説明

難燃剤としてのベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステル化合物

ベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステルは、ベンゾイルレゾルシノール化合物のクロロリン酸との反応により得られる。ベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステルは、ポリカーボネート(PC)、ポリ(フェニレンオキシド)(PPO)、ポリエステル(例えばPET及びPBT)、ポリカーボネート及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンター ポリマー(PC/ABS)ブレンド、ポリ(フェニレンオキシド)及び耐衝撃性ポリスチレン(PPO/HIPS)ブレンド並びに他のポリマーのための、難燃剤及び/又はUV安定剤として機能することができる。ベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステル難燃剤は、レゾルシノールを基材とするリン酸エステル(RDP)と比べ、増強された熱安定性を有し得る。ベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステル化合物の合成法及び用途が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、リン酸エステル化合物を含有する難燃剤、それらの合成法及び用途、特にポリマー含有する組成物又は製品中の難燃剤としてのそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
プラスチック、エラストマー及び熱硬化性樹脂のようなポリマーは、壁、天井、家具、床仕上材、布地、電子回路、車両及び電気製品などの広範な用途において大量に使用されている。ほとんどのポリマーは可燃性であるので、これらの各用途において耐火性(fire safety)は重要である。一般にポリマーの耐火性は、その中への難燃剤の混入により向上することができる。難燃剤は、材料の火災及び熱に耐える能力又は燃焼に抵抗する能力を改善するために材料に添加された化合物からなる。難燃剤は、火災危険のリスクを低下するよう様々な方法で機能することができる。ひとつの方法において、これらは、発火温度を上昇することができる。別の方法において、これらは、燃焼率、火炎拡散、又は有毒ガス及び煙の発生を減少することができる。リン系難燃剤は、ポリマーの易燃性を低下し、かる有毒ガス及び煙の発生を減少することができる。
【0003】
アルミナ三水和物、水酸化マグネシウム、ハロゲン化された化合物(例えば、塩素化、フッ素化及び臭素化された化合物)、リン化合物(例えば、リン酸エステル)、酸化アンチモン、メラミン誘導体、並びにホウ酸及び他のホウ素化合物を含む、多くの様々な種類の難燃剤が存在する。2003年に世界中で販売された難燃剤は、23.5億ポンド(10.7億kg)に達した。世界中での難燃剤の販売は、2008年には28.2億ポンド(12.8億kg)に増大すると予測されている。全ての難燃剤の中で、ふたつの非常に一般的な種類は、リン系難燃剤及びハロゲン系難燃剤である。ハロゲン系難燃剤をめぐる環境及び健康の懸念のために、欧州の多くの国は、いくつかの特定のハロゲン系難燃剤の禁止を検討している。従って、ハロゲン系難燃剤の使用を抑制しかつリン系難燃剤のような他の難燃剤に移行する傾向がある。現在市販されているリン系難燃剤のいくつかの例は、リン酸エステル型難燃剤、例えばレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(RDP)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、モノマー芳香族リン酸エステル化合物(例えばリン酸トリフェニル及びリン酸トリクレジル)などを含む。一般に、レゾルシノールを基材とするリン酸エステル難燃剤、例えばRDPにはメタ-フェニレン連結が存在するために、これは、ビスフェノールAを基材とするリン酸エステル難燃剤に勝るいくつかのより望ましい特性を有する。
【0004】
ベンゾイルレゾルシノール(BR)は、プラスチック材料及び高分子材料を太陽からのUV照射の有害な作用に対し保護するために、プラスチック及び高分子産業において使用されている。しかし難燃剤におけるベンゾイルレゾルシノールの使用及びそれらのプラスチックにおける適用は、以前は実現しなかった。リン酸エステル型難燃剤の合成におけるベンゾイルレゾルシノールの使用は、難燃特性に加え、それらのUV耐性、熱安定性及び恐らくは加水分解安定性を改善することができる。一般にリン系難燃剤を含む現存する難燃性材料は、依然として完全にポリマーの燃焼を防止することはできない。従って改善された難燃特性及び恐らくは改善されたUV耐性を有する新規のベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステル型難燃剤が必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、難燃剤としてのベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステル化合物を提供する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
望ましい難燃性及びUV抵抗性を有する新規難燃剤を、本願明細書に開示する。
【0008】
ひとつの態様において、難燃剤は、少なくとも下記式を有するリン酸エステル化合物を含有する:
【化1】

(式中、Z1及びZ2の各々は独立して、リン酸エステル基であり;
X1、X2、X3、X4及びX5の各々は独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキルであるか、又はX1及びX2、X2及びX3、X3及びX4、もしくはX4及びX5は、ベンゾ基を形成し;並びに
アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル又はベンゾの各々は、置換又は非置換である。)。
【0009】
一部の実施態様において、リン酸エステル基は、下記式を有する:
【化2】

(式中、R1及びR2の各々は独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキルであるか、又はR1及びR2が-O-P(=O)(-O-)-O-断片と共に複素環基を形成する場合には、複素環基の一部であり;並びに
アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、及び複素環基の各々は、置換又は非置換である。)。
【0010】
望ましい難燃性及びUV抵抗性を有する難燃剤を製造する新規方法も、本願明細書において開示する。
ひとつの態様において、リン酸エステル基が式(II)により表されている式(I)の難燃剤を調製する方法は:
下記式を有するベンゾイルレゾルシノール化合物を:
【化3】

下記式を有するクロロリン酸:
【化4】

と、触媒又は酸受容体の存在下で反応させる工程を含み、
(式中、X1、X2、X3、X4及びX5の各々は独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキルであるか、又はX1及びX2、X2及びX3、X3及びX4、もしくはX4及びX5は、ベンゾ基を形成し;
R1及びR2の各々は独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキルであるか、又はR1及びR2が-O-P(=O)(-O-)-O-断片と共に複素環基を形成する場合には、複素環基の一部であり;並びに
アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、及び複素環基の各々は、置換又は非置換である。)。
【0011】
別の態様において、本願明細書に開示された難燃剤を調製する方法は、下記式を有するベンゾイルレゾルシノール化合物
【化5】

を、オキシ塩化リンと、酸受容体の存在下で反応する工程を含み、
ここでX1、X2、X3、X4及びX5の各々は、独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキルであるか、又はX1及びX2、X2及びX3、X3及びX4、もしくはX4及びX5は、ベンゾ基を形成し;並びに
アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクロアルキルの各々は、置換又は非置換である。
【0012】
本願明細書において、ポリマー及び式(I)の難燃剤を含有する新規難燃剤組成物、並びにこの難燃剤組成物を含有する製品も明らかにされている。
【0013】
(発明の実施態様の説明)
以下の説明において、本願明細書に記載された全ての数値は、語句「約」又は「およそ」と結びつけて使用されるかどうかにかかわらず、概数である。これらは、1%、2%、5%、又は時には10〜20%変動してもよい。下限RL及び上限RUを伴う数値範囲で記載されている場合、その範囲内に収まるあらゆる数値が具体的に明らかにされている。特に範囲内の下記の数値が具体的に明らかにされている:R=RL+k*(RU-RL)、ここでkは、1%の増分を伴う、1%から100%までの範囲の変数であり、すなわちkは1%、2%、3%、4%、5%、...、50%、51%、52%、...、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である。更に、先に定義されたふたつのR値により規定される任意の数値範囲も、具体的に明らかにされている。
【0014】
本発明の実施態様は、ポリカーボネート(PC)、ポリ(フェニレンオキシド)(PPO)、ポリエステル(例えばPET及びPBT)、ポリカーボネート及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンター ポリマー(PC/ABS)ブレンド、ポリ(フェニレンオキシド)及び耐衝撃性ポリスチレン(PPO/HIPS)ブレンド、並びにその他のポリマーなどのポリマーを含有する組成物又は製品において難燃剤として機能することができる、新規ベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステル化合物を提供する。このような新規ベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステル材料は、プラスチック及び他の高分子系において、難燃剤及びUV安定剤の両方として使用することができる。これらの新規難燃剤は、レゾルシノールビス(二リン酸)エステル(RDP)のようなレゾルシノールを基材とするリン酸エステルと比べ、増強された熱安定性を有することができる。ベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステルを調製するための合成法も提供されている。
【0015】
一部の実施態様において、本発明は、下記式を有する難燃剤を提供する:
【化6】

(式中、Z1及びZ2の各々は独立して、リン酸エステル基であり;並びに
X1、X2、X3、X4及びX5の各々は独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキルであるか、又はX1及びX2、X2及びX3、X3及びX4、もしくはX4及びX5により形成されたベンゾ基の一部である。アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル又はベンゾ基の各々は、置換又は非置換である。)。
【0016】
一部の実施態様において、式(I)のX1、X2、X3、X4及びX5の各々は、独立して、水素である。別の実施態様において、X3、X4及びX5の各々は、独立して水素であり;並びに、X1及びX2は一緒にベンゾ基を形成する。
【0017】
Z1及びZ2の各々は、いかなる公知のリン酸エステル基であることができる。更にZ1及びZ2は、本願明細書に開示されたものを含む全ての実施態様において同じ又は異なることができる。一部の実施態様において、リン酸エステル基は、下記式を有する:
【化7】

(式中、R1及びR2の各々は独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクロアルキルである。アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクロアルキルの各々は、置換されるか又は未置換であってよい。)。置換されたアルキル基の非限定的例は、4ニトロフェニル)エチルのようなアラルキルを含む。置換されたアリール基の非限定的例は、ハロゲン化されたアリール、例えば2,4-ジクロロフェニル及びアルキル化されたアリール又はアルカリル、例えば2-メチルフェニル、4-メチルフェニル、及び3,5-ジメチルフェニルを含む。
【0018】
一部の実施態様において、式(II)のリン酸エステル基のR1及びR2の各々は、R1及びR2が-O-P(=O)(-O-)-O-断片と一緒に複素環基を形成する場合は、独立して複素環基の一部である。複素環基は、置換されるか又は未置換であってよい。そのような複素環基の非限定的例は、下記式である:
【化8】

【0019】
一部の実施態様において、式(II)のR1及びR2の各々は、独立してアリールである。別の実施態様において、式(II)のR1及びR2の各々は、独立してフェニル又はナフチルである。更なる実施態様において、式(II)のR1及びR2は、式(II)の-O-P(=O)(-O-)-O-断片と一緒に、複素環基を形成する。特定の実施態様において、リン酸エステル基は、下記式を有するラジカルからなる群より選択される:
【化9】

【0020】
本願明細書に使用される用語「アルキル」又は「アルキル基」は特に指定されない限りは、飽和された、分枝しない又は分枝した脂肪族炭化水素から水素原子を取り除くことに由来する、一般式CnH2n+1 を有する一価の基を意味し、ここでnは整数であり、好ましくは1〜20であり、より好ましくは1〜8である。アルキル基の例は、(C1C8)アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、2-メチル-1-プロピル、2-メチル-2-プロピル、2-メチル-1-ブチル、3-メチル-1-ブチル、2-メチル-3-ブチル、2,2-ジメチル-1-プロピル、2-メチル-1-ペンチル、3メチル-1-ペンチル、4-メチル-1-ペンチル、2-メチル-2-ペンチル、3-メチル-2-ペンチル、4-メチル-2-ペンチル、2,2-ジメチル-1-ブチル、3,3-ジメチル-1-ブチル、2-エチル-1-ブチル、ブチル、イソブチル、tブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル及びオクチルを含むが、これらに限定されるものではない。より長いアルキル基は、ノニル基及びデシル基を含む。アルキル基は、非置換であるか、又は1個もしくは複数の適当な置換基により置換することができる。更にアルキル基は、分枝又非分枝であることができる。
【0021】
本願明細書に使用される用語「ヘテロアルキル」又は「ヘテロアルキル基」は特に指定されない限りは、少なくとも1個のメチレン基が、O、S、もしくはNR(ここでRはH又は有機基である。)のようなヘテロ原子又はヘテロ-基により交換された、アルキル基由来の一価の基を意味する。
【0022】
本願明細書に使用される用語「シクロアルキル」又は「シクロアルキル基」は特に指定されない限りは、炭素原子及び水素原子を含む、非芳香族、単環式又は多環式環から水素原子を取り除くことによる、シクロアルカンに由来する一価の基を意味する。シクロアルキル基の例は、(C3-C7)シクロアルキル基、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、及びシクロヘプチル、並びに飽和された環式及び二環式テルペン、及び(C3-C7)シクロアルケニル基、例えばシクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、及びシクロヘプテニル、並びに不飽和の環式及び二環式テルペンを含むが、これらに限定されるものではない。シクロアルキル基は、非置換であるか、又は1もしくは2個の適当な置換基により置換することができる。更にシクロアルキル基は、単環式又は多環式であることができる。
【0023】
本願明細書に使用される用語「ヘテロシクロアルキル」又は「ヘテロシクロアルキル基」は特に指定されない限りは、環炭素原子から水素原子を取り除くことによる、単環式又は多環式ヘテロシクロアルカンに由来する一価の基を意味する。ヘテロシクロアルキル基の非限定的例は、オキシラン、チイラン、アジリジン、オキセタン、チエタン、アゼチジン、ピロリジン、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロフラン、2-ピロリジノン、2,5-ピロリジンジオン、ジヒドロ-2(3H)-フラノン、ジヒドロ-2,5-フランジオン、ジヒドロ-2(3H)-チオフェノン、3-アミノジヒドロ-2(3H)-チオフェノン、ピペリジン、2-ピペリジノン、2,6-ピペリジンジオン、テトラヒドロ-2H-ピラン、テトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン、ジヒドロ-2H-ピラン-2,6(3H)-ジオン、及びテトラヒドロ-4H-チオピラン-4-オンを含む。ヘテロシクロアルキル基は、非置換であるか、又は1個もしくは複数の適当な置換基により置換することができる。更にヘテロシクロアルキル基は、単環式又は多環式であることができる。
【0024】
本願明細書に使用される用語「アリール」又は「アリール基」は特に指定されない限りは、水素原子を除去することによる、単環式又は多環式芳香族炭化水素に由来する有機ラジカルを意味する。アリール基の非限定的例は、フェニル、ナフチル、ベンジル、又はトラニル基、セキシフェニレン、フェナントレニル、アントラセニル、コロネニル(coronenyl)、及びトラニルフェニルを含む。アリール基は、非置換であるか、又は1個もしくは複数の適当な置換基により置換することができる。更にアリール基は、単環式又は多環式であることができる。
【0025】
本願明細書に使用される用語「ヘテロアリール」又は「ヘテロアリール基」は特に指定されない限りは、水素原子を除去することによる、単環式又は多環式芳香族ヘテロ環に由来する有機ラジカルを意味する。ヘテロアリール基の非限定的例は、フリル、チエニル、ピロリル、インドリル、インドリジニル、イソインドリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、ベンゾチアゾリル、1,2,4-トリアゾリル、1,2,3-トリアゾリル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾイミダゾリル、インダゾリル、カルバゾリル、カルボリニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、ピリジル、プリニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、テトラジニル、ペタジニル、キノリニル、イソキノリニル、ペリミジニル、シンノリニル、フタラジニル、キナゾリニル、キノキサリニル、ナフチリジニル、アクリジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、アンチリジニル、プリニル、プテリジニル、アロキサジニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニル、フェノキサチイニル、ジベンゾ(1,4)ジオキシニル、及びチアントレニルを含む。ヘテロアリール基は、非置換であるか、又は1個もしくは複数の適当な置換基により置換することができる。更にヘテロアリール基は、単環式又は多環式であることができる。
【0026】
本願明細書に使用される用語「アルケニル」又は「アルケニル基」は特に指定されない限りは、その中に1個又は複数の二重結合を有する、一価の、分枝していない又は分枝した炭化水素鎖を意味する。アルケニル基の二重結合は、別の不飽和基に共役しないか又は共役することができる。適当なアルケニル基は、(C2-C8)アルケニル基、例えばビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ブタジエニル、ペンタジエニル、ヘキサジエニル、2-エチルヘキセニル、2-プロピル-2-ブテニル、4-(2-メチル-3-ブテニル)-ペンテニルを含むが、これらに限定されるものではない。アルケニル基は、非置換であるか、又は1もしくは2個の適当な置換基により置換することができる。更にアルケニル基は、分枝しているか又は分枝していないことができる。
【0027】
本願明細書に使用される用語「アルキニル」又は「アルキニル基」は特に指定されない限りは、その中に1個又は複数の三重結合を有する、一価の、分枝していない又は分枝した炭化水素鎖を意味する。アルキニル基の三重結合は、別の不飽和基に共役しないか又は共役することができる。適当なアルキニル基は、(C2-C8)アルキニル基、例えばエチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、メチルプロピニル、4-メチル-1-ブチニル、4-プロピル-2-ペンチニル、及び4-ブチル-2-ヘキシニルを含むが、これらに限定されるものではない。アルキニル基は、非置換であるか、又は1もしくは2個の適当な置換基により置換することができる。更にアルキニル基は、分枝しているか又は分枝していないことができる。
【0028】
本願明細書に使用される用語「ヘテロ環式」又は「複素環基」は特に指定されない限りは、環内に少なくとも一つのヘテロ原子(例えば、O、S、N、P、B、Siなど)を有する、単環式又は多環式(例えば二環式、三環式など)の環状化合物のいずれかを意味する。複素環基は、芳香族又は非芳香族であることができる。
【0029】
本願明細書に使用される化合物又は化学部分を説明するために使用される用語「置換された」は特に指定されない限りは、その化合物又は化学部分の少なくとも1個の水素原子が、第二の化学部分により交換されることを意味する。第二の化学部分は、その化合物の望ましい活性に有害に作用しない望ましい置換基のいずれかであることができる。置換基の例は、本願明細書に開示された例証的化合物及び実施態様において認められるものに加え、ハロゲン;アルキル;ヘテロアルキル;アルケニル;アルキニル;アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシル;アルコキシル;アミノ;ニトロ;チオール;チオエーテル;イミン;シアノ;アミド;ホスホナト;ホスフィン;カルボキシル;チオカルボニル;スルホニル;スルホンアミド;ケトン;アルデヒド;エステル;オキソ;ハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル);単環式又は縮合したもしくはしていない多環式であることができる炭素環式シクロアルキル(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルもしくはシクロヘキシル)、又は単環式又は縮合したもしくはしていない多環式であることができるヘテロシクロアルキル(例えば、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル又はチアジニル);炭素環式又はヘテロ環式、単環式又は縮合したもしくはしていない多環式アリール(例えば、フェニル、ナフチル、ピロリル、インドリル、フラニル、チオフェニル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、ピリジニル、キノリニル、イソキノリニル、アクリジニル、ピラジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチオフェニル又はベンゾフラニル);アミノ(第1級、第2級又は第3級);-O-低級アルキル;-O-アリール、アリール;アリール-低級アルキル;-CO2CH3;-CONH2;OCH2CONH2;-NH2;-SO2NH2;-OCHF2;-CF3;-OCF3;NH(アルキル);N(アルキル)2;NH(アリール);N(アルキル)(アリール);-N(アリール)2;-CHO;-CO(アルキル);-CO(アリール);-CO2(アルキル)であり;及び、-CO2(アリール);並びに、そのような部分は任意に、縮合環構造又は架橋、例えば-OCH2O-により、置換することもできる。これらの置換基は任意に、そのような群から選択される置換基により、更に置換され得る。本願明細書に開示された全ての化学基は、特に指定されない限りは、置換され得る。
【0030】
改善された易燃性を有する難燃剤組成物は、少なくとも一種のポリマーへの少なくとも一種の式(I)の難燃剤の添加により配合することができる。ポリマーの非限定的例は、ポリカーボネート(PC)、ポリ(フェニレンオキシド)(PPO)、ポリエステル(例えば、PET及びPBT)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンター ポリマー(ABS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリアリレート及びそれらの組合せ又はブレンド、例えばポリカーボネート及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンター ポリマー(PC/ABS)ブレンド並びにポリ(フェニレンオキシド)及び耐衝撃性ポリスチレン(PPO/HIPS)ブレンドである。一部の実施態様において、この難燃剤組成物は、リン酸エステル(例えばRDP)、アルミナ三水和物、水酸化マグネシウム、ハロゲン化化合物、酸化アンチモン、メラミン誘導体、並びにホウ酸及び他のホウ素化合物などの、当該技術分野において公知の少なくとも1種の難燃剤を更に含有する。別の実施態様において、難燃剤組成物は、リン酸エステル、アルミナ三水和物、水酸化マグネシウム、ハロゲン化化合物、酸化アンチモン、メラミン誘導体、ホウ酸及び他のホウ素化合物、並びにそれらの組合せからなる群より選択することができる、当該技術分野において公知の第二の難燃剤を実質的に含まない。本願明細書において使用され特に指定されない限り、化合物又は添加剤を「実質的に非含有」である組成物とは、その組成物が化合物又は添加剤を約20重量%未満、より好ましくは約10重量%未満、更により好ましくは約5重量%未満、及び最も好ましくは約3重量%未満を含むことを意味する。
【0031】
任意に、難燃剤組成物は、少なくとも1種の添加剤、例えば増量剤、ファイバー、充填剤、カップリング剤、架橋剤、可塑剤、耐衝撃性改善剤、相溶化剤、粘着防止剤、防曇剤、老化防止剤、抗酸化剤、UV安定剤、オゾン劣化防止剤、酸掃去剤、加工助剤、界面活性剤、滑剤、可塑化剤、離型剤及び不粘着剤、成核剤、帯電防止剤、スリップ剤、化学発泡剤、蛍光増白剤、流動化剤、防臭剤、剥離剤、着色剤、例えば色素及び顔料など、並びに抗微生物剤、例えば殺菌剤などを、更に含有することができる。前述の添加剤の一部は、Zweifelらの著書「Plastics Additives Handbook」、Hanser Gardner Publications(シンシナティ, オハイオ州)、第5版(2001);John Murphyの著書「Additives for Plastics Handbook」、Elsevier Science Pub. Co.,(ニューヨーク, ニューヨーク州)第2版(2001)に説明されており、これらは両方とも全体が本願明細書に参照によって組入れられている。一部の実施態様において、難燃剤組成物は、添加剤を実質的に含まない。特定の実施態様において、難燃剤組成物は、UV安定剤を実質的に含まない。
【0032】
この難燃剤組成物は、押出、射出成形及び回転成形のような成形などの公知の高分子加工により製品を調製するために、使用することができる。一般に押出は、そこでポリマーが溶融及び圧縮される高温及び高圧の領域を通りスクリューに沿ってポリマーが連続して噴射され、最後に押出型を押し通されるプロセスである。ポリマーの押出は、C. Rauwendaalの著書「Polymer Extrusion」Hanser Publishers、(ニューヨーク, ニューヨーク州)(1986);及び、M.J. Stevensの著書「Extruder Principals and Operation」Elsevier Applied Science Publishers(ニューヨーク, ニューヨーク州)(1985)に説明されており、これらは両方とも全体が本願明細書に参照によって組入れられている。
【0033】
射出成形は、様々な用途のための様々なプラスチック部品の製造にも広範に使用される。一般に射出成形は、所望の形状及びサイズの部品を形成するために、ポリマーが溶融され、及び望ましい形状の逆である押型へ高圧で射出されるプロセスである。この押型は、鋼鉄及びアルミニウムのような金属により製造することができる。ポリマーの射出成形は、Beaumontらの著書「Successful Injection Molding: Process, Design, and Simulation」Hanser Gardner Publications(シンシナティ, オハイオ州)、(2002)に説明されており、これは全体が本願明細書に参照によって組入れられている。
【0034】
成形は一般に、所望の形状及びサイズの部品を形成するために、ポリマーが溶融され、望ましい形状の逆である押型へ入れられるプロセスである。成形は、無圧又は圧力の補助により行うことができる。ポリマーの成形は、Hans-Georg Eliasの著書「An Introduction to Plastics」Wiley-VCH(Weinhei, 独国)161-165頁(2003)に説明されており、これは本願明細書に参照によって組入れられている。回転成形は、中空のプラスチック製品を作製するために一般に使用されるプロセスである。追加の成形後操作を使用することにより、複雑な構成部品を、他の成形及び押出技術と同じ位効果的に作製することができる。
【0035】
回転成形は、加熱、溶融、造形、冷却の工程の全てが、ポリマーが金型に配置された後に生じ、従って外圧が成形時に加えられない点が、他の加工処理法とは異なる。ポリマーの回転成形は、Glenn Beallの著書「Rotational Molding : Design, Materials & Processing」Hanser Gardner Publications(シンシナティ, オハイオ州)(1998)に説明されており、これはその全体が本願明細書に参照によって組入れられている。
【0036】
一般にポリマーを含む製品はどれも、そのポリマー及び式(I)の難燃剤を少なくとも一種含有する難燃剤組成物を含み得る。有用な製品の非限定的例は、プラスチック製品、織物、木材及び紙製品、接着剤及び封止剤、並びにゴム製品、航空宇宙部品、自動車部品、ワイヤ、ケーブル、建築材、インテリア及び家具用材料、電気器具、電子部品、コンピュータ、及び事務機器を含む。一部の実施態様において、これらの製品は、難燃剤組成物の押出により調製される。別の実施態様において、製品は、難燃剤組成物の射出成形により調製される。更なる実施態様において、製品は、難燃剤組成物の成形により調製される。追加の実施態様において、製品は、難燃剤組成物の回転成形により調製される。
【0037】
一部の実施態様において、式(I)の難燃剤は、下記式のベンゾイルレゾルシノール化合物:
【化10】

を、下記式を有するクロロリン酸:
【化11】

と、触媒又は酸受容体の存在下で反応させるプロセスにより得ることができる(式中、X1、X2、X3、X4、X5、R1及びR2は、先に説明されている。)。
【0038】
本願明細書に使用される用語「反応させる」などは特に指定されない限りは、ひとつの反応体、試薬、溶媒、触媒、反応基などを、別の反応体、試薬、溶媒、触媒、反応基などと接触させることを意味する。反応体、試薬、溶媒、触媒、反応基などを、個々に、同時に又は個別に添加することができ、及び任意の順番で添加することができる。これらは、熱の存在又は非存在下で添加することができ、並びに任意に不活性大気下で添加することができる。「反応」は、現場形成又は反応基が同じ分子内に存在する場合には分子内反応を意味する。
【0039】
本願明細書に使用される用語「実質的に完全」である反応又は「実質的完全」であるよう駆動された反応は特に指定されない限りは、その反応が、収率約80%よりも多い、より好ましくは収率約90%よりも多い、更により好ましくは収率約95%よりも多い、最も好ましくは収率約97%よりも多い所望の生成物を含むことを意味する。
【0040】
式(III)の式(IV)によるリン酸化は、塩化マグネシウムのような触媒(例えばスキームA)又は有機塩基のような酸受容体(例えばスキームB)のいずれかにより促進することができる。リン酸化は、溶媒、好ましくは式(IV)の化合物のクロロ基と反応しない不活性有機溶媒中で起こることができる。適当な不活性有機溶媒の非限定的例は、芳香族炭化水素(例えばトルエン、ベンゼン、及びキシレンなど)、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、エーテル、ケトン、ジメチルホルムアミド、トリクロロエタン、テトラヒドロフラン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン及びそれらの組合せを含む。一部の実施態様において、溶媒はトルエン又は塩化メチレンである。
【0041】
【化12】

【0042】
酸受容体は、有機塩基であることができる。適当な有機塩基の非限定的例は、アミン(例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、トリフェニルアミン、1,8ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク-7-エン)、1アルキルピペリジン、例えば1-エチルピペリジン、1-アルキルピロリジン、例えば1-メチルピロリジン、ピリジン、及びそれらの組合せを含む。他の適当なアミンは、トリアルキルアミン、例えばトリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミン、トリウンデシルアミン、トリドデシルアミン、トリ(トリデシル)アミン、トリペンタデシルアミン、トリヘキサデシルアミン、トリヘプタデシルアミン、トリオクタデシルアミン、トリノナデシルアミン、トリエイコシルアミン、トリ(テトラクロロドデシル)アミン、トリヘキサクロロヘプタデシルアミン、ピリジンの低級アルキル置換された誘導体(例えば2,6-ルチジン及び2,4,6-コリジン)、2,2,6,6-N-ペンタメチルピペリジン、N,N-ジメチルアニリン、及びジイソプロピル-N-エチルアミン又はそれらの組合せを含むが、これらに限定されるものではない。一部の実施態様において、酸受容体はトリエチルアミンである。
【0043】
当業者に公知のリン酸化触媒は、式(III)及びPOCl3の間の反応のために使用することができる。リン酸化触媒の非限定的例は、塩化マグネシウム、三塩化アルミニウム、四塩化チタン、及び二塩化亜鉛を含む。一部の実施態様において、塩化マグネシウム-触媒されたリン酸化の溶媒は、トルエンであり、反応温度は、約35℃よりも高く、好ましくは約55℃よりも高く、より好ましくは約75℃よりも高く、最も好ましくは約100℃よりも高い。この反応生成物は、水又は塩基性水溶液、例えば水酸化ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、炭酸水素ナトリウム溶液、もしくは水酸化カリウム溶液により、完了後の反応混合物を洗浄することにより精製することができる。触媒の量は、反応体の総質量を基に、0.1重量%〜10重量%の範囲であることができる。反応温度は、25℃よりも高く、50℃よりも高く、75℃よりも高く、100℃よりも高く、120℃よりも高く、140℃よりも高いか、又は150℃よりも高いことができる。
【0044】
別の実施態様において、スキームBに示されたもののように、酸受容体はトリエチルアミンである。更なる実施態様において、トリエチルアミンで促進したリン酸化の溶媒は、塩化メチレンであり、反応温度は、約50℃より低い、好ましくは約35℃より低い、より好ましくは約20℃〜約25℃である。酸受容体の量は、式(III)のベンゾイルレゾルシノール誘導体1モル当たり2.0〜3.0モルの範囲であることができる。
【0045】
式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物の式(IV)のクロロリン酸に対するモル比は、約1:1.5〜約1:2.5であることができる。特定の実施態様において、式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物の式(IV)のクロロリン酸に対する比は、約1:2である。一部の実施態様において、式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物又は式(IV)のクロロリン酸のいずれかが過剰で使用される場合、過剰な未反応の反応体は、水及び/又は水性の塩基性溶液及び/又は酸性溶液の組合せにより、抽出又は分離することができる。
【0046】
式(IV)のクロロリン酸は、式(III)の芳香族ヒドロキシル基と反応することができるいずれかのクロロリン酸であることができる。適当な式(IV)のクロロリン酸の非限定的例は、2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン、 クロロリン酸ジメチル、クロロリン酸ジエチル、2-クロロ-5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサホスホリナン-2-オキシド、o-フェニレンホスホロクロリデート、クロロリン酸ジフェニル、クロロリン酸ビス(2-メチルフェニル)、クロロリン酸ビス(4-メチルフェニル)、クロロリン酸ビス(3,5-ジメチルフェニル)、クロロリン酸ビス(2,6-ジメチルフェニル)、クロロリン酸ビス(2,4-ジクロロフェニル)、及びクロロリン酸ビス[2-(4-ニトロフェニル)エチル]を含み、これらは全てAldrich Chemicals(ミルウォキー、ウィスコンシン州)などの商業的供給業者から入手可能である。特定の実施態様において、式(IV)のクロロリン酸は、クロロリン酸ジフェニルである。
【0047】
式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物は、式(IV)のクロロリン酸と反応することができる2,4ジヒドロキシベンゾフェノン又はその誘導体のいずれかひとつであることができる。一部の実施態様において、X1、X2、X3、X4及びX5の各々は、独立して、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アシル、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキルからなる群より選択される。別の実施態様において、式(III)のX1、X2、X3、X4及びX5はどれも、式(IV)のクロロリン酸のクロロ基と反応することができる官能基(ヒドロキシル、アミン、チオール及びカルボキシルなど)ではない。更なる実施態様において、式(III)の隣接X基のいずれかの対(すなわち、X1及びX2、X2及びX3、X3及びX4、もしくはX4及びX5基)は一緒に、ベンゾ環置換基を形成することができる。一部の実施態様において、X1、X2、X3、X4及びX5の各々は、独立して水素である。別の実施態様において、X3、X4及びX5の各々は、独立して水素であり;並びに、X1及びX2は一緒にベンゾ基を形成する。適当な式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物の非限定的例は、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン及び2,4-ジヒドロキシフェニル-1-ナフチルケトンを含み、両方ともAldrich Chemicalsなどの商業的供給業者から入手可能である。
【0048】
別の実施態様において、難燃剤は、下記式を有するベンゾイルレゾルシノール化合物を:
【化13】

オキシ塩化リン(POCl3)と、触媒又は酸受容体の存在下で反応することにより得ることができ、
ここで、X1、X2、X3、X4及びX5の各々は、独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキル、又はX1及びX2、X2及びX3、X3及びX4、もしくはX4及びX5基により形成されたベンゾ基の一部である。
【0049】
式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物とPOCl3の間の反応は、芳香族炭化水素(例えば、トルエン、ベンゼン、及びキシレン)、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、エーテル、ケトン、ジメチルホルムアミド、トリクロロエタン、テトラヒドロフラン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン及びそれらの組合せのような溶媒中で起こることができる。
【0050】
塩化水素を中和することができるあらゆる化合物を、本発明のための酸受容体として使用することができる。一部の実施態様において、酸受容体は有機塩基である。適当な有機塩基の非限定的例は、アミン(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、トリフェニルアミン、1,8ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク-7-エン)、1アルキルピペリジン、例えば1-エチルピペリジン、1-アルキルピロリジン、例えば1-メチルピロリジン、ピリジン、及びそれらの組合せを含む。他の適当なアミンは、トリアルキルアミン、例えばトリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミン、トリウンデシルアミン、トリドデシルアミン、トリ(トリデシル)アミン、トリペンタデシルアミン、トリヘキサデシルアミン、トリヘプタデシルアミン、トリオクタデシルアミン、トリノナデシルアミン、トリエイコシルアミン、トリ(テトラクロロドデシル)アミン、トリヘキサクロロヘプタデシルアミン、ピリジンの低級アルキルで置換された誘導体(例えば2,6-ルチジン及び2,4,6-コリジン)、2,2,6,6-N-ペンタメチルピペリジン、N,N-ジメチルアニリン、及びジイソプロピル-N-エチルアミン又はそれらの組合せを含むが、これらに限定されるものではない。一部の実施態様において、酸受容体はトリエチルアミンである。ひとつの実施態様において、溶媒は塩化メチレンである。別の実施態様において、溶媒はトルエンである。更なる実施態様において、反応温度は、50℃より低い、好ましくは35℃より低い、より好ましくは約20℃〜約25℃である。
【0051】
当業者に公知のリン酸化触媒を、式(III)とPOCl3の間の反応に使用することができる。リン酸化触媒の非限定的例は、塩化マグネシウム、三塩化アルミニウム、四塩化チタン及び二塩化亜鉛を含む。この反応生成物は、完了後の反応混合物を、水又は塩基性水溶液、例えば水酸化ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、炭酸水素ナトリウム溶液、又は水酸化カリウム溶液で洗浄することにより精製することができる。触媒の量は、反応体の総重量を基に0.1重量%〜10重量%の範囲であることができる。反応温度は、25℃よりも高いか、50℃よりも高いか、75℃よりも高いか、100℃よりも高いか、120℃よりも高いか、140℃よりも高いか、又は150℃よりも高いことができる。
【0052】
式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物は、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクロアルキルからなる群より選択される少なくとも1個の置換基を有することができる。式(III)のX1、X2、X3、X4及びX5のいずれも、式(IV)のクロロリン酸と反応することができる官能基(例えば、ヒドロキシル、アミン、チオール、及びカルボキシル)でないことが好ましい。一部の実施態様において、X1、X2、X3、X4及びX5の各々は独立して、水素であり、すなわち式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物は、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンである。2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン及びPOCl3の間の反応、並びにいくつかの反応生成物は、下記スキームCに示されている:
【化14】

【0053】
一般に、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンとPOCl3の間の反応は、とりわけ化合物(2)及び化合物(3)及び恐らくは未反応の出発材料(複数)を含む化合物の混合物を生成することができ、その比は、これら2種の出発材料の比及び反応条件に左右される。
式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物のPOCl3に対するモル比は、約3.5:1〜1.5:1、好ましくは約3.1:1〜2:1の間であることができる。式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物が2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンである一部の実施態様において、式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物のPOCl3に対するモル比は、約2.1:1〜約3.1:1である。式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物又はPOCl3が過剰に使用される別の実施態様において、過剰な未反応の反応体は、水性塩基性溶液又は水により抽出又は分離することができる。
【0054】
本願明細書に開示されたことを基に、当業者は、式(I)により表されたものに加え、その他のベンゾイルを基材とするリン酸エステルを、少なくとも2個の芳香族ヒドロキシ基を有する他のベンゾイル化合物、例えば3,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,6-ジヒドロキシベンゾフェノン又は3,5-ジヒドロキシベンゾフェノンなどから得ることができることを認めることができる。
【0055】
下記実施例は、本発明の例証的実施態様を示している。全ての数値は概数である。数値範囲が示された場合は、言及された範囲の外側の実施態様も、本発明の範囲内に収まることがあることは理解されなければならない。各実施例に説明された具体的詳細は、本発明に必要な特徴として解釈されるものではない。
【実施例】
【0056】
(ベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステル化合物の合成)
一部の式(I)のベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステル難燃剤は、式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物を反応体として用いて合成することができる。一部の実施態様において、式(III)のベンゾイルレゾルシノール化合物は、2,4ジヒドロキシベンゾフェノンであり、これはクロロリン酸ジフェニル(DPCP)と反応し、化合物(1)であるベンゾイルレゾルシノールを基材とするビス(ジフェニルリン酸)を生成する。この反応は、2種の異なる経路により完了することができる:(1)高温反応、例えば塩化マグネシウム(MgCl2)を触媒として使用するスキームAにより;及び、(2)低温反応、例えばトリエチルアミンを触媒として使用するスキームBにより。
【0057】
一部の実施態様において、式(III)のベンゾイルレゾルシノールの、クロロリン酸ジフェニルとのMgCl2触媒の存在下での高温での反応は、前記スキームAに示されたように化合物(1)を生成することができる。スキームAに従い化合物(1)を調製するために開発されたこの合成手法を、以下に示す。
【0058】
(実施例1)
ベンゾイルレゾルシノール(214.2g, 1.0モル)、クロロリン酸ジフェニル(97.6%;550.5g, 2.0モル)、及びトルエン(500mL)を、機械式撹拌子、温度計、窒素投入口、還流冷却器、苛性液トラップ、及び加熱用マントルを装備した、3Lの丸底フラスコに投入した。これらの内容物を、N2掃流下で10分間攪拌した。MgCl2(5.4g)を反応混合物へ添加した後、温度を105℃へ上昇させた。塩化水素(HCl)ガスの蒸発が停止するまで(およそ13時間)、温度を105℃で維持した。トルエン(720g)を反応混合物へ添加した後、反応混合物を、水(各200g)で3回洗浄した。次にトルエンを、減圧下で蒸留除去した。生成物(676.7g)は、橙琥珀色の粘性の液体であった。C-13 NMR分析は、芳香族C-O-P炭素の100モル%を示し、及び検出可能なC-OH炭素は存在せず、これは所望の生成物と一致した。この生成物は、リン9.3重量%を含有し、50℃で粘度800センチポアズ及び25℃で密度1.30を有することがわかった。
【0059】
(実施例2)
ベンゾイルレゾルシノール(214.2g, 1.0モル)、クロロリン酸ジフェニル(97.6%;550.5g, 2.0モル)、及びトルエン(900mL)を、機械式撹拌子、温度計、窒素投入口、還流冷却器、苛性液トラップ、及び加熱用マントルを装備した、2Lの丸底フラスコに投入した。これらの内容物を、N2掃流下で10分間攪拌した。MgCl2(5.4g)を反応混合物へ添加した後、温度を105℃へ上昇した。塩化水素(HCl)ガスの蒸発が停止するまで(およそ21時間)、温度を105℃で維持した。トルエン(600g)を反応混合物へ添加した後、反応混合物を、2%水酸化ナトリウム(NaOH)溶液(200g)、1%NaOH溶液(200g)、及び水(各200g)で2回洗浄した。次にトルエンを、減圧下で蒸留除去した。生成物(641.7g)は、橙琥珀色の粘性の液体であり、数平均分子量666±16であった。C-13 NMR分析は、芳香族C-O-P炭素の100モル%を示し、及び検出可能なC-OH炭素は存在せず、これは所望の生成物と一致した。
【0060】
一部の実施態様において、ベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステル化合物は、スキームBの低温溶液プロセスを用いても合成することができる。スキームBに従う化合物(1)を調製するために開発された合成手法を、以下に示す。
【0061】
(実施例3)
ベンゾイルレゾルシノール(6.4g, 0.03モル)、クロロリン酸ジフェニル(97.6%;16.5g, 0.06モル)、及び塩化メチレン(80mL)を、機械式攪拌子、温度計、添加用漏斗、塩化カルシウム(CaCl2)チューブを備えた還流冷却器、及び加熱用マントルを装備した、500mLの丸底フラスコに投入した。内容物を、20〜25℃で攪拌した。塩化メチレン(40mL)に溶解したトリエチルアミン(6.1g, 0.06モル)の溶液を20〜25℃で1時間フラスコに滴下した後、その温度を更に4時間維持した。混合物を35℃の水で6回洗浄した後、塩化メチレンを回転蒸発器を用い、真空(28in.Hg)で95℃で除去した。生成物(20.2g)は、黄色の粘性の液体であった。FT-IR分析は、下記の構造が生成物中に存在することを確認した:-OH(非常に弱い)、アリール環、アリールケトンカルボニル(C=O)、アリール-O、P=O、P-O-C、及び一置換のベンゼン環。C-13 NMR分析は、98モル%の芳香族C-O-P炭素及び2モル%の芳香族C-OH炭素を示した。
【0062】
(熱安定性のデータ)
実施例1のベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステル化合物及び対照としてのFYROLFLEX(登録商標)RDPの熱安定性を、温度範囲25℃〜700℃においてスキャン率10℃/分で、大気下での、熱重量分析(TGA)により測定した。FYROLFLEX(登録商標)RDPは、Akzo Nobel Chemical Inc.(Dobbs Ferry, ニューヨーク州)から入手可能なレゾルシノールジフェニルリン酸エステル難燃剤である。実施例1及びFYROLFLEX(登録商標)RDPのTGA分析結果を、表1に示している。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示されたデータは、実施例1のベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステルが、レゾルシノールを基材とするリン酸エステルであるFYROLFLEX(登録商標)RDPよりも、より高い熱安定性を示すことを示唆している。この増強された熱安定性は、実施例1の構造内のベンゾイル基の存在に関連しているかもしれない。
【0065】
(ポリマー加工及び試験)
(実施例4(a)及び(b))
実施例1のベンゾイルレゾルシノールを基材とする難燃剤を、ポリカーボネート及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンター ポリマー(PC/ABS)ブレンドへ、Coperion ZSK-30二軸押出機(Coperion Corporation(Ramsey,ニュージャージー州)より入手)において、2種の異なるローディングで添加し、各々、実施例4(a)及び4(b)を得た。各実施例のローディングは、表2においてそのリン含量により示した。使用したPC/ABSブレンドは、いかなる難燃剤も含まないが、市販のBAYBLEND(登録商標)FR2010と同じPC/ABSターポリマーを含有するように特別に配合したブレンドであった。当業者は、BAYBLEND(登録商標)FR2010(Bayer Material Science(ピッツバーグ,ペンシルバニア州))は、その中に混入された難燃剤を有することを認めるであろう。二軸押出機は、およそ55〜65g/分の流量で操作し、及びバレル温度プロファイルは、以下であった(フィードからノズル方向へ):190、240、240、245、250、257℃。難燃剤は、加熱された貯蔵庫及びチューブ、Zenithギアポンプ、及び液体添加ノズルからなる、液体添加システムを使用し添加した。液体添加システムは、62℃で維持した。難燃剤は、液体射出ノズルを通して押出機に120psi(827kPa)で添加した。難燃剤含有ペレットを、乾燥し、フィードからノズルまで下記の温度プロファイルを使用してArburg Allrounder射出成型機を用い、試験片へ成形した:243、253、258、265℃。金型温度は、190°F(87.8℃)であった。試料は、23℃及び湿度50%で、40時間よりも長く状態調節した。この試料のリン含量、加熱撓み温度、メルトフローインデックス、ノッチ付きIZOD衝撃強さ、引張強さ及び引張弾性、曲げ弾性、及び易燃性を、評価した。結果は、比較例(対照1及び2)の結果と共に、表2に示している。
【0066】
(比較例1(対照1))
BAYBLEND(登録商標)FR2010の試験片を、先に実施例4(a)及び4(b)に説明したように、射出成形した。対照1のリン含量、加熱撓み温度、メルトフローインデックス、ノッチ付きIZOD衝撃強さ、引張強さ及び引張弾性、曲げ弾性、及び易燃性を、評価した。結果を表2に列記している。
【0067】
(比較例2(対照2))
レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)である市販の難燃剤FYROLFLEX(登録商標)RDP(Akzo Nobel Functional Chemicals LLC)を、先の実施例4(a)及び4(b)において行ったように、二軸押出機において、実施例4の特別に配合されたPC/ABSブレンドに添加した。その後試験片を、射出成形した。対照1及び2並びに実施例4(a)及び4(b)を、リン含量、加熱撓み及び変形温度、メルトフローインデックス、ノッチ付きIZOD衝撃強さ、引張強さ及び引張弾性、曲げ弾性、及び易燃性について評価した。結果を表2に列記している。
【0068】
対照1及び2並びに実施例4(a)及び4(b)の各々のリン含量は、以下の分光光度法により測定した。試料を、硫酸及び硝酸による処理により分解し、その後希酸中で煮沸し、試料中のリン酸基をオルトリン酸に転換した。オルトリン酸は、酸性溶液中でモリブデン酸アンモニウム及びバナジン酸アンモニウムと複合体を形成する。オルトリン酸量及びその結果のリン含量は、Beckman UV/可視分光光度計(モデルDU, Beckman Coulter, Inc.(Fullerton, カリフォルニア州)より入手)により波長470nmで分光学的に測定した。
【0069】
各試料の264psi線維応力での加熱撓み温度は、ASTM D648により測定した。各試料のメルトフローインデックスは、ASTM D1238により測定した。各試料のノッチ付きIZOD衝撃強さは、ASTM D256により測定した。各試料の引張強さ及び引張弾性は、ASTM D638により測定した。各試料の曲げ弾性は、ASTM D790により測定した。各試料の易燃性は、Underwriters Laboratories UL-94垂直燃焼試験により測定した。前記標準試験法は全て、本願明細書に参照によって組入れられている。
【0070】
【表2】

【0071】
(実施例5(a)及び(b))
実施例2に説明された難燃剤を、Coperion ZSK-30二軸押出機において、実施例4の特別に配合されたPC/ABSブレンドに、2種の異なるローディングで添加し、各々、実施例5(a)及び5(b)を得た。各実施例のローディングは、表3においてそのリン含量により示されている。二軸押出機は、およそ55〜65g/分の流量で操作し、及びバレル温度プロファイルは、以下であった(フィードからノズル方向へ):190、240、240、245、250、257℃。難燃剤は、加熱された貯蔵庫及びチューブ、Zenithギアポンプ、及び液体添加ノズルからなる、液体添加システムを使用し添加した。液体添加システムは、62℃で維持した。難燃剤は、液体射出ノズルを通して押出機に120psi(827kPa)で添加した。難燃剤含有ペレットを、乾燥し、フィードからノズルまで下記の温度プロファイルを使用してArburg Allrounder射出成型機を用い、試験片へ成形した:243、253、258、265℃。金型温度は、190°F(87.8℃)であった。試料は、23℃及び湿度50%で、40時間よりも長く状態調節した。この試料のリン含量、加熱撓み温度、メルトフローインデックス、ノッチ付きIZOD衝撃強さ、引張強さ及び引張弾性、曲げ弾性、及び易燃性を、評価した。結果は、比較例(対照1及び2)の結果と共に、表3に示している。
【0072】
【表3】

【0073】
一部の実施態様においては、ベンゾイルレゾルシノールを基材とするリン酸エステル化合物も、スキームCの方法を用いて合成することができる。スキームCの合成手法を、以下に示す。
【0074】
(実施例6)
オキシ塩化リン(7.8g, 0.051モル)及びトルエン(200mL)を、機械式攪拌子、温度計、添加用漏斗、CaCl2チューブを備えた還流冷却器を装備した、500mLの丸底フラスコに投入した。内容物を、攪拌し、0〜5℃に冷却した後、ベンゾイルレゾルシノール(25.7g, 0.12モル)を添加した。トルエン(50mL)に溶解したトリエチルアミン(16.3g, 0.16モル)の溶液を0〜5℃で1時間かけて滴下した。温度を20〜25℃に上昇し、3時間維持した。沈殿(トリエチルアミン-HCl塩)を濾過し、トルエンを減圧回転蒸発器で除去した。得られた物質(28.9g)を、塩化メチレン(150ml)に再度溶解し、35℃の水で3回洗浄した。塩化メチレンを回転真空蒸発器で除去した。最終生成物は、黄色の粉末であった。C-13及びプロトンNMR分析は、以下の構造を明らかにした:ベンゾイルレゾルシノールの「一リン酸」エステル75モル%、ベンゾイルレゾルシノールの「二リン酸」エステル23モル%、及び未反応のベンゾイルレゾルシノール2モル%。
【0075】
(実施例7-9)
実施例7-9は、表4に示されたような、ベンゾイルレゾルシノール対オキシ塩化リンの異なるモル比を使用した以外は、実施例6の手法と同様に調製した。リン酸エステル化合物の化学構造に対するベンゾイルレゾルシノール対オキシ塩化リンの異なるモル比の使用の作用(すなわち、実施例6-9)を、表4にまとめた。
【0076】
【表4】

【0077】
ベンゾイルレゾルシノールとオキシ塩化リンの間の反応は、塩化メチレン溶媒においても行った。合成に使用した実験手法は、実施例10-13において説明されている。
【0078】
(実施例10)
オキシ塩化リン(7.8g, 0.051モル)及び塩化メチレン(80mL)を、機械式攪拌子、温度計、添加用漏斗、CaCl2チューブを備えた還流冷却器を装備した、500mLの丸底フラスコに投入した。内容物を、攪拌し、0〜5℃に冷却した後、ベンゾイルレゾルシノール(22.9g, 0.107モル)を添加した。塩化メチレン(40mL)に溶解したトリエチルアミン(15.6g, 0.153モル)の溶液を0〜5℃で1時間かけて滴下した。温度を20〜25℃に上昇し、1時間維持した。その後温度を35〜40℃に上昇し、更に2時間維持した。沈殿(トリエチルアミン-HCl塩)を濾過した。濾液を、35℃の水で4回洗浄した。得られた物質(24.1g)は、黄色粉末であった。C-13及びプロトンNMR分析は、以下の構造を明らかにした:ベンゾイルレゾルシノールの「一リン酸」エステル57モル%、ベンゾイルレゾルシノールの「二リン酸」エステル42モル%、及び未反応のベンゾイルレゾルシノール1モル%。
【0079】
(実施例11-13)
実施例11-13は、表5に示されたような、ベンゾイルレゾルシノール対オキシ塩化リンの異なるモル比を使用した以外は、実施例10の手法と同様に調製した。リン酸エステル化合物の化学構造に対するベンゾイルレゾルシノール対オキシ塩化リンの異なるモル比の使用の作用(すなわち、実施例10-13)を、表5にまとめた。
【0080】
【表5】

【0081】
ベンゾイルレゾルシノール及びオキシ塩化リンの間の反応からの反応生成物の構造の特徴は、リン酸エステル及びヒドロキシ官能基の存在を明らかに示した。スキームCに示された構造を有する化合物(2)及び(3)は、プラスチック及びエラストマーのようなポリマーのための難燃剤及びUV安定剤の両方として機能することができる。
【0082】
本発明は、限られた数の実施態様に関して説明されているが、ひとつの実施態様の具体的特徴は、本発明の他の実施態様に帰すべきものではない。単独の実施態様は、本発明の全ての態様を代表するものではない。一部の実施態様において、組成物又は方法は、本願明細書において言及されない多くの化合物又は工程を含み得る。別の実施態様においては、組成物又は方法は、本願明細書に列挙されない化合物又は工程を含まないか、もしくは実質的に無関係である。説明された実施態様からの変動及び修飾が存在する。最後に、本願明細書に開示された全ての数値は、用語「約」又は「およそ」が数値を説明するために使用されるかどうかにかかわらず、概数を意味すると解釈されるべきである。例えば米国特許第6,784,234号;第6,632,442号;第6,630,524号;第6,610,765号;第6,552,131号;第6,448,316号;第6,350,804号;第6,316,579号;第6,204,313号;第6,174,942号;第6,111,016号;第6,083,428号;第6,075,158号;第5,869,184号;第5,864,004号;第5,206,281号;第5,204,304号;及び、第4,246,169号は、修飾を伴う又は伴わずに、本発明の実施態様で使用することができる様々な組成物及び方法を開示している。従って前述の特許は全て、それらの全体が本願明細書に参照によって組入れられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式を有する、難燃剤:
【化1】

(式中、Z1及びZ2の各々は独立して、リン酸エステル基であり;
X1、X2、X3、X4及びX5の各々は、独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキルであるか、又はX1及びX2、X2及びX3、X3及びX4、もしくはX4及びX5は、ベンゾ基を形成し;並びに
アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル又はベンゾの各々は、置換又は非置換である。)。
【請求項2】
X1、X2、X3、X4及びX5の各々は独立して、水素である、請求項1記載の難燃剤。
【請求項3】
X3、X4及びX5の各々は、独立して水素であり;並びに、X1及びX2は一緒にベンゾ基を形成する、請求項1記載の難燃剤。
【請求項4】
前記リン酸エステル基が、下記式を有する、請求項1記載の難燃剤:
【化2】

(式中、R1及びR2の各々は独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキルであるか、又はR1及びR2が-O-P(=O)(-O-)-O-断片と共に複素環基を形成する場合には、複素環基の一部であり;並びに
アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、及び複素環基の各々は、置換又は非置換である。)。
【請求項5】
R1及びR2の各々が、独立してアリールである、請求項4記載の難燃剤。
【請求項6】
前記リン酸エステル基が、下記式を有するラジカル:
【化3】

からなる群より選択される、請求項4記載の難燃剤。
【請求項7】
Z1及びZ2の各々が、下記式:
【化4】

を有し、及びX1、X2、X3、X4及びX5の各々は独立して、水素である、請求項1記載の難燃剤。
【請求項8】
下記式を有するベンゾイルレゾルシノール化合物を:
【化5】

下記式を有するクロロリン酸:
【化6】

と、触媒又は酸受容体の存在下で反応する工程を含み、
ここでX1、X2、X3、X4及びX5の各々は独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキルであるか、又はX1及びX2、X2及びX3、X3及びX4、もしくはX4及びX5は、ベンゾ基を形成し;
R1及びR2の各々は独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキルであるか、又はR1及びR2が-O-P(=O)(-O-)-O-断片と共に複素環基を形成する場合には、複素環基の一部であり;並びに
アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、及び複素環基の各々は、置換又は非置換である、請求項4記載の難燃剤の調製法。
【請求項9】
前記反応が、不活性有機溶媒中で起こる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記不活性有機溶媒が、トルエン、ベンゼン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、エーテル、及びケトンからなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記触媒が、塩化マグネシウム、三塩化アルミニウム、四塩化チタン、及び二塩化亜鉛である、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記不活性有機溶媒が、トルエンである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記反応の温度が、100℃よりも高い、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記酸受容体が、有機塩基である、請求項8記載の方法。
【請求項15】
前記有機塩基が、トリエチルアミンである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記不活性有機溶媒が、塩化メチレンである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記反応の温度が、35℃よりも低い、請求項16記載の方法。
【請求項18】
下記式を有するベンゾイルレゾルシノール化合物:
【化7】

を、オキシ塩化リンと、酸受容体の存在下で反応することにより得られる難燃剤であり、
ここでX1、X2、X3、X4及びX5の各々は独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、もしくはヘテロシクロアルキルであるか、又はX1及びX2、X2及びX3、X3及びX4、もしくはX4及びX5は、ベンゾ基を形成し;並びに
アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクロアルキルの各々は、置換又は非置換である、難燃剤。
【請求項19】
前記反応が、不活性有機溶媒中で起こる、請求項18記載の難燃剤。
【請求項20】
前記不活性有機溶媒が、トルエン、ベンゼン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、エーテル、及びケトンからなる群より選択される、請求項19記載の難燃剤。
【請求項21】
前記酸受容体が、有機塩基である、請求項18記載の難燃剤。
【請求項22】
前記有機塩基が、トリエチルアミンである、請求項21記載の難燃剤。
【請求項23】
前記反応の温度が、35℃よりも低い、請求項22記載の難燃剤。
【請求項24】
ポリマー及び、請求項1記載の難燃剤を含有する、難燃剤組成物。
【請求項25】
前記ポリマーが、ポリカーボネート、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリアリレート、ポリメタクリレート、ポリエステル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンター ポリマー、耐衝撃性ポリスチレン、及びそれらの組合せ又はブレンドからなる群より選択される、請求項24記載の難燃剤組成物。
【請求項26】
前記難燃剤組成物が更に、増量剤、ファイバー、充填剤、カップリング剤、架橋剤、可塑剤、耐衝撃性改善剤、相溶化剤、粘着防止剤、防曇剤、老化防止剤、抗酸化剤、UV安定剤、オゾン劣化防止剤、酸掃去剤、加工助剤、界面活性剤、滑剤、可塑化剤、離型剤及び不粘着剤、成核剤、帯電防止剤、スリップ剤、化学発泡剤、蛍光増白剤、流動化剤、防臭剤、剥離剤、着色剤、抗微生物剤、及び防滴剤からなる群より選択される添加剤を少なくとも一種含有する、請求項24記載の難燃剤組成物。
【請求項27】
前記難燃剤組成物が、UV安定剤を実質的に含有しない、請求項24記載の難燃剤組成物。
【請求項28】
請求項24記載の難燃剤組成物を含有する製品。
【請求項29】
前記製品が、プラスチック製品、織物、木材及び紙製品、接着剤及び封止剤、並びにゴム製品、航空宇宙部品、自動車部品、ワイヤ、ケーブル、建築材、インテリア及び家具用材料、電気器具、電子部品、コンピュータ、及び事務機器からなる群より選択される、請求項28記載の製品。
【請求項30】
前記ポリマーが、ポリカーボネート、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリアリレート、ポリメタクリレート、ポリエステル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンター ポリマー、耐衝撃性ポリスチレン、及びそれらの組合せ又はブレンドからなる群より選択される、請求項28記載の製品。
【請求項31】
前記難燃剤組成物が更に、増量剤、ファイバー、充填剤、カップリング剤、架橋剤、可塑剤、耐衝撃性改善剤、相溶化剤、粘着防止剤、防曇剤、老化防止剤、抗酸化剤、UV安定剤、オゾン劣化防止剤、酸掃去剤、加工助剤、界面活性剤、滑剤、可塑化剤、離型剤及び不粘着剤、成核剤、帯電防止剤、スリップ剤、化学発泡剤、蛍光増白剤、流動化剤、防臭剤、剥離剤、着色剤、抗微生物剤、及び防滴剤からなる群より選択される添加剤を少なくとも一種含有する、請求項28記載の製品。
【請求項32】
前記難燃剤組成物が、実質的にUV安定剤を含有しない、請求項28記載の製品。

【公表番号】特表2008−520753(P2008−520753A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532697(P2007−532697)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/034409
【国際公開番号】WO2006/036891
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(394025751)インドスペック ケミカル コーポレイション (10)
【Fターム(参考)】