説明

防曇性カバー、及び該防曇性カバーを用いたメーター用カバー

【課題】高い親水性を有し、高温多湿環境における耐久性にも優れる防曇性カバー、とくにメーター用防曇性カバーを提供すること。
【解決手段】基材の少なくとも片面上に親水性組成物をコーティングした防曇性カバーであり、該コーティング層表面は、30℃の水に500時間浸漬させる前及び浸漬させた後のいずれも水に対する接触角が15°以下であり、かつ中心線平均粗さRaが1.0nm〜5.0nmであることを特徴とする防曇性カバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とくにメーター用カバーとして有用な該防曇性カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、二輪車、農業機械、重建設機械、船舶、工場装置、あるいはガス、水道、電気などのユティリティー施設等には各種メーターが付設されており、メーターには表示部保護等のため、透明もしくは半透明なガラスあるいは樹脂等からなるカバーがなされているのが普通である。しかし、メーターカバーは、しばしば温度や湿度条件の変化により水分が析出して曇ったり、汚れにより透明性が低下したりして、メーター表示の視認性が低下し、時には視認が困難となる。更に、農業機械、重建設機械、工場装置、ユティリティー施設等の屋外に露出されるメーターでは、日光、風雨ばかりでなく塵埃にも曝される過酷な環境下にあり、降雨前の湿度飽和状態から雨が降りメーターカバーのパネル表面が冷却されると、パネル内部に水滴が生成してメーターの視認性を著しく低下させるともに、この水滴が蒸発して消失した後にも水中残渣がパネル内面に付着する。そして、この残渣が経時的にその付着量を増して視認性の低下とともに、美観を損ねる原因にもなっていた。
【0003】
そこで、従来より、温度や湿度条件の変化による曇りを抑制するためにメーターカバーを防曇処理することが提案されている。従来提案されているメーターカバーの防曇処理の多くは、合成樹脂系防曇剤で表面を被覆することである。しかし、合成樹脂系防曇剤は化学的かつ熱的に安定性が十分でなく、経時劣化を起こしたり、使用温度条件を制限される場合がある。また、防曇性の持続も十分とは言えず、更には、それ自体が汚れとなってメーターの視認性を低下させる原因にもなっていた。従って、この合成樹脂系防曇剤は、特に上記したような屋外に露出して付設されるメーターの防曇処理剤として十分とは言えない。
【0004】
また、上記した合成樹脂系防曇剤に代わり、近年、酸化チタンに代表される光触媒を含む皮膜を施したメーターカバーも開発されている。この光触媒は、光(紫外線)の照射により価電子帯中の電子が励起されて正孔あるいは伝導電子を生成し、皮膜の表面に極性を付与して親水性を発現させる。そして、この光触媒の作用により、メーターカバーには、水との接触角として10°以下という高い親水性が付与され、水滴の付着が極めて効果的に防止される。また、一度付与された親水性は、室内のような微弱照明下、更には暗所においても長期にわたり良好に維持されるという利点も備えている。このような光触媒皮膜に関して、例えば特開平9−57912号公報、特開平9−59041号公報、特開平9−59042号公報、特開平9−227160号公報、特開平9−224793号公報等を参照することができる。
【0005】
例えば特許文献1には、ポリビニルアルコールと、メチルビニルエーテル/無水マイレン酸コポリマと、水とを主成分とすることを特徴とする防曇剤が開示されている。
特許文献2には、水酸基を有する有機物と、金属有機化合物と、これらを加熱処理することにより縮合重合してなることを特徴とする防曇剤が開示されている。
特許文献3には、樹脂基板上に、結晶酸化チタン微粉末が無定形酸化チタンからなるバインダで結着された光触媒皮膜を形成したことを特徴とする防曇・防汚性メーターカバーが開示されている。
特許文献4には、特定の親水性ポリマー、及び、Si、Ti、Zr、Alから選択される元素のアルコキシド化合物を含有する親水性組成物が開示されている。
しかしながら、特許文献1、2の技術はポリビニルアルコ−ルを用いた防曇剤であるが、十分な親水性が得られなかったり、結露した水によりポリマーが溶け出し親水性持続性においても満足のゆくものではなかった。
特許文献3の技術では、光(紫外線)の当たらない夜間においては十分な効果が得られなかった。また、車両を夜間駐車し、早朝、夜露で結露し視認性が低下してしまう欠点もあった。
上記課題を達成するために、ゾルゲル有機無機ハイブリッド膜の特性に着眼し、親水性ポリマーとアルコキシドとを加水分解、縮重合することにより架橋構造を備えた親水性表面が優れた防曇性、防汚性を示し、且つ、良好な耐摩耗性を有することが見出されている(特許文献4参照)。しかしながら、高温多湿な環境下における耐久性に関して、さらなる改良が求められている。
【特許文献1】特開平9−235544号公報
【特許文献2】特開平10−212471号公報
【特許文献3】特開平11−189109号公報
【特許文献4】特開2007−138105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い親水性を有し、高温多湿環境における耐久性にも優れる防曇性カバー、とくにメーター用防曇性カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は下記手段によって解決された。
1. 基材の少なくとも片面上に親水性組成物をコーティングした防曇性カバーであり、該コーティング層表面は、30℃の水に500時間浸漬させる前及び浸漬させた後のいずれも水に対する接触角が15°以下であり、かつ中心線平均粗さRaが1.0nm〜5.0nmであることを特徴とする防曇性カバー。
2. 30℃の水に500時間浸漬させる前及び浸漬させた後のいずれも水に対する接触角が10°以下であることを特徴とする上記1に記載の防曇性カバー。
3. 前記基材がガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂のいずれかからなることを特徴とする上記1または2に記載の防曇性カバー。
4. 前記コーティング層の屈折率と基材の屈折率との差が、コーティング層の屈折率の0.5%〜30.0%であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の防曇性カバー。
5. 前記親水性組成物が、分子内にアルコキシシリル基を有するポリマーを含有することを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の防曇性カバー。
6. 前記分子内にアルコキシシリル基を有するポリマーが下記一般式(II)で表される構造を有することを特徴とする上記5に記載の防曇性カバー。
【0008】
【化1】

【0009】
一般式(II)中、R3、R4、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基を表し、Xは下記一般式(a)で表される基を表し、L2およびL3はそれぞれ独立に単結合または連結基を表し、Yは−NHCOR、−NHCO2R、−NHCONR2、−CONH2、−NR2、−CONR2、−OCONR2、−COR、−OH、−OR、−CO2M、−CO2R、−SO3M、−OSO3M、−SO2R、−NHSO2R、−SO2NR2、−PO3M、−OPO3M、−(CHCHO)H、−(CHCHO)CHまたは−NR31を表し、ここで、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、複数存在する場合は互いに同一でも異なっていてもよく、Mは水素原子、アルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはオニウムを表し、nは整数を表し、Z1はハロゲンイオンを表す。
一般式(a): −Si(R102a(OR1013-a
(一般式(a)中、R101は水素原子またはアルキル基を表し、R102は水素原子またはアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれる1価の炭化水素基を表し、aは0〜2の整数を表す。R101またはR102は複数存在する場合は互いに同一でも異なっていてもよい。)
7. 前記親水性組成物がSi、Ti、Zr、Alから選択されるいずれかの元素のアルコキシド化合物を含有することを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載の防曇性カバー。
8. 前記コーティング層表面は、30℃の水に500時間浸漬させる前及び浸漬させた後のいずれも水に対する接触角が5°以上15°以下であることを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載の防曇性カバー。
9. 上記1〜8のいずれかに記載の防曇性カバーをメーターに用いることを特徴とするメーター用カバー。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防曇性カバーは、30℃の水に500時間浸漬させる前および浸漬させた後のいずれであっても水の接触角が15°以下であり、従来にない高い親水性を有する。このため、該防曇性カバーをメーター用カバーとして用いた場合、温度や湿度条件の変化により凝縮した水が水滴として付着しても水滴が瞬時に濡れ広がるので曇ることがなく、視認性に優れる。更には従来技術より薄層で親水性を発揮することができるために、基材そのものの透明度を損なうことがない効果もある。また長期間、水に浸漬させた後でも水の接触角が15°以下であり、高い親水性を長期間維持することができ、耐久性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の防曇性カバーは、基材の少なくとも片面上に親水性組成物をコーティングしてなる。
好ましくは、親水性組成物は、親水性ポリマー鎖を有し、且つ、Si、Ti、Zr、Alから選択される元素のアルコキシド(金属アルコキシドともいう)を加水分解、重縮合して形成された架橋構造を有するコーティング(親水性被膜、親水性層または親水層ともいう)を形成させるものであるが、このような架橋構造を有する親水性層は、後に詳述する金属アルコキシド化合物と、親水性グラフト鎖を形成しうる親水性の官能基を有する化合物と、適切な触媒とを用いて、適宜、形成することができる。金属アルコキシドのなかでも、反応性、入手の容易性からSiのアルコキシドが好ましく、具体的には、シランカップリング剤に用いる化合物を好適に使用することができる。
【0012】
前記したような金属アルコキシドの加水分解、縮重合により形成された架橋構造を、本発明では以下、適宜、ゾルゲル架橋構造と称する。以下に、この好ましい態様である親水性層を形成するための親水性塗布液組成物に含まれる各成分について説明する。
【0013】
〔親水性ポリマー〕
親水性ポリマーの主鎖構造は特に限定されない。好ましい主鎖構造としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴム等が挙げられ、特にアクリル樹脂、メタクリル樹脂が好ましい。親水性ポリマーは共重合体であってもよい。
【0014】
親水性基としては、好ましくはカルボキシル基、カルボキシル基のアルカリ金属塩、スルホン酸基、スルホン酸基のアルカリ金属塩、ヒドロキシ基、アミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、スルファモイル基等の官能基が挙げられる。これらの基は、ポリマー中のどの位置に存在しても良い。ポリマー主鎖より直接、または連結基を介し結合しているか、ポリマー側鎖やグラフト側鎖中に結合しており、複数個が存在するポリマー構造が好ましい。
【0015】
また、本発明に使用される親水性ポリマーは、好ましくは金属アルコキシドと、触媒の作用等により結合を生じる基を有するポリマーであるのがよい。金属アルコキシド化合物と、触媒の作用により結合を生じる基としては、アルコキシシリル基、カルボキシル基、カルボキシ基のアルカリ金属塩、無水カルボン酸基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、メチロール基、メルカプト基、イソシアナート基、ブロックイソシアナート基、アルコキシチタネート基、アルコキシアルミネート基、アルコキシジルコネート基、エチレン性不飽和基、エステル基、テトラゾール基などの反応性基が挙げられる。
【0016】
また親水性基、および金属アルコキシド化合物と触媒の作用等により結合を生じる基を有するポリマー構造としては、エチレン性不飽和基(例えばアクリレート基、メタクリレート基、イタコン酸基、クロトン酸基、桂皮酸基、スチレン基、ビニル基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基など)がビニル重合したポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミック酸などのような縮重合したポリマー、ポリウレタンなどのような付加重合したポリマーの他、セルロース、アミロース、キトサンなどの天然物環状ポリマー構造を好ましく挙げることができる。好ましくは分子内に、加水分解性シリル基、とくにアルコキシシリル基を有するポリマーである。
【0017】
アルコキシシリル基などの加水分解性シリル基は、水と反応してシラノール(Si−OH)を生成する基であり、好ましくは下記一般式(a)で表される。
一般式(a): −Si(R102a(OR1013-a
一般式(a)中、R101は水素原子またはアルキル基、R102は水素原子またはアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基、aは0〜2の整数を示す。R101またはR102は複数存在する場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0018】
101がアルキル基を表す場合は、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基(すなわちOR101としてはメトキシ基、エトキシ基)などが好ましい。R102がアルキル基を表す場合は炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、ヘキシル基などが好ましく、アリール基を表す場合は炭素数6〜25のアリール基が好ましく、具体的にはフェニル基などが好ましく、アラルキル基を表す場合は炭素数7〜12のアラルキル基が好ましく、具体的にはスチリル基などが好ましい。
【0019】
アルコキシシリル基は、好ましくは炭素原子に結合したアルコキシシリル基である。
アルコキシシリル基は、ポリマー主鎖の末端に一つまたは複数有する場合や、側鎖に一つまたは複数有する場合などがある。2以上のアルコキシシリル基を含む場合、該2以上のアルコキシシリル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0020】
アルコキシシリル基は、後述するSi、Ti、Zr、Alから選択される元素を含むアルコキシド(金属アルコキシドともいう)の加水分解、重縮合物に反応して化学結合を形成できる。また、アルコキシシリル基同士が化学結合を形成してもよい。親水性ポリマーは、水溶性であることが好ましく、金属アルコキシドの加水分解、重縮合物と反応することにより水不溶性になることが好ましい。この場合の化学結合は、通常の意味と同様に、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合を含む。該化学結合は、共有結合であることが好ましい。
【0021】
親水性基を含む繰り返し単位とアルコキシシリル基との間や、親水性基を含む繰り返し単位と主鎖との間に連結基が介在していることが好ましい。
【0022】
親水性ポリマーは、下記一般式(I)または下記一般式(II)で表される構造を含む親水性ポリマーであることが好ましい。
【0023】
【化2】

【0024】
一般式(I)および(II)中、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基を表し、Xは上記一般式(a)で表される基を表し、A、L1、L2、およびL3は、それぞれ独立に単結合または連結基を示し、Yは−NHCOR、−CONH2、−NR2、−CONR2、−COR、−OH、−CO2M、−SO3M、−PO3M、−OPO3M、−(CHCHO)H、−(CHCHO)CHまたはNR31を表し、ここで、Rはアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、複数存在する場合は互いに同一でも異なっていてもよく、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはオニウムを表し、nは整数を表し、Z1はハロゲンイオンを表す。
【0025】
一分子当たりの加水分解性シリル基を数多く導入することができることから、一般式(II)で表される構造を含む親水性ポリマーが特に好ましい。
【0026】
(一般式(I)で表される構造を有する親水性ポリマー)
一般式(I)で表される構造を有する親水性ポリマーは、例えば、連鎖移動剤(ラジカル重合ハンドブック(エヌ・ティー・エス、蒲池幹治、遠藤剛)に記載)やIniferter(Macromolecules1986,19,p287−(Otsu)に記載)の存在下に、親水性モノマー(例、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸3−スルホプロピルのカリウム塩)をラジカル重合させることにより合成できる。連鎖移動剤の例は、3−メルカプトプロピオン酸、2−アミノエタンチオール塩酸塩、3−メルカプトプロパノール、2−ヒドロキシエチルジスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを含む。また、連鎖移動剤を使用せず、反応性基を有するラジカル重合開始剤を用いて、親水性モノマー(例、アクリルアミド)をラジカル重合させてもよい。
【0027】
一般式(I)で表される構造を有する親水性ポリマーは、末端に反応性基を有する親水性ポリマーである。上記一般式(I)において、R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子または炭化水素基を表す。炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられ、炭素原子数1〜8の直鎖、分岐または環状のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。R1、R2は、効果および入手容易性の観点から、好ましくは水素原子、メチル基またはエチル基である。
【0028】
これらの炭化水素基は更に置換基を有していてもよい。アルキル基が置換基を有するとき、置換アルキル基は置換基とアルキレン基との結合により構成され、ここで、置換基としては、水素を除く一価の非金属原子団が用いられる。好ましい例としては、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、アシルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカバモイルオキシ基、アシルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、スルホ基、スルホナト基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基、ホスフォノ基、ホスフォナト基、ジアルキルホスフォノ基、ジアリールホスフォノ基、モノアルキルホスフォノ基、アルキルホスフォナト基、モノアリールホスフォノ基、アリールホスフォナト基、ホスフォノオキシ基、ホスフォナトオキシ基、アリール基、アルケニル基が挙げられる。
【0029】
一方、置換アルキル基におけるアルキレン基としては前述の炭素数1から8までのアルキル基上の水素原子のいずれか1つを除し、2価の有機残基としたものを挙げることができ、好ましくは炭素原子数1から12までの直鎖状、炭素原子数3から12までの分岐状ならびに炭素原子数5から10までの環状のアルキレン基を挙げることができる。該置換基とアルキレン基を組み合わせる事により得られる置換アルキル基の、好ましい具体例としては、ヒドロキシメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、2−クロロエチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシエチル基、アリルオキシメチル基、フェノキシメチル基、メチルチオメチルと、トリルチオメチル基、エチルアミノエチル基、ジエチルアミノプロピル基、モルホリノプロピル基、アセチルオキシメチル基、ベンゾイルオキシメチル基、N−シクロヘキシルカルバモイルオキシエチル基、N−フェニルカルバモイルオキシエチル基、アセチルアミノエチル基、N−メチルベンゾイルアミノプロピル基、2−オキシエチル基、2−オキシプロピル基、カルボキシプロピル基、メトキシカルボニルエチル基、アリルオキシカルボニルブチル基、
【0030】
クロロフェノキシカルボニルメチル基、カルバモイルメチル基、N−メチルカルバモイルエチル基、N,N−ジプロピルカルバモイルメチル基、N−(メトキシフェニル)カルバモイルエチル基、N−メチル−N−(スルホフェニル)カルバモイルメチル基、スルホブチル基、スルホナトブチル基、スルファモイルブチル基、N−エチルスルファモイルメチル基、N,N−ジプロピルスルファモイルプロピル基、N−トリルスルファモイルプロピル基、N−メチル−N−(ホスフォノフェニル)スルファモイルオクチル基、ホスフォノブチル基、ホスフォナトヘキシル基、ジエチルホスフォノブチル基、ジフェニルホスフォノプロピル基、メチルホスフォノブチル基、メチルホスフォナトブチル基、トリルホスフォノへキシル基、トリルホスフォナトヘキシル基、ホスフォノオキシプロピル基、ホスフォナトオキシブチル基、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基、1−メチル−1−フェニルエチル基、p−メチルベンジル基、シンナミル基、アリル基、1−プロペニルメチル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、2−メチルプロペニルメチル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基等を挙げることができる。
【0031】
親水性の観点から上記のなかでもヒドロキシメチル基が好ましい。
【0032】
AおよびL1は単結合または有機連結基を表す。ここで、AおよびL1が有機連結基を表す場合、AおよびL1は非金属原子からなる多価の連結基を表し、0個から60個までの炭素原子、0個から10個までの窒素原子、0個から50個までの酸素原子、0個から100個までの水素原子、および0個から20個までの硫黄原子から成り立つものである。具体的には、−N<、脂肪族基、芳香族基、複素環基、およびそれらの組合せから選ばれることが好ましく、−O−、−S−、−CO−、−NH−、あるいは、−O−または−S−または−CO−または−NH−を含む組合せで、2価の連結基であることが好ましい。
より具体的な連結基としては下記の構造単位またはこれらが組合わされて構成されるものを挙げることができる。
【0033】
【化3】

【0034】
AおよびL1は、より好ましくは、−CHCHCHS−、−CHS−、−CONHCH(CH)CH−、−CONH−、−CO−、−CO−、−CH−である。
【0035】
一般式(I)中、Yは−NHCOR、−CONH2、−N(R)2、−CON(R)2、−COR、−OH、−CO2M、−SO3M、−PO3M、−OPO3M、−(CHCHO)H、−(CHCHO)CHまたはN(R)31を表し、ここで、Rは、好ましくは炭素数1〜18の直鎖、分岐または環状のアルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、複数存在する場合は互いに同一でも異なっていてもよく、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはオニウムを表し、nは整数を表し、Z1はハロゲンイオンを表す。また、−CON(R)2のように複数のRを有する場合、R同士が結合して環を形成していてもよく、また、形成された環は酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を含むヘテロ環であってもよい。Rはさらに置換基を有していてもよく、ここで導入可能な置換基としては、前記R1、R2がアルキル基の場合に導入可能な置換基として挙げたものを同様に挙げることができる。
【0036】
Rとしては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が好適に挙げられる。また、Mとしては、水素原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、または、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウムなどのオニウムが挙げられる。
【0037】
Yとしては、具体的には、−NHCOCH3、−CONH2、−CON(CH2、−COOH、−SO3-NMe4+、−SO3-+、−(CHCHO)H、モルホリル基等が好ましい。より好ましくは、−NHCOCH3、−CONH2、−CON(CH2、−SO3-+、−(CHCHO)H、である。
【0038】
nは1〜100の整数を表すことが好ましい。
【0039】
一般式(I)で表される構造を有する親水性ポリマーは、下記一般式(i)で表されるラジカル重合可能なモノマーと、下記一般式(ii)で表されるラジカル重合において連鎖移動能を有するシランカップリング剤を用いてラジカル重合することにより合成することができる。シランカップリング剤(ii)が連鎖移動能を有するため、ラジカル重合においてポリマー主鎖末端にシランカップリング基が導入されたポリマーを合成することができる。
【0040】
【化4】

【0041】
上記式(i)および(ii)において、A、R1〜R2、L1、X、Yは、上記一般式(I)中のものと同義である。また、これらの化合物は、市販されており、また容易に合成することもできる。一般式(i)で表されるラジカル重合可能なモノマーは親水性基Yを有しており、このモノマーが親水性ポリマーにおける一構造単位となる。
【0042】
一般式(I)で表される構造を含む親水性ポリマーは、他のモノマーとの共重合体であってもよい。用いられる他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーも挙げられる。このようなモノマー類を共重合させることで、製膜性、膜強度、親水性、疎水性、溶解性、反応性、安定性等の諸物性を改善することができる。
【0043】
アクリル酸エステル類の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、(n−またはi−)プロピルアクリレート、(n−、i−、sec−またはt−)ブチルアクリレート、アミルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、クロロエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、アリルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、クロロベンジルアクリレート、ヒドロキシベンジルアクリレート、ヒドロキシフェネチルアクリレート、ジヒドロキシフェネチルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェニルアクリレート、ヒドロキシフェニルアクリレート、クロロフェニルアクリレート、スルファモイルフェニルアクリレート、2−(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチルアクリレート等が挙げられる。
【0044】
メタクリル酸エステル類の具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、(n−またはi−)プロピルメタクリレート、(n−、i−、sec−またはt−)ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、クロロエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシペンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルメタクリレート、クロロベンジルメタクリレート、ヒドロキシベンジルメタクリレート、ヒドロキシフェネチルメタクリレート、ジヒドロキシフェネチルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ヒドロキシフェニルメタクリレート、クロロフェニルメタクリレート、スルファモイルフェニルメタクリレート、2−(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。
【0045】
アクリルアミド類の具体例としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−トリルアクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)アクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)アクリルアミド、N−(トリルスルホニル)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチル−N−フェニルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0046】
メタクリルアミド類の具体例としては、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−ベンジルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−トリルメタクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)メタクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)メタクリルアミド、N−(トリルスルホニル)メタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチル−N−フェニルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0047】
ビニルエステル類の具体例としては、ビニルアセテート、ビニルブチレート、ビニルベンゾエート等が挙げられる。
スチレン類の具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、シクロヘキシルスチレン、クロロメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレン、メトキシスチレン、ジメトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ヨードスチレン、フルオロスチレン、カルボキシスチレン等が挙げられる。
【0048】
一般式(I)で表される構造を含む親水性ポリマーの質量平均分子量は、1,000〜1,000,000が好ましく、1,000〜500,000がさらに好ましく、1,000〜200,000が最も好ましい。
【0049】
本発明に好適に用い得る一般式(I)で表される構造を有する親水性ポリマーの具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
【化5】

【0051】
(一般式(II)で表される構造を有する親水性ポリマー)
前記一般式(II)において、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ独立に水素原子または炭化水素基を表し、具体的な例および好ましい範囲は上記一般式(I)のR1、R2と同様である。L2、L3は、それぞれ独立に単結合または連結基を表し、具体的な例および好ましい範囲は上記一般式(I)のL1と同様である。YおよびXの定義は一般式(I)中のものと同じであり、具体的な例および好ましい範囲も同様である。
【0052】
一般式(II)において、L3が単結合、または、−CONH−、−NHCONH−、−OCONH−、−SONH−および−SO−からなる群より選択される構造を1つ以上有する連結基であることが好ましい。
【0053】
一般式(II)で表される構造を有する親水性ポリマーを合成するための各化合物は、市販されており、また容易に合成することもできる。
一般式(II)で表される構造を有する親水性ポリマーを合成するためのラジカル重合法としては、従来公知の方法の何れをも使用することができる。
具体的には、一般的なラジカル重合法は、例えば、新高分子実験学3(1996年、共立出版)、高分子の合成と反応1(高分子学会編、1992年、共立出版)、新実験化学講座19(1978年、丸善)、高分子化学(I)(日本化学会編、1996年、丸善)、高分子合成化学(物質工学講座、1995年、東京電気大学出版局) 等に記載されており、これらを適用することができる。
【0054】
一般式(II)で表される構造を有する親水性ポリマーは、後述するように他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0055】
一般式(II)で表される構造を含むポリマーの質量平均分子量は、1,000〜1,000,000が好ましく、1,000〜500,000がさらに好ましく、1,000〜200,000が最も好ましい。
【0056】
一般式(II)で表される構造を含む親水性ポリマーの共重合比率は、Yを含有する構造単位のモル比(m2)とXを含有する構造単位のモル比(n2)が、m2/n2=30/70〜99/1の範囲が好ましく、m2/n2=40/60〜98/2がより好ましく、m2/n2=50/50〜97/3が最も好ましい。m2/n2が30/70以上であれば親水性が不足することなく、一方、m2/n2が99/1以下であれば、反応性基量が十分量となり、十分な硬化が得られ、膜強度も十分なものとなる。
共重合比の測定は、核磁気共鳴装置(NMR)や、標準物質で検量線を作成し、赤外分光光度計により測定することができる。
【0057】
以下に、一般式(II)で表される構造を有する親水性ポリマーの具体例をその質量平均分子量(M.W.)とともに以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下に示す具体例のポリマーは記載される各構造単位が記載のモル比で含まれるランダム共重合体であることを意味する。
【0058】
【化6】

【0059】
【化7】

【0060】
【化8】

【0061】
【化9】

【0062】
【化10】

【0063】
一般式(II)で表される構造を有する親水性ポリマーは、他のモノマーとの共重合体であってもよい。用いられる他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーも挙げられる。これらの具体例は前記したものと同様である。このようなモノマー類を共重合させることで、製膜性、膜強度、親水性、疎水性、溶解性、反応性、安定性等の諸物性を改善することができる。
【0064】
これらの他のモノマーの割合は、諸物性の改良に十分な量である必要があるが、親水性膜としての機能が十分であり、一般式(II)で表される構造が有する利点を十分得るために、割合は大きすぎないほうが好ましい。従って、親水性ポリマー中の上記他のモノマー由来の構造の総割合は80質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0065】
本発明における親水性組成物は、一般式(I)または(II)で表される構造を含む親水性ポリマーを単独または2種以上含有してもよい。
【0066】
上記以外の親水性ポリマーとしては−OHや−COOH、アミノ基などの極性基をもちポリアクリル酸類、ポリメタクリル酸類、ポリアクリルアミド類及びこれらのスルホン酸エステル類などが挙げられる。これらの具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0067】
【化11】

【0068】
【化12】

【0069】
【化13】

【0070】
本発明に係る親水性ポリマーは、本発明の親水性組成物の固形分(不揮発性成分)に対して、硬化性と親水性の観点から、20質量%〜100質量%の範囲で含有されることが好ましい。さらに好ましくは50質量%〜100質量%である。ここで、不揮発成分とは、揮発する溶媒を除いた成分をいう。
【0071】
親水性組成物が一般式(I)で表される構造を含む親水性ポリマーと、一般式(II)で表される構造を含む親水性ポリマーとを含有する場合の好ましい質量比率は、(一般式(I)で表される構造を含む親水性ポリマー/前記一般式(II)で表される構造を含む親水性ポリマー)が50/50〜5/95である。
【0072】
一般式(I)または(II)で表される構造を有する親水性ポリマーは、金属アルコキシドの加水分解、重縮合物と混合した状態で架橋皮膜を形成する。有機成分である親水性ポリマーは、皮膜強度や皮膜柔軟性に対して関与しており、特に、親水性ポリマーの5%水溶液の20℃で測定した粘度が0.1〜100mPa・s、好ましくは0.5〜70mPa・s、さらに好ましくは1〜50mPa・sの範囲にあると良好な膜物性を与える。粘度は、E型粘度計(商品名:RE80L、東京計器(株)製)で測定することができる。
【0073】
親水性ポリマーを合成する際に用いられる溶媒としてはテトラヒドロフラン、エチレンジクロリド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトニトリル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、2−メトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、トルエン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ジメチルスルホキシド、水等が挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上混合して用いられる。
親水性ポリマーを合成する際に用いられるラジカル重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤、レドックス系開始剤等公知の化合物が使用できる。
【0074】
〔Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物〕
本発明で用いられる金属アルコキシド化合物は、その構造中に加水分解して重縮合可能な官能基を有し、架橋剤としての機能を果たす加水分解重合性化合物であり、金属アルコキシド同士が重縮合することにより架橋構造を有する強固な架橋皮膜を形成し、さらに、前記親水性ポリマーとも化学結合する。金属アルコキシドは一般式(I−1)および一般式(I−2)で表すことができ、式中、Rは水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、Rはアルキル基又はアリール基を表し、ZはSi、Ti又はZrを表し、mは0〜2の整数を表す。R及びRがアルキル基を表す場合の炭素数は好ましくは1から4である。アルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、ハロゲン原子、アミノ基、メルカプト基などが挙げられる。なお、この化合物は低分子化合物であり、分子量2000以下であることが好ましい。
【0075】
(R−Z−(OR4−m (I−1)
Al−(OR (I−2)
【0076】
以下に、一般式(I−1)および一般式(I−2)で表される加水分解性化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。ZがSiの場合、即ち、加水分解性化合物中にケイ素を含むものとしては、例えば、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、等を挙げることができる。これらのうち特に好ましいものとしては、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、等を挙げることができる。
【0077】
ZがTiである場合、即ち、チタンを含むものとしては、例えば、トリメトキシチタネート、テトラメトキシチタネート、トリエトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシタネート、クロロトリメトキシチタネート、クロロトリエトキシチタネート、エチルトリメトキシチタネート、メチルトリエトキシチタネート、エチルトリエトキシチタネート、ジエチルジエトキシチタネート、フェニルトリメトキシチタネート、フェニルトリエトキシチタネート等を挙げることができる。
ZがZrである場合、即ち、ジルコニウムを含むものとしては、例えば、前記チタンを含むものとして例示した化合物に対応するジルコネートを挙げることができる。
また、中心金属がAlである場合、即ち、加水分解性化合物中にアルミニウムを含むものとしては、例えば、トリメトキシアルミネート、トリエトキシアルミネート、トリプロポキシアルミネート、トリイソプロポキシアルミネート等を挙げることができる。
Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物は親水性組成物中に、10〜80質量%含まれることが好ましく、20〜50質量%含まれることがさらに好ましい。
【0078】
〔触媒〕
本発明の親水性層の形成において使用できる金属錯体触媒は、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物の加水分解、重縮合を促進し、親水性ポリマーとの結合を生起することができる。特に好ましい金属錯体触媒としては、周期律表の2A,3B,4A及び5A族から選ばれる金属元素とβ−ジケトン、ケトエステル、ヒドロキシカルボン酸又はそのエステル、アミノアルコール、エノール性活性水素化合物の中から選ばれるオキソ又はヒドロキシ酸素含有化合物から構成される金属錯体である。
構成金属元素の中では、Mg,Ca,Sr,Baなどの2A族元素、Al,Gaなどの3B族元素,Ti,Zrなどの4A族元素及び,Nb及びTaなどの5A族元素が好ましく、それぞれ触媒効果の優れた錯体を形成する。その中でもZr、Al及びTiから得られる錯体が優れており、好ましい。
【0079】
上記金属錯体の配位子を構成するオキソ又はヒドロキシ酸素含有化合物は、本発明においては、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)、2,4−ヘプタンジオンなどのβジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチルなどのケトエステル類、乳酸、乳酸メチル、サリチル酸、サリチル酸エチル、サリチル酸フェニル、リンゴ酸,酒石酸、酒石酸メチルなどのヒドロキシカルボン酸及びそのエステル、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ヘプタノン、4−ヒドロキシ−2−ヘプタノンなどのケトアルコール類、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチル−モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミノアルコール類、メチロールメラミン、メチロール尿素、メチロールアクリルアミド、マロン酸ジエチルエステルなどのエノール性活性化合物、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)のメチル基、メチレン基またはカルボニル炭素に置換基を有する化合物が挙げられる。
【0080】
好ましい配位子はアセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体であり、アセチルアセトン誘導体は、本発明においては、アセチルアセトンのメチル基、メチレン基またはカルボニル炭素に置換基を有する化合物を指す。アセチルアセトンのメチル基に置換する置換基としては、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のアルキル基、アシル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基であり、アセチルアセトンのメチレン基に置換する置換基としてはカルボキシル基、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のカルボキシアルキル基及びヒドロキシアルキル基であり、アセチルアセトンのカルボニル炭素に置換する置換基としては炭素数が1〜3のアルキル基であってこの場合はカルボニル酸素には水素原子が付加して水酸基となる。
【0081】
好ましいアセチルアセトン誘導体の具体例としては、エチルカルボニルアセトン、n−プロピルカルボニルアセトン、i−プロピルカルボニルアセトン、ジアセチルアセトン、1―アセチル−1−プロピオニル−アセチルアセトン、ヒドロキシエチルカルボニルアセトン、ヒドロキシプロピルカルボニルアセトン、アセト酢酸、アセトプロピオン酸、ジアセト酢酸、3,3−ジアセトプロピオン酸、4,4−ジアセト酪酸、カルボキシエチルカルボニルアセトン、カルボキシプロピルカルボニルアセトン、ジアセトンアルコールが挙げられる。
【0082】
中でも、アセチルアセトン及びジアセチルアセトンがとくに好ましい。上記のアセチルアセトン誘導体と上記金属元素の錯体は、金属元素1個当たりにアセチルアセトン誘導体が1〜4分子配位する単核錯体であり、金属元素の配位可能の手がアセチルアセトン誘導体の配位可能結合手の数の総和よりも多い場合には、水分子、ハロゲンイオン、ニトロ基、アンモニオ基など通常の錯体に汎用される配位子が配位してもよい。
【0083】
好ましい金属錯体の例としては、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)アルミニウム・アコ錯塩、モノ(アセチルアセトナト)アルミニウム・クロロ錯塩、ジ(ジアセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、トリス(アセチルアセトナト)バリウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、トリス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリス(安息香酸)錯塩、等が挙げられる。これらは水系塗布液での安定性及び、加熱乾燥時のゾルゲル反応でのゲル化促進効果に優れているが、中でも、特にエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)が好ましい。
【0084】
上記した金属錯体の対塩の記載を本明細書においては省略しているが、対塩の種類は、錯体化合物としての電荷の中性を保つ水溶性塩である限り任意であり、例えば硝酸塩、ハロゲン酸塩、硫酸塩、燐酸塩などの化学量論的中性が確保される塩の形が用いられる。金属錯体のシリカゾルゲル反応での挙動については、J.Sol−Gel.Sci.and Tec.16.209(1999)に詳細な記載がある。反応メカニズムとしては以下のスキームを推定している。すなわち、塗布液中では、金属錯体は、配位構造を取って安定であり、塗布後の加熱乾燥過程に始まる脱水縮合反応では、酸触媒に似た機構で架橋を促進させるものと考えられる。いずれにしても、この金属錯体を用いたことにより塗布液経時安定性及び皮膜面質の改善と、高親水性、高耐久性の、いずれも満足させるに至った。
【0085】
また、上記の金属錯体触媒の他に、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物の加水分解、重縮合を促進し、親水性ポリマーとの結合を生起することができるものを併用してもよい。このような触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素または置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸などの酸性を示す化合物、あるいは、アンモニア水などのアンモニア性塩基、エチルアミンやアニリンなどのアミン類などの塩基性化合物が挙げられる。
上記の金属錯体触媒は、市販品として容易に入手でき、また公知の合成方法、例えば各金属塩化物とアルコールとの反応によっても得られる。
触媒の好ましい含有量は、親水性組成物の全固形分に対して1〜20質量%であり、更に好ましくは1〜10質量%である。
【0086】
〔抗菌剤〕
本発明のカバーに抗菌性、防カビ性、防藻性を付与するために、親水性塗布液組成物に抗菌剤を含有させることができる。親水性層の形成において、親水性、水溶性抗菌剤を含有させることが好ましい。親水性、水溶性抗菌剤を含有させることにより、表面親水性を損なうことなく抗菌性、防カビ性、防藻性に優れたカバーが得られる。
抗菌剤としては、カバーの親水性を低下させない化合物を添加することが好ましく、そのような抗菌剤としては、無機系抗菌剤または、水溶性の有機系抗菌剤が挙げられる。抗菌剤としては、黄色ブドウ球菌や大腸菌に代表される細菌類や、かび,酵母などの真菌類など、身の回りに存在する菌類に対して殺菌効果を発揮するものが用いられる。
【0087】
有機系の抗菌剤としては、フェノールエーテル誘導体,イミダゾール誘導体,スルホン誘導体,N・ハロアルキルチオ化合物,アニリド誘導体,ピロール誘導体,第4アンモニウム塩、ピリジン系、トリアジン系、ベンゾイソチアゾリン系、イソチアゾリン系などが挙げられる。
例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、N−フルオルジクロロメチルチオ−フタルイミド、2,3,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、N−トリクロロメチルチオ−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシイミド、8−キノリン酸銅、ビス(トリブチル錫)オキシド、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール〈以後、TBZと表示〉、2−ベンズイミダゾールカルバミン酸メチル〈以後、BCMと表示〉、10,10'−オキシビスフェノキシアルシン〈以後、OBPAと表示〉、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォン)ピリジン、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛〈以後、ZPTと表示〉、N,N−ジメチル−N'−(フルオロジクロロメチルチオ)−N’−フェニルスルファミド〈ジクロルフルアニド〉、ポリ−(ヘキサメチレンビグアニド)ハイドロクロライド、ジチオ−2−2'−ビス(ベンズメチルアミド)、2−メチル−4,5−トリメチレン−4−イソチアゾリン−3−オン、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、ヘキサヒドロ−1,3−トリス−(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン、p−クロロ−m−キシレノール、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
これら有機系の抗菌剤は、親水性、耐水性、昇華性、安全性等を考慮し、適宜選択して使用することができる。有機系抗菌剤中では、親水性、抗菌効果、コストの点から2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、TBZ、BCM、OBPA、ZPTが好ましい。
【0088】
無機系の抗菌剤としては、殺菌作用の高い順に、水銀,銀,銅,亜鉛,鉄,鉛,ビスマスなどが挙げられる。例えば、銀、銅、亜鉛、ニッケル等の金属や金属イオンをケイ酸塩系担体、リン酸塩系担体、酸化物、ガラスやチタン酸カリウム、アミノ酸等に担持させたものが挙げられる。たとえばゼオライト系抗菌剤、ケイ酸カルシウム系抗菌剤、リン酸ジルコニウム系抗菌剤、リン酸カルシウム抗菌剤、酸化亜鉛系抗菌剤、溶解性ガラス系抗菌剤、シリカゲル系抗菌剤、活性炭系抗菌剤、酸化チタン系抗菌剤、チタニア系抗菌剤、有機金属系抗菌剤、イオン交換体セラミックス系抗菌剤、層状リン酸塩−四級アンモニウム塩系抗菌剤、抗菌ステンレス等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0089】
天然系抗菌剤としては、カニやエビの甲殻等に含まれるキチンを加水分解して得られる塩基性多糖類のキトサンがある。
本発明には、アミノ酸の両側に金属を複合させたアミノメタルから成る日鉱の「商品名ホロンキラービースセラ」が好ましい。
これらは蒸散性ではなく、また、親水層のポリマーや架橋剤成分と相互作用しやすく、安定に分子分散あるいは固体分散可能であり、親水層表面に抗菌剤が効果的に露出しやすく、かつ、水がかかっても溶出することなく、効果を長期間持続させることができ、人体に影響を及ぼすこともない。また、親水層や塗布液に対して安定に分散することができ、親水層や塗布液の劣化もおこらない。
上記抗菌剤の中では、抗菌効果が大きいことから、銀系無機抗菌剤と水溶性有機抗菌剤が最も好ましい。特にケイ酸塩系担体であるゼオライトに銀を担持させた銀ゼオライトやシリカゲルに銀を担持させた抗菌剤や2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、TPN、TBZ、BCM、OBPA、ZPTが好ましい。特に好ましい市販の銀ゼオライト系抗菌剤としては、品川燃料の「ゼオミック」や富士シリシア化学の「シルウェル」や日本電子材料の「バクテノン」等がある。その他、銀を無機イオン交換体セラミックスに担持させた東亜合成の「ノバロン」や触媒化成工業の「アトミーボール」やトリアジン系抗菌剤の「サンアイバックP」(三愛石油製)も好ましい。
【0090】
抗菌剤の含有量は、一般的には0.001〜10質量%であるが、0.005〜5質量%が好ましく、0.01〜3質量%がより好ましく、0.02〜1.5質量%が特に好ましく、0.05〜1質量%が最も好ましい。含有量が0.001質量%以上であれば効果的な抗菌効果を得ることができる。また、含有量が10質量%以下であれば親水性も低下せず、かつ経時性も悪化せず、防汚性、防曇性に悪影響を及ぼさない。
【0091】
〔無機微粒子〕
本発明の親水性層は、親水性の向上や、皮膜のひび割れ防止、膜強度向上のために、無機微粒子を含有してもよい。無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウムまたはこれらの混合物が好適に挙げられる。
無機微粒子は、平均粒径が5nm〜10μmであるのが好ましく、0.5〜3μmであるのがより好ましい。上記範囲内であると、親水層中に安定に分散して、親水層の膜強度を十分に保持し、耐久性の高い親水性に優れるカバーを形成することができる。
上述したような無機微粒子の中で、特にコロイダルシリカ分散物が好ましく、市販品として容易に入手することができる。
無機微粒子の含有量は、親水層の全固形分に対して、80質量%以下であるのが好ましく、50質量%以下であるのがより好ましい。
【0092】
〔その他の成分〕
以下に、必要に応じて本発明のカバーの親水性層形成用塗布液に用いることのできる種々の添加剤について述べる。
1)界面活性剤
本発明のカバーの親水性層形成用塗布液には、界面活性剤を添加してもよい。
界面活性剤としては、特開昭62−173463号、同62−183457号の各公報に記載されたものが挙げられる。例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。なお、前記界面活性剤の代わりに有機フルオロ化合物を用いてもよい。前記有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。前記有機フルオロ化合物としては、例えば、フッ素系界面活性剤、オイル状フッ素系化合物(例、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例、四フッ化エチレン樹脂)が含まれ、特公昭57−9053号(第8〜17欄)、特開昭62−135826号の各公報に記載されたものが挙げられる。
【0093】
界面活性剤と本発明の親水ポリマーを併用することでより高い親水性表面を形成することができる。十分にメカニズムは解明されていないが、これは塗膜が乾燥する過程で低分子量化合物である界面活性剤が塗膜表層にマイグレートする作用に伴いポリマーセグメント中の親水性セグメントが界面活性剤の親水性部位に引き寄せられることで高い親水性が得られたと推測する。界面活性剤の添加量は目的に応じて適宜選択されるが、親水性組成物の全固形分に対して、0.001〜10質量%であるのが好ましく、0.01〜5質量%であるのがより好ましい。
【0094】
2)紫外線吸収剤
本発明においては、カバーの耐候性向上、耐久性向上の観点から、紫外線吸収剤を用いることができる。
紫外線吸収剤としては、例えば、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤、などが挙げられる。
添加量は目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、固形分換算で0.5〜15質量%であることが好ましい。
【0095】
3)酸化防止剤
本発明のカバーの安定性向上のため、親水性層形成用塗布液に酸化防止剤を添加することができる。酸化防止剤としては、ヨーロッパ公開特許、同第223739号公報、同309401号公報、同第309402号公報、同第310551号公報、同第310552号公報、同第459416号公報、ドイツ公開特許第3435443号公報、特開昭54−262047号公報、同63−113536号公報、同63−163351号公報、特開平2−262654号公報、特開平2−71262号公報、特開平3−121449号公報、特開平5−61166号公報、特開平5−119449号公報、米国特許第4814262号明細書、米国特許第4980275号明細書等に記載のものを挙げることができる。
添加量は目的に応じて適宜選択されるが、固形分換算で0.1〜8質量%であることが好ましい。
【0096】
4)溶剤
本発明のカバーの親水性層形成時に、基板に対する均一な塗膜の形成性を確保するために、親水性層形成用塗布液に適度に有機溶剤を添加することも有効である。
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、などが挙げられる。
この場合、OC(揮発性有機溶剤)の関連から問題が起こらない範囲での添加が有効であり、その量はカバー形成時の塗布液全体に対し0〜50質量%が好ましく、より好ましくは0〜30質量%の範囲である。
【0097】
5)高分子化合物
本発明のカバーの親水性層形成用塗布液には、親水性層の膜物性を調整するため、親水性を阻害しない範囲で各種高分子化合物を添加することができる。高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。これらのうち、アクリル系のモノマーの共重合によって得られるビニル系共重合が好ましい。更に、高分子結合材の共重合組成として、「カルボキシル基含有モノマー」、「メタクリル酸アルキルエステル」、又は「アクリル酸アルキルエステル」を構造単位として含む共重合体も好ましく用いられる。
【0098】
この他にも、必要に応じて、例えば、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのワックス類、基板への密着性を改善するために、親水性を阻害しない範囲でタッキファイヤーなどを含有させることができる。
タッキファイヤーとしては、具体的には、特開2001−49200号公報の5〜6pに記載されている高分子量の粘着性ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルキル基を有するアルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数3〜14の脂環族アルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数6〜14の芳香族アルコールとのエステルからなる共重合物)や、重合性不飽和結合を有する低分子量粘着付与性樹脂などである。
【0099】
本発明の防曇性カバーにおいて、コーティング(親水性被膜)の厚さは、0.1μm〜2μmが好ましい。膜厚が0.1μm以上であることにより、十分な親水性の効果を得ることができる。また、2μm以下であることにより、乾燥ムラ等の欠陥が生じることがない。通常コーティング厚が薄いと部材表面の突起を十分に埋めることができないために比較的厚いコーティングが必要であるが本発明は部材との濡れ性が高いうえにコーティング液のレベリング性に優れるため従来よりも薄膜で高い親水性を得ることができる。
【0100】
本発明の防曇性カバーは、親水性層形成用塗布液を、基材上に塗布し、加熱、乾燥して表面親水性層を形成することで得ることができる。親水性層形成のための加熱温度と加熱時間は、ゾル液中の溶媒が除去され、強固な皮膜が形成できる温度と時間であれば特に制限はないが、製造適性などの点から加熱温度は150℃以下であることが好ましく、加熱時間は1時間以内が好ましい。
本発明のカバーは、公知の塗布方法で作成することが可能であり、特に限定がなく、例えばスプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、フィルムアプリケーター法、スクリーン印刷法、バーコーター法、刷毛塗り、スポンジ塗り等の方法が適用できる。
【0101】
塗布液の乾燥温度は10℃〜150℃が好ましく、25℃〜100℃がさらに好ましい。乾燥温度が低いと十分な架橋反応が進まず塗膜強度が低い。温度が高いと塗膜のひび割れを生じやすく部分的に防曇性が不十分になる。乾燥時間は5分〜1時間が好ましい。更に好ましくは10分〜30分間である。乾燥時間が短いと乾燥不十分により塗膜強度が低下することがある。必要以上に乾燥時間を長くしすぎると基材が劣化したりする。
【0102】
本発明において、親水性層の表面の中心線平均粗さRaは、1.0nm〜5.0nmである。好ましくは1nm〜3nmである。
また、親水性被膜のTgは、塗膜強度の観点から、40℃〜150℃が好ましい。また、親水性被膜の弾性率は1GPa〜7GPaが好ましい。
Raとは光干渉法などで解析できる中心線平均粗さを示すものである。
なお、上記の親水性層の表面性状の制御方法は、使用する無機微粒子の粒子サイズ、含有量を制御する;基材自体の表面粗さを調整する(基材自体を成型する際の温度や時間、金型の表面粗さにより制御される);親水性層形成用塗布液組成物の粘度、親水性被膜の加熱温度、速度などを制御する、等が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。そのほか基材表面にARコート層やハードコート層を形成する場合はその層に含まれる無機微粒子(SiOなど)の粒子径により制御することができる。むろん粒子径を小さくすると平滑になる。
また塗布した塗膜を乾燥する温度や時間により制御することもできる。塗布液のレベリング性高めることで平滑にできる。
【0103】
また、本発明では、基板との密着性を向上させることなどを目的とし、必要に応じて基板と親水性層との間に中間層を設けてもよい。中間層は特に限定されない。組成の異なる親水性層を設けても良いし、クロメート系に代表される公知の耐食防止層を付与してもよい。
【0104】
本発明において、親水性層は、30℃の水に500時間浸漬させる前および浸漬させた後のいずれも水に対する接触角が15°以下、好ましくは10°以下である。したがって、本発明の防曇性カバーは、十分な親水性を有し、その効果も十分長く持続可能であるといえる。
【0105】
親水性層表面の親水性度は、表面自由エネルギーの測定においても評価できる。例えば、Zismanプロット法を用いて表面自由エネルギーを測定できる。具体的には、塩化マグネシウムなどの無機電解質の水溶液が濃度とともに表面張力が大きくなる性質を利用し、その水溶液を用いて空中、室温条件で接触角を測定した後、横軸にその水溶液の表面張力、縦軸に接触角をcosθに換算した値をとり、種々の濃度の水溶液の点をプロットして直線関係を得、cosθ=1すなわち、接触角=0°になるときの表面張力を、固体の表面自由エネルギーと定義する測定方法である。水の表面張力は72mN/mであり、表面自由エネルギーの値が大きいほど親水性が高いといえる。
このような方法で測定した表面自由エネルギーが、70mN/m〜95mN/m、好ましくは72mN/m〜93mN/m、さらに好ましくは75mN/m〜90mN/mの範囲にある親水性層が、親水性に優れ、良好な性能を示す。
【0106】
〔基材〕
本発明に用いられる基材は、特に限定されないが、透明性の観点からガラスが好ましい。またガラスに比べて軽量で加工性が容易な透明性樹脂も好ましい。透明性樹脂のなかでも光線透過率が80%以上の透明性の特に高い樹脂が好ましい。特にポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネート(PC)樹脂を用いることが好ましい。またこれらの樹脂は共重合体であってもかまわない。また必要に応じて各種顔料や染料により着色されていてもかまわない。
基材の屈折率は1.4〜1.9が好ましい。この範囲外では本願の親水層の屈折率差が大きくなりやすく十分な性能を発揮しないことがある。好ましくは、基材と親水層の屈折率差は、親水層に対して0.5%〜30.0%、より好ましくは0.5%〜10%である。屈折率は屈折率計(大塚電子製FE3000)により測定できる。
【実施例】
【0107】
以下本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、部とあるのは質量部を意味する。
【0108】
[実施例1]
下記表1記載の種類および量の親水性ポリマー、金属アルコキシド化合物に蒸留水400部、エタノール70部、下記構造のアニオン性界面活性剤の5質量%水溶液10部を加え25℃で30分間攪拌し親水性組成物を得た。
次いでガラス製メーター用カバー(板厚み2mm、曲率半径400mm)の凹部に乾燥後の厚さが1μmになるように親水性組成物を塗布し、100℃10分間加熱乾燥を行った。得られた親水処理ガラスを下記方法で評価した。
【0109】
評価法
・中心線平均粗さRa
デジタルオプティカルプロフィメーター(WYKO製)を用いて100μm四方の面積を光干渉法によりカットオッフ0.25mmの条件で測定した。
・屈折率
基材と親水性層の屈折率を屈折率計(大塚電子製FE3000)により測定した。
・水浸漬
30℃に温調した水道水中に500時間浸漬させたのち90℃にて5分間乾燥させた。
・水の接触角
協和界面科学(株)製 接触角計DropMaster500を用いて超純水を用いて親水性層表面の水滴接触角を求めた。接触角は上記の水浸漬前後で評価した。
・湿熱耐久性
得られた親水処理表面を60℃90%RH環境下に5分間放置したのち、90℃5分間乾燥を1サイクルとし、5サイクル行ったのち親水性表面の接触角を上記方法で測定し、防曇性を下記方法で測定した。
(防曇性の評価)
親水処理表面に40℃の水蒸気を1分間当て(水蒸気の噴出しからサンプルまでの距離は20cm)、水蒸気から離した後の曇具合を下記基準により目視判定した。
10サンプル作成して評価し、
優秀:10サンプルともに曇が観察されない。
良好:1〜2サンプルが部分的または全面に曇が観察される。
不良:3枚以上のサンプルに部分的または全体に曇が観察される。
結果を表1に示す。
【0110】
[実施例2〜11、比較例1〜8]
基材(厚さ、曲率半径は前記実施例1で用いた基材と同じ)、親水性ポリマー、金属アルコキシド、その他の成分を表1に記載のものにした以外は実施例1と同様に行った。
【0111】
親水性ポリマーである化合物Aと化合物Bの合成方法を以下に示す。その他の親水性ポリマーも同様にして合成することができる。
【0112】
化合物A
三口フラスコにアクリルアミド100部、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン10部、ジメチルアセトアミド200部を加え、窒素気流下にて80℃で加熱混合した。ついで2,2’アゾビス(2,4ジメチルバレロニトリル)0.1部を加えて5hr反応を行った。得られた反応液をメタノール3000L中に滴下し、固形物を析出させた。
ろ過にて固形物を取り出したあと60℃で12hr乾燥を行い化合物Aを得た。
得られた化合物Aの分子量はGPCにて測定し標準ポリスチレン換算値より求めた。
【0113】
化合物B
三口フラスコにアクリルアミド100部、アクリルアミド−プロピルトリエトキシシラン20部、ジメチルホルムアミド500部を加え窒素気流下にて80℃で混合した。
ついで2,2’アゾビス(2,4ジメチルバレロニトリル)0.1部を加えて5hr反応を行った。得られた反応液をn−ヘキサン3000L中に滴下し、固形物を析出させた。
ろ過にて固形物を取り出したあと60℃で12hr乾燥を行い化合物Bを得た。
得られた化合物Bの分子量はGPCにて測定し標準ポリスチレン換算値より求めた。
【0114】
【表1】

【0115】
表中、金属アルコキシドは市販の試薬を用いた。コロイダルシリカAは、平均粒径20nm、コロイダルシリカBは、平均粒径150nm(いずれも日産化学製)である。またARコートガラスはSiO2コート層を有するガラスである。
【0116】
【化14】

【0117】
【化15】

【0118】
【化16】

【0119】
【化17】

【0120】
【化18】

【0121】
上記質量平均分子量は、いずれもGPC(標準ポリスチレン換算による)測定によるものである。
【0122】
【化19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面上に親水性組成物をコーティングした防曇性カバーであり、該コーティング層表面は、30℃の水に500時間浸漬させる前及び浸漬させた後のいずれも水に対する接触角が15°以下であり、かつ中心線平均粗さRaが1.0nm〜5.0nmであることを特徴とする防曇性カバー。
【請求項2】
30℃の水に500時間浸漬させる前及び浸漬させた後のいずれも水に対する接触角が10°以下であることを特徴とする請求項1に記載の防曇性カバー。
【請求項3】
前記基材がガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂のいずれかからなることを特徴とする請求項1または2に記載の防曇性カバー。
【請求項4】
前記コーティング層の屈折率と基材の屈折率との差が、コーティング層の屈折率の0.5%〜30.0%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防曇性カバー。
【請求項5】
前記親水性組成物が、分子内にアルコキシシリル基を有するポリマーを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の防曇性カバー。
【請求項6】
前記分子内にアルコキシシリル基を有するポリマーが下記一般式(II)で表される構造を有することを特徴とする請求項5に記載の防曇性カバー。
【化1】

一般式(II)中、R3、R4、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基を表し、Xは下記一般式(a)で表される基を表し、L2およびL3はそれぞれ独立に単結合または連結基を表し、Yは−NHCOR、−NHCO2R、−NHCONR2、−CONH2、−NR2、−CONR2、−OCONR2、−COR、−OH、−OR、−CO2M、−CO2R、−SO3M、−OSO3M、−SO2R、−NHSO2R、−SO2NR2、−PO3M、−OPO3M、−(CHCHO)H、−(CHCHO)CHまたは−NR31を表し、ここで、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、複数存在する場合は互いに同一でも異なっていてもよく、Mは水素原子、アルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはオニウムを表し、nは整数を表し、Z1はハロゲンイオンを表す。
一般式(a): −Si(R102a(OR1013-a
(一般式(a)中、R101は水素原子またはアルキル基を表し、R102は水素原子またはアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれる1価の炭化水素基を表し、aは0〜2の整数を表す。R101またはR102は複数存在する場合は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項7】
前記親水性組成物がSi、Ti、Zr、Alから選択されるいずれかの元素のアルコキシド化合物を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の防曇性カバー。
【請求項8】
前記コーティング層表面は、30℃の水に500時間浸漬させる前及び浸漬させた後のいずれも水に対する接触角が5°以上15°以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の防曇性カバー。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の防曇性カバーをメーターに用いることを特徴とするメーター用カバー。

【公開番号】特開2009−90641(P2009−90641A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209379(P2008−209379)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】