説明

防汚塗料組成物の製造方法

【課題】塗膜にクラックが発生しにくく、塗膜付着性が良好で塗膜剥離が起きにくく、塗膜の加水分解速度が良好に制御され、防汚性能、特に高汚損環境下における防汚性、長期防汚性に優れた防汚塗膜が得られうるとともに、組成物自体の貯蔵安定性が高く、塗料組成物の高濃度化が可能であり、かつ塗料組成物に使用される溶剤量を低減化することができる上に、塗装性に優れた防汚塗料組成物の製造方法。
【解決手段】[A]重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位を含有
するシリルエステル共重合体、[B]カルボン酸、[C]二価または三価の金属化合物、脱水剤[D]を含有する防汚塗料組成物の製造方法。[C]が、前記カルボン酸[B]中のカルボキシル
基1当量に対して、該[C]を構成する金属の当量数として、1.2当量以上となる量で含
まれ、[C]が、二価の金属化合物であり、[C]が、亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリルエステル系共重合体を含有する防汚塗料組成物、この防汚塗料組成物から形成されている防汚塗膜、該防汚塗料組成物を用いた防汚方法および該塗膜で被覆された船体または水中構造物に関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、塗料の貯蔵安定性が良好であり、低粘度のため塗料に使用する溶剤を低減することができ、塗膜にクラックが発生しにくく、塗膜付着性が良好で塗膜剥離が起きにくく、塗膜の加水分解速度が良好に制御され、防汚性能(防汚活性)あるいは防汚性のうち特に静置環境下および高汚損環境下における防汚性や、長期防汚性に優れた防汚塗膜が得られる防汚塗料を製造しうる防汚塗料組成物、この防汚塗料組成物から形成されている防汚塗膜、該防汚塗料組成物を用いた防汚方法および該塗膜で被覆された船体または水中構造物に関する。
【背景技術】
【0003】
船底、水中構造物、漁網などは、水中に長期間さらされることにより、その表面に、カキ、イガイ、フジツボ等の動物類、ノリ(海苔)等の植物類、あるいはバクテリア類などの各種水棲生物が付着・繁殖すると、外観が損ねられ、その機能が害されることがある。
【0004】
特に船底にこのような水棲生物が付着・繁殖すると、船全体の表面粗度が増加し、船速の低下、燃費の拡大などを招くことがある。また、このような水棲生物を船底から取り除くには、多大な労力、作業時間が必要となる。また、バクテリア類が水中構造物などに付着・繁殖し、さらにそこにスライム(ヘドロ状物)が付着して腐敗を生じたり、さらに大型の付着生物が鉄鋼構造物などのような水中構造物の表面に付着・繁殖してその水中構造物の腐食防止用の塗膜などを損傷すると、その水中構造物の強度や機能が低下し寿命が著しく低下する等の被害が生ずるおそれがある。
【0005】
従来では、このような被害を防止すべく、船底などには防汚性に優れた防汚塗料として、たとえば、トリブチル錫メタクリレートとメチルメタクリレート等との共重合体と、亜酸化銅(Cu2O)とを含有するものが塗布されていた。この防 汚塗料中の該共重合体は、海水中で加水分解されてビストリブチル錫オキサイド(トリブチル錫エーテル,Bu3
Sn-O-SnBu3:Buはブチル基)あるいはトリブチル錫ハロゲン化物(Bu3SnX:Xはハロゲン原子)等の有機錫化合物を放出して防汚効果を発揮するとともに、加水分解された共重合体自身も水溶性化して海水中に溶解していく「加水分解性自己研磨型塗料」であるため、船底塗装表面は、樹脂残渣が残らず、常に活性な表面を保つことができる。
【0006】
しかしながら、このような有機錫化合物は、毒性が強く、海洋汚染、奇形魚類や奇形貝類の発生、食物連鎖による生態系への悪影響などが懸念され、これに代わり得るような錫を含有しない防汚塗料の開発が求められている。
【0007】
このような錫を含有しない防汚塗料としては、たとえば、(ア)特開平4-264170
号公報、(イ)特開平4-264169号公報、(ウ)特開平4-264168号公報に記載のシリルエステル系防汚塗料が挙げられる。しかしながら、これらの防汚塗料には、(エ)特開平6-157941号公報、(オ)特開平6-157940号公報などにも教示されているように、防汚性に劣り、クラック、剥離が生ずるとの問題点がある。
【0008】
また、(カ)特開平2-196869号公報には、例えば、トリメチルシリルメタクリレ
ート、エチルメタクリレートおよびメトキシエチルアクリレートをアゾ系重合開始剤の存在下に共重合してなり、トリオルガノシリルカルボキシレートエステル基であるトリメチルシリル基によりブロックされたカルボン酸基を含有するブロックされた酸官能性コポリマー(A)と、多価金属の有機溶媒可溶性塩である多価カチオンの化合物(B)と、殺生物剤と、を含有する防汚塗料などが教示されている。この防汚塗料は、塗料中の水分によりカルボン酸基をブロックしているトリメチルシリル基等が外れ、多価カチオンが酸官能性ポリマー(A)中の生じたカルボン酸基との間で反応して架橋・硬化する。しかしながら、この公報には、塗料中にカルボン酸と亜鉛華(酸化亜鉛)を配合する等により発生する水の処理法については記載がなく、また、防汚塗料中にフリーの酸が残存しているとフリー酸と反応して水を生成する成分が配合されている場合には、ゲル化、増粘などによる貯蔵安定性不良、性能低下などが生ずるとの問題点がある。また、酸官能性コポリマー(A)が加水分解され、生じた酸基に多価カチオンが架橋反応すると、酸官能性コポリマーの溶出が抑制され、塗膜の研掃性が低下し、長期防汚性が低下するという問題点がある。
【0009】
このように該公報に記載の防汚塗料は、貯蔵安定性が乏しく、また得られる塗膜は、耐クラック性が充分満足しうるものではないという問題点がある。
(キ)特表昭60-500452号および特開昭63-215780号公報には、(メタ)アクリル酸のトリアルキルシリルエステルなどのオルガノシリル基を有するビニル系単量体などを他のビニル系単量体と共重合させてなり、数平均分子量が3000〜40000の防汚塗料用樹脂が記載され、さらにオルトギ酸トリメチル等の有機系水結合剤、酸化第一銅等の防汚剤、ベンガラ等の顔料などを配合し得る旨記載されているが、上記(オ)特開平6-157940号公報にも記載されているように、この防汚塗料用樹脂は、貯蔵中に
ゲル化しやすく、この防汚塗料から形成される塗膜は、耐クラック性、耐剥離性に劣るとの問題点がある。
【0010】
また上記(キ)特表昭60-500452号に対応する特公平5-32433号公報には、毒物(a)と、式([−CH2-CX(COOR)−(B)−]:XはHまたはCH3であり、RはSiR'3またはSi(OR')3でR'はアルキル基などを示し、Bはエチレン性不飽和単量
体残基を示す)で表される反復単位を有し、特定の加水分解速度などを有する重合体結合材(b)とからなる防汚塗料が開示され、さらに溶剤、水感受性顔料成分、不活性顔料、充填剤、遅延剤を含有し得る旨記載されているが、この公報記載の防汚塗料から得られる塗膜は、耐クラック性に劣るとの問題点がある。
(ク)特開平3−31372号公報(特許第2775862号)には、式(I):「CH3=C(X)−C(=O)−OR」{式中、X:H、−CH3であり、Rは式(a):
【0011】
【化1】

【0012】
[式(a)中、n:0または1、m:0以上の実数、R1〜R3:アルキル、アルコキシル、
フェニル等の基、R4〜R5:R1〜R3と同様の基または(b):
【0013】
【化2】

【0014】
(式(b)中、R6〜R8:R1〜R3と同様の基または式(b)の基)
で表されるオルガノシロキサン基の中から選ばれる基、m個のR4〜R5は同一でも異なってもよい。]で表される有機基}
で示される単量体Aの重合体および/または、該単量体Aとこの単量体Aと共重合しうるビニル重合性単量体Bとの共重合体ABと、防汚剤と、表面活性剤とを含有する生物付着防止塗料組成物が開示されている。この表面活性剤としては、−5℃以上の融点を有するC8以上の脂肪酸およびそのエステルなどが挙げられている。また、該塗料組成物中に含まれている重合体Aや共重合体ABは、水が存在していると加水分解してしまうため、塗料化する際に、防汚剤や顔料中に含まれる水分を捕捉するために、水結合剤を添加することが望ましいと記載され、オルトギ酸トリエチル、テトラエチルシリケート((C25O−)4Si)等が挙げられている(なお、対応する特許第2775862号では、水結
合剤も必須成分)。
【0015】
なお、該塗料組成物では、水分の由来源としては、上記のように防汚剤や顔料中に含まれる水分だけでなく、脂肪酸と、顔料例えば酸化亜鉛(ZnO)との反応によっても生成してくる水分もある。このように、この公報に記載の塗料組成物では、その調製過程(塗料化中)で、水が発生してくることがあるが、水結合剤の加水分解性エステル化合物あるいはエーテル化合物は、加水分解後アルコールが生成するため、シリルエステル構造の重合体の場合には、エステル交換によりポリカルボン酸を形成する可能性や加水分解により副生するシラノールと脱水縮合によりアルコキシシリル化合物を形成するために新たに水分を発生する可能性が高くなり、貯蔵安定性に乏しく、また、得られる塗膜は、長期防汚性に乏しいという問題点がある。
【0016】
(ケ)特開平6−340511号公報には、水への溶解度が特定の範囲にある有機酸の金属塩を含有する海中生物防汚剤が開示され、この有機酸としてはC7〜C10の飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられ、有機酸金属塩を形成する金属としては、周期律表Ib、IIa、IIb、IIIa、IIIb、IVa、IVb、Va、Vb、VIa、VIb、VIIa、VIII族に属する、Cu、Zn、Niなどが挙げられている。
【0017】
また、該海中生物防汚剤を使用する際には、油性系ワニス、塩化ゴム系樹脂ワニスなどのビヒクルに溶解させて使用できると記載されている。
しかしながら、該公報には、塗膜形成成分として、重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位を含有するシリルエステル共重合体を用いた態様については、何ら記載も示唆もされていない。現に、この金属塩(海中生物防汚剤)のみをシリルエステル共重合体に配合しても、得られる防汚塗料組成物は、貯蔵安定性が乏しいという問題点がある。
【0018】
(コ)特開平7-18216号公報には、(A)分子内に、式(I):-COO-SiR123(R1〜R3は炭素数1〜18のアルキル基などを示す)で表されるトリ有機珪素エステル基を有する有機珪素含有単量体Aの重合体と、(B)銅または銅化合物とを主成分とする塗料
組成物において、上記の(A),(B)成分以外の必須成分として、(C)式:
【0019】
【化3】

【0020】
(上記(C)中、R4〜R6は水素原子、炭素数1〜18のアルコキシ基、シクロアルコキ
シ基、などを示し、R7は炭素数1〜18のアルキル基などを示し、nは1〜3の整数を
示す)で表されるアルコキシ基含有珪素化合物を含有した塗料組成物が開示されている。また、該公報には、上記式(I)で表される基を有する単量体Aと共重合可能なビニル系
単量体Bとの共重合体ABが含まれていてもよい旨記載され、単量体Bとして、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられている。また、上記銅または銅化合物(B)としては、銅粉等の他に、ナフテン酸銅などが挙げられ、また上記アルコキシ基
含有珪素化合物(C)としては、テトラエトキシシラン、テトラn−ブトキシシランなどが
挙げられている。また、該塗料組成物には、酸化亜鉛等の顔料やロジン等の樹脂などが含まれていてもよい旨記載されている。
【0021】
しかしながら、このアルコキシ基含有珪素化合物(C)は、塗料中に水分が存在すると、
この水分と加水分解反応してアルコールになってしまい、塗料及び塗膜中への水分を増大させるための悪影響が懸念される上、加水分解後のシラノールは、シラノール同士の縮合反応により再び水を生成すると言う問題点がある。
【0022】
また、該公報には、シリルエステル共重合体、カルボン酸、二価または三価の金属化合物、および脱水剤を組み合わせて用いた防汚塗料組成物は具体的には、何ら記載も示唆もなく、また該公報に具体的に記載されているような塗料組成物から得られる塗膜は、耐クラック性や防汚性あるいは防汚性のうち特に静置環境下および高汚損環境下における防汚性に劣るとの問題点もある。
【0023】
なお、(サ)特開平7-102193号公報には、式:X−SiR123(ただし、式
中R1〜R3はいずれもアルキル基、アリール基の中から選ばれた基であって、互いに同一の基であっても異なる基であってもよい。Xはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基またはフマロイルオキシ基である。)で表される単量体Aと、
式:Y−(CH2CH2O)n−R4(ただし、R4はアルキル基またはアリール基であり、
Yはアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基であり、nは1〜25の整数である。)で表される単量体Bとを含む単量体混合物の共重合体と、防汚剤とを必須成分として含有する塗料組成物が開示されている。さらに、該防汚剤としては、無機化合物として亜酸化銅、銅粉等の銅化合物、硫酸亜鉛、酸化亜鉛等が挙げられ、金属を含む有機化合物としてオキシン銅等の有機銅系化合物;有機ニッケル系化合物;ジンクピリチオン等の有機亜鉛系化合物;が挙げられている。しかしながら、該公報に記載の塗料では防汚性あるいは静置環境下および高汚損環境下における防汚性に劣るとの問題点がある。
【0024】
(シ)特開平8-199095号公報には、上記特開平7-102193号公報に記載の式(1):X−SiR123で表される単量体Aと、
式(2):Y−(CH(R4))−(OR5)(ただしR4はアルキル基、R5はアルキル基また
はシクロアルキル基である。Yはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基またはフマロイルオキシ基である。)で表される単量体Bと、必要によりこれらA、Bと共重合可能なビニル系単量体Cとを含む単量体混合物の共重合体と、防汚剤とを必須成分として含有する塗料組成物が開示されている。このビニル系単量体Cとしては、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられている。さらに、該防汚剤としては、無機化合物として亜酸化銅、銅粉等の銅化合物、硫酸亜鉛、酸化亜鉛等が挙げられ、金属を含む有機化合物としてオキシン銅等の有機銅系化合物;有機ニッケル系化合物;ジンクピリチオン等の有機亜鉛系化合物;が挙げられている。
【0025】
(ス)特開平8-269388号公報には、式(1):X−SiR123(ただし、式中
1〜R3はいずれも炭素数1〜20の炭化水素基であって、互いに同一の基であっても異なる基であってもよい。Xはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基、フマロイルオキシ基またはイタコノイルオキシ基である。)で表される単量体Aと、式(2):Y−(CH2CH2O)n−R4(ただしR4はアルキル基またはアリー
ル基であり、Yはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基、フマロイルオキシ基またはイタコノイルオキシ基であり、nは1〜25の整数である。)で表される単量体Bとを含む単量体混合物の共重合体と、ビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)銅塩(:銅ピリチオン)とを、必須成分として含有する塗料組成物が開示されている。さらに、上記単量体Aとして、ジメチル−t−ブチルシリルアクリレート等が挙げられ、上記防汚剤としては、無機化合物として亜酸化銅、銅粉等の銅化合物、硫酸亜鉛、酸化亜鉛等が挙げられ、金属を含む有機化合物としてオキシン銅等の有機銅系化合物;有機ニッケル系化合物;ジンクピリチオン・等の有機亜鉛系化合物;が挙げられている。また、添加可能な溶解速度調整剤としてロジン、ロジン誘導体などが挙げられている。しかしながら該公報に記載の塗料からなる塗膜では、静置環境での防汚性が充分でなく、塗料の貯蔵性の点などで更なる改良の余地がある。
【0026】
(セ)特開平8-269389号公報には、トリオルガノシリル基を有する不飽和単量体
Aと、下記式(2)〜(9)の何れかで表される単量体Bとを含む単量体混合物の共重合体と、防汚剤とを含有する塗料組成物が開示されている。各単量体Bは、それぞれ下記の通りである。
【0027】
式(2)CH2=CR4COOR5−NR67(R4は、HまたはCH3を示し、R5はアルキ
レン基を示し、R6、R7は、アルキル基であって、互いに同一でも異なっていてもよい。)で示される三級アミノ基含有単量体、
式(3)CH2=CR8COOR9−NR101112(Y)(R8はHまたはCH3を示し、R9はアルキレン基を示し、R10〜R12は、アルキル基であって、互いに同一でも異なっ
ていてもよく、Yはハロゲン原子を示す。)で示される四級アンモニウム塩含有単量体、
式(4)CH2=CH−Z(ZはN含有複素環からなる基を示す。)で示される窒素含有複素環を含む単量体、
式(5)CH2=CR13COO(R14O)m(R15O)n(R16O)o−R17(R13は、H、CH3を示し、R14はエチレン基を示し、R15は炭素数3のアルキレン基を示し、R16は炭素数4のアルキレン基を示し、R17はアルキル基、アリール基を示す。m、n、oは0以上の整数でn、oは同時に0でない。)で示される分子内にアルコキシ基またはアリーロキシアルキレングリコール基を有する単量体、
式(6)CH2=CR18CONR1920(R18は、H、CH3を示し、R19、R20は、ア
ルキル基であり互いに同一でも異なっていてもよい。)で示される(メタ)アクリル酸アミド、
式(7)CH2=CR21CON()Q(R21は、H、CH3を示し、N()Qは、N含有
基で、QにO、N、S等を含有してもよい。)で示される窒素含有環状炭化水素基を含む
(メタ)アクリル酸アミド、
式(8)CH2=CR23COOCH2−T(R23は、H、CH3を示し、Tは、フラン環、テトラヒドロフラン環を示す。)で示されるフラン環含有(メタ)アクリル酸系エステル、
式(9)CH2=CH−CN。
【0028】
また、上記単量体A、Bと共重合可能な任意成分として、アクリル酸、アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等種々の共重合性モノマーが挙げられている。
【0029】
またその実施例には、トリn−ブチルシリルアクリレート(TBSA)とジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)とメチルメタクリレート(MMA)とからなる共重合体や、トリn
−ブチルシリルアクリレート(TBSA)とN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)とメチルメ
タクリレート(MMA)とからなる共重合体等が示されている。
【0030】
また、該組成物に配合可能な成分として、上記特開平8-269388号公報に記載の
防汚剤と同様の防汚剤が挙げられている。
(ソ)特開平8-269390号公報には、式(1):X−SiR123(ただし、式中R1〜R3は何れもアルキル基、アリール基の中から選ばれた基であって、互いに同一の基であっても異なる基であってもよい。Xはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基、フマロイルオキシ基またはイタコノイルオキシ基である。)で表される単量体Aを用いた重合体と、
式(2):Y−(CH2CH2O)n−R4(ただしR4はアルキル基またはアリール基であ
り、Yはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基、フマロイルオキシ基またはイタコノイルオキシ基であり、nは1〜25の整数である。)で表される単量体Bを用いた重合体と、
防汚剤とを含む塗料組成物が開示されている。上記防汚剤としては、上記特開平8-2
69388号公報に記載の防汚剤と同様の防汚剤が挙げられている。また、添加可能な成分としてロジン等の樹脂、沈降防止剤などが挙げられている。しかしながら、該公報に記載の塗料組成物よりなる塗膜では、静置環境での防汚性の点で更なる改良の余地があり、また塗料の貯蔵安定性の点で改良の余地がある。
【0031】
(タ)特開平8-277372号公報には、前記(11):特開平8-269388号公報に記載の式(1):X−SiR123で表される単量体Aと、同じく同公報に記載の式(2
):Y−(CH2CH2O)n−R4で表される単量体Bとを含む単量体混合物の共重合体と、トリフェニルボロンピリジン錯体とを含有し、樹脂成分および海棲生物付着阻害剤が金属を含まない重合体および金属を含まない有機系阻害剤のみで構成された塗料組成物が開示されている。また、添加可能な溶解速度調整剤としてロジン、ロジン誘導体などが挙げられている。しかしながら、該公報に記載の塗料組成物からなる塗膜では、静置環境での防汚性の点で充分でなく、また塗料の貯蔵安定性の点で改良の余地がある。
【0032】
(チ)特開平10-30071号公報には、(A)ロジン、ロジン誘導体またはロジン金属塩からなるロジン系化合物の1種または2種以上と、(B)式(1):X−SiR123(た
だし、式中R1〜R3は何れもアルキル基、アリール基の中から選ばれた基であって、互いに同一の基であっても異なる基であってもよい。Xはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基、フマロイルオキシ基、イタコノイルオキシ基、シトラコノイルオキシ基である。)で表される単量体Mの1種または2種以の重合体、および/または、該単量体Mの1種または2種以上とそれ以外の重合性単量体の1種または2種以上との重合体からなる有機シリルエステル基含有重合体と、(C)防汚剤とを含む塗料
組成物が開示されている。上記防汚剤としては、上記特開平8-269388号公報に記
載の防汚剤と同様の防汚剤である、酸化亜鉛、ナフテン酸銅など、有機系や無機系の広範なものが挙げられている。また、添加可能な成分として、顔料、水結合剤、塩素化パラフィン、沈降防止剤などが挙げられている。
【0033】
しかしながらこれら(サ)〜(チ)には、塗料の貯蔵安定性や塗膜の耐クラック性、耐剥離性(塗膜付着性)、防汚性能あるいは防汚性のうち特に静置環境下における防汚性や、長期防汚性、自己研磨性などのバランスの点で充分でない。
【0034】
さらに、(ツ)特公平5−82865号公報には、共重合可能な任意成分として、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等が挙げられている。また(テ)特開平9−48947号公報、(ト)特開平9−48948号公報、(ナ)特開平9−48949号公報、(ニ)特開平9−48950号公報、(ヌ)特開平9−48951号公報、(ネ)特公平5−32433号公報、(ノ)USP4,593,055、(ハ)特開平2−1968669号公報、(ヒ)WO91/14743には、シリル(メタ)アクリレート系共重合体が記載されている。しかしながら、これら公報(ツ)〜(ヒ)に記載の共重合体を用いた防汚塗料では、塗料の貯蔵安定性や塗膜の耐クラック性、耐剥離性(塗膜付着性)、防汚性能あるいは防汚性のうち特に静置環境下および高汚損環境下における防汚性や、長期防汚性、自己研磨性などのバランスの点でさらなる改良の余地がある。
【0035】
また、(フ)特開昭63−215780号公報には、共重合成分としてメチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、アクリルアミド等を用いた共重合体が示され、該共重合体と亜酸化銅とを配合した防汚塗料が示されているが、上記公報に記載の防汚塗料などと同様の問題点がある。
【0036】
さらに、(ヘ)特開平10−30071号公報には、(A)ロジン誘導体またはロジン金属
塩からなるロジン系化合物と、(B)XSiR123(式中、R1〜R3は、互いに同一であ
っても異なっていてもよくアクリル基またはアリール基を示し、Xはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基、フマロイルオキシ基、イタコノイルオキシ基またはシトラコノイルオキシである)で表される単量体の(共)重合体からなる有機シリルエステル基含有重合体と、(C)酢酸銅、酢酸ニッケルなどの防汚剤とを含む
塗料組成物が開示されている。
【0037】
また、(ホ)特開平11−335619号公報には、下記式(1)で表されるトリオルガノ
シリル基含有単量体と、該単量体と共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体との共重合体と、カルボキシル基含有一塩基酸および金属含有防汚剤を含む防汚塗料組成物が開示されている。
【0038】
【化4】

【0039】
(式中、R1はHまたはCH3であり、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、炭素数
1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびアリール基からなる群から選ばれる基で
ある)
また、(マ)特開平11−343451号公報には、下記式(2)で表されるトリオルガノ
シリル基含有単量体と、該単量体と共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体との共重合体と、カルボキシル基含有一塩基酸および金属含有防汚剤を含む防汚塗料組成物が開示されている。
【0040】
【化5】

【0041】
(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキル基、シク
ロアルキル基およびアリール基からなる群から選ばれる基である)
また、(ミ)特開2000−63737号公報には、上記式(1)で表されるトリオルガノ
シリル基含有単量体と、該単量体と共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体との共重合体と、カルボキシル基含有一塩基酸の金属石鹸および金属含有防汚剤を含む防汚塗料組成物が開示されている。
【0042】
このような(ヘ)〜(ミ)の公報に記載された防汚塗料組成物では、貯蔵安定性が充分でなく、また塗料粘度の低粘度化が困難なために溶剤を多く使用する必要があった。とくに最近では、環境に配慮して塗料組成物に使用される溶剤量を少なくすることが望まれているが、(ヘ)〜(ミ)の公報に記載された防汚塗料組成物では、低溶剤型塗料を調製することが困難であるという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0043】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、塗膜にクラックが発生しにくく、塗膜付着性が良好で塗膜剥離が起きにくく、塗膜の加水分解速度が良好に制御され、防汚性能(防汚活性)あるいは防汚性のうち特に高汚損環境下における防汚性や、長期防汚性に優れた防汚塗膜が得られうるとともに、塗料組成物の貯蔵安定性が高く、塗料組成物の高濃度化が可能であり、かつ塗料組成物に使用される溶剤量を低減化することができる上に、塗装性(一回の塗装で均一な厚い膜を形成できる)に優れた防汚塗料組成物を提供することを目的としている。
【0044】
さらに本発明は、このような防汚塗料組成物から形成されている防汚塗膜、該防汚塗料組成物を用いた防汚方法および該塗膜で被覆された船体または水中構造物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0045】
本発明に係る防汚塗料組成物は、
[B]カルボン酸と[C]二価または三価の金属化合物とを接触させ、
次いで、得られた組成物と、[A]重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位を含有するシリルエステル共重合体と、カルボン酸[B]中のカルボキシル基1当量に対して0.15〜50当量の[D]脱水剤とを、攪拌、混合または分散して得られることを特徴としている。
【0046】
また、本発明に係る防汚塗料組成物は、[B]カルボン酸と、[C]二価または三価の金属
化合物と、カルボン酸[B]中のカルボキシル基1当量に対して0.15〜50当量の[D]脱水剤とを接触させ、
次いで、得られた組成物と、[A]重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位を含有するシリルエステル共重合体とを、攪拌、混合または分散して得られることを特徴としている。
【0047】
本発明においては、上記二価または三価の金属化合物[C]が、前記カルボン酸[B]中のカルボキシル基1当量に対して、該金属化合物[C]を構成する金属の当量数として、1.2
当量以上となる量で含まれていることが好ましい。
【0048】
本発明においては、前記二価または三価の金属化合物[C]が、二価の金属化合物である
ことが好ましく、さらには、亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物であることが好ましい。
【0049】
本発明においては、前記カルボン酸[B]が、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジ
ヒドロアビエチエン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ノルアガテン酸、アガテンジカルボン酸、アガテンジカルボン酸モノアルキルエステル、セコデヒドロアビエチン酸およびそれらの異性体の内から選択される少なくとも1種のカルボン酸を含有する樹脂酸または樹脂酸誘導体であるか、
前記カルボン酸[B]が、イソノナン酸、バーサチック酸、ナフテン酸、オレイン酸、リ
ノール酸、リノレン酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸の内から選択される少なくとも1種の有機酸(樹脂酸を除く)であることが好ましい。
【0050】
本発明においては、脱水剤[D]が、無機脱水剤であることが好ましい。
本発明においては、重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位(a)が、下記式(I)で表されるシリル(メタ)アクリレートから誘導される成分単位を含有
することが好ましい。
【0051】
【化6】

【0052】
(式(I)中、R1は、水素またはメチル基を示し、R2、R3、R4は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、アルキルシリルオキシ基の何れかを示す。)
本発明においては、前記式(I)中、R2が分岐アルキル基またはシクロアルキルであ
ることが好ましい。
【0053】
本発明においては、前記シリルエステル共重合体(A)が、重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位(a)とともに、極性基含有(メタ)アクリレートか
ら誘導される成分単位(b)を含有することが好ましい。
【0054】
また、この極性基含有(メタ)アクリレートから誘導される成分単位(b)が、下記式(II)で表される成分単位であることが好ましい。
【0055】
【化7】

【0056】
[式(II)中、R5は、水素原子またはメチル基を示し、Zは、酸素原子または−NR7を示し、Zが酸素原子である場合には、R6は置換基を有していてもよいヒドロキシアルキ
ル基、ヒドロキシシクロアルキル基または式:―(R8O)nHで表されるポリアルキレングリコール基(ただし、R8は、アルキレン基であり、nは2〜50の整数を示す)または
式:―(RxO)nyで表されるアルコキシポリアルキレングリコール基(ただし、Rxはアルキレン基であり、Ryはアルキル基であり、nは1〜100の整数を示す)を示し、Z
が−NR7である場合には、R7は、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、置換アミノ基、アシル基、アルコキシ基の何れかで置換されていてもよいアルキル基を示し、R6は水
素原子を示す。]
【0057】
本発明においては、前記シリルエステル共重合体(A)が、下記式(I-a)で表される
シリル(メタ)アクリレート成分単位(a-1):
【0058】
【化8】

【0059】
(式(I-a)中、R10は、水素原子またはメチル基を示し、R11およびR12は、それぞ
れ独立に、炭素数が1〜10の直鎖アルキル基または置換されていてもよいフェニル基またはトリメチルシリルオキシ基を示し、R13は、環構造または分岐を有していてもよい炭素数が1〜18のアルキル基、炭素数が6〜10の置換されていてもよいフェニル基、またはトリメチルシリルオキシ基を示す。)、および
下記式(I-b)で表されるシリル(メタ)アクリレート成分単位(a-2):
【0060】
【化9】

【0061】
(式(I-b)中、R10は、水素原子またはメチル基を示し、R14およびR15は、それぞ
れ独立に、炭素数が3〜10の分岐またはシクロアルキル基を示し、R16は、炭素数が1〜10の直鎖アルキル基、炭素数が3〜10の分岐またはシクロアルキル基、または炭素
数が6〜10の置換されていてもよいフェニル基またはトリメチルシリルオキシ基を示す。)を含有する共重合体であることが好ましい。
【0062】
本発明の上記防汚塗料組成物には、さらに防汚剤(E)を含有することが好ましく、この防汚剤(E)として、銅または銅化合物(E1)を含有するか、上記防汚剤(E)として、有機防汚剤化合物(E2)(但し、有機銅化合物を除く。)を含有することが好ましい。本発明に係る防汚塗料組成物には、さらに、塗膜強度の向上剤、塗膜の消耗度調整剤、着色剤等の体質顔料または着色顔料として、過剰量の酸化亜鉛(F)を含有することが好ましい。その量は、カルボン酸[B]のカルボキシル基1当量に対して5000当量まで
、好ましくは2〜5000当量、さらに好ましくは10〜3000当量である。
【0063】
本発明においては、さらに、上記以外の溶出促進成分(G)を含有していてもよい。
本発明に係る防汚塗膜は、上記の何れかに記載の防汚塗料組成物から形成されてなることを特徴としている。
【0064】
本発明に係る船舶、水中構造物または漁具・漁網は、上記の何れかに記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜で表面を被覆されていることを特徴としている。
また、本発明に係る第一の防汚塗料組成物の製造方法は、[B]カルボン酸と[C]二価または三価の金属化合物とを接触させ、次いで、得られた組成物と、[A]重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位を含有するシリルエステル共重合体と、[
D]脱水剤とを、攪拌、混合または分散することを特徴とする。
【0065】
また、本発明に係る第二の防汚塗料組成物の製造方法は、[B]カルボン酸と、[C]二価または三価の金属化合物と、[D]脱水剤とを接触させ、次いで、得られた組成物と、[A]重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位を含有するシリルエステル共重合体とを、攪拌、混合または分散することを特徴とする。
【0066】
本発明に係る船舶、水中構造物または漁具・漁網の防汚方法では、船舶、水中構造物または漁具・漁網の基材表面に、上記の何れかに記載の防汚塗料組成物を塗布し乾燥させて、得られた塗膜で、上記基材表面を被覆することを特徴としている。
【0067】
本発明によれば、塗料の貯蔵安定性が良好で、塗膜にクラックが発生しにくく、塗膜付着性が良好で塗膜剥離が起きにくく、塗膜の加水分解速度が良好に制御され、防汚性能(防汚活性)あるいは防汚性のうち特に静置環境下および高汚損環境下における防汚性や、長期防汚性に優れ、しかもこれら特性にバランスよく優れた防汚塗膜を得ることが可能な防汚塗料組成物が提供される。
【発明の効果】
【0068】
本発明によれば、得られた塗膜にクラックが発生しにくく、塗膜付着性が良好で塗膜剥離が起きにくく、塗膜の加水分解速度が良好に制御され、防汚性能(防汚活性)あるいは防汚性のうち特に静置環境下および高汚損環境下における防汚性や、長期防汚性に優れた防汚塗膜が得られうるとともに、塗料組成物の貯蔵安定性が高く、使用溶媒の低減化が可能であり、塗装性(一回の塗装で均一な厚い膜を形成できる)に優れた防汚塗料組成物が得られる。
【0069】
また本発明によれば、このような優れた特性を有する塗膜および該塗膜で被覆され、上記特性を有する船体または水中構造物が提供される。また本発明によれば、このような防汚塗料組成物を用いた、環境汚染のおそれの極めて少ない防汚方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
以下、本発明に係る防汚塗料組成物について具体的に説明する。本発明に係る防汚塗料組成物は、[A]重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位を含有す
るシリルエステル共重合体、[B]カルボン酸および、[C]二価または三価の金属化合物を含有している。
【0071】
[シリルエステル共重合体[A]]
まず、このシリルエステル共重合体[A]について説明する。本発明で使用されるシリル
エステル共重合体は、重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位を含有している。
【0072】
(a)重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位
重合性不飽和カルボン酸シリルエステルとしては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和モノカルボン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコ二塩基酸などα,β-不飽和ジカルボン酸などのシリルエステル、またα,β−不飽和ジカルボン酸のハーフエステルのシリルエステルが挙げられる。
【0073】
このような重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位としては、下記式(I)で表されるシリル(メタ)アクリレート成分単位が好ましい。
【0074】
【化10】

【0075】
式(I)中、R1は、水素原子またはメチル基を示し、R2、R3、R4は、互いに同一で
も異なっていてもよく、それぞれアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基の何れかを示し、上記アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜18、さらに好ましくは1〜6であり、シクロアルキル基の炭素数は、好ましくは3〜10、さらに好ましくは3〜8である。また、上記フェニル基中の水素原子と置換可能な置換基としては、アルキル、アリール、ハロゲンなどが挙げられる。
【0076】
このようなシリル(メタ)アクリレート成分単位を誘導しうるシリル(メタ)アクリレートは、下記式(I-a)で表される。
式(I-a):
【0077】
【化11】

【0078】
式(I-a)中、R1は、上記式(I)中のR1と同様のものであって、水素原子またはメチル基を示し、R2、R3、R4も上記式(I)中のR2、R3、R4と同様のものであって、互
いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ上記と同様のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基の何れかを示す。
【0079】
このようなシリル(メタ)アクリレート(I-a)としては、具体的には、たとえば、(
メタ)アクリル酸トリメチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリエチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリプロピルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリブチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリsec-ブチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリiso-ブチルシリルエステル等のようにR2、R3およびR4が同一のシリル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル
酸ジsec−ブチル−メチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル−ジメチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルプロピルシリルエステル、(メタ)アクリル酸モノメチルジプロピルシリルエステル、(メタ)アクリル酸メチルエチルプロピルシリルエステル等のようにR2、R3およびR4のうちの1部または全部が互いに異なったシ
リル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0080】
以上のシリル(メタ)アクリレートは組み合わせて用いることができる。
このようなシリル(メタ)アクリレートのうちでは、R2、R3およびR4が、それぞれ
独立にメチル基、エチル基、n−、iso-プロピル基、sec-,tert-,iso-ブチル基等の炭
素数が1〜18程度のアルキル基であるものが好ましく、さらにはR2が分岐アルキル基
またはシクロアルキルであるものが好ましい。R3およびR4は、R2と同一であっても異
なっていてもよい。さらには、R2、R3およびR4の総炭素数が5〜21程度のものが好
ましい。このようなシリル(メタ)アクリレートのうちでは、特にシリル(メタ)アクリレート共重合体合成の容易性、あるいはこのようなシリル(メタ)アクリレート共重合体を用いてなる防汚塗料組成物の造膜性、貯蔵安定性、研掃性の制御のしやすさなどを考慮すると、(メタ)アクリル酸トリiso-プロピルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリiso-ブチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸ジsec-ブチル−メチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル−ジメチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリsec-ブチルシリルエステルが最も好ましく用いられる。
【0081】
(b)極性基含有(メタ)アクリレートから誘導される成分単位
本発明では、上記(a)重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位
とともに、(b)極性基含有(メタ)アクリレートから誘導される成分単位を有しているこ
とが望ましい。なお。必ずしも(b)成分単位はシリルエステル共重合体中に含まれている
必要はない。
【0082】
極性基含有(メタ)アクリレートから誘導される成分単位としては、極性基を有する(メタ)アクリレート系単量体から誘導される成分単位であれば特に制限されないが、下記式(II)で表される成分単位が好ましい。
【0083】
【化12】

【0084】
[式中、Zは、酸素原子または−NR7を示し、
Zが酸素原子である場合には、R6は置換基を有していてもよいヒドロキシアルキル基
、ヒドロキシシクロアルキル基または式:―(R8O)nHで表されるポリアルキレングリコール基(ただし、R8は、アルキレン基であり、nは2〜50の整数を示す)または式:
−(RxO)nyで表されるアルコキシポリアルキレングリコール基(ただし、Rxはアルキレン基であり、Ryはアルキル基でありnは1〜100の整数を示す)を示し、
Zが−NR7である場合には、R7は、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、置換アミノ基、アシル基、アルコキシ基の何れかで置換されていてもよいアルキル基を示し、R6
は水素原子を示す。]
上記式(II)中のヒドロキシアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜18、さらに好ましくは2〜9であり、また上記ヒドロキシシクロアルキル基の炭素数は、好ましくは3〜10、さらに好ましくは3〜8であり、上記ポリアルキレングリコール基中のアルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜8、さらに好ましくは2〜4である。アルコキシポリアルキレングリコール基中のアルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜8、さらに好ましくは2〜4であり、アルキル基の炭素数は1〜8、さらに好ましくは2〜4でありアルキル基は環状構造を形成していてもよい。置換アミノ基としては、炭素数1〜6のモノまたはジアルキルアミノ基が挙げられ、アシル基としては炭素数1〜6のアルカノイル基、炭素数1〜6のアルコキシ基などが挙げられる。
【0085】
このような不飽和単量体成分単位(b)を誘導しうる不飽和単量体は、下記式(II-a)で
表される。
【0086】
【化13】

【0087】
式(II-a)中、R5は、上記式(II)中のR5と同様のものであって、水素原子またはメチル基を示し、Zは、上記式(II)中のZと同様のものであって、酸素原子または−NR7を示す。
【0088】
Zが酸素原子である場合には、R6は置換基を有していてもよいヒドロキシアルキル基
、ヒドロキシシクロアルキル基または式:−(R8O)nHで表されるポリアルキレングリコール基(ただし、R8は、アルキレン基であり、nは2〜50の整数を示す)または式:
−(RxO)nyで表されるアルコキシポリアルキレングリコール基(ただし、Rxはアルキレン基であり、Ryはアルキル基でありnは1〜100の整数を示す)を示し、
Zが−NR7である場合には、R7は、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、置換アミノ基、アシル基、アルコキシ基の何れかで置換されていてもよいアルキル基を示し、R6
は水素原子を示す。]
このような不飽和単量体(II-a)としては、式(II-a)中、Zが酸素原子であるものの場合には、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、6−ヒドロキシヘキシルアクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(n=2)、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(n=4)、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(n=5)、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(n=8)、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(n=10)、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(n=15)、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(n=5)、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(n=9)、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(n=12)、2−メトキシエチルアクリレート、
メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(n=45)等が挙げられる。
【0089】
また、上記式(II-a)中、Zが−NR7であるものの場合には、具体的には、たとえば
、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等が挙げられる。
【0090】
これらの不飽和単量体(II-a)は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
これらの不飽和単量体(II-a)のうちでは、ヒドロキシル基含有モノマーが好ましく、ヒドロキシル基含有モノマーのうちでは2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレートなどを用いると、適度の溶出性を有する防汚塗膜が得られるため好ましい。
【0091】
不飽和単量体成分単位(c)
シリルエステル共重合体成分は、通常、上記成分単位(a)および上記成分単位(b)とともに不飽和単量体成分単位(c)を含有している。この不飽和単量体成分単位(c)は、上記成分単位(a)、(b)の何れとも異なる成分単位である。
【0092】
このような不飽和単量体成分単位(c)を誘導しうる不飽和単量体(c-1)としては、具体的には、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸オクチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン類;
酢酸ビニル、安息香酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;
クロトン酸エステル類、イタコン酸エステル類、フマル酸エステル類、マレイン酸エステル類等が挙げられ、これらのうちでは、(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン類、ビニルエステル類が適度の塗膜強度を有する防汚塗膜が得られるため好ましい。
【0093】
以上の不飽和単量体は、1種または2種以上組み合わせて用いられる。本発明では、シリルエステル共重合体[A]中に、上記重合性不飽和カルボン酸シリルエステル成分単位(a)は、20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%の量で、極性基含有(メタ)アクリレート成分単位(b)は0〜40重量%、好ましくは0.1〜20%の量で、その他の不飽
和単量体成分単位(c)は5〜80重量%、好ましくは10〜60重量%((a)+(b)+(c)=100重量%)の量で含まれていることが、塗膜強度と消耗性の点で望ましい。
【0094】
またこのようなシリルエステル共重合体(A−1)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量は、20万以下、好ましくは5000〜10万であることが、該シリルエステル共重合体(A−1)を配合した防汚塗料調製の容易性、得られた防汚塗料の貯蔵安定性、塗装作業性、防汚塗膜の消耗速度、耐クラック性などの点で望ましい。
【0095】
シリルエステル共重合体[A]の製造
このようなシリル(メタ)アクリレート共重合体[A]を得るには、上記式(I-a)で表されるシリル(メタ)アクリレート(a1)20〜80重量%と、上記式(II-a)で表される不飽和単量体(b1)0〜40重量%と、上記単量体(I-a)および(II-a)と共重合しうる他
の不飽和単量体(c1)5〜80重量%(ただし(a1)+(b1)+(c1)=100重量%)をラジカル重合開始剤の存在下に、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等の各種方法にてランダム重合させればよい。
【0096】
ラジカル重合開始剤としては、従来より公知のアゾ化合物、過酸化物などを広く用いることができ、アゾ化合物としては、具体的には、たとえば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、
過酸化物としては、たとえば、過酸化ベンゾイル、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシオクテート、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸塩(カリ塩、アンモニウム塩)等が挙げられる。
【0097】
上記重合物を防汚塗料に用いる場合には、上記各種重合法のうちでは、有機溶剤中で重合が行われる溶液重合法や塊状重合法が好ましく、溶液重合の際用いられる有機溶剤としては、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素類;
ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;
酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;
イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類;
ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類;
メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;
等が挙げられる。これらの溶剤は、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
【0098】
シリルエステル共重合体(A−1)
本発明では、シリルエステル共重合体[A]として、
下記式(I-a)で表されるシリル(メタ)アクリレート成分単位(d):
【0099】
【化14】

【0100】
(式(I-a)中、R10は、水素原子またはメチル基を示し、R11およびR12は、それぞ
れ独立に、炭素数が1〜10の直鎖アルキル基または置換されていてもよいフェニル基またはトリメチルシリルオキシ基を示し、R13は、環構造または分岐を有していてもよい炭素数が1〜18のアルキル基、炭素数が6〜10の置換されていてもよいフェニル基、またはトリメチルシリルオキシ基を示す。)、および
下記(e)式(I-b)で表されるシリル(メタ)アクリレート成分単位(e):
【0101】
【化15】

【0102】
(式(I-b)中、R10は、水素原子またはメチル基を示し、R14およびR15は、それぞ
れ独立に、炭素数が3〜10の分岐またはシクロアルキル基を示し、R16は、炭素数が1〜10の直鎖アルキル基、炭素数が3〜10の分岐またはシクロアルキル基、または炭素数が6〜10の置換されていてもよいフェニル基またはトリメチルシリルオキシ基を示す。)
を含むシリル(メタ)アクリレート共重合体を使用することもできる。
【0103】
以下、このシリル(メタ)アクリレート共重合体(A−1)を構成する各成分単位(d)
、(e)、(f)について順次説明する。
シリル(メタ)アクリレート成分単位(d)シリル(メタ)アクリレート成分単位(d)は、下記式(I-a)で表される。
【0104】
【化16】

【0105】
式(I-a)中、R10は、水素原子またはメチル基を示し、R11およびR12は、それぞれ
独立に、炭素数が1〜10、好ましくは1〜8、さらに好ましくは1〜6の直鎖アルキル基または置換されていてもよいフェニル基またはトリメチルシリルオキシ基を示す。直鎖アルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基が挙げられる。
【0106】
上記フェニル基中の水素原子と置換可能な置換基としては、アルキル、アリール、ハロゲンなどが挙げられる。
13は、環構造または分岐を有していてもよい炭素数が1〜18、好ましくは1〜12、さらに好ましくは1〜9のアルキル基、炭素数が6〜10、好ましくは6〜8の置換されていてもよいフェニル基、またはトリメチルシリルオキシ基:「(CH3)3SiO−」である。
【0107】
このようなアルキル基としては、上記例示した直鎖状アルキル基の他;
iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、neo-ペンチル基等の
分岐状アルキル基;
シクロヘキシル基、エチリデンノルボニル基等の脂環構造(シクロヘキサン環、ノルボルナン環)を有する脂環式アルキル基;
等が挙げられる。
【0108】
これらのうちでは、R11、R12、R13としては、互いに同一でも異なっていてもよいが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、トリメチルシリルオキシ基が好ましく、特に、メチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基が好ましい。
【0109】
このようなシリル(メタ)アクリレート成分単位(d)を誘導しうるシリル(メタ)アク
リレート(d1)は、下記式(I-a-1)で表される。
【0110】
【化17】

【0111】
式(I-a-1)中、R10〜R13は、上記式(I-a)中のR10〜R13と同様のものである。
このようなシリル(メタ)アクリレート(I-a-1)としては、具体的には、たとえば、
(メタ)アクリル酸トリメチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリエチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリn−プロピルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリn−ブチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリn−ペンチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリn−ヘキシルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリn−ヘプチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリn−オクチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリn−ノニルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリn−デシルシリルエステルのようにR11、R12、R13が同一の脂肪族系シリル(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリル酸トリフェニルシリルエステルの他、(メタ)アクリル酸トリス(トリメチルシリルオキシ)シリルエステル等のR11、R12、R13が同一の芳香族系あるいはシロキサン系シリル(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリル酸ジメチルn−プロピルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸イソプロピルジメチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸ジn-ブチル-iso-ブチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸n-ヘキシル−ジメチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸sec-ブチル−ジメチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸モノメチルジn-プロピルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸メチルエチルn-プロピルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸エチリデンノルボルニル−ジメチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリメチルシリルオキシ−ジメチルシリルエステル(CH2=C(CH3)COOSi(CH3)2(OSi(CH3)3)、CH2=CHCOOSi(CH3)2(OSi(CH3)3)
)等のようにR11、R12およびR13のうちの一部または全部が互いに異なった脂肪族系のシリル(メタ)アクリレート類;等が挙げられる。
【0112】
本発明においては、シリル(メタ)アクリレート(I-a-1)は、1種または2種以上組
み合わせて用いることができる。
(シリル(メタ)アクリレート成分単位(e))
シリル(メタ)アクリレート成分単位(e)は、下記式(I-b)で表される。
【0113】
【化18】

【0114】
式(I-b)中、R10は、水素原子またはメチル基を示し、R14およびR15は、それぞれ独
立に、炭素数が3〜10、好ましくは3〜8の分岐アルキル基または炭素数が3〜10、好ましくは3〜9のシクロアルキル基を示す。
【0115】
上記分岐アルキル基としては、上記式(I)中のものと同様に、iso-プロピル基、iso-
ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、neo-ペンチル基等の分岐状アルキル基が挙げ
られる。
【0116】
上記シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、エチリデンノルボルニル基が挙げられる。
16は、炭素数が1〜10、好ましくは1〜8、さらに好ましくは1〜6の直鎖アルキル基、炭素数が3〜10、好ましくは3〜9の分岐またはシクロアルキル基、または炭素数が6〜10、好ましくは6〜8の置換されていてもよいフェニル基、またはトリメチルシリルオキシ基を示す。
【0117】
このR16中の直鎖アルキル基、分岐またはシクロアルキル基、フェニル基などとしては、具体的には、上記と同様の基を挙げることができる。
これらのうちでは、R14、R15、R16としては、互いに同一でも異なっていてもよいが、同一の場合には、iso-プロピル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基が好ましく、特に、iso-プロピル基、sec-ブチル基が好ましい。
【0118】
また、R14、R15、R16の一部または全部が異なる場合には、R14、R15は互いに同一でも異なっていてもよいが、R14、R15としては、iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が好ましく、R16としては、メチル基、エチル基、プロピル基
、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、トリメチルシリルオキシ基が好ましい。
【0119】
このようなシリル(メタ)アクリレート成分単位(e)を誘導しうるシリル(メタ)アク
リレート(e1)は、下記式(I-b-1)で表される。
【0120】
【化19】

【0121】
式(I-b-1)中、R10、R14、R15、R16は、上記式(I-b)中のR10、R14、R15、R16と同様のものである。
このようなシリル(メタ)アクリレート(I-b-1)としては、具体的には、たとえば、
(メタ)アクリル酸トリiso-プロピルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリiso-ブチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリsec-ブチルシリルエステルのようにR14、R15およびR16が同一のシリル(メタ)アクリレート;
(メタ)アクリル酸ジiso-プロピル−シクロヘキシルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸ジiso-プロピル−フェニルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸ジiso-プロピル−トリメチルシロキシシリルエステル、
(メタ)アクリル酸ジsec-ブチル−メチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸ジsec-ブチル−エチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸ジsec-ブチル−トリメチルシリルオキシシリルエステル、
(メタ)アクリル酸iso-プロピル−sec-ブチル−メチルシリルエステルのようにR14、R15およびR16のうちの1部または全部が互いに異なったシリル(メタ)アクリレート;などが挙げられる。
【0122】
本発明においては、このようなシリル(メタ)アクリレート(I-b-1)は、1種または
2種以上組み合わせて用いることができる。
このようなシリル(メタ)アクリレートのうちでは、特にシリル(メタ)アクリレート共重合体合成の容易性、あるいはこのようなシリル(メタ)アクリレート共重合体を用いてなる防汚塗料組成物の造膜性、貯蔵安定性、研掃性の制御のしやすさなどを考慮すると、シリル(メタ)アクリレート(I-a-1)のうちの、
(メタ)アクリル酸トリメチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリエチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリn-プロピルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリn-ブチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸n-ヘキシル−ジメチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸n-オクチル−ジメチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸iso-プロピル−ジメチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸エチリデンノルボルニル−ジメチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリメチルシリルオキシ−ジメチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸ビス(トリメチルシリルオキシ)−メチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリス(トリメチルシリルオキシ)シリルエステルから選択される何れか1種または2種以上と、
シリル(メタ)アクリレート(I-b-1)のうちの、
(メタ)アクリル酸トリiso-プロピルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリiso-ブチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸トリsec-ブチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸ジsec-ブチル−メチルシリルエステル、
(メタ)アクリル酸ジiso-プロピル−トリメチルシリルオキシシリルエステル、
(メタ)アクリル酸ジsec-ブチル−トリメチルシリルオキシシリルエステルから選択される何れか1種または2種以上と、
を組み合わせて用いることが好ましい。
【0123】
さらには、
シリル(メタ)アクリレート(I-a-1)のうちの、(メタ)アクリル酸トリn-ブチルシ
リルエステルと、
シリル(メタ)アクリレート(I-b-1)のうちの、(メタ)アクリル酸トリiso-プロピ
ルシリルエステルとを組み合わせて用いることが好ましい。
(不飽和単量体成分単位(f))
不飽和単量体成分単位(f)は、上記成分単位(d)および上記成分単位(e)と共に本発明の
シリル(メタ)アクリレート共重合体を構成しており、しかも上記成分単位(d)、(e)の何れとも異なる成分単位であって、このような不飽和単量体成分単位(f)を誘導しうる不飽
和単量体(f1)としては、前記式(II-a)で表される(b)極性基含有(メタ)アクリレート
または前記不飽和単量体成分単位(c)を誘導しうる不飽和単量体(c-1)が挙げられる。
【0124】
このような単量体として、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-,iso-,tert-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキ
シル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の疎水性(メタ)アクリル酸エステル類;
(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、アルコキシポリエチレングリコールモノ(
メタ)アクリレート、アルコキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の
親水性(メタ)アクリル酸エステル類;
スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン類;
酢酸ビニル、安息香酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;
イタコン酸エステル群、マレイン酸エステル群等のカルボン酸エステル類;
等が挙げられ、これらのうちでは、(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン類、カルボン酸ビニルエステル類が適度の塗膜強度を有する防汚塗膜が得られるため好ましい。
【0125】
親水性(メタ)アクリル酸エステル類を使用すると塗膜の消耗性を増大させることができ、この目的ではアクリルアミド誘導体などの親水性を有するコモノマーの使用も可能である。
【0126】
これらの不飽和単量体(f1)は、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
本発明に係るシリル(メタ)アクリレート共重合体には、上記シリル(メタ)アクリレート成分単位(d)は、0.5〜50重量%、好ましくは0.5〜25重量%の量で、シリ
ル(メタ)アクリレート成分単位(e)は10〜70重量%、好ましくは30〜65重量%
の量で、上記(d)及び(e)以外の不飽和単量体成分単位(f)は20〜70重量%、好ましく
は30〜60重量%((d)+(e)+(f)=100重量%)の量で含まれていることが、塗膜
へのクラックの発生防止、塗膜の耐剥離性、塗膜強度、消耗性の点で望ましい。
【0127】
またこのようなシリル(メタ)アクリレート共重合体(A−1)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量は、20万以下、好ましくは3000〜10万、特に好ましくは5000〜5万であることが、該シリル(メタ)アクリレート共重合体を配合した防汚塗料調製の容易性、得られた防汚塗料の塗装作業性、防汚塗膜の消耗速度、耐クラック性などの点で望ましい。
【0128】
(シリル(メタ)アクリレート共重合体(A−1)の製造)
このようなシリル(メタ)アクリレート共重合体(A−1)を得るには、上記式(I-a-1)で表されるシリル(メタ)アクリレート(d1)0.5〜50重量%と、上記式(I-b-1)で表されるシリル(メタ)アクリレート(e1)10〜70重量%と、上記単量体(d1)および(e1)と共重合しうる他の不飽和単量体(f1)20〜70重量%(ただし(d1)+(e1)+(f1)=100重量%)をラジカル重合開始剤の存在下に、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等の各種方法にてランダム重合させればよい。
【0129】
ラジカル重合開始剤としては、従来より公知のアゾ化合物、過酸化物などを広く用いることができ、アゾ化合物としては、具体的には、たとえば、2,2'-アゾビスイソブチロニ
トリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロ
ニトリル)等が挙げられ、
過酸化物としては、たとえば、過酸化ベンゾイル、tert-ブチルパーオキシアセテート
、tert-ブチルパーオキシオクテート、クメンハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパー
オキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸塩(カリ塩、アンモニウム
塩)等が挙げられる。
【0130】
上記重合物を防汚塗料に用いる場合には、上記各種重合法のうちでは、有機溶剤中で重合が行われる溶液重合法や塊状重合法が好ましく、溶液重合の際用いられる有機溶剤としては、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素類;
ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;
酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;
イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類;
ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類;
メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;
等が挙げられる。これらの溶剤は、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
【0131】
[カルボン酸[B]]、二価または三価の金属化合物[C]
並びに生成するカルボン酸金属過多塩
<カルボン酸[B]>
カルボン酸[B]は、本発明の防汚塗料組成物中にあって、後述する二価または三価の金
属化合物[C]と反応して、カルボン酸金属塩好ましくはカルボン酸金属過多塩を形成する

【0132】
カルボン酸金属過多塩は、二価以上の金属とカルボン酸、好ましくは脂肪族または脂環式カルボン酸との塩(いわゆる金属石鹸)であり、かつ金属がカルボキシル基の当量数以上に含まれているものをいう。
【0133】
このカルボン酸金属過多塩形成の際に、防汚塗料組成物中に含まれている脱水剤[D]は
、該塗料組成物中の水、特にカルボン酸[B]と二価または三価の金属化合物[C]との反応で生ずる水と結合し、成分[B]と[C]との反応を促進し、また生じた水等によるシリルエステル共重合体[A]の加水分解を抑制する働きなどを有していると考えられる。
【0134】
上記カルボン酸としては、炭素数2以上、好ましくは3〜50のカルボン酸が好ましく、このようなカルボン酸としては、脂肪族系、脂環族系、芳香族系などが挙げられ、特に樹脂酸以外では、脂肪族カルボン酸が好ましい。カルボン酸は1価のものでも、2価以上の多価のものであってもよい。
【0135】
このようなカルボン酸としては、樹脂酸、樹脂酸の誘導体、その他の有機酸が挙げられ、具体的には、アビエチン酸及びアビエチン酸の異性体であるパラマトリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、ネオアビエチン酸あるいはデヒドロアビエチン酸を含有するトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン;
デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸を含有する不均化ロジン;
テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸を含有する水添ロジン;
低軟化点成分であるセコデヒドロアビエチン酸を含有する低軟化点化ロジン;
アガテンジカルボン酸やアガテンジカルボン酸モノアルキルエステルを含有するコーパル樹脂及びその分別物;
アビエチン酸の異性体であるサンダラコピマル酸を含有するサンダラック樹脂及びその分別物;
ケイ皮酸を含むバルサム;安息香酸を含むキリンケツ;などの樹脂酸及びその誘導体が挙げられる。
【0136】
これら樹脂酸及びその誘導体のうちでは、ガムロジン、トール油ロジン、コーパル樹脂
、およびその分別物、不均化ロジン、低軟化点化ロジン等が好ましい。本発明においてはこのような樹脂酸及びその誘導体を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0137】
特に、カルボン酸として、これら樹脂酸を用いると、防汚性及び耐クラック性、研掃性の向上という効果が得られる。
樹脂酸以外の有機酸としては、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラウリン酸、イソノナン酸、バーサチック酸、トール油脂肪酸、イソステアリン酸、ナフテン酸、2−エチルヘキサン酸、やし油脂肪酸、大豆油脂肪酸及びその誘導体などが挙げられる。
【0138】
これらのカルボン酸のうちでも、樹脂酸以外の有機酸としては、イソノナン酸、バーサチック酸などの分岐脂肪族カルボン酸またはナフテン酸などの脂環式カルボン酸が好ましい。特に、カルボン酸として、樹脂酸以外のこれらの有機酸を用いると、防汚性及び耐クラック性の向上という効果が得られる。
【0139】
カルボン酸[B]は、防汚塗料組成物中に、下記の二価または三価の金属化合物[C]に対して、カルボキシル基に対する当量比(金属当量数/カルボキシル基当量数)で1.2以上、好ましくは1.25〜5.0、さらに好ましくは1.3〜2.0の範囲となるような量で含まれていることが好ましい。
【0140】
また、カルボン酸[B]は、防汚塗料組成物中のシリルエステル共重合体[A](固形分)100重量部に対して、通常0.04〜2000重量部、好ましくは10〜600重量部となるような量で含まれていることが好ましい。
【0141】
このような量でカルボン酸[B]が防汚塗料組成物中に含まれていると、得られる塗料は
保存安定性に優れ、また得られる塗膜は長期にわたり耐クラック性が良好で防汚性が良好となる傾向がある。
<二価または三価の金属化合物[C]>
二価または三価の金属化合物[C]は、上記したようにカルボン酸[B]と反応してカルボン酸金属塩、特にカルボン酸金属過多塩を形成することが望ましい。
【0142】
二価または三価の金属化合物[C]は、二価または三価の金属の化合物であって、二価金
属としては、亜鉛、銅、カルシウム、バリウム、鉄、コバルト、鉛、マグネシウムなどが挙げられ、特に、亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が好ましい。
【0143】
前記金属化合物[C]としては、二価または三価の金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩など
が挙げられる。
このような金属化合物として、具体的には、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化銅、水酸化銅、塩基性炭酸銅などが挙げられる。
【0144】
本発明では、これら金属化合物[C]は、防汚塗料組成物の調製条件(例:温度、分散力
、時間など)、求められる防汚塗膜の性能等に応じて、上記カルボン酸と適宜組み合わせて用いられる。
【0145】
このような金属化合物[C]は、防汚塗料組成物中に、上記の二価または三価の金属化合
物[C]に対して、カルボキシル基に対する当量比(金属当量数/カルボキシル基当量数)
で上記したような量で含まれていることが同上の理由により好ましい。
【0146】
また、この二価または三価の金属化合物[C]は、シリルエステル系共重合体[A]100重量部に対し、1.5〜1200重量部、好ましくは4〜600重量部の範囲で含まれていることが望ましい。
【0147】
なお、必要により、防汚塗料組成物に配合される溶媒としては、ターペン(ミネラルスピリット)、トルエン、キシレンなどの溶媒が好ましい。溶媒の量は特に制限されるものではなく、例えば、生成しうるカルボン酸金属過多塩溶液(すなわち防汚塗料組成物)中の溶媒の割合が0.1〜80重量%、好ましくは5〜60重量%となるように使用される。
【0148】
なお、このカルボン酸[B]と二価または三価の金属化合物[C]との反応により生成するカルボン酸金属過多塩は、たとえばカルボン酸が一価の場合、カルボン酸金属塩(ROO)n
Mの一部または全部が、(ROO)nM・MOn/2、(ROO)nM・M(OH)n、(Mは金属であり、nは金属の価数を示す)等で表される形態となっていると推察される。また一価カルボン酸と二価金属ではM4(O)(RCOO)6のような塩構造も推察される。
【0149】
本発明に係る防汚塗料組成物中あるいは防汚塗膜中における、生成したカルボン酸金属過多塩の赤外吸収スペクトルを測定すると、フリー(すなわち金属塩となっていない)のカルボキシル基(COOH基)の吸収(3500cm-1、1700cm-1)が非常に小さいか、または観察されない。またカルボキシル基に対する金属の当量は、溶剤可溶分のキレート滴定分析などによりカルボン酸金属過多塩中に含まれる金属量を求めることによって算出することができる。
【0150】
従来、防汚塗料に使用するカルボン酸金属塩としては、たとえば1価のカルボン酸(RCOOH)と2価金属(M)より構成される化合物の場合、(RCOO)2Mで表される
等当量比の反応物が提案されている。
【0151】
これに対し、防汚塗料組成物中に、カルボン酸金属過多塩が形成されるような量でカルボン酸[B]と二価または三価の金属化合物[C]とが配合されていると、以下のような優れた特徴を有する塗料となる。
〈1〉従来の等当量比の反応物より低粘度の化合物であるカルボン酸金属過多塩が得られるので、低粘度の塗料を調製することが可能なため溶剤量を低減した塗料を得ることができる。
〈2〉従来の等当量比の反応物(カルボン酸金属塩)では、多量の未反応カルボン酸が存在しているので、塗料中の活性成分との反応による貯蔵安定性の低下や防汚性が低下する傾向があったが、本発明のように、有機カルボン酸[B]と二価または三価の金属化合物[C]とを、カルボン酸金属過多塩が生成するような量比で用いると未反応カルボン酸量が極めて少ないか、あるいは実質的に未反応カルボン酸が存在していないこととなるためそのような不具合を回避することができ、貯蔵安定性の低下や防汚性の低下を招くことがない。
【0152】
特に塗料中に、酸化亜鉛(亜鉛華)がカルボン酸金属過多塩形成のためのみでなく、さらに、塗膜強度の向上、塗膜の消耗度調整、着色などの目的で配合された酸化亜鉛(亜鉛華)が存在する場合、未反応カルボン酸と酸化亜鉛との反応で水を生成し、この水などにより、成分[A]の加水分解が進行してしまうなど、塗料の貯蔵安定性を損ねることがある

【0153】
しかしながら、本発明に係る防汚塗料組成物には、カルボン酸[B]と、上記量の金属化
合物[C]とを配合し、脱水剤[D]も配合しているので、有機カルボン酸[B]と二価または三
価の金属化合物[C]との反応が良好に進行しカルボン酸金属過多塩が形成され、未反応カ
ルボン酸がほとんど存在していないため、カルボン酸[B]が成分[C]との反応に消費された
後は、残余の酸化亜鉛と反応することがなく、貯蔵安定性に優れた塗料を得ることができる。
〈1〉生成したカルボン酸金属過多塩はそれ自体が吸湿性を有しているので、塗料中でカルボン酸金属過多塩による脱水作用によって、塗料の貯蔵安定性の向上に寄与する。特にイソノナン酸金属過多塩が生成するような系(カルボン酸[B]と二価または三価の金属化
合物[C]との系)などにおいては吸湿性が顕著であり、安定した塗料組成物を得ることが
できる。
【0154】
なお、本発明においては、防汚塗料組成物の調製条件によっては、上記カルボン酸[B]に代えて、カルボン酸の種々の誘導体を用い、該カルボン酸誘導体と上記二価または三価の金属化合物[C]との反応によりカルボン酸金属過多塩を防汚塗料組成物中あるいは塗膜中に生成させるようにしてもよい。
【0155】
その場合、防汚塗料組成物中におけるカルボン酸またはその誘導体と、二価または三価の金属化合物[C]との反応方法としては、本願出願人が先に提案した特願2000−29
0907号明細書(平成12年9月25日出願)「0106」〜「0111」欄に示すように、下記のようなものが挙げられる。
(i)カルボン酸またはその誘導体と、前記金属との直接反応、
(ii)カルボン酸またはその誘導体と、前記金属の酸化物または水酸化物または炭酸塩などとの反応、
(iii)カルボン酸のアルカリ金属塩と、前記した金属の水溶性塩との反応など。
【0156】
本発明では、(ii)カルボン酸またはその誘導体と、金属の酸化物または水酸化物または炭酸塩などとを反応させる方法が、当量比の制御が容易であり、かつ反応性が高く安定して行うことができるので好適である。
【0157】
カルボン酸としては、また上記したものが使用され、カルボン酸の誘導体としては、アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、エステルなどが挙げられる。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。4級アンモニウム塩は、水素原子が1〜15、好ましくは1〜10のアルキル基で置換されていてもよい。4級ホスホニウム塩は、水素原子が1〜15、好ましくは1〜10のアルキル基で置換されていてもよい。エステルとしては、中性油脂の構造などが挙げられる。
【0158】
前記金属の水溶性塩としては、塩化物、臭化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩などが挙げられる。
このような防汚塗料組成物には、必要により前記溶剤を配合してもよい。
【0159】
[脱水剤[D]]
脱水剤[D]は、上記したようにカルボン酸[B]と二価または三価の金属化合物[C]特に酸
化亜鉛との反応などで生ずる水を取り除き、カルボン酸金属過多塩の生成を促進し、シリルエステル共重合体[A]の加水分解を防止し、防汚塗料組成物の貯蔵安定性に寄与する働
き等を有しているが、
この脱水剤[D]としては、従来より公知のものを広く用いることができ、無機系あるい
は有機系の脱水剤、好ましくは無機系の脱水剤が配合されている。このように脱水剤が配合されているので本発明の防汚塗料組成物は、貯蔵安定性に優れている。
【0160】
脱水剤としては、具体的には、たとえば、無水石膏(CaSO4)、合成ゼオライト系
吸着剤(商品名:モレキュラーシーブ等)、オルソギ酸メチル、オルソ酢酸メチル等のオルソエステル類、オルソほう酸エステル、シリケート類やイソシアネート類(商品名:アディティブT1)等が挙げられ、特に無機系脱水剤としては、無水石膏、モレキュラーシ
ーブが好ましく用いられる。このような無機脱水剤は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0161】
このような脱水剤、特に無機脱水剤が、防汚塗料組成物中に含まれるカルボン酸[B]中
のカルボキシル基1当量に対して、0.15〜50当量、好ましくは0.2〜30当量の量で含まれていることが望ましい。
【0162】
また、このような脱水剤、特に無機脱水剤は、上記シリルエステル系共重合体[A]10
0重量部に対して、通常、0.02〜100重量部、好ましくは0.2〜50重量部の量で配合することが好ましい。
【0163】
また、このような無機脱水剤は、この防汚塗料組成物中に、合計で通常、0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜8重量%の量で含まれていることが望ましい。
このような量で脱水剤、特に無機脱水剤が、防汚塗料組成物中に含まれていると、防汚塗料組成物の貯蔵安定性が特に向上する傾向がある。
【0164】
[防汚塗料組成物]
本発明に係る防汚塗料組成物は、上記したシリルエステル系共重合体[A](共重合体(
A−1)を含む)と、カルボン酸[B]と、二価または三価の金属化合物[C]と、脱水剤[D]
とを含有している。
【0165】
本発明に係る防汚塗料組成物中(後述する各種添加剤、溶剤を含む)に、シリルエステル系共重合体[A]は、2〜60重量%、好ましくは5〜40重量%の量で含まれているこ
とが望ましい。
【0166】
また、カルボン酸[B]は、防汚塗料組成物中に、0.1〜60重量%、好ましくは0.
5〜40重量%の量で、
二価または三価の金属化合物[C]は0.1〜60重量%、好ましくは0.5〜40重量
%の量で、
脱水剤[D]は0.01〜30重量%、好ましくは0.1〜10重量%の量で含まれてい
ることが望ましい。
【0167】
また、上記シリルエステル共重合体[A](固形分)100重量部に対して、カルボン酸[B]は、防汚塗料組成物中に、0.04〜2000重量部、好ましくは10〜600重量部の量で、
二価または三価の金属化合物[C]は3.0〜2400重量部、好ましくは8〜1200
重量部の量で、
脱水剤[D]は0.02〜100重量部、好ましくは0.2〜50重量部の量で含まれて
いることが望ましい。
【0168】
このような量で、上記[A]、[B]、[C]、[D]が防汚塗料組成物中に含まれていると、塗料の貯蔵安定性が良好で、塗膜にクラックが発生しにくく、塗膜付着性が良好で塗膜剥離が起きにくく、塗膜の加水分解速度が良好に制御され、防汚性能あるいは防汚性のうち特に静置環境下および高汚損環境下における防汚性や、長期防汚性にバランス良く優れた防汚塗膜が得られる傾向がある。
【0169】
<各種添加剤>
本発明に係る防汚塗料組成物(P)は、上記シリルエステル系共重合体[A]、カルボン
酸[B]、二価または三価の金属化合物[C]および、脱水剤[D]を必須成分として含有してい
るが、これら成分以外に、さらに、各種添加剤を含有していてもよい。
【0170】
このような各種添加剤としては、防汚剤(E)、酸化亜鉛(亜鉛華)(F)、タレ止め・沈降防止剤、溶出促進成分(G)、塩素化パラフィン等の可塑剤、着色顔料、体質顔料などの各種顔料、アクリル樹脂、ポリアルキルビニルエーテル(ビニルエーテル系(共)重合体)などの各種樹脂、消泡剤、色別れ防止剤、レベリング剤などの各種添加剤などのような成分が挙げられる。
【0171】
[防汚剤(E)]
防汚剤(E)としては、無機系、有機系の何れであってもよく、従来より公知のものを広く用いることができるが、本発明においては、銅および/または銅化合物(E1)、金属ピリチオン類等の有機防汚剤(E2)(有機防汚剤より銅化合物を除く。以下、同様。)が好ましい。
【0172】
本発明に係る防汚塗料組成物に含有させる銅および/または銅化合物(E1)について説明すると、上記銅および/または銅化合物としては、その分子量が通常63.5〜2000、好ましくは63.5〜1000のものが用いられる。
【0173】
このような成分(E1)のうちの銅化合物(E1)としては、有機系、無機系の銅化合物の何れであってもよく、このうち無機系の銅化合物としては、たとえば、亜酸化銅、チオシアン酸銅(チオシアン酸第一銅、ロダン銅)、塩基性硫酸銅、塩化銅、酸化銅等が挙げられ、
有機系の銅化合物としては、たとえば、塩基性酢酸銅、オキシン銅、ノニルフェノールスルホン酸銅、ロジン等の樹脂酸と銅あるいは銅化合物との反応物、カツパービス(エチレンジアミン)−ビス(ドデシルベンゼンスルホネート)、ナフテン酸銅、ビス(ペンタクロロフェノール酸)銅、銅ピリチオンなどが挙げられ、好ましくは無機系の亜酸化銅、ロジン等の樹脂酸と銅あるいは銅化合物との反応物、チオシアン化銅(ロダン銅)が用いられる。
【0174】
なお酢酸銅、ナフテン酸銅、ロジン等の樹脂酸と銅あるいは銅化合物との反応物などのようにカルボン酸の銅塩が防汚剤として使用される場合、カルボン酸銅塩としては、前記したカルボン酸[B]と金属化合物[C]とが反応してなるカルボン酸金属過多塩ではなく、等当量比のカルボン酸と銅からなる塩を使用してもよい。
【0175】
このような銅化合物は、銅に代えて、あるいは銅とともに1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
このような銅および/または銅化合物(E1)は、本発明の防汚塗料組成物中に、カルボン酸銅過多塩形成用として配合される分も含めて、合計で通常、1〜70重量%、好ましくは3〜65重量%の割合で含まれていることが望ましい。
【0176】
また防汚塗料組成物中に含まれるシリルエステル系共重合体[A]100重量部に対して
、該銅および/または銅化合物(E1)は、合計で通常、3〜1400重量部、好ましくは10〜1300重量部の量で含まれていることが望ましい。
【0177】
この銅および/または銅化合物が、該防汚塗料組成物中にこの範囲で含まれていると、防汚性に優れた防汚塗膜を形成することができる。
本発明においては、防汚剤として、上記銅および/または銅化合物(E1)とともに、あるいは上記銅および/または銅化合物に代えて、有機防汚剤(E2)((E1)に含まれる銅ピリチオンなどの有機銅化合物を除く。)を用いることができる。有機防汚剤としては、たとえば、金属ピリチオン類を用いることができる。
【0178】
金属ピリチオン類としては、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、鉛などの金属ピリチオン類を例示できる。上記金属ピリチオン類のうちでは、銅ピリチオンが好ましい。
【0179】
このようなピリチオン系化合物は、本発明の防汚塗料組成物中に、合計で通常、0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%の割合で含まれていることが望ましい。また防汚塗料組成物中に含まれるシリルエステル系共重合体[A]100重量部に対して、ピ
リチオン系化合物は、合計で通常、0.3〜300重量部、好ましくは2〜200重量部の量で含まれていることが望ましい。
【0180】
本発明においては、このピリチオン系化合物とともに、あるいはこのピリチオン系化合物に代えて下記の有機防汚剤(他の有機防汚剤)を含有していてもよく、このような他の有機防汚剤としては、従来より公知の各種防汚剤を用いることができ、具体的には、たとえば、
テトラメチルチウラムジサルファイド、カーバメート系の化合物(例:ジンクジメチルジチオカーバメート、マンガン-2-エチレンビスジチオカーバメート)、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ-s-トリアジン、4,
5−ジクロロ-2-n-オクチル-4−イソチアゾリン−3−オン、2,4,6−トリクロロ
フェニルマレイミド、ピリジン-トリフェニルボラン、アミン−トリフェニルボラン等を
挙げることができる。
【0181】
本発明においては、このような有機防汚剤を、銅ピリチオン等のピリチオン系化合物(金属ピリチオン類)とともに、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。たとえば、銅ピリチオンと、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンとを組み合わせて用いることができる。
【0182】
また、この防汚塗料組成物中に含まれる銅および/または銅化合物(E1)、ピリチオン系化合物などの各種防汚剤の合計含有量は、防汚塗料組成物調製時に用いられる防汚剤、被膜形成性共重合体などの種類あるいはこのような防汚塗料組成物が塗布形成される船舶等の種類(船舶では、外航−内航用、各種海水域用、木造−鋼鉄船用等)などにもより一概に決定されないが、上記シリルエステル系共重合体[A]100重量部に対して、防汚
剤総量として通常10〜1400重量部の量で、好ましくは20〜1300重量部の量で含有されていることが望ましい。
【0183】
この防汚剤総量が10重量部未満では、防汚性に劣ることがあり、また1400重量部を超えるとそれ以上の防汚性は期待できない上に、耐クラック性に劣ることがある。
たとえば、防汚塗料組成物の防汚剤として銅ピリチオンと亜酸化銅(Cu2O)とを組
み合わせて用いる場合、銅ピリチオンは、シリルエステル共重合体[A]100重量部に対
して2〜200重量部の量で、また、この亜酸化銅は、シリルエステル共重合体[A]10
0重量部に対して通常10〜1300重量部程度の量で防汚塗料組成物中に含有されていることが望ましい。
【0184】
[酸化亜鉛(亜鉛華)(F)]
本発明に係る防汚塗料組成物には、上記二価または三価の金属化合物[C]以外の役割で
用いる目的で、例えば、塗膜強度の向上剤、塗膜の消耗度調整剤、着色剤、体質顔料などとして、さらに酸化亜鉛(亜鉛華)(F)が含有されていてもよい。このように酸化亜鉛が配合された防汚塗料組成物では、得られる塗膜強度が向上し、塗膜の研掃性を効果的に制御できる。
【0185】
本発明に係る防汚塗料組成物には、上記二価または三価の金属化合物[C]以外の役割で
用いる目的で、さらに、塗膜強度の向上剤、塗膜の消耗度調整剤、着色剤等の体質顔料または着色顔料などとして、カルボン酸[B]のカルボキシル基1当量に対して5000当量
まで、好ましくは2〜5000当量、さらに好ましくは10〜3000当量の過剰量で酸化亜鉛(F)を含有することが好ましい。
【0186】
また、このような酸化亜鉛は、消耗度調整、塗膜硬度調整の観点から、この防汚塗料組成物中に、上記二価または三価の金属化合物[C]として添加されるものとの合計で、通常
、0.1〜35重量%、好ましくは0.5〜25重量%の割合で含まれていることが望ましい。また、この酸化亜鉛は、シリルエステル共重合体[A]100重量部に対して、通常
1.5〜1200重量部、好ましくは4〜600重量部の量で防汚塗料組成物中に含有さ
れていることが望ましい。
【0187】
[溶出促進成分(G)]
本発明に係る防汚塗料組成物には、溶出促進成分(G)が含まれていてもよい。
但し、この溶出促進成分(G)から、前記樹脂酸、その他の有機酸(例:イソノナン酸、バーサチック酸、ナフテン酸など)等を除く(以下、同様。)。
【0188】
このような溶出促進成分(G)としては、例えば、前記カルボン酸[B]以外のロジン誘
導体、カルボン酸金属塩などが挙げられる。
ロジン誘導体としては、たとえば、重合ロジン、マレイン化ロジン、アルデヒド変性ロジン、ロジンのポリオキシアルキレンエステル、還元ロジン(ロジンアルコール)、ロジ
ンの金属塩(ロジンの銅塩、亜鉛塩、マグネシウム塩など)、ロジンアミン等が挙げられる。これらのロジン誘導体は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0189】
カルボン酸の金属塩としては、Cu塩、Zn塩、Mg塩、Ca塩等が挙げられる。なおカルボン酸の金属塩としては、前記したカルボン酸金属過多塩ではなく、カルボン酸と、該カルボン酸の当量に比して等当量比あるいはそれ以下の当量比の金属とからなる塩を使用してもよい。
【0190】
これらの溶出促進成分のうちでは、ロジン誘導体が好ましい。これらの溶出促進成分は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
これらの溶出促進成分は、防汚塗料組成物100重量部中に、0.1〜30重量%、好ましくは、0.1〜20重量%、さらに好ましくは0.5〜15重量%の量で含有されていることが望ましい。溶出促進成分の配合割合は、塗膜の防汚性能および耐水性能の観点からこの範囲にあることが望ましい。
【0191】
また防汚塗料組成物中に含まれるシリルエステル共重合体[A]100重量部に対して、
該溶出促進成分は、合計で通常、0.3〜600重量部、好ましくは2〜300重量部の量で含まれていることが望ましい。
【0192】
この溶出促進成分が、該防汚塗料組成物中にこの範囲にあると、防汚性や塗膜の消耗性に優れるようになる傾向がある。
[ビニルエーテル系(共)重合体(H)]
ビニルエーテル系(共)重合体は、ビニルエーテル成分単位を有し、得られる塗膜の耐クラック性、耐剥離性、溶出速度安定性等の向上に寄与し、塗膜形成成分としても機能する。
【0193】
上記ビニルエーテル系(共)重合体として具体的には、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソプロピルエーテル、ポリビニルイソブチルエー
テルなどを例示することができる。
【0194】
このようなビニルエーテル系(共)重合体(H)は、防汚塗料組成物100重量部中に、合計で通常、0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部の量で含まれていることが望ましい。また防汚塗料組成物中に含まれるシリルエステル共重合体[A]100重量部
に対して、該ビニルエーテル系(共)重合体は、通常、0.3〜60重量部、好ましくは0.6〜40重量部の量で含まれていることが望ましい。
【0195】
このビニルエーテル系(共)重合体が、該防汚塗料組成物中にこの範囲にあると、得られる塗膜の耐クラック性、耐剥離性、溶出速度安定性に優れるようになる傾向がある。
また、ビニルエーテル系(共)重合体に代えて、あるいはビニルエーテル系(共)重合体とともに、各種の親水性基含有重合体を使用することができる。このような親水性基含有重合体としては、(メトキシ)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(共)重合体のような各種(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート(共)重合体などが挙げられ、これらの使用によって、ビニルエーテル系(共)重合体と同様の効果を得ることが可能である。
【0196】
[可塑剤(I)]
可塑剤としては、正リン酸エステル、塩素化パラフィン、フタル酸エステル、アジピン酸エステル等、通常、塗料用に用いられる可塑剤が使用される。これらの可塑剤は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0197】
このような可塑剤を配合する場合には、可塑剤は、この防汚塗料組成物中に、たとえば、0.1〜10重量%の量で配合される。
これらの可塑剤は、得られる防汚塗料組成物からなる塗膜(本明細書中では、「防汚塗膜」とも言う)の耐クラック性の向上に寄与するが、これら可塑剤のうちで、塩素化パラフィンまたはトリクレジルフォスフェート(TCP)などの正リン酸エステルが好ましく用いられる。
【0198】
この塩素化パラフィンとしては、直鎖状でもよく分岐を有していていてもよく、室温で液状でも固体(粉体)でもよい。このような塩素化パラフィンとしては、東ソー(株)製の「トヨパラックス150」、「トヨパラックスA-70」などが挙げられる。本発明において
は、このような塩素含有率、炭素数などの異なる2種以上の塩素化パラフィンを適宜組み合わせて用いることができる。
【0199】
可塑剤(I)として、このような塩素化パラフィンを用いる場合は、防汚塗料組成物100重量部中に、通常、0.05〜20重量部、好ましくは0.1〜15重量部の量で含まれていることが望ましい。また防汚塗料組成物中に含まれるシリルエステル共重合体[A]
(固形分)100重量部に対して、該塩素化パラフィンは、1〜50重量部、好ましくは2〜40重量部の量で含まれていることが望ましい。また、この塩素化パラフィンの量がこの範囲にあると、塗膜のクラックの抑制効果、塗膜強度および耐ダメージ(衝撃)に優れるようになる。
【0200】
また、(I)可塑剤として、正リン酸エステルを用いる場合、防汚塗料組成物100重量部中に、通常、0.05〜20重量部、好ましくは0.1〜15重量部の量で含まれていることが望ましい。また防汚塗料組成物中に含まれるシリルエステル共重合体[A](固形
分)100重量部に対して、正リン酸エステルは、1〜50重量部、好ましくは2〜40重量部の量で含まれていることが望ましい。
【0201】
このように可塑剤(I)として正リン酸エステルが含まれていると、割れ、刷がれの少な
い塗膜が形成でき、また塗膜の消耗度を速めることができる。
[タレ止め・沈降防止剤]
タレ止め・沈降防止剤としては、従来より公知のものが任意量で配合されていてもよい。このようなタレ止め・沈降防止剤としては、Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩などの塩類、ポリエチレンワックス、水添ヒマシ油ワックス系、ポリアマイドワックス系および両者の混合物、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックス等が挙げられ、好ましくは水添ヒマシ油ワックス、ポリアマイドワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックスが用いられる。このようなタレ止め・沈降防止剤としては、楠本化成(株)製の「ディスパロンA-603-20X」、「ディスパロン4200-20」等の商品名で上市されているものが挙げられる。
【0202】
[顔料、溶剤]
顔料としては、従来公知の有機系、無機系の各種顔料(例:チタン白、ベンガラ、有機赤色顔料、タルクなど)を用いることができる。なお、染料等の各種着色剤も含まれていてもよい。
【0203】
顔料の形態として針状、扁平状、鱗片状のものを使用することにより塗膜の耐クラック性を一層向上させることが可能である。
溶剤としては、たとえば、脂肪族系、芳香族系(例:キシレン、トルエン等)、ケトン系、エステル系、エーテル系など通常、防汚塗料に配合されるような各種溶剤が用いられる。また、本発明に係る防汚塗料組成物中に含まれる溶剤には、上記シリルエステル共重合体[A]を調製する際に使用した溶媒が含まれていてもよい。
【0204】
[各種樹脂]
上記以外の各種樹脂としては、アクリル酸エステル(共)重合体、メタクリル酸エステル(共)重合体、2−ヒドロキシエチルアクリレート(共)重合体などのアクリル樹脂が挙げられる。さらに、たとえば、特開平4-264170号公報、特開平4-264169号公報、特開平4-264168号公報、特開平2-196869号公報、特表昭60-5
00452号、特開昭63−215780号公報、特表昭60-500452号(特公平
5−32433号公報)、特開平7-18216号公報に記載されてシリルエステル系(
共)重合体が、本発明に係る防汚塗料組成物に含まれていてもよい。
【0205】
[防汚塗料組成物の製造]
本発明に係る防汚塗料組成物は、従来より公知の方法を適宜利用することにより製造することができ、たとえば、[A]重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成
分単位を含有するシリルエステル共重合体成分と、該(共)重合体[A]100重量部に対
して、0.02〜1000重量部のカルボン酸[B]と、1.5〜1200重量部の量の二
価または三価の金属化合物[C]と、0.01〜50重量部の量の脱水剤[D]と、3〜1400重量部の防汚剤(E)と、0.1〜700重量部の量の酸化亜鉛(F)と、0〜600重量部の量の溶出促進成分(G)と、0.3〜200重量部の量のビニルエーテル系(共)重合体(H)と、1〜50重量部の量の可塑剤(I)と、適宜量で用いられるタレ止め・沈降防止剤、顔料、溶剤などとを一度にあるいは任意の順序で加えて撹拌・混合・分散等すればよい。
【0206】
望ましくは、カルボン酸[B]と二価または三価の金属化合物[C]と適宜量の溶剤とを混合し、予め、カルボン酸金属過多塩を調製することが好ましい。このようにすれば、塩の形成を容易且つ速やかに進行させることができる。さらに上記金属過多塩を調製する際に、又は調製後に、脱水剤[D]を混合しておくことで、金属過多塩形成の際に生成する水分を
効率的に除去することができる。
【0207】
上記の操作を行った後で、配合予定の残余の成分を一度にあるいは任意の順序で加えて攪拌、混合、分散等すれば、優れた物性の本発明の防汚塗料組成物を効率よく調製することができる。
【0208】
詳説すれば、方法(1)としては、カルボン酸[B]と、カルボン酸[B]中のカルボキシル基
1当量に対して、該金属化合物[C]を構成する金属の当量数が、前述したように1.2当
量以上となる量の金属化合物[C]を予め混合・攪拌等の方法で接触させて、予め、有機カ
ルボン酸金属過多塩を形成させる。
【0209】
次いで、得られた有機カルボン酸金属過多塩を含有する成分(組成物)と、所定量の脱水剤[D]および成分[A]を含む他の上記したような種々の配合成分とを混合・攪拌して、本発明の有機カルボン酸金属過多塩含有防汚塗料組成物を得ることが望ましい。
【0210】
また方法(2)としては、カルボン酸[B]と、カルボン酸[B]中のカルボキシル基1当量に
対して、該金属化合物[C]を構成する金属の当量数が前述したように1.2当量以上とな
る量の金属化合物[C]と、所定量の脱水剤[D]とを予め混合・攪拌等の方法で接触させて、生成水が減量または除去された、有機カルボン酸金属過多塩を含有する成分(組成物)を形成させる。
【0211】
次いで、得られた有機カルボン酸金属過多塩を含有する成分(組成物)と、上述したような所定量の必須成分[A]や種々の任意成分とを混合・攪拌して、本発明の有機カルボン
酸金属過多塩含有防汚塗料組成物を得ることが望ましい。
【0212】
この防汚塗料組成物は、一液性で貯蔵安定性に優れ、防汚塗料の付着性、耐久性、防汚性といった各種要求性能を満足するものである。
上記のような防汚塗料組成物を水中・水上構造物すなわち海洋構造物(例:原子力発電所の給排水口)、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、運河・水路等のような各種海洋土木工事の汚泥拡散防止膜、船舶、漁具(例:ロープ、漁網)などの各種成形体(基材)の表面に常法に従って1回〜複数回塗布・硬化させれば、耐クラック性、防汚性に優れた防汚塗膜被覆船体または海洋構造物などが得られる。なお、この防汚塗料組成物は、直接上記船体または海洋構造物等の表面に塗布してもよく、また予め防錆剤、プライマーなどの下地材が塗布された船体または海洋構造物等の表面に塗布してもよい。さらには、既に従来の防汚塗料による塗装が行われ、あるいは本発明の防汚塗料組成物による塗装が行われている船体、海洋構造物等の表面に、補修用として本発明の防汚塗料組成物を上塗りしてもよい。このようにして船体、海洋構造物等の表面に形成された防汚塗膜の厚さは特に限定されないが、たとえば、30〜150μm/回程度である。
【実施例】
【0213】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。なお、以下の実施例、比較例において、「部」は「重量部」の意味である。
[製造実施例1]
シリル(メタ)アクリレート共重合体(S−1)の製造
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置、窒素導入管、加熱、冷却ジャケットを備えた反応容器にキシレン100部を仕込み窒素気流下で85℃の温度条件に加熱撹拌を行った。同温度を保持しつつ滴下装置より、上記反応器内にトリイソプロピルシリルアクリレート50部、メチルメタクリレート50部及び重合開始剤の2,2'-アゾビスイソブチロニ
トリル1部の混合物を2時間かけて滴下した。その後同温度で4時間撹拌を行った後、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.4部を加えさらに同温度で4時間撹拌を行い、
無色透明のシリル(メタ)アクリレート共重合体(S−1)溶液を得た。
【0214】
得られた共重合体(S−1)溶液の加熱残分(105℃の恒温器中3時間乾燥後の加熱残分)は、51.2%であり、25℃における粘度は408cpsであり、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は6618であり、重量平均分子量(Mw)は19434であった。GPCの測定条件は以下の通りである。
【0215】
[GPC測定条件]
装置:東ソー社製 HLC−8120GPC
カラム:東ソー社製 Super H2000+H4000
6mm I.D., 15cm
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
流 速:0.500ml/min
検出器:RI
カラム恒温槽温度:40℃
[製造実施例2〜17]
シリル(メタ)アクリレート共重合体(S−2)〜(S−17)の製造
共重合体溶液を製造の際に、滴下する共重合モノマー配合成分を表1〜表2に示すように変えた以外は、上記と同様にして共重合体(S−2)〜(S−17)を重合し、前記同様にこれらの共重合体(溶液)の物性値を測定した。
【0216】
結果を合わせて表1〜表2に示す。
[比較例用製造例1〜3]
シリル(メタ)アクリレート共重合体(H−1)〜(H−3)の製造
共重合体溶液を製造の際に、滴下する共重合モノマー配合成分を表1〜表2に示すように変えた以外は、上記と同様にして共重合体(H−1)〜(H−3)を重合し、前記同様にこれらの共重合体(溶液)の物性値を測定した。
【0217】
結果を合わせて表1〜表2に示す。
【0218】
【表1】

【0219】
【表2】

【0220】
IRの測定条件は以下の通りである。
[IR測定条件]
装 置:日立製作所製 270−30形 日立赤外分光光度計
測定方法:KBrセル、塗布法
また、キレート滴定による亜鉛の含有量は15.40%であった。なお、キレート滴定は以下のようにして行った。
[キレート滴定]
トルエンに試料を溶解し、EDTAを加えて金属キレートを生成し、BTを指示薬として余剰のEDTAを塩化亜鉛溶液にて逆滴定し、金属含有量を求めた。
【0221】
BT:エリオクロムブラックT[1-(ヒドロキシ-2-ナフトールアゾ)-6-ニトロ-2-ナフ
トール-4-硫酸ナトリウム]
[実施例1]
防汚塗料組成物の調製
ペイントシェーカーの容器にイソノナン酸2.3重量部、酸化亜鉛6重量部、キシレン3重量部を仕込み、適量のガラスビーズを加えてペイントシェーカーで30分間振とうした(予備分散)。
【0222】
その後、共重合体溶液S−1を20重量部、亜酸化銅44重量部、2−ピリジンチオール−1−オキシド銅塩を3重量部、チタン白2重量部、無水石膏−D−1を2重量部、ディスパロン4200−20を1.5重量部、ディスパロンA603−20Xを4重量部、キシレン9.7重量部(初期Ku値が85±5になるように溶媒量を調整)を更に加えて、これらの配合成分を一緒にして2時間振とうした(本分散)。
【0223】
次いで、100メッシュのフィルターにて濾過して、所望の防汚塗料組成物を得た。
初期KU値は、90、貯蔵安定性は5,静置防汚性は5,消耗度(μm/2ヶ月)は12、塗膜状態は5となった。併せて表3〜7に示す。
・初期KU
防汚塗料組成物についてストーマー粘度計で製造直後の粘度(Ku値/25℃)を測定した。
・貯蔵安定性
該防汚塗料組成物について常温で2ヶ月間貯蔵後の貯蔵安定性を表3〜表7に合わせて示す。
【0224】
貯蔵安定性の評価は塗料試作直後と常温2ヶ月間貯蔵後の粘度(ストーマー粘度計によ
り測定した25℃におけるKu値)の増加度により行った。
(評価基準)
5:粘度の増加が10未満
4:粘度の増加が10以上20未満
3:粘度の増加が20以上30未満
2:粘度の増加が30以上
1:流動性がなくKu値の測定が不可
また、該防汚塗料組成物を用いた静置防汚性、消耗度の評価を下記のようにして行った。
【0225】
結果を表3〜表7に合わせて示す。
静置防汚性試験
100×300×2mmのサンドブラスト鋼板にエポキシ系ジンクリッチプライマー(塗料中の亜鉛末含有量80重量%)、タールエポキシ系防食塗料、ビニル系バインダーコートをそれぞれの乾燥膜厚で20μm、75μmとなるように1日毎に塗装した後、供試防汚塗料をその乾燥膜厚が100μmとなるように塗装し、試験板を得た。
【0226】
長崎沖に設置した試験筏より供試試験板を水深1mの地点につるし、24ヶ月の時点で試験板へのマクロ生物(フジツボ・セルプラ等)の付着面積を評価した。
評価基準(点)
5:付着なし
4:5%未満の付着
3:5%以上15%未満付着
2:15%以上40%未満付着
1:40%以上付着
消耗度、塗膜状態の評価
[消耗度の評価]
直径300mmで厚さ3mmの円盤状サンドブラスト板にエポキシ系ジンクリッチプライマー、エポキシ系防食塗料、ビニル系バインダーコートをそれぞれの乾燥膜厚が20μm、150μm、50μmとなるよう1日毎に順次重ねて塗装した後、7日間室内で乾燥した。その後隙間500μmのアプリケーターを用い供試防汚塗料組成物を円心から半径方向に放射状に塗装し、試験板を得た。25℃の海水を入れた恒温槽中でモーターにこの試験板を取り付け、周速15ノットで2ヶ月間回転し、円周付近の消耗度(膜厚減少)を測定した。
【0227】
また、膜厚減少測定時の塗膜状態を目視で観察し、以下の基準にて評価を行った。
(評価基準)
5:塗膜に異常を認めない
4:部分的に微細なワレを認める
3:全体的に微細なワレを認める
2:部分的に顕著なワレを認める
1:全体的に顕著なワレを認める
なお、表3〜表7中の成分名称等は以下の通りである。
[1]「トヨパラックス150」東ソー(株)製の塩素化パラフィン、
平均炭素数:14.5、塩素含有量:50%、
粘度:12ポイズ/25℃、比重:1.25/25℃。
[2]「ルトナールA−25」BASF社製のポリビニルエチルエーテル、
粘度:2.5〜6.0Pa・s/23℃、比重:0.96/20℃。
[3]「ロジン溶液」WWロジンの50%キシレン溶液。
[4]「ナフテン酸銅溶液」ナフテン酸銅のキシレン溶液、
溶液中の銅含有率:8%。
[5]「可溶性無水石膏D−1」(株)ノリタケカンパニーリミテド製、
IIICaSO4、白色粉末、平均粒径15μm。
[6]「ディスパロン4200−20」楠本化成(株)製、
酸化ポリエチレンワックス 20%キシレンペースト。
[7]「ディスパロンA603−20X」楠本化成(株)製
脂肪酸アマイドワックス 20%キシレンペースト。
[実施例2〜38、比較例1〜10]
防汚塗料組成物の調製
実施例2〜38では、実施例1において、配合組成を表3〜表7に示すように変更した以外、実施例1と同様にして各防汚塗料組成物を調製した。
【0228】
また、比較例1〜10では、実施例1において、配合組成を表3〜表7に示すように変更し、予備分散を実施せずに本分散のみ実施した(すなわち一括分散した)以外、実施例1と同様にして各防汚塗料組成物を調製した。
【0229】
得られた各塗料組成物について、貯蔵安定性、および塗料組成物から形成した防汚塗膜の静置防汚性、消耗度を評価した。
結果を表3〜表7に合わせて示す。
【0230】
【表3】

【0231】
【表4】

【0232】
【表5】

【0233】
【表6】

【0234】
【表7】

【0235】
表3〜表7から明らかなように、カルボン酸[B]と金属化合物[C]を用いることにより、塗膜消耗度の低減化が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[B]カルボン酸と、[C]二価または三価の金属化合物と、溶剤とを、カルボン酸[B]中のカルボキシル基1当量に対して、前記金属化合物[C]を構成する金属の当量数が、1.2当量以上となるように接触させ、
次いで、得られた組成物と、[A]重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位を含有するシリルエステル共重合体と、[D]脱水剤とを、攪拌、混合または分散することを特徴とする防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項2】
[B]カルボン酸と、[C]二価または三価の金属化合物と、[D]脱水剤と、溶剤とを、カルボン酸[B]中のカルボキシル基1当量に対して、前記金属化合物[C]を構成する金属の当量数が、1.2当量以上となるように接触させ、
次いで、得られた組成物と、[A]重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位を含有するシリルエステル共重合体とを、攪拌、混合または分散することを特徴とする防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記二価または三価の金属化合物[C]が、二価の金属化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記二価または三価の金属化合物[C]が、亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物であることを特徴とする請求項3に記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記カルボン酸[B]が、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチエン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ノルアガテン酸、アガテンジカルボン酸、アガテンジカルボン酸モノアルキルエステル、セコデヒドロアビエチン酸およびそれらの異性体の内から選択される少なくとも1種のカルボン酸を含有する樹脂酸または樹脂酸誘導体である請求項1〜4の何れかに記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項6】
前記カルボン酸[B]が、イソノナン酸、バーサチック酸、ナフテン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸の内から選択される少なくとも1種の有機酸であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項7】
前記脱水剤[D]が、無機脱水剤である請求項1〜6の何れかに記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項8】
前記脱水剤[D]が、カルボン酸[B]中のカルボキシル基1当量に対して、0.15〜50当量の量で含まれている請求項1〜7の何れかに記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項9】
前記重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位(a)が、下記式(I)で表されるシリル(メタ)アクリレートから誘導される成分単位を含有することを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【化1】

(式(I)中、R1は、水素またはメチル基を示し、R2、R3、R4は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、アルキルシリルオキシ基の何れかを示す。)
【請求項10】
前記式(I)中、R2が分岐アルキル基またはシクロアルキルであることを特徴とする
請求項9に記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項11】
前記シリルエステル共重合体(A)が、重合性不飽和カルボン酸シリルエステルから誘導される成分単位(a)とともに、極性基含有(メタ)アクリレートから誘導される成分単位(b)を含有することを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項12】
極性基含有(メタ)アクリレートから誘導される成分単位(b)が、下記式(II)で表され
る成分単位であることを特徴とする請求項11に記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【化2】

[式(II)中、R5は、水素原子またはメチル基を示し、Zは、酸素原子または−NR7を示し、
Zが酸素原子である場合には、R6は置換基を有していてもよいヒドロキシアルキル基
、ヒドロキシシクロアルキル基または式:―(R8O)nHで表されるポリアルキレングリコール基(ただし、R8は、アルキレン基であり、nは2〜50の整数を示す)または式:
―(RxO)nyで表されるアルコキシポリアルキレングリコール基(ただし、Rxはアルキレン基であり、Ryはアルキル基であり、nは1〜100の整数を示す)を示し、
Zが−NR7である場合には、R7は、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、置換アミノ基、アシル基、アルコキシ基の何れかで置換されていてもよいアルキル基を示し、R6
は水素原子を示す。]
【請求項13】
前記シリルエステル共重合体(A)が、
下記式(I-a)で表されるシリル(メタ)アクリレート成分単位(a-1):
【化3】

(式(I-a)中、R10は、水素原子またはメチル基を示し、R11およびR12は、それぞ
れ独立に、炭素数が1〜10の直鎖アルキル基または置換されていてもよいフェニル基またはトリメチルシリルオキシ基を示し、R13は、環構造または分岐を有していてもよい炭素数が1〜18のアルキル基、炭素数が6〜10の置換されていてもよいフェニル基、またはトリメチルシリルオキシ基を示す。)、および
下記式(I-b)で表されるシリル(メタ)アクリレート成分単位(a-2):
【化4】

(式(I-b)中、R10は、水素原子またはメチル基を示し、R14およびR15は、それぞ
れ独立に、炭素数が3〜10の分岐またはシクロアルキル基を示し、R16は、炭素数が1〜10の直鎖アルキル基、炭素数が3〜10の分岐またはシクロアルキル基、または炭素数が6〜10の置換されていてもよいフェニル基またはトリメチルシリルオキシ基を示す。)
を含有する共重合体であることを特徴とする請求項1〜12の何れかに記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項14】
さらに防汚剤(E)を含有することを特徴とする請求項1〜13の何れかに記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項15】
前記防汚剤(E)として、銅または銅化合物(E1)を含有することを特徴とする請求項14に記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項16】
前記防汚剤(E)として、有機防汚剤化合物(E2)(但し、有機銅化合物を除く。)を含有することを特徴とする請求項14に記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項17】
さらに体質顔料または着色顔料として、カルボン酸のカルボキシル基1当量に対して5000当量までの過剰量の酸化亜鉛(F)を含有することを特徴とする請求項1〜16の何れかに記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項18】
さらに、溶出促進成分(G)を含有することを特徴とする請求項1〜17の何れかに記載の防汚塗料組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−41029(P2009−41029A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241231(P2008−241231)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【分割の表示】特願2002−60696(P2002−60696)の分割
【原出願日】平成14年3月6日(2002.3.6)
【出願人】(390033628)中国塗料株式会社 (57)
【Fターム(参考)】