説明

間葉系幹細胞の増殖促進剤、それを用いた間葉系幹細胞の増殖促進方法および製造方法

【課題】 間葉系幹細胞を培養により増殖するにあたって、優れた安全性で、前記間葉系幹細胞の増殖を促進する増殖促進剤、それを用いた増殖促進方法および製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の増殖促進剤は、間葉系幹細胞の増殖を促進する増殖促進剤であって、凝固臍帯血の液性成分を含むことを特徴とする。このように、本発明によれば、非常に安全性に優れ、簡便な操作で、間葉系幹細胞の増殖を促進できるため、例えば、再生医療の分野において、より一層、間葉系幹細胞の有効利用を促進できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞の増殖を促進する増殖促進剤、それを用いた間葉系幹細胞の増殖促進方法および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は、骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨細胞等の間葉系細胞への分化能を持つ多能性幹細胞であり、骨髄液および脂肪組織等に存在する。この多能性から、前記間葉系幹細胞を、骨、血管、心筋に再構築し、再生医療に利用することが試みられている。組織の再構築には、多数の前記間葉系幹細胞を要するが、前記骨髄液等の生体試料から得られる前記間葉系幹細胞はわずかである。このため、前記間葉系幹細胞の増殖方法の開発が期待されている。前記増殖方法として、例えば、抗菌ペプチドを含む培地を用いる方法(特許文献1)、ウイルスベクターを用いて転写因子遺伝子を導入する方法(特許文献2)等が報告されている。しかしながら、これらの方法は、細胞の増殖効率および安全性が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−37426号公報
【特許文献2】特開2009−11254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、間葉系幹細胞を培養により増殖するにあたって、優れた安全性で、前記間葉系幹細胞の増殖を促進する増殖促進剤、それを用いた増殖促進方法および製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明の増殖促進剤は、間葉系幹細胞の増殖を促進する増殖促進剤であって、凝固臍帯血の液性成分を含むことを特徴とする。
【0006】
本発明の増殖促進方法は、間葉系幹細胞の増殖を促進する方法であって、前記本発明の増殖促進剤を含む培地で前記間葉系幹細胞を培養することにより、前記間葉系幹細胞の増殖を促進する工程を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の製造方法は、間葉系幹細胞の製造方法であって、前記本発明の増殖促進方法により、前記間葉系幹細胞の増殖を促進する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前述のように、例えば、安全性に問題があるウイルスベクターを使用することなく、凝固臍帯血の液性成分を用いることで、間葉系幹細胞の増殖を促進できる。このため、非常に安全性に優れ、簡便な操作で、間葉系幹細胞を増殖できる。このように、本発明によれば、間葉系幹細胞の増殖を促進できるため、例えば、再生医療の分野において、より一層、間葉系幹細胞の有効利用を促進できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<増殖促進剤>
本発明の増殖促進剤は、前述のように、間葉系幹細胞の増殖を促進する増殖促進剤であって、凝固臍帯血の液性成分を含むことを特徴とする。
【0010】
臍帯血は、胎盤および臍帯に含まれる血液である。前記臍帯血は、通常、病院において、娩出時および娩出後に、胎盤および臍帯に針を刺し、前記針からチューブを介して、採血バックに採取される。前記チューブおよび前記採血バックから、臍帯血を得られる。
【0011】
本発明において、凝固していない臍帯血を「未処理臍帯血」または「非凝固臍帯血」という。前記未処理臍帯血は、特に制限されず、血小板を含んでいればよい。前記未処理臍帯血は、例えば、臍帯血そのものでもよいし、血小板を含む臍帯血液性成分でもよい。前記血小板を含む臍帯血液性成分は、例えば、前記血小板を含む血漿が好ましい。前記血小板を含む血漿は、例えば、いわゆる多血小板血漿(Platelet−Rich−Plasma)等があげられる。「血漿」は、一般に、血液から、血球(赤血球、白血球および血小板)を除いた液体画分を意味し、「血清」は、一般に、血液から、血球(赤血球、白血球および血小板)と数種の血液凝固因子とを除いた液体画分を意味し、前記血液凝固因子は、例えば、フィブリノゲン(I因子)、プロトロンビン(II因子)等である。本発明において、前記未処理臍帯血として血漿を使用する場合、血小板を含む血漿であればよい。
【0012】
本発明において、前記未処理臍帯血または前記非凝固臍帯血に凝固処理を施したものを「凝固臍帯血」という。前記凝固臍帯血は、例えば、臍帯血そのものに凝固処理を施したものでもよいし、前記血小板を含む臍帯血液性成分に凝固処理を施したものでもよい。前記凝固処理の方法は、何ら制限されず、従来公知の方法があげられる。本発明において、「凝固」は、例えば、血小板の凝集の意味でもよく、「凝固処理」は、血小板の凝固処理でもよい。
【0013】
臍帯血そのものを凝固処理する場合、例えば、以下のようにして、前記凝固臍帯血を得ることができる。
【0014】
前記未処理臍帯血が、凝固していない臍帯血そのものである場合は、例えば、抗凝固剤を含む非凝固臍帯血と、抗凝固剤を含まない非凝固臍帯血とがあげられる。前述のように、体内から臍帯血を採取する際、例えば、抗凝固剤を含む採血バックを使用することで、前記抗凝固剤を含む非凝固臍帯血が得られる。前記抗凝固剤を含む非凝固臍帯血に対する凝固処理は、特に制限されない。前記凝固処理は、例えば、前記抗凝固剤に対する中和剤の存在下で行うことが好ましい。前記抗凝固剤は、例えば、クエン酸、へパリン等があげられる。前記中和剤は、特に制限されず、前記抗凝固剤の種類に応じて適宜設定でき、例えば、カルシウム、プロタミン等があげられる。前記抗凝固剤がクエン酸の場合、前記中和剤は、例えば、塩化カルシウム液等のカルシウム液が好ましく、前記抗凝固剤がヘパリンの場合、前記中和剤は、例えば、プロタミン等が好ましい。前記凝固処理は、例えば、物理的な処理でもよいし、化学的な処理でもよい。前記物理的な処理は、例えば、前記中和剤の存在下、前記非凝固臍帯血を異物と接触させる方法があげられる。前記異物は、例えば、ビーズ等の後述する血液凝固剤、バック、遠沈管等の容器等があげられる。前記化学的な処理は、例えば、前記中和剤の存在下、例えば、血液凝固反応を促進する血液凝固剤を添加する方法があげられる。前記血液凝固剤は、例えば、血小板凝集を促進する物質があげられ、具体例としては、例えば、ADP(アデノシン二リン酸)、コラーゲン、トロンビン、ビタミンK等があげられる。
【0015】
他方、前記抗凝固剤を含まない非凝固臍帯血の場合、凝固処理は、例えば、物理的な処理があげられ、具体的には、前記非凝固臍帯血を前記異物と接触させる方法があげられる。前述のように、体内から臍帯血を採取する際、例えば、前記抗凝固剤を含まない採血チューブおよび採血バックを使用することで、体内からの臍帯血が、前記採血チューブおよび採血バックと接触し、血液凝固反応が起こる。このため、前記採血チューブおよび前記採血バック内の臍帯血を、そのまま凝固臍帯血として使用できる。
【0016】
このように臍帯血そのものを凝固処理した場合、前記凝固臍帯血の液性成分は、例えば、前記凝固臍帯血に含まれた状態でもよいし、前記凝固臍帯血から回収された状態でもよい。後者の場合、例えば、前記凝固臍帯血から液体画分を回収することにより、前記凝固臍帯血の液性成分を得ることができる。前記液性成分は、例えば、血清でもよいし、血漿でもよい。
【0017】
前記凝固臍帯血からの液性成分の回収方法は、特に制限されず、公知の方法が採用できる。具体例としては、例えば、遠心分離処理、沈殿処理、膜分離処理、ろ過処理、吸着処理等があげられる。前記膜分離処理は、例えば、各種フィルターにより、血球成分等を除去し、前記液性成分を回収する方法があげられる。中でも、遠心分離処理が好ましい。前記遠心分離処理の条件は、特に制限されず、例えば、22834m/s、4℃、10分間の条件が例示できる。また、前記液性成分として、前記凝固臍帯血から血清を得る場合、例えば、前記凝固臍帯血に加熱処理を施した後、前記回収処理を行うことが好ましい。
【0018】
つぎに、凝固していない血小板を含む臍帯血液性成分(以下、「非凝固臍帯血の液性成分」ともいう)を凝固処理する場合、例えば、以下のようにして、前記凝固臍帯血を得ることができる。
【0019】
前記非凝固臍帯血の液性成分は、例えば、前述と同様の方法によって、臍帯血から回収できる。前記臍帯血は、例えば、抗凝固剤を含む臍帯血があげられ、これから前記非凝固臍帯血の液性成分を回収できる。前記非凝固臍帯血の液性成分は、血小板を含んでいればよく、例えば、血小板を含む血漿があげられ、中でも、好ましくは多血小板血漿である。前記非凝固臍帯血の液性成分の凝固処理は、特に制限されず、前述した前記抗凝固剤を含む非凝固臍帯血そのものの凝固処理と同様に行うことができる。具体的には、例えば、前記抗凝固剤に対する中和剤の存在下で行うことが好ましい。前記凝固処理は、例えば、物理的な処理でもよいし、化学的な処理でもよい。前記物理的な処理は、例えば、前記中和剤の存在下、前記非凝固臍帯血の液性成分を、前述した異物と接触させる方法があげられる。前記化学的な処理は、例えば、前記中和剤の存在下、前述した血液凝固剤を添加する方法があげられる。
【0020】
前記血小板を含む非凝固臍帯血の液性成分を凝固処理した場合、例えば、前記凝固処理した前記非凝固臍帯血の液性成分を、本発明の増殖促進剤として使用できる。前記非凝固臍帯血の液性成分が血漿の場合、例えば、前記凝固処理の後、さらに、凝固画分を除去し、液性成分として血清を回収し、これを、本発明の増殖促進剤として使用してもよい。前記凝固画分を除去する場合、例えば、前記凝固処理した前記非凝固臍帯血の液性成分に加熱処理を施した後、前記凝固画分の除去を行うことが好ましい。
【0021】
前記臍帯血の由来は、特に制限されず、例えば、ヒト、および、げっ歯類、家畜類、ヒトを除く霊長類等の非ヒト哺乳類等があげられる。
【0022】
(第1の形態)
一例として、前記抗凝固剤を含む非凝固臍帯血から多血小板血漿を回収し、前記多血小板血漿に凝固処理を施し、前記凝固臍帯血の液性成分を回収する方法を説明する。本発明は、これには制限されない。
【0023】
まず、前記非凝固臍帯血に、赤血球を分離するための赤血球沈降剤を添加する。前記赤血球沈降剤は、例えば、HES(Hydroxy Ethyl Starch)等があげられる。前記赤血球沈降剤の前記非凝固臍帯血への添加量は、特に制限されず、例えば、1〜50mg/mLが好ましい。前記赤血球沈降剤を添加した前記非凝固臍帯血の静置によって、前記非凝固臍帯血は、赤血球を含む画分と、造血幹細胞を含む上清画分とに分離される。前記分離の条件は、特に制限されず、例えば、温度15〜25℃である。前記非凝固臍帯血が、例えば、予め前記赤血球沈降剤を含む場合、前記赤血球沈降剤を添加しなくてもよい(以下、同様)。
【0024】
つぎに、前記上清画分を、造血幹細胞を含む沈降画分と、血小板を含む液体画分とに分離する。前記液体画分は、例えば、血小板含有の液性成分を含む画分である。前記液体画分は、例えば、血漿を含む画分(血漿画分)であり、より好ましくは、多血小板血漿である。前記血小板を含む液体画分の分離条件は、特に制限されず、例えば、従来公知の多血小板血漿の回収方法に従って行える。前記回収方法は、例えば、遠心分離があげられ、前記遠心分離の条件は、特に制限されず、例えば、遠心加速度2940〜11760m/s(300〜1200×g)、温度1〜20℃、時間3〜6分である。
【0025】
つぎに、前記血小板を含む液体画分に、前記血液凝固剤を接触させる。
【0026】
前記血液凝固剤は、例えば、血液の凝固を促進するものであり、具体的には、例えば、血小板および血液凝固因子等の被活性化因子を活性化する。前記血液凝固剤は、特に制限されず、例えば、特許第3788479号等に記載されているものが使用できる。前記血液凝固剤は、例えば、前記臍帯血に不溶であり、固体であることが好ましい。前記血液凝固剤の形態は、例えば、粒状、顆粒状、塊状が好ましい。前記血液凝固剤の形状は、略球状、正球状等の球状が好ましい。前記血液凝固剤の大きさは、特に制限されず、前記形状が球状の場合、例えば、直径は、1〜10mmが好ましく、より好ましくは3〜5mmである。前記血液凝固剤は、例えば、多孔質構造でもよい。前記多孔質構造の前記血液凝固剤は、単位体積あたりの表面積を大きく設計でき、効率良く血小板等の活性化を行える。
【0027】
前記血液凝固剤の材質は、特に制限されず、例えば、その表面が、二酸化ケイ素を含む層から形成されていることが好ましい。前記二酸化ケイ素は、例えば、ガラス、シリカ、珪藻土、カオリン等があげられる。前記血液凝固剤は、好ましくは、ガラスビーズである。さらに、前記血液凝固剤は、その芯体が、例えば、磁性物質を含んでもよい。このように前記血液凝固剤が磁性物質を含む場合、例えば、磁界を作用させることにより、前記液体画分の攪拌および前記血液凝固剤の回収を、容易かつ迅速に行える。
【0028】
この接触処理は、例えば、前記血液凝固剤を入れた遠心管等のチューブまたはバックに、前記液体画分を注入することで行える。
【0029】
前記液体画分に対する前記血液凝固剤の割合は、特に制限されず、例えば、前記血液凝固剤の表面積が、前記液体画分1mLに対して、0.1mm〜25mmの範囲であることが好ましい。
【0030】
前記接触処理の条件は、特に制限されず、例えば、温度は、4〜37℃が好ましく、より好ましくは15〜25℃であり、時間は、10〜90分が好ましく、より好ましくは20〜30分である。前記接触処理は、例えば、振とう条件下で行うことが好ましい。
【0031】
このように、前記液体画分に前記血液凝固剤を添加することによって、前記凝固臍帯血の液性成分が得られる。前記凝固臍帯血の液性成分は、そのまま、本発明の増殖促進剤として使用してもよいし、例えば、希釈、濃縮したものを、本発明の増殖促進剤として使用することもできる。
【0032】
前記血液凝固剤を含む液体画分がフィブリノゲン等の血液凝固因子を含む場合、例えば、さらに、前記液体画分から前記血液凝固因子を除去して、前記凝固臍帯血の液性成分として使用することもできる。具体的には、前記血液凝固剤を含む液体画分が、例えば、前記血液凝固因子を含む血漿画分である場合、前記血液凝固因子を除去して、血清を回収し、これを前記凝固臍帯血の液性成分として使用することが好ましい。
【0033】
前記血液凝固因子の除去は、例えば、前記血液凝固剤による接触処理の後に行うことが好ましい。前記血液凝固因子の除去方法は、特に制限されず、例えば、フィブリノゲン等の血液凝固因子を変性させ、不溶性画分として除去する方法があげられる。具体的には、例えば、フィブリノゲンの変性によりフィブリンを形成させて、不溶性画分として除去する方法があげられる。前記変性方法は、特に制限されず、例えば、熱変性があげられ、具体的には、例えば、前記血液凝固剤を含む液体画分に加熱処理を施す方法があげられる。前記加熱処理の条件は、特に制限されず、例えば、温度は、50〜60℃が好ましく、時間は、10〜120分が好ましく、より好ましくは30〜60分である。前記不溶性画分の除去は、例えば、前記加熱処理後の前記血液凝固剤を含む液体画分を、静置、遠心またはフィルターろ過等することによって行える。そして、例えば、静置後の上清画分、遠心後の上清画分、または、フィルターろ過後のろ液を回収することで、前記凝固臍帯血の液性成分が得られる。前記静置、遠心またはフィルターろ過等の条件は、何ら制限されず、従来公知の条件が採用できる。また、前記血液凝固剤を含む液体画分からの前記血液凝固因子の除去方法は、この他に、例えば、前記血液凝固剤を含む液体画分に対する、塩化カルシウム、トロンビン等の凝固因子の添加等、血液凝固系の活性化機構を利用した方法があげられる。前記方法の具体的な条件は、何ら制限されず、従来公知の条件が採用できる。
【0034】
以上のようにして調製した前記凝固臍帯血の液性成分は、例えば、そのまま、本発明の増殖促進剤として使用してもよいし、例えば、希釈、濃縮したものを、本発明の増殖促進剤として使用することもできる。
【0035】
(第2の形態)
一例として、前記抗凝固剤を含む非凝固臍帯血に凝固処理を施し、前記凝固臍帯血の液性成分を回収する方法を説明する。本発明は、これには制限されない。
【0036】
まず、前記非凝固臍帯血に、前記血液凝固剤を接触させる。前記血液凝固剤は、例えば、前述の通りであり、同様にして使用できる。このように、前記非凝固臍帯血に前記血液凝固剤を添加することによって、凝固臍帯血を得ることができる。
【0037】
つぎに、前記凝固臍帯血を、沈降画分と液体画分とに分離する。この液体画分を、本発明の凝固臍帯血の液性成分として使用することができる。前記分離方法は、特に制限されず、例えば、前記第1の形態と同様に、遠心分離処理が好ましい。また、分離の前に、前述と同様に、加熱処理等の変性処理を施してもよい。
【0038】
<増殖促進剤の製造方法>
本発明の製造方法は、凝固臍帯血の液性成分を回収する工程を含むことを特徴とする。本発明において、前記凝固臍帯血および前記液性成分等は、前述の通りである。
【0039】
本発明は、さらに、前記未処理臍帯血を凝固させる工程を含んでもよく、例えば、前記未処理臍帯血を血液凝固剤と接触させることで凝固させることができる。
【0040】
<増殖促進方法>
本発明の増殖促進方法は、前述のように、間葉系幹細胞の増殖を促進する方法であって、本発明の増殖促進剤を含む培地で前記間葉系幹細胞を培養することにより、前記間葉系幹細胞の増殖を促進する工程を含むことを特徴とする。
【0041】
本発明において、増殖促進目的とする間葉系幹細胞の種類は、特に制限されず、例えば、骨髄間葉系幹細胞、臍帯血間葉系幹細胞、脂肪組織由来間葉系幹細胞、歯髄間葉系幹細胞等があげられる。前記間葉系幹細胞の採取方法は、特に制限されず、従来公知の方法に基づいて行える。
【0042】
前記間葉系幹細胞の由来は、特に制限されず、例えば、ヒト、および、げっ歯類、家畜類、ヒトを除く霊長類等の非ヒト哺乳類等があげられる。また、本発明の増殖促進剤における前記凝固臍帯血の液性成分と、増殖対象となる前記間葉系幹細胞とは、同一の個体由来であることが好ましい。
【0043】
本発明において、前記間葉系幹細胞の増殖を促進する工程は、前述のように、前記本発明の増殖促進剤を含む培地に前記間葉系幹細胞を播種することで行える。以下に、その具体例を示すが、本発明は、これには制限されない。
【0044】
前記培地は、前記本発明の増殖促進剤を含有すればよく、その他の構成や条件は、何ら制限されない。前記培地は、例えば、前記間葉系幹細胞の培養に使用可能な培地があげられ、具体的には、例えば、α−Minimal essential medium培地(αMEM培地)、Dulbecco’s modified eagle medium培地(DMEM培地)等が使用できる。前記培地における前記本発明の増殖促進剤の濃度は、特に制限されず、例えば、前記凝固臍帯血の液性成分の濃度が、0.01〜20v/v%であり、好ましくは1〜15v/v%であり、より好ましくは5〜10v/v%である。前記培地1mLあたりの前記間葉系幹細胞数は、例えば、1000〜10万個である。前記培地は、さらに、添加物を含んでもよく、前記添加物は、例えば、サイトカイン、抗生物質、塩類、ビタミン等があげられる。
【0045】
前記培養条件は、特に制限されず、温度は、例えば、37℃であり、時間は、例えば、2〜10日である。また、前記培地は、例えば、1〜5日ごとに新しい培地に取り換えることが好ましい。前記培地の取換え方法は、何ら制限されず、例えば、所定時間ごとに培地交換する方法、新たな培地を連続的または断続的に供給する方法等があげられる。後者の場合、例えば、前記新たな培地の供給にあわせて、古い培地の一部を連続的または断続的に廃棄することが好ましい。
【0046】
<間葉系幹細胞の製造方法>
つぎに、本発明の製造方法は、前述のように、間葉系幹細胞の製造方法であって、本発明の間葉系幹細胞の増殖促進方法により、前記間葉系幹細胞の増殖を促進する工程を含むことを特徴とする。
【0047】
本発明の製造方法は、前記間葉系幹細胞の増殖促進に、本発明の増殖促進方法を使用することが特徴であり、その他の条件および構成は何ら制限されない。本発明の製造方法は、特に示さない限り、本発明の増殖促進方法と同様に行える。
【0048】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により制限されない。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
本例では、前記血液凝固剤としてガラスビーズを使用し、前記凝固臍帯血の血清を調製して、前記間葉系幹細胞の増殖への影響を確認した。
【0050】
(1)血清の調製
ガラスビーズ(粒径4mm、ブライト標識工業社製)2個を含む5×10cmの大きさのPVC製バッグに、抗凝固剤を含むヒト臍帯血20mLを入れた(n=8)。前記バッグを、20℃で30分間インキュベートして凝固処理を行った後、遠心分離(22834m/s、4℃、10分間)して、上清を採取した。この上清を、56℃で30分間加熱処理した後、孔径0.22μmのフィルター(PVDF膜、ミリポア社製)を用いてろ過し、前記血清を得た。これを前記凝固臍帯血の血清として使用した。
【0051】
(2)間葉系幹細胞の培養
α−MEM培地(20units/mLペニシリンおよび0.02mg/mLストレプトマイシン含有、Gibco社製)に、前記凝固臍帯血の血清を10v/v%となるように添加し、前記血清の添加培地を調製した。ヒト間葉系幹細胞(Lonza社製)を前記血清の添加培地に懸濁し、1ウェルあたり3×10細胞となるように播種し、37℃で7日間培養した。コントロールとして、前記凝固臍帯血の血清に代えて、ウシ胎児血清(FBS)を10v/v%となるように添加したコントロール培地を調製し、同様にして前記ヒト間葉系幹細胞を培養した。
【0052】
(3)細胞数の測定
培養後、各血清添加培地毎に細胞を回収し、細胞数をそれぞれカウントした。細胞数のカウントには、コールターカウンター(ベックマンコールター社製)を使用した。下記式に各細胞数を代入し、前記コントロール培地での細胞数に対する、前記凝固臍帯血の血清の添加培地での細胞数の増幅率を算出した。
増幅率=A/B
A:前記凝固臍帯血の血清の添加培地を用いた細胞数
B:前記コントロール培地を用いた細胞数
【0053】
[比較例1]
本例では、臍帯血に代えて末梢血を使用し、前記PVC製バッグに代えて遠沈管(容量50mL)を使用した以外は、前記実施例1と同様にして、血清を調製し、前記実施例1と同様にして、培養後の細胞数の増幅率を算出した(n=8)。前記遠沈管のインキュベートは、振盪装置(商品名:マルチシェーカーMMS−300、東京理科器械社製)を使用して行った。
【0054】
下記表1に、実施例1および比較例1の増幅率の結果を示す。下記表1において、「+」は、前記ガラスビーズ処理したことを示す。下記表1に示すように、前記ガラスビーズで処理した臍帯血血漿から得た血清を使用した実施例1は、前記ガラスビーズで処理した末梢血血漿から得た血清を使用した比較例1よりも、優れた間葉系幹細胞の増幅が見られた。また、実施例1および比較例1の平均細胞数について、t−検定を行った結果、有意差が認められた。この結果から、血液凝固剤で処理した臍帯血血漿から得た血清によれば、間葉系幹細胞の増殖が可能とわかった。また、多血小板血漿を血小板凝固処理して得られた血清についても、前記実施例1と同様の結果が得られた。
【0055】
【表1】

【0056】
[実施例2]
抗体アレイキットを用いて、前記実施例1と同様にして調製した前記凝固臍帯血の血清(n=2)および前記比較例1と同様にして調製した末梢血の血清(n=2)中のサイトカインを測定した。前記抗体アレイキットは、Human Cytokine Antibody Array C series 2000(Cat #AAH−CYT−2000、レイ・バイオテック社)のRay Human(登録商標) Cytokine Antibody Array6(商品名、レイ・バイオテック社)、Ray Human(登録商標) Cytokine Antibody Array7(商品名、レイ・バイオテック社)、Ray Human(登録商標) Cytokine Antibody Array8(商品名、レイ・バイオテック社)を使用した。そして、ArrayGauge(商品名、富士フィルム社製)を用いて、前記キットのメンブレンにおいて、発色した各スポットの濃淡を数値化し、各サイトカインレベルの平均値(n=2)を算出した。前記サイトカインレベルの平均値を、ポジティブコントロール(ビオチン結合IgG)の平均値(n=18)により補正した。そして、下記式を用いて、各サイトカインについて、前記凝固臍帯血の血清と前記末梢血の血清とのサイトカイン比を算出した。前記サイトカインは、前記3種類の抗体アレイキットで解析できる174種類を測定対象とした。
サイトカイン比=C/D
C=前記凝固臍帯血の血清のサイトカインレベルの補正値
D=前記末梢血の血清のサイトカインレベルの補正値
【0057】
下記表2に、前記凝固臍帯血の血清において、前記末梢血の血清に対して2倍以上のサイトカイン比(C/D)を示した20種類のサイトカインを示す。また、下記表3に、前記凝固臍帯血の血清において発現が認められ、且つ、前記末梢血の血清において発現が認められなかった19種類のサイトカインを示す。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
[実施例3]
本例では、抗凝固剤を含まない非凝固臍帯血から、前記血液凝固剤を使用せずに、前記凝固臍帯血の血清を調製して、前記間葉系幹細胞の増殖への影響を確認した。
【0061】
(1)血清の調製
臍帯血は、臍帯表面の血管に針を刺し、前記針に連結されたチューブを介して、採血バック(PVC製)に回収される。前記チューブには、抗凝固剤が添加されていないため、採血後、前記チューブ内に残存する臍帯血は、血液本来の凝固系によって凝固する。そこで、前記チューブ内の残存ヒト臍帯血を採取し、血清の調製に使用した。具体的には、臍帯血を採取後、その内部に臍帯血を有する前記チューブを、5〜10℃で24時間保存した。前記チューブから、凝固臍帯血6mLを、抗凝固剤を含まない遠沈管(15mL)に回収した。そして、前記ヒト臍帯血について、前記実施例1の(1)と同様にして、遠心分離、加熱処理、ろ過を行い、前記血清(2ロット)を得た。この前記凝固臍帯血の血清を、実施例の血清として使用した。前記血清のフィブリノゲン量を、全自動血液凝固測定装置(CA−530、シスメックス社製)で測定した結果、測定限界値未満であった。また、前記血清の血小板数を、多項目自動血球分析装置(XT−1800i、シスメックス社製)で測定した結果、各ロットの測定値(×10/μL)は、それぞれ1.9および1.5であった。
【0062】
他方、以下の方法により、凝固末梢血の血清を、比較例2の血清として調製した。まず、ヒト末梢血6mLを、抗凝固剤を含まない遠沈管(15mL)に採取した。前記遠沈管を室温(約25℃)に6時間放置した後、前記実施例1の(1)と同様にして、遠心分離、加熱処理、ろ過を行い、前記血清(2ロット)を得た。前記血清のフィブリノゲン量は、測定限界値未満であった。また、前記血清の血小板数を前記多項目自動血球分析装置で測定したところ、各ロットの測定値(×10/μL)は、それぞれ1.3および0.9であった。以上の結果から、前記臍帯血および前記末梢血が同程度に凝固したことを、確認した。
【0063】
(2)間葉系幹細胞の培養
血清として、前記凝固臍帯血の血清(2ロット)および前記凝固末梢血の血清(2ロット)を使用し、1ウェルあたりの播種細胞数を5×10細胞とし、培養日数を6日間とした以外は、前記実施例1の(2)と同様にして、ヒト間葉系幹細胞を培養した。
【0064】
(3)細胞数の測定
培養後、各血清添加培地毎に細胞を回収し、細胞数をそれぞれカウントし、細胞数の平均値を算出した。前記血清の各ロットについて、測定数(n)は3とした。細胞数のカウントには、コールターカウンター(ベックマンコールター社製)を使用した。そして、前記凝固末梢血の血清の添加培地を用いた平均細胞数(比較例2)と、前記凝固臍帯血の血清の添加培地を用いた平均細胞数(実施例3)を算出した。
【0065】
その結果、前記実施例3の平均細胞数は、12.28783×10個であり、前記比較例2の平均細胞数は、9.581833×10個であった。前記比較例2の平均細胞数に対して、前記実施例3の平均細胞数は、約1.3倍であった。この結果から、凝固臍帯血の血清によれば、例えば、凝固末梢血の血清と比較して、ヒト間葉系幹細胞を効率良く増殖できることがわかった。また、血液凝固剤による凝固臍帯血に限らず、血液本来の凝固系により凝固させた臍帯血であっても、その血清により、間葉系幹細胞を増殖できることがわかった。このことから、血液凝固のメカニズムに影響されることなく、凝固臍帯血の血清であれば、間葉系幹細胞を増殖できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
このように、本発明によれば、例えば、前述のように、安全性に問題があるウイルスベクターを使用することなく、前記凝固臍帯血の液性成分を用いることで、間葉系幹細胞の増殖を促進できる。このため、非常に安全性に優れ、簡便な操作で、間葉系幹細胞を増殖できる。このように、本発明によれば、間葉系幹細胞の増殖を促進できるため、例えば、再生医療の分野において、より一層、間葉系幹細胞の有効利用を促進できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞の増殖を促進する増殖促進剤であって、
凝固臍帯血の液性成分を含むことを特徴とする増殖促進剤。
【請求項2】
前記凝固臍帯血が、血液凝固剤と接触させた臍帯血である、請求項1記載の増殖促進剤。
【請求項3】
前記血液凝固剤が、血小板の活性化剤である、請求項2記載の増殖促進剤。
【請求項4】
前記血液凝固剤が、臍帯血の液性成分に不溶である、請求項2または3記載の増殖促進剤。
【請求項5】
前記血液凝固剤が、粒状体である、請求項2から4のいずれか一項に記載の増殖促進剤。
【請求項6】
前記血液凝固剤の表面が、二酸化ケイ素を含む層から形成されている、請求項2から5のいずれか一項に記載の増殖促進剤。
【請求項7】
前記血液凝固剤が、ガラスビーズである、請求項2から6のいずれか一項に記載の増殖促進剤。
【請求項8】
前記血液凝固剤の表面積が、臍帯血1mLに対して、0.1mm〜25mmの範囲である、請求項2から7のいずれか一項に記載の増殖促進剤。
【請求項9】
前記臍帯血が、血小板を含む臍帯血血漿である、請求項1から8のいずれか一項に記載の増殖促進剤。
【請求項10】
間葉系幹細胞の増殖を促進する方法であって、
請求項1から9のいずれか一項に記載の増殖促進剤を含む培地で前記間葉系幹細胞を培養することにより、前記間葉系幹細胞の増殖を促進する工程を含むことを特徴とする増殖促進方法。
【請求項11】
前記間葉系幹細胞および前記増殖促進剤における前記液性成分が、同一個体由来である、請求項10記載の増殖促進方法。
【請求項12】
前記個体が、哺乳類である、請求項11記載の増殖促進方法。
【請求項13】
前記哺乳類が、ヒトである、請求項12記載の増殖促進方法。
【請求項14】
間葉系幹細胞の製造方法であって、
請求項10から13のいずれか一項に記載の増殖促進方法により、前記間葉系幹細胞の増殖を促進する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項15】
凝固臍帯血の液性成分を回収する工程を含むことを特徴とする間葉系幹細胞の増殖促進剤の製造方法。
【請求項16】
さらに、臍帯血を凝固させる工程を含む、請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
臍帯血を血液凝固剤と接触させ、凝固させる、請求項16記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−160799(P2011−160799A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6459(P2011−6459)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】