説明

障害物検知システム

【課題】台車の走行の安全性を確保するための障害物検知システムとして、死角の発生などの問題がなく、また危険領域外の物や人を、危険領域内の障害物と誤認することがなく、さらに運転者などの監視者への負担も少ない障害物検知システムを提供すること。
【解決手段】台車の走行方向の障害物を検知する障害物検知システムであって、台車にテレセントリックレンズを有した撮像装置を設け、前記台車の走行方向前方の特定の被写体を前記撮像装置により撮像した画像情報と、前記特定の被写体と前記撮像装置との間に侵入した障害物を前記撮像装置により撮像した画像情報とを、画像処理手段により比較して、2つの画像情報の差異を判別することにより前記障害物を検知することを特徴とする障害物検知システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、門型クレーンなどの台車の走行に障害となる障害物を検知する障害物検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の作業場で使用される門型クレーンなどの台車の走行には、安全性が高く求められている。
【0003】
このような台車の走行の安全性を確保するために、台車の運転者は、目視によって、台車の進行方向の安全性を確認しながら、台車を走行させている。そして、門型クレーンの進行方向に、物や人など、走行の障害となる障害物がある場合は、警告音を発するようにしたり、台車の走行を停止させたりしている。
【0004】
しかし、目視では、死角がある場合、特に大型の台車では、死角になる領域が広いため、確実な安全性が確保しにくく、また目視では、死角にならない領域についても、障害物を見落とすこともあり得、さらに運転者などへの負担が大きい。
【0005】
死角を防止するために、テレビカメラを設置して、台車の運転者が、モニターにより、死角部分を確認する手段を併用している場合もあるが、運転者による見落としの問題や、運転者への負担の問題は解消させることができない。
【0006】
このようなことに対応するため、機械的に障害物を検知する手段が採用されている場合がある。
【0007】
従来、このようなことに対処するためのシステムとしては、図3のような障害物検知システムがあった。
【0008】
図3は、フロアを走行する門型クレーンに適用されている従来の障害物検知システムを説明する説明図である。軌道36を走行する門型クレーンなどの台車31の走行方向側方の一端に、レーザー発光器32が、他端にレーザー受光器33が設けられている。そして、障害物が進入した場合、障害物によりレーザー発光器32からのレーザー光34が遮断され、レーザー受光器33にレーザー光34が受光されなくなることを利用して、障害物を検知している。
【0009】
しかし、前記システムの場合、台車31の走行開始時に、障害物検知システムを稼動させた後、障害物が台車31の走行方向側方から侵入した場合しか検知できない。
従って、台車の走行開始前に、既に障害物が、レーザー光通過領域より、台車31側に侵入している場合などには、障害物が軌道36上にある場合を含めて、これを検知することができない問題点があった。
【0010】
別のシステムとして、図4のような距離センサを利用した障害物検知システムがある。
【0011】
図4(a)では、図3と異なり、レーザー発光器とレーザー受光器が一体化されたレーザー受発光器45が用いられている。また設置位置も、図3と異なり、門型クレーンなどの台車41の走行方向側方ではなく、台車41自体に設けられており、台車41における軌道46の上方部に設けられている。
【0012】
そして、軌道46の終端のストッパー47にレーザー光反射板48が設けられている。
レーザー光反射板48により反射したレーザー受発光器45からのレーザー光44を、レーザー受発光器45で受光し、連続的に、台車41に設けられたレーザー受発光器45と、軌道46の終端のストッパー47に設けられたレーザー光反射板48との距離を測定している。
【0013】
そして、障害物が軌道46内に侵入した場合、レーザー受発光器45からのレーザー光44が、障害物で反射し、レーザー受発光器45から反射位置までの距離が、レーザー受発光器45から軌道46の終端のストッパー47までの距離が変化することを利用して障害物を検知している。
この様な連続的に距離を測定するシステムとしては、レーザー受発光器45の代わりに、超音波受発信器を用いるシステムもある。
しかし、前記システムの場合、以下の欠点がある。
【0014】
即ち、連続的に距離を測定する場合、レーザー光44や超音波(図示せず)は、通常、レーザー受発光器45や超音波受発信器(図示せず)から、一定の広がりを持って放射状に放出されるため、図4(b)の如く、軌道46から遠く離れた物や人などの非障害物491を、軌道46内ないし軌道46近傍の障害物と誤認する場合がある。
また、図4(c)の如く、レーザー受発光器45の設置位置によっては、台車41近傍の障害物492を検知できない死角部分が発生する。
【0015】
以上の問題点を解消させるために、撮像装置と画像処理を組み合わせた障害物検知システムが考えられる。
【0016】
図5は、門型クレーンの障害物検知システムを説明する図であり、図5(a)は、平面図であり、図5(b)は、正面図である。
図5では、門型クレーン51に撮像装置であるテレビカメラ59が設けられており、軌道56の終端のストッパー57を特定の被写体として撮像している。障害物が侵入した場合、テレビカメラ59は、障害物を撮像することになり、周知の画像処理を用いて、特定の被写体と障害物の画像を比較して、差異のあることを認識することにより、障害物を検知している。
【0017】
しかし、前記システムの場合、門型クレーン51の走行により、門型クレーン51と被写体であるストッパー57との距離が変化するため、テレビカメラ59のピントがずれる問題がある。同じく、侵入した障害物についても、テレビカメラ59のピントがずれる問題がある。また、門型クレーン51の走行距離が、長い場合は、被写体の画像の大きさが大きく変わるため、画像処理が非常に困難となる問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、台車の走行の安全性を確保するための障害物検知システムとして、死角の発生などの問題がなく、また危険領域外の物や人を、危険領域内の障害物と誤認することがなく、さらに運転者などの監視者への負担も少ない障害物検知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、鋭意検討の結果、テレセントリックレンズを有した撮像装置と、周知の画像処理手段とを組み合わせることにより、前記の課題を達成させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
即ち、本発明は、台車の走行方向の障害物を検知する障害物検知システムであって、台車にテレセントリックレンズを有した撮像装置を設け、前記台車の走行方向前方の特定の被写体を前記撮像装置により撮像した画像情報と、前記特定の被写体と前記撮像装置との間に侵入した障害物を前記撮像装置により撮像した画像情報とを、画像処理手段により比較して、2つの画像情報の差異を判別することにより前記障害物を検知することを特徴とする障害物検知システムである。
【0021】
本発明は、撮像装置として、テレセントリックレンズを有した撮像装置を用いているため、撮像装置を設けた台車の走行により、撮像装置と特定の被写体との距離が、変化しても、画像のピントがずれることがなく、進入した障害物についても、撮像装置のピントがずれる問題がない。また、台車の位置によっても、被写体の画像の大きさが変わらないため、正確な画像処理が容易に可能となる。
【0022】
また、テレセントリックレンズは、画角が0度であり、画角に広がりがないため、危険領域外の物や人を、危険領域内の障害物と誤認することがない。
【0023】
さらに、本発明によれば、機械的に障害物を検知するため、確実な障害物の検知ができ、さらに運転者などに対する負担もない。
また、レーザー光や超音波を用いる場合と異なり、目視可能な画像で、撮像するため、運転者などの監視者が、モニターにより、直接に障害物を確認することもでき、画像処理による機械的な検知と共に、目視による検知も可能であり、2重の障害物検知が可能である。
【0024】
本発明に用いられるテレセントリックレンズの種類は、特に限定されない。
本発明における特定の被写体とは、障害物の画像情報と比較するための基準になる被写体をいい、通常、台車の走行方向前方に固定された台車止め(ストッパー)等が特定の被写体として利用される。
【0025】
本発明においては、特定の被写体を撮像装置により撮像した画像情報と、障害物を撮像装置により撮像した画像情報とを、画像処理手段により比較するため、特定の被写体の画像が、前記撮像装置の画像上において常に同位置にて、撮像されることが好ましいため、撮像装置を設ける台車は、予め敷設した直線状の軌道上を走行することが好ましい。
【0026】
請求項2は、この好ましい態様に対応するものであり、前記の障害物検知システムであって、前記台車が、直線状の軌道上を走行することを特徴とする障害物検知システムを提供する。
【0027】
本発明が適用される台車は、特に限定されないが、原子力施設においては、より一層の安全性が求められ、なかでも、原子燃料貯蔵施設における門型クレーンにおいては、本発明の効果をより充分に発揮させることができる。
図1に原子燃料貯蔵施設における門型クレーンを示す。燃料集合体ピット11には水が満たされており、水中下に設けられた燃料集合体保管ラック12に原子燃料棒が保管されている。門型クレーン13は、軌道14a、14b上を走行し、燃料集合体ピット11の位置では、燃料集合体ピット11にまたがって走行している。この様な原子燃料貯蔵施設では、物や人などの障害物の燃料集合体ピット11への落下は、重大な事故に繋がるため、本発明の前記の門型クレーンへの適用は、特に好ましい。
原子燃料貯蔵施設における門型クレーンは、燃料集合体ピット11以外においても利用されるが、原子燃料貯蔵施設での、危険領域への侵入は、通常の施設以上の安全性が求められるため、燃料集合体ピット11以外においても本発明を適用することが好ましい。
【0028】
請求項3は、この好ましい態様に対応するものであり、前記の障害物検知システムであって、前記台車が、原子燃料貯蔵施設における門型クレーンであることを特徴とする障害物検知システムを提供する。
【0029】
障害物を検知する範囲は、台車の位置から、台車の移動可能範囲の終端部までであることが好ましいため、前記特定の被写体は、台車の移動可能範囲の一端に設けられていることが好ましい。
【0030】
請求項4は、この好ましい態様に対応するものであり、前記の障害物検知システムであって、前記特定の被写体が、前記台車の移動可能範囲の一端に設けられていることを特徴とする障害物検知システムを提供する。
【0031】
撮像装置は、画像処理が可能な撮像装置であればよいが、画像処理に適していること、目視による検知も併用できること、および経済性の観点より、テレビカメラであることが好ましい。
【0032】
請求項5は、この好ましい態様に対応するものであり、前記の障害物検知システムであって、前記撮像装置がテレビカメラであることを特徴とする障害物検知システムを提供する。
【0033】
撮像装置は、台車に設けられるが、その位置として、前記軌道に対応する位置、即ち前記軌道の上方部分に設けられていることが、特定の被写体を、撮像装置の同一位置に容易に撮像できるため好ましい。
【0034】
請求項6は、この好ましい態様に対応するものであり、前記の障害物検知システムであって、前記撮像装置が、前記台車の前記軌道に対応する位置に設けられていることを特徴とする障害物検知システムを提供する。
【0035】
画像処理により障害物を検知した時に、警告音を発するシステムとすることにより、運転者は台車の走行を早期に停止させることが出来、また障害物が人である場合、警告音により、侵入者が、早期に危険領域外に退去することができる。
【0036】
請求項7は、この好ましい態様に対応するものであり、前記の障害物検知システムであって、前記画像処理により前記障害物を検知した時に、警告音を発することを特徴とする障害物検知システムを提供する。
【0037】
画像処理により障害物を検知した時に、台車が走行を停止するシステムとすることにより、運転者の判断による台車の走行停止のように走行停止までにタイムラグが発生することがなく、障害物の侵入と同時に、台車の走行を停止させることができる。
【0038】
請求項8は、この好ましい態様に対応するものであり、前記の障害物検知システムであって、前記画像処理により前記障害物を検知した時に、前記台車が走行を停止することを特徴とする障害物検知システムを提供する。
【発明の効果】
【0039】
本発明により、台車の走行の安全性を確保するための障害物検知システムとして、死角の発生などの問題がなく、また危険領域外の物や人を、危険領域内の障害物と誤認することがなく、さらに運転者などの監視者への負担も少ない障害物検知システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
図2は、図1の原子燃料貯蔵施設における門型クレーンに本発明を適用した例を示す説明図である。図2(a)は、平面図であり、図2(b)は、正面図である。
【0041】
図2では、軌道26の上方の門型クレーン21の下方側面にテレセントリックレンズ20が設けられたテレビカメラ29が設けられ、テレビカメラ29は、軌道26の終端のストッパー27を特定の被写体として撮像している。障害物が侵入した場合、テレビカメラ29は、障害物を撮像することになり、周知の画像処理を用いて、特定の被写体と障害物の画像を比較して、差異のあることを認識することにより、障害物を検知している。そして、障害物を検知した時に、警告音を発し、さらに門型クレーン21が走行を停止するシステムに構成されている。
【0042】
図2の場合、図5の場合と異なり、テレビカメラ29には、テレセントリックレンズ20が設けられているため、門型クレーン21の走行に伴い、テレビカメラ29と、軌道26の終端のストッパー27との距離が変わっても、ストッパー27の画像のピントがずれることはない。
【0043】
また、障害物が侵入し、テレビカメラ29により障害物が撮像される場合にも、障害物の画像のピントがずれることはない。
【0044】
また、ストッパー27と障害物が撮像された両画像の大きさが同じであるため、画像処理による両者の比較が容易にできる。
【0045】
また、テレビカメラ29には、テレセントリックレンズ20が設けられているため、テレビカメラにて撮像する範囲は、テレセントリックレンズの口径の真正面(図2点線部)のみであり、レーザー発光器や超音波発信器の如く、放射状位置にある物などを障害物と誤認することがない。
【0046】
この様に、本発明の障害物検知システムでは、門型クレーン等の台車が燃料集合体ピット22にまたがっている様な高い安全性が求められる施設においても、確実に障害物を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】原子燃料貯蔵施設における門型クレーン示す説明図である。
【図2】本発明の障害物検知システムの一例を示す説明図である。(a)は平面図、(b)は正面図。
【図3】従来の障害物検知システムを説明する説明図である。
【図4】従来の障害物検知システムの他の一例を示す説明図である。
【図5】画像装置を用いた障害物検知システムの一例を示す説明図である。(a)は平面図、(b)は正面図。
【符号の説明】
【0048】
11、22 燃料集合体ピット
12 燃料集合体保管ラック
13、21、51 門型クレーン
14a、14b、26、36、46、56 軌道
20 テレセントリックレンズ
27、47、57 ストッパー
29、59 テレビカメラ
31、41 台車
32 レーザー発光器
33 レーザー受光器
34、44 レーザー光
45 レーザー受発光器
48 レーザー光反射板
491 非障害物
492 障害物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車の走行方向の障害物を検知する障害物検知システムであって、台車にテレセントリックレンズを有した撮像装置を設け、前記台車の走行方向前方の特定の被写体を前記撮像装置により撮像した画像情報と、前記特定の被写体と前記撮像装置との間に侵入した障害物を前記撮像装置により撮像した画像情報とを、画像処理手段により比較して、2つの画像情報の差異を判別することにより前記障害物を検知することを特徴とする障害物検知システム。
【請求項2】
前記台車が、直線状の軌道上を走行することを特徴とする請求項1に記載の障害物検知システム。
【請求項3】
前記台車が、原子燃料貯蔵施設における門型クレーンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の障害物検知システム。
【請求項4】
前記特定の被写体が、前記台車の移動可能範囲の一端に設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の障害物検知システム。
【請求項5】
前記撮像装置がテレビカメラであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の障害物検知システム。
【請求項6】
前記撮像装置が、前記台車の前記軌道に対応する位置に設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の障害物検知システム。
【請求項7】
前記画像処理により前記障害物を検知した時に、警告音を発することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の障害物検知システム。
【請求項8】
前記画像処理により前記障害物を検知した時に、前記台車が走行を停止することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の障害物検知システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−153570(P2007−153570A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353317(P2005−353317)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000165697)原子燃料工業株式会社 (278)
【Fターム(参考)】