説明

陶磁器製容器

【課題】実用性と審美性を兼ね備えた陶磁器製容器を提供する。
【解決手段】陶磁器製容器10は容器本体12、断熱層14、被覆層16を順に外側から内側に積層した構造であり、断熱層14は少なくとも内周面に釉薬が施されていない容器本体12に固着された樹脂発泡体もしくは多孔質セラミックスからなり、被覆層16は断熱層14の表面に樹脂を塗布することにより形成される。断熱層14は陶磁器製容器10の保温・保冷効果を高める機能を備え、被覆層16は断熱層14の表面改質に加え、陶磁器製容器10の内周面に自由度の高いデザインを施しやすくすることで陶磁器製容器10の審美性を高めるという機能を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温性および保冷性に優れた陶磁器製容器に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器は審美性と実用性を兼ね備えた飲食用容器として広く用いられている。我が国には全国各地に陶磁器の生産地があり、各々の窯元が個性ある陶磁器を製作している。しかし、海外製の安価な陶磁器の輸入増大や、陶磁器製以外の機能性食器類の台頭により、国内製の陶磁器製容器の需要が大幅に落ち込み、国内生産量は年々減少の一途を辿っているのが現状である。このような背景のなか、全国の陶磁器の生産地では新ブランドの構築や審美性の向上、機能性の追及など様々な対策を打ち出している。
【0003】
この国内製の陶磁器製容器の需要の落ち込みとは逆に、保温性や保冷性を謳ったマグカップやタンブラーなどの機能性容器が大幅に需要を伸ばしている。この背景には、温かいものはより温かく、冷たいものはより冷たく保つことで素材の持つ風味を楽しみたいという日本の食文化の影響があると思われる。
【0004】
陶磁器製容器の機能性を高める試みは前述したように各地で行われているが、このうち保温性および保冷性を高める機能に関する技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−103020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術は、飲食用容器を二重構造にし、空隙部に保温・保冷剤や断熱樹脂などを封入するというものであり、これにより中の飲料を保温または保冷するとともに結露などを防止する効果が得られる。
【0007】
しかし、陶磁器製容器の場合、これを二重構造にすれば空隙部の分だけ厚さが増すため、機能性の観点から一定の容量を確保しようとすれば外径が大きくなり、さらには重量も増すので持ちにくくなるという欠点がある。逆に審美性の観点から外径を一定に保った場合、容量が減少し、実用性に乏しくなる。また二重構造の陶磁器は製作に時間と手間がかかり、また複雑な形状の成形には大変な困難を伴うため、単調なデザインになりがちであり、また製作コストも上昇するので商品力に欠けるという問題もある。
【0008】
本発明は、この従来の技術にあった問題点を解消することを解決すべき課題として創作されたものであり、その目的は、実用性と審美性を兼ね備えた陶磁器製容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、陶器もしくは磁器で形成され、少なくとも内周面に釉薬が施されていない容器本体と、前記内周面に固着された断熱層と、前記断熱層の表面に樹脂を塗布することにより形成された被覆層を備えた、陶磁器製容器を提供する。
【0010】
断熱層は保温および保冷性の向上という陶磁器製容器の機能面を担う層である。断熱層を形成する樹脂発泡体は、樹脂中に炭酸ガスなどを微細に分散させた状態で混入させ、発泡状にした樹脂であり、硬化後は微細な孔が無数に存在する多孔質の樹脂となる。この樹脂発泡体が容器本体の内周面を覆うことで断熱性が向上し、陶磁器製容器に飲料や食材などの保温、保冷機能を付加することができる。樹脂発泡体に使用する樹脂としては、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンが好適であり、これ以外にもフェノール樹脂、ポリ塩化ビニル、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂などを用いることもできる。
【0011】
樹脂発泡体からなる断熱層は、容器本体の内周面に液状の樹脂を吹き付ける方法や、容器本体の内側に金型を挿入し、金型と内周面の間に液状の樹脂を流し込む方法などによって形成することができる。釉薬が施されていない容器本体の内周面は微細な凹凸がある粗面であるため、樹脂発泡体が硬化の過程で固着する。
【0012】
多孔質セラミックスからなる断熱層は、容器本体と同じセラミックス粉末に多孔化剤を混入させたものを多孔化剤を含まない容器本体の内側に重ね、容器本体と同時に焼結させて一体的に成形する。
【0013】
樹脂の塗布により形成された被覆層は断熱層の表面改質と審美性の向上を担う層である。樹脂発泡体および多孔質セラミックスで形成された断熱層は、そのままでは表面の微細な孔に雑菌が残留したり色素が沈着したりして汚れやすく不潔である。特に樹脂発泡体は耐久性に劣るという欠点がある。これに樹脂を塗布することで微細な孔を塞ぐとともに表面をコーティングして耐久性を高めることができるため、陶磁器製容器は長期間にわたって綺麗な状態に保たれる。さらには樹脂は複雑な曲面にも塗布が容易であるため、容器本体の形状に制約がなくなり、陶磁器製容器のデザインの自由度を高めることができる。また色彩のバリエーションが多く、描画も容易であるため、従来の陶磁器製容器にはなかった斬新で訴求力のあるデザインを内周面に施すことができる。
【0014】
樹脂としては樹脂塗料が好適であり、例えば、フェノール樹脂塗料、アルキド樹脂塗料、メラミン樹脂塗料、フタル酸樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、シリコーン樹脂塗料、塩化ビニル樹脂塗料、フッ素樹脂塗料などを用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、容器本体の内周面に断熱層と被覆層の2つの層を設けただけであるため、陶磁器製容器の厚みの増加を最小限に抑えることができ、外径に対して十分に実用的な容量を確保することができる。また断熱層の表面を樹脂からなる被覆層で覆うようにしたことで、デザインの自由度も高まるので、審美性に優れた商品力のある陶磁器製容器を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】陶磁器製容器の層構造を示す部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。陶磁器製容器10は容器本体12、断熱層14、被覆層16を順に外側から内側に積層した構造となっている。容器本体12は陶器若しくは磁器であり、断熱層14と接する内周面には釉薬が施されていない。内周面に釉薬を施さない理由は、陶器若しくは磁器の素地を敢えて露出させることで、断熱層14を構成する樹脂発泡体もしくは多孔質セラミックスとの接合性を高めるためである。
【0018】
断熱層14は樹脂発泡体もしくは多孔質セラミックスの何れかで構成される。断熱層14を樹脂発泡体で構成する場合は、焼結後の容器本体12に樹脂発泡体自体の粘着力で接着させる。樹脂発泡体は容器本体12の内周面全体に液状の樹脂を吹き付けて成形する。吹き付けられた樹脂は硬化の過程で内周面に固着し、断熱層14を形成する。同じ型の陶磁器製容器10を大量に製作する場合は、内周面の形状に対応した金型を製作し、容器本体12の内側に挿入した金型と内周面の間に液状の樹脂を流し込んで硬化させれば、吹き付けの場合に比べて製作コストを削減することができる。
【0019】
断熱層14を多孔質セラミックスで構成する場合は、焼結前の容器本体12と同時に焼結させて一体的に成形する。多孔質セラミックスは容器本体12と同じ素材を用いるが、多孔化剤を多く含んでいるため熱膨張率に差が生じる。この熱膨張率の差が冷却時の割れやひびとなることがあるので、予め調整剤などを用いて両者の熱膨張率を同程度にしておく必要がある。
【0020】
被覆層16は断熱層14の表面に樹脂塗料を塗布することで形成される。樹脂塗料が硬化することで薄い被膜ができ、断熱層14の表面を改質する。樹脂塗料は色彩のバリエーションが豊富で取り扱いも容易であるので、緻密で繊細なデザインを施すことも可能である。従来の陶磁器は外面の色彩や模様には多くのバリエーションがあった反面、内面は比較的単調であったが、陶磁器製容器10はその内面に塗布する樹脂塗料により自由度の高いデザインを施すことができる。
【0021】
陶磁器製容器10は、断熱層14により優れた保温・保冷機能を獲得しているが、同時に十分に実用に耐え得る容量も確保している。また断熱層14、被膜層16ともに複雑な形状の面に施すことも可能なので、容器本体12の形状に過度な制約がなく、自由度の高いデザインを施すことができる。このように陶磁器製容器10は高い実用性と審美性を兼ね備えた容器として、従来の陶磁器はもとより、安価な輸入陶磁器やマグカップなどの機能性容器にも十分対抗しうる競争力のある商品となっている。
【0022】
陶磁器容器10には、湯のみなどの高温飲料用容器、コップなどの低温飲料用容器の他にも、食材を盛り付ける大皿やそれを取り分ける小皿、小鉢など、およそ食材を入れる容器であればどのような形態の容器であってもこれに含まれる。
【符号の説明】
【0023】
10 陶磁器製容器
12 容器本体
14 断熱層
16 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陶器もしくは磁器で形成され、少なくとも内周面に釉薬が施されていない容器本体と、前記内周面に固着された断熱層と、前記断熱層の表面に樹脂を塗布することにより形成された被覆層を備えた、陶磁器製容器。
【請求項2】
前記断熱層が、前記容器本体の焼結後に形成された樹脂発泡体からなる、請求項1に記載の陶磁器製容器。
【請求項3】
前記断熱層が、前記容器本体と同時に焼結された多孔質セラミックスからなる、請求項1に記載の陶磁器製容器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−211045(P2012−211045A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77491(P2011−77491)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(511082506)株式会社ヤマトク (1)
【Fターム(参考)】