雑音のある鋳造材料の超音波検査方法及び関連するプローブ
【課題】微細構造の暗騒音に対する感度を維持又は低減しながら、小さな表面下欠陥に対する感度を高めた新しい超音波検査方法及び関連するプローブを開発すること
【解決手段】鋳造材料の欠陥を検査するために、鋳造材料の表面上に配置されるように構成された第1の表面を有するポリカーボネートディレイ(14)層と、該ポリカーボネートディレイ層の第2の表面上に配置された音響水晶素子(12)とを用いた、雑音のある材料の超音波検査方法及び関連するプローブが開示される。
【解決手段】鋳造材料の欠陥を検査するために、鋳造材料の表面上に配置されるように構成された第1の表面を有するポリカーボネートディレイ(14)層と、該ポリカーボネートディレイ層の第2の表面上に配置された音響水晶素子(12)とを用いた、雑音のある材料の超音波検査方法及び関連するプローブが開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体的に非破壊試験に関し、より詳細には、雑音のある材料についての超音波検査方法及び関連するプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造は、製造が複雑で高価な部品に対して多くの工業用途で広く使用されている。当業者には理解されるように、鋳造物は、ラフ型で製造されて更に最終形状に機械加工され、この最終形状は、多くの用途では精密な機械加工切削により得られる高品質のシール表面を必要とする。しかしながら、鋳造プロセスでは、少なくとも部分的には凝固中に金型又は材料収縮により剥がれた土又は砂により生成される、鋳造部品中の引け、介在物、又は空隙を必然的に伴う。従って、粗形の鋳造部品が最終製品に機械加工されるときには、往々にしてその表面下に引け、介在物、又は空隙の区域が形成され、最低でも補修を必要とし、最悪の場合その部品をスクラップにしなければならなくなる欠陥が生じる。
【0003】
石油・ガス産業では、例えば、鋳造は、石油・ガス生産及び輸送システム用に作られる大型の工業部品の製作に使用される。一般的には、これらの部品に使用される鋳造材料には、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼の3つの鋳造材料がある。使用される鋳造材料のタイプ及び見いだされた欠陥の位置に応じて、鋳造材料を補修するか、又はスクラップにして再溶融する場合があり、従って、補修コスト及び/又はスクラップされる鋳造物を交換するのに必要なリードタイムに起因して製造コストの増大の一因となる。
【0004】
鋳造材料の一般的に使用される検査技術の種々の実施例には、X線、渦流探傷検査、磁粉探傷検査、液体染料浸透、及び超音波がある。しかしながら、これらの従来の技術は、小さな表面欠陥を検出する能力が限定される。液体染料浸透技術では、検査される表面全体にダイを広げ、過剰な染料材料を拭い取り、欠陥内に吸収された染料の該当部分だけが残る。次いで、粉体吸収材料を用いて表面欠陥の位置を特定する。同様に、磁粉探傷検査では、試験される表面全体に磁性粉体を広げて磁界を印加し、欠陥によって磁界漏洩が生じる区域に粉体が集まるようになる。本来の性質を考慮しても、液体染料浸透技術及び磁粉探傷検査技術の何れも鋳造部品の小さな表面欠陥を検出するのに用いることはできない。
【0005】
渦流探傷検査では、検査される部品の表面又は表面近傍で発生する循環(すなわち渦)電流が欠陥によって変動され、渦流探傷検査システムによって検出される。しかしながら、当業者には理解されるように、皮膚によって表面に入るエネルギーの迅速な減衰が生じることにより、また深さと共に有効面積が増大し、従って検出できる最小欠陥のサイズが大きくなるので、小さな欠陥は、渦電流により検査表面下の深部で検出することは困難である。X線技術は、試験片の厚みを透過する放射線源を用いて、該放射線源の反対側に配置されたX線検出器上で欠陥を記録する。しかしながら、X線検査によって検出される欠陥のサイズは、50mmから300mm厚超に及ぶことがある試料の厚みの約2%に制限される。従って、X線装置を用いて厚みのある部品を検査する能力が大幅に低減される。加えて、これらのタイプの検査を行うには、専用の高エネルギーX線設備又はガンマ線計測装置が必要とされ、従って、大型の鋳造物の高エネルギーX線又はガンマ線検査を行うために高価な設備に投資することができる鋳造供給業者の数は限られる。
【0006】
長年にわたり鋳造材料検査には超音波検査が使用されてきた。鋳造材料微細構造の性質に起因して、鋳造材料に超音波を使用する際の欠陥の解像度が制限されることは、一般に考えられる。ノジュラー鋳鉄及び片状鋳鉄は、鉄から分離された相当量の炭素を含んでいる。これらの材料中の分離炭素は、超音波を散乱させ、極めて雑音のある超音波信号をもたらすことになる。超音波を用いた鋳造材料の検査に関わる課題の1つは、欠陥信号を正常な鋳造材料の微細構造の散乱信号と識別可能にすることである。しかしながら、従来の散乱理論では、より厚みのある部品の鋳造材料の欠陥検出において音響エネルギーの周波数が低下すると教示している。従来では、散乱感度を低下させ且つ検出感度を維持するために、1MHzから5MHzの周波数で動作する二重素子プローブが使用されるが、これらの約0.5mmの特性長を有する欠陥検出性能は十分なものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、微細構造の暗騒音に対する感度を維持又は低減しながら、小さな表面下欠陥に対する感度を高めた新しい超音波検査方法及び関連するプローブを開発することが望ましいことになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記で要約された要求又は当該技術分野で公知の他の要求の1つ又はそれ以上は、単一素子超音波プローブに接合されたポリカーボネートディレイ層を利用することによって対処される。
【0009】
単一素子超音波プローブに接合されたポリカーボネートディレイ層は、鋳造材料の微細構造からの背景雑音に対する感度を低減し、欠陥からの散乱音響信号に対する感度を高める。
【0010】
雑音のある材料の欠陥を検出する方法もまた、本明細書で開示される発明の範囲内にある。このような方法は、音響水晶素子に取り付けられたポリカーボネートディレイ層を通じて、該音響水晶素子からのある量の音響エネルギーを放出する段階と、ポリカーボネートディレイを通じて欠陥により散乱される放出音響エネルギーの一部の測定に基づいて、雑音のある材料における欠陥を検出する段階とを含む。
【0011】
上記の簡単な説明は、以下の詳細な説明をより深く理解することを目的とし、更に当該技術分野に対する本発明の寄与をより評価できるようにするために、本発明の種々の実施形態の特徴を記載している。勿論、以下で説明され、添付の請求項の発明をとなる本発明の他の特徴も存在する。
【0012】
この点において、本発明の幾つかの実施形態を詳細に説明する前に、本発明の種々の実施形態は、以下の説明で記載され又は図面中に例示される構成の詳細及び構成部品の配列に適用することに限定されない点は理解される。本発明は、他の実施形態が可能であり、及び種々の方法で実行及び実施することができる。また、本明細書で利用された用語及び表現は、説明の目的のものであり、限定としてみなすべきではないことは理解されたい。
【0013】
従って、開示事項のベースとなる概念は、本発明の幾つかの目的を実行する他の構造、方法、及び/又はシステムを設計するための根拠として容易に利用することができることは、当業者であれば理解されるであろう。従って、本発明の請求項は、本発明の技術的思想及び範囲から逸脱しない範囲においてこのような均等な構成を含むものとみなすことが重要である。
【0014】
更に、要約書の目的は、一般的には特許審査官及び/又は一般人、並びに特に、特許又は法律の用語もしくは表現に精通していない科学者、技術者、及び実施者が、本出願の具述的な開示事項の性質及び本質を一瞥して判断できるようにすることである。従って、要約書は、請求項によってのみ評価される本発明又は本出願を定義することを意図しておらず、更に、本発明の範囲をどのようにも限定するものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の1つの実施形態による単一素子超音波検査プローブの概略図。
【図2】本発明の実施形態による単一素子超音波検査プローブと従来のプローブとの比較を実施するのに使用される非破壊評価較正基準を示す図。
【図3A】ノジュラー鋳鉄の較正基準ブロックの8mmの例示的な深さにおける欠陥に対する単一素子超音波検査プローブの測定信号の変動を時間の関数として示した図。
【図3B】ノジュラー鋳鉄の較正基準ブロックの15mmの例示的な深さにおける欠陥に対する単一素子超音波検査プローブの測定信号の変動を時間の関数として示した図。
【図3C】ノジュラー鋳鉄の較正基準ブロックの25mmの例示的な深さにおける欠陥に対する単一素子超音波検査プローブの測定信号の変動を時間の関数として示した図。
【図4】従来の二重素子プローブを用いた種々の材料での検査測定における信号対雑音比の変動を平底孔深さの関数として示した図。
【図5】図1の単一素子超音波検査プローブの信号対雑音比の変動を平底孔深さの関数として示した図。
【図6】単一素子超音波検査プローブにおいて厚みが5から100mmの範囲のディレイ層の鉄深さの関数として任意単位で音響信号振幅の変動に関するシミュレーション結果を示した図。
【図7A】本発明の実施形態による、曲面用の単一素子超音波検査プローブの概略図。
【図7B】本発明の実施形態による、曲面用の単一素子超音波検査プローブの概略図。
【図8】本発明の実施形態による、曲面用の単一素子超音波検査プローブの概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で開示する実施形態並びにその付随する利点のより完全な理解は、添付図面を参照しながら検討したときに、以下の詳細な説明を参照することによってより十分に理解することから得られるであろう。
【0017】
本発明の実施形態は、全体的に非破壊試験に関連し、より詳細には、鋳造材料の検査のための超音波プローブ及び関連方法に関する。開示される単一素子超音波検査プローブにおいてポリカーボネートディレイを使用することで、従来高すぎると考えられ、すなわち許容可能でない信号対雑音比を有する微細構造背景散乱を発生すると考えられた周波数で、超音波検出技術を利用してこれまで測定できなかった0.5mm又は3.0mmほど小さい特徴寸法をそれぞれ備えたノジュラー鋳鉄及び片状鋳鉄部品の表面下鋳造欠陥の検出が初めて可能となった。
【0018】
本明細書全体を通じて「1つの実施形態」又は「ある実施形態」として言及することは、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、又は特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書全体を通じて様々な箇所で表現「1つの実施形態では」又は「ある実施形態では」が出現するが、必ずしも同じ実施形態について言及している訳ではない。更に、具体的な特徴、構造、または特性は、1つ又はそれ以上の実施形態においてあらゆる好適な様態で組み合わせてもよい。ここで、同じ参照符号が複数の図全体を通じて同一又は対応する要素を示す図面を参照し、改善された超音波検査プローブの実施形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の1つの実施形態による、単一素子超音波検査プローブ10の概略図を示す。図示のように、単一素子超音波検査プローブ10は、ポリカーボネートディレイ14の上部に装着された接触超音波トランスデューサ(適切な電気接続部、整合層(図示せず)、及びバッキング層(図示せず)を有し、総称して以下では、超音波トランスデューサ又は水晶素子12と呼ぶ)を含む。接触素子12は、該接触素子12が水晶である場合の直径とすることができる特徴寸法L1を有する。また、図1に示すように、ポリカーボネートディレイ14は、高さH2及び幅W2を有し、これらもまた、円筒形ポリカーボネートディレイ14を有し実施形態の直径とすることができる。使用時には、ポリカーボネートディレイ14の下側表面16は、検査されることになる表面に装着され、接触素子12は、適切な周波数で駆動されて該表面に音響エネルギーのビームを発生する。接触素子12を駆動する周波数、接触素子12の直径、及びポリカーボネートディレイ14の寸法特性を選択することによって、単一素子超音波検査プローブ10用の音響エネルギーの所望のビームが得られる。当業者であれば理解されるように、接触素子12はまた、鋳造物から散乱された音響エネルギーの受信器としても機能し、該音響エネルギーは、検査される部品の欠陥を検出するために更に処理される。
【0020】
本発明からより明らかになるように、単一素子超音波検査プローブ10の上述のパラメータの範囲は、雑音のある材料の検査を可能にするために、種々の実施可能な実施形態に対して企図される。これは、トランスデューサ能動要素(その幾何形状及び動作周波数)、電気的接続部、整合層、及びバッキング層の種類を含む。当業者には理解されるように、超音波要素はまた、1次元又は2次元配列の線形又は位相アレイとすることができる。全体を通じて使用される語句「雑音のある材料」とは、その微細構造の性質が超音波エネルギーを散乱させ、小欠陥の検出を不可能にすることになる材料を意味する。語句「雑音のある材料」は、鋳造材料に限定することを意図するものではない。当業者には理解されるように、本発明を精査した後に、本発明の実施形態は、超音波エネルギーを反射及び/又は散乱させて受信信号に雑音を発生して小欠陥の検出を困難にする構造を有する他の材料にも適用することができる。このような材料の例には、限定ではないが、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼に加えて、複合材料、セラミック、及び構造的多孔質材料を含む。
【0021】
上述のように、鋳鉄材料は通常、超音波を用いた検査が困難である。ポリカーボネートディレイ14を備えた単一素子超音波検査プローブ10は、限定ではないが、片状鋳鉄及びノジュラー鋳鉄などの鋳鉄材料の欠陥検出において良好な信号対雑音比を提供する。ポリカーボネートディレイ14は、検査性能の向上に必要とされる良好な超音波ビーム特性をもたらす。単一素子超音波検査プローブ10の有利な特徴の1つは、以下で更に説明されるように、鋳造材料微細構造特徴などの固有の材料特性に対する感度を最小にしながら、鋳鉄材料の欠陥に対する感度を最大にするようディレイを選択した設計を含む。
【0022】
図1に示す例示において、接触素子12は、直径約12.7mm(約0.5インチ)の円形断面を有する5MHzトランスデューサであり、ポリカーボネート層14は、高さH2が約32mm(約1.25インチ)で直径L2が約38mm(約1.5インチ)を有する円筒形状であるが、本発明の範囲内で他の形状及びサイズを使用してもよい。例えば、限定としてみなすべきではないが、ポリカーボネート層14は、矩形又は方形の断面を有することができる。加えて、本発明を精査した後で当業者であれば理解されるように、ポリカーボネート層14の形状は、超音波が側壁と干渉しないように側面積が十分に大きい限り限定されない。
【0023】
以下でより明らかになるように、広範囲に及ぶ実験的測定値及び数値モデリングにより、接触素子12の駆動周波数の選択と共に、実験及びモデリング結果を要約して以下に更に実証されるように、所望のレベルのSNRを達成できるようにするポリカーボネートディレイ14の工学的形状及び高さの開発が可能となった。ポリカーボネートディレイ14は、検査される鋳造部品の微細構造から散乱される音響エネルギーの一部に対してのフィルタとして作用するが、欠陥からの信号はより直截的になり、その結果、微細構造からの背景雑音と比較してセンサにより優先的に検出されると考えられる。更に、微細構造からの音響散乱信号は、ポリカーボネートディレイ14のプローブの受信部分から離れて散乱される種々の角度に由来し、欠陥からの散乱はより直截的で、センサ素子12に達して検出されると考えられる。
【0024】
本明細書において、従来の散乱理論では、鋳造部品の欠陥を検出するのに使用される音響センサにおいて、部品内により深く到達するようにするために周波数を低くする必要があると教示している点に留意されたい。図示のように、本発明者らは、欠陥からの散乱に対する感度及び微細構造からの散乱の減衰を可能にしながら、実際には周波数を高くして小欠陥に対する感度を高めている。通常は、SNRは3:1が望ましい。ポリカーボネートディレイ14の例示的な実施形態は、限定ではないが、Lucite及びRexoliteを含む。単一素子超音波検査プローブ10の有利な特徴の1つは、鋳造材料が未だ鋳造工場にある間に、場合によっては超音波検査が製造前に欠陥を発見することができ、これにより、部品を補修するか又は不良と判定することが可能となり、不必要な製造コストが大幅に排除されることである。
【0025】
従来は、雑音のある鋳造材料を検査する際には二重素子プローブが使用されてきた。雑音のある材料における単一素子超音波検査プローブ10のある実施形態の性能を評価するために、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼の較正基準を製造し、単一素子超音波検査プローブ10と2つの従来の二重素子超音波検査プローブとを用いてこれらの基準の測定を行って比較した。第1の従来の二重素子超音波検査プローブは2.25MHzプローブであり、以下従来プローブAとし、第2の従来の二重素子超音波検査プローブは5MHz二重素子プローブであり、以下従来プローブBとする。しかしながら、上述のように、本発明は、限定ではないが、複合材料、セラミック、及び構造的に多孔質の材料を含む、他の材料に等しく適用可能である。
【0026】
図2は、3つの異なる深さ(8、15、及び25mm)の欠陥をシミュレートした較正基準の1つの実施形態を例示している。これらの基準は、前面22、底面24、並びに種々の材料の欠陥をシミュレートするために異なるサイズ(約0.5から5mmの範囲)及び深さ(0から約35mmの範囲)の平底孔26(すなわちFBH)を有するブロック20であった。図2の例示的な較正基準において、各平底孔26は、端ぐり30を備えた0.5mm直径の孔28を含む。鋳造表面条件の作用を含めるために、鋳放しのブロックと機械加工したブロック20とを構成した。機械加工表面は、64マイクロインチの表面粗さにまで研削した。加えて、別の較正基準を、評価プロセスにおける権利として使用されるように機械加工表面を有する圧延鋼材料で作った。
【0027】
ブロック20の各々は、所与の深さの「後壁」信号を生成するように、平坦且つ滑らかな表面を有する一定厚みの階段部のセットを含んでいた。図3Aから3Cは、ノジュラー鋳造較正基準ブロック20についての8、15、及び25mmのシミュレート欠陥それぞれの測定における単一素子超音波検査プローブ10からの信号の変動を時間の関数として示している。図示のように、典型的な測定信号は、32で表記された信号部分における前面22の検出部、34における各平底孔26の検出部に対応する信号、36での端ぐり30の検出部、及び38での底面24の検出部を含んでいた。説明の通り、異なる深さの範囲(0から35mm)及び欠陥直径(0.5から5mm)を、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼製の異なるブロック20を用いて調べた。本発明の種々の実施形態による単一素子プローブが特定の範囲の深さに対して最適化できることは、当業者であれば理解されるであろう。
【0028】
浸漬及び接触検査技術の両方を用いて実施可能試験を行った。浸漬技術は、このプロセスにおける権利(又は最良性能)と考えられたが、接触スキャンは、現在使用されている検査プロセスの基準を提供することになる。平底孔26を含むブロック20をスキャンし、欠陥からのピーク振幅と正常な微細構造散乱からのピーク信号とを比較することにより標準的手順を用いてSNRを算出した。目標は、評価される鋳造材料において対象となる欠陥から3又はそれよりも大きなSNRを得ることであった。実施された基準試験は、現在使用されている接触検査プロセス及び浸漬検査技術では全ての鋳造材料に関して3又はそれよりも大きなSNRを提供できないことを実証した。鋳鋼片における直径0.5mmの人工欠陥の検出は、欠陥信号に対して微細構造散乱の振幅が小さいことに起因して可能であったが、鋳鉄材料における同様の欠陥の検出では、より困難な問題を示した。黒鉛ノジュール及び片状黒鉛は、鋳鋼で観測された振幅よりも大きな振幅を備えた微細構造散乱信号を発生した。浸漬検査技術を用いて試験すると、ノジュラー鋳鉄内の黒鉛からの散乱を鋼材に対して評価するよう観測したが、直径0.5mmの平底孔の検出を妨げるほど大きくはなかった。ノジュラー鋳鉄に関して現在使用される接触法を試験すると、この材料におけるSNRは、直径0.5mmの平底孔の検出を妨げた。片状鋳鉄では、微細構造散乱は、全ての方法による0.5mmの平底孔の検出を妨げた。微細構造からの作用に加えて、表面粗さもまたSNRの劣化の一因となった。これらの作用を考慮して、ノジュラー鋳鉄及び片状鋳鉄の種々の仕上がりにおいて0から30mmの範囲の深さにある平底孔、及び0から3mmの範囲の平底孔直径を含む、品質評価上で最も重視される点と判断される検査変数の値の範囲を策定した。本明細書で開示される試験及びモデリング結果は、ノジュラー鋳鉄及び片状鋳鉄について実施してきたが、開示されるプローブ及び方法は、他の鋳造材料の検査についても適用可能であり、従って、この2つの例示的な試験及びモデリング結果は、限定としてみなすべきではない点に留意されたい。
【0029】
ノジュラー鋳鉄及び片状鋳鉄のブロック20内の平底孔26を用いて行った試験は、従来プローブA及びBが上述の微細構造散乱作用を克服できないことを実証した。従来プローブAは、散乱信号の適度な低減をもたらしたが、十分なSNRで直径0.5mmの平底孔を検出することはできなかった。2MHzの超音波波長は、対象の欠陥よりもほぼ3〜4倍大きい。この波長対欠陥比は、これらの欠陥を解像する能力を低下させる。従って、対象の欠陥を解像するためには、より高い超音波周波数が必要とされることになる。より高い検査周波数を用いることに関しての1つの懸念点は、正常な鋳造材料の微細構造からの散乱が検査周波数に伴って増大することである。十分なSNRを有して対象の欠陥を解像するのに最も好適な周波数が決定される必要がある。上述のように、構造内の欠陥の適切な検出のためには、欠陥と微細構造散乱とを弁別するのに十分と考えられるSNRは3である。
【0030】
異なる較正ブロック20における平底孔26のセットに対し、従来プローブA及びB並びに単一素子超音波検査プローブ10のある実施形態を用いて実験を行い、SNRを記録した。図4及び5は、従来プローブA(図4)及び単一素子超音波検査プローブ10(図5)の3つの平底孔直径についての平底孔深さに対するSNRの変動を示している。これらの試験の結果は、従来プローブBは鋳鋼ブロックと鋳鉄ブロックの8mmFBHとにおいてより大きなSNR値をもたらしたが、従来プローブAでは、鋳鉄ブロックのFBHがより深くなるに伴ってより良好に動作することを示した。これは、鋳鋼での減衰と比較して、鋳鉄においては周波数に依存する減衰が増大することに起因していた。単一素子超音波検査プローブ10についての図5の結果は、SNRが合否基準の3を上回り、異なるFBH深さに応じてほとんど変化しないことを示した。要約すると、ノジュラー鋳鉄(0.5mm又はそれ以上の直径を備えた欠陥)、片状鋳鉄(3mm又はそれ以上の直径を備えた欠陥)、及び鋳鋼(0.5mm又はそれ以上の直径を備えた欠陥)製の較正ブロックにおいて、本発明による単一素子超音波検査プローブを用いて上述の深さ範囲で行った測定でのSNRは、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼の上述の最小欠陥直径において、それぞれ、4から8.7、6.7から7.9、及び3から13に及び、全て3よりも高かった。
【0031】
単一素子超音波検査プローブ10の最適動作周波数は、3MHzから5MHzの間であることが分かり、材料を片状鋳鉄からノジュラー鋳鉄に、更に鋳鋼に変更したときに(微細構造雑音が低減)、周波数が高いほどより良好に動作した。また、本出願の出願人の製造工場並びに製造サプライヤーからの2つの工場において実地試験も行ってきた。実地試験は、3つの材料全てからの鋳造部品について行った。単一素子超音波検査プローブ10の種々の実施形態を用いた超音波指標は、現地で試験した全ての材料において検出された。
【0032】
プローブ性能を更に詳しく調べて最適化するために、新規の有利な単一素子超音波検査プローブ10及び従来の二重素子音響プローブの挙動を数値シミュレーションにより実施される音場計算を通じてモデル化した。多重周波数を備えた二重素子プローブと、ディレイラインの異なる長さ、異なるディレイライン材料、ディレイライン厚み、ディレイライン直径、及び動作周波数を備えた単一素子プローブとを数値シミュレーションにより比較した。モデルは、様々な寸法及び異なる深さの欠陥からの応答を調べるのに使用される。モデル化されたプローブに関連する全ての寸法パラメータは、モデル調査の間一定に維持される。従来の二重素子プローブについてのモデル結果は、上記で説明したこれらの対照物の実験性能と良く合致した。
【0033】
図6は、厚みが5から100mmの範囲のディレイ層の鉄深さの関数として音響信号振幅の変動に関するシミュレーション結果を示している。この特定の結果において、シミュレートしたディレイ層材料はLuciteであった。図6に示すように、ディレイ厚みが小さくなるにつれて、ビームプロファイル及びビーム全体の振幅変動において有意な振幅勾配が存在する。図6に示すようなノジュラー鋳鉄材料のモデル結果に基づいて、厚みの許容範囲は、約32から40mmの間である。Lucite厚みが増大するにつれ、振幅減少の勾配及び傾斜は、32及び40mm付近の厚みに対してほとんどゼロになる。40mmを上回るLuciteディレイ厚みでは、振幅勾配が求められる。最適Luciteディレイ厚みは、35mm前後であることが観測される。図6に示すモデル化結果に基づいて、30mm厚ノジュラー鉄片にわたる欠陥の均一な感度は、35mm厚ポリカーボネートディレイ素子を含む単一素子プローブにおいて期待される。ポリカーボネートディレイ素子を備えた単一素子プローブにおいて周波数の関数としてのSNRの変動に関するシミュレーション結果はまた、水晶などの他の材料製のディレイ素子と比較して、かなり高いSNRを示した。
【0034】
上記で要約したように、ノジュラー鋳鉄材料の現在使用されている単一素子及び二重素子プローブのシミュレーション実施結果は、従来の二重素子プローブに比べて、開示される新規の有利な単一素子プローブの性能の方が良好であることを示した。好ましい1つの実施形態では、高性能に最適化された単一素子プローブは、35mm厚Luciteディレイ厚み材料と、4MHz前後の動作周波数とを使用している。この実施形態では、選択されたLuciteディレイ素子の直径は、あらゆる側壁反射を避けるために25.4mm(1インチ)又はそれ以上である。
【0035】
また、数値シミュレーションの更なる使用及び種々の鋳造材料の鋳造較正ブロックに関する更なる実験により、32mm厚Rexoliteディレイ素子を備えた5MHzトランスデューサを含む単一素子プローブの別の実施形態が提供される。この実施形態は、ノジュラー鋳鉄における0.5mm平底孔及び片状鋳鉄における3mm平底孔において、SNR>3を達成した。上記で図示され説明されたように、ディレイ素子は、欠陥からの信号を保持しながら、微細構造雑音を実質的に低減することができる。当業者には理解されるように、LuciteとRexoliteとの間の相違点の1つは、Rexoliteが、より大きな靱性及びLuciteよりも僅かに高い音速を有するポリカーボネートであることである。本発明の幾つかの実施形態では、Rexoliteは、粗い鋳造表面の削り取りを良好に維持するので好ましい。
【0036】
平坦な鋳造表面の他に、本発明を限定するものとみなすべきではないが、2、3例を挙げると、ボア表面、円筒表面、ダイアフラム表面など、凹面及び凸面両方の曲率を備えた多くの鋳造表面が存在する。曲率の範囲は、直径約100mmから約1000mm又はそれ以上に及ぶ、広範囲になることができる。平坦表面の検査用の超音波プローブを曲面検査に適用すると、ディレイと鋳造面との間の界面での超音波の結合が不十分であることに起因して、欠陥からの信号振幅及び信号対雑音比の両方が低減される可能性がある。表面曲率によって生じる自然集束及び集束外れはまた、鋳造物の欠陥からの信号振幅及び信号対雑音比に影響を及ぼす可能性がある。
【0037】
曲面鋳造物の良好な検査を行うために、図7(A及びB)及び図8は、曲面の界面を通る超音波エネルギー結合を改善するよう構成された単一素子超音波プローブ40及び50の2つの例示的な実施形態を示している。図7A及び7Bは、検査のために曲面に接して配置されるよう構成された狭窄部44を有するディレイ素子42の実施例を示す。狭窄部分44は、検査される鋳造表面上に配置されたディレイ素子42の表面のトリミング部分46により得られる。図7A及び7Bのポリカーボネートディレイ素子42の直径は、約6.4mm(0.25インチ)から約51mm(2インチ)の範囲である。単一素子超音波プローブ40のディレイ高さは、約5mmから約50mmの範囲とすることができ、ディレイ底幅は、2.54mm(0.1インチ)から約51mm(2インチ)の範囲とすることができる。
【0038】
図8に示す単一素子超音波プローブ50では、ポリカーボネートディレイ54の低端部52は、超音波エネルギーを僅かに集束するような球形状に機械加工される。別の実施形態では、ディレイの端部は、図示のように円錐形とすることができる。コーンの他端は、検査中に鋳造物の曲面と接触する小開口56を有する。この設計は、ポリカーボネートディレイによるフィルタリング作用と、僅かに集束される超音波ビーム及び狭いコーン開口とを組み合わせて、曲面を有する鋳造物に対して最適な検査結果を得るようにする。
【0039】
雑音のある材料において欠陥を検出する方法もまた、本発明の範囲内にある。このような方法は、音響水晶素子に取り付けられ、その表面が雑音のある材料の表面と接触したポリカーボネートディレイ層を通じて、該音響水晶素子からのある量の音響エネルギーを放出する段階と、ポリカーボネートディレイを通じて欠陥により散乱される放出音響エネルギーの一部の測定に基づいて、雑音のある材料における欠陥を検出する段階とを含む。加えて、このような方法はまた、Luciteディレイ層及びRexoliteディレイ層からなる群から選択されたポリカーボネートディレイ層を通じて音響水晶素子からある量の音響エネルギーを放出する段階を更に含むことができ、雑音のある材料は、複合材料、セラミック、構造的多孔質材料、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼からなる群から選択される。ノジュラー鋳鉄における欠陥を検出すると、これらの欠陥は、約0.5mm又はそれ以上の特徴寸法を有し、ノジュラー鋳鉄の表面から最大40mmの深さに配置することができる。
【0040】
本明細書で上述したように、上記の方法はまた、雑音のある材料の表面と接触しているポリカーボネートディレイの表面が、音響水晶素子に取り付けられたポリカーボネートディレイ層の表面よりも狭くなっている湾曲した場所、或いは、ポリカーボネートディレイ層が中空で流体が充填されており、中空ポリカーボネートディレイの端部上に配置された開口を有する円錐部を含む場所を有する雑音のある材料にも適用可能である。
【0041】
本発明の開示された実施形態は、幾つかの例示的な実施形態と関連して特異性及び詳細事項に関して図面において示され、且つ上記で十分に説明されたが、新規の教示事項、本明細書で記載された原理及び概念、並びに添付の特許請求の範囲に記載された主題の利点から実質的に逸脱することなく、多くの修正、変更、及び省略が可能である。従って、開示された発明の適正な範囲は、全てのこのような修正、変更、及び省略が含まれるように、添付の請求項を最も広く解釈することによってのみ決定すべきである。加えて、あらゆるプロセス又は方法ステップの順序又は配列は、代替の実施形態に応じて変更され、又は再配列することができる。最後に、請求項において、何れかのmeans−plus−function条項は、記載された機能を実施するものとして本明細書で説明された構成、並びに構造上の均等物だけでなく均等な構造物をも保護するものとする。
【符号の説明】
【0042】
20 ブロック
22 前面
24 底面
26 平底孔
28 孔
30 端ぐり
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体的に非破壊試験に関し、より詳細には、雑音のある材料についての超音波検査方法及び関連するプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造は、製造が複雑で高価な部品に対して多くの工業用途で広く使用されている。当業者には理解されるように、鋳造物は、ラフ型で製造されて更に最終形状に機械加工され、この最終形状は、多くの用途では精密な機械加工切削により得られる高品質のシール表面を必要とする。しかしながら、鋳造プロセスでは、少なくとも部分的には凝固中に金型又は材料収縮により剥がれた土又は砂により生成される、鋳造部品中の引け、介在物、又は空隙を必然的に伴う。従って、粗形の鋳造部品が最終製品に機械加工されるときには、往々にしてその表面下に引け、介在物、又は空隙の区域が形成され、最低でも補修を必要とし、最悪の場合その部品をスクラップにしなければならなくなる欠陥が生じる。
【0003】
石油・ガス産業では、例えば、鋳造は、石油・ガス生産及び輸送システム用に作られる大型の工業部品の製作に使用される。一般的には、これらの部品に使用される鋳造材料には、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼の3つの鋳造材料がある。使用される鋳造材料のタイプ及び見いだされた欠陥の位置に応じて、鋳造材料を補修するか、又はスクラップにして再溶融する場合があり、従って、補修コスト及び/又はスクラップされる鋳造物を交換するのに必要なリードタイムに起因して製造コストの増大の一因となる。
【0004】
鋳造材料の一般的に使用される検査技術の種々の実施例には、X線、渦流探傷検査、磁粉探傷検査、液体染料浸透、及び超音波がある。しかしながら、これらの従来の技術は、小さな表面欠陥を検出する能力が限定される。液体染料浸透技術では、検査される表面全体にダイを広げ、過剰な染料材料を拭い取り、欠陥内に吸収された染料の該当部分だけが残る。次いで、粉体吸収材料を用いて表面欠陥の位置を特定する。同様に、磁粉探傷検査では、試験される表面全体に磁性粉体を広げて磁界を印加し、欠陥によって磁界漏洩が生じる区域に粉体が集まるようになる。本来の性質を考慮しても、液体染料浸透技術及び磁粉探傷検査技術の何れも鋳造部品の小さな表面欠陥を検出するのに用いることはできない。
【0005】
渦流探傷検査では、検査される部品の表面又は表面近傍で発生する循環(すなわち渦)電流が欠陥によって変動され、渦流探傷検査システムによって検出される。しかしながら、当業者には理解されるように、皮膚によって表面に入るエネルギーの迅速な減衰が生じることにより、また深さと共に有効面積が増大し、従って検出できる最小欠陥のサイズが大きくなるので、小さな欠陥は、渦電流により検査表面下の深部で検出することは困難である。X線技術は、試験片の厚みを透過する放射線源を用いて、該放射線源の反対側に配置されたX線検出器上で欠陥を記録する。しかしながら、X線検査によって検出される欠陥のサイズは、50mmから300mm厚超に及ぶことがある試料の厚みの約2%に制限される。従って、X線装置を用いて厚みのある部品を検査する能力が大幅に低減される。加えて、これらのタイプの検査を行うには、専用の高エネルギーX線設備又はガンマ線計測装置が必要とされ、従って、大型の鋳造物の高エネルギーX線又はガンマ線検査を行うために高価な設備に投資することができる鋳造供給業者の数は限られる。
【0006】
長年にわたり鋳造材料検査には超音波検査が使用されてきた。鋳造材料微細構造の性質に起因して、鋳造材料に超音波を使用する際の欠陥の解像度が制限されることは、一般に考えられる。ノジュラー鋳鉄及び片状鋳鉄は、鉄から分離された相当量の炭素を含んでいる。これらの材料中の分離炭素は、超音波を散乱させ、極めて雑音のある超音波信号をもたらすことになる。超音波を用いた鋳造材料の検査に関わる課題の1つは、欠陥信号を正常な鋳造材料の微細構造の散乱信号と識別可能にすることである。しかしながら、従来の散乱理論では、より厚みのある部品の鋳造材料の欠陥検出において音響エネルギーの周波数が低下すると教示している。従来では、散乱感度を低下させ且つ検出感度を維持するために、1MHzから5MHzの周波数で動作する二重素子プローブが使用されるが、これらの約0.5mmの特性長を有する欠陥検出性能は十分なものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、微細構造の暗騒音に対する感度を維持又は低減しながら、小さな表面下欠陥に対する感度を高めた新しい超音波検査方法及び関連するプローブを開発することが望ましいことになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記で要約された要求又は当該技術分野で公知の他の要求の1つ又はそれ以上は、単一素子超音波プローブに接合されたポリカーボネートディレイ層を利用することによって対処される。
【0009】
単一素子超音波プローブに接合されたポリカーボネートディレイ層は、鋳造材料の微細構造からの背景雑音に対する感度を低減し、欠陥からの散乱音響信号に対する感度を高める。
【0010】
雑音のある材料の欠陥を検出する方法もまた、本明細書で開示される発明の範囲内にある。このような方法は、音響水晶素子に取り付けられたポリカーボネートディレイ層を通じて、該音響水晶素子からのある量の音響エネルギーを放出する段階と、ポリカーボネートディレイを通じて欠陥により散乱される放出音響エネルギーの一部の測定に基づいて、雑音のある材料における欠陥を検出する段階とを含む。
【0011】
上記の簡単な説明は、以下の詳細な説明をより深く理解することを目的とし、更に当該技術分野に対する本発明の寄与をより評価できるようにするために、本発明の種々の実施形態の特徴を記載している。勿論、以下で説明され、添付の請求項の発明をとなる本発明の他の特徴も存在する。
【0012】
この点において、本発明の幾つかの実施形態を詳細に説明する前に、本発明の種々の実施形態は、以下の説明で記載され又は図面中に例示される構成の詳細及び構成部品の配列に適用することに限定されない点は理解される。本発明は、他の実施形態が可能であり、及び種々の方法で実行及び実施することができる。また、本明細書で利用された用語及び表現は、説明の目的のものであり、限定としてみなすべきではないことは理解されたい。
【0013】
従って、開示事項のベースとなる概念は、本発明の幾つかの目的を実行する他の構造、方法、及び/又はシステムを設計するための根拠として容易に利用することができることは、当業者であれば理解されるであろう。従って、本発明の請求項は、本発明の技術的思想及び範囲から逸脱しない範囲においてこのような均等な構成を含むものとみなすことが重要である。
【0014】
更に、要約書の目的は、一般的には特許審査官及び/又は一般人、並びに特に、特許又は法律の用語もしくは表現に精通していない科学者、技術者、及び実施者が、本出願の具述的な開示事項の性質及び本質を一瞥して判断できるようにすることである。従って、要約書は、請求項によってのみ評価される本発明又は本出願を定義することを意図しておらず、更に、本発明の範囲をどのようにも限定するものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の1つの実施形態による単一素子超音波検査プローブの概略図。
【図2】本発明の実施形態による単一素子超音波検査プローブと従来のプローブとの比較を実施するのに使用される非破壊評価較正基準を示す図。
【図3A】ノジュラー鋳鉄の較正基準ブロックの8mmの例示的な深さにおける欠陥に対する単一素子超音波検査プローブの測定信号の変動を時間の関数として示した図。
【図3B】ノジュラー鋳鉄の較正基準ブロックの15mmの例示的な深さにおける欠陥に対する単一素子超音波検査プローブの測定信号の変動を時間の関数として示した図。
【図3C】ノジュラー鋳鉄の較正基準ブロックの25mmの例示的な深さにおける欠陥に対する単一素子超音波検査プローブの測定信号の変動を時間の関数として示した図。
【図4】従来の二重素子プローブを用いた種々の材料での検査測定における信号対雑音比の変動を平底孔深さの関数として示した図。
【図5】図1の単一素子超音波検査プローブの信号対雑音比の変動を平底孔深さの関数として示した図。
【図6】単一素子超音波検査プローブにおいて厚みが5から100mmの範囲のディレイ層の鉄深さの関数として任意単位で音響信号振幅の変動に関するシミュレーション結果を示した図。
【図7A】本発明の実施形態による、曲面用の単一素子超音波検査プローブの概略図。
【図7B】本発明の実施形態による、曲面用の単一素子超音波検査プローブの概略図。
【図8】本発明の実施形態による、曲面用の単一素子超音波検査プローブの概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で開示する実施形態並びにその付随する利点のより完全な理解は、添付図面を参照しながら検討したときに、以下の詳細な説明を参照することによってより十分に理解することから得られるであろう。
【0017】
本発明の実施形態は、全体的に非破壊試験に関連し、より詳細には、鋳造材料の検査のための超音波プローブ及び関連方法に関する。開示される単一素子超音波検査プローブにおいてポリカーボネートディレイを使用することで、従来高すぎると考えられ、すなわち許容可能でない信号対雑音比を有する微細構造背景散乱を発生すると考えられた周波数で、超音波検出技術を利用してこれまで測定できなかった0.5mm又は3.0mmほど小さい特徴寸法をそれぞれ備えたノジュラー鋳鉄及び片状鋳鉄部品の表面下鋳造欠陥の検出が初めて可能となった。
【0018】
本明細書全体を通じて「1つの実施形態」又は「ある実施形態」として言及することは、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、又は特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書全体を通じて様々な箇所で表現「1つの実施形態では」又は「ある実施形態では」が出現するが、必ずしも同じ実施形態について言及している訳ではない。更に、具体的な特徴、構造、または特性は、1つ又はそれ以上の実施形態においてあらゆる好適な様態で組み合わせてもよい。ここで、同じ参照符号が複数の図全体を通じて同一又は対応する要素を示す図面を参照し、改善された超音波検査プローブの実施形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の1つの実施形態による、単一素子超音波検査プローブ10の概略図を示す。図示のように、単一素子超音波検査プローブ10は、ポリカーボネートディレイ14の上部に装着された接触超音波トランスデューサ(適切な電気接続部、整合層(図示せず)、及びバッキング層(図示せず)を有し、総称して以下では、超音波トランスデューサ又は水晶素子12と呼ぶ)を含む。接触素子12は、該接触素子12が水晶である場合の直径とすることができる特徴寸法L1を有する。また、図1に示すように、ポリカーボネートディレイ14は、高さH2及び幅W2を有し、これらもまた、円筒形ポリカーボネートディレイ14を有し実施形態の直径とすることができる。使用時には、ポリカーボネートディレイ14の下側表面16は、検査されることになる表面に装着され、接触素子12は、適切な周波数で駆動されて該表面に音響エネルギーのビームを発生する。接触素子12を駆動する周波数、接触素子12の直径、及びポリカーボネートディレイ14の寸法特性を選択することによって、単一素子超音波検査プローブ10用の音響エネルギーの所望のビームが得られる。当業者であれば理解されるように、接触素子12はまた、鋳造物から散乱された音響エネルギーの受信器としても機能し、該音響エネルギーは、検査される部品の欠陥を検出するために更に処理される。
【0020】
本発明からより明らかになるように、単一素子超音波検査プローブ10の上述のパラメータの範囲は、雑音のある材料の検査を可能にするために、種々の実施可能な実施形態に対して企図される。これは、トランスデューサ能動要素(その幾何形状及び動作周波数)、電気的接続部、整合層、及びバッキング層の種類を含む。当業者には理解されるように、超音波要素はまた、1次元又は2次元配列の線形又は位相アレイとすることができる。全体を通じて使用される語句「雑音のある材料」とは、その微細構造の性質が超音波エネルギーを散乱させ、小欠陥の検出を不可能にすることになる材料を意味する。語句「雑音のある材料」は、鋳造材料に限定することを意図するものではない。当業者には理解されるように、本発明を精査した後に、本発明の実施形態は、超音波エネルギーを反射及び/又は散乱させて受信信号に雑音を発生して小欠陥の検出を困難にする構造を有する他の材料にも適用することができる。このような材料の例には、限定ではないが、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼に加えて、複合材料、セラミック、及び構造的多孔質材料を含む。
【0021】
上述のように、鋳鉄材料は通常、超音波を用いた検査が困難である。ポリカーボネートディレイ14を備えた単一素子超音波検査プローブ10は、限定ではないが、片状鋳鉄及びノジュラー鋳鉄などの鋳鉄材料の欠陥検出において良好な信号対雑音比を提供する。ポリカーボネートディレイ14は、検査性能の向上に必要とされる良好な超音波ビーム特性をもたらす。単一素子超音波検査プローブ10の有利な特徴の1つは、以下で更に説明されるように、鋳造材料微細構造特徴などの固有の材料特性に対する感度を最小にしながら、鋳鉄材料の欠陥に対する感度を最大にするようディレイを選択した設計を含む。
【0022】
図1に示す例示において、接触素子12は、直径約12.7mm(約0.5インチ)の円形断面を有する5MHzトランスデューサであり、ポリカーボネート層14は、高さH2が約32mm(約1.25インチ)で直径L2が約38mm(約1.5インチ)を有する円筒形状であるが、本発明の範囲内で他の形状及びサイズを使用してもよい。例えば、限定としてみなすべきではないが、ポリカーボネート層14は、矩形又は方形の断面を有することができる。加えて、本発明を精査した後で当業者であれば理解されるように、ポリカーボネート層14の形状は、超音波が側壁と干渉しないように側面積が十分に大きい限り限定されない。
【0023】
以下でより明らかになるように、広範囲に及ぶ実験的測定値及び数値モデリングにより、接触素子12の駆動周波数の選択と共に、実験及びモデリング結果を要約して以下に更に実証されるように、所望のレベルのSNRを達成できるようにするポリカーボネートディレイ14の工学的形状及び高さの開発が可能となった。ポリカーボネートディレイ14は、検査される鋳造部品の微細構造から散乱される音響エネルギーの一部に対してのフィルタとして作用するが、欠陥からの信号はより直截的になり、その結果、微細構造からの背景雑音と比較してセンサにより優先的に検出されると考えられる。更に、微細構造からの音響散乱信号は、ポリカーボネートディレイ14のプローブの受信部分から離れて散乱される種々の角度に由来し、欠陥からの散乱はより直截的で、センサ素子12に達して検出されると考えられる。
【0024】
本明細書において、従来の散乱理論では、鋳造部品の欠陥を検出するのに使用される音響センサにおいて、部品内により深く到達するようにするために周波数を低くする必要があると教示している点に留意されたい。図示のように、本発明者らは、欠陥からの散乱に対する感度及び微細構造からの散乱の減衰を可能にしながら、実際には周波数を高くして小欠陥に対する感度を高めている。通常は、SNRは3:1が望ましい。ポリカーボネートディレイ14の例示的な実施形態は、限定ではないが、Lucite及びRexoliteを含む。単一素子超音波検査プローブ10の有利な特徴の1つは、鋳造材料が未だ鋳造工場にある間に、場合によっては超音波検査が製造前に欠陥を発見することができ、これにより、部品を補修するか又は不良と判定することが可能となり、不必要な製造コストが大幅に排除されることである。
【0025】
従来は、雑音のある鋳造材料を検査する際には二重素子プローブが使用されてきた。雑音のある材料における単一素子超音波検査プローブ10のある実施形態の性能を評価するために、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼の較正基準を製造し、単一素子超音波検査プローブ10と2つの従来の二重素子超音波検査プローブとを用いてこれらの基準の測定を行って比較した。第1の従来の二重素子超音波検査プローブは2.25MHzプローブであり、以下従来プローブAとし、第2の従来の二重素子超音波検査プローブは5MHz二重素子プローブであり、以下従来プローブBとする。しかしながら、上述のように、本発明は、限定ではないが、複合材料、セラミック、及び構造的に多孔質の材料を含む、他の材料に等しく適用可能である。
【0026】
図2は、3つの異なる深さ(8、15、及び25mm)の欠陥をシミュレートした較正基準の1つの実施形態を例示している。これらの基準は、前面22、底面24、並びに種々の材料の欠陥をシミュレートするために異なるサイズ(約0.5から5mmの範囲)及び深さ(0から約35mmの範囲)の平底孔26(すなわちFBH)を有するブロック20であった。図2の例示的な較正基準において、各平底孔26は、端ぐり30を備えた0.5mm直径の孔28を含む。鋳造表面条件の作用を含めるために、鋳放しのブロックと機械加工したブロック20とを構成した。機械加工表面は、64マイクロインチの表面粗さにまで研削した。加えて、別の較正基準を、評価プロセスにおける権利として使用されるように機械加工表面を有する圧延鋼材料で作った。
【0027】
ブロック20の各々は、所与の深さの「後壁」信号を生成するように、平坦且つ滑らかな表面を有する一定厚みの階段部のセットを含んでいた。図3Aから3Cは、ノジュラー鋳造較正基準ブロック20についての8、15、及び25mmのシミュレート欠陥それぞれの測定における単一素子超音波検査プローブ10からの信号の変動を時間の関数として示している。図示のように、典型的な測定信号は、32で表記された信号部分における前面22の検出部、34における各平底孔26の検出部に対応する信号、36での端ぐり30の検出部、及び38での底面24の検出部を含んでいた。説明の通り、異なる深さの範囲(0から35mm)及び欠陥直径(0.5から5mm)を、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼製の異なるブロック20を用いて調べた。本発明の種々の実施形態による単一素子プローブが特定の範囲の深さに対して最適化できることは、当業者であれば理解されるであろう。
【0028】
浸漬及び接触検査技術の両方を用いて実施可能試験を行った。浸漬技術は、このプロセスにおける権利(又は最良性能)と考えられたが、接触スキャンは、現在使用されている検査プロセスの基準を提供することになる。平底孔26を含むブロック20をスキャンし、欠陥からのピーク振幅と正常な微細構造散乱からのピーク信号とを比較することにより標準的手順を用いてSNRを算出した。目標は、評価される鋳造材料において対象となる欠陥から3又はそれよりも大きなSNRを得ることであった。実施された基準試験は、現在使用されている接触検査プロセス及び浸漬検査技術では全ての鋳造材料に関して3又はそれよりも大きなSNRを提供できないことを実証した。鋳鋼片における直径0.5mmの人工欠陥の検出は、欠陥信号に対して微細構造散乱の振幅が小さいことに起因して可能であったが、鋳鉄材料における同様の欠陥の検出では、より困難な問題を示した。黒鉛ノジュール及び片状黒鉛は、鋳鋼で観測された振幅よりも大きな振幅を備えた微細構造散乱信号を発生した。浸漬検査技術を用いて試験すると、ノジュラー鋳鉄内の黒鉛からの散乱を鋼材に対して評価するよう観測したが、直径0.5mmの平底孔の検出を妨げるほど大きくはなかった。ノジュラー鋳鉄に関して現在使用される接触法を試験すると、この材料におけるSNRは、直径0.5mmの平底孔の検出を妨げた。片状鋳鉄では、微細構造散乱は、全ての方法による0.5mmの平底孔の検出を妨げた。微細構造からの作用に加えて、表面粗さもまたSNRの劣化の一因となった。これらの作用を考慮して、ノジュラー鋳鉄及び片状鋳鉄の種々の仕上がりにおいて0から30mmの範囲の深さにある平底孔、及び0から3mmの範囲の平底孔直径を含む、品質評価上で最も重視される点と判断される検査変数の値の範囲を策定した。本明細書で開示される試験及びモデリング結果は、ノジュラー鋳鉄及び片状鋳鉄について実施してきたが、開示されるプローブ及び方法は、他の鋳造材料の検査についても適用可能であり、従って、この2つの例示的な試験及びモデリング結果は、限定としてみなすべきではない点に留意されたい。
【0029】
ノジュラー鋳鉄及び片状鋳鉄のブロック20内の平底孔26を用いて行った試験は、従来プローブA及びBが上述の微細構造散乱作用を克服できないことを実証した。従来プローブAは、散乱信号の適度な低減をもたらしたが、十分なSNRで直径0.5mmの平底孔を検出することはできなかった。2MHzの超音波波長は、対象の欠陥よりもほぼ3〜4倍大きい。この波長対欠陥比は、これらの欠陥を解像する能力を低下させる。従って、対象の欠陥を解像するためには、より高い超音波周波数が必要とされることになる。より高い検査周波数を用いることに関しての1つの懸念点は、正常な鋳造材料の微細構造からの散乱が検査周波数に伴って増大することである。十分なSNRを有して対象の欠陥を解像するのに最も好適な周波数が決定される必要がある。上述のように、構造内の欠陥の適切な検出のためには、欠陥と微細構造散乱とを弁別するのに十分と考えられるSNRは3である。
【0030】
異なる較正ブロック20における平底孔26のセットに対し、従来プローブA及びB並びに単一素子超音波検査プローブ10のある実施形態を用いて実験を行い、SNRを記録した。図4及び5は、従来プローブA(図4)及び単一素子超音波検査プローブ10(図5)の3つの平底孔直径についての平底孔深さに対するSNRの変動を示している。これらの試験の結果は、従来プローブBは鋳鋼ブロックと鋳鉄ブロックの8mmFBHとにおいてより大きなSNR値をもたらしたが、従来プローブAでは、鋳鉄ブロックのFBHがより深くなるに伴ってより良好に動作することを示した。これは、鋳鋼での減衰と比較して、鋳鉄においては周波数に依存する減衰が増大することに起因していた。単一素子超音波検査プローブ10についての図5の結果は、SNRが合否基準の3を上回り、異なるFBH深さに応じてほとんど変化しないことを示した。要約すると、ノジュラー鋳鉄(0.5mm又はそれ以上の直径を備えた欠陥)、片状鋳鉄(3mm又はそれ以上の直径を備えた欠陥)、及び鋳鋼(0.5mm又はそれ以上の直径を備えた欠陥)製の較正ブロックにおいて、本発明による単一素子超音波検査プローブを用いて上述の深さ範囲で行った測定でのSNRは、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼の上述の最小欠陥直径において、それぞれ、4から8.7、6.7から7.9、及び3から13に及び、全て3よりも高かった。
【0031】
単一素子超音波検査プローブ10の最適動作周波数は、3MHzから5MHzの間であることが分かり、材料を片状鋳鉄からノジュラー鋳鉄に、更に鋳鋼に変更したときに(微細構造雑音が低減)、周波数が高いほどより良好に動作した。また、本出願の出願人の製造工場並びに製造サプライヤーからの2つの工場において実地試験も行ってきた。実地試験は、3つの材料全てからの鋳造部品について行った。単一素子超音波検査プローブ10の種々の実施形態を用いた超音波指標は、現地で試験した全ての材料において検出された。
【0032】
プローブ性能を更に詳しく調べて最適化するために、新規の有利な単一素子超音波検査プローブ10及び従来の二重素子音響プローブの挙動を数値シミュレーションにより実施される音場計算を通じてモデル化した。多重周波数を備えた二重素子プローブと、ディレイラインの異なる長さ、異なるディレイライン材料、ディレイライン厚み、ディレイライン直径、及び動作周波数を備えた単一素子プローブとを数値シミュレーションにより比較した。モデルは、様々な寸法及び異なる深さの欠陥からの応答を調べるのに使用される。モデル化されたプローブに関連する全ての寸法パラメータは、モデル調査の間一定に維持される。従来の二重素子プローブについてのモデル結果は、上記で説明したこれらの対照物の実験性能と良く合致した。
【0033】
図6は、厚みが5から100mmの範囲のディレイ層の鉄深さの関数として音響信号振幅の変動に関するシミュレーション結果を示している。この特定の結果において、シミュレートしたディレイ層材料はLuciteであった。図6に示すように、ディレイ厚みが小さくなるにつれて、ビームプロファイル及びビーム全体の振幅変動において有意な振幅勾配が存在する。図6に示すようなノジュラー鋳鉄材料のモデル結果に基づいて、厚みの許容範囲は、約32から40mmの間である。Lucite厚みが増大するにつれ、振幅減少の勾配及び傾斜は、32及び40mm付近の厚みに対してほとんどゼロになる。40mmを上回るLuciteディレイ厚みでは、振幅勾配が求められる。最適Luciteディレイ厚みは、35mm前後であることが観測される。図6に示すモデル化結果に基づいて、30mm厚ノジュラー鉄片にわたる欠陥の均一な感度は、35mm厚ポリカーボネートディレイ素子を含む単一素子プローブにおいて期待される。ポリカーボネートディレイ素子を備えた単一素子プローブにおいて周波数の関数としてのSNRの変動に関するシミュレーション結果はまた、水晶などの他の材料製のディレイ素子と比較して、かなり高いSNRを示した。
【0034】
上記で要約したように、ノジュラー鋳鉄材料の現在使用されている単一素子及び二重素子プローブのシミュレーション実施結果は、従来の二重素子プローブに比べて、開示される新規の有利な単一素子プローブの性能の方が良好であることを示した。好ましい1つの実施形態では、高性能に最適化された単一素子プローブは、35mm厚Luciteディレイ厚み材料と、4MHz前後の動作周波数とを使用している。この実施形態では、選択されたLuciteディレイ素子の直径は、あらゆる側壁反射を避けるために25.4mm(1インチ)又はそれ以上である。
【0035】
また、数値シミュレーションの更なる使用及び種々の鋳造材料の鋳造較正ブロックに関する更なる実験により、32mm厚Rexoliteディレイ素子を備えた5MHzトランスデューサを含む単一素子プローブの別の実施形態が提供される。この実施形態は、ノジュラー鋳鉄における0.5mm平底孔及び片状鋳鉄における3mm平底孔において、SNR>3を達成した。上記で図示され説明されたように、ディレイ素子は、欠陥からの信号を保持しながら、微細構造雑音を実質的に低減することができる。当業者には理解されるように、LuciteとRexoliteとの間の相違点の1つは、Rexoliteが、より大きな靱性及びLuciteよりも僅かに高い音速を有するポリカーボネートであることである。本発明の幾つかの実施形態では、Rexoliteは、粗い鋳造表面の削り取りを良好に維持するので好ましい。
【0036】
平坦な鋳造表面の他に、本発明を限定するものとみなすべきではないが、2、3例を挙げると、ボア表面、円筒表面、ダイアフラム表面など、凹面及び凸面両方の曲率を備えた多くの鋳造表面が存在する。曲率の範囲は、直径約100mmから約1000mm又はそれ以上に及ぶ、広範囲になることができる。平坦表面の検査用の超音波プローブを曲面検査に適用すると、ディレイと鋳造面との間の界面での超音波の結合が不十分であることに起因して、欠陥からの信号振幅及び信号対雑音比の両方が低減される可能性がある。表面曲率によって生じる自然集束及び集束外れはまた、鋳造物の欠陥からの信号振幅及び信号対雑音比に影響を及ぼす可能性がある。
【0037】
曲面鋳造物の良好な検査を行うために、図7(A及びB)及び図8は、曲面の界面を通る超音波エネルギー結合を改善するよう構成された単一素子超音波プローブ40及び50の2つの例示的な実施形態を示している。図7A及び7Bは、検査のために曲面に接して配置されるよう構成された狭窄部44を有するディレイ素子42の実施例を示す。狭窄部分44は、検査される鋳造表面上に配置されたディレイ素子42の表面のトリミング部分46により得られる。図7A及び7Bのポリカーボネートディレイ素子42の直径は、約6.4mm(0.25インチ)から約51mm(2インチ)の範囲である。単一素子超音波プローブ40のディレイ高さは、約5mmから約50mmの範囲とすることができ、ディレイ底幅は、2.54mm(0.1インチ)から約51mm(2インチ)の範囲とすることができる。
【0038】
図8に示す単一素子超音波プローブ50では、ポリカーボネートディレイ54の低端部52は、超音波エネルギーを僅かに集束するような球形状に機械加工される。別の実施形態では、ディレイの端部は、図示のように円錐形とすることができる。コーンの他端は、検査中に鋳造物の曲面と接触する小開口56を有する。この設計は、ポリカーボネートディレイによるフィルタリング作用と、僅かに集束される超音波ビーム及び狭いコーン開口とを組み合わせて、曲面を有する鋳造物に対して最適な検査結果を得るようにする。
【0039】
雑音のある材料において欠陥を検出する方法もまた、本発明の範囲内にある。このような方法は、音響水晶素子に取り付けられ、その表面が雑音のある材料の表面と接触したポリカーボネートディレイ層を通じて、該音響水晶素子からのある量の音響エネルギーを放出する段階と、ポリカーボネートディレイを通じて欠陥により散乱される放出音響エネルギーの一部の測定に基づいて、雑音のある材料における欠陥を検出する段階とを含む。加えて、このような方法はまた、Luciteディレイ層及びRexoliteディレイ層からなる群から選択されたポリカーボネートディレイ層を通じて音響水晶素子からある量の音響エネルギーを放出する段階を更に含むことができ、雑音のある材料は、複合材料、セラミック、構造的多孔質材料、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼からなる群から選択される。ノジュラー鋳鉄における欠陥を検出すると、これらの欠陥は、約0.5mm又はそれ以上の特徴寸法を有し、ノジュラー鋳鉄の表面から最大40mmの深さに配置することができる。
【0040】
本明細書で上述したように、上記の方法はまた、雑音のある材料の表面と接触しているポリカーボネートディレイの表面が、音響水晶素子に取り付けられたポリカーボネートディレイ層の表面よりも狭くなっている湾曲した場所、或いは、ポリカーボネートディレイ層が中空で流体が充填されており、中空ポリカーボネートディレイの端部上に配置された開口を有する円錐部を含む場所を有する雑音のある材料にも適用可能である。
【0041】
本発明の開示された実施形態は、幾つかの例示的な実施形態と関連して特異性及び詳細事項に関して図面において示され、且つ上記で十分に説明されたが、新規の教示事項、本明細書で記載された原理及び概念、並びに添付の特許請求の範囲に記載された主題の利点から実質的に逸脱することなく、多くの修正、変更、及び省略が可能である。従って、開示された発明の適正な範囲は、全てのこのような修正、変更、及び省略が含まれるように、添付の請求項を最も広く解釈することによってのみ決定すべきである。加えて、あらゆるプロセス又は方法ステップの順序又は配列は、代替の実施形態に応じて変更され、又は再配列することができる。最後に、請求項において、何れかのmeans−plus−function条項は、記載された機能を実施するものとして本明細書で説明された構成、並びに構造上の均等物だけでなく均等な構造物をも保護するものとする。
【符号の説明】
【0042】
20 ブロック
22 前面
24 底面
26 平底孔
28 孔
30 端ぐり
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雑音のある材料の欠陥を検査するための超音波プローブ(10)において、
前記雑音のある材料の表面上に配置されるように構成された第1の表面を有するポリカーボネートディレイ(14)層と、
前記ポリカーボネートディレイ(14)層の第2の表面上に配置された少なくとも1つの音響水晶素子(12)と
を備える超音波プローブ(10)。
【請求項2】
前記ポリカーボネートディレイ(14)層が、Luciteディレイ層及びRexoliteディレイ層からなる群から選択される、請求項1記載の超音波プローブ(10)。
【請求項3】
前記ポリカーボネートディレイ(14)層が、20mmと40mmの間の高さを有するLuciteディレイ層である、請求項1記載の超音波プローブ(10)。
【請求項4】
前記雑音のある材料が、複合材料、セラミック、構造的多孔質材料、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼からなる群から選択される、請求項1記載の超音波プローブ(10)。
【請求項5】
鋳造材料がノジュラー鋳鉄であり、前記欠陥は、約0.5mm又はそれ以上の特徴寸法を有する、請求項4記載の超音波プローブ(10)。
【請求項6】
前記鋳造材料が片状鋳鉄であり、前記欠陥は、約3.0mm又はそれ以上の特徴寸法を有する、請求項4記載の超音波プローブ(10)。
【請求項7】
前記少なくとも1つの音響水晶素子(12)の駆動周波数が、約1MHzから約5MHzの範囲である、請求項3記載の超音波プローブ(10)。
【請求項8】
前記欠陥が、ノジュラー鋳鉄の表面から最大40mmの深さに配置された表面下欠陥である、請求項5記載の超音波プローブ(10)。
【請求項9】
前記欠陥が、片状鋳鉄の表面から最大40mmの深さに配置された表面下欠陥である、請求項6記載の超音波プローブ(10)。
【請求項10】
前記ポリカーボネートディレイ層が、20mmと40mmの間の高さを有するRexolite遅延層である、請求項3記載の超音波プローブ(10)。
【請求項11】
前記雑音のある材料の表面が湾曲しており、前記第1の表面を有するポリカーボネートディレイ層の端部が、前記第2の表面を有する第2の端部よりも狭くなっている、請求項1記載の超音波プローブ(10)。
【請求項12】
前記雑音のある材料の表面が湾曲しており、前記ポリカーボネートディレイ(14)の端部が、開口を有する円錐形であり、該円錐端部の開口が、前記雑音のある材料の表面上に配置されるように構成される、請求項1記載の超音波プローブ(10)。
【請求項13】
雑音のある材料の欠陥を検査するための単一素子音響検査プローブ(10)において、
鋳造材料の表面上に配置されるように構成された第1の表面を有し、前記雑音のある材料の微細構造からの背景雑音に対する感度を低減し且つ前記欠陥からの散乱音響信号に対する感度を高める手段と、
前記雑音のある材料の微細構造からの背景雑音に対する感度を低減し且つ前記欠陥からの散乱音響信号に対する感度を高める手段の第2の表面上に配置された音響水晶素子(12)と
を備える単一素子音響検査プローブ(10)であって、前記音響水晶素子が、前記欠陥によって散乱されることになる音響信号を発生するように構成される、単一素子音響検査プローブ(10)。
【請求項14】
雑音のある材料の欠陥を検出する方法であって、
音響水晶素子に取り付けられ且つその表面が前記雑音のある材料の表面と接触したポリカーボネートディレイ層を通じて、前記音響水晶素子からのある量の音響エネルギーを放出する段階と、
前記ポリカーボネートディレイを通じて前記欠陥により散乱される放出された音響エネルギーの一部の測定に基づいて、前記雑音のある材料の欠陥を検出する段階と
を含む方法。
【請求項15】
前記放出段階が更に、Luciteディレイ層及びRexoliteディレイ層からなる群から選択されたポリカーボネートディレイ層を通じて前記音響水晶素子からある量の音響エネルギーを放出する段階を更に含み、前記雑音のある材料が、複合材料、セラミック、構造的多孔質材料、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼からなる群から選択される、請求項14記載の方法。
【請求項1】
雑音のある材料の欠陥を検査するための超音波プローブ(10)において、
前記雑音のある材料の表面上に配置されるように構成された第1の表面を有するポリカーボネートディレイ(14)層と、
前記ポリカーボネートディレイ(14)層の第2の表面上に配置された少なくとも1つの音響水晶素子(12)と
を備える超音波プローブ(10)。
【請求項2】
前記ポリカーボネートディレイ(14)層が、Luciteディレイ層及びRexoliteディレイ層からなる群から選択される、請求項1記載の超音波プローブ(10)。
【請求項3】
前記ポリカーボネートディレイ(14)層が、20mmと40mmの間の高さを有するLuciteディレイ層である、請求項1記載の超音波プローブ(10)。
【請求項4】
前記雑音のある材料が、複合材料、セラミック、構造的多孔質材料、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼からなる群から選択される、請求項1記載の超音波プローブ(10)。
【請求項5】
鋳造材料がノジュラー鋳鉄であり、前記欠陥は、約0.5mm又はそれ以上の特徴寸法を有する、請求項4記載の超音波プローブ(10)。
【請求項6】
前記鋳造材料が片状鋳鉄であり、前記欠陥は、約3.0mm又はそれ以上の特徴寸法を有する、請求項4記載の超音波プローブ(10)。
【請求項7】
前記少なくとも1つの音響水晶素子(12)の駆動周波数が、約1MHzから約5MHzの範囲である、請求項3記載の超音波プローブ(10)。
【請求項8】
前記欠陥が、ノジュラー鋳鉄の表面から最大40mmの深さに配置された表面下欠陥である、請求項5記載の超音波プローブ(10)。
【請求項9】
前記欠陥が、片状鋳鉄の表面から最大40mmの深さに配置された表面下欠陥である、請求項6記載の超音波プローブ(10)。
【請求項10】
前記ポリカーボネートディレイ層が、20mmと40mmの間の高さを有するRexolite遅延層である、請求項3記載の超音波プローブ(10)。
【請求項11】
前記雑音のある材料の表面が湾曲しており、前記第1の表面を有するポリカーボネートディレイ層の端部が、前記第2の表面を有する第2の端部よりも狭くなっている、請求項1記載の超音波プローブ(10)。
【請求項12】
前記雑音のある材料の表面が湾曲しており、前記ポリカーボネートディレイ(14)の端部が、開口を有する円錐形であり、該円錐端部の開口が、前記雑音のある材料の表面上に配置されるように構成される、請求項1記載の超音波プローブ(10)。
【請求項13】
雑音のある材料の欠陥を検査するための単一素子音響検査プローブ(10)において、
鋳造材料の表面上に配置されるように構成された第1の表面を有し、前記雑音のある材料の微細構造からの背景雑音に対する感度を低減し且つ前記欠陥からの散乱音響信号に対する感度を高める手段と、
前記雑音のある材料の微細構造からの背景雑音に対する感度を低減し且つ前記欠陥からの散乱音響信号に対する感度を高める手段の第2の表面上に配置された音響水晶素子(12)と
を備える単一素子音響検査プローブ(10)であって、前記音響水晶素子が、前記欠陥によって散乱されることになる音響信号を発生するように構成される、単一素子音響検査プローブ(10)。
【請求項14】
雑音のある材料の欠陥を検出する方法であって、
音響水晶素子に取り付けられ且つその表面が前記雑音のある材料の表面と接触したポリカーボネートディレイ層を通じて、前記音響水晶素子からのある量の音響エネルギーを放出する段階と、
前記ポリカーボネートディレイを通じて前記欠陥により散乱される放出された音響エネルギーの一部の測定に基づいて、前記雑音のある材料の欠陥を検出する段階と
を含む方法。
【請求項15】
前記放出段階が更に、Luciteディレイ層及びRexoliteディレイ層からなる群から選択されたポリカーボネートディレイ層を通じて前記音響水晶素子からある量の音響エネルギーを放出する段階を更に含み、前記雑音のある材料が、複合材料、セラミック、構造的多孔質材料、ノジュラー鋳鉄、片状鋳鉄、及び鋳鋼からなる群から選択される、請求項14記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【公開番号】特開2010−145401(P2010−145401A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284637(P2009−284637)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(505347503)ヌオーヴォ ピニォーネ ソシエタ ペル アチオニ (112)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(505347503)ヌオーヴォ ピニォーネ ソシエタ ペル アチオニ (112)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]