説明

難燃性ポリエステル系人工毛髪

【課題】 通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、セット性、触感、透明性、加工安定性に優れ、極めて高い難燃性を有するポリエステル系人工毛髪を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポリエステルに、臭素含有難燃剤および平均粒子径が1.5〜15μmのアンチモン化合物を含んでなる組成物を溶融紡糸することにより、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、セット性、触感、透明性、加工安定性に優れた難燃性ポリエステル系人工毛髪を得ることができる。さらに、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤または難燃性有機ケイ素化合物含有繊維処理剤を付着させることにより、くし通りに優れ、難燃性の低下が小さく、難燃性に優れた人工毛髪用繊維を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリエステル系人工毛髪に関する。さらに詳しくは、耐熱性、強伸度などの繊維物性を維持しつつ、セット性、触感、くし通り、透明性および加工安定性に優れた難燃性ポリエステル系人工毛髪に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステルからなる繊維は、高融点、高弾性率で優れた耐熱性、耐薬品性を有していることから、カーテン、敷物、衣料、毛布、シーツ地、テーブルクロス、椅子張り地、壁装材、人工毛髪、自動車内装資材、屋外用補強材、安全ネットなどに広く使用されている。
【0003】
一方、かつら、ヘアーウィッグ、付け毛、ヘアーバンド、ドールヘアーなどの頭髪製品においては、従来、人毛や人工毛髪(モダクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維)などが使用されてきている。しかし、人毛の提供は困難になってきており、人工毛髪の重要性が高まってきている。人工毛髪素材として、難燃性の特長を生かしてモダクリルが多く使用されてきたが、耐熱温度の点では不十分であった。近年になり、耐熱性に優れるポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルを主成分とする繊維を用いた人工毛髪繊維が提案されるようになってきた。
【0004】
しかしながら、ポリエステル系繊維を人工毛髪素材として使用するにあたっては、安全性の観点から難燃性付与が必要となってきている。従来のポリエステル系繊維は、易燃性であるため、ポリエステル繊維の難燃性を向上させようとする試みは種々なされており、例えば、リン原子を含有する難燃性モノマーを共重合させたポリエステルからの繊維にする方法や、ポリエステル繊維に難燃剤を含有させる方法などが知られている。
【0005】
前者の難燃性モノマーを共重合させる方法としては、例えば、リン原子が環員子となっていて熱安定性の良好なリン化合物を共重合させる方法(特許文献1)、また、カルボキシホスフィン酸を共重合させる方法(特許文献2)、ポリアリレートを含むポリエステルにリン化合物を配合または共重合させる方法(特許文献3)などが提案されている。前記難燃化技術を人工毛髪に適用したものとしては、例えば、リン化合物を共重合させたポリエステル繊維が提案されている(特許文献4)。しかしながら、人工毛髪には高い耐燃性が要求されるため、これらの共重合ポリエステル繊維を人工毛髪に使用するには、その共重合量を多くしなければならず、その結果、ポリエステルの耐熱性が大幅に低下し、溶融紡糸が困難になる、また、火炎が接近した場合、着火・燃焼はしないが、溶融・ドリップするという別の問題が発生する。
【0006】
後者の難燃剤を含有させる方法としては、ポリエステル繊維に、微粒子のハロゲン化シクロアルカン化合物を含有させる方法(特許文献5)、臭素原子含有アルキルシクロヘキサンを含有させる方法(特許文献6)などが提案されている。前記ポリエステル繊維に難燃剤を含有させる方法では、充分な耐燃性を得るために、含有処理温度を150℃以上の高温にすることが必要であったり、含有処理時間を長時間にする必要があったり、あるいは大量の難燃剤を使用しなければならないといった問題があり、繊維物性の低下や生産性の低下、製造コストがアップするなどの問題が発生する。
【0007】
他方、難燃助剤としてアンチモン化合物を添加して、難燃性向上を図ることが提案されているが(特許文献7、8)、繊維において実施した場合、溶融粘度低下により紡糸加工性が不安定になったり、アンチモン粒子により糸切れが発生するなどの問題が発生する。
ところで、従来、難燃助剤として用いられるアンチモン化合物、例えば三酸化アンチモンの平均粒子径としては、分散性、難燃性の均一性、入手の容易さなどの点から、0.5〜1μm程度のものが広く使用されてきた。しかしながら、三酸化アンチモンは、平均粒子径0.4〜1.0μmの範囲での隠ぺい力が強く、該粒子径範囲の三酸化アンチモンを使用した場合、得られるフィラメントの色相が低下(白化)し、透明性が低下する傾向がある。また、三酸化アンチモンの平均粒子径が0.4μmより小さく、特に0.1μm以下になると、その隠ぺい力は小さくなり、色相の低下は小さくなってくるが、凝集を起こし易くなるため、凝集させずに均一に分散させることは難しい。凝集が起こった場合、糸切れが発生したり、難燃性の不均一化が起こる可能性がある。
【0008】
また、ポリエステル系繊維を人工毛髪として使用する場合、柔軟性、平滑性等を付与するために、一般的に、種々のシリコーン系仕上げ剤(ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤)が使用されている。例えば、柔軟性、防しわ性、弾力と圧縮回復性を付与するためのポリオルガノシロキサン系繊維処理剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチル水素シロキサン、両末端水酸基ポリジメチルシロキサン、ビニル基含有ポリオルガノシロキサン、エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン、エステル基含有ポリオルガノシロキサン、ポリオキシアルキレン含有ポリオルガノシロキサン等があげられる。
【0009】
また、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤として、アルコキシシランとの組合せ、および/またはポリアクリルアミド樹脂や触媒からなる処理剤等も知られていた。
例えば、1分子当り少なくとも2個のエポキシ基を含有するポリオルガノシロキサンとアミノ基を含有するポリオルガノシロキサンからなる処理剤(特許文献9)、両末端水酸基ポリオルガノシロキサン、1分子中にアミノ基とアルコキシ基を含有するポリオルガノシロキサン、及び/または、その部分加水分解物および縮合物からなる処理剤(特許文献10)による方法が開示されている。
【0010】
また、エポキシ基を含有するポリオルガノシロキサンとアミノアルキルトリアルコキシシランからなる処理剤(特許文献11、12)や、1分子中にアミノ基2個以上を含有する両末端トリオルガノシロキシ基ジオルガノポリシロキサン(特許文献13)が記載されている。その他にも、1分子中に2個以上アミノ基を含有するアミノポリシロキサンとアミノ基、エポキシ基等の反応性基を1個以上含有するアルコキシシランからなる処理剤(特許文献14)による方法が提案されている。
【0011】
しかしながら、これらのシリコーン系仕上げ剤(ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤)を付着したポリエステル系繊維は、平滑性、くし通り等の改善はなされるものの、シリコーン系繊維処理剤自体が易燃性であるため、非難燃性合成繊維は易燃性を助長され、難燃性合成繊維に関しても難燃性が著しく低下してしまうという課題が残されたままであった。
【0012】
以上のように、従来のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度などの繊維物性を維持しつつ、セット性、触感、くし通り、透明性および加工安定性に優れた難燃性ポリエステル系人工毛髪は、未だに得られていないのが実状である。
【0013】
【特許文献1】特公昭55−41610号公報
【特許文献2】特公昭53−13479号公報
【特許文献3】特開平11−124732号公報
【特許文献4】特開平3−27105号公報
【特許文献5】特公平3−57990号公報
【特許文献6】特公平1−24913号公報
【特許文献7】特許2693331号公報
【特許文献8】特開2002−128998号公報
【特許文献9】特公昭43−17514号公報
【特許文献10】特公昭53−36079号公報
【特許文献11】特公昭53−197159号公報
【特許文献12】特公昭53−19716号公報
【特許文献13】特公昭53−98499号公報
【特許文献14】特公昭58−17310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前述のごとき従来の問題を解決し、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持しつつ、セット性、触感、透明性、加工安定性に優れ、極めて高い難燃性を有するポリエステル系人工毛髪を提供することを目的とする。本発明は、さらに、くし通りが改善された難燃性ポリエステル系人工毛髪を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリエステルに、臭素含有難燃剤および平均粒子径が1.5〜15μmのアンチモン化合物を含んでなる組成物、さらには、カルボジイミド化合物、ビスオキサゾリン化合物およびイソシアネート化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含んでなる組成物を溶融紡糸することにより、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持しつつ、セット性、触感、透明性および加工安定性に優れた難燃性ポリエステル系人工毛髪が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の第一の発明は、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの少なくとも1種からなるポリエステル(A)100重量部に対し、臭素含有難燃剤(B)5〜30重量部および、平均粒子径が1.5〜15μmのアンチモン化合物(C)0.5〜10重量部を溶融混練して得られる組成物から形成されたポリエステル系人工毛髪に関するものである。好ましい態様としては、ポリエステル(A)がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートよりなる群から選ばれた少なくとも1種のポリマーである、上記ポリエステル系人工毛髪である。好ましい態様としては、臭素含有難燃剤(B)が、臭素化芳香族系難燃剤、臭素含有リン酸エステル系難燃剤、臭素化ポリスチレン系難燃剤、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ系難燃剤、臭素化ポリカーボネート系難燃剤、テトラブロモビスフェノールA誘導体、臭素含有トリアジン系化合物および臭素含有イソシアヌル酸系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物である、上記ポリエステル系人工毛髪である。好ましい態様としては、アンチモン化合物(C)が三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモンおよびアンチモン酸ナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記ポリエステル系人工毛髪である。さらに好ましい態様としては、難燃性ポリエステル系繊維が、さらに、(D)成分としてカルボジイミド化合物、ビスオキサゾリン化合物およびイソシアネート化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含む組成物から形成された、上記ポリエステル系人工毛髪である。
【0017】
本発明の第二の発明は、前記難燃性ポリエステル系繊維に、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)を0.01〜1%omf付着させてなる人工毛髪に関するものである。好ましい態様としては、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)が、下記一般式(1)または(2)で表される構造単位を有するポリオルガノシロキサンである人工毛髪である。
【0018】
【化1】

(式中、R1はそれぞれ独立して、直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜10のアラルキル基を示し、mは4〜200の整数を示す)
【0019】
【化2】

(式中、R1、R2はそれぞれ独立して、直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基または炭素数1〜80のアルキレンオキシ基を示し、n、pはそれぞれ2〜150の整数を示す)
【0020】
好ましい態様としては、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)が、反応性を有するポリオルガノシロキサン(E1)および硬化剤(E2)からなり、それぞれの成分比率が、重量比で、(E1)/(E2)=100/0〜50/50である人工毛髪であり、さらに好ましい態様としては、反応性を有するポリオルガノシロキサン(E1)が、下記一般式(3)〜(5)で表される繰り返し構造を有するポリオルガノシロキサンである人工毛髪であり、硬化剤(E2)が、1分子中にエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基よりなる群から選ばれる少なくとも2個の反応性基を有する化合物および/またはシランカップリング剤である人工毛髪である。
【0021】
【化3】

(式中、R1、R3はそれぞれ独立して、直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜10のアラルキル基を示し、R4は直鎖または分岐を有する炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数1〜80のアルキレンオキシ基を示し、X1はヒドロキシ基、エポキシ基またはアミノ基を示し、q、rはそれぞれ2〜150の整数を示す)
【0022】
【化4】

(式中、R1、R2、R3はそれぞれ独立して直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜10のアラルキル基を示し、R4は直鎖または分岐を有する炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数1〜80のアルキレンオキシ基を示し、X1はヒドロキシ基、エポキシ基またはアミノ基を示し、s、t、uはそれぞれ2〜100の整数を示す)
【0023】
【化5】

(式中、R1はそれぞれ独立して、直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜10のアラルキル基を示し、X2はそれぞれ独立して、ヒドロキシ基、アルコキシ基、フェノキシ基、チオアルコキシ基、アシロキシ基、アミノキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基またはアルケニルオキシ基を示し、v、wはそれぞれ2〜100の整数を示す)
【0024】
好ましい態様としては、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)が、難燃性有機ケイ素化合物を含有する繊維処理剤(F)である人工毛髪である。より好ましい態様としては、(F)成分が、臭素含有有機基が炭素原子を介してケイ素原子に結合した有機ケイ素化合物(F1)、および/または、塩素含有有機基が炭素原子を介してケイ素原子に結合した有機ケイ素化合物(F2)を含有するものであって、(F1)および/または(F2)の合計含有量が、(F)全体を100重量%とした場合10〜70重量%であり、かつ、(F1)または(F2)中の臭素および塩素の合計含有量がそれぞれ(F1)または(F2)を100重量%とした場合、10〜50重量%である人工毛髪である。さらに好ましい態様としては、有機ケイ素化合物(F1)および/または(F2)が下記一般式(6)で表される構造を有し、少なくとも1つ以上の臭素または塩素を含有するアルキル基または芳香族炭化水素を含む人工毛髪である。
【0025】
【化6】

(式中、Rは、少なくとも1つ以上の臭素または塩素を含有する炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、水素原子、アルコキシル基から選択される基、mは0以上の整数である。)
【0026】
より好ましい態様としては、前記有機ケイ素化合物(F1)および/または(F2)が下記一般式(8)、(9)で表わされる構造の置換基を含むものである。
【0027】
【化7】

(構造式中、Xは、BrまたはClであり、nは1〜3の整数である。)
【0028】
【化8】

(構造式中、Xは、BrまたはClであり、nは1〜3の整数である。)
【0029】
より好ましい態様としては、(F)成分が、難燃性有機ケイ素化合物を主成分とする繊維処理剤(F)が、フェニル基またはフェニル誘導基がケイ素原子に結合した構造を有し、ケイ素原子へのフェニル基またはフェニル誘導基の導入率が30%以上であり、かつ、臭素原子または塩素原子を含まない有機ケイ素化合物(F3)を含有するものである人工毛髪である。
【0030】
前記の難燃性ポリエステル系人工毛髪は、さらに、親水性繊維処理剤を付着させてなることが好ましい。
【0031】
さらには、上記難燃性ポリエステル系人工毛髪は非捲縮生糸状であり、原着されており、単繊維繊度が10〜100dtexであることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によると、平均粒子径が1.5〜15μmのアンチモン化合物を使用することにより、比較的粒子径が大きいため、隠ぺい力が弱い範囲にあり、凝集も起こり難く、色相低下、糸切れ、難燃性の不均一化は起こりにくいため、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持しつつ、セット性、触感、透明性に優れ、極めて高い難燃性を有するポリエステル系人工毛髪が得られる。
【0033】
さらに、難燃性ポリエステル系人工毛髪において、難燃性を損なうことなく、滑り触感、くし通り、帯電防止性を付与することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪は、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの少なくとも1種からなるポリエステル(A)、臭素含有難燃剤(B)および平均粒子径が1.5〜15μmのアンチモン化合物(C)を含み、溶融混練して得られる組成物、さらに、カルボジイミド化合物、ビスオキサゾリン化合物、イソシアネート化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物(D)を含んでなる組成物を、溶融紡糸により形成された繊維である。
【0035】
本発明に用いられるポリエステル(A)に含まれるポリアルキレンテレフタレートまたはポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートおよび/またはこれらのポリアルキレンテレフタレートを主体とし、少量の共重合成分を含有する共重合ポリエステルがあげられる。
【0036】
前記主体とするとは、ポリアルキレンテレフタレートを80モル%以上含有することをいう。
【0037】
ポリアルキレンテレフタレートとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが、入手の容易性およびコストの点から、特に好ましい。
【0038】
前記共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スぺリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸、それらの誘導体、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸、その誘導体、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどがあげられる。
【0039】
前記共重合ポリエステルは、通常、主体となるテレフタル酸および/またはその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの重合体に少量の共重合成分を含有させて反応させることにより製造するのが、安定性、操作の簡便性の点から好ましいが、主体となるテレフタル酸および/またはその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの混合物に、さらに少量の共重合成分であるモノマーまたはオリゴマー成分を含有させたものを重合させることにより製造してもよい。
【0040】
前記共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの主鎖および/または側鎖に前記共重合成分が重縮合していればよく、共重合の方法などには特別な限定はない。
【0041】
前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなどがあげられる。
【0042】
前記ポリアルキレンテレフタレートおよび共重合ポリエステルは、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、共重合ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなど)が好ましく、これらは2種以上混合したものも好ましい。
【0043】
ポリエステル(A)の固有粘度としては、0.5〜1.4が好ましく、0.6〜1.2がより好ましい。ポリエステル(A)の固有粘度が0.5未満の場合、十分な剪断がかからず、アンチモン化合物の分散性が不良になったり、得られる繊維の機械的強度が低下する傾向があり、固有粘度が1.4を超えると、分子量の増大に伴い溶融粘度が高くなり、溶融紡糸が困難になったり、得られる繊維の繊度が不均一になったり、アンチモン化合物の分散性が不良になる傾向がある。
【0044】
本発明に用いられる臭素含有難燃剤(B)には特に限定はなく、一般に用いられている臭素含有難燃剤であれば使用することができる。
【0045】
臭素含有難燃剤(B)の具体例としては、例えば、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモ無水フタル酸、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートなどの臭素含有リン酸エステル類、一般式(9)で表される臭素化ポリスチレン類、一般式(10)で表される臭素化ポリベンジルアクリレート類、一般式(11)で表される臭素化エポキシオリゴマー類、臭素化フェノキシ樹脂、一般式(12)で表される臭素化ポリカーボネートオリゴマー類、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)などのテトラブロモビスフェノールA誘導体、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジンなどの臭素含有トリアジン系化合物、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどの臭素含有イソシアヌル酸系化合物などがあげられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
【化9】

(式中、Yは1〜5、nは5〜200を示す)
【0047】
【化10】

(式中、mは5〜100を示す)
【0048】
【化11】

(式中、R1は炭素数1〜10の炭化水素基、アリール基、アラルキル基、反応性基を含む炭化水素基、臭素含有アリール基または臭素含有アラルキル基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、pは1〜80を示す)
【0049】
【化12】

(式中、R2は水素または臭素原子であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、qは1〜80を示す)
【0050】
これらのなかでは、難燃性付与の点から、臭素含有リン酸エステル系難燃剤、臭素化ポリスチレン系難燃剤、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ樹脂系難燃剤、臭素化ポリカーボネート系難燃剤、テトラブロモビスフェノールA誘導体、臭素含有トリアジン系化合物および臭素含有イソシアヌル酸系化合物が好ましい。繊維物性、耐熱性および加工安定性の点から、臭素含有リン酸エステル系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤および臭素化フェノキシ樹脂系難燃剤が、さらに好ましい。
【0051】
本発明における臭素含有難燃剤(B)の使用量は、ポリエステル(A)100重量部に対し、5〜30重量部が好ましく、6〜25重量部がより好ましく、7〜20重量部がさらに好ましい。臭素含有難燃剤(B)の使用量が5重量部未満では、難燃効果が得られにくい傾向があり、30重量部を超えると、得られる繊維の機械的特性、耐熱性、耐ドリップ性が損なわれる傾向がある。
【0052】
本発明においては、臭素含有難燃剤(B)を配合することにより難燃性は発現されるものの、シリコーン系繊維処理剤(ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤)を使用した場合や可燃性繊維と混合使用した場合には、十分な難燃性を得るには至らない場合があり、アンチモン化合物(C)を配合することにより、難燃効果が著しく向上し、十分な難燃性を得ることができる。
【0053】
本発明におけるアンチモン化合物(C)の平均粒子径は、1.5〜15μmが好ましく、1.7〜12μmがより好ましく、1.9〜10μmがさらに好ましい。アンチモン化合物(C)の平均粒子径が1.5μm未満では、隠ぺい力が大きく、繊維の透明性が低下したり、凝集しやすく、透明性や紡糸加工性が低下する傾向があり、15μmを超えると、触感、紡糸加工性が低下する傾向がある。
【0054】
本発明に用いられるアンチモン化合物(C)の具体例としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムなどがあげられ、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでは、組成物の紡糸加工性の点から、アンチモン酸ナトリウムが好ましい。
【0055】
本発明に用いられるアンチモン化合物(C)は、必要に応じて、エポキシ化合物、シラン化合物、イソシアネート化合物、チタネート化合物等で表面処理されていてもよい。
本発明におけるアンチモン化合物(C)の使用量は、ポリエステル(A)100重量部に対し、0.5〜10重量部が好ましく、0.6〜9重量部がより好ましく、0.7〜8重量部がさらに好ましい。アンチモン化合物(C)の使用量が0.5重量部未満では、難燃効果の向上が小さくなる傾向があり、10重量部を超えると、加工安定性、外観性、透明性が損なわれる傾向がある。
【0056】
本発明においては、さらに、カルボジイミド化合物、ビスオキサゾリン化合物およびイソシアネート化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種(D)を配合することにより、アンチモン化合物を溶融混練する場合の溶融粘度低下を補い、繊維物性や紡糸加工性を安定化することができる。
【0057】
本発明に用いられる(D)成分は、カルボジイミド化合物、ビスオキサゾリン化合物およびイソシアネート化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物であれば、特に限定はない。
【0058】
本発明に用いられるカルボジイミド化合物としては、例えば、ジフェニルカルボジイミド、ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ−o−トリイルカルボイジミド、N−トリイル−N’−フェニルカルボジイミド、N−トリイル−N’−シクロヘキシルカルボジイミド、ジ−p−トリイルカルボジイミド、ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−o−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミド、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などがあげられ、市販品としてはバイエル社のスタバクソールI、スタバクソールP(いずれも登録商標)がある。これらのカルボジイミド化合物は、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい
【0059】
本発明に用いられるビスオキサゾリン化合物としては、例えば、2,2’−メチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−プロピレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2’−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−フェニルビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)などを挙げることができる。これらのビスオキサゾリン化合物は、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
本発明に用いられるイソシアネート化合物としては、例えば、1,3−トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9−ノナメチレンジイソシアネート、1,10−デカメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート−ビウレット体や、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートや、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、2,2’−ジエチルエーテルジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−メチレンジトリレン−4,4’−ジイソシアネート、トリレンジソシアネートトリメチロールプロパンアダクト、トリフェニルメタントリイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、テトラクロロフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリイソシアネートフェニルチオホスフェートなどが挙げられる。これらのイソシアネート化合物は、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
これらの中では、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などの芳香族ポリカルボジイミド類;2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2’−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)などの芳香族ビスオキサゾリン類が、溶融粘度低下を抑制し、加工安定性の確保、難燃剤などのブリード抑制の点で好ましい。
【0062】
本発明における、カルボジイミド化合物、ビスオキサゾリン化合物およびイソシアネート化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種(D)の使用量は、ポリエステル(A)100重量部に対して0.05〜10重量部が好ましく、0.1〜8重量部がより好ましく、0.2〜6重量部がさらに好ましい。カルボジイミド化合物、ビスオキサゾリン化合物およびイソシアネート化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種(D)の使用量が0.05重量部未満では、流動性低下やブリード抑制に対して効果が小さくなる傾向があり、10重量部を超えると、難燃性ポリエステル系人工毛髪の難燃性や機械的強度が低下する傾向がある。
【0063】
本発明における難燃性ポリエステル系樹脂組成物の限界酸素指数(LOI)は、28以上であることが好ましく、30以上であることがよりに好ましい。後述する難燃ポリエステル系繊維へのポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)付着においては、該繊維処理剤(E)が難燃性ポリエステル系繊維の表面に付着している。そのため、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)を使用した繊維に接炎した場合、まず、炎が繊維表面を走り、その後、繊維自体が燃焼する。一般に使用されているリンを含む難燃性ポリエステル繊維は、ドリップにより難燃性を確保する機構を取っているため、繊維表面を走る炎を消すことが難しい。また、臭素含有難燃剤により後加工して難燃化したポリエステル繊維では、接炎した場合、臭素含有難燃剤が熱分解し、臭素ガスを発生するため、繊維表面の炎を消すことができるが、触感、くし通り、カール特性などの人工毛髪としての特性で著しく劣るため、使用が困難である。本発明では、ポリエステル繊維として、ポリエステル(A)に対して、難燃剤としての臭素含有難燃剤(B)および難燃助剤としてのアンチモン化合物(C)を溶融混練して得られる組成物から形成させるものを用いることにより、触感、くし通りなどを改善し、使用するポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)の付着量を少量に抑え、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)を使用した場合でも、難燃性を維持できることを見出した。しかしながら、難燃性ポリエステル系繊維のLOIが28未満になると、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)を付着させた場合に、十分な難燃性が得られなくなる傾向がある。
【0064】
本発明における難燃性ポリエステル系樹脂組成物は、必要に応じて、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、可塑剤、潤滑剤などの各種添加剤を含有させることができる。顔料を含有させることにより、原着繊維を得ることができる。
【0065】
本発明に用いられるポリエステル系組成物は、例えば、ポリエステル(A)、臭素含有難燃剤(B)およびアンチモン化合物(C)、さらには、カルボジイミド化合物、ビスオキサゾリン化合物、イソシアネート化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物(D)をドライブレンドした後、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練することにより製造することができる。
【0066】
前記混練機の例としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられる。これらのなかでは、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0067】
例えば、スクリュー径45mmの二軸押出機を用いて、シリンダ設定温度を260〜300℃とし、吐出量50〜150kg/hr、スクリュー回転数150〜200rpmで溶融混練し、ダイスよりストランドを引取り、水冷した後に、ストランドカッターを用いてペレット化して、本発明の組成物を得ることができる。
【0068】
本発明のポリエステル系人工毛髪は、前記ポリエステル系組成物を通常の溶融紡糸法で溶融紡糸することにより、製造することができる。
【0069】
すなわち、例えば、押出機、ギアポンプ、口金などの温度を270〜310℃とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させた後、ガラス転移点以下に冷却し、50〜5000m/分の速度で引き取ることにより紡出糸条が得られる。また、紡出糸条を冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを行なうことも可能である。加熱筒の温度や長さ、冷却風の温度や吹付量、冷却水槽の温度、冷却時間、引取速度は、吐出量および口金の孔数によって適宜調整することができる。
【0070】
得られた紡出糸条は熱延伸されるが、延伸は紡出糸条を一旦巻き取ってから延伸する2工程法および巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。熱延伸は、1段延伸法または2段以上の多段延伸法で行なわれる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。延伸温度は、ベースとなるポリエステルのガラス転移温度(Tg)より高い温度で実施するのが好ましく、50〜100℃がよい。
【0071】
本発明の繊維の断面形状は、真円形でもよいが、繭形や、2個以上の円または扁平円が連結した形状でもよい。2個以上の円または扁平円が連結した形状の場合には、2個以上の円または扁平円が部分的に重ね合わさるか、または、互いに接した形状においては、部分的に重ね合わさるか、または、互いに接した2個以上の円または扁平円は、直線上に並んだ状態であることが好ましく、左右対称であることが好ましい。
【0072】
以上のようにして得られる本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪は、非捲縮生糸状の繊維であり、その繊度は、通常、10〜100dtex、さらには20〜90dtexであるのが、人工毛髪に適している。また、人工毛髪としては、160〜200℃で美容熱器具(ヘアーアイロン)が使用できる耐熱性を有しており、着火しにくく、自己消火性を有していることが好ましい。
【0073】
本発明のポリエステル系人工毛髪が原着されている場合、そのまま使用することができるが、原着されていない場合、通常のポリエステル系繊維と同様の条件で染色することができる。染色に使用される顔料、染料、助剤などとしては、耐候性および難燃性のよいものが好ましい。
【0074】
本発明においては、前記難燃性ポリエステル系繊維に、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)を付着させることにより、難燃性を損なうことなく、良好な触感、くし通りを付与した人工毛髪を得ることができる。
【0075】
本発明に用いられるポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)としては、一般的に用いられているポリオルガノシロキサン系繊維処理剤であれば使用することができる。
本発明におけるポリオルガノシロキサン系繊維処理剤の具体例としては、
【0076】
【化13】

(式中、Meはメチル基、mは50〜200の整数を示す)
【0077】
【化14】

(式中、Meはメチル基、Phはフェニル基またはフェニル誘導基、mは50〜200の整数を示す)
などの一般式(1);
【0078】
【化15】

(式中、R1はそれぞれ独立して、直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、mは4〜200の整数を示す)
で表される構造単位を有するジオルガノシリコーン類、
【0079】
【化16】

(式中、Meはメチル基、n、pはそれぞれ2〜150の整数を示す)
【0080】
【化17】

(式中、Meはメチル基、n、pはそれぞれ2〜150の整数を示す)
などの一般式(2);
【0081】
【化18】

(式中、R1、R2はそれぞれ独立して、直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜10のアラルキル基を、n、pはそれぞれ2〜150の整数を示す)
で表される主鎖にアルキレンオキシド構造を含むポリオルガノシロキサン類があげられる。
【0082】
本発明におけるポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)の付着量は、0.01〜1%omfが好ましく、0.03〜0.9%omfがより好ましく、0.05〜0.8%omfがさらに好ましい。ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)の付着量が0.01%omf未満では、触感、くし通りが低下する傾向があり、1%omfを超えると、繊維処理剤の付着量が多すぎて、触感がべたつく、また、繊維が滑りすぎて、頭飾製品への加工が難しくなる傾向がある。
【0083】
本発明においては、反応性を有するポリオルガノシロキサン(E1)および硬化剤(E2)からなる繊維処理剤を付着させることにより、繊維表面に架橋被膜が形成されて、触感、くし通りの向上に加えて、持続性、耐シャンプー性が向上することができる。
【0084】
本発明に用いられる反応性を有するポリオルガノシロキサン(E1)としては、一般的に用いられている反応性を有するポリオルガノシロキサンであれば使用することができる。
【0085】
反応性を有するポリオルガノシロキサン(E1)の具体例としては、
【0086】
【化19】

(式中、Meはメチル基、q、rはそれぞれ2〜150の整数を示す)
【0087】
【化20】

(式中、Meはメチル基、q、rはそれぞれ2〜150の整数を示す)
などの一般式(3);
【0088】
【化21】

(式中、R2、R4はそれぞれ独立して、直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜10のアラルキル基を示し、R5は直鎖または分岐を有する炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数1〜80のアルキレンオキシ基を示し、X1はヒドロキシ基、エポキシ基またはアミノ基を示し、q、rはそれぞれ2〜150の整数を示す)
で表される構造単位を有するポリオルガノシロキサン類;
【0089】
【化22】

(式中、Meはメチル基、s、t、uはそれぞれ2〜100の整数を示す)
【0090】
【化23】

(式中、Meはメチル基、s、t、uはそれぞれ2〜100の整数を示す)
などの一般式(4)
【0091】
【化24】

(式中、R1、R2、R3はそれぞれ独立して直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜10のアラルキル基を示し、R4は直鎖または分岐を有する炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数1〜80のアルキレンオキシ基を示し、X1はヒドロキシ基、エポキシ基またはアミノ基を示し、s、t、uはそれぞれ2〜100の整数を示す)
で表される構造単位を有するポリオルガノシロキサン類;
【0092】
【化25】

(式中、Meはメチル基、v、wはそれぞれ2〜100の整数を示す)
などの一般式(5)
【0093】
【化26】

(式中、R1はそれぞれ独立して、直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜10のアラルキル基を示し、X2はそれぞれ独立して、ヒドロキシ基、アルコキシ基、フェノキシ基、チオアルコキシ基、アシロキシ基、アミノキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基またはアルケニルオキシ基を示し、v、wはそれぞれ2〜100の整数を示す)
で表される構造亜単位を有するポリオルガノシロキサン類が、あげられる。
【0094】
本発明で用いられる硬化剤(E2)としては、1分子中にエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基よりなる群から選ばれる少なくとも2個の反応性基を有する化合物および/またはシランカップリング剤であれば使用することができる。
【0095】
硬化剤(E2)の具体例としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジグリシジルエーテル、3,3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ジヒドロキシビフェニルジグリシジルエーテル、2,2′−ビス(4−(β−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパンジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキシドなどのエポキシ基を有する化合物;エチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、パラキシリレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、3−メチルペンタメチレンジアミンなどのアミノ基を有する化合物;1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネートなどのイソシアネート基を有する化合物;アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤などのシランカップリング剤があげられる。
【0096】
本発明において、反応性を有するポリオルガノシロキサン(E1)と硬化剤(E2)との組合せとしては、架橋被膜の形成のし易さ、触感、くし通りの向上効果、持続性の点から、エポキシ変性ポリオルガノシロキサンおよび/またはアミノ変性ポリオルガノシロキサンと、グリシジルエーテル化合物、シランカップリング剤またはイソシアネート基を有する化合物との組合せが好ましい。
【0097】
本発明における反応性を有するポリオルガノシロキサン(E1)と硬化剤(E2)との成分比率は、重量比で、(E1)/(E2)=100/0〜70/30が好ましく、95/5〜75/25がより好ましく、90/10〜80/20がさらに好ましい。
【0098】
本発明においては、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤として、難燃性有機ケイ素化合物を含有する繊維処理剤(F)を付着させることにより、難燃性ポリエステル系繊維に対して、難燃性を損なうことなく、良好な触感、平滑性、くし通りを付与することができる。
【0099】
本発明に用いられる難燃性有機ケイ素化合物を含有する繊維処理剤(F)とは、臭素原子を含有する有機基が炭素原子を介してケイ素原子に結合した有機基を有する有機ケイ素化合物(F1)、および/または、塩素原子を含有する有機基が炭素原子を介してケイ素原子に結合した有機基を有する有機ケイ素化合物(F2)を含有する繊維処理剤であり、また、フェニル基またはフェニル誘導基がケイ素原子に結合した有機基を有し、かつ、臭素原子および塩素原子を含まない有機ケイ素化合物(F3)を含有する繊維処理剤である。
【0100】
本発明における有機ケイ素化合物(F1)および/または(F2)は、好ましくは、一般式(6)で表される構造を有し、少なくとも1つ以上の臭素または塩素を含有するアルキル基または芳香族炭化水素基を、少なくとも1つ以上含むものである。
【0101】
【化27】

(式中、Rは、少なくとも1つ以上の臭素または塩素を含有する炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、水素原子、アルコキシル基から選択される基を示し、mは0以上の整数である。)
【0102】
本発明における有機ケイ素化合物(F1)または(F2)中に含まれる置換基Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、フェニル誘導基などがあげられ、置換基は全て同一である必要はない。これらのなかでも、メチル基が最も滑り触感が強くなるが、メチル基と他の基を組み合わせてもよい。置換基のうち少なくとも50%がメチル基であるものが好ましい。
【0103】
本発明における有機ケイ素化合物(F1)または(F2)中の臭素および塩素の合計含有量は、(F1)または(F2)を100重量%とした場合、10〜50重量%が好ましく、20〜50重量%がより好ましい。なお、臭素原子または塩素原子の含有量は、理学電気工業(株)製 、自動蛍光X線分析装置RIX3000を用いて、塩素原子または臭素原子の蛍光X線強度を測定することにより算出した。
【0104】
本発明における有機ケイ素化合物(F1)および/または(F2)は、より好ましくは、
【0105】
【化28】

(構造式中、Xは、BrまたはClであり、nは1〜3の整数である。)
で表される構造のフェニル基を含むものである。
【0106】
本発明における有機ケイ素化合物(F1)および/または(F2)は、さらに好ましくは、
【0107】
【化29】

(構造式中、Xは、BrまたはClであり、nは1〜3の整数である。)
で表される構造のフェニル誘導基を含むものである。
【0108】
本発明における難燃性有機ケイ素化合物を含有する繊維処理剤(F)中の、有機ケイ素化合物(F1)および/または(F2)の合計含有量は、(F)全体を100重量%とした場合、10〜70重量%が好ましく、15〜65重量%がより好ましく、優れた難燃性と触感を両立させるためには、20〜50重量%がさらに好ましい。有機ケイ素化合物(F1)および/または(F2)の合計含有量が10%未満であると、難燃性が不十分となる傾向があり、70重量%を超えると、シリコーン特有の優れた触感が不足する傾向がある。
【0109】
本発明における(F1)および/または(F2)は、(1)アミノ基を有する有機ケイ素化合物とビニル基を有するハロゲン原子含有有機化合物との付加反応、(2)ケイ素原子に直接結合した水素原子を有する有機ケイ素化合物とビニル基を有するハロゲン原子含有有機化合物との付加反応、(3)アミノ基を有する有機ケイ素化合物とエポキシ基を有するハロゲン原子含有有機化合物との付加反応、等によって得られる。
(1)アミノ基を有する有機ケイ素化合物とビニル基を有するハロゲン原子含有有機化合物との付加反応は、アミノ基を有する有機ケイ素化合物のアミノ基とビニル基を有するハロゲン原子含有有機化合物のビニル基が付加することで化学的に結合する反応である。この付加反応は触媒を使用しなくても80℃前後の加熱条件下で約5時間攪拌することで進行する。
(2)ケイ素原子結合水素原子を有する有機ケイ素化合物とビニル基を有するハロゲン原子含有有機化合物との付加反応は白金触媒に代表され、通常、ヒドロシリル化反応用触媒と呼ばれている触媒の存在下、100℃前後の加熱条件下で約5時間攪拌することにより容易に進行する。
(3)アミノ基を有する有機ケイ素化合物とエポキシ基を有するハロゲン原子含有有機化合物との付加反応は、前記のアミノ基を有する有機ケイ素化合物とエポキシ基を有するハロゲン原子含有有機化合物によっておこる。
【0110】
本発明における有機ケイ素化合物(F3)は、臭素原子または塩素原子を含まず、フェニル基またはフェニル基誘導体がケイ素原子に結合した有機基を少なくとも1つ以上含有する有機ケイ素化合物である。フェニル基以外の有機基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、アリル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等があげられる。これらのフェニル基またはフェニル誘導基以外の有機基としては、もっとも滑り性が強くなるためメチル基が好ましいが、メチル基と他の有機基との組合せでもよい。
【0111】
本発明における有機ケイ素化合物(F3)中のフェニル基およびフェニル誘導基の導入率(以下、フェニル導入率という場合がある)は、ケイ素原子に結合している有機基の総数を100%とした場合、30%以上が好ましく、50〜80%がより好ましい。なお、フェニル基またはフェニル誘導基の導入率は、日本電子(株)製、FT−NMR装置JNM−AL400を用いて、1H−NMR分析を行い、ケミカルシフトから置換有機基の構造および個数を読み取ることにより算出した。
【0112】
本発明の難燃性有機ケイ素化合物を含有する繊維処理剤(F)における、有機ケイ素化合物(F3)の含有率は、(F)全体を100重量%とした場合、10〜70重量%が好ましく、優れた難燃性と触感を両立させるためには、40〜70重量%がより好ましい。有機ケイ素化合物(F3)の含有率が、10重量%未満であると、難燃性が不十分となる傾向があり、70%を越えると、シリコーン特有の優れた触感が不足する傾向がある。
【0113】
本発明におけるポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)には、必要に応じて、触感改良のために、他の成分として、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジオルガノポリシロキサンジオール、フロロシロキサン、アルキル変性シロキサン、高級脂肪酸変性シロキサン、アミノ変性シロキサン、エポキシ変性シロキサン等を含むことができるが、これに限定されるものではない。
本発明におけるポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)には、必要に応じて、適度な湿潤性を付与するために、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、これらのランダム共重合ポリエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエステルよりなる群から選択される少なくとも一種と、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、N,N−ジヒドロキシエチルアルキルアミド、ポリオキシアルキレンアルキルアミド、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンペンタエリスリトールアルキルエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン、アルキルアミン塩、アルキルアンモニウム塩、アルキルアラルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルピコリニウム塩、脂肪酸塩、ロジン酸塩、硫酸化脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホ脂肪酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホコハク酸モノエステル塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルスルホコハク酸モノエステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテルスルホコハク酸モノエステル塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、アルケニル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩など、を添加することもできる。
【0114】
本発明においては、難燃性ポリエステル繊維に対して、さらに、親水性繊維処理剤を付着させることにより、帯電防止性等を付与することができる。
【0115】
本発明における親水性繊維処理剤としては、一般的に用いられている親水性繊維処理剤であれば使用することができる。親水性繊維処理剤の具体例としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、N,N−ジヒドロキシエチルアルキルアミド、ポリオキシアルキレンアルキルアミド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンペンタエリスリトールアルキルエステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン、アルキルアミン塩、アルキルアンモニウム塩、アルキルアラルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルピコリニウム塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホ脂肪酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、アルケニル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、およびイオン性界面活性剤の混合物などがあげられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0116】
本発明における親水性繊維処理剤の付着量は、0.01〜1%omfが好ましく、0.03〜0.8%omfがより好ましく、0.05〜0.6%omfがさらに好ましい。親水性繊維処理剤の付着量が0.01%omf未満では、帯電防止力が弱く、静電気が発生する傾向があり、1%omfを超えると、触感がべたつく傾向がある。
【0117】
本発明における難燃性ポリエステル系繊維へのオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)による処理方法としては、通常の処理方法を適用することができる。例えば、オルガノシロキサン系繊維処理剤(E)を所望の付着量となるように水で希釈したものを、難燃性ポリエステル系繊維の表面に下記付着方法によって均一に付着させた後、乾燥し、さらに加熱処理することにより、難燃性ポリエステル系繊維の表面にオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)を堅固に付着させることができる。本発明における付着方法としては、ディップ・ニップ法、スプレー塗布法、ピックアップローラー塗布法など均一に付着できる方法であれば、特に限定されない。
【0118】
本発明における繊維処理剤処理は、難燃性ポリエステル系繊維の製造時の延伸、熱処理工程に続けて実施する連続処理で行ってもよいし、製造後の難燃性ポリエステル系繊維に対してバッチ処理で行ってもよい。
【0119】
本発明のポリエステル系人工毛髪は、美容熱器具(ヘアーアイロン)を用いたカールセット性に優れ、カールの保持性にも優れており、人工毛髪として使用することができる。さらに、繊維表面処理剤、柔軟剤などの油剤を使用し、触感、風合を付与して、より人毛に近づけることができる。
【0120】
また、本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪は、モダアクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ナイロン繊維など、他の人工毛髪素材と併用してもよいし、人毛と併用してもよい。
【実施例】
【0121】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0122】
なお、特性値の測定方法または評価方法は、以下のとおりである。
【0123】
(紡糸加工性)
紡糸加工性は、紡糸により得られた未延伸糸を目視および手で触れて、糸の性状を評価した。
○:糸切れのない良好な性状の未延伸糸が得られる
△:ごくわずかの糸切れがある
×:糸切れがある、または、糸ががさついている
【0124】
(強度および伸度)
引張圧縮試験機(インテスコ社製、INTESCO Model201型)を用いて、フィラメントの引張強伸度を測定した。長さ40mmのフィラメント1本をとり、フィラメントの両端10mmを、接着剤を糊付けした両面テープを貼り付けた台紙(薄紙)で挟み、一晩風乾させて、長さ20mmの試料を作製した。試験機に試料を装着し、温度24℃、湿度80%以下、荷重3.4×10-3N×繊度(dtex)、引張速度20mm/分で試験を行ない、破断時の引張強度および伸度を測定した。同じ条件で試験を10回繰り返し、平均値をフィラメントの強伸度とした。
【0125】
(透明性)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを太陽光のもと、目視により、標準フィラメント(ポリエチレンテレフタレートからなる総繊度10万dtexのトウフィラメント)と比較評価した。
○:標準フィラメントと同じレベルである
△:標準フィラメントに比べ、わずかに濁りがある
×:標準フィラメントに比べ、明らかに濁りがある
【0126】
(触感)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを手で触り、フィラメント表面のベタツキ感を評価した。
◎:非常に優れたすべり触感である
○:ベタツキ感なし
△:若干ベタツキ感がある
×:ベタツキ感がある
【0127】
(くし通り)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントに繊維処理剤を付着させる。処理されたトウフィラメントに、くし(デルリン樹脂製)を通し、くしの通り易さを評価した。
◎:全く抵抗ない(非常に軽い)
○:ほとんど抵抗ない(軽い)
△:若干抵抗がある(重い)
×:かなり抵抗がある、または、途中で引っかかる
【0128】
(帯電防止性)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを、室温25℃、湿度40%の恒温恒湿室に24時間静置した後に、トウフィラメントの最上部を片手に持って垂直に垂らし、くし(NEW DELRIN COMB No.826)を0.3m/sの速度でトウフィラメントの上部3cmのところから、トウフィラメント下端まで、30回以上通過させたときのトウフィラメントの状態を観察した。
◎:変化なし(静電気の帯電がないため、トウが広がらない)
○:数本のフィラメントが外側にはねる
△:静電気で数十本のフィラメントが外側にはねる
×:静電気で全体的に広がる
【0129】
(難燃性)
繊度約50dtexのフィラメントを150mmの長さに切り、0.7gを束ね、一方の端をクランプで挟んでスタンドに固定して垂直に垂らす。有効長120mmの固定したフィラメントに20mmの炎を3秒間接炎させ、燃焼させて評価した。
【0130】
−燃焼性−
◎:残炎時間が0秒(着火しない)
○:残炎時間が3秒未満
△:残炎時間が3〜10秒
×:残炎時間が10秒以上
【0131】
−耐ドリップ性−
◎:消火するまでのドリップ数が0
○:5以下
△:6〜10
×:11以上
【0132】
(限界酸素指数LOI)
16cm/0.25gのフィラメントを秤量し、端を軽く両面テープでまとめ、懸撚器で挟み撚りをかける。十分に撚りがかかったら、試料の真中を二つに折り2本を撚り合わせる。端をセロハンテープで止め、全長7cmになるようにする。得られた試料は、105℃にて60分間前乾燥を行ない、さらにデシケーターで30分以上乾燥させた。
【0133】
乾燥したサンプルを所定の酸素濃度に調整し、40秒後8〜12mmに絞った点火器で、上部より着火し、着火後点火器を離す。5cm以上燃えるか、3分以上燃え続けた酸素濃度を調べ、同じ条件で試験を3回繰り返し、限界酸素指数LOIとした。
【0134】
(アイロンセット性)
ヘアーアイロンによるカールセットのしやすさ、カール形状の保持性の指標である。フィラメントを180℃に加熱したヘアーアイロンにかるく挟み、3回捲き予熱した。このときのフィラメント間の融着、フィラメントの縮れ、糸切れを目視評価した。次に、予熱したフィラメントをヘアーアイロンに捲きつけ、10秒間保持し、アイロンを引き抜く。この際の抜きやすさ(ロッドアウト性)、抜いたときのカールの保持性を目視評価した。
【0135】
−融着−
○:融着なし
△:若干あり
×:融着あり
【0136】
−縮れ/糸切れ−
○:縮れ、糸切れなし
△:縮れ、糸切れが若干ある
×:縮れ、糸切れがある
【0137】
−ロッドアウト−
○:アイロンロッドが抵抗なく抜ける
△:若干抵抗がある
×:抵抗があり、抜け難い
【0138】
−セット性−
○:セットが付きやすく、カールが安定している
△:セットは付く安いが、若干カールが崩れる
×:セットが付き難い、または、カールが崩れる
【0139】
(実施例1〜17)
表1に示す比率の組成物を、水分量100ppm以下に乾燥し、着色用ポリエステルペレットPESM6100 BLACK(大日精化工業(株)製、カーボンブラック含有量30%、ポリエステルは(A)成分に含まれる)2部を添加してドライブレンドした後、二軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX44)に供給し、シリンダ設定温度280℃にて溶融混練し、ペレット化した後に、水分量100ppm以下に乾燥させた。次いで、溶融紡糸機(シンコーマシナリー(株)製、SV30)を用いてシリンダ設定温度280℃にてノズル径0.5mmφの丸断面ノズル孔を有する紡糸口金より溶融ポリマーを吐出し、口金下30mmの位置に設置した水温50℃の水浴中で冷却し、100m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸に対し、85℃に加熱したヒートロールを用いて4倍に延伸し、200℃に加熱したヒートロールを用いて熱処理を行い、30m/分の速度で巻き取り、単繊維繊度が50dtex前後のポリエステル系繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0140】
【表1】

1:ポリエチレンテレフタレート、カネボウ合繊(株)製
2:ポリブチレンテレフタレート、KOLON社製
3:ポリエチレンテレフタレートとポリシクロヘキシレンジメタクリレートの共重合ポリエステル、イーストマンケミカル社製
4:トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、大八化学工業(株)製
5:臭素化エポキシ系難燃剤、阪本薬品工業(株)製
6:臭素化フェノキシ樹脂難燃剤、東都化成(株)製
7:臭素化ポリカーボネートオリゴマー、帝人化成(株)製
8:三酸化アンチモン、平均粒子径3μm、日本精鉱(株)製
9:アンチモン酸ナトリウム、平均粒子径3.5〜5.5μm、日産化学(株)製
10:アンチモン酸ナトリウム、平均粒子径1.9μm、日本精鉱(株)製
11:三酸化アンチモン、平均粒子径0.5μm、日本精鉱(株)製
12:カルボジイミド構造(−N=C=N−)を有する芳香族ポリカルボジイミド、BAYER社製
【0141】
得られた繊維を用いて、強伸度、透明性、触感、難燃性およびアイロンセット性を評価した結果を、表2に示す。
【0142】
【表2】

【0143】
(比較例1〜4)
表3に示す比率の組成物を、水分量100ppm以下に乾燥し、実施例と同様にして、単繊維繊度が50dtex前後のポリエステル系繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0144】
【表3】

【0145】
得られた繊維を用いて、強伸度、透明性、触感、難燃性、アイロンセット性を評価した結果を、表4に示す。
【0146】
【表4】

【0147】
(製造例1〜3)
表5に示す比率の組成物を、水分量100ppm以下に乾燥し、ドライブレンドした後、二軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX44)に供給し、シリンダ設定温度280℃にて溶融混練し、ペレット化した後に、水分量100ppm以下に乾燥させた。次いで、溶融紡糸機(シンコーマシナリー(株)製、SV30)を用いてシリンダ設定温度280℃にて、直径1mmのノズル孔を40孔有する紡糸口金より溶融ポリマーを吐出し、20℃の冷却風により空冷し、100m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸に対し、85℃に加熱したヒートロールを用いて4倍に延伸し、200℃に加熱したヒートロールを用いて熱処理を行い、30m/分の速度で巻き取り、単繊維繊度が50dtex前後の難燃繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0148】
【表5】

1:ポリエチレンテレフタレート、カネボウ合繊(株)製
13:臭素化リン酸エステル系難燃剤、大八化学工業(株)製
5:臭素化エポキシ系難燃剤、阪本薬品工業(株)製
9: アンチモン酸ナトリウム、平均粒子径3.5〜5.5μm、日産化学(株)製
【0149】
(製造例4)
下記構造式(13)で示されるアミノ基含有シラン1部を三つ口フラスコにトルエン50部と共に仕込み均一に溶解した。次いで、下記構造式(14)で示される臭素含有有機化合物1部を仕込み均一に溶解した。90℃で5時間撹拌し下記構造式(15)で示される臭素含有有機ケイ素化合物(臭素含有量、35重量%)を合成した。減圧乾燥したものに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5部、水7.5部を加え、20%の乳化液を調整した。
【0150】
【化30】

【0151】
【化31】

【0152】
【化32】

【0153】
(実施例18〜33)
(製造例1)〜(製造例2)で得られた繊維を用い、表6に示すポリオルガノシロキサン系繊維処理剤を含む水溶液を調製し、総繊度10万dtexのトウフィラメントを浸漬し、トウ重量に対して含液率20〜30%となるように絞り、表6に示す所定量(%omf)の繊維処理剤が付着するように溶液を付着させ、熱風乾燥機を用いて130℃にて10分間乾燥させた。
【0154】
【表6】

14:ジメチルシリコーン系繊維処理剤、竹本油脂(株)製
15:エポキシ変性シリコーン系繊維処理剤、松本油脂製薬(株)製
16:アミノ変性シリコーン系繊維処理剤、松本油脂製薬(株)製
17:架橋型シリコーン繊維処理剤用硬化剤、松本油脂製薬(株)製
18:アニオン系親水性繊維処理剤、松本油脂製薬(株)製
19:カチオン系親水性繊維処理剤、松本油脂製薬(株)製
20:ノニオン/カチオン系繊維処理剤、松本油脂製薬(株)製
21:PO/EOランダム共重合ポリエーテル系繊維処理剤、丸菱油化(株)製
22:アミノ変性シリコーン、丸菱油化工業(株)製
23:フェニルメチルシリコーン、フェニル基導入率62.5%、日本ユニカー(株)製
【0155】
繊維処理剤を付着させたそれぞれの繊維について、難燃性、くし通り、触感、帯電防止性について評価した結果を、表7に示す。
【0156】
【表7】

【0157】
(比較例5〜7)
(製造例3)で得られた繊維を用い、表8に示すポリオルガノシロキサン系繊維処理剤を含む水溶液を調製し、総繊度10万dtexのトウフィラメントを浸漬し、トウ重量に対して含液率20〜30%となるように絞り、表8に示す所定量(%omf)の繊維処理剤が付着するように溶液を付着させ、熱風乾燥機を用いて130℃にて10分間乾燥させた。
【0158】
【表8】

【0159】
繊維処理剤を付着させたそれぞれの繊維について、難燃性、くし通り、触感、帯電防止性について評価した結果を、表9に示す。
【0160】
【表9】

【0161】
表7および表9に示したように、比較例に対し、実施例では、難燃繊維に、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤を付着させることにより、難燃性の低下が小さく十分な難燃性を示し、くし通り、触感、帯電防止性にも優れた人工毛髪用繊維が得られることが確認された。したがって、本発明におけるアンチモン化合物(C)を含有した難燃性ポリエステル系繊維に対してポリオルガノシロキサン系繊維処理剤を付着させた人工毛髪用繊維は、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤を付着させても、難燃性の点において優れており、また、非ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤を使用することにより難燃性を維持した人工毛髪用繊維に比べて、くし通り、触感、帯電防止性の点において優れることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの少なくとも1種からなるポリエステル(A)100重量部に対し、臭素含有難燃剤(B)5〜30重量部および、平均粒子径が1.5〜15μmのアンチモン化合物(C)0.5〜10重量部を溶融混練して得られる組成物から形成された難燃性ポリエステル系繊維からなる人工毛髪。
【請求項2】
ポリエステル(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートよりなる群から選ばれた少なくとも1種のポリマーである、請求項1記載の人工毛髪。
【請求項3】
臭素含有難燃剤(B)が、臭素化芳香族系難燃剤、臭素含有リン酸エステル系難燃剤、臭素化ポリスチレン系難燃剤、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ系難燃剤、臭素化ポリカーボネート系難燃剤、テトラブロモビスフェノールA誘導体、臭素含有トリアジン系化合物および臭素含有イソシアヌル酸系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の難燃剤である、請求項1または2記載の人工毛髪。
【請求項4】
アンチモン化合物(C)が、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモンおよびアンチモン酸ナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の人工毛髪。
【請求項5】
難燃性ポリエステル系繊維が、(A)〜(C)に加え、さらに、ポリエステル(A)100重量部に対し、カルボジイミド化合物、ビスオキサゾリン化合物およびイソシアネート化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物(D)0.05〜10重量部を溶融混練して得られる組成物から形成された繊維である、請求項1記載の人工毛髪。
【請求項6】
カルボジイミド化合物、ビスオキサゾリン化合物およびイソシアネート化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物(D)が、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、p−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリフェニルメタントリイソシアネートおよび4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネートよりなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項5記載の人工毛髪。
【請求項7】
請求項1記載の難燃性ポリエステル系繊維に、ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)を0.01〜1%omf付着させてなる人工毛髪。
【請求項8】
ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)が、下記一般式(1)または(2)で表される構造単位を有するポリオルガノシロキサンである、請求項7記載の人工毛髪。
【化1】

(式中、R1はそれぞれ独立して、直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜10のアラルキル基を示し、mは4〜200の整数を示す)
【化2】

(式中、R1、R2はそれぞれ独立して、直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基または炭素数1〜80のアルキレンオキシ基を示し、n、pはそれぞれ2〜150の整数を示す)
【請求項9】
ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)が、反応性を有するポリオルガノシロキサン(E1)および硬化剤(E2)からなり、それぞれの成分比率が、重量比で、(E1)/(E2)=100/0〜50/50である、請求項7記載の人工毛髪。
【請求項10】
反応性を有するポリオルガノシロキサン(E1)が、下記一般式(3)〜(5)で表される繰り返し構造を有するポリオルガノシロキサンである、請求項9記載の人工毛髪。
【化3】

(式中、R1、R3はそれぞれ独立して、直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜10のアラルキル基を示し、R4は直鎖または分岐を有する炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数1〜80のアルキレンオキシ基を示し、X1はヒドロキシ基、エポキシ基またはアミノ基を示し、q、rはそれぞれ2〜150の整数を示す)
【化4】

(式中、R1、R2、R3はそれぞれ独立して直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜10のアラルキル基を示し、R4は直鎖または分岐を有する炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数1〜80のアルキレンオキシ基を示し、X1はヒドロキシ基、エポキシ基またはアミノ基を示し、s、t、uはそれぞれ2〜100の整数を示す)
【化5】

(式中、R1はそれぞれ独立して、直鎖または分岐を有する炭素数1〜10アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜10のアラルキル基を示し、X2はそれぞれ独立して、ヒドロキシ基、アルコキシ基、フェノキシ基、チオアルコキシ基、アシロキシ基、アミノキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基またはアルケニルオキシ基を示し、v、wはそれぞれ2〜100の整数を示す)
【請求項11】
硬化剤(E2)が、1分子中にエポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基よりなる群から選ばれる少なくとも2個の反応性基を有する化合物および/またはシランカップリング剤である、請求項9記載の人工毛髪。
【請求項12】
硬化剤(E2)のエポキシ基を有する化合物が、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジグリシジルエーテル、3,3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ジヒドロキシビフェニルジグリシジルエーテル、2,2′−ビス(4−(β−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパンジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートおよびビニルシクロヘキセンジオキシドよりなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項9または11記載の人工毛髪。
【請求項13】
硬化剤(E2)のアミノ基を有する化合物が、エチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、パラキシリレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンおよび3−メチルペンタメチレンジアミンよりなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項9または11記載の人工毛髪。
【請求項14】
硬化剤(E2)のイソシアネート基を有する化合物が、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートおよび4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネートよりなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項9または11記載の人工毛髪。
【請求項15】
硬化剤(E2)のシランカップリング剤が、アミノ基含有シランカップリング剤およびエポキシ基含有シランカップリング剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項9または11記載の人工毛髪。
【請求項16】
ポリオルガノシロキサン系繊維処理剤(E)が、難燃性有機ケイ素化合物を含有する繊維処理剤(F)である、請求項9に記載の人工毛髪。
【請求項17】
難燃性有機ケイ素化合物を含有する繊維処理剤(F)が、臭素原子を含有する有機基が炭素原子を介してケイ素原子に結合した有機ケイ素化合物(F1)、および/または、塩素原子を含有する有機基が炭素原子を介してケイ素原子に結合した有機ケイ素化合物(F2)を含有するものであって、(F1)および/または(F2)の合計含有量が、(F)全体を100重量%とした場合、10〜70重量%であり、かつ、(F1)または(F2)中の臭素および塩素の合計含有量がそれぞれ(F1)または(F2)を100重量%とした場合、10〜50重量%である、請求項16記載の人工毛髪。
【請求項18】
有機ケイ素化合物(F1)および/または(F2)が、それぞれ下記一般式(6)で表される構造を有し、少なくとも1つの臭素または塩素を含有するアルキル基または芳香族炭化水素基を、少なくとも1つ以上含むものである、請求項16または17記載の人工毛髪。
【化6】

(式中、Rは、少なくとも1つ以上の臭素または塩素を含有する炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、水素原子、アルコキシル基から選択される基、mは0以上の整数である。)
【請求項19】
有機ケイ素化合物(F1)および/または(F2)が下記一般式(8)
【化7】

(構造式中、Xは、BrまたはClであり、nは1〜3の整数である。)
で表される構造の置換基を含むものである、請求項18記載の人工毛髪。
【請求項20】
有機ケイ素化合物(F1)および/または(F2)が下記一般式(8)
【化8】

(構造式中、Xは、BrまたはClであり、nは1〜3の整数である。)
で表される構造の置換基を含むものである、請求項19記載の人工毛髪。
【請求項21】
難燃性有機ケイ素化合物を主成分とする繊維処理剤(F)が、フェニル基またはフェニル誘導基がケイ素原子に結合した構造を有し、ケイ素へのフェニル基またはフェニル誘導基の導入率が30%以上であり、かつ、臭素原子または塩素原子を含まない有機ケイ素化合物(F3)を含有するものである、請求項16記載の人工毛髪。
【請求項22】
請求項7記載の難燃性ポリエステル系繊維に、さらに、親水性繊維処理剤を付着させてなる人工毛髪。
【請求項23】
難燃性ポリエステル系繊維が、非捲縮生糸状である、請求項1〜22のいずれかに記載の人工毛髪。
【請求項24】
難燃性ポリエステル系繊維が、原着されている、請求項1〜23のいずれかに記載の人工毛髪。
【請求項25】
難燃性ポリエステル系繊維の単繊維繊度が10〜100dtexである、請求項1〜24のいずれかに記載の人工毛髪。


【公開番号】特開2006−144211(P2006−144211A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258465(P2005−258465)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】