説明

陽極酸化基材およびそれを用いた触媒体

【課題】
陽極酸化によって直接アルミニウム板上に多孔質アルミナを形成する触媒体は熱伝導に優れるため、熱交換式反応装置に使用するのに好適である。しかし、その母材がアルミニウムであるため、強度が低い上、融点が低いので耐熱性に劣る欠点がある。また、陽極酸化時には圧延時生じたピンホールや欠陥部に電流が集中し陽極酸化が失敗する恐れがある。ステンレスや他の高強度担持体の上に、アルミニウム層を付けるとき生じるピンホールや欠陥が存在しても、陽極酸化が進行できること、および高温耐熱性に優れる触媒担持体が重要となる。
【解決手段】
酸化電位の異なる2種類以上の金属積層体表面に酸化物が形成された部材において、表面の酸化物が上から2層の金属酸化物からなっている部材を用いて、陽極酸化の作業効率の向上、および耐熱性に優れた触媒担持体とそれを用いた触媒体を提供することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽極酸化基材、およびその製造法、およびそれを用いた触媒体に関し、特に陽極酸化によって作製した触媒担持体およびその製造方法およびそれを用いた触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素などによる地球温暖化が深刻になる中で、化石燃料に代わって次世代を担うエネルギー源として水素が注目されている。一方、水素を燃料として用いるために不可欠な水素の輸送,貯蔵,供給システムが大きな課題となっている。水素は常温で気体であるため、液体や固体に比べて、貯蔵や輸送が難しい。近年、安全性,運搬性および貯蔵能力に優れた水素貯蔵方法として、シクロヘキサンやデカリンのような炭化水素を用いた有機ハイドライドシステムが注目されている。これらの炭化水素は、常温で液体であるため、運搬性に優れている。例えば、ベンゼンとシクロヘキサンは同じ炭素数を有する環状炭化水素であるが、ベンゼンは炭素同士の結合が二重結合である不飽和炭化水素であるのに対し、シクロヘキサンは二重結合を持たない飽和炭化水素である。ベンゼンの水素付加反応によりシクロヘキサンが得られ、シクロヘキサンの脱水素反応によりベンゼンが得られる。すなわち、これらの炭化水素の水素付加と脱水素反応を利用することにより、水素の貯蔵とその供給が可能となる。
【0003】
上記脱水素反応は吸熱反応であり、それに用いる触媒担持体は、高熱伝導をもつアルミニウム表面に陽極酸化により多孔質酸化物を直接作製することが可能である。陽極酸化により形成した触媒担持体は、高熱伝導基板との密着性及び熱伝導性が良好である。アルミニウム板を陽極酸化し、得られた多孔質陽極酸化膜に金属触媒を担持させてなる触媒が知られている(特許文献1,2)。このような面状触媒体は熱伝導に優れるため、熱交換式反応装置に使用するのに好適である。しかし、その母材がアルミニウムであるため、強度が低い上、融点が低いので耐熱性に劣り、通常180℃(軟化が始まる温度)までが使用限度とされていた。例えば、自動車エンジンの排熱を脱水素の熱源として使用する場合、800℃まで耐えられる触媒担持体が必要となる。そこで、耐熱性を改善するために、クラッド加工法でアルミニウムをステンレスに圧延して直接結合させ、得られた基板を陽極酸化したものを使用することが試みられた。しかしながら、この場合には陽極酸化時に、ステンレスとアルミニウムが剥離する場合が極めて多く、陽極酸化の作業効率が低い。そこで、アルミニウムとステンレス板との接合を強化するために、アルミニウムをステンレス板に圧延した後、荷重をかけて前焼成を行った場合には陽極酸化の成功率が著しく改善されること、陽極酸化後さらに後焼成したアルミナ層とステンレスからなる担持体には、アルミナ−ステンレス板の界面にアルミニウム原子と鉄原子が拡散した拡散層が生ずること、該拡散層中のアルミニウム原子および鉄原子の含有量がなだらかに変化した担持体ではアルミナ−ステンレス界面の強度が著しく増加していること、および陽極酸化後と後焼成の間に水和処理を行うことにより、さらに耐熱性を向上させることができることが特許文献3,4に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平2−144154号公報
【特許文献2】特開2007−326000号公報
【特許文献3】特開平7−289899号公報
【特許文献4】特開平8−281125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アルミニウムをステンレス板に圧延した後、荷重をかけて前焼成を行った場合にも、陽極酸化時には圧延時に生じたピンホールや欠陥部に電流が集中し陽極酸化が失敗する恐れがある。ステンレスや他の高強度担持体の上に、アルミニウム層を付けるときに生じるピンホールや欠陥が存在しても、陽極酸化が進行できること、および高温耐熱性に優れる触媒担持体が重要となる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、多孔質触媒担持体の重要な作製プロセスである陽極酸化の作業効率を向上できる基材、および耐熱性に優れた触媒担持体とそれを用いた触媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記の課題を解決するために、少なくとも基材の表面に第1の金属層と、第1の金属層の酸化物層と、第2の金属の酸化物層とが積層され、前記第1の金属層と第2の金属の酸化電位が異なることを特徴とする部材を提供する。
【0008】
前記第1の金属層、及び、前記第2の金属がアルミニウム,ニオブ,チタン,タンタル,ジルコニウム,ハフニウム、希土類元素からなる単一の金属または合金の層である前記部材を提供する。
【0009】
前記金属積層体の基材がステンレス板であって、その表面に多孔質アルミナ層を積層してなる触媒担持体用基板において、ステンレス層と多孔質アルミナ層との間に、ニオブ,チタン,タンタル,ジルコニウム,ハフニウム、希土類元素からなる単一の金属または合金の層と共に、前記多孔質アルミナ層が陽極酸化によって形成されたアルミナ層であることを特徴とする触媒担持体を提供する。
【0010】
前記の触媒担持体に白金,ニッケル,ロジウム,ルテニウムまたはこれらを組み合わせた触媒が担持された触媒体を提供する。
【0011】
前記触媒体は脱水素触媒体であって、シクロヘキサン,メチルシクロヘキサン,デカリン,イソプロパノール,2−プロパノール、脂環式化合物またはこれらの混合物から水素を取り出す前記触媒体を提供する。
【0012】
触媒担持体の形状が板状,管状またはハニカム状のどれかである前記高温用触媒担持体を提供する。
【0013】
燃焼器または燃料機関の高温ガス出口直下に前記触媒体を装着した水素供給装置を提供する。
【0014】
前記水素供給装置に、水素分離膜を設けた水素供給装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の陽極酸化部材は、基材とバリヤー層と陽極酸化膜から構成されており、不均一な表面においても、陽極酸化物を均一に作製することができる。また、局部的に陽極酸化電流値が大きくなり、酸化物膜にダメージを与えることを防ぐことができ、膜の密着力を向上できる。したがって、高温にさらされる水素供給反応などの触媒反応器に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体的な実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0017】
本発明の基材の断面図を図1に示す。本発明においては、図1(a)に示すように、酸化電位の異なる金属層1と金属層2を積層し、積層体基材3上に付ける構成となる。陽極酸化処理によって基材表面の金属層1は、陽極酸化処理によって酸化物4になり金属層2と金属層1の接する面には金属層2の酸化物層5が形成される(図1(b))。さらに、接合強度を高めるために、焼成により金属層間に拡散層を生成させることが好ましい。空気中酸化を防ぐために、この焼成は不活性ガス中で処理するのは好ましい。
【0018】
前記酸化電位の異なる金属層2を積層せずに前記金属層1を前記基材3に積層した場合、加工時に図2(a)に示すようなピンホールなどの欠陥部6が生じることがある。この欠陥部が存在することで陽極酸化時には電流の集中部7(図2(b))が生じて陽極酸化が失敗になる。その結果、金属1の酸化物中に金属1が残る。前記金属積層体中において、金属1の融点が低い場合では金属1が残ることにより陽極酸化処理後の部材の耐熱性に影響を与える恐れがある。一方、図3(a)に示すように本発明の金属層2を設けることにより積層する場合、陽極酸化時欠陥部に金属層2の酸化物が生成するため集中電流部が生じず陽極酸化が最後まで進行できる(図3(b))。金属1の融点が低い場合、必要であれば、陽極酸化により金属1を完全に金属1の酸化物に変えることもできる。
【0019】
本発明の前記陽極酸化部材は、陽極酸化後において基材,金属2層,陽極酸化膜から構成されており、不均一な表面においても、陽極酸化物を均一作製することができる。また、図4(a)のような局部的に陽極電流値が大きくなり、酸化膜にダメージを与えることを防ぐことができ、膜の密着性を向上できる(図4(b))。したがって、高温にさらされても問題がなく、高温耐熱性が優れる。
【0020】
前記酸化電位の異なる金属がアルミニウム,ニオブ,チタン,タンタル,ハフニウムからなる単一の金属または合金である。さらに、前記金属層1が酸化電位の低いアルミニウム,金属2が酸化電位の高いニオブ,チタン,タンタル,ハフニウムからなる単一の金属または合金であることが好ましい。
【0021】
前記金属積層体の基材がステンレス板であって、その表面に多孔質アルミナ層を積層してなる触媒担持体用基板において、ステンレス層と多孔質アルミナ層との間に、ニオブ,チタン,タンタル,ジルコニウム,ハフニウム、希土類元素からなる単一の金属または合金の層と共に、前記多孔質アルミナ層が陽極酸化によって形成されたアルミナ層であることを特徴とする触媒担持体である。このような積層は、ステンレス基板に前記金属2を積層し、前記金属2の表面に前記金属1がアルミニウム板であり、板または箔の圧延(クラッド),溶融めっき,溶射,非水めっき,蒸着の方法によって行うことができる。
【0022】
しかし、積層間の接合は、アルミニウム層とバリヤー層は単に物理的に結合しているに過ぎなく、各層の原子が互いに拡散して化学結合をしているものではない。そこで、ステンレス基板に金属2層を蒸着または箔の圧延(クラッド)、電気めっきなどの方法で積層する。さらに、接合強度を高めるために、800℃〜1100℃で焼成することによりステンレス層と金属2層になだらかに拡散させ、金属2とステンレスの合金層が形成する。
金属2層の空気中酸化を防ぐために、この焼成は不活性ガス中で処理するのは好ましい。
さらに、400℃〜600℃で焼成によって金属層2にアルミニウム原子がなだらかに拡散しアルミニウムと金属層2の合金層が形成するように焼成し、積層板を形成させる。なお、この焼成は空気中でも処理しても、不活性ガス中で処理してもよい。
【0023】
前記積層体のアルミニウム層を陽極酸化処理し、多孔質アルミナ層を形成し、触媒担持体として利用することができる。陽極酸化処理は、積層時でアルミニウム層に生じた欠陥部があっても問題なく進行できる。したがって、陽極酸化処理の作業効率を大幅に向上することができる。陽極酸化膜が必要に応じて厚さを変えることができるが、融点の低いアルミニウムが残ると、高温対応に適しない。本発明の部材を用いれば、陽極酸化処理はアルミニウム層が無くなるまで進行できるので、高温対応の触媒担持体を作製することができる。
【0024】
また、アルミニウムの陽極酸化条件で処理する場合、絶縁性の高いバリヤー層の酸化物層の成長が遅く、陽極酸化印加電流が止まって陽極酸化処理が停止する。これまで陽極酸化処理が処理時間によってアルミナ層の厚さを制御してきたが、電流が流れなくなると、アルミニウム層が完全にアルミナに変わったことを示すことから、制御が簡単になることが可能となる。
【0025】
本発明に使用する金属積層体の基材は、ステンレス以外の材料でもよいが、耐熱性,強度、入手しやすい観点からステンレスにした。本発明に使用するステンレス板は、特に限定されるものではなく、公知のステンレスの中から適宜選択することができる。前述の拡散層の形成の容易性から、フェライト系ステンレスまたはオーステナイト系を使用することが好ましい。なお、本発明に使用するステンレス板の厚さおよび形状などは特に限定させるものではなく、必要とさせる強度,使用する触媒体および用途に応じて適宜選択すればよい。
【0026】
前記金属層2は、耐熱性に優れる、導電性がある、陽極酸化膜がアルミニウム用の陽極酸化電解質に溶けにくく、電流が流れにくい材料がよい。後述する陽極酸化の条件から、アルミニウムの陽極酸化と同様な条件で陽極酸化処理が可能となる、ニオブ,チタン,タンタル,ジルコニウム,ハフニウム、希土類元素からなる単一の金属または合金の層が好ましい。金属層2の厚さは、ステンレス層およびアルミニウム層との拡散層が形成する後、アルミニウムの陽極酸化条件でバリヤー層の陽極酸化の進行が進まない厚さが必要となる。例えば、金属層2はNbの場合では、厚さが100nm以上であることが必要となる。
【0027】
本発明に使用するアルミニウム層は、特にアルミニウム金属のみに限定されるものではなく、公知のアルミニウム合金の中から、後述する陽極酸化が可能なものを適宜選択することもできる。アルミニウム層の厚さは、10μm〜100μmであることが好ましく、後述する陽極酸化の処理条件においてアルミニウム層を無くなるまで処理する観点から20μm〜50μmの範囲が最も好ましい。
【0028】
以下、本発明の触媒担持体の製造方法について記述する。
【0029】
前記積層基板のアルミニウム層を陽極酸化処理によって多孔質アルミナを形成させる。
陽極酸化により形成した触媒担持体は、熱伝導のよい金属層の上に形成するため熱伝導性が良好である。アルミニウム層を陽極酸化し、次いで陽極酸化によって生成したアルミナ層の表面積を増加するためのポアワイド処理,ベーマイト処理,焼成することによって処理することが好ましい。
【0030】
陽極酸化法としては、公知のように、電解液として例えば燐酸,クロム酸,シュウ酸,硫酸水溶液等を使用することができるが、触媒被毒を避けるためには、燐酸,クロム酸,シュウ酸水溶液が好ましい。陽極酸化により形成される多孔層の細孔径,膜厚は、印加電圧,処理温度,処理時間などの条件により、適宜設定することができる。一般に、マクロ細孔径は10nm〜300nm、膜厚は5〜300μmまで製造することができる。また、この陽極酸化の処理時間は処理条件や形成したい膜厚によって異なるが、例えば4重量%のシュウ酸水溶液を電解液とし、処理浴温度を50℃,印加電圧40Vとした場合には1〜5時間処理することで高熱伝導を有する陽極酸化層を形成できる。
【0031】
本発明に使用する前記触媒担持体の形状は特に限定されるものではなく、板状,管状またはハニカム状など前記金属2層が形成できる形状であれば、使用する触媒体および用途に応じて適宜選択すればよい。
【0032】
前記触媒担持体に、公知の含浸法または電着法によって微粒子触媒を担持させることにより、高活性の触媒体を得ることができる。触媒としては、金属触媒であるニッケル,パラジウム,白金,ロジウム,イリジウム,ルテニウム,モリブデン,レニウム,タングステン,バナジウム,オスミウム,クロム,コバルト、及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と、アルミナ,酸化亜鉛,シリカ,酸化ジルコニウム及び珪藻土からなる群から選ばれる少なくとも1種とからなるのが好ましく、金属触媒と塩基性担体との組み合わせが好ましい。例えば、前記高温用触媒担持体をPtコロイド溶液に含浸し、160℃,20min間乾燥して電気炉を用いて450℃で20min間焼成し、触媒体を作製することができる。この触媒体は、吸熱反応であるシクロヘキサンなどの有機ハイドライドから水素を取り出す脱水素反応に利用されることが可能である。さらに、この触媒体は高熱伝導材料によって構成されるため、高反応速度,高転化率な脱水素反応が期待できる。
【0033】
前記有機ハイドライドとは、適切な触媒反応を介して水素を可逆的に放出する有機化合物、特にシクロヘキサン,メチルシクロヘキサンやデカリンなどの飽和縮合環炭化水素を指す。水素を液体状態で貯蔵する技術に利用される。
【0034】
次に、図5に示す水素供給装置について記述する。図5(a)は水素分離膜なしの水素供給装置の断面図で、図5(b)は水素分離膜ありの水素供給装置の断面図を示す。図5(a)の水素供給装置は、本発明の触媒体(触媒担持体基板8,触媒層9から構成),ガス流路10,上蓋11を一体化する。本水素供給装置は、触媒が高熱伝導の積層基板上に直接接合した形態になっており、触媒への熱供給効率が高く、さらに高活性触媒を用いることで、高速水素供給が可能な水素供給装置である。
【0035】
図5(b)供給装置は、図5(a)構造の上で、水素分離膜12,スペーサ13,水素流路14を一体化する水素供給装置とする構成となる。水素分離膜を用いる水素分離は、水素供給装置内部で気体の水素と媒体を分離し、平衡状態を脱水素化方向へ移動し、低温で水素生成を可能にする。水素透過側の圧力を反応側の圧力より低圧条件にすれば、水素透過速度を増大することができる。
【0036】
水素分離膜は、多孔質ポリイミドなどの耐熱性高分子,ゼオライトなどのアルミナシリケートやシリカ,ジルコニア,アルミナなどの酸化物、およびPd,Pd−Ag,V系,Nb系,Zr系,Ta系,Ni−Zr系などの水素吸蔵金属の膜を用いることができる。
また、多孔質ポリイミド片表面にPd−Ag膜を形成するなど、上記材料を組み合わせて用いることもできる。金属膜として、好ましくはV系金属膜を用いる。V金属にMo,Co,Niなどを合金化した膜は250℃以下の低温下でも水素透過性能に優れている。
【0037】
スペーサは、水素分離膜の上部に装着され、生成水素の流路となる。スペーサの構造は、面内に溝を切ったもの、または基板の垂直方向に貫通孔を形成したもので、その片面側に水素分離膜が設けられる。
【実施例1】
【0038】
高温用触媒担持体用の基板の作製プロセスについて、以下に記す。本実施例はアルミニウムを圧延(クラッド)でつけた例を示す。
【0039】
まず、長さ80mm×幅80mm×厚さ1mmのステンレス板(SUS304)に蒸着法によって厚さ200nmのNb層を積層した。次に、ステンレス板とニオブ層積層した基板のニオブ層表面に厚さ50μmのアルミニウム箔圧延処理により30μm厚さのアルミニウム層を積層した。
(陽極酸化)
陽極酸化電解液として0.3mol/Lのシュウ酸(C242)を使用し、陽極には表面を洗浄した前記基板、陰極には白金−チタン(Pt−Ti)板を用い、浴温50℃で40V直流定電圧電解を行って多孔質酸化物膜(アルミナ)を形成した。陽極酸化処理は、陽極酸化電流が0になるまで行った。
(ポアワイド処理)
前記多孔質酸化膜の微細孔を拡大するために、多孔質酸化膜を浴温30℃,5%のH3PO4で、30min処理する。
(ベーマイト処理)
陽極酸化によって生じたアルミナ多孔質酸化膜をイオン交換水、90℃〜100℃,5h処理することによって、皮膜を水和させる。
(焼成)
焼成はγ−アルミナを形成させるものであり、550℃,90min間行う。
(Pt触媒担持)
多孔質酸化膜をPtコロイド溶液に含浸して、450℃で20min焼成し、触媒を作製した。
【0040】
X線回折分析したところ、断面構造にはアルミニウム層がなくなったことが確認できた。また、表面からの元素分析結果によりアルミナと酸化ニオブが検出された。これは、積層時に生じたアルミニウム層の欠陥があっても陽極酸化処理ができたことを示した。アルミニウム蒸着によって形成した不均一のアルミニウム層においても、本発明のバリヤー層を設けることによって、薄い部や欠陥部の電流集中を阻止できることを示した。
【0041】
さらに、室温から700℃に昇温し、同温度で30min維持した後、室温に下げる10サイクルを繰り返し調べた結果、アルミナ層が剥がれないことが確認できた。
【実施例2】
【0042】
実施例2では、アルミニウムを溶射でつけた場合の例である。長さ80mm×幅80mm×厚さ1mmのステンレス板(SUS304)に蒸着法によって厚さ200nmのニオブ層を積層した。次に、ステンレス板とニオブ層積層した基板のニオブ層表面にアルミニウム溶射処理により30μm厚さのアルミニウム層を積層した。さらに、実施例1記載のように、前記積層体に陽極酸化処理などにし触媒体を作製した。
【0043】
陽極酸化処理は、アルミニウム層が無くなるまで進行した。アルミニウム溶射によって形成した不均一のアルミニウム層においても、本発明のバリヤー層を設けることによって、薄い部や欠陥部の電流集中を阻止できることを示した。
【0044】
実施例1と同様に断面構造にはアルミニウム層がなくなったこと、室温から700℃に昇温し、同温度で30min維持した後、室温に下げる10サイクルを繰り返し、アルミナ層が剥がれないことが確認できた。
【実施例3】
【0045】
実施例3では、アルミニウムを溶融めっきでつけた場合の例である。
【0046】
実施例1,2と同様に断面構造にはアルミニウム層がなくなったこと、室温から700℃に昇温し、同温度で30min維持した後、室温に下げる10サイクルを繰り返し、アルミナ層が剥がれないことが確認できた。
【実施例4】
【0047】
本実施例は、図6示したように、実施例3で作製した高活性触媒を用いて前記高温用触媒体を200層積層し、水素自動車を走らせるに必要とされる500L/min水素を供給できる水素発生装置を作成した例である。触媒担持体基板8,触媒層9,ガス流路10,上蓋11を一体化する積層することによって、高熱伝導をもつ積層体表面に陽極酸化により作製した熱伝導が優れた多孔質アルミナを直接作製することができ、高熱伝導基板と触媒担持体の密着性及び熱伝導性が良い水素供給装置をつくった。
【0048】
媒体としての有機ハイドライドであるメチルシクロヘキサンは、燃料ガス流路を通り、形成された触媒層と接触しながら脱水素反応が進行し水素が生成する。生成した水素は冷却器により燃料および生成した芳香族炭化水素と分離され、水素流路を通り、外部のエンジンや燃料電池等へ供給される。
【0049】
自動車は、場合によっては、600℃以上の高温排気ガスが反応器に供給される。アルミニウムが残っていると600℃にさらされればアルミニウムが溶けて、触媒が剥がれる問題が生じる。しかし、本発明の触媒はアルミニウム層がないので、600℃以上の温度にさらされても問題なく利用できる。信頼性の高い反応器をつくることができた。
【実施例5】
【0050】
本実施例の水素供給装置は、図7に示すように、実施例4準拠して作製した水素供給装置であり、水素流路に水素分離膜12,積層間に多数の貫通口15を設けることが特徴である。水素供給装置内部で気体の水素と媒体を分離し、平衡状態を脱水素化方向へ移動する。それらの膜は、膜厚が大きくなるほど水素透過速度が減少するため50μm以下のできるだけ薄い膜とすることが好ましい。より厚い膜を用いる場合は、水素透過側の圧力を反応側の圧力より低圧条件にすれば、水素透過速度を増大することができる。本実施例の水素供給装置は、前記の実施例4の効果の上で、水素分離膜を設けることによって、より低温化できる反応器となる。さらに、触媒体基板の積層体に貫通口を設けて、水素分離膜を有効に使い、熱効率を維持したまま、水素分離効率を向上させることができる。
【実施例6】
【0051】
本実施例は、実施例5の水素供給装置を用いてガソリンの水蒸気改質に応用した例である。反応温度700℃において、ガソリンと水蒸気が本発明の触媒体上に反応し一酸化炭素と水素が生成されたことが確認できた。
【実施例7】
【0052】
本実施例は、実施例5の水素供給装置を用いて灯油の水蒸気改質に応用した例である。
反応温度700℃において、ガソリンと水蒸気が本発明の触媒体上に反応し一酸化炭素と水素が生成されたことが確認できた。
【0053】
〔比較例1〕
本比較例は、本発明の前記金属層2を設けない積層体を用いた触媒担持体の作製の例である。前記ニオブ層を積層しなく、ステンレス板にアルミニウム層だけ溶融めっきによって積層した実施例3と同様に処理して触媒担持体を作製した。
【0054】
陽極酸化処理中に、陽極酸化電流が上昇し続き、処理浴温度の上昇と電源の限界に達したため、途中で陽極酸化処理を中止した。アルミニウム溶融めっきによって形成した不均一のアルミニウム層において、薄い部や欠陥部に陽極酸化電流が集中した結果、陽極酸化処理が失敗したことを示した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により、陽極酸化基材、およびその製造法、およびそれを用いた触媒体に関し、特に陽極酸化によって作製した触媒担持体およびその製造方法およびそれを用いた触媒体を提供できる。さらに、自動車または分散電源に用いるエンジンや燃料電池に水素を供給する供給装置用脱水素触媒体およびそれを用いた水素供給装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の触媒担持体用基板の断面図である。(a)陽極酸化前、(b)陽極酸化後。
【図2】不均一表面をもつ触媒担持体用金属層2がない基板の断面図である。(a)陽極酸化前、(b)陽極酸化後。
【図3】不均一表面をもつ本発明の触媒担持体用基板の断面図である。(a)焼成処理前、(b)焼成処理後。
【図4】不均一表面をもつ本発明の触媒担持体用基板の表面図である。(a)焼成処理前、(b)焼成処理後。
【図5】水素供給装置の断面図である。(a)水素分離膜なし、(b)水素分離膜あり。
【図6】積層型水素供給装置(水素分離膜なし)の断面図である。
【図7】積層型水素供給装置(水素分離膜あり)の断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1,2 金属層
3 積層基材
4 金属層1酸化物層
5 金属層2酸化物層
6 欠陥部
7 電流集中部
8 触媒担持体基板
9 触媒層
10 ガス流路
11 上蓋
12 水素分離膜
13 スペーサ
14 水素流路
15 貫通口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材の表面に第1の金属層と、第1の金属層の酸化物層と、第2の金属の酸化物層とが積層され、前記第1の金属層と第2の金属の酸化電位が異なることを特徴とする部材。
【請求項2】
前記第1の金属層、及び、前記第2の金属がアルミニウム,ニオブ,チタン,タンタル,ジルコニウム,ハフニウム、希土類元素からなる単一の金属または合金の層である請求項1記載の部材。
【請求項3】
金属積層体の基材がステンレス板であって、その表面に多孔質アルミナ層を積層してなる触媒担持体用基板において、ステンレス層と多孔質アルミナ層との間に、ニオブ,チタン,タンタル,ジルコニウム,ハフニウム,希土類元素からなる単一の金属または合金の層と共に、前記多孔質アルミナ層が陽極酸化によって形成されたアルミナ層であることを特徴とする触媒担持体。
【請求項4】
請求項3に記載の触媒担持体に白金,ニッケル,ロジウム,ルテニウムまたはこれらを組み合わせた触媒が担持されていることを特徴とする触媒体。
【請求項5】
前記触媒体は脱水素触媒体であって、シクロヘキサン,メチルシクロヘキサン,デカリン,イソプロパノール,2−プロパノール,脂環式化合物またはこれらの混合物から水素を取り出す請求項4記載の触媒体。
【請求項6】
燃焼器または燃料機関の高温ガス出口直下に請求項5に記載の触媒体を装着したことを特徴とする水素供給装置。
【請求項7】
請求項6に記載の水素供給装置に、水素分離膜を設けたことを特徴とする水素供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−82513(P2010−82513A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252168(P2008−252168)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】