説明

防水コネクタ

【課題】電線周囲からの浸水の可能性を低減できる一括ゴム栓を備えた防水コネクタを提供すること。
【解決手段】防水コネクタ1は、コンタクトが収容される複数のキャビティ11が形成されたインナーハウジング10と、コンタクトに接続された電線Wが挿入されるシール孔31を有して電線Wが引き出される側に電線引き出し面300を有する一括ゴム栓30と、を備えている。一括ゴム栓30の電線引き出し面300には、高低差hが付けられることで一括ゴム栓30の外周端部35に向けて水を流す排水経路が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一括ゴム栓を備える防水コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
防水コネクタは、外部からの水、その他の液体(以下、本願において「水」と称する)の侵入を阻止するために、コネクタハウジング内に一括ゴム栓あるいはワイヤシールと称される部材を設けているものが知られている。この一括ゴム栓には、コネクタハウジングにおける複数のキャビティのそれぞれに対応する位置にシール孔が設けられており、コンタクトがこのシール孔を通ってキャビティに挿入されると、コンタクトに接続された電線がシール孔の内周縁に密着することで止水される。
【0003】
一括ゴム栓は、電線の周囲からの浸水を防ぐのに加えて、一括ゴム栓の周囲とコネクタハウジングの内周面との間からの浸水を防ぐ機能を有する。この一括ゴム栓とコネクタハウジングとの間の防水性をより確実にするための提案が特許文献1、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−153072号公報
【特許文献2】特開2009−259693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、特許文献2の提案により、一括ゴム栓を備えるコネクタの防水性を向上できるが、さらなる防水性の向上が望まれる。特に、一括ゴム栓の表面に水が溜まり続けると、防水コネクタが例えば自動車のエンジンルーム内のように高温および振動環境下で使用される場合には、一括ゴム栓や電線の劣化に伴う万一の浸水の可能性を否定できない。
本発明は、このような課題に基づいてなされたもので、電線周囲からの浸水の可能性を低減できる一括ゴム栓を備える防水コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の防水コネクタは、コンタクトが収容される複数のキャビティが形成されたコネクタハウジングと、コンタクトに接続された電線が挿入されるシール孔を有し、電線が引き出される側に電線引き出し面を有する一括ゴム栓と、を備えている。一括ゴム栓の電線引き出し面には、高低差が付けられることで一括ゴム栓の外周端部に向けて水を流す排水経路が設けられている。
【0007】
本発明によれば、電線の外周を伝って電線引き出し面に到達した水が、電線引き出し面の外周端部に向けて排水されるので、電線引き出し面の中央部における水の滞留を防止できる。これにより、中央部に多数配置されることの多い電線周囲からの浸水の可能性を低減できるので、一括ゴム栓の防水性を確実なものとできる。しかも、本発明は電線引き出し面に高低差を付けるだけで、コストを上昇させることがない。
【0008】
本発明の一括ゴム栓における排水経路は、種々の形態により実現できる。例えば、電線引き出し面に設けた傾斜面を排水経路とすることができるし、電線引き出し面に設けた階段状または台形状の段差を排水経路とすることもできる。これらの中で、傾斜面を排水経路とする形態は、外周端部に向けた排水を促進できるので、本発明による水の滞留防止の効果が高い。
ここで、本発明における傾斜面とは、平面に限るものではなく、円弧面、その他の曲面(断面曲線状の面)を包含する概念を形成している。
【0009】
本発明の一括ゴム栓における排水経路は、電線が引き出される向きに突出する頂上部を有し、この頂上部から両側に傾斜面が形成されていることが好ましい。
上記構成とは異なり、頂上部が一括ゴム栓の一端部に位置し、この一端部から他端部に向けて傾斜する傾斜面によって排水経路が形成されている形態を仮定すると、この形態では、排水経路の長さが一端部から他端部までの距離Lに相当する。これに対して、頂上部から両側に傾斜面が形成されている上記好ましい形態によると、1つの排水経路の長さを短くする(例えばL/2)ことができる。排水経路が短いと、その距離の短さと、排水経路上に配置される電線の数が少ないことから、排水される途中での電線や電線引き出し面(排水経路)への表面張力による水の付着を抑制し、排水効果を高めることができる。しかも、同じ高低差を付ける場合、上記好ましい形態では、排水経路の勾配を大きくすることができる点でも、排水効果を高められる。
その上、電線引き出し面の中央部に電線が密集して配置されることが多いところ、その中央部に、排水経路の始点となる頂上部が配置されていれば、電線が密集した部分が水の通過域に位置することを回避できる。このことによっても、電線への水の付着を抑制してスムーズに排水させることができるので、中央部の水の滞留をより効果的に防止できる。
【0010】
本発明の一括ゴム栓は、長手方向と、長手方向に直交する短手方向とを有する場合には、短手方向に沿って排水経路が形成されていることが好ましい。
本発明によれば、長手方向に沿って排水経路が形成されている場合よりも排水経路を短くできるので、排水効果を高めることができる。
【0011】
上述した頂上部から両側に傾斜面が形成されている形態は、頂上部を中心として外周端部に向けて傾斜した傾斜側面を有する錐体状の形態であってもよい。例えば、一括ゴム栓の長手方向と短手方向との両方に傾斜面を設けることにより、四角錐状の電線引き出し面が形成され、四角推の側面がそれぞれ排水経路を構成する。このような構成によれば、頂上部から外周端部に向けて放射状に排水できる。このため、例えば電線引き出し面が一括ゴム栓の長手方向においてのみ傾斜している場合と比べて水の滞留をより効果的に防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上述した一括ゴム栓によって電線周囲からの浸水の可能性を低くできるので、この一括ゴム栓を備える防水コネクタの防水性を高め、信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る防水コネクタの分解斜視図である。
【図2】防水コネクタを別の角度から見た分解斜視図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である(組み付け状態)。
【図4】一括ゴム栓を模式的に示す側面図である。
【図5】一括ゴム栓および電線の模式図である。
【図6】図4とは異なる傾斜態様を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1〜図3に示す防水コネクタ1は、インナーハウジング(コネクタハウジング)10と、一括ゴム栓30と、アウターハウジング50とを備えている。
【0015】
インナーハウジング10は、略直方体形状に形成されている。インナーハウジング10には、コンタクト(図示略)を収容するための、複数のキャビティ11が設けられている。図示を省略しているが、インナーハウジング10を貫通する各キャビティ11には、コンタクトを係止するハウジングランスが設けられている。
なお、防水コネクタ1において、相手側コネクタ(図示略)が嵌合される側を「前」、それとは反対側であって、コンタクトから電線が引き出される側を「後」と定義する。
【0016】
アウターハウジング50と対向するインナーハウジング10の後端周縁には、後方に向けて延びる周囲壁12が設けられており、この周囲壁12の内部が一括ゴム栓30を収容するシール収容凹部13を構成する。また、インナーハウジング10は、キャビティ11の貫通方向(前後方向)と直交する面に沿った底部14を有している。
【0017】
インナーハウジング10の内側には、リテーナ60が装着されるリテーナ収容凹部15が設けられている。リテーナ収容凹部15は、シール収容凹部13よりも前方に設けられている。
リテーナ60は、略板状に形成され、インナーハウジング10に固定されている。このリテーナ60は、インナーハウジング10に設けられたキャビティ11に対応する位置に形成された複数のコンタクト挿通孔61を有している。上述のコンタクトはリテーナ60によっても係止されている。
【0018】
また、インナーハウジング10の外側には、リング状のシール部材70がインナーハウジング10の外周面に密着して設けられている。シール部材70は、相手側コネクタ(図示略)の一部がインナーハウジング10とアウターハウジング50との間の受容溝17に挿入されて防水コネクタ1と嵌合したときに、相手側コネクタの相手側ハウジングとインナーハウジング10との間をシールするものである。
【0019】
さらに、インナーハウジング10の前側には、インナーハウジング10の前端面を覆うカバー20(図3に図示)が装着されている。カバー20には、相手側コンタクトが挿入される複数の相手側コンタクト挿入孔21が形成されている。
【0020】
アウターハウジング50は、インナーハウジング10に装着され、一括ゴム栓30を傷や汚れから保護している。アウターハウジング50において、キャビティ11に対応する位置には、複数の電線挿入孔51が設けられている。コンタクトに接続された電線W(図5)は、一括ゴム栓30に形成されたシール孔31と、この電線挿入孔51とを通って後方に引き出される。
なお、アウターハウジング50において電線挿入孔51が形成された領域の外周部には、一括ゴム栓30の位置決め用の複数のボスピン52(図2)が形成されている。一括ゴム栓30において各ボスピン52に対向する位置には、ピン挿入孔34(図1)が形成されている。
【0021】
一括ゴム栓30は、複数のコンタクトのそれぞれに接続された電線W(図5)の外周を一括して止水する防水部材であり、略板状に形成されてインナーハウジング10のシール収容凹部13内に収容され、コンタクトを覆っている。この一括ゴム栓30は、インナーハウジング10の底部14と平行に設けられている。
なお、一括ゴム栓30は、通常、エラストマ(Elastic Polymer)により作製されるが、防水機能を発揮できる材料であれば制限なく使用できる。
【0022】
この一括ゴム栓30は、キャビティ11に対応する位置にそれぞれ形成される複数のシール孔31と、インナーハウジング10の周囲壁12の内周面と対向する側面部32と、を有している。
シール孔31は、キャビティ11と同軸上に一括ゴム栓30を貫通している。キャビティ11に収容されたコンタクトに接続された電線Wは、シール孔31を通ってアウターハウジング50側に引き出される。各シール孔31の内壁部33は、周方向に沿った複数の突条33a,33b(図5)を有して波状に形成され、電線Wの外周面に密着している。
側面部32は、周囲壁12の内周面に密着する複数の突条32a,32b,32c(図5)を有している。これらのシール孔31および側面部32により、一括ゴム栓30において電線Wが引き出される後方側に位置する電線引き出し面300からインナーハウジング10内部への浸水を阻止することができる。
一括ゴム栓30において、上記で定義した「前」は、各コンタクトが位置する側であり、「後」は、コンタクトから電線Wが引き出される側を意味する。
【0023】
図3〜図5に示すように、一括ゴム栓30の電線引き出し面300は、側面部32と隣り合う外周端部35と、この外周端部35の内側の領域であり、電線引き出し面300の中心を含む中央部36とを有している。
中央部36は、一括ゴム栓30の長手方向(図4の左右方向)の略中央に、コンタクトから電線Wが引き出される向きに突出する頂上部37を有している。電線引き出し面300は、長手方向においてこの頂上部37を挟んで両側に、頂上部37から外周端部35に向けて下降する傾斜面38,39を有している。つまり、電線引き出し面300は、頂上部37を頂点とする断面山形に傾斜しており、頂上部37と外周端部35とには、高低差hがある。この高低差hは、コンタクトから電線Wが引き出される向きを基準としており、頂上部37は、一括ゴム栓30において最も高い位置に存在する。なお、電線Wは、コンタクトが位置する前側から、シール孔31および電線挿入孔51を経て後方に引き出された後、その引き出し方向に延伸、あるいは適宜な方向に屈曲されて延出する。
【0024】
高低差h、すなわち傾斜面38,39の傾斜角度は適宜決められるが、本実施形態における傾斜角度は、最も後側に位置する突条32cの後端縁32eと、頂上部37とを結ぶ線に沿って規定される。このようにして、傾斜面38,39が突条32cに干渉するのを回避し、側面部32におけるシール性を確保している。
【0025】
本実施形態の防水コネクタ1は、電線引き出し面300に高低差hが付けられたことで形成された傾斜面38,39を有する一括ゴム栓30を備えている。したがって、外部から電線Wを伝って電線引き出し面300に水が到達したとしても、傾斜面38,39が排水経路として機能し、外周端部35に向けて水が排水されるので、中央部36に水が滞留するのを防止できる。このため、中央部36に多数設けられた電線W周囲からの浸水の可能性を低減できる。
【0026】
ここで、図6に示す一括ゴム栓40のように、その長手方向の一端部(頂上部)301から他端部(外周端部)302に向けて下降する傾斜面48を排水経路とする場合にも、水の滞留を防止できる。この形態は、例えば、他端部302に、シール孔31が形成されていない平坦な領域が一端部301側と比べて広く確保されている場合に有効である。つまり、電線引き出し面300においてシール孔31が形成されていない平坦な部分に水が集められることにより、シール孔31を介した万一の浸水の可能性が極めて低くなる。
【0027】
ただし、以下に説明するように、排水効果の点では、図4に示した一括ゴム栓30の方が優れている。図6の一括ゴム栓40では、排水経路の長さが一端部301から他端部302までの距離Lである。これに対して、図4の一括ゴム栓30では、各々排水経路を構成する傾斜面38または傾斜面29の長さがそれぞれ、頂上部37から一端部301までの距離、または、頂上部37から他端部302までの距離となる。一括ゴム栓30,40のサイズが同じだとすれば、図4の一括ゴム栓30における1つの排水経路の長さはL/2となる。しかも、排水経路の長さが短いことで、排水経路上を流れる水が通過する電線Wの数が、図6の一括ゴム栓40に比べて少ない。さらに、同じ高低差hを付けることを前提とすると、図4の一括ゴム栓30は、図6の一括ゴム栓40よりも勾配(傾斜角度)が二倍大きい。
その上、図6の一括ゴム栓40では、電線Wが密集することの多い中央部36が、一端部301から他端部302までの排水経路の中間に位置するが、図4の一括ゴム栓30では、電線Wが密集することの多い中央部36に配置された頂上部37を始点に水が流れるのであって、電線Wが密集した部分が水の通過域に位置することを回避できる。
図4の構成によれば、上記に列挙した点で、排水経路の途中で表面張力により水が電線引き出し面300や電線Wに付着することを抑制し、特に水はけを良くできるので、中央部36における水の滞留をより確実に防止できる。
【0028】
本発明における排水経路は、上述した構成に限らず、以下の形態をも包含する。
図4、図6に示した一括ゴム栓30,40では、長手方向に沿って傾斜面が形成されていたが、短手方向に沿って傾斜面を形成することもできる。この場合には、長手方向に沿った傾斜面よりも排水経路を短くできるとともに、上述した突条32cとの干渉の関係から勾配を大きくできるので排水効果の点で有利となる。
また、排水経路が、頂上部を頂点とする円錐や角錐の側面から形成されていてもよい。そうすることにより、頂上部から外周端部に向けて放射状に排水されるので、排水効果が向上する。
【0029】
なお、本発明の傾斜面は、上述した傾斜面38,39,48のように平面に限らない。例えば、頂上部37から外周端部35に向けて下降する円弧面も本発明における傾斜面に包含され、上記と同等の排水効果を得ることができる。また、電線引き出し面が階段状または台形状に形成されていてもよく、このような構成の排水経路によっても、外周端部35に向けて排水することができる。
【0030】
上記実施の形態では、防水コネクタ1の各部の構成を示したが、例えばインナーハウジング10、アウターハウジング50の形態はあくまで例示であり、一括ゴム栓が装着されるいかなる形態の防水コネクタにも本発明を適用できることは言うまでもない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 防水コネクタ
10 インナーハウジング
11 キャビティ
12 周囲壁
13 シール収容凹部
14 底部
15 リテーナ収容凹部
17 受容溝
30,40 一括ゴム栓
31 シール孔
32 側面部
32a〜32c 突条
32e 後端縁
33 内壁部
34 ピン挿入孔
33a,33b 突条
35 外周端部
36 中央部
37 頂上部
38,39,48 傾斜面
50 アウターハウジング
51 電線挿入孔
52 ボスピン
60 リテーナ
61 コンタクト挿通孔
70 シール部材
300 電線引き出し面
301 一端部
302 他端部
h 高低差
W 電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトが収容される複数のキャビティが形成されたコネクタハウジングと、
前記コンタクトに接続された電線が挿入されるシール孔を有し、前記電線が引き出される側に電線引き出し面を有する一括ゴム栓と、を備え、
前記一括ゴム栓の前記電線引き出し面には、
高低差が付けられることで前記一括ゴム栓の外周端部に向けて水を流す排水経路が設けられている、
ことを特徴とする防水コネクタ。
【請求項2】
前記排水経路は、
前記電線引き出し面に形成された傾斜面からなる、
請求項1に記載の防水コネクタ。
【請求項3】
前記排水経路は、
前記電線が引き出される向きに突出する頂上部を有し、
前記傾斜面は、
前記頂上部から両側に形成されている、
請求項2に記載の防水コネクタ。
【請求項4】
前記一括ゴム栓は、長手方向と、前記長手方向に直交する短手方向と、を有し、
前記排水経路は、前記短手方向に沿って形成されている、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の防水コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−45567(P2013−45567A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181720(P2011−181720)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000227995)タイコエレクトロニクスジャパン合同会社 (340)
【Fターム(参考)】