説明

防空シミュレーションシステム

【課題】防空要素の配置にかかるユーザの手間を軽減できるようにし、これにより便宜の向上を図った防空シミュレーションシステムを提供すること。
【解決手段】ユーザが設定した防空エリアをメッシュ状に複数の小領域に分割し、各小領域にレーダ11cを配置したと仮定した場合のレーダ覆域面積を、デジタルマップの3次元データに基づいて算出する。その結果を、メッシュの表示色を階調的に変化させることによりGUI表示する。そして、ユーザにより選択指定されたメッシュのそれぞれにつき、シミュレーションにより防空指標を算出してその結果をユーザに提示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば短距離用の防空飛翔体システムなどに適用される防空シミュレーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
防空システムとして知られているものにSAM(Surface to Air Missile)システムがある。この種のシステムは、複数のファイヤユニット(Fire Unit:以下FUと表記する)、これらを統括するサーバシステムおよびデータ通信回線などを備え、比較的大規模に展開される。システムを構成するこれらの単位を、以下、射撃単位と称する。防空システムにおいて、それぞれのFUは射撃(指揮)統制装置、レーダ装置、および、発射装置などを備えて構成されることが多い。発射装置には、対空機関砲(ガン)や誘導弾発射装置などが含まれる。
この種のシステムの防空能力は、各FUの配置される位置や、発射装置の弾数などの要素に大きく左右される。これらの要素を実地にて検証することはコスト面や環境面などから難しいことから、シミュレーション技術を応用することが一般的である。
【0003】
ところで、このような用途に用いられるシミュレーションシステムは、現実の防空システムがその能力を最大限に発揮できる状態を自動的に算出するまでには至っていない。すなわちユーザはシミュレーション作業にあたり、FUの展開場所の地形情報を地図などから読み取り、山や丘などの起伏によるレーダのLOSなどを考慮しながら、自己の経験と判断によりレーダ装置を配置する位置を決めている。よって机上検討に時間がかかるだけでなく、机上検討の結果と実際のフィールドでの最適と思われる装置の配置場所とには違いが生じ易い。また、実運用においても装置の配置については配置決定までに迷う場合が多い。このようなことから、防空システムの検討にあたり使い勝手の良いシミュレーションシステムの提供が待たれている。
【0004】
なお、関連する技術が下記特許文献1に開示される。この文献には、通信経路のロバスト性と伝送品質の保証を実現できるようにした通信経路の最適化方法が開示される。
【特許文献1】特開2001−88799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、防空システムの検討にあたり使い勝手の良いシミュレーションシステムの提供が待たれている。
本発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、防空要素の配置にかかるユーザの手間を軽減できるようにし、これにより便宜の向上を図った防空シミュレーションシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明の一態様によれば、レーダ装置を備える射撃単位を防空エリア内に配置して展開される防空システムの運用をコンピュータを用いたシミュレーションにより模倣する防空シミュレーションシステムであって、前記コンピュータは、前記防空エリアの3次元的な地形データを記憶する周辺地形データベースと、前記防空エリアを複数の小区画に分割してそれぞれの小区画に前記レーダ装置を配置したと仮定した場合の当該レーダ装置のレーダ覆域を、前記複数の小区画ごとに前記地形データに基づいて算出する覆域算出手段と、この覆域算出手段により算出されたレーダ覆域を、少なくとも一部の小区画につきユーザに通知するユーザインタフェース手段とを具備することを特徴とする防空シミュレーションシステムが提供される。
【0007】
このような手段を講じることにより、防空エリア内の各地点にレーダを配置した場合の地点ごとの覆域が自動的に算出され、ユーザに通知される。通知の形態は、例えば覆域面積を数値で示したり、覆域の広さに応じて小区画を色分け表示しても良い。これによりユーザはレーダの設置箇所ごとにその覆域を一目で把握できるようになり、レーダの最適な設置箇所を簡便に把握することができる。従ってレーダの配置にかかるユーザの手間を軽減することができ、便宜の向上を図ることが可能になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、防空要素の配置にかかるユーザの手間を軽減できるようになり、これにより便宜の向上を図った防空シミュレーションシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明に係わるシステムがシミュレーション対象とする防空システムの一例を示すシステム構成図である。図1の防空システムは、複数のFU11と、これらのFU11を接続して互いの情報の授受を可能とする射撃ネットワーク13とを備える。各FU11は、対空機関砲(ガン)や誘導弾発射装置などとして実現されるミサイル発射装置11aと、各ミサイル発射装置11aを統括的に制御するファイヤコントロールシステム(FCS:Fire Control System)11bと、要撃対象となる目標に関する情報を取得するレーダ11cとを備える。
【0010】
各FUには所定の空域に対応する防空エリアが予め割り当てられ、各FUはその防空エリア内においてそれぞれ固有の防空能力を有する。FCS11bは、レーダ11cにおいて取得される目標情報や他のFUから通知される諸情報をもとに、ミサイル発射装置11aへの目標割り当てなどの処理を実施する。
【0011】
図2は、本発明に係わる防空シミュレーションシステムの一実施の形態を示すシステム図である。図1のシステムが地理的領域に比較的大規模に展開されるのに対し、図2のシステムはLAN(Local Area Network)を主体として形成される小規模なシステムである。図2のシステムは図1のシステムの運用をシミュレーションにより模倣するために用いられ、その結果をもとに防空戦略の最適化や戦術見積もりなどが実施される。なお本実施形態では、いわゆるシミュレーションをフェデレーションと称する。フェデレーションはRTIをベースとして実現されるHLAインタフェース仕様に規定される用語であり、またフェデレーション中に生成される各種オブジェクトはフェデレートと称される。
【0012】
図2において、複数のコンピュータPC1〜PC3が通信回線100を介して互いに接続され、分散処理環境が形成される。コンピュータPC1〜PC3は、通信回線100を介して他のコンピュータと情報を授受する仲立ちとなるインタフェース部(I/F)21と、表示部22と、記憶部23と、制御部24と、ユーザインタフェース部25とを備える。記憶部23は、各フェデレートのふるまいを既定するためのシナリオデータ23aを所定の記憶領域に記憶する。特にPC3の記憶部23は、防空エリアの3次元的な地形データを示すデジタルマップとしての周辺地形データベース23bを記憶する。ユーザインタフェース部25は、キーボードやマウス(図示せず)などを備え、表示部22上のGUI(Graphical User Interface)環境を用いたユーザの操作を受け付ける。
【0013】
PC1の制御部24は、RTI.exeファイル(符号24a)と、フェデレーション・アプリケーション24bとを備える。RTI.exeファイル24aは、制御部24を、RTI環境を提供するための実行体として動作させるための制御プログラムである。フェデレーション・アプリケーション24bは、ユーザの要求する様々な仕様に応じたフェデレーションを実現するための制御プログラムである。このうちフェデレーション・アプリケーション24bはPC2およびPC3の制御部24にもロードされる。
【0014】
各PC1〜PC3におけるフェデレーション・アプリケーション24bが、通信回線100を介してRTI.exe24aの管理の下でオブジェクトのコール、生成、消滅などの処理を実施することによりフェデレーションが実現される。すなわち、フェデレーション・アプリケーション24bおよびRTI.exe24aにより、シナリオデータ23aに基づくフェデレートの自律的な判断によりフェデレーションが進行される、という環境が形成される。
【0015】
ところでPC3の制御部24は、フェデレーション・アプリケーション24bに加え、本実施形態に係わるソフトウェア的な処理機能として覆域算出処理部24cと、パラメータ演算部24dと、表示制御部24eとを備える。
覆域算出処理部24cは、防空エリアをメッシュ状に分割することにより、この防空エリア内に複数の小区画を設定する。そして、それぞれの小区画にレーダ11cを配置したと仮定した場合のレーダ11cのレーダ覆域を、各メッシュごとに算出する。その際、覆域算出処理部24cは、記憶部23に記憶される周辺地形データベース23bを参照し、3次元情報に基づくレーダ覆域を算出する。
【0016】
パラメータ演算部24dは、覆域算出処理部24cにより算出された覆域を参照し、シナリオデータ23aに基づくシミュレーションを実行して、防空指揮統制に係わる指標を各メッシュごとに算出する。指標には、例えば要撃対象の迎撃率、撃破率、あるいは味方の生存率などがある。表示制御部24eは、表示部22を介したGUIによるユーザインタフェース全般に係わる制御を担う。特に表示制御部24eは、覆域算出処理部24cにより算出された覆域を、GUIを介して各メッシュごとにユーザに通知する。また表示制御部24eは、パラメータ演算部24dにより算出された指標を対応するメッシュに対応付けてユーザに通知する。
【0017】
図3は、図2の表示部22に表示されるGUIウインドウの一例を示す模式図である。このウインドウにはメッシュ表示領域と覆域表示領域とが設けられる。図3のウインドウには、まず、第一段階、および第二段階と記されるクリッカブルボタンが表示される。第一段階ボタンがクリックされると、メッシュ領域が計算される。次に第二段階ボタンがクリックされると、図1の各装置における上位結果のメッシュ領域の組合わせで短SAMシナリオ、および侵攻シナリオによるシミュレーションが実施され、要撃結果が算出される。短SAMシナリオ、侵攻シナリオ、および、第一段階の算出結果(短SAMの位置情報(シナリオ))は、図2のPC1およびPC2により読み込まれる。これを受けて第二段階が実施される。すなわち要撃結果が算出され、その結果が比較される。
【0018】
また図3のウインドウには、A方式またはB方式のいずれかを選択指定するためのラジオボタンが表示される。A方式が選択されると、標高の高い上位エリアを任意に選択してメッシュ領域計算が実施される。B方式が選択されると、メッシュによりエリア設定した範囲の全てにつき領域計算が実施される。なおB方式はA方式に比べて演算時間が長くなる。
【0019】
図4は、図3のメッシュ表示領域の表示内容を示す模式図である。防空エリアは、図示するように矩形のメッシュ領域に分割される。各メッシュの縦横の長さは図3のGUI上にて自由に設定可能であり、その値に応じてメッシュの数も変わる。メッシュ数が過度に多くなると計算負荷が大きくなるので、縦横の長さの最低値を例えば50mなどとして設定しておくと良い。
【0020】
各メッシュは、覆域面積の算出値の比較結果に応じて色分けして階調表示される。図4ではハッチングの区別により表示色の違いを示す。例えば覆域面積最大のメッシュは図4において5つあることが分かる。なお図4においては全てのメッシュが表示された状態を示すが、レーダ覆域の広い順に規定個数のメッシュのレーダ覆域を表示するようにしても良い。
【0021】
図5は、図3の覆域表示領域の表示内容を示す模式図である。覆域表示領域には、メッシュごとの覆域の算出の過程において、算出された覆域形状が順次表示される。図5(a)、(b)はそれぞれ異なるメッシュに対する覆域形状を示し、各メッシュごとに異なる覆域形状が示される。これはレーダ11cの設置位置の違いに基づくもので、図5(a)のほうが明らかに覆域が広い。これは、図3のメッシュ表示領域の色分けに反映される。
【0022】
図6は、レーダ覆域に基づいて算出される指標の一例を示す図である。レーダ覆域は防空シミュレーションの進行を支配する要因の一つであり、覆域形状および面積の違いにより異なる結果がもたらされる。仮に、図6(a)、(b)をそれぞれ図5(a)、(b)の覆域形状に対応付けることができる。図6(a)、(b)において生存率はいずれも100%であるが、迎撃率および撃破率に関しては図6(b)のほうが良好な成績を示す。つまりレーダ覆域が広いほど防空指標も良くなるとは限らない。本実施形態ではシミュレーションによりこれらの指標を算出し、所期の指標を得ることのできるレーダ位置を求めることができる。
【0023】
図7は、本実施形態における処理の流れを示すフローチャートである。図7において、フェデレーションの実施にあたり、まずシナリオデータ23aからSAMシステムのシナリオが読み込まれる(ステップS1)。次に、レーダ装置の配置を検討するエリア、すなわち防空エリアがGUIを介してユーザによりシステムに対して設定される(ステップS2)。次に、設定された防空エリアにおけるメッシュの区割り精度が設定される(ステップS3)。
【0024】
次に、システムはこれらの設定情報に基づいて各メッシュごとにレーダ覆域を算出し、その結果がGUI上に表示される(ステップS4,S5)。そうすると、ユーザは複数のメッシュを選択し、レーダ装置の設置位置の組合わせを指定する(ステップS6)。次に、システムはシナリオデータ23aから敵方の侵攻シナリオを読み込む(ステップS7)。またユーザは、味方側の発射装置の位置をシステムに設定する(ステップS8)。これらの情報を受けて、システムはFUの設置位置ごとに防空指標を算出し、結果を表示する(ステップS9,S10)。ユーザはGUIを介してその結果を受け取り、FUの最適な配置状態を決定する(ステップS11)。
【0025】
以上述べたように本実施形態では、ユーザが設定した防空エリアをメッシュ状に複数の小領域に分割し、各小領域にレーダ11cを配置したと仮定した場合のレーダ覆域面積をデジタルマップの3次元データに基づいて算出する。その結果を、メッシュの表示色を階調的に変化させることによりGUI表示する。そして、ユーザにより選択指定されたメッシュのそれぞれにつき、シミュレーションにより防空指標を算出してその結果をユーザに提示するようにしている。このようにすることで、レーダの設置位置ごとの覆域が自動的に算出され、さらにその結果に応じた防空指標がユーザに提示される。すなわちレーダ装置の目標探知に係わる覆域が最大に取れる場所を、ユーザが設定したレーダ装置配置希望エリアから算出する。この算出結果を基にシステムの各装置の配置を幾つか設定し、シナリオデータを基に運用結果をシミュレートするようにしている。これにより、既存の技術では長時間を要するシステムの装置配置の検討を短時間で実施することが可能になり、また、デジタルマップを利用していることによりシミュレーション精度を向上させることもできる。これらのことから、防空要素の配置にかかるユーザの手間を軽減できるようにし、これにより便宜の向上を図った防空シミュレーションシステムを提供することが可能となる。
【0026】
なお本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではない。例えば設置位置の検討に係わる防空要素はレーダ装置に限らず、飛翔体発射装置やその他の要素でも良い。また本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係わるシステムがシミュレーション対象とする防空システムの一例を示すシステム構成図。
【図2】本発明に係わる防空シミュレーションシステムの一実施の形態を示すシステム図。
【図3】図2の表示部22に表示されるGUIウインドウの一例を示す模式図。
【図4】図3のメッシュ表示領域の表示内容を示す模式図。
【図5】図3の覆域表示領域の表示内容を示す模式図。
【図6】レーダ覆域に基づいて算出される指標の一例を示す図。
【図7】本発明の実施の形態において実施される処理の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0028】
PC1〜PC3…コンピュータ、11…FU、11a…ミサイル発射装置、11b…ファイヤコントロールシステム(FCS)、11c…レーダ、13…射撃ネットワーク、21…インタフェース部、22…表示部、23…記憶部、23a…シナリオデータ、23b…周辺地形データベース、24…制御部、24b…フェデレーション・アプリケーション、24a…RTI.exeファイル、24c…覆域算出処理部、24d…パラメータ演算部、24e…表示制御部、25…ユーザインタフェース部、100…通信回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ装置を備える射撃単位を防空エリア内に配置して展開される防空システムの運用を、コンピュータを用いたシミュレーションにより模倣する防空シミュレーションシステムであって、
前記コンピュータは、
前記防空エリアの3次元的な地形データを記憶する周辺地形データベースと、
前記防空エリアを複数の小区画に分割してそれぞれの小区画に前記レーダ装置を配置したと仮定した場合の当該レーダ装置のレーダ覆域を、前記複数の小区画ごとに前記地形データに基づいて算出する覆域算出手段と、
この覆域算出手段により算出されたレーダ覆域を、少なくとも一部の小区画につきユーザに通知するユーザインタフェース手段とを具備することを特徴とする防空シミュレーションシステム。
【請求項2】
前記コンピュータは、
さらに、前記覆域算出手段により算出されたレーダ覆域に基づいて、防空指揮統制に係わる指標を少なくとも一部の小区画につき算出する指標算出手段を具備し、
前記ユーザインタフェース手段は、前記指標算出手段により算出された指標を対応する小区画に対応付けてユーザに通知することを特徴とする請求項1に記載の防空シミュレーションシステム。
【請求項3】
前記ユーザインタフェース手段は、レーダ覆域の広い順に規定個数の小区画につきそのレーダ覆域を前記ユーザに通知することを特徴とする請求項1に記載の防空シミュレーションシステム。
【請求項4】
前記ユーザインタフェース手段は、
前記防空エリアを前記複数の小区画に分割した状態を模式的に表示する表示手段と、
この表示手段に表示される小区画の表示色を、前記覆域算出手段により算出されたレーダ覆域の広さに応じて区別する色変更手段とを具備することを特徴とする請求項1に記載の防空シミュレーションシステム。
【請求項5】
前記ユーザインタフェース手段は、前記覆域算出手段によるレーダ覆域の算出の途上において当該算出されたレーダ覆域の形状を表示することを特徴とする請求項1に記載の防空シミュレーションシステム。
【請求項6】
前記シミュレーションは、HLA(High Level Architecture)インタフェース仕様に規定される各サービスを実行するためのRTI(Run-Time Infrastructure)のもとで実現されることを特徴とする請求項1に記載の防空シミュレーションシステム。
【請求項7】
前記シミュレーションは、複数のコンピュータが通信回線を介して互いに接続される分散処理環境のもとで実現されることを特徴とする請求項6に記載の防空シミュレーションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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