説明

陽極材の設置方法

【課題】本発明は、鉄筋コンクリート構造物の電気防食方法の一方式である非消耗陽極方式における陽極材の設置方法に関し、陽極材を挿入した長溝内にセメント系硬化材料を低コストで確実に充填する陽極材の設置方法を提供することを目的とする。
【解決手段】鉄筋コンクリート構造物10の表面に長溝20を切削し、長溝20内に陽極材30を挿入し、陽極材30を固定した長溝20を着脱自在な粘着テープ60で密閉し、流動性を有するとともに粘性の高いセメント系硬化材料を、長溝20の長手方向に沿う、その粘性に応じて決定された間隔ごとに、長溝20内に注入することにより、長溝20内にセメント系硬化材料を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物の電気防食方法の一方式である非消耗陽極方式における陽極材の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄筋コンクリート構造物の電気防食方法の一方式として非消耗陽極方式が知られている。この非消耗陽極方式における陽極材は、例えば、コンクリート表面に一定間隔で長溝を切削し、コンクリートドリル等を用いて長溝底面に穴を形成し、この穴に嵌合する樹脂製のピン等を用いて陽極材をその長溝内に固定した後に、陽極被覆材としてのセメントモルタル等のセメント系硬化材料を長溝内に充填して長溝を修復することにより設置される。この非消耗陽極方式で用いられる陽極材は帯状形状を有する網目状のものであって、寸法は、幅が10mm程度〜20mm程度、厚さが0.5mm程度〜1.3mm程度で、電気防食の設計条件により使い分けられる。尚、この非消耗陽極方式は、非消耗帯状陽極方式や非消耗線状陽極方式とも称されるが、本明細書中ではこの方式の名称を非消耗陽極方式に統一して説明する。
【0003】
このような非消耗陽極方式における陽極材の設置方法として、例えば、鉄筋コンクリート構造物の表面に長溝を切削し、この長溝内に陽極材を挿入し、この長溝の表面を、2m程度の間隔で注入口および排出口を設けた型枠材を取り付けて密閉し、取り付けた型枠材の周辺部分をシール材で密封し、この長溝内にセメント系硬化材料を注入する、陽極材の設置方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−169462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、コンクリート表面には不陸が存在することがある。また、コンクリート表面が塗装されている場合には、塗装による凹凸が存在することもある。
【0006】
特許文献1に提案された陽極材の設置方法は、長溝内にセメント系硬化材料を注入するにあたって、陽極材が挿入された長溝の表面を型枠材で密閉し、取り付けた型枠材の周辺部分をシール材で密封しているものの、コンクリート表面の不陸やコンクリート表面塗装の凹凸により隙間が生じるおそれがあり、このような隙間が生じると、長溝内へのセメント系硬化材料の注入時に、注入したセメント系硬化材料がその隙間から漏れることとなる。また、セメント系硬化材料が漏れないように長溝を完全かつ強固に密閉するためには、手間とコストがかかるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、陽極材を挿入した長溝内にセメント系硬化材料を低コストで確実に充填する陽極材の設置方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の陽極材の設置方法は、鉄筋コンクリート構造物の表面に長溝を切削し、その長溝内に陽極材を挿入し、その長溝を着脱自在な粘着テープで密閉し、流動性を有するとともに粘性の高いセメント系硬化材料を、上記長溝の長手方向に沿う、その粘性に応じて決定された間隔ごとに、その長溝内に注入することにより、その長溝内に上記セメント系硬化材料を充填することを特徴とする。
【0009】
本発明の陽極材の設置方法は、鉄筋コンクリート構造物の表面に切削した長溝内にセメント系硬化材料を注入するにあたって、その長溝を粘着テープで密閉することから、例えばコンクリート表面の不陸やコンクリート表面塗装の凹凸が存在するような場合であっても、長溝を確実に密閉することができ、セメント系硬化材料の注入時にセメント系硬化材料が漏れることが確実に防止される。また、粘着テープは、必要に応じて重ね貼りすることができるため、漏れ防止の確実性を容易に向上させることができる。また、粘着テープは、比較的安価に入手可能なものであるため、低コストで施工できる。さらに、粘着テープが着脱自在なものであることから、施工後には容易に剥がすことができ、作業性に優れる。また、長溝内に注入するセメント系硬化材料が、流動性を有するとともに粘性の高いものであるため、長溝内へのセメント系硬化材料の注入を、容易かつ確実に行うことができる。
【0010】
ここで、本発明の陽極材の設置方法は、上記粘着テープが、透明もしくは半透明のものであることが好ましい。
【0011】
このような好ましい形態によれば、長溝内へのセメント系硬化材料の充填状況を目視確認できる。
【0012】
また、本発明の陽極材の設置方法において、上記セメント系硬化材料は、フロー値が110mm〜180mmを示すものであることが好ましい。
【0013】
尚、本発明にいう「フロー値」とは、JASS15M−103「セルフレベリング材の品質基準」3.5に準拠する静置フロー試験により測定して得られる値である。具体的には、厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの塩化ビニル製パイプ(内容積100ml)を置き、このパイプ内に予め練り混ぜたセメント系硬化材料を充填した後、パイプを引き上げ、セメント系硬化材料の広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をとったものがフロー値である。
【0014】
長溝内においてセメント系硬化材料の流動性が高いために先流れが発生すると、その先流れに起因した空隙が生じ、確実な充填が妨げられてしまうが、このような好ましい形態によれば、長溝内においてセメント系硬化材料の先流れが発生せず、セメント系硬化材料を長溝内に確実に充填できる。
【0015】
また、本発明の陽極材の設置方法は、上記粘着テープで密閉された長溝内に貫入可能な注入口を有する注入器に上記セメント系硬化材料を収容し、その注入器の注入口で上記粘着テープを突破してこの注入口を上記長溝内に貫入し、その注入器に収容されたセメント系硬化材料を上記長溝内に注入することも好ましい形態である。
【0016】
このような好ましい形態は、注入器の注入口で粘着テープを突破して注入する方法であるため、施工性に優れる。
【0017】
また、本発明の陽極材の設置方法のうちの、上記注入器に収容されたセメント系硬化材料を上記長溝内に注入する陽極材の設置方法において、この注入器は、手動で注入するものであることがさらに好ましい。
【0018】
このような好ましい形態によれば、例えば電動ポンプを用いてセメント系硬化材料を長溝内に注入するよりも安価に施工できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、陽極材を挿入した長溝内にセメント系硬化材料を低コストで確実に充填する陽極材の設置方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態である陽極材設置方法における第1の工程を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態である陽極材設置方法における第2の工程を示す説明図である。
【図3】図2に示す陽極材保持部材の斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態である陽極材設置方法における第3の工程を示す説明図である。
【図5】練混ぜ時間を変化させたときの、増粘剤の添加量とフレッシュ状態の関係を示すグラフである。
【図6】増粘剤の添加量と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図7】増粘剤の添加量と電気比抵抗との関係を示すグラフである。
【図8】セメント系硬化材料を長溝内に注入したときの、異なるフロー値毎の注入状況を示す模式図である。
【図9】本発明の一実施形態である陽極材設置方法における第4の工程を示す説明図である。
【図10】図9に示すカートリッジの斜視図である。
【図11】図9に示す注入ガンの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態である陽極材設置方法における第1の工程を示す説明図である。
【0023】
まず、鉄筋コンクリート構造物10の表面の切削すべき溝位置に、図示しないカッタを用いて、長溝20を切削する。ここでは1つの長溝20を図示したが、図1に示す長溝20と同様の長溝を一定の相互間隔を空けて切削する。この長溝20は、帯状の陽極材30(図2参照)の幅に5mm程度を加えた深さを有するものとする。また、この長溝20は、鉄筋コンクリート構造物10の下面に切削した溝である。
【0024】
尚、切削する長溝20の幅は、充填するセメント系硬化材料の種類や陽極材の厚さ等にも依存するが、2mm程度以上10mm程度以下の範囲が可能である。しかし、陽極材30(図2参照)と鉄筋との短絡を発見するための溝内金属探査が可能で、セメント系硬化材料の充填性能(この充填性能に関しては後述する)を勘案し、コスト縮減および作業性の観点から、5mm程度の溝幅が最も好ましい。切削する長溝20の幅が5mm程度の溝幅であれば、チッパー等を用いてカッタ目間のコンクリートをはつり取る作業が不要で、コンクリート表面の切削すべき溝位置をカッタで切削する作業のみで長溝20を形成することができると共に、長溝20内にセメント系硬化材料を確実に充填することが容易である。
【0025】
長溝20を切削した後、この長溝20内を十分に清掃し、コンクリートに水分を含ませる。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態である陽極材設置方法における第2の工程を示す説明図である。また、図3は、図2に示す陽極材保持部材40の斜視図である。
【0027】
長溝20内に、帯状形状を有する網目状の陽極材30を、その幅方向を溝深さ方向に一致させて挿入する。
【0028】
陽極材30を長溝20内に挿入するにあたっては、図2,図3に示す陽極材保持部材40を使用する。
【0029】
この陽極材保持部材40は、陽極材30を挟み込んで保持可能な一対の挟持部41,42と、この挟持部41,42で挟持した陽極材30との間に空隙50を設けた状態でこの挟持部41,42を挟み方向に付勢する弾性湾曲部43とを有する。また、この陽極材保持部材40は、横断面幅寸法が長溝20の溝幅よりも1mm程度大きく、長さ寸法が10mm程度の樹脂製のものである。
【0030】
このような陽極材保持部材40を陽極材30に装着し、この陽極材保持部材40を陽極材30と共に長溝20内に押し込んでこの陽極材保持部材40の横断面幅寸法を縮小させる。これによって、陽極材保持部材40の弾性湾曲部43を長溝20の内壁20aに圧接させると共に陽極材30を強固に保持させて、長溝20内に陽極材30を固定する。
【0031】
図4は、本発明の一実施形態である陽極材設置方法における第3の工程を示す説明図である。
【0032】
陽極材30を固定した長溝20を着脱自在な粘着テープ60で密閉する。
【0033】
長溝20を密閉する粘着テープ60は、透明もしくは半透明のものである。そのため、長溝20内へのセメント系硬化材料の充填状況を目視確認できる。
【0034】
長溝20を粘着テープ60で密閉するにあたっては、まず、粘着テープ60と鉄筋コンクリート構造物10表面との間の接着力を確保するために、粘着テープ60を貼る接着面を清掃し、十分に乾燥させる。
【0035】
ここで、図5〜図8を参照して、長溝20内に注入するセメント系硬化材料について説明する。
【0036】
図5は、練混ぜ時間を変化させたときの、増粘剤の添加量とフレッシュ状態の関係を示すグラフである。このグラフの縦軸はフロー値(mm)を示し、横軸は測定時間(分)を示す。尚、図5に示すグラフは、20℃、60%R.H.の環境で実施した試験結果である。
【0037】
「フロー値」とは、JASS15M−103「セルフレベリング材の品質基準」3.5に準拠する静置フロー試験により測定して得られる値である。具体的には、厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの塩化ビニル製パイプ(内容積100ml)を置き、このパイプ内に予め練り混ぜたセメント系硬化材料を充填した後、パイプを引き上げ、セメント系硬化材料の広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をとったものがフロー値である。
【0038】
図5のグラフに示すように、増粘剤の添加量が多いほど、練混ぜ時のフロー値が小さな値となる。また、増粘剤の添加量にかかわらず、練混ぜ後は、時間の経過と共に、フロー値が小さな値となる。尚、図5のグラフにおいて、60mmよりも小さなフロ−値がプロットされていないのは、フロ−値が60mmを下回るとフロ−コ−ンからセメント系硬化材料が出にくくなり、試験が実施出来なかったためである。
【0039】
図6は、増粘剤の添加量と圧縮強度との関係を示すグラフである。このグラフの縦軸は圧縮強度(N/mm)を示し、横軸は添加量(%)を示す。また、図7は、増粘剤の添加量と電気比抵抗との関係を示すグラフである。このグラフの縦軸は電気比抵抗(×10−6,Ωcm)を示し、横軸は添加量(%)を示す。尚、図6,図7中のプロットは、3個の試験デ−タの平均値で代表させてなるものである。また、電気比抵抗は、4電極法を用いて測定したものである。
【0040】
図6のグラフに示すように、圧縮強度は増粘剤の添加量に依存しない。また、図7のグラフに示すように、電気比抵抗も増粘剤の添加量に依存しない。また、材令が長くなると、乾燥状態(60%)であると、比抵抗は大きくなる傾向にある。
【0041】
図8は、セメント系硬化材料を長溝20内に注入したときの、異なるフロー値毎の注入状況を示す模式図である。図8(a)はフロー値が200mmのセメント系硬化材料110を長溝20内に注入したときの注入状況を示す模式図であり、図8(b)はフロー値が180mmのセメント系硬化材料120を長溝20内に注入したときの注入状況を示す模式図であり、図8(c)はフロー値が150mmのセメント系硬化材料130を長溝20内に注入したときの注入状況を示す模式図であり、図8(d)はフロー値が110mmのセメント系硬化材料140を長溝20内に注入したときの注入状況を示す模式図であり、図8(e)はフロー値が100mmのセメント系硬化材料150を長溝20内に注入したときの注入状況を示す模式図である。
【0042】
従来の陽極材設置方法における長溝内に充填するセメント系硬化材料は、高い流動性を有するものが一般的であり、例えば200mmのフロー値を有する。このようなセメント系硬化材料は、長溝内への片押し連続圧入に適している。そして、200mmのフロー値を有するセメント系硬化材料110を本実施形態の陽極材設置方法で長溝に注入すると、図8(a)に示すような、確実な充填を妨げる空隙が生じるおそれがある程度の先流れが生じる。
【0043】
また、フロー値が100mmとなるように増粘剤を添加してなるセメント系硬化材料150は、図8(e)に示すように、先流れは生じないが、長溝20内への注入時に大きな注入圧力を要する。
【0044】
先流れや注入圧力を考慮したときの、本実施形態の陽極材設置方法で長溝20内に注入するのに最適なセメント系硬化材料は、図8(b)〜(d)に示すように、110mm〜180mmのフロー値を有するセメント系硬化材料である。
【0045】
本実施形態における、長溝20内に注入するセメント系硬化材料は、従来より知られている高い流動性を有するセメント系硬化材料に増粘剤を添加した、流動性を有するとともに粘性の高いものであって、増粘剤を添加した後に、予め、例えば図示しないハンドミキサーを用いて約2分間練り混ぜる。このときのW/Cは例えば23%(標準)であり、目標フロー値は例えば150mm〜180mm(増粘剤の添加量0.01〜0.02% v.s.C)である。このようにして練り混ぜたセメント系硬化材料の可使時間は45分〜60分である。尚、増粘剤添加量とフロー値との関係、および可使時間は、外気温に影響される。したがって、施工前にキャリブレーションを行う。また、練り混ぜ量は、施工人数や施工量を考慮の上決定する。尚、このセメント系硬化材料は、材料の安定性や陽極材30の網目を完全に覆うように細かい骨材を有したものが好ましい。
【0046】
図9は、本発明の一実施形態である陽極材設置方法における第4の工程を示す説明図である。また、図10は、図9に示すカートリッジ71の斜視図であり、図11は、図9に示す注入ガン72の斜視図である。
【0047】
着脱自在な粘着テープ60で密閉した長溝20内に、長溝20の長手方向に沿う、例えば20cm〜30cmの間隔ごとに、セメント系硬化材料を注入する。尚、セメント系硬化材料を注入する間隔は、セメント系硬化材料のフロー値や粘着テープの接着力に起因する。
【0048】
長溝20内にセメント系硬化材料を注入するにあたっては、まず、粘着テープ60の充填開始位置に、セメント系硬化材料を注入するための孔をあける。また、粘着テープ60の充填終了位置には、空気抜きのための孔をあける。また、カートリッジ71にセメント系硬化材料を注入してバックパッキンを施し、カートリッジ71を注入ガン72に装着する。カートリッジ71を注入ガン72に装着してなるものが注入器70であって、この注入器70は、本発明にいう注入器の実施例である。セメント系硬化材料を注入したカートリッジ71を注入ガン72に装着してなる注入器70を用いて、セメント系硬化材料を手動で長溝20内に注入する。粘着テープ60が盛り上がるようになったら注入を一旦終了する。
【0049】
尚、セメント系硬化材料を注入するための孔は、注入器70の注入口で粘着テープ60を突破することによってあけてもよい。この場合、長溝20内に貫入した注入器70の注入口からセメント系硬化材料を即座に長溝20内に注入することができるため、施工性に優れる。
【0050】
ここで、陽極材30は、陽極材保持部材40の弾性湾曲部43とこの陽極材30との間に空隙50を設けた状態で長溝20内に固定されているため、注入されたセメント系硬化材料が充填されやすく、陽極材30の細かい網目がセメント系硬化材料で完全に覆われる。
【0051】
次に、透明もしくは半透明な粘着テープ60を通して目視確認した充填先端から20mm程度戻った位置に孔をあけるとともに、充填孔を粘着テープ60を用いて蓋をする。透明もしくは半透明な粘着テープ60は、注入箇所を目視で把握することができるため好ましい。新たにあけた孔から注入を行う。以上の作業を繰り返して、長溝20内にセメント系硬化材料を充填する。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の陽極材設置方法は、鉄筋コンクリート構造物10の表面に切削した長溝20内にセメント系硬化材料を注入するにあたって、その長溝20を粘着テープ60で密閉することから、例えばコンクリート表面の不陸やコンクリート表面塗装の凹凸が存在するような場合であっても、長溝20を確実に密閉することができ、セメント系硬化材料の注入時にセメント系硬化材料が漏れることが確実に防止される。また、粘着テープ60は、必要に応じて重ね貼りすることができるため、漏れ防止の確実性を容易に向上させることができる。また、粘着テープ60は、比較的安価に入手可能なものであるため、低コストで施工できる。さらに、粘着テープ60が着脱自在なものであることから、施工後には容易に剥がすことができ、作業性に優れる。また、長溝20内に注入するセメント系硬化材料が、流動性を有するとともに粘性の高いものであるため、長溝20内へのセメント系硬化材料の注入を、容易かつ確実に行うことができる。また、本実施形態の陽極材設置方法において、注入器70は、セメント系硬化材料を長溝20内に手動で注入するものであるため、例えば電動ポンプを用いてセメント系硬化材料を長溝内に注入するよりも安価に施工できる。
【0053】
尚、上述した実施形態では、本発明にいう長溝が、鉄筋コンクリート構造物の下面に切削した溝である例について説明したが、本発明にいう長溝は、これに限られるものではなく、鉄筋コンクリート構造物の上面や側面に切削した溝であってもよい。また、本発明にいう長溝は、鉄筋コンクリート構造物の表面に対して所定の角度をもって切削したものであってもよい。
【0054】
また、上述した実施形態では、本発明にいう陽極材が、帯状形状を有する網目状の帯状陽極である例について説明したが、本発明にいう陽極材は、これに限られるものではなく、例えば、帯状形状を有する平板状の帯状陽極や、棒状形状を有する陽極材等であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 鉄筋コンクリート構造物
20 長溝
20a 内壁
30 陽極材
40 陽極材保持部材
41,42 挟持部
43 弾性湾曲部
50 空隙
60 粘着テープ
70 注入器
71 カートリッジ
72 注入ガン
110,120,130,140,150 セメント系硬化材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物の表面に長溝を切削し、該長溝内に陽極材を挿入し、該長溝を着脱自在な粘着テープで密閉し、流動性を有するとともに粘性の高いセメント系硬化材料を、前記長溝の長手方向に沿う、該粘性に応じて決定された間隔ごとに、該長溝内に注入することにより、該長溝内に前記セメント系硬化材料を充填することを特徴とする陽極材の設置方法。
【請求項2】
前記粘着テープが、透明もしくは半透明のものであることを特徴とする請求項1記載の陽極材の設置方法。
【請求項3】
前記セメント系硬化材料は、フロー値が110mm〜180mmを示すものであることを特徴とする請求項1または2記載の陽極材の設置方法。
【請求項4】
前記粘着テープで密閉された長溝内に貫入可能な注入口を有する注入器に前記セメント系硬化材料を収容し、該注入器の注入口で前記粘着テープを突破して該注入口を前記長溝内に貫入し、該注入器に収容されたセメント系硬化材料を前記長溝内に注入することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の陽極材の設置方法。
【請求項5】
前記注入器は、手動で注入するものであることを特徴とする請求項4記載の陽極材の設置方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−117050(P2011−117050A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276826(P2009−276826)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】