説明

難分解性化学物質分解能を有するバリオボラックス属細菌とその検出方法

【課題】 難分解性化学物質に対する優れた分解能を有するバリオボラックス属細菌種を検出するための方法とその材料を提供する。
【解決手段】 リボソーム16S-23S intergenic transcribed spacer(ITS)領域中のヌクレオチド配列にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブ及び該領域を特異的にPCR増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーセットを提供し、特定のヌクレオチド配列が存在するバリオボラックス属細菌を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、トリクロロエチレンをはじめとする各種の難分解性化学物質に対する優れた分解能を有するバリオボラックス属細菌と、そのような特殊分解能を有するバリオボラックス属細菌を簡便かつ確実に検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、人体に有害な難分解性化学物質による環境汚染が大きな問題となってきている。例えば、トリクロロエチレン(TCE)は紙・パルプ工業や精密機械関連産業地域を中心として、低濃度でかつ広範囲にわたって土壌や地下水を汚染している(非特許文献1)。
【0003】
トリクロロエチレンをはじめ、多くの難分解性化学物質は発癌性が懸念されており、しかも環境中で非常に安定であるため、特に飲料水の水源として利用されている地下水の汚染は大きな社会問題とされている。
【0004】
従って、これらの難分解性化学物質の安全かつ効率的な管理・廃棄処分はもちろんのこと、既に難分解性化学物質に汚染された土壌や水域の浄化・修復が強く望まれている。
【0005】
従来、有害物質の処理や有害物質を含む廃水・排気によって汚染された環境の浄化・修復は、主として物理化学的手法が用いられてきた。例えば、活性炭による吸着処理、光や熱による分解処理等である。しかしながら、この従来方法の場合には、大がかりな設備投資によるコストの上昇や、あるいは物理化学的な処理操作による環境破壊等の点から、その効果的な実施は大幅に制限されているのが現状である。
【0006】
そこで、安価かつ環境への影響が少ない有害物質の処理または環境浄化の方法として、生物の働きを利用した技術(バイオレメディエーション)が注目を集めており、有機塩素化合物の処理や汚染環境の浄化についてはメタン資化性菌やフェノール資化性菌、トルエン資化性菌等の使用が検討されている。例えば、ラルストニア属細菌を用いたトリクロロエチレンやジクロロエチレン等の分解(特許文献1)、フェノール資化性のβプロバクテリア属細菌によるトリクロロエチレンの分解(特許文献2)等の多くの技術が知られている。
【0007】
また、特許文献3には、フェノールおよびトリクロロエチレン分解菌(具体的にはシュードモナス(Pseudomonas)属、アルカリジェネス(Alcaligenes)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、ラルストニア(Ralstonia)属、またはアシネトバクター(Acinetobacter)属に属する特定の細菌株)を検出するため手段として、特異的オリゴヌクレオチド(フェノールヒドロキシラーゼ遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブまたはプライマー)が開示されている。
【0008】
一方、この出願の発明者らは、フェノールを唯一の炭素源とする培地を用いて土着の細菌群を連続培養集積し、トリクロロエチレンおよびフェノールを高活性で分解する複合微生物系を構築した。そして、この複合微生物系の細菌群集の構造と機能を培養法および非培養法に基づき解析し、バリオボラックス属細菌と推定される細菌がトリクロロエチレンおよびフェノールの高活性分解に寄与していることを明らかにしている(非特許文献2)。さらに発明者らは、バリオボラックス属細菌の分離を行い、トリクロロエチレンおよびフェノールに対する動力学的特性を評価した結果、これらのバリオボラックス属細菌は、フェノールに対する親和力はこれまでに報告されたどのフェノール資化性細菌よりも低いのに対し、人工物質であるトリクロロエチレンに対しては最も高い親和性を発揮することを見出した。また、分解効率の指標であるVmax/Ks値は、これまでのフェノール資化性細菌群のそれと比較して、50〜100倍高いことを見出した。
【0009】
なお、これまでにバリオボラックス属細菌の資化性に関しては、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(非特許文献3)、リニュロン(非特許文献4)、ポリ塩素化ビフェニル(非特許文献5)、ナフタレン(非特許文献6)等の分解に関与することが知られている。また前記特許文献3には、フェノールおよびトリクロロエチレン分解菌としてバリオボラックス属細菌が例示されている。
【特許文献1】特開2003-204871号公報
【特許文献2】特開2002-142756号公報
【特許文献3】特開2002-085070号公報
【非特許文献1】McCarty, 1997:Science 276:1521-1522.
【非特許文献2】平石ら 平成16年:平成15年度廃棄物処理等科学研究研究報告書 固相バイオリアクターによる廃棄物処理(K1522)p9-12, p20-24, p29-30
【非特許文献3】Kamagata et al., 1997:Appl. Environ. Microbiol. 63:2266-2272.
【非特許文献4】Dejonghe et al., 2003:Appl. Environ. Microbiol. 69:1532-1541.
【非特許文献5】Nogales et al., 1999:Environ. Microbiol.1:199-212
【非特許文献6】Padmanabhan et al., 2003:Appl. Environ. Microbiol. 69:1614-1622
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のとおり、トリクロロエチレンやフェノール等の難分解性化学物質による環境汚染を解消するための手段として、微生物を用いた対策が有望視されており、そのための有効性が微生物にも報告されている。しかしながら、難分解性化学物質による汚染は、単一物質によるものの他に、複数種の化学物質による汚染例が多数存在する。従って、汚染物質の組合わせ等に応じた有効微生物のレパートリーを多く準備することは、効果的なバイオレメディエーションのための必須にして緊急の課題である。
【0011】
バリオボラックス属細菌は、トリクロロエチレンやフェノールの他に多くの難分解性化学物質を分解資化することが知られており(非特許文献2〜6)、バイオレメディエーションのための有望な微生物であると考えられる。
【0012】
しかしながら、発明者らが多くのバリオボラックス属細菌について難分解性化学物質の分解能を調べたところ、特定の化学物質を効率良く分解する細菌種と、分解能が有意に低い細菌種が存在することが明らかになった。従って、バリオボラックス属細菌を用いたバイオレメディエーションの実効性を確保するためには、分解能を有する細菌種を選択することが極めて重要である。
【0013】
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされてものであって、難分解性化学物質に対する優れた分解能を有するバリオボラックス属細菌と、様々なバリオボラックス属細菌から、難分解性化学物質分解能を有する細菌種を検出するための方法とその材料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この出願は、前記の課題を解決するための発明として、以下の第1〜第5発明を提供する。
【0015】
第1の発明は、難分解性化学物質の分解能を有するバリオボラックス(Variovorax)属細菌であって、そのリボソーム16S-23S intergenic transcribed spacer(ITS)領域のヌクレオチド配列中に、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2ヌクレオチド配列を有することを特徴とするバリオボラックス属細菌である。
【0016】
この第1発明のバリオボラックス属細菌においては、難分解性化学物質が、ジベンゾフラン、ビフェニル、ナフタレン、2,4,5-トリクロロフェノール、2,4,6-トリクロロフェノール、2,3-ジクロロフェノール、2,5-ジクロロフェノール、2,6-ジクロロフェノール、3,4-ジクロロフェノール、3,5-ジクロロフェノール、エチルベンゼン、o-キシレン、フェノールおよびトリクロロエチレンであることを好ましい態様としている。
【0017】
第2の発明は、難分解性化学物質の分解能を有するバリオボラックス属細菌を検出する方法であって、リボソーム16S-23S intergenic transcribed spacer(ITS)領域中に、SEQ ID NO:1よびSEQ ID NO:2ヌクレオチド配列が存在する細菌を目的のバリオボラックス属細菌とすることを特徴とする検出方法である。
【0018】
第4の発明は、SEQ ID NO:1よび/またはSEQ ID NO:2のそれぞれのヌクレオチド配列にストリンジェント条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブである。
【0019】
第5の発明は、SEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列を含むバリオボラックス属細菌リボソーム16S-23S intergenic transcribed spacer(ITS)領域を特異的にPCR増幅するオリゴヌクレオチドプライマーセットである。またこの第5発明の好ましい一つの態様は、SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4のそれぞれのヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーセットである。
【0020】
すなわち、この出願の発明者らは、難分解性化学物質のバイオメディエーションのためのバリオボラックス属細菌について鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
(A) バリオボラックス属細菌には、特定の難分解性化学物質に対して高い分解資化能を有する細菌群(グループI)と、分解資化能が低い細菌群(グループII)が存在すること。
(B) 細菌群グループIとIIとは、そのリボソームDNA配列の特定領域(16S-23S ITS領域)におけるSEQ ID NO:1よびSEQ ID NO:2ヌクレオチド配列の有無によって識別可能であること。
【0021】
この出願の発明は、以上のとおりの新規な知見に基づいて完成されたものである。なお前記特許文献3には、バリオボラックス(Variovorax)属がフェノールおよびトリクロロエチレン分解菌であることが開示されているが、前記知見(A)および(B)は何ら開示も示唆もされていない。特に特許文献3は、前記知見(A)に基づくバリオボラックス属細菌の分別を開示していないことによって、トリクロロエチレンを分解しないバリオボラックス属細菌をも包含している点においてこの出願の発明と明らかに相違する。
【0022】
以下、発明の実施形態について詳しく説明するが、この発明において難分解性化学物質の「分解」とは、化学物質の活性(特に人体に対する有害活性)を消去または実質的に不活性化することを意味する。また「オリゴヌクレオチド」とは、プリンまたはピリミジンが糖にβ-N-グリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステル(ATP、GTP、CTP、UTP;またはdATP、dGTP、dCTP、dTTP)が複数個、好ましくは15〜50個以上結合した分子を言いう。
【0023】
この発明におけるその他の用語や概念は、発明の実施形態の説明や実施例において詳しく規定する。なお、用語は基本的にはIUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるものであり、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。また発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学および分子生物学的技術はJ. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition)", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法またはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
この出願の発明によれば、特定の複数種の難分解性化学物質に対する分解能を有するバリオボラックス属細菌群が提供される。さらに、この出願の発明によれば、前記のバリオボラックス属細菌群を簡便かつ確実に検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
第1発明のバリオボラックス属細菌は、特定の難分解性化学物質(好ましくは、ジベンゾフラン、ビフェニル、ナフタレン、2,4,5-トリクロロフェノール、2,4,6-トリクロロフェノール、2,3-ジクロロフェノール、2,5-ジクロロフェノール、2,6-ジクロロフェノール、3,4-ジクロロフェノール、3,5-ジクロロフェノール、エチルベンゼン、o-キシレン、フェノールおよびトリクロロエチレン)を分解し、例えばベンゼン、トルエン、m-キシレンおよびp-キシレンは分解しない細菌である。
【0026】
そしてこのようなバリオボラックス属細菌は、そのリボソーム16S-23S ITS領域中に、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列を有することを特徴としている。すなわち、後記の実施例2(図3)に示したように、難分解性化学物質の分化能を有するバリオボラックス属細菌群(グループI)は、リボソーム16S-23S ITS領域にSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列が存在する。一方、難分解性化学物質の分解能が低いバリオボラックス属細菌群(グループII)の場合には、SEQ ID NO:1の第10位"t"が他のヌクレオチド("a"、"c"、"g")であり、第21〜28位"ttgaagat"がそれぞれ他のヌクレオチドである。またグループIIのSEQ ID NO:2では、第1位"c"が他のヌクレオチドであり、第13-14位の"nn"が"aa"である。
【0027】
このような細菌は、例えば、発明者らが土壌から単離した複合微生物系(非特許文献2)に含まれるバリオボラックス属細菌YN-03株、YN-05株、YN-06株、YN-07株、YN-19株、C12株、C24株、C52株、HAB24株、HAB27株、HAB29株、HAB30株等を例示することができる。これらの細菌株は、例えば、非特許文献2に開示されているような土壌から得た複合微生物系から、後記実施例に示したような特定培地を用いた連続培養法によって、当業者であれば特段の困難性なく取得することができる。また、好ましくは、この出願の第2発明の方法によって簡便かつ確実に取得することができる。
【0028】
すなわち第2発明の方法は、リボソーム16S-23S ITS領域中に、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列が存在する細菌を目的のバリオボラックス属細菌と決定する。
【0029】
この第3発明の方法は、例えば後記実施例と同様の手続によって実施することができる。すなわち、被験対象のバリオボラックス属細菌からDNAを抽出し、リボソーム16S-23S ITS領域をPCR増幅する。PCR増幅には、例えば、実施例に示した16S-23S ITS領域に対するプライマーセット(SEQ ID NO:5およびSEQ ID NO:6)を使用することができる。そして、PCR産物中のヌクレオチド配列をシークエンシングし、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列の存在を確認する。
【0030】
この出願の第2発明の方法はまた、第3発明のオリゴヌクレオチドプローブまたは第4発明のオリゴヌクレオチドプライマーを用いることによって、さらに簡便かつ確実に実施することができる。
【0031】
すなわち、第3発明のプローブは、SEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2のそれぞれのヌクレオチド配列にストリンジェント条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドである。このようなプローブは、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2のそれぞれのヌクレオチド配列に完全に相補的なオリゴヌクレオチドである。このようなオリゴヌクレオチドプライマーセットは、市販のDNA合成機や公知の化学合成技術(例えばCarruthers(1982)Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 47:411-418; Adams(1983)J. Am. Chem. Soc. 105:661; Belousov(1997)Nucleic Acid Res. 25:3440-3444; Frenkel(1995)Free Radic. Biol. Med. 19:373-380; Blommers(1994)Biochemistry 33:7886-7896; Narang(1979)Meth. Enzymol. 68:90; Brown(1979)Meth. Enzymol. 68:109; Beaucage(1981)Tetra. Lett. 22:1859; 米国特許第4,458,066号等に記載の方法)に従って作成することができる。
【0032】
そして、このプローブによる目的のバリオボラックス属細菌の検出は、被験DNAサンプルとプローブとの特異的なハイブリダイゼーションを可能とするストリンジェントな条件下で行う。ストリンジェント条件は、ハイブリダイゼーションおよび洗浄工程における塩濃度、有機溶媒(ホルムアルデヒド等)の濃度、温度条件等によって規定される。例えば、米国特許No.,6,100,037等に開示されている条件を採用することができる。またプローブの標識は、ラジオアイソトープ(RI)法または非RI法によって行うことができるが、非RI法を用いることが好ましい。非RI法としては、蛍光標識法、ビオチン標識法、化学発光法等が挙げられるが、蛍光標識法を用いることが好ましい。蛍光物質としては、オリゴヌクレオチドの塩基部分と結合できるものを適宜に選択して用いることができるが、シアニン色素(例えば、Cy DyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N-アセトキシ-N2-アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)などを使用することができる。
【0033】
以上のとおりのプローブを用いたストリンジェント条件下でのハイブリダイゼーションによって、プローブは、リボソーム16S-23S ITS領域中のSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列に確実にハイブリダイズし、目的の細菌を確実に検出することが可能となる。
【0034】
第4発明のプライマーセットは、SEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列を含むバリオボラックス属細菌リボソーム16S-23S ITS領域を特異的にPCR増幅するオリゴヌクレオチドのセットである。プライマーセットは、例えば、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列情報に基づき、それぞれに対する正方向プライマーおよび逆方向プライマーのセットとして、DNA合成機やDNA化学合成技術を用いて作成することができる。なお、プライマー設計は、プライマー設計用の市販のソフトウエア、例えばOligoTM [National Bioscience Inc.(米国)製]、GENETYX(ソフトウエア開発(株)(日本)製)等を用いて行うことができる。このようなプライマーセットの一例として、この出願の発明は、SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4のそれぞれのヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーセットを提供する。
【0035】
以上のとおりのPCRプライマーを用いた方法によって、そのリボソーム16S-23S ITS領域中にSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列を有するDNA断片のみがPCR増幅され、目的とするバリオボラックス属細菌を確実に検出することが可能である。例えば、SEQ ID NO:3とSEQ ID NO:4のPCRプライマーで増幅されたDNA断片は、SEQ ID NO:2の全てと、SEQ ID NO:1は一部を含んでいる。
【0036】
以下、実施例を示してこの出願の発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発明は以下の例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
複数のバリオボラックス属細菌について、18種類の難分解性化学物質に対する資化能を分析した。
(1) 使用菌株
表1に示したバリオボラックス属細菌を使用した。なお、YN、cおよびHABシリーズの菌株は、フェノールで連続培養によって構築された複合微生物系(非特許文献2)から分離した。なお、表1に示した分離用培地はそれぞれ0.5mMのフェノールを含有している。また、ドイツの微生物寄託機関DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zelkulturen GmbH)から分譲された基準菌株Variovorax paradoxus DSM30034Tを含む4菌株を使用した。
【0038】
【表1】

【0039】
(2) 難分解性化学物質の分解試験
難分解性化学物質として、ジベンゾフラン、ビフェニル、ナフタレン、2,4,5-トリクロロフェノール、2,4,6-トリクロロフェノール、2,3-ジクロロフェノール、2,5-ジクロロフェノール、2,6-ジクロロフェノール、3,4-ジクロロフェノール、3,5-ジクロロフェノール、ベンゼン、エチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、フェノール、トルエンおよびトリクロロエチレンを対象とした。
【0040】
バリオボラックス属細菌は全て1/10 TSB液体培地で浸とう培養し、対数増殖期の培養菌液を使用した。トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、キシレンに対する資化能試験では、炭素源を含まないMP寒天培地に共試菌株を接種し、試験化合物を気化ガスとして供給した。これらの化学物質とトリクロロエチレンを除く13種類の化学物質に対する増殖試験では、2層培地法(Hiraishi et al., 2002:Arch Microbiol. 178:45-52)を用いた。生物学的に不活性な有機溶媒の2,2',4,4',6,8,8'-ヘプタメチルノナン(Rabus et al., 1993:Appl. Envirion. Microbiol. 59:1444-1451)に試験化学物質を0.2%濃度となるように溶解させ、0.2μmフィルターで濾過した。その溶液をMP液体培地へ重層(16:1)し、培養菌液を0.5mL接種した。試験化学物質を添加していない系をコントロールとし、30日間25℃で浸とう培養した。経時的にOD600nmでの吸光度を測定した。トリクロロエチレンの分解試験には、BSM50phe培地で培養した培養菌液を用い、上記の方法でトリクロロエチレンの分解を確認した。
【0041】
結果は図1(a)(b)に示したとおりである。図1(a)に示したように、共試菌株は試験した18種類の化学物質のうち、ベンゼン、トルエン、m-キシレンおよびp-キシレンを除く14種類の化学物質を分解した。また表図1(b)に示したように、試験した16菌株は、化学物質分解能を有する菌株群(グループI:10菌株)と分解能を持たない菌株群(グループII)とに運類された。
【実施例2】
【0042】
複数のバリオボラックス属細菌について、16S-23S ITS領域に基づく系統解析を行った。バリオボラックス属細菌は実施例1と同一の菌株を用いた。
【0043】
共試菌株は1/10TSB50phe培地に接種し、25℃で浸とう培養した。細胞を対数増殖期から定常期において回収し、TE緩衝液で再懸濁した。10%SDSおよびprotease K(10mg ml-1)を添加し、37℃で一晩培養した。5MのNaClおよびCTABを添加・懸濁・遠心後、上清を新たなエッペンドルフチューブに移し、フェノールおよびクロロフォルムにより精製し、エタノール沈殿によりDNAを回収した。DNAを滅菌蒸留水にて溶解させ、吸光度計(Biospec 1600 Shimadzu)により紫外線吸収スペクトラムを測定し純度と濃度を測定した。
【0044】
16S-23S ITS領域のPCRには、大腸菌の16S rDNAの第1512-1531位、23S rDNAの第14-38位(Brosius et al., 1980:Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:201-204)に基づくユニバーサルプライマー1512f(SEQ ID NO:5)およびLS23r(SEQ ID NO:6)を用いた(Gurtler et al., 1996:Microbiology 142:3-16)。PCR増幅には宝サーマルサイクラーを用いた。PCR反応のアニーリング温度と回数は、58℃で5回、57℃で5回、56℃で25回とし、最後に72℃で10分間の伸長反応を行った。PCR産物はアガロースゲル電気泳動で分離し、臭化エチジウムで染色後、トランスイルミネーター下で写真撮影した。
【0045】
PCR増幅された16S-23S ITS領域のDNAの断片をMicroSpin S-400 HR column(Amersham Pharmacia Biotech Inc, USA)で精製後、ABI 3100-Avant Genetic Analyzerで解析した。得られた配列データはGENETYX-MACプログラムを用いて編集した後、BLASTホモロジー検索(Altshul et al., 1997:Nucleic Acids Res. 25:3389-3402)にかけ、DDBJ/EMBL/GenBankのDNA配列データと共にCLUSTAL Wプログラム(Thompson et al., 1994:Nucleic Acids Res. 22:4673-4680)を用いて多重アラメントを行い、近接結合法(Saitou et al., 1980:Mol. Bio. Evol. 4:406-425)により系統樹を作成した。
【0046】
結果は図2に示したとおりであり、難分解性化学物質の分解能を有するバリオボラックス属細菌群(グループI)と、分解能を持たない細菌群(グループII)とは、16S-23S ITS領域のヌクレオチド配列の違いによって明確に区別されることが確認された。
【0047】
さらに、両グループの16S-23S ITS領域の配列は、図3に示したとおりに特定ヌクレオチドの相違によるものであることも確認された。
【実施例3】
【0048】
難分解性化学物質の分解能を有するバリオボラックス属細菌群(グループI)の16S-23S ITS領域を特異的にPCR増幅した。
【0049】
SEQ ID NO:1の一部およびSEQ ID NO:2の全ヌクレオチド配列を含む16S-23S ITS領域を標的とする特異的プライマーとしてVXIIf(SEQ ID NO:3)およびVXIIr(SEQ ID NO:4)を設計し、合成した。PCR増幅には宝サーマルサイクラーを用いた。PCR反応のアニーリング温度と回数は、62℃で25回、最後に72℃で10分間の伸長反応を行った。PCR産物はアガロースゲル電気泳動で分離し、臭化エチジウムで染色後、トランスイルミネーター下で写真撮影した。
【0050】
その結果、前記のプライマーセットVXIIf(SEQ ID NO:3)およびVXIIr(SEQ ID NO:4)を用いたPCRによって、難分解性化学物質の分解能を有するバリオボラックス属細菌群(グループI)のDNAサンプルからのみPCR産物がえられ、グループII細菌群からはPCR産物は得られなかった。
【0051】
以上の結果から、この発明の特異的プライマーセットを用いたPCRによって、特定の難分解性化学物質を効果的に分解することのできるバリオボラックス属細菌を簡便かつ確実に検出することが可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明は、トリクロロエチレン等の難分解性化学物質による環境汚染に対する効果的なバイオレメディエーションに大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】バリオボラックス属細菌群の各難分解性化学物質に対する分化能の評価結果である。(a)は各化学物質に対して分解能を示した菌株数、(b)は各菌株が分解した化学物質数である。
【図2】バリオボラックス属細菌群の16S-23S ITS領域に基づく系統解析の結果である。
【図3】グループIとIIのそれぞれに属するバリオボラックス属細菌の16S-23S ITS領域におけるヌクレオチド配列の相違である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難分解性化学物質の分解能を有するバリオボラックス(Variovorax)属細菌であって、そのリボソーム16S-23S intergenic transcribed spacer(ITS)領域のヌクレオチド配列中に、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列を有することを特徴とするバリオボラックス属細菌。
【請求項2】
難分解性化学物質が、ジベンゾフラン、ビフェニル、ナフタレン、2,4,5-トリクロロフェノール、2,4,6-トリクロロフェノール、2,3-ジクロロフェノール、2,5-ジクロロフェノール、2,6-ジクロロフェノール、3,4-ジクロロフェノール、3,5-ジクロロフェノール、エチルベンゼン、o-キシレン、フェノールおよびトリクロロエチレンである請求項1のバリオボラックス属細菌。
【請求項3】
難分解性化学物質の分解能を有するバリオボラックス属細菌を検出する方法であって、リボソーム16S-23S intergenic transcribed spacer(ITS)領域中に、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列が存在する細菌を目的のバリオボラックス属細菌とすることを特徴とする検出方法。
【請求項4】
SEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2のそれぞれのヌクレオチド配列にストリンジェント条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項5】
SEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列を含むバリオボラックス属細菌リボソーム16S-23S intergenic transcribed spacer(ITS)領域を特異的にPCR増幅するオリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項6】
SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4のそれぞれのヌクレオチド配列からなる請求項5のオリゴヌクレオチドプライマーセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−81477(P2006−81477A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270437(P2004−270437)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月17日 社団法人日本水環境学会発行の「第38回 日本水環境学会年会講演集」に発表
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】