説明

防火複層ガラス

【課題】本発明は、製造が容易な防火複層ガラスを提供する。
【解決手段】本発明の防火複層ガラス10は、一次シール材18に難燃剤が配合されている。すなわち、本発明は、難燃剤を配合した一次シール材18をスペーサ16に塗布することによって、防火試験の規格に合格する防火複層ガラスを製造できる。つまり、一次シール材と二次シール材とからなる二層のシール構造の通常の複層ガラスを製造する設備で、防火複層ガラス10を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
複層ガラスのうち、防火複層ガラスと称されるものは、防火複層ガラスを構成するガラス板の少なくとも一枚に網入りガラス、耐熱強化ガラス、低膨張強化ガラス、透明結晶化ガラス等の耐熱防火性ガラス板が使用されたものを言う。
【0003】
また、一般的な複層ガラスは、対向する少なくとも二枚のガラス板を、スペーサを介して隔置し、これらの二枚のガラス板と対向するスペーサの各側面を一次シール材によって二枚のガラス板にそれぞれ接着し、一次シール材の外側を二次シール材によって封止することにより構成されている。
【0004】
前記一次シール材は、複層ガラスの中空層の乾燥状態を保つ上で不可欠な構成部材であり、ガラス板との接着性が良好で、かつ透湿抵抗が高いブチル系シーリング材が一般的に使用される。また、上述した防火複層ガラスにおいても、同様のブチル系シーリング材が一次シール材として使用されている。
【0005】
しかしながら火災時に、防火複層ガラスを構成するガラス板のうち、火災発生側(以下、加熱面側とする)ではない側(以下、非加熱面側とする)のガラス板が高熱によって割れると、高温になったブチル系シーリング材自身が燃焼する場合があり、非加熱面側に火炎が生じるというおそれがあった。
【0006】
そこで、上記問題を解消するために、特許文献1の防火複層ガラスは、一次シール材の内側に内面シール材層を形成し、内面シール材層によって耐火難燃性能を高めている。
【0007】
また、特許文献2の防火複層ガラスは、難燃性テープの層からなる一次シール材と難燃性の二次シール材との間に、防湿性シール材を介在させることによって耐火難燃性能を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−237941号公報
【特許文献2】特開2001−12157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の防火複層ガラスは、一次シール材、二次シール材の他に内面シール材層を備えなければならず部品点数が増えるとともに、製造が困難であるという問題があった。
【0010】
また、特許文献2の防火複層ガラスは、一次シール材、二次シール材の他に防湿性シール材を備えなければならず、特許文献1の防火複層ガラスと同様に製造が困難であるという問題があった。
【0011】
つまり、特許文献1、2の防火複層ガラスは、一次シール材、二次シール材の他に他のシール材層を有するシール三層構造を有している。したがって、特許文献1、2の防火複
層ガラスは、一次シール材と二次シール材とからなるシール二層構造の通常の複層ガラスを製造する設備では製造することができず、専用の設備が必要であった。また、専用設備で施工した場合では、封着部分の全体の高さが一般の複層ガラスと比べて高くなりがちで意匠的に好ましくないという問題があった。
【0012】
また、これらの封着部分では、一般の複層ガラスと比較して封着部分が広くなることがあり、意匠性に問題を起こすこともあった。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、製造が容易な防火複層ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記目的を達成するために、対向する少なくとも二枚のガラス板がスペーサを介して隔置されるとともに、二枚のガラス板と対向するスペーサの各側面が一次シール材によって二枚のガラス板にそれぞれ接着されて二枚のガラス板間に中空層が形成され、一次シール材の外側が二次シール材によって封止された複層ガラスであって、少なくとも一枚のガラス板が耐熱防火性ガラス板によって構成された防火複層ガラスにおいて、一次シール材に難燃剤が配合されていることを特徴とする防火複層ガラスを提供する。
【0015】
本発明によれば、防火複層ガラスの構成要件である一次シール材に難燃剤を添加し、一次シールの耐火難燃性能を上げた。すなわち、本発明によれば、難燃剤を配合した一次シール材をスペーサに塗布することによって、防火複層ガラスを製造できる。つまり、一次シール材と二次シール材とからなる二層のシール構造の通常の複層ガラスを製造する設備で、防火複層ガラスを製造できる。これにより、本発明の防火複層ガラスによれば、特許文献1、2に開示されたシール三層構造の防火複層ガラスと比較して、容易に製造できる。
【0016】
本発明の前記少なくとも二枚のガラス板は、前記耐熱防火性ガラス板と非耐熱防火性ガラス板であることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、火炎による加熱によって破損する非耐熱防火性ガラスと、耐熱防火性ガラス板とを組み合わせた防火複層ガラスに特に有効となる。
【0018】
本発明の前記一次シール材は、ブチル系シーリング材であり、該ブチル系シーリング材の主成分100質量部に対して前記難燃剤が5〜200質量部配合されていることが好ましい。
【0019】
本発明によれば、難燃剤が5質量部以上配合されていることにより、防火試験の基準を安定して満たすことができる。また、200質量部以下に難燃剤の配合量を抑えることにより、加工性や粘着性等が適度なものになる。
【0020】
本発明の前記一次シール材は、ブチル系シーリング材であり、該ブチル系シーリング材の主成分100質量部に対して前記難燃剤が10〜50質量部配合されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の防火複層ガラスによれば、一次シール材と二次シール材とからなる二層のシール構造の通常の複層ガラスを製造する設備で製造できるので、容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態の防火複層ガラスの要部拡大断面図
【図2】一次シール材への難燃剤の添加量とMFRとの関係を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に従って本発明に係る防火複層ガラスの好ましい実施の形態を詳説する。
【0024】
図1の断面図に示す実施の形態の防火複層ガラス10は、対向する二枚のガラス板12、14がスペーサ16を介して隔置されるとともに、二枚のガラス板12、14と対向するスペーサ16の各側面16A、16Bが一次シール材18A、18Bによって二枚のガラス板12、14にそれぞれ接着されている。これにより、二枚のガラス板12、14間に中空層20が形成される。また、一次シール材18A、18Bの外側が二次シール材22によって封止されている。
【0025】
スペーサ16としては、アルミニウムを主材質とする金属製のスペーサが用いられる場合が多いが、ステンレス材や硬質樹脂からなるものも使用される場合がある。スペーサ16はその内部に中空部24を有し、中空部24には粒状ゼオライト等の乾燥剤26が充填されている。スペーサ16には、中空部24を中空層20に連通させる貫通孔28が開口されており、この貫通孔28を介して中空層20の空気が乾燥される。
【0026】
このように構成された防火複層ガラス10は、一方のガラス板12が耐熱防火性ガラス板である網入りガラス板であり、他方のガラス板14が一般的なソーダライムガラスである。なお、ガラス板12として網入りガラス、耐熱強化ガラス、低膨張強化ガラス、透明結晶化ガラス等の別の耐熱防火性ガラス板を使用してもよい。
【0027】
また、本発明の防火複層ガラス10は、ブチル系シーリング材である一次シール材18A、18Bに難燃剤が配合されている。
【0028】
一次シール材18A、18Bは、ブチル系シーリング材の主成分であるポリイソブチレン、又はブチルゴムと難燃剤とが配合されたブチル系(ポリイソブチレン系あるいはブチルゴム系)組成物で形成されている。この一次シール材18A、18Bには、前記のゴム成分の他に、一般にゴム成形に用いられる加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤等の架橋剤、加硫遅延剤が配合され得る。更に、その効果を阻害しない範囲で、その他の添加剤等も配合され得る。前記添加剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどの充填剤(フィラー)、ワックス、シランカップリング剤、活性剤、可塑剤、軟化剤、老化防止剤、酸化防止剤、滑剤、顔料、紫外線吸収剤、分散剤、脱水剤、粘着付与剤、帯電防止剤、加工助剤等が挙げられる。これらの添加剤は、ゴム組成物用の一般的なものを挙げることができる。それらの配合量も特に制限されず、任意に選択される。
【0029】
一次シール材18A、18Bに配合される難燃剤の種類は特に限定されず、公知のものが使用でき、例えば、無機系難燃剤、有機系難燃剤等が挙げられる。前記無機系難燃剤としては、例えば、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等)、アンチモン系化合物(三酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等)、その他無機系化合物(ホウ素化合物、モリブデン系化合物、赤リン系化合物等)が挙げられる。中でも毒性が比較的低いという点で、金属水酸化物が好ましい。前記有機系難燃剤としては、例えば、ハロゲン系化合物(塩素化パラフィン、臭素化芳香族トリアジン化合物、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA誘導体等)、リン系化合物(ポリリン酸アンモニウム類、リン酸メラミン等)、窒素系化合物(メラミンシアヌレート等)等が挙げられる。
【0030】
また、一次シール材18A、18Bに対する難燃剤の配合量は、ベースになるブチル系成分100質量部に対して添加した難燃剤の量であらわす。(単位を質量部(phr)と表す)すなわち、前記ブチル系組成物における難燃剤の含有量は、ベースのブチル系成分100質量部に対して5〜200質量部であり、好ましくは10〜150質量部、より好ましくは10〜100質量部である。更に好ましい範囲は、施工する状況により少し範囲がずれ、後述する一次シール材を推奨標準施工温度で加工する場合は10〜50質量部が更に好ましく、複層ガラスの組立ラインのハイスピード化に必要な固めの一次シール材を必要とする製造ラインでは20〜60質量部が更に好ましい。難燃剤が5質量部以上配合されていることにより、防火試験の基準を安定して満たすことができる。また、200質量部以下に配合量を抑えることにより、加工性や粘着性等が適度なものになるという利点がある。
【0031】
〔試験の規格、及び試験方法〕
ユニットフレームに防火複層ガラス10を組み付けた試験体を、鉄及び耐火材からなる枠体で保持し、建設省から指定を受けた性能評価機関が定める「防耐火性能試験・評価業務方法書」に規定される「遮炎・準遮炎性能試験・評価方法」に準拠した20分の防火試験(加熱試験)を実施した。加熱面は網入りガラス側とした。
【0032】
以下の表1〜4に実施例品の防火複層ガラスと比較例品の複層ガラスの仕様を示す。
【0033】
また、合格の判断は、ISO834による加熱曲線で20分間加熱し、非加熱面へ10秒を超えて継続する火炎の噴出がないこと、非加熱面側で10秒を超えて継続する発炎がないこと、火炎が通る亀裂等の損傷及び隙間を生じないことである。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
実施例1で使用した難燃剤(BASF社製:MELAPUR200/70)は、電気、電子機器に使用される強化タイプのポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂等用のノンハロゲン系難燃剤である。耐熱性が高く、厳しい加工条件で使用される樹脂に好適である。
【0039】
実施例品の防火複層ガラスは、一次シール材に難燃剤を配合させるだけで、上記防火試験に合格した。すなわち、実施例1の防火複層ガラスは、難燃剤を配合した一次シール材をスペーサに塗布することによって、規格合格品の防火複層ガラスを製造できる。つまり、一次シール材と二次シール材とからなるシール二層構造の通常の複層ガラスを製造する設備で、前記防火複層ガラスを製造できる。
【0040】
ところで、一次シール材の推奨標準施工温度は、110℃から160℃の範囲であるとされている。すなわち、流動性の指標であるMFR(Melt Flow Rate)で言えば、8.4から93.3[g/10min]の範囲である。難燃剤の添加量が増えるとMFRは減少、すなわち加工性は減少していくが、難燃剤の添加量が150質量部以下であれば、推奨標準施工温度の範囲でMFR(加工性)の許容範囲に収まることを見出した。
【0041】
一次シール材への難燃剤の添加量とMFR(Melt Flow Rate)との関係を図2に示す。
【0042】
図2によれば、難燃剤の配合量を150質量部以下に抑えることにより、MFRを上記範囲内に収めることができるので、加工性が適度なものとなり、通常の複層ガラスを製造する設備で、前記防火複層ガラスを製造できる。
【0043】
これにより、実施の形態の防火複層ガラスによれば、特許文献1、2に開示されたシール三層構造の防火複層ガラスと比較して、容易に製造できる。また、難燃剤を配合した一次シール材は従来の複層ガラスの構造と同様に設置しているため、意匠性に変化はなかった。
【0044】
なお、前述の如く防火複層ガラスは、防火複層ガラスを構成する少なくとも二枚のガラス板のうち、一枚のガラス板を耐熱防火性ガラス板とすることによって構成される。すなわち、防火複層ガラスを構成する全てのガラス板を耐熱防火性ガラス板としてもよいが、本発明の趣旨は、一次シール材に難燃剤を配合することにあるので、防火複層ガラスの構成に限定を加えるものではない。つまり、本発明は、火炎による加熱によって破損する非耐熱防火性ガラスと、耐熱防火性ガラス板とを組み合わせた防火複層ガラスに特に有効であるが、防火複層ガラスを構成する全てのガラス板を耐熱防火性ガラス板としてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10…防火複層ガラス、12…ガラス板(網入りガラス板)、14…ガラス板(ソーダライムガラス)、16…スペーサ、16A、16B…スペーサの側面、18A、18B…一次シール材、20…中空層、22…二次シール材、24…中空部、26…乾燥剤、28…貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する少なくとも二枚のガラス板がスペーサを介して隔置されるとともに、二枚のガラス板と対向するスペーサの各側面が一次シール材によって二枚のガラス板にそれぞれ接着されて二枚のガラス板間に中空層が形成され、一次シール材の外側が二次シール材によって封止された複層ガラスであって、少なくとも一枚のガラス板が耐熱防火性ガラス板によって構成された防火複層ガラスにおいて、
一次シール材に難燃剤が配合されていることを特徴とする防火複層ガラス。
【請求項2】
前記少なくとも二枚のガラス板は、前記耐熱防火性ガラス板と非耐熱防火性ガラス板である請求項1に記載の防火複層ガラス。
【請求項3】
前記一次シール材は、ブチル系シーリング材であり、該ブチル系シーリング材の主成分100質量部に対して前記難燃剤が5〜200質量部配合されている請求項1又は2に記載の防火複層ガラス。
【請求項4】
前記一次シール材は、ブチル系シーリング材であり、該ブチル系シーリング材の主成分100質量部に対して前記難燃剤が10〜50質量部配合されている請求項1又は2に記載の防火複層ガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−136420(P2012−136420A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268697(P2011−268697)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】