説明

防藻性コーティング材組成物及びそれを用いた構造物

【解決手段】(A)1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する有機化合物、
(B)1分子中に少なくとも1個のイソシアネート基を有する有機化合物とメルカプト基を有するシランカップリング剤との反応物、及び
(C)防藻剤
を含有することを特徴とする防藻性コーティング材組成物。
【効果】本発明の防藻性コーティング材組成物は、セメントコンクリート、モルタル、レンガ、タイル、瓦、石材、金属、ガラスなどの各種無機系材料に対して優れた耐水性を与えると共に、耐久性のある防藻性能を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防藻性を有すると共にその防藻性が長期に亘り持続する防藻性コーティング材組成物及びそれを用いた構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防藻性組成物としては、含浸性防水剤組成物であるオルガノアルコキシシラン又はその加水分解物、或いは該シランと加水分解性シリル基を含有する他の有機ケイ素化合物との共加水分解物を主剤とし、これに防藻剤を添加する材料が知られている。
【0003】
この種の組成物は、セメントコンクリート、モルタル、ブロック、スレート、レンガ、タイル、瓦、石材、石コウなどの無機系材料の細孔に含浸され、その細孔中で基体との結合を持ちながら三次元化するために、耐久性のある防水層を形成し、従来公知のエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などを用いた有機高分子系防水材料や、メチルシリコネート水溶液系撥水材料に比べて、特に耐久性、信頼性の優れたものになるため、上記の無機系材料の防水処理剤として広く利用されてきた。
【0004】
オルガノアルコキシシラン又はそれらの誘導体をベースとする含浸性防水剤組成物の欠点である、藻類、カビ類の生成に関しては、防藻剤を添加することで対応している。耐久性のある防藻性能を与える組成物としては、分子中に加水分解性シリル基を有する防藻剤を含有する組成物が特許第2748758号公報,同第3602563号公報(特許文献1,2)に提案されているが、前者はシランと加水分解性シリル基を含有する他の有機ケイ素化合物との共加水分解物を主剤としており、後者はアクリル−シリコーン系グラフト重合体を主剤としているため、何れも、浸水浸漬後に塗膜が弱くなったり、膨潤が見られる場合が多く、耐水性に乏しいものであり、目的とされる防藻性能が十分に得られなかった。
【0005】
また、シーリング材組成物としては、本質的にビニル系重合体及び/又はポリエーテル系重合体である有機重合体に生物忌避剤、防藻剤及び防カビ剤を添加した組成物(特開2004−292615号公報:特許文献3)が提供されている。このものは、耐水性は良好であるものの、作業性が悪く実用的ではなかった。また、耐水性、作業性が改善されたコーティング材組成物としては、縮合硬化型オルガノポリシロキサンに防藻剤を添加した組成物(特開2007−211137号公報:特許文献4)が提供されている。しかし、耐水性、作業性は良好であるものの、シリコーンゴムの平滑性のため、塗膜表面が滑りやすくなることがあった。
また、尿素系防藻剤及びこれを用いた塗料は、特開平4−74104号公報(特許文献5)に提案されているが、吸水防止性、特に耐久的な吸水防止性が不十分であった。
【0006】
【特許文献1】特許第2748758号公報
【特許文献2】特許第3602563号公報
【特許文献3】特開2004−292615号公報
【特許文献4】特開2007−211137号公報
【特許文献5】特開平4−74104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐久性のある防藻性能を与えると共に、優れた作業性、耐水性を与える防藻性コーティング材組成物及び該組成物によりコーティングされた構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(A)1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する有機化合物、(B)1分子中に少なくとも1個のイソシアネート基を有する有機化合物とメルカプト基を有するシランカップリング剤との反応物、及び(C)防藻剤、特に下記式(1)で示される防藻剤、或いは下記式(2)で示される防藻剤とを含有するコーティング材組成物が、セメントコンクリート、モルタル、レンガ、タイル、瓦、石材、金属、ガラスなどに浸水或いはコーティングした場合、特に基材表面がアルカリ性となる各種無機系材料の表面にコーティングした場合でも、耐久性能に優れ、持続性のある防藻性能が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
【化1】

(但し、式中R1,R2はそれぞれ炭素数1〜4の1価炭化水素基、pは0,1又は2である。)
【0010】
従って、本発明は、下記に示す防藻性コーティング材組成物、及び該組成物の硬化物でコーティングされた構造物を提供する。
〔1〕 (A)1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する有機化合物、
(B)1分子中に少なくとも1個のイソシアネート基を有する有機化合物とメルカプト基を有するシランカップリング剤との反応物、及び
(C)防藻剤
を含有することを特徴とする防藻性コーティング材組成物。
〔2〕 (A)成分が、脂肪族(メタ)アクリレート、脂肪族(メタ)アクリレートの重合体、(メタ)アクリロイル基及び加水分解性基含有シラン、(メタ)アクリロイル基及び加水分解性基含有シランの部分加水分解縮合物から選ばれる1種又は2種以上である〔1〕記載のコーティング材組成物。
〔3〕 (A)成分が、ケイ素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有する(メタ)アクリロイル基含有有機化合物である〔2〕記載のコーティング材組成物。
〔4〕 (B)成分が、脂肪族イソシアネート、脂肪族イソシアネートの重合体、加水分解性基を有するイソシアネート基含有シラン、加水分解性基を有するイソシアネート基含有シランの部分加水分解縮合物から選ばれるイソシアネート基含有有機化合物と、メルカプト基含有シランカップリング剤との反応物である〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載のコーティング材組成物。
〔5〕 (C)成分が、尿素系防藻剤である〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載のコーティング材組成物。
〔6〕 (C)成分が、下記式(1)又は(2)で示される化合物である〔5〕記載のコーティング材組成物。
【化2】

(但し、式中R1,R2はそれぞれ炭素数1〜4の1価炭化水素基、pは0,1又は2である。)
〔7〕 更に、(D)抗菌剤を含有する〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載のコーティング材組成物。
〔8〕 更に、(E)溶媒を含有する〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載のコーティング材組成物。
〔9〕 〔1〕乃至〔8〕のいずれかに記載の防藻性コーティング材組成物の硬化物で基材表面がコーティングされた構造物。
〔10〕 〔1〕乃至〔8〕のいずれかに記載の防藻性コーティング材組成物の硬化物が基材表面に被覆され、この被膜上に縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化物が積層されてなる構造物。
〔11〕 海中構造物である〔9〕又は〔10〕記載の構造物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防藻性コーティング材組成物は、セメントコンクリート、モルタル、レンガ、タイル、瓦、石材、金属、ガラスなどの各種無機系材料に対して優れた耐水性を与えると共に、耐久性のある防藻性能を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[(A)成分]
本発明の(A)成分である1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する有機化合物は、(B)成分と共に本発明の最も重要な構成成分の一つであり、ガラス、金属、モルタル等の各種基材との間に強い接着を付与する成分である。1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する有機化合物は、分子内に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1つ含有していればよく、分子量の大小は特に制限されない。なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基であることを意味する。
【0013】
1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する有機化合物(A)の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等の脂肪族(メタ)アクリレート類、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基及びアルコキシ基等の加水分解性基含有シラン類、これら化合物の重合体、並びに上記加水分解性基含有シランやその加水分解性基含有重合体の部分加水分解縮合物等を挙げることができる。これらは1種単独で使用でき、2種以上を併用しても、共重合、共加水分解したものであってもよい。
これらの中で、(メタ)アクリロイル基を有する(共)重合体、ケイ素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有する(メタ)アクリロイル基含有有機化合物が好ましい。
【0014】
得られる重合体又は部分加水分解縮合物の重合度は特に制限されず、後述する(E)成分のような溶媒に溶解可能であれば固形状であってもよい。
【0015】
[(B)成分]
本発明の(B)成分は、1分子中に少なくとも1個のイソシアネート基を有する有機化合物と、メルカプト基を有するシランカップリング剤との反応物である。
1分子中に少なくとも1個のイソシアネート基を含有する有機化合物は、(A)成分と共にガラスや金属などの各種基材に対する密着性を良好とし、空気中の水分により被膜を形成する成分として機能する。即ち、本発明のコーティング材組成物の接着性と耐久性を向上させるものである。イソシアネート基を含有する有機化合物は、1分子中にイソシアネート基を少なくとも1つ含有していればよく、分子量の大小に特に制限されない。
【0016】
1分子中に少なくとも1個のイソシアネート基を含有する有機化合物の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネートメチルエステル等の脂肪族イソシアネート類、これらの重合体;γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシ基等の加水分解性基を有するイソシアネート基含有シラン類、これらの部分加水分解縮合物等を挙げることができる。これらは1種単独で使用でき、2種以上を併用することもできる。
【0017】
上記イソシアネート基含有有機化合物と反応させて用いるメルカプト基を有するシランカップリング剤の具体例としては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のメルカプト基含有シラン類等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は1種類のみで使用してもよいし、2種類以上混合使用してもよい。
【0018】
1分子中に少なくとも1個のイソシアネート基を有する有機化合物と、メルカプト基を有するシランカップリング剤とは、室温で混合することにより容易に反応する。この場合、(E)成分として後述する溶媒を用いてもよい。
イソシアネート基含有有機化合物とメルカプト基含有シランカップリング剤の使用量は、質量比で100:1〜2,000、特に100:5〜1,000、とりわけ100:10〜500の割合で用いることが好ましい。イソシアネート基含有有機化合物の比率が多すぎても少なすぎても耐久吸水防止性が低下する場合がある。
【0019】
得られる反応物の粘度は特に制限されず、溶媒に溶解可能な範囲で固形状であってもよい。
【0020】
本発明の組成物における(B)成分の配合割合は、(A)成分100質量部に対して10〜2,000質量部が好ましく、より好ましくは30〜1,000質量部、特に好ましくは50〜500質量部である。(B)成分の配合割合が少なすぎると基材との密着性、耐久性が不十分となることがあり、多すぎるとコーティング材組成物の保存安定性が低下することがある。
【0021】
[(C)成分]
本発明に(C)成分として用いられる防藻剤は、特に限定されるものではないが、環境安全性に優れる化合物が好ましく、尿素系防藻剤が好ましく、特にフェニル基含有尿素系防藻剤が好ましい。とりわけ下記式(1)又は(2)で示されるものであることが好ましい。
【0022】
【化3】

(但し、式中R1,R2はそれぞれ炭素数1〜4の1価炭化水素基、pは0,1又は2である。)
【0023】
上記式中、R1,R2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基等のアルケニル基などが挙げられる。
【0024】
また、本発明の(C)成分の防藻剤としては、その分子中に加水分解性シリル基を含有する防藻剤であることが好ましい。加水分解性シリル基は、セメントコンクリート、モルタル、ブロック、スレート、レンガ、タイル、瓦、石材、石コウ、金属、ガラスなどの無機系材料との親和性に優れ、更にはこれら無機系材料の金属元素と≡Si−O−M−(Mは金属元素)結合を通じて接合することもできるため、防藻剤が無機系材料に固定化されることになり、効果の持続性が飛躍的に向上する。また、この加水分解性シリル基は、(A),(B)成分に含まれる加水分解性基と縮重合するため、防藻機能が不溶性の樹脂中に保持された形になるので、本発明の組成物が更に耐久性、耐水性に優れるという有利性が得られる。
【0025】
このような分子中に加水分解性シリル基を含有する化合物としては、上述した式(2)で示されるものが例示される。
【0026】
加水分解性シリル基を含有する防藻剤は、例えば分子中に加水分解性シリル基を有する有機ケイ素化合物、好ましくは加水分解性シリル基とアミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、メタクリル基、ビニル基、メルカプト基に代表される有機反応基を有する有機ケイ素化合物と、該有機反応基と化学的に反応する官能基を有する防藻薬剤とを反応させることにより合成することができる。このような反応の具体例としては、下記一般式で表わされるイソシアネート基含有アルコキシシランと水酸基、1級又は2級アミノ基、メルカプト基、アミド基、尿素基等の活性水素を含有する防藻薬剤との反応が示される。
【0027】
【化4】

(式中、R1,R2及びpは上記と同様の意味を示し、Zは防藻薬剤残渣である。)
【0028】
(C)成分の添加量は、少なすぎると目的とする防藻性能が得られ難くなることがあり、多すぎても、もはやそれ以上の防藻性能の向上は得られず、むしろ本発明の組成物によって形成される被膜の耐久性が低下する場合があるので、{(A)+(B)}/(C)防藻剤の割合が質量比で99.9/0.1〜90/10であることが好ましく、特に99.5/0.5〜95/5であることが好ましい。
【0029】
本発明の組成物には上記(A)〜(C)成分の他に、必要に応じて他の成分を配合することができる。以下、このような任意成分について説明する。
【0030】
[(D)成分]
本発明の組成物に抗菌性を付与するために、(D)成分として抗菌剤を配合することが好ましい。抗菌剤は、抗菌、防かび作用を有するものなら特に限定されるものではないが、環境安全性に優れる化合物が好ましく、無機系、有機系のどちらを用いても良い。
【0031】
有機系としては、ジンクピリチオン、銅ピリチオン、ピリチオンナトリウム等のピリチオン系、バイナジン等が挙げられる。また、無機系としては、無機系物質(ゼオライト、アパタイト、リン酸カルシウム及びシリカ等から選ばれるもの)に銀及び/又は銀イオンを担持させるか、或いは銀系抗菌剤、チアゾール系化合物及びイミダゾール系化合物から選ばれる化合物を層状珪酸塩の層間に担持させた抗菌剤等が挙げられる。
【0032】
これらは単独又は2種以上の複数を添加しても良く、添加量は、少なすぎると目的とする抗菌性能が得られ難くなるおそれがあり、多すぎても、もはやそれ以上の抗菌性能の向上は得られず、むしろ本発明の組成物によって形成される被膜の耐久性が低下する場合があるので、{(A)+(B)}/(D)抗菌剤の割合が質量比で99.9/0.1〜90/10であることが好ましく、特に99.5/0.5〜95/5であることが好ましい。
【0033】
[(E)成分]
本発明においては、コーティング材組成物を塗布作業に適した粘度に調節するために、必要に応じて(E)成分として溶剤を配合することができる。溶剤は極性溶媒、無極性溶媒、極性溶媒と無極性溶媒の併用でもよい。無極性溶媒は(A)〜(C)成分及びその他の成分を溶解するものであればよく、その種類は特に限定されない。かかる無極性溶媒の具体例としては、炭素数5以上の飽和及び不飽和炭化水素類(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等);芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等)が挙げられる。これらの無極性溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。この無極性溶媒の配合量は、(A)成分である1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する有機化合物100質量部に対し、50〜5,000質量部の範囲が好ましく、より好ましくは100〜1,000質量部である。
【0034】
また、極性溶媒も本発明の(A)〜(C)成分及びその他の成分を溶解するものであればよく、その種類は特に限定されない。かかる極性溶媒の具体例としては、トリクロロエチレン等のハロゲン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、2−メトキシメタノール、2−ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤;ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のシリコーン系溶剤が挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
この極性溶媒の配合量は、(A)成分である1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する有機化合物100質量部に対し、1〜5,000質量部の範囲が好ましく、50〜1,000質量部がより好ましい。溶剤の配合量が少なすぎると、組成物の粘度が高くなりすぎるため作業性が低下することがあり、溶媒の配合量が多すぎると十分な接着性が得られないことがある。これらの溶媒は、コーティング材組成物を塗布作業に適した粘度に調節するために用いることができる。
無極性溶媒と極性溶媒を併用する場合は、その合計量が(A)成分である1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する有機化合物100質量部に対し、50〜5,000質量部、特に100〜1,000質量部とすることが好ましい。
【0036】
[その他の任意成分]
本発明のコーティング材組成物には、必要に応じて各種添加剤を添加することができる。このような添加物の例としては、例えば、生成する硬化被膜の引張特性を調整する物性調整剤、貯蔵安定性改良剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、オゾン劣化防止剤、滑剤、顔料などコーティング材の添加剤として公知のものが挙げられる。
【0037】
本発明のコーティング材組成物は、(A)〜(C)成分及び必要に応じてその他の成分を常法に準じて混合することにより得ることができる。(A)成分と(B)成分は混合後熟成することが好ましい。熟成は、室温で1時間程度撹拌すればよく、熟成により、より安定した特性を得ることができる。
【0038】
本発明のコーティング材組成物を適用する基材としては、例えば、鉄、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、銅などの各種金属;アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂,アルカリ処理されたフッ素樹脂などの合成樹脂材料;ガラス、セラミック、セメント、モルタル等の無機材料;変性シリコーン系、シリコーン系、ポリウレタン系、アクリルウレタン系、ポリサルファイド系、変性ポリサルファイド系、ブチルゴム系、アクリル系、SBR系、含フッ素系、イソブチレン系などのシーリング材が挙げられる。
【0039】
また、本発明の防藻性コーティング材組成物は、セメントコンクリート、モルタル、ブロック、スレート、レンガ、タイル、瓦、石材、石コウ、金属、ガラスなどの無機系材料の防水処理用に有用である。
【0040】
本発明のコーティング材組成物の使用方法は特に限定されず、通常採用されているコーティング法、例えば、刷毛塗り法、スプレーコーティング法、ワイヤバー法、ブレード法、ロールコーティング法、ディッピング法(浸漬塗り)、流し塗りなどを用いて基材にコーティングできる。本発明のコーティング材組成物は通常常温にて被膜を形成しうるが、被膜形成速度を調整するために加熱して被膜形成を行ってもよい。この場合、その塗布量は被処理物1m2当りこの組成物を1〜1,000g、特に10〜200g塗布とすることが好ましい。また、被膜の厚さは、1〜3,000μm、特に50〜1,000μmとすることが好ましい。得られる被膜は、防水性、耐久性の優れた硬化被膜となり、(C)成分の防藻剤成分により防藻性が付与されるので、防藻性の優れた防水性をもつ無機系,有機系の構造物を容易に得ることができる。
【0041】
また、本発明の組成物を用いて被処理物の表面を処理する場合、(A)〜(C)成分を含むコーティング材組成物にて基材を処理し、次いで、この処理表面上に更に縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物、好ましくは防藻剤を含有する縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物にて処理すると、基材との密着性を損なわず、塗膜の耐水性が向上するため、耐久性が優れた塗膜とすることができる。
【0042】
この場合、縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物としては、(a)ベースポリマーとして、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン、及び(b)加水分解性基を1分子中に2個以上有するシラン及び/又はその部分加水分解縮合物を含有する公知の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物を用いることができる。なお、このようなオルガノポリシロキサン組成物に防藻剤を配合する場合、防藻剤の配合量は、(a)成分100質量部に対し、0.1〜10質量部とすることが好ましい。
【0043】
上記縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、上述した防藻性コーティング材組成物と同様の方法で施工することができる。この場合、その塗布量は被処理物1m2当りこの組成物を1〜1,000g、より好ましくは10〜200g含浸処理すればよく、防水性、耐久性の優れたオルガノシロキサン塗膜となり、防藻性が付与されるので、防藻性の優れた防水性をもつ構造物を容易に得ることができる。
【実施例】
【0044】
次に、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
〔合成例1−(A)成分の合成例〕
2Lのガラス製容器内を窒素置換した後、容器内に酢酸エチル(モレキュラーシーブス3Aと共に1夜間以上放置することにより乾燥したもの)430g、メタクリル酸メチル136.8g(1.368mol)及びγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン7.2g(29.0mmol)を加えて混合し、系内を窒素バブリングし、脱酸素工程を経た後、70〜80℃に昇温した。
次いで、こうして得た溶液に、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.6g(和光純薬工業(株)製)と酢酸エチル6.0gの混合物を滴下ロートを用いて滴下し、アクリロイル基及びメタクリロイル基のラジカル重合を行った。このとき、反応系内の温度が上昇し、速やかにラジカル反応が起こっていることを確認した。
【0046】
発熱を確認後、反応液に2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.6gと酢酸エチル6.0gの混合物を滴下ロートを用いて再度滴下した後、メタクリル酸メチル205.2g(2.052mol)及びγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン10.8g(43.54mmol)の混合液を滴下ロートを用いて滴下し、アクリロイル基及びメタクリロイル基のラジカル重合を更に行った。このとき、前回同様、反応系内の温度が上昇し、速やかにラジカル反応が起こっていることを確認した。
【0047】
滴下開始1時間後、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.6gと酢酸エチル6.0gの混合物を再度滴下ロートを用いて滴下し、アクリロイル基及びメタクリロイル基のラジカル重合を行った。
滴下終了後、反応容器内を70〜80℃に保ち、約3時間熟成させた。これは、反応系内に残留するメタクリル酸メチル及びγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランをできるだけ反応させるためである。
熟成終了後、環流がおさまった後、4−メトキシフェノールとトルエンの溶解物を添加し、10〜50℃の範囲内でラジカル反応の停止反応を行った。
【0048】
得られたメタクリル酸メチル及びγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランの重合体溶液は、外観が無色から淡黄色の透明液体であり、比重(25℃、浮秤法)0.98,粘度(25℃、回転粘度法)1,500mm2/s、不揮発分(105℃/3hr)が30質量%であることを確認した。
【0049】
〔合成例2−(B)成分の合成例〕
5Lのガラス製容器内を窒素置換した後、容器内に酢酸エチル(モレキュラーシーブス3Aと共に1夜間以上放置することにより乾燥したもの)1,000g及びスズジオクトエート4gを加え混合した。
次に、上で得られた混合物に、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン1,000gを滴下ロートを用い、滴下した。滴下終了後、約30分間混合した。
次いで、こうして得られた混合物に、脂肪族ポリイソシアネートの75質量%キシレン溶液(商品名:N3200XPM、ゴードー溶剤(株)製)600gと酢酸エチル(モレキュラーシーブス3Aと共に1夜間以上放置することにより乾燥したもの)800gを予備混合して調製した溶液を滴下ロートを用いゆっくり滴下した。
こうして得られたイソシアネート基含有メルカプトシラン溶液は、外観が無色から淡黄色の透明液体であり、比重(25℃、浮秤法)0.99、粘度(25℃、オストワルド法)1.5mm2/s、不揮発分(105℃/3hr)が25質量%であることを確認した。
【0050】
〔実施例1〕
1Lのガラス製容器内を窒素置換した後、容器内にトルエン(モレキュラーシーブス3Aと共に1夜間以上放置することにより乾燥したもの)215.5g及びγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン45.7g(233.16mmol)を加え混合した。
次いで、この容器内に合成例1で得られたメタクリル酸メチル及びγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランの重合体溶液170.5g、合成例2で得られたイソシアネート基含有メルカプトシラン溶液を102.3gと脂肪族ポリイソシアネートの60質量%酢酸ブチル溶液(商品名:ディスモジュールHL、日本バイエルウレタン(株)製)148.0gを加え1時間以上混合・熟成し、更に下記防藻剤14gを加え、均一になるまで混合し、コーティング材組成物を調製した。
このコーティング材組成物は、外観が無色から淡黄色の透明液体であり、比重(25℃、浮秤法)0.98,粘度(25℃、オストワルド法)50mm2/s、不揮発分(105℃/3hr)が35質量%であったことを確認した。
【化5】

【0051】
〔実施例2〕
実施例1の防藻剤の量を28gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0052】
〔実施例3〕
実施例1の防藻剤を下記防藻剤に変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【化6】

【0053】
〔実施例4〕
実施例1の組成物に無機系抗菌剤ゼオミック(商品名:(株)シナネンゼオミック製)2.8gを追加したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0054】
〔実施例5〕
実施例1の組成物に有機/無機ハイブリッド型抗菌剤カビノン(商品名:東亞合成(株)製)2.8gを追加したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0055】
〔比較例1〕
実施例1の防藻剤を使用しないこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0056】
〔比較例2〕
1Lのガラス製容器内を窒素置換した後、容器内にトルエン(モレキュラーシーブス3Aと共に1夜間以上放置することにより乾燥したもの)215.5g及びγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン45.7g(233.16mmol)を加え混合した。
次いで、この容器内に合成例2で得られたイソシアネート基含メルカプトシラン溶液102.3gを加え1時間以上混合・熟成した。
次いで、この容器内に酢酸エチル(モレキュラーシーブス3Aと共に1夜間以上放置することにより乾燥したもの)113.6gを加え混合し、更に実施例1の防藻剤14gを加え、均一になるまで混合し、コーティング材組成物を調製した。
このコーティング材組成物は、外観が無色から淡黄色の透明液体であり、比重(25℃、浮秤法)0.97,粘度(25℃、オストワルド法)30mm2/s、不揮発分(105℃/3hr)が30質量%であったことを確認した。
【0057】
〔比較例3〕
1Lのガラス製容器内を窒素置換した後、容器内にトルエン(モレキュラーシーブス3Aと共に1夜間以上放置することにより乾燥したもの)215.5g及びγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン45.7g(233.16mmol)を加え混合した。
次いで、この容器内に合成例1で得られたメタクリル酸メチル及びγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランの重合体溶液を170.5gと脂肪族ポリイソシアネート(ディスモジュールHL)148.0gを加え1時間以上混合・熟成し、更に実施例1の防藻剤14gを加え、均一になるまで混合し、コーティング材組成物を調製した。
このコーティング材組成物は、外観が無色から淡黄色の透明液体であり、比重(25℃、浮秤法)0.98,粘度(25℃、オストワルド法)25mm2/s、不揮発分(105℃/3hr)が30質量%であったことを確認した。
【0058】
〔比較例4〕
1Lのガラス製容器内を窒素置換した後、容器内にトルエン(モレキュラーシーブス3Aと共に1夜間以上放置することにより乾燥したもの)215.5g及びγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン45.7g(233.16mmol)を加え、更に実施例1の防藻剤14gを加え、均一になるまで混合し、コーティング材組成物を調製した。
このコーティング材組成物は、外観が無色から淡黄色の透明液体であり、比重(25℃、浮秤法)0.93,粘度(25℃、オストワルド法)10mm2/s、不揮発分(105℃/3hr)が15質量%であったことを確認した。
【0059】
〔比較例5〕
1Lのガラス製容器内を窒素置換した後、容器内にトルエン(モレキュラーシーブス3Aと共に1夜間以上放置することにより乾燥したもの)215.5gを加えた。次いで、この容器内に合成例1で得られたメタクリル酸メチル及びγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランの重合体溶液170.5gと脂肪族ポリイソシアネート(ディスモジュールHL)148.0gを加え1時間以上混合・熟成し、更に実施例1の防藻剤14gを加え、均一になるまで混合し、コーティング材組成物を調製した。
このコーティング材組成物は、外観が無色から淡黄色の透明液体であり、比重(25℃、浮秤法)0.98,粘度(25℃、オストワルド法)27mm2/s、不揮発分(105℃/3hr)が33質量%であったことを確認した。
【0060】
上記の実施例及び比較例で得た組成物を、モルタルに硬化膜厚が100μmになるように塗装して試験塗板とした。このように作製した試験塗板を、23℃,50%RHの条件で7日間かけて硬化させた。
【0061】
<性能試験>
以上のように調製された試験体の藻類に対する効果試験を以下の通り行った。これらのサンプルについての防藻性能の結果を表1,2に示す。また、比較として無処理のモルタルについてのデーターも掲載した(比較例6)。
【0062】
試験方法:
殺菌シャーレに無機塩寒天培地を流し込み、培地固化後、試験体を中央部に置く。
藻類懸濁液を試験体が浸漬するまで試験体上及び培地上に撒き掛ける。
25±1℃の小型温室中で4週間培養し、藻類の汚染程度を調査する。
【0063】
前処理:
40℃温水浸漬1週間+80℃乾燥2時間
供試藻類:
緑藻類 クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)、
ホルミディウムs.p.(Hormidium s.p.)
藍藻類 アナベナ(Anabaena)
【0064】
判定基準:
− :試験片上に藻の汚染が認められない。
± :試験片上に藻の汚染が僅かに認められる。
+ :試験片上に藻の汚染が全体の1/3以下。
++ :試験片上に藻の汚染が全体の1/3を超え2/3以下。
+++ :試験片上に藻の汚染が全体の2/3を超える。
【0065】
耐久性−1:
試験片をサンシャインウェザーメーター(スガ試験機製)中に500時間、1,000時間及び2,000時間曝露させ、続いて水道水中に28日間全面浸漬させた後、防藻試験を行った。
【0066】
【表1】

【0067】
耐久性−2:
試験片を50℃の海水中に1〜8ヶ月間全面浸漬させた後、防藻試験を行った。
滑り性:
試験板の上に海水を噴霧し、任意に選ばれた5人に歩いて貰い、滑り性を評価した。
【0068】
〔比較例7〕
低粘度シリコーンRTVゴム KE−445−T(信越化学工業(株)製)100gに実施例1で使用した防藻剤4gを加え、均一になるまで混合し、コーティング材組成物を調製した。実施例1〜5、比較例1〜6と同様に試験塗板を作製した。
【0069】
【表2】

【0070】
上記結果より、本発明組成物が優れた吸水防止性能、防藻性能を有し、コーティングした上に乗っても足を滑らせて横転しないことが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する有機化合物、
(B)1分子中に少なくとも1個のイソシアネート基を有する有機化合物とメルカプト基を有するシランカップリング剤との反応物、及び
(C)防藻剤
を含有することを特徴とする防藻性コーティング材組成物。
【請求項2】
(A)成分が、脂肪族(メタ)アクリレート、脂肪族(メタ)アクリレートの重合体、(メタ)アクリロイル基及び加水分解性基含有シラン、(メタ)アクリロイル基及び加水分解性基含有シランの部分加水分解縮合物から選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載のコーティング材組成物。
【請求項3】
(A)成分が、ケイ素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有する(メタ)アクリロイル基含有有機化合物である請求項2記載のコーティング材組成物。
【請求項4】
(B)成分が、脂肪族イソシアネート、脂肪族イソシアネートの重合体、加水分解性基を有するイソシアネート基含有シラン、加水分解性基を有するイソシアネート基含有シランの部分加水分解縮合物から選ばれるイソシアネート基含有有機化合物と、メルカプト基含有シランカップリング剤との反応物である請求項1乃至3のいずれか1項記載のコーティング材組成物。
【請求項5】
(C)成分が、尿素系防藻剤である請求項1乃至4のいずれか1項記載のコーティング材組成物。
【請求項6】
(C)成分が、下記式(1)又は(2)で示される化合物である請求項5の記載のコーティング材組成物。
【化1】

(但し、式中R1,R2はそれぞれ炭素数1〜4の1価炭化水素基、pは0,1又は2である。)
【請求項7】
更に、(D)抗菌剤を含有する請求項1乃至6のいずれか1項記載のコーティング材組成物。
【請求項8】
更に、(E)溶媒を含有する請求項1乃至7のいずれか1項記載のコーティング材組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の防藻性コーティング材組成物の硬化物で基材表面がコーティングされた構造物。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の防藻性コーティング材組成物の硬化物が基材表面に被覆され、この被膜上に縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化物が積層されてなる構造物。
【請求項11】
海中構造物である請求項9又は10記載の構造物。

【公開番号】特開2009−215490(P2009−215490A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62600(P2008−62600)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】