説明

防曇性を有する耐擦傷性、低反射性の表面

本発明は、優れた防曇効果あるいは結露防止効果を有するとともに、それに加えて優れた耐擦傷性および/または反射低減効果、および均一な疎水性および/または疎油性を呈する光学素子あるいは要素、およびその製造方法に関する。この要素は、ガラス基板と、吸水性の第1層と、(i)反射防止コーティング、ミラーコーティングあるいは硬質層、(ii)硬質層および反射防止コーティングの複合体あるいは組合せ、(iii)硬質層およびミラーコーティングの複合体および/または組合せより選択される第2層とを、この順番で備え、前記第2層および前記吸水性の第1層に非貫通孔が導入され、前記非貫通孔は、前記第2層から出現して前記第2層を完全に貫通するとともに前記吸水性の第1層を少なくとも部分的に貫通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた防曇効果あるいは結露防止効果を有するとともに、それに加えて優れた耐擦傷性および/または反射低減効果、および均一な疎水性および/または疎油性を呈する光学素子あるいは要素、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
曇らない表面を実現するための最新の方法として、吸水性あるいは親水性の層を付加するもの(日本特許公開2001−097744号公報、日本特許公開2003−206435号公報、欧州特許第0782015号、日本特許公開2001−074902号公報を参照)、または疎水性の上塗り塗装層を付加するもの(EP0927144B1を参照)がある。さらにまた、フォト触媒層により(米国特許第6,013,372号)、加熱により(米国特許第5,471,036号)、添加物の追加によるポリマー基板の改質により(国際特許公開WO01/58987A2号公報)、あるいはいかなる有機分をも含まないオキシド系により(米国特許公開2002/0192365A1号公報)、表面の曇りを防止する方法が存在する。加えて、反射防止および結露防止あるいは防曇効果を同時に達成するための努力がなされてきた(米国特許公開2004/0201895A1号公報、米国特許公開2003/0030909A1号公報、欧州特許公開1324078号公報、あるいは欧州特許公開0871046A1号公報を参照)。防曇効果を生じさせる最新の方法のほとんどに共通する特徴は、曇りを減少させる材料から製造された平坦な層の表面への付加、あるいは曇りを減少させる効果を呈する添加物の追加である。しかしながら、典型的な吸水性フィルムのごくわずかな耐擦傷性は、そのような表面の使用を限られたものにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が課題とする技術的な問題は、防曇効果を有するとともに、優れた耐擦傷性および/または反射防止効果を有し、可能ならば均一な疎水性および/または疎油性をも有する、光学素子あるいは要素、特に眼鏡レンズを提供することにある。
【0004】
この課題は、請求の範囲に特徴付けられている実施形態を提供することによって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
より詳しくは、本発明が提供する光学素子および/または要素は、ガラス基板と、吸水性の第1層と、(i)反射防止コーティング、ミラーコーティングあるいは硬質層、(ii)硬質層および反射防止コーティングの複合体あるいは組合せ、(iii)硬質層およびミラーコーティングの複合体および/または組合せ、のいずれかより選択される第2層あるいは外側層とを、この順序で備える。この場合、非貫通孔は、第2層および吸水性の第1層に形成される。非貫通孔は、第2層から出現してこの第2層を完全に貫通し、かつ吸水性の第1層を少なくとも部分的に貫通する。
【0006】
本発明の一実施形態は、反射防止コーティングあるいはミラーコーティングから成る第2層を選択する。
【0007】
さらにまた、例えば吸水性の内側層と硬質な外側層との間に遷移性および/または改良された適合性を生じさせるために、様々な材料の層を第1層と第2層との間に介装することができる。すなわち、いわゆる補償層を設けることができる。そのような層に適した材料は、例えば合成プラスチック材料および/または酸化物である。
【0008】
本発明の特に好ましい実施形態によると、光学素子および/または要素は眼鏡レンズである。
【0009】
袋状の凹部、ボアホール、非貫通孔あるいは溝は、(i)反射防止コーティング、ミラーコーティングあるいは硬質層(すなわち表面を硬化させるカバー層)、(ii)硬質層および反射防止コーティングの複合体あるいは組合せ、(iii)硬質層およびミラーコーティングの複合体および/または組合せから選択される第2層と吸水層とに形成されるとともに、第2層から発生してこの第2層を完全に貫通し、かつ吸水性の第1層を少なくとも部分的に貫通するが、それらの形状および寸法に関しては原則としてはいかなる特別な制約をも受けない。これらの非貫通孔は、第2層あるいはこの第2層に付加されあるいは付加されない追加の層から出現するとともに、機械的な手段、熱的な効果、放射線、レーザーの効果によって導入されあるいは穿設されて、第2層を完全に貫通するとともに、吸水層を少なくとも部分的に貫通する。しかしながら、これらの非貫通孔は、吸水層をその厚み方向において完全には貫通せず、むしろ吸水層の内部で終端することが好ましい。好ましくは、非貫通孔は、吸水層をその厚み方向において完全には貫通せず、むしろ吸水層の厚みに対し5〜80%、特に好ましくは5〜40%にわたる深さにおいて吸水層の内部で終端する。
【0010】
第2層として、反射防止コーティングは、単一層あるいは多層構造とすることができる。そのような反射防止コーティングは、単一層あるいは複数の層として作られるが、当業者にとっては公知である。また、当業者は、反射防止コーティングおよび/または個々の反射防止コーティングの材料および厚みを、適切な方法で選択することができる。好ましくは、3層、4層、5層あるいは6層から作られる反射防止コーティングが選択される。2層あるいはより多くの層から作られる反射防止コーティングの場合には、高い屈折率の反射防止コーティングが低い屈折率の反射防止コーティングに隣接する層の並びを選択するのが通例である。言い換えると、この種の多層構造においては、低い屈折率の反射防止コーティングと高い屈折率の反射防止コーティングとが交互に並ぶことが好ましい。加えて、いかなる光学的な機能も有しないが耐久性、接着性、環境に対する安定性、その他のために有益な追加の層、例えば(概ね5nm〜5μmの範囲の厚みを有する)接着層を設けることができる。例えば、前述した反射防止コーティングを1つ若しくは複数のミラー層および選択的な反射防止コーティングを有したミラーコーティングに置き換え、あるいは反射防止コーティングおよびミラーコーティングの両方を設けることができる。
【0011】
反射防止コーティングおよび/またはミラーコーティングに適した材料の実施例には、金属、シリコンあるいはホウ素、酸化物、フッ化物、ケイ化物、ホウ化物、炭化物、窒化物のような非金属、金属および前述した非金属の硫化物が含まれる。これらの物質は、個々にあるいはこれらの材料の二つ以上の混合物として用いることができる。
【0012】
好ましい金属酸化物および/または非金属酸化物には、酸化クロム(Cr23)、酸化イットリウム(Y23)、酸化イッテルビウム(Yb23)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化タンタル(Ta25)、酸化セリウム(CeO2)および酸化ハフニウム(HfO2)と同様に、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al23)、一酸化チタン(TiO)、二酸化チタン(Ti23)、三酸化二チタン(Ti23)、四酸化三チタン(Ti34)、酸化クロム(CrOx;x=1〜3)が含まれる。
【0013】
好ましいフッ化物には、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化アルミニウム(ALF3)、フッ化バリウム(BaF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、クリオライト(氷晶石)(Na3AlF6)およびチオライト(Na5Al314)が含まれる。好ましい金属には、例えばクロム(Cr)、タングステン(W)、タンタル(Ta)および銀(Ag)が含まれる。
【0014】
(光学素子および/または要素の表面から出発して見たときに)最後のあるいは最も外側の反射防止コーティング、すなわち後述するように選択的に提供される疎水性および/または疎油性の層と接触できる反射防止コーティングの材料として、二酸化ケイ素(SiO2)を用いることが特に好ましい。
【0015】
上述した反射防止コーティングおよび/またはミラーコーティングは、従来の方法によって付加することができる。この場合、蒸着、スパッタリング、化学蒸着(CVD)、あるいはプラズマ強化CVD法によって個々の反射防止コーティングを付加することが好ましい。
【0016】
反射防止コーティングは、例えばプラズマイオン補助蒸着により、高い耐摩耗性を有するとともに好ましくは20%未満の空隙率を有する圧縮層が形成されるように付着させおよび/または付加することが特に好ましい。
【0017】
一つの層あるいは複数の層から作られる反射防止コーティングの層の厚さは、原則としてはいかなる制約をも受けない。しかしながら、それは2,000nm以下、好ましくは1,500nm以下、特に好ましくは300nm以下に設定される。しかしながら、反射防止コーティングの最小の層の厚みは、好ましくは約100nm以上である。反射防止コーティングあるいはミラーコーティングが多層構造の場合、個々の層(すなわち反射防止コーティング)の厚みは、上述したように適切な方法で設定される。
【0018】
例えば、そのような反射防止コーティングは、λが550nmの波長を有する光線を表す場合に、例えばλ/8波長の二酸化チタン(TiO2)、λ/8波長の二酸化ケイ素(SiO2)、λ/2波長の二酸化チタン(TiO2)、およびλ/4波長の二酸化ケイ素(SiO2)といった、二酸化チタン(TiO2)および/または二酸化ケイ素(SiO2)の高い屈折率および/または低い屈折率の層を交互に並べて製造することができる。多層構造のこの種の反射防止コーティングは、例えば周知の物理的蒸着法(PVD)によって製造することができる。
【0019】
吸水層は、ガラス表面が曇ることを防止するために、反射防止コーティングあるいはミラーコーティングにあるいは表面を硬化させるカバー層に設けられる非貫通孔あるいは溝によって、空気中から水分を吸収するのに適した層である。したがって、吸水層は主として、無機あるいは有機の親水性の材料から作られる。
【0020】
吸水層は、好ましくは吸水性のポリマー層、例えばいわゆる曇り止めフィルムとすることができる。吸水性のポリマー層に適した材料には、澱粉ポリマーや澱粉アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物のようなポリマー、セルロースアクリロニトリルグラフト重合体のようなセルロースポリマー、ポリビニールアルコールポリマーや架橋されたポリビニールアルコールのような合成ポリマー、架橋されたポリアクリル酸ナトリウムのようなアクリルポリマー、架橋されたポリエチレングリコールジアクリレートのようなポリエーテルポリマーが含まれるが、ポリアクリレートおよびポリビニールアルコールが好ましい。ポリアクリレートの実施例は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、カリウムポリアクリレート、ポリアクリル酸ナトリウム他のようなポリアクリルアミドおよび塩類である。吸水層に適した材料は、例えば欧州特許公開0871046A1号公報に記載されているポリマーである。
【0021】
吸水層の厚さは、原則としていかなる特別な制約をも受けない。しかしながら、それは、好ましくは0.5〜12μm、特に好ましくは5〜10μmの範囲の厚みに設定される。
【0022】
第2層および吸水層に導入される非貫通孔あるいは溝は、いかなる重要な制約をも受けない。しかしながら、それらは、好ましくは0.1μm〜10μmの範囲、特に好ましいくは0.1〜5μmの範囲の直径を有する。この場合、非貫通孔は本質的に、例えば円形あるいは楕円形に設計することができる。導入される非貫通孔の深さあるいは長さは、第2層および吸水層の選択された厚みの関数として変化する。通常、非貫通孔は、光学素子あるいは要素の表面を注目しても肉眼には見えない。
【0023】
非貫通孔の中心から非貫通孔の中心、すなわち2つの隣接しおよび/または近接している非貫通孔の間隔(ピッチ)は、第2層の表面に応じて、好ましくは20μm〜1mm、特に好ましくは30μm〜0.5mmの範囲である。非貫通孔は、第2層の表面の好ましくは30%未満、特に好ましくは10%未満を占める。言い換えると、非貫通孔あるいは溝の密度および/または被覆率は、通常は1平方センチメートルにつき100〜250,000の範囲、特に好ましくは1平方センチメートルにつき400〜100,000の範囲である。
【0024】
これらの非貫通孔を第2層および吸水層の少なくとも一部に導入する方法は、いかなる特別な制約をも受けない。しかしながら、光学素子あるいは要素の表面に対して本質的に垂直となるように、非貫通孔を導入しおよび/または設けることが好ましい。
【0025】
好ましくは眼鏡レンズである本発明の光学素子および/または要素のためのガラス基板は、合成樹脂材料あるいは無機材料から製造することができる。例えばポリチオウレタン、PMMA、ポリカーボネート、ポリアクリレート、あるいはポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR39(登録商標))から製造された処理あるいは未処理の合成樹脂ガラス、または処理あるいは未処理の無機ガラスを、ガラス基板として用いることができる。
【0026】
本発明の一実施形態においては、前述した非貫通孔が貫通しない硬質層を、ガラス基板と吸水層との間に設けることができる。すなわち、非貫通孔は硬質層に触れないままである。本発明の他の実施形態において、硬質層は、吸水層と反射防止コーティングあるいはミラーコーティングとの間に設けることができる。本発明の光学素子あるいは要素の層構造の好ましい配置は、ガラス基板/硬質層/吸水層/反射防止コーティング、および/またはガラス基板/吸水層/硬質層/反射防止コーティング、および/またはガラス基板/硬質層/吸水層/硬質層/反射防止コーティングである。
【0027】
硬質層は、上述したように、吸水性の第1層の上に直接的に配設される第2層として設けることができるが、いかなる特別な制約をも受けない。硬質層は、単一層あるいは多層構造とすることができる。この硬質層を製造するために、様々な材料および方法を用いることができる。当業者は、硬質層のための適切な材料および硬質層の厚さを適切な方法で選択することができる。通常、硬質層は、プラズマ強化蒸着技術あるいはCVD法によって、硬質フィルム、あるいは特に石英をベースとした無機材料の形態で付加される。硬質層は、通常、ディップ法、スプレー法、あるいはスピンコーティング法のような従来の方法によって付加される。しかしながら、アクリルポリマー、ウレタンポリマー、メラミンポリマー、シリコン樹脂、あるいは特に石英ベースの無機材料の硬質層を用いることが好ましい。特に好ましい実施形態においては、例えばシロキサンを出発原料とするシリコン樹脂が、光学素子および/または要素の表面上の硬質層として付加される。この場合、硬質層は、吸水性ポリマー層の上に完全にあるいはある領域に配置される。
【0028】
適切なシリコン樹脂は、以下の成分の1つもしくは複数を含む組成を有する。(1)グリシドキシプロピルトリメトキシシランのような、官能基を有しあるいは有しない有機シロキサン化合物、(2)有機エポキシド、アミン、有機酸、有機無水物、イミン、アミド、ケタミン、アクリル化合物およびイソシアネートのような、機能性オルガノシラン官能基のための共反応体(co-reactant)、(3)好ましくは約1〜約100nm、特に好ましくは約5nm〜約40nmの範囲の平均粒径を呈する、コロイド状の二酸化ケイ素、ブラインおよび/または金属および非金属酸化物のブライン、(4)ジブチルスズジラウレート、ナフテン酸亜鉛、アルミニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムオクタン酸エステル、2−エチルヘキソエート鉛、アルミニウムアルコキシドおよびアルミニウムアルコキシド有機シリコン誘導体、アセチルアセトナトチタンのようなシラノール縮合のための触媒、(5)エポキシ触媒およびフリーラジカルタイプの触媒のような、共反応体(co-reactant)のための触媒、(6)水、アルコール類、およびケトンのような溶剤、(7)フッ化界面活性剤のような界面活性剤、あるいはポリジメチルシロキサンタイプの界面活性剤、(8)充填剤のような他の添加物。そのような材料は、例えば欧州特許公報EP0871907B1号に記載されている([0023]〜[0026]段落を参照)。
【0029】
硬質層の厚さは、原則としていかなる特別な制約も受けない。しかしながら、それは、好ましくは20μm以下、より好ましくは1〜15μm、特に好ましくは1〜5μmの厚さに設定される。
【0030】
さらにまた、(i)反射防止コーティング、ミラーコーティングあるいは硬質層、(ii)硬質層および反射防止コーティングの複合体あるいは組合せ、(iii)硬質層およびミラーコーティングの複合体および/または組合せより選択される第2層に、疎水性および/または疎油性の層を付加することができる。この場合、本発明によると、均一な疎水性および/または疎油性の層には、先に定義した非貫通孔が穿設される。適切な疎水性および/または疎油性の層は、当業者に公知であり、シランベースの材料のように、疎水性および/または疎油性の特性を有するとともに十分に良好な接着性を有した層である限り、原則としていかなる特別な制約も受けない。
【0031】
疎水性および/または疎油性の層は、好ましくは20以上の炭素原子を有する、少なくとも一つのフッ素を含む基を有したシランから成る。しかしながら、この層はまた、好ましくは少なくとも一つのフッ素を含有する基を含む、相当のシロキサンあるいはシラザンから製造することもできる。少なくとも一つのフッ素を含有する基を有したシランは、少なくとも一つの加水分解基を有したシランをベースとする。適切な加水分解基は、いかなる特別な制約も受けず、かつ当業者には公知である。ケイ素原子に結合している加水分解基の例は、塩素のようなハロゲン原子、−N(CH32あるいは−N(C252のような−Nアルキル基、アルコキシ基、あるいはイソシアネート基である。しかしながら、少なくとも一つの水酸基を有している、少なくとも一つのフッ素を含む基を有したシランを用いることもまた可能である。少なくとも一つのフッ素を含む基を有したシランは、好ましくは1つもしくは複数のポリフッ化基あるいは1つもしくは複数のパーフルオロ基から構成されるが、1つもしくは複数のポリフッ化あるいはパーフルオロ化アルキル基、1つもしくは複数のポリフッ化あるいはパーフルオロ化アルケニル基、および/または1つもしくは複数のポリフッ化あるいはパーフルオロ化ポリエーテルユニットを含む基が特に好ましい。好ましいポリエーテルユニットを含む基は、1つもしくは複数の−(CF2XOユニットから構成されるが、ここでx=1〜10であり、特にx=2〜3が好ましい。
【0032】
本発明の好ましい実施形態によると、シランはフッ素を含む基および3つの加水分解基あるいは水酸基を有する。さらにまた、疎水性および/または疎油性の層は、ポリフッ化あるいはパーフルオロ化炭化水素化合物から作ることが好ましい。ポリフッ化あるいはパーフルオロ化炭化水素化合物は、いかなる重要な制約も受けない。しかしながら、ポリフッ化あるいはパーフルオロ化炭化水素化合物として、ポリテトラフルオロエチレンを用いることが好ましい。疎水性および/または疎油性の層は、好ましくは、少なくとも一つのフッ素またはポリフッ化あるいはパーフルオロ化炭化水素化合物を含む基を有したシランから専ら作られる。しかしながら、1つもしくは複数のこれらのシランおよび/または1つもしくは複数のポリフッ化あるいはパーフルオロ化炭化水素化合物の混合物を用いることも可能である。疎水性および/または疎油性の層は、従来の方法によって付加することができる。この場合、蒸着、化学蒸着(CVD)法、あるいはディップ法によってこの層を付加することが好ましい。
【0033】
疎水性および/または疎油性の層の厚さは、原則としていかなる特別な制約も受けない。しかしながら、それは50nm以下、好ましくは20nm以下に設定される。
【0034】
本発明の光学素子および/または要素において、個々の層を作るために用いる材料の硬度は、通常は、以下の順序で増加するように選択される。
吸水層のための材料 < シリコン被層 < 真空法で作られるカバー層
【0035】
図1が表している本発明の眼鏡レンズの一実施形態は、ガラス基板(1)、(選択的な層としての)硬質層(2)、吸水層(3)、および反射防止コーティング(4)を有している。反射防止コーティング(4)および吸水層(3)が有している非貫通孔(5)は、反射防止コーティング(4)から出現して図1に示されている矢印の方向に形成され、反射防止コーティング(4)を完全に貫通し、吸水層(3)を少なくとも部分的に貫通して吸水層(3)の内側で終端する。
【0036】
図2が表している本発明の眼鏡レンズの他の実施形態は、ガラス製基板(1)、(選択的な層としての)硬質層(2)、吸水層(3)、追加の硬質層(2a)および反射防止コーティング(4)を有している。反射防止コーティング(4)、追加の硬質層(2a)および吸水層(3)に設けられた非貫通孔(5)は、反射防止コーティング(4)から出現して図2に示されている矢印の方向に形成され、反射防止コーティング(4)および硬質層(2a)を完全に貫通し、吸水層(3)を少なくとも部分的に貫通してこの吸水層(3)内に終端している。
【0037】
図3が表している本発明の眼鏡レンズの他の実施形態は、ガラス基板(1)、吸水層(3)を補償する層(2b)、および反射防止コーティングおよび1つ若しくは複数の固い酸化被層から作られた硬質カバー層(4)を有している。硬質カバー層(4)、補償層(2b)および吸水層(3)に設けられた非貫通孔あるいは溝(5)は、硬質カバー層(4)から出現して図3に示されている矢印の方向に形成され、硬質カバー層(4)および補償層(2b)を完全に貫通し、吸水層(3)を少なくとも部分的に貫通し、かつ吸水層(3)の内側に終端している。
【0038】
図4は、格子状に互いに間隔を開けてほぼ20〜50μmの隙間で配置されるように設けられた点状の非貫通孔を有している、本発明の眼鏡レンズのサンプル表面の光学顕微鏡像を表している。
【0039】
さらにまた、本発明は、光学素子および/または要素、好ましくは眼鏡レンズの製造を意図した方法を提供する。この方法は、以下の順序の各ステップを含む。(a)ガラス基板を提供するステップ、(b)吸水層を付加するステップ、(c)(i)反射防止コーティング、ミラーコーティングあるいは硬質層、(ii)硬質層および反射防止コーティングの複合体および/または組合せ、(iii)硬質層およびミラーコーティングの複合体および/または組合せ、のいずれかより選択される第2層を付加するステップ、(d)第2層を完全に貫通するとともに少なくとも部分的に吸水層を貫通するように、第2層から出現して第2層および吸水層に至る、非貫通孔あるいは溝を形成するステップ。
【0040】
第2層および吸水層に非貫通孔を形成するこの方法は、いかなる特別な制約も受けない。しかしながら、レーザー照射、サンドブラスト処理、電子線リソグラフィ、イオンビームプロセス、超音波照射、あるいはウォータージェットによって、第2層から出現して第2層および少なくとも部分的に吸水層に至る非貫通孔を導入することが好ましい。例えば第2層は、領域毎にあるいは箇所毎に吸水層を露出させるために、前述した方法のうちの一つによって領域毎にあるいは箇所毎にその表面を穿孔しおよび/または孔を開けることができる。非貫通孔あるいは溝は、吸水効果を保証するために、吸水層の少なくともある場所に形成される。しかしながら、吸水層の全体に穿孔する必要はない。
【0041】
好ましくは、非貫通孔は、本質的に光学素子および/または要素の表面に対して垂直となるように形成されおよび/または設けられる。しかしながら、最も外側の層の上に配置される、例えば反射防止コーティング、ミラーコーティング、あるいは選択的な疎水性および/または疎油性の層といった最も外側の層から出発する、ガラス表面に対して直角な線からそれる角度でそのような非貫通孔を形成することも可能である。
【0042】
以下の実施例は、本発明をこれらの実施例に限定することなしに、本発明を詳細に説明するために提示される。
【実施例】
【0043】
実施例1
プラスチックレンズは、ディップ法によって硬化シリコンフィルムが被覆され、次いで防曇性を有した5μmの厚い吸水性のポリマー層が被覆される(例えばAF-100TM、Sci Cron Technologies、あるいはCrystal Coat AF 1140、SDC Technology Inc.)。反射防止コーティングは、プラズマイオン蒸着法を用いてこの表面上に配設される。この反射防止コーティングは、例えば、SiO2/TiO2の4つの層から構成され、その全体的な厚みは250μmである。イオンを介した圧縮によって層を高密度化する製造条件により、この層は高い耐摩耗性を有するとともにその空隙率は概ね20%未満となる。フェムト秒レーザー(波長:800nm、パルス幅:120fs)により、直径が2μm以下の非貫通孔が20μm〜200μmの範囲の間隔でこの表面に導入される(図1および図2を参照)。この場合、これらの非貫通孔は目には見えないが、吸水層(曇り止め層)の内側で数ミクロンの深さで終端する(図1を参照)。このようにして作られるこの表面の本来の表面は、非貫通孔が表面の5%未満を占めるだけなので、少しの悪影響をも有さない。防曇性試験において、サンプルは曇らないままであった。作り出された非貫通孔を通って凝縮水が内側に通過し、吸水性の曇り止め層に吸収されるからである。防曇性試験は、ドイツ工業規格 EN168:2001、セクション16「透明パネルの防曇性試験」に従って実行された。
【0044】
実施例2
プラスチックレンズを、硬化シリコンフィルム(厚み:3〜12μm)で被覆し、次いで真空法によって硬質反射防止コーティングシステム(厚み:180〜1,500nm)で被覆した。フェムト秒レーザーを用いて、直径が1μm未満の非貫通孔を少なくとも約20μmの間隔で、ガラス表面に対して垂直となるように、反射防止コーティングの側から出発して、それらの非貫通孔が目には見えないように製造した。そして、表面が露点温度を下回ると、凝縮水は毛細管効果によって非貫通孔に取り込まれる。サンプルは、非貫通孔が完全に水で充満しない限り曇らないままであった。
【0045】
実施例3
プラスチックレンズを、硬化シリコンフィルムで被覆し、次いで吸水層としての曇り止めフィルム(実施例1に記載)で被覆し、再び硬化シリコンフィルムで被覆した。真空法によって反射防止コーティングシステムをこの表面に付加した。吸水性ポリマーと反射防止コーティングとの間のシリコンフィルム層は、非常に柔らかい曇り止め材料から非常に硬質の反射防止コーティングに至る機械的な性質を生じさせるとともに、接着を促進するために役割を果たす。非貫通孔あるいは溝を、吸水性ポリマーの内側で終端するような方法で導入した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の眼鏡レンズの一実施形態を示す図。
【図2】本発明の眼鏡レンズの他の実施形態を示す図。
【図3】本発明の眼鏡レンズの他の実施形態を示す図。
【図4】本発明の眼鏡レンズのサンプル表面の光学顕微鏡像を表す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板と、
吸水性の第1層と、
(i)反射防止コーティング、ミラーコーティングあるいは硬質層、(ii)硬質層および反射防止コーティングの複合体あるいは組合せ、(iii)硬質層およびミラーコーティングの複合体および/または組合せ、のいずれかより選択される第2層と、
をこの順番で備え、
前記第2層および前記吸水性の第1層に非貫通孔が形成され、
前記非貫通孔は、前記第2層から出現して前記第2層を完全に貫通するとともに前記吸水性の第1層を少なくとも部分的に貫通していることを特徴とする光学素子あるいは要素。
【請求項2】
前記非貫通孔は、0.1μm〜10μmの範囲の直径を有していることを特徴とする請求項1に記載した光学素子あるいは要素。
【請求項3】
前記非貫通孔は、前記第2層の表面において20μm〜1mmの間隔を有していることを特徴とする請求項1あるいは2に記載した光学素子あるいは要素。
【請求項4】
前記非貫通孔は、前記第2層の表面の30%未満を占めていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載した光学素子あるいは要素。
【請求項5】
前記非貫通孔が、前記表面に対して本質的に垂直に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載した光学素子あるいは要素。
【請求項6】
前記ガラス基板と前記吸水層との間、および/または前記吸水層と前記反射防止コーティングもしくはミラーコーティングとの間に、第2層としての硬質層がさらに設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載した光学素子あるいは要素。
【請求項7】
ガラス基板/硬質層/吸水層/反射防止コーティング、
および/またはガラス基板/吸水層/硬質層/反射防止コーティング、
および/またはガラス基板/硬質層/吸水層/硬質層/反射防止コーティング、
の配置構造を有していることを特徴とする請求項6に記載した光学素子あるいは要素。
【請求項8】
疎水性および/または疎油性の層が前記第2層の上にさらに配置されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載した光学素子あるいは要素。
【請求項9】
前記吸水層が吸水性のポリマー層であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載した光学素子あるいは要素。
【請求項10】
前記ガラス基板が、合成樹脂材料あるいは無機物から作られていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載した光学素子あるいは要素。
【請求項11】
光学素子あるいは要素を製造するための方法であって、以下の順序の各ステップを備えることを特徴とする方法において、
(a)ガラス基板を提供するステップと、
(b)吸水層を付加するステップと、
(c)(i)反射防止コーティング、ミラーコーティングあるいは硬質層、(ii)硬質層および反射防止コーティングの複合体あるいは組合せ、(iii)硬質層およびミラーコーティングの複合体および/または組合せ、のいずれかより選択される第2層を付加するステップと、
(d)前記第2層を完全に貫通するように、かつ前記吸水層を少なくとも部分的に貫通するように、前記第2層および前記吸水層の所定の場所に非貫通孔あるいは溝を形成するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項12】
前記ガラス基板と前記吸水層の間、および/または前記吸水層と前記反射防止コーティングあるいは前記ミラーコーティングとの間に、硬質層がさらに設けられていることを特徴とする請求項11に記載した方法。
【請求項13】
疎水性および/または疎油性の層が前記第2層にさらに付加されていることを特徴とする請求項11あるいは12に記載した方法。
【請求項14】
前記非貫通孔を、レーザー照射、サンドブラスト処理、電子線リソグラフィ、イオンビーム処理、超音波照射、あるいはウォータージェットによって、前記第2層および選択的に先に定義した疎水性および/または疎油性の層に、かつ前記吸水層に少なくとも部分的に、それぞれ形成することを特徴とする請求項11乃至13のいずれか一項に記載した方法。
【請求項15】
前記非貫通孔を、前記表面に対して本質的に垂直に設けることを特徴とする請求項11乃至14のいずれか一項に記載した方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−527780(P2009−527780A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555660(P2008−555660)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001013
【国際公開番号】WO2007/098843
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(503279013)ローデンストック.ゲゼルシャフト.ミット.ベシュレンクテル.ハフツング (34)
【出願人】(594102418)フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ (63)
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer−Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D−80686 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】