説明

防振装置

【課題】第1の課題は、防振装置における防振ゴムの取付部材への接着を不要とすることであり、第2の課題は、防振ゴムを簡単に取り替えられるようにすることである。
【解決手段】防振ゴム3を環状に形成して、その内外に振動体側の取付部材としてのインナー軸1と支持体側の取付部材としての外輪2を配し、防振ゴム3をインナー軸1外周面および外輪2内周面に形成したV字溝4、9に嵌合させた状態で保持することにより、防振ゴム3の両取付部材1、2からの脱落を防止して、両取付部材1、2への接着を不要とするとともに、外輪2をその軸方向で2つの外輪片7、8に分割し、外輪2の分解により防振ゴム3が簡単に着脱できるようにしたのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体とその支持体との間に介装されて、振動体の振動を吸収する防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンプレッサ、真空ポンプ、ブロアユニット等、比較的大きな振動を発生させる機器の設置場所では、これらの振動体となる機器とその支持体である床等の間に振動を吸収する防振装置を介装して、機器の周囲に振動が伝わりにくいようにしている。また、精密機器、画像計測器、電子顕微鏡等、振動を嫌う機器を使用している場所では、周囲からこれらの機器への振動の伝達を低減するために、機器を載せる台と床との間に防振装置を介装していることが多い。
【0003】
上記のような用途に使用される防振装置には、環状または円板状の防振ゴムの軸方向両側に、振動体に取り付けられるプレート(取付部材)と支持体に取り付けられるプレート(取付部材)を配し、防振ゴムを両プレートに加硫接着したものが多い。しかし、このような従来タイプの防振装置では、構造的に軸方向と直交する方向の振動に対する防振性能が低いし、製造時の防振ゴム接着作業に手間がかかる問題がある。また、一旦接着した防振ゴムの取替えは困難なので、防振ゴムのばね定数によって決まる防振特性を製造後に調整することはできない。従って、振動数や荷重等の条件が不確定な場所で使用する場合には、通常、現場で防振特性の異なる装置を数種類試用して、そのうちから最適なものを選ぶようにしており、装置の準備費用が高くなるという問題もある。
【0004】
これに対して、前記両プレートの一方に環状の防振ゴムの内周側と嵌合する筒状部を設け、他方に防振ゴム外周側と嵌合する筒状部を設けて、両筒状部とその間に嵌め込んだ防振ゴムとを接着剤で接着するようにすれば、防振ゴムが両筒状部で径方向の動きを拘束されるため、軸方向と直交する方向の振動に対しても優れた防振性能が得られるし、防振ゴムの加硫接着を不要とすることができる(特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術は、防振ゴムの両プレートからの脱落を防止する手段として、加硫接着に代えて両プレートへの嵌合と接着剤による接着を採用しているので、接着作業の手間をある程度軽減することはできても、接着工程自体をなくすことはできない。また、この技術により製造された防振装置も、防振ゴムの取替えが困難で防振特性を調整できないという点は、前述の従来タイプの装置と同じである。
【特許文献1】特開2003−232402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第1の課題は、防振装置における防振ゴムの取付部材への接着を不要とすることであり、第2の課題は、防振ゴムを簡単に取り替えられるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記第1の課題を解決するために、本発明は、振動体に取り付けられる取付部材と、支持体に取り付けられる取付部材との間に防振ゴムを介在させた防振装置において、前記防振ゴムを環状に形成して、その内外に前記両取付部材を配し、外側の取付部材の内周面に防振ゴムの外周側が挿入される環状溝を設け、内側の取付部材の外周面に防振ゴムの内周側が挿入される環状溝を設けて、これらの両環状溝で前記防振ゴムを保持するようにした。
【0008】
すなわち、環状に形成した防振ゴムを、その内外に配した2つの取付部材のそれぞれの環状溝で保持して、両取付部材から脱落しないようにすることにより、防振ゴムの両取付部材への接着を不要としたのである。
【0009】
そして、第2の課題を解決するために、本発明は、上記の構成において、前記両取付部材の一方を、その軸方向で複数の取付片に分割されたものとし、前記一方の取付部材を前記複数の取付片に分解することにより前記防振ゴムを着脱できるようにしたのである。
【0010】
また、前記両取付部材の環状溝をV字溝とし、前記防振ゴムを前記両V字溝と嵌合する四角形断面に形成すれば、防振ゴムをその軸心に対する角度が互いに異なる面で各取付部材と面接触させられるので、軸方向の振動とこれに直交する方向の振動のいずれに対しても優れた防振性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上述したように、防振装置の防振ゴムを環状に形成し、その内外に配した取付部材の環状溝で保持して両取付部材から脱落しないようにしたので、防振ゴムの取付部材への接着工程をなくすことができ、製造工程の大幅な効率化が図れる。
【0012】
また、前記両取付部材の一方を分解して防振ゴムを着脱できるようにしたので、防振ゴムを取り替えて防振特性を調整することができる。従って、使用条件が不確定な場合でも、ばね定数の異なる防振ゴムを準備しておけば、現場で防振特性を調整できるので、従来のように防振特性の異なる装置を準備する必要がなく、準備費用を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づき、この発明の実施形態を説明する。この防振装置は、図1および図2に示すように、振動体側の取付部材としてのインナー軸1と、支持体側の取付部材としての外輪2とを内外に配し、これらの両取付部材の間に環状に形成した防振ゴム3を介在させたものである。なお、インナー軸1を支持体側の取付部材とし、外輪2を振動体側の取付部材とすることもできる。
【0014】
前記インナー軸1は、外周面に環状のV字溝4が形成された円筒部5と、この円筒部5の一端面から突出する雄ねじ部6とからなり、雄ねじ部6が図示省略した振動体にねじ込まれるようになっている。
【0015】
前記外輪2は、軸方向中央で2つの外輪片(取付片)7、8に分割されており、各外輪片7、8には、それぞれの内周面から互いの対向面に向かって傾斜する傾斜面7a、8aが形成されている。そして、図3に示すように、両外輪片7、8をねじ止めして外輪2として組み立てることにより、外輪2内周面に各外輪片7、8の傾斜面7a、8aを側壁とする環状のV字溝9が形成される。逆に、図3の状態から外輪2を2つの外輪片7、8に分解すれば、防振ゴム3を簡単に着脱することができる。なお、この実施形態では、防振ゴムの着脱のために、外輪を分解するようにしたが、軸方向で分割されたインナー軸を分解するようにしてもよい。
【0016】
図3に示したように、前記防振ゴム3は、その内周側がインナー軸1のV字溝4と嵌合し、外周側が外輪2のV字溝9と嵌合する四角形断面に形成され、両V字溝4、9と嵌合した状態で保持されている。これにより、防振ゴム3とインナー軸1および外輪2とは、防振ゴム3軸心に対する角度が互いに異なる面で面接触するので、軸方向の振動とこれに直交する方向の振動のいずれに対しても優れた防振性能が得られる。
【0017】
図4および図5は、防振ゴム保持構造の変形例を示す。図4の例では、インナー軸1外周面および外輪2内周面に四角形断面の環状溝10、11を形成し、防振ゴム3を両環状溝10、11と嵌合する四角形断面に形成している。一方、図5の例では、インナー軸1および外輪2に円弧状断面の環状溝12、13を形成し、防振ゴム3は両環状溝12、13と嵌合する円形断面としている。これらの各変形例においても、防振ゴム3と各取付部材1、2とが面接触するので、図3の例とほぼ同じ防振性能が得られる。
【0018】
また、上記の各例では防振ゴムと各取付部材とが面接触するようにしたが、例えば、円形断面の防振ゴムを図3に示したようなV字溝に嵌め込んで、点接触に近い状態で各取付部材と接触するようにしてもよい。この場合、上記の各例に比べて防振性能はやや劣るが、防振ゴムの製造が簡単になる。
【0019】
なお、この防振装置を単品として販売したり運搬したりするときは、取り扱いをしやすくするため、図1および図2に示したように、両外輪片7、8をボルト14とナット15でねじ止めしているが、実際に使用する際には、図6に示すように、インナー軸1をその雄ねじ部6で振動体Aに取り付けるとともに、雄ねじ部の長いボルト16で両外輪片7、8を一体化された外輪2として支持体Bに取り付ければよい。
【0020】
この防振装置は、上記の構成であり、防振ゴムがインナー軸と外輪の間から脱落するおそれがないので、これらの各取付部材へ防振ゴムを接着する必要がなく、従来よりも効率よく製造することができる。
【0021】
また、防振ゴムが外輪の分解により簡単に着脱できるので、振動数や荷重等の条件が不確定な場所で使用する場合でも、ばね定数の異なる数種類の防振ゴムを準備しておけば、使用現場で防振ゴムを取り替えて防振特性を調整することができる。
【0022】
さらに、この防振装置を用いて吊下げ状態で使用される機器の振動低減を図る場合は、従来の防振装置の接着部分の剥離を避けるために実施していた吊下げ構造の工夫が不要となるので、例えば、図7に示すように、建屋内の梁Cの下面に外輪2を直接取り付け、インナー軸1を吊下げられる機器Dに取り付けて、吊下げ構造を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態の防振装置の外観斜視図
【図2】図1の防振装置の分解斜視図
【図3】図1の防振装置の要部の縦断面図
【図4】防振ゴム保持構造の変形例を示す縦断面図
【図5】防振ゴム保持構造の他の変形例を示す縦断面図
【図6】図1の防振装置の使用状態を示す縦断面図
【図7】図1の防振装置の他の使用状態を示す縦断面図
【符号の説明】
【0024】
1 インナー軸
2 外輪
3 防振ゴム
4 V字溝
5 円筒部
6 雄ねじ部
7、8 外輪片
9 V字溝
10、11、12、13 環状溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体に取り付けられる取付部材と、支持体に取り付けられる取付部材との間に防振ゴムを介在させた防振装置において、前記防振ゴムを環状に形成して、その内外に前記両取付部材を配し、外側の取付部材の内周面に防振ゴムの外周側が挿入される環状溝を設け、内側の取付部材の外周面に防振ゴムの内周側が挿入される環状溝を設けて、これらの両環状溝で前記防振ゴムを保持するようにしたことを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記両取付部材の一方がその軸方向で複数の取付片に分割されており、前記一方の取付部材を前記複数の取付片に分解することにより前記防振ゴムを着脱できるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記両取付部材の環状溝をV字溝とし、前記防振ゴムを前記両V字溝と嵌合する四角形断面に形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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