説明

防錆性および耐摩耗性が改良されたグリース組成物

【課題】チオ硫酸ソーダを含有するグリース組成物の極圧性を十分に維持しつつ、錆の発生を抑制するとともに耐摩耗性をも向上させたグリース組成物の提供。
【解決手段】(1)チオ硫酸ソーダを0.05〜30重量%含有したグリース組成物において、(A)カルシウムスルフォネートを全組成物に対し0.1〜5重量%配合したグリース組成物。
(2)さらに、(B)ベンゾトリアゾール系化合物を全組成物に対し0.1〜5重量%配合した(1)記載のグリース組成物。
(3)増ちょう剤が、ウレア系化合物、リチウム石けん、リチウム複合石けん、およびアルミニウム複合石けんから選ばれた少なくとも1種である(1)又は(2)記載のグリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオ硫酸ソーダを含有する防錆性および耐摩耗性が改良されたグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄鋼、鉄道、その他諸工業の機械装置の軸受、歯車などには、耐摩耗性や耐荷重性に優れた極圧グリースが多く使用されている。
極圧グリース組成物として一般的なものとしては、各種グリースに硫化オレフィン、硫化油脂、硫黄−リン系極圧剤、二硫化モリブデン、有機モリブデン化合物、鉛化合物、ジチオリン酸亜鉛などの添加剤を含有したものが代表的極圧グリース組成物である。
最近の技術としては、特許文献1〜3にチオ硫酸ソーダを含有した極圧性に優れるグリース組成物が開示されている。
しかしながら、これらの技術では耐摩耗性が充分でなく、またチオ硫酸ソーダが吸湿性を有することから錆を誘発する可能性があった。特に、鉄鋼設備や食品機械の軸受、歯車などは多量の水と接触した条件下で潤滑されるため錆の発生が促進され、潤滑上の問題を生じやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−131690号公報
【特許文献2】特開平11−35965号公報
【特許文献3】米国特許4,923,625号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、チオ硫酸ソーダを含有するグリース組成物の極圧性を十分に維持しつつ、錆の発生を抑制するとともに耐摩耗性をも向上させたグリース組成物を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、チオ硫酸ソーダを含有する各種グリースに添加剤を加え、防錆試験や四球試験を行い、限定した添加剤が錆の発生防止および耐摩耗性の向上に顕著な効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第一は、チオ硫酸ソーダを0.05〜30重量%含有したグリース組成物において、(A)カルシウムスルフォネートを全組成物に対し0.1〜5重量%配合したことを特徴とするグリース組成物に関する。
本発明の第二は、さらに(B)ベンゾトリアゾール系化合物を全組成物に対し0.1〜5重量%配合した請求項1記載のグリース組成物に関する。
【0006】
本発明のグリース組成物には、増ちょう剤としてウレア系化合物、リチウム石けん、リチウム複合石けんおよびアルミニウム複合石けんのいずれのものも単独または混合して使用できる。なお、ウレア系化合物としては、ウレア結合をもつ化合物のほか、ウレア結合とウレタン結合の両方を含む化合物であってもよいことは当然である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は表1の実施例および表2〜表9の比較例から明らかなように、チオ硫酸ソーダを配合したグリース組成物に前記(A)の添加剤を添加したグリース組成物は優れた極圧性を有しており、かつ錆止め性能が大幅に向上している。またチオ硫酸ソーダを配合したグリース組成物に前記(A)の添加剤と前記(B)のベンゾトリアゾール系化合物を添加したグリース組成物は優れた極圧性、防錆性に加えて優れた耐磨耗性を有する。特にウレアグリース、リチウム石けんグリースおよびリチウム複合石けんグリースにおいては耐摩耗性の向上が顕著である。また、チオ硫酸ソーダは食品添加剤として古くから認められているほか、万能の解毒剤としても知られているものであるから、人体にやさしく、ひいては地球環境にもやさしい添加物である。したがって、本発明は、環境への適合性に極めて優れたグリース組成物である。
【0008】
本発明に用いる基油としては、植物油、鉱油およびエステル油、エーテル油、炭化水素油等の合成油またはそれらの混合油を用いることができる。
【0009】
本発明に使用するチオ硫酸ソーダとしては、Na(無水)、Na・5HO(五水和物)またはそれらの混合物が挙げられる。また、チオ硫酸ソーダを含む市販の添加剤(たとえばDesilube88,Desilube Technology,Inc.USA)も使用できる。
【0010】
本発明は、チオ硫酸ソーダ中の硫黄が高温において金属中の鉄と反応し、化学結合によって生成した層がグリースの金属接触を防ぎ、また同時に上述したこれらの添加剤の相乗効果によって金属表面により強く吸着して、強固な皮膜を形成し、錆発生や摩耗を防止していると推測される。
【0011】
前記(A)のカルシウムスルフォネートおよび前記(B)のベンゾトリアゾール系化合物の添加量は、全グリース組成物に対してそれぞれ0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜3重量%である。前記(A)の添加剤が、0.1重量%未満の場合には、錆抑制効果が不十分であり、前記(B)の添加剤が、0.1重量%未満の場合には、耐摩耗性の向上効果が不十分である。またこれらの添加剤が、それぞれ5重量%を超えても効果の一層の増大はない。
【0012】
前記(B)のベンゾトリアゾール系化合物の例としては、1,2,3−ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−〔2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル〕−ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−t−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−アミルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−ウンデシル−5′−メチルフェニル)−ベンゾトリアゾールなどを挙げることができる。
【0013】
また本発明においては、アミン系やフェノール系などの酸化防止剤、硫化オレフィンや硫化油脂などの極圧添加剤、フォスファイトやフォスフェートなどの極圧/耐摩耗剤、ポリブデンやポリメタクリレートなどの増粘剤、二硫化モリブデンや窒化ホウ素などの固体潤滑剤、あるいはその他の各種添加剤を配合することができる。
【実施例】
【0014】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0015】
表1〜表9に示す処方により、基グリースに前記(A)および(B)に相当する添加剤あるいはその他の添加剤を加え、三本ロールミルで処理し、実施例と比較例のグリースを得た。基グリースの組成は、次に示すとおりである。
【0016】
I.ウレア系基グリース
100℃の動粘度が約15mm/sの精製鉱油(5400g)中でジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート(295.2g)とオクチルアミン(304.8g)を反応させ、生成したウレア系化合物を均一に分散して、ちょう度(25℃、60W)289、滴点263℃のウレア系基グリースを得た。ウレア系化合物の含有量は、10重量%である。
【0017】
II.リチウム石けん系基グリース
100℃の動粘度が約15mm/sの精製鉱油(5400g)中で12−ヒドロキシステアリン酸リチウム(600g)を溶解し、均一に分散することにより、ちょう度(25℃、60W)268、滴点199℃の性状を有するリチウム石けん系基グリースを得た。リチウム石けんの含有量は、10重量%である。
【0018】
III.リチウム複合石けん系基グリース
100℃の動粘度が約11mm/sの精製鉱油(4165g)中で12−ヒドロキシステアリン酸350gを水酸化リチウム50.5gと反応させた後、アゼライン酸120.65gを水酸化リチウム59.0gと反応させ、均一に分散処理することにより、ちょう度(25℃、60W)281、滴点259℃の性状を有するリチウム複合石けん系基グリースを得た。リチウム複合石けんの含有量は、10.4重量%である。
【0019】
IV.アルミニウム複合石けん系基グリース
100℃の動粘度が約11mm/sの精製鉱油(4272g)中に安息香酸158.22gとステアリン酸334.8gを溶解し、その後市販の環状アルミニウムオキサイドプロピレート潤滑液〔商品名:川研ファインケミカル(株)製アルゴマー〕を加えて反応を行い、生成した石けんを均一に分散処理して、ちょう度(25℃、60W)279、滴点258℃のアルミニウム複合石けん系基グリースを得た。アルミニウム複合石けんの含有量は、11重量%となるようにした。また、安息香酸(BA)とステアリン酸(FA)のモル比をBA/FA=1.1および安息香酸とステアリン酸に対するアルミニウム(Al)のモル比を(BA+FA)/Al=1.9とした。
【0020】
得られたグリースについて防錆試験(湿潤試験)、四球試験(EP試験および耐摩耗試験)を行い、防錆性、極圧性および耐摩耗性を確認した。
【0021】
湿潤試験
JIS K2220 5.17の湿潤試験に従い、規定される試験片に片面の塗布量が0.30±0.05gになるように試験片全面に試料を均一に塗布した。グリースを塗布した鋼板を、温度49℃、相対湿度95%以上の湿潤箱内につり下げ、2週間後の錆発生度をJIS K2246の等級で表示した。
等級 錆発生度%
A級 0
B級 1〜10
C級 11〜25
D級 26〜50
E級 51〜100

【0022】
EP試験
ASTM D2596に従い、四球試験によって融着荷重(N)を調べた。
試験条件 回転数 1770±60rpm
温 度 27±8℃
時 間 10±0.2s

【0023】
耐摩耗試験
ASTM D2266に従い、四球試験によってボールの摩耗痕径(mm)を測定した。
試験条件 回転数 1200±50rpm
温 度 75±1.7℃
荷 重 40±0.2Kgf(392±2N)
時 間 60±1 min

【0024】
試験結果を纏めて表1〜表9に示す。
また、表中、*1、*5〜*10は下記のとおりである。
Desilube88*1はDesilube Technology,Inc.の商品名であり、チオ硫酸ソーダを含んだ無機のS−P系添加剤である。
NA−SUL729*5はKING INDUSTRIES,INC.の商品名であり、カルシウムスルフォネートのことで、(A)相当品である。
BT−120*6は城北化学(株)の商品名であり、1,2,3−ベンゾトリアゾールのことで、(B)相当品である。
【0025】
以下は前記(A)(B)以外の添加剤である。
NA−SUL ZS*7はKING INDUSTRIES,INC.の商品名であり、ジンクスルフォネートのことである。
Dailube Z−500*8は大日本インキ化学工業(株)の商品名であり、ナフテン酸亜鉛のことである。
NA−SUL SS*9はKING INDUSTRIES,INC.の商品名であり、ナトリウムスルフォネートのことである。
NA−SUL 707*10はKING INDUSTRIES,INC.の商品名であり、リチウムスルフォネートのことである。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
【表6】

【0032】
【表7】

【0033】
【表8】

【0034】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオ硫酸ソーダを0.05〜30重量%含有したグリース組成物において、(A)カルシウムスルフォネートを全組成物に対し0.1〜5重量%配合したことを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
さらに、(B)ベンゾトリアゾール系化合物を全組成物に対し0.1〜5重量%配合した請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
増ちょう剤が、ウレア系化合物、リチウム石けん、リチウム複合石けん、およびアルミニウム複合石けんから選ばれた少なくとも1種である請求項1又は2記載のグリース組成物。

【公開番号】特開2011−12280(P2011−12280A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233708(P2010−233708)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【分割の表示】特願2000−242911(P2000−242911)の分割
【原出願日】平成12年8月10日(2000.8.10)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】