説明

集積型薄膜太陽電池の製造装置

【課題】集積型薄膜太陽電池を一定の溝幅で歩留まりよく、加工品質が優れた状態で製造することのできる太陽電池の製造装置を提供する。
【解決手段】薄膜太陽電池基板Wを支持する支持手段と、溝加工ツール8を加圧手段を介して保持するスクライブヘッド7と、基板Wとスクライブヘッド7を相対的に移動させる移動手段とを備え、加圧手段が、ボイスコイルモータ30により形成され、制御部Sによりモータへの電流量の制御を行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルコパイライト化合物系集積型薄膜太陽電池の製造装置に関する。
ここで、カルコパイライト化合物とは、CIGS(Cu(In,Ga)Se)の他に、CIGSS(Cu(In,Ga)(Se,S))、CIS(CuInS)等が含まれる。
【背景技術】
【0002】
カルコパイライト化合物半導体を光吸収層として用いる薄膜太陽電池においては、基板上に複数のユニットセルを直列接続した集積型構造が一般的である。
【0003】
従来のカルコパイライト化合物系集積型薄膜太陽電池の製造方法について説明する。図6は、CIGS薄膜太陽電池の製造工程を示す模式図である。まず、図6(a)に示すように、ソーダライムガラス(SLG)等からなる絶縁基板1上に、プラス側の下部電極となるMo電極層2をスパッタリング法によって形成した後、光吸収層形成前の薄膜太陽電池基板に対してスクライブ加工により下部電極分離用の溝Sを形成する。
【0004】
その後、図6(b)に示すように、Mo電極層2上に、化合物半導体(CIGS)薄膜からなる光吸収層3を蒸着法、スパッタリング法等によって形成し、その上に、ヘテロ接合のためのZnS薄膜等からなるバッファ層4をCBD法(ケミカルバスデポジション法)により形成し、その上に、ZnO薄膜からなる絶縁層5を形成する。そして、透明電極層形成前の薄膜太陽電池基板に対して、下部電極分離用の溝Sから横方向に所定距離離れた位置に、スクライブ加工によりMo電極層2にまで到達する電極間コンタクト用の溝M1を形成する。
【0005】
続いて、図6(c)に示すように、絶縁層5の上からZnO:Al薄膜からなる上部電極としての透明電極層6を形成し、光電変換を利用した発電に必要な各機能層を備えた太陽電池基板とし、スクライブ加工により下部のMo電極層2にまで到達する電極分離用の溝M2を形成する。
【0006】
上述した集積型薄膜太陽電池を製造する工程において、電極分離用の溝M1および溝M2をスクライブにより溝加工する技術として、レーザスクライブ法とメカニカルスクライブ法が用いられてきた。
【0007】
レーザスクライブ法は、例えば特許文献1で開示されているように、アークランプ等の連続放電ランプによってNd:YAG結晶を励起して発信したレーザ光を照射することにより電極分離用の溝を形成する。この方法は、光吸収層形成後の薄膜太陽電池基板に対して溝を形成する場合、スクライブ時にレーザ光の熱によって光吸収層3の光電変換特性が劣化するおそれがあった。
【0008】
メカニカルスクライブ法は、例えば特許文献2および3で開示されているように、先端が先細り状となった金属針(ニードル)等の溝加工ツールの刃先を、所定の圧力をかけて基板に押しつけながら移動させることによって、電極分離用の溝を加工する技術である。現在ではこのメカニカルスクライブ法が多く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−312815号公報
【特許文献2】特開2002−94089号公報
【特許文献3】特開2004−115356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
溝加工ツールで電極分離用の溝を加工する際に、溝加工ツールを基板表面に押しつける加圧機構として、従来ではバネ・エアーサーボモータやリニアモータが使用されている。しかし、加工される薄膜太陽電池の厚みや溝の深さが非常に薄く、溝を加工する際に溝加工ツールを基板に押しつける圧力も非常に低圧であって、溝加工に際し、微細な押圧力の制御が必要とされる。加工途中での微小な条件変動でも加工品質に大きく影響し、例えば、ツールの押圧荷重が大きくなった場合には加工された溝に不規則な薄膜の剥離が生じたり、逆に小さくなった場合には除去した膜屑に乗り上げてバウンドすることにより溝に断絶が生じたりして設計上予定された品質(光電変換効率等)の実現、および品質の均一性(再現性)が期待できない。
そこで、薄膜の剥離度合いを一定にするため、薄膜の性状等に合わせて刃先を押しつける負荷を加減する必要があるが、バネ・エアーサーボモータを用いた押圧力の制御機構では、低圧領域での制御が難しく、高度な制御システムを組み込んでもコントロールが不安定であるといった欠点があった。またリニアサーボモータを用いた制御機構は、溝加工のような微小ストロークで使用する際に1相のみに電流が流れて熱が発生しやすく、かつ、推力変動の際の速い応答性が得られず押圧力制御が難しいといった問題点があった。
【0011】
また、特許文献2および3に開示されているようなメカニカルスクライブ法では、溝加工ツールの刃先の形状を先細りの針状にしてあるが、厳密には、薄膜太陽電池に圧接される部分は接触面積を広くするために平らとなるように先端が略水平にカットされている。水平にカットすることにより、薄膜との接触面積が大きくなるので、比較的安定して溝加工を行うことができるが、その一方で、大きな接触面による摩擦抵抗等によって薄膜が不規則に大きく剥がれてしまい、不必要な部分まで除去してしまうことがあり、太陽電池の特性および歩留まりが低下するといった問題点があった。
【0012】
また、上述した溝加工ツールの刃先は、先細りのテーパ面を有する円錐台形状である。したがって、刃先が摩耗したり、また、刃こぼれしたりした場合に刃先を研磨すると、刃先の径が大きくなり、その結果、スクライブされる溝幅が研磨前よりも広くなってしまうことになる。そのため、同じ刃先を、長期間使用しつづけることや、研磨して繰り返し使用することができず、不経済であるといった問題点もあった。
【0013】
そこで、本発明は、カルコパイライト化合物系集積型薄膜太陽電池基板(例えば、透明電極形成前の前駆体)における電極分離用の溝や上下電極間に形成された光吸収層等の各種機能層に上下電極コンタクト用の溝を加工する際に、一定の溝幅で歩留まりよく、また、光電変換効率等の製品としての品質の均一性をよく加工することのできる集積型薄膜太陽電池の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するためになされた本発明の集積型薄膜太陽電池の製造装置は、薄膜太陽電池基板を支持する支持手段と、溝加工ツールを加圧手段を介して保持するスクライブヘッドと、基板とスクライブヘッドを相対的に移動させる移動手段とを備え、加圧手段が、ボイスコイルモータにより形成されるようにしている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ボイスコイルモータを溝加工ツールの圧力源とすることにより、ボイスコイルモータに印加される電流量をコントロールすることによって、簡単に溝加工ツールの基板に対する低圧領域での押圧力を制御することができる。また、ボイスコイルモータの速い応答特性によって、迅速かつ正確な動作で加工することができる。これにより、直線性に優れ、一定幅できれいな電極分離用の溝を加工することができる。
【0016】
溝加工ツールは、棒状のボディと、ボディの先端に形成された刃先領域とからなり、刃先領域は細長く延びる長方形の底面と、底面の短手方向の端辺から立ち上がる前面並びに後面と、底面の長手方向の端辺から直角に立ち上がって互いに平行な一対の面をなす左右側面とからなり、少なくとも前後面のいずれか片面と底面とによって形成される角部が刃先となるように形成するのがよい。
これにより、刃先が摩耗した場合には、底面並びに必要に応じて前後面を研磨することによって刃先を補修することができる。特に、底面を研磨しても刃先部分の左右側面を平行面にしてあるので、刃の左右幅の寸法に変化が生じることがない。これにより、研磨後であってもスクライブされる溝幅を研磨前と同じに維持することができる。
さらに加えて、溝加工ツールの刃先を、前後の角部に2カ所形成した場合には、一方が摩耗または破損すればツールの取り付け方向を変えることにより他方の刃先を新品として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる集積型薄膜太陽電池の製造装置の一実施形態を示す斜視図。
【図2】溝加工ツールを保持するスクライブヘッド部分の側面図。
【図3】加圧手段としてのボイスコイルモータの断面図。
【図4】上記溝加工ツールの下方から見た斜視図。
【図5】上記溝加工ツールの底面拡大図。
【図6】一般的なCIGS系の薄膜太陽電池の製造工程を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、本発明の詳細を、その実施の形態を示す図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明にかかる集積型薄膜太陽電池の製造装置の実施形態を示す斜視図である。該装置は、水平方向(Y方向)に移動可能で、かつ、水平面内で90度および角度θ回転可能なテーブル18を備えており、テーブル18は実質的に太陽電池基板Wの支持手段を形成する。
【0019】
テーブル18を挟んで設けてある両側の支持柱20,20と、X方向に延びるガイドバー21とで構成されるブリッジ19は、テーブル18上を跨ぐように設けてある。ホルダ支持体23は、ガイドバー21に形成したガイド22に沿って移動可能に取り付けられ、モータ24の回転によりX方向に移動する。
【0020】
ホルダ支持体23にスクライブヘッド7が設けられており、スクライブヘッド7には、テーブル18上に載置される太陽電池基板Wの薄膜表面をスクライブ加工する溝加工ツール8、並びにこの加工ツール8を太陽電池基板Wに対して加圧する加圧手段としてのボイスコイルモータ30が取り付けられている。
【0021】
また、X方向およびY方向に移動することが可能な台座12,13にカメラ10,11がそれぞれ設けられている。台座12,13は支持台13上でX方向に延設されたガイド15に沿って移動する。カメラ10,11は、手動操作で上下動することができ、撮像の焦点を調整することができる。カメラ10,11で撮影された画像はモニタ16,17に表示される。
【0022】
テーブル18上に載置された太陽電池基板Wの表面には、位置を特定するためのアライメントマークが設けられており、カメラ10,11によりアライメントマークを撮像することにより、太陽電池基板Wの位置を調整する。具体的には、テーブル18に支持された太陽電池基板W表面のアライメントマークを、カメラ10,11により撮像してアライメントマークの位置を特定する。特定されたアライメントマークの位置に基づいて、太陽電池基板W表面の載置時の方向ズレを検出し、テーブル18を所定角度回転させることでズレを修正する。
【0023】
そして、テーブル18をY方向に所定ピッチで移動するごとに、スクライブヘッド7を下降させて溝加工ツール8の刃先を太陽電池基板Wの表面に押しつけた状態でX方向に移動させ、太陽電池基板Wの表面をX方向に沿ってスクライブ加工する。太陽電池基板Wの表面をY方向に沿ってスクライブ加工する場合は、テーブル18を90度回転させて、上記と同様の動作を行う。
【0024】
図2〜図5は、溝加工ツール8を太陽電池基板Wに対して加圧するボイスコイルモータ30並びに溝加工ツールを示す。図2は側面図であり、図3はボイスコイルモータの概略的な断面図であり、図4は溝加工ツール8のみを下方から見た斜視図であり、図5はその底面を拡大した図である。
【0025】
ボイスコイルモータ30は、スクライブヘッド7に固定された筒状の固定ケース31と、固定ケース31の軸芯部に上下移動可能に設けられた可動子32とからなる。固定ケース31の内周面には磁力形成のための永久磁石33が取り付けられている。可動子32の外面には、永久磁石33と相互作用して下向きへの推力を発生させる磁力を形成するコイル34が巻回されている。コイル34は、外部の制御部Sから電流が印加されて磁力を形成し、印加される電流量によって可動子12にかかる下向きへの推力、すなわち押圧力が変化する。なお、制御部Sにはマイクロコンピュータを用いた汎用の電流制御回路を用いることができる。
さらに、可動子32の下端に、溝加工ツール8を保持するホルダ9が設けられている。
【0026】
溝加工ツール8は、実質的にホルダ9への取付部となる円柱状のボディ81と、その先端部に放電加工等により一体的に形成された刃先領域82とからなり、超硬合金またはダイヤモンド等の硬質材料で造られている。刃先領域82は、長方形の底面83と、底面83の短手方向の端辺から直角に立ち上がった前面84並びに後面85と、底面83の長手方向の端辺から直角に立ち上がって互いに並行をなす左、右側面88,89とからなる。底面83と前、後面84,85とによって形成される角部がそれぞれ刃先86,87となる。
【0027】
底面83の左右幅L1は50〜60μmが好ましいが、要求されるスクライブの溝幅に合わせて25〜80μmとすることができる。また、刃先領域82の有効高さ、すなわち刃先領域の左右側面88,89並びに前後面84,85の高さL2は0.5mm程度が好ましい。さらに、円柱状のボディ81の直径は2〜3mm程度がよい。なお、溝加工ツール8のボディ81は円柱状に限らず、断面四角形や多角形で形成することも可能である。
【0028】
上述した溝加工ツール8を用いて加工を行う場合は、刃先領域82の底面83の長軸方向をツールの移動方向に沿った状態で、かつ、太陽電池基板Wに対して刃先領域82の前面84または後面85を所定角度だけ傾斜させた状態でホルダ9に取り付ける。この場合の傾斜角度は50〜80度、特には65度〜75度の範囲が好ましい。
【0029】
ついで、制御部Sを介してボイスコイルモータ30に所定値の電流を印加することによって、ボイスコイルモータ30のコイルと永久磁石との間に磁力が生成されて可動子32が下降する。溝加工ツール8が基板Wの表面に接触すると溝加工ツールWに圧力が加わるのでボイスコイルモータ30に印加される電流値が変わる。この電流値が予め制御部Sに入力した設定値に到達した位置で溝加工ツール8をスクライブさせる。この場合、溝加工の作業を開始するに先行して、溝加工ツール8が基板Wに対して正確に溝加工する位置に接触する電流値(圧力値)を検出して制御部Sに入力しておくのがよい。
【0030】
本発明によれば、ボイスコイルモータ30に印加される電流量を制御することによって、簡単に溝加工ツール8の基板Wに対する低圧領域での圧力を正確にコントロールすることができ、しかもボイスコイルモータ30の速い応答特性により微妙な制御も可能となって直線的できれいな電極分離用の溝を加工することができる。
【0031】
また、溝加工ツール8の前面84または後面85を太陽電池基板Wに対して進行方向側に傾斜させることにより、前面または後面と、底面とによって形成される角部、すなわち刃先86または刃先87が点接触に近い線接触で太陽電池基板Wに接触して薄膜の剥離をスムースに行うことができる。特に、溝加工ツール8の刃先領域の前面84若しくは後面85と基板Wの上面に対する角度が、50〜80度、特には65度〜75度の範囲内で進行方向側に傾斜させることにより、薄膜の剥離をスムースに行うことができた。
【0032】
また、溝加工ツール8の刃先86,87は、前後の角部に2カ所形成されているので、一方が摩耗または破損すれば、溝加工ツール8の取り付け方向を変えることにより他方の刃先を新品として使用できる。しかも、いずれの刃先も摩耗した場合には、底面83並びに必要に応じて前後面84,85を研磨することによって刃先を補修することができる。
【0033】
なお、上記実施例では、スクライブヘッド7をX方向に移動させることでスクライブ加工を実行したが、スクライブヘッド7と、太陽電池基板Wとが相対的に移動できれば足りることから、太陽電池基板Wが固定された状態でスクライブヘッド7をX方向およびY方向に移動させてもよいし、スクライブヘッド7を移動させることなく、太陽電池基板WのみをX方向およびY方向に移動させてもよい。
【0034】
以上、本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施例の構造のみに特定されるものではない。例えば、底面と前後面とによって形成される刃先の角度は上記実施例で述べたように略直角が好ましいが、多少鈍角に形成しても差し支えがない。その他本発明では、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、カルコパイライト化合物系半導体膜を用いた集積型薄膜太陽電池の製造装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
W 太陽電池基板
S 制御部
7 スクライブヘッド
8 溝加工ツール
30 ボイスコイルモータ
81 ボディ
82 刃先領域
83 刃先領域の底面
84 刃先領域の前面
85 刃先領域の後面
86 刃先
87 刃先
88 刃先領域の側面
89 刃先領域の側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜太陽電池基板を支持する支持手段と、
溝加工ツールを加圧手段を介して保持するスクライブヘッドと、
前記基板とスクライブヘッドを相対的に移動させる移動手段とを備え、
前記加圧手段がボイスコイルモータにより形成されることを特徴とする集積型薄膜太陽電池の製造装置。
【請求項2】
前記溝加工ツールが、棒状のボディと、ボディの先端に形成された刃先領域とからなり、
刃先領域は細長く延びる長方形の底面と、底面の短手方向の端辺から立ち上がる前面並びに後面と、底面の長手方向の端辺から直角に立ち上がって互いに平行な一対の面をなす左右側面とからなり、
少なくとも前後面のいずれか片面と底面とによって形成される角部が刃先となる請求項1に記載の集積型薄膜太陽電池の製造装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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