説明

難付着性連続鋳造用ノズル

【課題】ドロマイトクリンカーを含有ししかもカーボン量の少ない内孔体をノズル本体の内孔に配置する連続鋳造用ノズルにおいて、膨張代としての空間を設けなくても、予熱時や使用時に発生するノズル本体の押し割りを防止すること。
【解決手段】ノズル本体の内孔に内孔体が配置される連続鋳造用ノズルであって、内孔体の配合物が、ドロマイトクリンカーからなり、しかも内孔体の配合物の粒度構成が、粒度1mm超が10質量%以下(0を含む)、粒度0.5mm超1mm以下が30〜80質量%、粒度0.5mm以下が10〜70質量%であり、内孔体は配合物に有機バインダーを添加して混練後、成形し熱処理することで製造される難付着性連続鋳造用ノズル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶鋼の連続鋳造に際して使用される連続鋳造用ノズル、とくに、ノズル本体の内孔にドロマイトクリンカーを配合した内孔体を配置した難付着性連続鋳造用ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、とくに、薄板等の高級鋼として鋳造されるアルミキルド鋼は鋼材品質の厳格化に伴い、連続鋳造においてタンディッシュからモールドに注入する際に使用する上ノズル、プレート、下部ノズル、あるいは浸漬ノズル等の連続鋳造用ノズルの内孔へのアルミナ付着を防止することに多くの努力が払われている。
【0003】
連続鋳造用ノズルに付着したアルミナは合体して大型の介在物になり、それが溶鋼流と共に鋳片内に取り込まれて鋳片の欠陥となり品質を低下させる。また、アルミナ等が内孔に堆積してくるとノズル孔が狭くなるので、連続鋳造用ノズルが低寿命となる。
【0004】
この連続鋳造用ノズルの内孔へのアルミナ付着を防止する対策の一例として、ノズルの内面からアルゴンガスを溶鋼中に吹き込んで物理的にアルミナの付着を防止する手法が採られている。しかし、この手法はアルゴンガスの吹き込み量が多すぎると気泡が鋳片内に取り込まれてピンホールとなり、鋳片欠陥となる。したがって、ガスの吹き込み量には制約があるため必ずしも十分な対策とはなり得ない。
【0005】
アルミナ付着防止対策のその他の有効な手段として、CaOを含有する耐火物の適用が挙げられる。CaOは付着したアルミナと反応して低融点物質を形成し、この反応物は容易に溶鋼流によって流されるためアルミナの付着を抑制することができる。CaOを含有する代表的な耐火性骨材としてドロマイトクリンカーがあり、ドロマイトクリンカーを含有する耐火物をノズルの内孔に内孔体として配置することでアルミナの付着を抑制することができる。しかしながら、ドロマイトクリンカーは熱膨張が非常に大きいため、使用時あるいは使用前の予熱時に内孔体の膨張によりノズル本体を押し割ってしまうという大きな問題がある。
【0006】
これに対して、特許文献1には、ドロマイトクリンカーと黒鉛とからなる内孔体をモルタルを介して内孔へ配置した浸漬ノズルが記載されている。これは、黒鉛を使用することで耐スポーリング性を向上させ、内孔体をモルタルを介して配置することでノズル本体との反応を抑制したタイプである。しかしながら、ドロマイトクリンカーの特徴は、鋼中のアルミナと反応して低融点物質を形成し溶鋼中に融けていくことでアルミナ付着を防止することにある。このため、内孔体の溶損は非常に大きく、取鍋1杯分の鋳造が完了する前に溶損して内孔体がなくなることもあり、とくに、特許文献1のように黒鉛を多く使用したタイプでは、溶損が大きいという問題がある。
【0007】
これに対して、特許文献2には、ドロマイト質内孔体をノズル本体の内孔に配置する際に、ノズル本体の内孔の拡径凹部へ内孔体を非反応質層(モルタル)および空間を介して配置する技術が記載されている。この空間によって内孔体の熱膨張を吸収することで、予熱時や使用時の内孔体の熱膨張によるノズル本体の押し割りを防止するものである。この技術では内孔体の熱膨張によるノズル本体の押し割り等の破損は無くなったが、内孔体がノズル本体に十分に接着されてないため、鋳造途中に溶鋼流の流れの速い吐出孔回りや底部、直胴部で剥落する問題がある。一方、押し割りの観点からは、内挿された内孔体の発生応力を吸収する十分な可縮能がモルタルに求められるが、可縮能と接着力は相反する性質のものであり両立できない(一般に可縮能をあげれば、接着力が低下する)。したがって、ノズル本体との接着力が必要な溶鋼流速の激しい吐出孔回りや、直胴部では十分な可縮能を持つモルタルは使用できない。
【0008】
一方、ノズル本体にドロマイトクリンカーと反応せず、しかも比較的膨張係数の大きなマグネシアクリンカーを使用した連続鋳造用ノズルも提案されている。例えば特許文献3には、ノズル本体をマグネシアクリンカーおよび黒鉛とし、しかも一体成形してノズル本体と内孔体が直接接触する浸漬ノズルが提案されている。このように一体成形することで実用的なコストにすることができる。しかしながらこの浸漬ノズルにおいては、耐食性を向上させるために内孔体に黒鉛を含ませないかあるいは黒鉛を少なくする場合には、やはり内孔体の膨張が大きくなるため熱衝撃によって内孔体が損傷したりノズル本体を押し割ったりするという問題がある。
【0009】
そこで、特許文献4には、内孔体の耐スポーリング性を向上させるために内孔体を高気孔率化することが記載されている。しかしながら気孔率を30%超とした場合には、使用中に気孔からAlとCaOとから生成する低融点物質が広く浸透するために、溶損が大きくなり寿命が短くなるという問題がある。
【特許文献1】特開昭61−53150号公報
【特許文献2】特開2006−68798号公報
【特許文献3】特開2004−74242号公報
【特許文献4】特開平10−5944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ドロマイトクリンカーを含有ししかもカーボン量の少ない内孔体をノズル本体の内孔に配置する連続鋳造用ノズルにおいて、膨張代としての空間を設けなくても、予熱時や使用時に発生するノズル本体の押し割りを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明においては、内孔体の膨張によるノズル本体の押し割りを防止するには、内孔体の熱間での最大発生応力を抑制することに着目した。このための手段として、使用する原料の粒度構成について種々検討し、特定の粒度構成とすることで、熱間での最大発生応力を抑制することができ、膨張代としての空間を設けなくても、予熱時や使用時に発生するノズル本体の押し割りを防止できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は ノズル本体の内孔に内孔体が配置される連続鋳造用ノズルであって、内孔体の配合物が、ドロマイトクリンカーからなり、しかも内孔体の配合物の粒度構成が、粒度1mm超が10質量%以下(0を含む)、粒度0.5mm超1mm以下が30〜80質量%、粒度0.5mm以下が10〜70質量%であり、内孔体は配合物に有機バインダーを添加して混練後、成形し熱処理することで製造されることを特徴とするものである。
【0013】
本発明において、内孔体の配合物(原料粒子)は粒度1mm以下を主体とする。本発明では、使用中、溶鋼中のAlとドロマイトクリンカー中のCaOとが反応して低融点物質を生成することでアルミナ付着を防止する。そのため、内孔体の気孔率が高くなり過ぎる(弾性率が低くなる)と低融点物質がより組織中に侵入しやすくなり、また原料粒子が粗くなり過ぎると使用中の脱落や過度の偏析により耐食性が低下する。そこで、原料粒子のほとんど(90質量%を超える)を粒度1mm以下と小さくすることで上記問題が改善でき、耐食性が向上する。これは、原料粒子が小さい場合には、たとえ脱落や偏析が生じても小さな損傷で済むために影響が少なくなるためと推定される。尚、粒度1mm超の原料粒子は、10質量%以下であれば耐食性に実用レベルで悪影響を及ぼさない範囲で使用可能である。
【0014】
また、粒度1mm以下の原料粒子において、粒度0.5mm超1mm以下の粒子の配合量が、熱間での最大発生応力と耐食性へ大きな影響を与えることがわかった。つまり比較的粒度分布の幅の狭い(粒度の近い)粒子を主体として使用することで、原料粒子同士の間に小さな気孔を形成させることができ、その結果比較的ポーラスな組織となるので熱間において応力吸収代を有し、最大発生応力を抑制し押し割りを防止することができる。しかもその気孔は小さくて均一に分散しているため、耐食性の低下は顕著には現れない。したがって、粒度0.5mm超1mm以下の割合は30〜80質量%が好ましく、より好ましくは40〜75質量%である。粒度0.5mm超1mm以下の割合が30質量%未満の場合には、相対的に粒度0.5mm以下の原料粒子の割合が高くなるので組織が緻密化して熱間での最大発生応力が高くなり押し割りが発生しやすくなり、80質量%を超えると組織がポーラスになり過ぎて耐食性が低下する。
【0015】
粒度0.5mm以下の原料粒子は原料粒子の充填性を上げるために10〜70質量%の使用が好ましく、より好ましくは10〜60質量%であり、10質量%未満の場合にはポーラス組織となり過ぎて強度が不足し、70質量%を超えると組織が緻密化し過ぎて熱間での最大発生応力が高くなりその結果押し割りが発生しやすくなる。
【0016】
さらに、粒度0.5mm以下の部分は、配合物100質量%に対して、粒度0.3mm超0.5mm以下が2〜15質量%、粒度0.1mm超0.3mm以下が3〜35質量%、粒度0.1mm以下が1〜20質量%とすることができる。
【0017】
粒度0.3mm超0.5mm以下の原料粒子は配合の充填性を上げるために使用し、2質量%未満の場合にはポーラス組織となり過ぎて強度が不足し、15質量%を超えると組織が緻密化しすぎて熱間での最大発生応力が高くなり押し割りが発生しやすくなる。
【0018】
粒度0.1mm超0.3mm以下の原料粒子はさらに配合の充填性を上げ組織を緻密化する効果があり、耐食性を考慮して含有率をコントロールする。ただし、3質量%未満の場合には内孔体の組織がポーラスとなり過ぎて耐食性が低下し、35質量%を超えると組織が緻密になり過ぎて熱間での最大発生応力が高くなり押し割りが発生しやすくなる。
【0019】
粒度0.1mm以下の原料粒子は溶鋼中のAlとの反応によって低融点物を生成し、付着防止効果を向上させることができ、1〜20質量で使用することが好ましい。20質量%を超えると熱間での最大発生応力が高くなり押し割りが発生しやすくなる。ただし、付着防止効果よりも低弾性率を必要とするような使用条件の場合では粒度0.1mm以下を使用しなくても十分使用することができる。特に、ドロマイトクリンカーの0.1mm以下を使用しない場合には消化しにくくなることから、より安定した製造が可能となる。
【0020】
使用する原料としては、難付着性と耐食性に優れることからドロマイトクリンカーのみでも十分であるが、マグネシアクリンカーと併用使用することでさらに耐食性を向上させることができる。マグネシアクリンカーは粒度0.5mm以下の領域で使用することでより耐食性向上効果を引き出すことができる。
【0021】
ジルコニアは融点が高く耐食性が非常に優れた原料であり、ドロマイトクリンカーと併用使用することで、内孔体の耐食性を向上させることができる。配合物全体に対して40質量%まで使用することができる。40質量%を超えるとドロマイトクリンカーの量が相対的に不足して付着防止効果が低下する。
【0022】
カルシウムジルコネートは、ドロマイトクリンカーと同様にCaOを含有するため付着防止効果がある。その効果はドロマイトクリンカーより劣るが逆に耐食性が高い。このため、例えば、アルミナ系の介在物が非常に多く内孔体の損耗が大きな使用条件において、ドロマイトクリンカーと併用使用することで、耐用性を向上させることができる。配合物全体に対して40質量%まで使用することができる。40質量%を超えるとドロマイトクリンカーの量が相対的に不足して付着防止効果が低下する。
【0023】
カルシウムシリケートは、AlO3―SiO―CaO系低融点物を生成するために、ドロマイトクリンカーのみを使用する場合よりも更にアルミナの付着を防止する効果を高めることができ、40質量%まで使用することができる。40質量%を超えると付着防止効果が高い分耐食性が低下する。
【0024】
これらの配合物によって得られた内孔体は、熱間での最大発生応力を2MPa以下とすることで、より予熱時や使用時に発生するノズル本体の押し割りを防止することができる。
【0025】
内孔体の熱膨張によって、ノズル本体の内孔に内圧が等方的に生じた場合、ノズル本体の内表面側に引張り応力が働く。一般的な浸漬ノズルの引張り強度が4.5MPaであるので、この4.5MPaを内圧に換算すると2MPaとなる。つまり、内孔体の熱膨張により2MPa以上の力が発生した時にノズル本体は破損することになる。この理由により、内孔体の熱間での最大発生応力を2MPa以下とした。
【0026】
熱間での最大発生応力を小さくするためには、低弾性率化、つまり、高気孔率とすれば良いが、耐食性及び強度も同時に低下する。このため、本発明の粒度構成とすることで十分実用的な耐食性と強度とを備えたうえで、最大発生応力を抑制することが可能になる。これらの粒度構成に加えて成形圧をコントロールすることで、最大発生応力の調整も可能である。
【0027】
本発明では、発生応力試験装置を用いて内孔体の最大発生応力を測定した。最大発生応力の測定方法は、外径50mm、高さ50mmの円柱形状の耐火物を非酸化雰囲気を作ることができる電気炉内にセットし、上下より固定された押し棒により初期荷重0.2MPaをサンプルに負荷する。サンプルセット後サンプル近傍にセットした熱電対で測温しながら1500℃まで昇温する。昇温と共にサンプルは熱膨張により固定された押し棒にサンプルの熱膨張率に応じた応力が伝達される。この応力を温度毎にロードセルにて読み込むことで発生応力を測定しプロットし、この発生応力の中の最大値を最大発生応力とした。
【0028】
また、本発明においては、ノズル本体の弾性率をE1、内孔体の弾性率をE2とした場合に、ノズル本体と内孔体が接触している部分が次の(1)〜(3)式を全て満足しているときに、より確実に予熱時や使用時に発生するノズル本体の押し割りを防止することができる。
4 ≦E1≦ 18 …(1)
0.5 ≦E2≦ 15 …(2)
E2≦E1 …(3)
(単位は全てGPa)
【0029】
本発明ではJIS−R1659に則って超音波パルスの伝播速度からノズル本体および内孔体の弾性率を求めた。本発明においてノズル本体の弾性率は4GPa以上18GPa以下とすることが好ましい。4GPa未満ではノズル全体の構造を保持することができなくなり、折損する場合が多くなる。18GPaを超えると、ノズル本体自体に鋳造初期の加熱によってスポーリングが発生し不適当である。
【0030】
また、内孔体の弾性率は0.5GPa以上15GPa以下とすることが好ましい。0.5GPa未満では、溶鋼流による溶損が大きくなり好ましくない。また、15GPaを超えると、ノズル本体を押し割る力が大きくなり、ノズル本体に押し割り現象が発生する。
【0031】
さらに、ノズル本体および内孔体のそれぞれの弾性率の適正範囲内において、内孔体の弾性率はノズル本体の弾性率よりも小さくすることが好ましい。これは、内孔体の弾性率がノズル本体の弾性率より大きくなると、ノズル本体を押し割る力が大きくなり、ノズル本体に押し割り現象が発生するためである。
【0032】
以上のとおり、母材であるノズル本体の弾性率をE1、内孔体の弾性率をE2とした場合に、ノズル本体と内孔体が直接あるいはモルタル等を介して接触している部分が上記の(1)〜(3)式を全て満足することが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
ドロマイトクリンカーを含有し、しかもカーボン量の少ない内孔体をノズル本体の内孔に配置する連続鋳造用ノズルにおいて、予熱時や使用時に発生するノズル本体の押し割りを防止することができる。
【0034】
また、従来のように目地部に空間を設けたり、可縮能を有するモルタルを使用する必要がないため、使用時の内孔体の剥落等を防止でき内孔体の耐用性が格段に向上する。
【0035】
さらに、アルミナ付着を長時間防止することができる。したがって、鋳片の品質改善を図れると共に、連続鋳造用ノズルそのものの寿命を著しく延長することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明で使用するドロマイトクリンカーとしては、CaOとMgOとを主成分とする耐火原料であって、一般的にドロマイト系れんが等の耐火物の原料として使用されている原料であれば問題なく使用することができる。例えば、約60質量%のCaOと約40質量%のMgOを主成分とする天然のドロマイトを熱処理したドロマイトクリンカーの他に、人工原料によって任意の組成に調合した合成ドロマイトクリンカーも使用可能である。
【0037】
本発明で使用可能なマグネシアクリンカーとしては、耐火物用として一般的に使用されている電融マグネシアクリンカー、焼結マグネシアクリンカー等のクリンカーが挙げられる。マグネシアクリンカーの純度は特に限定されるものではないが、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上である。
【0038】
本発明で使用可能なジルコニアとは、耐火物用として一般的に市販されている原料であれば特に問題なく使用することができ、例えば電融ジルコニア、バデライト等で、MgO、CaO、イットリア等で安定化したものでも良い。
【0039】
本発明で使用可能なカルシウムシリケートとは、CaO・SiO、2CaO・SiO、または3CaO・SiOのうち1種または2種以上を使用することができる。例えばポルトランドセメント等である。
【0040】
本発明で使用可能なカルシウムジルコネートとは、カルシアとジルコニアを溶融することで得られる電融原料であって、ZrO中のCaO量として30質量%程度までのものが適当である。
【0041】
ドロマイトクリンカー、マグネシアクリンカーの他、耐火原料として、連続鋳造用ノズルの原料として一般的に用いられる酸化物、非酸化物、金属等は、外掛けで5質量%以下であれば使用可能である。例えば、アルミニウム、シリコン、ホウ化物、ガラス、黒鉛、コークス、カーボンブラック等である。
【0042】
ノズル本体として使用する耐火材の化学成分はとくに限定されるものではなく、アルミナ−黒鉛質、ジルコニア−黒鉛質、マグネシア−黒鉛質などが使用可能である。とくにマグネシア−黒鉛質は、内孔体のドロマイトクリンカーとの反応性がなく好ましい。
【0043】
本発明で使用される有機バインダーは、加熱によりカーボンボンドを生成するものを使用する必要があり、フェノール樹脂、フラン樹脂、ピッチ等を使用することができる。フェノール樹脂やフラン樹脂は、溶媒で希釈して粘性を調整したものを使用することができる。フェノール樹脂、フラン樹脂、またはピッチは液状でも粉末でもどちらでも問題無く使用できる。
【0044】
内孔体の炭素成分(カーボン)の含有量は10質量%以下、より好ましくは5質量%以下に抑えることが好ましい。10質量%を超えると溶損が大きくなり、所望の耐食性を得ることが困難になる。しかしながら、黒鉛は溶損防止のため使用しないか、あるいは極力少ない方が好ましい。ここで言う炭素成分の含有量とは、製造した耐火物中に含まれる固定炭素分の量のことである。
【0045】
本発明の内孔体の配合物を焼成した後の見掛け気孔率は、耐スポーリング性と耐食性の両面から15%以上30%以下の範囲が好ましく、より好ましくは18%以上27%未満である。15%未満では内孔体の弾性率が高くなり、注湯初期の膨張によってノズル本体を押し割る可能性が高くなる。一方、30%を超えると、耐食性の低下が大きくなり不適である。
【0046】
以上の原料を本発明の配合割合で秤量して配合物とし、この配合物にフェノール樹脂等の有機バインダーを添加して混練後、内孔体として成形し、熱処理する。内孔体は、筒状の成形体として別に成形する方法とノズル本体と同時に成形する方法とがあるが、どちらの方法でも問題なく採用することができる。また、熱処理温度については、不焼成あるいは焼成でも通常の連続鋳造用ノズルの製造方法で行われている範囲であれば適用することができる。
【0047】
内孔体として筒状体を成形した場合には、この筒状体をノズル本体の内孔面にモルタルを介して接着し一体化することができる。熱処理は一体化する前でも、後でもどちらでも可能である。従来このようにドロマイトクリンカーを使用した内孔体を配置する場合には、モルタルに可縮能を持たせて内孔体の膨張を吸収させる必要があったが、本発明においては通常のモルタルを使用することができる。また応力吸収能が少ない接着性の高い高強度タイプのモルタルも使用することができる。このため、従来のように使用中に溶鋼流の流れの速い吐出孔回りや底部、直胴部で剥落することを防止することができる。
【0048】
本発明に使用するモルタルとしては、MgO成分が50質量%以上、常温および熱間での接着強度が0.5Mpa以上のものが使用でき、しかもノズル本体と内孔体との目地厚みは2mm以下、より好ましくは1mm以下とすることができる。このように、高接着性モルタルを使用することで、使用中の内孔体の剥離をより確実に防止することができる。
【0049】
また、内孔体をノズル本体と一体成形する場合には、成形枠にノズル本体部にはノズル本体用の混練物を、内孔部には内孔体用の混練物をそれぞれ充填した後CIP等で加圧成形し、その後熱処理することで得られる。さらに、内孔体自体が低弾性率で、発生応力が小さいため、このようにノズル本体と一体成形しても、従来のようなノズル本体を押し割ったりすることがほとんどない。
【0050】
尚、本発明で言う粒度とは、JIS標準篩におけるフルイ目開き(mm)で示している。例えば、粒度1mm以下の原料粒子とは、フルイ目開きが1mmの篩で篩った時に、篩い目を通過した原料粒子のことである。尚、本発明で0.3mmはフルイ目開きが0.297mm、0.1mmはフルイ目開きが0.105mmである。
【実施例】
【0051】
表1には、内孔体の配合物と熱処理後の試験結果を示す。内孔体の配合物としてCaOの含有量が60質量%とMgOの含有量が40質量%のドロマイトクリンカー、有機バインダーとして粉末ピッチとフェノール樹脂を使用し、これらを均一に混練後、品質測定用サンプルを成形し、1000℃で熱処理をした。フェノール樹脂としては、溶媒を添加して粘度調整した液状のものを使用し、その添加量は、混練物が成形に適した軟度となることを目安に適量とした。得られた内孔体用材質について、弾性率、最大発生応力、かさ比重、見掛け気孔率、及び耐食性の試験を行った。
【0052】
耐食性の調査は、高周波炉に低炭素アルミキルド鋼を1550℃に溶解し、供試体を1.5m/secの周速を与えながら回転しつつ溶鋼中に浸漬し、所定の時間後に引き上げて供試体の溶損部の寸法を測定した。耐食性の評価は実施例1の寸法を100とした指数で表示した。指数は小さいほど耐食性が良好であることを示す。
【0053】
一方、押し割りテストAでは、表1に示す配合割合による混練物で高さ120mm、外径90mm、内径70mmの円筒形の内孔体2個を準備し、表2に示す配合割合で高さ290mm、外径130mm、内径92mmの円筒形のノズル本体を製造した。そして、このノズル本体の内孔に2個の内孔体をモルタルを介して接着したものをサンプルとした。モルタルとしては、マグネシアクリンカー50質量%、接着強度0.5Mpa、見掛け気孔率25%の高接着力タイプを使用した。
【0054】
押し割りテストでは、上記サンプルの内孔にガスバーナーでガスフレームを流し、ノズル本体温度が1200℃で20分間保持した後に、ノズル本体材質での亀裂の有無を調査した。テストの評価は、ノズル本体に亀裂がない場合に○、ノズル本体の表面のみの微亀裂が観察される場合を△、ノズル本体の厚み方向に貫通する亀裂あるいはノズル本体が割れた場合を×とし、○または△が実使用レベルであると判断した。
【0055】
押し割りテストBでは、表1に示す配合物と表2に示す配合物とを別々に混練して混練物とし、加圧力を加えて一体成形し熱処理した。ノズル本体は高さ290mm、外径130mm、内径92mm、内孔体は高さ240mm、外径92mm、内径70mmとした。このサンプルについても前記と同じ条件で押し割りテストを行った。
【0056】
また、内孔体の弾性率および最大発生応力は、先に説明した方法で測定した。内孔体のかさ比重及び見掛け気孔率はJIS−R2205に基づいて測定した。
【表1】

【表2】

【0057】
表1において実施例2〜5はいずれも本発明の範囲内で低弾性率かつ最大発生応力が十分低く良好な結果となっている。また、内孔体をノズル本体にモルタルで接合したタイプでも内孔体をノズル本体と一体成形したタイプでも、押し割りテストではノズル本体を破損することがなかった。実施例1は、実施例2と比較してやや最大発生応力が高いため、押し割りテストBでは表面に微亀裂が見られるが、実使用可能なレベルである。
【0058】
これに対して比較例1は、配合物の粒度構成において粒度0.5mm超1mm以下が20質量%と本発明の下限値未満であり、弾性率および最大発生応力が高くなっている。また、内孔体をモルタルで接合したタイプでも内孔体を本体と一体成形したタイプでも、押し割りテストでは本体にひびが入った。
【0059】
比較例2は、配合物の粒度構成において粒度0.5mm超1mm以下が85質量%と本発明の上限を超えており、弾性率および最大発生応力には問題ないが、耐食性が低いことがわかる。
【0060】
また、実施例6〜8は、内孔体の最大発生応力が2Mpaを超えているためか、内孔体をノズル本体と一体成形したタイプでの押し割りテストBの結果、微亀裂が認められるが実用面では問題の無い範囲であった。
【0061】
表3には、表1と同様に内孔体の配合物と熱処理後の試験結果を示す。
【0062】
表3に示す内孔体の配合物において、ドロマイトクリンカーとしては表1と同じものを使用した。また、マグネシアクリンカーとしてはMgO含有量98質量%以上のものを使用し、カルシウムジルコネートとしてはZrOが70質量%、CaOが28質量%のものを、また、ジルコニアとしてはCaO部分安定化ジルコニア(安定化度80%)を使用した。さらに、ポルトランドセメントとしては、カルシウム−シリケート系からなる鉱物を含有し、CaOが約65質量%、SiOが約15質量%含有するものを使用した。
【0063】
有機バインダーとしては、粉末ピッチと溶媒を添加して粘度調整したフェノール樹脂を使用した。これらの原料を混練し、均一に混練後、高さ240mm、外径90mm、内径70mmの円筒形の内孔体を成形し、熱処理をした。この内孔体について、弾性率、最大発生応力、かさ比重、見掛け気孔率、および耐食性の試験を行った。
【表3】

【0064】
表3において実施例9〜12はいずれも本発明の範囲内で低弾性率かつ最大発生応力が十分低く良好な結果となっている。また、内孔体をノズル本体にモルタルで接合したタイプでも内孔体をノズル本体と一体成形したタイプでも、押し割りテストではノズル本体を破損することがなかった。
【0065】
実施例4の内孔体を表2に示す材質を使用した浸漬ノズルのノズル本体の内孔にモルタルを使用して配置し、アルミキルド鋼の鋳造に適用した。鋳造条件は、鍋容量が280ton、タンディッシュ容量が50ton、鋳片の引き抜き速度が1.0〜1.3m/分、鋳造時間が約350分であった。問題なく鋳造が完了した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル本体の内孔に内孔体が配置される連続鋳造用ノズルであって、
内孔体の配合物が、ドロマイトクリンカーからなり、
しかも内孔体の配合物の粒度構成が、粒度1mm超が10質量%以下(0を含む)、粒度0.5mm超1mm以下が30〜80質量%、粒度0.5mm以下が10〜70質量%であり、
内孔体は配合物に有機バインダーを添加して混練後、成形し熱処理することで製造されることを特徴とする難付着性連続鋳造用ノズル。
【請求項2】
ノズル本体の内孔に内孔体が配置される連続鋳造用ノズルであって、
内孔体の配合物が、ドロマイトクリンカーを80質量%以上と、残部が、粒度0.5mm以下のマグネシアクリンカーとからなり、
しかも内孔体の配合物の粒度構成が、粒度1mm超が10質量%以下(0を含む)、粒度0.5mm超1mm以下が30〜80質量%、粒度0.5mm以下が10〜70質量%であり、
内孔体は配合物に有機バインダーを添加して混練後、成形し熱処理することで製造されることを特徴とする難付着性連続鋳造用ノズル。
【請求項3】
ノズル本体の内孔に内孔体が配置される連続鋳造用ノズルであって、
内孔体の配合物が、ドロマイトクリンカーを60質量%以上と、残部が、マグネシアクリンカー、カルシウムシリケート、ジルコニア、またはカルシウムジルコネートのうち1種以上とからなり、
しかも内孔体の配合物の粒度構成が、粒度1mm超が10質量%以下(0を含む)、粒度0.5mm超1mm以下が30〜80質量%、粒度0.5mm以下が10〜70質量%であり、
内孔体は配合物に有機バインダーを添加して混練後、成形し熱処理することで製造されることを特徴とする難付着性連続鋳造用ノズル。
【請求項4】
内孔体の配合物のうち、粒度0.5mm以下の部分の粒度構成が、配合物100質量%に対して、粒度0.3mm超0.5mm以下が2〜15質量%、粒度0.1mm超0.3mm以下が3〜35質量%、粒度0.1mm以下が1〜20質量%である請求項1、請求項2または請求項3に記載の難付着性連続鋳造用ノズル。
【請求項5】
内孔体の熱間での最大発生応力が2MPa以下である請求項1、請求項2、請求項3または請求項4に記載の難付着性連続鋳造用ノズル。
【請求項6】
ノズル本体の弾性率をE1、内孔体の弾性率をE2とした場合に、ノズル本体と内孔体が接触している部分が次の(1)〜(3)式を全て満足している請求項1、請求項2、請求項3、請求項4または請求項5に記載の難付着性連続鋳造用ノズル。
4 ≦E1≦ 18 …(1)
0.5 ≦E2≦ 15 …(2)
E2≦E1 …(3)
(単位は全てGPa)