説明

難燃性ポリエステル樹脂組成物、難燃性ポリエステル繊維、難燃材および難燃性ポリエステル繊維の製造方法

【課題】従来、難燃効率が高いことから臭素系難燃剤および/または三酸化アンチモンとの併用系が幅広く樹脂の難燃化に利用されてきたが、残留汚染やダイオキシン生成など環境への負荷が懸念され、リン系難燃剤を中心とした非臭素系難燃剤の開発と代替が進んでいる。しかしながら、一般にリン化合物を中心とした難燃系は、固相でのカーボンチャーや発泡チャー生成により難燃効果を発揮するが難燃効率が劣っており、環境に優しい無機リン系難燃剤の高難燃化が切望されている。
【解決手段】熱可塑性ポリエステル樹脂と、無機赤リン、無機リン−窒素化合物および有機リン酸金属塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の無機リン系難燃剤と、1,2−ジフェニルエタン誘導体およびジイソプロピルベンゼンオリゴマーの少なくとも1種の難燃助剤を含み、前記無機リン系難燃剤の含有量は0.1〜12質量%であり、1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはイソプロピルベンゼンオリゴマーで示される前記難燃助剤の含有量が0.05〜5質量%である難燃性ポリエステル樹脂組成物、難燃性ポリエステル繊維、難燃材および難燃性ポリエステル繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度な難燃性および良好な物性を有する難燃性ポリエステル樹脂組成物およびそれを用いて得られる難燃性繊維に関する。さらに詳しくは、無機リン系難燃剤に加え、1,2−ジフェニル誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーからなる難燃助剤を含有し、かつ実質的にハロゲンフリーである難燃性ポリエステル樹脂組成物、難燃性ポリエステル繊維、難燃材および難燃性ポリエステル繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)は、その力学特性、耐熱性、成形性、耐薬品性などのバランスに優れ、かつ安価であることから、繊維、フィルム、PETボトルに代表される成形品や包装材として極めて広い用途を有している。更に、近年、資源の再利用の面から、使用後のポリエステル製品、あるいは成型工程で発生したポリエステル屑を回収し得られた再生ポリエステル樹脂を、繊維やPETボトルの原料として再使用するようになって来た。
【0003】
このような需要が高まるなかで、熱可塑性ポリエステルは燃焼しやすいという欠点を有し、近年火災や環境に対する認識の高まりと共に、環境に優しい難燃化が強く要望されている。従来、難燃効率が高いことから臭素系難燃剤および三酸化アンチモンとの併用系が幅広く利用されてきたが、残留汚染やダイオキシン生成など環境への負荷が懸念され、リン系難燃剤を中心とした非臭素系難燃剤の開発と代替が進んでいる。しかしながら、リン化合物を中心とした難燃系は、気相で有効な難燃効果を発揮する臭素系難燃剤および三酸化アンチモン併用系とは異なって、固相でのカーボンチャーや発泡チャー生成により難燃効果を発揮すると言われているが、臭素系難燃剤に比較して難燃効率が劣っている。環境に優しいよりいっそう高難燃系難燃剤の開発が切望されている。
【0004】
熱可塑性ポリエステル樹脂および熱可塑性ポリエステル繊維を難燃化する試みは、従来から様々な検討がなされており、特に繊維の場合には高難燃化と物性維持の両立が難しく、難燃剤との共重合により得られる共重合ポリエステルを用いる方法、難燃剤をポリエステルに練り込み紡糸する方法、繊維製品を後加工で難燃化する方法などの様々な方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、有機リン化合物を共重合して得られる共重合ポリエステルと回収ポリエステルとを混合した原料を用いて紡糸、または紡糸および延伸して得られる難燃ポリエステル繊維の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、チップ製造工程および/またはフィルム製造工程において、回収し得られた再生ポリエステル樹脂およびポリエステル樹脂にホスフィンオキシド、ホスホネート、ホスフィネートなどの有機リン化合物を添加して得られるポリエステル樹脂組成物を溶融混合し繊維状に紡出させて得られる難燃性再生原着ポリエステル繊維が開示されている。
【0006】
また例えば、特許文献3には、無機赤リンまたは樹脂被覆した無機赤リンを含む樹脂組成物を溶融紡糸して得られる難燃性ポリエステル繊維が開示され、さらに特許文献4には、ポリリン酸アンモニウムを含む樹脂組成物を溶融紡糸して得られる難燃性ポリエステル繊維が開示されている。別途、特許文献5には、熱可塑性樹脂で被覆されたポリリン酸アンモニウム含有物質を、紡糸後の繊維製品に処理工程で含有させる難燃性繊維製品が開示されている。
【0007】
一方、1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロプロピルベンゼンオリゴマーは主にプラスチック成形品製造において利用され、臭素系難燃剤や有機リン系難燃剤との併用による熱可塑性樹脂の難燃助剤として、またエンジニアリング樹脂の高温架橋剤として用いる報告がある。例えば、特許文献6には、芳香族ポリエステル樹脂、特定の有機リン化合物、特定のビスクミル化合物(1,2−ジフェニルエタン誘導体)、難燃改良樹脂および充填剤からなる難燃性樹脂組成物およびそれから得られる成型品が開示され、また特許文献7には、臭素系難燃剤、1,2−ジフェニルエタン誘導体およびフタロシアニン錯体もしくはナフタロシアニン錯体を含むプラスチック用難燃剤組成物が開示されている。特許文献8には、ポリエステル系樹脂と、1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーのラジカル発生剤と、分子中に少なくとも2個以上の炭素間二重結合を有する多官能モノマーとからなるポリエステル系樹脂組成物、及びそれを220〜320℃の温度で加熱・架橋して得られる架橋型ポリエステル系樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−54026号公報
【特許文献2】特開2007−254905号公報
【特許文献3】特開2001−279073号公報
【特許文献4】特開2008−202152号公報
【特許文献5】特開2001−262466号公報
【特許文献6】特開2003−34749号公報
【特許文献7】特開2006−70138号公報
【特許文献8】特開2001−19835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に示す共重合ポリエステルを用いる方法や、特許文献2に示す有機リン化合物を練り込んで紡糸する方法は、有機リン化合物を難燃剤として用いるものであり、臭素系難燃剤に比較して難燃効率が著しく低く、多量に用いた場合には有機リン化合物が熱可塑性ポリエステル樹脂に相溶することによる樹脂および繊維の物性低下や難燃剤の樹脂および繊維の表面への析出が問題となる。特に、共重合ポリエステルは、ポリエステルの基本骨格に難燃成分が取り込まれているため、ポリエステル自身の物性を低下させる。また、特許文献3に示す無機赤リンや、特許文献4に示すポリリン酸アンモニウムのような無機リン系難燃剤は、樹脂との相溶性および均一分散性に乏しく、有機リン化合物に比較して、難燃効率は高くなるものの紡糸性、安定した難燃性能および高品質を要求される用途にはまだ十分満足なものが得られていない。
【0010】
また、特許文献5に示すように、ポリエステル繊維を紡糸した後に難燃化処理する方法では処理が煩雑であったり、不均一であったり、又繊維の風合いを粗硬にしたり、洗濯などで難燃性が低下するなど種々の欠点を有する。難燃化が不均一な場合には十分な難燃効果や長期間安定な繊維製品を得ることはできず、使用時の安全面および品質面でも支障を来たす。特に、自動車用内装材として用いる場合には、バインダーや多量の難燃剤を使用しなければならないため、自動車の重量増加による燃費増となる。その上、使用後のポリエステル繊維製品を再利用する場合には、難燃剤のバインダーとして用いる異種ポリマーの分離の問題が生じる。
【0011】
練り込み方式で、樹脂組成物に難燃剤を加えて難燃性能を発現させる場合、満足な性能の難燃繊維を得るためには難燃剤の使用量を増やす必要がある。しかしながら、多量の難燃剤を原料樹脂組成物に加える場合には、溶融紡糸の段階において糸形成が困難になること、溶融紡糸および延伸の過程において難燃剤が繊維の表面に析出すること、また糸切れが多発し生産性を著しく低下させること、さらに繊維樹脂成分が本来持っている性質が著しく損なわれ満足な繊維物性を得られないことなどの多くの好ましくない問題や現象が生じ、添加量が制限される。
【0012】
例えば、ポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸し延伸倍率を4倍にして、単糸繊度が2〜220デシテックスの繊維を得ようとする場合、未延伸糸の繊維径は28〜280μm、延伸糸の繊維径は14〜140μmとなる。このように繊維径が非常に細いものであるため、練り込み方式で使用される難燃剤には、難燃性能だけでなく、紡糸工程における繊維樹脂成分への溶解性や分散性、繊維表面への非析出性、延伸工程における延伸性などプラスチック成形よりもより厳しい性能が求められる。また、プラスチック成形品に比較して酸素と接触する表面積が著しく増加することから燃焼し易くなり、より高活性な難燃系を必要とする。プラスチックシートやフィルムなどの薄物成形品についても同様のことが言える。
【0013】
特許文献6には、特定の有機リン化合物と併用した場合、燃焼時において1,2−ジフェニルエタン誘導体が、プラスチックの成形における難燃助剤として有効であること、また特許文献7には、1,2−ジフェニルエタン誘導体が臭素系難燃剤との併用において有効であること、さらにまた特許文献8には、1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーが架橋助剤との併用において架橋剤として効果的であることが示されている。このように、これらの特許文献には、1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーが、有機リン化合物や、臭素系難燃剤との併用において有効であることが示されているが、固相と気相の両者での難燃作用を発現し難燃効果を高めること、特に無機リン系難燃剤との併用において効果的であることについての記載はない。
【0014】
プラスチック成形分野では、環境への負荷の大きな臭素系難燃剤やアンチモン併用系難燃剤の代替物質として、環境に優しいリン系難燃剤の開発と代替が進んでいるが、繊維や、フィルム、シート等の薄物成形品の分野においては十分に満足なものが得られていない。特に、無機リン系難燃剤は難燃効率が高いため、期待はされているものの樹脂との相溶性に乏しいことが大きな課題であり、相溶性の乏しい無機リン系難燃剤をいっそう活性化するような難燃系が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、無機リン系難燃剤との組み合わせによって難燃効率が高く、かつ環境に優しい難燃系を求めて詳細に検討した結果、固相において顕著な難燃効果を発揮する無機リン系難燃剤に、難燃助剤として気相での難燃効果を発揮する特定の1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーを併用することにより、優れた難燃性能を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の(1)〜(16)を提供するものである。
【0016】
(1)熱可塑性ポリエステル樹脂と、無機赤リン、無機リン−窒素化合物および有機リン酸金属塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の無機リン系難燃剤と、下記一般式(1);
【0017】
【化1】

【0018】
(ここで、R〜Rは炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは水素原子または炭素数1〜7のアルキル基である。)で示される1,2−ジフェニルエタン誘導体および下記一般式(2);
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、nは平均値として2〜50である。)で示されるジイソプロピルベンゼンオリゴマーの少なくとも1種の難燃助剤を含む難燃性ポリエステル樹脂組成物であって、
前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の総重量100質量%を基準として、前記無機リン系難燃剤の含有量は0.1〜12質量%であり、1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーで示される前記難燃助剤の含有量が0.05〜5質量%であり、かつ前記熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量が83〜99.85質量%であることを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【0021】
(2)前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の総重量100質量%を基準として、前記無機リン系難燃剤の含有量は0.5〜8質量%であり、1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーで示される前記難燃助剤の含有量が0.1〜4質量%であることを特徴とする上記(1)記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【0022】
(3)前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の総重量100質量%を基準として、前記無機リン系難燃剤の含有量は0.6〜5質量%であり、1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーで示される前記難燃助剤の含有量が0.12〜4質量%であり、かつ無機リン系難燃剤と難燃助剤の合計含有量が1.5〜6質量%の範囲であることを特徴とする上記(1)または(2)記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【0023】
(4)1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーで示される前記難燃助剤の分解ピーク温度が200℃以上および分解断片の沸点が400℃以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【0024】
(5)前記無機リン−窒素化合物が、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミンおよびホスファゼン類よりなる群から選ばれてなる少なくとも1種であり、前記有機リン酸金属塩がトリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウムである、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【0025】
(6)前記熱可塑性ポリエステル樹脂が再生ポリエステル樹脂を含む、上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【0026】
(7)前記難燃助剤が2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンおよび/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーである、上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【0027】
(8)前記ホスファゼン類が、フェノキシホスファゼン、プロポキシホスファゼンおよびジアミノホスファゼンよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種を基本骨格とした直鎖状化合物である、上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【0028】
(9)上記(1)ないし(8)記載の熱可塑性ポリエステル樹脂、無機リン系難燃剤および難燃助剤を含む難燃性ポリエステル樹脂組成物を溶融混合し、次いで溶融紡糸して得られることを特徴とする難燃性ポリエステル繊維。
【0029】
(10)上記(1)ないし(8)記載の無機リン−窒素化合物の分解温度が270℃以上である、上記(9)に記載の難燃性ポリエステル繊維。
【0030】
(11)上記(1)ないし(8)記載の無機リン系難燃剤の平均粒径が30μm以下の粉末である、上記(9)および(10)のいずれかに記載の難燃性ポリエステル繊維。
【0031】
(12)前記難燃性ポリエステル繊維の単糸繊度が、2.0〜220デシテックスである、上記(9)ないし(11)のいずれかに記載の難燃性ポリエステル繊維。
【0032】
(13)上記(1)ないし(7)記載の無機リン系難燃剤を含有するマスターバッチ、難燃助剤を含有するマスターバッチおよび熱可塑性ポリエステル樹脂からなる難燃性ポリエステル樹脂組成物を溶融混合し、次いで溶融紡糸することを特徴とする難燃性ポリエステル繊維の製造方法。
【0033】
(14)上記(1)ないし(7)記載の無機リン系難燃剤を含有するマスターバッチ、難燃助剤を含有するマスターバッチおよび熱可塑性ポリエステル樹脂からなる難燃性ポリエステル樹脂組成物を溶融混合し、乾式法で引き取り速度300〜1,000m/分、紡糸温度200〜300℃で溶融紡糸する、上記(13)記載の難燃性ポリエステル繊維の製造方法。
【0034】
(15)上記(9)ないし(12)のいずれかに記載の難燃性ポリエステル繊維または上記(13)または(14)のいずれかに記載の製造方法により得られる難燃性ポリエステル繊維を5〜100質量%含有する難燃材。
【0035】
(16)上記(15)に記載の難燃材を用いた自動車用内装材。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、無機リン系難燃剤に特定の1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーを難燃助剤として併用して、熱可塑性ポリエステル樹脂と共に混合し、難燃性ポリエステル樹脂組成物として練り込み、次いで溶融紡糸することにより、繊維の物性を損なわずに紡糸性、難燃性、着色性、耐光性、耐久性などに優れる難燃性繊維および難燃材が得られる。特に、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物への難燃剤の使用量が増えると、繊維物性の低下や、紡糸が困難となる場合が多いが、本発明では気相において有効な難燃効果を示す難燃助剤を少量添加することにより難燃剤との相乗効果が得られ、難燃剤の使用量を少なくできる。さらに原料として再生ポリエステル樹脂を利用するなどしてその利用範囲を拡大できる。また、本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物は、繊維だけでなくプラスチックの製造にも利用することができる。特に、シート、フィルムのような多量の難燃剤の添加が困難で、燃え易い薄物成形品の製造に有用である。
【0037】
本発明に用いる難燃助剤である1,2−ジフェニルエタン誘導体、ジイソプロピルベンゼンオリゴマー、無機リン系難燃剤と当該難燃助剤との併用系およびこれらを用いて得られた製品は、毒性が低く、環境負荷の少ない環境に優しいものであり、製造工程において、または繊維製品使用後に廃棄物として処理する場合にも、環境負荷の少ない優れた製品となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンの温度−減量曲線および微分曲線である。
【図2】2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンの30%マスターバッチの温度−減量曲線および微分曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、無機リン系難燃剤および熱可塑性ポリエステル樹脂を含む難燃性ポリエステル樹脂組成物を溶融紡糸して得られる繊維、または成形加工して得られるシート、フィルム等の薄物成形品において、当該樹脂組成物に特定の1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーを含むことを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂組成物、ならびにこれらを用いて得られる難燃性ポリエステル繊維および成形品に関する。前記難燃性ポリエステル樹脂組成物の総重量を基準として、前記無機リン系難燃剤の含有量は0.1〜12質量%であり、前記の1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーの含有量は0.05〜5質量%であり、ならびに前記熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量は86〜99.85質量%である。なお、本明細書において、特に注記しない限り、「〜」で示す数値範囲は上限と下限を含むものとする。例えば、「0.1〜12質量%」は「0.1質量%以上、12質量%以下」を意味するものとする。
【0040】
本発明の難燃助剤として用いる特定の1,2−ジフェニルエタン誘導体としては、下記一般式(1):
【0041】
【化3】

【0042】
(ここで、R〜Rは炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは水素原子または炭素数1〜7のアルキル基である。)で示される化合物およびジイソプロピルベンゼンオリゴマーとしては、下記一般式(2):
【0043】
【化4】

【0044】
(ここで、nは平均値として2〜50である。)で示される化合物である。燃焼が立ち上がる350〜400℃の温度において著しいC−C結合開裂が起こり、分解断片がガス化するものである。1,2−ジフェニルエタン誘導体およびイソプロピルベンゼンオリゴマーの分解ピーク温度は200℃以上、好ましくは220〜350℃で、かつ分解断片の沸点は400℃以下、好ましくは0〜350℃であることが好ましい。分解ピーク温度が200℃未満であると練り込み溶融紡糸時に著しい分解が起こり、また分解断片の沸点が400℃を超えると燃焼が立ち上がる時にガス化し難いため、気相での難燃効果を発揮できない。また、上記分解ピーク温度の上限値は特に制限されるものではないが、350℃を超える場合には、気相での難燃成分(分解断片)濃度が低すぎて十分な難燃効果を発揮できない。上記分解断片の沸点の下限値も特に制限されるものではなく、分解ピーク温度との兼ね合せで決まる。すなわち、燃焼が立ち上がる350〜400℃の温度のときに、適切な濃度の難燃成分(分解断片)が気相中に存在することが必要である。従って、沸点の下限値は、炭素数最小の第3級炭化水素であるイソブタンの沸点−12℃であるが、気相での濃度をある程度維持するために、好ましくは0℃である。
【0045】
本発明の難燃助剤において、一般式(1)に示される化合物としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジメチル−2,3−ジ(p−メチルフェニル)ブタン、2,3−ジエチル−2,3−ジ(p−メチルフェニル)ブタン、2,3−ジメチル−2,3−ジ(p−クロロフェニル)ブタンなどがあり、一般式(2)に示される化合物としては、m−ジイソプロピルベンゼンオリゴマー、p−ジイソプロピルベンゼンオリゴマー、m−、p−混合ジイソプロピルベンゼンオリゴマーなどがある。これらの化合物は、一般には、ジ−t−ブチルペルオキシドのような有機過酸化物と、クメン、ジイソプロピルベンゼン等の芳香族環のα−位炭素原子に第3級水素を有する芳香族炭化水素の酸化的再結合によって得られるが(特許文献8参照)、それに限定されず、他の既知の方法も利用できる。
【0046】
本発明の難燃助剤の分解ピーク温度は、難燃助剤の熱重量分析における温度−減量曲線を微分して得られる減量ピーク温度および下記一般式(3)および(4)の分解反応;
【0047】
【化5】

【0048】
【化6】

【0049】
における標準生成熱の差から、下記の式(5)および(6);
【0050】
【数1】

【0051】
(ここで、Eは求める難燃助剤の分解における標準生成熱の差、Eは標準となる難燃助剤の標準生成熱の差、Tは求める難燃助剤の分解温度、Tは標準となる難燃助剤の分解温度である。)により推算できる。また分解断片の沸点は相当する単環芳香族炭化水素の沸点の実測値、または下記の式(7);
【0052】
【数2】

【0053】
(ここで、tは標準沸点(℃)、nは芳香族炭化水素の炭素数、aおよびkは定数であり、単環芳香族炭化水素の場合には、a=680、k=−614.4である。)で求めた標準沸点によって推算できる。一般式(1)に示す化合物(30%マスターバッチ)の分解ピーク温度および分解断片の沸点としては、例えば、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(分解ピーク温度:実測値233℃、分解断片(クメン)の沸点:実測値および推算値152℃)、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン(分解ピーク温度:推算値202℃、分解断片の沸点:推算値193℃)、2,3−ジメチル−2,3−ジ(p−メチルフェニル)ブタン(分解ピーク温度:推算値240℃、分解断片の沸点:推算値173℃)、2,3−ジエチル−2,3−ジ(p−メチルフェニル)ブタン(分解ピーク温度:推算値210℃、分解断片の沸点:推算値211℃)であり、一般式(2)のジイソプロピルベンゼンオリゴマーの分解ピーク温度は、241℃(推算値)および265℃(実測値)、分解断片(ジイソプロピルベンゼン)の沸点は211℃(推算値)である。ここで、推算値と実測値の双方が求められ、尚且つ双方に差がある場合には、実測値を採用するものとする(詳しくは、後述する参考例を参照のこと)。これらのなかで、特に2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンは、分子量が小さいため重量当たりの難燃効率が良く、かつ結晶性が高いため、樹脂表面へのブルーミングも少ないことから好ましい。また、ジイソプロピルベンゼンオリゴマーは、高分子量物質であることから初期において様々な部位での分解が起こり、沸点の異なる様々な分解断片を生成する。分解ピーク温度も高く、広範囲な温度領域において分解断片を供給でき、気相での難燃化に有効な成分を広範囲の燃焼温度において供給できる。さらにまた、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンとの併用により、より優れた難燃効果を発揮できる。
【0054】
本発明に用いる難燃助剤は、燃焼が立ち上がる350〜400℃の温度において著しいC−C結合の開裂が起こり、同時にガス化し、安定な第3級炭素ラジカルを生成する(式3および4参照)。生成する安定な第3級炭素ラジカルは燃焼を継続発展させる活性ラジカルを補足して燃焼連鎖を停止、また燃焼に必要な燃焼雰囲気下での酸素濃度を減少させるなどして、無機リン系難燃剤の固相におけるチャー生成による難燃作用との相乗効果を発揮する。特に、ガス化することにより生成した分解断片は、広範囲な燃焼雰囲気に均一に分散することにより、少量添加によって効率的な安定した難燃効果を発揮することができる。
【0055】
本発明の無機リン系難燃剤は無機赤リン、無機リン−窒素化合物および有機リン酸金属塩からなるものであり、有機リン化合物に比較して、難燃作用を示すリン原子濃度を高くすることができ、かつ熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性に乏しいため、溶解することによる樹脂自身の物性を低下させることがない。
【0056】
無機赤リンは、合成樹脂などの難燃剤として一般に用いられる無機赤リンを使用することができ、一般に、無機赤リンは、転化釜と称する反応容器中で黄リンを数日間加熱処理して得られる塊状物を粉砕処理し粉末化して得られる。しかし、このように処理した粉末状赤リンは熱、摩擦、衝撃などの外部刺激に対して不安定な場合があり、物理的または化学的な表面処理を施すことによって、または、黄リンからの熱転化の際に、分散剤を用いることによって安定化することができる。本発明にはこれらすべての形態の無機赤リンを使用することができるが、安定した難燃繊維および薄物成形品を得るためには、無機赤リン粉末の平均粒径は10μm以下、好ましくは0.5〜10μmであり、かつ80質量%以上が粒径20μm以下の粒子で構成されていることが好ましい。かかる無機赤リン粉末の粒径及び平均粒径は、動的光散乱法、レーザー回折・散乱法等の粘度分布測定装置を用いる方法や、エアージェットシーブによるふるい分け等の既知の方法を利用し測定ないし算出することができる。無機赤リン粉末の粒径20μm以下の粒子の質量割合(質量%)は、例えば、20μm以下の粒子が通過する網目のふるいを用いて算出することができる。更に、無機赤リンを樹脂で被覆し熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性を高め、製造時の安全性および安定性、ならびに繊維製品の信頼性を高めることができる。かような樹脂被覆の方法としては、合成樹脂などを用いるなど公知の方法が利用できる。
【0057】
本発明に用いる無機赤リンは、上述のように公知の文献などの製造方法によって得られるものすべてを使用できるほか、市販品を使用することができる。該市販品としては、ノーバレット(製品名、燐化学工業株式会社製)およびヒシガード(製品名、日本化学工業株式会社製)がある。
【0058】
また、本発明の無機リン系難燃剤として用いる無機リン−窒素化合物としては、ポリリン酸アンモニウムおよびポリリン酸メラミンのようなポリリン酸塩ならびにホスファゼン類があり、これらを単独または併用して使用することができる。
【0059】
本発明で用いられるポリリン酸アンモニウムは、下記一般式(8);
【0060】
【化7】

【0061】
(式中、nは10以上の整数であるが、好ましくは300以上であり、より好ましくは500以上、特に好ましくは1,000〜10,000である。)で表される化合物であり、I〜VI型の6種類の結晶構造が知られている。本発明では、これらのI〜VI型のいずれのポリリン酸アンモニウムであっても使用することができるが、分解温度の高いII型のポリリン酸アンモニウムがより好ましい。重合度(n)が10以上であれば分解温度が著しく低下することがないため好ましい。また、重合度(n)の上限は特に制限されないが、重合度が余りにも大きくなると製造するのが難しくなると共に、分岐が多くなり繊維樹脂成分への均一な分散に支障をきたすため好ましくない。一般にポリリン酸アンモニウムは、リン酸、リン酸アンモニウムあるいはアミドリン酸アンモニウムなどに、尿素のようなアミド化合物や炭酸アンモニウムを脱水縮合剤またはアンモニア化剤として加え、反応させることにより得られる。
【0062】
本発明で用いられるポリリン酸メラミンとは、メラミンとオルトリン酸、ピロリン酸、またはポリリン酸とを実質的に等モル反応させて形成されるメラミン付加物を意味する。ポリリン酸メラミンの製造方法としては、オルトリン酸メラミンを加熱、焼成、縮合する方法、ポリリン酸およびメラミンから得る方法、オルトリン酸とメラミンから得る方法、メラミン、リン酸アンモニウムおよび尿素から得る方法などの各種方法が提案され、特開2004−010649号公報および特開2004−155764号公報に詳細に記載されている。ポリリン酸メラミンのなかでも、ピロリン酸との反応性生成物を、特にピロリン酸メラミンと呼んで区別しているが、これも含まれる。
【0063】
本発明で用いられるホスファゼン類としては、ホスファゼン骨格を有する化合物であれば従来公知のものを特に制限なく使用できる。例えば、環状ホスファゼン化合物および鎖状ホスファゼン化合物があり、具体的には、環状および鎖状のフェノキシホスファゼン、プロポキシホスファゼン、ジアミノホスファゼンなどがあり、これらのホスファゼン類の中でも、基本骨格として直鎖状化合物で、リン原子濃度10質量%以上、好ましくは10〜50質量%のものが好ましい。特に、ホスファゼン類は、一般に融点が低く、熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性および/または分散性が悪く、紡糸時に均一に混合するのが困難であり、かつブリードの問題が生じる場合がある。このため、マスターバッチ化して使用するか、あるいは他の難燃剤と併用して使用するのが好ましい。
【0064】
これらのホスファゼン類の製造方法は特に制限されず、従来公知の方法が用いられ得る。例えば、上記環状ホスファゼン化合物および鎖状ホスファゼン化合物は、従来公知の方法に従い、ジクロロホスファゼン化合物から製造することができる。ジクロロホスファゼン化合物は、クロルベンゼンを溶媒とし、塩化アンモニウムと五塩化リン(又は塩化アンモニウムと三塩化リンと塩素)とを、120〜130℃程度で反応させて、脱塩酸化させ、反応生成物を精製すればよい。
【0065】
本発明に用いる無機リン−窒素系化合物は、上述のように公知の文献などの製造方法によって得られるものすべてを使用できるほか、市販品を使用することができる。該市販品としては、テラージュ(製品名、ブーデンハイム・イベリカ社製)、FR CROS(製品名、ブーデンハイム・イベリカ社製)、ファイアカットP−770およびP−760(製品名、(株)鈴裕化学製)、Pekoflam TC204およびTC−CS(製品名、クラリアント社製)、M−PPA(製品名、(株)三和ケミカル製)、Budit(製品名、クラリアント社製)、ファイアカットCLMP(製品名、(株)鈴化裕学製)、環状型のシクロホスファゼンオリゴマー(製品名、大塚化学(株)製)、直鎖型のポリホスファゼン(製品名、大塚化学(株)製)などがある。
【0066】
本発明に用いる無機リン−窒素系化合物の中でもポリリン酸塩の分解は、比較的低い温度でアンモニア等の発生を伴う分解が起こり、このポリリン酸塩などの無機リン−窒素系化合物の分解温度は、示差走査熱量計、示差熱分析装置、熱重量測定装置などを用いる熱分析によって求めることができる。具体的には、分解温度は、ガス発生に基づく5%重量減が起こる温度とし、またそれに相当するガス発生に基づく吸熱ピークにおけるベースラインと吸熱ピーク立ち上がりの交点温度とする。本発明に用いられる無機リン−窒素化合物の分解温度は熱可塑性ポリエステル樹脂の融点以上の温度、通常は250℃以上であるが、特に好ましくは、270℃以上である。分解温度の上限は特に制限されるものではないが、一般に、分解温度は重合度や結晶性と共に増加することが知られており、重合度が高く結晶性の良いものが好ましい。
【0067】
本発明に用いられる無機リン−窒素化合物は通常、粉体のものが用いられ、粉末の平均粒径は30μm以下であることが好ましく、より好ましくは該粉末の平均粒径10μm以下、特に好ましくは0.5〜10μmの範囲である。粉末の平均粒径が30μm以下であれば、無機リン−窒素系化合物をそのまま熱可塑性ポリエステル樹脂に混合し、均一に分散することができ、この際、粒径が小さいほど分散性は良くなる。したがって、粉末の平均粒径の下限に関しては、特に制限されるものではない。ただし、0.5μm以上であれば、粉塵化し難く、取り扱い性がよく、粉末同士の凝集を防止して単分散し易いことなどから好ましい。かかる無機リン−窒素化合物粉末の粒径及び平均粒径は、動的光散乱法、レーザー回折・散乱法等の粘度分布測定装置を用いる方法や、エアージェットシーブによる篩い分け等の既知の方法を利用し測定ないし算出することができる。なお、上記粉末は、粒度分布が均一であることが望ましく、篩い分けなどにより、所定のメッシュサイズ、例えば、2種のメッシュサイズの篩を用いて粒度分布が狭く、粒径が揃ったものに調整されたものなどを利用してもよい。また、無機リン−窒素系化合物の粒子表面をメラミン、シリコンなどの樹脂で被膜したものを用いることができる。このことにより樹脂との相溶性および分散性を高めることができるだけでなく、特にポリリン酸塩の場合には、加水分解や熱分解をも抑制することができ、紡糸性能や難燃性能を著しく向上させ得る。
【0068】
本発明に用いられる無機リン−窒素系化合物は、通常は無色あるいは白色の粉体であるため、着色剤による繊維および薄物成形品の着色に悪影響を及ぼすことがない。また難燃性能を発揮する官能基として、無機リン官能基だけでなく窒素官能基を併せもっており、窒素官能基は、リン官能基だけでは発揮できない難燃効果を発現でき、リン化合物だけでは不足する難燃性能を補うことができる。
【0069】
本発明に用いる有機リン酸金属塩として、例えば、ジアルキルホスフィン酸の金属塩が挙げられる。これらの化合物は、アルキル亜スルホン酸および/またはホスフィン酸および/またはそれらのアルカリ金属塩を遊離基開始剤の存在下にオレフィンと反応させてジアルキルホスフィン酸および/またはそれらのアルカリ金属塩を得、さらにマグネシウム、カルシウム、アルミニウム、チタン、亜鉛、鉄等の金属化合物と反応させて、これらの金属のジアルキルホスフィン酸塩が得られる。具体的には、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウム、トリス(メチルエチルホスフィン酸)アルミニウム、トリス(ジフェニルホスフィン酸)アルミニウム、ビス(ジエチルホスフィン酸)亜鉛、ビス(メチルエチルホスフィン酸)亜鉛、ビス(ジフェニルホスフィン酸)亜鉛、ビス(ジエチルホスフィン酸)チタニル、テトラキス(ジエチルホスフィン酸)チタン、ビス(メチルエチルホスフィン酸)チタニル、テトラキス(メチルエチルホスフィン酸)チタン、ビス(ジフェニルホスフィン酸)チタニル、テトラキス(ジフェニルホスフィン酸)チタンなどを挙げることができるが、これに限定されず公知のもの(特開2005−325358号公報、特開2009−149862号公報等に記載の化合物)、または市販のもの、例えば、Pekoflam STC(製品名、クラリアント社製)を用いることができる。これらの難燃剤のなかで、特に、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウムは、リン含有量が高く、かつアルミニウムを含む不燃成分の割合も高く好ましい。
【0070】
本発明に用いられる有機リン酸金属塩は通常、粉体のものが用いられ、粉末の平均粒径は30μm以下であることが好ましく、より好ましくは該粉末の平均粒径10μm以下、特に好ましくは0.5〜10μmの範囲である。粉末の平均粒径が30μm以下であれば、有機リン酸金属塩をそのまま熱可塑性ポリエステル樹脂に混合し、均一に分散することができ、この際、粒径が小さいほど分散性は良くなる。したがって、粉末の平均粒径の下限に関しては、特に制限されるものではない。ただし、0.5μm以上であれば、粉塵化し難く、取り扱い性がよく、粉末同士の凝集を防止して単分散し易いことなどから好ましい。かかる有機リン酸金属塩の粒径及び平均粒径は、動的光散乱法、レーザー回折・散乱法等の粘度分布測定装置を用いる方法や、エアージェットシーブによる篩い分け等の既知の方法を利用し測定ないし算出することができる。
【0071】
難燃剤および難燃助剤は、熱可塑性ポリエステル樹脂にとっては異物として認識され、成形加工過程での薄物成形品の製造、または紡糸および延伸過程での糸の形成において、さらに薄物成形物または繊維製品の物性において著しい悪影響を及ぼす。特に、十分な難燃性を付与するためには難燃剤を樹脂成分に対して相当量を使用する必要がある。このため、難燃剤の影響は大きく、通常のプラスチック成形と比較して、薄物成形品および繊維の難燃化には難燃剤に対してより厳しい条件が要求され、少量添加でより難燃効果のある難燃剤および難燃系が望まれる。
【0072】
また、燃焼時における難燃剤の作用機構も様々であり、気相での難燃作用と固相での難燃作用とは全く異なるものである。気相では燃焼の連鎖を停止するものや燃焼に必要な酸素濃度を低減するものが難燃剤として好まれる。一方、固相ではチャー形成によって燃焼成分の表面を被覆するもの、イントメッセント(表面膨張層)形成により燃焼時の熱伝導率を減少させるものが難燃剤として望まれる。本発明で用いる無機リン系難燃剤は、固相では網目状のリン酸エステルからなるチャーを形成し、顕著な難燃性能を発現する。さらに、本発明に用いられる無機リン−窒素化合物は、燃焼時に分解することにより窒素成分に基づくガスを発生する。このため、固相においてチャー形成に役立ち、優れた難燃剤となると共に、気相においても燃焼連鎖の停止や酸素濃度の低減による難燃化を促進する。一方、無機赤リンおよび有機リン酸金属塩は、気相で有効に作用するガスの発生に乏しく、本発明に用いられる難燃助剤の併用が、特に有効である。
【0073】
難燃剤中のリン原子含有量や窒素原子含有量、また金属原子等の不燃成分量は、難燃性能に大きく影響を及ぼすため重要である。本発明に用いられる主な難燃剤成分のリン原子含有量および窒素原子含有量の理論値を示すと、ポリリン酸アンモニムでは、それぞれ31.9%および14.4%、ポリリン酸メラミンでは、それぞれ15.0%および40.8%、ピロリン酸メラミンでは、それぞれ14.4%および39.1%、フェノキシホスファゼンでは、それぞれ13.4%および6.1%、プロポキシホスファゼンでは、それぞれ19.0%および8.6%、ジアミノホスファゼンでは、それぞれ40.2および54.6%である。また、無機赤リンは、リン原子のみで形成されているため、リン原子含有量は100%および窒素原子含有量は0%であり、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウムのリン原子含有量は23.8%およびアルミニウム原子含有量は6.9%である。このため、無機赤リンのリン原子含有量は格段に高い値を示し、難燃効果の優れた難燃剤であるとことがわかる。次いで、ジアミノホスファゼン、ポリリン酸アンモニウムおよびトリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウムは、リン含有量が高く、使用量当たりの難燃効果に優れる。特に、ポリリン酸アンモニウムは白色粉末で取り扱いが容易であり、リン原子含有量および窒素原子含有量のバランスが良く、またトリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウムは分解温度が高く、耐熱性および耐水性に優れているので、これらの無機リン系難燃剤は、無機赤リンに次いで優れた難燃剤と言える。
【0074】
さらに、難燃剤は難燃性能に加えて、熱可塑性ポリエステル樹脂成分中に均一に分散すること、および著しい分解を起こさないことが必要とされる。分解によって生成する酸基は、エステル化合物の加水分解や熱分解、脱水反応、エステル交換反応などの様々な反応における触媒として作用するため、少量であっても大きな影響を及ぼす場合が多く、使用に当たっては注意が必要である。特に、無機リン系難燃剤は、熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性が悪いので、樹脂表面への析出や突起物の生成が問題となる。樹脂表面への突起物については、難燃剤の粒径が同じでも成形加工時における形状が重要であり、難燃剤自身が成形加工時に柔軟な構造をもつことにより変形し易いものが好ましい。このため、難燃剤の選択には、リン原子含有量、窒素原子含有量および不燃成分量に加えて、分解温度、分子量、粒径、粒度分布、成形加工時での形状(線形、分岐および架橋など構造的なものを含む)および樹脂との相溶性および分散性が重要な因子となる。
【0075】
次に本発明で使用する熱可塑性ポリエステル樹脂について説明する。本発明で使用する熱可塑性ポリエステル樹脂としては特に制限はなく、熱可塑性であればその構成成分を問わずいずれのポリエステル樹脂も使用することができる。本発明は、無機リン系難燃剤に難燃助剤を併用することにより、極めて優れた難燃性を樹脂に付与できることを見出したものである。したがって、得られた難燃性ポリエステル樹脂組成物を用いて成形できるもの、または紡糸および延伸して繊維を製造できるものであれば、湿式、乾式に限らず、公知の方法が利用できる。また、熱可塑性ポリエステル樹脂に限ったのは、熱可塑性であれば廃棄ポリエステルを再利用することができるからである。
【0076】
このような熱可塑性ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ビス−(4−カルボキシフェニル)スルホン、ビス(4−カルボキシフェニル)エーテル、1,2−ビス(4−カルボキシフェニル)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ジフェニル−p,p’−ジカルボン酸、p−フェニレンジ酢酸、およびtrans−ヘキサヒドロテレフタル酸ならびにそれらのアルキルエステル、アリールエステル、およびエチレングリコールエステルなどが挙げられる。一方、グリコール成分としては、エチレングリコール、ブチレングリコール、1,2−プロピレングリコ−ル、1,4−ブタンジオール、トリメチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールや、ビスフェノールA、およびビスフェノールSならびにそのエチレングリコール、ポリエチレングリコール付加体、ジエチレングリコールおよび、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。さらに、ポリ乳酸類のようなヒドロキシカルボン酸の縮合型ポリエステル樹脂を使用することができる。これらの中でも特に、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂としては、大量に使用され安価に入手できるポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、これらの熱可塑性ポリエステル樹脂は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
上記熱可塑性ポリエステル樹脂の数平均分子量は特に制限されないが、1,000〜100,000であることが好ましく、5,000〜50,000であることがより好ましい。1,000以上であれば糸形成が可能であり、また、100,000以下であれば粘度の上昇を抑制できるため溶融紡糸が容易である。なお、上記の数平均分子量は例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。通常、上記の数平均分子量は測定が簡単な固有粘度で代用することができ、固有粘度では、0.05〜2.53であり、好ましくは、0.19〜1.40となる。
【0078】
また、本発明では、該熱可塑性ポリエステルとして使用後に廃棄されたものや、工業製品を製造する際の端材を利用することもできる。すなわち、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂は再生ポリエステル樹脂を含む。なお、本発明において、廃棄ポリエステル樹脂とは、使用済みポリエステル樹脂、使用前であるが規格外れ品であって、製品として使用されないものなど、製品以外のポリエステル樹脂を広く含むものとする。このような廃棄ポリエステル樹脂としては、合繊メーカー、フィルムメーカー、ペットボトル製造業者、ポリエステル重合メーカーからでる端材や基準グレードを下回るポリエステル樹脂、一般廃棄物の容器包装リサイクル法によって得られるポリエステル樹脂が例示できる。これにより本来廃棄され、または焼却処理の対象となるべき廃材をマテリアルリサイクルすることができ、環境保全に寄与すると共に経済的にも有利である。
【0079】
本発明で用いられる難燃性ポリエステル樹脂組成物では全ての難燃性ポリエステル樹脂がこのような廃棄ポリエステル樹脂であっても何ら差し支えない。むしろ全ての熱可塑性ポリエステル樹脂が使用済みのものであれば、廃材を原料成分として有効利用できると共に、本来焼却されるものを焼却せずに済むため、二酸化炭素の発生などを防止し、環境保全に寄与することができる。
【0080】
本発明に用いられる難燃性ポリエステル樹脂組成物において、ポリエステル樹脂組成物の総重量を基準として、無機リン系難燃剤の含有量は0.1〜12質量%、好ましくは0.5〜8質量%、より好ましくは0.6〜5質量%、難燃助剤の含有量は0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜4質量%、より好ましくは0.12〜4質量%、特に好ましくは0.3〜4質量%、なかでも好ましくは0.3〜3質量%であり、熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量は83〜99.85質量%、好ましくは88〜99.4質量%、より好ましくは91〜99.28質量%である。無機リン系難燃剤および難燃助剤が、それぞれ0.1および0.05質量%を下回ると樹脂に十分な難燃性能を付与することが困難となり、それぞれ10および5質量%を超えると紡糸が困難になったり、薄物成形品物性および糸物性が著しく低下したりするからである。さらに。上記組成物の各成分含有量に加えて、無機リン系難燃剤と難燃助剤の合計含有量が、好ましくは1.05〜9質量%、より好ましくは1.5〜6質量%の範囲であるのが望ましい。
【0081】
本発明に用いられる難燃性ポリエステル樹脂組成物は、無機リン系難燃剤および難燃助剤と、熱可塑性ポリエステル樹脂との割合が、上記割合を満たせばよい。また、これに加えて、成形加工性および薄物成形品特性、または紡糸性および繊維特性を損なわない範囲で、更に他の添加物を含ませることもできる。本発明の無機リン形難燃剤中に含まれうる添加物としては、有機リン化合物、臭素系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アンチモン、炭酸ナトリウムおよびこれらの混合物などのような他の難燃剤が挙げられる。また、本発明の樹脂組成物中に含まれうる添加物としては、有機、無機顔料等の着色剤、炭酸カルシウム、タルク等の遅燃剤、フタル酸エステル、リン酸エステル、脂肪族カルボン酸等の可塑剤、無機塩、金属石鹸等の安定剤、アルキルフェノール、アルキレンビスフェノール等の抗酸化防止剤、サリチル酸エステル、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤などがある。
【0082】
本発明に用いられる着色剤としては、有機顔料、無機顔料など公知のものが利用できる。例えば、アゾ系、アンスラキノン系、キナクリドン系、シアニングリーンおよびシアニンブルーからなるシアニン系、ジオキサジン系、α型フタロシアニンおよびβ型フタロシアニンからなるフタロシアニン系、ペリノン系、ベリレン系、ならびにポリアゾ系からなる有機顔料や、チタンイエロー、群青、酸化鉄、弁柄、亜鉛華、アナターゼ酸化チタンおよびルチル酸化チタンからなる酸化チタン系、ならびにカーボンブラック、グラファイト、スピリットブラック、チャンネルブラックおよびファーネスブラックからなるカーボン系の無機顔料が挙げられるが、これらに制限されるわけではない。通常はこれらの着色剤の中から適切な顔料を複数選び、適切な量を混合使用することよって難燃性成形品および繊維に所望の色づけを施すことができる。特に、繊維の場合には、着色剤を樹脂組成物として原料に直接配合することで、紡糸した繊維に耐光性を付与することができる。難燃材として自動車内装材に使用される場合には、常に光による劣化を受け易いため耐光性は極めて重要な要素である。
【0083】
本発明に用いられる樹脂組成物を調製するには、無機リン系難燃剤、難燃助剤および着色剤のマスターバッチを使用することが好ましい。例えば、予めマスターバッチ基材に無機リン系難燃剤、難燃助剤および/または着色剤を含有するマスターバッチを調製し、これらを混合し、さらに熱可塑性ポリエステル樹脂を混合溶融して調製する。マスターバッチと熱可塑性ポリエステル樹脂とを溶融混合するには特別の方法を採用する必要はなく、従来公知の方法を採用すればよい。例えば、溶融前の夫々のチップを混合後溶融しても良いし、両者を別々に溶融した後紡糸直前にスタティックミキサーなどを用いて静的に混合してもよい。ただし、マスターバッチを使用することなく無機リン系難燃剤、難燃助剤および着色剤を溶融混合してもよい。特に、樹脂被覆された難燃剤を使用する場合には、ポリエステル樹脂との相溶性に優れるために、特にマスターバッチを使用する必要はなく、直接にポリエステル樹脂中に混合溶融することができる。
【0084】
なお、無機リン系難燃剤および/または難燃助剤を含有するマスターバッチを使用する際には、無機リン系難燃剤および/または難燃助剤を該マスターバッチ中に5〜70質量%、より好ましくは10〜50質量%含有することが好ましい。5質量%以上であれば、無機リン系難燃剤および/または難燃助剤の配合量が十分な量であるためマスターバッチを使用する意義があり、その一方、70質量%以下であればマスターバッチの調製自体が困難となることもなく良好に調整することができる。
【0085】
無機リン系難燃剤および/または難燃助剤のマスターバッチに使用するマスターバッチ基材としては、熱可塑性樹脂であってポリエステル樹脂組成物中に配合された後に、該樹脂組成物の特性を失わないものであれば特に制限なく使用できる。具体的には、熱可塑性ポリエステル樹脂およびポリプロピレン系樹脂よりなる群から選ばれた少なくとも1種のものが好ましく、その中でもポリエチレンテレフタレート系ポリエステルやポリブチレンテレフタレート系ポリエステルを主成分として含むもの、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンブロックコポリマーなどが好ましい。なお、このようなマスターバッチは市販品を使用することができる。
【0086】
また、着色剤のマスターバッチにおいて、着色剤は該マスターバッチ中に1〜60質量%、より好ましくは10〜35質量%、特に好ましくは20〜30質量%含有される。1質量%以上であれば、着色剤の配合により所望の色を得ることができ、その一方、60質量%以下であれば着色剤を均一に混合することができる。マスターバッチに使用する樹脂(マスターバッチ基材)としては、無機リン系難燃剤および/または難燃助剤に用いたものと同様なもの、すなわち熱可塑性樹脂であってポリエステル樹脂組成物中に配合された後に、該樹脂組成物の特性を失わないものであれば特に制限なく使用でき、最も好ましいものとして、熱可塑性ポリエステル樹脂およびポリプロピレン系樹脂よりなる群から選ばれた少なくとも1種のものが使用できる。
【0087】
なお、無機リン系難燃剤、難燃助剤および着色剤のマスターバッチを難燃性原着ポリエステル繊維の原料として使用するに当たって、それぞれのマスターバッチを別々に製造し、紡糸時に混合することが好ましい。特に、無機リン系難燃剤および着色剤は、反応性の高い場合が多く、マスターバッチを製造するような高温度および高濃度においては、相互に反応し劣化や変色を起こしやすい。このため、特に繊維製品における微妙な色の発現に支障となり、品質トラブルの原因となる場合がある。また、マスターバッチに使用するマスターバッチ基材は、薄物成形品および繊維製品の物性の安定的な維持やリサイクル性を高めるためにも、できるだけ薄物成形品および繊維に用いる熱可塑性樹脂と同じもので、かつ単一材料を用いることが好ましい。
【0088】
さらに、該難燃性薄物成形品および難燃性ポリエステル繊維は、上記難燃性樹脂組成物を公知の成形加工方法および溶融紡糸方法によって繊維化して得ることができる。その際の形状は任意であり、特に繊維の場合の断面形状には、丸断面繊維、異形断面繊維、中空繊維などがある。
【0089】
本発明の第二は、難燃性ポリエステル樹脂組成物を溶融混合し、次いで溶融紡糸して得られる難燃性ポリエステル繊維に関するものであり、短繊維またはフィラメント等の繊維綿として、または該繊維綿を単に圧縮してフェルトとして使用し、またはそのまま難燃性充填材として使用することができる。この際、本発明の難燃性ポリエステル繊維の太さ(単糸繊度)は、1.0〜660デシテックスであることが好ましく、より好ましくは2.0〜220デシテックス、特に好ましくは3.3〜17.0デシテックスである。1.0デシテックス以上の太さ(単糸繊度)とすると糸切れの発生を抑制でき、その一方660デシテックス以下であれば、剛性によって加工が困難となることがない。また、このような短繊維またはフィラメントを単独または他の繊維と併用して従来公知の方法で製織または製編して布帛としてもよい。例えば、難燃性ポリエステル繊維糸を緯糸に用い、一方通常の白色ポリエステル延伸糸を経糸に用いた朱子織、または一方の面に難燃性繊維糸が配される二重織にして、布帛としてもよい。
【0090】
本発明の第三は、無機リン系難燃剤または前記難燃剤を含有するマスターバッチ、難燃助剤または前記難燃助剤を含有するマスターバッチ、着色剤を含有するマスターバッチおよび熱可塑性ポリエステル樹脂を溶融混合し、次いで溶融紡糸することを特徴とする難燃性ポリエステル繊維の製造方法である。
【0091】
溶融紡糸は、上述のように湿式、乾式に限らず、公知の方法が利用できるが、好ましくは乾式法で引き取り速度300〜1000m/分であり、紡糸温度は200〜300℃の条件で溶融紡糸を行うことが好ましく、糸形成状態に応じて適宜条件を変化させて最適条件において行う。特に、紡糸温度は、溶融紡糸時の無機リン系難燃剤および難燃助剤の分解を防止する観点から、無機リン系難燃剤および難燃助剤の顕著な分解が起こらないように、無機リン系難燃剤および難燃助剤の分解温度および熱履歴を考慮して、複数の温度を設定して行うことが好ましい。また、続く延伸工程においては従来公知の延伸方法を用いることができ、延伸倍率は1.0〜6.0程度で行う。
【0092】
本発明の第四は、上記難燃性ポリエステル繊維を5〜100質量%含有する難燃材である。難燃材としては、上記の難燃性ポリエステル繊維やこれからなるフェルト、布帛、繊維綿等を用いて調製できる。この際、該難燃材には、難燃性ポリエステル繊維が5〜100質量%、より好ましくは10〜50質量%、特には15〜30質量%含有されることが好ましい。本発明の難燃性ポリエステル繊維は難燃効果が大きいため、少なくとも5質量%を含有されると難燃材として有効に使用できる。従って、従来の部材に配合して難燃性を付与することができ、しかもその配合量が少量であるため、製品価格を安価にできると共に、従来の部材の風合いを損なわずに難燃効果を付与することができる。
【0093】
このような難燃性ポリエステル繊維を含有する難燃材は、例えば、自動車用の内装材として用いられるシートや、ピラガーニッシュ、リヤパーセル等の内張り、マット、カーペット等の床内張り、サンバイザ、パッケージトレイ、アシストグリップなどの部品、その他、フィルター材、断熱材、各種遮音材および防振材として使用することができる。
【0094】
本来、熱可塑性ポリエステル樹脂に溶解しない物質を加えて繊維に紡糸することは困難であり、特に熱可塑性ポリエステル樹脂と無機リン系難燃剤とは相溶性が不充分であるために糸切れなどが生じやすかった。しかしながら、本発明では、マスターバッチを使用することで、公知の溶融混合法で簡便に添加物を均一に分散でき、その結果、糸切れすることなく紡糸できる。特に、本発明の方法は、無機リン系難燃剤を配合しつつも従来の溶融紡糸方法をそのまま採用できる点に特徴がある。このマスターバッチを用いる溶融混合は、上記の本発明の樹脂組成物の調製で記載したと同様の方法である。
【実施例】
【0095】
以下に本発明の実施例、比較例および参考例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、評価は下記の方法によって行なった。
【0096】
(1)紡糸性については、紡糸により難燃性原着ポリエステル繊維糸条を得るときの糸条1t当たりの紡糸について、次の基準をもって紡糸性を評価した。◎:糸切れが5回未満、○:糸切れが5回以上15回未満、△:糸切れが15回以上、×:正常な糸にならず紡糸できない。
【0097】
(2)難燃性は、特開2001−279073号公報に記載の方法に準じた測定方法およびJIS L1091 D法に準じた45℃燃焼試験方法を用いて測定した。前者は、短繊維束を開繊し、試料が10gになるように計量して、所定の燃焼試験器具に開繊方向が揃うように装填する。その後、炎を試験片に10秒間あてて、燃え方を観察し、炎をあててから着火までの時間を測定し、6回の試験からの平均値を求めた。後者では、短繊維束1gを試験片支持コイル内の中央に100mm長になるように均一に挿入し、45°の傾斜を保持する。バーナーの炎が試験片最下端に接炎し、試験片が溶融しつつ燃焼が消炎するまで加熱する。さらに残った試験片の最下端に再度接炎させ、この操作を繰り返し行い、試験片の下端から90mmの位置まで溶融し燃焼するまでの接炎回数を求め、5回の試験からの平均値を求めた。
【0098】
(3)機械的物性(強度および伸度)は、卓上型材料試験機 STA−1150(株式会社オリエンテック製)で測定した。1試料について10測定した。強度および伸度が大きいものほど機械的物性の優れた繊維であると言える。
【0099】
(4)無機リン系難燃剤の分解温度はDSC装置を用い測定し、分解温度はガス発生に基づく吸熱ピークにおけるベースラインと吸熱ピーク立ち上がりの交点温度とし、測定しなかったものについてはカタログ値を用いた。
【0100】
(5)難燃助剤の分解ピーク温度は、熱重量分析計を用い、難燃助剤の熱重量分析における温度−減量曲線を微分して得られる減量ピーク温度の測定によって求めた。
【0101】
(6)ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、オルソクロロフェノール100mlに対してポリエチレンテレフタレート試料8gを溶解した溶液の相対粘度ηをオストワルド式粘度計を用いて測定することにより(25℃)、以下の近似式によって算出され、得られた固有粘度は下記の粘度式により数平均分子量と関係付けられる。
【0102】
【数3】

【0103】
【数4】

【0104】
(実施例1〜4)
表1に示す質量%のポリリン酸アンモニウム1(クラリアント社製、製品名Pekoflam TC204、白色粉末、平均粒径8μm、リン原子含有量32質量%、窒素原子含有量15質量%、重合度1000、分解温度285℃)および2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(日油社製、ノフマーBC、分解ピーク温度240℃、分解断片(クメン)の沸点152℃)を含むそれぞれのマスターバッチと、廃PETボトルおよび廃PETフィルムからのポリエチレンテレフタレート樹脂を混合して得られた固有粘度0.60の表1に示す質量%のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂1)をエクストルーダーで溶融混合して、表1に示す割合の難燃性ポリエステル樹脂組成物をそれぞれ得た。次いでこれらを乾式法で引き取り速度520m/min、紡糸温度230〜285℃で溶融紡糸し、単糸繊度が6.6デシテックスの難燃性短繊維(難燃性繊維1〜4)を得た。
【0105】
こうして得られた難燃性繊維1〜4について紡糸性および機械的物性(強度および伸度)を調べた。また、難燃綿(短繊維束を開繊したもの、及び短繊維束)試料を作成し難燃性を調べ、それらの結果を実施例1ないし4として表1に示す。
【0106】
(比較例1〜5)
表1に示す質量%のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂1)、ポリリン酸アンモニウム1および2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンを用いる以外は、実施例1に準じて紡糸を行ない、難燃性短繊維(難燃性繊維1〜7)を得た。これらの難燃性繊維1〜5について、実施例1と同様に紡糸性、難燃性および機械的物性(強度および伸度)を調べ、その結果を比較例1〜5として表1に示した。
【0107】
【表1】

【0108】
実施例1〜4および比較例1〜5から本発明に用いる難燃剤および/または難燃助剤の含有量が一定量を超えると、紡糸できなくなるほど紡糸性の低下が著しくなるが、それまでは添加量が増えるほど難燃性が高くなり、難燃助剤の相乗効果が見られる。また、難燃助剤含有量増加による機械的物性への悪影響は見られなかった。
【0109】
(実施例5〜10)
表2に示す質量%のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂1)、ポリリン酸アンモニウム1および2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンを用いる以外は、実施例1に準じて紡糸を行ない、難燃性短繊維(難燃性繊維5〜10)を得た。これらの難燃性繊維5〜10について、実施例1と同様に紡糸性、難燃性および機械的物性(強度および伸度)を調べ、その結果を実施例5〜10として表2に示した。
【0110】
(比較例6)
2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンを用いない以外は、実施例5に準じて紡糸を行ない、難燃性短繊維(比較難燃性繊維6)を得た。比較難燃性繊維6について、実施例5と同様に紡糸性、難燃性および機械的物性(強度および伸度)を調べ、その結果を比較例6とし、比較例2〜5を合わせ表4に示した。
【0111】
【表2】

【0112】
実施例5〜10および比較例2〜6から本発明に用いる難燃剤および/または難燃助剤の含有量が一定量を超えると、紡糸できなくなるほど紡糸性の低下が著しくなるが、それまでは添加量が増えるほど難燃性が高くなり、難燃助剤の相乗効果が見られる。また、難燃助剤含有量増加による機械的物性への悪影響は見られなかった。
【0113】
(実施例11〜15)
表3に示す質量%のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂1)、ポリリン酸アンモニウム1および2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンを用いる以外は、実施例1に準じて紡糸を行ない、難燃性短繊維(難燃性繊維11〜15)を得た。これらの難燃性繊維11〜15について、実施例1と同様に紡糸性、難燃性および機械的物性(強度および伸度)を調べ、その結果を実施例11〜15として表3に示した。
【0114】
(比較例7)
2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンを用いない以外は、実施例11に準じて紡糸を行ない、難燃性短繊維(比較難燃性繊維7)を得た。比較難燃性繊維7について、実施例5と同様に紡糸性、難燃性および機械的物性(強度および伸度)を調べ、その結果を比較例7とし、比較例2〜5を合わせ表3に示した。
【0115】
【表3】

【0116】
実施例11から14および比較例2〜5、7から本発明に用いる難燃剤および/または難燃助剤の含有量が一定量を超えると、紡糸できなくなるほど紡糸性の低下が著しくなるが、それまでは添加量が増えるほど難燃性が高くなり、難燃助剤の相乗効果が見られる。また、難燃助剤含有量増加による機械的物性への悪影響は見られないが、難燃剤含有量が一定量を越えると機械的物性が低下する。
(実施例15〜25)
PET樹脂1、ポリリン酸アンモニウム1および2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンの代わり、あるいはこれらのいずれかと共に、表2に示す質量%のPET樹脂2(三菱化学(株)製、商品名「NOVAPEX」)、無機赤リン、ポリリン酸メラミン(三和化学(株)製、製品名MPP−A、白色粉末、平均粒径4μm、リン含有量15質量%、分解温度320℃)、ポリフェノキシホスファゼン(大塚化学(株)製、製品名ホスファゼン、リン含有量13質量%、分解温度350℃以上)、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウム(クラリアント社製、製品名Pekoflam STC、リン原子含有量23質量%、平均粒径4μm、分解温度300℃以上)およびジイソプロピルベンゼンオリゴマー(特開2001−19835号公報の参考例1に準じて合成したm−、p−混合ジイソプロピルベンゼンオリゴマー;数平均分子量950;一般式(2)のnの平均値5.9;分解ピーク温度265℃、分解断片の沸点211℃)を用いる、あるいは併用する以外は、実施例1に準じて紡糸を行ない、難燃性短繊維(難燃性繊維15〜25)を得た。これらの難燃性繊維15〜25について、実施例1と同様に紡糸性、難燃性および機械的物性(強度および伸度)を調べ、その結果を実施例15〜25として表4に示した。
【0117】
【表4】

【0118】
(比較例8〜11)
2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンを用いない以外は、実施例15〜18に準じて紡糸を行ない、難燃性短繊維(比較難燃性繊維8〜11)を得た。これらの比較難燃性繊維8〜11について、実施例15〜18と同様に紡糸性、難燃性および機械的物性(強度および伸度)を調べ、その結果を比較例8〜11として表5に示した。
【0119】
【表5】

【0120】
(実施例26)
実施例2、6、8、10、11および13で得た難燃性繊維2、6、8、10、11および13に、難燃加工未処理繊維(表中、未処理繊維と表記する)を表6に示す割合で配合して難燃綿(短繊維束を開繊したもの、及び短繊維束)を調製し、難燃材1〜6とした。これらの難燃性を調べた。なお、難燃加工未処理繊維は、ポリエステル樹脂組成物として難燃剤および難燃助剤を含ませないこと以外は実施例1と同様にして調製したポリエステル樹脂組成物を紡糸した未処理繊維である。難燃材1〜6(難燃綿)の難燃性の評価は、実施例1と同様の方法を採用した。結果を表6に示す。
【0121】
【表6】

【0122】
(参考例)
1,2−ジフェニル誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーからなる各種難燃助剤の分解温度を推定するために、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンの分解温度を基にして、下記の式(5)および(6);
【0123】
【数5】

【0124】
(ここで、Eは求める難燃助剤の分解における標準生成熱の差、Eは標準となる難燃助剤に関する標準生成熱の差、Tは求める難燃助剤の分解温度、Tは標準となる難燃助剤の分解温度である。)を用いて推算し、その結果を表7に示した。標準生成熱の計算には、Winmostar MOPAC AM1(MOP6W70)(千田,“分子計算支援システムWinmostarの開発”,出光技報,49,1,106−111(2006))を用いた。また、分解断片の沸点は相当する単環芳香族炭化水素の沸点の実測値、または下記の式(7);
【0125】
【数6】

【0126】
(ここで、tは標準沸点(℃)、nは芳香族炭化水素の炭素数、aおよびkは定数であり、単環芳香族炭化水素の場合には、a=680、k=−614.4である。)で求めた標準沸点によって推算し、その結果を表7に示した。2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンの温度−減量曲線と、その微分曲線を図1に、また30%マスターバッチを図2示し、分解ピーク温度を求めた。30%マスターバッチにすると、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンの分解後、周辺ポリマーの溶媒効果により再結合が起こり、分解ピーク温度は高くなることがわかる。従って、難燃助剤の分解ピーク温度は実際に即したこの温度を分解ピーク温度とした。同様に、ジイソプロピルベンゼンオリゴマーの分解ピーク温度の推算値は241℃であったが、30%マスターバッチの実測値は265℃となった。ジイソプロピルベンゼンオリゴマーの場合には、分解の後半で著しい低分子量化が起こるため、分解ピーク温度が計算で求めた分解ピーク温度よりは24℃程度高くなることがわかる。
【0127】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル樹脂と、無機赤リン、無機リン−窒素化合物および有機リン酸金属塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の無機リン系難燃剤と、下記一般式(1);
【化1】

(ここで、R〜Rは炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは水素原子または炭素数1〜7のアルキル基である。)で示される1,2−ジフェニルエタン誘導体および下記一般式(2);
【化2】

(式中、nは平均値として2〜50である。)で示されるジイソプロピルベンゼンオリゴマーの少なくとも1種の難燃助剤を含む難燃性ポリエステル樹脂組成物であって、
前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の総重量を基準として、前記無機リン系難燃剤の含有量は0.1〜12質量%であり、1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーで示される前記難燃助剤の含有量が0.05〜5質量%であり、かつ前記熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量が83〜99.85質量%であることを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の総重量を基準として、前記無機リン系難燃剤の含有量は0.5〜8質量%であり、1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーで示される前記難燃助剤の含有量が0.1〜4質量%であることを特徴とする請求項1記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の総重量を基準として、前記無機リン系難燃剤の含有量は0.6〜5質量%であり、1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーで示される前記難燃助剤の含有量が0.12〜4質量%であり、かつ無機リン系難燃剤と難燃助剤の合計含有量が1.5〜6質量%の範囲であることを特徴とする請求項1または2記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
1,2−ジフェニルエタン誘導体および/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーで示される前記難燃助剤の分解ピーク温度が200℃以上および分解断片の沸点が400℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機リン−窒素化合物が、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミンおよびホスファゼン類よりなる群から選ばれてなる少なくとも1種であり、前記有機リン酸金属塩がトリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウムである、請求項1ないし4のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂が再生ポリエステル樹脂を含む、請求項1ないし5のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記難燃助剤が2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンおよび/またはジイソプロピルベンゼンオリゴマーである、請求項1ないし6のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記ホスファゼン類がフェノキシホスファゼン、プロポキシホスファゼンおよびジアミノホスファゼンよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種を基本骨格とした直鎖状化合物である、請求項1ないし7のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8記載の熱可塑性ポリエステル樹脂、無機リン系難燃剤および難燃助剤を含む難燃性ポリエステル樹脂組成物を溶融混合し、次いで溶融紡糸して得られることを特徴とする難燃性ポリエステル繊維。
【請求項10】
請求項1ないし8記載の無機リン−窒素化合物の分解温度が270℃以上である、請求項9に記載の難燃性ポリエステル繊維。
【請求項11】
請求項1ないし8記載の無機リン系難燃剤の平均粒径が30μm以下の粉末である、請求項9および10のいずれかに記載の難燃性ポリエステル繊維。
【請求項12】
前記繊維の太さが、2.0〜220デシテックスである、請求項9ないし11のいずれかに記載の難燃性ポリエステル繊維。
【請求項13】
請求項1ないし7記載の無機リン系難燃剤を含有するマスターバッチ、難燃助剤を含有するマスターバッチおよび熱可塑性ポリエステル樹脂からなる難燃性ポリエステル樹脂組成物を溶融混合し、次いで溶融紡糸することを特徴とする難燃性ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項14】
請求項1ないし7記載の無機リン系難燃剤を含有するマスターバッチ、難燃助剤を含有するマスターバッチおよび熱可塑性ポリエステル樹脂からなる難燃性ポリエステル樹脂組成物を溶融混合し、乾式法で引き取り速度300〜1,000m/分、紡糸温度200〜300℃で溶融紡糸する、請求項13記載の難燃性ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項15】
請求項9ないし12のいずれかに記載の難燃性ポリエステル繊維または請求項13または14のいずれかに記載の製造方法により得られる難燃性ポリエステル繊維を5〜100質量%含有する難燃材。
【請求項16】
請求項15に記載の難燃材を用いた自動車用内装材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−246526(P2011−246526A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118604(P2010−118604)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(390004215)株式会社高木化学研究所 (6)
【Fターム(参考)】