説明

難消化性の米穀及び難消化性デンプン

【課題】 アミロースの消化による急激な血糖上昇を更に抑えると共に、高圧処理をすることなくサクサクとした食感を楽しめる新たな難消化性のデンプンを含んだ米穀を提供する。
【解決手段】 野生種のうるち米にN−メチル−N−ニトロソウレア処理などを施し、アミロース合成酵素I(GBSSI)及びアミロペクチン枝作り酵素II(BEIIb)を欠損した突然変異米であるwx/ae米を得る。この米は、アミロースを実質的に含まず、アミロペクチン側鎖のグルコース重合度(DP)のピークが13〜15に位置し、グルコース重合が12以上であるアミロペクチン側鎖が、全アミロペクチン側鎖の65%以上である難消化性デンプン粒を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難消化性の米穀及び難消化性デンプンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糖尿病や高脂血症などいわゆるメタボリック症候群に関心が集まっている。メタボリック症候群の予防対策の一つとして日常の食生活が重要視されている。このために、低カロリー食や摂食後の急激な血糖上昇を抑制した食品、例えば糖吸収抑制効果のある成分を用いた健康食品と称される種々の食品が開発されている。
【0003】
また、食品にはおいしさが重要である。米のおいしさの決め手は物理的な味、換言すればテクスチャーである。テクスチャーはデンプンの構造に依存する。従って、デンプンの構造を詳細に変えることにより食感を変え、よりおいしい食品を創製できる。
【0004】
そうしたところ、特開2006−217813号公報(特許文献1)には、アミロペクチン側鎖の形成に関わるアミロペクチン枝作り酵素IIb(BEIIb)が欠損した突然変異米から得られる米加工品が開示されている。この米加工品は難消化性であり、摂食後の血糖値が抑制される。また、この突然変異米に高圧をかけ急激に除圧した膨化米を用いた米加工品は、サクサクとした良好な食感を有する。
【0005】
この突然変異米に含まれるアミロペクチンは、グルコース重合度が6〜12であるアミロペクチン側鎖がアミロペクチンの有する全アミロペクチン側鎖に対して占める割合が20%以下であり、野生種のそれに比べて少なくなっている。
【0006】
一方、本発明者らは、アミロペクチン枝作り酵素(BEIIb)が欠損した変異米から得られるアミロペクチンについてさらなる解析を行うため、BEIIbのみならずアミロース合成酵素I(GBSSI)をも欠損した突然変異米(wx/ae米)を育成し、その米穀中のアミロペクチンの結晶構造及びアミロペクチンのアミロペクチン側鎖の構成について報告している(非特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特開2006−217813号公報
【非特許文献1】Kubo, A., et al., Journal of Cereal Science (2007), doi:10.1016/j.jcs.2007.08.005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アミロースはアミラーゼによる消化を受けるために、特許文献1に開示された突然変異米を多量に摂取した場合には急激な血糖値の上昇値を招く可能性がある。また、アミロース含量が高い米は、糊化しにくい、粘りが弱い、冷めると老化しやすい傾向が強いと言われている。そして、アミロペクチン枝作り酵素のみを欠損した米からサクサクとした食感を得るためには、特許文献1に記載されたように、高圧を掛ける膨化処理を行う必要があった。
【0009】
このような背景の下、BGSSI及びBEIIbの双方を欠損した米では、米中のアミロペクチンの構造に変化が見られると共にこの米から得られるデンプンも、特許文献1に記載された米由来のデンプンと同じく難消化性のデンプンであることが見いだされ、上記課題が解決されるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の米穀は、アミロースを含まず、アミロペクチン側鎖のグルコース重合度の分布ピークが13〜15に位置するアミロペクチンを含む難消化性の米穀である。
【0011】
また、本発明の難消化性デンプンは、アミロースを含まず、アミロペクチン側鎖のグルコース重合度の分布ピークが13〜15に位置するアミロペクチンからなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の米穀によると、アミロースを含まない米穀でありながら、モチ米とは異なり、サクサクとした良好な食感がある。特に、特許文献1に記載されているような膨化加工をするまでもなく、食感のよい米飯やパンなどの米加工品が得られる。また、α化されたデンプンがβ化デンプンに戻るといういわゆる老化が早いので、製造工程において早期に老化させることにより、保存中に変質する可能性の少ない米加工品が提供される。そして、高温にて糊化が起こるのでより高い温度で加工をすることができ、細菌の繁殖防止にも優れ、衛生的にも優れた米加工品が提供される。
【0013】
また、難消化性であるために、摂食後の血糖上昇作用が緩やかなものとなり、糖尿病患者等いわゆるメタボリック対策に好都合な種々の食品も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の難消化性である米穀は、アミロースを含まず、グルコース重合度(DP)が13〜15であるアミロペクチン側鎖が顕著に多いアミロペクチンを含む難消化性の米穀である。この米穀中のデンプン含有量は水分を含んだ籾殻を除いた玄米質量に対して少なくとも60%以上、良好なものでは約70%以上である。従って、本発明の米穀は水分を除くとそのほとんどが難消化性のアミロペクチンからなり、難消化性の米穀であると言える。この米穀は野生種のうるち米が有するアミロース合成酵素I(GBSSI)及びアミロペクチン側鎖を形成する酵素(BEIIb)を欠損した変異米(wx/ae米)であって、デンプン粒の存在が確認される。この突然変異米は、例えば、うるち米(WT)に対してメチルニトロソウレア(MNU)などの処理を施してGBSSIを欠損させたいわゆるモチ米(wx米)に、再び例えばメチルニトロソウレア(MNU)処理を施して突然変異を起こすことによって得られる(非特許文献1参照)。
【0015】
本発明において米穀とは、うるち米が有するアミロース合成酵素I(GBSSI)及びアミロペクチンの側鎖を合成する酵素(BEIIb)を欠損した稲から収穫された米を意味し、籾の付いた状態のものだけでなく、脱穀した状態のいわゆる玄米はもちろんのこと、それからぬかを取り去った精白米も含む意味で用いられる。
【0016】
本発明において米加工品とは、上記稲から収穫された米穀を原料とした加工品であって、当該米を用いて炊いた米飯、発芽米、かゆ、餅など米をそのまま利用した食品、米を粉砕して得られる米粉はもちろんのこと、その米粉を応用した加工食品、例えば、ビーフンのような麺類、米粉を用いたパン類、あられやおかき、せんべいのような米菓子、ケーキやクッキー等の洋菓子、饅頭等の和菓子など米粉を原材料とした種々の菓子など、米や米粉を原材料として用いた食品すべてを意味する。米穀の使用量は特に制限されるものではなく、前記米加工品の原料として用いられる米又は米粉の全部又はその一部、あるいは加工品の原料として用いられる小麦粉の全部又はその一部、例えば、本来使用される小麦粉10〜80質量%、好ましくは30〜50質量%を、従来の米や米粉、小麦粉に替えて本発明の米穀、米粉を用いて製造することができる。その製造方法も限定されることはなく、対象となる各種食品を製造しうる公知の各種方法が用いられる。
【0017】
本発明における難消化性デンプンは、本発明の米穀を原料として得られたデンプンを意味し、その製造方法は問われず、普通米やとうもろこし等の穀類などを原料として製造する場合と同様な方法で得ることができる。例えば、上記の変異米を粉砕して水に浸漬して沈殿した沈殿物を分取する方法が例示される。
【0018】
本発明における加工食品は、上記の難消化性デンプンを原料とするものであって、例えば、当該デンプンを用いた麺類、パン類、おかきやせんべいなどの米菓子はもちろんのこと、当該デンプンにタンパク質や油脂、甘味料、酸味料などを用いて得られた人工的に調製された栄養補助食品や洋菓子、和菓子など当該デンプンが用いられた各種の食品を意味する。当該デンプンの使用量は特に制限されるものではなく、前記加工食品の原料として用いられるデンプンの全部又はその一部を、従来のデンプンに替えて本発明のデンプンを用いて製造することができる。具体的な使用量は加工食品によって異なるが、加工食品中0.1〜99.9質量%である。
【0019】
アミロースは、デンプンを構成する多糖類の1種であり、グルコースが主としてα−1,4グリコシド結合した直鎖状の高分子を意味する。アミロペクチンもデンプンを構成する多糖類の1種であり、グルコースがα−1,4グリコシド結合した直鎖状の主鎖に、α−1,6グリコシド結合による枝分かれした分岐鎖を有する高分子を意味する。
【0020】
本発明におけるアミロペクチン側鎖はα−1,4グリコシド結合した主鎖から枝分かれした分岐鎖を意味し、種々のグルコース重合度のものから構成される。グルコース重合度(DP:Degree of Polymerization)、つまりアミロペクチン側鎖におけるグルコースの結合数は、イソアミラーゼなど、グルコース鎖の分岐部分を消化する酵素によってデンブン分子を分解した後に、クロマトグラフィーなどの分析装置を用いて分子量の相違でふるい分けることにより求められる。本発明においては、非特許文献1に記載された方法により測定したグルコース重合度が用いられる。具体的に言うと、シュードモナス属の菌から得られたイソアミラーゼによってアミロペクチンを分解し、それを8−アミノ−1,3,6−ピレントリスルホン酸(8-amino-1,3,6-pyrentrisulfonic acid:APTS)でラベルした後キャピラリー電気泳動を行うことにより求められたグルコース重合度が用いられる。
【0021】
本発明の米穀又は難消化性デンプンはアミロースを含まない。ここでアミロースを含まないとの意味は、実質的にアミロースを含まないことを意図する。すなわち、アミロース含量が論理的にゼロであると見なされることを言い、測定結果がゼロであることを意味するものではない。本発明の米穀は、アミロース合成酵素を有していないので、理論的にはゼロのはずであるが、測定方法やその検出限界、コンタミネーションによってアミロースが検出される場合もある。また、アミロース合成酵素I(GBSSI)に対する抗原抗体反応によって、アミロース合成酵素Iの存在が否定されれば、アミロースを実質的に含まないと言える。なお、アミロース合成酵素I(GBSSI)以外にもアミロース合成酵素が検出される場合があるが、アミロースの合成に関与する酵素はBGSSIだけであると考えられており、アミロース合成酵素Iがなければ実質的にアミロースを含まないと言える。
【0022】
従って、本発明の米穀はデンプン成分として実質的にアミロペクチンのみを含む米穀である。また、本発明の難消化性デンプンは実質的にアミロペクチンのみからなるデンプンである。
【0023】
本発明の米穀に含まれるアミロペクチンは、アミロペクチン側鎖のグルコース重合度(DP)の分布ピークが13〜15にある。つまり、アミロペクチン側鎖のグルコース重合度が13〜15、具体的には14前後のアミロペクチン側鎖が最も多く、野生種の稲に比べてグルコース重合度が高いアミロペクチン側鎖が多くなっている。また、当該アミロペクチンは、グルコース重合度が12以上あるグルコース鎖長の長いアミロペクチン側鎖が、アミロペクチン側鎖全体の65%、良好なものでは70%以上を占める(図1参照)。なお、アミロペクチン側鎖全体に対する割合は、重合度が3〜35のアミロペクチン側鎖の総計を100とした場合の割合であって、具体的には実施例に記載の方法により求められる。
【0024】
本発明の米穀及びデンプンは難消化性であるという特徴を有している。つまり、摂食した場合に、急激な血糖上昇が見られるのではなく、摂食後徐々に血糖が上昇する(図9参照)。つまり、糖尿病患者(ヒトのみならず動物も含む)やその予備群である人や動物に対する食材として非常に好ましい特性を有していると言える。
【0025】
本発明の米穀はアミロースを含まないが、アミロースを含むデンプン粒と同様な結晶様構造を有している(図2参照)。つまり、デンプン粒の結晶性は、偏光顕微鏡下で観察した場合に、複屈折性(偏光十字)の存在により判定することができ、図2から分かるように、明瞭な偏光十字の存在が確認される。
【0026】
糊化及び老化はデンプンに見られる特有の現象であり、糊化及び老化はデンプンの粒構造、アミロース、アミロペクチン含量、鎖長分布などによって異なることが知られている。デンプンは、生のデンプン状態のβ−デンプンと、加水及び加温によって膨潤された状態のα−デンプンの2態様を取ることが知られている。糊化はα−デンプンの状態に転化して粘りのある糊状になる現象であり、老化とはα−化したデンプンから水分が抜け、β−デンプンに戻る現象である。
【0027】
本発明の米穀は上記のようにアミロースを含まず、鎖長の長いアミロペクチン側鎖を有しているために、野生米である従来米とは異なり、糊化する際の吸熱ピークが高い温度にシフトし、また、従来米に比べて老化が早まる。つまり、高温状態でしかα化が起こらず、α−デンプンとするためには水を加えて高温にする必要がある。このために、米穀やデンプンを高温にさらすことができ、高温における殺菌処理が可能となる。また、α化されたデンプンは、元のデンプンに戻りやすく、餅やおかき等の加工食品に加工した後短時間で老化が終了する。従って、この米粉等を含有する食品は変化を起し難く、流通段階における品質変化が少なくなる。
【0028】
本発明の米穀は、アミロースを含まない米であり、炊飯した後はモチ米のように粘り気を生じる。また、米穀を用いた加工食品、特に焼き菓子においては、サクサク感やクリスピー感があり、これまでない食感を楽しめる。特に、高温高圧処理を施さなくても、通常の菓子の製造条件と同様の条件で、サクサク感のある米菓を製造できる。
【0029】
もちろん、本発明の米穀はアミロース合成酵素及びアミロペクチンの側鎖を合成する酵素を欠損しているので、アレルゲンとなり得るタンパクが少なく、低アレルギー食の食材としても好適なものである。
【0030】
以下、実施例に基づき本発明についてさらに説明する。もっとも、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
〔試料の作製〕
ジャポニカ米である金南風の受精卵細胞をN−メチル−N−ニトロソウレア(MNU)で処理して変異させたwx変異米EM21(GBSSI欠損株:Satoh and Omura 1979 らの方法による)と、ae変異米EM16(BEIIb欠損株)を交配して、ダブルミュータントwx/ae株であるAMF18株を得た。この株を大阪府立大学内にて栽培し、開花後30日後に変異米(wx/ae変異米)として収穫した。AMF18は、九州大学佐藤光研究室から供与されたものである。また、コントロールとして、野生種(WT)の金南風、wx変異体であるEM21、ae変異米であるEM16を用いた。
【0032】
これらの変異米を脱穀し玄米とした。また、玄米を試験用精米器にて精米し、ぬかを完全に取り去った精白米を得た。その後粉砕して米粉末を得た。また、脱穀した玄米を粉砕して玄米粉を得た。
【0033】
また、各精白米を水に浸漬した後粉砕し、ふるい(140メッシュ)を通し、2%SDS溶液中で攪拌して沈殿を回収して、タンパク質を除去した。タンパク質を除去した沈殿に水を加え、再び沈殿を回収した。この水洗いを5回繰り返して常温で乾燥して、精製デンプンを得た。
【0034】
〔アミロペクチン側鎖の測定〕
アミロペクチン側鎖のグルコース重合度を次の方法にて測定した(非特許文献1参照)。O'Shea とMorellの方法(1996)に順じ、上記で得た精製デンプンをシュードモナス属の菌から得られたイソアミラーゼによってアミロペクチンを分解し、それを8−アミノ1,3,6−ピレントリスルホン酸(8-amino-1,3,6-pyrentrisulfonic acid:APTS)でラベルした。次に、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)によるキャピラリー電気泳動を行った。POP-4ポリマーカラム(36cm長)を用いた。電気泳動は、Genetic Analyzer Buffer(Applied Biosystems社製)を用いて、15kV60分間行った。Gene Scan ソフトウェア(Applied Biosystems社製)を用いてデータが集められ、解析された。各アミロペクチン側鎖のグルコース重合度(DP)の各ピーク値は重合度3〜35の総面積に対するピーク面積比(%)として表された。その結果を図1(a)に示す。また、図1(b)に、変異米(wx/ae変異米とwx変異米)のピーク面積比と野生種のピーク面積比の差をグルコース重合度(DP)ごとに示した。
【0035】
〔デンプン粒の結晶様構造〕
デンプン粒の結晶様構造が調べられた。精製デンプンをヨウ素染色し、偏光顕微鏡及び光学顕微鏡による観察を行った。その顕微鏡写真を図2に示す。
【0036】
〔ウエスタンブロット解析〕
精白米を粉砕し、Laemli(1970)の方法に準じて精白米から抽出したタンパク質をSDS-PAGE法で分離した後、ウエスタンブロット解析を行った。抗体には、抗イネGBSSI抗体及び抗イネBEIIb抗体(両抗体とも秋田県立大学・中村保典教授より供与)を用いた。ホースラディッシュパーオキシダーゼ検出試薬(Biorad社製)を用いて検出を行った。その結果を図3に示す。
【0037】
〔DSCによる熱糊化特性〕
精白米、玄米粉、精製デンプンを用いて糊化特性を調べた。精白米は3粒を1.2倍量(容積比)の水で膨潤させたものを試料とした。また、玄米粉及び精製デンプンは各40mgをそれぞれ水0.16mLに懸濁したものを試料とした。これらの試料について示差走査熱量測定器(Micro DSC VII、Setaram社製)にて測定を行った。測定条件は、20℃(30分保持)→105℃(20分保持)→20℃(10分保持)、昇温/降温速度0.5℃/分である。その結果を図4に示す。
【0038】
〔DSCによる老化特性〕
本発明の精製デンプンを用いて老化特性を調べた。40mgの精製デンプンを水0.16mLに懸濁して試料とした。試料を示差走査熱量測定器(Micro DSC VII、Setaram社製)にて測定を行った。測定条件は、20℃(30分保持)→105℃(20分保持)→5℃(24時間又は72時間保持)、昇温/降温速度0.5℃/分である。その結果を図5に示す。
【0039】
〔RVAによる粘度測定〕
各精製デンプンを用いて粘度測定器(RVA Super3、Newport Scientific社製)による粘度測定を行った。10w/w%の精製デンプン溶液を試料として用いた。RVAとは、デンプンのスラリーを任意の温度条件で加熱、あるいは冷却、あるいは保持させて、測定容器内の羽根に加わるデンプン糊液の抵抗を測定する装置である。測定条件は、35℃(1分保持)→95℃(10分保持)→50℃(1分保持)、昇温/降温速度5℃/分、回転速度160rpmである。その結果を図6に示す。
【0040】
〔消化性試験(in vitro)〕
0.2w/w%となるように精製デンプンの懸濁液を調整し、豚膵臓由来α−アミラーゼ110U(Sigma社製)を添加し、37℃で酵素反応後、経時的に反応液上清に含まれる還元糖の定量を行った。還元糖の定量は、Park and Johnson(1949)らの方法を用いて行った。その結果を図7に示す。また、10w/w%の精製澱粉溶液を100℃で2時間加熱した後4℃で12時間冷却して調整したゲルをホモジナイズし、終濃度が0.2w/w%となるように反応液に加え、精製デンプンの場合と同様にして経時的に還元糖の定量を行った。その結果を図8に示す。
【0041】
〔消化性試験(in vivo)〕
ウイスター系雄ラット(生後8ヶ月 体重219.2〜243.1g)に精製デンプン及びゲルを単回投与し、経時的に血糖値を測定した。精製デンプンは7w/w%の懸濁液とし、体重1kgあたり0.5gの精製デンプン量にあたる容量を胃内ゾンデで投与した。また、ゲルの場合は、10w/w%の懸濁液を100℃で加熱後冷却してゲル状とし、ホモジナイズした後7w/w%の懸濁液とし体重1kgあたり0.5gの精製デンプン量にあたる容量を胃内ゾンデで投与した。血糖値の測定はグルコースパイロット(Aventir Biotech社製)を用いて行った。その結果を図9に示す。
【0042】
〔試験結果〕
図1の結果から、本発明のデンプン中のアミロペクチンは、アミロペクチン側鎖のグルコース重合度のピークは14付近にあり、グルコース重合度が12以上のアミロペクチン側鎖は、全アミロペクチン側鎖の69.1%であり、少なくとも65%以上、ほぼ70%を占める。また、本発明のデンプンでは、グルコース重合度が12以上のアミロペクチン側鎖が多い。実施品である米穀には、図3(a)(b)に示すように、抗GBSSI抗体及び抗BEIIb抗体を用いたウエスタンブロットによれば、GBSSIタンパク及びBEIIbタンパクに対するバンドが見られなかった。また、栄養表示基準に基づいた玄米の分析試験の結果、水分が18.4%に対して、糖質が58.9%であり、乾燥玄米中72.2%以上がデンプンであった。
【0043】
また、精製デンプン(生デンプン)の消化試験(図7参照)やデンプンゲルの消化試験(図8参照)によると、還元糖が徐々に増加することが認められるが、野生種やアミロースがないとされるモチ米(wx株)よりも還元糖の生成が遅れることが見いだされた。そして、マウスによる消化試験による結果(図9参照)では、血糖上昇速度が緩やかで、ピーク時における血糖値も野生株のうるち米(WT)やモチ米(wx株)に比べて低く、吸収速度が非常に緩和であった。これらのことより、本発明のデンプンは難消化性であると判断された。
【0044】
次いで本発明のデンプンの熱糊化特性を調べたところ、野生株のうるち米(WT)やモチ米(wx株)に比べて、糊化吸熱ピークが顕著に高温で検出された(図4参照)。また、RVAによる粘度測定によっても、糊化開始温度が高くなり、また、糊化した際の温度も他の米に比べて高くなった。この結果、高温での処理が可能になると考えられる。
【実施例2】
【0045】
玄米粉を用いてクッキーを焼き、その食感を確かめた。表1に示す2種類のサンプルを作製した。本発明の実施品と比較品とを12名に試食してもらい、実施品と比較品とで食感を対比してもらった。その結果を表2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【実施例3】
【0048】
精白米粉を用いてロールパンを焼き、その食感を確かめた。強力粉に10w/w%、20w/w%、50w/w%の割合で本発明の精白米粉を混ぜたものを粉としてロールパンを焼いた。粉100gに砂糖10g、塩1gを混ぜる。次に牛乳30g、水36g、玉子15gを入れよく混ぜる。手に付かないようにまとまりかけてきたらバター15gを入れ更にこねる。35℃程度の温度で保温して生地が2〜2.5倍に膨らむまで1次発酵させる(ベンチタイム)。次いでガス抜きをし、スケッパーで分割して、再び35℃程度の温度で生地が2〜2.5倍に膨らむまで2次発酵させる(ベンチタイム)。その後、ガス抜きをして、バターロール状に成形して、庫内温度35℃程度のオーブン中で生地を膨らまし、190℃程度の温度で焼き、バターロールを得た。
【0049】
本発明の実施品のうち50%配合量のパンは、サクっとしてもろいパンであった。また味も美味しいものであった。また、2〜3室温に放置した後の食感もほぼ製造時と同様な食感が保たれ、美味しいものであった。一方、10%、20%配合量のパンは、100%小麦粉のパンと同様のやわらかさ、しっとり感があった。味も、100%小麦粉のパンと同様に美味しいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によると、糊化温度が高く老化の早い新しい難消化性のデンプン並びにそれを含む米穀が提供される。このデンプンや米穀を用いることにより、モチのような粘り気、サクサクとした食感のある米加工品が得られる。特に本発明の米穀及びデンプンは難消化性であることより、血糖上昇作用が緩やかであり、いわゆるメタボリック対策に好適な新しい食感のある各種加工食品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)はアミロペクチン側鎖のグルコース重合度の分布を示す図、(b)は各グルコース重合度におけるピーク面積と野生種におけるピーク面積との差を示す図である。
【図2】米穀中のデンプン粒の結晶様構造を示す写真である。(a)は偏光顕微鏡による撮像写真、(b)はフィルター(530nm)をかけた偏光顕微鏡による撮像写真、(c)はヨウ素染色を行った米穀の光学顕微鏡による撮像写真である。(a)(b)(c)はそれぞれ上段から野生種、wx株、wx/ae株を示している。
【図3】米穀(精白米)中のタンパクに対するウエスタンブロット図である。(a)は抗GBSSI抗体を用いた場合、(b)は抗BEIIb抗体を用いた場合を示す。(a)中のSは可溶性タンパク質を、同Gはデンプン結合型タンパク質を示す。
【図4】DSCによる熱糊化特性を示すチャートである。(a)は精白米の熱糊化特性を、(b)は玄米粉の熱糊化特性を、(c)は精製デンプンの熱糊化特性を示す。
【図5】DSCによる老化特性を示すチャートである。
【図6】RVAによる粘度変化を示すチャートである。
【図7】精製デンプンを用いた消化性試験(in vitro)の結果を示すチャートである。
【図8】精製デンプンのゲルを用いた消化性試験(in vitro)の結果を示すチャートである。
【図9】ラットにおける米飯摂取後の血糖変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロースを含まず、アミロペクチン側鎖のグルコース重合度の分布ピークが13〜15に位置するアミロペクチンを含む難消化性である米穀。
【請求項2】
グルコース重合度が12以上であるアミロペクチン側鎖が、全アミロペクチン側鎖の65%以上である請求項1に記載の米穀。
【請求項3】
野生種のうるち米からアミロース合成酵素I(GBSSI)及びアミロペクチン枝作り酵素IIb(BEIIb)を欠損したwx/ae米である請求項1又は2に記載の米穀。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の米穀から得られた米加工品。
【請求項5】
アミロースを含まず、アミロペクチン側鎖のグルコース重合度の分布ピークが13〜15に位置するアミロペクチンからなる難消化性デンプン。
【請求項6】
グルコース重合度が12以上であるアミロペクチン側鎖が、全アミロペクチン側鎖の65%以上である請求項5に記載の難消化性デンプン。
【請求項7】
野生種のうるち米からアミロース合成酵素I(GBSSI)及びアミロペクチン枝作り酵素IIb(BEIIb)を欠損したwx/ae米から得られた請求項5又は6に記載の難消化性デンプン。
【請求項8】
請求項5〜7の何れか1項に記載の難消化性デンプンを原料とした加工食品。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−254265(P2009−254265A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106146(P2008−106146)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(504173600)有限会社 IPE (12)
【Fターム(参考)】