説明

陰イオン濃度測定装置、発電装置、蒸気性状自動測定装置及び地熱発電装置

【課題】複数の陰イオンを含有する試料水の電気伝導率から各陰イオン濃度の測定可能な陰イオン濃度測定装置、地中から取り出された蒸気の性状を妨害成分の影響を受けずに自動測定することにより、発電タービン及び復水器の状況を経時的に把握し、地熱発電の円滑な操業を実現可能に支援する蒸気性状自動分析装置及び地熱発電装置を提供すること。
【解決手段】複数の陰イオンを含有する試料水の電気伝導率を測定する複数の電気伝導率測定器を有する陰イオン濃度測定装置、地中からの蒸気を冷却して得られた水に含まれるシリカの濃度を自動測定するシリカ濃度測定器と前記陰イオン濃度測定装置、及び前記水のpH値を自動測定するpH計を備え、地熱発電所の発電タービンに供給する蒸気の性状を測定する蒸気性状自動分析装置、並びにこの蒸気性状自動分析装置を有する地熱発電装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は陰イオン濃度測定装置、発電装置、蒸気性状自動測定装置及び地熱発電装置に関し、更に詳しくは、測定対象である複数の陰イオンが存在する試料水中のそれら複数の陰イオンの濃度すなわち陰イオン濃度を測定することのできる陰イオン濃度測定装置、蒸気で発電タービンを回転させて発電する際に前記蒸気中に含まれるところの、測定対象である複数の陰イオン濃度を測定することにより、発電タービンの保守を的確に実行することができる発電装置、蒸気で発電タービンを回転させて発電する際に前記蒸気の性状を、地中から取り出した蒸気に多く含まれる硫化水素、炭酸ガス等の妨害成分の影響を受けずに自動分析することができ、自動測定された蒸気性状に関する測定値に基づいて地熱発電所の運転を支援することのできる蒸気性状自動測定装置、及び地熱発電を円滑に行うことのできる地熱発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電装置には、火力発電装置、水力発電装置、原子力発電装置のほかに、地熱発電装置がある。
これらの発電装置は、蒸気を発電タービンに噴射することにより発電タービンを回転させ、発電タービンの回転軸に結合された発電機の回転子を回転させることにより、発電をする。発電装置における蒸気は、火力、原子力、地熱により発生する。また、発電タービンを回転させる仕事を終えた蒸気は復水器で液体の水に戻される。復水器で蒸気を冷却するために使用される冷媒として海水が採用される場合が、多い。
発電装置で使用される蒸気中に含まれる陰イオンは、発電タービンのブレードに影響を与える。したがって、蒸気中の陰イオンの濃度を測定することは、重要である。つまり、蒸気中に含まれる陰イオンの濃度を経時的に測定することができると、発電タービンに蒸気が与える影響を予測し、発電装置の保守点検作業を的確に行うことができる。
発電装置の一例として地熱発電装置について説明する。
【0003】
非特許文献1に記載されているように、地熱発電の仕組みは次のようである。深さ数kmの比較的に浅いところに1000℃前後のマグマ溜まりがある。この熱が地中に浸透した天水等を加熱することにより地熱貯留層が地中に自然に形成されている。この地熱貯留層に一本又は複数本といった必要な数の生産井用パイプが打ち込まれ、この生産井用パイプには気液二相流体輸送管が結合される。これら生産井及び気液二相流体輸送管を通じて、気液二相流体が汽水分離器に導入される。その汽水分離器では、気液二相流体が蒸気と熱水とに分離される。分離された蒸気は、蒸気管を通じて発電タービンに導入される。発電タービンに導入された蒸気により発電タービンが回転し、この発電タービンの回転力により発電機における回転子が回転することにより、発電機から電力が取り出される。一方、汽水分離器における熱水は、還元熱水管を通じて還元井に送られ、還元井を通じて地中深くに戻される。
【0004】
通常、地熱発電所は地熱貯留層の形成される地域に建設される。そのような地域は国立公園や温泉地域と称されるところであるから、発電所を操業するに十分な人員を確保し、しかも発電所の操業に必要な施設及び設備を設けるのに適した地所を確保することが困難である。
【0005】
地熱発電所は電気出力が数万KWと、火力発電所の数十万から百万KWの電気出力に比べると小規模であるため、経済効率上、山間僻地に建設された地熱発電所は、限られた人員で運転されるのが常であり、できるだけ少ない人数で運営されることが望まれる。
【0006】
このように少ない人員により運転される地熱発電所では、蒸気の性状管理を地熱発電所内で時々刻々と行うことが困難である。現状における蒸気の性状管理は、例えば月に一回程度の頻度で行われる手分析に依存している。具体的には、生産井から取り出した蒸気を冷却することにより得られる凝結液からサンプルとして試料水を採取し、その試料水を地熱発電所から遠く離れた分析センターに送って、そこで手分析が行われている。手分析の結果が得られるのに時間を要するため、その手分析結果により蒸気性状の悪化を認識した時点では、既に発電タービン等の発電設備に障害が発生し、地熱発電所における操業に致命的な影響が及んでいたという場合がある。
【0007】
発電タービンに発生するトラブルとしては、発電タービンの翼にしばしば固形物が固着すること、又は塩素イオンによって発電タービンの翼表面が腐食割れを発生すること、この腐食割れにより発電タービンの回転異常が発生すること等が挙げられる。また、地熱発電所の操業におけるトラブルとしては、蒸気中の非凝縮性ガス量の予期せぬ変化により、発電タービンで仕事をした蒸気が送り込まれる復水器内の真空度が変化することが挙げられる。一般に復水器内に送り込まれた蒸気は冷却により急速に凝結して水になるので復水器内は高度の減圧状態になる。復水器内における高度の減圧状態は発電タービン翼の回転数の増大に寄与する。なお、復水器内を高度の減圧状態にすることを、地熱発電装置の技術分野においては、「高真空にする」と表現している。復水器内に導入される蒸気の中に非凝縮性ガスが含まれていると、復水器内が高真空状態にならず、したがって発電タービンの回転数が低下することになる。したがって、復水器内に送り込まれる蒸気中に非凝縮性ガスが含まれていることは、発電タービンによる発電効率の低下をもたらす。
【0008】
発電タービンにおける翼の回転が不規則になること、発電タービンが回転不能になることなどの発電タービントラブルが発生した場合に、その翼表面に固形物が固着していることが観察されたからである。また、翼表面における割れの有無を観察したところ、塩素イオンに起因する応力腐食割れも観察された。
【0009】
地熱発電のために生産井から汲み上げられた気液二相流体から分離された蒸気には、様々な鉱物成分が含有されている。このような蒸気が発電タービンの翼に噴射されると固形物が翼表面に固着し、固着量が増加することによって、上記した故障が発生するものと考えられる。また、発電タービンで仕事をした蒸気が送り込まれる復水器において、蒸気中の非凝縮性ガス量の変化による復水器の真空度の低下は、発電タービンの発電効率低下を招き、発電効率に大きな影響を与える。
【0010】
したがって、少数の運転員により運転され、制御される地熱発電装置において、発電タービン及び復水器に送り込まれる蒸気の性状についての分析を継続的に自動で行うことができ、しかも地熱発電装置から遠く離れた場所にて蒸気の性状を認識することができるような、地熱発電用蒸気の性状を分析するための自動測定装置及びそのような成分測定装置を備えた地熱発電装置が要望されている。
【0011】
【非特許文献1】「火力原子力発電」(社)火力原子力発電技術協会 2004年10月号、第7頁及び第10〜14頁
【0012】
この発明者らの検討によると、地熱発電用として生産井から取り出された蒸気により発電タービンを回転させたときの、発電タービンの翼に固着する固形物(スケールとも称される)は、主にシリカから形成されていることを見出した。この発明は、この発明者らの知見に基づく。
【0013】
現在までに、スケールの原因物質であるシリカをモニタリングする分析装置としてシリカ計、タービンの回転翼表面を腐食させる塩素イオン濃度を測定する装置としてイオンクロマトグラフが知られている。しかし、地熱発電用に地中から取り出された蒸気には硫化水素が含まれている。したがって、従来の通常のシリカ計で、地中から取り出された蒸気中に含まれるシリカの量を、測定しようとすると、その測定値は硫化水素の量を含んでいるのでシリカの量を測定したことにはならない。
【0014】
測定対象液が塩素イオンとカウンターカチオンとだけが含まれている単純な溶液であれば、その測定対象液からカウンターカチオンを除去することにより、カチオン除去後の測定対象液の電気伝導率から、その測定対象液中に含まれる塩素イオンの濃度を求めることができる。この場合、電気伝導率と塩素イオンの濃度との検量線が、予め用意されている。
ところが、地中から取り出された蒸気には、炭酸ガスが多く含まれている。したがって、地中から取り出された蒸気を凝結させて得られる試料液の電気伝導率を測定すると、前記溶存している炭酸ガスに由来する炭酸イオンと塩素イオンとその他のアニオンとに基づく電気伝導率を測定していることになり、塩素イオンと電気伝導率との相関がなくなるので、電気伝導率から塩素イオン濃度を測定することができるとは言えなくなる。
したがって、陰イオンを含有する測定対象液中の塩素イオンの濃度を測定しようとする場合には、その塩素イオン以外の陰イオンをできるだけ除去しておかないと、塩素イオンの濃度を正確に測定することができない。故に、蒸気中の塩素イオンの濃度を正確に測定するためには、測定対象液から塩素イオン以外の陰イオンを除去する前処理装置又は前処理工程が必要になる。
また、測定対象液中に含まれる陰イオンの濃度を測定する方法として、その測定対象液の電気伝導率を測定する方法がある。前述したように測定対象液中に含まれる陰イオンが複数種類であると、その測定対象液の電気伝導率を測定してもその値は全陰イオンに基づく電気伝導率の値であって、各陰イオンの各濃度は不明である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
この発明の課題は、測定対象となる複数の特定陰イオン種が既知である場合にその複数の特定陰イオン種を含有する測定対象液、換言すると試料水に含まれる複数の特定陰イオン種の濃度すなわち各陰イオン濃度を測定することのできる陰イオン濃度測定装置を提供することである。さらには、測定対象となっている複数の陰イオン種を含有する試料水中の各陰イオン濃度を手計算によることなく各陰イオン濃度を測定することのできる陰イオン濃度測定装置を提供することにある。また、測定対象となっている複数の陰イオン種を含有する試料水中の各陰イオン濃度を手計算により、又は手計算によることなく各陰イオン濃度を正確に測定することのできる陰イオン濃度測定装置を提供することにある。
この発明の課題は、発電タービンを回転させる蒸気中の陰イオン濃度を測定することにより発電タービン翼の故障を事前に防止することができ、保守を的確に行うことのできる発電装置を提供することにある。
この発明の課題は、地熱発電用として地中から取り出された蒸気の性状を経時的かつ連続的に自動分析することにより、発電タービンの状況及び/又は復水器の状況を経時的に把握し、地熱発電の操業を円滑に行うことができるように地熱発電操業を支援する蒸気性状自動測定装置を提供することにある。
また、この蒸気性状自動測定装置を備えることにより、地熱発電を適正かつ円滑に行うことのできる地熱発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 陰イオン濃度の測定対象となる複数の陰イオンを含有する試料水の電気伝導率を、互いに異なる温度で測定する複数の電気伝導率測定器を備えて成ることを特徴とする陰イオン濃度測定装置であり、
(2) 前記複数の陰イオンが強電解性の1価の陰イオンと2価の陰イオンとである前記(1)に記載の陰イオン濃度測定装置であり、
(3) 前記複数の電気伝導率測定器から出力される複数のデータに基づいて測定対象の各陰イオンの陰イオン濃度を算出する演算手段を備えて成る前記(1)又は(2)に記載の陰イオン濃度測定装置であり、
(4) 前記試料水は、カチオンが除去されてなる試料水である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の陰イオン濃度測定装置であり、
(5) 前記試料水は塩素イオンと硫酸イオンとを含有し、前記複数の電気伝導率測定器が第1電気伝導率測定器及び第2電気伝導率測定器であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の陰イオン濃度測定装置であり、
(6) 前記異なる温度における温度差が30〜50℃である前記請求項1〜5のいずれか一項に記載の陰イオン濃度測定装置である。
前記課題を解決するための他の手段は、
(7) 蒸気で発電タービンを回転させることにより発電をする発電装置であって、
前記蒸気を冷却して得られる凝結液を試料水とする前記請求項1〜6のいずれか一項に記載の陰イオン濃度測定装置を備えることを特徴とする発電装置であり、
(8) 前記発電装置が地熱発電装置である前記(7)に記載の発電装置である。
前記課題を解決するための他の手段は、
(9) 地中から取り出された蒸気を冷却して得られた凝結液に含まれるシリカの濃度を自動測定するシリカ濃度測定器と、前記凝結液を試料水としてその試料水の電気伝導率を、互いに異なる温度で測定する複数の電気伝導率測定器を備えて成る前記請求項1〜6のいずれか一項に記載のイオン濃度測定装置と、前記凝結液のpH値を自動測定するpH計と、前記シリカ濃度測定器、イオン濃度測定装置及びpH計それぞれで測定されたデータを自動送信するデータ処理送信器とを備えて成ることを特徴とする蒸気性状自動測定装置であり、
(10) 前記蒸気の冷却により分離した非凝縮性ガス、及び前記凝結液から分離された非凝縮性ガスの合計流量を連続的に自動測定する非凝縮性ガス量自動計測器を有する前記(9)に記載の蒸気性状自動測定装置であり、
(11) 前記非凝縮性ガス量自動計測器は、前記蒸気を冷却することにより凝結した凝結液の流量と、前記蒸気の冷却により分離した非凝縮性ガス、及び前記凝結液から分離された非凝縮性ガスの合計流量とから、発電タービンに供給される前記蒸気中に含まれる非凝縮性ガスの量を連続的に自動測定するように形成されて成る前記(10)に記載の蒸気性状自動測定装置であり、
(12) 前記データ処理送信器は、前記非凝縮性ガス量自動計測器で測定されたデータを自動送信する機能を備えて成る前記(10)又は(11)に記載の蒸気性状自動測定装置であり、
(13) 前記電気伝導率測定器に供される試料水中に存在する妨害成分を除去する妨害成分除去装置を有する前記(9)〜(12)のいずれか一項に記載の蒸気性状自動測定装置である。
前記課題を解決するための他の手段は、
(14) 前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の陰イオン濃度測定装置、前記(7)又は(8)に記載の発電装置、又は(9)〜(13)のいずれか一項に記載の蒸気性状自動測定装置備えて成ることを特徴とする地熱発電装置である。
【発明の効果】
【0017】
この発明によると、測定対象である特定の陰イオンが複数種類含まれている試料液の電気伝導率を、互いに異なる温度で測定する複数の電気伝導率測定器を備えることにより、各電気伝導率測定器から出力されるデータに基づいて、特定の陰イオンの濃度それぞれを求めることのできる陰イオン濃度測定装置が、提供される。
この発明に係る陰イオン濃度測定装置により試料水中に含まれる複数の特定陰イオンの濃度を測定することのできる原理は、以下のようである。
陰イオンaを一種だけ有し、かつ無限希釈された第1溶液Sの陰イオン濃度Cは、温度T1におけるその第1溶液Sの電気伝導率Kに比例する。
陰イオンaを一種だけ有し、かつ無限希釈された第2溶液Sの陰イオン濃度Cは、温度Tにおけるその第1溶液Sの電気伝導率Kに比例する。
無限希釈された陰イオンaと第2の陰イオンaとを有する溶液の、温度Tにおける電気伝導率K(a+a)は、以下の式(1)に示されるように、個別の電気伝導率Kと電気伝導率Kとの総和になる。
K(T)=K+K ・・・(1)
上記導電率の相加性を一般化すると、以下のようである。
試料水中に、測定対象である特定の陰イオンが複数種a、a・・・aあるとする。
陰イオンaを一種だけ有し、かつ無限希釈された第1溶液Sの陰イオン濃度Cは温度Tにおけるその第1溶液Sの電気伝導率K1に比例する。
陰イオンaを一種だけ有し、かつ無限希釈された第2溶液Sの陰イオン濃度Cは、温度Tにおけるその第1溶液Sの電気伝導率Kに比例する。
以下同様にして、陰イオンaを一種だけ有し、かつ無限希釈された第n溶液Sの陰イオン濃度Cは温度Tにおけるその第n溶液Sの電気伝導率Kに比例する。
無限希釈された第1陰イオンaから第n陰イオンaまでを有する溶液の、温度Tにおける電気伝導率K(a〜a)は、以下の式(2)に示されるように、個別の電気伝導率Kから電気伝導率Kまでの総和になる。
K(T)=ΣK (但し、Nは1〜nの整数を示す。) ・・・(2)
一方、無限希釈された、一種の陰イオンaのみを有する第1溶液Sの電気伝導率Kは第1溶液の温度に比例して変化する。温度25℃における第1溶液Sの電気伝導率K(25)と温度Tにおける第1溶液Sの電気伝導率K(T)とは、以下の関係式(3)を満たす。
(T)=K(25)×(1+α(T−25)) ・・・(3)
ただし、αは温度係数である。この温度係数αは、第1溶液Sの電気伝導率を異なる温度で測定することにより求めることができるので、既知である。K(25)は、液温25℃のときの電気伝導率である。
試料水中に陰イオンaと陰イオンaとが含有されている場合に、温度Tと温度Tとで測定された試料水の電気伝導率K1+2(T)及びK1+2(T)は、前記式(1)と式(2)とから、以下のように示すことができる。
1+2(T)=K(25)×(1+α(T−25))+K(25)×(1+α(T−25)) ・・・(4)
1+2(T)=K(25)×(1+α(T−25))+K(25)×(1+α(T−25)) ・・・(5)
陰イオンa1を有する第1溶液S1における温度係数α1及び陰イオンa2を有する第2溶液S2における温度係数α2は既知であり、温度T1及びT2も既知であるから、測定値K1+2(T)及び測定値K1+2(T)は測定される値であるから、未知数K(25)及びK(25)は上記式(4)及び式(5)を二元連立方程式として解くことにより求めることができる。
陰イオンaのみを有する第1溶液Sの電気伝導率K(25)が判明すれば、陰イオンaの濃度と電気伝導率K(25)との関係に基づいて、陰イオンaの濃度を求めることができる。陰イオンaについても同様に、陰イオンaのみを有する第2溶液Sの電気伝導率K(25)が判明すれば、陰イオンaの濃度と電気伝導率K(25)との関係に基づいて、陰イオンaの濃度を求めることができる。
以上を一般化して、n種類の陰イオンaを有する第n溶液Sをn個の異なる温度でその電気伝導率K(Tn)を測定し、n元連立方程式を解くと各陰イオンの濃度を求めることができる。
温度を異ならせて試料水の電気伝導率を測定する場合のその異なる温度の温度差は、通常30〜50℃であるのが好ましい。電気伝導率測定器の測定精度が理想的に高いと温度差は1℃程度であってもよいが、実際的な測定精度を考慮する上記温度範囲内で異なる温度とするのが好い。
この発明によると、蒸気で発電タービンを回転させることにより発電をする発電装置例えば地熱発電所の発電装置、火力発電所の発電装置、原子力発電所の発電装置における前記蒸気を冷却して得られる水中の陰イオン、特に塩素イオンと硫酸イオンとの陰イオン濃度を測定することにより、発電タービンに発生する化学的腐食を予測することができるので、発電タービン翼の故障を事前に防止することができ、保守を的確に行うことのできる発電装置を提供することができる。
地熱発電を例にして言うと、発電タービンの円滑な回転を阻害する要因としては、シリカが発電タービンの翼に固着し、これによって発電タービンへの蒸気噴射口における内外の圧力差が大きくなること、発電タービンの翼の腐食、割れ等が発生することによる発電タービン回転の変化、及び非凝縮ガスによる復水器の真空度の低下等が挙げられる。
【0018】
発電タービンの翼に固着するスケールを形成する主成分は非晶質シリカ及び岩塩等の鉱物成分である。これらスケール原因物質が蒸気に含まれているときはイオン状態であるため、汽水分離器ではこれらの成分を分離・除去することができない。また、汽水分離器が正常に機能していないときや、正常に機能していても蒸気中に含まれる液滴の一部が液滴の状態のまま汽水分離機を通過してしまうことがあり、そうすると前記スケール原因物質を含有する蒸気が発電タービンに導入される。発電タービンの翼表面の腐食及び割れ等の原因には、前記したように蒸気中にイオン状態で存在する強酸成分による化学的腐食と、応力腐食とがある。発電タービンの翼における化学的腐食は、蒸気中の強酸成分量を監視することにより防止乃至予防をすることができる。また、発電タービンの翼における応力腐食は、蒸気中に存在する陰イオン濃度、特に塩素イオン濃度とpH値に関係することが知られており、塩素イオン濃度とpH値とを監視することにより、更に的確な防止乃至予防をすることができる。
【0019】
したがって、蒸気を冷却して得られた凝結液の中に存在するシリカの濃度、陰イオンの濃度、pH値を測定することにより、発電タービンに噴射される蒸気の性状を知ることができ、これらの測定値に基づいて地熱発電の運転条件を調整することができる。
【0020】
つまり、前記凝結液の中に存在するシリカの濃度を測定することにより、発電タービンの翼に固着するスケールの量を予測することができる。また、イオン交換樹脂等により陽イオン及び炭酸を除去した後の前記凝結液の電気伝導率を測定することにより、蒸気中の陰イオン量を測定することができる。さらに、蒸気中には塩化ナトリウム等の無機塩が含まれているので、蒸気中の陰イオン量からは塩化ナトリウム等を初めとする無機塩の量を推定することができ、前記凝結液のpH値を経時的かつ連続的に測定することにより、蒸気中に存在する強酸の量の変動を監視することができる。
【0021】
発電タービンの回転効率は、発電タービンに噴射される蒸気中に含まれる非凝縮性ガスの量により左右される。
【0022】
発電タービンに噴射されて発電タービンを回転させた蒸気は復水器に送られて凝結液に凝結し、蒸気中に含まれていた非凝縮性ガスはそのまま気体となって復水器中に残留する。残留した非凝縮性ガスの量に応じて復水器の真空度が低下することで、発電タービンにむけられた蒸気噴射口における内外の差圧に影響を与え、結果的に発電タービンの回転動力が変化し、発電効率に影響を与える。
【0023】
したがって、蒸気中に含まれる非凝縮性ガスの量を測定することは、発電効率の向上に資する。
【0024】
この発明によると、シリカ濃度測定器で発電タービンに供給される蒸気を凝結させて得られた凝結液から採取された試料水に含まれるシリカの濃度を自動測定し、電気伝導率測定器で前記試料水の電気伝導率を自動測定し、pH計で前記試料水のpH値を自動測定するので、蒸気の性状を経時的かつ連続的に把握することができ、これらシリカの濃度、電気伝導率及びpH計により発電タービンへの蒸気による影響を推測することができ、その推測の下に地熱発電操業を支援することができる蒸気性状自動測定装置を提供することができる。
【0025】
また、この発明によると、蒸気中の非凝縮性ガスの量を経時的かつ連続的に自動測定することにより、復水器における設定条件の変更を行って発電効率を向上させることのできる蒸気性状自動測定装置を提供することができる。
【0026】
この発明に係る陰イオン濃度測定装置又は蒸気性状自動測定装置を地熱発電所に設置する一方、都市部或いは工業地帯等の、人材の確保が容易で施設建設が容易な地域に、発電所管制センター、発電所制御室、発電所本部等の名称の下でデータを受信するとともにそのデータを解析、分析して発電所を制御する指令を出力するデータ受信施設を設けておくと、データ受信施設で、前記シリカの濃度、電気伝導率、及びpH値、さらに非凝縮性ガスの量を自動受信することができる。このデータ受信施設を設けておくことにより、地熱発電所で前記データを収集する必要がなくなる。地熱発電所に出向くことなく経時的且つ連続的に前記データを収集することにより蒸気の性状を分析することができる。
なお、陰イオン濃度測定装置における演算手段は、地熱発電所及び前記データ受信施設のいずれに設置されていてもよい。
前記シリカの濃度、電気伝導率、及びpH値、さらに非凝縮性ガスの量を経時的に自動測定することにより実現することのできる地熱発電操業の支援として、
(1)汽水分離器(熱水セパレータ)への蒸気の供給量の制御、
(2)汽水分離器に供給する水の量を変更することによる気水分離効率の制御、
(3)機器や配管内面にシリカが固着するのを防止するため、気水分離した熱水へ添加する酸の量の制御、
(4)復水器内の真空状態を発生させる復水器真空発生装置の運転状況の制御、
(5)発電タービンのバイパス運転、
(6)気液ニ相流体を取り出す生産井の数の変更、
(7)生産井から取り出す気液二相流体の採取量の制御
等を挙げることができる。
【0027】
地熱発電所における操業条件を上記のように変更することにより、発電タービンの回転翼へのスケールの蓄積を防止し、発電タービンの回転翼の腐食及び割れを予防し、復水器における真空度を向上させて発電タービンの回転効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
この発明の一実施例である陰イオン濃度測定装置について先ず説明する。
図1に示される陰イオン濃度測定装置は、蒸気を冷却することにより得られる凝結液から採取された液を試料水とする測定装置である。
この陰イオン濃度測定装置は、陰イオンを測定する対象物の存在する場所、例えば地熱発電所に設置される。
図1に示されるように、陰イオン濃度測定装置50は、第1電気導電率測定器51と第2電気伝導率測定器52とを備える。
第1電気伝導率測定器51には、試料水を第1電気伝導率測定器51に導入する試料液導入管53が結合される。第1電気伝導率測定器51と第2伝導率測定器52とは、第1電気伝導率測定器51で電気伝導率が測定された試料水を第2電気伝導率測定器52に送出する移送管54で、結合される。
第2電気伝導率測定器52は、電気伝導率が測定された試料水を排出する排出管55が結合されている。
第1電気伝導率測定器51としては、温度Tで、試料水の電気伝導率を測定する装置を採用することができる。温度Tで試料水の電気伝導率を測定することができる限り、市販の電気伝導率計を採用することができる。市販の電気伝導率計が、試料水の温度をTに維持する機能を有していないときには、市販の電気伝導率計と電気伝導率を測定するための電極を浸漬する試料水を加熱する加熱手段とを組み合わせて成る、測定温度調節機能付きの電気伝導率計が、好ましい。また、前記加熱手段を備えていない市販の電気伝導率計を採用する場合には、前記電気伝導率計に試料水を送り込む試料水導入管53に温度調節機能付きの加熱手段(図示せず。)を設けて、試料水導入管53を通過する試料水を温度Tに成るように試料水を加熱するようにしてもよい。加熱手段を備えていない電気伝導率計を採用する場合には、前記温度Tは常温である。
第1電気伝導率測定器51に導入される試料水は、予め妨害成分を除去しておく妨害成分除去装置(図示せず。)で処理されるのが、好ましい。
地熱発電装置にこの陰イオン濃度測定装置を組み込む場合には、試料水中に含まれる陰イオンとして塩素イオン及び硫酸イオンを挙げることができる。第1電気伝導率測定器51で電気伝導率を測定する場合には、試料水中に塩素イオン及び硫酸イオン以外のイオン種が含まれているとそれらは妨害成分となる。地下から採取される蒸気を冷却することにより生成する凝結液から試料水を得るときには、前記蒸気中にはカチオン、硫化水素、炭酸ガス等の妨害成分を含んでいる。したがって、妨害成分除去装置としては、カチオン除去装置例えば陰イオン交換樹脂を充填した陰イオン交換装置と炭酸ガスを脱気する脱気槽との組み合わせを挙げることができる。
試料水が予め特定の二種の陰イオン種だけが含まれていることが明らかである場合には、前記妨害成分除去装置が不要になることは、言うまでもない。
第1電気伝導率測定器51で測定された試料水の電気伝導率に対応するデータは、演算手段56に出力される。
第2電気伝導率測定器52としては、温度Tで、試料水の電気伝導率を測定する装置を採用することができる。温度Tで陰イオン濃度を測定することができる限り、市販の電気伝導率計を採用することができる。市販の電気伝導率計が、試料水の温度をTに維持する機能を有していないときには、市販の電気伝導率計と電気伝導率を測定するための電極を浸漬する試料水を加熱する加熱手段とを組み合わせて成る、測定温度調節機能付きの電気伝導率計が好ましい。また、前記加熱手段を備えていない市販の電気伝導率計を採用する場合には、前記第2電気伝導率計52に試料水を送り込む移送管54に加熱手段を設けて、移送管54を通過する試料水を加熱するようにしてもよい。
第2電気伝導率測定器52で測定された試料水の電気伝導率に対応するデータは、演算手段56に出力される。
第1電気伝導率測定器51と第2電気伝導率測定器52とは、試料液の電気伝導率を測定することができる限り、同じ型式の測定器を採用することが好適である。
演算手段56に入力されたところの、第1電気伝導率測定器51及び第2電気伝導率測定器52それぞれから出力されるデータは、次ぎのように演算処理される。
演算手段56は、以下の計算式(7)及び計算式(8)を記憶する計算式メモリ(図示せず)と、無限希釈された25℃の塩酸溶液の温度係数α及び無限希釈された25℃の硫酸溶液の温度係数αをそれぞれ記憶するデータメモリ、第1電気伝導率測定器51及び第2電気伝導率測定器52から出力されてくる測定データ及び前記データメモリから読み出したα及びαを以下の計算式(7)及び計算式(8)に当て嵌めて、二元連立方程式を解く計算部とを有する。
K(T)=K(25)×(1+α(T−25))+K(25)×(1+α(T−25)) ・・・(6)
K(T)=K(25)×(1+α(T−25))+K(25)×(1+α(T−25)) ・・・(7)
計算部で演算された結果である塩素イオンに起因する電気伝導率Kc(25)と硫酸イオンに起因する電気伝導率Ks(25)に基づいて、演算部は、電気伝導率とイオン濃度との対照表から、塩素イオン濃度及び硫酸イオン濃度を算出する。算出された塩素イオン濃度及び硫酸イオン濃度は、出力装置57例えばCRT表示装置、液晶表示装置、XYプロッター等に出力され、表示される。
(1)第1電気伝導率測定器51及び第2電気伝導率測定器52と演算部56及び表示装置57とは、試料水のイオン濃度を測定する現場に設置されていてもよく、また、(2)第1電気伝導率測定器51と第2電気伝導率測定器52と演算手段56とを試料水のイオン濃度を測定する必要のある現場に設置する一方、表示装置57は現場から離れた遠隔の場所に設置していてもよく、或いは、(3)第1電気伝導率測定器51と第2電気伝導率測定器52とを試料水のイオン濃度を測定する必要のある現場に設置する一方、演算手段56と表示装置57とは現場から離れた遠隔の場所に設置していてもよい。
前記現場としては、地熱発電所、火力発電所、原子力発電所における蒸気の流通する場所及びその近傍を挙げることができ、現場から離れた遠隔の場所としては、操作員及び監視員等の人材を確保するのが容易で、この陰イオン濃度測定装置を遠隔操作するのに便利な施設及び設備等を有する監視センターを設置することのできる場所を挙げることができる。
前記(2)の場合、演算手段56から出力されるデータは、有線又は無線により表示装置57に電送され、前記(3)の場合、第1電気伝導率測定器51及び第2電気伝導率測定器52からデータが演算手段56に、有線又は無線により、電送される。有線による電送は、専用電話回線によってもよく、また、インターネットによってもよい。
以上説明した陰イオン濃度測定装置は、二種の陰イオンの濃度を測定する装置に関するが、複数種(n種)の陰イオンが含まれる試料水中のそれら複数種のイオン濃度を測定しようとする場合には、n基の電気伝導率測定器を設置するとともに、以下のn個の計算式を内蔵する演算手段を採用するのがよい。
K(T)=K(25)×(1+α(T−25))+K(25)×(1+α(T−25)) ・・・(8)
但し、Nは1〜nの整数である。前記(8)式はK(T)、K(T)、・・・、K(T)の集合である。
この陰イオン濃度測定装置は、例えば地熱発電装置に組み込むことができる。
【0029】
先ず、地熱発電システムについて、一般的説明をする。
地熱発電所は、生産井と、生産井から取り出された気液二相流体を熱水と蒸気とに分離する汽水分離器、この汽水分離器により分離された蒸気が噴射されることにより回転する発電タービン、この発電タービンの回転軸の回転により回転子を回転させ、回転子の回転により発電を行う発電機と、発電タービンの回転の仕事を最大とするために蒸気を水にすることでタービン出口をできるだけ高度の減圧状態、特にほぼ真空の状態にする復水器とを有する。
【0030】
生産井は、通常の場合、地表面から約数百メートル例えば300m〜数千メートル、例えば3000mの深さに達する地熱貯留層から高温高圧の熱水又は蒸気を取り出す井戸である。この生産井からは地熱貯留層から熱水だけが取り出される場合があり、また、蒸気と熱水の混合した流体である気液二相流体が取り出される場合もある。なお、気液二相流体が取り出される生産井は、蒸気井とも称されることがある。
【0031】
生産井から取り出された気液二相流体は、汽水分離器にて、蒸気と熱水とに分離される。また、地熱発電における異なる方式では、生産井から取り出されるものが熱水である場合には、生産井を通じて取り出される熱水を汽水分離器にて、例えば熱水の圧力を低下させることにより蒸気と熱水とに分離される。蒸気は発電タービンを回転させるために使用され、また、熱水は還元井を通じて地中に戻される。
【0032】
地熱発電所における地熱発電システムの中には、シングルフラッシュサイクルとダブルフラッシュサイクルとを含む熱水卓越型フラッシュサイクルと過熱蒸気型フラッシュサイクルとがある。
【0033】
シングルフラッシュサイクルを採用する地熱発電システムでは、汽水分離器で分離された蒸気を発電タービンの翼に噴射する。
【0034】
ダブルフラッシュサイクルを採用する地熱発電システムでは、汽水分離器が一次汽水分離器と二次汽水分離器とで形成される。この一次汽水分離器は高圧セパレータとも称され、二次汽水分離器は低圧セパレータとも称される。
【0035】
生産井から供給される高温高圧の熱水と蒸気とが、又は気液二相流体が一次汽水分離器に供給され、その一次汽水分離器で分離された高温高圧の蒸気(一次蒸気)は、スクラバーを通過して、又はスクラバーを通過せずに発電タービンの翼に向けて供給され、発電タービンの翼に噴射される。一次汽水分離器で分離された熱水は二次汽水分離器に送られる。
【0036】
一次汽水分離器から二次汽水分離器に配管を通じて送られる熱水には、必要に応じて酸、例えば硫酸が添加される。二次汽水分離器に移送される熱水に酸を添加する理由は、シリカの重合速度を遅くすることで還元井へ戻す以前に機器や配管内面にシリカが付着するのを防止することにある。二次汽水分離器では、圧力の低下によりさらに水と高温蒸気(二次蒸気)とに分離される。分離された水は、還元井に送り戻される。分離された二次蒸気は、必要に応じてデミスターを経由して発電タービンの翼に供給され、発電タービンの翼に噴射される。
【0037】
一次汽水分離器で分離された一次蒸気の発電タービンの翼に対する噴射位置は高圧タービンと呼ばれる部分であり、低圧タービンと呼ばれる二次汽水分離器で分離された二次蒸気の発電タービンの翼に対する噴射位置とは相違する。
【0038】
一次蒸気及び二次蒸気の噴射により発電タービンが回転することによって、発電機の回転子が固定子の中で回転することにより、電磁誘導が生じて発電が行われる。
【0039】
一方、発電タービンに供給されて発電タービンの回転という仕事をした蒸気は復水器に送られる。復水器では高温蒸気が冷却により凝結して水に戻される。復水器で高温蒸気が水に凝結すると復水器内が高度に減圧状態となり、タービン出口の圧力をタービンの入口の圧力よりも小さくする。復水器で生成した水は、例えば冷水塔に戻され、蒸気を冷却するのに再利用される。復水器内では、高温蒸気を水に戻すと蒸気中に含まれている非凝縮性ガスが気化する。復水器内で気化した非凝縮性ガスはエジェクターにより、復水器内から排出される。
【0040】
このエジェクターは、前記一次汽水分離器で分離された高温蒸気の一部をエジェクター内の隘路に導入し、その隘路から噴出する高速流体により前記復水器内の気体を前記復水器内から吸引する。
【0041】
前記エジェクターから排出される高温蒸気及び復水器内に存在した気体は、気液分離装置にて気液分離される。気液分離装置にて分離された水は前記復水器に戻され、或いは冷水塔に戻される。気液分離装置にて分離されたガスは、例えば大気中に放出される。
【0042】
例えばこのような仕組みを有する地熱発電システムに、この発明の陰イオン濃度測定装置が組み込まれたところの、この発明の蒸気性状自動測定装置が組み込まれる。
【0043】
図2に、この発明の一例である蒸気性状自動測定装置を示してこの発明を説明する。
【0044】
図2に示されるように、この蒸気性状自動測定装置1が組み込まれる地熱発電装置2は発電機(図示せず。)と、この発電機の回転子の軸と結合された回転軸(図示せず。)及びこの回転軸に装着される複数の動翼及び静翼(図示せず。)を備えた発電タービン3と、1本又は複数本の生産井(図示せず。)から汲み出された気液二相流体を受け入れて熱水と高温蒸気とに分離する汽水分離器5と、発電タービン3の回転翼に噴射して仕事をした蒸気を水に変換する復水器4とを有する。
【0045】
前記生産井と汽水分離器5とは配管6で結合されており、配管6を通じて汽水分離器5に高温の気液二相流体が供給される。配管6における汽水分離器5の直前には、水スプレー装置7が介装される。この水スプレー装置7によって、配管6中に水を供給することにより、汽水分離器5における熱水と高温蒸気との分離効率が変更される。
【0046】
汽水分離器5と蒸気供給ノズル(図示せず。)とが、配管8とで結合されている。この配管8によって、汽水分離器5で分離された高温蒸気が、蒸気供給ノズルに供給され、蒸気供給ノズルから発電タービンの翼に噴射される。配管8の蒸気供給ノズルの直前に、第2スプレー装置9が配設される。この第2スプレー装置9を通じて蒸気供給ノズルから水を発電タービン3に供給することにより、発電タービンの翼に形成されるスケール等を除去することができ、また、蒸気に含まれる液滴粒子を成長させることでシリカを液滴に吸着し、前記翼に固着し難くさせることもできる。但し、水の供給は蒸気を冷却するので発電効率の低下を招くため、最小限に留めるのが好ましい。
【0047】
発電タービン3には、発電タービンの翼に蒸気が噴射されるように、蒸気供給ノズル(図示せず。)が配置されている。
【0048】
発電タービン3の回転軸と発電機の回転軸とは同軸に結合され、又は動力伝達手段を介して結合され、発電タービン3が回転すると発電機の回転子もまた回転し、回転子の回転により固定子におけるコイルに電流が発生するようになっている。
【0049】
前記汽水分離器5から前記蒸気ノズルに到る配管8は、第2スプレー装置9の上流側に分岐管10を備える。この分岐管10の途中には、開閉弁11が設けられている。この分岐管10は、冷却器12に結合される。
【0050】
冷却器12は、サンプルクーラとも称されている。冷却器12は、分岐管10を通じて導出された蒸気を冷却する。蒸気は冷却されて液化することにより水と非凝結性ガスとの混合物となる。凝結液には気化しなかった非凝縮性ガスが一部溶存している。
【0051】
冷却器12には、配管13が結合される。この配管13は、冷却器12により冷却されることにより得られる凝結液及び非凝縮性ガスを、蒸気性状自動測定装置1に移送する。
【0052】
この地熱発電装置2に装備される蒸気性状自動測定装置1は、カチオン除去装置14と、脱気処理装置15と、シリカ濃度測定器16と、冷却器17と、脱気装置18と、第1電気伝導率測定器19a及び第2電気伝導率19bと、pH計20と、非凝縮性ガス量自動計測器21とを備える。
【0053】
前記カチオン除去装置14と、脱気処理装置15と、シリカ濃度測定器16と、冷却器17と、脱気装置18と、第1電気伝導率測定器19a及び第2電気伝導率19bと、pH計20とを合わせて化学組成測定系統と称され、前記非凝縮性ガス量自動計測器21を含む一連の測定系を非凝縮性ガス測定系統と称されることがある。
【0054】
図2に示される蒸気性状自動測定装置1においては、冷却器12により冷却されて生成した水を試料水として移送する配管13にバイパスとしてカチオン除去装置14が取り付けられている。このカチオン除去装置14は、通常、陰イオン交換樹脂を充填した充填塔又は充填筒である。このカチオン除去装置14に試料水を通じると、試料水中に溶存する陽イオンが除去されるため、カチオン除去装置14で処理する以前の試料水中に重炭酸化合物として存在した炭酸が重炭酸イオンへ変化し、さらに溶存炭酸ガスへと変化する。さらに、脱気処理装置15において脱気処理を加え、さらに脱気装置18で容易に液中の溶存炭酸ガスが除去され、結果的に試料水の電気伝導度を測定するときに妨害成分となる炭酸が除去されることになる。したがって、このカチオン除去装置14及び脱気処理装置15は、この発明における妨害成分除去装置の一例である。
【0055】
脱気処理装置15は、配管13を通じて移送され、カチオン除去装置14を通過し、又は、場合によりカチオン除去装置14を通過しないままに移送された試料水を受け入れ、その後、試料水を所定温度に加熱し、窒素ガスを吹き込み、バブリングすることで試料水中に溶存する炭酸ガス及び硫化水素ガスを除去する。
なお、試料水中の塩素イオン及び硫酸イオンそれぞれの陰イオン濃度を正確に測定する場合には、試料水をカチオン除去装置14に通過させてカチオンを除去しておくのが、好ましく、炭酸イオンを除去するため試料水を脱気処理装置15で処理しておくのが、好ましい。
したがって、この脱気処理装置15は、試料水貯留槽36と、この試料水貯留槽36内に貯留されている試料水を加熱する加熱ヒータ22と、この試料水貯留槽36内に貯留されている試料水に窒素ガスを吹き込む窒素ガス導入管23とを備えている。なお、この脱気処理装置15はさらに、脱気ガスを排出するベント管24と、試料水貯留槽36内に貯留される試料水が一定量以上になるとオーバーフローして脱気処理装置15の外に排出する排出管25と、脱気処理後の試料水を移送する配管26とを有する。
【0056】
配管26は3系統の配管に分岐され、分岐した第1の配管は冷却器17に接続され、冷却器17はシリカ濃度測定器16に接続される。
【0057】
シリカ濃度測定器16は、試料水中に溶解しているシリカの濃度を測定することができる限り、特に測定方法及び機種に制限がなく、例えば、モリブデン青吸光光度法によるシリカ計を挙げることができる。シリカ計としては、例えば日機装(株)から市販されている7180型シリカ計を挙げることができる。このシリカ計はJIS K0101に基づくモリブデン青吸光光度法を採用した測定器であり、最短5分でシリカ濃度を測定することができる。
【0058】
図3に示されるように、シリカ濃度測定器16で測定されたシリカ濃度は、電気信号として、データ処理送信器28Aに出力される。
【0059】
シリカ濃度測定器16を通過した試料水は、配管27を通じてドレンに排出される。
【0060】
配管26が3系統の配管に分岐された第2の配管は、脱気装置18に接続され、脱気装置18で脱気された試料水は第1電気伝導率測定器19a及び第2電気伝導率測定器19bに順次に導入される。
脱気装置18は、例えば大きな表面積を有する中空糸膜を介して試料水を、炭酸ガスを含まない気体に接触させ、炭酸ガスの濃度差により試料水から溶存炭酸ガスを除去する装置である。
【0061】
第1電気伝導率測定器19a及び第2電気伝導率測定器19bとしては、所定の温度で試料水の電気伝導率を測定することができる限り、特に測定方法や機種の制限がなく、市販の電気伝導率計を適宜に採用することができる。
図2及び図3に示される第1電気伝導率測定器19a及び第2電気伝導率測定器1bはいずれも同じ型式を有する市販品であり、第1電気伝導率測定器19a及び第2電気伝導率測定器1bそれぞれに供給される試料水を所定温度に加熱する加熱手段例えばヒータを備えている。
【0062】
図2に示されるように、第1電気伝導率測定器19a及び第2電気伝導率測定器19bそれぞれで測定された電気伝導率は、電気信号として、データ処理送信器28Aに出力される。
【0063】
第2電気伝導率測定器19bを通過した試料水は、配管27を通じてドレンに排出される。
【0064】
配管26が3系統の配管に分岐された第3の配管は、pH計20に接続される。pH計20は、試料液のpH値を測定することができる限り、特に測定方法や機種の制限がなく、市販のpH計を適宜に採用することができる。
【0065】
図2に示されるように、データ処理送信器28Aは、電気伝導率測定器19から出力されるデータを入力する。
前記第1電気伝導率測定器19a及び前記第2電気伝導率測定器19bで電気伝導率を測定する対象となる試料水は、脱気処理装置15及び脱気装置18により脱気処理されているので炭酸ガス及び硫化水素が除去されており、カチオン除去装置14でカチオンが除去されている。したがって、炭酸ガス、硫化水素及びカチオンの除去された試料水には、塩素イオンと硫酸イオンとが含まれている。第1電位伝導率測定器19aは、この試料水の電気伝導率を例えば常温で測定し、データ処理送信記28Aに出力する。第2電気伝導率測定器19bは、この試料水の電気伝導率を例えば常温よりも30〜50℃高い温度で測定し、データ処理送信記28Aに出力する。なお、生産井から採取される蒸気の中には硫酸が含まれているが、硫酸は不揮発性物質であるので、汽水分離器5で分離された高温蒸気を冷却して得られた試料水の中には硫酸が残留することになる。したがって、第1電気伝導率測定器19a及び前記第2電気伝導率測定器19bで電気伝導率を測定することは、試料水中の塩素イオン及び硫酸イオンそれぞれの濃度を正確に測定する目的に対して技術的な意義がある。
【0066】
前記データ処理送信器28Aは、演算処理装置29を備える。この演算処理装置29は、この発明における演算手段である。この演算処理装置29は、例えば以下の換算式により、第1電気伝導率測定器19a及び第2電気伝導率測定器19bそれぞれで測定された電気伝導率から、前記計算式(7)及び計算式(8)に当て嵌めて、二元連立方程式を解く。この演算処理装置29は、更に、演算により算出された塩素イオンについての電気伝導率から塩素イオン濃度を算出し、硫酸イオンについての電気伝導率から硫酸イオン濃度を算出する。
塩素イオン濃度は、例えば以下の換算式(8)に従って算出される。
【0067】
換算式(8):
塩素イオン濃度(ppb)=[電気伝導率(μS/cm)÷12.071]×100 ・・・(8)
なお、上記換算式は一例であって、地熱発電所が立地する場所における蒸気の性状等の分析から適宜に決定される。
硫酸イオン濃度は、例えば以下の換算式(9)に従って算出される。
換算式(9):
硫酸イオン濃度(ppb)=[電気伝導率(μS/cm)÷9.15]×100 ・・・(9)
なお、上記換算式は一例であって、地熱発電所が立地する場所における蒸気の性状等の分析から適宜に決定される。
【0068】
データ処理送信器28Aは、シリカ濃度に対応するデータ、電気伝導率に対応するデータである陰イオン量のデータ、及びpH値に対応するデータを、運転支援センターにおける受信器28Bに、インターネット、電話専用回線等の通信伝達手段30を通じて送信される。この運転支援センターは、地熱発電所が設けられた地域とは異なり、作業員及び操作員等の運転支援能力を有する人材を容易に確保することができ、そのような人材が容易に生活することのできる地域に設けることができる。このデータ処理送信器28Aは、この発明におけるデータ処理送信器に相当する。
【0069】
一方、非凝縮性ガス測定系統は、図1に示されるように、配管13の途中から分岐した配管31を通じて凝結液が移送される非凝縮性ガス量自動計測器21を有する。
【0070】
この非凝縮性ガス量自動計測器21は、蒸気中に含まれる非凝縮性ガスの量を測定することができるのであれば、様々の仕組みの装置を採用することができる。図2に示される例では、移送されてくる凝結液の温度を測定する温度計37と、移送されてくる凝結液を貯留する貯留槽32と、貯留槽32内に装備される液面検出器38と、この貯留槽32内のガスを排出する排出管33と、排出されるガスの流量を測定するガス流量計39と、貯留槽32内の液を排出する自動ドレン弁34付きの排出管35とを備えている。
【0071】
前記貯留槽32は、試料水を受け入れて試料水中に含まれる非凝縮性ガスを気体として分離することのできる気液分離機能を有するのであればよい。例えば、液滴を障害物に衝突させることにより気体から分離する慣性衝突法を利用した衝突板といった構造を有するドレンポットを採用することができる。
【0072】
この非凝縮性ガス量自動計測器21は、前記温度計37で凝結液の温度を測定し、その後、貯留槽32内で混合物中の非凝縮性ガスを気液分離する。気液分離された非凝縮性ガスは排出管33を通じて大気中に排出され、その非凝縮性ガスの排出量はガス流量計39により測定される。図2に示されるように、ガス流量計39により測定される非凝縮性ガスの排出流量に対応するデータが、演算処理装置29に出力される。貯留槽32内に貯留される凝結液は、液面検出器38により所定量が貯留されたと判断されると自動ドレン弁34が自動的に開いて排出管35に排出される。このとき、液面検出器38が液面の最低位置を検出したときに前記演算処理装置29に最低位置検出信号を、検出した時間とともに出力し、また液面検出器38が液面の最高位置を検出したときに前記演算処理装置29に最高位置検出信号を、検出した時間とともに出力する。
【0073】
演算処理装置29にあっては、液面検出器38から出力されるデータ及びガス流量計39から出力されるデータに基づいて、非凝縮性ガスの量を、例えば以下のようにして算出する。
【0074】
なお、蒸気中に含まれる非凝縮性ガスの大部分は二酸化炭素と硫化水素であり、それら以外のガス成分は極めて微量なので無視できる。蒸気中に含まれる非凝縮性ガスの組成を予め分析しておくならば、そのガスの組成を試料水に含まれる飽和溶存ガス量の算出条件に利用することが、測定精度を高める上で好ましい。
【0075】
試料水の流量:A
貯留槽内の凝結液が最高位置にあるときの容積:B
貯留槽内の凝結液が最低位置にあるときの容積:C
凝結液の液面が最低位置にある時刻から最高位置に達するまでの時間:D
凝結液の流量の演算式:
A=(C−B)/D ・・・(10)
非凝縮性ガスの流量:E
ガス流量計の流量指示値:F
凝結液中の飽和溶存ガス量:G (大気圧下では温度に依存する値)
蒸気中に含まれる非凝縮性ガスの流量: E=F+G ・・・(11)
凝結液の流量と非凝縮性ガスの流量との比率H:
H=E/A ・・・(12)
データ処理送信器28Aは、前記演算処理装置29で算出された非凝縮性ガス量を、凝結液の流量と非凝縮性ガスの流量との比率Hとして、受信器28Bに送信する。
【0076】
次に、以上構成の蒸気性状自動測定装置の作用について説明する。
【0077】
図2に示される蒸気性状自動測定装置1にあっては、試料水のpH値、試料水に含まれるシリカの濃度、及び試料水の電気伝導率を別々の時刻に測定をすることができる。なお、装置構成を変更すると、試料水のpH値、試料水に含まれるシリカの濃度、及び試料水の電気伝導率を同時に測定することもできる。同時測定のために必要な装置構成の変更についての説明は、以下の説明において適宜に触れる。
【0078】
シリカの濃度を測定する場合は、以下のような運転になる。
【0079】
分岐管10を通じて導入された高温蒸気は、冷却器12で冷却されて液化した凝結液と液化しない非凝縮性ガスとの混合物に変換され、この混合物が、配管13を通じて、かつカチオン除去装置14を経由することなく、または経由してから脱気処理装置15に導入される。このとき、弁40は閉鎖されている。凝結液はそのまま一定時間脱気処理装置15に供給され、オーバーフローする凝結液は排出管25から排出される。一定時間が経過すると、弁41を閉鎖して脱気処理装置15への凝結液及び非凝縮性ガスの供給を停止し、次いで、弁40を開放して配管13及び配管31を通じて移送される凝結液と非凝縮性ガスとを非凝縮性ガス量自動計測器21における貯留槽32に供給する。これによって、脱気処理装置15に試料水としての凝結液が封じられることになる。次いで、脱気処理装置15内の凝結液を、加熱ヒータ22により所定温度に加熱しつつ、一定時間窒素ガス導入管23から窒素ガスを凝結液に吹き込み、バブリングする。窒素ガスのバブリングにより脱気処理装置15内の凝結液から硫化水素がガスとして分離する。硫化水素を凝結液から除去するのは、シリカ濃度測定器16における試薬が硫化水素に反応することを防止するためである。脱気が終了すると、脱気処理装置15内の脱気後の凝結液は配管26を通じて、試料水として冷却器17に送り込まれる。このとき、弁43及び弁45は閉鎖されている。ここで、脱気後の試料水を所定の温度に冷却し、シリカ濃度測定器16に導入する。シリカ濃度測定16でシリカの量が測定され、測定データがデータ処理送信器28Aに送信される。
【0080】
データ処理送信器28Aに送られたシリカ濃度に対応するデータが、電気信号として、通信伝達手段30、例えばインターネットを通じて、或いは専用電話回線等を通じて受信機28Bに送信される。
【0081】
pH値の測定をする場合は、例えば前記シリカ濃度の測定操作が終了してから、冷却器12で冷却されることにより液化された凝結液及び非凝縮性ガスとの混合物が、配管13を通じて、かつカチオン除去装置14を経由することなく、脱気処理装置15に導入される。pH値を測定する場合には、脱気処理装置15ではシリカ濃度測定器16に導入する試料水と同様の脱気処理を行わずに、配管13を通じて移送されてきた混合物を凝結液とガスとに分離する気泡分離処理を行って硫化水素等の非凝縮性ガスを除去する。脱気処理装置15での非凝縮性ガスの分離処理が終了してから、弁42及び弁43が開放され、脱気処理装置15内で非凝縮性ガスを分離処理した後の凝結液が試料水として、配管26を通じてpH計20に導入される。
【0082】
pH計20にて測定された試料水のpH値が、データ処理送信器28Aに送信される。
【0083】
データ処理送信器28Aに送られたpH値に対応するデータは、通信伝達手段30、例えばインターネットを通じて、或いは専用電話回線等を通じて受信機28Bに送信される。
【0084】
試料水の電気伝導率の測定においては、配管13を通じて移送される凝縮液及び非凝縮性ガスの混合物を直接に脱気処理装置15に移送せずに、カチオン除去装置14に一旦供給し、このカチオン除去装置14で混合物における凝結液中のカチオンを除去する。
このカチオン除去装置は、妨害成分除去装置の一例である。カチオン除去装置14を通過した、カチオン除去後の凝縮液及び非凝縮性ガスの混合物が、脱気処理装置15に供給される。カチオンが除去された凝縮液中の炭酸は重炭酸イオンへと変化し、さらに溶存炭酸ガスに変化する。溶存炭酸ガスを含む凝縮液及び非凝縮性ガスの混合物を脱気処理装置15に一定時間供給し続けて、オーバーフローする水を、排出管25を通じて排出する。
次いで、一定時間が経過してから、弁41を閉鎖してカチオン除去装置14及び脱気処理装置15への混合物の供給を停止し、配管13及び配管31を通じて移送される混合物を非凝縮性ガス量自動計測器21における貯留槽32に供給する。これによって、脱気処理装置15に凝結液としての試料水が封じられることになる。
次いで、脱気処理装置15内の試料水を、加熱ヒータ22により所定温度に加熱しつつ、一定時間窒素ガス導入管23から窒素ガスを試料水に吹き込み、バブリングする。窒素ガスのバブリングにより脱気処理装置15内の試料水から炭酸ガス及び硫化水素ガスとして除去する。この脱気処理装置もまた妨害成分除去装置の一例である。
この脱気処理装置15では、試料水を窒素ガスでバブリングすることにより窒素ガスと試料水中に含まれる炭酸ガスとの分圧の差により炭酸ガスが窒素ガスへ移行することを利用して脱気を行っている。このとき、窒素ガスの供給をバブリングノズル入口の自動弁44に連動して窒素ガスの供給開始及びその停止を行うようにすると、使用する窒素ガスの量を節減することができる。一定時間かけての脱気が終了すると、弁43及び弁46を閉鎖したままで弁42及び弁45を開放して脱気処理装置15内の脱気後の試料水を配管26を通じて、脱気装置18に送り込んでさらなる炭酸ガスの脱気を行い、炭酸ガスを脱気した試料水を第1電気伝導率測定器19a及び第2電気伝導率測定器19bに順次に供給して試料水の電気伝導率を測定する。なお、この脱気装置18もまた、妨害成分除去装置の一例である。第1電気伝導率測定器19a及び第2電気伝導率測定器19bで測定された電気伝導率は電気信号データとしてデータ処理送信器28Aにおける演算処理装置29に送信される。
【0085】
演算処理装置29では、例えば前記換算式(1)に従って、塩素イオン濃度を算出する。算出された塩素イオン濃度のデータが、電気信号として、通信伝達手段30、例えばインターネットを通じて、或いは専用電話回線等を通じて受信機28Bに送信される。
【0086】
以上のような手順にてシリカ濃度、電気伝導率、pH値が別個の時間帯にて測定されることになるが、これは脱気処理装置15が1基しかないことによる。シリカ濃度、電気伝導率、pH値を同時に測定するのであれば、シリカ濃度測定器16、電気伝導率測定器19、及びpH計20それぞれに専用の脱気処理装置を設けるのがよい。
【0087】
一方、非凝縮性ガスの量は、配管13及び配管31を通じて凝結液及び非凝縮性ガスが非凝縮性ガス量自動計測器21に送り込まれることにより測定される。
【0088】
この非凝縮性ガス量自動計測器21は、貯留槽32内に貯留する凝結液の温度を前記温度計37で測定し、その後、貯留槽32内で凝結液中の非凝縮性ガスを気液分離する。前記貯留槽32内に貯留された凝結液は試料水である。分離された非凝縮性ガスと、配管13及び配管31を凝結液中に溶け込まない状態で移送されて来た非凝縮性ガスとは排出管33を通じて大気中に排出され、その非凝縮性ガスの排出量はガス流量計39により測定される。図2に示されるように、ガス流量計39により測定される非凝縮性ガスの排出流量に対応するデータが、演算処理装置29に出力される。貯留槽32内に貯留される試料水は、液面検出器38により所定量が貯留されたと判断されると、自動ドレン弁34が自動的に開いて排出管35に排出される。このとき、液面検出器38が液面の最低位置を検出したときに前記演算処理装置29に最低位置検出信号を、検出した時間とともに出力し、また液面検出器38が液面の最高位置を検出したときに前記演算処理装置29に最高位置検出信号を、検出した時間とともに出力する。
【0089】
演算処理装置29にあっては、液面検出器38から出力されるデータ及びガス流量計から出力されるデータに基づいて、非凝縮性ガスの量を、例えば前記式(10)及び式(12)に従って算出する。
【0090】
データ処理送信器28Aは、前記演算処理装置29で算出された非凝縮性ガス量を、試料水の流量と非凝縮性ガスの流量との比率Hとして、受信器28Bに送信する。
【0091】
受信器28B側では、送信されてきたシリカ濃度、pH値、電気伝導率に基づく陰イオン量、例えば塩素イオン量及び非凝縮性ガス量が、継続的に、又は一定時間ごとに表示装置に表示される。受信器28B及び表示装置は、例えば、地熱発電所から離れた場所であり、かつ作業員、操作員、監視員、管制員等の人材が作業し易くて交通の便利な場所に設置された地熱発電管制センター、地熱発電支援センター等の地熱発電支援制御部署に設置される。
【0092】
これらのデータから、地熱発電支援制御部署からは遠隔地にある地熱発電所における発電タービンの状態を推測することができ、高温蒸気中の非凝縮性ガス量等を知ることにより、復水器4内の真空状態も推測することができる。
【0093】
この推測を基にして、例えば、
(1)汽水分離器(熱水セパレータ)への蒸気の供給量の制御、
(2)汽水分離器に供給する水の量を変更することによる汽水分離効率の制御、
(3)機器や配管内面にシリカが固着するのを防止するため、気水分離した熱水添加する酸の量の制御、
(4)復水器内の真空状態を発生させる復水器真空発生装置の運転状況の制御、
(5)発電タービンのバイパス運転、
(6)気液二相流体を取り出す生産井の数の変更、
(7)生産井から取り出す気液二相流体の採取量の制御、
(8)稼働している生産井の稼働本数の変更、
のいずれか一つ又は二つ以上を選択して、地熱発電の操業内容を変更することができ、これによって発電タービンの翼にスケールが固着するのを防止し、復水器内の真空度を保持することによって発電効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1はこの発明の一実施例を示す説明図である。
【図2】図2はこの発明の一実施例を示す説明図である。
【図3】図3はこの発明の一実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0095】
1 蒸気性状自動測定装置
2 地熱発電装置
3 発電タービン
4 復水器
5 汽水分離器
6 配管
7 水スプレー装置
8 配管
9 第2スプレー装置
10 分岐管
11 開閉弁
12 冷却器
13 配管
14 カチオン除去装置
15 脱気処理装置
16 シリカ濃度測定器
17 冷却器
18 脱気装置
19 電気伝導率測定器
20 pH計
21 非凝縮性ガス量自動計測器
22 加熱ヒータ
23 窒素ガス導入管
24 ベント管
25 排出管
26 配管
27 配管
28A データ処理送信器
28B 受信器
29 演算処理装置
30 通信伝達手段
31 配管
32 貯留槽
33 排出管
34 自動ドレン弁
35 排出管
50 陰イオン濃度測定装置
51 第1電気導電率測定器
52 第2電気伝導率測定器
53 試料液導入管
54 移送管
55 排出管
56 演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン濃度の測定対象となる複数の陰イオンを含有する試料水の電気伝導率を、互いに異なる温度で測定する複数の電気伝導率測定器を備えて成ることを特徴とする陰イオン濃度測定装置。
【請求項2】
前記複数の陰イオンが強電解性の1価の陰イオンと2価の陰イオンとである前記請求項1に記載の陰イオン濃度測定装置。
【請求項3】
前記複数の電気伝導率測定器から出力される複数のデータに基づいて測定対象の各陰イオンの陰イオン濃度を算出する演算手段を備えて成る前記請求項1又は2に記載の陰イオン濃度測定装置。
【請求項4】
前記試料水は、カチオンが除去されてなる試料水である前記請求項1〜3のいずれか一項に記載の陰イオン濃度測定装置。
【請求項5】
前記試料水は塩素イオンと硫酸イオンとを含有し、前記複数の電気伝導率測定器が第1電気伝導率測定器及び第2電気伝導率測定器であることを特徴とする前記請求項1〜4のいずれか一項に記載の陰イオン濃度測定装置。
【請求項6】
前記異なる温度における温度差が30〜50℃である前記請求項1〜5のいずれか一項に記載の陰イオン濃度測定装置。
【請求項7】
蒸気で発電タービンを回転させることにより発電をする発電装置であって、
前記蒸気を冷却して得られる凝結液を試料水とする前記請求項1〜6のいずれか一項に記載の陰イオン濃度測定装置を備えることを特徴とする発電装置。
【請求項8】
前記発電装置が地熱発電装置である前記請求項7に記載の発電装置。
【請求項9】
地中から取り出された蒸気を冷却して得られた凝結液に含まれるシリカの濃度を自動測定するシリカ濃度測定器と、前記凝結液を試料水としてその試料水の電気伝導率を、互いに異なる温度で測定する複数の電気伝導率測定器を備えて成る前記請求項1〜6のいずれか一項に記載のイオン濃度測定装置と、前記凝結液のpH値を自動測定するpH計と、前記シリカ濃度測定器、イオン濃度測定装置及びpH計それぞれで測定されたデータを自動送信するデータ処理送信器とを備えて成ることを特徴とする蒸気性状自動測定装置。
【請求項10】
前記蒸気の冷却により分離した非凝縮性ガス、及び前記凝結液から分離された非凝縮性ガスの合計流量を連続的に自動測定する非凝縮性ガス量自動計測器を有する前記請求項9に記載の蒸気性状自動測定装置。
【請求項11】
前記非凝縮性ガス量自動計測器は、前記蒸気を冷却することにより凝結した凝結液の流量と、前記蒸気の冷却により分離した非凝縮性ガス、及び前記凝結液から分離された非凝縮性ガスの合計流量とから、発電タービンに供給される前記蒸気中に含まれる非凝縮性ガスの量を連続的に自動測定するように形成されて成る前記請求項10に記載の蒸気性状自動測定装置。
【請求項12】
前記データ処理送信器は、前記非凝縮性ガス量自動計測器で測定されたデータを自動送信する機能を備えて成る前記請求項10又は11に記載の蒸気性状自動測定装置。
【請求項13】
前記電気伝導率測定器に供される試料水中に存在する妨害成分を除去する妨害成分除去装置を有する前記請求項9〜12のいずれか一項に記載の蒸気性状自動測定装置。
【請求項14】
前記請求項1〜6のいずれか一項に記載の陰イオン濃度測定装置、前記請求項7又は8に記載の発電装置、又は請求項9〜13のいずれか一項に記載の蒸気性状自動分析装置備えて成ることを特徴とする地熱発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−58981(P2011−58981A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209818(P2009−209818)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【出願人】(593142020)地熱エンジニアリング株式会社 (4)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】