説明

防振装置の製造方法

【課題】外筒部材の絞り加工を省略できると共に、耐久性を確保できる防振装置を製造する防振装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】ゴム状弾性体から構成されると共に軸方向に貫通孔31が貫通形成される防振基体230が接着された外筒部材220が、外筒部材保持工程により保持され、保持された外筒部材220と内筒部材210とが、内筒部材圧入工程により軸方向に相対移動される。その結果、貫通孔31に内筒部材210が圧入される。貫通孔31に内筒部材210が圧入されることにより貫通孔31は拡径され、防振基体230は内筒部材210と外筒部材220との間で圧縮される。外筒部材220と防振基体230との接着界面に圧縮力を作用させ、外筒部材220に絞り加工を行うことなく、外筒部材220と防振基体230との接着界面の引張ひずみを除去することができ、防振装置の耐久性を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防振装置の製造方法に関し、特に、外筒部材の絞り加工を省略できると共に耐久性を確保できる防振装置を製造する防振装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、筒状に形成される内筒部材および外筒部材と、それらの間に設けられたゴム状弾性体から構成される防振基体とを備える防振装置が用いられている。このような防振装置は、例えば特許文献1に開示されるように、内筒部材の外面および外筒部材の内面に接着剤を塗布した後、内筒部材および外筒部材と未加硫ゴムとを成形金型内で加熱加圧し、未加硫ゴムを架橋硬化させると共に、架橋硬化したゴム状弾性体と内筒部材および外筒部材とを接着して製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−260233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、未加硫ゴムは架橋の際に硬化収縮を起こすため、外筒部材の内面および内筒部材の外面とゴム状弾性体との接着界面に引張ひずみが生じる。この引張ひずみは、防振基体の破壊寿命(防振装置の耐久性)などに悪影響を与える。
【0005】
そこで、防振装置のうち外筒部材を圧縮して縮径することが可能なもの(例えば、外筒金具をブラケット等へ圧入するもの)については、ゴム状弾性体を架橋硬化させた後、外筒部材(外筒金具)を圧縮する絞り加工を行っていた。この絞り加工によって接着界面の引張ひずみを除去し、防振装置の耐久性を確保していた。この場合は、防振装置の耐久性を確保するために、外筒部材の絞り加工を省略できないという問題点があった。
【0006】
また、防振装置のうち外筒部材を圧縮して縮径することが難しいもの(例えば、ゴム状弾性体をブラケット等に直接加硫接着するもの、外筒部材が合成樹脂製のもの)については、外筒部材の絞り加工を行うことが困難なため、接着界面の引張ひずみの除去が難しく、防振装置の耐久性の確保が困難であるという問題点があった。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、外筒部材の絞り加工を省略できると共に耐久性を確保できる防振装置を製造する防振装置の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0008】
この目的を達成するために、請求項1記載の防振装置の製造方法によれば、外筒部材保持工程により、ゴム状弾性体から構成されると共に軸方向に貫通孔が貫通形成される防振基体が内周面に接着された筒状の外筒部材が保持され、外筒部材保持工程により保持された外筒部材と筒状に形成される内筒部材とが、内筒部材圧入工程により軸方向に相対移動され、貫通孔に内筒部材が圧入され、内筒部材の外周面が貫通孔の内周面で拘束される。貫通孔に内筒部材が圧入されることにより貫通孔は拡径され、防振基体は内筒部材と外筒部材との間で圧縮される。その結果、外筒部材の内面と防振基体との接着界面に圧縮力を作用させることができる。従って、外筒部材の内面と防振基体との接着界面の引張ひずみを除去することができ、防振装置の耐久性を確保できる効果がある。
【0009】
さらに、外筒部材に絞り加工を行うことなく外筒部材の内面と防振基体との接着界面の引張ひずみを除去できるので、外筒部材の絞り加工を省略できる効果がある。
【0010】
請求項2記載の防振装置の製造方法によれば、外筒部材保持工程により外筒部材が保持された後、防振基体押圧工程により、内筒部材の圧入方向と反対の軸方向に貫通孔の周縁の防振基体が押圧される。内筒部材圧入工程は、防振基体押圧工程による防振基体の押圧方向とは反対の軸方向から内筒部材を貫通孔に圧入するので、内筒部材の圧入方向に引きずられて防振基体が軸方向に変形することを防止できる。これにより、請求項1の効果に加え、圧入される内筒部材に作用する防振基体の軸方向の反力を規制することができ、内筒部材の圧入作業性を向上できる効果がある。
【0011】
請求項3記載の防振装置の製造方法によれば、内筒部材圧入工程により内筒部材を貫通孔に圧入した後、押圧解除工程により、防振基体押圧工程による防振基体の押圧が解除される。防振基体押圧工程により内筒部材の圧入方向と反対の軸方向に防振基体を押圧することで、防振基体に生じる内筒部材の圧入方向のひずみを小さくできる一方、圧入方向と反対向きのひずみを大きくできる。内筒部材が貫通孔に圧入されたら防振基体の押圧を解除することで、軸方向のひずみが小さくなる方向に防振基体が変形(復元)し、貫通孔が内筒部材に密着し、内筒部材の位置が定まる。以上のように防振基体に生じるひずみの向きを単純化することで、貫通孔の押圧を解除したときの防振基体の軸方向の変形量を予測可能にできる。これにより請求項2の効果に加え、貫通孔に圧入された貫通孔の位置を定め易くできる効果がある。
【0012】
請求項4記載の防振装置の製造方法によれば、内筒部材は、貫通孔に圧入される円筒状の筒部と、筒部と別部材からなり筒部の外周に対して全周が軸方向と直交する方向に張り出すフランジ部とを備えている。防振基体押圧工程はフランジ部により貫通孔の周縁の防振基体を押圧するので、請求項2又は3の効果に加え、貫通孔の周縁の防振基体を押圧する部品を別途準備する必要がなく、準備部品を削減できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は第1実施の形態における防振装置の平面図であり、(b)はIb−Ib線における防振装置の断面図である。
【図2】(a)は内筒部材が圧入される前の外筒部材および防振基体の軸方向断面図であり、(b)は内筒部材の軸方向断面図である。
【図3】(a)は第2実施の形態における防振装置の軸方向断面図であり、(b)は内筒部材の軸方向断面図である。
【図4】(a)は第3実施の形態における防振装置の平面図であり、(b)はIVb−IVb線における防振装置の断面図である。
【図5】防振装置の組立装置の模式図である。
【図6】(a)は外筒部材を組立装置に固定した状態を示す模式図であり、(b)は昇降体を上昇させて防振基体を変形させた状態を示す模式図であり、(c)は防振基体に筒部を圧入した状態を示す模式図であり、(d)は昇降体を下降させた状態を示す模式図である。
【図7】(a)は第4実施の形態における防振装置の平面図であり、(b)はVIIb−VIIb線における防振装置の断面図である。
【図8】(a)は第5実施の形態における防振装置の軸方向断面図であり、(b)は第6実施の形態における防振装置の軸方向断面図であり、(c)は第7実施の形態における防振装置の軸方向断面図である。
【図9】(a)は第8実施の形態における防振装置の軸方向断面図であり、(b)は第9実施の形態における防振装置の軸方向断面図であり、(c)は第10実施の形態における防振装置の軸方向断面図である。
【図10】(a)は防振基体が接着された外筒部材および筒部を組立装置にセットした状態を示す模式図であり、(b)は防振基体が接着された外筒部材を組立装置に固定した状態を示す模式図であり、(c)は昇降体を上昇させた状態を示す模式図であり、(d)は筒部を防振基体に圧入した状態を示す模式図である。
【図11】(a)は第11実施の形態における防振装置の内筒部材の軸方向断面図であり、(b)は第12実施の形態における防振装置の内筒部材の軸方向断面図であり、(c)は第13実施の形態における防振装置の内筒部材の軸方向断面図であり、(d)は第14実施の形態における防振装置の内筒部材の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1(a)は本発明の第1実施の形態における防振装置1の平面図であり、図1(b)は図1(a)のIb−Ib線における防振装置1の断面図である。なお、図1(a)及び図1(b)においては、振動発生側と振動受け側とを連結するために用いられる防振装置1(トルクロッド)の一部(一方のブッシュ)を図示しており、他方のブッシュの図示と、それら2つのブッシュを連結する連結部材2(ロッド)の長手方向の図示とを省略している。
【0015】
図1(a)に示すように防振装置1のブッシュは、振動発生側または振動受け側の部材(図示せず)に取着される内筒部材10と、その内筒部材10の外周側に位置すると共に連結部材2が連結される外筒部材20と、それら外筒部材20及び内筒部材10の間に介設されると共にゴム状弾性材から構成される防振基体30とを備えて構成されている。
【0016】
内筒部材10は、金属材料から円筒状に構成され、内筒部材10の中央に形成された挿通孔11を介して、振動発生側または振動受け側の部材(図示せず)へボルトにより締結固定される。外筒部材20は金属材料から円筒状に構成されると共に、連結部材2(ロッド)と一体に構成され、内筒部材10の外周側に所定間隔を隔てて位置する。防振基体30は、軸方向に貫通された貫通孔31が中央に形成されており、貫通孔31の内面が内筒部材10の外面に密着され、内筒部材10と外筒部材20との間を周方向全周にわたって連結している。
【0017】
図1(b)に示すように防振基体30は、軸方向両端部に軸方向外方に開口する凹状の縦断面で周方向に延びる一対の凹所32が形成されている。凹所32が形成されることにより、防振装置1に作用する振動等が原因の引張変形による防振基体30の応力集中やひずみが軽減される。
【0018】
内筒部材10は、円筒状に形成されると共に貫通孔31に圧入される筒部12と、その筒部12の外周に対して外縁が軸方向と交差する方向に張り出して筒部12の一端側に突設される第1フランジ部13と、筒部12の外周に対して外縁が軸方向と交差する方向に張り出して筒部12の他端側に配設される第2フランジ部14とを備えている。
【0019】
筒部12は、第1フランジ部13が他端側に突設されると共に、貫通孔31の一方側(図1(b)左側)から一端側が圧入され貫通孔31の内面で外面が拘束される第1筒部12aと、その第1筒部12aと別部材からなり、第2フランジ部14が一端側に突設されると共に、貫通孔31の他方側(図1(b)右側)から他端側が圧入され貫通孔31の内面で外面が拘束される第2筒部12bとを備えている。
【0020】
次に、図2を参照して、防振装置の組立方法について説明する。図2(a)は内筒部材10が圧入される前の外筒部材20及び防振基体30(中間品S)の軸方向断面図であり、図2(b)は内筒部材10の軸方向断面図である。防振装置1は中間品Sに内筒部材10を圧入して組み立てられる。
【0021】
図2(a)に示すように中間品Sは、外筒部材20に防振基体30が接着された部材である。中間品Sを製造するには、まず、貫通孔31を形成するための中子が配設された成形金型(図示せず)内に外筒部材20をセットする。外筒部材20の内面21には接着剤を塗布しておく。次いで、成形金型内に未加硫ゴムを注入した後、成形金型を加熱加圧し、未加硫ゴムを架橋硬化させると共に架橋硬化したゴム状弾性体と外筒部材20とを接着する。これにより、防振基体30の軸方向に貫通孔31が貫通形成され、防振基体30が外筒部材20に接着された中間品Sが製造される。なお、架橋硬化して防振基体30を構成する未加硫ゴムは、架橋硬化の際に硬化収縮を起こすため、中間品Sは外筒部材20の内面21と防振基体30との接着界面に引張ひずみが生じている。
【0022】
図2(b)に示すように、内筒部材10は2つの部品から構成されており、第1筒部12a及び第1フランジ部13、第2筒部12b及び第2フランジ部14は同一形状かつ同一サイズに形成されている。これにより、単一部品を、内筒部材10を構成する2つの部品として使用することができ、部品点数を削減できる。
【0023】
なお、中間品Sに形成される貫通孔31の内径D1は、内筒部材10の筒部12(第1筒部12a及び第2筒部12b)の外径D2より小さい値に設定されている。また、本実施の形態では、第1筒部12aの長さL1と第2筒部12bの長さL2とを加えた長さL1+L2は、中間品Sの貫通孔31の軸方向における長さL3より小さめになるように設定されている。さらに、第1フランジ13及び第2フランジ14は、第1筒部12a及び第2筒部12bの外周に対して全周が軸方向と直交する方向に張り出して形成されている。
【0024】
防振装置1は、他端側に第1フランジ部13が突設される第1筒部12aの一端側を、中間品Sの貫通孔31の一方側から圧入し、一端側に第2フランジ部14が突設される第2筒部12bの他端側を、中間品Sの貫通孔31の他方側から圧入することにより製造される。第1筒部12a及び第2筒部12bは貫通孔31の一方側および他方側から圧入されるので、第1筒部12a及び第2筒部12bの外面と防振基体30とを加硫接着しなくても、第1筒部12a及び第2筒部12bの外面が貫通孔31の内周面で拘束される。これにより、第1筒部12a及び第2筒部12bと防振基体30との界面に、ゴム状弾性体の硬化収縮に伴う引張ひずみが生じることを防止できる。
【0025】
さらに、貫通孔31の内径D1は、第1筒部12a及び第2筒部12bの外径D2より小さい値に設定されているので、貫通孔31に第1筒部12a及び第2筒部12bが圧入されることにより貫通孔31は拡径され、防振基体30は第1筒部12a及び第2筒部12bと外筒部材20との間で圧縮される。その結果、外筒部材20の内面21と防振基体30との接着界面に圧縮力を作用させることができる。従って、外筒部材20の内面21と防振基体30との接着界面に生じた引張ひずみを除去することができ、防振装置1の耐久性を向上できる。
【0026】
さらに、防振基体30が第1筒部12a及び第2筒部12bと外筒部材20との間で圧縮され、防振基体30に予圧が与えられることで、軸直角方向のばね定数を大きくすることができる。これにより、防振装置1に大振動が入力されたとき(大荷重入力時)の防振特性を向上できる。
【0027】
また、外筒部材20に絞り加工を行うことなく内筒部材10を貫通孔31に圧入することで、外筒部材20の内面21と防振基体30との接着界面の引張ひずみを除去できるので、外筒部材20の絞り加工を省略できる。そのため、ゴム状弾性体を外筒部材20に直接加硫接着する防振装置1についても、外筒部材20に絞り加工を行うことなく接着界面の引張ひずみを除去することができ、防振装置1の耐久性を向上できる。
【0028】
また、貫通孔31の一方側から圧入された第1筒部12aが貫通孔31の他方側から脱落することを、第1フランジ部13により阻止できる。さらに、貫通孔31の他方側から圧入された第2筒部12bが貫通孔31の一方側から脱落することを、第2フランジ部14により阻止できる。
【0029】
なお、内筒部材10の中央に形成された挿通孔11にボルト(図示せず)を挿通し、振動発生側または振動受け側の相手部品(図示せず)へ締結固定することで、第1フランジ部13及び第2フランジ部14に遮られて、第1筒部12a及び第2筒部12bが貫通孔31から脱落することが防止される。相手部品へのボルトによる締結固定と同時に、完全な脱落防止を達成できるので、作業性および信頼性に優れる。
【0030】
また、筒部12を構成する第1筒部12a及び第2筒部12bは別部材からなるので、第1フランジ部13及び第2フランジ部14を貫通孔31の内側を通過させることなく、第1筒部12a及び第2筒部12bを貫通孔31に圧入できる。第1筒部12a及び第2筒部12bは、第1フランジ部13及び第2フランジ部14が通過できる大きさまで貫通孔31を押し拡げなくても圧入できるため、内筒部材10の圧入作業性を向上できる。さらに、第1フランジ部13及び第2フランジ部14の外縁を、貫通孔31の内周縁から大きく張り出すように形成することができるので、圧入された内筒部材10が貫通孔31から脱落することを確実に防止できる。
【0031】
また、第1筒部12aの長さL1と第2筒部12bの長さL2とを加えた長さL1+L2は、中間品Sの貫通孔31の軸方向における長さL3より小さめになるように設定されている。さらに、第1フランジ部13及び第2フランジ部14は、第1筒部12a及び第2筒部12bの外周に対して全周が軸方向と直交する方向に張り出して形成されている。これにより、挿通孔31にボルト(図示せず)を挿通し振動発生側または振動受け側の相手部品(図示せず)へ締結固定し、第1筒部12aの圧入端12a1と第2筒部12bの圧入端12b1とが軸方向に当接されると、防振基体30は、第1フランジ部12a及び第2フランジ部12bにより、貫通孔31の一方側および他方側から軸方向に圧縮される。その結果、防振基体30に軸方向の予圧を与えることができ、防振基体30のばね定数を大きくできると共に、防振基体30の破壊寿命を向上できる。
【0032】
また、第1フランジ部13及び第2フランジ部14により、防振基体30の凹所32の内側で軸方向両端から突出する突部33が圧縮される。さらに、防振基体30の凹所32の軸方向における深さは、第1フランジ部13及び第2フランジ部14による圧縮量より大きく設定されているので、防振基体30に予圧を与えた後も凹所32を確保できる。その結果、凹所32による防振基体30の応力集中やひずみの軽減効果を確保できる。
【0033】
なお、防振装置1が振動発生側または振動受け側の部材へ締結固定される前の状態では、第1筒部12aの圧入端12a1と第2筒部12bの圧入端12b1とは軸方向に当接されない。この状態では防振基体30は軸方向に圧縮されないので、第1筒部12a及び第2筒部12bを貫通孔31の軸方向に押し出そうとする力はほとんど生じない。第1筒部12a及び第2筒部12bには防振基体30により軸直角方向の圧縮力が作用しているため、振動発生側または振動受け側の部材へ締結固定される前に、第1筒部12aや第2筒部12bが貫通孔31から脱落することを回避できる。
【0034】
また、内筒部材10(第1筒部12a及び第2筒部12b)の外面は、防振基体30の貫通孔31の内面と非接着状態で拘束されるので、内筒部材10の外面に接着剤を塗布する工程を省略できる。その結果、内筒部材10に接着剤が付着することを防止でき、内筒部材10とゴム状弾性体とが加硫接着されないから、内筒部材10にゴムバリが付着することを防止できる。
【0035】
さらに、防振基体30は、使用時の軸方向に作用する力により接着界面の近傍で疲労破壊を生じることがあるが、内筒部材10の外面と防振基体30(貫通孔31)との間に接着界面が形成されないので、防振基体30のひずみを低減することができ、防振基体30の破壊寿命を向上できる。
【0036】
なお、内筒部材10(第1筒部12a及び第2筒部12b)の外面が防振基体30の貫通孔31の内面と非接着状態で拘束される場合、外筒部材20又は内筒部材10に入力される振動により、内筒部材10が防振基体30に対して軸方向にずれ易いため、軸方向のばね定数が小さくなる傾向がみられる。しかし、第1フランジ部13及び第2フランジ部14により防振基体30に予圧を与えることで軸方向のばね定数を大きくできるため、内筒部材10と防振基体30とが非接触状態であることによるばね定数の低下を防止できる。
【0037】
次に図3を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、内筒部材10が、第1フランジ部13が突設される第1筒部12aと、第2フランジ部14が突設される第2筒部12bとを備える場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、内筒部材110が、第1フランジ部113が突設される第3筒部112を備え、その第3筒部112に第2フランジ部114が取着される場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0038】
図3(a)は第2実施の形態における防振装置101の軸方向断面図であり、図3(b)は内筒部材110の軸方向断面図である。図3(a)に示すように防振装置101は、外筒部材20及び外筒部材20の内面に接着される防振基体30(以上「中間品S」)と、防振基体30の軸方向に貫通形成される貫通孔31に連結される筒部(第3筒部112)を有する内筒部材110とを備えて構成されている。
【0039】
図3(b)に示すように内筒部材110は、円筒状に形成されると共に貫通孔31(図3(a)参照)に一端側が圧入される第3筒部112と、その第3筒部112の外周に対して外縁が軸方向と交差する方向に張り出して第3筒部112の他端側に突設される第1フランジ部113と、第3筒部112の一端側に取着される第2フランジ部114とを備えている。
【0040】
第3筒部112は、外径D3が、中間品S(図2(a)参照)に形成される貫通孔31の内径D1より大きい値に設定されている。また、第2フランジ部114は、第3筒部112に取着される取着部114aが形成される輪状の部材である。本実施の形態では、取着部114aは、第3筒部112の外周112aに嵌合可能なように形成されている。また、第2フランジ部114を第3筒部112に取着したときの第1フランジ部113から第2フランジ部114までの長さL4は、中間品Sの貫通孔31の軸方向における長さL3より小さめに設定されている。さらに、第1フランジ113及び第2フランジ114は、第3筒部112の外周112aに対して全周が軸方向と直交する方向に張り出して形成されている。
【0041】
防振装置101を製造するには、他端側に第1フランジ部113が突設される第3筒部112の一端側(第1フランジ部113の反対側)を、中間品Sの貫通孔31の一方側から圧入し、貫通孔31の他方側から第3筒部112の一端側を突出させる。そして、貫通孔31の他方側から突出した第3筒部112の一端側に取着部114aを嵌合させて第2フランジ部114を取着する。第3筒部112は貫通孔31の一方側から圧入されるので、第3筒部112の外周112aと防振基体とを加硫接着しなくても、第3筒部112が貫通孔31の内周面で拘束される。これにより、第3筒部112と防振基体30との界面に、ゴム状弾性体の硬化収縮に伴う引張ひずみが生じることを防止できる。
【0042】
さらに、貫通孔31の内径D1(図2(a)参照)は、第3筒部112の外径D3より小さい値に設定されているので、貫通孔31に第3筒部112が圧入されることにより貫通孔31は拡径され、防振基体30は第3筒部112と外筒部材20との間で圧縮される。その結果、外筒部材20の内面と防振基体30との接着界面に圧縮力を作用させることができる。従って、外筒部材20の内面と防振基体30との接着界面に生じた引張ひずみを除去することができ、防振装置101の耐久性を向上できる。
【0043】
また、外筒部材20に絞り加工を行うことなく、内筒部材110を貫通孔31に圧入することで外筒部材20の内面21(図2(a)参照)と防振基体30との接着界面の引張ひずみを除去できるので、外筒部材20の絞り加工を省略できる。そのため、ゴム状弾性体を外筒部材20に直接加硫接着する防振装置101についても、外筒部材20に絞り加工を行うことなく接着界面の引張ひずみを除去することができ、防振装置101の耐久性を向上できる。
【0044】
また、第3筒部112の他端側に突設される第1フランジ部113により、貫通孔31の一方側(図3(a)左側)から圧入された第3筒部112が、貫通孔31の他方側(図3(a)右側)から脱落することを防止できる。さらに、貫通孔31の他方側から突出した第3筒部112の一端側に第2フランジ部114が取着されるので、第3筒部112が貫通孔31の一方側から脱落することも防止できる。
【0045】
また、第2フランジ部114(取着部114a)及び第3筒部112の剛体同士が取着されるので、第2フランジ部114と第3筒部112との連結を強固にできる。これにより第3筒部112から第2フランジ部114が脱落することを防止できる。これにより、貫通孔31に圧入された内筒部材110が貫通孔31から脱落することを確実に防止できる。
【0046】
また、貫通孔31の一方側から他方側まで筒部(第3筒部112)が貫設されるので、挿通孔11の内面に継ぎ目(段差)ができることが防止される。これにより、振動発生側または振動受け側の部材(図示せず)へ締結固定するためのボルトを挿通孔11に挿通し締結するときに、ボルトが継ぎ目に引っ掛かる等の問題が生じることが防止され、ボルトの挿通作業性および締結作業性を向上できる。
【0047】
また、筒部を構成する第3筒部112は第2フランジ部114と別部材からなるので、第1フランジ部113及び第2フランジ部114を貫通孔31の内側を通過させることなく、第3筒部112を貫通孔31に圧入できる。第3筒部112は、第1フランジ部113や第2フランジ部114が通過できる大きさまで貫通孔31を押し拡げなくても圧入できるため、圧入作業性を向上できる。さらに、第1フランジ部113及び第2フランジ部114の外縁を、貫通孔31の内周縁から大きく張り出すように形成することができるので、圧入された内筒部材110が貫通孔31から脱落することを確実に防止できる。
【0048】
また、第2フランジ部114を第3筒部112に取着したときの第1フランジ部113から第2フランジ部114までの長さL4は、中間品Sの貫通孔31の軸方向における長さL3(図2(a)参照)より小さめに設定されている。さらに、第1フランジ部113及び第2フランジ部114は、第3筒部112の外周に対して全周が軸方向と直交する方向に張り出して形成されている。これにより、防振基体30は、第1フランジ部113及び第2フランジ部114により、貫通孔31の一方側および他方側から軸方向に圧縮される。その結果、防振基体30に軸方向の予圧を与えることができ、防振基体30のばね定数を大きくできると共に、防振基体30の破壊寿命を向上できる。
【0049】
また、第1フランジ部113及び第2フランジ部114により防振基体30の凹所32の内側の軸方向両端に突出する突出部33が圧縮され、防振基体30の凹所32の軸方向における深さは、第1フランジ部113及び第2フランジ部114による圧縮量より大きく設定されているので、防振基体30の凹所32を確保できる。その結果、凹所32による防振基体30の応力集中やひずみの軽減効果を確保できる。
【0050】
なお、図3(a)に示すように、第2フランジ部114は、第3筒部112における取着位置を第1フランジ部113側に近づけ、第3筒部112に余長112aを設けて取着されることが望ましい。第3筒部112の余長112aを変更することにより、防振基体30の軸方向に与える予圧の大きさを変更でき、予圧の自由度を向上できる。さらに、余長112aを設けることにより、振動発生側または振動受け側の相手部品(図示せず)に第2フランジ部114を干渉し難くすることができ、相手部品の設計の自由度を向上できる。
【0051】
また、第2フランジ部114が取着される第3筒部112の外周112aの一端側は、第1フランジ部113に近づくにつれ外径が漸次大きくなるように拡径されていることが望ましい。楔効果により第3筒部112の外周112aに第2フランジ部114(取着部114a)を強固に固定できると共に、第3筒部112の一端側の第2フランジ部114(取着部114a)への圧入量を規制し、防振基体30の軸方向に与える予圧の大きさを規制するためである。
【0052】
ここで、内筒部材110(第3筒部112)は、防振基体30の貫通孔31の内面と非接着状態で拘束されるので、内筒部材110の外面に接着剤を塗布する工程を省略できる。その結果、内筒部材110に接着剤が付着することを防止でき、内筒部材110に防振基体30が加硫接着されないから、内筒部材110にゴムバリが付着することを防止できる。
【0053】
さらに、使用時の振動によって力が軸方向に作用し、防振基体30の接着界面の近傍で破壊することがあるが、内筒部材110の外面と貫通孔31との間に接着界面が形成されないので、防振基体30のひずみを低減することができ、防振基体30の破壊寿命を向上できる。
【0054】
なお、内筒部材110(第3筒部112)の外面が防振基体の貫通孔31と非接着状態で拘束される場合、外筒部材20又は内筒部材110に入力される振動により、内筒部材110が防振基体30に対して軸方向にずれ易いので、軸方向のばね定数が小さくなる傾向がみられる。しかし、第1フランジ部113及び第2フランジ部114により防振基体30に予圧を与えることで軸方向のばね定数を大きくできるため、内筒部材110と防振基体30とが非接触状態であることによるばね定数の低下を防止できる。
【0055】
次に図4を参照して、第3実施の形態について説明する。第1実施の形態および第2実施の形態では、連結部材2(ロッド)が一体に形成される外筒部材20に、ゴム状弾性体が一体に加硫接着される防振装置1,101(トルクロッド)について説明した。これに対し第3実施の形態では、外筒金具(外筒部材220)にゴム状弾性体を加硫接着して製造されるブッシュ(防振装置201)について説明する。
【0056】
このブッシュの外筒金具(外筒部材220)を、トルクロッドやサスペンションアーム等を構成するブラケット(図示せず)の外筒部材に圧入することにより、トルクロッドやサスペンションアーム等の防振装置を製造することができる。従って、以下の実施の形態では、外筒金具(外筒部材220)を圧入するブラケット及びそのブラケットの外筒部材の図示は省略する。なお、第2実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図4(a)は第3実施の形態における防振装置201の平面図であり、図4(b)はIVb−IVb線における防振装置201の断面図である。
【0057】
図4(a)に示すように防振装置201は、振動発生側または振動受け側の部材(図示せず)に取着される内筒部材210と、その内筒部材210の外周側に位置する外筒部材220と、それら外筒部材220及び内筒部材210の間に介設されると共にゴム状弾性材から構成される防振基体30とを備えている。内筒部材210は、金属材料から円筒状に構成され、内筒部材210の中央に形成された挿通孔11を介して、振動発生側または振動受け側の部材(図示せず)へボルトにより締結固定される。外筒部材220は、金属材料から円筒状に構成されると共に、内筒部材210の外周側に所定間隔を隔てて位置する。
【0058】
図4(b)に示すように内筒部材210の第3筒部112は、一端側(図4(b)右側)が貫通孔31に圧入される部位であり、他端側に第1フランジ部113が突設されている。第3筒部112の一端(圧入端112b)側の外周面の端縁の全周に、第3筒部112の外周112aより小径で段差状の段差部211が形成されている。段差部211は、外周面に第2フランジ部214に形成される取着部214aが嵌合される部位であり、段差部211に取着部214aを嵌合すると、軸方向と交差する方向に沿う壁部212に第2フランジ部214が当接される。
【0059】
ここで、第2フランジ部214を段差部211に取着したときの第1フランジ部113と第2フランジ部214との距離L5(第1フランジ部113と壁部212との距離)は、内筒部材210が圧入される前の防振基体30の貫通孔31の軸方向における長さL3(図2(a)参照)より小さめに設定されている。これにより、防振基体30は、第1フランジ部113及び第2フランジ部214により、貫通孔31の一方側および他方側から軸方向に圧縮される。その結果、防振基体30に軸方向の予圧を与えることができ、防振基体30のばね定数を大きくできると共に、防振基体30の破壊寿命を向上できる。さらに、その予圧の大きさは、第1フランジ部113と壁部212との距離L5により決定されるので、軸方向のばね定数にばらつきが生じることを抑制できる。
【0060】
なお、図4(b)に示すように、段差部212の軸方向の長さを第2フランジ部214の軸方向の厚さより大きく設定することにより、段差部211に余長を設けることができる。これにより、振動発生側または振動受け側の部材(図示せず)の相手部品に第2フランジ部214を干渉し難くすることができ、相手部品の設計の自由度を向上できる。
【0061】
また、第3筒部112は貫通孔31の一方側(図4(b)左側)から圧入されるので、第3筒部112と防振基体30とを加硫接着しなくても、第3筒部112が貫通孔31で拘束される。これにより、第3筒部112と防振基体30との界面に、ゴム状弾性体の硬化収縮に伴う引張ひずみが生じることを防止できる。さらに、外筒部材220の内面と防振基体30との接着界面に圧縮力を作用させることができるので、外筒部材220の内面と防振基体30との接着界面に生じた引張ひずみを除去することができ、防振装置201の耐久性を向上できる。
【0062】
また、外筒部材220に絞り加工を行うことなく、内筒部材210を貫通孔31に圧入することで外筒部材220の内面と防振基体30との接着界面の引張ひずみを除去できるので、外筒部材220の絞り加工を省略できる。そのため、トルクロッドやサスペンションアーム等を構成する相手部品(図示せず)に圧入する前に、外筒部材220に絞り加工を行う必要がなく、絞り加工に係る工数を削減できる。
【0063】
次に、防振装置の製造方法を図5及び図6を参照して説明する。まず、図5を参照して防振装置の組立装置301について説明する。なお、第3実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図5は防振装置の組立装置301の模式図である。図5に示すように、組立装置301は、プレス装置(図示せず)のボルスタ及びスライダに固定される下型310及び上型330と、それら下型310及び上型330の間を上下に移動可能に配設される中型320とを備えて構成されている。
【0064】
なお、図5は、防振基体230が接着された外筒部材220(中間品S)が下型310に載置された状態を図示している。防振基体230は、凹所32が省略されている以外は防振基体30と同一なので説明を省略する。
【0065】
図5に示すように、下型310は、防振基体230が接着された外筒部材220(中間品S)が載置される部材であり、外筒部材220の軸方向一端部が載置される位置決め用の凹部311が上面に形成されている。また下型310は、凹部311の底面の中心から下型310の下面に亘って貫通する円形状の下孔部312が形成されている。下孔部312の内径は、第2フランジ部214(図4(b)参照)の外径より少し大きめに形成されている。下孔部312の内側に環状の昇降体313が収装され、昇降体313は下孔部312内を昇降可能に構成されている。昇降体313は、後述する支持部332が侵入する侵入孔314が中心に形成されている。
【0066】
中型320は、下型310に載置される外筒部材220(中間品S)を固定するための部材であり、下型310に載置される外筒部材220(中間品S)の軸方向他端部が収容される収容部321が、下面に凹設されている。また中型320は、収容部321の上面の中心から中型320の上面に亘って貫通する上孔部322が形成されている。上孔部322の内径は、外筒部材220の内周径D4(図4(b)参照)とほぼ同一の大きさに設定されている。上孔部322が形成されることにより、収容部321の上面に、外筒部材220の軸方向他端部に当接可能な肩部323が形成される。
【0067】
上型330は、内筒部材210(第3筒部112)を押し下げて貫通孔31に圧入するための部材であり、内筒部材210の端部(第1フランジ部113)を下面で押圧して内筒部材210(第3筒部112)を押し下げる押圧板331と、その押圧板331の下面に垂設される棒状の支持部332とを主に備えている。支持部332は、貫通孔31に圧入される内筒部材210(第3筒部112)を支持して仮固定するための部材であり、内筒部材210の挿通孔11に挿通可能にするため、挿通孔11の内径より少し細めに形成されている。支持部332の下端側の外周面に、支持部332が貫装された内筒部材210(第3筒部112)の端面を係止するボールプランジャ333が埋設されている。上型330は、中型320と上型330との間に介設されるスプリング334により、中型320と離間する方向に付勢される。
【0068】
次に、防振装置の製造方法について説明する。まず、図5に示すように、プレス装置(図示せず)のスライダを上昇させ、上型330及び中型320を上昇させた後、内筒部材210の第1フランジ部113が上、第3筒部112が下になるように挿通孔11に支持部332を挿入する。支持部332が内筒部材210に挿入される間、ボールプランジャ333は内筒部材210の挿通孔11の内面で押入され、内筒部材210の下端が通過すると突出する。これにより、内筒部材210は落下することなく支持部332が貫装された状態で支持部332に仮固定される。
【0069】
さらに、下型310の昇降体313を下降させ、昇降体313の上面に、第2フランジ部214の軸方向が上下を向くように載せる。次いで、防振基体230が接着された外筒部材220(中間品S)を、軸方向が上下を向くように凹部311に載置する。なお、中間品Sの貫通孔31の内径は、第2フランジ部214(取着部214a)の内径より大径となるように設定されている。
【0070】
図6を参照して、さらに説明する。図6(a)は外筒部材220を組立装置301に固定した状態を示す模式図であり、図6(b)は昇降体313を上昇させて防振基体230を変形させた状態を示す模式図であり、図6(c)は防振基体230に筒部112を圧入した状態を示す模式図であり、図6(d)は昇降体313を下降させた状態を示す模式図である。
【0071】
下型310に第2フランジ部214及び中間品Sを載せた後(図5参照)、図6(a)に示すように上型330及び中型320を下降させ、外筒部材220の軸方向端部に中型320の肩部323を当接させる(外筒部材保持工程)。次いで、図6(b)に示すように昇降体313を上昇させる。貫通孔31の内径は第2フランジ部214(取着部214a)の内径より大径となるように設定されているので、昇降体313を上昇させると、貫通孔31の周縁(防振基体230)に第2フランジ部214が押し当てられる。さらに昇降体313を上昇させると、外筒部材220の軸方向端部に中型320の肩部323が当接しているので、貫通孔31の周縁(防振基体230)が上方に向かって押圧され、防振基体230が変形し、貫通孔31の上端側が拡径する(防振基体押圧工程)。なお、中型320に収容部321が形成されているので、昇降体313の上昇により防振基体230が変形したときに、外筒部材220(中間品S)に水平方向の位置ずれが生じることが防止される。
【0072】
次いで、図6(c)に示すように上型330を下降させ、貫通孔31に向かって支持部332を下降させる。上型330はスプリング334を圧縮しながら下降する。下降される内筒部材210と貫通孔31とに摩擦が生じると、内筒部材210の下端面がボールプランジャ333を離れるが、内筒部材210の上端面(第1フランジ部113)が押圧板331の下面に当接すると、押圧板331の下降につれて内筒部材210が押し下げられる。内筒部材210は支持部332が貫設されているので、内筒部材210がずれたり曲がったりすることなく貫通孔31に圧入される。さらに、上型330の下降につれて押し下げられる支持部332は下端側が昇降体313の侵入孔314に侵入する一方、内筒部材210は押圧板331に押圧されて、第3筒部112の先端の段差部211が取着部214a(第2フランジ部214)に圧入される(内筒部材圧入工程)。
【0073】
次いで、図6(d)に示すように昇降体313を下降させ、貫通孔31の周縁(防振基体230)に上向きに作用していた力を解除する(押圧解除工程)。これにより、防振基体230を内筒部材210(第3筒部112)に密着させることができ、貫通孔31に圧入された内筒部材210(第3筒部112)の位置が定められる。最後に上型330及び中型320を上昇させ、内筒部材210が圧入された防振装置を組立装置301から取り出す。
【0074】
以上のような防振装置の製造方法によれば、外筒部材220を保持した後、内筒部材210の圧入方向(図5下向き)と反対方向(図5上向き)に貫通孔31の周縁(防振基体230)を軸方向に押圧することで(防振基体押圧工程)、内筒部材210の圧入方向を臨む側(図5上側)が拡径するように貫通孔31を変形させることができる。これにより、内筒部材210を貫通孔31に圧入し易くでき、圧入作業性を向上できる。さらに、内筒部材210が圧入されるときに、内筒部材210の外面と貫通孔31との摩擦により防振基体230が圧入方向に引きずられて防振基体230が変形することを防止できる。
【0075】
ここで、内筒部材210の圧入方向と反対方向に貫通孔31の周縁を軸方向に押圧することなく内筒部材210を圧入した場合は、内筒部材210の外面と貫通孔31との摩擦により、防振基体230が圧入方向に引きずられて防振基体230が変形する。この防振基体230の変形により内筒部材210の圧入方向と反対方向に軸方向の反力(防振基体230の弾性力)が作用し、防振基体230が複雑にひずむため、内筒部材210の圧入が妨げられると共に、圧入された内筒部材210の位置が定まり難いという問題がある。
【0076】
これに対し、本実施の形態における防振装置の製造方法によれば、内筒部材210の圧入方向と反対方向に貫通孔31の周縁を押圧することで、内筒部材210の圧入に引きずられて防振基体230が軸方向に変形することを防止できる。これにより、圧入される内筒部材210に作用する防振基体230の軸方向の反力を規制することができ、内筒部材210の圧入作業性を向上できる。
【0077】
また、内筒部材210の圧入方向と反対の軸方向に貫通孔31の周縁(防振基体230)を押圧することで、防振基体230に生じる内筒部材210の圧入方向のひずみを減らすことができる一方、圧入方向と反対方向のひずみを増やすことができる。そして、内筒部材210が貫通孔31に圧入されたら貫通孔31の周縁の押圧を解除することで(押圧解除工程)、軸方向のひずみが減る方向に防振基体230が変形(復元)し、貫通孔31が内筒部材210に密着し、内筒部材210の位置が定まる。防振基体230に生じるひずみの向きを単純化することで、貫通孔31の周縁(防振基体230)の押圧を解除したときの防振基体230の軸方向の変形量を予測可能にできる。その結果、貫通孔31に圧入された内筒部材210の位置を定め易くできる。
【0078】
また、内筒部材210の第3筒部112に取着される第2フランジ部214を用いて貫通孔31の周縁(防振基体230)を押圧するので、貫通孔31の周縁を押圧するための部品を別途準備する必要がなく、準備部品を削減できる。さらに、第3筒部112を貫通孔31に圧入すると共に第2フランジ部214を取着して防振装置が製造されるので、防振装置の生産効率を向上できる。
【0079】
また、第3筒部112の圧入端112b(図4(b)参照)の外周面の端縁に段差部211が形成されているので、その分だけ取着部214aの内径を小さくすることができ、その結果、第2フランジ部214の径方向厚さ(図5左右方向)を大きくすることができる。これにより貫通孔31の周縁(防振基体230)を第2フランジ部214の大きな面で押圧することができ、貫通孔31の周縁に荷重を分散させることができる。その結果、貫通孔31の周縁が破損したり防振基体230に荷重を加えられなかったりする不具合を生じ難くできる。
【0080】
次に図7を参照して、第4実施の形態について説明する。第1実施の形態から第3実施の形態では、内筒部材10,110,210と外筒部材20,220との間に中実状の防振基体30が介設される場合について説明した。これに対し第4実施の形態では、防振基体430に軸方向に貫通するすぐり部432(空所)が形成される場合について説明する。さらに第4実施の形態では、内筒部材410の第1筒部12a及び第2筒部12bの圧入側の先端(圧入端)の外周面の端縁の全周に面取り部411,412が形成されている場合について説明する。なお、第1実施の形態または第3実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図7(a)は第4実施の形態における防振装置401の平面図であり、図7(b)はVIIb−VIIb線における防振装置401の断面図である。
【0081】
図7(a)に示すように防振装置401は、振動発生側または振動受け側の部材(図示せず)に取着される内筒部材410と、その内筒部材410の外周側に位置する外筒部材220と、それら外筒部材220及び内筒部材410の間に介設されると共にゴム状弾性材から構成される防振基体430とを備えている。
【0082】
防振基体430は、内筒部材410を間にして軸直角方向に対向する位置に軸方向に貫通する一対のすぐり部432が形成されている。これにより、すぐり部432が互いに対向する方向と、これと直交する方向とで防振装置401の軸直角方向のばね定数を異ならせることができる。
【0083】
図7(b)に示すように内筒部材410は、貫通孔431に圧入される第1筒部12a及び第2筒部の圧入側の先端(圧入端)の外周面の端縁の全周に面取り部411,412が形成されている。第1筒部12a及び第2筒部12bの端縁に面取り部411,412が形成されることにより、第1筒部12a及び第2筒部12bを貫通孔431に圧入し易くすることができ、内筒部材410の圧入作業性を向上できる。
【0084】
また、第1筒部12a及び第2筒部12bが貫通孔431内で軸方向に当接したときに、面取り部411,412により凹所が形成される。面取り部411,412により形成される凹所は、貫通孔431の一方側および他方側から第1筒部12a及び第2筒部12bを圧入したときに、圧縮されて貫通孔431の内面側に変形した(逃げた)ゴム状弾性体を受け入れることができる。
【0085】
ここで、端縁に面取り部411,412が形成されていない場合は、貫通孔431の一方側および他方側から第1筒部12a及び第2筒部12bを圧入してゴム状弾性体が貫通孔431の内面側に変形すると、合せ面(圧入端面)間にゴム状弾性体を噛み込むことがある。この場合、振動発生側または振動受け側の部材(図示せず)にボルト締結したときに、ゴム状弾性体が介在するため第1筒部12a及び第2筒部12bが軸方向に当接されない。この状態では、噛み込まれたゴム状弾性体の弾性力により、使用中にボルトが緩み易くなるおそれがある。
【0086】
これに対し本実施の形態によれば、面取り部411,412により凹所が形成されるので、合せ面(圧入端面)間にゴム状弾性体が噛み込まれることを防止でき、第1筒部12a及び第2筒部12bを貫通孔431内で軸方向に確実に当接させることができる。これにより、合せ面(圧入端面)間にゴム状弾性体が介在するおそれがなくなり、締結固定されたボルトが使用中に緩み易くなることが防止される。
【0087】
次に図8(a)を参照して、第5実施の形態について説明する。第4実施の形態では、内筒部材410の第1筒部12a及び第2筒部12bの圧入側の先端の外周面の端縁の全周に、面取り部411,412が形成されている場合について説明した。第5実施の形態では、面取り部411,412に代えて、第1筒部12a及び第2筒部12bの圧入側の外周にゴム逃げ用凹所511,512が形成されている場合について説明する。なお、第1実施の形態または第3実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図8(a)は第5実施の形態における防振装置501の軸方向断面図である。
【0088】
図8(a)に示すように、内筒部材510は、貫通孔31に圧入される第1筒部12a及び第2筒部12bの圧入端側の外周にゴム逃げ用凹所511,512が形成されている。ゴム逃げ用凹所511,512は、第1筒部12a及び第2筒部12bの外周の円筒面と滑らかに連続し、外径が圧入端(先端)に向かうにつれ漸次小さくなるよう形成された傾斜部511a,512aと、傾斜部511a,512aの圧入端側に連設され外径が略一定の円筒状に形成された小径部511b,512bとを備えている。
【0089】
以上のように内筒部材510は、第1筒部12a及び第2筒部12bの圧入側の外周の円筒面と滑らかに連続する傾斜部511,512が形成されているので、貫通孔31へのスムーズな圧入が可能となる。また、第1筒部12a及び第2筒部12bの圧入側の外周にゴム逃げ用凹所511,512が形成されているので、貫通孔31の内面に変形したゴム状弾性体をゴム逃げ用凹所511,512に受け入れ、合せ面(圧入端面)間にゴム状弾性体が噛み込まれることを防止できる。その結果、第4実施の形態と同様に、合せ面(圧入端面)を軸方向に当接させることができ、相手部品に締結固定したボルトが使用中に緩むことを防止できる。さらに、ゴム逃げ用凹所511,512は小径部511b,512bを備えているので、受け入れ可能なゴム状弾性体の容量を大きくすることができる。特に、ばね定数が小さく変形量の大きなゴム状弾性体を用いる場合に有利である。
【0090】
次に図8(b)を参照して、第6実施の形態について説明する。第5実施の形態では、第1筒部12a及び第2筒部12bの圧入側の外周にゴム逃げ用凹所511,512が形成されている場合について説明した。第6実施の形態では、さらに面取り部611,612が形成されている場合について説明する。なお、第5実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図8(b)は第6実施の形態における防振装置601の軸方向断面図である。
【0091】
図8(b)に示すように、防振装置601の内筒部材610は、ゴム逃げ用凹所511,512の外周面の端縁の全周に面取り部611,612が形成されている。面取り部611,612により凹所が形成されるので、合せ面(圧入端面)間にゴム状弾性体が噛み込まれることを防止でき、第1筒部12a及び第2筒部12bを貫通孔31内で軸方向に確実に当接させることができる。これにより、合せ面(圧入端面)間にゴム状弾性体が介在するおそれがなくなり、相手部品(図示せず)に締結固定されたボルトが使用中に緩み易くなることが防止される。
【0092】
次に図8(c)を参照して、第7実施の形態について説明する。第2実施の形態では、内筒部材110の第3筒部112の外周112aが円筒状に形成されている場合について説明した。これに対し第7実施の形態では、内筒部材710の第3筒部112の圧入側の先端(圧入端112a)の外周面の端縁の全周に面取り部711が形成されている場合について説明する。なお、第2実施の形態または第6実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図8(c)は第7実施の形態における防振装置701の軸方向断面図である。
【0093】
図8(c)に示すように、防振装置701の内筒部材710は、第3筒部112の圧入側の先端(圧入端112a)の全周に面取り部711が形成されている。その面取り部711より第1フランジ部113側の第3筒部112の外周面に第2フランジ部114が取着されている。面取り部711が形成されることにより、第3筒部112を貫通孔31に圧入し易くすることができる。さらに、面取り部711があるので、第2フランジ部114に第3筒部112を圧入し易くすることができる。これらの結果、内筒部材710(第3筒部112)の圧入作業性を向上できる。
【0094】
次に図9(a)から図9(c)を参照して、第8実施の形態から第10実施の形態について説明する。第1実施の形態から第7実施の形態では、内筒部材10,110,210,410,510,610,710が複数の部材により構成される場合について説明した。これに対し第8実施の形態から第10実施の形態では、内筒部材810,910,1010が1つの部材により構成される場合について説明する。なお、第3実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図9(a)は、第8実施の形態について説明する。
【0095】
図9(a)に示すように、防振装置801の内筒部材810は、軸方向に貫通する挿通孔11が中心に形成された円筒状の筒部811を備えている。防振装置801は、筒部811を圧入端811aから防振基体30の貫通孔31に圧入することにより製造される。防振装置801は内筒部材810が1つの部材により構成されているので、部品点数を削減できる。
【0096】
次に図9(b)を参照して、第9実施の形態について説明する。第9実施の形態では、内筒部材910の圧入端811aに面取り部911が形成されている場合について説明する。なお、第8実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図9(b)は第9実施の形態における防振装置901の軸方向断面図である。
【0097】
図9(b)に示すように、防振装置901の内筒部材910は、筒部811の端縁(圧入端811a)の外周面の全周に面取り部911が形成されている。これにより、筒部811を貫通孔31に圧入し易くすることができ、内筒部材910(筒部811)の圧入作業性を向上できる。
【0098】
次に図9(c)を参照して、第10実施の形態について説明する。第8実施の形態および第9実施の形態では、筒部811の外周面が平滑に形成されている場合について説明した。これに対し第10実施の形態では、筒部811の外周面に凹凸が形成されている場合について説明する。なお、第8実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図9(c)は第10実施の形態における防振装置1001の軸方向断面図である。
【0099】
図9(c)に示すように防振装置1001の内筒部材1010は、円筒状に形成されると共に圧入端811aから貫通孔31に圧入され、防振基体30に貫設される筒部811と、その筒部811の外周に対して外縁が軸方向と交差する方向に張り出して圧入端811aと反対の端部に突設されるフランジ部1011と、圧入端811a寄りの筒部811の外周811bから軸直角方向に鍔状に張り出して形成される張出し部1012と、その張出し部1012から圧入端811aにかけて外径が漸次小さくなるように先細り状に形成される先細り部1013とを備えて構成されている。また、内筒部材1010の軸線に対する張出し部1012の傾斜角度は、軸線に対する先細り部1013の傾斜角度より大きくなるように設定されている。
【0100】
以上のように構成される防振装置1001によれば、内筒部材1010は先細り部1013を備えているので、筒部811を貫通孔31に圧入し易くすることができ、圧入作業性を向上できる。また、フランジ部1011及び張出し部1012を備えているので、貫通孔31に圧入された内筒部材1010を脱落し難くできる。このように防振装置1001は、内筒部材1010の圧入作業性を向上できると共に、内筒部材1010を脱落し難くできる。
【0101】
次に、組立装置301を用いた防振装置の製造方法を、図10を参照して説明する。なお、第8実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図10(a)は防振基体230が接着された外筒部材220及び筒部811を組立装置301にセットした状態を示す模式図であり、図10(b)は防振基体230が接着された外筒部材220を組立装置301に固定した状態を示す模式図であり、図10(c)は昇降体313を上昇させた状態を示す模式図であり、図10(d)は筒部811を防振基体230に圧入した状態を示す模式図である。防振基体230は、凹所32が省略されている以外は防振基体30と同一なので説明を省略する。
【0102】
まず、図10(a)に示すように、プレス装置(図示せず)のスライダを上昇させ、上型330及び中型320を上昇させた後、内筒部材810の挿通孔11に支持部332を挿入する。支持部332が内筒部材810に挿入される間、ボールプランジャ333は内筒部材810の挿通孔11の内面で押入され、内筒部材810の下端が通過すると突出する。これにより、内筒部材810は落下することなく支持部332が貫装された状態で支持部332に仮固定される。
【0103】
さらに、下型310の昇降体313を下降させ、昇降体313の上面に、リング状に形成された環状部Rを固定する。次いで、防振基体230が接着された外筒部材220(中間品S)を、軸方向が上下を向くように凹部311に載置する。なお、中間品Sの貫通孔31の内径は、環状部Rの内径より大径となるように設定されている。また、環状部Rの内径は、内筒部材810(筒部811)の外径より大径となるように設定されている。
【0104】
次いで図10(b)に示すように上型330及び中型320を下降させ、外筒部材220の軸方向端部に中型320の肩部323を当接させる(外筒部材保持工程)。次いで、図10(c)に示すように昇降体313を上昇させる。貫通孔31の内径は環状部Rの内径より大径となるように設定されているので、昇降体313を上昇させると、貫通孔31の周縁(防振基体230)に環状部Rが押し当てられる。さらに昇降体313を上昇させると、外筒部材220の軸方向端部に中型320の肩部323が当接しているので、貫通孔31の周縁(防振基体230)が上方に向かって押圧され、防振基体230が変形し、貫通孔31の上端側が拡径する(防振基体押圧工程)。
【0105】
次いで、図10(d)に示すように上型330を下降させ、内筒部材810を押圧板331で押圧して貫通孔31に圧入する(内筒部材圧入工程)。また、上型330の下降につれて押し下げられる支持部332は下端側が昇降体313の侵入孔314に侵入する。さらに、内筒部材810は押圧板331に押圧されて環状部Rに侵入し貫通孔31を貫通する。
【0106】
次に昇降体313を下降させ、貫通孔31の周縁(防振基体230)に上向きに作用していた力を解除する(押圧解除工程)。これにより、防振基体230を内筒部材810に密着させることができ、貫通孔31に圧入された内筒部材810の位置が定められる。最後に上型330及び中型320を上昇させ、内筒部材810が圧入された防振装置を組立装置301から取り出す。以上のような防振装置の製造方法によれば、図6を参照した前述と同様の作用・効果を実現できる。
【0107】
次に図11(a)から図11(d)を参照して、第11実施の形態から第14実施の形態について説明する。第8実施の形態から第10実施の形態では、内筒部材810,910,1010が1つの部材により構成される場合について説明した。これに対し第11の形態から第14実施の形態では、内筒部材1110,1210,1310,1410が複数の部材により構成される場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。また、図11(a)から図11(d)では、各防振装置の外筒部材および防振基体の図示は省略する。まず、図11(a)を参照して第11実施の形態における防振装置の内筒部材1110について説明する。図11(a)は内筒部材1110の軸方向断面図である。
【0108】
図11(a)に示すように、内筒部材1110は、第1筒部および第2筒部が同一の部材1111により構成されているので、第1筒部1111について説明し、第2筒部1111の説明は省略する。なお、第1筒部および第2筒部が同一の部材1111により構成されることで、部品点数を削減できる。ここで、第1筒部1111は円筒状に形成されると共に、防振基体の貫通孔(図示せず)に圧入端1112から圧入される部材である。第1筒部1111は、外周から軸直角方向に鍔状に張り出して形成される張出し部1114と、その張出し部1114から圧入端1112に向かって外径が漸次小さくなるように先細り状に形成される先細り部1115とを備え、張出し部1114及び先細り部1115が繰り返し形成されている。また、第1筒部1111の軸線に対する張出し部1114の傾斜角度は、軸線に対する先細り部1115の傾斜角度より大きくなるように設定されている。
【0109】
以上のように構成される防振装置の内筒部材1110によれば、先細り部1115を備えているので、第1筒部および第2筒部1111を圧入し易くすることができ、圧入作業性を向上できる。また、張出し部1114を備え、第1筒部および第2筒部1111の圧入端1112が軸方向に向かい合うように圧入されるので、圧入された第1筒部および第2筒部1111を脱落し難くできる。
【0110】
次に図11(b)を参照して第12実施の形態における防振装置の内筒部材1210について説明する。図11(b)は内筒部材1210の軸方向断面図である。図11(b)に示すように、内筒部材1210は、第1筒部および第2筒部が同一の部材1211により構成されているので、第1筒部1211について説明し、第2筒部1211の説明は省略する。
【0111】
第1筒部1211は円筒状に形成されると共に、防振基体の貫通孔(図示せず)に圧入端1212から圧入される部材であり、圧入端1212の反対側の端部に第1フランジ部1213が突設されている。第1筒部1211は、外周から軸直角方向に鍔状に張り出して形成される張出し部1214と、その張出し部1214から圧入端1212に向かって外径が漸次小さくなるように先細り状に形成される先細り部1215とを備え、張出し部1214及び先細り部1215が繰り返し形成されている。また、圧入端1212の外周面の全周に面取り部1216が形成されている。なお、第1筒部1211の軸線に対する張出し部1214の傾斜角度は、軸線に対する先細り部1215の傾斜角度より大きくなるように設定されている。
【0112】
以上のように構成される防振装置の内筒部材1210によれば、圧入端1212に面取り部1216が形成されているので、圧入作業性をさらに向上できると共に、圧入により変形したゴム状弾性体を受け入れて、合せ面での噛み込みを防止できる。さらに第1フランジ部1213及び第2フランジ部が突設されているので、防振基体の軸方向に予圧を与えることができる。
【0113】
次に図11(c)を参照して第13実施の形態における防振装置の内筒部材1310について説明する。図11(c)は内筒部材1310の軸方向断面図である。図11(c)に示すように、内筒部材1310は、第1筒部および第2筒部が同一の部材1311により構成されているので、第1筒部1311について説明し、第2筒部1311の説明は省略する。
【0114】
第1筒部1311は円筒状に形成されると共に、防振基体の貫通孔(図示せず)に圧入端1312から圧入される部材であり、圧入端1312の反対側の端部に第1フランジ部1313が突設されている。第1筒部1311は、円筒状に形成された円筒部1314と、円筒部1314から軸直角方向に鍔状に張り出して形成される張出し部1315と、その張出し部1315から圧入端1312にかけて外径が漸次小さくなるように先細り状に形成される先細り部1316とを備えている。
【0115】
以上のように構成される防振装置の内筒部材1310によれば、先細り部1316を備えているので、圧入により変形したゴム状弾性体を受け入れて、合せ面での噛み込みを防止できる。また、張出し部1315及び先細り部1316が圧入端1312の近傍に形成されているので、張出し部1315及び先細り部1316の数が少なくても圧入作業性の向上と脱落防止効果を向上できる。これにより張出し部1315及び先細り部1316の加工工数を削減できる。
【0116】
次に図11(d)を参照して第14実施の形態における防振装置の内筒部材1410について説明する。図11(d)は内筒部材1410の軸方向断面図である。図11(d)に示すように、内筒部材1410は、第1筒部および第2筒部が同一の部材1411により構成されているので、第1筒部1411について説明し、第2筒部1411の説明は省略する。
【0117】
第1筒部1411は円筒状に形成されると共に、防振基体の貫通孔(図示せず)に圧入端1412から圧入される部材であり、圧入端1412の反対側の端部に第1フランジ部1413が突設されている。第1筒部1411は、外周から軸直角方向に鍔状に張り出して形成される第1張出し部1414と、その第1張出し部1414から圧入端1412に向かって外径が漸次小さくなるように先細り状に形成される先細り部1415と、その先細り部1415から軸直角方向に鍔状に張り出して形成される第2張出し部1416と、その第2張出し部1416から圧入端1412に向かって先細り部1415よりも急峻に外径が漸次小さくなるように形成される傾斜部1417と、傾斜部1417の圧入端1412側に連設され外径が略一定の円筒状に形成された小径部1418と、小径部1418の圧入端1412の全周に形成された面取り部1419とを備えている。
【0118】
以上のように構成される防振装置の内筒部材1410によれば、面取り部1419及び傾斜部1417を備えているので、圧入作業性を向上できる。また、第1張出し部1414、先細り部1415、第2張出し部1416を備えているので、脱落防止効果を向上できる。さらに、面取り部1419及び傾斜部1417を備えているので、圧入により変形したゴム状弾性体を受け入れて、合せ面での噛み込みを防止できる。
【0119】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量や寸法等)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0120】
上記実施の形態では、内筒部材および外筒部材が金属材料により形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、合成樹脂材料により形成されるものを採用することは当然可能である。
【0121】
上記実施の形態では、内筒部材10,410,510,610,1110,1210,1310,1410の第1筒部および第2筒部の軸方向長さが同一に形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、軸方向長さの異なる第1筒部および第2筒部を採用することは当然可能である。
【0122】
上記実施の形態では、内筒部材10,110,210,410,510,610,710,1110,1210,1310,1410が円筒状に形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、異形円筒状や角筒状等に形成されるものを採用することは当然可能である。
【0123】
上記実施の形態では説明を省略したが、内筒部材110,210,710において、振動発生側または振動受け側の相手部品を利用して第2フランジ部114,214とすることは当然可能である。これにより部品点数を削減できる。
【0124】
上記実施の形態では、内筒部材110,210,710において、第2フランジ部114,214を圧入により第3筒部112に取着する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の手段により取着することは当然可能である。他の手段としては、例えば螺合、溶接等を挙げることができる。
【0125】
上記実施の形態で説明した第1実施の形態から第14実施の形態における内筒部材を、相互に置き換えて防振装置(トルクロッドやブッシュ等)を製造することは当然可能である。
【0126】
上記実施の形態では、防振基体の貫通孔に内筒部材を圧入し、非接着状態で内筒部材を拘束する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、貫通孔に内筒部材を圧入する前に接着剤を内筒部材または貫通孔に塗布し、内筒部材と防振基体とを接着することは当然可能である。これにより、振動発生側または振動受け側の相手部品にボルト締結されるまでの間に、内筒部材が脱落するおそれを低減できる。
【0127】
上記実施の形態では説明を省略したが、組立装置301(図5参照)を用いて防振装置1(図1参照)を製造する場合は、まず、第1フランジ部13が上になるように第1筒部12aを支持部332に装着する。そして、防振基体30の貫通孔31の一方側から第1筒部12aを圧入する。外筒部材20の上下を入れ換えた後、第2フランジ部14が上になるように第2筒部12bを支持部332に装着する。次いで、昇降体313を上昇させ、第1フランジ部13で貫通孔31の周縁の防振基体30を押圧する。次に、防振装置30の貫通孔31の反対側から第2筒部12bを圧入する。この場合も、内筒部材10の圧入作業性を向上できると共に、圧入された内筒部材10の位置を定め易くできる効果がある。
【符号の説明】
【0128】
1,101,201,401,501,601,701,801,901,1001 防振装置
10,110,210,410,510,610,710,810,910,1010,1110,1210,1310,1410 内筒部材
12 筒部
12a,1111,1211,1311,1411 第1筒部(筒部の一部)
12b,1111,1211,1311,1411 第2筒部(筒部の一部)
112 第3筒部(筒部の一部)
13,113,1213,1313,1413 第1フランジ部(フランジ部)
14,114,214,1213,1313,1413 第2フランジ部(フランジ部)
20,220 外筒部材
30,230,430 防振基体
31,431 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム状弾性体から構成されると共に軸方向に貫通孔が貫通形成される防振基体が内周面に接着された筒状の外筒部材を保持する外筒部材保持工程と、
前記外筒部材保持工程により保持された外筒部材と、筒状に形成される内筒部材とを軸方向に相対移動させ、前記貫通孔に前記内筒部材を圧入し、前記内筒部材の外周面を前記貫通孔の内周面で拘束する内筒部材圧入工程と、を備えていることを特徴とする防振装置の製造方法。
【請求項2】
前記外筒部材保持工程により外筒部材を保持した後、前記内筒部材の圧入方向と反対の軸方向に前記貫通孔の周縁の防振基体を押圧する防振基体押圧工程を備え、
前記内筒部材圧入工程は、前記防振基体押圧工程による防振基体の押圧方向とは反対の軸方向から前記内筒部材を前記貫通孔に圧入することを特徴とする請求項1記載の防振装置の製造方法。
【請求項3】
前記内筒部材圧入工程により前記内筒部材を前記貫通孔に圧入した後、前記防振基体押圧工程による防振基体の押圧を解除する押圧解除工程を備えていることを特徴とする請求項2記載の防振装置の製造方法。
【請求項4】
前記内筒部材は、前記貫通孔に圧入される円筒状の筒部と、前記筒部と別部材からなり前記筒部の外周に対して全周が軸方向と直交する方向に張り出すフランジ部と、を備えて構成され、
前記防振基体押圧工程は、前記フランジ部により前記貫通孔の周縁の防振基体を押圧することを特徴とする請求項2又は3に記載の防振装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−197815(P2012−197815A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60840(P2011−60840)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】