説明

防曇性プロピレン系樹脂シート

【課題】透明性と防曇性に優れ、かつ再生使用しても変色や臭気の少ない防曇性プロピレン系樹脂シートの提供。
【解決手段】厚みが0.1〜2mmのプロピレン系樹脂シートに、固形分量で0.02〜2g/mの防曇剤を塗布した、プロピレン系樹脂シートであって、上記プロピレン系樹脂シートは、MFRが0.2〜30g/10分のプロピレン系樹脂100重量部に対し、下記の式(1)の造核剤を0.01〜0.5重量部で配合したプロピレン系樹脂組成物で形成され、防曇剤(炭素数6〜22の脂肪酸の蔗糖脂肪酸エステル)の遊離脂肪酸の含有量が50ppm以下である、防曇性プロピレン系樹脂シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性、透明性に優れたプロピレン系樹脂シートに関し、さらに詳しくは、透明性と防曇性に優れ、かつ再生使用しても変色や臭気の少ない防曇性プロピレン系樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
透明性に優れている非結晶性の熱可塑性樹脂であるポリスチレン、ポリ塩化ビニール、ポリエチレンテレフタレート等は、内容物を見分けることが可能であるため、シート状に加工され、さらに熱成形によって食品の容器や蓋材として広く活用されている。
しかし、これらの非結晶性樹脂は、近年電子レンジ加熱食品の増加に伴い、耐熱不良や耐衝撃不良等で容器や蓋が変形したり、割れたりして問題があり、容器や蓋製造業者からは透明で防曇性が有り、しかも耐熱性や耐衝撃性のある材料が望まれていた。
一方、結晶性のポリプロピレン系樹脂シートは、耐熱性や耐衝撃性には強いが透明性が劣り、その表面が極めて疎水性であるため、容器や蓋材として使用した場合、内容物の水蒸気が表面に微小水滴として付着し、内容物を見分けることが困難であると言う防曇性の問題があった。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂シートの透明性は、シート加工時に鏡面加工を施された金属ロールや金属ベルトで急速に冷却固化させるといった方法、さらにプロピレンとα−オレフィンとの共重合を行って結晶性を低下させたポリプロピレン系樹脂を用いる方法、さらにポリプロピレン系樹脂に核剤を添加する方法等(特許文献1)で、実用レベルの透明性まで改良がされてきた。
【0004】
一方、ポリプロピレン系樹脂シートの防曇性は、シート加工時にそのライン上でポリプロピレン系樹脂を冷却固化した後、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理等を施すことによって疎水性を改良し、液体状の防曇剤を塗布しながら乾燥してシートを巻き取る方法(特許文献2、特許文献3、特許文献4等)で、防曇性を付与できるようになってきた。
【0005】
ところが、近年、経済性や環境保護の観点から、資源の再利用が積極的に進められるようになってきた。食品の容器や蓋材等も例外ではなく、防曇剤を塗布したシートや製品であっても再生使用が求められるようになってきた。
特に、シートから熱成形で容器や蓋材を生産すると、どうしても容器や蓋材製品を打ち抜いた後のシートロス部分が発生する。さらに、容器や蓋材製品を回収して再生使用することも求められることになる。
シートや製品の再生使用にあたっては、シートや製品を粉砕してバージン原料と混合し、シート成形機にかける方法や、シートや製品を粉砕したあと、押出機にて溶融混練してペレット(粒)状に加工してバージン原料と混合し、シート成形機にかける方法が行われる。
この場合、再生使用の割合にもよるが、押出機にて溶融混練してペレット(粒)状に加工した方が、原料の嵩密度が安定するために、シート成形加工が安定する。
【0006】
この際、防曇剤が塗布されたポリプロピレン系樹脂シートやそれを用いて得た製品を粉砕してシート成形すると著しい茶褐色に変色して臭気が激しくなることが判明した。特に、嵩密度の安定のために、シートや製品の粉砕品を押出機にて溶融混練してペレット(粒)状に加工すると、さらに激しい変色、臭気が発生することが明らかになってきた。
【0007】
このように、非結晶性樹脂の有する欠点である耐熱不良や耐衝撃不良等で容器や蓋が変形したり、割れたりするという問題を解決するために用いるポリプロピレン系樹脂シートを、防曇性の要求される容器や蓋材として効率よく使用するためには、この欠点を改良する必要があったが、未だ実現されず、その開発が希求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、透明性と防曇性に優れ、かつ再生使用しても変色や臭気の少ない防曇性プロピレン系樹脂シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のプロピレン系樹脂に特定の造核剤を特定の割合で配合してなるプロピレン系樹脂組成物を用いて形成された特定のプロピレン系樹脂シートの少なくとも片面に、特定の防曇剤を特定の塗布量で塗布したところ、透明性と防曇性を維持しながら再生使用しても変色の少ない防曇性プロピレン系樹脂シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、厚みが0.1〜2mmのプロピレン系樹脂シートの少なくとも片面に、固形分量で0.02〜2g/mの炭素数6〜22の脂肪酸の蔗糖脂肪酸エステルからなる防曇剤を塗布してなる、再生使用しても変色や臭気の少ないプロピレン系樹脂シートであって、上記プロピレン系樹脂シートは、MFRが0.2〜30g/10分のプロピレン系樹脂100重量部に対し、下記の一般式(1)で表される造核剤0.01〜0.5重量部の割合で配合してなるプロピレン系樹脂組成物から形成され、かつ炭素数6〜22の遊離脂肪酸の含有量が50ppm以下であることを特徴とする防曇性プロピレン系樹脂シートが提供される。
【0011】
【化1】



[但し、式中、nは、0〜2の整数であり、R〜Rは、同一または異なって、それぞれ水素原子もしくは炭素数が1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン基およびフェニル基であり、Rは、炭素数が1〜20のアルキル基である。]
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記プロピレン系樹脂が、プロピレン含量100〜90重量%とα−オレフィン含量0〜10重量%とのランダム共重合体であることを特徴とする防曇性プロピレン系樹脂シートが提供される。
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、α−オレフィンが、エチレンであることを特徴とする防曇性プロピレン系樹脂シートが提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、0.35mm厚シートのヘイズ値(HAZE値)が10以下であることを特徴とする防曇性プロピレン系樹脂シートが提供される。
本発明の第5の発明によれば、第1発明の防曇性プロピレン系樹脂シートを再生してなる再生樹脂とプロピレン系樹脂とを含む再生プロピレン系樹脂組成物からなるプロピレン系樹脂シートが提供される。
本発明の第6の発明によれば、炭素数6〜22の遊離脂肪酸の含有量が50ppm以下であることを特徴とする再生プロピレン系樹脂組成物からなるプロピレン系樹脂シートが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、透明性と防曇性に優れ、かつ再生使用しても変色の少ない防曇性プロピレン系樹脂シートを提供することができる。そしてこれらのシートは、経済性、環境性に優れ、食品日用品の包装や医療電子部品の分野に好適に使用することができる。
このシートおよび成形品は、内容物の温度変化、室内環境の温度、湿度の変化、気候、季節、温度、湿度の変化があっても、それに対応しても、適正な透明性および防曇性などを維持する製品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、上記したように、特定のプロピレン系樹脂シートの少なくとも片面に、特定の防曇剤を塗布してなる再生使用しても変色の少ない防曇性プロピレン系樹脂シートである。
以下、本発明の防曇性プロピレン系樹脂シートを形成する組成物の構成成分やその製造方法、防曇剤、さらにはそれらを用いた防曇性プロピレン系樹脂シートの製造方法等について詳細に説明する。
【0017】
造核剤の使用による価格の高騰、成形加工時の臭気の発生、温度などの加工条件の制御、さらには特に食品、医療材料のような容器、トレー、パック、ボトルなどの成形品から造核剤の溶出による安全性、衛生性という点も考慮しなければならない。しかし、一方で、造核剤による透明性、剛性などを高める為には、少なくとも所定の量を添加する必要がある。そこで、公知の造核剤として、例えばソルビトール系、リン酸金属塩、カルボン酸金属塩、安息香酸ナトリウム、ロジンの金属塩などの各種公知の優れた造核剤のうち、MFRが0.2〜30g/10分のプロピレン系樹脂において、それを厚さ0.1〜2mmのシートにした場合に、シートの厚さに適合した透明性、ブリードアウト、価格、再生性、二次加工などにおいて、その造核剤の性能を維持して、シートの真空成形、エンボス加工、加圧成形などの二次加工に耐えられる合理的な造核剤を鋭意検討した結果、一般式(1)の造核剤をポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01〜0.5重量部という最小限の添加量にすれば、一応造核剤の優れた機能を維持することができるので、プロピレン系樹脂シートの透明性、剛性、熱変形温度および曲げ弾性率の向上などが一応達成できるということ、および塗布した防曇剤とも適合するという最良の形態を知見したものである。
【0018】
プロピレン系樹脂シートの透明性、剛性などは内部添加剤である造核剤により達成できるが、そのシートまたはその成形品として使用する際の、環境、例えば、室内の環境または内容物の温度および湿度条件の違いにおいて使用する場合に、或いは季節などにおける気候条件の違いに基づいて使用する場合に留意しなければならないことは、シートおよび成形品の透明性などが、水蒸気、曇、水滴という外部的な環境要因により、せっかくに造核剤により改良された透明性が曇ることによって無意味となることもあり、その対策が必要である。このように本発明は、そのシートおよび成形品の透明性などを、内部型の特定の造核剤の添加により改良するというプロピレン系樹脂の本質的に材料面からと、主に外部環境からの影響に配慮して透明性を維持するという塗布による外部型の特定の防曇剤を組み合わせるという材料兼構造の面から、全環境対応型の透明性を有する防曇性プロピレン系樹脂シートを提供できたものである。
【0019】
特に、外部型として防曇剤をシートや成形品に塗布されている場合に、具体的なそれの使用条件においては、例えば、水、空気、熱、温度、マイクロ波、光線、物理的または化学的な条件と直接に接触する機会が多いという、過酷な条件に曝された場合に、比較的容易に表面から流出や分解する場合もあり、さらには、防曇剤の持続性、安定性、衛生性、無毒性、安全性などを考慮して、できる限りその要件を満たす防曇剤を選定することに留意しなければならない。
その結果、一般式(1)の造核剤を含むプロピレン系樹脂シートに適合性の良い、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、各種界面活性剤のような、各種公知防曇剤を、技術的、安全性、衛生面などの多くの観点から検討した結果、本発明の、防曇剤として、炭素数6〜22の脂肪酸の蔗糖脂肪酸エステルを使用することが最も有効であり、また、その塗布量は固形分量で、0.02〜2g/mであり、このエステル化合物および塗布量が、特定の防曇剤と付加的にまたは相乗的に作用して、再生利用の可能性を含む、多面的に防曇剤の持続性、衛生性、安全性の機能が長期的に安定に、安全に機能するということを知見したものである。
【0020】
一方で、特定の造核剤を含み、且つ防曇剤が塗布されたプロピレン系樹脂シートは、成形、二次加工というような熱成形によりシートから容器や蓋材を生産する場合に、容器や蓋材製品を打ち抜いた後のシートのロス部分が発生するために、そのロス材料を回収して再生使用することも有り得る。さらには、製品の出荷残り、または、リスク管理の為の計画以上の過剰生産による在庫品、納品後の仕様、寸法或いは大きさなどの変更などの理由による返品、リサイクルによる回収した廃プロピレン系樹脂を再生使用するという、省資源、COの対策というような地球規模の課題からすれば、この再生利用の対応まで解決することが必要である。このシートや製品の再生使用にあたっては、シートや製品を粉砕してバージン原料と混合して、成形材料にすることが好ましい。再生使用した場合に、再生樹脂の品質が成形シートに多く影響する為に、再生樹脂の品質が悪いと、バージン原料の配合割合を多くしなければならず、再生樹脂の使用促進や価値を低下させるために、再生樹脂の品質を重要視しなければならない。
【0021】
再生利用において、鋭意検討した結果、特に残留の防曇剤である炭素数6〜22の脂肪酸の蔗糖脂肪酸エステルが再生成形品である、再生シートの、特に色相(YI値)に大きく影響することが判明した。そして、原因物質は追及した結果、防曇剤からの、炭素数6〜22の遊離脂肪酸であることを突き止めたものである。この遊離脂肪酸は、市販の蔗糖脂肪酸エステルに潜在的に含まれているもの、或いは、防曇剤として使用している間に、分解、遊離により発生したものを含むことが予測される。そして、再生利用する再生樹脂に含まれる炭素数6〜22の遊離脂肪酸の含有量50ppm以下が再生シートの色相(YI値)の観点から許容できる範囲であり、例えば、42ppm、33ppm、25ppm、18ppm、9ppm、3ppmと少ない傾向にあることが好ましい。この遊離脂肪酸の含有量50ppm以下ということは、通常は、0.05〜35ppmの再生樹脂を単独で使用するか、またはそれにバージン樹脂をブレンドして任意に使用するための許容できる含有量である。
【0022】
この、再生シートに脂肪酸の混入する直接の理由は、防曇剤である炭素数6〜22の脂肪酸の蔗糖脂肪酸エステルの塗布量に関係して、その塗布量が多くなれば、必然的に遊離脂肪酸の含有量が単調に多くなる傾向を示す。したがって、再生樹脂の遊離脂肪酸の含有量50ppm以下にするためには、標準的な防曇剤である炭素数6〜22の脂肪酸の蔗糖脂肪酸エステルの塗布量を、固形分量で0.02〜2g/mにすれば、必要とする防曇剤の効果を最大限に発揮するとともに、その廃品である再生シートからの再生樹脂の色相、臭気などの低い特性を維持しながら、再生使用することができるための許容できる範囲である。固形分量を2.5g/m、5g/mと単調に増加させると、再生樹脂の遊離脂肪酸の含有量50ppm以上になるリスクを伴う。勿論0.01g/m、0.015g/mの領域になれば、防曇剤の効果が発現できなくなる。固形分量で0.02〜2g/mの範囲は、防曇性、色相などにおいて、安定した効果が連続的に期待される臨界性のある領域である。
【0023】
再生樹脂(プロピレン系樹脂)とバージン樹脂(プロピレン系樹脂)のブレンドは、ペレットの状態で、成形時にブレンドすることが多いが、通常は、バージン樹脂1〜99重部と再生樹脂を99〜1重量部と、好ましくはバージン樹脂20〜80重量と再生樹脂80〜20重量部と、任煮にブレンドすることができる。そのブレンド量の加減は、再生樹脂の品質に影響されることが多く、再生樹脂が遊離脂肪酸を、例えば60ppmというように比較的多く含むような品質の場合には、それにブレンドするバージン樹脂の量を相対的に多くすることにより、50ppm以下に調整することができる。
【0024】
具体的に、プロピレン系樹脂100重量部にMillad NX8000造核剤0.3重量部、蔗糖ラウリン酸エステル(固形分塗布量0.04g/m)を塗布した仕様のシートを再生樹脂として使用する実施態様を示すと以下のとおりになる。

仕様 1 2 3 4 5 6
バージン樹脂(重量部) 95 85 68 50 35 20
再生樹脂(重量部) 5 15 32 50 65 80
遊離脂肪酸(PPM) 1 6 8 11 16 22

以下に最も好ましい態様を示す。
【0025】
[1]構成成分
1.プロピレン系樹脂
本発明で用いられるプロピレン系樹脂のMFRは、通常、0.2〜30g/10分、好ましくは、0.3〜15g/10分、さらに好ましくは、0.4〜10/10分である。MFRが上記の数値範囲を下回ると成形加工時の表面が荒れて製品の外観が損なわれ、一方、MFRが上記の数値範囲を上回ると製品の衝撃強度が低下する。
【0026】
本発明で用いられるプロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体でも良いが、プロピレンとα−オレフィンとのランダム或いはブロック共重合体が好ましい。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、混合して使用しても差し支えない。
α−オレフィンとしては、エチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1等を用いることができる。中でもプロピレンとエチレンとのランダム共重合体が好ましい。プロピレンとエチレンとのランダム共重合体では、エチレン含量は、0.1〜10重量%が好ましく、0.2〜5重量%がさらに好ましく、0.4〜3.5重量%が特に好ましい。エチレン含量が0.1重量%を下回ると製品の衝撃強度が損なわれ、一方、エチレン含量が10重量%を上回ると製品の剛性が低下する。
具体的には、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ペンテン−1共重合体、プロピレン−ヘキセン−1共重合体、プロピレン−4−メチル−ペンテン−1共重合体などの各種の二元または三元共重合体が挙げられる。
【0027】
本発明に用いられるプロピレン系樹脂は、任意の重合法で製造することができ、スラリー法、気相法、バルク法等が使用できる。
プロピレン系樹脂は、後述の方法によって得られるもののほか市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、チーグラー系触媒を使用した製品としては日本ポリプロ社製ノバテックPP(商品名)シリーズ、メタロセン系触媒を使用した製品としては日本ポリプロ社製ウインテック(商品名)シリーズのなかから本発明の範囲に適合するものを使用することができる。
【0028】
2.造核剤
本発明では、下記の一般式(1)で表される造核剤が用いられる。
【0029】
【化1】


[但し、式中、nは、0〜2の整数であり、R〜Rは、同一または異なって、それぞれ水素原子もしくは炭素数が1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン基およびフェニル基であり、Rは、炭素数が1〜20のアルキル基である。]
上記一般式(1)の中でも、好ましくは、nは0〜2の整数であり、R、R、RおよびRは、それぞれ水素原子であり、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ炭素数が1〜20のアルキル基であり、またさらに好ましくは、nは0〜2の整数であり、R、R、RおよびRは、それぞれ水素原子であり、Rは、−CH、−CHCH、−CHCHCH、−CHCHCHCH、−CHCH=CH、−CH(CH)CH=CH、−CHCH−X−CH−X、−CHCH−X−CHCH、−CHCH−X−CHOHもしくは−CHOH−CH(OH)−CHOHであり(但し、X〜Xは、それぞれ独立したハロゲン基である。)、Rは、炭素数が1〜20のアルキル基である。
【0030】
本発明に用いられる造核剤は、得られる防曇性プロピレン系樹脂シートに、従来の造核剤では実現が不可能なほどの非常に優れた透明性を与えることができる。また、従来の造核剤よりも高い結晶化温度を与えることが可能なため、併せて成形加工性の改良を実現することができる。
【0031】
本発明に用いられる造核剤の製造方法としては、WO2005/111134号公報等に記載の方法を挙げることができる。市販品としても、容易に入手することができ、例えば、Millad NX8000(ミリケン・アンド・カンパニー社製)を挙げることができる。
【0032】
また、上記造核剤を添加する場合の配合割合は、プロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01〜0.5重量部、好ましくは0.03〜0.45重量部、さらに好ましくは0.05〜0.4重量部である。該造核剤の配合量が、0.01重量部を下回ると得られる製品の透明性が充分でなく、0.5重量部を上回るとそれ以上の効果が期待できず経済的に不利となるばかりか、成形品表面へのブリードアウトが激しくなって透明性が損なわれる。
【0033】
3.その他の添加剤
本発明では、これらの必須成分の他に付加的成分を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。それらの付加的成分としては、通常のポリプロピレンに用いられる酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、分子量調整剤(過酸化物)、核剤、着色剤、中和剤、ハイドロタルサイト類、各種フィラー等の各種助剤、プロピレン単独あるいは他のα−オレフィンとの共重合体、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等の他の重合体、各種熱可塑性エラストマー、無機または有機充填剤等を挙げることができる。
【0034】
[2][組成物の調製]
本発明に用いられるプロピレン系樹脂組成物の製造方法は、上記成分の添加順序や用いる装置に特に限定されないが、一般に使用されるヘンシェルミキサー、Vブレンター、リボンブレンダー、バンバリーミキサー、ニーダーブレンダー又は押出機の如き通常の混合機または混錬機を用いて所定時間混合し、通常の押出機にて粒状とする方法が好ましい。
又、本発明で用いられるプロピレン系樹脂組成物は、造核剤を目的とする配合量よりあらかじめ多く配合しておき、シートの製造前にプロピレン系樹脂で目的量に希釈する所謂マスターバッチの方式を取ることもできる。
また、本発明においては、本発明により製造された防曇性シートを再生使用するために、使用済みの防曇性シートを粉砕機等により粉砕した後、あるいはその粉砕品を溶融混錬して再生ペレットとした後、バージン原料に混合し、新しいプロピレン系樹脂組成物とすることができる。
しかし、その際、再生ペレットの配合には、その中の遊離脂肪酸により生じると思われる変色の面からおのずと限度があり、組成物全体で、遊離脂肪酸の含有量が50ppm以下となるように新しい樹脂組成物を調製する必要がある。遊離脂肪酸の含有量が50ppmを上回ると、変色が激しくなる。
【0035】
[3][シートとその製造方法]
1.プロピレン系樹脂シート
本発明に用いられるプロピレン系樹脂シートの厚みは、0.1〜2mmであることが好ましく、0.15〜1.5mmがさらに好ましく、0.2〜1mmが特に好ましい。
厚みが0.1mmを大きく下回る場合は、製品の剛性が損なわれ、厚みが2mmを大きく上回る場合は、シートの透明性が充分ではなくなる。
本発明の一般式(1)で表される造核剤は、0.01〜0.5重量部添加するだけでポリプロピレン樹脂シートの透明性、剛性、熱変形温度、曲げ弾性率が最も適正に向上するが、シートの厚みが0.08mm、0.05mm、0.01mmというように、0,1mm以下の範囲になれば、造核剤が機能して、シートの剛性が低下する傾向にあり、しかも、防曇剤の塗布にも支障となるために、製品として造核剤の適正な発現の為に許容できるシートの厚さの下限値は0.1mm程度である。一方で、シートの厚さが2mm以上、例えば、2.5mm、3mm、5mmといったシートの厚さになれば透明性を所定値以上に上げることが造核剤では十分に対応できない場合があり、所定の透明性が得られにくくなる。シートが例えば5mmと厚くなれば、シートの表面、内部との冷却温度に違いなどが発生することも予測され、温度管理が微妙になり、透明性に若干の違いが発生することも予測され、品質管理上、相当に留意しなければならないというリスクを伴う。そうすれば、0.15mm、0.35mm、0.6mm、1mm、1.2mm、1.8mmというような、シートの厚さ0.1〜2mmの範囲が、一般式(1)の造核剤の機能を安定に、適正に、発現する為の許容できる範囲である。
【0036】
また、本発明に用いられるプロピレン系樹脂シートは、0.35mm厚シートのHAZE値が10以下である。HAZE値がこの範囲であると、透明性の必要とする食品の包装に好適に利用できる。
【0037】
一方、本発明に用いられるプロピレン系樹脂シートは、再生・再使用の観点から、遊離脂肪酸の含有量が50ppm以下であることが必要であり、好ましくは40ppm以下である。遊離脂肪酸の含有量が本発明の範囲を上回ると、本発明により防曇剤を塗付したシートを再生使用した時に変色が激しくなるため、望ましくない。
なお、本発明においては、遊離脂肪酸とは、炭素数6〜22の脂肪酸であり、ステアリン酸、パルチミン酸、ミチスチン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ラウリン酸、エリカ酸等の1種以上の混合物を言う。
【0038】
2.シートの成形
本発明に用いられるプロピレン系樹脂シートは、押出しシート成形、カレンダー成形等によって得られる。
押出しシート成形としては、単軸又は二軸のスクリュー押出機を通してコートハンダーダイからシート状に押出される。押出されたシートは、内部で冷却水や油が循環している金属ロール表面に、エアーナイフ、エアーチャンバー、硬質ゴムロール、スチールベルト、金属ロール等にて押さえつけ冷却固化されてシートに製造される。又、シート両面をスチールベルトで挟んで冷却固化することもできる。押出しシートは、単層の他に多層シートも使用できる。多層シートとしては、本発明のプロピレン系樹脂組成物の押出機に加え、複数の押出機を用い、フィードブロックやマルチマニホールドを用いてガスバリア樹脂層、接着樹脂層、再生樹脂層、華燭樹脂層、等を重ねた多層シートとすることが出来る。
さらに、押出しシート成形、カレンダー成形されたシートは、真空成形、真空圧空成形、熱盤圧空成形等の熱成形により各種容器や蓋材に加工することができる。
【0039】
[4][防曇性シートとその製造方法]
1.防曇剤
本発明で使用される防曇剤は、炭素数6〜22の脂肪酸の蔗糖脂肪酸エステルがであり、この化合物は、食品用添加物として認められており、安全性の点で最も好ましい。
この中では、ステアリン酸、パルチミン酸、ミチスチン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ラウリン酸、エリカ酸の蔗糖脂肪酸エステルが特に好適である。
本発明で使用される蔗糖脂肪酸エステルは、市販品を使用できる。市販品としては、三菱化学フーズ社製のリョートーシュガーエステル(商品名)を挙げる事ができる。
【0040】
本発明で使用される防曇剤の塗付量は、0.02〜2g/mである。塗付量が0.01g/m2、0.008g/m2というようにこの範囲を下回るとシートの防曇性が不足し、塗付量がこの範囲を、たとえば、2.3g/m、3.0g/mというように、上回ると一定のそれ以上の効果が期待できないばかりか、シート表面がべた付いて透明性が損なわれる。さらに、遊離の脂肪酸の含有量を増大させることにもなり、最大2g/mの範囲が適切である。そすると、塗布量が0.03g/m、0.04g/m、0.08g/m、1.2g/m、1.8g/m、のような0.02〜2g/mが適切である。
【0041】
2.防曇剤の塗布方法
本発明に用いられるプロピレン系樹脂シートに防曇剤を塗布する際には、あらかじめシートをコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理等の酸化処理を施すことが、防曇剤の安定に有効である。この中ではコロナ処理によって、シート表面の濡れ張力を35〜55ダイン、好ましくは36〜45ダインの範囲となるよう処理されるのが好ましい。濡れ張力がこの範囲を上回るとシートの酸化臭が発生して好ましくない。濡れ張力がこの範囲を下回ると防曇剤のシートへの接着性が損なわれる。
酸化処理されたシートへの防曇剤の塗付は、防曇剤を0.01〜10重量%の防曇剤溶液として塗付後、乾燥する方法を用いる。防曇剤溶液に用いる溶媒としては、例えば、水、アルコール等で防曇剤を溶解し、且つポリプロピレン系樹脂シートを溶解しない溶液で、しかも適用分野によっては安全性を充たす溶媒を適宜選択して用いるのが良い。前記該シートへの防曇剤固形分としては、0.02〜2.0g/m塗布する。防曇剤の塗付量がこの範囲を下回ると防曇性能が不足し、防曇剤の塗付量がこの範囲を上回るとべた付きによる該シート間のブロッキングが発生して好ましくない。
上記の防曇剤の塗付法は、各種のロール印刷法やどぶ漬け法や吹き付け法等、いずれの方法でも使用できる。前記塗布法は、シート成形後に引き続いて行うインラインコートやシート成形・巻取り後に巻き戻し工程で行うアウトラインコートする方法等で実施できる。
防曇剤塗布後の乾燥方法としては、蒸気や電気で熱した乾燥炉(溶媒が水の場合は、100℃以上が好ましい。)にシートを通して、溶媒を蒸発させる方法等が挙げられるが、特に制限はない。
【0042】
3.防曇性シート等
本発明の防曇性ポリプロピレン系樹脂シートは、防曇性、透明性および再生使用に極めて優れているので、食品、化粧品、日用品の包装製品や、ICチップや液晶パネルなど電子部品の梱包トレー、ディスプレー用の箱などの産業部材に最適である。
シートや製品の再生使用にあたっては、シートや製品を粉砕してバージン原料と混合し、シート成形機にかける方法や、シートや製品を粉砕したあと、押出機にて溶融混練してペレット(粒)状に加工してバージン原料と混合し、シート成形機にかける方法が行われる。
この場合、再生使用の割合にもよるが、押出機にて溶融混練してペレット(粒)状に加工した方が、原料の嵩密度が安定するために、シート成形加工が安定する。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に制約されるものではない。なお、各実施例および比較例で用いた物性値の測定方法、評価法は、以下のとおりである。
【0044】
I.測定方法、評価方法
1)MFR
MFRは、JIS−K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定した。
【0045】
2)引張弾性率
引張弾性率は、厚み0.35mmのシートに対して成形1日後にJIS−K7127に準拠して測定した。
【0046】
3)ヘイズ値(HAZE値)
HAZEは、厚み0.35mmのシートに対して成形1日後にJIS−K7136に準拠して測定した。
【0047】
4)エチレンの含量
エチレンの含量は、下記の条件の13C−NMR法によって計測された値である。
装置:日本電子社製 JEOL−GSX270
濃度:300mg/2mL
溶媒:オルソジクロロベンゼン
【0048】
5)防曇性
80℃の湯にシートの防曇材塗布面をかざし、水滴の付着状況を観察した。
○:水滴が全く付着せず、良く透視できる。
△:大きな水滴が付き、70%以上透視できる。
×:細かい水滴が付き、30%以下しか透視できない。
【0049】
6)遊離脂肪酸量
シートをアルミ箔で挟み、210℃で熱プレス加工して3℃に冷却し100μm以下のフィルムに成形した。
次いで、このフィルム1.25gを1cm×1cm程度の大きさに裁断してフラスコに入れ、クロロホルム30mLを用いて2回抽出した。クロロホルム30mLを加え、還流冷却下、60℃の湯浴中で1時間、超音波照射した。湯浴から取り出して室温まで静置冷却した後、ろ紙を用いてろ過して1度目のろ液を回収する。残ったフィルムにさらにクロロホルム30mLを加えて還流冷却下、60℃の湯浴中で15分間、超音波照射した。湯浴から取り出して室温まで静置冷却した後、先ほどと同じろ紙を用いてろ過して2度目のろ液を回収する。残ったフィルムとフラスコをさらに15mLのクロロホルムで洗い、洗液を先ほどと同じろ紙を用いてろ過して回収した。全てのろ液(洗液も含む)を合わせてナスフラスコに入れ、溶媒を減圧留去して抽出物を得た。
得られた抽出物にクロロホルム2mLを(ホールピペット等を用いて)正確に加え、よく混合して得られた溶液をフィルターでろ過してガスクロマトグラフ測定用試料溶液を得た。
得られたガスクロマトグラフ測定用試料溶液を以下の条件で測定し、標準溶液の保持時間と一致するピークから、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸のピーク面積をそれぞれ求めた。
装置:島津GC−2010
装置条件
検出器:FID検出器
気化室温度:320℃
検出器温度:350℃
圧力制御:80kPaで15分間置き、50kPa/minの速度で580kPaまで昇圧する。
カラム温度:110℃から15℃/minの速度で341℃まで昇温し、9.6分間保つ。
カラム:J&W Scientific, DB−5MS (膜厚0.25μm,φ0.25mm×5m)
注入量:1.0μL
標準溶液:100mLメスフラスコにミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸をそれぞれ12.5mg程度量りとり、クロロホルムを加えて正確に100mLにした溶液。
以下の計算式によりそれぞれの遊離脂肪酸量を定量した。
シート中の遊離ミリスチン酸濃度(ppm)
=(測定試料溶液のミリスチン酸ピーク面積)÷(標準溶液のミリスチン酸ピーク面積)
×0.125(mg/mL)×2(mL)÷1250(mg)×1000000
以下同様にして遊離パルミチン酸、遊離ステアリン酸のトータル濃度を求め、遊離脂肪酸含有量(wtppm)とした。
【0050】
7)臭気
再生シート80gを裁断し広口瓶に入れ、臭気の有無を確認した。
○:臭いが感じられない。
×:特有の臭いがある。
【0051】
II.材料
1)プロピレン系樹脂
プロピレン系樹脂として、以下のプロピレン系樹脂(A)、プロピレン系樹脂(B)を用いた。
(1)プロピレン系樹脂(A)の製造
【0052】
[触媒の製造]
攪拌翼と還流装置を取り付けた5Lセパラブルフラスコに、純水1,700gを投入し、98%硫酸500gを滴下した。そこへ、平均粒径18μmに造粒したモンモリロナイト(原料として水澤化学工業社製、ベンクレイSLを用いた)を300g添加後、攪拌した。その後90℃で2時間反応させた。このスラリーをろ過、洗浄した。回収したケーキに27%硫酸リチウム水溶液1,230gを加え、90℃で2時間反応させた。このスラリーをろ過し、さらに、ろ液のpHが4以上となるまで洗浄した。回収したケーキを100℃で予備乾燥した後に200℃で2時間乾燥した。その結果、275gの化学処理モンモリロナイトを得た。
1Lフラスコに、化学処理モンモリロナイト20gを加え、ヘプタン129mlとトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液71ml(50mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。その後、ヘプタンで残液率1/100まで洗浄し、最後にスラリー量を100mlに調製した。さらに、トリノルマルオクチルアルミニウムのヘプタン溶液3ml(1mmol)を加えて、10分間室温で攪拌した。
200mlフラスコ中で、(r)−ジメチルシリレンビス[1,1’−{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム(300μmol)にヘプタン(50ml)を加えてスラリーとした後、上記1Lフラスコに加えて室温で60分間攪拌した。その後、ヘプタン181mlを加えて触媒スラリーを調製した。
【0053】
[予備重合]
窒素で十分置換を行った内容積1.0Lの撹拌式オートクレーブに、上記触媒スラリーを全量導入した。温度が40℃に安定したところでプロピレンを10g/時間の速度で供給し、温度を維持した。4時間後プロプレンの供給を停止し、さらに1時間維持した。予備重合終了後、残モノマーをパージし、撹拌を停止させ、十分窒素置換を行った1Lフラスコにスラリーを抜き出した。このスラリーを減圧乾燥して予備重合触媒を63.4g回収した。
【0054】
[重合]
内容積200Lの誘導撹拌機付オートクレーブ内をプロピレンで十分置換した後に、十分に脱水処理した液化プロピレン45kgを導入し30℃に保持した。これに、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液470ml(50g/l)を加えた。水素2.0NL、エチレンを0.9kg導入し、上記予備重合触媒1.7gをアルゴンで圧入した。温度65℃まで40分かけて昇温し、65℃で2時間反応させた。また、この間水素を0.12g/hrの定速で導入した。その後、エタノール100mlを圧入して、反応を停止させ、残ガスをパージした。その結果、18.4kgのプロピレン系樹脂(A)が得られた。該樹脂のMFRは、1.4g/10min、エチレン含量1.3重量%であった。
【0055】
(2)プロピレン系樹脂(B)の製造
内容積200リットルの攪拌式重合槽により、プロピレン−エチレンランダム共重合体の製造を実施した。重合槽内をプロピレンで充分置換した後、脱水・脱酸素したn−ヘプタン60リットルを導入し、ジエチルアルミニウムクロライド30.0g、ソルベー社タイプ三塩化チタン触媒10gをプロピレン雰囲気下、60℃で導入した。
重合槽内の温度を60℃に昇温した後、プロピレンを5.9kg/時間、エチレンを0.18kg/時間のフィード速度で導入し、併用する水素は、気相部の水素濃度1.1vol.%で制御した。6時間重合を継続した後、プロピレンとエチレンの導入を止め、さらに重合槽内の温度を60℃で60分間継続させた。
このようにして得られたスラリーを、濾過、乾燥して32.0kgのパウダー状のプロピレン−エチレンランダム共重合体であるプロピレン系樹脂(B)を得た。得られたプロピレン系樹脂(B)は、MFR=1.0g/10分、エチレン含有量=2.5重量%であった。
【0056】
2)造核剤
造核剤として、以下の化合物を用いた。
(1)Mjllad NX8000(ミリケン・アンド・カンパニー社製):下記化学構造式(2)
【0057】
【化2】


(2)アデカスタブNA21: ビス(2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−ヒドロキシ−12H−ジベンゾ[d,g][1,2,3]ジオキサホスホシン−6−オキシド)水酸化アルミニウム塩と有機化合物の複合体(旭電化社製)
(3)ゲルオールMD:1,3: 2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール(新日本理化社製)
【0058】
3)防曇剤
防曇剤として、以下の化合物を用いた。
(1)リョートーシュガーエステルLWA−1570: 蔗糖ラウリン酸エステル(三菱化学フーズ社製)
【0059】
[実施例1]
1−1)組成物の調製
プロピレン系樹脂(A)100重量部に対し、造核剤としてMillad NX8000:(ミリケン・アンド・カンパニー社製)0.3重量部、さらに酸化防止剤として〔テトラキス(3,5−ジ−t−ブチルフェニルプロピオネート)〕メタン0.03重量部(商品名:チバスペシャリティケミカル(株)製イルガノックスRA1010)とトリス(ジブチルフェニル)フォスファイト(商品名:チバスペシャリティケミカル(株)製イルガフォス168)0.1重量部を添加してヘンシェルミキサーにて混合しプロピレン系樹脂組成物を得た後、260℃に加熱されたスクリュー径が50mmの押出機にて押出し、粒状物とした。
【0060】
1−2)押出シートの作製
得られた粒状物を230℃に加熱されたスクリュー径40mmの押出シート成形機にて幅750mm、ダイリップ間隔0.8mmのコートハンガーダイから水平方向に押出し、30℃の水が内部で循環している鏡面加工された硬質クロムメッキの金属ロールで挟んで冷却固化し、片面にコロナ処理をかけて40ダインとしながら厚み0.35mmのシートを製造した。得られたシートの物性の測定結果を第1表に示す。
【0061】
1−3)防曇剤の塗布
次いで、上記シートのコロナ処理面に、三菱化学フーズ社製のリョートーシュガーエステルLWA−1570(蔗糖ラウリン酸エステル)の40倍水溶液をグラビアコーターにて4g/mを塗付し、120℃の空気が循環している乾燥機にて乾燥後巻取り機にて巻き取って防曇シートを作成した。防曇剤固形分は0.04g/mの塗付量である。この防曇シートを5枚重ねて日本電色社製のカラーマシンにてYI値を測定した。結果を第1表に示す。
【0062】
1−4)再生ペレットの作製
その後、上記防曇シートを、株式会社ホーライ製の粉砕機UI03−30120MRFS型で、φ9mm スクリーンにかけて粉砕品を得た。この粉砕品を230℃に加熱されたスクリュー径が40mmの押出機にて溶融混錬して再生ペレットを製造した。
【0063】
1−5)再生シートの製造
1−1)の粒状物50重量部に対し、1−4)の再生ペレット50重量部を混合して1−1)〜1−3)の方法で再生防曇シートを作成した。この防曇シートを5枚重ねて日本電色社製のカラーマシンにてYI値を測定した。結果を第1表に示す。
【0064】
[実施例2]
プロピレン系樹脂(B)100重量部に対し、造核剤としてMillad NX8000:(ミリケン・アンド・カンパニー社製)0.3重量部、さらに酸化防止剤として〔テトラキス(3,5−ジ−t−ブチルフェニルプロピオネート)〕メタン0.03重量部(商品名:チバスペシャリティケミカル(株)製イルガノックスRA1010)とトリス(ジブチルフェニル)フォスファイト(商品名:チバスペシャリティケミカル(株)製イルガフォス168)0.1重量部を添加してヘンシェルミキサーにて混合し、プロピレン系樹脂組成物を得た後、260℃に加熱されたスクリュー径が50mmの押出機にて押出し粒状物とした。
その後、この粒状物に実施例1の1−3)〜1−5)と同様の方法を適用し、再生防曇シートを作成した。その結果を第1表に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
[比較例1、2]
プロピレン系樹脂組成物の配合物を第2表に示す如く変えた以外は、実施例1と同様にして評価した。その結果を第2表に示す。
【0067】
[比較例3]
シートへ塗布する防曇剤を三菱化学フーズ社製のリョートーシュガーエステルLWA−1570(蔗糖ラウリン酸エステル)の4倍水溶液をグラビアコーターにて10g/mを塗付、防曇剤固形分として2.5g/mを塗付した以外は、実施例1と同様にして評価した。その結果を第2表に示す。
[比較例4]
比較例1で防曇剤を塗付しなかった以外は、実施例1と同様にして評価した。その結果を第2表に示す。
[比較例5]
実施例1で防曇剤を塗布しなかった以外は、実施例1と同様にして評価した。その結果を第2表に示す。
[比較例6]
プロピレン系樹脂組成物の配合を第2表に示す如く変え、防曇剤を塗布しなかった以外は実施例1と同様にして評価した。その結果を第2表に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
これらの結果より明らかなように、実施例1,2では、本願発明の防曇性プロピレン系樹脂シートは、HAZE値が小さく(透明性に優れ)、防曇性に優れ、再生しても色相変化や臭気が少ない事が解る。
これに対し、比較例1では、本願で特定する遊離脂肪酸の量が上回る為に、再生シートの色相が極めて悪く臭気が発生するのであった。比較例2では、本願で特定する脂肪酸金属塩の量は下回っている為、防曇性に優れ、再生シートの色相変化も少ないが、造核剤として配合しているゲルオールMDに特有の臭気がある為に、食品包装の分野には適さないものであった。比較例3では、防曇剤を本願で特定する以上の量を塗布している為にシートがべたついてしまい、巻き取ったシートを繰り出す際に接着跡がシートに残る為に外観、透明性が悪いものであった。また、比較例4では、本願で特定する脂肪酸金属塩の量が上回るが、防曇剤を塗付していないために、再生シートの色相変化が少ないものの、防曇性能が全く無いものであった。比較例5では、本願で特定する脂肪酸金属塩の量が下回り、透明性は優れているが、防曇剤を塗付していないために、再生シートの色相変化が少ないものの、防曇性能が全く無いものであった。比較例6では、造核剤を配合していない為に透明性が極めて悪く、さらに、防曇剤を塗布していない為に、防曇性能が全く無いものであった。
以上の各実施例のデータ、及び各比較例との対照結果より、本発明の防曇性プロピレン系樹脂シートが、従来の材料より、透明性や防曇性が優れ、かつ再生しても色相変化が少ないことが明白であり、本発明を構成する要件の合理性と有意性が実証され、従来技術への卓越性も明らかにされている。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上、説明したように、本発明によれば、透明性と防曇性に優れ、かつ再生使用しても変色や臭気の少ない防曇性プロピレン系樹脂シートが得られるため、経済性、環境性に優れ、食品日用品の包装や医療電子部品の分野に好適に使用することができ、その産業上の有用性は非常に高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0071】
【特許文献1】特開平4−339847号公報
【特許文献2】特開昭56−166234号公報
【特許文献3】特開昭57−80431号公報
【特許文献4】特公昭61−36864号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが0.1〜2mmのプロピレン系樹脂シートの少なくとも片面に、固形分量で0.02〜2g/mの炭素数6〜22の脂肪酸の蔗糖脂肪酸エステルからなる防曇剤を塗布してなる、再生使用しても変色や臭気の少ないプロピレン系樹脂シートであって、
上記プロピレン系樹脂シートは、MFRが0.2〜30g/10分のプロピレン系樹脂100重量部に対し、下記の一般式(1)で表される造核剤0.01〜0.5重量部の割合で配合してなるプロピレン系樹脂組成物から形成されている、炭素数6〜22の遊離脂肪酸の含有量が50ppm以下であることを特徴とする防曇性プロピレン系樹脂シート。
【化1】


[但し、式中、nは、0〜2の整数であり、R〜Rは、同一または異なって、それぞれ水素原子もしくは炭素数が1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン基およびフェニル基であり、Rは、炭素数が1〜20のアルキル基である。]
【請求項2】
前記プロピレン系樹脂が、プロピレン含量100〜90重量%とα−オレフィン含量0〜10重量%とのランダム共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の防曇性プロピレン系樹脂シート。
【請求項3】
α−オレフィンが、エチレンであることを特徴とする請求項2に記載の防曇性プロピレン系樹脂シート。
【請求項4】
0.35mm厚シートのヘイズ値(HAZE値)が10以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防曇性プロピレン系樹脂シート。
【請求項5】
請求項1の防曇性プロピレン系樹脂シートを再生してなる再生樹脂とプロピレン系樹脂とを含む再生プロピレン系樹脂組成物からなるプロピレン系樹脂シート。
【請求項6】
炭素数6〜22の遊離脂肪酸の含有量が50ppm以下であることを特徴とする請求項5に記載の再生プロピレン系樹脂組成物からなるプロピレン系樹脂シート。


【公開番号】特開2011−84613(P2011−84613A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237123(P2009−237123)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】