
【図4】図4は、ODN504を接種したラットの骨髄細胞又は接種していない細胞をインキュベーションすることにより得られたMSCのコロニー形成単位を示す。
【図5a】図5aは、4週間の処置後にプラセボを注入されたラットと比較した、ODN IMT504を注入されたラットの脛骨における、実験的に誘発された欠損のX線写真の変遷を示す。
【図5b】図5bは、4週間の処置後にプラセボを注入されたラットと比較した、ODN IMT504を注入されたラットの脛骨における、実験的に誘発された欠損の組織学的分析を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系組織機能障害の治療のための、及び/又は間葉系組織再生を誘導するための医薬品の製造のための、約14〜40のヌクレオチドを有しており、かつ、式PyNTTTTNT(式中、PyがC又はTであり、Nが任意のデオキシリボヌクレオチドである)の少なくとも1つのサブシークエンスを有する、オリゴヌクレオチドの使用。
【請求項2】
前記間葉系組織が、骨組織、軟骨組織、脂肪組織、腱組織、靭帯組織、真皮組織、表皮組織、神経組織、心臓組織、腎臓組織、腺組織及び肝組織から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
心臓発作による組織損傷の治療、骨格の欠損又は変性の治療、軟骨の欠損又は変性による組織損傷の治療、神経系の欠損又は変性による組織損傷の治療、脂肪組織の欠損又は変性による組織損傷の治療、肝臓の欠損又は変性による組織損傷の治療、筋肉の欠損又は変性による組織損傷の治療、皮膚の欠損又は変性による組織損傷の治療、熱傷事故による組織損傷の治療、膵臓の欠損又は変性による組織損傷の治療、粘膜の欠損又は変性による組織損傷の治療、血管の欠損又は変性による組織損傷の治療、血液の欠損又は変性による組織損傷の治療のための医薬品を製造するための、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記オリゴヌクレオチドが、14〜26のヌクレオチドから成ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記オリゴヌクレオチドが、天然(ホスホジエステル)ホスフェート骨格の任意の種類の改変を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記オリゴヌクレオチドが、5’インターヌクレオチド結合にホスフェート骨格改変を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記オリゴヌクレオチドが、3’インターヌクレオチド結合にホスフェート骨格改変を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記オリゴヌクレオチドが、ホスホロチオエート結合として、インターヌクレオチド結合の少なくとも1つを有していることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記オリゴヌクレオチドが、
【化1】

【化2】

【化3】

から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記医薬品が、ヒトに投与されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記オリゴヌクレオチドが、薬学的に許容される担体に含まれていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記オリゴヌクレオチドが、徐放性送達ビヒクル中に封入されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記オリゴヌクレオチドが、組織又は器官の欠損若しくは変性の治療を支援すること目的とした装置と組み合わせて被験体に投与されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記オリゴヌクレオチドが、1用量当たり1μg〜100mgの量で存在することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記医薬品が、液体、ゲル及び凍結乾燥された製剤から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記医薬品が、皮内注射、筋肉内注射、又は静脈注射によって投与されることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記医薬品が、経口、鼻腔内、肛門、膣、又は経皮的な経路によって投与されることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記間葉系幹細胞が、骨髄から得られることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記間葉系幹細胞が、骨膜から得られることを特徴とする、請求項1〜18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記間葉系幹細胞が、2つ以上の組織細胞型の細胞に分化することを特徴とする、請求項1〜19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記オリゴヌクレオチドが、25以下のヌクレオチドから成ることを特徴とする、請求項1〜20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記オリゴヌクレオチドが、アンチセンスでないことを特徴とする、請求項1〜21のいずれか一項に記載の使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【公表番号】特表2008−542339(P2008−542339A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514102(P2008−514102)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062773
【国際公開番号】WO2006/128885
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(504438886)
【Fターム(参考)】