説明

除加湿装置および除加湿設備

【課題】装置全体は特段の複雑化をせずに温度調整および湿度調整をより正確に行い、かつ、除湿も行い得る除加湿装置を提供する。
【解決手段】吸気口52から分岐部53に至る導入流路部54と、分岐部53から合流部55に至る無加湿流路部67と、分岐部53から合流部55に至る加湿流路部56と、合流部55から排気口57に至る排気流路部58と、導入流路部54内に設けられた冷却部59および加熱部60と、加湿流路部56内に設けられた加湿器62と、分岐部53または加湿流路部56または無加湿流路部67または合流部55のいずれかに設けられた開閉器63とを有する除加湿装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、恒温恒湿室等に好適に用いられる除加湿装置に関するものである。より詳しくは、加湿対象室内で測定された温度や湿度の情報に基づいて当該室内に供給する空気の温度と湿度の調整を行う除加湿装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、加湿の方法として(1)蒸気(スチーム)式、(2)噴霧式、(3)気化式、(4)透湿膜式などの方式が知られている。特許文献1および2には、透湿膜式の加湿エレメントを使って室内の空気を加湿する方法が記載されている。
【0003】
特許文献3には、噴霧式の加湿器を使い一定時間毎に霧を噴出する方法が記載されている。この方法では、空間に直接噴霧するため噴霧後すぐに室内の湿度を上昇させることができる。しかし、どちらかといえば応答性が良すぎて、噴霧の前後で湿度が急変してしまう。また霧を出すために、壁や窓などに結露を起こすおそれもある。また霧を噴き出した瞬間に気化熱で室内空気が冷却され、室内温度の変動要因になる。また噴霧用に上水道水を使用した場合、水に含まれるスケール分がパーティクル発生の要因となるために上水道水は使用できず、純水を使用する必要がある。
【0004】
霧による冷却が懸念される場合はスチームパン式(蒸気式)加湿器などが用いられて室内加湿されることもある。しかし蒸気式加湿では水を沸かすためのヒーターのエネルギーが必要であり、また湯が沸くまでは加湿が始まらない。またヒーターを切っても湯がすぐには冷めないので、しばらくは蒸気の放出が続いてしまう。そのため、細やかな湿度制御が困難であるという欠点がある。また上水道水を使用した場合、水に含まれるスケール分のパン上への析出を防ぐ目的で、定期的にスケールをブローする必要がある。スケールのブローには多量の水を必要とし、エネルギーの浪費にもつながる。
【0005】
特許文献4には、加湿量の調整を行うために2つの通気路を設けた方法について記載されている。以下、特許文献4の方法についてやや詳しく説明する。本明細書の図4は、特許文献4に記載された図1であり、特許文献4の気化式加湿器の構成を示したブロック図である。特許文献4の気化式加湿器10は、加湿流路12と非加湿流路28を備えている。加湿流路12を流れる空気量は、ダンパー18によって調節される。また、加湿流路12の上流側には、冷熱コイル20が設けられ、この冷熱コイル20に供給される冷熱媒体によって、加湿流路12を流れる空気(外気)が冷却または加熱される。
【0006】
冷熱コイル20に対して加湿流路12の下流側には、温度計22が設けられており、この温度計22によって測定された空気の温度に基づいて冷熱コイル20に供給される冷熱媒体の量または温度が制御されている。この温度計22に対して加湿流路12の下流側には加湿器36が設けられ、また、加湿器36よりもさらに下流側には、露点計26が設けられている。
【0007】
一方、非加湿流路28を流れる加湿されていない外気が加湿流路12に供給されるように構成されている。非加湿流路28には空気量を調整するダンパー34が設けられている。
【0008】
特許文献4の気化式加湿器10は、加湿器36によって加湿された空気の加湿流路12と、この加湿流路12と分岐され加湿されていない空気の非加湿流路28とを備えており、非加湿流路28を流れる空気を、加湿流路12を流れる空気に混合させている。混合割合は、露点計26で検出された露点に基づき、指示調節計42がダンパー18、34の開度を比例制御し、所望の露点の空気を得るというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−097831号公報
【特許文献2】特開2003−176939号公報
【特許文献3】特開2000−089831号公報
【特許文献4】特開2009−210167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献4の気化式加湿器では、非加湿流路28を流れる空気は、温度調整も湿度調整もされない外気がそのまま通過していくものであり、加湿流路12と合流した後の空気は、温度や湿度の正確なコントロールを行いにくいものである。また、加湿流路12に設けられた加湿器36の運転により装置全体を加湿装置として機能させることは可能であるが、加湿器36を停止させたとしても除湿機能を有しない。また、雨期等には、加湿装置に導入される空気が元々湿度の高い状態であるので、過加湿となりやすい。さらに、露点計26で検出された露点に基づきダンパー18、34の開度を制御しているという意味では、特許文献4の気化式加湿器は、いわば露点制御装置であり湿度自体を厳密に調整し得るものではない。
【0011】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであって、装置全体は特段の複雑化をせずに温度調整および湿度調整をより安定して行い、かつ、除湿も行い得る除加湿装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一般的に加湿装置の役割は湿度や温度の目標値に調整することであるため、既存の加湿器や加熱器を適宜組み合わせて使用すれば単純に構成できるようにもみえる。しかし実際に加湿を行う際には、加湿の方式によっては強制的な加熱があり、また、加湿の方式にかかわらず気化熱による冷却が起こり、さらには絶えず外部環境の影響を受けるため、湿度と温度を安定的に制御することは意外と難しいものである。そのため簡単な装置構成によって所望湿度・所望温度の空気を安定して供給できる除加湿装置は今のところ実現していない。本発明者らは、加湿器や加熱器の配置を種々変更して試行錯誤を行う中で、除加湿装置に加湿流路部と無加湿流路部の少なくとも2本の流路を設けた上で、2本の流路の分岐部よりも上流側に冷却部と加熱部を設けた場合に、湿度と温度を最も安定的に制御し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、上記課題を解決し得た本発明の除加湿装置は、
吸気口から分岐部に至る導入流路部と、前記分岐部から合流部に至る加湿流路部と、前記分岐部から前記合流部に至る無加湿流路部と、前記合流部から排気口に至る排気流路部と、前記導入流路部内に設けられた冷却部および加熱部と、前記加湿流路部内に設けられた加湿器と、前記分岐部または前記加湿流路部または前記無加湿流路部または前記合流部のいずれかに設けられた開閉器とを有する除加湿装置である。
【0014】
上記除加湿装置において、前記加湿器が、透湿膜を備えた加湿器であることが望ましい。
【0015】
上記除加湿装置において、前記透湿膜を多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜とすることが望ましい。
【0016】
上記除加湿装置において、前記加湿器は、前記透湿膜で画される空間と、該空間内に液体を連続供給する機構を有することが望ましい。
【0017】
上記除加湿装置において、前記加湿器に難燃性樹脂を用いることが望ましい。
【0018】
上記除加湿装置において、前記導入流路部に外気取り入れ口を備えることが望ましい。
【0019】
上記除加湿装置において、前記導入流路部に送風機が設けられる態様を実施することができる。
【0020】
上記除加湿装置において、前記排気流路部に送風機が設けられる態様を実施することができる。
【0021】
上記除加湿装置において、前記開閉器が複数設けられる態様を実施することができる。
【0022】
上記課題を解決し得た本発明の除加湿設備は、
閉空間に上記除加湿装置を備えた除加湿設備であって、前記閉空間内に温度計および湿度計が設けられており、前記温度計により測定された温度情報が前記加熱部および/または冷却部にフィードバックされており、前記湿度計により測定された湿度情報が前記開閉器にフィードバックされているものである。
【0023】
上記除加湿設備において、目標温度および/または目標湿度を記憶する情報記憶手段をさらに備えており、前記温度計により測定された温度と前記目標温度との差、および/または前記湿度計により測定された湿度と前記目標湿度との差が小さくなるように前記加熱部および/または冷却部と、前記開閉器を制御するものとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、装置全体は特段複雑化せずに温度調整および湿度調整をより正確かつ安定的に行い、さらに除湿も行い得るものである。より詳細には、本発明では乾燥空気と加湿空気との混合により最終的な湿度を調整するため、湿度の調整可能範囲が広い。また、吸気口から分岐部に至る導入流路部内に冷却部および加熱部を備えているため、吸気口から流入する空気を一旦除湿することができ、加湿流路部内の加湿器による過加湿を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態における除加湿設備の模式図である。
【図2】参考例である除加湿装置の模式図である。
【図3】参考例である除加湿装置および本発明の実施例における除加湿装置の電力消費量を示すグラフである。
【図4】従来の気化式加湿器の構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を用いて本発明の除加湿装置および除加湿設備について説明する。図1は、本発明の実施の形態における除加湿設備の模式図である。図1において、閉空間を構成する部屋51に除加湿装置を取り付けたものが除加湿設備である。
【0027】
1.除加湿装置の概要
除加湿装置の機能は、吸気口52から部屋51内の空気を取り込んで、湿度と温度を調整した空気を排気口57から部屋51内に戻すものである。除加湿装置は、吸気口52から分岐部53に至る導入流路部54と、分岐部53から合流部55に至る加湿流路部56と、分岐部53から合流部55に至る無加湿流路部67と、合流部55から排気口57に至る排気流路部58とを有している。
【0028】
導入流路部54内には、冷却部59および加熱部60が設けられている。除加湿装置に導入された空気を導入流路部54内で冷却して加熱することにより、除湿と温度調節を行うことができる。加湿流路部56内には加湿器62が設けられている。分岐部53、加湿流路部56、無加湿流路部67、または合流部55のいずれかに少なくとも1カ所には、開閉器63が設けられている。図1の例では、合流部55に1つの開閉器63が設けられている。
【0029】
2.除加湿装置の構成要素
(冷却部)
冷却部59は、吸気口52から取り込まれた空気を冷却することにより除湿する機能を有するものである。冷却部59は、例えば冷却コイル或いは冷却フィンに冷媒を流すことにより付近を通過する空気の温度を低下させるものである。空気中に含まれる水分は露点以下の温度に冷却されることにより冷却コイル或いは冷却フィンの表面に結露する。これにより空気中に含まれる水分の絶対量を減少させる。
【0030】
(加熱部)
加熱部60は、冷却部59により冷却され除湿された導入流路部54内の気体の温度を再度上昇させるものである。導入流路部54内の空気の温度を上げることにより加湿器62に導入される空気の温度が上昇するため、加湿効率が向上する。また、吸気口52から取り込まれた空気の温度を下げることなく排気口57から放出することができる。加熱方式としては、コイル或いはフィン等の熱交換器に不凍液等の熱媒体を通すことにより空気を温める方式、電熱線により空気を温める方式等種々の方式をとることができる。
【0031】
(加湿流路部)
加湿流路部56内には、少なくとも1つの加湿器62が設けられている。加湿器62の加湿方式としては、(1)ヒーターで水を加熱し、これにより発生する蒸気で加湿する蒸気(スチーム)式、(2)超音波振動等により水を霧化させて送風機を用いて霧を拡散させる噴霧式、(3)加湿部材に滴下した水に風を当てて気化させる気化式、(4)透湿膜で囲われた容器内に水を保持し透湿膜を蒸気の状態の水を透過させる透湿膜式などの各方式を用いることができる。この中でも噴霧式、気化式、および透湿膜式の方式は、省エネルギー性に優れるほか、湿度を上昇させる制御に対しての応答性に優れている。さらに気化式および透湿膜式は空気を均質に加湿できる点で優れている。さらに透湿膜式は、気化式のように風により水を吹き飛ばすことがないため空気中に不純物が放散されにくい点で好ましい。したがって、加湿用の水として純水を用いる必要がなく通常の上水道水を用いることができる。
【0032】
透湿膜式の加湿器を構成する部材(加湿エレメント)について詳しく説明する。透湿膜式加湿器には1つ、又は直列或いは並列に並べられた複数の加湿エレメントにより構成される。加湿流路部56を流れる空気の風量が大きい場合には加湿エレメントを並列に並べることにより圧力損失を下げることができるのでより高い加湿能力を確保することができる。一方、設置スペースが小さい場合は空気の流れ方向に対して加湿エレメントを直列に並べても良い。
【0033】
加湿エレメントは、例えば樹脂製の薄板を中抜きにした形状の枠体に、該中抜き部分を覆うように多孔質シート(気体は透過するが液体は透過しないもの)を固定した部材が二枚一組で重ね合わせられたものである。この枠体と多孔質シートで囲まれた空間には水が保持されており、水から発生する水蒸気が多孔質シートを通り抜けて空気中に放散されるものである。加湿エレメントは空気の流れに対して多孔質シートが垂直になるように設置する。
【0034】
加湿エレメントの給水方法別の種類としては、給水口のみを有したデッドエンドタイプと、給水口と排水口を有することにより水の循環が可能な通水タイプのものに分けられる。
【0035】
デッドエンドタイプの加湿エレメントを使用した場合は、一定時間毎に加湿エレメント内部の水を排出する必要がある。水の排出頻度としては3時間以上24時間以下、好ましくは5時間以上20時間以下に1回の割合である。排出間隔が長すぎると水の中の析出物が加湿エレメント内部に溜まり加湿性能の低下につながるためである。一方、排出間隔が短すぎると排水回数が多くなり排水量も多くなるため経済的でない。加湿エレメントの寿命を長くするため純水・イオン交換水等を使用しても一層好ましい。
【0036】
通水タイプの加湿エレメントを使用する場合には、使用時は排出口を閉じ水が出ないようにし、一定時間毎に排出口から水を排出することでエレメント内の水を入れ替えることが可能である。この場合の排出頻度はデッドエンドタイプと同様に、3時間以上24時間以下、好ましくは5時間以上20時間以下に1回の割合である。排出間隔が長すぎると加湿エレメント内部に析出物が溜まり、加湿性能が低下してしまうためである。一方、排出間隔が短すぎると排水回数が多くなり排水量も多くなるため経済的でない。
【0037】
また通水タイプの加湿エレメントを使用する場合、排出口から常に水を供給し、加湿エレメント内の水を入れ替え続けることによって、加湿エレメントに水溶性ガス吸収フィルター(アンモニアガス等の水溶性ガスを溶け込ませるもの)の機能を持たせることもできる。
【0038】
加湿エレメント内では、水の供給圧力を1kPa以上30kPa以下、好ましくは2kPa以上25kPa以下、さらに好ましくは3kPa以上20kPa以下となるように調整することが望ましい。水の供給圧力が高すぎると、水圧により加湿エレメントが破壊するおそれがあるためである。逆に低すぎると、加湿エレメント内部に水が完全には満たされにくく、加湿不足になる可能性がある。水の供給方法としては供給圧力を調整するために貯水タンクを用いることができる。貯水タンクを用いるのではなく、水の供給経路に減圧弁を用いて調整することも可能である。
【0039】
加湿エレメントの枠体の材質としては、剛性を有している材料であれば適宜のものが使用でき、例えばABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、POM、PPS、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリカーボネート等のプラスチックを使用することができる。枠体の形状は、その内部に水の流路を形成できるものであれば特に限定されないが、加湿器の単位容積あたりの防水透湿膜面積を大きくとるには、略矩形状とするのが好ましい。枠体の寸法は、製造すべき加湿器の大きさに応じて適宜設定することができる。枠体の厚みが薄いほど、加湿器の容積あたりの分離膜の面積が大きくなり加湿効率が高くなるが、0.5mmよりも薄いと、圧力損失が高くなりすぎるとともに、枠体としての強度が不足して水圧により変形するという問題が生じる。
【0040】
多孔質シートは、透湿機能を持つものであれば特に限定されず、各種の材料を用いることができるが、典型的には、透湿膜、防水透湿膜、あるいは透湿膜等と保護シートを積層したものを用いることができる。多孔質シートの透湿度は高いほど好ましいが、通常は、5,000〜150,000g/m・day、好ましくは10,000〜100,000g/m・day、さらに好ましくは20,000〜70,000g/m・dayである。透湿度の測定方法は、JIS L 1099−B1法による。
【0041】
多孔質シートとして防水透湿膜を用いる場合は、高分子多孔質フィルムが好ましく使用される。このような高分子多孔質フィルムとしては、典型的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン/ヘキサフロロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の疎水性多孔質膜が挙げられるが、耐熱性、耐薬品性等の観点から多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜が特に好ましい。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、厚み1〜1,000μm、空孔率5〜95%、孔径0.01〜15μmの範囲のものが好ましく使用されるが、水蒸気透過性、耐水性、強度との兼ね合いから厚み20〜200μm、空孔率60〜90%、孔径0.1〜3μmのものがより好ましい。また、このような多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、延伸法、溶剤抽出法、キャスティング法などの従来公知の製法により製造することができるが、特に延伸法が、膜の強度に優れ、比較的製造コストが安いため好ましい。延伸法による多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の製造方法は、特開昭46−7284号、特開昭50−22881号、特表平03−504876号等の各公報に開示されている、従来公知の方法を用いることができる。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、片面又は両面に、上記公報に記載されているように、少なくとも一部が架橋されたポリビニルアルコール、酢酸セルロース、硝酸セルロース等の親水性ポリマーや、ポリアミノ酸、ポリウレタン樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等の親水性樹脂の連続皮膜を設けて使用することもできる。さらに、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、上記公報に記載されているように、多孔質体骨格表面を撥水性及び撥油性を有する有機ポリマーで被覆し、かつ連続孔を残したものとして使用することも好ましい。例えば、WO94/22928号公報、WO95/34583号公報などに開示されているようなフルオロアルキルアクリレート及びフルオロアルキルメタクリレートを重合して得られるポリマーの水性エマルジョンをフッ素化界面活性剤(例えば、アンモニウムペルフロオロオクタノエート)を用いて形成し、それを多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に適用し、加熱することにより上記のような形態の膜が得られる。また、有機ポリマーとして、テトラフルオロエチレンと、アクリレート、メタクリレート、スチレン、アクリロニトリル、ビニル、アリル或いはアルケン等のモノマーとの二元又は三元以上のコポリマー、例えばフルオロアクリレート/テトラフルオロエチレン共重合体、フルオロアクリレート/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体も好ましく使用される。このようなコポリマーは耐汚染性、耐熱性、耐薬品性の点で優れ、かつ多孔質体骨格表面と強固に密着、結合するので好ましい。また、他の有機ポリマーとして、「AFポリマー」(デュポン社の商品名)、「サイトップ」(旭硝子社の商品名)なども使用できる。これらの有機ポリマーを高分子多孔質膜の多孔質体骨格表面に被覆するには、例えば「フロリナート」(住友スリーエム株式会社社の商品名)などの不活性溶剤にこれらのポリマーを溶解させ、高分子多孔質膜に含浸させた後、溶剤を蒸発除去する等の方法で行う。
【0042】
また、多孔質シートとして、防水透湿膜に、補強層として保護シートを積層したものを使用することもできる。この場合、保護シートとしては、織物、編物、不織布、ネット、発泡シート、多孔質フィルム等の形態とすることができるが、織布、編物、不織布が、補強効果に優れ、柔軟でコストが安いため好ましく用いられる。また、その材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等の樹脂材料や、金属、ガラス等を用いることができる。織物、編物、不織布等の繊維布帛を用いる場合は、芯鞘繊維を用いることも好ましい態様である。この場合、鞘部分に芯部分よりも低融点の樹脂材料を用いれば(例えば、芯部分にポリエステル、鞘部分にポリエチレンを用いる)、防水透湿膜と保護シートを熱融着積層する場合に融着加工が容易になる。保護シートを用いる場合、その厚みは5μm〜5mm、好ましくは10μm〜1mm程度とすることが好ましい。厚みが5μm未満では保護シートの保護機能が不十分となり、5mmを超えると防水透湿シートの厚みが厚くなり、加湿器が大型化してしまう。保護シートは、防水透湿膜の片面に積層しても、また両面に積層してもよいが、片面に保護シートを積層し、防水透湿膜を空気側に向けて使用するほうが加湿効率に優れているため好ましい。これは空気側が防水透湿膜の場合、空気側の拡散抵抗が低いため、防湿透湿膜を通過した水蒸気が空気中に速やかに拡散するためである。保護シートと防水透湿膜を積層する方法としては、防水透湿膜にグラビアパターンを施したロールで接着剤を塗布し、その上に保護シートを合わせてロールで圧着する方法、防水透湿膜に接着剤をスプレーし、その上に保護シートを合わせてロールで圧着する方法、防水透湿膜と保護シートを重ね合わせた状態で、ヒートロールにより熱融着する方法等、従来公知の方法を適宜用いることができる。接着剤を用いる場合、ウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン、エポキシ、シリコーン等の接着剤を用いることができる。防水透湿膜と保護シートの接着面積は、3〜95%、好ましくは10〜80%である。接着面積が3%未満では防水透湿膜と保護シートとの接着強度が不十分となり、95%を超えると十分な加湿性能が得られない。
【0043】
枠体に多孔質シートを固定する方法としては、枠体を成形する際に多孔質シートと一体成型によって固定する方法(枠体がプラスチックの場合)、ウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン、エポキシ、シリコーン、溶剤、アクリル等の接着剤を用いて枠体に接着固定する方法、超音波融着、高周波融着、熱融着等の方法によって融着する方法(枠体が熱可塑性の材料である場合)を利用できる。固定方法として成型法を用いる場合、射出成型を用いれば、多孔質シートと枠体を同時に一体成形できるため特に好ましい。
【0044】
(無加湿流路部)
無加湿流路部67は、加湿流路部56が加湿器を備えるのに対して加湿器が備えられていない流路である。したがって、導入流路部54で除湿された空気は、加湿されることなく乾燥空気として通過する。加湿流路部56と無加湿流路部67とは合流部55において連結され、排気流路部58に連通している。
【0045】
(開閉器)
上述したように、分岐部53、加湿流路部56、無加湿流路部67、または合流部55のいずれかに一つまたは複数の開閉器63を設けられている。開閉器63は、空気の流路を塞いだり解放したりすることにより空気の流通量を調節するものである。開閉器63の機械的構成としてはスライド扉式、開閉扉式(ダンパー式)のものを使用することができる。分岐部53に開閉扉式の開閉器63を設置した場合、開閉器63の角度によって、加湿流路部56への空気の流通を全開放とするとともに無加湿流路部67への空気の流通を遮断することができ、逆に、加湿流路部56への空気の流通を遮断とするとともに無加湿流路部67への空気の流通を全開放することもできる。もちろん、開閉器63の角度を適宜調節することにより、加湿流路部56への空気の流通量と無加湿流路部67への空気の流通量の比率を調節することができる。開閉扉式の開閉器63を合流部55に設置した場合も同様に、開閉器63の角度を適宜調節することにより、加湿流路部56からの空気の流通量と無加湿流路部67からの空気の流通量の比率、すなわち排気流路部58に合流させる空気の混合比を調節することができる。
【0046】
以上が本発明の除加湿装置の基本的構成要素の説明であるが、上記のほか、導入流路部54内には送風機61が設けられていてもよい。送風機61により除加湿装置内の空気を効率的に流動させることができる。送風機61を設置する場所に特に制限はないが、好ましくは導入流路部54内および/または排気流路部58内に設置される。送風機61としては、シロッコファン、ターボファンなどを用いることができる。
【0047】
導入流路部54内に外気導入口66を設けて必要によりフレッシュな空気を取り入れてもよい。なお、外部からの空気の温度および湿度をコントロールするため外気導入口66は、冷却部59よりも上流に設ける。
【0048】
他方、排気流路部58内には、スクリュー形状を有する静止混合機(スタティックミキサー:図示せず)を配置することにより、加湿空気と乾燥空気とを均一に混合することができる。
【0049】
3.除加湿設備とその運転方法
図1に示したように、閉空間を構成する部屋51に上記の除加湿装置を取り付けたものが除加湿設備である。部屋51内に温度計および湿度計(図1では温湿度センサー65)が設けられており、温度計により測定された温度情報が加熱部60および/または冷却部59にフィードバック(図1の例では、加熱部60にフィードバック)されており、湿度計(図1の例では、温湿度センサー65)により測定された湿度情報が開閉器63(詳しくは、開閉器63設けられた開閉制御装置64)にフィードバックされている。このような構成によって、部屋51内の温度を常にモニタリングしながら加熱部60による加熱温度、および/または、冷却部59による冷却温度を制御する。加熱温度および/または冷却温度を調整することにより、排気口57から部屋51内に供給される空気の温度を安定的に所望の値とすることができる。また、部屋51内の湿度を常にモニタリングしながら開閉器63を制御することにより、導入流路部54から流れる空気のうち加湿流路部56に供給する空気と無加湿流路部67に供給する空気の比率を調節することができる。これにより、排気口57から部屋51内に供給される空気の湿度を安定的に所望の値とすることができる。
【0050】
さらに、温度情報は、加熱部60および/または冷却部59だけでなく、開閉制御装置64にもフィードバックしてもよい。また、湿度情報は、開閉制御装置64だけでなく、加熱部60および/または冷却部59にもフィードバックしてもよい。このような構成にするのは、上述のように加湿器62において気化熱による温度の低下が起こるため、排気口57から部屋51内に供給される空気の温度の変動要因となるのは、加熱部60および/または冷却部59だけでなく、加湿流路部56への導入空気量も変動要因となるためである。したがって、温度および湿度をより安定的に所望の値とするためには、温度情報および湿度情報をより総合的に判断して加熱部60および/または冷却部59、開閉器63にフィードバックすることが望ましい。
【0051】
さらに望ましいフィードバックは、以下の通りである。除加湿設備は、目標温度および/または目標湿度を記憶する情報記憶手段(図示せず)をさらに備え、温度計により測定された温度と目標温度との差、および/または湿度計により測定された湿度と目標湿度との差が小さくなるように、加熱部および/または冷却部と、開閉器を制御することが望ましい。制御の内容は、情報記憶手段(マイコン等)予めに記憶させて自動制御により行うことが推奨される。
【0052】
なお、無加湿流路部67は加湿流路部56との空気の流れのバランスが崩れないように設計する必要がある。すなわち、無加湿流路部67の断面積は加湿流路部56の断面積比で0.2倍以上3倍以下、好ましくは0.3倍以上2.5倍以下とすることが望ましい。無加湿流路部67の断面積が小さすぎると加湿流路部56へ空気が流れやすくなり、また無加湿流路部67の断面積が大きすぎると無加湿流路部67へ空気が流れやすくなるため、加湿空気と乾燥空気の混合量を制御しても所望の温度及び湿度の空気を安定的に供給することが困難になるためである。
【0053】
部屋51が半導体製造設備のようなクリーンルーム等である場合には、部屋51に供給する空気のクリーン度を維持するため、ヘパ(HEPA)フィルターやウルパ(ULPA)フィルターを介して部屋51内に空気を導入することが望ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0055】
(実施例)
本発明の除加湿装置を使用して床面積が38m、室内高さが2.5mで容積が95mのクリーンルームを恒温恒湿にする試験を行った。クリーンルーム内の温湿度をモニターする温湿度センサー(株式会社チノーの温湿度計HN−CQA)をクリーンルームの床からの高さが1.5mのところに取り付けた。クリーンルーム内の空気を除加湿装置の吸気口から取り込みつつ、外気導入口から外気も取り入れる構成とした。
【0056】
導入流路部の上部は、クリーンルームの天井付近まで延ばし、天井付近で向きを変え、天井と平行にさらに延長した。天井付近での導入流路部の断面積は0.4mとした。その先に、1つの操作制御機によって可動扉の角度を自在に調整できる分岐部であるダンパー(株式会社三功工業所の三方向ダンパーE1型)を取り付けた。ここで用いたダンパーは、1入力2出力のダンパーであり、可動扉は2つの出力方向に対してそれぞれ独立に設けられている。可動扉は電動アクチュエーターにより角度を調整した。
【0057】
なお、1出力方向の可動扉に対して操作制御機が独立に1つ設けられているダンパーを使用すれば、加湿流路部に流れる空気の量と無加湿流路部に流れる空気の量をそれぞれ独立に制御することができる。
【0058】
加湿流路部には透湿膜式加湿器の加湿エレメントとしてジャパンゴアテックス社製加湿エレメントIMH330を使用した。空気の流れ方向に対して加湿エレメントの通風面(多孔質シート面)が垂直となるようにして、加湿エレメントを6個(3列×2行の並列)配置し、さらにこれを直列に2段設けて合計12個の加湿エレメントを配置した。加湿エレメント一つ当たりの加湿能力は、約1200ml/時間(導入空気の条件:温度23℃、湿度56%、風量540m2/時間)であり、多孔質シート面の通気有効面積は0.17mである。加湿エレメントを6個並列に設置した理由は、風量68m/分という除加湿装置の設計に適合させるためであり、加湿エレメント1個あたりの面内風速が6.7m/秒になるようにした。加湿エレメントに供給した水は8時間毎に排水できるようにした。供給水は上水道水を使用した。水の供給には、精密減圧弁を用いた。これにより、加湿エレメントの給水口の水圧(ヘッド圧)を調整した。
【0059】
加湿エレメントを通過した加湿空気と乾燥空気が下流で合流するようにダクト(排気流路部)を配管した。合流した空気は排出口に設けたヘパフィルターを介してクリーンルームに導入した。導入流路部、加湿流路部、無加湿流路部、排気流路部等を構成する各ダクトは、管外温度の影響を受けないようにするため周囲に断熱材を施した。
【0060】
温湿度センサーからの温度のフィードバック、温湿度センサーからの湿度のフィードバックには、共に調整器(株式会社横河電機(株)製のUT320)を使用して、温度、湿度共にPID(Proportional Integral Differential)制御を行った。上述のように、湿度用の調整器により導入流路部内の加熱部の温度を制御し、湿度用の調整器により可動扉の開閉角度を制御した。
【0061】
以上の構成により、本発明の実施例におけるクリーンルームでは、温度25℃ 湿度50%に設定したところ、運転開始後2時間で恒温恒湿状態に達し、その後3カ月以上連続で温度精度25±0.5℃、湿度50±0.5%の恒温恒湿状態が保たれていることが確認できた。
【0062】
なお、本発明の実施例におけるクリーンルームでは、非常に安定的な恒温恒湿運転ができたことのほか、除加湿装置の消費電力量が従来よりも低減する効果が得られた。図3は、除加湿装置の改造前(図2に示す参考例の除加湿装置)と改造後(本実施例における除加湿装置)における消費電力量の推移を示すものである。図3に示すように、除加湿装置の改造前では、日平均電力量が549.1kWhであったのが、試験開始日後11日目に除加湿装置に改造を施して本発明の実施例における除加湿装置を構成して以降、日平均電力量が466.1kWhとなり約15%の省エネルギーが実現した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の除加湿装置は、特に研究施設での恒温恒湿室、半導体製造工程若しくは細胞培養等における安定した恒温恒湿状態を必要とするクリーンルーム、ビル、病院、工場環境、家庭あるいは車両類などにおいて好適に用いられるものである。
【符号の説明】
【0064】
51 部屋
52 吸気口
53 分岐部
54 導入流路部
55 合流部
56 加湿流路部
57 排気口
58 排気流路部
59 冷却部
60 加熱部
61 送風機
62 加湿器
63 開閉器
64 開閉制御装置
65 温湿度センサー
66 外気導入口
67 無加湿流路部
70 蒸気加湿器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口から分岐部に至る導入流路部と、前記分岐部から合流部に至る加湿流路部と、前記分岐部から前記合流部に至る無加湿流路部と、前記合流部から排気口に至る排気流路部と、前記導入流路部内に設けられた冷却部および加熱部と、前記加湿流路部内に設けられた加湿器と、前記分岐部または前記加湿流路部または前記無加湿流路部または前記合流部のいずれかに設けられた開閉器とを有する除加湿装置。
【請求項2】
前記加湿器が、透湿膜を備えた加湿器である請求項1に記載の除加湿装置。
【請求項3】
前記透湿膜が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜である請求項2に記載の除加湿装置。
【請求項4】
前記加湿器は、前記透湿膜で画される空間と、該空間内に液体を連続供給する機構を有する請求項1〜3のいずれかに記載の除加湿装置。
【請求項5】
前記加湿器に難燃性樹脂を用いた請求項1〜4のいずれかに記載の除加湿装置。
【請求項6】
前記導入流路部に外気取り入れ口を備えた請求項1〜5のいずれかに記載の除加湿装置。
【請求項7】
前記導入流路部に送風機が設けられた請求項1〜6のいずれかに記載の除加湿装置。
【請求項8】
前記排気流路部に送風機が設けられた請求項1〜7のいずれかに記載の除加湿装置。
【請求項9】
前記開閉器が複数設けられた請求項1〜8のいずれかに記載の除加湿装置。
【請求項10】
閉空間に請求項1〜9のいずれかに記載の除加湿装置を備えた除加湿設備であって、前記閉空間内に温度計および湿度計が設けられており、前記温度計により測定された温度情報が前記加熱部および/または冷却部にフィードバックされており、前記湿度計により測定された湿度情報が前記開閉器にフィードバックされている除加湿設備。
【請求項11】
目標温度および/または目標湿度を記憶する情報記憶手段をさらに備えており、前記温度計により測定された温度と前記目標温度との差、および/または前記湿度計により測定された湿度と前記目標湿度との差が小さくなるように前記加熱部および/または冷却部と、前記開閉器を制御する請求項10に記載の除加湿設備。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate