説明

難燃剤、樹脂組成物、及び樹脂成形体

【課題】樹脂への分散性に優れると共に樹脂からの染み出しが抑制された難燃剤を提供する。
【解決手段】スルホン酸基を有する1または複数種の第1の有機化合物の該スルホン酸基と、カチオン成分を有する1または複数種の第2の有機化合物の該カチオン成分と、がイオン結合することにより形成された第1の有機化合物と第2の有機化合物とのイオンコンプレックスを含み、該イオンコンプレックスを形成する1または複数種の第1の有機化合物及び1または複数種の第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が高分子化合物である難燃剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃剤、樹脂組成物及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックス樹脂(以下、単に「樹脂」ということがある)に混合して難燃化する目的に使用される難燃剤としては、従来からハロゲン系化合物、三酸化アンチモン、リン系化合物、水和金属化合物などが使用されている。しかし、上記ハロゲン化合物や三酸化アンチモンは、環境問題から敬遠されつつある。また、リン系化合物は難燃性に優れるが成形時に発泡の原因となる場合がある。また、前記水和金属化合物は、その他の有機系難燃化合物と比較して同等の難燃性を得るために多量の配合量を必要とするため、ポリマー物性を低下させる。このため、より難燃効果の高い非ハロゲン系難燃剤の開発が求められている。
【0003】
非ハロゲン系の難燃剤として、例えば、特許文献1では、スルファミン酸、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、及び硫酸から選ばれる1種以上の無機酸のグアニジン塩、アンモニウム塩、及びI〜III族の金属塩から選ばれる少なくとも1種類の塩と、ポリスチレンスルホン酸系水溶性高分子、及びポリカルボン酸系水溶性高分子などから選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子と、を必須成分として含有する組成物が提案されている。また、特許文献2では、アミノ基含有トリアジン化合物と、硫酸及びスルホン酸から選択された少なくとも1種と、の塩で構成された難燃剤を含む樹脂組成物が提案されている。また、特許文献3では、リン系酸残基が導入されたアクリルアミド系難燃剤が提案され、特許文献4では、含窒素ペルフルオロアルカンスルホン酸誘導体が提案されている。
【特許文献1】特開平10−60447号公報
【特許文献2】特開2007−119645号公報
【特許文献3】特開2007−106803号公報
【特許文献4】特開2006−001839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、樹脂への分散性に優れると共に樹脂からの染み出しが抑制された難燃剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
<1> スルホン酸基を有する1または複数種の第1の有機化合物の該スルホン酸基と、カチオン成分を有する1または複数種の第2の有機化合物の該カチオン成分と、がイオン結合することにより形成された前記第1の有機化合物と前記第2の有機化合物とのイオンコンプレックスを含み、該イオンコンプレックスを形成する1または複数種の前記第1の有機化合物及び1または複数種の前記第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が高分子化合物である難燃剤である。
【0006】
<2> 前記イオンコンプレックスを形成する前記第1の有機化合物の少なくとも1種が硫酸である上記<1>に記載の難燃剤である。
【0007】
<3> 前記第1の有機化合物の内の少なくとも1種が、他の第1の有機化合物のスルホン酸基とイオン結合するカチオン成分を有することを特徴とする上記<1>または上記<2>に記載の難燃剤である。
<4> 前記カチオン成分が窒素を含む構造である上記<1>〜上記<3>の何れか1つに記載の難燃剤である。
【0008】
<5> 1または複数種の前記第1の有機化合物、及び1または複数種の前記第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が分岐を有する上記<1>〜上記<4>の何れか1つに記載の難燃剤である。
<6> 1または複数種の前記第1の有機化合物の少なくとも1種が芳香環を有する上記<1>〜上記<5>の何れか1つに記載の難燃剤である。
【0009】
<7> 前記イオンコンプレックスは、前記第1の有機化合物の少なくとも1種と、前記第2の有機化合物の少なくとも1種と、が2つ以上イオン結合されてなる上記<1>〜上記<6>の何れか1つに記載の難燃剤である。
【0010】
<8> 前記イオンコンプレックスは、水不溶性である上記<1>〜上記<7>の何れか1つに記載の難燃剤である。
<9> 前記イオンコンプレックスは、中性である上記<1>〜上記<8>の何れか1つに記載の難燃剤である。
【0011】
<10> 前記イオンコンプレックスは、架橋構造を有する<1>〜<9>の何れか1つに記載の難燃剤である。
<11> 前記イオンコンプレックスは、前記スルホン酸基と前記カチオン成分とのイオン結合を架橋点として架橋されてなる上記<10>に記載の難燃剤である。
【0012】
<12> 上記<1>〜上記<11>の何れか1つに記載の難燃剤と、樹脂と、を含む樹脂組成物である。
<13> 上記<1>〜上記<11>の何れか1つに記載の難燃剤と、樹脂と、を含む樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、樹脂への分散性に優れると共に樹脂からの染み出しが抑制された難燃剤が提供される、という効果を奏する。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、請求項1に係る発明の効果を確実に得ることができる、という効果を奏する。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、更に樹脂への親和性が向上する、という効果を奏する。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、請求項3に係る発明の効果を確実に得ることができる、という効果を奏する。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、樹脂からの染み出しがより抑制される、という効果を奏する。
【0018】
請求項6に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、樹脂からの染みだしが更に抑制される、という効果を奏する。
【0019】
請求項7に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、難燃性の向上に寄与する部位が高濃度化される、という効果を奏する。
【0020】
請求項8に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、樹脂からの染みだしが更に抑制される、という効果を奏する。
【0021】
請求項9に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、樹脂成型体の成型に用いられる金型汚染が抑制される、という効果を奏する。
【0022】
請求項10に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、樹脂からの染みだしが更に抑制される、という効果を奏する。
【0023】
請求項11に係る発明によれば、より樹脂からの染み出しが更に抑制される、という効果を奏する。
【0024】
請求項12に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、優れた難燃性を有すると共に優れた機械強度を示す組成物が提供される、という効果を奏する。
請求項13に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、優れた難燃性を有すると共に優れた機械強度を示す樹脂成形体が提供される、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一の実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
―難燃剤―
本実施の形態の難燃剤は、スルホン酸基を有する1または複数種の第1の有機化合物の該スルホン酸基と、カチオン成分を有する1または複数種の第2の有機化合物の該カチオン成分と、がイオン結合することにより形成された前記第1の有機化合物と前記第2の有機化合物とのイオンコンプレックスを含み、該イオンコンプレックスを形成する1または複数種の前記第1の有機化合物及び1または複数種の前記第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が高分子化合物である。すなわち、第1の有機化合物は、第2の有機化合物のカチオン成分とイオン結合するスルホン酸基を有しており、第2の有機化合物は、第1の有機化合物のスルホン酸基とイオン結合するカチオン成分を有している。
【0027】
本実施の形態の難燃剤によれば、イオンコンプレックスを構成する1または複数種の第1の有機化合物、及び1または複数種の第2の有機化合物の内の少なくとも1種が高分子化合物であることから、硫酸アンモニウム、硫酸グアニジン、硫酸メラミン、硫酸マグネシウム、等の低分子化合物に比べて、樹脂への親和性が向上すると共に分散性も向上するため、樹脂組成物、樹脂成形体としたときの機械強度の低下が抑制されると考えられる。
【0028】
本実施の形態において「難燃剤」とは、単独では難燃性を示さない、すなわち、UL−94で規定される難燃性がHB未満の樹脂に添加して得られる樹脂組成物の、UL−94で規定される難燃性がHB以上となるものをいう。
なお難燃度(UL規格)は、米国のUNDERWRITERS LABORATORIES INC.社が制定、認可している電気機器に関する安全性の規格であり、UL燃焼試験法による垂直燃焼試験により規定された規格である。難燃性の程度によりV−0、V−1、V−2がありV−0に近づくほど高難燃性材料であることを示している。燃焼時間が10秒以下から30秒以下で燃焼しながら落ちる溶融物がない場合でV−0〜V−1レベル、及び燃焼しながら落下する溶融物のある場合はV−2である。
【0029】
イオンコンプレックスを構成する1または複数種の第1の有機化合物としては、上述のように、少なくともイオンコンプレックスが形成されるときに第2の有機化合物のカチオン成分とイオン結合されるスルホン酸基を有していれば良く、この第1の有機化合物としては、具体的には、硫酸、スルホン酸基を有する置換または無置換の芳香族炭化水素、スルホン酸基を有する置換または無置換の脂肪族炭化水素、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸の重合及び共重合体等が挙げられる。中でも、硫酸、スルホン酸基を有する置換または無置換の芳香族炭化水素、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸の重合及び共重合体が好ましく用いられる。
【0030】
上記スルホン酸基を有する無置換の芳香族炭化水素としては、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ピリジンスルホン酸、及びイソキノリンスルホン酸等が挙げられる。
【0031】
上記スルホン酸基を有する芳香族炭化水素の置換基としては、特に制限さればいが、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、アルコキシル基、アミノ基、アミド基、アリール基、アシル基、ビニル基、アリル基、水酸基、エステル基及びカルボキシル基、ニトロ基、アセチル基、メルカプト基、等が挙げられ、中でも複合化(イオンコンプレックスの構成)のしやすさからアミノ基、水酸基、メルカプト基が好ましく用いられる。なお、これらの置換基の数及び位置は、特に限定されない。
【0032】
また、スルホン酸基を有する無置換の脂肪族炭化水素としては、エタンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、1−ヘプタンスルホン酸、1-オクタンスルホン酸、1−ノナンスルホン酸、1-デカンスルホン酸、1-ウンデカンスルホン酸、等が挙げられる。
【0033】
上記スルホン酸基を有する脂肪族炭化水素の置換基としては、特に制限さればいが、例えば、アミノ基、水酸基、メルカプト基、等が挙げられ、これらの置換基の数及び位置は、特に限定されない。
【0034】
なお、イオンコンプレックスを形成する1または複数種の第1の有機化合物は、芳香環を有する構成であることが好ましい。イオンコンプレックスを形成する少なくとも1種の第1の有機化合物が芳香環を有する構成であると、耐水性、耐加水分解性が向上し、このイオンコンプレックスを含む難燃剤の樹脂からのブリード(染みだし)が抑制されると考えられる。
【0035】
第1の有機化合物が芳香環を有する構成である場合には、具体的には、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、スチレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、や、アミノベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、アミノベンゼンスルホン酸が複合化(イオンコンプレックスの構成)のしやすさ、難燃効果、耐水性の理由から特に好ましい。
【0036】
また、イオンコンプレックスを形成する1または複数種の第1の有機化合物は、上述のように第2の有機化合物のカチオン成分とイオン結合するスルホン酸基を有することが必須であるが、更に、イオンコンプレックスを形成する他の第1の有機化合物のスルホン酸基とイオン結合するカチオン成分を含んだ構成であってもよい。この場合には、第1の有機化合物としては、具体的には、アミノベンゼンスルホン酸、フェニレンジアミンスルホン酸、トルイジンスルホン酸、アミノナフタレンスルホン酸、等が挙げられる。
【0037】
イオンコンプレックスを構成する1または複数種の第2の有機化合物としては、上述のように、少なくともイオンコンプレックスが形成されるときに第1の有機化合物のスルホン酸基とイオン結合されるカチオン成分を有していれば良い。
【0038】
このカチオン成分としては、窒素原子を含む構造であることが好ましい。カチオン成分として窒素原子を含む構造を用いることで、樹脂への親和性が向上することから、樹脂組成物、樹脂成形体の機械強度の向上が図られると考えられる。
【0039】
窒素原子をカチオン成分として含む第2の有機化合物としては、主骨格に窒素を含んだ構成であってもよく、置換基として窒素を含む置換基を有する構成であってもよい。このカチオン成分が窒素を含む置換基である場合には、この置換基(カチオン性基)としては、第1級〜第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基等が挙げられる。
【0040】
カチオン成分としてアミノ基を有する第2の有機化合物としては、具体的には、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミンなどのポリアルキレンイミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノドデカン、ジエチレントリアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン;ジアミノシクロヘキサン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタンなどの脂環族アミン;ジアミノトルエン、ジアミノキシレン、テトラメチルキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ポリアミン;等が挙げられる。これらの中でも、
樹脂組成物、樹脂成形体の機械強度の向上の理由から、ポリアルキレンイミン類が好ましく、ポリエチレンイミンが特に好ましく用いられる。
【0041】
上記イオンコンプレックスを構成する1または複数種の上記第1の有機化合物、及び1または複数種の上記第2の有機化合物の少なくとも1種類は、分岐を有する構成であることが好ましい。分岐を有することで、第1の有機化合物間、第2の有機化合物間、または第1の有機化合物と第2の有機化合物との間が架橋されやすくなり、樹脂組成物、樹脂成形体の機械強度の向上が図られると考えられる。
【0042】
分岐を有する第1の有機化合物としては、具体的には、炭素部位が分岐されていることが好ましく、このような第1の有機化合物としては、置換基を有しているものが好ましくエポキシ基やイソシアネート基、酸クロライド等の活性基を用いて結合分岐されていてもよい。中でも、置換基を有しているものが好適に用いられる。
また、分岐を有する第2の有機化合物としては、具体的には、窒素部位が分岐されていることが好ましく、このような第二の有機化合物としては、3級アミノ基を有しているものが好ましく、ポリエチレンイミンが好適に用いられる。
【0043】
また、上記イオンコンプレックスは、架橋構造を有することがブリード抑制と樹脂組成物、樹脂成形体の機械強度の向上の双方の観点から好ましい。架橋構造を有する第1の有機化合物としては、例えば、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基を有するモノマーとN,N’−メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンなど二つ以上のビニル基を有するモノマーで架橋反応させた架橋重合物などが挙げられる。また、架橋構造を有する第2の有機化合物としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリアリルアミンなどを多官能のエポキシ基やイソシアネート基を有する物質で架橋反応させた架橋重合物などが挙げられる。
【0044】
そして更に、このイオンコンプレックスの架橋構造は、上記スルホン酸基と上記カチオン成分とのイオン結合を架橋点として架橋されてなることが好ましい。上記イオン結合による架橋は、例えば、第1の有機化合物に第2の有機化合物を添加して静電的に結合させることにより行えばよい。
【0045】
さらに、第1の有機化合物のスルホン酸基と、第2の有機化合物のカチオン成分と、は塩を形成した構成であってもよい。この場合には、第1の有機化合物と第2の有機化合物とから形成されたイオンコンプレックスは中性となり、このイオンコンプレックスを含む難燃剤を含む樹脂成形体を形成するとき(成形時)の金型汚染が抑制されると考えられる。
【0046】
このイオンコンプレックスが中性であるか否かは、形成されたイオンコンプレックスを常温(25℃)で水に添加したときに、該イオンコンプレックスを添加する前の水のpHと、該水にイオンコンプレックスを添加した後のpHと、が±1の範囲内で同じであれば、中性であると判別される。
【0047】
ここで、本実施の形態の難燃剤に含まれるイオンコンプレックスは、第1の有機化合物のスルホン酸基と、第2の有機化合物のカチオン成分とのイオン結合により形成されている。第1の有機化合物がスルホン酸基を含み、且つ第2の有機化合物のカチオン成分が窒素を含む構造であると、溶解温度が低くなり常温でも溶融する塩(所謂、常温溶融塩)が得られる。このため、広い温度範囲で蒸気圧が低く、揮発性がほとんどなく、高温まで液体状態を保持することから、樹脂に対する可塑効果が発現し、樹脂組成物、樹脂成形体の機械強度の低下が抑制される。
【0048】
また、一般的に、スルホン酸基、アミノ基等の極性基を有する化合物は親水性を示すが、本実施の形態における難燃剤に含まれるイオンコンプレックスは、第1の有機化合物と第2の有機化合物との内の少なくとも1種が高分子化合物であり、且つスルホン酸基とカチオン成分とがイオン結合により会合しているため、水不溶性を示すといえる。
【0049】
なお、本実施の形態において「水不溶性」とは、1wt%水分散液(20℃)を作製し、1時間攪拌した後に、白濁した状態、二層に分離した状態、沈殿物が分散している状態のいずれかことを示しており、目視で判断される。
【0050】
イオンコンプレックスが水不溶性であることで、高温高湿状態での難燃剤の樹脂からのブリード(染みだし)がより抑制されると考えられる。
【0051】
上述のように、本実施の形態の難燃剤に含まれるイオンコンプレックスを形成する1または複数種の第1の有機化合物、及び1または複数種類の第2の有機化合物の内の少なくとも1種は、高分子化合物である。この高分子化合物の重量平均分子量は、1000〜100万が好ましく、5000〜50万がより好ましく、1万〜10万が更に好ましい。
【0052】
また、本実施の形態の難燃剤に含まれるイオンコンプレックスは、第1の有機化合物のスルホン酸基と、第2の有機化合物のカチオン成分とが適度な割合でイオン結合していることが、耐水性、分散性、ブリード(染みだし)、金型汚染性等の点から好ましい。具体的には、全てのスルホン酸基はカチオン成分とイオン結合していることが好ましい。
【0053】
本実施の形態の難燃剤に含まれるイオンコンプレックスを形成する1または複数種類の第1の有機化合物、及び1または複数種の第2の有機化合物としては、上記の中から単独もしくは2つ以上選択して用いればよい。
【0054】
なお、このイオンコンプレックスとしては、上述のように、第1の有機化合物のスルホン酸基と第2の有機化合物のカチオン成分とがイオン結合することで形成されればよいが、好ましくは、第1の有機化合物の少なくとも1種と、第2の有機化合物の少なくとも1種と、が2つ以上イオン結合されてなることが好ましい。このような構成とされることで、同じイオン結合で構成できるため分解温度の制御が容易であり、難燃性の向上に寄与する部位の高濃度化が達成されることから、樹脂組成物、樹脂成形体の難燃性の更なる向上が図られると考えられる。
【0055】
第1の有機化合物に、第2の有機化合物と第1の有機化合物とが2つ以上イオン結合された形態のイオンコンプレックスの一例としては、第1の有機化合物と、第2の有機化合物が交互に2つ以上直接イオン結合された構成であってもよいし、第1の有機化合物と、第2の有機化合物と、がカチオン成分とスルホン酸基の双方を有する第1の有機化合物を介してイオン結合された構成であってもよい。
【0056】
例えば、イオンコンプレックスとしては、高分子化合物である第2の有機化合物と、複数種類の低分子化合物として、スルホン酸基とカチオン成分との双方を有する第1の有機化合物、スルホン酸基を有する第1の有機化合物、及びカチオン成分を有する第2の有機化合物と、を含む形態が挙げられる。
【0057】
この形態において、上記高分子化合物である第2の有機化合物としては、上述のようにイオンコンプレックスの形成時にイオン結合されるカチオン成分を有する高分子化合物であればよく、例えば、主骨格に窒素原子を有する高分子化合物、窒素を含む置換基を有する高分子化合物等が挙げられる。この高分子化合物である第2の有機化合物としては、具体的には、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリアリルアミンやその共重合体等が挙げられる。これらの中でも、主骨格に窒素を含む高分子化合物であるポリエチレンイミンが特に好ましい。
【0058】
また、この形態のイオンコンプレックスに含まれる複数種類の低分子化合物としての、上記スルホン酸基とカチオン成分との双方を有する第1の有機化合物としては、例えば、スルホン酸基と、窒素原子と、を含む低分子化合物が挙げられる。このスルホン酸基とカチオン成分との双方を有する低分子化合物である第1の有機化合物としては、具体的には、アミノベンゼンスルホン酸、フェニレンジアミンスルホン酸、トルイジンスルホン酸、アミノナフタレンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも アミノベンゼンスルホン酸が特に好ましい。
【0059】
また、この形態のイオンコンプレックスに含まれる複数種類の低分子化合物としての、上記スルホン酸基を有する第1の有機化合物としては、硫酸、ナフタレンジスルホン酸、アニリンジスルホン酸、エタンジスルホン酸、プロパンジスルホン酸等が挙げられるが、硫酸を用いることが特に好ましい。
【0060】
さらに、この形態のイオンコンプレックスに含まれる複数種類の低分子化合物としての、上記カチオン成分を有する第2の有機化合物としては、窒素原子を含む化合物が挙げられる。具体的には、アミルアミン、アミノペンタン、ヘキシルアミン、メチルブチルアミン、オクチルアミン、アミノベンゼン、ナフチルアミン、アミノフェノール、ジメチルアニリン等が挙げられる。これらの中でも、オクチルアミンが特に好ましい。
【0061】
上記高分子化合物である第2の有機化合物と、複数種類の低分子化合物として、スルホン酸基とカチオン成分との双方を有する第1の有機化合物、スルホン酸基を有する第1の有機化合物、及び第2の有機化合物と、を含む形態のイオンコンプレックスは、高分子化合物である第2の有機化合物のカチオン成分と、スルホン酸基とカチオン成分との双方を有する第1の有機化合物(低分子化合物)のスルホン酸基と、がイオン結合し、該第1の有機化合物(低分子化合物)のカチオン成分と、スルホン酸基を有する第1の有機化合物(低分子化合物)である例えば硫酸と、がイオン結合し、さらにこの硫酸と、カチオン成分を有する第2の有機化合物(低分子化合物)と、がイオン結合した形態が挙げられる。
すなわち、主骨格に窒素原子を含む高分子化合物である第2の有機化合物に、低分子化合物であるアミノベンゼンスルホン酸(第1の有機化合物)、硫酸(第1の有機化合物)、及びオクチルアミン(第2の有機化合物)がイオン結合した形態のイオンコンプレックスが特に好ましい形態としてあげられる。
このように、イオンコンプレックスとしては、スルホン酸基とカチオン成分とのイオン結合が複数連続した構成であると、同じイオン結合で構成できるため分解温度の制御が容易であり、難燃性の向上に寄与する部位の高濃度化が達成されることから樹脂組成物、樹脂成形体の難燃性の更なる向上が図られる点で好ましい。
【0062】
また、例えば、イオンコンプレックスとしては、高分子化合物である第1の有機化合物と、複数種類の低分子化合物として、複数のカチオン成分を有する第2の有機化合物、及びスルホン酸基を有する第1の有機化合物と、を含む形態が挙げられる。
【0063】
この形態において、上記高分子化合物である第1の有機化合物としては、上述のようにイオンコンプレックスの形成時にイオン結合されるスルホン酸基を有する高分子化合物であればよく、例えば、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸の重合及び共重合体、スチレンスルホン酸の重合及び共重合体等が挙げられる。
【0064】
また、この形態のイオンコンプレックスに含まれる複数種類の低分子化合物としての、複数のカチオン成分を有する第2の有機化合物としては、例えば、窒素原子を含む低分子化合物が挙げられる。このカチオン成分を有する低分子化合物である第2の有機化合物としては、具体的には、p−ジアミノベンゼン、トリアミノベンゼン、ジエチレントリアミン、ジアミノトルエン、アミドール、ジアミノナフタレン、ジアミノヘキサン、ジアミノオクタン、ジアミノヘプタン、シクロヘキサンジアミニン等が挙げられる。これらの中でも 芳香族系のカチオン成分を有する低分子化合物が特に好ましい。
【0065】
また、この形態のイオンコンプレックスに含まれる複数種類の低分子化合物としての、上記スルホン酸基を有する第1の有機化合物としては、硫酸、ナフタレンジスルホン酸、アニリンジスルホン酸、エタンジスルホン酸、プロパンジスルホン酸等が挙げられるが、硫酸を用いることが特に好ましい。
【0066】
さらに、この形態のイオンコンプレックスに含まれる複数種類の低分子化合物としての、上記カチオン成分を有する第2の有機化合物としては、窒素原子を含む化合物が挙げられる。具体的には、アミルアミン、アミノペンタン、ヘキシルアミン、メチルブチルアミン、オクチルアミン、アミノベンゼン、ナフチルアミン、アミノフェノール、ジメチルアニリン等が挙げられる。これらの中でも、オクチルアミンが特に好ましい。
【0067】
上記高分子化合物である第1の有機化合物と、複数種類の低分子化合物として、複数のカチオン成分を有する第2の有機化合物、及びスルホン酸基を有する第1の有機化合物と、を含む形態のイオンコンプレックスは、高分子化合物である第1の有機化合物のスルホン酸基と、複数のカチオン成分との双方を有する第2の有機化合物(低分子化合物)の一方のカチオン成分と、がイオン結合し、他方のカチオン成分と、スルホン酸基を有する第1の有機化合物(低分子化合物)と、がイオン結合した形態が挙げられる。
すなわち、置換基としてスルホン酸基を有する高分子化合物である第1の有機化合物に、低分子化合物であるジアミノベンゼン(第2の有機化合物)、及びベンゼンスルホン酸(第1の有機化合物)がイオン結合した形態のイオンコンプレックスが特に好ましい形態としてあげられる。
このように、イオンコンプレックスとしては、スルホン酸基とカチオン成分とのイオン結合が複数連続した構成であることが同じイオン結合で構成できるため分解温度の制御が容易であり、難燃性の向上に寄与する部位の高濃度化が達成されることから、樹脂組成物、樹脂成形体の難燃性の更なる向上が図れるため好ましい。
【0068】
<樹脂組成物>
本実施の形態の樹脂組成物には、上記難燃剤と、樹脂(以下、「その他の樹脂」と称する)が含有されている。
【0069】
その他の樹脂としては、特に制限されないが、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、メチルペンテン、熱可塑性加硫エラストマー、熱可塑性ポリウレタン、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、シリコーン、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラー
ル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリサルフォン、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリプロピレン、ポリフタルアミド、ポリオキシメチレン、ポリメチルペンテン、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリロニトリル、ポリメトキシアセタール、ポリイソブチレン、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブタジエンスチレン、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリ−n−ブチルメタクリレート、ポリベンゾイミダゾール、ポリブタジエンアクリルニトリル、ポリブテン−1、ポリアリルスルホン、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、熱可塑性ポリエステルアルキド樹脂、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリアクリル酸、ポリアミド、天然ゴム、ニトリルゴム、メチルメタクリレートブタジエンスチレン共重合体、ポリエチレン、イソプレンゴム、アイオノマー、ブチルゴム、フラン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、プロピオン酸セルロース、ヒドリンゴム、カルボキシメチルセルロース、クレゾール樹脂、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテート、ビスマレイミドトリアジン、シス1・4ポリブタジエン合成ゴム、アクリロニトリルスチレンアクリレート、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体、アクリル酸エステルゴム、ポリ乳酸等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0070】
本実施形態に係る樹脂組成物において、上記難燃剤の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、1質量部以上80質量部以下であることが好ましく、5質量部以上50質量部以下であることが更に好ましい。樹脂組成物に含まれる難燃剤の含有量が上記範囲内であると、難燃性が十分で且つ樹脂組成物の成形体の良好な機械的強度も得られる。
【0071】
また、樹脂組成物において、上記その他の樹脂の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、20質量部以上99質量部以下であることが好ましく、50質量部以上95質量部以下であることが更に好ましい。樹脂組成物に含まれるその他の樹脂の含有量が上記範囲内であると、樹脂組成物に含まれるイオンコンプレックスの含有量が上記範囲内であると、難燃性が十分で且つ樹脂組成物の成形体の良好な機械的強度も得られる。
【0072】
なお、樹脂組成物には、上記難燃剤の他に、上記難燃剤以外の難燃剤(以下、「その他の難燃剤」と称する。)を含むことも可能である。その他の難燃剤は、上記難燃剤よりも少ない含有量で上記その他の樹脂に含有される。従って、その他の難燃剤のみ含有する樹脂組成物は、当然本実施形態の範囲外である。
この「その他の難燃剤」としては、例えば、リン系難燃剤、臭素系難燃剤が挙げられる。
【0073】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、強化剤、相溶化剤、耐候剤、強化剤、加水分解防止剤等の添加剤、触媒などをさらに含有してもよい。これらの添加剤及び触媒の含有量は、樹脂組成物の固形分全量を基準として、それぞれ5質量%以下であることが好ましい。
【0074】
<樹脂成形体>
本実施の形態の樹脂成形体は、上述した樹脂組成物を成形してなるものである。
この樹脂成形体は、例えば、上述した樹脂組成物を、射出成形、射出圧縮成形、プレス成形、押出成形、ブロー成形、カレンダ成形、コーテイング成形、キャスト成形、ディッピング成形等の公知の方法により成形することで得られる。
【0075】
本実施の形態の樹脂成形品体を得るための成形機としては、プレス成形機、インジェクション成形機、モールド成形機、ブロー成形機、押出成形機、及び紡糸成形機のうちから選択される1以上の成形機が用いられる。したがって、これらの1つにより成形を行ってもよいし、1つの成形機により成形を行った後、他の成形機により続けて成形を行ってもよい。
【0076】
成形された樹脂成形体の形状は、シート状、棒状、糸状など特に限定されるものではない。また、その大きさも制限されるものではない。
【0077】
本実施の形態の樹脂成形体は、例えば、家電製品や事務機器などの筐体又はそれらの各種部品、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材等に適用される。
【0078】
この樹脂成形体は、UL−94試験による難燃性がHB以上であることが好ましい。このような特性を有する樹脂成形体は、上記説明した樹脂組成物を成形することで得られる。
【0079】
ここで、図1は、本実施形態に係る樹脂成形体を用いて構成された筐体及び事務機器部品を備える画像形成装置の一例を示す図であり、画像形成装置を前側から見た外観斜視図である。図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作できるよう開閉可能となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりすることができる。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0080】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、及び、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を自動的に搬送することができる自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置及び制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱可能なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって行われる。
【0081】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーを補充される。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0082】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部近傍に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙トレイ136が備えられており、必要に応じてここからも用紙が供給される。
【0083】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に当接する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙トレイ136が設けられている側と反対側に排出トレイ138が複数備えられており、これらのトレイに画像形成後の用紙が排出される。
【0084】
画像形成装置100において、フロントカバー120a,120bは、開閉時の応力及び衝撃、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。また、プロセスカートリッジ142は、着脱の衝撃、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。また、筐体150及び筐体152は、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。そのため、本実施形態に係る樹脂成形体は、画像形成装置100のフロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、及び筐体152として用いられるのが好適である。
【実施例】
【0085】
以下、本発明について実施例により具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
―イオンコンプレックスの調整―
硫酸(第1の有機化合物)264.5gとオクチルアミン(第2の有機化合物)348.1gを3Lの水中で混合し調整液Aを調整した。また、純正化学製のポリエチレンイミンP−1000(第2の有機化合物)の30wt%水溶液500g7Lの水中に入れ、これにアミノベンゼンスルホン酸(第1の有機化合物)を467.6g添加し調製液Bを調整した。次に上記調製液Bに、上記調製液Aを滴下して反応を行った。添加が進むにつれ白色沈殿が生成した。
【0087】
次に、このスラリーを一定時間(24時間)静置して上澄み液を廃棄する所謂、デカンテーション法により沈殿物を回収し蒸留水で洗浄し、メタノール洗浄を行い水不溶の目的物(イオンコンプレックス)を得た。
【0088】
なお、目的物(イオンコンプレックス)の確認はIR測定により行った。具体的には、FT−IR装置(堀場製作所製、FT−IR/フーリエ変換赤外分光光度計 FT−730)を用い、下記構成単位ごとの測定結果と対比させ、スルホン酸基とアミノ基に由来するピークを確認し、目的とする反応が進行していることを確かめた。
【0089】
・スルホン、スルホンアミドに由来するスペクトル:1110〜1190cm−1、1300〜1370cm−1
・スルホン酸に由来するスペクトル:1040〜1090cm−1、1150〜1270cm−1
・アミノ基に由来するスペクトル:3200〜3500cm−1、800〜850cm−1
【0090】
また、目的物(イオンコンプレックス)の炭素、窒素、硫黄の元素分析を行いその比を求め上記IR分析結果と合わせて目的物(イオンコンプレックス)が得られたことの確認を行った。
【0091】
―樹脂組成物及び樹脂成形体の作製―
上記調整したイオンコンプレックス25質量部を、100質量部のABS樹脂(商品名:AT−05、日本A&L社製)に添加し、二軸押出し機を用いて180℃で溶融混合して樹脂組成物を作製した後、この樹脂組成物を200℃でプレスにより溶融成形し、樹脂成形体(UL−94燃焼試験用試験片:幅13mm、長さ125mm、厚さ2.0mm)を作製した。
【0092】
作製した樹脂組成物及び燃焼試験用試験片について、下記評価を行った。評価結果は、表1に示した。
【0093】
<残存率の測定>
作製した樹脂組成物の熱重量分析(TGA)を下記のように行った。すなわち、セイコー社製TGA−DTA2000S(商品名)を用いて、窒素気流下、20℃/minの昇温速度で室温から600℃まで昇温し、600℃における残存率を測定した。
【0094】
<分散性評価>
作製した樹脂組成物中におけるイオンコンプレックスの分散性を評価した。
分散性の評価方法としては、作製した樹脂組成物を200℃でプレスして厚み500μmのフィルムを作製し、顕微鏡による観察を行った。
【0095】
−分散性の評価基準−
・G1:分散性評価結果が均一に分散しており、分散性良好。
・G2:分散性評価結果が凝集は確認されないが難燃剤が粒子状に確認でき不均一に分散している。
・G3:分散性評価結果が凝集部分多数確認され不均一に分散しており、分散性不良。
【0096】
<ブリード評価>
作製した燃焼試験用試験片を温度60℃、相対湿度85%で400時間放置し、以下の基準によりブリード評価を行った。
【0097】
―ブリード評価基準―
・G1:樹脂表面上に、特に変質、変色等は認められない。
・G2:樹脂表面上に、特に変質、変色等が目視で観察された。
・G3:樹脂表面がベトツキ内部から難燃剤が染みだした(ブリードした)状態が目視で観察された。
【0098】
<機械的強度(シャルピー耐衝撃強度)の評価>
燃焼試験用試験片について、JIS K7111に従ってシャルピー衝撃強さの測定を行った。
【0099】
―機械的強度評価基準―
・G1:シャルピー衝撃強さ測定結果が7kJ/m以上である場合。
・G2:シャルピー衝撃強さ測定結果が5kJ/m以上7kJ/m未満である場合。
・G3:シャルピー衝撃強さ測定結果が5kJ/m以下である場合。
【0100】
<難燃性の評価>
燃焼試験用試験片を用いて、UL−94の垂直燃焼試験を行い、UL−94規格の判定基準に従って、HB、V−0、V−1、V−2及び燃焼の5つのランクで判定した。なお、測定した結果、延焼してしまった場合には、「NG」と判定した。その結果を表2に示す。
【0101】
<金型汚染評価>
樹脂組成物温度を250℃、金型温度を30℃として、射出機からダンベル金型内へ射出成形し、樹脂が充填されなかった残りの空間に付着した樹脂組成物を肉眼で観察した。なお、上記射出成形の条件はショートショットとなる条件であり、ショートショットとは、射出成形において一部が欠けて不完全な形状の成形品を生ずる現象を意味する。
【0102】
―金型汚染評価基準―
・G1:500回成形後金型に変化なしである場合。
・G2:500回成形後金型表面に変色部位が観察された場合。
・G3:100回成形後金型に付着物が観察された場合。
【0103】
[実施例2]〜[実施例9]
実施例1で調整したイオンコンプレックスの組成を、表1に示す組成に変更した以外は実施例1と同様にしてイオンコンプレックス、樹脂組成物、及び樹脂成形体を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0104】
[比較例1]〜[比較例10]
実施例1で調整したイオンコンプレックスの組成を、表2に示す組成に変更した以外は実施例1と同様にして比較化合物、比較樹脂組成物、及び比較樹脂成形体を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0105】
【表1】



【0106】
【表2】



【0107】
表1及び表2に示すように、スルホン酸基を有する1または複数種の第1の有機化合物と、カチオン成分を有する1または複数種類の第2の有機化合物と、のイオンコンプレックスであり、且つ第1の有機化合物と第2の有機化合物の少なくとも一方が高分子化合物である実施例1〜実施例9で調整した樹脂組成物及び樹脂成形体は、比較例で調整した比較樹脂組成物及び比較樹脂成形体に比べて、分散性、ブリード、機械強度、難燃性、燃焼時間、及び金型汚染の全ての評価項目について、良好な結果が得られた。すなわち、分散性にすぐれ、ブリードが抑制され、機械強度が高く、難燃性に優れ、且つ金型汚染が抑制されているといえる。
【0108】
また、実施例8及び実施例9に示す、難燃剤として一般的に用いられているハロゲン化合物やリン化合物を含む場合に比べて、これらの難燃剤を含まない実施例1〜実施例7で調整した樹脂組成物及び樹脂成形体においても、何れも難燃性及び機械強度の双方において良好な結果が得られていることが分かる。このことから、ハロゲン化合物やリン化合物を含まない場合であっても、機械強度が高く且つ難燃性に優れた樹脂組成物及び樹脂成形体が得られているといえる。
【0109】
さらに、比較例5〜比較例8に示すように、スルホン酸基を有する第1の有機化合物と、カチオン成分を有する第2の有機化合物と、の全てを低分子化合物で構成した場合には、機械的強度が低下するという結果が得られており、このことから、実施例1〜実施例9で調整した樹脂組成物及び樹脂成形体は、イオンコンプレックスを構成する1または複数種の第1の有機化合物、及び1または複数種の第2の有機化合物の内の少なくとも1種が高分子化合物であることから、樹脂への親和性が向上すると共に分散性も向上するため、樹脂組成物及び樹脂成形体としたときの機械強度の低下が抑制されているといえる。
【0110】
また、本実施例1〜実施例7に示されるように、分散性、ブリード、シャルピー、難燃性、金型汚染の全てにおいて、難燃剤として一般的に用いられている臭素系難燃剤(比較例9)及びリン系難燃剤(比較例10)と同等の評価結果が得られており、本願における難燃剤は、これらの代変品としても使用可能である。また、実施例8〜実施例9に示されるように、本願の難燃剤と、臭素系難燃剤またはリン系難燃剤を混合して利用した場合であっても、良好な評価結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本実施の形態に係る樹脂成形体を用いて構成された筐体及び事務機器部品を備えた画像形成装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0112】
120a、120b フロントカバー
150、152 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する1または複数種の第1の有機化合物の該スルホン酸基と、カチオン成分を有する1または複数種の第2の有機化合物の該カチオン成分と、がイオン結合することにより形成された前記第1の有機化合物と前記第2の有機化合物とのイオンコンプレックスを含み、該イオンコンプレックスを形成する1または複数種の前記第1の有機化合物及び1または複数種の前記第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が高分子化合物である難燃剤。
【請求項2】
前記イオンコンプレックスを形成する前記第1の有機化合物の少なくとも1種が硫酸である請求項1に記載の難燃剤。
【請求項3】
前記第1の有機化合物の内の少なくとも1種が、他の第1の有機化合物のスルホン酸基とイオン結合するカチオン成分を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の難燃剤。
【請求項4】
前記カチオン成分が窒素を含む構造である請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の難燃剤。
【請求項5】
1または複数種の前記第1の有機化合物、及び1または複数種の前記第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が分岐を有する請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の難燃剤。
【請求項6】
1または複数種の前記第1の有機化合物の少なくとも1種が芳香環を有する請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の難燃剤。
【請求項7】
前記イオンコンプレックスは、前記第1の有機化合物の少なくとも1種と、前記第2の有機化合物の少なくとも1種と、が2つ以上イオン結合されてなる請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の難燃剤。
【請求項8】
前記イオンコンプレックスは、水不溶性である請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の難燃剤。
【請求項9】
前記イオンコンプレックスは、中性である請求項1〜請求項8の何れか1項に記載の難燃剤。
【請求項10】
前記イオンコンプレックスは、架橋構造を有する請求項1〜請求項9の何れか1項に記載の難燃剤。
【請求項11】
前記イオンコンプレックスは、前記スルホン酸基と前記カチオン成分とのイオン結合を架橋点として架橋されてなる請求項10に記載の難燃剤。
【請求項12】
請求項1〜請求項11の何れか1項に記載の難燃剤と、樹脂と、を含む樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1〜請求項11の何れか1項に記載の難燃剤と、樹脂と、を含む樹脂成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−263429(P2009−263429A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111738(P2008−111738)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】