説明

防食および低摩擦塗膜

本防食塗料は、高分子樹脂に懸濁された腐食防止無機成分、または無機および有機腐食防止成分の組み合わせを含む。耐食性を有する本組成物は、高分子樹脂残部に懸濁された無機成分の塩と、腐食抑制剤としてのアルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩(PCAS)とを含む。塗料は、以下に限定されるものではないが、ナットおよびボルト、ネジ、リベットおよびスリーブ系といった航空機用ファスナー部品など航空機用ファスナーのような金属部品に塗布することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2009年3月13日に出願された米国仮特許出願第61/160,176号からの優先権に基づき、かつこの優先権を主張する。この米国仮特許出願の全体は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
背景
分野
本発明は、保護塗膜、およびそれにより被覆されたファスナーおよび他の表面に関し、たとえば一緒に取り付けられた2つの異なる金属の一方または両方を、たとえば構造部材の腐食または劣化などの腐食または劣化から保護することができるような塗膜とファスナーとに関し、たとえば金属顔料などの顔料を含む塗膜と、それで被覆されたファスナーおよび他の要素などがある。
【0003】
本塗膜は、いくつかの異なる金属および金属の組み合わせに使用するのに適している。本塗膜は、特にチタンの被覆に適している。特定の用途は、航空機および同種のもののアルミニウム構造物に繁用されるチタンファスナーに関する。本塗膜は、航空機のチタンファスナーおよびアルミニウム構造物の一方または両方を保護するのに有用である。
【背景技術】
【0004】
航空機の構造物などアルミニウムまたはアルミニウム合金構造物をチタンまたはチタン合金の高強度ファスナーで取り付けることは一般に行われている。こうしたアセンブリーに存在する電気化学的結合作用に起因するガルバニック作用により、アルミニウム元素もしくはチタン元素、またはその両方に望ましくない腐食が起こることがよくあることはよく知られている。アルミニウムは、濡れた状態でチタンと接触するとガルバニック作用により腐食作用を受ける傾向があることが知られている。さらに、これらの構造物の腐食感受性は、頻繁に遭遇する食塩水または酸性の厳しい環境により高まる。ファスナーが、たとえば航空機産業で繁用される締まり嵌めタイプである場合、ファスナー上の塗膜が圧入嵌め操作に耐えるのに十分な強靱性および付着性がなければならないことから、この問題はさらに複雑になる。こうした塗膜は、精密な寸法許容差も維持しなければならない。
【0005】
こうしたガルバニック腐食を抑制または解消するいくつかの方法がこれまでに提案されてきた。そうした方法では、ファスナーをカドミウムまたはアルミニウムでメッキする;チタンファスナーの代わりに鋼を使用する;ファスナーを有機または無機塗膜で被覆する;取り付けの過程でウエットプライマーまたはゴム系シーラントを使用する;ファスナーまたは構造部材の外面をジンククロメートタイプなどのペイントで被覆することが行われてきた。ケイ酸ナトリウムなど一部の金属のホスファート、モリブデートおよびシリケート、ならびにモリブデン酸亜鉛、リン酸亜鉛および酸化亜鉛など亜鉛塩などの化学物質も、腐食抑制剤として効果的であることが明らかになっている。こうした材料は、金属基板に電気的に非伝導性の分子層を形成したり、塗膜の透過性を低下させたり、金属基板に化学的耐性のある化合物を形成したり、あるいは塗膜材料を疎水性にしたりして、たとえば、水性腐食材料が基板に達するのを防ぐなど様々な機構により腐食を防止すると考えられる。
【0006】
これまでに使用されたいくつかの種類の塗膜および腐食抑制剤には、完全な保護が得られないこと、不十分な強靱性または付着性、および過剰な費用などの問題があった。航空機産業で最も広く使用されるもの、すなわちカドミウムメッキ、有機および無機塗膜、ならびにシーラントでも、十分に満足のいくものとはいい難かった。有機および無機系塗膜は通常、塩、湿気および同種のものに対して受動的な物理的遮断層として働くが、大きな腐食保護作用が得られない。カドミウムメッキファスナーおよびウエットインストレーション法は、アルミニウム構造物の腐食の抑制にかなりの成功を見たが、カドミウムと直接接触するチタンおよび高強度鋼に対する脆化作用など他に望ましくない問題がある。ウエットインストレーションには、アセンブリーに不必要に高いコストがかかり、生産適合性の問題などがある。
【0007】
クロメートは、ペイント、シーラントおよびコーキング材などの腐食防止塗膜の腐食抑制剤として広く使用されている。航空宇宙産業で繁用される腐食抑制剤として、腐食防止組成物の付着性を高めることもできる六価クロムのアルカリ土類塩および亜鉛塩があった。クロム酸ストロンチウムを含む塗膜の化学的腐食抑制作用の一般理論によれば、クロメートは水の存在下、ガルバニック電位が異なる2種の材料間で酸化反応を起こす。この反応により通常、たとえば、チタンなどの耐食性を有する金属合金製であるファスナーが接触するアルミニウムの表面に酸化皮膜が形成される。この酸化皮膜は、相互に作用する材料間のガルバニック腐食の伝播を受動的に阻止する。しかしながら、こうしたクロメートは、有毒であり、腐食防止塗膜にクロメートを継続的に使用することは健康および環境に危険であり得ると考えることができる。
【0008】
また、航空宇宙産業で使用される機械的にロックされた雌ネジファスナーの表面損傷の形をとる摩耗も、よく起こる問題である。こうした摩耗は、滑り固体部間で起こるのが一般的で、通常元の表面に局在化してザラザラとした突起が形成され、肉眼で識別されるものであり、塑性流動もしくは物質移動またはその両方を含むことが多い。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
短く概括すると、本発明は、航空機用ファスナーおよび他の要素ならびに表面に適用される耐食性を有する塗膜であって、クロメートを含まないが、類似のクロメート含有塗膜と同じくらい腐食の防止に効果的と考えられる塗膜を提供する。
【0010】
したがって、本発明の一態様は、耐食性を有する組成物であって、亜鉛およびカルシウムからなる群から選択されるカチオンと、シリケート、ホスファート、カルボナートおよびオキシドからなる群から選択されるアニオンとから形成される約4〜8重量%の無機成分の塩と、腐食抑制剤としての約2〜15重量%のポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩(PCAS)と、残部約10〜40重量%とを含み、塩およびPCASが残部に懸濁されている、耐食性を有する組成物を含む塗料で被覆された部品を提供する。一例では、残部は、フェノール−ホルムアルデヒド熱硬化性樹脂などの樹脂を含むものであるが、たとえば、水性高分子樹脂など他の類似の高分子樹脂が好適であることもある。残部は、二硫化モリブデン、アルミニウム、ポリプロピレンまたはこれらの組み合わせなどの顔料をさらに含んでもよい。残部はさらにポリテトラフルオロエチレンを含んでもよい。一例では、耐食性を有する組成物は塗布用に所望の塗料を得るため、揮発性溶剤キャリアに溶解して、この混合物を粘稠な液体にする一方、塗布後の乾燥を速めるように製造される。たとえば、キャリア溶剤は約40〜90重量%であってもよい。その後この組成物は、各要素および他の表面を被覆するために使用してもよい。溶剤キャリアが蒸発するか、または他の形で存在しなくなれば、塗膜の各成分(element)は各々の相対濃度で存在する。したがって、この組成物で被覆された要素または他の表面には、塗料組成物の成分が、揮発性溶剤を含まないその各々の相対濃度で存在する。
【0011】
もう1つの例では、部品は、耐食性を有する組成物であって、亜鉛およびカルシウムからなる群から選択されるカチオンと、シリケート、ホスファート、カルボナートおよびオキシドからなる群から選択されるアニオンとから形成される約4〜8重量%の無機成分の塩と、腐食抑制剤としての約2〜15重量%のPCASと、残部約10〜40重量%とから本質的になり、塩およびPCASは残部に懸濁され、溶剤約40〜90重量%にすべて溶解または分散している、耐食性を有する組成物を含む塗料で被覆されていてもよい。一例では、残部は、フェノール−ホルムアルデヒド熱硬化性樹脂などの樹脂を含むものであるが、他の高分子樹脂またはこの樹脂と他の樹脂との混合物を使用してもよい。加えて、たとえば水性高分子樹脂などの他の樹脂も好適な場合がある。残部は、二硫化モリブデン、アルミニウム、ポリプロピレンまたはこれらの組み合わせなどの顔料をさらに含んでもよい。残部はさらに、ポリテトラフルオロエチレンを含んでもよい。一例では、耐食性を有する組成物は塗布用に所望の塗料を得るため、揮発性溶剤キャリアに溶解して、この混合物を粘稠な液体にする一方、塗布後の乾燥を速めるように製造される。さらになる例では、PCASは約2〜10重量%で存在してもよく、もう1つの例では約3〜5重量%で存在してもよく、約4重量%であってもよい。その後この組成物は、各要素および他の表面を被覆するために使用してもよい。
【0012】
本明細書の例のいずれかでは、PCASのアルコキシはメトキシアルコキシでも、あるいはエトキシアルコキシでもよい。さらに、カルボン酸は、ヘプタン酸でも、オクタデカン酸でも、ドデカン酸でも、または安息香酸でもよい。一例では、PCASは、ポリ(3−アンモニウムプロピルエトキシシロキサン)ドデカン酸塩である。アルコキシおよびカルボン酸については、この組成物を塩および残部および好適な溶剤と組み合わせて、航空機のファスナーおよび他の要素を被覆する当業者に知られたやり方で腐食防止塗膜としてスプレー、浸漬または刷毛塗りにより要素または表面に塗布できるように選択すればよい。
【0013】
腐食抑制剤として塗料組成物にアルカリ性PCASを使用すると、以前のすべての塗料組成物の要件を満たすと考えられる受動的耐食性能が得られる。さらに、PCASを加えると塗料組成物の摩擦特性も改善され、本発明の組成物で被覆されたファスナーについて行った試験によれば、本発明の塗料組成物を使用すると、摩耗が全般的に著しく減少する。さらに、たとえば、リン酸亜鉛などの無機塩要素と一緒にアルカリ性PCASを腐食抑制剤として塗料組成物に使用すると、水酸化亜鉛などの金属水酸化物が生じ、これがファスナーとアルミニウム部材との接合部で活性遮断層として働く。アルカリ性PCASの有機分子は、分子の活性アミンにより表面結合を介してファスナーの方を向くことが明らかになっている。こうして、分子の疎水性の炭素骨格は、ファスナーの金属表面と反対の方を向くため、ファスナーがアルミニウムの骨組みに配置されると、この配向が水酸化亜鉛単位の形成と共に作用し、水分子の透過を阻止する疎水層を生じさせ、結果としてガルバニック腐食の作用が低下することが知られている。
【0014】
本発明による塗料組成物で被覆された航空機部品は潤滑性に優れ、比較的低摩擦であるため、本塗料組成物は特に締まり嵌めファスナー、ネジ系および他の種類のファスナー系に適している。さらに本塗料は、特にたとえばナットおよびボルト、ネジ、リベット、ならびにスリーブ系などのファスナー部品のような金属への塗布にも適合できる。本塗料はさらに、青銅またはステンレス鋼ブッシュ、ステンレス鋼ピン、座金、または摩耗、焼き付きもしくはフレッチングの問題が生じがちな部品など他の種類の部品の被覆に使用するのにも望ましい。
【0015】
本発明の上述および他の態様および利点については、本発明の特徴を例として説明する以下の発明を実施するための形態および添付図面により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明による保護塗膜により被覆されたファスナーの斜視図である。
【図2】図2は、図1の線2−2に沿った断面図である。
【図3】図3は、本発明による保護塗膜により被覆された戻り止めナットで取り付けられたボルトの側面図である。
【図4】図4は、図3の線4−4に沿った断面図である。
【図5】図5は、戻り止めナットで取り付けられたボルトと、トルク/引張試験の工作物のアセンブリーとの断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ガルバニック作用による航空機のファスナーアセンブリーの腐食は、カドミウムまたはアルミニウムなどの耐食性を有する材料によるファスナーのメッキと、腐食抑制剤としてホスファート、モリブデート、シリケートおよびクロメートを含む有機または無機塗膜によるファスナーの被覆とにより対処されてきたが、多くの場合、完全な保護、十分な強靱性および付着性が得られない。クロメートは腐食防止塗膜における腐食抑制剤の業界標準物質として使用されているが、そうしたクロメートは有毒であり得、クロメートベースの腐食防止塗膜の使用は中止することが望ましい。
【0018】
ファスナーには、図に示したように防食塗膜を塗ってもよい。たとえば、防食塗膜を実施して、典型的なリベットタイプなど航空機フレームに繁用されるタイプのファスナーに、たとえば、耐食性を有する材料の外面塗膜を施してもよい。図1および図2を参照すると、ファスナーは、上述のタイプであってもよい、すべて固体金属である軸部10および頭部11を含み、リベットの全表面が、本発明により提供される耐食性を有する保護塗膜12で被覆されている。リベットは通常、締まり嵌めタイプであるため、軸部の塗膜12の外表面の直径が、プレスまたは槌打ちなどによりそれを押し込む、シートまたは他の構造材の穴の直径より若干大きい。こうしてリベットを穴に押し込むと、塗膜に大きな摩擦応力が発生する。耐食性を有する塗膜は潤滑効果もあるため、摩耗応力を軽減することができる。
【0019】
もう1つの例では、防食塗膜を実施して、組み合わせて使用される典型的なネジナット20およびネジボルト22など航空機フレームに繁用されるタイプのファスナーに、たとえば、耐食性を有する材料の外面塗膜24を施してもよい。ただし、耐食性を有する材料の塗膜は、他の類似の航空機用ファスナー部品、たとえばネジ、スリーブ系またはリベットなどに施しても構わない。図3および図4を参照すると、ボルトは、上述のタイプであってもよい、すべて固体金属である軸部26および頭部28を含み、ボルトおよびナットの全表面が、本明細書に記載の耐食性を有する保護塗膜で被覆されている。耐食性を有する塗膜は潤滑効果もあるため、ナットおよびボルトの各ネジ山間の摩耗作用を軽減することができる。
【0020】
本明細書に記載のものなど、こうしたファスナーの被覆に有用な塗料混合物は、腐食抑制剤として約4〜8重量%の無機成分の塩と、約2〜15重量%のアルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩(PCAS)とから本質的になる耐食性を有する組成物を含む。他の例では、PCASは約2〜10重量%で存在してもよく、もう1つの例では約3〜5重量%で存在してもよく、約4重量%であってもよい。PCASの例では、アルコキシはメトキシアルコキシでも、あるいはエトキシアルコキシでもよく、カルボン酸は、ヘプタン酸でも、オクタデカン酸でも、ドデカン酸でも、または安息香酸でもよい。一例では、PCASは、本明細書に記載するような濃度で存在するポリ(3−アンモニウムプロピルエトキシシロキサン)ドデカン酸塩である。無機塩類要素は、亜鉛およびカルシウムからなる群から選択されるカチオンと、シリケート、ホスファート、カルボナートおよびオキシドからなる群から選択されるアニオンとから形成される。これらの要素は、フェノール−ホルムアルデヒド熱硬化性樹脂に懸濁する。フェノール−ホルムアルデヒド熱硬化性樹脂は、耐食性を有する組成物の残部を形成するものであり、さらに他の成分(ingredient)を含んでもよい。残部は、たとえば、二硫化モリブデン、アルミニウム、ポリプロピレンまたはこれらの組み合わせなどの顔料をさらに含んでもよい。残部は、約10〜40重量%で存在する。耐食性を有する組成物は通常、揮発性溶剤キャリア約40〜90重量%に溶解または分散させ、混合物を粘稠な液体にする一方、塗布後の乾燥を速める。
【0021】
無機成分の粒径は10ミクロン以下にすべきであり、多くのファスナーの場合と同様に塗膜厚は0.0001インチ未満に制御しなければならない。顔料については、標準的な粉砕法に従い塗料に粉砕する必要がある。
【0022】
上記の各実施形態では、腐食防止成分をフェノール−ホルムアルデヒド熱硬化性樹脂に懸濁し、これを揮発性溶剤キャリアに溶解させ、混合物を粘稠な液体にする一方、塗布後の乾燥を速める。この混合物は、標準的なペイント混合法に従い十分かつ均一に混合すべきである。溶剤については、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールもしくはイソプロピルアルコールなどの低分子量アルキルアルコールでも、またはメチルエチルケトンなどの類似の溶剤でも、またはキシレンもしくはトルエンなどの揮発性溶剤範囲の石油留分でも、またはこれらの溶剤の2種以上の混合物でもよい。多くの用途では、塗料にポリテトラフルオロエチレンを含ませてもよい。
【0023】
樹脂と溶剤との混合物に対する腐食防止成分の比率は、約6〜23重量パーセントの範囲としてもよい。ポリテトラフルオロエチレンを使用する場合、比率は樹脂と溶剤との混合物の約1〜10重量パーセントの範囲としてもよい。使用する溶剤キャリアの量は、溶剤キャリアをスプレーで塗布するか、または浸漬もしくは刷毛塗りなどで塗布するかにも多少よるが、所望の程度の流動性が得られるよう十分な量にすべきである。
【0024】
本塗料を塗布するのに好ましいやり方はスプレーであるが、代わりに浸漬または刷毛塗りのいずれかを用いてもよい。キャリア溶剤は揮発性であるため、すぐに乾燥し、硬化する。塗膜はファスナーに塗布後焼き付けられる。本塗料をファスナーに塗布する際、ファスナー上で硬化した塗膜の厚さは0.0002〜0.0005インチに保持され得ることが明らかになっている。この厚さの制御は重要であり、特に、ネジファスナーの場合に適切なネジの嵌合性を確保するため望ましく、さらに航空機用の高品質締まり嵌めまたは非締まり嵌めタイプのファスナーにも望ましいものである。締まり嵌めファスナーは一般に、その直径をこの構造部材により固定される穴の直径よりやや大きくして製造される。こうしたファスナー部品をファスナー部品の穴に押し込むと、通常被覆されたファスナー部品の表面に擦過が生じ、ファスナー部品を押し込む穴および周囲の工作物の構造物の表面が損傷する恐れがある。本発明に従い塗布される耐食性を有する塗膜は、ファスナー部品を潤滑させ、塗膜の劣化を抑えてファスナー部品に対する塗膜の付着性の維持に役立つことがあることが明らかになっている。
【0025】
表面上で乾燥させる塗膜は、ファスナーエレメント、たとえばナットおよび/またはボルト、リベット、または同種のものなどの金属表面で乾燥させても、または他の金属要素または構造物の金属表面で乾燥させてもよい。乾燥した塗膜または乾燥した薄膜は、PCASの比率が乾燥薄膜の5〜30重量%であってもよい。もう1つの例では、それは10〜20重量%で存在し、もう1つの例では16重量%で存在する。塗膜は、約15〜30重量%の無機成分の塩を含んでもよく、残りは残部である。残部は、たとえば塗膜の約55〜80重量%であってもよい。残部は、本明細書に記載の成分の組み合わせのいずれかからなっていてもよい。
【実施例】
【0026】
腐食試験の結果
様々な腐食抑制剤(1−クロム酸ストロンチウム、2−BTTSA+BTTSAアミン+塩混合物、ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩(PCAS)+塩混合物)を含む3種の耐食性を有する塗膜を使用してチタンファスナーを被覆し、これをアルミニウム合金ブロックに挿入してアセンブリーを形成した。各アセンブリーを500時間中性塩スプレー試験(5%塩化ナトリウム溶液)に曝露した。5%塩化ナトリウム溶液は、ASTMB117規格に準拠し、塩スプレーチャンバーを用いて95°Fでアセンブリーにスプレーする。500時間の曝露後、アセンブリーを分解し、ファスナーと接触したアルミニウム表面について腐食作用(ピット)を調査した。結果を下記の表1に示す:
【0027】
【表1】

新しい防食アルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩の腐食抑制剤を加えたところ、前のクロメートを含まない塗膜と同等の耐食性能を維持する能力が可能になった。
【0028】
トルク/引張試験の結果
トルク/引張試験は、ネジファスナーアセンブリーの摩擦性能を評価するためにファスナー産業で繁用される。この試験に使用した装置を図5に示す。
【0029】
戻り止めナットで取り付けたボルトについてロッキングトルクおよび摩擦係数を測定した。この試験は、アセンブリーの張力を測定できるロードセル(32)にボルトを固定し、トルクの測定が可能な装置を用いてナットに回転を与えるものである。この装置を用いて、セル上のナットに接触させる前に反作用トルクを測定する。反作用トルクの最大値をロッキングトルクという。
【0030】
ナットがアセンブリーに接触すると、目標の取り付けトルクが適用され、ボルトの張力が記録される。こうして、これら2つの測定値によりナットとボルト間の摩擦係数を判定することができる。
【0031】
以下の表2の結果に示すように様々な腐食抑制剤を含む塗膜を試験した:
【0032】
【表2】

腐食抑制剤としてPCASを含む本発明の塗料組成物から形成された新しい防食塗膜をナットおよびボルトに塗布すると、ロッキングトルクに関して、前の塗料配合物よりも優れた耐摩耗性を示すことが明らかになった。各要素に使用する場合、PCASを塗布すると摩擦係数が低下し、さらに、たとえばナットおよびボルトなど互いに接触する隣接表面に使用しても同様であると見ることができる。ナットおよびボルトなど相互に関連して動く部品の動摩擦係数が低下する。表面間の摩擦係数の低下にはカルボン酸鎖が寄与している。摩擦係数の低下は、摩耗の減少に貢献する。
【0033】
腐食抑制剤としてPCASを含む本発明の防食塗料組成物は、相互に作用する材料間のガルバニック腐食の伝播を阻止する従来の腐食に対する受動的遮断層となるだけでなく、本発明の防食塗料組成物に使用されるアルカリ性PCASの有機分子は、分子の活性アミンにより表面結合を介してファスナーの方を向くため、分子の疎水性の炭素骨格は、ファスナーの金属表面と反対の方を向くことが明らかになっているため、ファスナーとアルミニウム部材との接合部で活性遮断層にもなることを理解されたい。ファスナーがアルミニウムの骨組みに配置されると、この配向が水酸化亜鉛単位の形成と共に作用し、水分子の透過を阻止する疎水層を生じさせ、結果としてガルバニック腐食の作用が低下する。加えて、アルカリ性PCASは、樹脂(たとえばフェノール−ホルムアルデヒド樹脂)とほとんど反応しないか、まったく反応しないようになっており、アルカリ性PCASを使用すると、安定性が向上し、製品の有効期間が延長される。
【0034】
本明細書に記載の塗膜について、特にファスナーの塗膜としての使用を参照しながら説明してきたが、塗膜は、ファスナーに限定されるものではなく、高温工具鋼または合金鋼製の他の部品など一般に腐食保護および潤滑性が求められる他の表面に塗布してもよい。同様に、塗膜は必ずしもファスナーに通常塗布する塗膜ほど薄く塗布する必要はなく、他の用途ではより厚い塗膜を塗布してもよい。
【0035】
本発明の特定の形態について図示して説明してきたが、本発明の精神および範囲を逸脱しない範囲で様々な修正がなし得ることが前述から明らかであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐食性を有する組成物を含む外面防食塗膜を施した部品における改良であって、塗布される該耐食性を有する組成物は:
亜鉛およびカルシウムからなる群から選択されるカチオンと、シリケート、ホスファート、カルボナートおよびオキシドからなる群から選択されるアニオンとから形成される約4〜8重量%の無機成分の塩;
腐食抑制剤としての約2〜15重量%のアルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩;
を含み、
該無機成分の塩および該アルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩は高分子樹脂を含む残部に懸濁され、得られた塗膜は乾燥され、焼き付けられる
改良。
【請求項2】
前記残部はポリテトラフルオロエチレンをさらに含む、請求項1に記載の改良。
【請求項3】
前記残部は二硫化モリブデン、アルミニウム、ポリプロピレンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される顔料をさらに含む、請求項1に記載の改良。
【請求項4】
前記耐食性を有する組成物は揮発性溶剤キャリアに溶解される、請求項1に記載の改良。
【請求項5】
前記無機成分の塩は粒径が10ミクロン以下である、請求項1に記載の改良。
【請求項6】
前記耐食性を有する組成物は揮発性溶剤キャリアに溶解され、前記部品の前記外面塗膜は乾燥され、焼き付けられる、請求項1に記載の改良。
【請求項7】
前記部品はファスナーを含む、請求項1に記載の改良。
【請求項8】
前記高分子樹脂はフェノール−ホルムアルデヒド熱硬化性樹脂を含む、請求項1に記載の改良。
【請求項9】
前記高分子樹脂は水性高分子樹脂を含む、請求項1に記載の改良。
【請求項10】
防食塗膜を締結系の部品に提供する方法であって:
亜鉛およびカルシウムからなる群から選択されるカチオンと、シリケート、ホスファート、カルボナートおよびオキシドからなる群から選択されるアニオンとから形成される約4〜8重量%の無機成分の塩;および腐食抑制剤としての約2〜15重量%のアルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩を含む耐食性を有する塗膜を提供するステップ;
該無機成分の塩および該ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩を、高分子樹脂を含む残部に懸濁して防食塗膜を形成するステップ;
該防食塗膜を部品に塗布するステップ;ならびに
該部品上の該防食塗膜の乾燥および焼き付けを行うステップ
を含む、方法。
【請求項11】
前記残部への懸濁はポリテトラフルオロエチレンを含む該残部への懸濁をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記残部への懸濁は二硫化モリブデン、アルミニウム、ポリプロピレンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される顔料を含む該残部への懸濁をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
塗布する前に揮発性溶剤キャリアに溶解させた前記耐食性を有する組成物を提供することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記無機成分の塩を提供することは10ミクロン以下の粒径で該無機成分の塩を提供することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記残部の前記懸濁液は揮発性溶剤キャリアに溶解され、前記溶液は前記部品に塗布され、該部品の前記塗膜は乾燥され、焼き付けられる、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記防食塗膜の部品への塗布は前記塗膜のファスナーへの塗布を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記高分子樹脂を含む残部への前記無機成分の塩および前記ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩の懸濁は、フェノール−ホルムアルデヒド熱硬化性樹脂を含む残部への該無機成分の塩および該アルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩の懸濁を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
高分子樹脂を含む残部への前記無機成分の塩および前記アルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩の懸濁は、水性高分子樹脂を含む残部への該無機成分の塩および該アルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩の懸濁を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
耐食性を有する塗膜を提供することは約3〜5重量%のアルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩を提供することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項20】
耐食性を有する塗膜を提供することはアルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩を提供することを含み、該アルコキシはメトキシ−およびエトキシ−の群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
耐食性を有する塗膜を提供することはアルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩を提供することを含み、該カルボン酸はヘプタン酸、オクタデカン酸、ドデカン酸または安息香酸の群から選択される、請求項19または請求項20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
耐食性を有する塗膜を提供することは約2〜15重量%のポリ(3−アンモニウムプロピルエトキシシロキサン)ドデカン酸塩を提供することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項23】
耐食性を有する塗膜を提供することは約3〜5重量%のポリ(3−アンモニウムプロピルエトキシシロキサン)ドデカン酸塩を提供することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
耐食性を有する組成物であって:該組成物は、
亜鉛およびカルシウムからなる群から選択されるカチオンと、シリケート、ホスファート、カルボナートおよびオキシドからなる群から選択されるアニオンとから形成される4〜8重量%の無機成分の塩;
腐食抑制剤としての2〜15重量%のアルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩;ならびに
40〜90%のキャリア溶剤;
から本質的になり
該無機成分の塩および該アルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩は、10〜40重量%のポリテトラフルオロエチレンを有する高分子樹脂、二硫化モリブデン、アルミニウム、ポリプロピレンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される顔料の残部に懸濁される
組成物。
【請求項25】
前記キャリア溶剤は揮発性溶剤キャリアである、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記キャリア溶剤は低分子量分子量アルコールまたはメチルエチルケトンである、請求項24に記載の組成物。
【請求項27】
前記無機成分の塩は粒径が10ミクロン以下である、請求項24に記載の組成物。
【請求項28】
前記高分子樹脂はフェノール−ホルムアルデヒド熱硬化性樹脂を含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項29】
前記高分子樹脂は水性高分子樹脂を含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項30】
被覆された金属ファスナーエレメントであって:
表面を有する金属ファスナーエレメント;
該金属エレメントの該表面の塗膜であって、該塗膜は亜鉛およびカルシウムからなる群から選択されるカチオンと、シリケート、ホスファート、カルボナートおよびオキシドからなる群から選択されるアニオンとから形成される約15〜30重量%の無機成分の塩と、腐食抑制剤としての5〜30重量%のアルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩と、高分子樹脂を含む55〜80重量%の残部中の該無機成分の塩および該アルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩とを含む、塗膜
を含む、金属ファスナーエレメント。
【請求項31】
前記ファスナーエレメントはナットおよびボルトのいずれか一方である、請求項30に記載のエレメント。
【請求項32】
前記アルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩は10〜20重量%で存在する、請求項30に記載のエレメント。
【請求項33】
前記アルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩は5〜30重量%のポリ(3−アンモニウムプロピルエトキシシロキサン)ドデカン酸塩である、請求項30に記載のエレメント。
【請求項34】
ポリテトラフルオロエチレンをさらに含む、請求項30に記載のエレメント。
【請求項35】
二硫化モリブデン、アルミニウム、ポリプロピレンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される顔料をさらに含む、請求項30に記載のエレメント。
【請求項36】
亜鉛およびカルシウムからなる群から選択されるカチオンと、シリケート、ホスファート、カルボナートおよびオキシドからなる群から選択されるアニオンとから形成される約15〜30重量%の無機成分の塩と、腐食抑制剤としての5〜30重量%のアルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩と、高分子樹脂を含む55〜80重量%の残部中の該無機成分の塩および該アルカリ性ポリ(3−アンモニウムプロピルアルコキシシロキサン)カルボン酸塩とを含む塗膜を含む無料(complimentary)のファスナーエレメントに係合された、請求項30に記載のエレメント。
【請求項37】
本明細書に記載するような塗膜で被覆された、金属表面。
【請求項38】
本明細書に記載するような塗膜で被覆された、ナットおよびボルト。
【請求項39】
本明細書に記載するような組成物を含む塗膜を塗布することにより金属表面を保護する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−520382(P2012−520382A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−554262(P2011−554262)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/027251
【国際公開番号】WO2010/105241
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(508353064)ハイ−シアー コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】