防眩フィルム
【課題】ユーザが至近距離で見るディスプレイに最適な防眩フィルムを提供する。
【解決手段】凹凸を有する防眩層120が透明基材110上に形成されてなる防眩フィルムであって、防眩層120の85°光沢度の値が、防眩層120の20°光沢度の値と60°光沢度の値とを結ぶ直線の延長線上に求められる85°光沢度の予測値に対して1.3倍以上であり、かつ、20°光沢度の値が、10以下である。
【解決手段】凹凸を有する防眩層120が透明基材110上に形成されてなる防眩フィルムであって、防眩層120の85°光沢度の値が、防眩層120の20°光沢度の値と60°光沢度の値とを結ぶ直線の延長線上に求められる85°光沢度の予測値に対して1.3倍以上であり、かつ、20°光沢度の値が、10以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩フィルムに関する。本発明は、特に、ユーザが至近距離で見るディスプレイに使用される防眩フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(以下、FPDと称する)の開発が盛んである。FPDでは、照明器具や窓の映り込みによる眩しさを軽減するために、画面上に防眩フィルム(Anti−Glare Film)が取り付けられる。
【0003】
防眩フィルムには、溶媒にフィラーを分散させた溶液を基材シートに塗布・乾燥して表面に凹凸を形成したものや、エンボス金型の形状をフィルム面に転写して表面に凹凸を形成したものが存在する。防眩フィルム表面に形成された凹凸により外光が拡散反射され、照明器具や窓の画面への映り込みが防止される。
【0004】
しかしながら、防眩フィルムにより十分な防眩性能を実現しようとする場合、防眩フィルムが白茶けて見え、画面のコントラストが低下するという問題がある。防眩フィルムの白茶けは、防眩フィルム表面の凹凸により拡散反射された光がユーザにより知覚されてしまうことに起因する。
【0005】
これに関連する技術として、下記の特許文献1〜5には、防眩フィルムの光学特性や形状特性を調整して防眩フィルムの白茶けを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3825782号公報
【特許文献2】特許第4130928号公報
【特許文献3】特許第4384506号公報
【特許文献4】特許第4390578号公報
【特許文献5】特許第4510124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、FPDは、PC(Personal Computer)用モニタやテレビ等の様々な用途に用いられる。防眩フィルムは、FPDの用途に応じて最適化され得る。
【0008】
FPDがPC用モニタとして使用される場合、FPDは机上に載置され、その上方には室内照明器具が存在する。そして、PCの使用時には、ユーザが至近距離から画面を見るため、FPDの正面にはユーザの頭部が位置する。このような環境下では、防眩フィルムには、上方からの照明光による白茶けが発生せず、かつ、ユーザの顔が画面に映り込まないことが要求される。
【0009】
しかしながら、特許文献1〜5では、上記のようなFPDの使用環境が十分に考慮されていない。特許文献1〜5では、防眩フィルムの光学特性・形状特性と防眩フィルムの性能との因果関係が明らかでなく、特許文献1〜5の防眩フィルムが、PC用モニタ向けに十分に最適化されているとはいえない。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものである。したがって、本発明の目的は、ユーザが至近距離で見るディスプレイに最適な防眩フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明による防眩フィルムは、凹凸を有する防眩層が透明基材上に形成されてなる防眩フィルムであって、前記防眩層中に光の波長以上の大きさの粒子を含まず、表面の凹凸のみによって防眩性能を発揮する防眩フィルムであり、前記防眩層の85°光沢度の値が、前記防眩層の20°光沢度の値と60°光沢度の値とを結ぶ直線の延長線上に求められる85°光沢度の予測値に対して1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上であり、かつ、前記20°光沢度の値が、10以下、好ましくは7.5以下であることを特徴とする。
【0012】
このように構成された本発明の防眩フィルムは、フィルム面に対して浅い角度で入射する光に対しては高い光沢度を有し、浅い角度で入射する光を正反射する一方で、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光に対しては低い光沢度を有し、垂直に近い角度で入射する光を拡散反射する。また、本発明の防眩フィルムは、防眩層の内部に光拡散要素を含まないため、前記の機能が内部の拡散要素によって撹乱されることがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防眩フィルムによれば、フィルム面に対して浅い角度で入射する光が拡散反射されずに正反射されるため、照明光の拡散反射により防眩フィルムが白茶けて見えることが防止される。加えて、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光が拡散反射されるため、ユーザの顔が画面に映り込むことが防止される。すなわち、ユーザが至近距離で見るディスプレイに最適な防眩フィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る防眩フィルムの概略構成を示す図である。
【図2】光の入射角度に対する防眩フィルムの光学特性を示す図である。
【図3】防眩フィルムに入射する光の挙動を説明するための図である。
【図4】防眩フィルムが液晶ディスプレイに取り付けられた場合の作用効果を説明するための図である。
【図5】実施例1および比較例1,2の防眩フィルムの顕微鏡写真を示す図である。
【図6】防眩フィルムの明室コントラストの測定方法を説明するための図である。
【図7】防眩フィルムの光沢度と測定角度との関係を示す図である。
【図8】防眩フィルムの防眩層の凹凸の角度分布を示す図である。
【図9】図8に示される角度の累積度数分布を示す図である。
【図10】防眩フィルムの透過像鮮明度を示す図である。
【図11】防眩フィルムの反射像鮮明度を示す図である。
【図12】防眩フィルムの透過像鮮明度と反射像鮮明度との関係を示す図である。
【図13】本発明の他の実施形態に係る防眩フィルムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張される場合があり、実際の比率とは異なる場合がある。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る防眩フィルムの概略構成を示す図である。本実施形態の防眩フィルムは、フィルム面に対して浅い角度で入射する光に対しては高い光沢度を有し、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光に対しては低い光沢度を有するものである。
【0017】
図1に示すとおり、本実施形態の防眩フィルム100は、透明基材110と、透明基材110上に形成される防眩層120とから構成される。
【0018】
透明基材110は、シート状の透明部材であり、TAC(トリアセチルセルロース)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、アクリル、およびPC(ポリカーボネート)等の透明樹脂から形成される。
【0019】
防眩層120は、例えば、紫外線硬化型樹脂から形成される。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、TMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート)、PETA(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)等の多官能アクリレートを単独で、あるいは、それら2種類以上を混合して用い、光重合開始剤、例えば、イルガキュア184、イルガキュア907、イルガキュア819、ダロキュアTPO(以上、BASF社製)を添加したものを用いることができる。
【0020】
また、このような紫外線硬化型樹脂には、製造上の理由や、性能改善を目的として、単官能アクリレートモノマー、密着性向上材料、防汚剤、帯電防止剤、さらに、0.1μm未満の大きさの粒子等を混合して用いてもよい。
【0021】
防眩層120は、表面に凹凸を有し、防眩層120の凹凸は、複数の球面状凸部がランダムに重ねられて構成されている。または、防眩層120の凹凸は、球面状凹部がランダムに重ねられて構成されていてもよく、もしくは、複数の球面状凸部と複数の球面状凹部が組み合わされてランダムに重ねられて構成されていてもよい。複数の球面状凸部または球面状凹部は、種々のサイズを有する球の一部の形状をそれぞれ有する。
【0022】
ここで、防眩層120の凹凸の平均間隔Smは、10〜20μmであることが好ましい。凹凸の平均間隔Smが10μm未満の場合、防眩フィルム100に映り込む像の鮮明度(解像性)が増加し、画像の視認性が低下してしまう。一方、平均間隔Smが20μmを超える場合、画素と凹凸とが干渉して画面のチラツキ(以下、Sparklingと称する)が強くなってしまう。また、防眩層120の凹凸の高さは、1〜7μm、より好ましくは、2〜5μmであることが好ましい。凹凸の高さがこれより小さいと、防眩フィルム100に映り込む像の鮮明度(解像性)が増加し、画像の視認性が低下してしまう。一方、凹凸の高さが、これより大きいと、凹凸の面の角度が大きくなり、白茶けてしまう。
【0023】
次に、本発明による防眩フィルムの製造方法、及び、その防眩フィルムを得るために使用される金型の製造方法について説明する。本発明では、凹凸を有する金属金型を得るために、鉄、アルミニウムなどの金属基材、もしくは、その金属基材の表面に銅メッキ、または、ニッケルメッキを施し、その金属基材、もしくは、メッキ表面を研磨した後、その研磨面に微粒子をぶつけて凹凸を形成し、その後、必要に応じて、耐久性等を向上させるため、その凹凸面にクロムメッキ、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)を形成して、金型とする。ここでいう鉄、アルミニウム、銅、ニッケル等の金属は、それぞれの純金属に限定されるものではなく、その合金、例えば、鉄に対してステンレス等を含むものとする。
【0024】
このようにして製造された金型を用いて、その金型の形状を透明樹脂フィルムに転写することで、防眩フィルムが得られる。
【0025】
次に、図2〜図4を参照して、防眩フィルム100の作用効果について説明する。なお、図2〜図4は、複数の球面状凸部がランダムに重ねられた形状を有する防眩フィルムを例に挙げて説明しているが、本発明は、これに限定するものではなく、複数の球面状凹部がランダムに重ねられた形状や、複数の球面状凸部と複数の球面状凹部が組み合わされて重ねあわされた形状であっても、同様の効果を有する。
【0026】
図2は、光の入射角度に対する防眩フィルムの光学特性を示す図である。
【0027】
図2に示すとおり、防眩フィルム100は、フィルム面に対して浅い角度で入射する光L1に対しては、鏡面に近い挙動を示し、浅い角度で入射する光L1を浅い角度のまま反射する。一方、防眩フィルム100は、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光L2に対しては、粗面に近い挙動を示し、垂直に近い角度で入射する光L2を拡散する。
【0028】
すなわち、本実施形態の防眩フィルム100は、フィルム面に対して浅い角度で入射する光に対する防眩層120の光沢度が、一般的な防眩フィルムの光沢度よりも大きい。具体的には、防眩層120の85°光沢度が、防眩層120の20°光沢度の値と60°光沢度の値とを結ぶ直線の延長線上に求められる85°光沢度の予測値に対して1.3倍以上の値を有する。また、防眩層120の20°光沢度が、10以下の値を有する。なお、光沢度は、フィルム面の法線を基準として規定され、85°光沢度は、フィルム面に対して浅い角度(5°)で入射する光に対する光沢度を示す。また、20°光沢度は、フィルム面に対して垂直に近い角度(70°)で入射する光に対する光沢度を示す。
【0029】
図3は、防眩フィルムに入射する光の挙動を説明するための図である。図3(a)は、フィルム面に対して浅い角度で入射する光の挙動を示す図であり、図3(b)は、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光の挙動を示す図である。上述したとおり、防眩フィルム100の防眩層120は、複数の球面状凸部がランダムに重ねられて構成されている。なお、図3では、説明の便宜上、同一寸法の球面状凸部が等間隔に配置されている場合を例に挙げて説明する。
【0030】
図3(a)に示すとおり、防眩フィルム100のフィルム面に対して浅い角度で入射する光L1は、球面状凸部により反射され、浅い角度のまま出射される。このとき、入射光L1は、球面状凸部の一方の斜面のみ(図3(a)では左側斜面)で反射されるため、反射光の拡散は比較的弱いものとなる。特に、形成されている形状が球面状凸部の場合には、面の角度の大きい、隣接する2つの球面状凸部の境界部(図3(a)の太線で囲まれた部分)で反射されることがなく、反射光が防眩フィルム100のフィルム面に対して垂直な方向に向かうことがない。
【0031】
一方、図3(b)に示すとおり、防眩フィルム100のフィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光L2は、フィルム面に対して垂直な方向に反射する。このとき、入射光L2は、球面状凸部のすべての面で反射されるため、前記の浅い角度で入射する光L1に比較して強く拡散される。
【0032】
以上のとおり、本実施形態の防眩フィルム100によれば、フィルム面に対して浅い角度で入射する光は浅い角度のまま比較的弱い拡散で出射され、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光はそれよりも強く拡散される。このような構成によれば、防眩フィルム100がPC用モニタや業務用モニタに使用される場合、フィルム面に対して浅い角度で入射する照明光がユーザに向かうことが防止され、防眩フィルムが白茶けて見えることが防止される。加えて、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光が拡散されるため、ユーザの顔が画面に映り込むことが防止される。
【0033】
図4は、防眩フィルムが液晶ディスプレイに取り付けられた場合の作用効果を説明するための図である。図4(a)は、防眩フィルムが使用される環境を説明するための図であり、図4(b)は、防眩フィルムの凹凸の影響を説明するための図である。
【0034】
図4(a)に示すとおり、防眩フィルムは、例えば、PC用の液晶ディスプレイ(LCD)に取り付けられる。液晶ディスプレイは机上に載置され、PCのユーザ(観察者)は至近距離で画面を見る。このような環境下では、液晶ディスプレイの上方から照明光Lが入射し、防眩フィルムの白茶けを引き起こすおそれがある。一方、PCのユーザの顔が画面に映り込んで視認性を低下させるおそれがある。
【0035】
一般的な防眩フィルムでは、上方から入射する照明光Lの一部が、表面の凸部により前方に反射され、ユーザに知覚される(図4(b)参照)。とりわけ、フィルム面に対する傾斜角度の大きい凸部が多いほど、上方からの照明光Lがより多く前方に反射される。その結果、防眩フィルムが白茶けて見え、画面のコントラストが低下する。
【0036】
一方、本実施形態の防眩フィルム100は、防眩層120の85°光沢度が高いため、上方から入射する照明光Lを正反射し、液晶ディスプレイの下方に向かわせることができる。したがって、上方からの照明光Lが、PCのユーザに知覚されることが防止され、防眩フィルム100が白茶けて見えることが防止される。また、液晶ディスプレイの前方から入射する光は防眩層120により拡散されるため、ユーザの顔が画面に映り込むことが防止される。
【0037】
以上のとおり、本実施形態によれば、ユーザが至近距離で見るディスプレイに最適な防眩フィルムが提供される。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を用いて本発明の実施形態をより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、本実施例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
<防眩フィルムの製作>
球面状凹部がランダムに重ねられてなる表面を有する5種類のエンボスロールを製作し、TAC製の透明基材にアクリル系の紫外線硬化型樹脂を塗布した後、エンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して、実施例1〜4および比較例2の防眩フィルムを製作した。
【0040】
(実施例1)
銅/ニッケルメッキを施した後にメッキ表面を研磨した鉄製ロールを用意し、平均粒径約63μmの球状粒子を用いて、乾式のブラスト加工によりロールの表面に凹凸を形成した。表面に凹凸が形成されたロールにクロムメッキを施してエンボスロールを製作した。このように製作されたエンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して、実施例1の防眩フィルムを製作した。
【0041】
(実施例2)
平均粒径約42μmの球状粒子を用いた点以外は実施例1と同じ条件でエンボスロールを製作した。このように製作されたエンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して、実施例2の防眩フィルムを製作した。
【0042】
(実施例3)
銅/ニッケルよりも硬度の高いニッケル−リン合金メッキを施した後にメッキ表面を研磨した鉄製ロールを用意した。そして、平均粒径約42μmの球状粒子を用いて、乾式のブラスト加工によりロールの表面に凹凸を形成し、クロムメッキを施すことなく、エンボスロールを製作した。このように製作されたエンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して、実施例3の防眩フィルムを製作した。
【0043】
(実施例4)
ブラスト条件以外は実施例1と同じ条件でエンボスロールを製作した。具体的には、実施例1よりもブラスト圧を低くし、ブラスト回数を増やしてエンボスロールを製作した。このように製作されたエンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して、実施例4の防眩フィルムを製作した。
【0044】
(比較例1)
SAMSUNG社製の市販の17インチ液晶ディスプレイ(SyncMaster 750B)に使用されている一般的な防眩フィルムを比較例1の防眩フィルムとして用意した。比較例1の防眩フィルムは、フィラー、樹脂バインダー、および溶剤を混合したものを基材シート上に塗布した後、乾燥工程で溶剤を蒸発させ、UV照射によりフィルムを硬化させて製造されている。
【0045】
(比較例2)
ブラスト条件以外は実施例1と同じ条件でエンボスロールを製作した。具体的には、実施例1よりもブラスト回数を大幅に減らしてエンボスロールを製作した。このように製作されたエンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して、比較例2の防眩フィルムを製作した。
【0046】
<エンボスロールの表面粗さ測定>
触針式の表面粗さ計(株式会社ミツトヨ製 サーフテスト SJ−301)を使用して、実施例1〜4および比較例2の防眩フィルムの製作に使用されたエンボスロールならびに比較例1の防眩フィルムについて、表面の算術平均粗さRaおよび十点平均粗さRzを測定した。算術平均粗さRaおよび十点平均粗さRzは、JIS B0601−1994に準拠して測定された。
【0047】
<防眩フィルムの表面形状測定>
レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK−9500)を使用して、実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムについて、表面の凹凸の平均間隔Smを測定した。凹凸の平均間隔Smは、JIS B0601−1994に準拠して測定された。
【0048】
図5(a)は、実施例1の防眩フィルムの顕微鏡写真を示す図であり、図5(b)は、図5(a)の部分断面図である。図5(c)は、比較例1の防眩フィルムの顕微鏡写真を示す図であり、図5(d)は、図5(c)の部分断面図である。図5(e)は、比較例2の防眩フィルムの顕微鏡写真を示す図である。図5(a)、図5(c)、および図5(e)に示す顕微鏡写真のサイズは、約0.28×0.22mmであり、50倍の対物レンズを用いて撮像されている。一方、図5(b)および図5(d)の部分断面図は、150倍の対物レンズを用いて撮像されている。
【0049】
図5(a)に示すとおり、実施例1の防眩フィルムは、球面状凸部がランダムに重ねられた構造を有している。また、図5(b)に示すとおり、実施例1の防眩フィルムは、滑らかな断面形状を有している。
【0050】
一方、図5(c)に示すとおり、比較例1の防眩フィルムでは、含有されるフィラーにより凹凸が形成されている。また、図5(d)に示すとおり、比較例1の防眩フィルムは、先端が尖った凸部を有している。先端が尖った凸部は、フィラーが凝集することにより形成されている。
【0051】
また、図5(e)に示すとおり、比較例2の防眩フィルムには、平坦な領域が存在する。実施例1〜4および比較例2の防眩フィルムはフィラーを含んでいない。
【0052】
<防眩フィルムの光学特性評価>
実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムに対して、光沢度、ヘイズ、明室コントラスト、Sparkling、および像鮮明度を測定した。また、各防眩フィルムを目視により評価した。
【0053】
(光沢度)
光沢計(BYK Gardner社製 Micro TRI Gloss)を使用して、実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムの光沢度を測定した。具体的には、裏面に黒インキを塗布した光学ガラス上にメチルフェニルシリコーンオイルを液貼りし、裏面反射を防止した状態で各防眩フィルムの20°光沢度、60°光沢度、および85°光沢度をそれぞれ測定した。また、スガ試験機株式会社製変角光沢計 UGV−5Dを用いて、45°光沢度および75°光沢度を測定した。なお、光沢計は、JIS Z8741に準拠している。
【0054】
(ヘイズ)
株式会社東洋精機製作所製のヘイズガードIIを使用して、実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムのヘイズをISOモードにより測定した。
【0055】
(明室コントラスト)
輝度計(株式会社トプコン製 BM−7FAST)を使用して、実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムの輝度を測定し、明室コントラストを求めた。具体的には、まず、SAMSUNG社製の17インチ液晶ディスプレイ(SyncMaster 750B)上に、内側が白色の四角錐台型のフードを被せ、フード上部の開口部に対応するディスプレイの画面領域に防眩フィルムを取り付けた(図6参照)。そして、周辺領域を白表示に維持しつつ、防眩フィルムが取り付けられた画面領域を白/黒に切り替えときの輝度を測定した。防眩フィルムが取り付けられた画面領域の白/黒の輝度の比を明室コントラストと定義した。
【0056】
なお、SAMSUNG社製の液晶ディスプレイの表面には比較例1と同様の防眩フィルムが取り付けられているため、輝度の測定時には、液晶パネルの裏表を逆に装着して平坦面を外側にして使用した。
【0057】
(Sparkling)
明室コントラストの測定に用いた測定装置からフードを取り外し、実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムを取り付けた液晶ディスプレイを定速で移動させつつ輝度の変化を測定して、「Sparkling」の値を求めた。液晶ディスプレイの移動速度は、0.4mm/秒であり、移動量は20mmであった。輝度は0.1秒毎に測定し、(標準偏差/平均値)×100(%)を各防眩フィルムの「Sparkling」の値と定義した。
【0058】
(像鮮明度)
写像性測定機(スガ試験機株式会社製 ICM−1)を使用して、実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムの透過像鮮明度と、45°および60°の反射像鮮明度とを測定した。なお、写像性測定機(像鮮明度測定機)は、JIS K7374に準拠している。測定は、前記JIS規格に基づき、光学くしが2mm、1mm、0.5mm、0.25mm、および0.125mmで行ったが、0.125mmの像鮮明度の測定値が0.25mmの像鮮明度の測定値を上回っていたため、0.125mmは測定限界以下と判断し、0.125mmの測定値を除く4つの測定値を図10および図11に、また、その算術和を表1に、透過像鮮明度に対する反射像鮮明度の関係を図12に示した。
【0059】
(目視評価)
実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムについて、「映り込み」、「白茶け」、および「Sparkling」を目視により評価した。
【0060】
実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムについての評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から、実施例1〜4の防眩フィルムの明室コントラストは、比較例1の防眩フィルムの明室コントラストよりも良好であることが分かる。また、目視評価においても、実施例1〜4の防眩フィルムの性能は問題のないレベルであった。
【0063】
なお、表1における実施例1〜4および比較例2の表面粗さRa,Rzは、エンボスロールの凹凸の測定結果であり、比較例1の表面粗さRa,Rzは、防眩フィルム自体の凹凸の測定結果である。
【0064】
図7は、防眩フィルムの光沢度と測定角度との関係を示す図である。図7の横軸は測定角度であり、縦軸は光沢度である。
【0065】
図7に示すとおり、比較例1の防眩フィルムでは、20°光沢度、60°光沢度、および85°光沢度が直線状に並んでいるのに対し、実施例1〜4の防眩フィルムでは、20°光沢度と60°光沢度とを結ぶ直線の傾きに比べ、60°光沢度と85°光沢度とを結ぶ直線の傾きが大きくなっている。
【0066】
ここで、防眩フィルムの20°光沢度の測定値と60°光沢度の測定値とを結ぶ直線の延長線上に求められる85°光沢度の計算値を85°光沢度の予測値とすれば、防眩フィルムの85°光沢度の測定値は、85°光沢度の予測値よりも1.3〜3倍の値を有することが好ましく、1.5〜3倍の値を有することがより好ましい。
【0067】
例えば、実施例1の防眩フィルムでは、20°光沢度および60°光沢度の測定値はそれぞれ5.2および21.7であり、2点を結ぶ直線の数式は、光沢度をYおよび測定角度をXとすれば、Y=0.4125×X−3.05である。この数式に、X=85を代入して得られる計算値が、85°光沢度の予測値であり、32.0である。この予測値に対して、実施例1の防眩フィルムの85°光沢度の測定値(73.8)は、約2.31倍の大きさを有する。
【0068】
同様に、実施例2〜4および比較例1,2の防眩フィルムの85°光沢度の予測値、および、測定値と予測値の比を表1に示した。比較例1の防眩フィルムの85°光沢度の予測値に対する測定値の比は、約1倍、すなわち、ほぼ直線上に光沢度が上昇しているのに対して、実施例1〜4、および、比較例2の85°光沢度の予測値に対する測定値比は、約1.5倍〜約3倍の大きさを有する。
【0069】
実施例1〜4の防眩フィルムと比較例2の防眩フィルムとを比較すれば、45°反射像鮮明度の値が、実施例1〜4の防眩フィルムが41〜44であるのに対して、比較例2の防眩フィルムは、58.7と大きく、映り込み像が比較的鮮明であることが分かる。また、比較例2の防眩フィルムは、目視評価における「映り込み」が悪かった。
【0070】
図10および図11は、防眩フィルムの像鮮明度を示す図である。図10は、透過像鮮明度を示す図である。図11(a)は、45°反射像鮮明度を示す図であり、図11(b)は、60°反射像鮮明度を示す図である。
【0071】
図10に示すとおり、比較例1の防眩フィルムの像鮮明度は、光学くしの幅が狭くなると急激に像鮮明度が低下するのに対して、実施例1〜4の防眩フィルムでは、その低下が相対的になだらかである。また、図11(a)に示すとおり、実施例1〜4の45°反射像鮮明度は、いずれの光学くしの値も略等しい値となっている。一方で、比較例2の45°反射像鮮明度は、光学くしの幅が、2mmと1mmで、実施例よりも大きくなっており、目視評価における「映り込み」の悪さの原因となっている。
【0072】
図12は、透過像鮮明度と反射像鮮明度との関係を示す図である。ソース画像の像はより鮮明で、映り込みの像はよりボケた方が良いため、この図では、右へ行くほど、そして、下へ行くほど防眩層として優れている。従来より使用されている、比較例1の防眩フィルムに対して、実施例1〜4の防眩フィルムは、45°反射像鮮明度は、略同等でありながら、透過像鮮明度は、大きい値を示しており、防眩フィルムとして優れているといえる。なお、45°反射像鮮明度は50以下であることが好ましい。
【0073】
表1に記載の20°光沢度の値は、実施例1〜4で、2〜7.5の間で変わっているにもかかわらず、45°反射像鮮明度の値はほとんど変化がなく、一方で、20°光沢度が10強の比較例2では、45°反射像鮮明度が急激に上昇し、また、目視評価でも、「映り込み」が悪くなっていることから、20°光沢度が7.5〜10の間に、映り込みに臨界的な値が存在すると考えられる。
【0074】
<凹凸の角度分布>
レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK−9500)から得られる防眩層の形状データから、防眩層の凹凸の傾斜角度の分布を算出した。具体的には、まず、顕微鏡写真に対応する画像データから各画素の高さ情報を取得し、最小ピッチ(0.275μm)の正方形をなす4つの画素の高さ情報に基づいて、4つの画素がなす正方形の法線の角度を算出した。より具体的には、4つの画素の中から3つの画素を2組選択し、3つの画素がなす三角形の面の法線の傾きをそれぞれ算出し、2つの法線の傾きの平均値を4つの画素がなす正方形の角度とした。このような計算を、画像データの配列(1024×768ドット)の左上から右下まで実行して、防眩層表面の凹凸の角度分布を求めた。なお、画像データの高さ方向の解像度は、0.01μmであった。
【0075】
図8は、防眩フィルムの防眩層の凹凸の角度分布を示す図であり、図9は、図8に示される角度の累積度数分布を示す図である。図8(a)は、45°以下の角度分布を示す図であり、図8(b)は、25〜60°の角度分布を示す図である。また、図9(a)は、累積度数分布の45°以下の部分を示す図であり、図9(b)は、累積度数分布の25〜80°の部分を示す図である。
【0076】
図8および図9を参照すれば、実施例1〜4の防眩フィルムに比べ、比較例1の防眩フィルムには、傾斜角度の大きな面(例えば、フィルム面に対する傾斜角度が30°以上の面)が多く含まれていることが分かる。傾斜角度の大きな面が多く含まれることにより、比較例1の防眩フィルムでは、フィルム面に対して浅い角度で入射した光が前方に反射され、明室コントラストを低下させる結果を招いている(図4(b)参照)。
【0077】
図9(b)を参照すれば、比較例1の防眩フィルムでは、30°未満の角度の累積度数が約96%であるのに対し、実施例1〜4の防眩フィルムでは、30°未満の角度の累積度数が97%を超えていることが分かる。したがって、フィルム面に対して浅い角度(30°未満)で入射した光が前方に反射されることを防止するためには、30°未満の角度の累積度数が97%以上(すなわち、30°以上の角度の割合が0〜3%)であることが好ましいことが分かる。30°以上の角度の全体における割合が3%以下の場合、明室コントラストが向上する。
【0078】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内において、種々改変することができる。
【0079】
例えば、上述の実施形態では、防眩層120の凹凸は、球面状凸部がランダムに配列された形状として説明しているが、本発明は、これに限定されるものではなく、球面状凹部がランダムに配列されたものや、球面状凸部と凹部とがランダムに組み合わされた形状であってもよい(図13参照)。
【0080】
また、上述の実施形態では、防眩層120の凹凸は、エンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して作成された。しかしながら、防眩層120の凹凸は、所定の光学特性を有していればよく、種々の方法により作成される。防眩層120の凹凸は、例えば、エッチング等の処理により球面状凹部が重ねられるように作成され得る。
【符号の説明】
【0081】
100 防眩フィルム、
110 透明基材、
120 防眩層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩フィルムに関する。本発明は、特に、ユーザが至近距離で見るディスプレイに使用される防眩フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(以下、FPDと称する)の開発が盛んである。FPDでは、照明器具や窓の映り込みによる眩しさを軽減するために、画面上に防眩フィルム(Anti−Glare Film)が取り付けられる。
【0003】
防眩フィルムには、溶媒にフィラーを分散させた溶液を基材シートに塗布・乾燥して表面に凹凸を形成したものや、エンボス金型の形状をフィルム面に転写して表面に凹凸を形成したものが存在する。防眩フィルム表面に形成された凹凸により外光が拡散反射され、照明器具や窓の画面への映り込みが防止される。
【0004】
しかしながら、防眩フィルムにより十分な防眩性能を実現しようとする場合、防眩フィルムが白茶けて見え、画面のコントラストが低下するという問題がある。防眩フィルムの白茶けは、防眩フィルム表面の凹凸により拡散反射された光がユーザにより知覚されてしまうことに起因する。
【0005】
これに関連する技術として、下記の特許文献1〜5には、防眩フィルムの光学特性や形状特性を調整して防眩フィルムの白茶けを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3825782号公報
【特許文献2】特許第4130928号公報
【特許文献3】特許第4384506号公報
【特許文献4】特許第4390578号公報
【特許文献5】特許第4510124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、FPDは、PC(Personal Computer)用モニタやテレビ等の様々な用途に用いられる。防眩フィルムは、FPDの用途に応じて最適化され得る。
【0008】
FPDがPC用モニタとして使用される場合、FPDは机上に載置され、その上方には室内照明器具が存在する。そして、PCの使用時には、ユーザが至近距離から画面を見るため、FPDの正面にはユーザの頭部が位置する。このような環境下では、防眩フィルムには、上方からの照明光による白茶けが発生せず、かつ、ユーザの顔が画面に映り込まないことが要求される。
【0009】
しかしながら、特許文献1〜5では、上記のようなFPDの使用環境が十分に考慮されていない。特許文献1〜5では、防眩フィルムの光学特性・形状特性と防眩フィルムの性能との因果関係が明らかでなく、特許文献1〜5の防眩フィルムが、PC用モニタ向けに十分に最適化されているとはいえない。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものである。したがって、本発明の目的は、ユーザが至近距離で見るディスプレイに最適な防眩フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明による防眩フィルムは、凹凸を有する防眩層が透明基材上に形成されてなる防眩フィルムであって、前記防眩層中に光の波長以上の大きさの粒子を含まず、表面の凹凸のみによって防眩性能を発揮する防眩フィルムであり、前記防眩層の85°光沢度の値が、前記防眩層の20°光沢度の値と60°光沢度の値とを結ぶ直線の延長線上に求められる85°光沢度の予測値に対して1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上であり、かつ、前記20°光沢度の値が、10以下、好ましくは7.5以下であることを特徴とする。
【0012】
このように構成された本発明の防眩フィルムは、フィルム面に対して浅い角度で入射する光に対しては高い光沢度を有し、浅い角度で入射する光を正反射する一方で、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光に対しては低い光沢度を有し、垂直に近い角度で入射する光を拡散反射する。また、本発明の防眩フィルムは、防眩層の内部に光拡散要素を含まないため、前記の機能が内部の拡散要素によって撹乱されることがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防眩フィルムによれば、フィルム面に対して浅い角度で入射する光が拡散反射されずに正反射されるため、照明光の拡散反射により防眩フィルムが白茶けて見えることが防止される。加えて、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光が拡散反射されるため、ユーザの顔が画面に映り込むことが防止される。すなわち、ユーザが至近距離で見るディスプレイに最適な防眩フィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る防眩フィルムの概略構成を示す図である。
【図2】光の入射角度に対する防眩フィルムの光学特性を示す図である。
【図3】防眩フィルムに入射する光の挙動を説明するための図である。
【図4】防眩フィルムが液晶ディスプレイに取り付けられた場合の作用効果を説明するための図である。
【図5】実施例1および比較例1,2の防眩フィルムの顕微鏡写真を示す図である。
【図6】防眩フィルムの明室コントラストの測定方法を説明するための図である。
【図7】防眩フィルムの光沢度と測定角度との関係を示す図である。
【図8】防眩フィルムの防眩層の凹凸の角度分布を示す図である。
【図9】図8に示される角度の累積度数分布を示す図である。
【図10】防眩フィルムの透過像鮮明度を示す図である。
【図11】防眩フィルムの反射像鮮明度を示す図である。
【図12】防眩フィルムの透過像鮮明度と反射像鮮明度との関係を示す図である。
【図13】本発明の他の実施形態に係る防眩フィルムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張される場合があり、実際の比率とは異なる場合がある。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る防眩フィルムの概略構成を示す図である。本実施形態の防眩フィルムは、フィルム面に対して浅い角度で入射する光に対しては高い光沢度を有し、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光に対しては低い光沢度を有するものである。
【0017】
図1に示すとおり、本実施形態の防眩フィルム100は、透明基材110と、透明基材110上に形成される防眩層120とから構成される。
【0018】
透明基材110は、シート状の透明部材であり、TAC(トリアセチルセルロース)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、アクリル、およびPC(ポリカーボネート)等の透明樹脂から形成される。
【0019】
防眩層120は、例えば、紫外線硬化型樹脂から形成される。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、TMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート)、PETA(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)等の多官能アクリレートを単独で、あるいは、それら2種類以上を混合して用い、光重合開始剤、例えば、イルガキュア184、イルガキュア907、イルガキュア819、ダロキュアTPO(以上、BASF社製)を添加したものを用いることができる。
【0020】
また、このような紫外線硬化型樹脂には、製造上の理由や、性能改善を目的として、単官能アクリレートモノマー、密着性向上材料、防汚剤、帯電防止剤、さらに、0.1μm未満の大きさの粒子等を混合して用いてもよい。
【0021】
防眩層120は、表面に凹凸を有し、防眩層120の凹凸は、複数の球面状凸部がランダムに重ねられて構成されている。または、防眩層120の凹凸は、球面状凹部がランダムに重ねられて構成されていてもよく、もしくは、複数の球面状凸部と複数の球面状凹部が組み合わされてランダムに重ねられて構成されていてもよい。複数の球面状凸部または球面状凹部は、種々のサイズを有する球の一部の形状をそれぞれ有する。
【0022】
ここで、防眩層120の凹凸の平均間隔Smは、10〜20μmであることが好ましい。凹凸の平均間隔Smが10μm未満の場合、防眩フィルム100に映り込む像の鮮明度(解像性)が増加し、画像の視認性が低下してしまう。一方、平均間隔Smが20μmを超える場合、画素と凹凸とが干渉して画面のチラツキ(以下、Sparklingと称する)が強くなってしまう。また、防眩層120の凹凸の高さは、1〜7μm、より好ましくは、2〜5μmであることが好ましい。凹凸の高さがこれより小さいと、防眩フィルム100に映り込む像の鮮明度(解像性)が増加し、画像の視認性が低下してしまう。一方、凹凸の高さが、これより大きいと、凹凸の面の角度が大きくなり、白茶けてしまう。
【0023】
次に、本発明による防眩フィルムの製造方法、及び、その防眩フィルムを得るために使用される金型の製造方法について説明する。本発明では、凹凸を有する金属金型を得るために、鉄、アルミニウムなどの金属基材、もしくは、その金属基材の表面に銅メッキ、または、ニッケルメッキを施し、その金属基材、もしくは、メッキ表面を研磨した後、その研磨面に微粒子をぶつけて凹凸を形成し、その後、必要に応じて、耐久性等を向上させるため、その凹凸面にクロムメッキ、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)を形成して、金型とする。ここでいう鉄、アルミニウム、銅、ニッケル等の金属は、それぞれの純金属に限定されるものではなく、その合金、例えば、鉄に対してステンレス等を含むものとする。
【0024】
このようにして製造された金型を用いて、その金型の形状を透明樹脂フィルムに転写することで、防眩フィルムが得られる。
【0025】
次に、図2〜図4を参照して、防眩フィルム100の作用効果について説明する。なお、図2〜図4は、複数の球面状凸部がランダムに重ねられた形状を有する防眩フィルムを例に挙げて説明しているが、本発明は、これに限定するものではなく、複数の球面状凹部がランダムに重ねられた形状や、複数の球面状凸部と複数の球面状凹部が組み合わされて重ねあわされた形状であっても、同様の効果を有する。
【0026】
図2は、光の入射角度に対する防眩フィルムの光学特性を示す図である。
【0027】
図2に示すとおり、防眩フィルム100は、フィルム面に対して浅い角度で入射する光L1に対しては、鏡面に近い挙動を示し、浅い角度で入射する光L1を浅い角度のまま反射する。一方、防眩フィルム100は、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光L2に対しては、粗面に近い挙動を示し、垂直に近い角度で入射する光L2を拡散する。
【0028】
すなわち、本実施形態の防眩フィルム100は、フィルム面に対して浅い角度で入射する光に対する防眩層120の光沢度が、一般的な防眩フィルムの光沢度よりも大きい。具体的には、防眩層120の85°光沢度が、防眩層120の20°光沢度の値と60°光沢度の値とを結ぶ直線の延長線上に求められる85°光沢度の予測値に対して1.3倍以上の値を有する。また、防眩層120の20°光沢度が、10以下の値を有する。なお、光沢度は、フィルム面の法線を基準として規定され、85°光沢度は、フィルム面に対して浅い角度(5°)で入射する光に対する光沢度を示す。また、20°光沢度は、フィルム面に対して垂直に近い角度(70°)で入射する光に対する光沢度を示す。
【0029】
図3は、防眩フィルムに入射する光の挙動を説明するための図である。図3(a)は、フィルム面に対して浅い角度で入射する光の挙動を示す図であり、図3(b)は、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光の挙動を示す図である。上述したとおり、防眩フィルム100の防眩層120は、複数の球面状凸部がランダムに重ねられて構成されている。なお、図3では、説明の便宜上、同一寸法の球面状凸部が等間隔に配置されている場合を例に挙げて説明する。
【0030】
図3(a)に示すとおり、防眩フィルム100のフィルム面に対して浅い角度で入射する光L1は、球面状凸部により反射され、浅い角度のまま出射される。このとき、入射光L1は、球面状凸部の一方の斜面のみ(図3(a)では左側斜面)で反射されるため、反射光の拡散は比較的弱いものとなる。特に、形成されている形状が球面状凸部の場合には、面の角度の大きい、隣接する2つの球面状凸部の境界部(図3(a)の太線で囲まれた部分)で反射されることがなく、反射光が防眩フィルム100のフィルム面に対して垂直な方向に向かうことがない。
【0031】
一方、図3(b)に示すとおり、防眩フィルム100のフィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光L2は、フィルム面に対して垂直な方向に反射する。このとき、入射光L2は、球面状凸部のすべての面で反射されるため、前記の浅い角度で入射する光L1に比較して強く拡散される。
【0032】
以上のとおり、本実施形態の防眩フィルム100によれば、フィルム面に対して浅い角度で入射する光は浅い角度のまま比較的弱い拡散で出射され、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光はそれよりも強く拡散される。このような構成によれば、防眩フィルム100がPC用モニタや業務用モニタに使用される場合、フィルム面に対して浅い角度で入射する照明光がユーザに向かうことが防止され、防眩フィルムが白茶けて見えることが防止される。加えて、フィルム面に対して垂直に近い角度で入射する光が拡散されるため、ユーザの顔が画面に映り込むことが防止される。
【0033】
図4は、防眩フィルムが液晶ディスプレイに取り付けられた場合の作用効果を説明するための図である。図4(a)は、防眩フィルムが使用される環境を説明するための図であり、図4(b)は、防眩フィルムの凹凸の影響を説明するための図である。
【0034】
図4(a)に示すとおり、防眩フィルムは、例えば、PC用の液晶ディスプレイ(LCD)に取り付けられる。液晶ディスプレイは机上に載置され、PCのユーザ(観察者)は至近距離で画面を見る。このような環境下では、液晶ディスプレイの上方から照明光Lが入射し、防眩フィルムの白茶けを引き起こすおそれがある。一方、PCのユーザの顔が画面に映り込んで視認性を低下させるおそれがある。
【0035】
一般的な防眩フィルムでは、上方から入射する照明光Lの一部が、表面の凸部により前方に反射され、ユーザに知覚される(図4(b)参照)。とりわけ、フィルム面に対する傾斜角度の大きい凸部が多いほど、上方からの照明光Lがより多く前方に反射される。その結果、防眩フィルムが白茶けて見え、画面のコントラストが低下する。
【0036】
一方、本実施形態の防眩フィルム100は、防眩層120の85°光沢度が高いため、上方から入射する照明光Lを正反射し、液晶ディスプレイの下方に向かわせることができる。したがって、上方からの照明光Lが、PCのユーザに知覚されることが防止され、防眩フィルム100が白茶けて見えることが防止される。また、液晶ディスプレイの前方から入射する光は防眩層120により拡散されるため、ユーザの顔が画面に映り込むことが防止される。
【0037】
以上のとおり、本実施形態によれば、ユーザが至近距離で見るディスプレイに最適な防眩フィルムが提供される。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を用いて本発明の実施形態をより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、本実施例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
<防眩フィルムの製作>
球面状凹部がランダムに重ねられてなる表面を有する5種類のエンボスロールを製作し、TAC製の透明基材にアクリル系の紫外線硬化型樹脂を塗布した後、エンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して、実施例1〜4および比較例2の防眩フィルムを製作した。
【0040】
(実施例1)
銅/ニッケルメッキを施した後にメッキ表面を研磨した鉄製ロールを用意し、平均粒径約63μmの球状粒子を用いて、乾式のブラスト加工によりロールの表面に凹凸を形成した。表面に凹凸が形成されたロールにクロムメッキを施してエンボスロールを製作した。このように製作されたエンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して、実施例1の防眩フィルムを製作した。
【0041】
(実施例2)
平均粒径約42μmの球状粒子を用いた点以外は実施例1と同じ条件でエンボスロールを製作した。このように製作されたエンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して、実施例2の防眩フィルムを製作した。
【0042】
(実施例3)
銅/ニッケルよりも硬度の高いニッケル−リン合金メッキを施した後にメッキ表面を研磨した鉄製ロールを用意した。そして、平均粒径約42μmの球状粒子を用いて、乾式のブラスト加工によりロールの表面に凹凸を形成し、クロムメッキを施すことなく、エンボスロールを製作した。このように製作されたエンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して、実施例3の防眩フィルムを製作した。
【0043】
(実施例4)
ブラスト条件以外は実施例1と同じ条件でエンボスロールを製作した。具体的には、実施例1よりもブラスト圧を低くし、ブラスト回数を増やしてエンボスロールを製作した。このように製作されたエンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して、実施例4の防眩フィルムを製作した。
【0044】
(比較例1)
SAMSUNG社製の市販の17インチ液晶ディスプレイ(SyncMaster 750B)に使用されている一般的な防眩フィルムを比較例1の防眩フィルムとして用意した。比較例1の防眩フィルムは、フィラー、樹脂バインダー、および溶剤を混合したものを基材シート上に塗布した後、乾燥工程で溶剤を蒸発させ、UV照射によりフィルムを硬化させて製造されている。
【0045】
(比較例2)
ブラスト条件以外は実施例1と同じ条件でエンボスロールを製作した。具体的には、実施例1よりもブラスト回数を大幅に減らしてエンボスロールを製作した。このように製作されたエンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して、比較例2の防眩フィルムを製作した。
【0046】
<エンボスロールの表面粗さ測定>
触針式の表面粗さ計(株式会社ミツトヨ製 サーフテスト SJ−301)を使用して、実施例1〜4および比較例2の防眩フィルムの製作に使用されたエンボスロールならびに比較例1の防眩フィルムについて、表面の算術平均粗さRaおよび十点平均粗さRzを測定した。算術平均粗さRaおよび十点平均粗さRzは、JIS B0601−1994に準拠して測定された。
【0047】
<防眩フィルムの表面形状測定>
レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK−9500)を使用して、実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムについて、表面の凹凸の平均間隔Smを測定した。凹凸の平均間隔Smは、JIS B0601−1994に準拠して測定された。
【0048】
図5(a)は、実施例1の防眩フィルムの顕微鏡写真を示す図であり、図5(b)は、図5(a)の部分断面図である。図5(c)は、比較例1の防眩フィルムの顕微鏡写真を示す図であり、図5(d)は、図5(c)の部分断面図である。図5(e)は、比較例2の防眩フィルムの顕微鏡写真を示す図である。図5(a)、図5(c)、および図5(e)に示す顕微鏡写真のサイズは、約0.28×0.22mmであり、50倍の対物レンズを用いて撮像されている。一方、図5(b)および図5(d)の部分断面図は、150倍の対物レンズを用いて撮像されている。
【0049】
図5(a)に示すとおり、実施例1の防眩フィルムは、球面状凸部がランダムに重ねられた構造を有している。また、図5(b)に示すとおり、実施例1の防眩フィルムは、滑らかな断面形状を有している。
【0050】
一方、図5(c)に示すとおり、比較例1の防眩フィルムでは、含有されるフィラーにより凹凸が形成されている。また、図5(d)に示すとおり、比較例1の防眩フィルムは、先端が尖った凸部を有している。先端が尖った凸部は、フィラーが凝集することにより形成されている。
【0051】
また、図5(e)に示すとおり、比較例2の防眩フィルムには、平坦な領域が存在する。実施例1〜4および比較例2の防眩フィルムはフィラーを含んでいない。
【0052】
<防眩フィルムの光学特性評価>
実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムに対して、光沢度、ヘイズ、明室コントラスト、Sparkling、および像鮮明度を測定した。また、各防眩フィルムを目視により評価した。
【0053】
(光沢度)
光沢計(BYK Gardner社製 Micro TRI Gloss)を使用して、実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムの光沢度を測定した。具体的には、裏面に黒インキを塗布した光学ガラス上にメチルフェニルシリコーンオイルを液貼りし、裏面反射を防止した状態で各防眩フィルムの20°光沢度、60°光沢度、および85°光沢度をそれぞれ測定した。また、スガ試験機株式会社製変角光沢計 UGV−5Dを用いて、45°光沢度および75°光沢度を測定した。なお、光沢計は、JIS Z8741に準拠している。
【0054】
(ヘイズ)
株式会社東洋精機製作所製のヘイズガードIIを使用して、実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムのヘイズをISOモードにより測定した。
【0055】
(明室コントラスト)
輝度計(株式会社トプコン製 BM−7FAST)を使用して、実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムの輝度を測定し、明室コントラストを求めた。具体的には、まず、SAMSUNG社製の17インチ液晶ディスプレイ(SyncMaster 750B)上に、内側が白色の四角錐台型のフードを被せ、フード上部の開口部に対応するディスプレイの画面領域に防眩フィルムを取り付けた(図6参照)。そして、周辺領域を白表示に維持しつつ、防眩フィルムが取り付けられた画面領域を白/黒に切り替えときの輝度を測定した。防眩フィルムが取り付けられた画面領域の白/黒の輝度の比を明室コントラストと定義した。
【0056】
なお、SAMSUNG社製の液晶ディスプレイの表面には比較例1と同様の防眩フィルムが取り付けられているため、輝度の測定時には、液晶パネルの裏表を逆に装着して平坦面を外側にして使用した。
【0057】
(Sparkling)
明室コントラストの測定に用いた測定装置からフードを取り外し、実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムを取り付けた液晶ディスプレイを定速で移動させつつ輝度の変化を測定して、「Sparkling」の値を求めた。液晶ディスプレイの移動速度は、0.4mm/秒であり、移動量は20mmであった。輝度は0.1秒毎に測定し、(標準偏差/平均値)×100(%)を各防眩フィルムの「Sparkling」の値と定義した。
【0058】
(像鮮明度)
写像性測定機(スガ試験機株式会社製 ICM−1)を使用して、実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムの透過像鮮明度と、45°および60°の反射像鮮明度とを測定した。なお、写像性測定機(像鮮明度測定機)は、JIS K7374に準拠している。測定は、前記JIS規格に基づき、光学くしが2mm、1mm、0.5mm、0.25mm、および0.125mmで行ったが、0.125mmの像鮮明度の測定値が0.25mmの像鮮明度の測定値を上回っていたため、0.125mmは測定限界以下と判断し、0.125mmの測定値を除く4つの測定値を図10および図11に、また、その算術和を表1に、透過像鮮明度に対する反射像鮮明度の関係を図12に示した。
【0059】
(目視評価)
実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムについて、「映り込み」、「白茶け」、および「Sparkling」を目視により評価した。
【0060】
実施例1〜4および比較例1,2の防眩フィルムについての評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から、実施例1〜4の防眩フィルムの明室コントラストは、比較例1の防眩フィルムの明室コントラストよりも良好であることが分かる。また、目視評価においても、実施例1〜4の防眩フィルムの性能は問題のないレベルであった。
【0063】
なお、表1における実施例1〜4および比較例2の表面粗さRa,Rzは、エンボスロールの凹凸の測定結果であり、比較例1の表面粗さRa,Rzは、防眩フィルム自体の凹凸の測定結果である。
【0064】
図7は、防眩フィルムの光沢度と測定角度との関係を示す図である。図7の横軸は測定角度であり、縦軸は光沢度である。
【0065】
図7に示すとおり、比較例1の防眩フィルムでは、20°光沢度、60°光沢度、および85°光沢度が直線状に並んでいるのに対し、実施例1〜4の防眩フィルムでは、20°光沢度と60°光沢度とを結ぶ直線の傾きに比べ、60°光沢度と85°光沢度とを結ぶ直線の傾きが大きくなっている。
【0066】
ここで、防眩フィルムの20°光沢度の測定値と60°光沢度の測定値とを結ぶ直線の延長線上に求められる85°光沢度の計算値を85°光沢度の予測値とすれば、防眩フィルムの85°光沢度の測定値は、85°光沢度の予測値よりも1.3〜3倍の値を有することが好ましく、1.5〜3倍の値を有することがより好ましい。
【0067】
例えば、実施例1の防眩フィルムでは、20°光沢度および60°光沢度の測定値はそれぞれ5.2および21.7であり、2点を結ぶ直線の数式は、光沢度をYおよび測定角度をXとすれば、Y=0.4125×X−3.05である。この数式に、X=85を代入して得られる計算値が、85°光沢度の予測値であり、32.0である。この予測値に対して、実施例1の防眩フィルムの85°光沢度の測定値(73.8)は、約2.31倍の大きさを有する。
【0068】
同様に、実施例2〜4および比較例1,2の防眩フィルムの85°光沢度の予測値、および、測定値と予測値の比を表1に示した。比較例1の防眩フィルムの85°光沢度の予測値に対する測定値の比は、約1倍、すなわち、ほぼ直線上に光沢度が上昇しているのに対して、実施例1〜4、および、比較例2の85°光沢度の予測値に対する測定値比は、約1.5倍〜約3倍の大きさを有する。
【0069】
実施例1〜4の防眩フィルムと比較例2の防眩フィルムとを比較すれば、45°反射像鮮明度の値が、実施例1〜4の防眩フィルムが41〜44であるのに対して、比較例2の防眩フィルムは、58.7と大きく、映り込み像が比較的鮮明であることが分かる。また、比較例2の防眩フィルムは、目視評価における「映り込み」が悪かった。
【0070】
図10および図11は、防眩フィルムの像鮮明度を示す図である。図10は、透過像鮮明度を示す図である。図11(a)は、45°反射像鮮明度を示す図であり、図11(b)は、60°反射像鮮明度を示す図である。
【0071】
図10に示すとおり、比較例1の防眩フィルムの像鮮明度は、光学くしの幅が狭くなると急激に像鮮明度が低下するのに対して、実施例1〜4の防眩フィルムでは、その低下が相対的になだらかである。また、図11(a)に示すとおり、実施例1〜4の45°反射像鮮明度は、いずれの光学くしの値も略等しい値となっている。一方で、比較例2の45°反射像鮮明度は、光学くしの幅が、2mmと1mmで、実施例よりも大きくなっており、目視評価における「映り込み」の悪さの原因となっている。
【0072】
図12は、透過像鮮明度と反射像鮮明度との関係を示す図である。ソース画像の像はより鮮明で、映り込みの像はよりボケた方が良いため、この図では、右へ行くほど、そして、下へ行くほど防眩層として優れている。従来より使用されている、比較例1の防眩フィルムに対して、実施例1〜4の防眩フィルムは、45°反射像鮮明度は、略同等でありながら、透過像鮮明度は、大きい値を示しており、防眩フィルムとして優れているといえる。なお、45°反射像鮮明度は50以下であることが好ましい。
【0073】
表1に記載の20°光沢度の値は、実施例1〜4で、2〜7.5の間で変わっているにもかかわらず、45°反射像鮮明度の値はほとんど変化がなく、一方で、20°光沢度が10強の比較例2では、45°反射像鮮明度が急激に上昇し、また、目視評価でも、「映り込み」が悪くなっていることから、20°光沢度が7.5〜10の間に、映り込みに臨界的な値が存在すると考えられる。
【0074】
<凹凸の角度分布>
レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK−9500)から得られる防眩層の形状データから、防眩層の凹凸の傾斜角度の分布を算出した。具体的には、まず、顕微鏡写真に対応する画像データから各画素の高さ情報を取得し、最小ピッチ(0.275μm)の正方形をなす4つの画素の高さ情報に基づいて、4つの画素がなす正方形の法線の角度を算出した。より具体的には、4つの画素の中から3つの画素を2組選択し、3つの画素がなす三角形の面の法線の傾きをそれぞれ算出し、2つの法線の傾きの平均値を4つの画素がなす正方形の角度とした。このような計算を、画像データの配列(1024×768ドット)の左上から右下まで実行して、防眩層表面の凹凸の角度分布を求めた。なお、画像データの高さ方向の解像度は、0.01μmであった。
【0075】
図8は、防眩フィルムの防眩層の凹凸の角度分布を示す図であり、図9は、図8に示される角度の累積度数分布を示す図である。図8(a)は、45°以下の角度分布を示す図であり、図8(b)は、25〜60°の角度分布を示す図である。また、図9(a)は、累積度数分布の45°以下の部分を示す図であり、図9(b)は、累積度数分布の25〜80°の部分を示す図である。
【0076】
図8および図9を参照すれば、実施例1〜4の防眩フィルムに比べ、比較例1の防眩フィルムには、傾斜角度の大きな面(例えば、フィルム面に対する傾斜角度が30°以上の面)が多く含まれていることが分かる。傾斜角度の大きな面が多く含まれることにより、比較例1の防眩フィルムでは、フィルム面に対して浅い角度で入射した光が前方に反射され、明室コントラストを低下させる結果を招いている(図4(b)参照)。
【0077】
図9(b)を参照すれば、比較例1の防眩フィルムでは、30°未満の角度の累積度数が約96%であるのに対し、実施例1〜4の防眩フィルムでは、30°未満の角度の累積度数が97%を超えていることが分かる。したがって、フィルム面に対して浅い角度(30°未満)で入射した光が前方に反射されることを防止するためには、30°未満の角度の累積度数が97%以上(すなわち、30°以上の角度の割合が0〜3%)であることが好ましいことが分かる。30°以上の角度の全体における割合が3%以下の場合、明室コントラストが向上する。
【0078】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内において、種々改変することができる。
【0079】
例えば、上述の実施形態では、防眩層120の凹凸は、球面状凸部がランダムに配列された形状として説明しているが、本発明は、これに限定されるものではなく、球面状凹部がランダムに配列されたものや、球面状凸部と凹部とがランダムに組み合わされた形状であってもよい(図13参照)。
【0080】
また、上述の実施形態では、防眩層120の凹凸は、エンボスロールの凹凸形状を紫外線硬化型樹脂に転写して作成された。しかしながら、防眩層120の凹凸は、所定の光学特性を有していればよく、種々の方法により作成される。防眩層120の凹凸は、例えば、エッチング等の処理により球面状凹部が重ねられるように作成され得る。
【符号の説明】
【0081】
100 防眩フィルム、
110 透明基材、
120 防眩層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸を有する防眩層が透明基材上に形成されてなる防眩フィルムであって、
前記防眩層の85°光沢度の値が、前記防眩層の20°光沢度の値と60°光沢度の値とを結ぶ直線の延長線上に求められる85°光沢度の予測値に対して1.3倍以上であり、かつ、前記20°光沢度の値が、10以下であることを特徴とする防止フィルム。
【請求項2】
45°反射像鮮明度が50以下であることを特徴とする請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項3】
前記凹凸の傾斜角度の累積度数分布曲線における30°以上の角度の割合が3%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の防眩フィルム。
【請求項4】
前記凹凸の平均間隔Smは、10〜20μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項5】
前記凹凸は、複数の球面状凸部、複数の球面状凹部、または複数の球面状凸部と球面状凹部の組み合わせが、ランダムに重ねられてなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項1】
凹凸を有する防眩層が透明基材上に形成されてなる防眩フィルムであって、
前記防眩層の85°光沢度の値が、前記防眩層の20°光沢度の値と60°光沢度の値とを結ぶ直線の延長線上に求められる85°光沢度の予測値に対して1.3倍以上であり、かつ、前記20°光沢度の値が、10以下であることを特徴とする防止フィルム。
【請求項2】
45°反射像鮮明度が50以下であることを特徴とする請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項3】
前記凹凸の傾斜角度の累積度数分布曲線における30°以上の角度の割合が3%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の防眩フィルム。
【請求項4】
前記凹凸の平均間隔Smは、10〜20μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項5】
前記凹凸は、複数の球面状凸部、複数の球面状凹部、または複数の球面状凸部と球面状凹部の組み合わせが、ランダムに重ねられてなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図13】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図13】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−133066(P2012−133066A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284083(P2010−284083)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】
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