関節リウマチの発症に関与するポリヌクレオチドおよびその利用
【課題】 ヒト関節リウマチの発症のメカニズムの解明に有用なポリヌクレオチドを提供するとともに、ヒト関節リウマチの発症または発症可能性を高精度に判定することのできる判定キットおよび判定方法を提供する。
【解決手段】 本願発明者らは、ヒトゲノムにおいて、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3の翻訳開始点より上流の領域(プロモーター領域を含む)のDNAメチル化解析を行った。その結果、DR3遺伝子の翻訳開始点(ATG)の上流約−380bp〜−180bpに存在するCpG配列にアレル特異的なメチル化が存在すること、そして、それより下流のCpG配列については、健常者由来のDR3遺伝子の場合には全て非メチル化状態であり、RA患者由来のDR3遺伝子の場合には非メチル化とメチル化とが混在した状態であることを見出した。
【解決手段】 本願発明者らは、ヒトゲノムにおいて、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3の翻訳開始点より上流の領域(プロモーター領域を含む)のDNAメチル化解析を行った。その結果、DR3遺伝子の翻訳開始点(ATG)の上流約−380bp〜−180bpに存在するCpG配列にアレル特異的なメチル化が存在すること、そして、それより下流のCpG配列については、健常者由来のDR3遺伝子の場合には全て非メチル化状態であり、RA患者由来のDR3遺伝子の場合には非メチル化とメチル化とが混在した状態であることを見出した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節リウマチの発症に関与するポリヌクレオチド、およびこれを利用した関節リウマチの発症またはその発症可能性の判定方法および判定キット、さらに、当該ポリヌクレオチドを利用した関節リウマチの治療薬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(rheumatoid arthritis 以下「RA」ともいう)は、多発するびらん性関節炎を主徴とするが、同時に多臓器を障害する原因不明の全身性炎症疾患である。RAは寛解と増悪とを繰り返しながら慢性に進行し、無治療で放置すると関節の破壊や変形を来し、やがて運動器の機能障害を呈してくる。時には生命をも脅かす。したがって、RA患者は身体的にも精神的にも大きな苦痛を生涯に亘って背負うことになる。
【0003】
RAは、その発症の仕方も多種多様であり、その診断には、アメリカリウマチ学会の診断基準が広く利用されている。しかしながら、RAの発症は、通常、緩徐で数週間から数ヶ月にわたり、アメリカリウマチ学会の診断基準における客観的な指標としてのリウマトイド因子の存在は、その陽性率が3ヶ月以内で33%、12ヶ月以上においても88%程度(非特許文献1参照)であり、RAと確実に診断するには至っていない。そこで、組換え抗原と反応する患者血清中のリウマチ性関節炎関連抗体IgM抗体を検出し、リウマチ性関節炎を診断しようとする試みなどがなされている(特許文献1参照)。
【0004】
また、RAの治療は、RA病態の病状の進行過程によって選択すべき治療手段は異なるのが通常である。一般的に確定診断が下せない初期では、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)を投与し、確定診断が下せた場合は、NSAIDに加えて疾患修飾性リウマチ薬(DMARD)を投与する。特にRA発症の初期には、確定診断を下すことは困難であり、現状では、NSAIDを投与し、経過を慎重に観察しながら膠原病を含む他のリウマチ疾患との鑑別を同時に行っている。さらに症状が進行した場合は、ステロイド薬の投与を行う場合もあり、疼痛のための薬物療法と共に関節機能の維持・回復に対して理学療法・装具療法を行う。また、関節破壊により日常生活が不自由になった場合には、手術療法を行う場合もある。
【0005】
特許文献2では、本願発明者らが、マイクロサテライトマーカーを用いた連鎖解析をRA患者およびその血縁者に対して実施することにより、関節リウマチの疾患遺伝子が位置する3カ所の遺伝子座を特定し、以下の疾患遺伝子を同定している。
(1)ヒト第1染色体の、マイクロサテライトマーカーD1S214および/またはDlS253がハイブリダイズするDNA配列から±1センチモルガン以内に位置する関節リウマチの疾患遺伝子。
(2)ヒト第8染色体の、マイクロサテライトマーカーD8S556がハイブリダイズするDNA配列から±1センチモルガン以内に位置する関節リウマチの疾患遺伝子。
(3)ヒトX染色体の、マイクロサテライトマーカーDXSl001、DXS1047、DXS1205、DXS1227および/またはDXS1232がハイブリダイズするDNA配列から±1センチモルガン以内に位置する関節リウマチの疾患遺伝子。
【0006】
また、非特許文献2には、本願発明者らが、前記先願発明の各疾患関与遺伝子にうち、前記(1)の疾患関与遺伝子に関係するマーカーD1S214およびD1S253の疾患関与遺伝子として、デスレセプター3(death receptor 3:「DR3」または「DR3遺伝子」ともいう)を挙げ、健常人とRA患者との間にDR3の制限断片長多型を確認し、DR3がRAにおける疾患関与遺伝子である可能性を示唆している。
【0007】
さらに、特許文献3では、本願発明者らが、DR3遺伝子のゲノム変異と関節リウマチ(慢性関節リウマチ)発症との関係について開示している。
【特許文献1】特開平10−513257号(公開日:平成10年12月15日)
【特許文献2】国際公開WO98/51791号(国際公開日:1998年11月19日)
【特許文献3】国際公開WO02/34912(国際公開日:2002年5月2日)
【非特許文献1】治療、第73巻、第3号、第23〜27頁、1991年
【非特許文献2】リウマチ、第39号、第2号、第444頁および第445頁(1999年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高等真核生物において、ゲノムDNA配列中に存在する5’−CG−3’DNA(以下、「CpG」または「CpG配列」とする)部分では、当該グアノシン(G)の5’側に位置するシトシン(C)がメチル化される現象が知られている。このCpGのメチル化修飾は、遺伝子発現に影響を及ぼすと考えられており、特にCpGに富む領域が遺伝子のプロモーター領域内に存在する場合には、遺伝子発現に対して重要な影響を及ぼすと考えられている。
【0009】
通常、染色体における多くの遺伝子は上述したメチル化から保護されているが、何らかの原因により、遺伝子のプロモーター領域に存在するCpGに富む領域がメチル化された場合、遺伝子の転写が抑制されることになる。このため、CpGのメチル化の有無が、遺伝子発現に影響を及ぼし、これによって、当該遺伝子の機能を十分に発揮することができなくなり、疾患を発生させるという可能性が考えられる。
【0010】
しかし、RAの疾患関与遺伝子と考えられている上述のDR3に関して、このCpGのメチル化状態については十分に解明されていないのが現状である。
【0011】
そこで、本発明では、上記DR3のプロモーター領域について、そのCpG配列のメチル化状態について解明し、ヒト関節リウマチの発症のメカニズムの解明に有用なポリヌクレオチドを提供するとともに、ヒト関節リウマチの発症または発症可能性を高精度に判定することのできる判定キットおよび判定方法を提供することを目的としている。さらに本発明は、DR3遺伝子に異常を有するRA患者に対する有効な治療薬剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、上記の目的を達成するために、ヒトゲノムにおいて、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3の翻訳開始点より上流の領域(プロモーター領域を含む)のDNAメチル化解析を行った。その結果、DR3遺伝子の翻訳開始点(ATG)の上流約−380bp〜−180bpに存在するCpG配列にアレル特異的なメチル化が存在すること、そして、それより下流のCpG配列については、健常者及びRA患者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の場合には全て非メチル化状態であり、RA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子および滑膜浸潤リンパ球由来のDR3遺伝子の場合には非メチル化とメチル化とが混在した状態であることを見出した。
【0013】
さらに、この翻訳開始点より上流の領域のシークエンス結果によって、−380bp付近にTCCTCCモチーフの存在を確認し、CpG配列のアレル特異的メチル化領域はこのTCCTCCモチーフの付近から始まることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明にかかるポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列からなり、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3のプロモーター領域を含むポリヌクレオチドであって、その第170番目から第175番目の塩基配列が、転写活性に関わるTCCTCCモチーフを構成し、当該TCCTCCモチーフ以降のCpG配列の一部は、アレル特異的にメチル化されていることを特徴とするものである。
【0015】
ここで、「アレル特異的にメチル化されている」とは、2つの対立遺伝子のうち、片方の対立遺伝子のCpG配列に特異的にメチル化されているということを意味している。
【0016】
上記のポリヌクレオチドは、DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−180bpよりも下流に位置する(すなわち、配列番号1に示す塩基配列の第374番目の塩基以降に存在する)CpG配列は、メチル化された状態あるいは非メチル化された状態の何れかの状態である。このようなポリヌクレオチドとして、例えば、RA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子のプロモーター領域が挙げられる。
【0017】
また、上記のポリヌクレオチドは、DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在する(すなわち、配列番号1に示す塩基配列の第174番目から第373番目までの間に位置する)CpG配列は、アレル特異的にメチル化されており、−180bpよりも下流の(すなわち、配列番号1に示す塩基配列の第374番目の塩基以降に存在する)CpG配列はメチル化された状態あるいは非メチル化された状態である。このようなポリヌクレオチドとして、例えば、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域、あるいは、RA患者の末梢血リンパ球由来および滑膜細胞由来のDR3遺伝子のプロモーター領域が挙げられる。
【0018】
本発明にかかる判定キットは、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較することによって関節リウマチの発症、または、その発症可能性を判定するために利用される判定キットであって、DR3遺伝子のプロモーター領域を構成する少なくとも一部のポリヌクレオチド中に含まれるメチル化シトシンの有無を判定するためのメチル化特異的プライマーと非メチル化特異的プライマーとを含むことを特徴とするものである。
【0019】
ここで、関節リウマチの「発症可能性」とは、関節リウマチ(RA)が発生する危険度を示す指標をいい、発症可能性が高ければそれだけRAになりやすく、逆に発症可能性が低ければRAになり難いということを示すものである。
【0020】
上記の判定キットにおいて、上記メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーは、上記配列番号1に示す塩基配列における第374番目から第564番目までの塩基配列を少なくとも増幅させることができるように設定されていることが好ましい。なお、配列番号1に示す塩基配列における第336番目から第564番目の塩基配列は、DR3遺伝子のプロモーター領域であり、配列番号1に示す塩基配列における第374番目から第592番目の塩基配列は、後述するC領域である。
【0021】
また、上記の判定キットを用いれば、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認した場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができる。
【0022】
また、上記の判定キットにおいて、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子を比較対照(コントロール)とすれば、被験者から採取した滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が、上記末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態よりも高メチル化状態である場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができる。
【0023】
本発明の関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定方法は、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較すること、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認することによって、関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定を行うことを特徴とするものである。
【0024】
そして、上記の判定方法は、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球および末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子の各プロモーター領域を重亜硫酸塩含有試薬でそれぞれ処理し、当該プロモーター領域に含まれるCpG配列中の非メチル化シトシンをウラシルへと変換するDNA変換工程と、上記DNA変換工程による処理後のDR3遺伝子のプロモーター領域を、メチル化特異的プライマーあるいは非メチル特異的プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅させるDNA増幅工程と、上記DNA増幅工程において、上記DR3遺伝子のプロモーター領域が、メチル化特異的プライマーあるいは非メチル特異的プライマーの何れを用いたポリメラーゼ連鎖反応で増幅されたかを検出することで、上記DR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態を検出するメチル化状態検出工程と、上記メチル化状態検出工程によって検出された、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較する比較工程、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認する確認工程とを含むものであってもよい。
【0025】
なお、上記DR3遺伝子のプロモーター領域の一例としては、配列番号1に示す塩基配列における第336番目から第564番目までの塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0026】
さらに、上記の判定方法では、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができる。
【0027】
また、本発明では、上記の判定方法において、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子を比較対照(コントロール)とし、被験者から採取した滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が、上記末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態よりも高メチル化状態である場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することもできる。この方法によって、ヒト関節リウマチの発症または発症可能性を高精度に判定することができる。
【0028】
本発明にかかる関節リウマチの治療薬剤は、本発明のポリヌクレオチドのうち、DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列は、メチル化された状態あるいは非メチル化された状態の何れかの状態であり、−180bpよりも下流のCpG配列は非メチル化状態であるようなポリヌクレオチドの一部をプロモーター領域として有するDR3遺伝子を含んでなることを特徴とするものである。
【0029】
また、上記の治療薬剤は、上記関節リウマチ患者の滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球へ投与されることが好ましい。
【0030】
なお、本明細書において、特に断らない限り、A、C、GおよびTは、アデニン、シトシン、グアニンおよびチミンの各塩基を示す。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、ヒト関節リウマチの発症のメカニズムの解明に有効に利用することができる。さらに、本発明のポリヌクレオチドは、関節リウマチの診断、発症可能性の判定、関節リウマチの治療薬剤として利用することができる。
【0032】
また、本発明にかかる関節リウマチの判定キットおよび判定方法によれば、関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定を、高精度かつ簡便に行うことができる。それゆえ、関節リウマチの予防および治療に役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0034】
〔1〕本発明のポリヌクレオチドについて
本発明にかかるポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列からなり、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3のプロモーター領域を含むポリヌクレオチドであって、その第170番目から第175番目の塩基配列が、転写活性に関わるTCCTCCモチーフを構成し、当該TCCTCCの領域以降のCpG配列の一部は、アレル特異的にメチル化されていることを特徴とするものである。
【0035】
上記配列番号1に示す塩基配列は、非特許文献2に記載のヒトゲノム由来の関節リウマチの疾患関与遺伝子のうち、DR3の翻訳開始点より上流の領域(翻訳開始点(ATG)のアデニンを+1bpとした場合、−553bpから−1bpまでの領域:以下、「DR3の上流領域」とも呼ぶ)および、翻訳開始点から+39bpまでの領域である。そして、本願発明者らの研究によって、このDR3の上流領域の−379bpから−384bpまでの部位(配列番号1における第170番目から第175番目までの領域)である「TCCTCC」が、DR3遺伝子の転写活性に関わるTCCTCCモチーフを構成していることが明らかとなった。さらに、当該TCCTCCモチーフ以降のCpG配列の一部はアレル特異的にメチル化されていることも明らかとなった。
【0036】
ここで、「TCCTCCモチーフ以降」とは、本発明にかかるポリヌクレオチドにおいてTCCTCCモチーフが存在する部位よりも下流(すなわち、3’方向)の領域のことを意味する。
【0037】
また、図1には、本発明にかかるポリヌクレオチドの塩基配列を示す。図1に示す塩基配列には、DR3遺伝子のエクソン1(exon1)を構成しているDR3遺伝子の翻訳開始点以降の塩基配列の一部も含まれている。また、図1では、塩基配列中のCpG配列、TCCTCCモチーフ(図中では、転写因子Sp1結合因子と記す)、翻訳開始点、プロモーター領域、エクソン1を、それぞれ図示している。
【0038】
図1に示すように、本発明にかかるポリヌクレオチドは、その配列中の多数のCpG配列を有している。そして、このCpG配列のうちのいくつかはメチル化されている。ここで、配列番号1に示すポリヌクレオチド配列において、第1番目から第173番目までの領域をA領域、第174番目から第373番目までの領域をB領域、第374番目から第592番目までの領域をC領域とする。なお、図1に示す塩基配列において、実線で囲んだ領域(配列番号1に示す塩基配列においては、第336番目から第564番目までに相当)は、プロモーターインスペクター(Promoter Inspector)によってプロモーターと解析された領域であるが、このプロモーター領域は、上記C領域と一部一致している。また、図1において、破線で囲んだ領域は、エクソン1である。
【0039】
図2は、図1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの構造、つまり、DR3遺伝子の翻訳開始点よりも上流の領域の構造を模式的に示したものである。図2では、上記ポリヌクレオチドに含まれるCpG配列、TCCTCCモチーフ、エクソン1(exon1)、翻訳開始点(ATG)、および、A・B・Cの各領域を示している。また、図2に示すように、DR3遺伝子のプロモーター領域は、上述のC領域とほぼ一致している。
【0040】
そして、図1および図2に示すポリヌクレオチド、すなわち、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドは、その配列中の第2,3番目、第5,6番目、第34,35番目、第65,66番目、第88,89番目、第92,93番目、第137,138番目、第151,152番目、第187,188番目、第189,190番目、第196,197番目、第251,252番目、第258,259番目、第270,271番目、第300,301番目、第317,318番目、第322,323番目、第324,325番目、第344,345番目、第350,351番目、第374,375番目、第395,396番目、第401,402番目、第411,412番目、第415,416番目、第421,422番目、第431,432番目、第435,436番目、第442,443番目、第453,454番目、第456,457番目、第459,460番目、第461,462番目、第466,467番目、第475,476番目、第479,480番目、第481,482番目、第493,494番目、第501,502番目、第504,505番目、第517,518番目、第523,524番目、第538,539番目、第542,543番目、第545,546番目、第563,564番目、第567,568番目、第569,570番目、第577,578番目、第579,580番目、第582,583番目、第588,589番目、第591,592番目に、それぞれCpG配列を有している。
【0041】
本願発明者らは、健常者および関節リウマチ患者から採取された末梢血リンパ球および滑膜細胞から抽出されたDNAから、上記DR3遺伝子の上流領域の配列を取得し、上記A領域・B領域・C領域のCpG配列のメチル化状態についての解析を行った。
【0042】
その結果、A領域については、健常者・RA患者ともに、そのCpG配列が全てメチル化状態であることが確認された。また、B領域については、健常者・RA患者ともに、そのCpG配列について、メチル化されたものと非メチル化されたものとが混在した状態であることが確認された。
【0043】
また、C領域については、健常者の末梢血リンパ球から採取されたDR3遺伝子の上流領域のCpG配列、および、RA患者の末梢血リンパ球から採取されたDR3遺伝子の上流領域のCpG配列については、全て非メチル化状態であった。これに対して、RA患者の滑膜細胞から抽出されたDR3遺伝子の上流領域のCpG配列、および、RA患者の滑膜浸潤リンパ球から抽出されたDR3遺伝子の上流領域のCpG配列については、上述のB領域のようにメチル化されたものと、非メチル化されたものが混在した状態であることが確認された。
【0044】
なお、本実施の形態における説明では、滑膜細胞および滑膜浸潤リンパ球をまとめて滑膜組織と称する。
【0045】
以上のような結果から、本発明にかかるポリヌクレオチドのより具体的な一例として、RA患者の滑膜組織から採取されたDR3遺伝子の上流領域の塩基配列からなるものを挙げることができる。このポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列からなるものであって、DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列(すなわち、B領域のCpG配列)にアレル特異的なメチル化が存在し、−180bpよりも下流のCpG配列(すなわち、C領域のCpG配列)についてもメチル化状態のものと非メチル化状態のものとが混在しているというものである。
【0046】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドの具体的な他の例として、健常者の末梢血リンパ球、あるいは、RA患者の末梢血リンパ球から採取されたDR3遺伝子の上流領域の塩基配列からなるものを挙げることができる。そして、健常者及びRA患者の末梢血リンパ球由来のポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列からなるものであって、DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列(すなわち、B領域のCpG配列)にアレル特異的なメチル化が存在し、−180bpよりも下流のCpG配列(すなわち、C領域のCpG配列)は全て非メチル化状態になっているというものである。また、RA患者の滑膜細胞由来のポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列からなるものであって、DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列(すなわち、B領域のCpG配列)にアレル特異的なメチル化が存在し、−180bpよりも下流のCpG配列(すなわち、C領域のCpG配列)は、メチル化と非メチル化とが混在した状態になっているというものである。
【0047】
上述の本発明にかかるポリヌクレオチドは、DR3遺伝子の発現に重要な役割を果たしていることが示唆されることから、未だ解明されていない部分の多いRAの発症のメカニズムの解明に有効に利用することができる。さらに、本発明のポリヌクレオチドは、RAの診断、発症可能性の判定、および、RAの治療に利用できる可能性を有している。
【0048】
〔2〕本発明のRAの発症、または、その発症可能性の判定方法について
本発明にかかるRAの発症、または、その発症可能性の判定方法は、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較することを特徴とするものである。
【0049】
ここで、上記DR3遺伝子のプロモーター領域としては、この遺伝子のプロモーター領域として従来から知られたものを採用することができるが、その一例として、配列番号1に示す塩基配列における第336番目から第564番目までの塩基配列からなるものを挙げることができる。
【0050】
DR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態については、上述のように、健常者の末梢血リンパ球から採取したものの場合は全てのCpG配列が非メチル化状態であった。一方、RA患者の場合は、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高いことが確認された。
【0051】
本発明にかかるRAの発症、または、発症可能性の判定方法は、上記の結果に基づいてなされたものである。それゆえ、上記の判定方法においては、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができる。
【0052】
本発明にかかる判定方法において、被験者の滑膜組織からDNAを抽出し、さらに、DR3遺伝子のプロモーター領域を取得する方法については、従来公知の目的遺伝子の精製方法を採用すればよい。
【0053】
また、本願発明者らの研究によって、滑膜組織から取得したDR3遺伝子のプロモーター領域に関して、RA患者と健常者との間でそのメチル化状態に違いが確認された。そこで、RAの発症、または、発症可能性の他の判定方法として、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態を検出して、全て非メチル化状態であれば、RAを発症していない、または、RAの発症可能性は低いと判定し、非メチル化したものとメチル化したものとが混在した状態であれば、RAを発症している、または、RAの発症可能性が高いと判定する、という方法も実施可能である。
【0054】
この方法であれば、上述の末梢血リンパ球と滑膜組織の両方からDR3遺伝子のプロモーターを採取し、そのメチル化状態を比較する方法より精度はやや劣るものの、末梢血リンパ球からDR3遺伝子のプロモーター領域を取得する必要がなくなるため、サンプルの採取に要する手間を省き、より簡便にRAの発症または発症可能性を判定を行うことができる。
【0055】
なお、ポリヌクレオチドに存在するCpG配列のメチル化状態を検出する方法については、従来公知の方法を用いることができる。その一例として、重亜硫酸塩ゲノムシークエンス法(bisulfite genomic sequencing法)(Clark SJ, Harrison J, Paul CL, and Frommer M. High sensitivity mapping of methylated cytosines. Nucleic Acids Res 22, 2990-2997 (1994) 参照)、MSP法(methylation specific PCR法)(Harman JG, Graff JR, Myohanen S et al. Methylation-specific PCR: A novel PCR assay for methylation status of CpG islands. Proc Natl Acad Sci 93, 9821-9826 (1996) 参照)などが挙げられる。
【0056】
このCpG配列のメチル化状態を検出する方法を利用した本発明の判定方法の具体例については、以下(3)の項において説明する。なお、この方法は、上述のMSP法を利用したものである。
【0057】
〔3〕本発明のRAの発症、または、その発症可能性を判定する判定キットについて
本発明にかかる判定キットは、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較することによって関節リウマチの発症、または、その発症可能性を判定するために利用される判定キットであって、DR3遺伝子のプロモーター領域を構成する少なくとも一部のポリヌクレオチド中に含まれるメチル化シトシンの有無を判定するためのメチル化特異的プライマーと非メチル化特異的プライマーとを含むことを特徴とするものである。
【0058】
ここで、DR3遺伝子のプロモーター領域を構成する少なくとも一部のポリヌクレオチドとは、ヒトRA疾患関与遺伝子DR3の上流領域の少なくとも一部のことを意味する。上記ポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの一部であって、上述のプロモーター領域(配列番号1の第336番目から第553までの領域)を含むものが挙げられる。
【0059】
DR3の上流領域は、上述のように、A領域・B領域・C領域に分けられているが、そのうちC領域については、健常者とRA患者とでメチル化状態に違いがあることが確認された。つまり、末梢血リンパ球および滑膜組織から採取したDR3の上流領域のうちのC領域に関して、健常者の場合は、末梢血リンパ球において、そのCpC配列が非メチル化状態であることが確認された。これに対して、RA患者の場合は、末梢血リンパ球由来のものは、そのCpC配列が非メチル化状態であったにもかかわらず、滑膜組織由来のものは、メチル化されたものと非メチル化されたものとが混在した状態である、すなわち、滑膜組織由来のものの方が末梢血リンパ球由来のものに比べて高メチル化状態であることが確認された。
【0060】
そこで、本発明の判定キットは、被験者の滑膜組織から採取したDR3遺伝子のC領域(あるいは、プロモーター領域を含む領域)のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較することによって、RAの発症、または、その発症可能性を判定するというものである。
【0061】
この判定キットに含まれる、メチル化シトシンの有無を判定するためのメチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーは、DR3遺伝子のプロモーター領域を構成する少なくとも一部のポリヌクレオチド中に含まれるメチル化シトシンの有無を判定するために、当該プロモーター領域の少なくとも一部を増幅させることができるものであれば、特に限定されることはない。
【0062】
ここで、「非メチル化特異的プライマー」とは、CpG配列を含有するDR3のプロモーター領域に対して特異的にアニーリングするよう設計されたオリゴヌクレオチドプライマーであって、特に、当該プロモーター領域中のすべてのC(シトシン)がT(チミン)に変換された配列を有するプライマーである。
【0063】
またここで、「メチル化特異的プライマー」とは、CpG配列を含有するDR3のプロモーター領域に対して特異的にアニーリングするよう設計されたオリゴヌクレオチドプライマーであって、特に、当該領域中のCpG配列は保存されたまま、かつCpG配列以外のC(シトシン)はT(チミン)に変換された塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0064】
このように設計することにより、当該メチル化特異的オリゴヌクレオチドプライマーは、上記メチル化CpG含有プロモーター領域と特異的にアニーリング(相補)することができる。なお、フォワードプライマー(Forward Primer)およびリバースプライマー(Reverse Primer)のいずれも、上記メチル化CpG含有プロモーター領域と特異的にアニーリングするものであることが好ましい。
【0065】
上記非メチル化特異的プライマーの具体的な例としては、DR3遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG配列を含む領域に対するオリゴヌクレオチドプライマーであって、当該プロモーター領域中のすべてのC(シトシン)がT(チミン)に変換された塩基配列を有するプライマーを挙げることができる。
【0066】
上記メチル化特異的プライマーの具体的な例としては、DR3遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG配列を含む領域に対するオリゴヌクレオチドプライマーであって、当該領域中のCpG配列は保存されたまま、かつCpG配列以外のC(シトシン)はT(チミン)に変換された塩基配列を有するプライマーを挙げることができる。
【0067】
つまり、上記メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーとしては、配列番号1に示す塩基配列における第374番目から第564番目までの塩基配列のうち、CpG配列がメチル化されたものあるいはCpG配列がメチル化されていないものを増幅させることができるように、それぞれ設定されているものを挙げることができる。このようなメチル化特異的プライマーの具体例としては、
フォワードプライマー(MF3):GTTTTATTTG GTTTGTTCGT TGTC(配列番号2)
リバースプライマー(MR3):CGTACTCTCT ACCCGTCGTA A(配列番号3)
を挙げることができる。
【0068】
また、非メチル化特異的プライマーの具体例としては、
フォワードプライマー(UF3):TTTATTTGGT TTGTTTGTTG TTGTT(配列番号4)
リバースプライマー(UR3):ACTCCATACT CTCTACCCAT CATAA(配列番号5)
を挙げることができる。
【0069】
次に、本発明の判定キットを用いて、上述の本発明にかかるRAの発症または発症可能性の判定方法を実施する手順について説明する。
【0070】
(1)DNA変換工程
被験者より従来公知の方法によって採取されたDR3遺伝子のプロモーター領域は、先ず、DNA変換工程によって、当該プロモーター領域に含まれるCpG配列のうち、メチル化されていないシトシンのみがウラシルへと変換される。
【0071】
このDNA変換工程は、DR3遺伝子のプロモーター領域を重亜硫酸塩(亜硫酸水素塩)含有試薬で処理し、当該プロモーター領域に含まれるCpG配列のうちの非メチル化シトシンをウラシルへと変換する工程であればよく、その他の具体的な方法、条件等は特に限定されるものではない。
【0072】
上記DNA変換工程では、重亜硫酸塩処理により、CpG配列中のメチル化されていないシトシンはウラシルに変換される。一方、メチル化されたシトシンは、重亜硫酸塩処理を行っても、シトシンのままである。したがって、CpG配列中のシトシンがメチル化されているか否かは、重亜硫酸塩処理により、ウラシルに変換されているかどうかで区別することができる。つまり、同一の塩基配列を有するDNAであっても、メチル化されているか否かで重亜硫酸塩処理後の塩基配列に違いがみられる。
【0073】
この重亜硫酸塩処理後の塩基配列をシークエンシングすることによって配列決定し、塩基配列の違いによって、CpG配列中のメチル化の有無を検出することもできる。この方法が、上述の重亜硫酸塩ゲノムシークエンス法である。
【0074】
上記「重亜硫酸塩含有試薬」としては、従来公知の重亜硫酸塩を含有する試薬であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、重亜硫酸ナトリウム(亜硫酸水素ナトリウム、NaHSO3ともいう)を好適に用いることができる。さらに、重亜硫酸化合物と尿素とを併用してもよい。
【0075】
ここで、メチル化の検出に用いられるDR3遺伝子のプロモーター領域は、ヒトの滑膜組織あるいは末梢血リンパ球から抽出されたゲノムDNAから取得されたものである。
【0076】
(2)DNA増幅工程
続いて、上記のDNA変換工程によって重亜硫酸塩処理されたプロモーター領域からなるDNA断片は、DNA増幅工程によって増幅される。
【0077】
このDNA増幅工程は、上記DNA変換工程により得られる、非メチル化シトシンがウラシルへと変換されたDNA断片をメチル化特異的プライマーを用いて、また、シトシンのままであるメチル化シトシンを含むDNA断片を非メチル化特異的プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させる工程であればよく、その他の具体的な方法、条件等は特に限定されない。
【0078】
先ず、上記DNA増幅工程では、CpG配列中のシトシンがウラシルへと変換したか否かを、判定キットに含まれるメチル化特異的プライマーを用いたPCRにより、それぞれ調べている。すなわち、このメチル化特異的プライマーは、重亜硫酸塩処理によりCpG配列中のシトシンがウラシルに変換されていないCpG含有DNA断片(以下、メチル化CpG含有DNAとする)と特異的にアニーリング(相補)する。したがって、上記メチル化特異的プライマーを用いたPCRによって、メチル化されたCpG配列を有するDNA断片は特異的に増幅されることになる。このメチル化特異的プライマーとしては、上述のMF3およびMR3などが用いられる。
【0079】
一方、重亜硫酸塩処理により、CpG配列中のシトシンがウラシルに変換されたCpG含有DNA断片(以下、非メチル化CpG含有DNAとする)は、上記メチル化特異的プライマーとアニーリングしないため、当該メチル化特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRでは増幅されない。
【0080】
そこで、上記DNA増幅工程では続いて、上記DNA変換工程により得られる、非メチル化シトシンがウラシルへと変換されたCpG含有DNAを、さらに、非メチル化特異的プライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させる工程を含んでいる。
【0081】
これにより、非メチル化特異的プライマーを用いたPCRでは、非メチル化CpG含有DNAは増幅される。一方、メチル化CpG含有DNAは増幅されない。この非メチル化特異的プライマーとしては、上述のUF3およびUR3などが用いられる。
【0082】
このように、メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーを用いたPCRの結果、DNA検体が増幅されるか否かにより、CpG含有DNAの塩基配列中のシトシンがメチル化されているか否かを検出することができる。
【0083】
なお、一つのDNA断片中にメチル化シトシンと非メチル化シトシンとが混在する場合には、メチル化特異的プライマーを用いたPCRおよび非メチル化特異的プライマーを用いたPCRの両方でDNA断片が増幅される。
【0084】
またここで、「ポリメラーゼ連鎖反応」とは、PCR(Polymerase Chain Reaction)であればよく、その具体的な方法、条件等は特に限定されない。
【0085】
(3)メチル化状態検出工程
続いて、本発明のRAの発症または発症可能性の判定においては、メチル化状態検出工程が実施される。このメチル化状態検出工程は、上記DNA増幅工程によって、上記CpG含有DNA断片(すなわち、DR3プロモーター領域)が増幅されたか否かを検出する工程であればよく、その具体的な方法、条件等は、特に限定されるものではない。
【0086】
上記メチル化特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRによって、CpG含有DNA断片が増幅されるか否かを検出する。これにより、上記CpG含有DNAの塩基配列中にメチル化シトシンが存在するか否かを簡便かつ迅速に、そして高感度で検出することができる。
【0087】
具体的な検出方法としては、例えば、プライマーを蛍光ラベル、ビオチンラベル、DIGラベルや放射性同位元素ラベルで標識してもよく、ゲル電気泳動法、リアルタイムPCR法、キャピラリー電気泳動法、フラグメント解析、免疫染色等、どのような機器、方法を用いてもよい。
【0088】
(4)比較工程
続いて、本発明のRAの発症または発症可能性の判定においては、比較工程が実施される。この比較工程では、上記メチル化状態検出工程によって検出された、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態との比較が行われる。そして、この比較結果に基づいて、RAの発症または発症可能性についての判定が行われる。
【0089】
なお、上記比較工程における判定の方法として、例えば、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができる。
【0090】
また、本発明の判定方法には、上記比較工程の代わりに、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認する確認工程が含まれていてもよい。この確認工程において、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態の検出は、上述の比較工程におけるメチル化状態の検出と同様の方法を用いることができる。そして、このメチル化状態の検出において、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であると確認された場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができる。なお、ここで「高メチル化状態」とは、該当するポリヌクレオチド中のCpG配列のうち、70%以上のCpG配列がメチル化された状態のことを言う。
【0091】
以上のような手順で、被験者から得られたDR3遺伝子プロモーター領域を用いて、RAの発症、または、発症可能性の有無を判定することができる。
【0092】
このように、本発明にかかる判定キットには、メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーが少なくとも含まれていればよく、その他の構成は特に限定されるものではない。しかし、この判定キットをより利便性の高いものとするために、被検体であるプロモーター領域に含まれるCpG配列中の非メチル化シトシンをウラシルへと変換するための重亜硫酸塩含有試薬がさらに含まれていることが好ましい。
【0093】
また、上記キットには、さらに、PCR用試薬が含まれることが好ましい。PCR用試薬は、従来公知のものを利用可能である。
【0094】
上述のように、本発明にかかる判定キットを使用することによって、簡便かつ容易に本発明にかかるRAの発症、または、発症可能性の判定方法を実施することができる。
【0095】
なお、後述の実施例にも示されるように、DR3遺伝子は、RA患者の滑膜組織(つまり、滑膜細胞および滑膜浸潤リンパ球)において特異的に発現することが確認された。このことから、DR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態の違いが、DR3遺伝子の滑膜組織における発現に関与していると考えられ、ひいては、関節リウマチの発症と深く関連している可能性が考えられる。つまり、この結果から、本発明の判定キットや判定方法が、関節リウマチの発症、または、発症可能性の有無の判定に有効であることが裏付けられる。
【0096】
〔4〕本発明にかかるRAの治療薬剤について
本発明にかかるRAの治療薬剤は、本発明にかかるポリヌクレオチドのうち、特にCpG配列が非メチル化状態のプロモーター領域を有するDR3遺伝子を含んでいることを特徴とするものである。つまり、本発明にかかる治療薬剤は、配列番号1に示す塩基配列のうちの一部をプロモーター領域として有するDR3遺伝子を含むものであって、上記プロモーター領域において、当該DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列にアレル特異的なメチル化が存在し、−180bpよりも下流のCpG配列は全て非メチル化状態であるというものである。
【0097】
この治療薬剤は、特に、プロモーター領域が高メチル化状態であるDR3遺伝子を有するRA患者に対して好適に用いることができる。
【0098】
また、後述の実施例にも示すように、RA患者から採取されたDR3遺伝子のプロモーター領域のうち、末梢血リンパ球に由来するものは健常者と同じメチル化状態であり、滑膜組織に由来するもののメチル化状態が異なっている。このことから、DR3遺伝子が正常に機能するためには、滑膜組織におけるDR3遺伝子のプロモーター領域がメチル化状態であることが必要とされると考えられる。それゆえ、本発明の治療薬剤は、RA患者の滑膜組織に投与されることが好ましい。
【0099】
以下、実施例を示し、本発明についてさらに詳しく説明するが、もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0100】
本実施例では、上述のMSP法を用いて、ヒト末梢血リンパ球、滑膜細胞、滑膜浸潤リンパ球から採取したDNAに含まれるDR3遺伝子の翻訳開始点より上流の領域のメチル化の検出を行った。その方法および結果について、以下に説明する。
【0101】
(1)MSP法によるメチル化状態の検出
まず、従来公知の方法に基づいて、健常者およびRA患者の末梢血リンパ球および滑膜細胞を採取し、bisulfite処理後、各サンプルから取得したDR遺伝子の上流領域について、実施形態において説明したMSP法によって、その塩基配列中に含まれるCpG配列のメチル化状態の検出を行った。
【0102】
以下に、bisulfite処理の具体的な手順および試薬を示す。
(1)NaOHを加える。(DNAを一本鎖に変性させる。)
(2)37℃で30分放置する。
(3)Sodium bisulfite(NaHSO3:亜硫酸水素ナトリウム)/hydroquinone(C6H6O2)(pH5.0)を加え、スルホン化および脱アミノ化する。
(4)55℃の暗所に20時間置く。
(5)Wizard DNA Clean-up Systemによる脱塩処理を行う。(脱スルホン化)
(6)NaOHを加える。(アルカリ処理)
(7)37℃で10分放置する。
(8)酢酸アンモニウム/EtOHを加えて転倒混和し、エタノール沈降させる。
(9)蒸留水に溶解する。(bisulfite DNAの完成)
また、ここでA,B,Cの各領域を増幅させるために用いたメチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーは、以下の通りである。
A領域のメチル化特異的プライマー:
フォワードプライマー(MF1):TTGATTTTAA GTGTTTCGTT CGTT(配列番号6)
リバースプライマー(MR1):AAACGCTAAA CTACCTACTA CGACC(配列番号7)
A領域の非メチル化特異的プライマー:
フォワードプライマー(UF1):GATTTTAAGT GTTTTGTTTG TT(配列番号8)
リバースプライマー(UR1):AACACTAAAC TACCTACTAC AACC(配列番号9)
B領域のメチル化特異的プライマー:
フォワードプライマー(MF2):GTAGTAGGTA GTTTAGCGTT TCGC(配列番号10)
リバースプライマー(MR2):CAAATACCCC CTCTACTCGA C(配列番号11)
B領域の非メチル化特異的プライマー:
フォワードプライマー(UF2):TAGTAGGTAG TTTAGTGTTT TGTGT(配列番号12)
リバースプライマー(UR2):ACCAAATACC CCCTCTACTC AAC(配列番号13)
C領域のメチル化特異的プライマー:
フォワードプライマー(MF3):GTTTTATTTG GTTTGTTCGT TGTC(配列番号2)
リバースプライマー(MR3):CGTACTCTCT ACCCGTCGTA A(配列番号3)
C領域の非メチル化特異的プライマー:
フォワードプライマー(UF3):TTTATTTGGT TTGTTTGTTG TTGTT(配列番号4)
リバースプライマー(UR3):ACTCCATACT CTCTACCCAT CATAA(配列番号5)
また、PCRについては、95℃・10分の処理を行った後、95℃で1分、55℃で1分、72℃で1分を40サイクル繰り返し、その後、72℃・5分の処理を行った。
【0103】
また、本実施例のメチル化検出においては、DNA増幅工程によって増幅された各DNA断片についてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行うことによって、CpG配列のメチル化状態が確認された。
【0104】
その結果を図3(a)、(b)、および、図4に示す。図3(a)は、RA患者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域について、図3(b)は、RA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子の上流領域について、そのA・B・C各領域のメチル化状態を確認した結果を示す図である。図4は、健常者(図では健常人と記す)の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域について、そのA・B・C各領域のメチル化状態を確認した結果を示す図である。各図に示すゲル電気泳動の結果において、Uで示すレーンは、非メチル化特異的プライマーを用いてDNA増幅を行った場合の増幅断片であり、Mで示すレーンは、メチル化特異的プライマーを用いてDNA増幅を行った場合の増幅断片である。
【0105】
これらの図に示すように、A領域に関しては、全てのサンプルについて、そのCpG配列がメチル化状態であった。また、B領域に関しては、全てのサンプルについて、そのCpG配列が非メチル化とメチル化との混在状態であった。一方、C領域(すなわち、DR3遺伝子のプロモーター領域)に関しては、RA患者の滑膜細胞由来のサンプルのみが非メチル化とメチル化との混在状態であり、それ以外のサンプルについては全てのCpG配列が非メチル化状態であることが確認された。
【0106】
この結果から、DR3遺伝子のプロモーター領域に、アレル特異的なメチル化が存在すると考えられる。また、RA患者に関して、滑膜細胞由来のDR3遺伝子のプロモーター領域は、末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域に比べて高メチル化状態であることが明らかとなった。
【0107】
そして、DR3遺伝子は、片方の対立遺伝子が発現していないインプリント遺伝子である可能性が示されるとともに、RAの発症のメカニズムにDR3遺伝子のインプリンティングが関与していることが示唆された。
【0108】
また、図5には、上記と同様の方法で、RA患者由来の滑膜細胞、滑膜細胞浸潤リンパ球、および、関節液のリンパ球からそれぞれ採取したDR3遺伝子の上流領域について、メチル化状態を検出した結果を示す。なお、図5では、(a)がDR3遺伝子の上流領域中のA領域の結果を示すものであり、(b)がDR3遺伝子の上流領域中のB領域の結果を示すものであり、(c)がDR3遺伝子の上流領域中のC領域の結果を示すものである。また、(a)〜(c)において、丸付きで示す数字1〜3はそれぞれ、滑膜細胞由来の遺伝子、滑膜細胞浸潤リンパ球由来の遺伝子、関節液中のリンパ球由来の遺伝子を順に示している。
【0109】
図5(a)および(b)に示すように、A領域およびB領域では、滑膜細胞由来のもの、滑膜浸潤リンパ球由来のもの、関節液中のリンパ球由来のものに差は見られなかった。一方、図5(c)に示すC領域では、滑膜細胞由来のDR3遺伝子および滑膜浸潤リンパ球由来のDR3遺伝子では、メチル化と非メチル化の混在状態であったが、関節液中のリンパ球由来のDR3遺伝子では、全て非メチル化状態であることが確認された。
【0110】
この結果から、C領域のメチル化状態は関節リウマチによる炎症部位に特異的である可能性が示唆される。
【0111】
さらに、検体数を増やして上記のMSP法によって、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子およびRA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を調査した。その結果をまとめたものを図6に示す。これにより、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子とRA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子とでは、C領域におけるメチル化状態が大きく異なることが確認された。また、比較対照として採取した変形性関節症(OA)患者の滑膜細胞では、RA患者の滑膜細胞と比較するとメチル化が低いという結果が得られた。なお、健常者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子については、採取が困難であるため結果は得られていないが、OA患者と同様の結果が得られると考えられる。
【0112】
(2)bisulfite genomic sequencing法によるメチル化状態の検出
続いて、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子およびRA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を、bisulfite genomic sequencing法によって解析した。なお、bisulfite genomic sequencing法は、上記の参考文献に記載の方法に従って行った。
【0113】
その結果を図7に示す。図7において、(a)は、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を検出した結果を示す図であり、(b)は、RA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を検出した結果を示す図である。
【0114】
その結果、図7(a)に示すように、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子では、A領域はメチル化状態であり、B領域は非メチル化とメチル化が混在した状態であり、C領域は非メチル化状態であることが確認された。また、図7(b)に示すように、RA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子では、A領域はメチル化状態であり、B領域は非メチル化とメチル化が混在した状態であり、C領域も非メチル化とメチル化が混在した状態であることが確認された。これは、上述の(1)に示すMSP法の結果と一致した。
【0115】
(3)DR3遺伝子の滑膜細胞における発現確認
続いて、DR3遺伝子がRA患者の滑膜細胞において発現しているか否かの実験を行った。
【0116】
先ず、RA患者の滑膜検体から凍結標本および染色標本を以下の手順で作製した。関節形成術の際に患者より切除した関節滑膜から組織を5mm3程度分離し、OTCコンパウンドを用いて組織を包埋した後、液体窒素により急速に凍結し、凍結標本を作製した。凍結標本は、クライオスタットで6μmの厚さに薄切りしてスライドガラスに付着させ、アセトンを用いて固定した。
【0117】
また、RA患者の滑膜検体から滑膜初代培養系細胞株の樹立を以下の手順で行った。関節形成術の際に、RA患者より切除した関節滑膜を細片化し、コラゲナーゼ処理を行った。その後、定法(参考文献:Hashiramoto A, Sano H, Maekawa T,et al. C-myc antisense oligodeoxynucleotides can induce apoptosis and down-regulate Fas expression in rheumatoid synoviocytes. Arthritis Rheum. 42. 954-62 (1999) :参照)に従って、滑膜細胞を単離した。樹立した細胞株は、10%ウシ胎児血清添加ダルベッコ変法イーグル培地にて維持し、実験に用いた。
【0118】
(3−1)免疫染色法によるDR3の検出
上記の方法で作製したRA患者の滑膜組織の凍結標本に対して免疫染色を行い、DR3の検出を行った。具体的には、上記凍結標本をリン酸緩衝液にて5分間洗浄した後、内在性ペルオキシダーゼ活性を除去するため、0.03%過酸化水素水溶液で30分処理した。その後、再度リン酸緩衝液にて5分間・3回繰り返して洗浄し、以降の工程は、ダコENVISION+キット(Dako Corporation社、Carpinteria、CA、米国)を用いて定法(参考文献:Miyazaki S,Yoshikawa T, Hashiramoto A, et al. ACTH expression in synovium of patient with rheumatoid arthritis and Lewis rats with adjuvant arthritis.Mod Rheumatol.12.206-212(2002) :参照)に従い、免疫染色を行った。DR3タンパク質を検出する目的で、二次抗体には抗DR3抗体(Neo Marker社、Fremont、CA、米国)を用いた。
【0119】
その結果を図9、図10に示す。図9は、RA患者の滑膜細胞に対して免疫染色を行い、その組織を100倍で顕微鏡観察したものである。また、図10(a)は、上述した滑膜標本において、滑膜浸潤リンパ球が集積した部位を1000倍で観察したもの、また、図10(b)は、同標本にて滑膜表層部位に集積した滑膜細胞を1000倍で観察したものである。
【0120】
これらの図に示されるように、RA患者の滑膜細胞および滑膜浸潤リンパ球では、茶褐色に染まるDR3陽性細胞が多数認められた。
【0121】
(3−2)ウエスタンブロット法によるDR3の検出
上記の方法で樹立した由来患者の異なる3種の滑膜細胞株からタンパク質を抽出し、定法(参考文献:Yamashita T, Hashiramoto A, Haluzik M,et al. Enhanced insulin sensitivity in mice lacking ganglioside GM3.Proc Natl Acad Sci U S A. 100. 3445-9.2003 :参照)に従ってウエスタンブロット法を用いてDR3タンパク質を検出した。二次抗体には、抗DR3抗体(eBioscience社、SanDiego、CA、米国)を用いた。また、比較のための陽性対象として、DR3を高発現するJurkat細胞を用いた。
【0122】
その結果を図11に示す。図11では、左から順にSample1,2,3、および、Jurkat細胞である。なお、上記Sample1,2,3は、それぞれ由来患者の異なる滑膜細胞である。図11に示すように、Sample1,2,3の何れにも、DR3タンパク質の発現(58kDa)が確認された。
【0123】
(4)RA患者と変形性関節症(OA)患者とのDR3のメチル化状態の比較
上述のbisulfite genomic sequencing法を用いて、RA患者の滑膜細胞(SAC)から採取したDR3遺伝子と、変形関節症(OA)患者の滑膜細胞から採取したDR3遺伝子との上流領域のメチル化状態の比較を行った。
【0124】
その結果を図12に示す。なお、図12には、RA患者と健常者由来の末梢血リンパ球(PBMC)において、同様にDR3遺伝子との上流領域のメチル化状態を調べた結果も示す。末梢血リンパ球(PBMC)から採取したDR3遺伝子の上流領域については、上述の結果と同様、RA患者・健常者ともに、A領域は高メチル化状態、B領域はメチル化と非メチル化との混在状態、C領域は完全な非メチル化状態であった。図12の上段に示すCL1/CR1,CL2−2/CR2−2は、本実験に用いたプライマーである。
【0125】
滑膜細胞(SAC)から採取したDR3遺伝子の上流領域においては、RA患者由来の遺伝子は高メチル化状態であった。これに対し、OA患者由来の遺伝子は、RA患者由来のものと比較してメチル化が低い傾向にあることが確認された。
【0126】
また、同じ遺伝子について、上述のMSP法を用いてメチル化状態の検出を行った。その結果を図13に示す。図13の上段に示すMF1/MR1,MF2/MR2,MF3/MR3は、本実験に用いたメチル化特異的プライマーであり、UF1/UR1,UF2/UR2,UF3/UR3は、本実験に用いた非メチル化特異的プライマーである。図13に示すように、MSP法を用いた実験でも、上述のbisulfite genomic sequencing法を用いた場合と同様の結果が示された。
【0127】
この結果から、滑膜細胞由来のDR3遺伝子のC領域においては、RA患者で特に高メチル化状態であることがわかった。
【0128】
(5)ルシフェラーゼアッセイによるDR3プロモーター活性の確認
健常者末梢血リンパ球DNA由来のインサート4種(pDR3−1〜pDR3−4)をpGL3−Enhancer vector(Promega 製)に挿入し、レポータープラスミドを構築した。さらに、CpGメチル化酵素SssI(New England Biolabs 製)によって人工的にメチル化させたプラスミドpDR3−1(SssI)を作製した。図14には、本実施例において構築したプラスミドに挿入された各インサート(pDR3−1〜pDR3−4、および、pDR3−1(SssI))を模式的に示す。図14に示すように、pDR3−1およびpDR3−1(SssI)は、DR3遺伝子のA領域、B領域、C領域(エクソン1を含む)を含むものであり、pDR3−2はDR3遺伝子のB領域とC領域(エクソン1を含む)とを含むものであり、pDR3−3はDR3遺伝子のC領域(エクソン1を含む)のみを含むものであり、pDR3−4はDR3遺伝子のエクソン1のみを含むものである。
【0129】
上記のようにして構築したプラスミドを用いてトランスフェクションを行う前日に、24ウェルプレートにCOS−7を1×105cell/ウェルとなるようにまいた。そして翌日、Lipofect AMINE with PLUS(Invitrogen製)を用いて、COS−7にレポータープラスミドを遺伝子導入した。そして、試薬の調整およびサンプルの調整を行った後、各プラスミドのルシフェラーゼ活性を、Dual-Luciferase Reporter Assay System Kit(Promega製)を用いてルミノメーターで測定した。
【0130】
その結果を、相対的ルシフェラーゼ活性として図15に示す。この図に示すように、ベクターに挿入されたDR3プロモーター領域が、pDR3−1からpDR3−2,3,4へと短くなるにしたがって、相対的ルシフェラーゼ活性が低下していることが確認された。また、メチル化されたプラスミドは、A〜C領域を全て含んでいるにもかかわらず、メチル化されていないものと比較してルシフェラーゼ活性が低下していることが確認された。
【0131】
この結果から、DR3遺伝子のプロモーター領域は、メチル化の影響によってその発現が抑制されることが示唆される。つまり、プロモーター領域が比較的高メチル化状態であるRA患者の滑膜細胞では、DR3遺伝子の発現が抑制されており、これがRAの発症と関わっていることが示唆される。
【0132】
(6)DR3タンパク質の発現とDR3遺伝子のメチル化状態との関係
本実施例では、健常者由来の末梢血リンパ球およびRA患者由来の滑膜細胞におけるDR3タンパク質の発現を、上記(3−2)に記載の手順と同様のウエスタンブロット法によって確認した。また、同じ検体について上述のMSP法を用いてDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態の確認を行った。その結果を図16に示す。図16(a)は、ウエスタンブロット法によるタンパク質発現調査の結果を示し、図16(b)は、MSP法によるC領域のメチル化解析の結果を示す。図16において、PBMC(P1〜P5)は、健常者末梢血リンパ球から採取した各検体であり、Synovial cell(S1〜S7)は、RA患者滑膜細胞から採取した各検体である。また、図16(b)において、Uは非メチル化状態のものを示す、Mはメチル化状態のものを示す。
【0133】
図16(a)に示すように、上段に示すDR3タンパク質のバンドは、健常者由来末梢血リンパ球よりもRA患者由来滑膜細胞において薄くなっていることが確認された。この結果から、DR3タンパク質の発現量は、健常者由来末梢血リンパ球よりもRA患者由来滑膜細胞において減少していることが明らかとなった。なお、図16(a)の下段に示すウエスタンブロットの結果は、コントロールとして用いたアクチン(Actin)タンパク質の結果である。この結果から、アクチンタンパク質の発現量は、健常者とRA患者との間で違いがないことが確認された。
【0134】
また、図16(b)に示すように、左側に示す健常者由来末梢血リンパ球では、完全に非メチル化状態であり、右側に示すRA患者由来滑膜細胞では、健常者のものと比較して高メチル化状態であることが確認された。特に、MSP法において完全にメチル化状態であることが確認された検体S3,S7(図16(b)参照)では、DR3タンパク質の発現量がより低いことが確認された(図16(a)参照)。
【0135】
以上の結果から、DR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態のRA患者の滑膜細胞では、実際にDR3遺伝子の翻訳産物であるDR3タンパク質の発現量が低下することが確認された。この結果から、プロモーター領域が比較的高メチル化状態であるRA患者の滑膜細胞では、DR3タンパク質の発現が抑制されており、これがRAの発症と関わっていることが示唆される。
【0136】
そしてこの実施例の結果から、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子を比較対照(コントロール)とすれば、被験者から採取した滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が、上記末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態よりも高メチル化状態である場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができることが裏付けられた。
【0137】
以上のように、DR3遺伝子は、RA患者の滑膜細胞および滑膜浸潤リンパ球に発現していることが確認された。この結果から、DR3遺伝子が関節リウマチの病態形成に関与している可能性が示唆された。また、RA患者の滑膜組織においてこのようなDR3遺伝子の発現が確認されたことから、本発明の主要なポイントであるDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態の違いが、DR3遺伝子の滑膜組織における発現に関与していると考えられ、ひいては、関節リウマチの発症と深く関連していることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明のポリヌクレオチドは、関節リウマチの発症のメカニズムの解明に有効に利用することができると考えられる。また、本発明によれば、関節リウマチの発症またはその発症可能性を高精度に簡便かつ確実に行うことができる。それゆえ、本発明は関節リウマチの予防および治療の分野において、高い利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明にかかるポリヌクレオチドの塩基配列を示す図である。
【図2】図1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの構造を示す模式図である。
【図3】本実施例に示すMSP法において、DNA増幅工程によって増幅されたDR3遺伝子の上流領域のDNA断片についてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った結果を示す図である。なお、(a)はRA患者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域の結果を示すものであり、(b)はRA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子の上流領域の結果を示すものである。
【図4】本実施例に示すMSP法において、DNA増幅工程によって増幅されたDR3遺伝子の上流領域のDNA断片についてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った結果を示す図である。なお、この図は、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域の結果を示すものである。
【図5】本実施例に示すMSP法において、DNA増幅工程によって増幅されたDR3遺伝子の上流領域のDNA断片についてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った結果を示す図である。なお、(a)は、DR3遺伝子の上流領域中のA領域の結果を示すものであり、(b)は、DR3遺伝子の上流領域中のB領域の結果を示すものであり、(c)は、DR3遺伝子の上流領域中のC領域の結果を示すものである。また、(a)〜(c)において、丸付きで示す数字1〜3はそれぞれ、滑膜細胞由来の遺伝子、滑膜細胞浸潤リンパ球由来の遺伝子、関節液中のリンパ球由来の遺伝子を順に示している。
【図6】本実施例に示すMSP法によって、健常者とRA患者の末梢血リンパ球(PBMC)由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態、および、RA患者とOA患者の滑膜細胞(SAC)由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態について調査した結果をまとめた表である。
【図7】(a)は、本実施例に示すbisulfite genomic sequencing法によって、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を検出した結果を示す図である。(b)は、本実施例に示すbisulfite genomic sequencing法によって、RA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を検出した結果を示す図である。
【図8】本実施例に示すbisulfite genomic sequencing法によって、RA患者の滑膜浸潤リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を検出した結果を示す図である。
【図9】本実施例において、RA患者の滑膜細胞に対して免疫染色を行い、DR3の発現を確認した結果を示す図である。
【図10】(a)は、本実施例において、RA患者の滑膜浸潤リンパ球に対して免疫染色を行い、DR3の発現を確認した結果を示す図である。(b)は、本実施例において、RA患者の滑膜細胞に対して免疫染色を行い、DR3の発現を確認した結果を示す図である。
【図11】本実施例において、RA患者の滑膜組織におけるDR3遺伝子の発現をウエスタンブロット法で確認した結果を示す図である。
【図12】本実施例において、RA患者と変形性関節症(OA)患者とのDR3上流領域のメチル化状態を、bisulfite genomic sequencing法によって調べた結果を示す図である。
【図13】本実施例において、RA患者と変形性関節症(OA)患者とのDR3上流領域のメチル化状態を、MSP法によって調べた結果を示す図である。
【図14】本実施例において構築したプラスミドに挿入された各インサート(pDR3−1〜pDR3−4、および、pDR3−1(SssI))を示す模式図である。
【図15】図14に示す各インサートを挿入したプラスミドにおいて、相対的ルシフェラーゼ活性を測定した結果を示すグラフである。
【図16】本実施例においてDR3タンパク質の発現とDR3メチル化状態(C領域)との関係を調査した結果を示す図である。(a)は、ウエスタンブロット法によるタンパク質発現調査の結果を示し、(b)は、MSP法によるメチル化解析の結果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節リウマチの発症に関与するポリヌクレオチド、およびこれを利用した関節リウマチの発症またはその発症可能性の判定方法および判定キット、さらに、当該ポリヌクレオチドを利用した関節リウマチの治療薬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(rheumatoid arthritis 以下「RA」ともいう)は、多発するびらん性関節炎を主徴とするが、同時に多臓器を障害する原因不明の全身性炎症疾患である。RAは寛解と増悪とを繰り返しながら慢性に進行し、無治療で放置すると関節の破壊や変形を来し、やがて運動器の機能障害を呈してくる。時には生命をも脅かす。したがって、RA患者は身体的にも精神的にも大きな苦痛を生涯に亘って背負うことになる。
【0003】
RAは、その発症の仕方も多種多様であり、その診断には、アメリカリウマチ学会の診断基準が広く利用されている。しかしながら、RAの発症は、通常、緩徐で数週間から数ヶ月にわたり、アメリカリウマチ学会の診断基準における客観的な指標としてのリウマトイド因子の存在は、その陽性率が3ヶ月以内で33%、12ヶ月以上においても88%程度(非特許文献1参照)であり、RAと確実に診断するには至っていない。そこで、組換え抗原と反応する患者血清中のリウマチ性関節炎関連抗体IgM抗体を検出し、リウマチ性関節炎を診断しようとする試みなどがなされている(特許文献1参照)。
【0004】
また、RAの治療は、RA病態の病状の進行過程によって選択すべき治療手段は異なるのが通常である。一般的に確定診断が下せない初期では、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)を投与し、確定診断が下せた場合は、NSAIDに加えて疾患修飾性リウマチ薬(DMARD)を投与する。特にRA発症の初期には、確定診断を下すことは困難であり、現状では、NSAIDを投与し、経過を慎重に観察しながら膠原病を含む他のリウマチ疾患との鑑別を同時に行っている。さらに症状が進行した場合は、ステロイド薬の投与を行う場合もあり、疼痛のための薬物療法と共に関節機能の維持・回復に対して理学療法・装具療法を行う。また、関節破壊により日常生活が不自由になった場合には、手術療法を行う場合もある。
【0005】
特許文献2では、本願発明者らが、マイクロサテライトマーカーを用いた連鎖解析をRA患者およびその血縁者に対して実施することにより、関節リウマチの疾患遺伝子が位置する3カ所の遺伝子座を特定し、以下の疾患遺伝子を同定している。
(1)ヒト第1染色体の、マイクロサテライトマーカーD1S214および/またはDlS253がハイブリダイズするDNA配列から±1センチモルガン以内に位置する関節リウマチの疾患遺伝子。
(2)ヒト第8染色体の、マイクロサテライトマーカーD8S556がハイブリダイズするDNA配列から±1センチモルガン以内に位置する関節リウマチの疾患遺伝子。
(3)ヒトX染色体の、マイクロサテライトマーカーDXSl001、DXS1047、DXS1205、DXS1227および/またはDXS1232がハイブリダイズするDNA配列から±1センチモルガン以内に位置する関節リウマチの疾患遺伝子。
【0006】
また、非特許文献2には、本願発明者らが、前記先願発明の各疾患関与遺伝子にうち、前記(1)の疾患関与遺伝子に関係するマーカーD1S214およびD1S253の疾患関与遺伝子として、デスレセプター3(death receptor 3:「DR3」または「DR3遺伝子」ともいう)を挙げ、健常人とRA患者との間にDR3の制限断片長多型を確認し、DR3がRAにおける疾患関与遺伝子である可能性を示唆している。
【0007】
さらに、特許文献3では、本願発明者らが、DR3遺伝子のゲノム変異と関節リウマチ(慢性関節リウマチ)発症との関係について開示している。
【特許文献1】特開平10−513257号(公開日:平成10年12月15日)
【特許文献2】国際公開WO98/51791号(国際公開日:1998年11月19日)
【特許文献3】国際公開WO02/34912(国際公開日:2002年5月2日)
【非特許文献1】治療、第73巻、第3号、第23〜27頁、1991年
【非特許文献2】リウマチ、第39号、第2号、第444頁および第445頁(1999年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高等真核生物において、ゲノムDNA配列中に存在する5’−CG−3’DNA(以下、「CpG」または「CpG配列」とする)部分では、当該グアノシン(G)の5’側に位置するシトシン(C)がメチル化される現象が知られている。このCpGのメチル化修飾は、遺伝子発現に影響を及ぼすと考えられており、特にCpGに富む領域が遺伝子のプロモーター領域内に存在する場合には、遺伝子発現に対して重要な影響を及ぼすと考えられている。
【0009】
通常、染色体における多くの遺伝子は上述したメチル化から保護されているが、何らかの原因により、遺伝子のプロモーター領域に存在するCpGに富む領域がメチル化された場合、遺伝子の転写が抑制されることになる。このため、CpGのメチル化の有無が、遺伝子発現に影響を及ぼし、これによって、当該遺伝子の機能を十分に発揮することができなくなり、疾患を発生させるという可能性が考えられる。
【0010】
しかし、RAの疾患関与遺伝子と考えられている上述のDR3に関して、このCpGのメチル化状態については十分に解明されていないのが現状である。
【0011】
そこで、本発明では、上記DR3のプロモーター領域について、そのCpG配列のメチル化状態について解明し、ヒト関節リウマチの発症のメカニズムの解明に有用なポリヌクレオチドを提供するとともに、ヒト関節リウマチの発症または発症可能性を高精度に判定することのできる判定キットおよび判定方法を提供することを目的としている。さらに本発明は、DR3遺伝子に異常を有するRA患者に対する有効な治療薬剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、上記の目的を達成するために、ヒトゲノムにおいて、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3の翻訳開始点より上流の領域(プロモーター領域を含む)のDNAメチル化解析を行った。その結果、DR3遺伝子の翻訳開始点(ATG)の上流約−380bp〜−180bpに存在するCpG配列にアレル特異的なメチル化が存在すること、そして、それより下流のCpG配列については、健常者及びRA患者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の場合には全て非メチル化状態であり、RA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子および滑膜浸潤リンパ球由来のDR3遺伝子の場合には非メチル化とメチル化とが混在した状態であることを見出した。
【0013】
さらに、この翻訳開始点より上流の領域のシークエンス結果によって、−380bp付近にTCCTCCモチーフの存在を確認し、CpG配列のアレル特異的メチル化領域はこのTCCTCCモチーフの付近から始まることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明にかかるポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列からなり、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3のプロモーター領域を含むポリヌクレオチドであって、その第170番目から第175番目の塩基配列が、転写活性に関わるTCCTCCモチーフを構成し、当該TCCTCCモチーフ以降のCpG配列の一部は、アレル特異的にメチル化されていることを特徴とするものである。
【0015】
ここで、「アレル特異的にメチル化されている」とは、2つの対立遺伝子のうち、片方の対立遺伝子のCpG配列に特異的にメチル化されているということを意味している。
【0016】
上記のポリヌクレオチドは、DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−180bpよりも下流に位置する(すなわち、配列番号1に示す塩基配列の第374番目の塩基以降に存在する)CpG配列は、メチル化された状態あるいは非メチル化された状態の何れかの状態である。このようなポリヌクレオチドとして、例えば、RA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子のプロモーター領域が挙げられる。
【0017】
また、上記のポリヌクレオチドは、DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在する(すなわち、配列番号1に示す塩基配列の第174番目から第373番目までの間に位置する)CpG配列は、アレル特異的にメチル化されており、−180bpよりも下流の(すなわち、配列番号1に示す塩基配列の第374番目の塩基以降に存在する)CpG配列はメチル化された状態あるいは非メチル化された状態である。このようなポリヌクレオチドとして、例えば、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域、あるいは、RA患者の末梢血リンパ球由来および滑膜細胞由来のDR3遺伝子のプロモーター領域が挙げられる。
【0018】
本発明にかかる判定キットは、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較することによって関節リウマチの発症、または、その発症可能性を判定するために利用される判定キットであって、DR3遺伝子のプロモーター領域を構成する少なくとも一部のポリヌクレオチド中に含まれるメチル化シトシンの有無を判定するためのメチル化特異的プライマーと非メチル化特異的プライマーとを含むことを特徴とするものである。
【0019】
ここで、関節リウマチの「発症可能性」とは、関節リウマチ(RA)が発生する危険度を示す指標をいい、発症可能性が高ければそれだけRAになりやすく、逆に発症可能性が低ければRAになり難いということを示すものである。
【0020】
上記の判定キットにおいて、上記メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーは、上記配列番号1に示す塩基配列における第374番目から第564番目までの塩基配列を少なくとも増幅させることができるように設定されていることが好ましい。なお、配列番号1に示す塩基配列における第336番目から第564番目の塩基配列は、DR3遺伝子のプロモーター領域であり、配列番号1に示す塩基配列における第374番目から第592番目の塩基配列は、後述するC領域である。
【0021】
また、上記の判定キットを用いれば、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認した場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができる。
【0022】
また、上記の判定キットにおいて、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子を比較対照(コントロール)とすれば、被験者から採取した滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が、上記末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態よりも高メチル化状態である場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができる。
【0023】
本発明の関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定方法は、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較すること、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認することによって、関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定を行うことを特徴とするものである。
【0024】
そして、上記の判定方法は、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球および末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子の各プロモーター領域を重亜硫酸塩含有試薬でそれぞれ処理し、当該プロモーター領域に含まれるCpG配列中の非メチル化シトシンをウラシルへと変換するDNA変換工程と、上記DNA変換工程による処理後のDR3遺伝子のプロモーター領域を、メチル化特異的プライマーあるいは非メチル特異的プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅させるDNA増幅工程と、上記DNA増幅工程において、上記DR3遺伝子のプロモーター領域が、メチル化特異的プライマーあるいは非メチル特異的プライマーの何れを用いたポリメラーゼ連鎖反応で増幅されたかを検出することで、上記DR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態を検出するメチル化状態検出工程と、上記メチル化状態検出工程によって検出された、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較する比較工程、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認する確認工程とを含むものであってもよい。
【0025】
なお、上記DR3遺伝子のプロモーター領域の一例としては、配列番号1に示す塩基配列における第336番目から第564番目までの塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0026】
さらに、上記の判定方法では、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができる。
【0027】
また、本発明では、上記の判定方法において、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子を比較対照(コントロール)とし、被験者から採取した滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が、上記末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態よりも高メチル化状態である場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することもできる。この方法によって、ヒト関節リウマチの発症または発症可能性を高精度に判定することができる。
【0028】
本発明にかかる関節リウマチの治療薬剤は、本発明のポリヌクレオチドのうち、DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列は、メチル化された状態あるいは非メチル化された状態の何れかの状態であり、−180bpよりも下流のCpG配列は非メチル化状態であるようなポリヌクレオチドの一部をプロモーター領域として有するDR3遺伝子を含んでなることを特徴とするものである。
【0029】
また、上記の治療薬剤は、上記関節リウマチ患者の滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球へ投与されることが好ましい。
【0030】
なお、本明細書において、特に断らない限り、A、C、GおよびTは、アデニン、シトシン、グアニンおよびチミンの各塩基を示す。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、ヒト関節リウマチの発症のメカニズムの解明に有効に利用することができる。さらに、本発明のポリヌクレオチドは、関節リウマチの診断、発症可能性の判定、関節リウマチの治療薬剤として利用することができる。
【0032】
また、本発明にかかる関節リウマチの判定キットおよび判定方法によれば、関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定を、高精度かつ簡便に行うことができる。それゆえ、関節リウマチの予防および治療に役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0034】
〔1〕本発明のポリヌクレオチドについて
本発明にかかるポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列からなり、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3のプロモーター領域を含むポリヌクレオチドであって、その第170番目から第175番目の塩基配列が、転写活性に関わるTCCTCCモチーフを構成し、当該TCCTCCの領域以降のCpG配列の一部は、アレル特異的にメチル化されていることを特徴とするものである。
【0035】
上記配列番号1に示す塩基配列は、非特許文献2に記載のヒトゲノム由来の関節リウマチの疾患関与遺伝子のうち、DR3の翻訳開始点より上流の領域(翻訳開始点(ATG)のアデニンを+1bpとした場合、−553bpから−1bpまでの領域:以下、「DR3の上流領域」とも呼ぶ)および、翻訳開始点から+39bpまでの領域である。そして、本願発明者らの研究によって、このDR3の上流領域の−379bpから−384bpまでの部位(配列番号1における第170番目から第175番目までの領域)である「TCCTCC」が、DR3遺伝子の転写活性に関わるTCCTCCモチーフを構成していることが明らかとなった。さらに、当該TCCTCCモチーフ以降のCpG配列の一部はアレル特異的にメチル化されていることも明らかとなった。
【0036】
ここで、「TCCTCCモチーフ以降」とは、本発明にかかるポリヌクレオチドにおいてTCCTCCモチーフが存在する部位よりも下流(すなわち、3’方向)の領域のことを意味する。
【0037】
また、図1には、本発明にかかるポリヌクレオチドの塩基配列を示す。図1に示す塩基配列には、DR3遺伝子のエクソン1(exon1)を構成しているDR3遺伝子の翻訳開始点以降の塩基配列の一部も含まれている。また、図1では、塩基配列中のCpG配列、TCCTCCモチーフ(図中では、転写因子Sp1結合因子と記す)、翻訳開始点、プロモーター領域、エクソン1を、それぞれ図示している。
【0038】
図1に示すように、本発明にかかるポリヌクレオチドは、その配列中の多数のCpG配列を有している。そして、このCpG配列のうちのいくつかはメチル化されている。ここで、配列番号1に示すポリヌクレオチド配列において、第1番目から第173番目までの領域をA領域、第174番目から第373番目までの領域をB領域、第374番目から第592番目までの領域をC領域とする。なお、図1に示す塩基配列において、実線で囲んだ領域(配列番号1に示す塩基配列においては、第336番目から第564番目までに相当)は、プロモーターインスペクター(Promoter Inspector)によってプロモーターと解析された領域であるが、このプロモーター領域は、上記C領域と一部一致している。また、図1において、破線で囲んだ領域は、エクソン1である。
【0039】
図2は、図1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの構造、つまり、DR3遺伝子の翻訳開始点よりも上流の領域の構造を模式的に示したものである。図2では、上記ポリヌクレオチドに含まれるCpG配列、TCCTCCモチーフ、エクソン1(exon1)、翻訳開始点(ATG)、および、A・B・Cの各領域を示している。また、図2に示すように、DR3遺伝子のプロモーター領域は、上述のC領域とほぼ一致している。
【0040】
そして、図1および図2に示すポリヌクレオチド、すなわち、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドは、その配列中の第2,3番目、第5,6番目、第34,35番目、第65,66番目、第88,89番目、第92,93番目、第137,138番目、第151,152番目、第187,188番目、第189,190番目、第196,197番目、第251,252番目、第258,259番目、第270,271番目、第300,301番目、第317,318番目、第322,323番目、第324,325番目、第344,345番目、第350,351番目、第374,375番目、第395,396番目、第401,402番目、第411,412番目、第415,416番目、第421,422番目、第431,432番目、第435,436番目、第442,443番目、第453,454番目、第456,457番目、第459,460番目、第461,462番目、第466,467番目、第475,476番目、第479,480番目、第481,482番目、第493,494番目、第501,502番目、第504,505番目、第517,518番目、第523,524番目、第538,539番目、第542,543番目、第545,546番目、第563,564番目、第567,568番目、第569,570番目、第577,578番目、第579,580番目、第582,583番目、第588,589番目、第591,592番目に、それぞれCpG配列を有している。
【0041】
本願発明者らは、健常者および関節リウマチ患者から採取された末梢血リンパ球および滑膜細胞から抽出されたDNAから、上記DR3遺伝子の上流領域の配列を取得し、上記A領域・B領域・C領域のCpG配列のメチル化状態についての解析を行った。
【0042】
その結果、A領域については、健常者・RA患者ともに、そのCpG配列が全てメチル化状態であることが確認された。また、B領域については、健常者・RA患者ともに、そのCpG配列について、メチル化されたものと非メチル化されたものとが混在した状態であることが確認された。
【0043】
また、C領域については、健常者の末梢血リンパ球から採取されたDR3遺伝子の上流領域のCpG配列、および、RA患者の末梢血リンパ球から採取されたDR3遺伝子の上流領域のCpG配列については、全て非メチル化状態であった。これに対して、RA患者の滑膜細胞から抽出されたDR3遺伝子の上流領域のCpG配列、および、RA患者の滑膜浸潤リンパ球から抽出されたDR3遺伝子の上流領域のCpG配列については、上述のB領域のようにメチル化されたものと、非メチル化されたものが混在した状態であることが確認された。
【0044】
なお、本実施の形態における説明では、滑膜細胞および滑膜浸潤リンパ球をまとめて滑膜組織と称する。
【0045】
以上のような結果から、本発明にかかるポリヌクレオチドのより具体的な一例として、RA患者の滑膜組織から採取されたDR3遺伝子の上流領域の塩基配列からなるものを挙げることができる。このポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列からなるものであって、DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列(すなわち、B領域のCpG配列)にアレル特異的なメチル化が存在し、−180bpよりも下流のCpG配列(すなわち、C領域のCpG配列)についてもメチル化状態のものと非メチル化状態のものとが混在しているというものである。
【0046】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドの具体的な他の例として、健常者の末梢血リンパ球、あるいは、RA患者の末梢血リンパ球から採取されたDR3遺伝子の上流領域の塩基配列からなるものを挙げることができる。そして、健常者及びRA患者の末梢血リンパ球由来のポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列からなるものであって、DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列(すなわち、B領域のCpG配列)にアレル特異的なメチル化が存在し、−180bpよりも下流のCpG配列(すなわち、C領域のCpG配列)は全て非メチル化状態になっているというものである。また、RA患者の滑膜細胞由来のポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列からなるものであって、DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列(すなわち、B領域のCpG配列)にアレル特異的なメチル化が存在し、−180bpよりも下流のCpG配列(すなわち、C領域のCpG配列)は、メチル化と非メチル化とが混在した状態になっているというものである。
【0047】
上述の本発明にかかるポリヌクレオチドは、DR3遺伝子の発現に重要な役割を果たしていることが示唆されることから、未だ解明されていない部分の多いRAの発症のメカニズムの解明に有効に利用することができる。さらに、本発明のポリヌクレオチドは、RAの診断、発症可能性の判定、および、RAの治療に利用できる可能性を有している。
【0048】
〔2〕本発明のRAの発症、または、その発症可能性の判定方法について
本発明にかかるRAの発症、または、その発症可能性の判定方法は、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較することを特徴とするものである。
【0049】
ここで、上記DR3遺伝子のプロモーター領域としては、この遺伝子のプロモーター領域として従来から知られたものを採用することができるが、その一例として、配列番号1に示す塩基配列における第336番目から第564番目までの塩基配列からなるものを挙げることができる。
【0050】
DR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態については、上述のように、健常者の末梢血リンパ球から採取したものの場合は全てのCpG配列が非メチル化状態であった。一方、RA患者の場合は、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高いことが確認された。
【0051】
本発明にかかるRAの発症、または、発症可能性の判定方法は、上記の結果に基づいてなされたものである。それゆえ、上記の判定方法においては、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができる。
【0052】
本発明にかかる判定方法において、被験者の滑膜組織からDNAを抽出し、さらに、DR3遺伝子のプロモーター領域を取得する方法については、従来公知の目的遺伝子の精製方法を採用すればよい。
【0053】
また、本願発明者らの研究によって、滑膜組織から取得したDR3遺伝子のプロモーター領域に関して、RA患者と健常者との間でそのメチル化状態に違いが確認された。そこで、RAの発症、または、発症可能性の他の判定方法として、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態を検出して、全て非メチル化状態であれば、RAを発症していない、または、RAの発症可能性は低いと判定し、非メチル化したものとメチル化したものとが混在した状態であれば、RAを発症している、または、RAの発症可能性が高いと判定する、という方法も実施可能である。
【0054】
この方法であれば、上述の末梢血リンパ球と滑膜組織の両方からDR3遺伝子のプロモーターを採取し、そのメチル化状態を比較する方法より精度はやや劣るものの、末梢血リンパ球からDR3遺伝子のプロモーター領域を取得する必要がなくなるため、サンプルの採取に要する手間を省き、より簡便にRAの発症または発症可能性を判定を行うことができる。
【0055】
なお、ポリヌクレオチドに存在するCpG配列のメチル化状態を検出する方法については、従来公知の方法を用いることができる。その一例として、重亜硫酸塩ゲノムシークエンス法(bisulfite genomic sequencing法)(Clark SJ, Harrison J, Paul CL, and Frommer M. High sensitivity mapping of methylated cytosines. Nucleic Acids Res 22, 2990-2997 (1994) 参照)、MSP法(methylation specific PCR法)(Harman JG, Graff JR, Myohanen S et al. Methylation-specific PCR: A novel PCR assay for methylation status of CpG islands. Proc Natl Acad Sci 93, 9821-9826 (1996) 参照)などが挙げられる。
【0056】
このCpG配列のメチル化状態を検出する方法を利用した本発明の判定方法の具体例については、以下(3)の項において説明する。なお、この方法は、上述のMSP法を利用したものである。
【0057】
〔3〕本発明のRAの発症、または、その発症可能性を判定する判定キットについて
本発明にかかる判定キットは、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較することによって関節リウマチの発症、または、その発症可能性を判定するために利用される判定キットであって、DR3遺伝子のプロモーター領域を構成する少なくとも一部のポリヌクレオチド中に含まれるメチル化シトシンの有無を判定するためのメチル化特異的プライマーと非メチル化特異的プライマーとを含むことを特徴とするものである。
【0058】
ここで、DR3遺伝子のプロモーター領域を構成する少なくとも一部のポリヌクレオチドとは、ヒトRA疾患関与遺伝子DR3の上流領域の少なくとも一部のことを意味する。上記ポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの一部であって、上述のプロモーター領域(配列番号1の第336番目から第553までの領域)を含むものが挙げられる。
【0059】
DR3の上流領域は、上述のように、A領域・B領域・C領域に分けられているが、そのうちC領域については、健常者とRA患者とでメチル化状態に違いがあることが確認された。つまり、末梢血リンパ球および滑膜組織から採取したDR3の上流領域のうちのC領域に関して、健常者の場合は、末梢血リンパ球において、そのCpC配列が非メチル化状態であることが確認された。これに対して、RA患者の場合は、末梢血リンパ球由来のものは、そのCpC配列が非メチル化状態であったにもかかわらず、滑膜組織由来のものは、メチル化されたものと非メチル化されたものとが混在した状態である、すなわち、滑膜組織由来のものの方が末梢血リンパ球由来のものに比べて高メチル化状態であることが確認された。
【0060】
そこで、本発明の判定キットは、被験者の滑膜組織から採取したDR3遺伝子のC領域(あるいは、プロモーター領域を含む領域)のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較することによって、RAの発症、または、その発症可能性を判定するというものである。
【0061】
この判定キットに含まれる、メチル化シトシンの有無を判定するためのメチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーは、DR3遺伝子のプロモーター領域を構成する少なくとも一部のポリヌクレオチド中に含まれるメチル化シトシンの有無を判定するために、当該プロモーター領域の少なくとも一部を増幅させることができるものであれば、特に限定されることはない。
【0062】
ここで、「非メチル化特異的プライマー」とは、CpG配列を含有するDR3のプロモーター領域に対して特異的にアニーリングするよう設計されたオリゴヌクレオチドプライマーであって、特に、当該プロモーター領域中のすべてのC(シトシン)がT(チミン)に変換された配列を有するプライマーである。
【0063】
またここで、「メチル化特異的プライマー」とは、CpG配列を含有するDR3のプロモーター領域に対して特異的にアニーリングするよう設計されたオリゴヌクレオチドプライマーであって、特に、当該領域中のCpG配列は保存されたまま、かつCpG配列以外のC(シトシン)はT(チミン)に変換された塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0064】
このように設計することにより、当該メチル化特異的オリゴヌクレオチドプライマーは、上記メチル化CpG含有プロモーター領域と特異的にアニーリング(相補)することができる。なお、フォワードプライマー(Forward Primer)およびリバースプライマー(Reverse Primer)のいずれも、上記メチル化CpG含有プロモーター領域と特異的にアニーリングするものであることが好ましい。
【0065】
上記非メチル化特異的プライマーの具体的な例としては、DR3遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG配列を含む領域に対するオリゴヌクレオチドプライマーであって、当該プロモーター領域中のすべてのC(シトシン)がT(チミン)に変換された塩基配列を有するプライマーを挙げることができる。
【0066】
上記メチル化特異的プライマーの具体的な例としては、DR3遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG配列を含む領域に対するオリゴヌクレオチドプライマーであって、当該領域中のCpG配列は保存されたまま、かつCpG配列以外のC(シトシン)はT(チミン)に変換された塩基配列を有するプライマーを挙げることができる。
【0067】
つまり、上記メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーとしては、配列番号1に示す塩基配列における第374番目から第564番目までの塩基配列のうち、CpG配列がメチル化されたものあるいはCpG配列がメチル化されていないものを増幅させることができるように、それぞれ設定されているものを挙げることができる。このようなメチル化特異的プライマーの具体例としては、
フォワードプライマー(MF3):GTTTTATTTG GTTTGTTCGT TGTC(配列番号2)
リバースプライマー(MR3):CGTACTCTCT ACCCGTCGTA A(配列番号3)
を挙げることができる。
【0068】
また、非メチル化特異的プライマーの具体例としては、
フォワードプライマー(UF3):TTTATTTGGT TTGTTTGTTG TTGTT(配列番号4)
リバースプライマー(UR3):ACTCCATACT CTCTACCCAT CATAA(配列番号5)
を挙げることができる。
【0069】
次に、本発明の判定キットを用いて、上述の本発明にかかるRAの発症または発症可能性の判定方法を実施する手順について説明する。
【0070】
(1)DNA変換工程
被験者より従来公知の方法によって採取されたDR3遺伝子のプロモーター領域は、先ず、DNA変換工程によって、当該プロモーター領域に含まれるCpG配列のうち、メチル化されていないシトシンのみがウラシルへと変換される。
【0071】
このDNA変換工程は、DR3遺伝子のプロモーター領域を重亜硫酸塩(亜硫酸水素塩)含有試薬で処理し、当該プロモーター領域に含まれるCpG配列のうちの非メチル化シトシンをウラシルへと変換する工程であればよく、その他の具体的な方法、条件等は特に限定されるものではない。
【0072】
上記DNA変換工程では、重亜硫酸塩処理により、CpG配列中のメチル化されていないシトシンはウラシルに変換される。一方、メチル化されたシトシンは、重亜硫酸塩処理を行っても、シトシンのままである。したがって、CpG配列中のシトシンがメチル化されているか否かは、重亜硫酸塩処理により、ウラシルに変換されているかどうかで区別することができる。つまり、同一の塩基配列を有するDNAであっても、メチル化されているか否かで重亜硫酸塩処理後の塩基配列に違いがみられる。
【0073】
この重亜硫酸塩処理後の塩基配列をシークエンシングすることによって配列決定し、塩基配列の違いによって、CpG配列中のメチル化の有無を検出することもできる。この方法が、上述の重亜硫酸塩ゲノムシークエンス法である。
【0074】
上記「重亜硫酸塩含有試薬」としては、従来公知の重亜硫酸塩を含有する試薬であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、重亜硫酸ナトリウム(亜硫酸水素ナトリウム、NaHSO3ともいう)を好適に用いることができる。さらに、重亜硫酸化合物と尿素とを併用してもよい。
【0075】
ここで、メチル化の検出に用いられるDR3遺伝子のプロモーター領域は、ヒトの滑膜組織あるいは末梢血リンパ球から抽出されたゲノムDNAから取得されたものである。
【0076】
(2)DNA増幅工程
続いて、上記のDNA変換工程によって重亜硫酸塩処理されたプロモーター領域からなるDNA断片は、DNA増幅工程によって増幅される。
【0077】
このDNA増幅工程は、上記DNA変換工程により得られる、非メチル化シトシンがウラシルへと変換されたDNA断片をメチル化特異的プライマーを用いて、また、シトシンのままであるメチル化シトシンを含むDNA断片を非メチル化特異的プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させる工程であればよく、その他の具体的な方法、条件等は特に限定されない。
【0078】
先ず、上記DNA増幅工程では、CpG配列中のシトシンがウラシルへと変換したか否かを、判定キットに含まれるメチル化特異的プライマーを用いたPCRにより、それぞれ調べている。すなわち、このメチル化特異的プライマーは、重亜硫酸塩処理によりCpG配列中のシトシンがウラシルに変換されていないCpG含有DNA断片(以下、メチル化CpG含有DNAとする)と特異的にアニーリング(相補)する。したがって、上記メチル化特異的プライマーを用いたPCRによって、メチル化されたCpG配列を有するDNA断片は特異的に増幅されることになる。このメチル化特異的プライマーとしては、上述のMF3およびMR3などが用いられる。
【0079】
一方、重亜硫酸塩処理により、CpG配列中のシトシンがウラシルに変換されたCpG含有DNA断片(以下、非メチル化CpG含有DNAとする)は、上記メチル化特異的プライマーとアニーリングしないため、当該メチル化特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRでは増幅されない。
【0080】
そこで、上記DNA増幅工程では続いて、上記DNA変換工程により得られる、非メチル化シトシンがウラシルへと変換されたCpG含有DNAを、さらに、非メチル化特異的プライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させる工程を含んでいる。
【0081】
これにより、非メチル化特異的プライマーを用いたPCRでは、非メチル化CpG含有DNAは増幅される。一方、メチル化CpG含有DNAは増幅されない。この非メチル化特異的プライマーとしては、上述のUF3およびUR3などが用いられる。
【0082】
このように、メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーを用いたPCRの結果、DNA検体が増幅されるか否かにより、CpG含有DNAの塩基配列中のシトシンがメチル化されているか否かを検出することができる。
【0083】
なお、一つのDNA断片中にメチル化シトシンと非メチル化シトシンとが混在する場合には、メチル化特異的プライマーを用いたPCRおよび非メチル化特異的プライマーを用いたPCRの両方でDNA断片が増幅される。
【0084】
またここで、「ポリメラーゼ連鎖反応」とは、PCR(Polymerase Chain Reaction)であればよく、その具体的な方法、条件等は特に限定されない。
【0085】
(3)メチル化状態検出工程
続いて、本発明のRAの発症または発症可能性の判定においては、メチル化状態検出工程が実施される。このメチル化状態検出工程は、上記DNA増幅工程によって、上記CpG含有DNA断片(すなわち、DR3プロモーター領域)が増幅されたか否かを検出する工程であればよく、その具体的な方法、条件等は、特に限定されるものではない。
【0086】
上記メチル化特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRによって、CpG含有DNA断片が増幅されるか否かを検出する。これにより、上記CpG含有DNAの塩基配列中にメチル化シトシンが存在するか否かを簡便かつ迅速に、そして高感度で検出することができる。
【0087】
具体的な検出方法としては、例えば、プライマーを蛍光ラベル、ビオチンラベル、DIGラベルや放射性同位元素ラベルで標識してもよく、ゲル電気泳動法、リアルタイムPCR法、キャピラリー電気泳動法、フラグメント解析、免疫染色等、どのような機器、方法を用いてもよい。
【0088】
(4)比較工程
続いて、本発明のRAの発症または発症可能性の判定においては、比較工程が実施される。この比較工程では、上記メチル化状態検出工程によって検出された、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態との比較が行われる。そして、この比較結果に基づいて、RAの発症または発症可能性についての判定が行われる。
【0089】
なお、上記比較工程における判定の方法として、例えば、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができる。
【0090】
また、本発明の判定方法には、上記比較工程の代わりに、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認する確認工程が含まれていてもよい。この確認工程において、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態の検出は、上述の比較工程におけるメチル化状態の検出と同様の方法を用いることができる。そして、このメチル化状態の検出において、滑膜組織から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であると確認された場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができる。なお、ここで「高メチル化状態」とは、該当するポリヌクレオチド中のCpG配列のうち、70%以上のCpG配列がメチル化された状態のことを言う。
【0091】
以上のような手順で、被験者から得られたDR3遺伝子プロモーター領域を用いて、RAの発症、または、発症可能性の有無を判定することができる。
【0092】
このように、本発明にかかる判定キットには、メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーが少なくとも含まれていればよく、その他の構成は特に限定されるものではない。しかし、この判定キットをより利便性の高いものとするために、被検体であるプロモーター領域に含まれるCpG配列中の非メチル化シトシンをウラシルへと変換するための重亜硫酸塩含有試薬がさらに含まれていることが好ましい。
【0093】
また、上記キットには、さらに、PCR用試薬が含まれることが好ましい。PCR用試薬は、従来公知のものを利用可能である。
【0094】
上述のように、本発明にかかる判定キットを使用することによって、簡便かつ容易に本発明にかかるRAの発症、または、発症可能性の判定方法を実施することができる。
【0095】
なお、後述の実施例にも示されるように、DR3遺伝子は、RA患者の滑膜組織(つまり、滑膜細胞および滑膜浸潤リンパ球)において特異的に発現することが確認された。このことから、DR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態の違いが、DR3遺伝子の滑膜組織における発現に関与していると考えられ、ひいては、関節リウマチの発症と深く関連している可能性が考えられる。つまり、この結果から、本発明の判定キットや判定方法が、関節リウマチの発症、または、発症可能性の有無の判定に有効であることが裏付けられる。
【0096】
〔4〕本発明にかかるRAの治療薬剤について
本発明にかかるRAの治療薬剤は、本発明にかかるポリヌクレオチドのうち、特にCpG配列が非メチル化状態のプロモーター領域を有するDR3遺伝子を含んでいることを特徴とするものである。つまり、本発明にかかる治療薬剤は、配列番号1に示す塩基配列のうちの一部をプロモーター領域として有するDR3遺伝子を含むものであって、上記プロモーター領域において、当該DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列にアレル特異的なメチル化が存在し、−180bpよりも下流のCpG配列は全て非メチル化状態であるというものである。
【0097】
この治療薬剤は、特に、プロモーター領域が高メチル化状態であるDR3遺伝子を有するRA患者に対して好適に用いることができる。
【0098】
また、後述の実施例にも示すように、RA患者から採取されたDR3遺伝子のプロモーター領域のうち、末梢血リンパ球に由来するものは健常者と同じメチル化状態であり、滑膜組織に由来するもののメチル化状態が異なっている。このことから、DR3遺伝子が正常に機能するためには、滑膜組織におけるDR3遺伝子のプロモーター領域がメチル化状態であることが必要とされると考えられる。それゆえ、本発明の治療薬剤は、RA患者の滑膜組織に投与されることが好ましい。
【0099】
以下、実施例を示し、本発明についてさらに詳しく説明するが、もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0100】
本実施例では、上述のMSP法を用いて、ヒト末梢血リンパ球、滑膜細胞、滑膜浸潤リンパ球から採取したDNAに含まれるDR3遺伝子の翻訳開始点より上流の領域のメチル化の検出を行った。その方法および結果について、以下に説明する。
【0101】
(1)MSP法によるメチル化状態の検出
まず、従来公知の方法に基づいて、健常者およびRA患者の末梢血リンパ球および滑膜細胞を採取し、bisulfite処理後、各サンプルから取得したDR遺伝子の上流領域について、実施形態において説明したMSP法によって、その塩基配列中に含まれるCpG配列のメチル化状態の検出を行った。
【0102】
以下に、bisulfite処理の具体的な手順および試薬を示す。
(1)NaOHを加える。(DNAを一本鎖に変性させる。)
(2)37℃で30分放置する。
(3)Sodium bisulfite(NaHSO3:亜硫酸水素ナトリウム)/hydroquinone(C6H6O2)(pH5.0)を加え、スルホン化および脱アミノ化する。
(4)55℃の暗所に20時間置く。
(5)Wizard DNA Clean-up Systemによる脱塩処理を行う。(脱スルホン化)
(6)NaOHを加える。(アルカリ処理)
(7)37℃で10分放置する。
(8)酢酸アンモニウム/EtOHを加えて転倒混和し、エタノール沈降させる。
(9)蒸留水に溶解する。(bisulfite DNAの完成)
また、ここでA,B,Cの各領域を増幅させるために用いたメチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーは、以下の通りである。
A領域のメチル化特異的プライマー:
フォワードプライマー(MF1):TTGATTTTAA GTGTTTCGTT CGTT(配列番号6)
リバースプライマー(MR1):AAACGCTAAA CTACCTACTA CGACC(配列番号7)
A領域の非メチル化特異的プライマー:
フォワードプライマー(UF1):GATTTTAAGT GTTTTGTTTG TT(配列番号8)
リバースプライマー(UR1):AACACTAAAC TACCTACTAC AACC(配列番号9)
B領域のメチル化特異的プライマー:
フォワードプライマー(MF2):GTAGTAGGTA GTTTAGCGTT TCGC(配列番号10)
リバースプライマー(MR2):CAAATACCCC CTCTACTCGA C(配列番号11)
B領域の非メチル化特異的プライマー:
フォワードプライマー(UF2):TAGTAGGTAG TTTAGTGTTT TGTGT(配列番号12)
リバースプライマー(UR2):ACCAAATACC CCCTCTACTC AAC(配列番号13)
C領域のメチル化特異的プライマー:
フォワードプライマー(MF3):GTTTTATTTG GTTTGTTCGT TGTC(配列番号2)
リバースプライマー(MR3):CGTACTCTCT ACCCGTCGTA A(配列番号3)
C領域の非メチル化特異的プライマー:
フォワードプライマー(UF3):TTTATTTGGT TTGTTTGTTG TTGTT(配列番号4)
リバースプライマー(UR3):ACTCCATACT CTCTACCCAT CATAA(配列番号5)
また、PCRについては、95℃・10分の処理を行った後、95℃で1分、55℃で1分、72℃で1分を40サイクル繰り返し、その後、72℃・5分の処理を行った。
【0103】
また、本実施例のメチル化検出においては、DNA増幅工程によって増幅された各DNA断片についてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行うことによって、CpG配列のメチル化状態が確認された。
【0104】
その結果を図3(a)、(b)、および、図4に示す。図3(a)は、RA患者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域について、図3(b)は、RA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子の上流領域について、そのA・B・C各領域のメチル化状態を確認した結果を示す図である。図4は、健常者(図では健常人と記す)の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域について、そのA・B・C各領域のメチル化状態を確認した結果を示す図である。各図に示すゲル電気泳動の結果において、Uで示すレーンは、非メチル化特異的プライマーを用いてDNA増幅を行った場合の増幅断片であり、Mで示すレーンは、メチル化特異的プライマーを用いてDNA増幅を行った場合の増幅断片である。
【0105】
これらの図に示すように、A領域に関しては、全てのサンプルについて、そのCpG配列がメチル化状態であった。また、B領域に関しては、全てのサンプルについて、そのCpG配列が非メチル化とメチル化との混在状態であった。一方、C領域(すなわち、DR3遺伝子のプロモーター領域)に関しては、RA患者の滑膜細胞由来のサンプルのみが非メチル化とメチル化との混在状態であり、それ以外のサンプルについては全てのCpG配列が非メチル化状態であることが確認された。
【0106】
この結果から、DR3遺伝子のプロモーター領域に、アレル特異的なメチル化が存在すると考えられる。また、RA患者に関して、滑膜細胞由来のDR3遺伝子のプロモーター領域は、末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域に比べて高メチル化状態であることが明らかとなった。
【0107】
そして、DR3遺伝子は、片方の対立遺伝子が発現していないインプリント遺伝子である可能性が示されるとともに、RAの発症のメカニズムにDR3遺伝子のインプリンティングが関与していることが示唆された。
【0108】
また、図5には、上記と同様の方法で、RA患者由来の滑膜細胞、滑膜細胞浸潤リンパ球、および、関節液のリンパ球からそれぞれ採取したDR3遺伝子の上流領域について、メチル化状態を検出した結果を示す。なお、図5では、(a)がDR3遺伝子の上流領域中のA領域の結果を示すものであり、(b)がDR3遺伝子の上流領域中のB領域の結果を示すものであり、(c)がDR3遺伝子の上流領域中のC領域の結果を示すものである。また、(a)〜(c)において、丸付きで示す数字1〜3はそれぞれ、滑膜細胞由来の遺伝子、滑膜細胞浸潤リンパ球由来の遺伝子、関節液中のリンパ球由来の遺伝子を順に示している。
【0109】
図5(a)および(b)に示すように、A領域およびB領域では、滑膜細胞由来のもの、滑膜浸潤リンパ球由来のもの、関節液中のリンパ球由来のものに差は見られなかった。一方、図5(c)に示すC領域では、滑膜細胞由来のDR3遺伝子および滑膜浸潤リンパ球由来のDR3遺伝子では、メチル化と非メチル化の混在状態であったが、関節液中のリンパ球由来のDR3遺伝子では、全て非メチル化状態であることが確認された。
【0110】
この結果から、C領域のメチル化状態は関節リウマチによる炎症部位に特異的である可能性が示唆される。
【0111】
さらに、検体数を増やして上記のMSP法によって、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子およびRA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を調査した。その結果をまとめたものを図6に示す。これにより、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子とRA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子とでは、C領域におけるメチル化状態が大きく異なることが確認された。また、比較対照として採取した変形性関節症(OA)患者の滑膜細胞では、RA患者の滑膜細胞と比較するとメチル化が低いという結果が得られた。なお、健常者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子については、採取が困難であるため結果は得られていないが、OA患者と同様の結果が得られると考えられる。
【0112】
(2)bisulfite genomic sequencing法によるメチル化状態の検出
続いて、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子およびRA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を、bisulfite genomic sequencing法によって解析した。なお、bisulfite genomic sequencing法は、上記の参考文献に記載の方法に従って行った。
【0113】
その結果を図7に示す。図7において、(a)は、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を検出した結果を示す図であり、(b)は、RA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を検出した結果を示す図である。
【0114】
その結果、図7(a)に示すように、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子では、A領域はメチル化状態であり、B領域は非メチル化とメチル化が混在した状態であり、C領域は非メチル化状態であることが確認された。また、図7(b)に示すように、RA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子では、A領域はメチル化状態であり、B領域は非メチル化とメチル化が混在した状態であり、C領域も非メチル化とメチル化が混在した状態であることが確認された。これは、上述の(1)に示すMSP法の結果と一致した。
【0115】
(3)DR3遺伝子の滑膜細胞における発現確認
続いて、DR3遺伝子がRA患者の滑膜細胞において発現しているか否かの実験を行った。
【0116】
先ず、RA患者の滑膜検体から凍結標本および染色標本を以下の手順で作製した。関節形成術の際に患者より切除した関節滑膜から組織を5mm3程度分離し、OTCコンパウンドを用いて組織を包埋した後、液体窒素により急速に凍結し、凍結標本を作製した。凍結標本は、クライオスタットで6μmの厚さに薄切りしてスライドガラスに付着させ、アセトンを用いて固定した。
【0117】
また、RA患者の滑膜検体から滑膜初代培養系細胞株の樹立を以下の手順で行った。関節形成術の際に、RA患者より切除した関節滑膜を細片化し、コラゲナーゼ処理を行った。その後、定法(参考文献:Hashiramoto A, Sano H, Maekawa T,et al. C-myc antisense oligodeoxynucleotides can induce apoptosis and down-regulate Fas expression in rheumatoid synoviocytes. Arthritis Rheum. 42. 954-62 (1999) :参照)に従って、滑膜細胞を単離した。樹立した細胞株は、10%ウシ胎児血清添加ダルベッコ変法イーグル培地にて維持し、実験に用いた。
【0118】
(3−1)免疫染色法によるDR3の検出
上記の方法で作製したRA患者の滑膜組織の凍結標本に対して免疫染色を行い、DR3の検出を行った。具体的には、上記凍結標本をリン酸緩衝液にて5分間洗浄した後、内在性ペルオキシダーゼ活性を除去するため、0.03%過酸化水素水溶液で30分処理した。その後、再度リン酸緩衝液にて5分間・3回繰り返して洗浄し、以降の工程は、ダコENVISION+キット(Dako Corporation社、Carpinteria、CA、米国)を用いて定法(参考文献:Miyazaki S,Yoshikawa T, Hashiramoto A, et al. ACTH expression in synovium of patient with rheumatoid arthritis and Lewis rats with adjuvant arthritis.Mod Rheumatol.12.206-212(2002) :参照)に従い、免疫染色を行った。DR3タンパク質を検出する目的で、二次抗体には抗DR3抗体(Neo Marker社、Fremont、CA、米国)を用いた。
【0119】
その結果を図9、図10に示す。図9は、RA患者の滑膜細胞に対して免疫染色を行い、その組織を100倍で顕微鏡観察したものである。また、図10(a)は、上述した滑膜標本において、滑膜浸潤リンパ球が集積した部位を1000倍で観察したもの、また、図10(b)は、同標本にて滑膜表層部位に集積した滑膜細胞を1000倍で観察したものである。
【0120】
これらの図に示されるように、RA患者の滑膜細胞および滑膜浸潤リンパ球では、茶褐色に染まるDR3陽性細胞が多数認められた。
【0121】
(3−2)ウエスタンブロット法によるDR3の検出
上記の方法で樹立した由来患者の異なる3種の滑膜細胞株からタンパク質を抽出し、定法(参考文献:Yamashita T, Hashiramoto A, Haluzik M,et al. Enhanced insulin sensitivity in mice lacking ganglioside GM3.Proc Natl Acad Sci U S A. 100. 3445-9.2003 :参照)に従ってウエスタンブロット法を用いてDR3タンパク質を検出した。二次抗体には、抗DR3抗体(eBioscience社、SanDiego、CA、米国)を用いた。また、比較のための陽性対象として、DR3を高発現するJurkat細胞を用いた。
【0122】
その結果を図11に示す。図11では、左から順にSample1,2,3、および、Jurkat細胞である。なお、上記Sample1,2,3は、それぞれ由来患者の異なる滑膜細胞である。図11に示すように、Sample1,2,3の何れにも、DR3タンパク質の発現(58kDa)が確認された。
【0123】
(4)RA患者と変形性関節症(OA)患者とのDR3のメチル化状態の比較
上述のbisulfite genomic sequencing法を用いて、RA患者の滑膜細胞(SAC)から採取したDR3遺伝子と、変形関節症(OA)患者の滑膜細胞から採取したDR3遺伝子との上流領域のメチル化状態の比較を行った。
【0124】
その結果を図12に示す。なお、図12には、RA患者と健常者由来の末梢血リンパ球(PBMC)において、同様にDR3遺伝子との上流領域のメチル化状態を調べた結果も示す。末梢血リンパ球(PBMC)から採取したDR3遺伝子の上流領域については、上述の結果と同様、RA患者・健常者ともに、A領域は高メチル化状態、B領域はメチル化と非メチル化との混在状態、C領域は完全な非メチル化状態であった。図12の上段に示すCL1/CR1,CL2−2/CR2−2は、本実験に用いたプライマーである。
【0125】
滑膜細胞(SAC)から採取したDR3遺伝子の上流領域においては、RA患者由来の遺伝子は高メチル化状態であった。これに対し、OA患者由来の遺伝子は、RA患者由来のものと比較してメチル化が低い傾向にあることが確認された。
【0126】
また、同じ遺伝子について、上述のMSP法を用いてメチル化状態の検出を行った。その結果を図13に示す。図13の上段に示すMF1/MR1,MF2/MR2,MF3/MR3は、本実験に用いたメチル化特異的プライマーであり、UF1/UR1,UF2/UR2,UF3/UR3は、本実験に用いた非メチル化特異的プライマーである。図13に示すように、MSP法を用いた実験でも、上述のbisulfite genomic sequencing法を用いた場合と同様の結果が示された。
【0127】
この結果から、滑膜細胞由来のDR3遺伝子のC領域においては、RA患者で特に高メチル化状態であることがわかった。
【0128】
(5)ルシフェラーゼアッセイによるDR3プロモーター活性の確認
健常者末梢血リンパ球DNA由来のインサート4種(pDR3−1〜pDR3−4)をpGL3−Enhancer vector(Promega 製)に挿入し、レポータープラスミドを構築した。さらに、CpGメチル化酵素SssI(New England Biolabs 製)によって人工的にメチル化させたプラスミドpDR3−1(SssI)を作製した。図14には、本実施例において構築したプラスミドに挿入された各インサート(pDR3−1〜pDR3−4、および、pDR3−1(SssI))を模式的に示す。図14に示すように、pDR3−1およびpDR3−1(SssI)は、DR3遺伝子のA領域、B領域、C領域(エクソン1を含む)を含むものであり、pDR3−2はDR3遺伝子のB領域とC領域(エクソン1を含む)とを含むものであり、pDR3−3はDR3遺伝子のC領域(エクソン1を含む)のみを含むものであり、pDR3−4はDR3遺伝子のエクソン1のみを含むものである。
【0129】
上記のようにして構築したプラスミドを用いてトランスフェクションを行う前日に、24ウェルプレートにCOS−7を1×105cell/ウェルとなるようにまいた。そして翌日、Lipofect AMINE with PLUS(Invitrogen製)を用いて、COS−7にレポータープラスミドを遺伝子導入した。そして、試薬の調整およびサンプルの調整を行った後、各プラスミドのルシフェラーゼ活性を、Dual-Luciferase Reporter Assay System Kit(Promega製)を用いてルミノメーターで測定した。
【0130】
その結果を、相対的ルシフェラーゼ活性として図15に示す。この図に示すように、ベクターに挿入されたDR3プロモーター領域が、pDR3−1からpDR3−2,3,4へと短くなるにしたがって、相対的ルシフェラーゼ活性が低下していることが確認された。また、メチル化されたプラスミドは、A〜C領域を全て含んでいるにもかかわらず、メチル化されていないものと比較してルシフェラーゼ活性が低下していることが確認された。
【0131】
この結果から、DR3遺伝子のプロモーター領域は、メチル化の影響によってその発現が抑制されることが示唆される。つまり、プロモーター領域が比較的高メチル化状態であるRA患者の滑膜細胞では、DR3遺伝子の発現が抑制されており、これがRAの発症と関わっていることが示唆される。
【0132】
(6)DR3タンパク質の発現とDR3遺伝子のメチル化状態との関係
本実施例では、健常者由来の末梢血リンパ球およびRA患者由来の滑膜細胞におけるDR3タンパク質の発現を、上記(3−2)に記載の手順と同様のウエスタンブロット法によって確認した。また、同じ検体について上述のMSP法を用いてDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態の確認を行った。その結果を図16に示す。図16(a)は、ウエスタンブロット法によるタンパク質発現調査の結果を示し、図16(b)は、MSP法によるC領域のメチル化解析の結果を示す。図16において、PBMC(P1〜P5)は、健常者末梢血リンパ球から採取した各検体であり、Synovial cell(S1〜S7)は、RA患者滑膜細胞から採取した各検体である。また、図16(b)において、Uは非メチル化状態のものを示す、Mはメチル化状態のものを示す。
【0133】
図16(a)に示すように、上段に示すDR3タンパク質のバンドは、健常者由来末梢血リンパ球よりもRA患者由来滑膜細胞において薄くなっていることが確認された。この結果から、DR3タンパク質の発現量は、健常者由来末梢血リンパ球よりもRA患者由来滑膜細胞において減少していることが明らかとなった。なお、図16(a)の下段に示すウエスタンブロットの結果は、コントロールとして用いたアクチン(Actin)タンパク質の結果である。この結果から、アクチンタンパク質の発現量は、健常者とRA患者との間で違いがないことが確認された。
【0134】
また、図16(b)に示すように、左側に示す健常者由来末梢血リンパ球では、完全に非メチル化状態であり、右側に示すRA患者由来滑膜細胞では、健常者のものと比較して高メチル化状態であることが確認された。特に、MSP法において完全にメチル化状態であることが確認された検体S3,S7(図16(b)参照)では、DR3タンパク質の発現量がより低いことが確認された(図16(a)参照)。
【0135】
以上の結果から、DR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態のRA患者の滑膜細胞では、実際にDR3遺伝子の翻訳産物であるDR3タンパク質の発現量が低下することが確認された。この結果から、プロモーター領域が比較的高メチル化状態であるRA患者の滑膜細胞では、DR3タンパク質の発現が抑制されており、これがRAの発症と関わっていることが示唆される。
【0136】
そしてこの実施例の結果から、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子を比較対照(コントロール)とすれば、被験者から採取した滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が、上記末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態よりも高メチル化状態である場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することができることが裏付けられた。
【0137】
以上のように、DR3遺伝子は、RA患者の滑膜細胞および滑膜浸潤リンパ球に発現していることが確認された。この結果から、DR3遺伝子が関節リウマチの病態形成に関与している可能性が示唆された。また、RA患者の滑膜組織においてこのようなDR3遺伝子の発現が確認されたことから、本発明の主要なポイントであるDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態の違いが、DR3遺伝子の滑膜組織における発現に関与していると考えられ、ひいては、関節リウマチの発症と深く関連していることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明のポリヌクレオチドは、関節リウマチの発症のメカニズムの解明に有効に利用することができると考えられる。また、本発明によれば、関節リウマチの発症またはその発症可能性を高精度に簡便かつ確実に行うことができる。それゆえ、本発明は関節リウマチの予防および治療の分野において、高い利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明にかかるポリヌクレオチドの塩基配列を示す図である。
【図2】図1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの構造を示す模式図である。
【図3】本実施例に示すMSP法において、DNA増幅工程によって増幅されたDR3遺伝子の上流領域のDNA断片についてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った結果を示す図である。なお、(a)はRA患者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域の結果を示すものであり、(b)はRA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子の上流領域の結果を示すものである。
【図4】本実施例に示すMSP法において、DNA増幅工程によって増幅されたDR3遺伝子の上流領域のDNA断片についてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った結果を示す図である。なお、この図は、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域の結果を示すものである。
【図5】本実施例に示すMSP法において、DNA増幅工程によって増幅されたDR3遺伝子の上流領域のDNA断片についてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った結果を示す図である。なお、(a)は、DR3遺伝子の上流領域中のA領域の結果を示すものであり、(b)は、DR3遺伝子の上流領域中のB領域の結果を示すものであり、(c)は、DR3遺伝子の上流領域中のC領域の結果を示すものである。また、(a)〜(c)において、丸付きで示す数字1〜3はそれぞれ、滑膜細胞由来の遺伝子、滑膜細胞浸潤リンパ球由来の遺伝子、関節液中のリンパ球由来の遺伝子を順に示している。
【図6】本実施例に示すMSP法によって、健常者とRA患者の末梢血リンパ球(PBMC)由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態、および、RA患者とOA患者の滑膜細胞(SAC)由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態について調査した結果をまとめた表である。
【図7】(a)は、本実施例に示すbisulfite genomic sequencing法によって、健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を検出した結果を示す図である。(b)は、本実施例に示すbisulfite genomic sequencing法によって、RA患者の滑膜細胞由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を検出した結果を示す図である。
【図8】本実施例に示すbisulfite genomic sequencing法によって、RA患者の滑膜浸潤リンパ球由来のDR3遺伝子の上流領域のメチル化状態を検出した結果を示す図である。
【図9】本実施例において、RA患者の滑膜細胞に対して免疫染色を行い、DR3の発現を確認した結果を示す図である。
【図10】(a)は、本実施例において、RA患者の滑膜浸潤リンパ球に対して免疫染色を行い、DR3の発現を確認した結果を示す図である。(b)は、本実施例において、RA患者の滑膜細胞に対して免疫染色を行い、DR3の発現を確認した結果を示す図である。
【図11】本実施例において、RA患者の滑膜組織におけるDR3遺伝子の発現をウエスタンブロット法で確認した結果を示す図である。
【図12】本実施例において、RA患者と変形性関節症(OA)患者とのDR3上流領域のメチル化状態を、bisulfite genomic sequencing法によって調べた結果を示す図である。
【図13】本実施例において、RA患者と変形性関節症(OA)患者とのDR3上流領域のメチル化状態を、MSP法によって調べた結果を示す図である。
【図14】本実施例において構築したプラスミドに挿入された各インサート(pDR3−1〜pDR3−4、および、pDR3−1(SssI))を示す模式図である。
【図15】図14に示す各インサートを挿入したプラスミドにおいて、相対的ルシフェラーゼ活性を測定した結果を示すグラフである。
【図16】本実施例においてDR3タンパク質の発現とDR3メチル化状態(C領域)との関係を調査した結果を示す図である。(a)は、ウエスタンブロット法によるタンパク質発現調査の結果を示し、(b)は、MSP法によるメチル化解析の結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示す塩基配列からなり、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3のプロモーター領域を含むポリヌクレオチドであって、
その第170番目から第175番目の塩基配列が、転写活性に関わるTCCTCCモチーフを構成し、当該TCCTCCモチーフ以降のCpG配列の一部は、アレル特異的にメチル化されていることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項2】
DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列は、アレル特異的にメチル化されていることを特徴とする請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列は、アレル特異的にメチル化されており、−180bpよりも下流のCpG配列はメチル化された状態あるいは非メチル化された状態であることを特徴とする請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較することによって関節リウマチの発症、または、その発症可能性を判定するために利用される判定キットであって、
DR3遺伝子のプロモーター領域を構成する少なくとも一部のポリヌクレオチド中に含まれるメチル化シトシンの有無を判定するためのメチル化特異的プライマーと非メチル化特異的プライマーとを含むことを特徴とする判定キット。
【請求項5】
上記メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーは、上記配列番号1に示す塩基配列における第374番目から第564番目までの塩基配列を少なくとも増幅させることができるように設定されていることを特徴とする請求項4に記載の判定キット。
【請求項6】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認した場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することを特徴とする請求項4または5に記載の判定キット。
【請求項7】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較すること、または、滑膜細胞から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認することによって、関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定を行うことを特徴とする関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定方法。
【請求項8】
上記の判定方法は、
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球および末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子の各プロモーター領域を重亜硫酸塩含有試薬でそれぞれ処理し、当該プロモーター領域に含まれるCpG配列中の非メチル化シトシンをウラシルへと変換するDNA変換工程と、
上記DNA変換工程による処理後のDR3遺伝子のプロモーター領域を、メチル化特異的プライマーあるいは非メチル特異的プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅させるDNA増幅工程と、
上記DNA増幅工程において、上記DR3遺伝子のプロモーター領域が、メチル化特異的プライマーあるいは非メチル特異的プライマーの何れを用いたポリメラーゼ連鎖反応で増幅されたかを検出することで、上記DR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態を検出するメチル化状態検出工程と、
上記メチル化状態検出工程によって検出された、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較する比較工程、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認する確認工程とを含むことを特徴とする請求項7に記載の判定方法。
【請求項9】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することを特徴とする請求項7または8に記載の判定方法。
【請求項10】
健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子を比較対照とし、
被験者から採取した滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が、上記末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態よりも高メチル化状態である場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することを特徴とする請求項7または8に記載の判定方法。
【請求項11】
請求項1ないし3の何れか1項に記載のポリヌクレオチドの一部をプロモーター領域として有するDR3遺伝子を含んでいることを特徴とする関節リウマチの治療薬剤。
【請求項12】
上記関節リウマチ患者の滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球へ投与されることを特徴とする請求項11に記載の関節リウマチの治療薬剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示す塩基配列からなり、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3のプロモーター領域を含むポリヌクレオチドであって、
その第170番目から第175番目の塩基配列が、転写活性に関わるTCCTCCモチーフを構成し、当該TCCTCCモチーフ以降のCpG配列の一部は、アレル特異的にメチル化されており、
DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列は、アレル特異的にメチル化されており、
−180bpよりも下流のCpG配列はメチル化と非メチル化とが混在した状態であり、
関節リウマチの発症に関与することを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号1に示す塩基配列からなり、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3のプロモーター領域を含むポリヌクレオチドであって、
その第170番目から第175番目の塩基配列が、転写活性に関わるTCCTCCモチーフを構成し、当該TCCTCCモチーフ以降のCpG配列の一部は、アレル特異的にメチル化されており、
DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列は、アレル特異的にメチル化されており、
−180bpよりも下流のCpG配列は非メチル化状態であり、
関節リウマチの発症に抑制的に関与することを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項3】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較することによって関節リウマチの発症、または、その発症可能性を判定するために利用される判定キットであって、
DR3遺伝子のプロモーター領域を構成する少なくとも一部のポリヌクレオチド中に含まれるメチル化シトシンの有無を判定するためのメチル化特異的プライマーと非メチル化特異的プライマーとを含むことを特徴とする判定キット。
【請求項4】
上記メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーは、上記配列番号1に示す塩基配列における第374番目から第564番目までの塩基配列を少なくとも増幅させることができるように設定されていることを特徴とする請求項3に記載の判定キット。
【請求項5】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認した場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することを特徴とする請求項3または4に記載の判定キット。
【請求項6】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較すること、または、滑膜細胞から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認することによって、関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定を行うことを特徴とする関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定方法。
【請求項7】
上記の判定方法は、
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球および末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子の各プロモーター領域を重亜硫酸塩含有試薬でそれぞれ処理し、当該プロモーター領域に含まれるCpG配列中の非メチル化シトシンをウラシルへと変換するDNA変換工程と、
上記DNA変換工程による処理後のDR3遺伝子のプロモーター領域を、メチル化特異的プライマーあるいは非メチル特異的プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅させるDNA増幅工程と、
上記DNA増幅工程において、上記DR3遺伝子のプロモーター領域が、メチル化特異的プライマーあるいは非メチル特異的プライマーの何れを用いたポリメラーゼ連鎖反応で増幅されたかを検出することで、上記DR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態を検出するメチル化状態検出工程と、
上記メチル化状態検出工程によって検出された、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較する比較工程、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認する確認工程とを含むことを特徴とする請求項6に記載の判定方法。
【請求項8】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することを特徴とする請求項6または7に記載の判定方法。
【請求項9】
健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子を比較対照とし、
被験者から採取した滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が、上記末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態よりも高メチル化状態である場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することを特徴とする請求項6または7に記載の判定方法。
【請求項1】
配列番号1に示す塩基配列からなり、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3のプロモーター領域を含むポリヌクレオチドであって、
その第170番目から第175番目の塩基配列が、転写活性に関わるTCCTCCモチーフを構成し、当該TCCTCCモチーフ以降のCpG配列の一部は、アレル特異的にメチル化されていることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項2】
DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列は、アレル特異的にメチル化されていることを特徴とする請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列は、アレル特異的にメチル化されており、−180bpよりも下流のCpG配列はメチル化された状態あるいは非メチル化された状態であることを特徴とする請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較することによって関節リウマチの発症、または、その発症可能性を判定するために利用される判定キットであって、
DR3遺伝子のプロモーター領域を構成する少なくとも一部のポリヌクレオチド中に含まれるメチル化シトシンの有無を判定するためのメチル化特異的プライマーと非メチル化特異的プライマーとを含むことを特徴とする判定キット。
【請求項5】
上記メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーは、上記配列番号1に示す塩基配列における第374番目から第564番目までの塩基配列を少なくとも増幅させることができるように設定されていることを特徴とする請求項4に記載の判定キット。
【請求項6】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認した場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することを特徴とする請求項4または5に記載の判定キット。
【請求項7】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較すること、または、滑膜細胞から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認することによって、関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定を行うことを特徴とする関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定方法。
【請求項8】
上記の判定方法は、
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球および末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子の各プロモーター領域を重亜硫酸塩含有試薬でそれぞれ処理し、当該プロモーター領域に含まれるCpG配列中の非メチル化シトシンをウラシルへと変換するDNA変換工程と、
上記DNA変換工程による処理後のDR3遺伝子のプロモーター領域を、メチル化特異的プライマーあるいは非メチル特異的プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅させるDNA増幅工程と、
上記DNA増幅工程において、上記DR3遺伝子のプロモーター領域が、メチル化特異的プライマーあるいは非メチル特異的プライマーの何れを用いたポリメラーゼ連鎖反応で増幅されたかを検出することで、上記DR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態を検出するメチル化状態検出工程と、
上記メチル化状態検出工程によって検出された、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較する比較工程、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認する確認工程とを含むことを特徴とする請求項7に記載の判定方法。
【請求項9】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することを特徴とする請求項7または8に記載の判定方法。
【請求項10】
健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子を比較対照とし、
被験者から採取した滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が、上記末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態よりも高メチル化状態である場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することを特徴とする請求項7または8に記載の判定方法。
【請求項11】
請求項1ないし3の何れか1項に記載のポリヌクレオチドの一部をプロモーター領域として有するDR3遺伝子を含んでいることを特徴とする関節リウマチの治療薬剤。
【請求項12】
上記関節リウマチ患者の滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球へ投与されることを特徴とする請求項11に記載の関節リウマチの治療薬剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示す塩基配列からなり、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3のプロモーター領域を含むポリヌクレオチドであって、
その第170番目から第175番目の塩基配列が、転写活性に関わるTCCTCCモチーフを構成し、当該TCCTCCモチーフ以降のCpG配列の一部は、アレル特異的にメチル化されており、
DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列は、アレル特異的にメチル化されており、
−180bpよりも下流のCpG配列はメチル化と非メチル化とが混在した状態であり、
関節リウマチの発症に関与することを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号1に示す塩基配列からなり、関節リウマチの疾患関与遺伝子DR3のプロモーター領域を含むポリヌクレオチドであって、
その第170番目から第175番目の塩基配列が、転写活性に関わるTCCTCCモチーフを構成し、当該TCCTCCモチーフ以降のCpG配列の一部は、アレル特異的にメチル化されており、
DR3遺伝子の翻訳開始点から数えて−380bp〜−180bpに存在するCpG配列は、アレル特異的にメチル化されており、
−180bpよりも下流のCpG配列は非メチル化状態であり、
関節リウマチの発症に抑制的に関与することを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項3】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較することによって関節リウマチの発症、または、その発症可能性を判定するために利用される判定キットであって、
DR3遺伝子のプロモーター領域を構成する少なくとも一部のポリヌクレオチド中に含まれるメチル化シトシンの有無を判定するためのメチル化特異的プライマーと非メチル化特異的プライマーとを含むことを特徴とする判定キット。
【請求項4】
上記メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーは、上記配列番号1に示す塩基配列における第374番目から第564番目までの塩基配列を少なくとも増幅させることができるように設定されていることを特徴とする請求項3に記載の判定キット。
【請求項5】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認した場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することを特徴とする請求項3または4に記載の判定キット。
【請求項6】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較すること、または、滑膜細胞から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認することによって、関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定を行うことを特徴とする関節リウマチの発症、または、その発症可能性の判定方法。
【請求項7】
上記の判定方法は、
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球および末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子の各プロモーター領域を重亜硫酸塩含有試薬でそれぞれ処理し、当該プロモーター領域に含まれるCpG配列中の非メチル化シトシンをウラシルへと変換するDNA変換工程と、
上記DNA変換工程による処理後のDR3遺伝子のプロモーター領域を、メチル化特異的プライマーあるいは非メチル特異的プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅させるDNA増幅工程と、
上記DNA増幅工程において、上記DR3遺伝子のプロモーター領域が、メチル化特異的プライマーあるいは非メチル特異的プライマーの何れを用いたポリメラーゼ連鎖反応で増幅されたかを検出することで、上記DR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態を検出するメチル化状態検出工程と、
上記メチル化状態検出工程によって検出された、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態と、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態とを比較する比較工程、または、滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が高メチル化状態であることを確認する確認工程とを含むことを特徴とする請求項6に記載の判定方法。
【請求項8】
滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が、末梢血リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態に比べて高い場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することを特徴とする請求項6または7に記載の判定方法。
【請求項9】
健常者の末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子を比較対照とし、
被験者から採取した滑膜細胞または滑膜浸潤リンパ球から採取したDR3遺伝子のプロモーター領域が、上記末梢血リンパ球由来のDR3遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態よりも高メチル化状態である場合に、関節リウマチを発症している、または、その発症可能性を有すると判定することを特徴とする請求項6または7に記載の判定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−87409(P2006−87409A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297965(P2004−297965)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【特許番号】特許第3710809号(P3710809)
【特許公報発行日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2003年11月25日に発行された「第26回日本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集(会期:2003年12月10〜13日)」第1035頁4PC−113に発表
【出願人】(596109826)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【特許番号】特許第3710809号(P3710809)
【特許公報発行日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2003年11月25日に発行された「第26回日本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集(会期:2003年12月10〜13日)」第1035頁4PC−113に発表
【出願人】(596109826)
【Fターム(参考)】
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