説明

難加工性超伝導合金多芯線の製造方法

【課題】 Nb−Zr基合金等の難加工性を回避して、多芯線の製造を可能とする、新しい難加工性超伝導合金多芯線の製造方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも、合金を構成する元素の複数本の素線を束ねて、合金を構成する元素からなるマトリックス管に挿入し、伸線加工した後切り出し一次スタック線とする工程と、一次スタック線を多数本束ねて、合金を構成する元素または安定化材からなるマトリックス管に挿入し、伸線加工して2次スタック線とする工程と、熱処理により前記合金を構成する元素を合金化させる工程を含むように、難加工性超伝導合金多芯線を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、難加工性超伝導合金多芯線の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、Nb−Zr基合金等の難加工性を回避して、多芯線の製造を可能とする、新しい難加工性超伝導合金多芯線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の超伝導多芯線材の研究では、酸化物超伝導体、Nb3Al、MgB2等の新超伝導物質を対象とし、より高性能な臨界特性(Tc,Bc2,Jc)を追求するものが数多く
存在する。ところがそのような新超伝導物質はすべて化合物であり、機械的に脆いという欠点があるため、たとえ超伝導特性が劣っても、依然として、合金系超伝導線材の開発,改良等のための研究は必要とされている。
【0003】
たとえば、実用合金系超伝導線材であるNb−Ti合金は、溶解鋳造したNb−Ti合金インゴットを出発材料とし、これを安定化材でもあるCuマトリックス中に多数本の芯材として分散させた断面構造を有する、長尺のCu/Nb−Ti合金複合体である。このNb−Ti合金の状態図は、高温においてbcc(β)相の全率固溶合金であるが、低温においてはTi−richなhcp(α)相とTi−poorなbcc(β)相に分離しており、α−Tiが磁束線の主なピン止め点として機能する。したがって、一般的なNb−Ti合金超伝導線材の製造においては、α−Tiを、微細かつ一様な大きさで、bcc相Nb−Ti合金フィラメント中に高密度で析出させるために、Nb−Ti合金の複合多芯ビレットを押し出した後に冷間伸線加工によって歪みエネルギーを十分に蓄えるようにしている。伸線加工によって導入された歪みエネルギーはα−Ti析出のための駆動力となり、375〜420℃で約10時間の時効処理により微細でサイズ分布の微細なα−Tiが析出されることになる。また、母相からα−Tiを完全に析出させるとともに、析出物の体積を大きくするために最終線径になる前に数回に分けて時効熱処理を施したり、臨界電流密度Jcを最適化するためにさらに線径で1/10になるまで伸線加工して、析出した楕円形状のα−Tiをリボン状に塑性変形するようにしてもいる。すなわち、磁束線を効率よくピン止めするために、リボン状のα−Tiの幅および間隔をいわゆる加工および熱処理で制御している。しかしながら、従来の析出を利用した方法では、α−Tiのサイズを一様に制御するのは極めて困難であった。
【0004】
そのような欠点を克服する方法として、人工ピン導入技術が利用されてもいる。これは、出発材料である大型のNb−Ti合金ロッドに多数の穴をあけてTi,Nb,Nb1wt%Ti等のピン止め中心となる金属または合金を組み込み、これらに押し出し、伸線加
工、再スタック等の操作を繰り返して、ピン止め中心の金属または合金のサイズや間隔が所望のものとなるまで伸線加工する方法である。この方法によると、一様なサイズと間隔のピン止め中心が得られるため、前記の一般的な方法で得られるNb−Ti合金と比べて、2Tでは大きな臨界電流密度が得られるのである。なお、この方法では析出のための熱処理が不要であるが、超伝導Nb−Ti合金母相は従来と同じく溶解鋳造で製造する必要がある。
【0005】
また、人工ピン導入技術をさらに発展させた方法として、Nb−Ti合金の構成元素であるNbとTiのシートを重ねてジェリーロール状に巻いたNb/Ti複合体やNbとTiを積層したロッドをNbバリアー付きCu管に挿入したNb/Ti複合体を出発材料にする方法などもある。この方法では、NbとTiの間で拡散反応させてNb−Ti合金を生成するが、その拡散反応を制御することにより未反応のNbおよびTiを人工ピン止め中心として適切に同時に残すことが可能である。
【0006】
このように、Nb−Ti合金については、製造方法について様々な研究や改良法等が提案され、実際に利用されている。
【0007】
一方で、Nb−Zr基合金については、歴史的には、臨界電流密度が高いという理由からテープ材として上記のNb−Ti合金よりも早く商品化された実績を有する。しかしながら、当時、電磁気的擾乱に対して超伝導状態を安定に保つための極細多芯構造の重要性が指摘され、これを実現するための研究が数多く実施されたものの、Nb−Zr合金はNb−Ti合金と比べて固溶体硬化および加工硬化が顕著であり、そのため、Cu安定化材をマトリックスとするCu/Nb−Zr複合体の複合加工性が劣るなどの理由から、結局、Cu/Nb−Zr極細多芯線の開発は断念され、現在のNb−Ti合金のように広く利用されることはなかった。また、Nb−Zr合金はTcが高い利点がある反面、Bc2
Nb−Ti合金より若干低いことも、当時まだTcマージンが重要となる交流応用や冷凍機マグネット応用が存在していなかったため、Nb−Zr合金の開発に不利であった。さらに、Nb−Zr合金は、状態図においてもNb−Ti合金と比較して決定的に不利であった。すなわち、Nb−Zr合金は、高温ではNb−Ti合金と同じくbcc(β)相の全率固溶合金であるが、組成が9at%−81.5at%Zrまた温度が620〜988℃の
領域でZr−richなβ相とNb−richなβ相に2相分離するのである。このZr−rich β相とNb−rich β相は超伝導特性が異なり、それぞれの界面がピン止め中心として作用し、その上に、それぞれのβ相内部でhcp(α)Zr相が析出して磁束線のピン止めに寄与する。そのため、Nb−Ti合金の場合は約400℃での加工および熱処理によってα−Ti相を析出させるのに対して、Nb−Zr合金の場合は、これらβ相を如何に細かく2相分離させるかによってJc特性が主に決定する。ところが、このβ相の2相分離のための熱処理温度はNb−Ti合金の析出熱処理温度より高温であって、安定化材であるCuを複合する場合はこのCuが完全に焼鈍してしまうため、CuとNb−Zr合金の硬さの違いがますます大きくなり、2相混合組織やZr析出相を微細化するために必要なCu/Nb−Zr複合体の伸線加工を困難にさせていた。
【0008】
このような理由により、かなり早い時期にNb−Zr合金の研究は中止されてしまったのである。また、Tiを微量添加したNb−Zr−Ti合金以外に、3元系Nb−Zr基合金はほとんど研究されていなかった。このような状況から、人工ピン止めそのものを導入する研究なども、Nb−Zr基合金では一切なされていない。
【0009】
また、V−Ti基合金については、線材としての研究開発が1例のみ報告されている(非特許文献1)。溶解鋳造で製造した2元系V−Ti合金およびTaを添加した3元系V−Ti−Ta合金を1100℃で溶体化処理したのち冷間加工した線材、途中300〜500℃で時効処理した線材、時効処理後に再び冷間加工した線材の3種類について、超伝導特性が評価されて、冷間加工によりBc2(4.2K)が8.8Tから9.3Tに向上
すること、また、時効処理はJcを改善するがBc2を低下させ、再冷間加工は再びBc2を改善することが明らかにされた。しかし、V−Ti基合金についても、Nb−Zr合金の場合と同様に、より良い製造方法に関する研究や、人工ピン止め導入技術等の研究に関しては一切報告されていない。
【非特許文献1】井上廉、太刀川恭治、林浩明,“V−Ti−Ta3元合金の超伝導特性におよぼす材料処理の影響”,第33回低温工学研究発表会予稿集, 1985, p.7.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のとおり新超伝導物質は機械的に脆いため、その取り扱いは困難な点が多く、線材の製造においてだけでなくマグネット等の応用においても、熟練の技術者が必要とされている。そのため、例えば、欧州加速器機構のように、多数のマグネットに
ついて、特注品でない市販品としては当然要求される性質である性能均一性が重要視される場合には、たとえ発生磁場能力が低くても、性能均一性を達成するのに有利な性質である「取り扱いの容易さ」から、新超伝導物質ではなく敢えてNb−Ti合金線材のみが使用されているのが実情である。
【0011】
従って、Nb−Ti合金線材より臨界温度が高い利点があるにもかかわらず難加工性のために開発が中断されているNb−Zr基合金の超伝導多芯線についても、難加工性を回避することができれば、その取り扱いの容易さから多くの需要が期待される。
【0012】
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、Nb−Zr基合金を始めとし、V−Ti基合金等の難加工性を回避して、多芯線としての製造を可能とする、新しい難加工性超伝導合金多芯線の製造方法を提供することを課題としている。また、これらの合金において、人工ピン止めを導入することができる技術をも提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、まず第1には、難加工性合金からなる超伝導多芯線の製造において、少なくとも、合金を構成する元素の複数本の素線を束ねて、合金を構成する元素からなるマトリックス管に挿入し、伸線加工した後切り出し一次スタック線とする工程と、一次スタック線を多数本束ねて、合金を構成する元素または安定化材からなるマトリックス管に挿入し、伸線加工して2次スタック線とする工程と、熱処理により前記合金を構成する元素を合金化させる工程を含むことを特徴とする難加工性超伝導合金多芯線の製造方法を提供する。
【0014】
そしてこの出願の発明は、上記発明の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法において、第2には、合金を構成する元素が、Nb,Zr,V,Ta,Tiのいずれか1種以上であることを特徴とする製造方法を、第3には、予め合金を構成する元素の素線を真空焼鈍しし、素線間の硬さの差を小さくしておくことを特徴とする製造方法を、第4には、合金を構成する元素Nb,Zr,V,Ta,Tiの素線を、それぞれ850℃、900℃、850℃、1000℃、900℃で真空焼鈍しすることを特徴とする製造方法を、第5には、一次スタック線における素線の合計本数を、19以上1000以下とすることを特徴とする製造方法を、第6には、熱処理温度を300〜1100℃の範囲とし、熱処理時間を500時間未満とすることを特徴とする製造方法を、第7には、その熱処理時間を100時間未満とすることを特徴とする製造方法を、第8には、熱処理の工程を、伸線加工の途中で少なくとも1回実施することを特徴とする製造方法を、第9には、熱処理前の素線の直径を、平均値として、100μm以下とすることを特徴とする製造方法を、第10には、熱処理前の素線の直径を、平均値として、10μm以下とすることを特徴とする製造方法を提供する。
【0015】
また、この出願の発明は、上記発明の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法において、第11には、合金は、平均組成が一般式NbXZr1-X(式中、0.185<X<0.91を示す)で表される合金もしくはこれにTi,V,Taのいずれか1種以上を合計で20at%以下添加した合金であることを特徴とする製造方法を、第12には、安定化材として、CuまたはAgを用いることを特徴とする製造方法を、第13には、一次スタック線を構成するマトリックス管として、V,TaまたはNb管を用いることを特徴とする製造方法を、第14には、一次スタック線および/または2次スタック線を構成するマトリックス管として、安定化材で被覆されたV,TaまたはNb管を用いることを特徴とする製造方法を、第15には、熱処理は、少なくとも1回を622℃〜988℃の範囲で行うことを特徴とする製造方法を提供する。
【0016】
さらに、この出願の発明は、上記発明の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法において、第16には、合金は、平均組成が一般式VXTi1-X(式中、0.19<X<0.82を示す)で表される合金もしくはこれにTa,Zrのいずれか1種以上を合計で20at%以下添加した合金であることを特徴とする製造方法を、第17には、安定化材として、Cuを用いることを特徴とする製造方法を、第18には、一次スタック線を構成するマトリックス管として、VまたはTa管を用いることを特徴とする製造方法を、第19には、一次スタック線および/または2次スタック線を構成するマトリックス管として、安定化材で被覆されたVまたはTa管を用いることを特徴とする製造方法を、第20には、熱処理は、少なくとも1回を675℃〜850℃の範囲で行うことを特徴とする製造方法をも提供する。
【発明の効果】
【0017】
上記第1および第2の発明によると、難加工性超伝導合金多芯線の製造において、出発材料として、溶解鋳造等により得られる難加工性合金のインゴット等を用いず、合金の構成元素の単体を素線として用いるため、室温でも良好に多芯化のための伸線加工を行うことができる。
【0018】
上記第3および第4の発明によると、出発材料である合金の構成元素の素線の硬さを調整するようにしているため、多芯化のための伸線加工性を室温でもより良好なものとすることができる。
【0019】
上記第5の発明によると、素線数を適切に制御することで、合金組成の調整を簡便に行うことができ、また、熱処理により均一な組成および組織の合金を容易に得ることができる。
【0020】
上記第6〜第10の発明によると、伸線加工の途中もしくは最終仕上げ寸法において熱処理することにより、任意の組成を有する合金を拡散生成させ、同時に、必要に応じて拡散反応を制御し、未反応物を人工ピン止め中心として残すことができる。
【0021】
上記第11〜第15の発明によると、難加工性Nb−Zr基合金の超伝導多芯線を簡便に製造することができる。
【0022】
上記第16〜第20の発明によると、難加工性V−Ti基合金の超伝導多芯線を簡便に製造することができる。
【0023】
以上のこの出願の発明の方法によると、良好な延性を有することから取り扱いが非常に容易で、Nb3Snや酸化物超伝導体などの化合物系超電導材料とは異なり、合金系材料
の特徴として機械的歪みに対する超伝導特性の劣化が小さいことから、とりわけ大型超伝導マグネット等へ好適に利用できるNb−Zr基合金超伝導多芯線およびV−Ti基合金超伝導多芯線を得ることができる。また、同様の理由から中性子や高エネルギー粒子の照射に対しても超伝導特性の劣化が小さいと予想され、高エネルギー粒子加速器や核融合炉等に利用可能なNb−Zr基合金超伝導多芯線およびV−Ti基合金超伝導多芯線を製造することができる。
【0024】
そして、この出願の発明の方法によると、実用されているNb−Ti基合金より臨界温度が高く、温度マージンが要求される伝導冷却超伝導マグネットや各種の交流超伝導機器等にも利用が可能なNb−Zr基合金超伝導多芯線を得ることができる。
【0025】
さらに、中性子による誘導放射能が短期間に減衰することから、次世代の核融合材料としての利用が期待されるV−Ti基合金超伝導多芯線や、また、Nb−Ti基合金と同様
に機械的な接合技術を用いた超伝導接続が可能で、永久電流モード運転が必要なMRIや磁気浮上列車用超伝導マグネットへの利用が期待されるV−Ti基合金超伝導多芯線を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0027】
この出願の発明者らは、難加工性合金であるNb−Zr基合金多芯線材およびV−Ti基合金多芯線材の製造方法について、
(ア)溶解鋳造により作製した合金インゴットを出発材料にすると、固溶体硬化や加工硬化が顕著なため、その線材、特に安定化材であるCuを複合したCu/Nb−Zr基合金線材およびCu/V−Ti基合金線材の製造が困難であること、
(イ)しかしそれらを構成するNb,Zr,V,TiさらにはTaといった各元素は、単体としては原理的に固溶体硬化がなく、また、加工硬化も比較的小さいため、室温で良好な伸線加工性を有すること
に着眼し、鋭意研究を重ねた結果、
(1)これらNb−Zr基合金およびV−Ti基合金の構成元素の単体同士を複合して伸線加工することによって、固溶体硬化および加工効果による難加工性に関する問題を解消できるとともに、
(2) 伸線の途中または最終仕上げ寸法において熱処理することにより、任意の組成を有する合金を拡散生成させ、同時に、必要に応じてその拡散反応を制御することにより未反応物を人工ピン止め中心として残すことが可能なこと
を見出し、この出願の発明を完成させるに至った。
【0028】
すなわち、この出願の発明の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法は、少なくとも、合金を構成する元素の複数本の素線を束ねて、合金を構成する元素からなるマトリックス管に挿入し、伸線加工した後切り出して一次スタック線とする工程と、一次スタック線を多数本束ねて、合金を構成する元素または安定化材からなるマトリックス管に挿入し、伸線加工して2次スタック線とする工程と、熱処理により前記合金を構成する元素を合金化させる工程を含むことを特徴としている。
【0029】
この出願の発明において、難加工性超伝導合金としては、その定義は特に重要なものではないが、この出願の発明の方法を特徴づけるという意味で、通常法による合金インゴットから多芯線への加工が困難とされる超伝導合金とすることができる。そしてこの出願の発明の方法においては、この超伝導合金の構成元素が、単体で、室温で比較的良好な延性を有するものであることを好ましい形態としている。このような超伝導合金としては、代表的には、たとえば、Nb−Zr基合金およびV−Ti基合金等を例示することができる。以下、これらNb−Zr基合金およびV−Ti基合金を中心にこの出願の発明の方法について説明を行うようにする。
【0030】
この出願の発明においては、合金を構成する元素としては、上記のとおり、単体で、室温で良好な延性を有するものであることが好ましい。上記のNb−Zr基合金およびV−Ti基合金の場合は、たとえば、V,Ti,Nb,Zr,Taの5種類を例示することができる。これらの元素は、V−Ti合金およびNb−Zr合金の構成元素であるV,Ti,Nb,Zrに、たとえば、両者の臨界磁界改善に効果のある原子番号の大きな3候補元素(Ta,Hf,Mo)のうちで室温で良好な延性を有するTaを加えるようにしたものである。もちろん、所望の目的に応じて、他の元素を用いることが可能である。ただし、たとえば、V−Ti基合金の構成元素としては、中性子照射による放射化を抑制する観点から半減期の長い核種であるNbを除外することなどを、考慮することができる。
【0031】
そしてこれらの元素により構成されるNb−Zr基合金およびV−Ti基合金としては、より具体的には、Nb−Zr,Nb−Zr−Ti,Nb−Zr−V,Nb−Zr−Ta,Nb−Zr−Ti−V,Nb−Zr−Ti−Ta,Nb−Zr−Ta−V,Nb−Zr−Ti−V−Ta等のNb−Zr基合金や、V−Ti,V−Ti−Ta,V−Ti−Zr,V−Ti−Ta−Zr等のV−Ti基合金を例示することができる。もちろん、これらは厳密な意味での組成系を示すものではなく、さらに種々の元素が添加されても構わない。
【0032】
この出願の発明において用いるマトリックス管は、一次スタック線の構成に際しては合金を構成する元素からなるマトリックス管を用いることができ、二次スタック線の構成に際しては合金を構成する元素または安定化材からなるマトリックス管を用いることができる。
【0033】
安定化材としては、室温での伸線加工性に優れ、同時に電気伝導度の高い元素を用いることができる。この出願の発明において、安定化材としては、CuまたはAgを用いることが好ましい例として示される。ただし、核融合炉用材料としてのV−Ti基合金超伝導多芯線を製造する場合には、Agは中性子照射による放射化が顕著であるため、Agを用いるのは好ましくない。
【0034】
マトリックス管として用いられる合金を構成する元素としては、上記のとおり、また室温で良好な伸線加工性を有するものであることが好ましく、さらには安定化材と反応しない元素であることが求められる。このような元素としては、たとえばV,Nb,Ta,Feなどを考慮することができるが、Feは超伝導性を劣化させてしまう点で不適切であり、好ましい元素としてはV,Nb,Taなどを例示することができる。なお、核融合炉用材料としてのV−Ti基合金超伝導多芯線を製造する場合には、Nbは中性子照射による放射化が顕著であるため、Nbを用いるのは好ましくない。そしてさらに、この出願の発明においては、これら一次スタック線および二次スタック線を構成する際に用いる合金を構成する元素からなるマトリックス管を、上記の安定化材で被覆して用いることなども考慮することができる。
【0035】
また、この出願の発明においては、予め合金を構成する各元素の素線の間で、さらにはマトリックス管との間で硬さを揃えるか、あるいは硬さの差を小さくしておくことが、引き続き行われる伸線加工をより簡便かつ良好に行うための好ましい態様として例示される。このような素線およびマトリックス管の硬さの調整は、たとえばこれらを適切な温度で真空焼鈍しすることで実現することができる。より具体的には、たとえば、合金を構成する元素Nb,Zr,V,Ta,Tiの素線およびマトリックス管については、それぞれを850℃、900℃、850℃、1000℃、900℃近傍で真空焼鈍しすることで、これらの全ての硬さをより近いものとすることが例示される。
【0036】
まず、この出願の発明では、上記の合金を構成する元素の素線を複数本束ねて合金を構成する元素からなるマトリックス管に挿入し、伸線加工を行う。ここで、各構成元素の素線の割合を調整することで、合金の平均組成を制御することができる。
【0037】
この出願の発明において製造するNb−Zr基合金およびV−Ti基合金の平均組成は、所望の超伝導特性が得られる範囲であれば特に制限されることはないが、磁束線のピン止めを効果的に発生させるには、後で詳しく説明する熱処理工程において合金の各構成元素が拡散反応し、組成の異なるbcc相を生成する範囲内のものとすることが好ましい。すなわち、Nb−Zr基合金およびV−Ti合金が全率固溶bcc相を冷却したときに2つのbcc相への2相分離が生じるような組成範囲である。そのような平均組成とは、N
b−Zr基合金については、一般式NbXZr1-Xにおいて式中Xが0.185〜0.91で表される範囲、もしくはこれにTi,V,Taのいずれか1種以上を合計で20at%以下添加する範囲とすることができる。また、V−Ti基合金については、一般式VXTi1-Xにおいて式中Xが0.19〜0.82で表される範囲、もしくはこれにTa,Zrのいずれか1種以上を合計で20at%以下添加する範囲とすることができる。
【0038】
このような合金の平均組成の調整に際して、マトリックス管内に束ねる素線の総本数が19本よりも少ない場合には、素線1本あたりが占める組成割合が大きくなりすぎ、平均組成の微調整が困難となるため好ましくない。また素線の総本数が1000本程度以上になると、スタック化に手間がかかりすぎてコスト高となってしまうために好ましくない。一般的な合金組成の調整等を考慮すると、マトリックス管内に束ねる素線の総本数は、100〜500本程度、より好ましくは200〜300本程度とすることが適当な範囲として例示される。素線およびマトリックス管の径等の寸法や形状などについては特に制限はないものの、以上のことを考慮して、寸法等を設計することができる。
【0039】
伸線加工について、この出願の発明では難加工性合金多芯線の製造においても合金の構成元素の単体を用いて伸線加工するようにしているため、特別な手法等を必要とすることなく、公知の各種の方法を利用して行うことができる。たとえば、具体的には、線径が5mm程度以上の範囲では溝ロール等を用い、より細い線径の範囲ではカセットローラダイス等を用いて伸線加工するのが簡便な例として示される。伸線加工の加工量は、一次スタック線の製造の段階では特に制限されることはなく、たとえば、線径が約1mmあるいはそれ以下となるように行うことがおおよその目安として例示される。このように伸線加工された素線およびマトリックス管を適切な長さに切断して一次スタック線とする。
【0040】
次いで、この一次スタック線を多数本束ね、合金を構成する元素または安定化材からなるマトリックス管に挿入し、伸線加工して2次スタック線とする。所望の超伝導線材の寸法、用いる素線やマトリックス管の寸法、および一次スタック線の製造における加工率等により異なってくるが、一般的には、この2次スタック線を熱処理の対象とするように伸線加工することが効率的であるといえる。しかしながら、さらにこのスタック線を束ねてマトリックス管に入れて伸線加工する工程を施し、n次スタック線を形成することなども考慮される。
【0041】
伸線加工は、熱処理前の最終的な素線の径が100μm以下、好ましくは10μm以下となるように行うことが好ましい。素線の径を100μm以下とすることで、熱処理工程
において生成される組成の異なる2つのbcc相の大きさを小さくし、磁束線のピン止め中心密度を大きくすることが可能となる。ただし、伸線加工の途中に熱処理を行う場合については、この限りではない。
【0042】
熱処理の工程における熱処理温度および熱処理時間については、合金を構成する元素を拡散反応により合金化させる範囲内で任意に決定することができ、Nb−Zr基合金およびV−Ti基合金については、300〜1100℃の温度範囲で500時間未満の熱処理を行うことが一般的なものとして例示される。さらに、具体的には、たとえば、拡散反応により組成の異なる2つのbcc相を生成させ、本質的に安定化させるために、Nb−Zr基合金の場合は622〜988℃の温度範囲で、V−Ti基合金の場合は675〜850℃の温度範囲で熱処理することが例示される。もちろん、この反応プロセスに限定されること無く、たとえば、一旦全率固溶bcc相を生成させ、その後、上記温度範囲で再熱処理することにより2相分離させるプロセスを採用することなども可能である。一旦全率固溶bcc相を生成させるための熱処理の最高温度は、いずれにしても、全率固溶bcc相の結晶粒の粗大化とそれに伴う2相分離組織の粗大化を抑制するために、1100℃以下とすることが好ましい。また、2相分離させたbcc相からNb−Zr合金の場合はZ
rを、V−Ti合金の場合はTiをそれぞれ効率よく析出させるために、少なくとも熱処理温度は300℃、より好ましくは400℃以上とすることが好ましい。熱処理時間については、結晶粒および組織の粗大化を防ぐために、500時間以内、より好ましくは100時間以内とすることが例示される。さらに、熱処理により任意の組成を有する合金を拡散生成させると同時に、必要に応じて拡散反応を制御し、組織中に未反応物を人工ピン止め中心として残すことも考慮される。
【0043】
以上のような熱処理は、一般的には、最終仕上げ寸法とされた線材、たとえば二次スタック線に対して施すことができるが、伸線加工の途中の線材に対して少なくとも1回の熱処理を施すこともできる。すなわち、たとえば、拡散反応のための熱処理の後に再度加工を加えて、加工組織と多層組織を組み合わせてピン止め点組織の最適化を図ること等が可能である。なお、この出願の発明において、伸線加工の「途中」とは、たとえば、一次スタック線形成のための伸線加工と2次スタック線形成のための伸線加工の間や、これら一連の伸線加工の合間(同時ではなく)を意図するものである。
【0044】
これにより、難加工性超伝導合金からなる多芯線を製造することができる。
【0045】
以上のこの出願の発明では、構成元素の素線の径、熱処理温度および時間等を制御することにより、全率固溶域の単相bcc相を生成することもできれば、2相分離組織や共析組織に対応した組織を直接拡散生成させることも可能である。また、未反応相を適切なサイズおよび分布で線材中に残すことも可能であるから、これらを人工ピン止めとして活用することも可能である。そして、熱処理後に加工してピン止め点組織の最適化を図ることなども可能である。さらに、上記に例示していない多元系合金への適用も、素線の種類を増やすことで、容易に可能とされる。
【0046】
そして何よりも、この出願の発明により、Nb−Zr基合金に関しては、テープ導体ではなく、安定化材を複合した多芯線を製造することが初めて可能とされる。この多芯線は、電磁気的擾乱に対して従来のテープ導体と安定性が著しく向上されることが期待できる。また、既に多芯構造で安定化材が複合されているNb−Ti合金多芯線と比べた場合においても、臨界温度が高いので、伝導冷却マグネットなどへの適用が期待できる。
【0047】
さらには、元素の素線を用いることで、合金化のための溶解鋳造を省略でき、従来法と比べて低コストになることが期待される。
【0048】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この出願の発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
A.材料の硬度について
まず最初は、Nb−Ti基合金多芯線の製造と同様に、伸線加工したNb/Zr単芯複合線を複数本束ね、再び伸線加工を繰り返す方法により、Nb/Zr前駆体多芯線の製造を試みた。すなわち、完全に均一に合金化すると仮定した場合の公称組成がNb−60at%Zrとなるように、外径12.7mm,内径10.3mmのNb管に、直径10.2mmのZr棒を挿入した単芯複合体を、溝ロール、次いでドローベンチによるカセットローラーダイスを用いて伸線加工し、Nb/Zr複合単芯線とした。このNb/Zr複合単芯線は、線径4mmまで
は順調に伸線加工することができたが、加工が進みNb管の径が小さくなるとともに外被Nbが薄くなり、この場合では、線径が4mm以下となったところで外被のNbが破れてし
まった。このような方法では、Nb/Zr前駆体多芯線の製造が困難であることが判明し
た。
【0050】
そこで、この伸線加工時の外皮Nbの破損の原因は、NbとZrの組み合わせにおいて、複合前のNbの硬さに比べてZrの硬さが大幅に大きかったことが原因と考え、複合する前の各材料の硬さの調整を図ることにした。
【0051】
図1はNb,Zrに加えてV,Ta,Tiについて、加工ままおよび真空中で各温度2時間の焼鈍熱処理後の、室温におけるビッカース硬さ(Hv)を示した図である。図1から、Nb,Zr,V,Ta,Tiをそれぞれ850℃,900℃,850℃,1000℃,900℃で各2時間焼鈍しをすることで、それぞれの素線の硬さがほぼ近い値となるよう調整を施した。
【0052】
このような硬さ調整のための熱処理を行ったNbとZrを用い、再度、外径12.7mm,内径10.3mmのNb管に、直径10.2mmのZr棒を挿入した単芯複合体を伸線加工したところ、明らかに複合加工性の改善が認められ、外被を破損させることなく線径が2mmになるまで
伸線加工することができた。しかし、線径を約2mm以下に細くすると外被が裂けてしまい
、伸線加工を続けることはできなかった。これは、Nb/Zr複合単芯体が単芯構造であるため、NbとZrの比を同程度にするとどうしても外被部分が薄くなってしまい、良好な複合加工性が得られないことが原因であると考えられた。
【0053】
B.スタック線の構成について
そこで、上記の伸線加工の失敗について検討し、今度は、上記のようにNbとZrを単芯線として伸線加工する方式は採用せず、最初から多数のNbとZrの成分元素素線を一様に分散させて束ねてTaマトリックス管に挿入したスタック線を伸線加工する方式を採用した。
【0054】
公称組成の調整は、NbとZrの各成分素線の和が241本となるように調整した。すなわち、公称組成(at%、以下略)をNb38Zr62とする場合には、線径が0.82mmのNb78本と線径が0.82mmのZr163本とを一様に分散させて束ね、外径20mm,内径16mmのTa管に挿入して一次スタック線とした。また、公称組成をNb50Zr50とする場合には、同Nbを105本、同Zrを136本一様に分散させた束を同Ta管に挿入して1次スタック線とした。両者とも、線径が20mmから4mmの範囲では溝ロールにより、それより細
い線径ではカセットローラダイスを用いることで、線径0.82mmまで容易に伸線加工を行うことができた。次いで、これらを241本の短尺線に切り出して束ね、再び外径20mm,内径16mmのTa管に挿入し2次スタック線としたところ、やはり線径が0.82mmになるまで無断
線で伸線加工することができた。図2に、0.82mmに加工した(a)Nb38Zr62および(b)Nb50Zr50の1次スタック線の拡大断面像を示した。また、図3に0.82mmに加工した(a)Nb38Zr62および(b)Nb50Zr50の2次スタック線の低倍率および高倍率拡大断面像を示した。
【0055】
以上のように、この出願の発明の方法によると、NbとZrを単芯線とせずに、NbとZrの素線を複数本束ねるようにすることで、多芯線を構成するに十分な細さにまで伸線加工することが可能となる。また、予め各元素の素線の硬さを調整しておくことにより、無破断での伸線加工を容易に可能とすることが可能となる。さらに、1次スタック線において元素素線の本数を調整することにより、最終的な合金組成を容易に調整できるのも利点の一つである。
【0056】
C.合金化
線径が0.82mmのTa/Nb38Zr621次スタック線に対し、合金化のため900℃で2時間の拡散熱処理を施し、その一部断面を図4に示した。純Nb,Nb-rich bcc(β)相,Z
r-rich bcc相,純Zrの混合組織であることが識別できる。線径が0.82mmの2次スタッ
ク線に対して熱処理する場合については、成分元素素線がより微細化されているため同様の熱処理条件であっても1次スタック線の場合よりも拡散反応が十分に進行し、未反応の純Nbおよび純Zrの割合が小さくなり、ほぼNb-rich β相とZr-rich β相の混合組織となっていることが、当然のこととして予想される。
【0057】
未反応の純Nbは、少なくとも1T(テスラ)以上の磁界中では常伝導状態となり、磁場の強さに関係なく初めから常伝導である未反応Zrとともに、両者は磁束線のピン止め中心として作用することが期待できる。また、両者の間に生成するNb-rich bcc相/Z
r-rich bcc相の界面も、同様に、有効な磁束線のピン止め中心として作用することが期
待できる。そこで、たとえば、この一次スタック線の状態で900℃で2時間の熱処理を行えば、図4に示したように、未反応Nbおよび未反応Zrの大きさは約30μm以下となる。この被熱処理一次スタック線を束ねて2次スタック線とし、再度0.82mmまで伸線加工すると、未反応Nbおよび未反応Zrの大きさを数
μmまで縮小・調整することができ、同時にNb-rich bcc相/Zr-rich bcc相の界面密度も増大できるはずである。このようにすることで、人工的に磁束線のピン止め中心を導入することができる。
【0058】
D.超伝導特性について
線径0.82mmのTa/Nb38Zr622次スタック線を、400℃から900℃まで100℃毎の各
温度で2時間保持して合金化のための拡散熱処理を施した。図5に、得られた拡散熱処理試料に30mAの電流を流した際の、4.2Kおよび1.5Kにおける電圧−磁場特性を示した。縦軸は30mAの試料電流を流したときに10mmの電圧タップ間距離に現れる電圧であり、横軸は外部磁場である。磁場が臨界磁場を越えると、超伝導から常伝導に遷移して0Vから有限な電圧が現れる。図中、各拡散熱処理温度につき2つの遷移曲線が示されているが、低磁場側が4.2Kでの、高磁場側が1.5Kでの遷移曲線に相当する。
【0059】
図5から、Nb−Zr合金の2相分離の温度範囲である622〜988℃に含まれる700℃、800℃、900℃で処理を行うと、4.2Kおよび1.5Kでそれぞれ8Tおよび11T以上といった高いBc2が得られるのが確認された。
【0060】
また、合金化のための拡散熱処理時間がTcおよびBc2に及ぼす影響を、線径0.82mmの
Ta/Nb38Zr622次スタック線について熱処理温度を700℃または900℃として調べ、図6(a)〜(d)に整理した。(a)および(c)はそれぞれ700℃および900℃で拡散熱処理した場合の臨界温度特性を、(b)および(d)はそれぞれ4.2Kと1.5Kにおける臨界磁場特性を示している。(c)および(d)より、熱処理温度が900℃の場合は、1時間の熱処理時間でNb−Ti合金より1K以上も高い10.7KのTcが得られることがわか
った。また、処理時間が10時間以上の長時間になるとTcおよびBc2がかえって劣化す
ることがわかった。一方、(a)および(b)より、700℃では熱処理時間が長いほど、
即ち48時間熱処理した場合にTcおよびBc2が最も高いが、さらに長時間熱処理すれば900℃で1時間熱処理した場合と同程度のTcおよびBc2が得られることがわかった。
【0061】
(実施例2)
Nb−Zr合金に第三元素(M:Ti,Ta,V)を添加して、多元系超伝導前駆体多芯線を製造した。公称組成の調整は、たとえば、0.82mmΦのNb,Zr,Mの各元素線を合計241本用いるようにし、各元素が一次スタック線において均一に分散されるようにして調整した。具体的には、Nb50Zr40Ti10の場合については、108本のNb元素線
、112本のZr元素線、21本のTi元素線の計241本を、Nb50Zr4010の場合については、110本のNb元素線、114本のZr元素線、17本のV元素線の計241本を、Nb40Zr4020の場合については、90本のNb元素線、116本のZr元素線、35本のV元素線の計24
1本を用いるようにし、各元素線が均一に分散するように束ねてそれぞれを外径20mm内径16mmのTa管に挿入して一次スタック線とした。
【0062】
この一次スタック線を、実施例1と同様に、0.82mmφまで伸線加工して2次スタック線とし、さらに0.82mmφまで伸線加工したところ、いずれも無断線で容易に加工することができた。得られた3元系合金の構成元素からなる多芯線の断面を、図7,8,9に示した。この前駆体多芯線を熱処理することで容易に難加工性3元系合金の超伝導多芯線をえることができる。従来の溶解鋳造で3元系合金を製造する場合は、2元系合金の場合よりも固溶体硬化、加工硬化がさらに顕著になるため、多芯線の製造が一層困難であったが、この出願の発明の方法では、難加工性の多元系超伝導合金についても多芯線を容易に製造することが可能なことが確認できた。
【0063】
また、多種類の添加元素を用いる場合にも、多種類の成分元素素線をスタック化することにより容易に対応できることが示された。
【0064】
(実施例3)
中性子照射による誘導放射能の半減期が短い元素のみから構成される低誘導放射化超伝導合金材料として、V−Ti合金、およびこれにTaまたはZrを添加した多元系合金が代表的なものとして例示される。そこで、V−Ti2元系合金およびこれにTaを添加した3元系合金超伝導多芯線を製造した。
【0065】
まず、V−Ti合金へのTa添加と公称組成の調整は、V,Ti,Taの各元素線の和が241本になる条件で行い、その素線をTa管に挿入して1次スタック線を作製した。す
なわち、V40Ti60では、0.82mmφのV線を83本、0.82mmφのTi線を158本、またV31
Ti60Ta9では同V線を61本、同Ti線を156本、0.82mmφのTa線を24本用意し、それぞれ外径20mm内径16mmのTaマトリックス管に挿入して室温で0.82mmφまで伸線加工した。次いで、これらを再び同サイズのTa管に241本束ねて挿入し、伸線加工して前駆体多
芯線を製造した。いずれも20mmΦから4mmΦまでは溝ロール、それより細い線径ではカセ
ットローラダイスを用いて、0.82mmΦまで伸線加工を施した。図10,11に得られた各組成の前駆体多芯線の断面写真を示す。
【0066】
このようにして得られた公称組成がV31Ti60Ta9の前駆体線を400℃から900℃まで
の範囲で各2時間の拡散熱処理を施して合金化を行い、その超伝導臨界温度Tcおよび4.2Kと1.8Kでの臨界磁場Bc2を測定して、結果を表1に示した。また、公称組成がV40
Ti60の前駆体線については、700℃で1-48時間の拡散熱処理を施して合金化し、同様の
超伝導特性を測定して表2に示した。なお、TcおよびBc2は、試料電流30mAで4端子
法による電気抵抗の遷移曲線の中点に対応する温度および外部磁界と定義した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
各構成元素の多芯線を拡散熱処理することにより、V31Ti60Ta9とV40Ti60のい
ずれにおいても、構成元素素線間で合金化が生じていることが、これらの合金に特有な超伝導特性が得られていることから明らかである。すなわち、表1および2から、純V(5.44 K)、純Ti(0.4 K)、純Ta(4.47 K)より数Kも高いTcが得られており、V−Ti
基超伝導合金が生成していることが確認された。また、V−Ti基合金はもともとNb−Zr合金と比べてTcが低いので、その分だけ温度を4.2Kから1.8Kまで下げることによるBc2の改善が顕著であり、溶解鋳造で製造したV−Ti基合金と同様の特徴を有
することも判った。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】Nb,Zr,V,Ta,Tiの、加工ままおよび真空中で各温度で2時間の焼鈍熱処理後の、室温におけるビッカース硬さの変化を例示した図である。
【図2】この発明の実施例において作成した径が0.82mmで組成が(a)Nb38Zr62および(b)Nb50Zr50の1次スタック線の拡大断面像を例示した図である。
【図3】この発明の実施例において作成した径が0.82mmで組成が(a)Nb38Zr62および(b)Nb50Zr50の2次スタック線の低倍率および高倍率拡大断面像を例示した図である。
【図4】線径が0.82mmのTa/Nb38Zr621次スタック線に合金化のため900℃で2時間の拡散熱処理を施した場合の断面の組織を例示した図である。
【図5】線径0.82mmのTa/Nb38Zr622次スタック線に400℃から900℃まで100℃毎の各温度で2時間保持して合金化のための拡散熱処理を施した場合の、電圧−磁場特性を例示した図である。
【図6】熱処理温度を700℃または900℃として、拡散熱処理時間が臨界温度特性Tc(a),(c)および臨界磁場特性Bc2(b),(d)に及ぼす影響を例示した図である。
【図7】組成Nb50Zr40Ti10の3元系合金の構成元素からなる0.82mmφの1次および2次スタック線(未熱処理)の断面像を例示した図である。
【図8】組成Nb50Zr4010の3元系合金の構成元素からなる0.82mmφの1次および2次スタック線(未熱処理)の断面像を例示した図である。
【図9】組成Nb40Zr4020の3元系合金の構成元素からなる0.82mmφの1次および2次スタック線(未熱処理)の断面像を例示した図である。
【図10】組成V40Ti60の低誘導放射化超伝導合金の構成元素からなる0.82mmφの1次および2次スタック線(未熱処理)の断面像を例示した図である。
【図11】組成V31Ti60Ta9の3元系合金の構成元素からなる0.82mmφの1次および2次スタック線(未熱処理)の断面像を例示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難加工性合金からなる超伝導多芯線の製造において、少なくとも、
合金を構成する元素の複数本の素線を束ねて、合金を構成する元素からなるマトリックス管に挿入し、伸線加工した後切り出し一次スタック線とする工程と、
一次スタック線を多数本束ねて、合金を構成する元素または安定化材からなるマトリックス管に挿入し、伸線加工して2次スタック線とする工程と、
熱処理により前記合金を構成する元素を合金化させる工程
を含むことを特徴とする難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項2】
合金を構成する元素が、Nb,Zr,V,Ta,Tiのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項3】
予め合金を構成する元素の素線を真空焼鈍しし、素線間の硬さの差を小さくしておくことを特徴とする請求項1または2記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項4】
合金を構成する元素Nb,Zr,V,Ta,Tiの素線を、それぞれ850℃、900℃、850℃、1000℃、900℃で真空焼鈍しすることを特徴とする請求項3記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項5】
一次スタック線における素線の合計本数を、19以上1000以下とすることを特徴とする請求項1ないし4いずれかに記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項6】
熱処理温度を300〜1100℃の範囲とし、熱処理時間を500時間未満とすることを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項7】
熱処理時間を100時間未満とすることを特徴とする請求項6記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項8】
熱処理の工程を、伸線加工の途中で少なくとも1回実施することを特徴とする請求項1ないし7いずれかに記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項9】
熱処理前の素線の直径を、平均値として、100μm以下とすることを特徴とする請求項1ないし8いずれかに記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項10】
熱処理前の素線の直径を、平均値として、10μm以下とすることを特徴とする請求項9記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項11】
合金は、平均組成が一般式NbXZr1-X(式中、0.185<X<0.91を示す)で表される合金もしくはこれにTi,V,Taのいずれか1種以上を合計で20at%以下添加した合金であることを特徴とする請求項1ないし10いずれかに記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項12】
安定化材として、CuまたはAgを用いることを特徴とする請求項11記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項13】
一次スタック線を構成するマトリックス管として、V,TaまたはNb管を用いることを特徴とする請求項11または12記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項14】
一次スタック線および/または2次スタック線を構成するマトリックス管として、安定
化材で被覆されたV,TaまたはNb管を用いることを特徴とする請求項11ないし13いずれかに記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項15】
熱処理は、少なくとも1回を622℃〜988℃の範囲で行うことを特徴とする請求項11ないし14いずれかに記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項16】
合金は、平均組成が一般式VXTi1-X(式中、0.19<X<0.82を示す)で表される合金もしくはこれにTa,Zrのいずれか1種以上を合計で20at%以下添加した合金であることを特徴とする請求項1ないし10いずれかに記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項17】
安定化材として、Cuを用いることを特徴とする請求項16記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項18】
一次スタック線を構成するマトリックス管として、VまたはTa管を用いることを特徴とする請求項16または17記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項19】
一次スタック線および/または2次スタック線を構成するマトリックス管として、安定化材で被覆されたVまたはTa管を用いることを特徴とする請求項16ないし18いずれかに記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。
【請求項20】
熱処理は、少なくとも1回を675℃〜850℃の範囲で行うことを特徴とする請求項16ないし19いずれかに記載の難加工性超伝導合金多芯線の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−100150(P2006−100150A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285744(P2004−285744)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年4月14日 インターネットアドレス(http://www.csj.or.jp/jcryo/04s/04s_program.html)にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年5月24日 社団法人低温工学協会発行の「第70回 2004年度春季 低温工学・超電導学会講演概要集」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】