説明

集積アンテナのレーダ断面積を減少する方法及び構成

主外面11を有するアンテナ10を含むアンテナ構造であり、この構造において、前記アンテナ10は周囲材料20の表面に集積される。アンテナ構造は、主面11の周囲に沿って配置され且つ主面と重なり合う遷移帯30を更に具備する。遷移帯30は、アンテナ10と周囲材料20との間の散乱特性の円滑な遷移を可能にするために、遷移帯30の外周部からの距離によって変動する抵抗率を有する抵抗材料の層を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に集積アンテナに関し、特に、そのようなアンテナのレーダ断面積を減少する方法及び構成に関する。
【背景技術】
【0002】
過去数年間、ステルス技術の概念は、特に航空機に対して適切に利用されてきた。その殆どの基本的な定義において、ステルスは、ある環境を通して探知されないようにするための技術である。従って、その目的は、例えばレーダ又は他の電磁検出技術を使用して対象物を検出するのを更に困難にすることである。この目的のために、複数の設計、材料及び電子デバイスの開発が行われてきた。
【0003】
レーダによるステルス物体の高い視認性の主な潜在的原因は、その対象物と関連付けられたアンテナである。アンテナは、通常、動作帯域においてエネルギーを吸収するように設計されるため、アンテナが非吸収性環境に集積される場合、帯域内の回折が重要である。アンテナからの反射と周囲からの反射との間に位相差がある場合、帯域外の回折はいわゆるレーダ断面積(RCS)に寄与する。アレイアンテナのレーダ断面積(RCS)による現象に代表されるように、いくつかの現象がレーダによる視認性に寄与するものとして識別されてきた。それら寄与するものは、i)構造上のRCS、ii)アンテナモードのRSC、すなわちアンテナ内部からの反射、iii)グレーティングローブ、すなわち上記無線周波数(RF)帯域のスパイク、に区分される。いくつかの「種類」の寄与するものの例としては、グレーティングローブ、エッジ回折及び表面波がある。
【0004】
要素間の間隔が半波長より大きい場合、グレーティングローブは発生する[[1、[2、[3]。
【0005】
エッジ回折は、アンテナとその周囲との間の散乱特性の急激な変化により起こる回折として解釈される[[4]。アンテナからの反射とアンテナの周囲からの反射との間に位相差がある場合、帯域外の回折はRCSに寄与する。
【0006】
従って、アンテナのRCSを減少するための方法及び構成が必要とされる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の基本的な目的は、ステルス物体のアンテナのレーダによる視認性を減少することである。
【0008】
本発明の更なる目的は、周囲面に集積されたアンテナアレイのレーダ断面積の減少を可能にすることである。
【0009】
更なる目的は、集積アンテナアレイと周囲面との間の散乱特性の円滑な遷移を可能にすることである。
【0010】
更なる目的は、集積アンテナアレイの散乱特性を完全導電体の散乱特性に変換できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的及び他の目的は、添付の請求の範囲に従って達成される。
【0012】
簡単に説明すると、本発明は、周囲材料に集積されたアレイアンテナの外面の周囲に沿って抵抗材料の薄い抵抗シートを提供することを含む。抵抗シートは、アンテナとその周囲材料との間の散乱特性の円滑な遷移を提供する漸減抵抗率分布を有する。
【0013】
本発明は以下の利点を含む:
集積アンテナとその周囲材料との間の散乱特性の円滑な遷移;
減少したモノスタティックレーダ断面積を有する集積アンテナアレイ;
集積アンテナのレーダ断面積の減少。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、完全導電体の表面等の周囲材料の表面に集積されたアレイアンテナに関して説明されるが、それに限定されない。他の周囲材料及びレドーム構造を有するアンテナに対して同一の考えが可能である。
【0015】
本発明の意味及び種々の面を完全に理解するために、いくつかの数学的検討及び理論的検討を行なう必要がある。
RCS及び物理光学近似
対象物のレーダ断面積(RCS)、すなわちσの基本定義は、無限距離にいる観察者の方向における入射電力に対する散乱電力の振幅の比である。換言すると、等方的に散乱した場合に同一の散乱電力密度を結果として与える領域と同等である[[5]。対象物のRCSは、散乱波の振幅と入射波の振幅との比として判定される。すなわち、
【0016】
【数1】

【0017】
式中、rは位置であり、kは円形波数である。Eは散乱波であり、入射波Eは以下の式に従う平面波である:
【0018】
【数2】

【0019】
一般に、対象物のRCSは、入射波の偏光及び周波数に依存する。有限倍無限アレイ等の2次元の対象物の場合、RCSは対象物と同等の長さであり、以下の式により与えられる:
【0020】
【数3】

【0021】
式中、ρは対象物の反射係数である。
【0022】
RCSに対して対数目盛を使用することは便利である場合が多い。通常、RCSが平方メートル又はメートルで与えられるため、これは単位dBsm及びdBmを与える。
【0023】
例えばPEC対象物の表面に集積されたアンテナから散乱する場合、アンテナを有する対象物の散乱からアンテナがPECに置換された時の対象物の散乱を減算した結果をアンテナの散乱とを考えるのは自然なことである。散乱界は、対象物の表面上の電流の積分により判定される。考慮されるアンテナアレイは平面であり、無限平面PECの表面に集積されると仮定する。無限PECの表面の電流は、

すなわち反射係数ρPEC=−1により与えられる。散乱界全体は、表面上の磁流M及び電流Jの積分により取得される。
【0024】
アンテナからの散乱界に対しては、表面領域全体にわたる電流JPECを減算する必要がある。これにより、アンテナアパーチャにわたるフーリエ積分として散乱界を与える。すなわち、
【0025】
【数4】

【0026】
ここで、無限平面のアパーチャに対する同等のモデルが使用される。いわゆる物理光学(PO)近似により、アンテナアパーチャの配置による散乱現象が基本的に理解される。電流は、以下の式に従って近似される:
【0027】
【数5】

【0028】
式中、ρ(x)はアンテナ表面の反射係数である。一般に、反射係数は2つの要素からなるが、この分析に対してスカラー反射係数を考慮することで十分である。反射係数は、
空間座標
x、
周波数
f、
方向

及び
入射波

の偏光に依存する。これにより、散乱界のPO近似が以下のように与えられる:
【0029】
【数6】

【0030】
式中、

である。RCSの物理光学近似は以下の式を与える:
【0031】
【数7】

【0032】
その結果、モノスタティックRCSは以下の式のように減少する:
【0033】
【数8】

【0034】
正反射及びエッジ回折
PO近似における反射係数ρ及び辺aを有する正方形平面の形態のアンテナのRCSについて検討する。入射波の方向を

で与える。アンテナのモノスタティックRCSは、以下の式に従って計算される:
【0035】
【数9】

【0036】
ここで、RCSがアンテナアパーチャにおける反射係数と周囲材料、すなわちPECとの間のコントラストに比例することが観察される。更にRCSの値は、ka>>1の場合に急激に変動し、正反射方向q=0で最大値を取る。その結果、エッジ回折界はx軸及びy軸に沿って、すなわちΦ=0,90°,180°,270°に沿って最も強くなる。POは、この回折界に対してそれ程正確でないことが観察される。いわゆる物理光学的回折理論(PTD)は、正確度を向上するために使用される。しかし、POは基本的な現象を示し、この分析に対しては十分である。RCSは、Φ=±45°、±135°に沿って最小となる。これは、入射波が後方以外の方向、すなわち観察者とは別の方向に反射されるように対象物を位置合わせすることが重要であることを示す。
【0037】
この例は非常に単純であるが、小さな(モノスタティック)RCSを提供するようにアンテナアレイを設計する場合に考慮される必要がある基本的な現象を示す。第1に、正反射が安全な方向、すなわちレーダアンテナとは別の方向に向けられるようにアンテナアレイを方向付ける必要がある。第2に、回折波の振幅を可能な限り低減することが重要である。アンテナのエッジの位置合わせは、レーダアンテナとは別の方向へ回折波を向けるために使用される。
【0038】
一般に正反射は、対象物本体の正反射と同一方向、すなわちステルス物体に対して安全な方向に向けられるため、集積アンテナに対して問題はない。回折波の劣化作用は位置合わせにより低減されるが、モノスタティック方向の複数の散乱波及び後方散乱波を回避することが困難なため、それら回折波の振幅を低減することは重要である。
【0039】
本発明の一般的な面によると、回折波の振幅を低減するために、アンテナのエッジにおける反射係数の不連続性を除去する必要がある。
【0040】
漸減抵抗エッジの処理は、インピーダンス不連続性による回折及びエッジ回折を小さくする処理として周知である[6、[4]。抵抗シートは、

となるように高い導電性

及び非常に薄い厚さ

を有する。例えば、[4、[7、[8]を参照。そのようなシートは、ソールズベリ・スクリーン及びJaunmann吸収体等のレーダ吸収性材料(RAM)において使用される[4]。それらシートは、自由空間に対してアンテナのエッジを漸減するために更に使用される[1、[9]。それらの散乱特性は、[10、[11]において詳細に分析される。
【0041】
本発明の基本的な実施形態は、アンテナと周囲材料との間の散乱特性の円滑な遷移を提供するために、周囲材料に集積されたアンテナアレイの周囲に沿って漸減抵抗率を有する遷移帯を提供することを含む。
【0042】
図1及び図2は、本発明による構成の一実施形態を示す2つの異なる図である。構成は、周囲材料20の表面に集積された略平坦なアンテナ構造10を含む。アンテナ構造10は矩形形状で示されるが、それに限定されない。本発明は、任意の形状のアンテナに同様に適用可能である。
【0043】
更に構成は、薄い抵抗シートの形態で提供される遷移帯30を含む。この遷移帯30は、アンテナ10の外周部に沿って配置され且つ延在するか、あるいはアンテナ10の主外面11と重なり合い、アンテナ10の中央部分を被覆しない。簡単に言うと、遷移帯30は、絵画を取り囲むフレームのようにアンテナ表面を取り囲む。図1において、遷移帯30は、アンテナ表面上に遷移帯30の外周部から距離dにわたり延在する。
【0044】
図2において、上述のアンテナ構造を横断面図で示す。図2は、上述のアンテナ10の主外面11及び遷移帯30のアンテナ表面11との重なり合い方を示す。
【0045】
図1及び図2において、種々の構成要素の反射係数が示される。しかし、反射係数の実際の値は、図1及び図2に示されるものに限定されず、本発明の概念の範囲内で変動してもよい。
【0046】
周囲材料20の表面とアンテナ10の主外面との間の境界面にわたる散乱特性の要求されるような円滑な遷移を提供するために、遷移帯30は漸減抵抗率プロファイルを有する。遷移帯の抵抗率は、アンテナ表面上における遷移帯の外周部から内側への距離dによって変動する。特定の実施形態によると、遷移帯の抵抗率は、周囲材料の抵抗率及びアンテナの主外面11の抵抗率に依存する。
【0047】
上述の例は、遷移帯30の外周部がアンテナの主面11の外周部と一致するものとして示すが、遷移帯30が周囲材料20と重なり合ってもよいことを意味する。その場合、周囲材料と重なり合う遷移帯の散乱特性は、周囲材料の散乱特性と一致する。
【0048】
遷移帯は、主面11の周囲全体に沿って連続的に延在するのが好ましい。しかし、いくつかの応用例の場合、遷移帯のギャップ又は他の不規則性を許可することが有益であり又はその必要があるだろう。更に遷移帯30は、主面11全体に沿って同等の幅dであるとして示される。幅は、応用例によって変動してもよいことを意味する。
【0049】
上述の抵抗シートは、σd=R−1となるように高い導電性

及び非常に薄い厚さ

を有するのが好ましい。特に、シートの適切な材料は、ソールズベリ・スクリーン、導電ペイント及び導電性フィルム等のレーダ吸収性材料(RAM)において共通して使用されるグループから選択される。材料は、いわゆる低放射ウィンドウの金属被膜上に見つけられる。
【0050】
薄い抵抗シートの形態の遷移帯30を提供するための理論的検討については、以下に更に詳細に説明する。
薄い導電性シート
上述したように、アンテナアレイの回折界を低減するために、アンテナアレイとPEC等の周囲材料との間の境界面にわたり、散乱特性の円滑な遷移、すなわちRCSを提供する必要がある。
【0051】
本発明の一実施形態によると、遷移帯30は、高い導電性、すなわちσd=R−1が有限となるように厚さd→0及び導電性σ→∞を有し且つアンテナ10の主外面11上に配置される薄い抵抗シート(好ましくは金属)である。
【0052】
本発明によると、シートの反射係数は、以下の式(式の導出を付録Iに示す)により判定される:
【0053】
【数10】

【0054】
式中、Rはシートの抵抗率であり、ηは横波インピーダンスである。すなわち、θが入射角である場合、η=η/cosθ且つηTM=ηcosθである。ρは実数であり且つ

であることは容易に分かる。対応する透過係数は、同様にτ=1+ρにより与えられる。
【0055】
アンテナ及び遷移帯の対応する回路モデルを図3に示す。
【0056】
PECの表面に集積されたアンテナの特定の実施形態の場合、抵抗をゼロ、すなわち遷移帯の外周部におけるPEC等の周囲材料の抵抗に等しくし、エッジから距離dにおける空間である無限大まで増加する。組み合わされたシート及びアンテナの反射係数は、以下の式により与えられる:
【0057】
【数11】

【0058】
これは、−1を1にマッピングする等角写像を表す。単位円は、以下の式で表される位置に中心を置く円にマッピングされる:
【0059】
【数12】

【0060】
上記円の半径は以下の式で与えられる:
【0061】
【数13】

【0062】
反射係数は、R→0となるとρ'=−1に近づく「反転された」リアクタンスサークル(reactive circle)に従う。図4を参照。
【0063】
当該構成に対するモノスタティックRCSは、以下の式により与えられる:
【0064】
【数14】

【0065】
この式は、任意の遷移帯ρ(τ)に対して容易に評価される。RCSは、以下のように近似される:
【0066】
【数15】

【0067】
式中、ρ”は単位面積を有する滑らかな関数に関わるρ+1により与えられる。すなわち、
【0068】
【数16】

【0069】
図4を再度参照すると、関係のある反射係数はρから−1の直線に従う。RCSの2つの部分は、以下のように評価される:
【0070】
【数17】

【0071】
第1の部分は、十分に大きな遷移帯に対して任意に小さくされる。第2の部分は、「反転された」リアクタンスサークルと直線との差分のフーリエ変換により与えられる。最悪な場合はρ=±iの時である。
【0072】
導電性シートの効果を示すために、反射係数の区分的定数、線形補間、3次スプライン補間の例(図5aを参照)及び図5bの対応するフーリエ変換を考慮する。ここで、抵抗の漸減によりRCSが減少することが分かる。低周波数、すなわち、

遷移帯の長さに対する3つの例の間に大きな相違点はない。高周波数の場合、円滑な遷移に対する改善は顕著である。
数値的な例
数値シミュレーションは、2つの異なるアレイアンテナのRCSの減少を示すために使用される。無限倍有限アレイについて検討する。コードが周期的境界条件を処理できる限り、無限アンテナアレイは、時間領域差分法(FDTD)、モーメント法(MoM)又は有限要素法(FEM)のうちいずれかを使用して周知の方法でシミュレートされる[2、[12、[13]。ここでは、H.Holterにより開発されたコード周期的境界時間領域差分法(PB−FDTD)[13]が使用される。
自己相補的なパッチアレイ
本発明の一実施形態によると、複数のPECパッチを含む無限アンテナアレイを考慮する。パッチは、使用される供給点に依存して±45°の方向に直線偏波界を与える各パッチの角部で供給される。パッチアレイは略自己相補的である。すなわち、PEC構造はその補完的役割をするものと略同一である。
【0073】
本発明による遷移帯は、アンテナアレイの主外面上に提供される。アンテナアレイの反射係数は、図6a及び図6bに従って変動する。本発明による誘電体シートは、周波数f・f・fの範囲に対してアンテナに適合するフィルタとしての役割を果たす。高周波数fは、半波長距離における接地平面からの弱め合う干渉及びグレーティングローブの発生により制限される。ここで、接地平面の距離及び要素間の間隔は、低周波数fにおける波長より非常に小さい。広帯域整合における四分の一波長変成器と同様に、接地平面の距離及びシートは、最適な厚さとなるように選択される。すなわち、

のシートの厚さが使用される[2、[3、[14]。単一の誘電体シートの例は、パラメトリックスタディにより容易に分析される。
【0074】
ここで、単位格子の長さl=20.8mmを与える寸法a=9.6mm、b=0.8mm及びh=13.6mmを有するパッチアレイを考慮する。これは、約5.5GHzの共振周波数を与え、7.5GHzにおいてグレーティングローブが発生する。誘電率ε=7及びε=3を有する誘電体シートが使用される。l=20、l=416mmを与える20個の単位格子をy方向に有し且つx方向に無限数の単位格子、すなわちx方向に周期的境界条件を有することから成るアレイを考慮する。yz平面の平面波がアレイに影響を及ぼすため、

の範囲で極角θを使用するのが便利である。
【0075】
上述による単一の誘電体シートを含む自己相補的パッチアレイのバイスタティックRCSを図7a及び図7bに図示する。この場合、誘電体シートは、スミスチャートの中央に単一ループを与えるように設計される。同一情報をグラフ化する別の方法を図8a及び図8bに示す。図8a及び図8bにおいて、RCSは反射角の関数としてグラフ化される。本発明による漸減遷移帯を有する構造及び遷移帯を有さない構造の結果が示される。
【0076】
予想されたように、−60°における正反射がバイスタティックRCSを占める。特定の方向とは別の方向のRCSの変動は、エッジ回折波の強め合う干渉及び弱め合う干渉に起因する。変動は、大きなアレイに対してより急激になる。アレイのサイズに依存することを強調するために、RCSの包絡線は強調して示される。モノスタティックRCSは、漸減しない集積アレイに対して3GHzの20dBm〜5GHzの25dBmである。2つの単位格子にわたり直線的に漸減するモノスタティックRCS、すなわち、

であるモノスタティックRCSは約20dBm減少する。
【0077】
抵抗の漸減は、アンテナとその周囲材料との間の不連続性を平滑化することによりRCSを減少する。しかし、アレイがグレーティングローブをサポートする場合、アレイのRCSは重要である。アレイの要素間の間隔が半波長より大きい場合、それらグレーティングローブが発生する。パスアレイは、7.5GHzより大きい周波数に対するグレーティングローブをサポートする。2、4、6、8、10GHzにおいてθ=60°からの照明に対して2つのエッジ要素にわたり抵抗が直線的に漸減する自己相補的な24×∞のアレイのRCSを図6bに示す。図示するように、モノスタティックRCSは、7.5GHzにおけるグレーティングローブの発生までの周波数に対しては非常に小さい。反射ローブ及びグレーティングローブのビーム幅は、アレイのサイズに依存する。ビーム幅は、アレイが大きい程減少する。
【0078】
本発明は、図示しないが、2つの誘電体シートを有する広帯域ダイポールアレイを含むように更に変更可能である。
周波数選択レドーム(FSS)
図9を参照して、本発明のアンテナ構造の上部に提供される有限倍無限FFSレドームのRCSについて検討する。ここでは4つの脚を持つループ要素を含む対称ハイブリッドレドームについて検討する。
【0079】
要素は、l=6.6mmの辺の長さを有する正方形グリッドに配置され、0.17mmのスロット幅を有する。ループ要素は、誘電率ε=1.6を有する3mmの厚さの誘電体シートに配置される。これにより、8.5GHz〜9GHzの通過帯域を有するバンドパス構造が与えられる。図10aを参照。レドームはPEC構造に組み込まれ、アンテナはレドームの下に配置される。上側の誘電体シートは、レドームの内側から5mmのところに配置される。
【0080】
図示する目的で、漸減なしの場合、26mmの直線的な漸減がある場合及び53mmの直線的な漸減がある場合の3つの例を検討する。漸減を除いたレドームのサイズは332mmx1である。有限長は、50個の単位格子に対応する。45°及び6、8.5、11GHzの周波数におけるTE波に対するバイスタティックRCSを図10b、図10c及び図10dに示す。エッジ回折部分の振幅を強調するために、RCSの包絡線は強調して示される。予想されたように、正反射は、レドームとPECとの間のレドームの不連続性が大きいパスバンド、すなわち8.5GHzにおいて最大である。パスバンド外の周波数に対して、レドームは、反射率が高く且つ不連続性が小さい。漸減の影響は、正反射においては些細なものである。
【0081】
モノスタティックRCSは、パスバンドにおいて最大である。ここで、漸減の影響は非常に大きい。図10cに示すように、モノスタティックRCSは、漸減により15dBm〜20dBm減少する。モノスタティックRCSは、漸減によりパスバンド外でも減少するが、元のRCSが非常に小さいため、その改善は大きくない。図11a〜図11dにおいて、FDTDにより計算したバイスタティックRCSとPO近似により計算したバイスタティックRCSとの比較を示す。FDTD及びPOの結果の包絡線は、実線及び破線の曲線でそれぞれ与えられる。図11aにより示されるように、PO近似は、TEの例に対するRCSの大まかな推定を与えることが分かる。
表面波
図12を参照すると、本発明によるアンテナアレイのRCSを更に改善するために、表面波の劣化作用を低減できる。これは、表面波をサポートしないアンテナアレイ構造を使用することにより行なわれる。特定の実施形態によると、RAMをアンテナ構造に含み、表面波の劣化作用を低減できる。アンテナと周囲PECとの境界面において周囲PEC材料20からアンテナ10を分離するRAM構造及び適用された遷移帯30を有するアンテナ構造により、これを図12に示す。遷移帯30は、RAM部にわたり延在するように適応されるのが好ましい。図13a及び図13bに示すように、数値シミュレーションは、本発明によるRAM部の追加により、表面波の一部は吸収され且つかすめ角(grazing angle)においてRCSは減少することを示す。
【0082】
本発明は、アンテナアレイと完全導電体(PEC)等の導電性周囲材料との境界面に隣接して抵抗シートを提供することにより、アンテナのモノスタティックレーダ断面積を減少できる。
【0083】
特に本発明は、制御された方法で、漸減抵抗シートがアンテナアレイの散乱特性を周囲完全導電体、すなわちPECの散乱特性に変換できることを示す。漸減抵抗シートは、抵抗率がゼロに減少されるのに伴い、反転されたリアクタンスサークルに沿う無限アンテナの反射係数を−1の点に近付くように変換する。
【0084】
特に、物理光学(PO)近似においてRCSを適用することは、モノスタティックRCSが高周波数帯域にわたり一様に減少する広角散乱を示す。FSSレドーム、自己相補的なアレイ及びダイポールアレイからのRCSのFDTDを使用した数値的な結果は、RCSの減少を示すために与えられる。
【0085】
本発明は以下の利点を含む:
アンテナアレイのモノスタティックRCSが減少する。
【0086】
アンテナの反射係数を周囲完全導電体の反射係数に変換する。
【0087】
添付の請求の範囲により規定された本発明の範囲から逸脱せずに、種々の変形及び変更が本発明に対して行なわれてもよいことは、当業者には理解されるだろう。
略語
RCS レーダ断面積(Radar Cross Section)
PO 物理光学(Physical Optics)(近似)
RAM レーダ吸収性材料(Radar Absorbing Material)
TE Transverse Electric(偏光)
TM Transverse Magnetic(偏光)
FDTD 時間領域差分法(Finite-Difference Time-Domain method)
MoM モーメント法(Method of Moments)
FEM 有限要素法(Finite Element Method)
参考文献
[1]J. David Lynch、Introduction to RF Stealth、SciTech Publishing Inc., 5601 N. Hawthorne Way, Raleigh, NC 27613、2004年
[2]B. Munk、Finite Antenna Arrays and FSS. John Wiley & Sons, New York、2003年
[3]S.J. Orfanidis、Electromagnetic Waves and antennas、2002年。www.ece.rutgers.edu/~orfanidi/ewa、改定日2004年6月21日
[4]E.F. Knott、J.F. Shaeffer及びM.T. Tuley、Radar cross section、SciTech Publishing Inc., 5601 N. Hawthorne Way, Raleigh, NC 27613、2004年
[5]J.D. Kraus及びR.J. Marhefka、Antenna, 3rd ed. New York: McGraw-Hill、2002年
[6]E.F. Knott、Suppression of edge scattering with impedance strings、IEEE Trans. Antennas Propagat., 45(12), 1768-1773、1997年
[7]J.R. Natzke及びJ.l. Volakis、Characterization of a resistive half plane over a resistive sheet、IEEE Trans. Antennas Propagat., 41(8), 1063-1068、1993年
[8]T.B. A. Senior、Backscattering from resistive strips、IEEE Trans. Antennas Propagat., 32(7), 7474-751、1984年
[9]J.L. Volakis、A. Alexanian及びJ.M. Lin、Broadband RCS Reduction of rectangular patch by using distributed loading、Electronics Letters、28(25), 2322-2323、1992年
[10]R.L. Haupt及びV.V. Liepa、Synthesis of tapered resistive strips、IEEE Trans. Antennas. Propagat., 35(11), 1217-1225、1987年
[11]T.B. A. Senior及びV.V. Liepa、Backscattering from tapered resistive strips、IEEE Trans. Antennas Propagat., 32(7), 747-751、1984年
[12]A.F. Peterson、S.L. Ray及びR.Mittra、Computational Methods for Electromagnetics、New York: IEEE Press、1998年
[13]H. Holter及びH. Steyskal、Infinite Phased-array analysis using FDTD periodic boundary conditions-pulse scanning in oblique directions、IEEE Trans. Antennas Propagat., vol. 47, no. 10、1508〜1514ページ、1999年
[14]D.M. Pozar、Microwave Engineering、New York: John Wiley & Sons、1998年
付録I
薄い導電性シート
σd=R−1が有限となるように導電性σ→∞及び厚さd→0を有するシートの散乱特性を考慮する。複素値の比誘電率は以下のように書かれる:
【0088】
【数18】

【0089】
式中、kは自由空間波数である。波数ベクトルの垂直部分は以下の通りである:
【0090】
【数19】

【0091】
ここで、σ→∞となるのに伴いk’→∞となることが分かる。反射係数は以下の通りである:
【0092】
【数20】

【0093】
式中、単一層の反射係数r0Tは、以下の通りである:
【0094】
【数21】

【0095】
【数22】

【0096】
単一層の反射係数をテイラー展開する:
【0097】
【数23】

【0098】
導電性シートの反射係数を以下のように展開する:
【0099】
【数24】

【0100】
透過係数は以下の式により同様に与えられる:
【0101】
【数25】

【0102】
付録II
反射係数の正規化
反射係数は以下のように与えられると仮定する:
【0103】
【数26】

【0104】
に正規化された反射係数は、以下の式により与えられる:
【0105】
【数27】

【0106】
正規化インピーダンスの反射係数が以下のように表される:
【0107】
【数28】

【0108】
この時、以下の式が得られる:
【0109】
【数29】

【0110】
これは、メービウス変換である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明による構成の一実施形態を示す概略図である。
【図2】上記実施形態を示す横断面図である。
【図3】図1の実施形態の回路モデルを示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態による反射係数の変換を示す図である。
【図5a】本発明による反射係数の遷移を示すグラフである。
【図5b】図5aの遷移のフーリエ変換をdBで示すグラフである。
【図6a】計算した反射係数(dBで表される)を本発明の一実施形態の周波数の関数として示すグラフである。
【図6b】計算した反射係数(スミスチャートで表される)を本発明の一実施形態の周波数の関数として示す図である。
【図7a】本発明の一実施形態による自己相補的なパッチアレイの計算したバイスタティックRCSを示す図である。
【図7b】本発明の一実施形態による自己相補的なパッチアレイの計算したバイスタティックRCSを示す図である。
【図8a】図7a及び図7bと同一の情報を示すグラフである。
【図8b】図7a及び図7bと同一の情報を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施形態を示す横断面図である。
【図10a】本発明による実施形態のバイスタティックRCSを示すグラフである。
【図10b】本発明による実施形態のバイスタティックRCSを示すグラフである。
【図10c】本発明による実施形態のバイスタティックRCSを示すグラフである。
【図10d】本発明による実施形態のバイスタティックRCSを示すグラフである。
【図11a】FDTD及びPO近似を使用して計算された本発明の実施形態のバイスタティックRCS間の比較を示すグラフである。
【図11b】FDTD及びPO近似を使用して計算された本発明の実施形態のバイスタティックRCS間の比較を示すグラフである。
【図11c】FDTD及びPO近似を使用して計算された本発明の実施形態のバイスタティックRCS間の比較を示すグラフである。
【図11d】FDTD及びPO近似を使用して計算された本発明の実施形態のバイスタティックRCS間の比較を示すグラフである。
【図12】本発明の更なる実施形態を示す横断面図である。
【図13a】図10の実施形態の効果を示すグラフである。
【図13b】図10の実施形態の効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲を取り囲む部材(20)の表面部分に一体化して配され、主要な外面(11)を有するアンテナ(10)と、
前記主要な外面(11)の周囲に沿って配置され、かつ前記主要な外面と重なり合う遷移帯(30)と、を具備し、
前記遷移帯(30)は、前記アンテナ(10)と前記周囲を取り囲む部材(20)との間の散乱特性の円滑な遷移を可能にするために、前記遷移帯の外周部からの距離によって変動する抵抗率を有するように構成された抵抗材料の層を含むことを特徴とするアンテナ構造体。
【請求項2】
前記遷移帯(30)の外周部の位置は、前記主要な外面(11)の周囲と一致することを特徴とする請求項1記載のアンテナ構造体。
【請求項3】
前記遷移帯(30)は、前記周囲を取り囲む部材(20)と重なり合うように配置されることを特徴とする請求項1記載のアンテナ構造体。
【請求項4】
前記層の抵抗率は、前記遷移帯(30)の外周部においてゼロであり、前記遷移帯(30)の内周部において無限大に近付くことを特徴とする請求項1記載のアンテナ構造体。
【請求項5】
前記層の抵抗率は、前記遷移帯(30)の外周部において前記周囲を取り囲む部材(20)の抵抗率と等しいことを特徴とする請求項1記載のアンテナ構造体。
【請求項6】
前記周囲を取り囲む部材(20)は、完全な導電体を含むことを特徴とする請求項1記載のアンテナ構造体。
【請求項7】
前記抵抗率は、前記遷移帯の外周部からの距離に対して少なくとも部分的に直線的に変動することを特徴とする請求項1記載のアンテナ構造体。
【請求項8】
前記抵抗率は、前記距離に対して少なくとも部分的に段階的に変動することを特徴とする請求項1記載のアンテナ構造体。
【請求項9】
前記抵抗率は、前記距離に対して3次スプラインとして少なくとも部分的に変動することを特徴とする請求項1記載のアンテナ構造体。
【請求項10】
表面波の劣化作用を低減するために、前記主要な外面(11)の周囲に沿って、前記抵抗層の下であって且つ前記アンテナ(10)と前記周囲を取り囲む部材(20)との間に配置されるレーダ吸収性部材(40)を更に具備することを特徴とする請求項1記載のアンテナ構造体。
【請求項11】
前記周囲を取り囲む部材(20)は導電性部材を含むことを特徴とする請求項1記載のアンテナ構造体。
【請求項12】
前記主要な外面と前記遷移帯との間に配置されるレドーム(50)を更に具備することを特徴とする請求項1記載のアンテナ構造体。
【請求項13】
周囲を取り囲む部材の表面部分に一体化して配されるアンテナ構造体であって、
少なくとも1つの主要な面(11)を有するアンテナ(10)と、
前記主要な面(11)の周囲に沿って配置され且つ前記主要な面(11)と重なり合う遷移帯(30)と、を具備し、
前記遷移帯(30)は、前記アンテナ(10)と前記周囲を取り囲む部材(20)との間の散乱特性の円滑な遷移を可能にするために、前記遷移帯の外側端部からの距離によって変動する抵抗率を有するように構成される抵抗材料の層を含むことを特徴とするアンテナ構造体。
【請求項14】
少なくとも1つの主要な外面(11)を含み且つ周囲を取り囲む部材(20)の表面部分に一体化して配されるアンテナ(10)の散乱特性を改善する方法であって:
前記主要な外面(11)の周囲に沿い且つ前記主要な外面(11)と重なり合う遷移帯(30)を提供する工程を備え、
前記遷移帯(30)は、前記アンテナ(10)と前記周囲を取り囲む部材(20)との間の散乱特性の円滑な遷移を可能にするために、前記遷移帯の外周部からの距離によって変動する抵抗率を有するように構成される抵抗材料の層を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図10d】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【図11d】
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【図12】
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【図13a】
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【図13b】
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【公表番号】特表2008−532415(P2008−532415A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557969(P2007−557969)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【国際出願番号】PCT/SE2006/000250
【国際公開番号】WO2006/091162
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(598036300)テレフオンアクチーボラゲット エル エム エリクソン(パブル) (2,266)
【Fターム(参考)】