説明

離型剤吐出装置

【課題】製品の品質向上及び金型の寿命延長を図ることことができる離型剤吐出装置を提供する。
【解決手段】モデル機を用いて得られる、離型剤の吐出量に対する離型抵抗について型温度をパラメータとして示される離型抵抗特性と、離型剤の吐出量に対する金型に鋳ぐるみされるガス量について型温度をパラメータとして示されるガス量特性と、から型温度−目標吐出量特性を記憶しておき、金型への離型剤の積算吐出量が、型温度−目標吐出量特性における温度検出手段が検出した型温度に対応する目標吐出量に達した場合、金型への離型剤の吐出を停止する。予め得られる型温度‐目標吐出量特性を用いて、型温度に対応して得られる目標吐出量だけ、離型剤を吐出するので、型温度に応じた離型抵抗及びガス量が得られ型寿命及び製品品質を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の金型などに用いられる離型剤吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の離型剤吐出装置の一例として特許文献1に示される装置がある。特許文献1に示される装置は、金型の成形面の所定部位における表面温度を測定しながら液体離型剤を該所定部位に噴霧し、測定された表面温度が予め定めた所定温度に達した場合に、所定部位に対する液体離型剤の噴霧を停止し、これにより金型が所望の温度に冷却されるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−222890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金型を用いた加工処理で得られる製品の品質向上及び金型の寿命延長を図ることが望まれている。しかしながら、上記従来技術では、金型の冷却を行えるものの、上記要望に適切に応えるには十分ではないというのが実情であった。
本発明は、製品の品質向上及び金型の寿命延長を図ることことができる離型剤吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の発明は、離型剤の吐出制御を行って前記離型剤を金型の成形面に塗布させる制御手段を有する離型剤吐出装置であって、前記金型の表面温度に相当する型温度を検出する温度検出手段と、前記離型剤及び前記金型に対応するモデル機による計測に基づいて予め得られる型温度−目標吐出量特性を記憶する記憶手段と、を備え、前記型温度−目標吐出量特性は、離型剤の吐出量に対する離型抵抗について型温度をパラメータとして示される離型抵抗特性と、離型剤の吐出量に対する前記金型に鋳ぐるみされるガス量について型温度をパラメータとして示されるガス量特性と、から得られ、前記制御手段は、前記金型への離型剤の積算吐出量が、前記型温度−目標吐出量特性における前記温度検出手段が検出した型温度に対応する目標吐出量に達した場合、前記金型への離型剤の吐出を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、モデル機を用いた計測により得るガス量特性及び離型抵抗特性から得られた型温度‐目標吐出量特性を用いて、型温度に対応して得られる目標吐出量だけ、離型剤を吐出するので、型温度に応じた離型抵抗が得られ型寿命を向上させることができ、かつ、型温度に応じたガス量が得られてガス量の低下が図れ製品品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1実施形態に係る離型剤吐出装置を模式的に示す図である。
【図2】図1のメモリに記憶される型温度−目標吐出量特性、離型抵抗特性、及びガス量特性を示す図である。
【図3】離型剤の吐出量に対する離型抵抗及びガス量の特性を示す図である。
【図4】型表面温度に対するガス量の関係を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る離型剤吐出装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
射出成形においては、成形後の製品の離型性を向上させるため、成形前に離型剤を金型表面に塗布することが一般的である。そして、離型剤を金型に塗布することに伴い、金型に対する離型剤の吐出量(ひいては塗布量)、金型の温度(以下、型温度ともいう。)、製品品質に影響するガス量〔成形処理により得られる製品に含まれる(鋳ぐるみされる)ガス量〕、型寿命に影響する離型抵抗等に関して次のような特性を持つものになる。
【0009】
すなわち、型温度が一定の場合、離型剤の吐出量(以下、適宜、単に吐出量ともいう。)の増加に伴い、図3に示すように、(i)ガス量が増加(製品品質の悪化)する、(ii)離型抵抗が減少(型寿命延長)する特性を持つことになる。
また、吐出量が一定の場合、図4に示すように、型温度の上昇に伴い、ガス量が低下する特性を持つことになる。
前記特性(図3)に対応して、後述するように、モデル機による計測により、図1に一点鎖線、実線で夫々示すガス量特性、離型抵抗特性(ガス量特性線分、離型抵抗特性線分)が得られる。
【0010】
図3及び図4に示されるように、ガス量や離型抵抗等は、型温度及び吐出量の影響を受ける。
そして、離型剤を金型に塗布することに伴って前記特性(ガス量や離型抵抗等は、型温度及び吐出量の影響を受ける)を生じることから、仮に型温度を計測していても、前記特性を十分に考慮して吐出量の制御を行わないと、離型剤過塗布によるガス量の増加を招いたり、カジリによるピン曲がりを生じたりすることが起こり得た。このことは、前記従来技術にも同様にいえることである。
本願発明者は、離型剤を金型に塗布することに伴って生じる前記特性(ガス量や離型抵抗等は、型温度及び吐出量の影響を受ける)に着目し、型温度変動に合わせて離型剤の吐出量をコントロールすることで、製品品質及び型寿命の向上を図るべく、本願発明を創案した。
【0011】
以下、本発明の第1実施形態に係る離型剤吐出装置を図1ないし図3に基づいて説明する。
図1において、離型剤吐出装置1は、離型剤を貯留する離型剤タンク2と、離型剤タンク2から離型剤を流出させる吐出ユニット3と、吐出ユニット3に管4を介して接続されて吐出ユニット3からの離型剤を金型に吐出してこれを金型5の成形面6に塗布する離型剤スプレノズル(以下、ノズルという。)7と、を備えている。
離型剤吐出装置1は、さらに、金型5の表面温度に相当する型温度を検出するサーモカメラ9(温度検出手段)と、このサーモカメラ9の制御及びサーモカメラ9からの信号処理を行うサーモカメラ用PC10と、前記管4を流れる離型剤の流量(積算流量を含む)、ひいては金型5に対する離型剤の吐出量(積算吐出量を含む)を検出し、これら検出量を出力する流量計11と、流量計11、サーモカメラ用PC10、及び吐出ユニット3に接続された吐出制御PC12(制御手段)と、を備えている。
吐出制御PC12は、流量計11が求める積算吐出量が、型温度〔サーモカメラ9の検出温度(以下、単に検出温度ともいう。)〕に対応して後述する型温度−目標吐出量特性から得られる最適吐出量に達すると、吐出ユニット3の駆動制御を停止して、金型5への離型剤の吐出を停止させ、金型5の成形面6に離型剤が最適量、塗布されるようにしている。
【0012】
吐出制御PC12は、金型5に対する離型剤の吐出制御を行って離型剤を金型5の成形面6に塗布させるようにしており、制御手段を構成している。
吐出制御PC12は、メモリ15(記憶手段)を備え、このメモリ15に、モデル機による計測に基づいて予め得られる後述する型温度−目標吐出量特性が記憶されている。
前記モデル機では、前記モデル機に用いる金型(適宜、モデル金型という。)としては前記金型5と同等の材料を用い、前記モデル機で得られる製品(適宜、モデル製品という。)の材料としては金型5で得る製品と同等材料を用い、離型剤(便宜上、モデル離型剤という。)には、金型5で用いられる離型剤と同等の材料を用いており、前記モデル機は、前記金型5及び前記金型5が用いる離型剤に対応して構成され、前記金型5の鋳造などの成形処理を良好に反映しえるものになっている。
【0013】
型温度−目標吐出量特性は、図2に示すように、モデル離型剤ひいては金型5に用いられる離型剤の吐出量(以下、適宜、離型剤吐出量又は単に吐出量ともいう。)に対する離型抵抗について型温度をパラメータとして示される離型抵抗特性(実線で示す)と、モデル離型剤ひいては金型5に用いられる離型剤の吐出量に対するガス量(前記モデル金型ひいては金型5に鋳ぐるみされるガス量)について型温度をパラメータとして示されるガス量特性(一点鎖線で示す)と、から得られる。
型温度−目標吐出量特性は、上述したように、離型抵抗特性及びガス量特性と共に、メモリ15に記憶されている。
離型抵抗特性(実線で示す)及びガス量特性(一点鎖線で示す)は、前記モデル機による計測により後述するようにして得られ、上述したように、前記特性(図3)に対応したものになっている。
【0014】
次に、型温度−目標吐出量特性のガス量特性及び離型抵抗特性からの算出方法を以下に説明する。
本実施形態では、型温度が100℃,200℃,300℃である場合のガス量特性及び離型抵抗特性(以下、当該特性に対応する線分を、型温度に対応して、ガス量特性第1、第2,第3線分g1、g2、g3、離型抵抗特性第1、第2,第3線分r1、r2、r3という。)を計測により得ている。
また、製品の品質規格上、ガス量及び離型抵抗には、上限が定められており、本実施形態では、前者(ガス量上限)は、10〔cm〕、後者(離型抵抗上限)は、98〔N〕とされている。なお、本実施形態では、ガス量上限が10〔cm〕、離型抵抗上限が98〔N〕である場合を例にしているが、本発明は、これら数値に限定されるものではない。
【0015】
図2において、ガス量特性第1、第2,第3線分g1、g2、g3とガス量上限との交点から図2下方に延びる線分(以下、離型抵抗特性方向第1、第2,第3延長線e1、e2、e3という。)を求める。次に、この離型抵抗特性方向第1、第2,第3延長線e1、e2、e3の夫々と、離型抵抗特性第1、第2,第3線分r1、r2、r3との交点(離型抵抗特性第1、第2,第3線分下側交点r1d、r2d、r3dという。)を求める。
ここで、離型抵抗特性第1、第2,第3線分r1、r2、r3の離型抵抗上限との交点を、便宜上、離型抵抗特性第1、第2,第3線分上側交点r1u、r2u、r3uという。
そして、離型抵抗特性第1線分r1における離型抵抗特性第1線分上側交点r1u及び離型抵抗特性第1線分下側交点r1d間の線分(太線で示す)の中間点(以下、離型抵抗特性第1線分中間点r1cという。)を求める。同様にして、離型抵抗特性第2線分中間点r2c及び離型抵抗特性第3線分中間点r3cを求める。前記離型抵抗特性第1、第2,第3線分中間点r1c、r2c、r3cを含むようにして型温度‐目標吐出量特性線分ktを得る。
【0016】
型温度‐目標吐出量特性線分ktは、図2に示されるように、横軸を離型剤吐出量、縦軸を離型抵抗として示される一方、離型抵抗特性第1、第2,第3線分中間点r1c、r2c、r3cすなわち型温度100℃,200℃,300℃に対応する部分を含んで構成されている。線分kt中の点(位置)が指定されることにより、型温度に対応した離型剤吐出量が求められるようにしている。型温度‐目標吐出量特性線分ktは、上述したようにモデル機を用いた実計測により得られたガス量特性及び離型抵抗特性から得られたものであり、当該線分ktで示される離型剤吐出量は、金型5を用いた成形処理において最適吐出量に相当するものになっている。
このため、金型5の温度を検出して、型温度‐目標吐出量特性線分ktにおける前記検出温度(サーモカメラ9の検出温度)に対応する離型剤吐出量だけ、離型剤を金型5に吐出することにより、適正な離型抵抗を得、かつ、ガス量の低下を図ることができるようにしている。
【0017】
上述したように構成された離型剤吐出装置1の作用を以下に説明する。
離型剤吐出装置1では、サーモカメラ9が型温度(検出温度)を測定し(ステップS1)、サーモカメラ用PC10がサーモカメラ9からの型温度データの入力を受ける(ステップS2)。サーモカメラ用PC10が入力を受けた型温度データは吐出制御PC12に入力される(ステップS3)。
吐出制御PC12は、前記型温度データをメモリ15に入力されている型温度−目標吐出量特性における型温度に当てはめ、対応する最適吐出量(目標吐出量)を算出する(ステップS4)。
【0018】
吐出制御PC12は、ステップS4で算出された最適吐出量分の離型剤が吐出されるように吐出ユニット3に吐出指令を出力する(ステップS5)。
吐出指令を受けて吐出ユニット3は、駆動制御されて離型剤をノズル7に供給する(ステップS6)。
そして、ノズル7から離型剤が金型5に吐出される(ステップS7)。
流量計11は、離型剤への実際の瞬時吐出量と積算吐出量を測定し、測定データを吐出制御PC12へ転送する(ステップS8)。
流量計11からの積算吐出量が、ステップS4で算出された最適吐出量に達したら吐出ユニット3に吐出停止指令を出力し、金型5への離型剤の吐出を停止させる(ステップS9)。
【0019】
上述したように、本実施形態によれば、型温度‐目標吐出量特性線分ktは、モデル機を用いた実計測により得られたガス量特性及び離型抵抗特性から得られたものであり、当該線分ktで示される離型剤吐出量は、金型5を用いた成形処理において最適吐出量を示すものになっており、さらに、型温度‐目標吐出量特性線分ktは、離型抵抗特性第1、第2,第3線分中間点r1c、r2c、r3cすなわち型温度100℃,200℃,300℃に対応する部分を含んで構成されている。
そして、離型剤についてその吐出量が、型温度‐目標吐出量特性線分ktにおける前記金型5の検出温度に対応する目標吐出量(最適吐出量)に達すると、その吐出が停止されて、離型剤が金型5に最適量吐出されることになるので、型温度に応じた離型抵抗が得られ型寿命を向上させることができ、かつ、型温度に応じたガス量が得られてガス量の低下が図れ製品品質を向上させることができる。
さらに、上述したように離型剤を適正量、吐出できることにより、適正量の離型剤の吐出を行なわない場合に起こり得るカジリによるピン曲がりの発生を回避できる。
【0020】
なお、上記実施形態では、型温度−目標吐出量特性を、離型抵抗特性及びガス量特性と共に、メモリ15に記憶する場合を例にしたが、これに限らず、型温度−目標吐出量特性のみをメモリ15に記憶するようにしても良い。
また、上記実施形態では、型温度が100℃,200℃,300℃である場合のガス量特性及び離型抵抗特性を得る場合を例にしたが、これに限らない。例えば、型温度が50℃,150℃,250℃,350℃である場合での特性やその他の温度である場合での特性を得るようにしても良い。
【0021】
また、上記実施形態では、サーモカメラ9(温度検出手段)及びサーモカメラ用PC10を設けた場合を例にしたが、これに代えて、図5に示すように、金型5に挿入するように設けられる熱電対20(温度検出手段)と、この熱電対20に線材を介して接続されて熱電対20からの信号処理を行う熱電対用PC21と、を設けるように離型剤吐出装置1Aを構成(第2実施形態)してもよい。
第2実施形態の離型剤吐出装置1Aでは、第1実施形態で用いたサーモカメラ9に代わる熱電対20により金型温度(以下、単に検出温度という。)が検出され(ステップS1A)、以下、前記第1実施形態と同様に作用し、型温度‐目標吐出量特性線分ktにおける前記検出温度(金型温度)に対応する離型剤吐出量は、金型5を用いた成形処理における適正な離型剤吐出量に相当し、この適正な離型剤吐出量だけ、離型剤を金型5に吐出することにより、適正な離型抵抗を得、かつ、ガス量の低下を図ることができる。
【符号の説明】
【0022】
1…離型剤吐出装置、5…金型、6…成形面、9…サーモカメラ(温度検出手段)、15…メモリ(記憶手段)、12…吐出制御PC(制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型剤の吐出制御を行って前記離型剤を金型の成形面に塗布させる制御手段を有する離型剤吐出装置であって、
前記金型の表面温度に相当する型温度を検出する温度検出手段と、
前記離型剤及び前記金型に対応するモデル機による計測に基づいて予め得られる型温度−目標吐出量特性を記憶する記憶手段と、を備え、
前記型温度−目標吐出量特性は、離型剤の吐出量に対する離型抵抗について型温度をパラメータとして示される離型抵抗特性と、離型剤の吐出量に対する前記金型に鋳ぐるみされるガス量について型温度をパラメータとして示されるガス量特性と、から得られ、
前記制御手段は、前記金型への離型剤の積算吐出量が、前記型温度−目標吐出量特性における前記温度検出手段が検出した型温度に対応する目標吐出量に達した場合、前記金型への離型剤の吐出を停止することを特徴とする離型剤吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−167462(P2010−167462A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13010(P2009−13010)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】