説明

防虫剤並びにこれを用いる防虫器及び防虫方法

【課題】害虫に対して十分な防虫効力を有するとともに、人体に対して安全性が高いとともに安定性も高く、一般家庭でも手軽に使用できる防虫剤を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるシリコーン系化合物のみを有効性成分として含有する、直翅目または双翅目の害虫の幼虫または成虫に対する防虫剤。


[式(1)中、R1、R2及びR3は水素原子、m、n及びoは0〜100の自然数を示す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫剤、防虫器及び防虫方法に関し、さらに詳細には、例えばイガ、コイガ等の繊維害虫やノシメマダラメイガ等の穀物害虫等の害虫等による被害を防ぐ防虫剤、防虫器及び防虫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、様々な害虫に対する防虫剤は種々提案されており、近年ではピレスロイド系化合物等が防虫剤として知られ、広く使用されている(例えば特許文献1)。しかしながら、これらのピレスロイド系防虫剤は、安全性や安定性の点で、十分に満足のいくものではなかった。
【0003】
また、安全性の高い天然成分や食品成分が、防虫剤として使用されることも公知である。例えば、わさび、カラシ、ショウガ、トウガラシ、ニンニク等を使用した米用の防虫剤(特許文献2)や、シネオールを有効成分として含有する繊維製品の防虫剤(特許文献3)、l―カルボン又はl−カルボンを含む精油及びリナロール及び/又はアネトールを有効成分として含有する芳香性防虫剤(特許文献4)が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの防虫剤は、天然物又は食品に用いられている薬剤を使用しているため、安全性については問題ないが、害虫に対しての防虫効果が弱く、十分な防虫効力が得られないという問題を有していた。
【0005】
一方、シリコーン系化合物を防虫剤中に配合することも知られている。しかしながら、防虫剤中にシリコーン系化合物を配合する理由は、特定の揮散性薬剤成分の揮散を抑制して、防虫効果の長期持続性を目的としたものであったり(特許文献5、6)、人体用害虫忌避剤において、皮膚からの揮散防止、擦過及び汗水による流れだしを防止して、持続性と使用感を向上させたもの(特許文献7)や、特定の薬剤の変色・変質防止を目的としたもの(特許文献8)であり、これらは何れもシリコーン系化合物自身の防虫効果を利用したものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−203649号公報
【特許文献2】特開平 6−038678号公報
【特許文献3】特開昭57―062204号公報
【特許文献4】特開昭55―129204号公報
【特許文献5】特開昭53−107418号公報
【特許文献6】特開昭63−316706号公報
【特許文献7】特開平 4―244001号公報
【特許文献8】特開平 7―206615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、害虫に対して十分な防虫効力を有するとともに、人体に対して安全性が高いとともに安定性も高く、一般家庭でも手軽に使用できる防虫剤の開発が望まれており、このような防虫剤の提供が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、従来より種々の化粧品や工業製品に利用されているシリコーン系化合物の中に優れた防虫効力を有するものが存在することを見いだし本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、シリコーン系化合物を有効成分として含有することを特徴とする防虫剤を提供するものである。
【0010】
また本発明は、上記防虫剤を、常温自然蒸散、加熱蒸散、送風蒸散、薫蒸又は噴霧により環境中に放出させる構造を有する防虫器を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明防虫剤の有効成分であるシリコーン系化合物は、害虫や害虫の卵に対して優れた防虫効果を発揮するものであり、しかも従来より化粧品等に使用されているものであるため、人体に対して安全であり、安定性も高いものである。従って、本発明防虫剤は、一般家庭においても手軽に使用できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、「防虫」とは、下記の作用を含む概念である。
(1)害虫の卵の孵化を抑制する孵化抑制作用
(2)孵化した若齢幼虫を死滅させる若齢幼虫の殺虫作用
(3)害虫を忌避する忌避作用
(4)害虫を死滅させる殺虫作用
(5)害虫の増殖を抑制する増殖抑制作用
【0013】
本発明の防虫剤は、その有効成分としてシリコーン系化合物の1種又は2種以上を含有するものである。
【0014】
本発明の防虫剤において、有効成分として使用されるシリコーン系化合物は、上記した意味での防虫作用を有するものであれば特に限定されず、環境中に放出して使用する場合は揮散性が高いものが好ましく、液体又は固体状態で害虫又は害虫の卵に接触させて使用する場合は揮散性が低いものが好ましい。ここで揮散性とは、常温ないしある程度の加熱条件下で気化する性質を意味する。環境中に放出して使用する場合は、揮散性が高いもの、すなわち常圧における沸点が350℃以下のものが好ましく、300℃以下のものが更に好ましく、250℃以下のものが特に好ましい。逆に液体又は固体状態で害虫又は害虫の卵に接触させて使用する場合は、揮散性が低いもの、すなわち常圧における沸点が250℃以上のものが好ましく、300℃以上のものが更に好ましく、350℃以上のものが特に好ましい。
【0015】
また、揮発性でないシリコーン系化合物であっても、害虫又は害虫の卵にこのシリコーン系化合物を接触させることができれば防虫効果を発揮させることができ、防虫剤として使用できる。
【0016】
本発明の防虫剤において、有効成分として好ましく使用されるシリコーン系化合物としは、次の式(1)で表されるものを挙げることができる。
【化4】

[式中、R、R及びRは異なっていてもよい水素原子、フェニル基又は式(2)

−X−R' ・・・・・(2)
(式中、Xは炭素数1〜10のアルキレン基又は酸素原子を示し、R'は水素原子、フェニル基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、トリフルオロメチル基、トリメチルシリル基、−(OC−(OCOR''(a及びbは異なっていてもよい0〜10の自然数であり、R''は炭素数1〜10のアルキル基である)又は−NH−(CH−NH(cは1〜10の自然数である)を示す)を示し、m、n及びoは異なっていてもよい0〜100の自然数を示す]
【0017】
この式(1)で表されるシリコーン系化合物のうち、特に好ましいものは、下記式(5)又は式(6)で表されるものである。
【化5】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基を示し、sは0〜100の自然数を示す)
【0018】
【化6】

(式中、tは1〜100の自然数を示す)
【0019】
このうちでも、式(5)において、Rがメチル基であるものが更に好ましい。これらのものは特に限定されないが、防虫剤の調製のしやすさの点から、25℃での運動粘度が500mm/sec以下のものを用いることが好ましく、10mm/sec以下の物を用いることが特に好ましい。
【0020】
また、下記式(3)で表されるシリコーン系化合物も本発明防虫剤の有効成分として好ましい。
【化7】

[式中、Y及びZは異なっていてもよい炭素数1〜10のアルキレン基、フェニレン基又は単結合を示し、Rはメチル基又は水酸基を示し、Rはメチル基又は−(CH−NH−(CH−NH(d及びeは異なっていてもよい1〜10の自然数である)を示し、p及びqは異なっていてもよい0〜100の自然数を示す]
【0021】
更にまた、下記式(4)で表されるシリコーン系化合物も本発明防虫剤の有効成分として好ましい。
【化8】

(式中、Rはメチル基又はフェニル基を示し、Rはメチル基、フェニル基又はビニル基を示し、rは3〜20の自然数を示す)
【0022】
式(4)で表される化合物のうち、特に好ましいものは、rが4〜6の自然数である化合物である。また、R及びRが共にメチル基であるものが特に好ましい。
【0023】
上記シリコーン系化合物のうち、式(1)で表されるものの具体例としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、3,3−ジフェニルヘキサメチルポリシロキサン、ポリオキシエチレンメチルポリシロキサン共重合体、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体、ラウリルメチコンコポリオール等を挙げることができる。これらの具体的商品名としては、SF8411、SF8413、SF8416、SF8417、SF8418、SF8428、SF8419、SF8421、SF8410、SF8451、SF8452、FS1265、SH200、SH203、SH556、SH3746、SH230、SH3749、SH3771、SH8400、SH8700、SH3772M、SH3771M、SH3773M、SH3775M、SH1107(何れも東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)社製)等を挙げることができる。
【0024】
また、式(3)で表されるシリコーン系化合物の具体例としては、例えば、アミノメチルアミノプロピルシロキサンジメチルシロキサン共重合体等を挙げることができ、これらの具体的な商品名としては、SF8427、SM8704C(何れも東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)等を挙げることができる。
【0025】
更に、式(4)で表されるシリコーン系化合物の具体例としては、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、1,3,5,7―テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7,9―ペンタメチルペンタビニルシクロペンタシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7,9―ペンタメチルペンタフェニルシクロペンタシロキサン等を挙げることができ、これらの具体的な商品名としては、SH244、SH245、SH344、DC345、DC246(何れも東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)等を挙げることができる。
【0026】
上記シリコーン系化合物は、その濃度が、防虫剤全体に対して、0.1〜100質量%(以下「%」と略記する)となるように配合することが好ましく、1〜100%となるように配合することが特に好ましい。更に好ましくは、10〜100%である。
【0027】
本発明の防虫剤は、有効成分として上記シリコーン系化合物の1種又は2種以上を組み合わせて使用し、常法により製剤化することにより製造される。本発明の防虫剤において使用するシリコーン系化合物は、適用する害虫、用途、剤の形態、使用方法等によって種々選択することができる。
【0028】
また、本発明の防虫剤は、上記シリコーン系化合物を単独の有効成分として製剤化してもよいが、更に適当な物質を配合させて常法により製剤化することにより調製することが好ましい。本発明の防虫剤の剤型としては、特に限定はなく、液剤、ゲル剤、固形剤等の形態にすることができる。
【0029】
液剤の剤形である本発明の防虫剤としては、シリコーン系化合物単独若しくはこれと他の防虫成分を組み合わせた混合液の形態であっても、シリコーン系化合物単独若しくはこれに他の防虫成分を加え、適当な溶媒に溶解した形態であっても良い。
【0030】
液剤を調製するために使用できる溶媒としては、特に限定されずに従来より公知の液状担体を用いることができるが、身体に対して安全性の高い物を使用することが好ましい。具体的には、水;ヘキサン、パラフィン等の炭化水素系化合物;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール等のアルキルアルコール類;アリルアルコール等のアルケニルアルコール類;ベンジルアルコール等の芳香族環含有アルコール類;オイゲノール等のフェノール類;クロロホルム等のハロゲン化炭化水素化合物;ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系化合物;アセトン等のケトン系化合物;酢酸、オレイン酸等の脂肪酸系化合物;酢酸エステル、プロピオン酸エステル、安息香酸エステル等のエステル系化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系化合物;2−フェノキシエタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール等のグリコールエーテル系化合物;ごま油、リノール油、サラダ油等の植物油等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して用いられる。
【0031】
これらの溶媒は、防虫剤全体に対して、0.1〜99.9%となるように配合することが好ましく、1〜99%となるように配合することが特に好ましい。更に好ましくは、10〜90%である。
【0032】
この液剤の調製に当たっては、必要により界面活性剤を添加することもできる。使用できる界面活性剤としては、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン系界面活性剤等の従来公知の界面活性剤が挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
また本発明の防虫剤は、上記した液剤を適当な担体に含浸、担持させて、固形状又はシート状の固形剤とすることができる。担持させる担体としては特に限定されないが、例えば、木、紙、織布、不織布、シリカ、タルク、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、セルロースビーズ、活性炭、セラミック等を挙げることができる。
【0034】
更に本発明の防虫剤は、上記した液剤をゲル化剤でゲル化させたゲル剤とすることができる。このゲル化剤としては、従来公知のものが挙げられ、例えば、カラギーナン、ジェランガム、寒天、ゼラチン、グアーガム、ペクチン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、アルギン酸ソーダ、セルロース誘導体、ジベンジリデン−D−ソルビトール、ヒドロキシプロピル化多糖類、ステアリン酸イヌリン、アクリル酸ナトリウム等の高吸水性樹脂等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0035】
上記のようにして得られる本発明防虫剤の好ましい使用方法としては、本発明の防虫剤に有効成分として含まれるシリコーン系化合物を環境中に放出させて使用する方法が挙げられる。環境中に放出させる方法としては、液剤、固型剤、ゲル剤等の本発明防虫剤を、常温で自然に蒸散させる方法や、強制的に蒸散させる方法が挙げられる。強制的に蒸散させる方法としては、加熱による蒸散、送風による蒸散、薫蒸による蒸散等が挙げられる。また、環境中に放出させる方法として噴霧による方法等を使用しても良い。
【0036】
上記の強制的蒸散方法のうち、加熱による蒸散は、例えば、実開平2-78077号等に開示されているような、薬液ボトル内に収納した防虫剤を吸い上げ芯で吸い上げ、吸い上げ芯の上部等を加熱ヒーターで加熱することにより蒸散させるようにした加熱蒸散器や、実開平1−116072号等に開示されているようなマット状の含浸体に防虫剤を含浸し、このマットを加熱ヒーター上に載置することにより蒸散させるようにした加熱蒸散器等を用いて行うことができる。
【0037】
また、送風による蒸散は、例えば、特開平11―308955号公報等に開示されているような薬剤保持体と送風機を備え、その薬剤保持体に送風機により発生する気流を接触させることで、防虫剤を放出口から環境中に放出するファン式防虫装置等を用いて行うことができる。
【0038】
更に、燻蒸による蒸散は、例えば、実開昭54−148267等に開示されているような、上部開口の容器に、アゾジカルボンアミド等のアゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジド化合物等の有機発泡剤と防虫剤を収納した収納室を形成させ、収納室の底部を加熱手段により加熱することで発泡剤が分解して発生する窒素ガス、炭酸ガス等により、防虫剤を蒸散させる燻蒸装置等を用いて行うことができる。
【0039】
噴霧による蒸散は、噴霧器を用い、液剤をスプレーする方法や、適当な噴射剤を用いたエアゾールを使用して行うことができる。
【0040】
本発明の防虫剤は、これを、タンス、押入、クローゼット、キッチン、トイレ、居間、玄関等の空間に設置、適用することにより、有効成分であるシリコーン系化合物が上記環境中に放出され、好適に防虫することができる。
【0041】
なお、本発明の防虫剤を、効果的に環境中に放出させるために使用する防虫器としては、上記したように本発明防虫剤を常温自然蒸散、加熱蒸散、送風蒸散、薫蒸又は噴霧により環境中に放出させる構造を有する防虫器が好ましい。そのような防虫器の例としては、放出口を有する構造体、当該構造体内に設けられた防虫剤を保持する保持部、当該保持部に近接して設置された加熱ヒーター若しくは送風機を具備する防虫器が挙げられる。
【0042】
また、本発明の防虫剤の好ましい他の使用方法としては、シリコーン系化合物を、液体又は固体状態で、害虫又は害虫の卵に接触させて使用する方法が挙げられる。この場合、設置された防虫剤のシリコーン系化合物に、害虫等が接触することによって防虫効果を発揮させることができる。
【0043】
上記使用方法として具体的には、シリコーン化合物を含有する上記液剤で処理した処理製品に、害虫又は害虫の卵を接触させる方法が挙げられる。ここで処理される製品としては、繊維製品、プラスティックフィルム製品等が挙げられ、具体的には例えば、衣類、カーテン、シーツ、衣類防虫カバー等が挙げられる。また、処理の方法としては、該製品の基材にシリコーン化合物を練り込んだり、それらの基材に塗布、含浸、印刷、スプレー等により付着させる方法等が挙げられる。
【0044】
上記方法は、本発明の防虫剤の有効成分であるシリコーン系化合物が、孵化抑制又は若齢幼虫の殺虫として作用するので好ましい。
【0045】
なお本発明の防虫剤には、前記したようにシリコーン系化合物以外に、他の従来公知の防虫成分を配合しても良く、これによりさらに優れた防虫効果を発揮することができる。これらの他の防虫成分としては、例えば、エンペントリン、トランスフルスリン、アレスリン、フェノトリン、プロフルトリン、エミネンス等のピレスロイド系化合物;パラジクロロベンゼン、ナフタリン、2−フェノキシエタノール等の化合物;樟脳、トウガラシ、ワサビ、シソ、カルダモン、ナツメグ、クローブ、コリアンダー、セージ、ローズマリー、バジル、キャラウェー、タイム、ユーカリ、ローレル、シトロネラ、アニス、オレンジ、ラベンダー、精油、アリシン、カプサイシン、ペリラアルデヒド、ティートリーオイル、パインオイル等の植物抽出物等が挙げられ、これらの1種を単独で使用しても良く、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0046】
本発明の防虫剤のうち好ましいものの例の一つとしては、安全性が特に高い点から、シリコーン系化合物と上記植物抽出物を組み合わせた防虫剤を挙げることができる。また、本発明の防虫剤を液体又は固体状態で、害虫又は害虫の卵に接触させて使用したり、孵化抑制又は若齢幼虫の殺虫として作用させる場合には、シリコーン系化合物にピレスロイド系化合物等の上記他の公知の防虫成分を配合させることも好ましいが、本発明の防虫剤を環境中に放出させて使用する場合には、安全性の点からピレスロイド系化合物等を含有させず、シリコーン系化合物のみを単独の防虫有効成分とする防虫剤が好ましい。
【0047】
以上説明した本発明の防虫剤は、家庭内で発生する種々の害虫、特に昆虫に対して防虫効果を有するものである。本発明防虫剤が有効な害虫としては、特に限定はないが、その具体例としては、コクヌストモドキ、ノコギリコクヌスト、オオコクヌスト、コクゾウムシ、ココクゾウムシ、グラナリヤコクゾウムシ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマル、カツオブシムシ等の鞘翅目の害虫;ノシメコクガ、バクガ、ノシメマダラメイガ、スジコナマダラメイガ、ハチミツガ、ガイマイツヅリガ、ユメマダラメイガ、カクムネコクヌスト、イガ、コイガ等の鱗翅目の害虫;レピスマ・サッカリナ等のシミ目の害虫;コバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、レウコフェア・マデラエ、チャバネゴキブリ、アケータ・ドメスチクス等の直翅目の害虫;ホルフィクラ・アウリクラリス等のハサミムシ目の害虫;レチクリテルメス等のシロアリ目の害虫;ヒトジラミ等のシラミ目の害虫;ナンキンムシ、ロドニウス・プロリクスス、トリアトマ・インフェスタンス等の半翅目の害虫;イエヒメアリ、ラシウス・ニゲル、スズメバチ等の膜翅目の害虫;アエデス・エギプティ、ハマダラカ、アカイエカ、イエバエ、ヒメイエバエ、オオクロバエ、キンバエ、オビキンバエ、サシバエ、アブ等の双翅目の害虫;ネズミノミ、ナガノミ等のノミ目の害虫の成虫、蛹、幼虫、卵等が挙げられる。
【実施例】
【0048】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0049】
実 施 例 1
直径4cmの金属製のかごの中に、表1に示した試験物質10mgをそれぞれ含浸させた濾紙を入れ、これを内容積0.5リットルのガラス製ふたつき容器のほぼ中央に置き、その底部に産卵後1日の衣類害虫であるイガの卵20個を載せた1辺2.5cmの正方形のサージを置いた。温度25℃、相対湿度60%RHの条件下に14日間保存した後、容器の蓋を開け、孵化した卵の数を数え、孵化していた場合には、孵化直後の若齢幼虫の生死を判別した。Nを生存していた若齢幼虫の数とすると、「孵化しなかった卵の数+死んでいた若齢幼虫の数」の全体数に対する百分率(以下、「防虫率」という)は、
防虫率(%)=100×(20−N)/20
で表されるが、各試験物質についてのその値を表2に示す。なおブランクとして、試験物質を何も入れないものを用いた。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
実 施 例 2
卵を穀物害虫であるメイガの卵に代えた以外は、実施例1と同様の試験方法により、防虫率を算出した。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
実 施 例 3
1辺2.0cmの正方形のサージに、サージ質量に対して5質量%の量の試験物質を含浸させたものを、直径4.5cmのシャーレの中に入れ、その上に産卵後1日のヒメカツオブシムシの卵30個を載せた。25℃、60%RHの条件下に7日間保存した後、実施例1と同様の方法で生存していた若齢幼虫の数(N)を求め、下記の計算式を用いて防虫率を算出した。結果を表4に示す。
防虫率(%)=100×(30−N)/30
【0055】
【表4】

【0056】
実 施 例 4
上記実施例3の対象害虫の卵を、ヒメマルカツオブシムシの卵からノシメマダラメイガの卵に、試験物質の含浸量をサージ質量に対して15質量%にした以外は、実施例3と同様にして試験を行った。結果を表5に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
実 施 例 5
(アカイエカの成虫に対する殺虫試験)
アカイエカの雌成虫(羽化後3〜4日)50匹をジエチルエーテルで麻酔し厚紙上にうつぶせ状態で並べ、その胸部背板に各試料5μg滴下した。その後、供試虫を清潔な腰高シャーレに移し、シロップ綿を添えて金網蓋をし、25℃の温度下に保存した。24時間後の供試虫の生死について判別し、致死率を死亡虫数の全体数に対する百分率として算出した。結果を表6に示す。
【0059】
【表6】

【0060】
実 施 例 6
(アカイエカの幼虫に対する殺虫試験)
試料1及び4の10ppm水懸濁液を調製し、各200mlを腰高シャーレに入れた。この中に、アカイエカの終令幼虫25匹を投入し、約25℃の温度下に保存して24時間後の死亡虫数を測定した。なお、微動虫は死亡虫とし、蛹化したものは除いた。同様の試験を2連で行い、合計した死亡虫数を薬剤処理区の死亡虫数とした。薬剤を加えないものを対照として、薬剤処理区と同様に、対照区の死亡虫数を求め、下記の計算式を用いて致死率を算出した。結果を表7に示す。
致死率(%)=100×(Na−Nb)/(Nt−Nb)
Nt:各群の全虫数
Na:薬剤処理区の死亡虫数
Nb:対照区の死亡虫数
【0061】
【表7】

【0062】
実 施 例 7
(イエバエの成虫に対する殺虫試験)
試料1及び4をノルマルヘキサンで10倍に希釈して調製し、イエバエの雌成虫(羽化後3〜4日)50匹をジエチルエーテルで麻酔し厚紙上にうつぶせ状態で並べ、その胸部背板に調製した各試料を1匹につき5μg滴下した。その後、供試虫を清潔な腰高シャーレに移し、シロップ綿を添えて金網蓋をし、約25℃の温度下に保存した。24時間後の供試虫の生死について判別し、薬剤処理区の死亡虫数を求めた。なお、薬剤を含まないノルマルヘキサンのみを滴下したものを対照とし、薬剤処理区と同様にして、対照区の死亡虫数を求め、下記の計算式を用いて致死率を算出した。結果を表8に示す。
致死率(%)=100×(Na−Nb)/(Nt−Nb)
Nt:各群の全虫数
Na:薬剤処理区の死亡虫数
Nb:対照区の死亡虫数
【0063】
【表8】

【0064】
実 施 例 8
(イエバエの幼虫に対する殺虫試験)
試料1及び4の1000ppm水懸濁液を調製し、各200mlを腰高シャーレに入れた。この中に、イエバエの終令幼虫25匹を投入し、約25℃の温度下、相対湿度90%に保存して24時間後の死亡虫数を測定した。なお、微動虫は死亡虫とし、蛹化したものは除いた。同様の試験を2連で行い合計の死亡虫数を求め、これを薬剤処理区の死亡虫数とした。薬剤を加えないものを対照とし、薬剤処理区と同様にして死亡虫数を求め下記の計算式を用いて致死率を算出した。結果を表9に示す。
致死率(%)=100×(Na−Nb)/(Nt−Nb)
Nt:各群の全虫数
Na:薬剤処理区の死亡虫数
Nb:対照区の死亡虫数
【0065】
【表9】

【0066】
実 施 例 9
(チャバネゴキブリ幼虫に対する殺虫試験)
幼虫の這い上がりを防ぐ為に、内壁上から約4cmバターを塗った直径9cm、高さ6cmの腰高シャーレ内に孵化後6日以内のチャバネゴキブリの幼虫10〜20匹を静かにはたき落とし供試虫とした。10cm角のベニヤ板に試料1及び試料1の30%ジエチルエーテル溶液0.5mlを均一に塗布し50〜60分間風乾させた試験板を、試料塗布面を下にして腰高シャーレ上に置き、これを反転させて薬剤塗布面に供試虫を接触させた。その後、時間経過に伴うノックダウンの状況を観察し、供試虫の50%がノックアウトした経過時間(KT50)及び供試虫の90%がノックアウトした経過時間(KT90)を測定した。また、24時間後の致死率を算出した。なお、試験は3連で実施し、ノックアウトした経過時間は平均をとり、致死率は合計数を用いて、死亡虫数の全体数に対する百分率として算出した。結果を表10に示す。
【0067】
【表10】

【0068】
実 施 例 10
(チャバネゴキブリ成虫に対する殺虫試験)
供試虫の這い上がりを防ぐ為に、内壁上から約4cmバターを塗った直径9cm、高さ6cmの腰高シャーレ内に雌チャバネゴキブリの成虫30匹を入れ供試虫とした。10cm角のベニヤ板に試料1 0.5mlを均一に塗布した試験板を、試料塗布面を下にして腰高シャーレ上に置き、これを反転させて薬剤塗布面に供試虫を接触させた。24時間後の致死率を死亡虫数の全体数に対する百分率として算出した。結果を表11に示す。
【0069】
【表11】

【0070】
実 施 例 11
以下の製剤例1〜6のようにして、防虫剤を調製した。
【0071】
製剤例1
エアゾール剤:
以下の処方を、市販の200mlエアゾール缶に充填することによって、エアゾール剤を調製した。
有効成分:ドデカメチルシクロヘキサシロキサン 80.0ml
溶媒 :エタノール 40.0ml
噴射剤 :LPG 30.0ml
噴射剤 :イソペンタン 30.0ml
【0072】
製剤例2
固型防虫剤:
125mm×65mmmのパルプ製ろ紙に、500mgのデカメチルシクロペンタシロキサンを含浸させた。これを、通気性を有するプラスチックケースに収納して、衣類害虫用固型防虫剤を調製した。
【0073】
製剤例3
スプレー剤:
以下の処方のスプレー剤を、市販の150mlトリガー製容器に収納してスプレー剤を調製した。
有効成分:ドデカメチルシクロヘキサシロキサン 20g
溶剤 :エタノール 80g
【0074】
製剤例4
燻蒸剤:
メチルポリシロキサン10g、アゾジカルボンアミド55g及びタルク35gを混練し、造粒、乾燥して燻蒸剤を調製した。
【0075】
製剤例5
加熱蒸散剤:
メチルポリシロキサン100mgを3cm×3cmのパルプ製マットに含浸させ加熱蒸散剤を得た。このものは、加熱ヒーターに接置させることにより有効成分を蒸散する。
【0076】
製剤例6
送風蒸散剤
パルプ製の粒状含浸体(平均粒径5mm)50gに、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン50mLを含浸させ、送風蒸散剤を得た。このものは、ファン式の防虫器により有効成分を蒸散する。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の防虫剤の有効成分であるシリコーン系化合物は、害虫や害虫の卵に対して優れた防虫効果を発揮するものであり、しかも人体に対して安全であり、安定性も高いものである。従って、本発明防虫剤は、一般家庭においても手軽に使用できるものである。
【0078】
また本発明の防虫剤を環境中に有効に放出させることのできる防虫器に用いることによって高い防虫効果を得ることができ、広く防虫用途に使用されるものである。
以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるシリコーン系化合物のみを有効性成分として含有する、直翅目または双翅目の害虫の幼虫または成虫に対する防虫剤。
【化1】

[式(1)中、R、R及びRは水素原子、m、n及びoは0〜100の自然数を示す]
【請求項2】
前記式(1)で表わされるシリコーン系化合物が、メチルポリシロキサン及び/又はデカメチルテトラシロキサンである請求項1記載の防虫剤。
【請求項3】
前記式(1)で表わされるシリコーン系化合物を、環境中に放出させて使用するものである請求項1または請求項2記載の防虫剤。
【請求項4】
前記式(1)で表わされるシリコーン系化合物を、液体又は固体状態で、直翅目または双翅目の害虫の幼虫または成虫に接触させて使用するものである請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の防虫剤。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載の防虫剤を、常温自然蒸散、加熱蒸散、送風蒸散、薫蒸又は噴霧により環境中に放出させる構造を有する防虫器。
【請求項6】
放出口を有する構造体、当該構造体内に設けられた請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載の防虫剤を保持する保持部、当該保持部に近接して設置された加熱ヒーター若しくは送風機を具備してなる防虫器。
【請求項7】
請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載の防虫剤を、直翅目または双翅目の害虫の幼虫または成虫に適用させる防虫方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載の防虫剤を含有する繊維製品を、直翅目または双翅目の害虫の幼虫または成虫に接触させる防虫方法。


【公開番号】特開2012−67102(P2012−67102A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219680(P2011−219680)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【分割の表示】特願2005−181375(P2005−181375)の分割
【原出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000102544)エステー株式会社 (127)
【Fターム(参考)】