説明

集電体

【課題】貫通抵抗が低く且つ貫通抵抗の経時変化が小さい、二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子や、太陽電池、タッチパネルなどに用いられる集電体を提供する。
【解決手段】アルミニウム箔素材を用意し、該アルミニウム箔素材の表面を、塩酸、硝酸水溶液、硫酸水溶液、アルカリ金属水酸化物の水溶液、アルカリ土類金属水酸化物の水溶液などのアルミニウムを溶解可能な薬液によって洗浄した後、必要に応じて70〜200℃でアルミニウム箔を熱処理する工程および/またはアルミニウム箔の片面または両面に導電材を含む皮膜を形成することによって得られる、フーリエ変換赤外分光法による表面層の測定において945cm-1〜962cm-1の範囲にピークを有するアルミニウム箔を含んで成る電気化学素子用集電体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は集電体に関する。より詳細に、本発明は、二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子や、太陽電池、タッチパネルなどに用いられる集電体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子として、リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池などの二次電池、および電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタなどのキャパシタが知られている。
【0003】
電気化学素子の電極は、一般に、アルミニウム箔や銅箔などの金属箔を含む集電体と、電極活物質層とを含む。集電体の表面には、必要に応じてアンダーコート層が設けられる。電気化学素子の内部抵抗やインピーダンスを低減するには、上記集電体や、電極の貫通抵抗を小さくする必要がある。
【0004】
アンダーコート層や電極活物質層は、それらのための塗工液を金属箔に塗布することによって形成される。アンダーコート層が設けられた集電体を含んで成る電極を用いた電池の性能は、金属箔の表面状態によって変化することが知られている。例えば、特許文献1は、水の接触角が40°未満である金属箔を集電体として用いることが好ましいと述べている。特許文献2はN−メチルピロリドンの接触角が45°以下であるアルミニウム芯体からなる集電体を用いることが提案されている。
また、特許文献3には、金属集電体を20〜80℃の酸性水溶液または20〜90℃の塩基性水溶液において10分以下で反応させ、その後、純水で洗浄し、乾燥することを特徴とする二次電池用集電体の処理方法が記載されている。特許文献3の処理においては酸性水溶液または塩基性水溶液による反応で金属集電体の表面にベーマイトが生成し、それを乾燥させるとボイドを有する表面酸化膜が形成され金属集電体の比表面積が増大する。特許文献4には、アルミニウムグリッドを塩基性溶液を用いて洗浄することによって前記グリッド表面に存在するアルミナ層を除去し、次いで洗浄されたアルミニウムグリッドを亜鉛でコーティングすることを含むリチウムイオン電池用集電体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−288722号公報
【特許文献2】特開2005−050679号公報
【特許文献3】WO00/07253
【特許文献4】特開平10−241695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、貫通抵抗が低く且つ貫通抵抗の経時変化が小さい、二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子や、太陽電池、タッチパネルなどに用いられる集電体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のものを包含する。
[1]フーリエ変換赤外分光法による表面層の測定において945cm-1〜962cm-1の範囲にピークを有するアルミニウム箔を含んで成る電気化学素子用集電体。
[2]前記アルミニウム箔の片面または両面に、導電材を含む皮膜をさらに含んで成る[1]に記載の電気化学素子用集電体。
[3]前記皮膜が結着剤を含む[2]に記載の電気化学素子用集電体。
[4]前記結着剤が多糖類を含む[3]に記載の電気化学素子用集電体。
[5]前記皮膜がカルボン酸またはその誘導体を含む[4]に記載の電気化学素子用集電体。
[6]前記導電材が炭素質材料である[2]〜[5]のいずれか1項に記載の電気化学素子用集電体。
【0008】
[7]アルミニウム箔素材を用意し、該アルミニウム箔素材の表面を、アルミニウムを溶解可能な薬液によって洗浄する工程を含む、 フーリエ変換赤外分光法による表面層の測定において945cm-1〜962cm-1の範囲にピークを有するアルミニウム箔を含んで成る電気化学素子用集電体の製造方法。
[8]前記薬液が酸性水溶液またはアルカリ性水溶液である[7]に記載の電気化学素子用集電体の製造方法。
[9]前記薬液が塩酸、硝酸水溶液および硫酸水溶液からなる群より選ばれる一種以上を含む[7]に記載の電気化学素子用集電体の製造方法。
[10]前記薬液がアルカリ金属水酸化物の水溶液およびアルカリ土類金属水酸化物の水溶液からなる群より選ばれる一種以上を含む[7]に記載の電気化学素子用集電体の製造方法。
[11]薬液洗浄の後に、70〜200℃でアルミニウム箔を熱処理する工程をさらに含む[7]〜[10]のいずれか1項に記載の電気化学素子用集電体の製造方法。
[12]アルミニウム箔の片面または両面に、導電材を含む皮膜を形成する工程をさらに含む[7]〜[11]のいずれか1項に記載の電気化学素子用集電体の製造方法。
[13]前記皮膜形成工程は、塗工液を塗布することを含む、[12]に記載の電気化学素子用集電体の製造方法。
【0009】
[14]前記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の電気化学素子用集電体と、 該集電体の片面または両面に有する活物質層と を含んで成る電気化学素子用電極。
[15]前記[14]に記載の電気化学素子用電極を含む電気化学素子。
[16]リチウムイオン二次電池または電気二重層キャパシタである[15]に記載の電気化学素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る集電体は、貫通抵抗が低く且つ貫通抵抗の経時変化が小さい。本発明に係る電極は内部抵抗またはインピーダンスが低い電気化学素子を提供できる。本発明に係る集電体または電極は、二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子や、太陽電池、タッチパネルなどにおいて、好適に用いることができる。
【0011】
アルミニウム箔の表面は、通常、酸化皮膜で覆われている。従来のアルミニウム箔表面にある酸化皮膜にはボイドや不純物が含まれている。そのために、従来のアルミニウム箔の表面層をフーリエ変換赤外分光法によって測定すると930cm-1〜944cm-1付近にピークが観測される(比較例1参照)。
これに対して、本発明の集電体に用いられるアルミニウム箔は、フーリエ変換赤外分光法による表面層の測定において945cm-1〜962cm-1の範囲にピークを有する。本発明の集電体に用いられるアルミニウム箔を覆う酸化皮膜は、ボイドや不純物が少なく、緻密であると推測される。その結果として、アルミニウム箔の表面に設けられるアンダーコート層や電極活物質層に対する親和性が高くなり、また通電不良を起こすことが減り、上記の効果を奏すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で製造されたアルミニウム箔表面のフーリエ変換赤外分光測定により得られたスペクトルを示す図。
【図2】比較例1で製造されたアルミニウム箔表面のフーリエ変換赤外分光測定により得られたスペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る集電体は、フーリエ変換赤外分光法による表面層の測定において945cm-1〜962cm-1の範囲にピークを有するアルミニウム箔を含んで成るものである。
【0014】
(アルミニウム箔)
本発明に用いられるアルミニウム箔は、フーリエ変換赤外分光法による表面層の測定において945cm-1〜962cm-1の範囲に、より好ましくは948〜955cm-1の範囲に、さらに好ましくは951〜954cm-1の範囲にピークを有するものである。
【0015】
フーリエ変換赤外分光法による測定は以下の条件にて行う。入射角75°から85°の間で最大感度を得る入射角に設定し、偏光子を用いて平行偏光のみを反射法にてモニタリングする。測定精度と測定に要する時間との観点から、分解能は2cm-1〜4cm-1とし、積算は1000回で行う。バックグラウンドには金蒸着ミラーを用いる。ベースラインに対して吸光度が0.02以上である各ピークについて、吸光度が最大となる波数をピーク位置として記録する。
【0016】
本発明に用いられるアルミニウム箔は厚さによって特に制限されないが、電気化学素子の小型化や、アルミニウム箔およびそれを用いて得られる集電体、電極等のハンドリング性などの観点から、アルミニウム箔の厚さは、好ましくは5μm〜200μm、より好ましくは10〜100μmである。
【0017】
アルミニウム箔素材は、電気化学素子の電極基材として従来から用いられているものを用いることができ、純アルミニウム箔(A1085材のような1000系)、純度95質量%以上のアルミニウム合金箔(2000系[Al−Cu合金]、A3003材のような3000系[Al−Mn合金]、4000系[Al−Si合金]、5000系[Al−Mg合金]、6000系[Al−Mg−Si合金]、7000系[Al−Zn−Mg合金])のいずれも使用することができる。例えば、リチウムイオン二次電池の正極や電気二重層キャパシタの電極に用いる場合、アルミニウム箔素材としてはSi0.10質量%以下、Fe0.12質量%以下、Cu0.03質量%以下、Mn0.02質量%以下、Mg0.02質量%以下、Zn0.03%質量以下、Ga0.03質量%以下、V0.05質量%以下、Ti0.02質量%以下、およびAl99.85質量%以上であり、その他元素は個々に0.01質量%以下である純アルミニウム箔、またはSi0.6質量%以下、Fe0.7質量%以下、Cu0.05〜0.20質量%、Mn1.0〜1.5質量%、およびZn0.10%質量以下であり、その他元素は個々に0.05質量%以下且つ合計で0.15質量%以下であり、残部がAlであるアルミニウム合金箔を挙げることができる。アルミニウム箔の形状は、孔の開いていない箔でもよいし、網状の箔やパンチングメタル箔など孔の開いている箔でもよい。
【0018】
(アルミニウム箔の製造方法)
フーリエ変換赤外分光法による測定で、上記範囲にピークをもつアルミニウム箔は、例えば、以下の方法で得ることができる。
【0019】
先ずアルミニウムを所定の厚さまで圧延してアルミニウム箔素材を得る。圧延方法は特に限定されないが、冷間圧延機を用いた方法が好ましい。アルミニウム箔素材の表面に残る圧延油を界面活性剤や溶剤を用いて除去してもよい。アルミニウム箔素材は、その一方の表面が微少な凹凸を有するつや消し面に、他方の表面が平滑な光沢面になっていてもよいし、両面がつや消し面になっていてもよいし、両面が光沢面になっていてもよい。これらのうち、一方がつや消し面、他方が光沢面になっているものが好ましい。
【0020】
次いで、該アルミニウム箔素材の表面を、アルミニウムを溶解可能な薬液によって洗浄する。洗浄によってアルミニウムが溶解し、アルミニウム箔素材の表面の酸化皮膜が変性され、ボイドや不純物が減り、きめが細かくなると考えられる。洗浄は浸漬洗浄で行うことが好ましい。浸漬洗浄において超音波などを印加してもよい。
この洗浄によるアルミニウムの溶解量相当厚は、好ましくは10nm〜1000nmである。より詳細には、圧延履歴等によっても異なるが、通常200〜400nm、表面の汚染やボイドが少ない場合には好ましくは10〜200nmであり、表面の汚染が激しい場合やボイドを多く含む場合には好ましくは400〜1000nmである。ここで、溶解量相当厚は、以下の手順で求める。アルミニウム箔素材の洗浄に使用した薬液を誘導結合プラズマ発光分光分析装置によって分析して当該液中のアルミニウムの質量を算出する。アルミニウム箔素材の密度(例えば、純アルミニウムの場合は、2.7g/cm3)に基づいて、液中のアルミニウム質量を体積に換算し、該体積を使用したアルミニウム箔素材の面積で除算した値を溶解量相当厚とした。
【0021】
アルミニウムを溶解可能な薬液の例としては、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液が挙げられる。酸性水溶液の例としては、塩酸、硝酸水溶液、硫酸水溶液などが挙げられる。アルカリ性水溶液の例としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ金属水酸化物の水溶液や、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物の水溶液が挙げられる。酸性水溶液は、その濃度が、通常、0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%である。アルカリ性水溶液は、その濃度が、通常、0.1〜30質量%、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%である。洗浄時の温度は、好ましくは10℃以上80℃以下、より好ましくは10℃以上40℃未満である。
【0022】
次いで純水でリンスを行うことができる。リンスの回数、使用する純水の量は特に制限されない。なお、薬液としてアルカリ性水溶液を用いた場合には、純水によるリンスの前に0.1〜5mol/Lの硫酸で中和処理を行うことが好ましい。リンス時の純水の温度は好ましくは20〜80℃、より好ましくは30〜50℃である。なお、純水としては、蒸留水、RO水、脱イオン水、精製水[日本薬局方]などが挙げられる。純水の不純物濃度は、好ましくは1000μg/L以下、より好ましくは10μg/L以下である。純水の導電率は、好ましくは1μS/cm以下、より好ましくは0.07μS/cm以下である。
リンス後、好ましくは70〜200℃、より好ましくは80〜180℃の大気雰囲気下で、1〜5分間熱処理する。この熱処理によって水気や揮発成分が除去される。なお、熱処理温度および熱処理時間を以下のようにして調整することができる。先ず、試し熱処理を行う。次いで。得られた集電体の表面層をフーリエ変換赤外分光法で測定する。目的とする波数より低波数側にピークが認められる場合は、本番熱処理における温度を高くまたは処理時間を短くする。目的とする波数より高波数側にピークが認められる場合は、本番熱処理における温度を低くまたは処理時間を長くする。上記のような熱処理温度および熱処理時間の調整は、溶解量相当厚を400nm以上とした場合に、行うのが好ましい。
【0023】
(導電材を含む皮膜)
本発明に係る集電体は、アルミニウム箔の片面または両面に、導電材を含む皮膜がさらに設けられていることが好ましい。この皮膜は、前述のアンダーコート層として機能するものであり、通常は電極活物質を含まない。電気化学素子の小型化や、内部抵抗またはインピーダンスの低減の観点から、皮膜の厚みは、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.5〜5μmであり、目付け量は、好ましくは0.2〜5g/m2、より好ましくは0.5〜3g/m2である。
【0024】
(導電材)
上記皮膜に含まれる導電材は、炭素を主構成成分とする炭素質材であることが好ましい。炭素質材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイトなどが挙げられる。これらのうち、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの繊維状炭素質材またはアセチレンブラックが好ましく、繊維状炭素質材の中では、導電性や分散性の観点から、気相成長炭素繊維が好ましい。これらの炭素質材は一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
炭素質材以外の導電材としては、金、銀、銅、ニッケル、アルミなどの金属の粉末が挙げられる。
【0025】
導電材はその形状によって特に制限されず、例えば、球状、扁平状、不定形状などであってもよい。導電材の大きさは、粒子状の導電材の場合、数平均一次粒径が好ましくは10nm〜50μm、より好ましくは10nm〜100nmである。また繊維状の導電材の場合、数平均繊維径が好ましくは0.001μm〜0.5μm、より好ましくは0.003μm〜0.2μmであり、数平均繊維長が好ましくは1μm〜100μm、より好ましくは1μm〜30μmである。導電材の平均粒径、平均繊維長または平均繊維径は、電子顕微鏡を用いて100〜1000個の導電材の粒径、繊維径または繊維長を計測し、これを数平均することによって算出する。
【0026】
導電材は、JIS K1469に準拠して測定した粉体電気抵抗が5.0×10-1Ω・cm以下のものが好ましい。
【0027】
(結着剤)
上記皮膜は、皮膜形成のコストなどの面から、結着剤を含むことが好ましい。好ましい結着剤の例としては、皮膜のイオン透過性に優れることなどから、多糖類が挙げられる。多糖類は、単糖類またはその誘導体が、グリコシド結合によって多数重合した高分子化合物である。通常10以上の単糖類またはその誘導体が重合したものを多糖類と言うが、10以下の単糖類が重合したものであっても、使用することができる。
【0028】
好ましい多糖類の例としては、セルロース、キトサンが挙げられる。分散性、塗布性などの点からカルボキシメチル基、カルボキシエチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、グリセリル基などの官能基で修飾された多糖類が好ましい。官能基で修飾された多糖類として特に好ましいものとしては、グリセリル化キトサンが挙げられる。グリセリル化キトサンは、例えば、日本特許3958536号(対応する米国出願:US 2004/092620 A1)に記載の方法で製造することができる。
【0029】
多糖類以外の結着剤の例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライドなどのフッ素系重合体;天然ゴム系ラテックス、スチレンブタジエンゴム系ラテックス、クロロプレンゴム系ラテックスなどのラテックス;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などのアクリル系単量体を含むアクリル酸共重合体を挙げることができる。
【0030】
結着剤の量は、導電材100質量部に対して、好ましくは10〜300質量部、より好ましくは10〜200質量部である。
【0031】
(添加剤)
上記皮膜は、必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、消泡剤、静電塗装性改良剤、タレ防止剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、架橋剤、架橋触媒などの添加剤を含んでもよい。
【0032】
例えば結着剤として多糖類を含む場合、上記皮膜は分散安定剤または架橋剤として、カルボン酸またはその誘導体を含むことが好ましい。好ましいカルボン酸の例としては、ピロメリット酸または1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0033】
またカルボン酸の誘導体としてはエステル、酸クロライド、酸無水物などが挙げられる。これらのうち酸無水物が好ましい。
【0034】
カルボン酸またはその誘導体は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
カルボン酸の使用量は多糖類100質量部に対して、好ましくは30質量部〜300質量部、より好ましくは40〜120質量部である。
【0036】
(皮膜の形成)
上記導電材を含む皮膜は、上記の導電材、結着剤および必要に応じて添加剤と、分散媒とを混合した塗工液を、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥させることによって得られる。分散媒の例としては、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトンなどの非プロトン性極性溶媒; エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコールなどのプロトン性極性溶媒; 水などが挙げられる。塗工液中の分散媒の量は好ましくは70〜99質量%、より好ましくは80〜95質量%である。
【0037】
塗布や乾燥の方法に特に制限はなく、電気化学素子の製造に用いられている公知の方法で行うことができる。なお結着剤として熱架橋型の結着剤を用いる場合は、架橋に充分な温度、時間で乾燥することが必要である。例えば、多糖類を含む結着剤をカルボン酸またはその誘導体で架橋する場合は、120℃〜250℃で10秒間〜10分間乾燥することが好ましい。
【0038】
また塗工液を用いず、気相法炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの導電材を、化学気相成長法などの方法で、直接アルミニウム箔の表面に成長させることによっても導電材を含む皮膜を形成することもできる。
(電極)
【0039】
リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタの電極は、集電体上(アンダーコート層となる皮膜を形成した場合にはその皮膜上)に、電極活物質層を形成して得られる。電極活物質層に用いられる材料や電極活物質層の形成方法に特に制限はなく、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタなどの電気化学素子の製造に用いられている公知の材料、方法を採用することができる。
【0040】
本発明に係る集電体は、上記以外の電気化学素子の電極、または太陽電池、タッチパネル、センサーなどの電極に用いることもできる。
【0041】
(電気化学素子)
電気化学素子は、前述の電極、さらにセパレーターおよび電解質を有し、これらを外装材で覆ってなるものである。電気化学素子における電極は、正極および負極の両方が本発明に係る電極であってもよいし、正極または負極のどちらか一方が本発明に係る電極であり、他方が公知の電極であってもよい。リチウムイオン電池においては、少なくとも正極が本発明に係る電極であることが好ましい。電解質、セパレーターおよび外装材は、リチウムイオン電池などの二次電池、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタなどにおいて使用されているものであれば特に制限されない。
【0042】
電気化学素子は、電源システムに適用することができる。そして、この電源システムは、自動車;鉄道、船舶、航空機などの輸送機器;携帯電話、携帯情報端末、携帯電子計算機などの携帯機器;事務機器;太陽光発電システム、風力発電システム、燃料電池システムなどの発電システム;などに適用することができる。
【実施例】
【0043】
次に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は、本実施例によってその範囲が制限されるものではない。本発明に係る集電体およびその製造方法は、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することができる。
【0044】
(実施例1〜3)
(アルミニウム箔の作製)
Si0.10質量%以下、Fe0.12質量%以下、Cu0.03質量%以下、Mn0.02質量%以下、Mg0.02質量%以下、Zn0.03%質量以下、Ga0.03質量%以下、V0.05質量%以下、Ti0.02質量%以下、およびAl99.85質量%以上であり、その他元素は個々に0.01質量%以下である純アルミニウムの圧延処理によって50μm厚のアルミニウム箔素材を用意した。アルミニウム箔素材をカットして幅20cm長さ30cmの大きさにした。アルミニウム箔素材を25℃に保った塩化水素濃度2質量%の塩酸30Lに浸漬し、表1に示す溶解量相当厚となるように洗浄した。なお、溶解量相当厚は浸漬時間を5秒〜5分の間で変えることにより調整した。なお、溶解量相当厚は、薬液に溶解したアルミニウムの質量を、セイコーインスツル社製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置(商品名VISTA−PRO)を用いて測定されたアルミニウムの分析線(167.02nm)に基いて算出し、次いで純アルミニウムの密度2.7g/cm3に基いて質量を体積に換算し、該体積をアルミニウム箔素材の面積で除算して得た。
アルミニウム箔素材を薬液から引き上げ、30℃の純水(導電率0.07μS/cm)で充分リンスした。その後、大気雰囲気下、80℃の乾燥炉で2分間熱処理して、アルミニウム箔を得た。
【0045】
(フーリエ変換赤外分光[FTIR]測定)
上記で得られたアルミニウム箔の表面を、バリアン社製のフーリエ変換赤外分光装置FTS−6000を用い、入射角83°に設定し、偏光子を用いて平行偏光のみを反射法にてモニタリングした。バックグラウンドには金蒸着ミラーを用い、4cm-1の分解能で、1000回の積算を行った。ベースラインに対して吸光度が0.02以上である各ピークについて、吸光度が最大となる波数をピーク位置として記録した。
実施例1〜3で得られたアルミニウム箔のピーク位置を表1に示す。また実施例1で得られたアルミニウム箔表面のフーリエ変換赤外分光測定により得られたスペクトルを図1に示す。
【0046】
(導電材を含む皮膜の形成)
導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業(株)製商品名デンカブラックHS−100)5質量部、結着剤として日本特許3958536号(対応する米国出願:US 2004/092620 A1)に記載の方法で製造したグリセリル化キトサン2.5質量部、添加剤としてピロメリット酸無水物2.5質量部、および分散媒としてN−メチル−2−ピロリドンを90質量部を配合し、ディゾルバータイプの撹拌機を用いて回転数300rpmで10分間攪拌して、スラリーを作製した。このスラリーを上記アルミニウム箔の片面にバーコーターを用いて塗布し、180℃にて1分間乾燥してアンダーコート層付きアルミニウム箔からなる集電体を作製した。アンダーコート層の厚みは1μm、目付け量は0.5g/m2であった。
【0047】
(実施例4)
薬液を1質量%の水酸化ナトリウム水溶液に変更し、純水でリンスする前に1mol/L硫酸による中和処理を行った以外は、実施例1と同じ方法で集電体を作製した。
【0048】
(比較例1)
薬液による浸漬洗浄を温水による1分間浸漬洗浄に変更した以外は、実施例1と同じ方法で集電体を作製した。比較例1で得られたアルミニウム箔表面のフーリエ変換赤外分光測定により得られたスペクトルを図2に示す。
【0049】
(初期の貫通抵抗)
実施例1〜4および比較例1で作製したアンダーコート層付きアルミニウム箔からなる集電体をカットして、幅20mm長さ100mmの集電体切片を2枚作製した。導電材を含む皮膜を設けた面同士を向かい合わせ、接触面が幅20mm長さ20mmになるように、2枚の集電体切片を交差して重ね、それを塩化ビニル板の上に置いた。前記接触面の部分に1kg/cm2の荷重をかけて接触面を固定した。集電体切片の相互に接触していないそれぞれの端部にミリオームメーターを接続し、集電体の交流抵抗を測定した。この測定値を貫通抵抗とした。低い貫通抵抗は電気化学素子の電極に適していることを示す。
初期の貫通抵抗の評価結果を貫通抵抗の範囲に応じて以下のような指標で示した。
◎:100mΩ未満
○:100mΩから150mΩ
×:150mΩ以上
【0050】
(貫通抵抗の経時変化)
実施例1〜4および比較例1で作製したアンダーコート層付きアルミニウム箔からなる集電体をカットして、幅20mm長さ100mmの集電体切片を2枚作製した。集電体切片を湿度80%温度40℃の中で24時間保持した。その後、上記と同じ方法で貫通抵抗を測定し、初期貫通抵抗に対する上昇率を算出した。
貫通抵抗の経時変化の評価結果を上昇率の範囲に応じて以下のような指標で示した。
○:上昇率200%未満
×:上昇率200%以上
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、本発明に係る集電体は、貫通抵抗が低く且つ貫通抵抗の経時変化が小さい。このことから、本発明に係る集電体を用いた電極は、内部抵抗またはインピーダンスが低い電気化学素子を提供できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フーリエ変換赤外分光法による表面層の測定において945cm-1〜962cm-1の範囲にピークを有するアルミニウム箔を含んで成る電気化学素子用集電体。
【請求項2】
前記アルミニウム箔の片面または両面に、導電材を含む皮膜をさらに含んで成る請求項1に記載の電気化学素子用集電体。
【請求項3】
前記皮膜が結着剤を含む請求項2に記載の電気化学素子用集電体。
【請求項4】
前記結着剤が多糖類を含む請求項3に記載の電気化学素子用集電体。
【請求項5】
前記皮膜がカルボン酸またはその誘導体を含む請求項4に記載の電気化学素子用集電体。
【請求項6】
前記導電材が炭素質材料である請求項2〜5のいずれか1項に記載の電気化学素子用集電体。
【請求項7】
アルミニウム箔素材を用意し、 該アルミニウム箔素材の表面を、アルミニウムを溶解可能な薬液によって洗浄する工程を含む、 フーリエ変換赤外分光法による表面層の測定において945cm-1〜962cm-1の範囲にピークを有するアルミニウム箔を含んで成る電気化学素子用集電体の製造方法。
【請求項8】
前記薬液が酸性水溶液またはアルカリ性水溶液である請求項7に記載の電気化学素子用集電体の製造方法。
【請求項9】
前記薬液が塩酸、硝酸水溶液および硫酸水溶液からなる群より選ばれる一種以上を含む請求項7に記載の電気化学素子用集電体の製造方法。
【請求項10】
アルミニウム箔の片面または両面に、導電材を含む皮膜を形成する工程をさらに含む請求項9または10のいずれか1項に記載の電気化学素子用集電体の製造方法。
【請求項11】
前記皮膜形成工程は、塗工液を塗布することを含む、請求項10に記載の電気化学素子用集電体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気化学素子用集電体と、
該集電体の片面または両面に有する活物質層と
を含んで成る電気化学素子用電極。
【請求項13】
請求項12に記載の電気化学素子用電極を含む電気化学素子。
【請求項14】
リチウムイオン二次電池または電気二重層キャパシタである請求項13に記載の電気化学素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−199244(P2012−199244A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−121680(P2012−121680)
【出願日】平成24年5月29日(2012.5.29)
【分割の表示】特願2012−524018(P2012−524018)の分割
【原出願日】平成24年2月10日(2012.2.10)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】