説明

陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液の製造方法

【構成】ポリアミドポリアミン(A)及び/又はポリアミドポリアミンポリ尿素(B)にエピハロヒドリン類(C)と硫黄原子を含む求核性物質(D)と窒素原子を含む求核性物質(E)を反応させることを特徴とする陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法であり、好ましくは、硫黄原子を含む求核性物質(D)が亜硫酸水素塩又はメタ重亜硫酸塩であり、窒素原子を含む求核性物質(E)がアンモニアである陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法。
【効果】 公知の方法で製造されたポリアミドポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂と同等以上の優れた湿潤紙力増強効果を付与し、しかも、低分子有機ハロゲン化合物の含有量が著しく少なく、固形分が高いにもかかわらず卓越した保存安定性を有するという極めて優れたポリアミドポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法、湿潤紙力剤又はクレープ剤助剤、前記陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法によって得られた樹脂を含有する紙、及びその紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陽イオン性熱硬化性樹脂、例えば、ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン樹脂やポリアミドポリアミンポリ尿素−エピハロヒドリン樹脂などが、有用な湿潤紙力増強剤として一般に使用されており、その製造方法は、公知である(例えば、特許文献1参照、特許文献2参照)。
【0003】
近年、発癌性の疑いの持たれている吸着性有機ハロゲン化合物(以下、AOXと略すことがある)の含有量が少なく、さらに高固形分においても保存安定性に優れるような陽イオン性熱硬化性樹脂、特に、湿潤紙力増強剤用の陽イオン性熱硬化性樹脂に対する高度の要求を満たす樹脂の製造方法が求められている。ここでAOXとは、例えば、エピハロヒドリン、エピハロヒドリンから誘導されるジハロゲノプロパノールやモノハロゲノプロパンジオールなどの低分子有機ハロゲン化合物、さらにオリゴマーのような低分子量の重合体骨格に結合している有機ハロゲンなどが挙げられる。
【0004】
その中でも、湿潤紙力増強用の熱硬化性樹脂に含まれるAOXの代表的な成分として、1,3−ジクロロ−2−プロパノール[以下においてDCPと称することがある]やエピクロロヒドリン[以下においてEpiと称することがある]を挙げることができる。欧州や米国を中心に、DCPやEpiが湿潤紙力増強用熱硬化性樹脂中に1000ppm以上含まれる場合には、環境や健康に悪影響を及ぼすとの認識が広がっている。
【0005】
前記課題を克服するため、ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン樹脂製造時に塩基性物質や求核性物質を反応させてAOXに由来する有機ハロゲン化合物を低減させる方法は、公知である(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。また、ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン樹脂に比べ保存安定性に優れ、AOXの含有量が著しく少ないことを特徴とするポリアミドポリアミンポリ尿素−エピハロヒドリン樹脂の製造方法は公知である(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、本発明の如く、硫黄原子を含む求核性物質(D)と窒素原子を含む求核性物質(E)を反応させることにより優れた湿潤紙力効果を保ったまま、AOX含量が低く、高固形分で且つ保存安定性に優れた具体的な湿潤紙力剤の製造方法は記載されていない。
【0006】
さらには、ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン製造後、酵素的にポリアミドポリアミン中のAOXを分解したり(例えば特許文献6参照)するという方法が公知であるが、生物学的な方法を加えることによりAOXを分解する時間がかかるため、作業効率が下がる問題があった。
【特許文献1】特公昭35−003547号(4頁目)
【特許文献2】特公昭43−028476号(5頁目)
【特許文献3】特開平06−001842号(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平06−220189号(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2004−075818号(特許請求の範囲、7頁目)
【特許文献6】特開平05−130879号(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、化学的な手法によりAOX含量が低く、高固形分で且つ保存安定性に優れた、優れた湿潤紙力効果を持つ陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法、その製造方法によって得られた樹脂を含有する紙及びその紙の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリアミドポリアミンやポリアミドポリアミンポリ尿素[以下においてポリアミドポリアミンとポリアミドポリアミンポリ尿素の両者を総称して中間体と称することがある。]にエピハロヒドリンと特定の2種類の求核性物質を同時又は順次反応させることにより、AOX含量が低く、高固形分で保存安定性に優れた湿潤紙力効果に優れる樹脂を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)ポリアミドポリアミン(A)及び/又はポリアミドポリアミンポリ尿素(B)にエピハロヒドリン類(C)と硫黄原子を含む求核性物質(D)及び窒素原子を含む求核性物質(E)を反応させることを特徴とする陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法であり、好ましい態様として(2)硫黄原子を含む求核性物質(D)が亜硫酸水素塩又はメタ重亜硫酸塩であることを特徴とする上記(1)の陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法であり、(3)窒素原子を含む求核性物質(E)がアンモニアであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法である陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法である。
別の態様としては
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの製造方法によって得られる陽イオン性熱硬化性樹脂を含有する湿潤紙力剤又はクレープ剤助剤であり
また別の態様としては、
(5)上記(1)〜(3)のいずれかの製造方法により得られた陽イオン性熱硬化性樹脂を含有する紙であり、
さらに別の態様としては
(6)上記(1)〜(3)のいずれかの製造方法により得られた陽イオン性熱硬化性樹脂を含有する液を表面塗工又はパルプスラリーに添加することを特徴とする紙の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法にしたがって得られた陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液は、公知の方法で製造されたポリアミドポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂またはポリアミドポリアミンポリ尿素−エピクロロヒドリン樹脂と同等もしくはそれ以上の優れた湿潤紙力増強効果を付与し、しかも、樹脂中に含まれる低分子有機ハロゲン化合物の含有量が著しく少なく、固形分が高いにもかかわらず卓越した保存安定性を有するという極めて優れた性質を有している。
【0011】
また、本発明の方法により得られる樹脂水溶液は、紙の湿潤紙力増強剤、クレープ剤助剤、抄紙工程で使用される濾水性向上剤あるいは、填料・サイズ剤などの歩留り向上剤として有用であるばかりでなく、工場の排水処理における凝集沈殿剤、あるいは、セルロース材料の耐水化剤、ポリビニルアルコール等の耐水化剤、羊毛などの天然繊維処理剤、合成繊維処理剤としても使用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液は、ポリアミドポリアミン(A)及び/又はポリアミドポリアミンポリ尿素(B)にエピハロヒドリン類(C)と硫黄原子を含む求核性物質(D)及び窒素原子を含む求核性物質(E)を反応させることを特徴とする陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法により得られる。
【0013】
ポリアミドポリアミン(A)は、ポリアルキレンポリアミン類(a)[以下において、(a)成分又は単なる(a)と称することがある。]と二塩基性カルボン酸類(b)[以下において、(b)成分又は単なる(b)と称することがある。]とを反応させることにより得ることができ、ポリアミドポリアミンポリ尿素(B)は、ポリアルキレンポリアミン類(a)[以下において、(a)成分又は単なる(a)と称することがある。]と二塩基性カルボン酸類(b)[以下において、(b)成分又は単なる(b)と称することがある。]と尿素類(c)[以下において、(c)成分又は単なる(c)と称することがある。]とを反応させることにより得ることができる。なお、(a)成分の一部にモノアミン類(g)[以下において、(g)成分、又は(g)と称することがある。]を用いることができ、(b)成分に一塩基性カルボン酸類(h)[以下において、(h)成分、又は(h)と称することがある。]を用いることができる。
【0014】
本発明に使用される中間体を得るために用いられるポリアルキレンポリアミン類(a)としては2個以上の第1級アミノ基を有していればよく、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミンなどを挙げることができ、工業的には、ジエチレントリアミンが好ましい。これら1種又は2種以上を使用することができる。また、ポリアルキレンポリアミン類(a)の一部としてポリアルキレンポリアミン類(a)に代えて、エチレンジアミン、プロピレンジアミン又はヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミンを使用することもできる。
【0015】
本発明に使用される中間体を得るために用いられる二塩基性カルボン酸類(b)は、分子中に2個のカルボン酸及び/又はその誘導体を有していればよい。その誘導体とは、例えば、それら二塩基性カルボン酸のモノ又はジエステル、或いは酸無水物を挙げることができる。二塩基性カルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、ドデカン二酸などが挙げられ、工業的には炭素数5〜10の二塩基性カルボン酸が好ましい。又、二塩基性カルボン酸のモノ又はジエステルとしては、好ましくは炭素数1〜5、特に好ましくは炭素数1〜3の低級アルコール(メチル、エチル、プロピル)エステルを挙げることができる。酸無水物としては、遊離酸の分子内脱水縮合物のほか、低級カルボン酸、好ましくは炭素数1〜5の低級カルボン酸との縮合物などが挙げられる。二塩基性カルボン酸類で工業的に特に好ましいものとしては、アジピン酸、グルタル酸ジメチルエステル、アジピン酸ジメチルエステルが挙げられる。上記の二塩基性カルボン酸類は1種又は2種以上を併用して使用することができる。また、二塩基性カルボン酸類の一部として、クエン酸など、分子中に3個以上のカルボン酸及び/又はそのカルボン酸エステル、或いはその酸無水物を有する誘導体を使用することもできるが、中間体の粘度が急激に上昇し、ゲル化することがある。
【0016】
本発明に使用されるポリアミドポリアミンポリ尿素(B)を得るために用いられる尿素類(c)は、尿素、チオ尿素、グアニル尿素、フェニル尿素、メチル尿素、ジメチル尿素などを挙げることができる。この中でも尿素が特に工業的に好ましい。これら尿素類(c)の一部として尿素類に代えて、アミノ基とアミド交換反応し得るN無置換アミド基を1個以上有する化合物、例えば、アセトアミド、プロピオンアミドなどの脂肪族アミド類、或いはベンズアミド、フェニル酢酸アミドなどの芳香族アミド類なども使用することもできる。
【0017】
前記モノアミン類(g)は、1級アミノ基を分子中1個有する化合物であればよく、さらに他の官能基を有するものであっても良い。モノアミン類(g)の代表的なものとしては、ブチルアミン、モノエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、イソプロピルアミン若しくはN−アミノエチルピペラジンなどの脂肪族アミン類、又はベンジルアミン若しくはフェニチルアミンなどの芳香族アミン類などを挙げることができる。さらに他の官能基を有するものとして、ε−アミノカプロン酸などの炭素数1〜6のアミノカルボン酸、該アミノカルボン酸の炭素数1〜5、特に炭素数1〜3の低級アルコール(メチル、エチル、プロピル)エステル、さらにε−カプロラクタムのような該アミノカルボン酸のラクタムが挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0018】
前記一塩基性カルボン酸類(h)は、分子中に少なくともカルボン酸又はその誘導体を1個有する化合物であればよい。例えば、カプロン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸等の脂肪族モノカルボン酸、又は上記各酸の炭素数1〜5、特に炭素数1〜3の低級アルコール(メチル、エチル、プロピル)エステルなどを挙げることができる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0019】
本発明におけるポリアミドポリアミンは、ポリアルキレンポリアミン類(a)と二塩基性カルボン酸類(b)を任意の順序または同時に反応することで得られる。また、本発明におけるポリアミドポリアミンポリ尿素は、ポリアルキレンポリアミン類(a)と二塩基性カルボン酸類(b)と尿素類(c)を任意の順序で又は同時に反応することができる。例えば、ポリアルキレンポリアミン類(a)と尿素類(c)とを反応させてポリアルキレンポリアミンポリ尿素を得、次いで、該ポリアルキレンポリアミンポリ尿素と二塩基性カルボン酸類(b)を反応させること又は該ポリアルキレンポリアミンポリ尿素と二塩基性カルボン酸類(b)を反応させた後にさらに尿素類(c)を反応させることができる。また、ポリアルキレンポリアミン類(a)と二塩基性カルボン酸類(b)とを反応させてポリアミドポリアミンを得、該ポリアミドポリアミンと尿素類(c)とを反応させることもできる。
【0020】
上記ポリアミドポリアミン(A)を得る際のポリアルキレンポリアミン類(a)、二塩基性カルボン酸類(b)の反応比は、ポリアルキレンポリアミン類(a)と二塩基性カルボン酸類(b)のモル比が0.8〜1.4:1、特に0.8〜1.2:1の範囲とすることで、保存安定性に優れ、有用な湿潤紙力増強効果を示す陽イオン性熱硬化性樹脂が得られやすいので好ましく、上記のモル比が0.8より小さい場合は、得られる陽イオン性熱硬化性樹脂の十分な保存安定性が得られない場合がある。上記のモル比が1.4より大きい場合は、ポリアルキレンポリアミン類(a)と二塩基性カルボン酸類(b)の重合度が上がりにくいため、ポリアミドポリアミンが所定の粘度に達するまで長時間を要するか又は所定の粘度に達しないため、得られる陽イオン性熱硬化性樹脂の湿潤紙力増強効果が十分得られない場合がある。
【0021】
また、上記ポリアミドポリアミンポリ尿素(B)を得る際のポリアルキレンポリアミン類(a)、二塩基性カルボン酸類(b)及び尿素類(c)の反応比は、ポリアルキレンポリアミン類(a)と二塩基性カルボン酸類(b)のモル比が0.8〜1.4:1、特に0.8〜1.2:1の範囲とすることで、保存安定性に優れ、有用な湿潤紙力増強効果を示す陽イオン性熱硬化性樹脂が得られやすいので好ましく、上記のモル比が0.8より小さい場合は、得られる陽イオン性熱硬化性樹脂の十分な保存安定性が得られない場合がある。上記のモル比が1.4より大きい場合は、ポリアルキレンポリアミン類(a)と二塩基性カルボン酸類(b)の重合度が上がりにくいため、ポリアミドポリアミンポリ尿素が所定の粘度に達するまで長時間を要するか又は所定の粘度に達しないため、得られる陽イオン性熱硬化性樹脂の湿潤紙力増強効果が十分得られない場合がある。一方、尿素類(c)は、ポリアルキレンポリアミン類(a)のアミノ基1モルに対して0.005〜0.9、特に0.01〜0.6:1の範囲とすることで、安定化効果と湿潤紙力増強効果に優れた陽イオン性熱硬化性樹脂が得られやすいので好ましく、尿素類(c)が0.005よりも小さい場合は、得られる陽イオン性熱硬化性樹脂の十分な安定化効果が得られない場合があり、0.9よりも大きい場合は、得られる陽イオン性熱硬化性樹脂の湿潤紙力増強効果が十分得られない場合がある。
【0022】
また、上記(a)成分と(b)成分の反応時、又は上記(a)成分と(b)成分と(c)成分の反応時に前記(g)成分及び/又は(h)成分を適宜加えて反応させることができる。モノアミン類(g)、一塩基性カルボン酸類(h)を反応させることで、ポリアミドポリアミン又はポリアミドポリアミンポリ尿素にモノアミン類及び/又は一塩基性カルボン酸類を脱水及び/又は脱アルコール縮合反応によって導入することができる。モノアミン類及び/又は一塩基性カルボン酸類を導入することによって、樹脂の末端アミノ基或いはカルボン酸基が封鎖され、得られる陽イオン性熱硬化性樹脂の保存安定性が向上することがある。このような末端封鎖基としてのモノアミン類とポリアルキレンポリアミン類及び/又は一塩基性カルボン酸類と二塩基性カルボン酸類の反応モル比は0.001〜0.1:1の範囲であることが好ましい。
【0023】
ポリアルキレンポリアミン類(a)と二塩基性カルボン酸類(b)との反応、又はポリアルキレンポリアミン類(a)と二塩基性カルボン酸類(b)と尿素類(c)との反応は、生成するポリアミドポリアミン、又はポリアミドポリアミンポリ尿素の50%水溶液の25℃における50%水溶液の粘度が200〜1,000mPa・sとなるまで続けることにより、湿潤紙力増強効果、保存安定性に優れた陽イオン性熱硬化性樹脂が得られやすいので好ましい。
【0024】
ポリアルキレンポリアミン類(a)、ポリアルキレンポリアミンポリ尿素、モノアミン類(g)が有するアミノ基と、二塩基性カルボン酸類(b)、一塩基性カルボン酸類(h)が有するカルボン酸及び/その誘導体とを反応させるときは、原料仕込み時に発生する反応熱を利用するか、外部より加熱して脱水及び/又は脱アルコール反応を行い、その反応温度は110℃〜250℃、特に120℃〜180℃であることが好ましい。反応温度条件は出発原料の二塩基性カルボン酸類(b)又は一塩基性カルボン酸類(h)がカルボン酸であるのか、その誘導体であるのかによって適宜変更する。この際、重合反応の触媒として、硫酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸類を使用することもできる。その使用量は、ポリアルキレンポリアミン1モルに対して0.005〜0.1モル、特に0.01〜0.05モルが好ましい。
【0025】
例えば、ポリアルキレンポリアミン、ポリアミドポリアミンが有するアミノ基と尿素類(c)を反応させる場合、発生するアンモニアを系外に除去しながらアミド交換反応を行う。このときの反応温度は80〜180℃、特に90℃〜160℃とすることが、急激な粘度の上昇が伴いにくく、適度に反応が進行しやすくなるので好ましい。また、反応時間は反応温度に依存するものの、通常30分〜10時間である。
【0026】
中間体のアミノ基の量は、下記の式によって中間体1g中に含まれるアミンを中和するのに必要な塩酸量を測定することによって求めることができる。
アミノ基の量(ミリモル/g)=V×F×0.5/S
V:1/2規定の塩酸液の滴定量
F:1/2規定の塩酸液の力価
S:採取した試料の固形分量(g)
【0027】
本発明に係る陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液の製造方法は、前記のようにして得ることができる中間体に以下の態様を含む工程を有する。
【0028】
即ち、中間体にエピハロヒドリン類(C)成分と硫黄原子を含む求核性物質(D)成分及び窒素原子を含む求核性物質(E)を反応させる態様がある。
【0029】
本発明に使用されるエピハロヒドリン類(C)は、エピハロヒドリンのことであり、例えば、エピハロヒドリンとしては、エピクロロヒドリン、エピブロムヒドリンなどが挙げられるが、工業的にはエピクロロヒドリンが好ましい。
【0030】
本発明に使用される硫黄原子を含む求核性物質(D)としては、硫黄原子を分子中に有し、求核性を有している化合物であればよく、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム等の亜硫酸塩、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等の亜硫酸水素塩、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム等のチオ硫酸塩、硫化ナトリウム、硫化カリウム等のアルカリ金属硫化物、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム等のアルカリ金属水硫化物、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム等のチオシアン酸塩及びメタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム等のメタ重亜硫酸塩等の無機化合物、ならびに、2−メルカプトベンゾチアゾールまたはそのナトリウム塩、2−メルカプトベンゾイミダゾールまたはそのナトリウム塩、2−メルカプトチアゾールまたはそのナトリウム塩、2−メルカプトイミダゾールまたはそのナトリウム塩、アルキルチオールまたはそのナトリウム塩、ベンゼンチオールまたはそのナトリウム塩、チオ尿素等の有機化合物またはそのアルカリ金属塩等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上使用できる。これらの中でも亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、メタ重亜硫酸塩が好ましく、具体的には、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムが好ましい。
【0031】
本発明に使用される窒素原子を含む求核性物質無機塩基性物質(E)としては、メチルアミン、エチルアミン、モノエタノールアミンなどのモノアルキルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミンなどのジアルキルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミンなどのトリアルキルアミン、アンモニア、或いは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミンなどのポリアルキレンポリアミンやポリビニルアミンなどが挙げられ、これらの中から1種または2種以上使用できる。これらの中でもアンモニアが好ましい。
【0032】
エピハロヒドリン類(C)の量は、中間体のアミノ基1モルに対して、0.7〜2モル、特に0.8〜1.5モルとすることで、高固形分で保存安定性及び湿潤紙力増強効果に優れ、AOX含有量の少ない陽イオン性熱硬化性樹脂が得られやすいので好ましい。
【0033】
硫黄原子を含む求核性物質(D)の量は中間体のアミノ基1モルに対して0.001〜0.3モル、特に0.005〜0.2モル使用することが好ましい。0.001より少ない場合にはAOXを低減する効果が不十分であり、0.3より多い場合には湿潤紙力効果に悪影響を及ぼす場合がある。
【0034】
窒素原子を含む求核性物質(E)の量は中間体のアミノ基1モルに対して0.001〜0.3モル、特に0.005〜0.2モル使用することが好ましい。0.001より少ない場合にはAOXを低減する効果が不十分であり、0.3より多い場合には湿潤紙力効果に悪影響を及ぼす場合がある。
【0035】
中間体とエピハロヒドリン類(C)との反応は反応液の濃度が10〜80質量%、反応温度は反応濃度に依存するものの5〜90℃で行うことが好ましい。
【0036】
特に、中間体とエピハロヒドリン類(C)との反応は、中間体にエピハロヒドリン類(C)を付加させる工程(1次工程と称することがある)と、さらに架橋反応により粘度を増加させる工程(2次工程と称することがある)を経ることが好ましく、硫黄原子を含む求核性物質(D)及び窒素原子を含む求核性物質(E)は1次工程、2次工程のいずれか又は複数の箇所において中間体とエピハロヒドリンの反応物にさらに反応させることができる。
【0037】
前記1次工程における中間体とエピハロヒドリン類(C)との反応は、中間体の濃度が30〜80質量%、特に40〜70質量%の水溶液で行われることが、樹脂水溶液の急激な粘度上昇を伴わずに適度に反応が進行しやすいので好ましい。この1次工程における反応温度は急激な粘度の上昇を伴わないように、また中間体とエピハロヒドリン類(C)との付加の効率が低下しないようにすることが好ましく、反応温度が5〜50℃、特に10〜45℃、さらに好ましくは15〜35℃の範囲で反応を進めることが好ましい。また、反応時間は1〜10時間とすることが好ましい。
【0038】
前記2次工程として、反応液を希釈して、又は希釈することなく、反応温度を30〜90℃、特に50〜75℃に加熱し、反応を続けることが好ましい。通常、2次工程の際に加熱温度が高くなると反応混合物の粘度が急激に上昇して反応の制御が困難になることがあるので、2次工程において、反応水溶液の濃度を10〜70%に、特に10〜50%に希釈するのが好ましい。更に、硫酸、硝酸、及びリン酸などの無機酸、ギ酸、及び酢酸などの有機酸、好ましくは特にハロゲンを含まない無機酸、並びに有機酸などの一種以上の酸を中間体とエピハロヒドリン類(C)との反応物の反応制御を容易にするために、中間体のアミノ基に対し0.01〜0.7当量、特に0.02〜0.35当量加えることが好ましい。
【0039】
前記2次工程の反応は、生成物の固形分が25質量%水溶液の25℃における粘度が300mPa・s以下、特に50〜250mPa・sに達するまで反応を続けることで、保存安定性に優れた陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液が得られやすく、また、抄紙工程においてパルプスラリーに添加すると、著しい発泡を伴わないので、抄紙作業を容易にし、抄造される紙の地合いが良好になりやすいので好ましい。
【0040】
反応生成物に水を加えて反応を停止させ、冷却すると同時に固形分を10〜50%に調節することが好ましい。更に、塩酸、硫酸、硝酸、及びリン酸などの無機酸、ギ酸、及び酢酸などの有機酸、特にハロゲンを含まない無機酸、並びに有機酸などの一種以上の酸を加えて、好ましくはpHを1〜6、特にpH2〜5に調整することで、得られる陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液の保存安定性を向上させることが好ましい。
【0041】
反応液の25%水溶液の25℃の粘度が50cps未満であると、陽イオン性熱硬化性樹脂を湿潤紙力増強剤として用いたときの性能が十分でない場合があり、また、300cpsを越えると、陽イオン性熱硬化性樹脂の水溶液の保存安定性が悪くなるばかりでなく、抄紙工程においてパルプスラリーに添加すると、発泡が生じ、抄紙作業を困難になる場合がある。反応液の粘度が前記の粘度範囲に到達したら、必要に応じて水を加えて固形分を20〜40%に調節し、さらに、ハロゲンを含まない酸、例えば硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、あるいはギ酸、酢酸などの有機酸などのうち1種以上の酸を加えてpHを2.5〜3.5に調整し陽イオン性熱硬化性樹脂の水溶液を得る。
【0042】
このようにしてポリアミドポリアミン(A)及び/又はポリアミドポリアミンポリ尿素(B)にエピハロヒドリン類(C)と硫黄原子と含む求核性物質(D)及び窒素原子を含む求核性物質(E)を反応させることによりポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン樹脂またはポリアミドポリアミンポリ尿素−エピハロヒドリン樹脂が得られる。この陽イオン性熱硬化性樹脂は、従来のポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン樹脂またはポリアミドポリアミンポリ尿素−エピハロヒドリン樹脂に比べ高固形分にもかかわらず粘度安定性に優れ、従来のポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン樹脂又はポリアミドポリアミン尿素−エピハロヒドリン樹脂よりも樹脂中のAOX含有量が著しく少なく優れた湿潤紙力効果を示すという極めて優れた性質を有している。
【0043】
本発明の製造方法によって得られる陽イオン性熱硬化性樹脂は、湿潤紙力増強剤やクレープ剤助剤として使用することができる。
【0044】
本発明の製造方法によって得られる陽イオン性熱硬化性樹脂を湿潤紙力増強剤として使用することにより、紙に有用な湿潤紙力増強効果を与えることができる。湿潤紙力増強剤としての使用方法は、例えば、湿潤紙力増強剤をパルプスラリーに添加する方法、抄紙された紙にサイズプレス、ゲートロールコーター等を用いて湿潤紙力増強剤を表面塗工あるいは含浸加工する方法などが挙げられ、中でも湿潤紙力増強剤をパルプスラリーに添加する方法(内添)が好適である。
【0045】
湿潤紙力増強剤として内添して使用する場合は、パルプの水性分散液に又はファンポンプ部の白水中にパルプの乾燥質量当たり通常0.01〜5固形分質量%、好ましくは0.05〜3固形分質量%を添加して使用することができる。添加する際の陽イオン性熱硬化性樹脂は1〜200倍に希釈して適宜使用されることが好ましい。
【0046】
また、本発明の製造方法によって得られる陽イオン性熱硬化性樹脂をクレープ剤助剤として使用することにより、例えば、ティシュペーパー等の家庭紙の製造工程で、すなわちヤンキードライヤー表面に接着した紙匹をヤンキードライヤー表面からドクターブレードで剥離させることで優れたクレープを付与することができる。クレープ剤助剤としての使用方法としては、パルプスラリーに添加する方法、ヤンキードライヤーの前方で湿紙にスプレーする方法、ヤンキードライヤーの表面に直接スプレーする方法、及びこれら前記方法を組み合わせて行う方法がある。
【0047】
クレープ剤助剤として使用する場合は、パルプの乾燥質量当たり通常0.001〜5固形分質量%、好ましくは0.01〜3固形分質量%を添加して使用することができる。
【0048】
本発明の紙は、硫酸アルミニウムを用いる酸性系、または、硫酸アルミニウムを全く用いないかあるいは少量用いる中性系のいずれのパイプスラリーを用いても良い。また、パルプスラリーに対して、酸性ロジン系サイズ剤、中性ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー系サイズ剤、アルケニルもしくはアルキルコハク酸無水物系サイズ剤などを添加しても良い。サイズ剤の添加方法としては、例えば、パルプスラリーにサイズ剤を添加した後、湿潤紙力増強剤を添加する方法、湿潤紙力増強剤を添加した後、サイズ剤を添加する方法、サイズ剤に湿潤紙力増強剤を希釈して予め混合した後、添加する方法などが挙げられる。また、他に、パルプスラリーにサイズ定着剤、乾燥紙力増強剤、消泡剤、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン等の充填剤、pH調整剤、染料、蛍光増白剤等を適宜含有せしめてもよい。また、製造される紙は、通常、坪量が10〜400g/m程度である。
【0049】
本発明の製造方法によって得られる陽イオン性熱硬化性樹脂を湿潤紙力増強剤やクレープ剤助剤として使用する場合のパルプ原料としては、クラフトパルプ、及びサルファイトパルプの晒並びに未晒化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプ、及びサーモメカニカルパルプ等の晒並びに未晒高収率パルプ、新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙及び脱墨古紙等の古紙パルプを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0050】
また、前記原料パルプからなるパルプスラリーに、填料、染料、乾燥紙力増強剤、歩留り向上剤、及びサイズ剤等の添加剤も必要に応じて使用しても良い。更にサイズプレス、ゲートロールコーター、ビルブレードコーター、及びキャレンダー等で、澱粉、ポリビニルアルコール、アクリルアミド系ポリマー等の表面紙力増強剤、表面サイズ剤、染料、コーティングカラー及び防滑剤等を必要に応じて塗布しても良い。
【0051】
本発明の製造方法によって得られる陽イオン性熱硬化性樹脂を湿潤紙力増強剤として用いて製造される紙としては、PPC用紙・感光紙原紙・感熱紙原紙のような情報用紙、ティシュペーパー・タオルペーパー・ナプキン原紙のような衛生用紙、化粧板原紙・壁紙原紙・印画紙用紙・積層板原紙・食品容器原紙のような加工原紙、重袋用両更クラフト紙・片艶クラフト紙などの包装用紙、電気絶縁紙、耐水ライナー、耐水中芯、新聞用紙、紙器用板紙等が該当し、何れの抄紙工程においても、抄造された紙に有用な湿潤紙力増強効果を与える。本発明の陽イオン性熱硬化性樹脂を湿潤紙力増強剤として使用すると紙中に残存する無機ハロゲン分が少ない特徴があることから、無機ハロゲン分を特に低減する必要がある紙に使用することが好ましい。紙中の無機ハロゲン分を特に低減する必要がある紙としては、電気絶縁紙、積層板原紙等が挙げられる。なお、本発明でいう紙には板紙も含まれる。
【0052】
さらには、本発明の製造方法によって得られる陽イオン性熱硬化性樹脂を、酵素やイオン交換樹脂によってAOXを分解することにより、さらにAOXを低減することができるため好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、各例中、%は特記しない限りすべて重量%である。
【0054】
合成例1<ポリアミドポリアミンの合成>
温度計、冷却器、撹拌機、窒素導入管を備えた5リットル四つ口丸底フラスコに、ジエチレントリアミン832g(8.08モル)を仕込み、撹拌しながらアジピン酸1169g(8モル)を加え、窒素気流下、生成する水を系外に除去しながら昇温し、175℃で3時間反応させた後、水1500gを徐々に加えてポリアミドポリアミンの水溶液を得た。このポリアミドポリアミンの水溶液は固形分50.7%であり、その固形分50%の粘度は528mPa・s(25℃)であった。固形分中のアミノ基の量は5.04ミリモル/gであった。
【0055】
合成例2<ポリアミドポリアミンポリ尿素の合成>
実施例1と同様の反応装置にジエチレントリアミン108g(1.05モル)を仕込み、攪拌しながらアジピン酸146g(1.0モル)を加え、窒素気流下、生成する水を系外に除去しながら昇温し、170℃で5時間反応を行った。次いで反応液を120℃まで冷却し、尿素6g(0.1モル)を加えて同温度で1.5時間脱アンモニア反応を行った後、水を徐々に加えてポリアミドポリアミンポリ尿素の水溶液を得た。このポリアミドポリアミンポリ尿素の水溶液は固形分51.3%であり、その固形分50%の粘度は545mPa・s(25℃)であった。固形分中のアミノ基の量は4.79ミリモル/gであった。
【0056】
実施例1
温度計、還流冷却器、撹拌機、滴下ロートを備えた500ml四つ口フラスコに、合成例1で得られたポリアミドポリアミン水溶液117.4g(ポリアミドポリアミン中のアミノ基の量として0.3モル)を仕込み、水を加え固形分40%に希釈した。20℃でエピクロルヒドリン31.9g(0.345モル)を滴下した。30℃に昇温して1.5時間同温度で保持した後(1次保温)。次いで、亜硫酸水素ナトリウム3.6g(ポリアミドポリアミンのアミノ基に対し0.10当量)、アンモニア0.5g(ポリアミドポリアミンのアミノ基に対し0.10当量)を加え、30℃でさらに2時間保温した。次いで、水128.6gを加えて固形分を30%とした後、30%硫酸7.3gを加え、65℃まで昇温してこの温度を保持し、反応液の粘度が300mPa・sに到達した時点で、さらに水70.2g、30%硫酸3.9gおよび88%ギ酸2.0g加えて冷却した。得られた樹脂水溶液の性状及びDCP含有量を表2に示した。なお、DCPの含有量は樹脂水溶液当たりの値で定量はガスクロマトグラフィーにより行ったものをいう(以下、同様)。
【0057】
実施例2
実施例1と同様の装置に、合成例2で得られたポリアミドポリアミンポリ尿素水溶液122.1g(ポリアミドポリアミンポリ尿素中のアミノ基の量として0.3モル)を仕込み、水を加え固形分40%に希釈した。20℃でエピクロルヒドリン31.9g(0.345モル)を滴下した。30℃に昇温して1.5時間同温度で保持した後(1次保温)。次いで、亜硫酸水素ナトリウム3.6g(ポリアミドポリアミンポリ尿素のアミノ基に対し0.10当量)、アンモニア0.5g(ポリアミドポリアミンポリ尿素のアミノ基に対し0.10当量)を加え、30℃でさらに2時間保温した。次いで、水131.2gを加えて固形分を30%とした後、30%硫酸7.2gを加え、65℃まで昇温してこの温度を保持し、反応液の粘度が300mPa・sに到達した時点で、さらに水72.2g、30%硫酸3.9gおよび88%ギ酸2.0g加えて冷却した。得られた樹脂水溶液の性状及びDCP含有量を表2に示した。
【0058】
実施例3
実施例1において、亜硫酸水素ナトリウム3.6g(ポリアミドポリアミンのアミノ基に対し0.10当量)に代えて、メタ重亜硫酸ナトリウム2.8g(ポリアミドポリアミンのアミノ基に対し0.10当量)、アンモニア0.5g(ポリアミドポリアミンのアミノ基に対し0.10当量)を加えた後、30℃でさらに2時間保温した。次いで、水128.6gを加えて固形分を30%とした後、30%硫酸7.3gを加え、65℃まで昇温してこの温度を保持し、反応液の粘度が300mPa・sに到達した時点で、さらに水70.2g、30%硫酸3.9gおよび88%ギ酸2.0g加えて冷却した。得られた樹脂水溶液の性状及びDCP含有量を表2に示した。
【0059】
実施例4〜7
実施例1において、1次保温後に加える硫黄原子を含む求核性物質の種類、窒素原子を含む求核性物質の種類、それぞれの使用量および、65℃への昇温前に加える硫酸量を表1に示すように変えた以外は、実施例3と同様に反応を行った。得られた樹脂水溶液の性状及びDCP含有量を表2に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
比較例1
実施例1において、1次保温後に亜硫酸水素ナトリウム及びアンモニアを加えなかった以外は実施例1と同様に反応を行った。得られた樹脂水溶液の性状及びDCP含有量を表2に示した。
【0062】
比較例2
実施例2において、1次保温後に亜硫酸水素ナトリウム及びアンモニアを加えなかった以外は実施例3と同様に反応を行った。得られた樹脂水溶液の性状及びDCP含有量を表2に示した。
【0063】
比較例3
実施例1において、1次保温後に亜硫酸水素ナトリウムを加えなかった以外は実施例1と同様に反応を行った。得られた樹脂水溶液の性状及びDCP含有量を表2に示した。
【0064】
比較例4
実施例1において、1次保温後に加える亜硫酸ナトリウムを加えず、アンモニア1.0g(ポリアミドポリアミンのアミノ基に対し0.20当量)を加えた以外は実施例1と同様に反応を行った。得られた樹脂水溶液の性状及びDCP含有量を表2に示した。
【0065】
比較例5
実施例1において、1次保温後にアンモニアを加えなかった以外は実施例1と同様に反応を行った。得られた樹脂水溶液の性状及びDCP含有量を表2に示した。
【0066】
比較例6
実施例1において、1次保温後に加えるアンモニアを加えず、亜硫酸水素ナトリウム7.2g(ポリアミドポリアミンのアミノ基に対し0.20当量)を加えた以外は実施例1と同様に反応を行った。得られた樹脂水溶液の性状及びDCP量を表2に示した。
【0067】
なお、実施例1〜7、比較例1〜6で得られた樹脂水溶液を40℃で35日間保存してもゲル化しなったため、保存安定性は十分あることがわかる。
【0068】
【表2】

【0069】
応用実施例1
実施例1〜7および比較例1〜6で得られたそれぞれの樹脂水溶液を、ノーブルアンドウッド式手抄き抄紙機を使用した抄紙試験に供した。得られた紙の湿潤時の紙力強度をJIS−P−8113に準拠して測定した。結果を表3に示した。
抄紙条件
使用パルプ:晒クラフトパルプ(針葉樹/広葉樹=1/1)
叩解度(CSF)422ml
樹脂添加率:0.3%(対パルプ固形分)
抄紙坪量:65g/m2
乾燥条件:100℃×120sec(ドラムドライヤー)
【0070】
【表3】

【0071】
応用実施例2
<接着強度の評価方法>
実施例1〜7で得られた熱硬化性樹脂それぞれ0.1%と鉱物油タイプの離型剤「CR6104」(星光PMC株式会社製)0.02%を含むサンプル液を噴霧器でアルミ箔(3×11cm)に0.1gスプレーし、ホットプレート上で加熱乾燥させた。サンプルが乾燥したアルミ箔の面に湿紙(3×12cm)を貼り合わせ、120℃、3分−100kgf/cm2で熱プレスし、湿紙の余分な水分を取り除くと同時にアルミ箔と紙を接着させた。アルミ箔から紙を剥離するときの剥離強度をJ.TAPPI−19−(2)−B法に準拠して測定した。剥離強度が強いほど、接着強度に優れたクレーピング用接着剤である。
【0072】
剥離強度は100mN/3cmを越えることが好ましい。
【0073】
表4に示す結果から明らかな通り、本発明の実施例1〜7は、接着強度が約260〜350mN/3cmと十分に強く、クレーピング用接着剤として適している。
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドポリアミン(A)及び/又はポリアミドポリアミンポリ尿素(B)にエピハロヒドリン類(C)と硫黄原子を含む求核性物質(D)と窒素原子を含む求核性物質(E)を反応させることを特徴とする陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項2】
硫黄原子を含む求核性物質(D)が亜硫酸水素塩又はメタ重亜硫酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項3】
窒素原子を含む求核性物質(E)がアンモニアであることを特徴とする請求項1又は2に記載の陽イオン性熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法によって得られる陽イオン性熱硬化性樹脂を含有する湿潤紙力剤又はクレープ剤助剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの製造方法により得られた陽イオン性熱硬化性樹脂を含有する紙。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により得られた陽イオン性熱硬化性樹脂を含有する液を表面塗工又はパルプスラリーに添加することを特徴とする紙の製造方法。

【公開番号】特開2007−297511(P2007−297511A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−126399(P2006−126399)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】