説明

防災事業計画支援方法とそのシステム

【課題】 防災事業計画の施工の優先順位付けに係り、土砂災害発生の危険度を明快、かつ客観的に評価した評価情報として提示し、また、施工した防災事業の効果を明快、かつ客観的に評価した評価情報として提示し、その優先順位付けを効果的に支援することができる防災事業計画支援方法とそのシステムを提供する。
【解決手段】 短期降雨指標と長期降雨指標と土砂災害発生・非発生とを含むデータセットからなる複数の実績データを用いて、土砂災害の発生限界線、避難基準線あるいは警戒基準線を設定する工程と、そのうちいずれかの内側を安全領域とし外側を危険領域として区分する境界線を設定する工程と、安全領域の面積を算出する工程と、算出した安全領域の面積の大きさに基づき、土砂災害発生危険度を定量的に表す評価情報を表示及び/又は出力する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の箇所の土砂災害発生・非発生の実績情報を解析し、その複数箇所を比較した防災事業計画の優先順位付けを支援する防災事業計画支援方法とその防災事業計画支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
土砂災害(土石流、がけ崩れ、地すべり)は、毎年、全国各地で発生しており、尊い人命が失われ、貴重な財産が破壊されている。これは、我が国の国土の約7割が山地で地質的にも脆弱な地域が多く、急峻な地形が多い等の地理的条件や、都市化の進展による山麓部の土砂災害危険箇所(土石流危険渓流、急傾斜地崩壊危険箇所、地すべり危険箇所)への人口増加等の社会的条件、更には土砂災害の誘因となる台風や梅雨等の集中豪雨に見舞われ易いといった気象的条件によるものであり、土砂災害は、我が国における宿命的な自然災害の一つとなっている。
【0003】
かかる土砂災害危険箇所は、全国で約52万箇所と多く、ハード対策による整備率は20%程度と低いのが現状であり、また、これだけ多くの危険箇所全てにハード対策を実施するには予算的、時間的な制約もあることから、ソフト対策によりハード対策の遅れをカバーする必要性が認識されてきている。ソフト対策の目的は、土砂災害から人命を守り、更には財産の破壊を最小限に留めることにあり、ソフト対策には、警報の発令や避難の指示、被害状況に応じた応急対応や二次災害の防止対応の支援などを的確かつ迅速に行う機能が必要であり、また、種々の防災情報の収集・整理・伝達を如何に迅速に行うかが求められる。特に、的確な警報の発令や避難の指示は重要であり、これらは、通常、短期降雨指標と長期降雨指標を用いて設定された警戒や避難の基準線に基づき、警戒避難支援システムが出力した情報などを総合的に判断して人間が行っているが、このような判断を行うことは非常に難しいことから、近年では更に一歩進めて、コンピュータに現況判断と予測を実施させ、それに基づき警報発令の判断やその実行をさせるようにした自動化システムに変わってきている。
【0004】
かかる状況を踏まえ、本発明者らは、警戒避難を支援する警戒避難支援システムの構築を目指し、鋭意研究を重ねてきた。即ち、例えば、短期降雨指標と長期降雨指標を用い、渓流要因として最急渓床勾配や降雨集中度など、土石流危険渓流毎の地形特性を考慮した渓流毎の線形の警戒基準線等を設定する方法を提案し(非特許文献1)、また、斜面毎の地形特性を考慮した斜面毎の線形がけ崩れ発生限界線を設定する方法を提案した(非特許文献2)。
【0005】
本発明者らは更に、複雑な自然現象を直線近似せず、高精度の発生限界線等を設定することを目的として、非線形判別に優れた放射状基底関数ネットワーク(RBFN)を用い、地域毎の非線形がけ崩れ発生限界線を設定する方法を提案し(非特許文献3)、続いて、RBFNなどのニューラルネットワークを用い、斜面要因あるいは渓流要因に基づく潜在危険度を考慮した、斜面毎あるいは渓流毎の非線形の土砂災害の発生限界線等を設定する方法を提案した(例えば、特許文献1)。また、短期降雨指標と長期降雨指標と潜在危険度の三次元の実績データを、データ包絡分析法(DEA:Data Envelopment Analysis)などを用いて解析して、個々の潜在危険度を含む三次元の発生限界面や、警戒基準面、避難基準面を構築し、その潜在危険度に対応する等高線として、個別・非線形の土砂災害の発生限界線や、避難基準線、警戒基準線を設定する方法を提案した(例えば、特許文献2)。
【0006】
即ち、土砂災害に対するソフト対策の主要な手段である警戒避難支援システムに係り、土砂災害の発生限界線や、避難基準線、警戒基準線を設定する技術が種々開示されており、その対象としては、複数の斜面あるいは複数の渓流を包含する地域を対象として設定する地域毎の発生限界線等と、斜面毎あるいは渓流毎に異なる地形要因等による潜在危険度を考慮して斜面毎あるいは渓流毎に設定する個別の発生限界線等とがあり、その形状としては、直線近似した線形の発生限界線等と、複雑な自然現象を考慮して直線近似しない非線形の発生限界線等がある。これらの発生限界線等を設定する従来技術は、本発明においても制限なく使用し得るものである。
【0007】
一方、ソフト対策と共に、限られたハード対策の予算を、土砂災害発生の危険度の高い箇所に優先的に配分するなどして、効果的に利用することは極めて重要なことであるが、その優先順位付けは、一般的に、非常に困難な作業となる。即ち、かかる防災事業計画の優先順位付けには、土砂災害発生の可能性の大きさに関する土砂災害発生危険度、土砂災害発生時の損害の大きさに関する保全人家戸数等、更には、その必要とする防災事業の費用など、様々な要因が関係し、その優先順位付けは非常に困難な作業となっている。
【0008】
特に、その重要な評価要因であり、自然現象として明快、かつ客観的な評価が期待される土砂災害発生の危険度でさえ、様々な要因が絡み合い、未だ満足できる評価方法が確立されたと言える状況にはない。
【0009】
例えば、本発明者らは、上述した個別の発生限界線等を設定するために、地形要因を考慮した土砂災害発生の潜在危険度を評価する方法として、統計的手法の一種である重判別分析を用いる方法を提案した(非特許文献1、非特許文献2)が、この方法は、解析が複雑であると共に直感的に分かり難く、また、重判別分析は、互いに相関を持っている説明要因の場合、精度の高い重判別分析モデルを作ることが難しいという問題があった。
【0010】
本発明者らはまた、個別・非線形の土砂災害発生限界線等の設定に係り、斜面要因毎に、カテゴリー分割しそのカテゴリー別のがけ崩れ発生率を算出しその発生率を当該斜面要因・当該カテゴリーの設定点数とし、このようにして設定した斜面要因毎の得点を加算することにより、個別斜面の潜在危険度を点数制により評価する方法を提案した(非特許文献4)。この方法は、非常に簡易であり、経験的な判断を必要とせず、更には、斜面要因間のウエイトを自動的に調整できるものであり、実際の崩壊現象(危険度との関係においての、崩壊確率、あるいは崩壊傾向)を非常に良く再現できる方法であるが、複雑に絡み合う地形要因間の関係を必ずしも明確に反映するとは言えず、満足できるものではなかった。また、この方法は、当然ながら、降雨要因を除いた潜在的な危険度を評価する技術であって、降雨要因を含む総合的な危険度を評価するものではない。
【0011】
更に本発明者らは、かかる防災事業計画の優先順位付けに係る様々な要因のウエイト付け、即ち、多次元の要因(多次元の意思決定軸)間のウエイト付けを、明快、かつ客観的に行うことができ、複数の要因を一次元化する手段として、データ包絡分析法(DEA)を用いる方法を提案した(特許文献3)。しかしながら、DEAはフロンティアを基準とした比率尺度によって事業の効率を評価する技術であり、この従来技術は、DEAを用いた解析のみではフロンティア上に残る複数の計画の優先順位付けができず、それを優先順位付けするためには、他の手段を必要とするという問題があった。
【0012】
また、この従来技術は、主には、土砂災害発生の可能性の大きさに関する土砂災害発生危険度、土砂災害発生時の損害の大きさに関する保全人家戸数等、更には、その必要とする防災事業の費用など、防災事業計画の優先順位付に係る様々な要因を総合して評価しようとする技術であって、その解析に用いる要因の1つである土砂災害発生危険度を定量的に評価できる技術ではない。なお、この従来技術を有効ならしめるためには、当然ながら、解析に用いる重要な要因の抽出と、その適切な評価が重要である。
【0013】
本発明者らはまた、要因相互の複雑な因果関係を見出し、土砂災害発生の危険度を評価するルールを抽出する技術として、例えばラフ集合を用いた方法により抽出したルールを第1の評価ルールとし、更に、第1の評価ルールのカテゴリー区間で規定されるルール領域を拡大した第2の評価ルールを求め、この第2の評価ルールを土砂災害発生の危険度を評価するルールとする方法を提案した(特許文献4)。しかしながら、この従来技術もまた、上述のDEAを用いた技術と同様にして、通常、その評価ルールに区分されて残る複数の計画の優先順位付けができず、それを優先順位付けするために他の手段を必要とするという問題があり、また、そのウエイト付けは、複雑に絡み合う地形要因間の関係を必ずしも明確に反映するとは言えず、満足できるものではなかった。
【0014】
以上のように、土砂災害発生の危険度を評価する従来技術は、その危険度に係る様々な要因のウエイト付けをして、その複数の要因を一次元化しようとするものであるが、かかる自然条件に係る要因の理論的なウエイト付けは、一般的に極めて困難であって、各要因との関係における土砂災害の発生・非発生の実績データに基づき決定せざるを得ない。即ち、かかる要因分析にこだわる従来技術では、複雑に絡み合う地形要因間の関係を必ずしも明確に反映するとは言えず、更には、解析が複雑で直感的に分かり難くという問題は避け難い。
【0015】
防災事業計画の優先順位付けに係るもう1つの問題は、施工した防災事業の効果を定量的に評価するに有効な技術が未だ確立されていないことにある。即ち、限られたハード対策の予算は、一般的に、土砂災害発生箇所への復旧を主目的とした防災事業計画など、土砂災害発生の危険度の高い箇所に優先的に配分、執行されており、その施工した防災事業の効果を定量的に評価して現況の防災事業で十分か否かを検証し、その検証結果を防災事業計画の優先順位付けに反映させることが極めて重要であるが、その効果を定量的に評価するに有効な技術が未だ確立されていない。
【0016】
なお、本発明の意図する土砂災害発生の危険度を評価する技術に直接的に係るものではないが、土砂災害に係る優先順位付けの技術に関連し、特許文献5、特許文献6、特許文献7などには、土砂災害発生時の優先順位に応じた資源量の割り当てなどが示されている。しかしながら、何れも、予め優先順位を記憶し、あるいは優先順位を規定するルールを記憶するものであって、優先順位付けを行う具体的な技術は一切開示されていない。
【0017】
【特許文献1】特開2003−184098号公報
【特許文献2】特開2004−003274号公報
【特許文献3】特許第3421696号公報
【特許文献4】特許第3501454号公報
【特許文献5】特開2002−230235号公報
【特許文献6】特開2001−325686号公報
【特許文献7】特開2000−067125号公報
【非特許文献1】高橋透 他5名:地形特性を考慮した土石流警戒避難基準雨量線の設定、砂防学会誌、Vol.53, No.1, p.35-46, 2000
【非特許文献2】倉本和正 他5名:急傾斜地における斜面要因を考慮したがけ崩れ発生限界雨量線の設定手法に関する研究、土木学会論文集、No.658/VI-48, pp.207-220, 2000.9
【非特許文献3】倉本和正 他5名:RBFネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する研究、土木学会論文集、No.672/VI-50, pp.117-132, 2001.3
【非特許文献4】倉本和正 他5名:斜面要因を考慮した斜面毎の非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定方法とその崩壊予測精度、土木学会論文集、No.707/VI-55, pp.67-81, 2002.6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
非特許文献1乃至4に開示された発明では、上述のとおり土砂災害の発生限界線や、避難基準線、警戒基準線を設定する方法について、線形であったり、非線形としたり、地形要因を考慮した土砂災害発生の潜在危険度を考慮するなどして、これら土砂災害の発生限界線等の精度を向上させるものであり、土砂災害を未然に防止する目的で講じられる対策に対する優先順位を決定するための定量的な評価手段を提供するというものではなかった。また、土砂災害を発生させる要因相互の複雑な因果関係を見出し、土砂災害発生の危険度を評価するルールを抽出する技術としてラフ集合を用いたルールを構築したり、あるいは複数のデータを一元化させる技術としてデータ包絡分析法を用いたりしているものの、複雑に絡み合う地形要因間の関係など自然要素を含む場合に明確に表現することには限界があるという課題があった。
【0019】
また、特許文献1乃至4についても、RBF(放射状基底関数)の代表的な関数であるガウス関数を用いながら、入力層、中間層、出力層から構成される階層構造からなるRBFネットワークによって客観的で精度の高い非線形のがけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する技術等が開示されている。
しかし、これらもあくまで発生限界線等の精度を高めるものであり、それらの線を用いて防災事業計画に係る施工の優先順位を決定するための定量的な評価を行なうことが困難であるという課題があった。
【0020】
さらに、特許文献5乃至7に開示される発明では、自然災害を未然に防ぐというよりも災害が発生した後のリカバリーをより迅速に効率よく行なうという観点からの発明であり、地形など自然に基づく要因などを考慮して災害に関する物理量を用いて、どの地域を優先的に防災のための対策を講じるかという観点からの発明とは根本的に思想が異なるものである。従って、防災事業計画に係る施工優先順位を定量的に判断することができないという課題があった。
本発明は、かかる従来の事情に対処してなされたものであり、防災事業計画に係る前述の状況に鑑み、防災事業計画の施工の優先順位付けに係り、土砂災害発生の危険度を明快、かつ客観的に評価した評価情報として提示し、また、施工した防災事業の効果を明快、かつ客観的に評価した評価情報としても提示し、その優先順位付けを効果的に支援することができる防災事業計画支援方法とそのシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である防災事業計画支援方法は、防災事業計画の優先順位付けを支援する方法であって、短期降雨指標と長期降雨指標と土砂災害発生・非発生とを含むデータセットからなる複数の実績データを用いて、前記短期降雨指標と長期降雨指標との二次元平面上に短期降雨指標と長期降雨指標とをパラメータとして土砂災害の発生限界線、避難基準線あるいは警戒基準線(以下、これらを総称してCLを略す場合がある。)を設定する工程と、そのCLのうちいずれかの内側を安全領域とし外側を危険領域として区分する境界線を設定する工程と、安全領域の面積を算出する工程と、算出した安全領域の面積の大きさに基づき、土砂災害発生危険度を定量的に表す評価情報を表示及び/又は出力する工程と有するものである。
【0022】
また、請求項2に記載される防災事業計画支援方法は、請求項1記載の発明において、評価情報は、複数箇所を比較する評価情報であって、境界線を設定する工程は、複数箇所毎に境界線をそれぞれ設定する工程であり、安全領域の面積を算出する工程は、複数箇所毎に安全領域の面積をそれぞれ算出する工程であり、評価情報を表示及び/又は出力する工程は、安全領域の面積が小さい方が土砂災害発生の危険度が高く防災事業計画を優先すべき箇所として、複数箇所の土砂災害発生危険度を定量的に比較した評価情報を表示及び/又は出力する工程であるものである。
【0023】
請求項3に記載された防災事業計画支援方法は、請求項1に記載の発明において、評価情報は、防災事業を施工した地点を有する同一箇所について防災事業の施工前と施工後とを比較した評価情報であって、境界線を設定する工程は、施工前と施工後について境界線をそれぞれ設定する工程であり、安全領域の面積を算出する工程は、施工前と施工後について安全領域の面積をそれぞれ算出する工程であり、評価情報を表示及び/又は出力する工程は、算出した施工前の安全領域の面積を基準として施工後の安全領域の面積の変化率及び/又は変化量を演算し、その変化率及び/又は変化量に基づいて土砂災害発生危険度の改善が進まず防災事業計画を優先すべき箇所を示すべく、当該箇所の土砂災害発生危険度を定量的に比較した評価情報を表示及び/又は出力する工程であるものである。
ここで、変化率とは、施工前の安全領域の面積を基準として施工後の安全領域の面積の拡大率あるいは縮小率を意味し、変化量とは、施工前の安全領域の面積を基準として施工後の安全領域の面積との差分を意味するものである。
【0024】
請求項4に記載される防災事業計画支援方法は、請求項2又は請求項3に記載された発明において、箇所は、個別の斜面又は個別の渓流、あるいは複数の斜面又は複数の渓流を包含する地域であるものである。
【0025】
請求項5に記載された防災事業計画支援方法は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載される発明において、境界線は、非線形の境界線であるものである。
【0026】
請求項6に記載された防災事業計画支援方法は、請求項5に記載される発明において、非線形の境界線は、放射状基底関数ネットワークを用いた解析により設定された境界線であって、放射状基底関数ネットワークを用いて、短期降雨指標と長期降雨指標とをパラメータとして土砂災害発生危険度を表す判別境界面を構築し、判別境界面の所望の閾値に対応する等高線として設定された境界線であるものである。
【0027】
請求項7に記載された防災事業計画支援方法は、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載される発明において、解析に用いる短期降雨指標と長期降雨指標のデータは、それぞれの測定データにそれぞれ所定の変換を施し標準化したデータであって、その解析結果である境界線は、標準化した短期降雨指標と長期降雨指標との二次元平面上に設定された境界線であるものである。
【0028】
請求項8に記載された防災事業計画支援システムは、防災事業計画の優先順位付けを支援するシステムであって、地域と時間をキーとして検索可能な短期降雨指標と長期降雨指標と土砂災害発生・非発生とを含むデータセットからなる実績データを入力する入力部と、実績データを格納するデータベースと、このデータベースからあるいは入力部から短期降雨指標と長期降雨指標を読み出して、二次元平面上に読み出した短期降雨指標と長期降雨指標とをパラメータとして判別境界面を解析する判別境界面解析部と、判別境界面から所望の閾値に対応する等高線として土砂災害の発生限界線、避難基準線あるいは警戒基準線(以下、これらを総称してCLを略す場合がある。)を決定し、そのCLのうちいずれかの内側を安全領域とし外側を危険領域として区分する境界線を設定するCL設定部と、安全領域の面積を算出する安全領域面積演算部と、算出した安全領域の面積の大きさに基づき、土砂災害発生危険度を定量的に表す評価情報を演算する評価情報演算部と、評価情報を表示及び/又は出力する出力部とを有するものである。
【0029】
請求項9に記載された防災事業計画支援システムは、請求項8に記載の発明において、実績データを標準化して標準化データを生成する標準化解析部を有するものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、防災事業計画に係る前述の状況に鑑み、防災事業計画の施工の優先順位付けに係り、土砂災害発生の危険度を明快、かつ客観的に評価した評価情報として提示し、また、施工した防災事業の効果を明快、かつ客観的に評価した評価情報として提示し、その優先順位付けを効果的に支援することができる。
具体的には、CLを決定した後に、そのCLの内側を安全領域とし外側を危険領域として区分する境界線を設定し、安全領域の面積を算出して定量的なデータとし、これを用いて評価情報を演算することで防災事業計画の施工優先順位を客観的に判断することが可能となる。
【0031】
特に請求項2に記載の発明においては、異なる箇所間でいずれの箇所の防災施工を実行すればよいかが客観的に判断できる。
また、特に、請求項3に記載の発明においては、同一箇所において、過去に行なった施工前後で境界線内の面積を基準にその変化率及び/又は変化量を演算することで、その地域における施工の充足度を示す評価情報を求めることができる。
さらに、請求項9に記載の発明においては、実績データを標準化することで短期降雨指標と長期降雨指標の絶対値の大きさの影響を排除することができ、また、比較対象の箇所の特性の影響を排除して、より客観的かつ高精度の評価情報を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の実施の最良の形態及び実施例を説明する前に、本願特許請求の範囲及び明細書に記載される発明、実施の形態及び実施例の理解を容易にするため、本願明細書及び特許請求の範囲の中で使用される語の定義を示す。中には従来の技術にて説明したものもあるが、ここでまとめて記載する。
まず、本願でいう「防災事業」とは、直接的に防災のための施設を施工する事業に限らず、斜面あるいは渓流の危険性を調査するために行う調査事業など、その施工につき優先順位付けを必要とする全ての防災に係る事業を包含するものである。
また、本願でいう「安全領域」と「危険領域」は、「相対的に安全方向にある領域」と「相対的に危険方向にある領域」を意味し、絶対的に安全な領域、絶対的に危険な領域を意味するものではない。従って、安全領域で土砂災害が発生することもあり、また、危険領域では常に土砂災害が発生するというものでもない。本発明でいう「境界線」は、短期降雨指標と長期降雨指標との二次元平面を、その内側を安全領域としその外側を危険領域として区分する境界の線を意味する。
【0033】
また、本発明でいう「短期降雨指標」と「長期降雨指標」は、従来技術と同様であるが、「短期的な降雨指標」と「長期的な降雨指標」を意味し、その間に厳密な規定はなく、短期降雨指標としては、例えば、時間雨量や半減期を短くした実効雨量が用いられ、長期降雨指標としては、例えば、積算雨量や半減期を長くした実効雨量が用いられる。
本願では、これらの短期降雨指標と長期降雨指標及びこれらの降雨指標に対する土砂災害発生・非発生のデータを含むデータセットを「実績データ」と呼ぶ。
【0034】
以下、本発明の実施の形態に係る防災事業計画支援方法と防災事業計画支援システムについて説明する。
図を用いて本実施の形態に係る防災事業計画支援方法及び防災事業計画支援システムの構成を説明する前に、まず、本発明の基本的な考え方について説明する。
本発明は、上述した従来技術とは基本的に異なり、土砂災害発生の危険度に係る様々な要因のウエイト付けをしてそれを一次元化しようとするものではなく、降雨要因である短期降雨指標と長期降雨指標との二次元平面上にその短期降雨指標と長期降雨指標とをパラメータとして、全ての要因を総合した結果である土砂災害の発生・非発生の実績データに基づき、安全領域と危険領域とを区分する境界線を設定し、その安全領域の面積の大きさに基づき、降雨条件を含む最終的な危険度を評価するところに最大の特徴がある。
【0035】
この境界線としては、土砂災害から人命を守り、更には財産の破壊を最小限に留めるという極めて重要な目的のために、短期降雨指標と長期降雨指標との二次元平面上に短期降雨指標と長期降雨指標とをパラメータとして設定した、その内側を安全領域とし外側を危険領域として区分する境界線である、土砂災害の発生限界線、警戒基準線、避難基準線などが広く用いられている。
【0036】
かかる境界線は、短期降雨指標と長期降雨指標と土砂災害発生・非発生とを含むデータセットからなる複数の実績データを解析することにより設定でき、この境界線は、当該実績データ箇所における、全ての要因を総合した土砂災害発生の危険度を表す指標であって、他の箇所に適用し得る汎用性、一般性は必ずしも有さないが、当該実績データ箇所に関しては、要因分割するための近似等を要さないため、極めて精度が高く、実際的なものである。
【0037】
本発明は、この境界線の内側である安全領域の面積の大きさに基づき、土砂災害発生危険度を定量的に比較した評価情報を、防災事業計画の施工の優先順位付けを支援する情報として提示するものであって、土砂災害発生の危険度を明快、かつ客観的に評価した評価情報を提示し、また、施工した防災事業の効果を明快、かつ客観的に評価した評価情報を提示し、その優先順位付けを効果的に支援することができる。本発明はまた、解析が容易であり、直感的に分り易く、更にその評価情報を容易に得ることができる。
【0038】
その比較する対象の形態としては、主には2つの形態として実施することができる。即ち、第一の対象の形態は、複数箇所を比較するものであって、その複数の箇所毎に境界線をそれぞれ設定し、その複数の箇所毎に安全領域の面積をそれぞれ算出して、その安全領域の面積が小さい方が土砂災害発生の危険度が高く防災事業計画を優先すべき箇所として、複数箇所の土砂災害発生危険度を定量的に比較した評価情報を表示及び/又は出力するものである。なお、複数とは、2箇所以上を意味するものであって、その数に何らの制限なく実施することができる。
【0039】
表示及び/又は出力する比較した評価情報としては、特に本発明を限定するものではないが、算出した安全領域の面積をそのまま用い、あるいは、危険度の評価値として直感的に分り易くするために安全領域の面積の逆数を用い、更には、安全領域の面積又はその逆数を標準化した値を用いて定量的に比較し、それらを土砂災害発生の危険度の高い順、あるいは、危険度の低い順、更には、解析に用いた実績データの順に比較した評価情報として表示及び/又は出力することができる。
【0040】
比較する対象の第二の形態は、防災事業を施工した地点を有する同一箇所について、その防災事業の施工前と施工後とを比較するものであって、その施工前と施工後について境界線をそれぞれ設定し、その施工前と施工後について安全領域の面積をそれぞれ算出して、その算出した施工前の安全領域の面積を基準として施工後の安全領域の面積の拡大率または増加量を算出し、その拡大率または増加量が小さい方が土砂災害発生危険度の改善が進まず防災事業計画を優先すべき箇所として、当該箇所の土砂災害発生危険度を定量的に比較した評価情報を表示及び/又は出力するものである。
【0041】
一般に、防災事業は、予防的に、あるいは、主には発生した土砂災害の復旧(以下、これを「対策工」と称することがある。)を目的に行われるが、上述の如く、限られた予算を効果的に執行するためには、危険度の高い地点に優先的に施工するのが求められ、更には、その施工した防災事業の評価が求められている。この施工した防災事業の評価情報、換言すれば、施工した防災事業による当該箇所の土砂災害発生危険度の改善の評価情報を提示する形態として実施するのが、比較する対象の第二の形態である。
【0042】
即ち、例えば、対策工を施工した地点では、通常、土砂災害が再発することは極めて稀であって、対策工を施工した地点を有する箇所が、その対策地点を除き危険度の低い地点のみとすれば、その対策後は、安全領域が大きく拡大する。一方、対策工を施工した地点を有する箇所が、その対策地点の他に危険度が高い地点を有するとすれば、その対策後も、安全領域は余り変わらない。
【0043】
従って、同一箇所について防災事業の施工前と施工後とを比較する第二の形態によれば、施工前の安全領域の面積を基準とした施工後の安全領域の面積の拡大率または増加量により、当該箇所における当該防災事業の効果を定量的に評価することができ、また、拡大率または増加量が小さい方が土砂災害発生危険度の改善が進まず防災事業計画を優先すべき箇所として、当該箇所の土砂災害発生危険度を施工前と比較して定量的に評価することができる。
【0044】
なお、施工後の境界線を設定する解析に際し用いる実績データとしては、解析方法にもよるが、必ずしも施工後のデータのみとする必要はなく、対策前のデータを含めた解析により施工後の境界線を設定することもできる。即ち、通常、対策工施工後は安全領域が以前より広がるため、例えば、安全領域は土砂災害の非発生データ(以下、単に「非発生データ」あるいは「非発生降雨」ということがある。また、土砂災害が発生したときのデータを、単に「発生データ」あるいは「発生降雨」ということがある)により規定されるが、施工前の非発生データはより狭い領域、即ち、より安全側にあり、対策前のデータを含めた解析により施工後の境界線を設定することができる。なお、かかる対策前のデータを含めた解析を行うことにより、データ不足による境界線の精度低下を避けることができる効果もある。
【0045】
次に、本発明の解析の対象の単位であり、評価の対象の単位でもある箇所の形態について説明する。即ち、本発明でいう「箇所」とは、解析の対象の単位であり、また、評価の対象の単位でもあって、具体的には、例えば、複数の斜面あるいは複数の渓流を包含する地域を箇所として実施することができ、また、個別の斜面あるいは渓流を箇所として実施することもできる。なお、個別の斜面あるいは渓流は、当然ながら、一定の広がりを有するエリアであって、例えば、連続した急傾斜地のエリアを意味し、更には、潜在危険度の異なる急傾斜地が連続したエリアを意味する。この場合、潜在危険度は、通常、最も危険度の高い地点の値を代表的に用いている。
【0046】
この複数の斜面あるいは複数の渓流を包含する地域や、個別の斜面あるいは個別の渓流については、上述の如く、膨大な実績データの解析の結果として、種々、地域毎の発生限界線などとして、あるいは、個別の発生限界線などとして既に設定されており、本発明の実施においては、これらを境界線として効果的に利用することもできる。
【0047】
本発明の境界線としては、発明を限定するものではないが、上述の如く、土砂災害の発生限界線、避難基準線又は警戒基準線、すなわちCLのいずれかを用いるのが好ましい。かかる土砂災害の発生限界線等は、警戒避難支援システムなどに用いるために、多大な費用と時間を掛けて既に設定され実用されているものが多くあり、本発明の実施においては、これらを有効に利用するのが好ましい。
【0048】
本発明で用いる境界線は、直線近似した線形の境界線でも良いが、特には、より高精度の設定が可能な、非線形の境界線が好ましい。その非線形の境界線を設定する方法は、上述した従来技術などを制限なく使用することができ、何ら本発明を限定するものではないが、特には、非線形判別に優れ、土砂災害が発生していない非発生データのみでも解析が可能な、放射状基底関数ネットワーク(RBFN)を用いて設定する方法が好ましい。
【0049】
RBFNは、脳や神経回路網のモデルに基づいた計算技術として分類されるニューラルネットワークの一種であり、ニューラルネットワークは、入力層と中間層と出力層との階層構造を備え、計算問題の解法を学習するために内部の重みを外部出力に適用することに特徴づけられる。ニューラルネットワークの中間層を構成する中間素子は、基底関数とも呼ばれ、任意の関数が使用できるが、RBFNは、基底関数として放射状基底関数(RBF)を用いたニューラルネットワークである。ニューラルネットワークの学習に用いる学習データは、要因指標のデータとその要因に基づき予測しようとする教師データとのデータセットであり、土砂災害発生危険度を予測するシステムの学習データとしては、通常、周知の如く、短期降雨指標と長期降雨指標を要因データとし、土砂災害の発生・非発生を教師データとしている。
【0050】
RBFNを用いて土砂災害の発生限界線などを設定する具体的な方法は、例えば、上述した本発明者らの文献(特許文献1、非特許文献3)などに詳細が示され、本発明を特に限定するものでもなく、その詳細な説明は省略するが、概ね、短期降雨指標と長期降雨指標と土砂災害発生・非発生とを含むデータセットからなる複数の実績データを学習することにより、短期降雨指標と長期降雨指標とをパラメータとして土砂災害発生危険度を表す判別境界面を構築し、しかる後、その判別境界面の所定の閾値に対応する等高線として土砂災害の発生限界線などを設定することができる。
【0051】
なお、その判別境界面の等高線を規定する閾値は、解析の対象とする箇所の特性に合わせて設定すべきものであり、通常、RBFNの出力値をパラメータとした発生及び非発生の的中率の変化を考慮して、あるいはまた、RBFNの出力値範囲(発生の教師値と非発生の教師値との範囲)を所定幅の区間に分割し、各区間の領域中の発生データの比率、即ち、その領域中で、発生データ数/全データ数、と定義される発生データの比率の変化を考慮して、更にまた、各区間の発生率、即ち、その領域中で、発生データ頻度/(発生データ頻度+非発生データ頻度)、と定義される発生率の変化を考慮して、対象とする箇所に好適な閾値を設定することができる。
【0052】
従って、本発明の実施においても、特に発明を限定するものではないが、複数箇所を比較し防災事業計画の優先順位付けを支援するに際しては、その比較する箇所毎にそれぞれ独立に好適な閾値を設定する形態が好ましい。
【0053】
次に、解析に用いるデータの好ましい実施の形態について説明する。即ち、本発明の実施においては、解析に用いる短期降雨指標と長期降雨指標のデータは、例えば、それぞれ時間雨量や累積雨量などとして、その計測したデータに基づく測定データを用いることもできるが、特には、その測定データにそれぞれ所定の変換を施し標準化したデータを用い、その解析結果として、標準化した短期降雨指標と長期降雨指標との二次元平面上に、標準化した境界線を設定する形態として実施するのが好ましい。
【0054】
かかる標準化したデータを用いることにより、短期降雨指標と長期降雨指標の絶対値の大きさの影響を排除し、また、比較しようとする箇所の特性の影響を排除して、より精度の高い評価情報を提示することができ、防災事業計画の優先順位付けを効果的に支援することができる。
【0055】
以下、図1及び図2を参照しながら、本願発明の特徴を明確にしつつその実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る防災事業計画支援システムの構成図である。また、図2は防災事業計画支援方法のフローチャートを示す。
防災事業計画支援システムは、入力部1と演算部2と出力部11と複数のデータベース13〜15,18,22,23から構成される。入力部1は、これらのデータベースに格納されるデータを予め入力したり、あるいは演算部2の作動時に直接データ12aや解析条件12bを入力するために使用されるものである。具体的には、例えば、キーボード、マウス、ペンタブレット、あるいは、計測機器等から通信回線を介してデータを受信する受信装置など複数種類の装置からなり目的に応じた使い分け可能な装置が考えられる。
【0056】
演算部2は、標準化解析部3、解析パラメータ設定部4、CL解析部5、評価情報解析部8から構成されるものである。また、CL解析部5は、さらに判別境界面解析部6とCL設定部7を備えており、評価情報解析部8は安全領域面積演算部9と評価情報演算部10とを備えている。
演算部2は、データベースから読み出されたり入力部1から入力されるデータや解析モデルを用いて判別境界面の解析やその判別境界面の解析結果に基づいてCLを設定したり、さらにそのCLを境界線として安全領域の面積やそれを基にした評価情報を演算するなどの解析を行うものである。具体的には、ワークステーションやパーソナルコンピュータ等のコンピュータが考えられる。
また、データベースとしては、磁気ディスク等のコンピュータ用の記憶装置にデータを格納したものが考えられ、出力部11としては、CRT、液晶、プラズマあるいは有機ELなどによるディスプレイ装置、あるいはプリンタ装置などの表示装置、あるいは外部装置への伝送を行なうためのトランスミッタなどの発信装置などが考えられる。
【0057】
主として以上のような構成要素を備える本実施の形態に係る防災事業計画支援システムは、概ね以下のような処理手順によってその処理を行うことができる。即ち、大きくは、入力部1による入力処理と、演算部2による演算処理と、出力部11による出力処理であって、入力処理では、主には、短期降雨指標と長期降雨指標との二次元平面上に境界線を設定するための解析に必要な実績データの収集を行い、演算処理では、主には、その収集された実績データの解析に基づく境界線の設定と、その設定した境界線の内側である安全領域の面積の算出とを行い、出力処理では、主には、その算出した安全領域の面積の大きさに基づく土砂災害発生危険度の評価情報の出力を行う。
【0058】
入力部1による入力処理では、先ず、データを入力する処理を行うが、その入力データとしては、例えば、降雨量など、計測したデータそのものでも良く、実効雨量など、実データベース13に格納されるような解析のための実績データに用いるデータ形式に編集した測定データであっても良い。あるいはまた、標準化データベース14に格納されるような測定データに所定の変換を施し標準化したものであっても良いが、本システムの利用者の負担を軽減する意味では、計測データそのものでの入力も可能とし、必要な編集や標準化などはコンピュータを含む本システムで処理できるように構成し、入力データの形式に合わせ、いずれにも対応可能とする形態で実施するのが好ましい。
即ち、入力処理では先ず、データを入力し、その入力データを、必要に応じそれを編集・標準化し、解析に使用し得る短期降雨指標と長期降雨指標と土砂災害発生・非発生とを含むデータセットとしてデータベースに格納させる処理を行う。このような構成については、演算部2を説明する際に具体的に説明する。
【0059】
次に、入力処理では、オペレータからの指示など、比較評価しようとする箇所の情報に基づき、データベースから解析に用いる実績データを収集する。例えば、複数の箇所について、それぞれ所定期間のデータセットを収集し、その複数箇所のその所定期間における土砂災害発生危険度を定量的に比較して評価することができるようにする。また、同一箇所について、異なる期間のデータセットを収集し、その同一箇所の異なる期間における土砂災害発生危険度を定量的に比較して評価するようにすることもできる。なお、解析に用いる実績データとしては、演算処理で解析が可能である限り、非発生データと発生データの両方を用いたものでもよく、あるいは、非発生データのみ又は発生データのみであってもよい。
【0060】
演算部2による演算処理では、先ず、その収集された実績データを解析し、短期降雨指標と長期降雨指標との二次元平面上に短期降雨指標と長期降雨指標とをパラメータとして、その内側を安全領域とし外側を危険領域として区分する境界線を設定する。この処理は、上述した如く、土砂災害発生限界線などを設定する従来技術などが制限なく使用でき、その詳細な処理内容は何ら本発明を限定するものではない。設定した境界線、具体的にはその情報は、必要に応じ、これをデータベースに格納する。
【0061】
なお、かかる土砂災害発生限界線などは、上述の如く、既に土砂災害の警戒避難支援システムなどにおいて実用されており、本防災事業計画支援システムでは、それを利用することもできる。この場合、直接的には、上述した入力処理を要さず、更には、境界線を設定する処理を要さず、本システムを実施することができる。
【0062】
次に、演算処理では、その設定した境界線の内側である安全領域の面積の算出を行う。この境界線内側の面積の算出は、周知の従来技術を用いることができ、その算出方法は何ら本発明を限定するものではないため、その具体的な説明は省略する。算出した面積の情報は、必要に応じ、これをデータベースに格納する。さらに、算出した安全領域の面積の大きさに基づき、土砂災害発生危険度を定量的に比較した評価情報を演算する。評価情報としては、例えば、算出した安全領域の面積をそのまま用いて比較し、あるいは、危険度の評価値として直感的に分り易くするために安全領域の面積の逆数を用いて比較し、更には、安全領域の面積又はその逆数を標準化した値を用いて定量的に比較して、それらを土砂災害発生の危険度の高い順、あるいは、危険度の低い順、更には、解析に用いた実績データの順に配列するような形態が考えられる。これらの評価情報は、必要に応じてこれをデータベースに格納する。
【0063】
出力部11による出力処理では、その評価情報を、前述のようなディスプレイに表示したり、プリンタなどに印字したり、さらには外部装置へ解析結果やデータ等を伝送することも可能である。
【0064】
なお、本発明は、この評価情報を、文字や数字、画像などを地図と結び付けてコンピュータ上でさまざまな情報を検索、結合、分析することができ、その結果を地図に表現する機能を有する公知の地理情報システム(GIS)を用い、例えば、色区分等して、地図上に表示する形態として実施することもできる。かかる形態によれば、周囲の状況、例えば、地形、人家の有無、避難場所の有無などを含み、総合的な判断がし易くなる。即ち、地理情報システムを用いことにより、より効果的な支援情報を提供できるようになる。
【0065】
以上のような実施の形態により、本発明は、防災事業計画の施工の優先順位付けを行うに際し、土砂災害発生の危険度を明快、かつ客観的に評価した評価情報として提示し、また、施工した防災事業の効果を明快、かつ客観的に評価した評価情報として提示し、その優先順位付けを効果的に支援することができる。
【0066】
ここで、演算部2を構成する要素を詳細に説明するが、その前に各々のデータベースと、それらに格納されるデータ等について説明する。
本実施の形態におけるデータベースには、実データベース13、標準化データベース14、判別境界面解析データベース15、評価情報データベース18、標準化解析用データベース22、CL解析用データベース23がある。
まず、実データベース13は、実績データが格納されており、この実績データは、先に説明したとおり、ある箇所あるいはその箇所に含まれる各地点における短期降雨指標や長期降雨指標などの降雨データと、それらの箇所や地点において、土砂災害が発生したかあるいは発生しなかったかの実績を発生・非発生で示す災害実績データを含むものである。
【0067】
標準化データベース14は、実績データのうちの降雨データについて、所定の変換を施して標準化した降雨データと先の災害実績データを含むデータセットを格納するものである。所定の変換とは、例えば、(1)全ての測定データの中から短期降雨指標と長期降雨指標のデータの最大値をそれぞれ求め、(2)その最大値にそれぞれ1以上である所定の定数を乗じてそれぞれのデータ基準値を算出し、(3)そのデータ基準値に基づき短期降雨指標データと長期降雨指標データとをそれぞれ無次元化する変換を行う、といったステップで行うことができる。なお、データ基準値は、解析に使用するデータに限らず、当該地域の過去の最大の測定データに所定の定数、例えば、1.1を乗ずることにより算出することもできる。標準化解析用データベース22は、この標準化の解析を行なうために必要な標準化のための解析モデルや解析データあるいは変換式の係数などが格納されるものである。
短期降雨指標及び長期降雨指標などの降雨データ及び災害実績データは、それらに関連する箇所及び時間のデータをIDとして、これを索引として検索可能に格納されている。標準化された降雨データも同様である。
【0068】
判別境界面解析データベース15は、CL解析部5において解析された結果として得られる判別境界面データ16とCLデータ17を格納するものである。CLデータ17は、解析によって得られた判別境界面をベースに得られたCLに関するデータである。
評価情報データベース18は、評価情報解析部8において解析された結果として得られる安全領域面積データ19、評価情報データ20を格納するものである。これらのデータの内容については後述する。
CL解析用データベース23には、要因評価値データ24、解析パラメータ25、学習期間データ26、対策工履歴データ27及びモデルデータ28が格納されている。これらのデータはCL解析部5で解析を行なうためにパラメータを設定すべく解析パラメータ設定部4が設けられているが、この解析パラメータ設定部4に対して提供されるものである。
モデルデータ28には、線形のモデルと非線形のモデルの2通りがある。
【0069】
次に、演算部2について説明する。この演算部2について説明しながら、本実施の形態に係る防災事業計画支援システムを方法として捉える場合の防災事業計画支援方法の実施の形態についても説明するため、図2も参照する。
演算部2は、入力部1と出力部11、さらに複数のデータベースにも接続されており、入力部1を介して入力されるデータ12aや解析条件12bを用いて設定や解析などの演算を行なうことができるし、入力部1を介して予め格納されたデータをデータベースから読みだして用いることも可能である。
演算部2で実行される設定や解析に用いられるデータや解析モデルあるいは演算の結果については、出力部11を介して出力あるいは表示される。
【0070】
演算部2の標準化解析部3では、実データベース13に格納された実績データをまず標準化するものである。先に述べたとおり、特に標準化のための変換方法は特定しないが、標準化解析用データベース22にいくつか標準化のためのモデルや変換式を予め格納しておくとよい。標準化解析部3は、入力部1を介して入力される箇所及び時間などのIDをキーとして実データベース13から変換に供される実績データに含まれる降雨データを読み出し、さらに、標準化解析用データベース22からは、変換モデルあるいは変換式を読みだして、これらを用いて抽出された降雨データを標準化する。標準化されたデータは、標準化データベース14に読み出し可能に格納される。
従って、本実施の形態に係る防災事業計画支援システムは、生の実績データを用いても可能であるし、標準化された実績データを用いても解析が可能となっている。
【0071】
解析パラメータ設定部4は、CL解析部5によって実行される判別境界面の解析に先立って、その解析パラータを設定するものである。この解析パラメータ設定部4における機能は、防災事業計画支援方法の実施の形態においては、図2のステップS1からステップS5に相当するものである。
解析パラメータ設定部4では、まず、比較種別の選択を行なう。図2では、ステップS1に相当する。
この比較種別とは、複数箇所の比較を行なうか(以下、これを「優先度」の算出と称することがある。)、あるいは同一箇所について経時的な比較を行なうか(以下、これを「対策工効果」の算出と称することがある。)の選択を言う。
この選択は、入力部1から入力するようにしてもよいし、予めその選択情報をCL解析用データベース23のモデルデータ28の一部として格納しておき、それを読みだして、出力部11に表示して入力部1からの入力によって選択するようにしてもよい。
次に、解析パラメータ設定部4では判別境界面及びCLの解析において、地形・地質・植生要因などの差異による土砂災害の危険度を反映させるか否かを設定可能である。この選択は図2においては、ステップS2で示される。
これらの危険度は、CL解析用データベース23に要因評価値データ24の一部として格納されている。
【0072】
なお、本願でいう土砂災害発生の危険度に係る「要因」とは、表土の厚さ、地盤の状況、斜面と不連続面の関係、断層の有無、岩石区分等の地形や地質に係る要因、植生、樹木の樹齢、伐採痕の有無、湧水の有無、崩壊履歴の有無等の環境に係る要因、時間雨量、実効雨量、連続雨量等の降雨に係る要因を含み、これらをCLの設定に供される危険度の解析を実行するための属性として用いることができる。例えば、所定降雨要因条件下での土砂災害発生・非発生の実績を、降雨要因を除く他の要因を属性として加えてCLを解析した場合には、潜在的な危険度を評価した上でCLを設定することができる。これらの要因評価値データ24を用いない場合には、直接的な誘因である降雨要因のみで判別境界面の解析及びCLの設定を行なうことになる。
【0073】
また、この解析パラメータ設定部4では、先の土砂災害の危険度を反映させるように選択した場合には、既にその潜在危険度が求められており要因評価値データ24の一部として格納されている場合には、箇所のIDをキーとして読み出されるが、潜在危険度が算出されていない場合には、解析パラメータ設定部4において算出される。
この潜在危険度の算出は、図2においてはステップS3として示されている。
算出の方法は、例えば、先ず、解析の対象とした箇所内の斜面毎あるいは渓流毎に整理した地形・地質・植生要因等の属性値をCL解析用データベース23に格納される要因評価値データ24から読み出し、かつ、土砂災害の実績情報を実データベース13あるいは標準化データベース14から読み出して、これらのデータを箇所と時間のIDをキーとしながら合成する。次に、その要因毎に、カテゴリー区間毎の土砂災害発生率を算出してその区間毎の土砂災害発生点として設定し、一方、予め土砂災害発生点が設定されている場合は、その情報を抽出する。次いで、箇所毎、すなわち斜面毎あるいは渓流毎に、各要因の属性値とカテゴリー区間とを対応させてその要因での土砂災害発生得点とし、その土砂災害発生得点の全要因の累積値を潜在危険度として算出する。このように算出された潜在危険度は、出力部11に出力あるいは表示させるとよい。図2のステップS3では、潜在危険度の算出とのみ記載されているが、潜在危険度が既に算出されている場合には、この算出はスキップされ、CL解析用データベース23に要因評価値データ24の一部として格納される潜在危険度が解析パラメータ設定部4によって箇所のIDをキーとして読み出され、それを用いることになる。
【0074】
なお、本願でいう「カテゴリー」とは、各要因を評価するための物理量あるいは非物理量に基づいて区分したものをいい、「カテゴリー区間」とは、その区分された範囲をいう。例えば、河川の流域平均勾配という地形要因であれば、「°」という物理量に対して、0°〜10°をカテゴリー1、10°〜20°をカテゴリー2などとし、0°〜10°の区間自体をカテゴリー区間という。また、渓流方位という地形要因では、「東西南北」という非物理量に対して東をカテゴリー1、西をカテゴリー2などとし、このような場合、カテゴリー区間としてはその一方向をいう。
さらに、本願でいう「属性値」とは、各要因における複数のカテゴリー区間名あるいはカテゴリー区間を示す序数、すなわち、カテゴリー1、カテゴリー2などの1又は2のことをいう。また、「評価値」とは、前述の河川の流域平均勾配という地形要因であれば、実際の地域や地点における平均勾配の測定値をいい、具体的には15°などの数値となる。
【0075】
さらに、解析パラメータ設定部4では解析に用いる実績データの期間、すなわち学習期間を選定する。複数箇所の優先順位付けに際しては、できるだけ新しいCLを用いるのが望ましく、従って、できるだけ新しい学習期間を選定するのが望ましい。また、同一箇所での対策工効果の評価に際しては、CL解析用データベース23から読み出した対策工履歴データ27を参考に、少なくとも対策工の施工前と施工後の2つの学習期間を設定する必要がある。この対策工履歴データ27は、対策工が施された時点に関するデータであり、時系列に従って配列されていることが望ましい。また、学習期間は、この入力部1から入力してもよく、予めCL解析用データベース23に学習期間データ26として格納しておき、解析パラメータ設定部4を介して読み出してもよい。
この学習期間等の選択は、防災事業計画支援方法では図2に示されるようにステップS4として、工程の要素となっている。
【0076】
解析パラメータ設定部4では、判別境界面の解析を行ないCLを設定するために用いられるモデル・手法の選択を行なう。CLには、背景技術においても説明したが線形CLと非線形CLの2種類があり、これらのモデルのうちいずれを選択するか、さらに、非線形CLであっても、その設定には前述のとおりRBFN(放射状基底関数ネットワーク)やDEA(データ包絡分析法)などの手法があり、これらの選択を行なう必要がある。
選択は、入力部1を介して入力されてもよいし、あるいは予めCL解析用データベース23にモデルデータ28として格納しておき、これを出力部11に表示させてその中から所望のモデルあるいは手法を選択可能としてもよい。
なお、選択されたモデル及び手法に必要とされる解析のパラメータについては、入力部1から入力するか、あるいは予めCL解析用データベース23に解析パラメータ25として格納しておき、選択されたモデルデータ28に対応させて読み出されるようにしておくとよい。例えば、モデルデータ28に解析モデル及び手法毎にIDを付しておき、このIDに対応させるように共通のIDを付して解析パラメータ25にそれぞれのモデルや手法で必要とされる解析パラメータを格納しておけば、このIDをキーとして解析パラメータ25は検索されて適切なパラメータを読み出すことができる。
このモデルと手法の選択については、図2ではステップS5として示されている。
【0077】
次に、CL解析部5について説明する。
CL解析部5では、解析パラメータ設定部4において選択された解析モデル及び手法を用いてCLが解析される。CLは、土砂災害の発生限界線、避難基準線あるいは警戒基準線のうち、適宜選択して設定する。もちろん、複数設定してもよい。
CLの設定の前に、まず、判別境界面解析部6において判別境界面が解析される。その後、CL設定部7においてCLが設定される。この判別境界面の解析及びCLの設定については、例えば、RBFNを用いた場合には特許文献1に開示される方法と同様にして、また、DEAを用いた場合には特許文献2に開示される方法と同様にして実施することができる。
解析結果として求められるCLや解析モデル、パラメータなどは出力部11に表示あるいは出力される。また、得られた判別境界面に関するデータは判別境界面データ16として、またCLに関するデータもCLデータ17として判別境界面解析データベース15に格納される。
なお、このCLの解析については、図2ではステップS6として示されている。
CL解析部5において設定されたCLから、評価情報解析部8では安全領域面積演算部9で安全領域の面積の演算を行い、さらにそれを用いて評価情報演算部10で評価情報を演算する。
【0078】
安全領域面積演算部9では、判別境界面解析データベース15からCLデータ17を読みだして、短期降雨指標と長期降雨指標によって構成される座標軸に設定されるCLを境界線として、その境界線の内側、すなわち安全領域の面積を演算する。演算された安全領域の面積は、安全領域面積データ19として評価情報データベース18に格納される。
そして、複数箇所の優先度の比較に際しては、さらに、複数箇所において、安全領域面積演算部9で演算された安全領域の面積をベースに、評価情報演算部10では、評価情報としてその安全領域の面積の逆数を演算したり、安全領域の面積やその逆数を標準化したりすることができる。安全領域の面積あるいはこれをベースに演算される評価情報は、いずれも定量的に比較可能な量であるため、これらを土砂災害の発生の危険度の高い順あるいは危険度の低い順に、さらには解析に用いた実績データの順に配列して、これを評価情報として土砂災害発生危険度を定量的に比較して、出力部11に送信して出力させることができる。もちろん、これらの個々の評価情報や優先度に関する情報を付加して配列された評価情報もそれぞれ評価情報データ20として評価情報データベース18に格納することが可能である。
【0079】
一方、対策工効果の評価に際しては、判別境界面解析データベース15からCLデータ17を読みだして、対策工の施工前と施工後それぞれについて安全領域の面積を演算しておき、算出された施工前の安全領域の面積を基準として施工後の安全領域の面積の拡大率あるいは縮小率などの変化率、あるいは施工前後における安全領域の面積の増加量あるいは減少量などの変化量を評価情報として演算する。これらの拡大率や増加量が大きいほど対策工の効果が大きいとして、また、その拡大率が小さいあるいは増加量が小さいほど土砂災害危険度の改善が進まず、防災事業計画を優先すべき箇所として、土砂災害発生危険度を定量的に比較して優先度を付加した評価情報を出力部11に送信して出力させることができる。縮小率とした場合あるいは減少量とした場合には、上記のような評価情報とは逆の評価情報となることは言うまでもない。また、これらの評価情報は、評価情報データ20として評価情報データベース18に格納することも可能である。
なお、本願においては、評価情報とは、安全領域の面積を基準として加工されるデータとそれに優先順位や何らかの序列などの優先度を付加して得られるデータを意味するだけでなく、例えば安全領域の面積自体や面積自体の量を加工した指標や規格化したデータ、さらには、それに優先度を付加して得られるデータも客観的に複数箇所の比較を行なうことが可能であるため、これらも含む概念とする。
以上の評価情報解析部8の安全領域面積演算部9や評価情報演算部10における機能は、図2の防災事業計画支援方法の工程では、ステップS7に相当するものである。
以上が本実施の形態に係る防災事業計画支援システムの構成と作用の説明である。
【0080】
さらに、図2を参照しながら、防災事業計画支援方法の実施の形態について説明を追加する。
ステップS8とステップS9は、ケーススタディのコントロールを行うステップであり、かかるステップを、例えば対話型に設けることにより、あるいはまた、データベースからコントロール情報を読み出して判断する如く設けることにより、利用する際の融通性が向上し、使い勝手がよくなり、より効果的に防災事業計画の立案を支援するができる。
【0081】
ステップS10は、防災事業計画の優先順位付けに係る他の情報、例えば、保全人家戸数など想定被害に係る情報、更には、その必要とする防災事業の費用などを含め、優先順位付けした施工計画の立案を行うステップである。
【0082】
以上説明したとおり、本実施の形態に係る防災事業計画支援システム及び防災事業計画支援方法においては、防災事業計画の施工の優先順位付けを行うに際し、土砂災害発生の危険度を明快、かつ客観的に評価した評価情報として提示し、また、施工した防災事業の効果を明快、かつ客観的に評価した評価情報として提示し、その優先順位付けを効果的に支援することができる。
以下、本実施の形態をベースとして、更に具体的な実例を示しながら、本発明を更に具体的に説明する
【0083】
先ず、第一の実施例として、Y県のS市とI市とH市、具体的には、S気象台とI気象台とH気象台とを中心としたそれぞれ半径5kmの円内の地域を比較して、がけ崩れ発生の危険度を評価した実例、即ち、複数の地域を対比評価した実例を説明する。なお、S市、I市、H市は、Y県内でがけ崩れが比較的に多い地域であり、1976年から2001年の間のがけ崩れ発生件数は、それぞれ、106件、65件、34件である。
【0084】
本実施例で用いた短期降雨指標と長期降雨指標はそれぞれ、半減期を1.5時間とした実効雨量と、半減期を72時間とした実効雨量である。また、本実施例で用いたがけ崩れの誘因となった発生降雨は、対象期間である1976年から2001年の間の土砂災害発生時の実効雨量であり、非発生降雨は、その対象期間の全ての実効雨量から発生降雨を含む一連降雨(24時間連続して無降雨である期間で区切られた一連の雨)を除いた実効雨量である。
【0085】
CLの設定は、本発明者らが、上述の如く、警戒避難支援システムのために開発したRBFNを用いて行った。即ち、発生降雨の教師値を0とし、非発生降雨の教師値を1として、RBFNを用いて各地域の判別境界面をそれぞれ構築し、その判別境界面の所定の閾値に対応する等高線としてCLをそれぞれ設定した。図3は、そのRBFNを用いて構築したS市、I市、H市の判別境界面を示す三面図であり、図4〜図6はそれぞれ、その判別境界面の所定の閾値に対応する等高線として設定した、S市、I市、H市のCLである。
【0086】
なお、その判別境界面の等高線を規定する閾値は、RBFNの出力値範囲を0.05幅の区間に分割し、各区間での、発生データ頻度/(発生データ頻度+非発生データ頻度)、と定義される発生率の変化を考慮して、それぞれの地域について好適な値を設定したものであって、S市、I市、H市についてそれぞれ、0.80、0.80、0.85である。
【0087】
図7は、代表的にS市について、その発生降雨の頻度、非発生降雨の頻度、発生率を示したものであって、非発生降雨は、0.95から1.00の区間に集中しており、0.75付近までは減少し、0.75以下では殆ど存在しない。一方、発生降雨は、少雨で発生する散発的ながけ崩れを含めて、ほぼどの区間にも存在するが、発生率に着目すると0.80付近から増加している。これはこの地域の集中的ながけ崩れの発生数が、この出力値付近で増加し始めることを意味し、本実施例では、発生の見逃しを避けるために安全側の0.80を採用したものである。
【0088】
以上のようにして設定したS市、I市、H市のCLについて、それぞれの安全領域の面積を算出して、その面積の大きさに基づき、その安全領域の面積が小さい方が土砂災害発生の危険度が高く防災事業計画を優先すべき箇所として、土砂災害発生危険度を定量的に比較した評価情報を、表1に示した。
【0089】
【表1】

【0090】
表1に示したように、本実施例による、土砂災害発生危険度に基づく、S市、I市、H市の3地域の防災事業計画の優先度は、S市>H市>I市、の順となった。
【0091】
次に、第二の実施例として、個別斜面の比較をした実施例について説明する。対象は、S市の922危険斜面であり、CLの設定は、斜面要因に基づく潜在危険度を考慮した斜面毎の非線形CLを設定するために本発明者らが開発した、RBFN(特許文献1)を用いて行った。即ち、本実施例のCLは、特許文献1などに記された如く、概ね、(1)先ず、斜面毎に地形・地質・植生要因による潜在危険度を評価・設定し、(2)斜面をその潜在危険度に基づき複数のグループに分類し、(3)グループ毎に判別境界面を構築し、(4)グループ毎の平均の潜在危険度に基づき結線の重みを関数化し、(5)斜面毎にその関数を用いて個別の潜在危険度に対応する結線の重みを算出して、その結線の重みを用いて斜面毎の判別境界面を構築し、(6)斜面毎の判別境界面の所定の閾値に対応する等高線として個別非線形のCLを設定する、といった手順で設定したものである。
【0092】
図8は、その斜面毎に設定したCLの中で、潜在危険度が最も高い斜面、平均的な斜面、最も安全な斜面について、それぞれのCLを対比して示したものであり、表2は、それぞれの安全領域の面積を算出して、その面積の大きさに基づき、その安全領域の面積が小さい方が土砂災害発生の危険度が高く防災事業計画を優先すべき箇所として、土砂災害発生危険度を定量的に比較した評価情報を示したものである。
【0093】
【表2】

【0094】
表2は、本実施例によれば、複数の個別斜面の比較についても、土砂災害発生の危険度を明快、かつ客観的に評価した評価情報を提供できることを実証するものであるが、一方、特許文献1に記された如く、潜在危険度の増加に伴い安全領域が狭まっていることを意味し、用いた潜在危険度の評価法などが、自然現象と矛盾せず妥当なものであることを立証するものでもある。
【0095】
この第二の実施例は、個別斜面の比較をした実施例ではあるが、個別斜面のCLを設定するに際し他の斜面の実績データをも必要とし、更にまた、潜在危険度の評価も必要な実施例であって、信頼性の高い潜在危険度の評価が可能であることが前提となる実施例である。
【0096】
以下は、個別斜面のCLを設定するに際し当該斜面の実績データのみを用い、また、潜在危険度の評価も不要な、実施例について説明する。先ず、第三の実施例として、施工した対策工の効果を定量的に評価する実施例について説明する。対象斜面は、Y県のM地区であり、この斜面では、昭和54年(1979年6月30日)に2地点でがけ崩れが発生し、その直後、それぞれ2地点で対策工が施工され、14年後の平成5年(1993年8月2日)にもがけ崩れが1地点で発生し、その直後、対策工が施工されている。
【0097】
図9と図10は、一回目の対策工の施工前(1979年6月30日以前)(図9)と、その対策工の施工後から次の災害発生までの間(1980年〜1993年8月2日)(図10)と、それぞれについて第一の実施例と同様な解析法により設定したCLを示したものであり、それぞれの安全領域の面積は、4,317mm2と12,290mm2である。
【0098】
即ち、M地区では、安全領域の面積の拡大量は7,973mm2であり、安全領域の面積の拡大率は、施工前を100として、185%であって、一回目の対策工の効果が極めて大きかったことを示している。これは、一回目のがけ崩れが脆い2地点で発生し、かつその2地点以外には類似の脆い地点が存在しなかったことを意味する。なお、このM地区の特徴は、図10の施工後のCL、及び、後述する他の斜面のCLと比較しても明らかなように、1979年の対策工前の安全領域が著しく小さいことであり、これは、M地区が、一回目のがけ崩れ発生前に、防災事業を優先的に施工すべき危険な斜面であったことを意味する。
【0099】
次に、第四の実施例として、同様に、施工した対策工の効果を定量的に評価する実施例について説明する。対象斜面は、Y県のN1地区であり、この斜面では、昭和55年(1980年7月10日)にがけ崩れが発生し、その直後、対策工が施工され、13年後の平成5年(1993年7月28日)にもがけ崩れが発生し、その直後、対策工が施工されている。
【0100】
図11と図12は、第三の実施例と同様に、一回目の対策工の施工前(図11)と、その対策工の施工後から次の災害発生までの間(図12)と、それぞれについて設定したCLを示したものであり、それぞれの安全領域の面積は、10,480mm2と12,910mm2である。
【0101】
即ち、N1地区では、安全領域の面積の拡大量は2,430mm2であり、安全領域の面積の拡大率は、施工前を100として、23%であって、一回目の対策工の効果が、第三の実施例と比較しては、大きくないことを示している。これは、相対的には、一回目のがけ崩れ発生地点に類似の脆い地点が存在した斜面であることを意味する。従って、第三の実施例と比較しては、第四の実施例の方が、安全領域の面積の拡大率が小さく、対策工によっても土砂災害発生危険度の改善が進まず防災事業計画を優先すべき斜面といえる。
【0102】
次に、第五の実施例として、同様に、施工した対策工の効果を定量的に評価する実施例について説明する。対象斜面は、Y県のN2地区であり、この斜面では、昭和54年(1979年)に2地点でがけ崩れが発生し、昭和55年(1980年)には3地点、昭和62年(1987年)に1地点、平成2年(1990年6月15日)に1地点、更に平成5年(1993年7月27日)に1地点でがけ崩れが発生している。
【0103】
図13と図14は、第三の実施例や第四の実施例と同様に、平成2年のがけ崩れに対する対策工の効果を定量的に評価するために、その対策工の施工前(図13)と、その対策工の施工後から次の災害発生までの間(図14)と、それぞれについて設定したCLを示したものであり、それぞれの安全領域の面積は、11,950mm2と12,580mm2である。
【0104】
即ち、N2地区では、安全領域の面積の拡大量は630mm2であり、安全領域の面積の拡大率は、施工前を100として、5%であって、対策工の効果が、実施例5と比較しても、非常に小さい。これは、N2地区が、がけ崩れ発生地点に類似の脆い地点が多数存在する斜面であることを意味し、相対的には、対策工によっても土砂災害発生危険度の改善が進まず防災事業計画を優先すべき斜面といえる。
【0105】
第三の実施例〜第五の実施例の結果を纏め、比較して示したのが表3である。なお、表中、面積は、安全領域の面積を意味しその単位はmm2であり、優先度は、安全領域の面積が小さい方を防災事業の優先度が高いとして順位付けた順番、拡大量は、安全領域の面積の拡大量を意味しその単位はmm2、拡大率は、その拡大量を、対策工前の面積を基準にして表したものである。
【0106】
【表3】

【0107】
表3により3箇所を比較すると、対策工前は、M地区の安全領域が著しく小さいことが特徴的であり、M地区が防災事業を優先的に施工すべき危険な斜面であったことを示している。一方、対策工後は、3箇所の安全領域の面積は殆ど同じであり、その面積の大きさで有意に優先順位付けするのは困難であるが、対策工効果をみると、N2地区は、拡大率が著しく小さく、危険度の改善が進まず、相対的には、防災事業を優先的に施工すべき危険な斜面と判断することができる。
【0108】
以上、本発明の実施例を説明したが、特許請求の範囲で規定された本発明の精神と範囲から逸脱することなく、その形態や細部に種々の変更がなされても良いことは明らかである。例えば、実施例では、RBFNを用いてCLの設定を行っているが、何らそれに限定されることなく、DEA等の手法を用いて設定することができる。また、既に何らかの方法によって設定された信頼性の高いCL等があれば、改めてCL等を設定することなく、既存のCL等を用いて本発明を実施することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
自治体や防災センターなど公的な機関における防災計画の立案業務やハザードマップ作成など幅広い用途がある。また、教育機関などにおいて災害の未然防止や避難訓練用の教材としても活用が見込まれ、さらに、建設・土木事業を営む私企業においても、防災事業のニーズ掘り起こしや事業提案のためのツール、あるいは公的機関との連携を図るための共有ツールとして活用が可能であり、企業の防災技術に関する研究開発や設計事業などの用途にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本実施の形態に係る防災事業計画支援システムの構成図である。
【図2】本実施の形態に係る防災事業計画支援方法のフローチャートである。
【図3】(a)はRBFNを用いて構築したS市の判別境界面を示す三面図、(b)は同じくI市の判別境界面を示す三面図、(c)はH市の判別境界面を示す三面図である。図4〜図6はそれぞれ、その判別境界面の所定の閾値に対応する等高線として設定した、S市、I市、H市のCLである。
【図4】図3(a)の判別境界面の所定の閾値に対応する等高線として設定されたS市のCLの概念図である。
【図5】図3(b)の判別境界面の所定の閾値に対応する等高線として設定されたI市のCLの概念図である。
【図6】図3(c)の判別境界面の所定の閾値に対応する等高線として設定されたH市のCLの概念図である。
【図7】S市のCLについて、RBFNの出力値と発生降雨の頻度、非発生降雨の頻度、発生率の関係を示す概念図である。
【図8】S市に存在する斜面毎に設定したCLの中で、潜在危険度が最も高い斜面、平均的な斜面、最も安全な斜面について、それぞれのCLを対比して示す概念図である。
【図9】Y県のM地区の斜面における一回目の対策工の施工前(1979年6月30日以前)のCLを示す概念図である。
【図10】Y県のM地区の斜面における一回目の対策工の施工後から次の災害発生までの間(1980年〜1993年8月2日)のCLを示す概念図である。
【図11】Y県のN1地区の斜面における一回目の対策工の施工前(1980年7月10日以前)のCLを示す概念図である。
【図12】Y県のN1地区の斜面における一回目の対策工の施工後から次の災害発生までの間(1980年〜1993年7月28日)のCLを示す概念図である。
【図13】Y県のN2地区の斜面における一回目の対策工の施工前(1990年6月15日以前)のCLを示す概念図である。
【図14】Y県のN2地区の斜面における一回目の対策工の施工後から次の災害発生までの間(1990年〜1993年7月27日)のCLを示す概念図である。
【符号の説明】
【0111】
1…入力部 2…演算部 3…標準化解析部 4…解析パラメータ設定部 5…CL解析部 6…判別境界面解析部 7…CL設定部 8…評価情報解析部 9…安全領域面積演算部 10…評価情報演算部10 11…出力部 12a…データ 12b…解析条件 13…実データベース 14…標準化データベース 15…判別境界面解析データベース 16…判別境界面データ 17…CLデータ 18…評価情報データベース 19…安全領域面積データ 20…評価情報データ 22…標準化解析用データベース 23…CL解析用データベース 24…要因評価値データ 25…解析パラメータ 26…学習期間データ 27…対策工履歴データ 28…モデルデータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防災事業計画の優先順位付けを支援する方法であって、短期降雨指標と長期降雨指標と土砂災害発生・非発生とを含むデータセットからなる複数の実績データを用いて、前記短期降雨指標と長期降雨指標との二次元平面上に前記短期降雨指標と長期降雨指標とをパラメータとして土砂災害の発生限界線、避難基準線あるいは警戒基準線(以下、これらを総称してCLを略す場合がある。)を設定する工程と、そのCLのうちいずれかの内側を安全領域とし外側を危険領域として区分する境界線を設定する工程と、前記安全領域の面積を算出する工程と、前記算出した安全領域の面積の大きさに基づき、土砂災害発生危険度を定量的に表す評価情報を表示及び/又は出力する工程と、を有することを特徴とする防災事業計画支援方法。
【請求項2】
前記評価情報は、複数箇所を比較する評価情報であって、前記境界線を設定する工程は、前記複数箇所毎に前記境界線をそれぞれ設定する工程であり、前記安全領域の面積を算出する工程は、前記複数箇所毎に前記安全領域の面積をそれぞれ算出する工程であり、前記評価情報を表示及び/又は出力する工程は、前記安全領域の面積が小さい方が土砂災害発生の危険度が高く防災事業計画を優先すべき箇所として、前記複数箇所の土砂災害発生危険度を定量的に比較した評価情報を表示及び/又は出力する工程であることを特徴とする請求項1記載の防災事業計画支援方法。
【請求項3】
前記評価情報は、防災事業を施工した地点を有する同一箇所について前記防災事業の施工前と施工後とを比較した評価情報であって、前記境界線を設定する工程は、前記施工前と施工後について前記境界線をそれぞれ設定する工程であり、前記安全領域の面積を算出する工程は、前記施工前と施工後について前記安全領域の面積をそれぞれ算出する工程であり、前記評価情報を表示及び/又は出力する工程は、前記算出した施工前の安全領域の面積を基準として前記施工後の安全領域の面積の変化率及び/又は変化量を演算し、その変化率及び/又は変化量に基づいて土砂災害発生危険度の改善が進まず防災事業計画を優先すべき箇所を示すべく、当該箇所の土砂災害発生危険度を定量的に比較した評価情報を表示及び/又は出力する工程であることを特徴とする請求項1記載の防災事業計画支援方法。
【請求項4】
前記箇所は、個別の斜面又は個別の渓流、あるいは複数の斜面又は複数の渓流を包含する地域であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の防災事業計画支援方法。
【請求項5】
前記境界線は、非線形の境界線であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の防災事業計画支援方法。
【請求項6】
前記非線形の境界線は、放射状基底関数ネットワークを用いた解析により設定された境界線であって、放射状基底関数ネットワークを用いて、前記短期降雨指標と長期降雨指標とをパラメータとして土砂災害発生危険度を表す判別境界面を構築し、前記判別境界面の所望の閾値に対応する等高線として設定された境界線であることを特徴とする請求項5記載の防災事業計画支援方法。
【請求項7】
前記解析に用いる短期降雨指標と長期降雨指標のデータは、それぞれの測定データにそれぞれ所定の変換を施し標準化したデータであって、その解析結果である前記境界線は、前記標準化した短期降雨指標と長期降雨指標との二次元平面上に設定された境界線であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の防災事業計画支援方法。
【請求項8】
防災事業計画の優先順位付けを支援するシステムであって、地域と時間をキーとして検索可能な短期降雨指標と長期降雨指標と土砂災害発生・非発生とを含むデータセットからなる実績データを入力する入力部と、前記実績データを格納するデータベースと、このデータベースからあるいは前記入力部から前記短期降雨指標と長期降雨指標を読み出して、二次元平面上に前記読み出した短期降雨指標と長期降雨指標とをパラメータとして判別境界面を解析する判別境界面解析部と、前記判別境界面から所望の閾値に対応する等高線として土砂災害の発生限界線、避難基準線あるいは警戒基準線(以下、これらを総称してCLを略す場合がある。)を決定し、そのCLのうちいずれかの内側を安全領域とし外側を危険領域として区分する境界線を設定するCL設定部と、前記安全領域の面積を算出する安全領域面積演算部と、前記算出した安全領域の面積の大きさに基づき、土砂災害発生危険度を定量的に表す評価情報を演算する評価情報演算部と、前記評価情報を表示及び/又は出力する出力部と、を有することを特徴とする防災事業計画支援システム。
【請求項9】
前記実績データを標準化して標準化データを生成する標準化解析部を有することを特徴とする請求項8記載の防災事業計画支援システム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが各工程を実行しながら防災事業計画の優先順位付けを支援する方法であって、
前記コンピュータの演算部が、短期降雨指標と長期降雨指標を有する降雨データと土砂災害の実績を発生・非発生で示す災害実績データを含むデータセットからなる複数の実績データを格納する実データベースから短期降雨指標及び長期降雨指標の降雨データを読みだす工程と、
前記演算部に備えられるCL解析部が、前記短期降雨指標と長期降雨指標をそれぞれ縦軸と横軸として形成される二次元平面上に前記降雨データに合わせて前記災害実績データをプロットする工程と、前記CL解析部が、前記プロットされた災害実績データの分布に基づいて土砂災害の発生限界線、避難基準線あるいは警戒基準線(以下、これらを総称してCLと略す場合がある。)を設定し、このCLに関するデータを判別境界面解析データベースに格納する工程と、
前記演算部に備えられる評価情報解析部が、前記判別境界面解析データベースから前記CLのうちいずれかのCLに関するデータを読みだしてそのCLの内側を安全領域とし外側を危険領域として区分する境界線を設定し、この境界線内側の安全領域の面積を演算し、この面積に関するデータを安全領域面積データとして評価情報データベースに格納する工程と、前記評価情報解析部が、前記評価情報データベースに格納された安全領域面積データを読みだして前記面積の大きさに基づき土砂災害発生危険度を定量的に示す評価情報を演算する工程と、
前記コンピュータの出力部が、前記評価情報を表示及び/又は出力する工程とを有することを特徴とする防災事業計画支援方法。
【請求項2】
前記評価情報は、複数箇所を比較する評価情報であって、前記境界線を設定する工程は、前記演算部に備えられる評価情報解析部が、前記複数箇所毎に前記境界線をそれぞれ設定する工程であり、前記安全領域の面積を算出する工程は、前記演算部に備えられる評価情報解析部が、前記複数箇所毎に前記安全領域の面積をそれぞれ算出する工程であり、前記評価情報を表示及び/又は出力する工程は、前記コンピュータの出力部が、前記安全領域の面積が小さい方が土砂災害発生の危険度が高く防災事業計画を優先すべき箇所として、前記複数箇所の土砂災害発生危険度を定量的に比較した評価情報を表示及び/又は出力する工程であることを特徴とする請求項1記載の防災事業計画支援方法。
【請求項3】
前記評価情報は、防災事業を施工した地点を有する同一箇所について前記防災事業の施工前と施工後とを比較した評価情報であって、前記境界線を設定する工程は、前記演算部に備えられる評価情報解析部が、前記施工前と施工後について前記境界線をそれぞれ設定する工程であり、前記安全領域の面積を算出する工程は、前記演算部に備えられる評価情報解析部が、前記施工前と施工後について前記安全領域の面積をそれぞれ算出する工程であり、前記評価情報を表示及び/又は出力する工程は、前記コンピュータの出力部が、前記算出した施工前の安全領域の面積を基準として前記施工後の安全領域の面積の変化率及び/又は変化量を演算し、その変化率及び/又は変化量に基づいて土砂災害発生危険度の改善が進まず防災事業計画を優先すべき箇所を示すべく、当該箇所の土砂災害発生危険度を定量的に比較した評価情報を表示及び/又は出力する工程であることを特徴とする請求項1記載の防災事業計画支援方法。
【請求項4】
前記箇所は、個別の斜面又は個別の渓流、あるいは複数の斜面又は複数の渓流を包含する地域であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の防災事業計画支援方法。
【請求項5】
前記境界線は、非線形の境界線であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の防災事業計画支援方法。
【請求項6】
前記非線形の境界線は、放射状基底関数ネットワークを用いた解析により設定される境界線であって、
前記コンピュータの演算部が、短期降雨指標と長期降雨指標を有する降雨データと土砂災害の実績を発生・非発生で示す災害実績データを含むデータセットからなる複数の実績データを格納する実データベースから短期降雨指標及び長期降雨指標の降雨データを読みだして、
前記演算部に備えられるCL解析部が、前記短期降雨指標と長期降雨指標をそれぞれ縦軸と横軸として形成される二次元平面上の格子の格子点上に、前記災害実績データに基づいて放射状基底関数を設定し重ね合わせることで判別境界面を構築する工程と前記CL解析部が、前記判別境界面の所望の閾値に対応する等高線として土砂災害の発生限界線、避難基準線あるいは警戒基準線(以下、これらを総称してCLと略す場合がある。)を設定し、このCLに関するデータを判別境界面解析データベースに格納する工程と、
前記演算部に備えられる評価情報解析部が、前記判別境界面解析データベースから前記CLのうちいずれかのCLに関するデータを読みだしてそのCLの内側を安全領域とし外側を危険領域として区分する境界線を設定し、この境界線内側の安全領域の面積を演算し、この面積に関するデータを安全領域面積データとして評価情報データベースに格納する工程と、前記評価情報解析部が、前記評価情報データベースに格納された安全領域面積データを読みだして前記面積の大きさに基づき土砂災害発生危険度を定量的に示す評価情報を演算する工程と、
前記コンピュータの出力部が、前記評価情報を表示及び/又は出力する工程とを有することを特徴とする請求項5記載の防災事業計画支援方法。
【請求項7】
前記解析に用いる短期降雨指標と長期降雨指標のデータは、それぞれの測定データにそれぞれ所定の変換を施し標準化したデータであって、その解析結果である前記境界線は、前記標準化した短期降雨指標と長期降雨指標との二次元平面上に設定された境界線であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の防災事業計画支援方法。
【請求項8】
防災事業計画の優先順位付けを支援するシステムであって、短期降雨指標と長期降雨指標を有する降雨データと土砂災害の実績を発生・非発生で示す災害実績データを含むデータセットからなる実績データを入力する入力部と、前記実績データを格納するデータベースと、このデータベースからあるいは前記入力部から前記短期降雨指標と長期降雨指標を有する降雨データと災害実績データを読み出して、前記短期降雨指標と長期降雨指標をそれぞれ縦軸と横軸として形成される二次元平面上の格子の格子点上に、前記災害実績データに基づいて放射状基底関数を設定し重ね合わせることで判別境界面を構築する判別境界面解析部と、前記判別境界面から所望の閾値に対応する等高線として土砂災害の発生限界線、避難基準線あるいは警戒基準線(以下、これらを総称してCLを略す場合がある。)を決定し、そのCLのうちいずれかの内側を安全領域とし外側を危険領域として区分する境界線を設定するCL設定部と、前記安全領域の面積を算出する安全領域面積演算部と、前記算出した安全領域の面積の大きさに基づき、土砂災害発生危険度を定量的に表す評価情報を演算する評価情報演算部と、前記評価情報を表示及び/又は出力する出力部と、を有することを特徴とする防災事業計画支援システム。
【請求項9】
前記実績データを前記データベースから読みだして、この実績データに含まれる降雨データを標準化して標準化データを生成し、前記災害実績データと共に標準化データベースに格納する標準化解析部を有し、前記判別境界面解析部は、前記データベースに代えて前記標準化データベースから降雨データ及び災害実績データを読み出すことを特徴とする請求項8記載の防災事業計画支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−39629(P2006−39629A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214223(P2004−214223)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【特許番号】特許第3656852号(P3656852)
【特許公報発行日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(800000013)有限会社山口ティー・エル・オー (6)
【出願人】(591260672)中電技術コンサルタント株式会社 (58)
【Fターム(参考)】