説明

防油堤内における落滴油の浄化構造

【課題】 簡素な循環水系構造で、培養装置の導入や積極的な曝気を行わなくても微生物を効率的に増殖させることができ、かつ、採油時に不可避的に落滴する油を速やかに分解して、防油堤内を清浄に保つことができる防油堤内における落滴油の浄化構造を提供すること。
【解決手段】 油を収容するタンク1の設置箇所の周囲に所定高さの堤壁2が立設した防油堤が形成され、前記堤壁2の包囲部内側における油充填口11aの鉛直下方位置には、通水路3を形成して、防油堤の外側には、油水分離槽5を設置し、この油水分離槽5の最終槽からの排水を、取水部31を介して再び通水路3内に流入させることによって、単一の循環水系を構成しており、この水系全体において油脂を分解可能な好気性微生物を生息せしめて、かつ、前記通水路3の少なくとも一部には、当該微生物が付着して増殖可能な菌床部4を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防油堤設備の改良、更に詳しくは、簡素な循環水系構造で、培養装置の導入や積極的な曝気を行わなくても微生物を効率的に増殖させることができ、かつ、採油時に不可避的に落滴する(零れ落ちる)油を速やかに分解して、防油堤内を清浄に保つことができる防油堤内における落滴油の浄化構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、油を貯蔵するタンクの周囲には、万一の油漏れ事故が発生した場合に備えて、所定高さの立壁(所謂「防油堤」)が囲繞されており、漏れた油が外部の水路や土壌などに流出するのを防止している。
【0003】
一方、タンク内に油を充填したり取り出したりする際には、このタンクに接続されるパイプから給排出するのであるが、この作業の際、残った油がパイプ先端の充填口から不可避的に零れてしまい、不衛生であるとともに、この零れた油に引火するおそれもあって危険である。
【0004】
防油堤内においては、上記のような原因で零れた油が、溜まった雨水などと混じってしまうことから、従来、この廃水から雨水と油とを分離して処理する装置が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、かかる分離装置は、油と水とを分離することはできるが、油を分解することができないし、また、通常、油は水より比重が小さいために表面に浮き上がるけれども、油がゴミを付着すると沈降することがあるため、分離されずに槽内に油が残留してしまうという問題もある。
【0006】
また、従来、防油堤から排出される含油廃水を処理する方法としては、微生物を封殖したブロック体を井桁に組んで収容した浸透枡内に通水して、油分を付着および分解するものが開示されている(特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、かかる油処理方法は、大規模な設備が必要であるためにコストが嵩んでしまうとともに、油分が完全に分解されたことが確認できないまま外部に排出されるために、油分が残留しているおそれがあった。
【0008】
更にまた、好気性の微生物を利用する油分解装置も知られているが(例えば、特許文献3参照)、主として調理場などの室内で用いられるため、空気と光が不足しがちで、常に曝気を行わないと微生物が十分に繁殖しないことから、微生物が死滅しないように細心の注意を払わねばならず、もし死滅するとまた補充せねばならないという管理の煩わしさがある。
【特許文献1】特開2007−175655号公報(第4−6頁、図1−4)
【特許文献2】特開昭60−255196号公報(第1−2頁、第1−4図)
【特許文献3】特開平7−265897号公報(第4−8頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の防油堤の構造に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、簡素な循環水系構造で、培養装置の導入や積極的な曝気を行わなくても微生物を効率的に増殖させることができ、かつ、採油時に不可避的に落滴する油を速やかに分解して、防油堤内を清浄に保つことができる防油堤内における落滴油の浄化構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0011】
即ち、本発明は、油を収容するタンク1の設置箇所の周囲に所定高さの堤壁2が立設した防油堤が形成され、この防油堤内において落滴した油を分解する構造であって、
前記タンク1には内部に油を充填するためのパイプ11を接続して、かつ、このパイプ11の先端には油充填口11aを開口する一方、前記堤壁2の包囲部内側における前記油充填口11aの鉛直下方位置には、通水路3を形成して、かつ、この通水路3の両端部にはそれぞれ取水部31と排水部32とを備えるとともに、
防油堤の外側には、前記通水路3の排水部32からの排水が流入され、この排水中の油と水とを分離する設備であって、複数の水槽51・51…を連結して構成される油水分離槽5を設置し、この油水分離槽5の最終槽からの排水を、前記取水部31を介して再び通水路3内に流入させることによって、単一の循環水系を構成しており、この水系全体において油脂を分解可能な好気性微生物を生息せしめて、かつ、前記通水路3の少なくとも一部には、当該微生物が付着して増殖可能な菌床部4を設け、
前記防油堤内において前記タンク1の油充填口11aから落滴した油を浄化可能にするという技術的手段を採用して、防油堤内における落滴油の浄化構造を完成させた。
【0012】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、通水路3の側壁面の表面に成形された凹凸によって、菌床部4を構成するという技術的手段を採用した。
【0013】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、油水分離槽5の少なくとも一つの水槽51内において、多孔性の微生物担持体7を収容するという技術的手段を採用した。
【0014】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、油水分離槽5の少なくとも一つの水槽51内において、曝気装置52を配置するという技術的手段を採用した。
【0015】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、通水路3の取水部31および排水部32において、水送管61をそれぞれ上から差し込んで、かつ、ポンプ62によって揚水可能に構成するという技術的手段を採用した。
【0016】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、通水路3の排水部32において、上向きに開口するオーバーフロー管32aを配設して、上澄み水を採取するという技術的手段を採用した。
【0017】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、通水路3を屋外に配置して、水路内の水が日光を受けることができるようにするという技術的手段を採用した。
【0018】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、通水路3を堤壁2の内側面に沿って一体に形成するという技術的手段を採用した。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、油を収容するタンクの設置箇所の周囲に所定高さの堤壁を立設した防油堤を形成し、この防油堤内において落滴した油を分解する構造であって、前記タンクには内部に油を充填するためのパイプを接続して、かつ、このパイプの先端には油充填口を開口する一方、前記堤壁の包囲部内側における前記油充填口の鉛直下方位置には、通水路を形成して、かつ、この通水路の両端部にはそれぞれ取水部と排水部とを備えるとともに、
防油堤の外側には、前記通水路の排水部からの排水が流入され、この排水中の油と水とを分離する設備であって、複数の水槽を連結して構成される油水分離槽を設置して、この油水分離槽の最終槽からの排水が、前記取水部を介して再び通水路内に流入することによって、単一の循環水系を構成しており、この水系全体において油脂を分解可能な好気性微生物を生息せしめて、かつ、前記通水路の少なくとも一部には、当該微生物が付着して増殖可能な菌床部を設けたことによって、前記防油堤内において前記タンクの油充填口から落滴した油を迅速かつ確実に浄化することができる。
【0020】
したがって、本発明の浄化構造を使用することにより、閉じた水系による簡素な循環構造であるため、外部に排水が流出するおそれがないので、油分を微量足りとも漏らすことがなく、土壌等を汚染することがなく、環境保全に寄与するものである。
【0021】
また、微生物の培養装置の導入や積極的な曝気を行わなくても、通水路が十分な面積を持っており、かつ、菌床を設けているので、微生物を効率的に増殖させることができ、簡素な構造でありながらも分解能力を最大限に向上させることができる。
【0022】
以上のように、本発明によれば、充填時に不可避的に零れ落ちてしまう油や、ゴミを付着して沈降した油を速やかに分解して、防油堤内を清浄に保つことができることから、実用的利用価値は頗る高いものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態を具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0024】
本発明の実施形態を図1から図5に基づいて説明する。図1中、符号1で指示するものはタンクであり、このタンク1には重油などの油を収容することができ、また、タンク本体には油を充填するためのパイプ11が接続されており、このパイプ11の先端には油充填口11aが開口している。
【0025】
また、符号2で指示するものは堤壁であり、この堤壁2は前記タンク1の設置箇所の周囲に立設される所定高さの壁部材であって、前記タンク1からの万一の油漏れ事故が発生した場合に備えて、漏れた油が外部の水路や土壌などに流出するのを防止するための防油堤を形成するものである。本実施形態では、コンクリート製(現場打ちまたは二次製品)の立壁であって、略正方形状にタンク1を包囲して設けられている(図2参照)。
【0026】
更にまた、符号3で指示するものは通水路であり、この通水路3は水を流すことができる溝部分であって、この通水路3の両端部にはそれぞれ取水部31と排水部32とを備えている。また、この通水路3は、前記堤壁2の包囲部内側における前記油充填口11aの鉛直下方位置に形成されている(図3参照)。また、本実施形態では、この通水路3を堤壁2の内側面に沿って一体に形成する。
【0027】
更にまた、符号4で指示するものは菌床であり、この菌床4は微生物が付着して増殖可能な部位または部材であって、前記通水路3の少なくとも一部に設けられている。本実施形態では、後述する本構造の循環水系全体において油脂を分解可能な好気性微生物が生息しており、この好気性微生物としては、糸状菌、細菌、放射菌などの菌類や、バクテリアと呼称されるものも含む。
【0028】
更にまた、符号5で指示するものは油水分離槽であり、この油水分離槽5は防油堤の外側に設置され、前記通水路3の排水部32からの排水が流入され、この排水中の油と水とを分離する設備であって、複数の水槽51・51…(本実施形態では3つ)を連結して構成されている(図4参照)。
【0029】
しかして、本発明における浄化構造は、防油堤内において落滴した油を分解する構造であって、本構造の構成および使用方法について以下に説明する。
【0030】
まず、前記タンク1の内部に油を収容するために、給油ホースなどをパイプ11に連結するとともに、このパイプ11に配設されたコックをひねって油充填口11aを開放し、油を充填する。本実施形態では、このパイプ11はタンク1の天井部に接続されており、其処からタンク内に油を入れていく。
【0031】
そして、充填作業を終えて、充填口11aにおけるパイプ11と給油ホースとの連結を解除すると、この部分に残留した油が落滴する。この際、この充填口11aの鉛直下方位置には通水路3が形成されているので、ここで落滴した油は、当該通水路3を流れる水に混入される。
【0032】
この通水路3の両端部にはそれぞれ取水部31と排水部32とを備えているとともに、本実施形態では、前記堤壁2の上を乗り越えて水送管61が差し込まれて、ポンプ62によって揚水可能に構成されており、取水部31から水を供給することができる一方、排水部32から採水して外部に輸送することができる。
【0033】
そして、この通水路3の排水部32からの排水は、防油堤の外側に設置した油水分離槽5に流入され、この排水中の油と水とを分離する。
【0034】
本実施形態では、この油水分離槽5の少なくとも一つの水槽51内(好ましくは第2槽目以降)において、多孔性の微生物担持体7を収容することができる。具体的には、メッシュ状の袋体に木炭を詰めたものを採用し、この木炭に大量の微生物を担持させることができ、水槽51内に滞溜せしめた微生物により時間をかけて分解することができる。
【0035】
また、本実施形態では、油水分離槽5の少なくとも一つの水槽51内(好ましくは第2槽目以降)において、曝気装置52を配置することができ、水槽51内に付着する水藻を取るとともに、好気性微生物を増殖させるために補助的にエアレーションを行うことができる。
【0036】
このようにして、本構造にあっては、この油水分離槽5の最終槽からの排水が、前記取水部31を介して再び通水路3内に流入されることによって、外部には水が排出されない閉じた単一の循環水系を構成している。
【0037】
そして、前記通水路3の少なくとも一部には、前記微生物が付着して増殖可能な菌床部4を設ける。本実施形態では、通水路3をコンクリート躯体に形成した溝により構成することによって、このコンクリート材料における側壁面の表面に、適度な凹凸を成形することができ、この凹凸部分に微生物が引っ掛かって滞溜し易くなるため、繁殖力の良好な菌床部4を構成することができる。この菌床4としては、セラミック製プレートなどの多孔質材料による成形品を配設することもできる。
【0038】
以上のようにして、防油堤内における前記タンク1の油充填口11aから落滴した油は、本発明の浄化構造における循環水系内において確実に分解することができ、きれいな水質にまで浄化することができる。
【0039】
本発明は概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、通水路3の排水部32においては、図5に示すような、上向きに開口するオーバーフロー管32aを配設して、上澄み水を採取するようにすることができ、水に浮く油分を効果的に採取することができる。
【0040】
また、通水路3を屋外に配置して、水路内の水が日光を受けることができるようにすることができ、好気性微生物の増殖をより促進させることもできる。
【0041】
更にまた、通水路3は、U字型ブロックを列設して形成するものであっても良いし、更にまた、通水路3の取水部31は、供給用の水送管61に孔を開けて油水分離槽5から送入される水を噴射するように構成するものであっても良く、これら何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態の浄化構造を表わす全体斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の浄化構造を表わす全体上面図である。
【図3】本発明の実施形態の浄化構造を表わす部分側面図である。
【図4】本発明の実施形態の浄化構造における油水分離槽を表わす断面図である。
【図5】本発明の実施形態の浄化構造の変形例を表わす断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 タンク
11 パイプ
11a 油充填口
2 堤壁
3 通水路
31 取水部
32 排水部
32a オーバーフロー管
4 菌床部
5 油水分離槽
51 水槽
52 曝気装置
61 水送管
62 ポンプ
7 微生物担持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油を収容するタンク1の設置箇所の周囲に所定高さの堤壁2が立設した防油堤が形成され、この防油堤内において落滴した油を分解する構造であって、
前記タンク1には内部に油を充填するためのパイプ11が接続され、かつ、このパイプ11の先端には油充填口11aが開口している一方、
前記堤壁2の包囲部内側における前記油充填口11aの鉛直下方位置には、通水路3が形成されており、かつ、この通水路3の両端部にはそれぞれ取水部31と排水部32とを備えているとともに、
防油堤の外側には、前記通水路3の排水部32からの排水が流入され、この排水中の油と水とを分離する設備であって、複数の水槽51・51…を連結して構成される油水分離槽5が設置されており、この油水分離槽5の最終槽からの排水が、前記取水部31を介して再び通水路3内に流入されることによって、単一の循環水系を構成しており、
この水系全体において油脂を分解可能な好気性微生物が生息して、かつ、前記通水路3の少なくとも一部には、当該微生物が付着して増殖可能な菌床部4が設けられており、
前記防油堤内において前記タンク1の油充填口11aから落滴した油を浄化可能であることを特徴とする防油堤内における落滴油の浄化構造。
【請求項2】
通水路3の側壁面の表面に成形された凹凸によって、菌床部4が構成されていることを特徴とする請求項1記載の防油堤内における落滴油の浄化構造。
【請求項3】
油水分離槽5の少なくとも一つの水槽51内において、多孔性の微生物担持体7を収容したことを特徴とする請求項1または2記載の防油堤内における落滴油の浄化構造。
【請求項4】
油水分離槽5の少なくとも一つの水槽51内において、曝気装置52を配置したことを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の防油堤内における落滴油の浄化構造。
【請求項5】
通水路3の取水部31および排水部32において、水送管61がそれぞれ上から差し込まれており、かつ、ポンプ62によって揚水可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の防油堤内における落滴油の浄化構造。
【請求項6】
通水路3の排水部32において、上向きに開口するオーバーフロー管32aを配設して、上澄み水を採取することを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の防油堤内における落滴油の浄化構造。
【請求項7】
通水路3が屋外に配置されており、水路内の水が日光を受けることができることを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載の防油堤内における落滴油の浄化構造。
【請求項8】
通水路3が堤壁2の内側面に沿って一体に形成されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか一つに記載の防油堤内における落滴油の浄化構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−262045(P2009−262045A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114073(P2008−114073)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(505158149)有限会社笠川鋼産 (4)
【Fターム(参考)】